福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2006年6月29日

薬害肝炎被害の早期解決と肝炎の治療体制整備を求める会長声明

2006(平成18)年6月28日     

福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫

 2006(平成18)年6月21日、全国5地裁(福岡、東京、名古屋、大阪、仙台)に係属している「薬害肝炎訴訟」の初めての判決が、大阪地方裁判所において下された。
 この薬害肝炎訴訟は、血液製剤の投与によりC型肝炎ウイルスに感染させられた原告らが国と製薬企業を被告として、血液製剤を承認し、製造・販売したことが違法であるとしてその損害賠償を求めた訴訟である。

 まず、判決は、血液製剤(フィブリノゲン製剤)の1987(昭和62)年の製造承認につき、「厚生大臣は、より一層の慎重な調査、検討をするどころか、非加熱製剤を加熱製剤に切り替えさせるという方針を立て、あらかじめ申請及び承認時期を定めた上で、極めて短期間に、いわば結論ありきの製造承認を行ったものであるから、安全確保に対する意識や配慮に著しく欠けていたといわなければならない」などと指摘して、原告5人の国に対する損害賠償請求を認容した。

 次に、判決は、1985(昭和60)年、「製薬企業が、製剤の不活化処理について、ほとんど不活化効果がなかった方法に戻し、C型肝炎感染の危険性をより一層高めた」として、原告9人の製薬企業に対する損害賠償請求を認容した。

 その上で、判決は、国及び製薬企業がフィブリノゲン製剤の危険性に関する情報を軽視した結果、原告らが「何らの落ち度がないにもかかわらず、C型肝炎ウイルスに感染し、その結果、深刻な被害を受けるに至った」ことを認めた。そして、高額な治療を受けることが容易でなく、社会の理解がいまだ不十分であるため、肝炎患者が、社会において多大な苦しみを被っていることをも指摘している。
 
 以上から、当会は、国と製薬企業が法的責任に基づき薬害の被害者である原告らを直ちに救済するとともに、全国で350万人ともいわれるウイルス性肝炎患者の被害回復のために、肝炎患者らの訴えに真摯に耳を傾けた上で、治療体制の確立・新薬の開発等の恒久対策を一刻も早く実現するよう求めるものである。

2006年5月12日

教育基本法改正法案を廃案とし,あらためて十分かつ慎重な調査と討議を求める会長声明

2006年(平成18年)5月11日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫

 政府は、4月28日、教育基本法改正法案を閣議決定して国会に提出した。
 法案は、2003年6月に設置された「与党教育基本法改正に関する協議会」及びその下の「検討会」において、精力的な議論を重ねたうえで取りまとめられたものとされるが、この間、2004年6月に中間報告が公表されたことを除いては、全て非公開にて議論が進められており、国民に向けて開かれた議論が行われたとは言い難い。
 日本弁護士連合会は、去る2月3日、準憲法的な性格を持ち国際条約との間の整合性をも確保する必要性が高い教育基本法については、衆参両院に、教育基本法について広範かつ総合的に調査研究討議を行なう機関としての「教育基本法調査会」を設置し、同調査会のもとで、その改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議がなされるよう求める提言を行っている。
 また、当会は、2002年4月、福岡市の小学校6年生の通知表の評価項目に「国を愛する心」の文言を掲げ、愛国心という内心の問題を成績評価を通じて強制することは人権侵害のおそれが強いとして警告を発し、さらに、2003年9月13日、「教育基本法『改正』を問う」市民集会を主催し、講演とシンポジウムを通じて現行法の改正の要否を含めて法案には様々な問題点があることを明らかにしてきた。
 そもそも、教育は、本来人間の内面的価値に関する文化的な営みであって、政治的な立場や利害から中立なものでなければならない。伝えられるとおり、政府・与党内での合意のみで作成された法案であれば、国会での質疑・討論は、時の政治的な立場によって左右され、中立性が損なわれることになりかねない。このような形の法改正は、教育の憲法ともいわれる教育基本法の改正の在り方としては不適切であり、百年の計といわれる教育を根本において誤まらせることになる。
 このように準憲法的性格を有する教育基本法については、現行法の改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議を経ることが必要不可欠である。
 以上の観点から、当会は、今回の教育基本法改正法案を廃案とした上,あらためて衆参両院に「教育基本法調査会」を設置して,改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と討議をするよう求めるものである。

以上

少年法等「改正」法案に反対する会長声明

2006(平成18)5月11日
福岡県弁護士会 会長  羽田野節夫

少年法等「改正」法案が,本年2月24日に衆議院に再上程され,5月中旬から審議入りと伝えられている。当会は,昨年6月23日,会長声明を発表し,少年法「改正」法案に反対したところであるが,あらためて以下のとおり反対する。

この改正法案は,
(1)14歳未満の低年齢非行少年に対する厳罰化(少年院送致を可能に)。
(2)触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与(福祉的対応の後退)。
(3)保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分の導入。
などの点において,下記1〜3項に詳論するとおり,少年法の福祉主義の理念を後退させ,保護観察制度の根幹を揺るがす極めて問題ある内容を含むものである。このため,当会は,下記4項で述べる国選付添人制度導入の点を除いて,本法案に強く反対するものである。

              記

1  少年院送致年齢の下限(14歳)の撤廃
そもそも,本法案が想定するような,14歳未満の少年による事件の凶悪化は統計上認められず,この点を厳罰化の根拠とすることはできない。
そして,14歳未満の低年齢の少年が非行を起こす場合の多くは,心身の発達状況や家庭における生育歴などに問題を抱えている場合が多く,とりわけ,重大な事件を犯すに至った低年齢の少年ほど,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有し,このため,人格形成が未熟で,規範を理解し受け容れる土壌が育っていないことが多い。その意味で,低年齢の触法少年に対しては,それぞれの少年が抱える問題に応じた個別の福祉的,教育的対応が不可欠であり,そのための専門の施設として児童自立支援施設における処遇が適切であって,これに対して,主として集団的で,かつ,「厳しい規律」を前提とした矯正教育を行っている少年院での処遇は適さない。
児童自立支援施設においては,低年齢の少年に対する福祉的教育的指導を行うべく多大な努力が行われ,かつ,一定の成果を修めているところであるが,仮に現状に問題があるとするなら,まずは,この児童自立支援施設の一層の専門性強化とこれに要する人的物的資源の充実が求められるところであって,性質の異なる少年院に,14歳未満の少年を収容可能とすることで,低年齢少年の非行に対処しようとするのは,本末転倒といわざるを得ない。

2 触法少年・ぐ犯少年に対する警察官の調査権限の付与
そもそも現行法上,触法少年の行為は犯罪ではない。触法少年の特徴は先に指摘したとおりであり,かつ,触法少年は表現能力も劣る。そうした少年に対する調査は,福祉的,教育的な観点から,児童福祉の専門機関である児童相談所のソーシャルワーカーや心理相談員を中心として進め,その実態に迫っていくとともに,適切なケアを図っていくべきである。こうした専門性を有しない警察官に調査権限を認めることは,教育的・福祉的対応を後退させるばかりか,少年を萎縮させ,かえって真実発見に支障を来す結果をもたらす危険が大きい。
また,ぐ犯は犯罪ではなく,一般にぐ犯に該当するか否かの判断は困難である。ところが,さらに本法案は,「ぐ犯である疑いのある者」まで調査対象とするが,そうなると,警察官の調査権限は際限なく広がり,少年に真に必要とされる教育的・福祉的対応が後退すると言わざるを得ない。

3  保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する少年院収容処分
現行法においても,保護観察中の遵守事項違反に対しては「ぐ犯通告」制度が存在し,それで対応が十分可能であるし,むしろ,そうすべきである。
非行少年の更生は一朝一夕にはなしえない。少年を取り巻く環境が劇的に変化することも稀である。保護観察は,そうした状況を踏まえながら,少年の自ら立ち直る力を育て,更生させるため,保護観察官と保護司が少年との信頼関係に基づいて,長期的な視点から,少年に対しねばり強く働きかける制度である。そこでは,少年が不都合なことでも,また,ときに遵守事項を破った場合でも,そのことを素直に話せる関係が存在することが必要である。ところが,本法案は,「少年院送致」を威嚇の手段として遵守事項を守るよう少年に求めるものであり,そうした環境では,真実の信頼関係は育たず,かつ,保護観察制度の実質的な変容を迫るものである。
さらに,こうした制度を設けることは,一事不再理ないしは二重の危険の法理に実質的に反するばかりか,いたずらに厳罰化を図るものである。
現行の保護観察制度は相応に機能しているのであって,この制度のさらなる実効性を確保することこそが求められている。そのためには,何よりもまず保護観察官の増員や適切な保護司の確保といった方策が実施されるべきであり,制度の本質を変容させてはならない。

4  全面的な国選付添人制度の実現を
本法案は,ごく限定的ではあるが,従前の検察官関与とは切り離して国選付添人制度を導入している。これは当会が全国の弁護士会に先駆けて実践してきた身柄事件全件付添人活動がここ数年,全国に波及していく中で,これらの実績に基づいて有用性が証明され,国としてもその成果に配慮したことによるものであると確信する。その意味で,国選付添人制度の導入は,我々のこれまでの活動が実を結び,将来の全面的な国費による付添人制度への橋渡しになりうるものとして一定の評価をする。
しかし,その対象事件は極めて限られ,かつ,少年が釈放された場合には国選付添人選任の効力が失われるなど,なお著しく不十分,不適切なものにとどまっている。
我々は,さらに,全面的な国選付添人制度の実現を強く求めるとともに,今後とも,少年付添人活動の一層の充実に努めていく決意である。

以 上

2006年5月 8日

共謀罪の新設に反対する会長声明

2006年(平成18年)5月8日

福岡県弁護士会 会 長 羽田野節夫

1 与党は、本年4月21日、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」(略称「刑法・組織犯罪処罰法等改正案」。以下「本法案」という)の修正案を衆議院法務委員会に提出し、今国会での成立を期し、5月9日の強行採決をも辞さない姿勢を示している。
2 福岡県弁護士会は、昨年8月31日、会長声明を発表し、本法案第6条の2に規定されている共謀罪について、以下のとおり広範な市民の人権が侵害される危険性を指摘して、その立法化に強く反対してきた。すなわち、
 第一に、犯罪の実行着手前の意思形成段階に過ぎない共謀それ自体を処罰の対象とすることは、現行刑法の大原則である行為主義に真っ向から反している。
 第二に、犯罪の合意そのものを処罰することにより、ひいては思想、信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの憲法上の基本的人権が重大な脅威にさらされることは避けられない。
 第三に、市民生活の隅々に及ぶ法律に規定されたおびただしい数の犯罪に関する「共謀」が処罰対象とされることになり市民生活は抑圧される。
 第四に、「越境性」や「組織犯罪性」を要件としていない結果、いわゆる越境的組織犯罪集団とは関係のない団体もすべて取締りの対象にすることができる点で極めて危険であり、明らかに不当である。
3 このたびの与党の修正案は、?適用対象団体の活動を「その共同の目的が罪を実行することにある団体である場合に限る」とし、?共謀に加えて、「共謀に係る犯罪の実行に資する行為」を要求し、?思想良心の自由の侵害や団体の正当な活動の制限をしてはならないとの注意規定を設ける、というものである。
  しかしながら、我々は、この修正案についても強く反対せざるを得ない。その理由は、
 第一に、「団体」を国連条約が取締りを求める組織的犯罪集団に限定するものではない点でそもそも不当であるうえ、今回の修正案をもってしても犯罪を謀議したことを根拠に当該団体が「共同目的が罪を実行することにある」と認定される危険性は払拭されず、市民団体が際限なく適用対象となりうる点において、何らの限定にもなっていない。
 第二に、「犯罪の実行に資する行為」という抽象的な概念を付加しても濫用の歯止めにはなり得ないのは明らかであり、行為主義を原則とする現行刑法体系に抵触する点で極めて不当である。
 第三に、たとえ上記?の注意規定をもうけたとしても、そもそも構成要件自体が不明確なのであるから、抑止的効果は期待できない。
 第四に、「共謀」の事実は関係者の供述のみで立証がなされうることから、ひとたび虚偽の供述がなされれば冤罪の発生を止めることは極めて困難で、こうした事態を我々弁護士は強く危惧せざるを得ない。
4 このように、共謀罪の新設は、人権侵害に至る危険性が極めて高く、捜査機関の権限が不当に強化されかねない点において、到底、容認することはできない。
よって、当会は再度その立法化に強く反対し、政府与党に対し、直ちにその立法化を断念するよう求める。
                                               以上

2006年4月10日

未決拘禁法案の廃案を求める会長声明

2006(平成18)年4月10日

福岡県弁護士会 会長 羽田野 節夫


本年3月13日,「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案」(いわゆる未決拘禁法案)が国会に提出された。
しかし,同法案には,代用監獄を存続させていること,未決拘禁者の処遇原則として「無罪推定を受ける者にふさわしい処遇」を規定していないこと,未決拘禁者と弁護人との接見や外部交通に不要な制限があること等,多くの問題がある。とりわけ,代用監獄を存続させながら,その廃止の方向性を明示していないことはきわめて重大な問題であると言わざるを得ない。
捜査と拘禁の分離は国際人権法の求めるところであり,勾留中の被疑者・被告人は,捜査機関とは分離された拘置所に拘禁されなければならない。ところが,我が国においては,拘置所の代用として警察の留置場への拘禁が長期間許されてきた。このため警察の留置場は代用監獄と呼ばれ,いまや勾留中の被疑者の98%が代用監獄に留置されている。
代用監獄には,警察の意に沿う被疑者には便宜を与え,否認している被疑者にはいつ食事にありつけるかわからない,いつ房に戻って眠れるか分からないと不安にさせる等,捜査当局が,劣悪な環境の下での身体的拘束・収容を自白強要の手段として利用する実態がある。代用監獄が虚偽自白と誤判を生み出す温床となっていることは,これまでの数多くの冤罪によっても明らかである。死刑再審無罪事件においても,すべて代用監獄において虚偽自白が強制的にとられたことが誤判の最大の原因となっている。本年3月31日に当会が主催した「代用監獄の廃止を求める市民集会」においても,無罪を主張していた被疑者が,代用監獄での長期間におよぶ拘禁期間中に,劣悪な環境の下で,連日10時間以上におよぶ取り調べを受け続け,捜査官より自白を強要された複数の事例が報告された。
このような弊害があるため,代用監獄は,国連の規約人権委員会が2度にわたり廃止に向けた勧告を行う等,国内外から厳しく批判されてきた。
しかるに,同法案は,警察内部での拘禁部門と捜査部門の分離を定めるだけにとどまり,代用監獄はそのまま存続させ,その廃止・漸減への道筋すら展望していない。警察内部において拘禁部門と捜査部門を分離しても,警察が被疑者の拘禁を執行,管理することに変わりはない。そのような方法で捜査のための拘禁の利用という代用監獄の弊害を解消することができないことは,警察庁が捜査部門と留置部門を分離したとする1980年代以降も,代用監獄での自白強要事例が後を絶たないことからして明らかである。
したがって,同法案が代用監獄をそのまま温存させ,その将来的な廃止すら展望していないことに対しては,厳しく批判せざるを得ない。
以上より,当会は,同法案には強く反対し,同法案についは廃案とした上で抜本的な見直しをするよう求めるものである。
       

2006年3月10日

出資法の上限金利の引き下げ等を求める会長声明

声 明 の 趣 旨

 当会は2007(平成19)年1月までに見直しが予定されている貸金業規制法及び出資法の上限金利のあり方について、以下の点を強く求めるとともに、当会として、今後とも多重債務問題の解決のために全力を傾けることを宣言する。
1.出資法の上限金利年29.2%を、少なくとも利息制限法所定の年15ないし20%の制限金利まで引き下げること。
2.貸金業規制法43条のみなし弁済規定を廃止すること
3.出資法の日賦貸金業、電話担保に認められている年54.75%の特例金利を廃止すること

  声 明 の 理 由

 2007(平成19)年1月を目処に行うとされている貸金業制度・出資の受け入れ・預り金及び金利等の取締に関する法律(以下「出資法」という)の上限金利の見直しのための法案が国会に上程される見通しとなっている。2003年(平成15)7月に成立したいわゆるヤミ金対策法(貸金業規制法と出資法の改正法)において2007(平成19)年1月までに貸金業制度及び出資法の上限金利の見直しを行うとの付帯決議がなされたことを背景としている。金融庁においては、昨2005年7月に貸金業制度等に関する懇談会が発足し、現在、金利の見直し等のための検討が行われているところである。
 これに対し貸金業業界は現在、出資法の上限金利を2004(平成16)年6月改正前の40.004%に戻すこと、貸金業規制法43条のみなし弁済規定の要件緩和、同法17条書面、18条書面のIT化(電子メール等の電子的手段によっても交付を認めて、みなし弁済の適用を容易にしようとするもの)等を求めて、国会への要請に力を注ぎ、消費者金融サービス学会に研究費などを提供して上限金利の自由化ないし引き上げを狙っている。殊に、最高裁で平成16年2月20日、みなし弁済規定についての厳格解釈の判断が示された以降、貸金業界は立法によるみなし弁済規定の復活のため、自民党や民主党等の政党に対する働きかけを強めている。また、日本には、GE、CFJ等アメリカ資本の貸金業者も進出しているが、アメリカ政府の対日要求である規制改革要望書の中では、政府に対して貸金業についての書面要件をIT書面に代えることを要求している。

 わが国の大多数の消費者金融は、利息制限法超過の金利で営業を行っているが、その借主は、消費者金融系の信用情報センターの登録件数から考えて全国で約2千万人にも達し、日本の就業人口の3~4人に1人が利用していることになる。ほとんどの借主が、消費者金融の貸付金利年25〜29.2%が暴利行為を規制する利息制限法に違反し、支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続している。業界の発表でも、平均借入期間6.5年、利用者の3割が10年以上利用しているとされている。我々の経験的な理解によれば、利息制限法により再計算をすると6年程度でほとんど残債は残らず、さらに10年継続して利用した場合、ほとんどが過払いになっていると考えられるので、2千万人の3割600万人が支払い義務のない「貸付金」の返済を強要されていることになる。しかもその高利の返済のために、多くの多重債務者が生み出されており、その結果、極めて深刻な事態が発生している。
 ここ3年、自己破産の申立件数は20万件を超え、過去5年で約100万人が自己破産の手続きを取っていて、さらに破産予備軍も200万人にも及ぶと言われている。多重債務を原因とした失業や家庭崩壊や失踪は後を絶たず、更には多重債務による経済苦、生活苦による自殺も多発し、2004(平成16)年には全国で約8千人にも達し、交通事故の死者を上回っている。また、一家無理心中や凶悪な犯罪等も発生している。その上、多重債務者の多くが家賃や固定資産税や国民健康保険料等を滞納しており、自治体財政にも悪影響を及ぼし、保険証がなく医療を受けられない状況や、ホームレスを生み出す等、法治国家である日本において不正義が蔓延している。これらの被害の救済と根絶のためには、現行の出資法・貸金業規制法の改正が不可欠である。
出資法の上限金利は現在年29.2%と定められている。これは超低金利政策が長期間継続されていることに照らすと極めて高い。したがって、これを少なくとも利息制限法所定の年15ないし20%の制限金利にまで引き下げることが必要である(利息制限法所定の利率の引き下げも検討が必要であろう)。
 また多重債務問題の根元にあるのが、利息制限法と出資法のすき間(いわゆるグレーゾーン)を容認する貸金業規制法43条のみなし弁済規定であることは論を待たない。多くの者が支払う必要のない金利であることを理解しないまま、借り入れし支払いを継続して経済的破綻に追い込まれているのである。したがって、これを直ちに廃止することが必要である。
 さらに、出資法で日賦貸金業・電話担保に認められている年54.75%の特例金利についても、かかる立法を基礎づける社会的事実(立法事実)が無いばかりか、この規定が多大なる社会的弊害を生み出していることに鑑みると、これを直ちに廃止することが不可欠である。

 日弁連及び九州弁護士会連合会は、これまで何度も高金利被害を根絶するために、出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げること等を求めてきた。最高裁判所において、昨年7月には取引履歴の開示義務が肯定され、12月にはリボルビング方式のみなし弁済の適用が否定され、本年1月13日及び1月19日、期限の利益の喪失約款が利息制限法超過利息の支払を事実上強制しているとして、みなし弁済を否定する判決が下され、更には1月24日、九州で顕著な被害が出ている日賦貸金業者に対する特例金利の適用を事実上否定する判決が出されるなど、司法の分野においては、高金利を否定する判決が相次いで出されている。これを立法及び行政に活かすべきことは、法律制度の改善及び進歩を目的とする弁護士及び弁護士会の責務であると言わなければならない。
 そのためには、人権の擁護と社会正義の実現を目的とする弁護士会が強力な運動によって出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げる運動を展開していく必要がある。現在の状況は、弁護士および弁護士会が国民運動を起こさない限り、金利規制の緩和の大きな流れを押しとどめることは不可能である。

 よって、頭書のとおり声明する。

2006(平成18)年3月10日

福岡県弁護士会
   会 長 川  副  正  敏

2006年1月18日

弁護士に対する「疑わしい取引」の報告義務の立法化に反対する声明

2006(平成18)年1月18日

 福岡県弁護士会 会 長  川 副 正 敏


政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は、2005(平成17)年11月17日、資金洗浄(マネー・ロンダリング)及びテロ資金対策の一環として、2006(平成18)年中にいわゆるゲートキーパー規制の法律案を作成して、2007(平成19)年の通常国会に提出することを決定した。
しかしながら、弁護士に対するゲートキーパー規制制度の本質は、下記のとおり、依頼者の秘密情報を密告する捜査機関の手先としての役割を弁護士に担わせるものにほかならない。それは、健全な弁護士制度とこれを不可欠とする司法制度への信頼を根底から覆すものであって、国民の基本的人権保障を著しく危うくし、民主主義社会の維持及び発展にとって、得ようとする成果に比して失うものが余りにも大きいというべきである。
当会としても、マネー・ロンダリング対策の重要性を一般的に否定するものではないが、今回の政府決定は到底容認できず、この問題についての国民の理解を得る努力を尽くしつつ、日弁連及び他の弁護士会とともに反対運動を展開していくことを表明する。

ゲートキーパー規制とは、犯罪収益やテロ資金の移動に利用されうる一定の取引の代理人や助言者として、これらに関与する弁護士や会計士等の専門家を取引のゲートキーパー(門番役)にし、マネー・ロンダリングやテロ資金の移動を見張らせ、政府の金融情報機関(略称「FIU」)に対してその疑いのある取引の報告をさせることにより、これらの犯罪行為を抑止しようとする制度である。これは、先進8カ国(G8)から委ねられた「金融活動作業部会」(OECD内に事務局を置く政府間組織。略称「FATF」)がOECD加盟国を中心とする31の国・地域等に対して行った勧告で、その実施を求めているものである。
政府は2004(平成16)年12月、このFATF勧告の完全実施を方針とする「テロの未然防止に関する行動計画」を策定したが、今回の決定はこれを具体化するものである。
しかし、弁護士に対して、刑事罰その他の制裁を背景として、依頼者の「疑わしい取引」に関する情報を政府当局に報告する義務を課すという制度は、守秘義務と公権力からの独立を不可欠とする弁護士職の本質とは到底相容れないものである。それゆえに、日本を含む関係各国の弁護士・弁護士会は一致してその導入に強く反対してきた。現に、FATFの有力な加盟国であるアメリカでは未だ立法化されておらず、その動きも見られない。また、カナダでは弁護士会が起こした違憲訴訟によって、マネー・ロンダリング法の弁護士への適用が見送られ、ベルギーやポーランドでも違憲訴訟が提起されている。
弁護士という職業の中核的価値は、単に法律に関する専門知識を有するというだけではなく、公権力から独立して依頼者の人権と法的利益を擁護することにある。その職責を全うするため、弁護士は、依頼者に対して、職務上知りえた依頼者の秘密を保持する義務があり、これは国家機関を含む第三者に対する関係では、重要な権利でもある。
弁護士に厳格な守秘義務があり、かつそれが法的に保障されているからこそ、依頼者は弁護士にすべての情報を包み隠さず開示することができる。そして、そのような依頼者の全面的な情報開示があってはじめて、弁護士は効果的にその任務を遂行することができるのであり、すべてを打ち明けてもらうことで依頼者に合法的な行動をするよう指導することができる。これを依頼者である市民の立場から見ると、秘密のうちに弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受ける権利を有しているということにほかならない。それは弁護士としての依頼人に対する重大な職責であって、このことは、1990年12月に行われた国連の第45回総会決議『弁護士の役割に関する基本原則』の中でも、「完全に秘密を保障された相談において、適切な方法で依頼人を援助し、彼と彼らの利益を守るための法的行為を行うこと」をもって、弁護人の依頼人に対する義務である旨を述べているところである(同原則8項、13項等)。
しかるに、弁護士に対する「疑わしい取引」の通報義務制度の下では、「疑わしい」という多分に主観的な要件に基づいて、弁護士は依頼者を裏切ってまでも密告せざるをえないことになる。そうなれば、依頼者は胸襟を開いて弁護士に相談することはできず、依頼者の弁護士に対する信頼を損ない、弁護士職の存立基盤を突き崩し、ひいては市民の弁護士へのアクセスを著しく阻害するという事態を引き起こす可能性が大きい。
その意味で、弁護士の守秘義務と公権力からの独立性保障は、弁護士自身の職業的利益というよりは、市民が弁護士から適切な法的助言ないし援助を得るのを確保するためのものであって、法の支配を実現するうえで必須の制度である。
また、FATF勧告は、「疑わしい取引」に関する情報が「弁護士の職業上の守秘義務又は法律専門家の秘匿特権に服する状況下において得られたものである場合」には、届出を行うことを義務づけられないとしている。しかし、その具体的な適用範囲を明確に画することは極めて困難であって、前記の「疑わしい」との要件該当性の判断と合わせて、まさに、「疑わしきは依頼者の不利益に」なるような密告を余儀なくされることになる。
加えて、今回の政府決定では、報告先としての金融情報機関(FIU)について、従来金融庁としていたものを警察庁に移管することとした。しかし、弁護士は刑事弁護活動等を通じて、捜査ないし治安・警備機関としての警察と時に厳しく対峙することをその職責上不可避としている。そのような弁護士をして、ほかならぬ警察に「疑わしい取引」の密告をさせるというのは、弁護士・弁護士会の存立基盤である公権力からの独立性を構造的に脆弱化して、国民の信頼を失わせ、弁護士制度の根幹を大きく揺るがすものである。
以 上

2005年12月14日

福岡法務局大牟田出張所の統廃合に反対する声明

2005(平成17)年12月13日

福岡法務局 御中

       福岡県弁護士会  
              会 長 川副正敏
       同筑後部会
              部会長 中野和信

1 声明の趣旨
 福岡県弁護士会は、福岡法務局大牟田出張所を廃止して柳川支局に統合する方針案に反対し、今後とも大牟田市に存続されるよう求める。
2 声明の理由
  平成17年10月17日、福岡法務局から突如として平成18年10月を目処に大牟田出張所を廃止し柳川支局へ統合する方針案が表明された。
 その理由として、大牟田出張所の登記件数が法務局統廃合基準(1万5000件未満)を下回る1万3000件であること、近くに約30分程度で行くことができる法務局があること等が挙げられている。
 しかし、我々弁護士会は、このような安易な理由で法務局の統廃合を議論するのは、地域社会における各種権利義務関係を明確にしてその社会経済的活動を支えている登記手続への支障をもたらすだけではなく、以下に述べるとおり、法務局が担う人権擁護機能や住民への司法サービスの観点を没却したものとして到底許されないと考える。
第1に、法務局は法務省管轄下において登記制度を担うほか、戸籍の整備や地域における国の人権擁護機関としての役割を持っている。
大牟田出張所の管轄人口は大牟田市、高田町を合わせると15,6万人を擁し、その管轄人口のきめ細かな人権擁護活動が今こそ求められている。
 男女差別等各種の人権問題が未だ根強く残っているところ、かかる人権問題を行政として受け付ける国家機関は法務局しかない。そのような重要な 国家機関が地域から撤退することは地域での人権問題が放置されてしまうことになりかねず、到底容認できるものではない。
 第2に、法務局は裁判所と連携した有機的一体として司法機能を果たしている。その一翼を担う法務局が欠けることは、他の機関の機能低下を招き、ひいては住民への司法サービスが低下することに繋がる。
 例えば、保全処分は一刻を争うことが少なくないところ、供託を行う法務局が近くにあるからこそ迅速な保全手続が出来るのであり、大牟田のように裁判所支部の至近に法務局が無くなれば管轄区域内の保全手続に支障をきたすおそれがある。
 また、後見登記制度でも登記アクセスが重要になっており、従来東京法務局に一元化されていた登記サービスのうち、後見登記証明書の取得については、平成17年1月から地方法務局でも行えるようになった。日弁連ではこれをさらに全国の支局・出張所にも広めるべく運動をしているところであるが、大牟田出張所の廃止はその途を塞ぐものである。これは、ひいては大牟田地域における後見制度の運用を担う家庭裁判所支部の機能低下を招くことにもなりかねない。
 今回の法務局統廃合は政府が進める国家公務員削減計画に基づくものと思われるが、地方の住民サービス・住民の権利擁護に重大に関係する機関を削減することは、地方の切り捨てに繋がるものとして到底容認できない。
  よって、社会正義の実現と人権擁護を担う弁護士会としては、今回の法務局統廃合案に対し、住民の司法アクセスの低下・権利擁護機能の低下を招くものとして強く反対し、その撤回を要求するものである。

2005年12月 6日

イラクへの自衛隊の派遣継続に反対する会長声明

2005(平成17)年12月6日

福岡県弁護士会 会長 川副正敏


1 当会は、2003年12月2日、常議員会決議に基づき、会長声明で自衛隊のイラク派遣に強く反対する意見を表明し、その後、2004年4月20日に「イラクからの即時撤退を求める会長声明」、同年12月8日に「イラクへの自衛隊派遣継続に反対する会長声明」をそれぞれ発表した。
  当会がかかる会長声明を発表した理由は、?イラク特措法は憲法に違反するおそれが極めて大きいものであること、?自衛隊のイラク派遣は、戦争を違法とし、国連憲章が容認しない武力行使は承認しないという国際社会の原則に違反する疑いが極めて大きいこと、?イラクはまだ戦争状態にあり、かつその全土が戦闘地域であることから、人道復興支援活動又は安全確保支援活動については、我が国領域及び現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行なわれることがないと認められる地域において実施するものとすると定めたイラク特措法第2条3項の要件を満たしてないこと、?これまで、米軍に限らず、市民や子どもを含むイラク国民の死傷者が多数生じたことのほか、サマワの自衛隊駐屯地近くに迫撃砲が着弾したり、邦人をはじめとする各国の民間人等が拘束される事件が続くなど、イラク全土が戦闘地域であって、イラクに安全な非戦闘地域が存在しないことが明らかになったことなど、憲法が掲げる平和主義および基本的人権の尊重という観点から、看過しがたい問題があるとの判断によるものであった。
2 しかるに、現在に至るまでイラク特措法の問題は何ら払拭されていないばかりか、イラク国内は不安定な情勢が今なお続いている。すなわち、米英軍による攻撃はいまだ継続し、爆弾テロにより多くの市民の犠牲者を出す事件や、要人等をねらった襲撃事件が後を絶たないという状況にある。また陸上自衛隊が駐屯するサマワにおいてもロケット弾や迫撃砲による攻撃があるなど、イラクはまだその全土が戦闘地域であると言わざるをえない。
他方、イラクに駐屯していた外国の軍隊は次第に撤退しつつあり、すでにオランダが4月に撤退した。また、ポーランド、ウクライナ、ブルガリアおよびイタリア等が撤退を表明したほか、陸上自衛隊が駐留する南部サモワ周辺の治安維持を担っていた英国軍とオーストラリア軍は来年撤収する方向で検討を行っている。さらに、イラク駐留軍隊を撤退すべきであるとの世論は、日本国内はもとより、アメリカ、イギリスを含めた世界各国で高まりつつある。
こうした状況において、自衛隊がイラクへの駐屯を続けた場合、自衛隊を敵視する勢力からの攻撃が強まる可能性があり、派遣された自衛隊員の生命・身体の安全はいっそう危険にさらされることになりかねない。
3 ところが、政府は、イラク南部のサマワで活動している陸上自衛隊については来年前半に撤収する方向で検討しつつも、本年12月14日の延長期間満了を前にして、国会で十分な議論も行わないまま、再度の自衛隊派遣延長を行おうとしている。また、政府は、仮に陸上自衛隊が撤退しても、クウェートからイラクへ米軍の物資を輸送する航空自衛隊の支援活動は続ける方針をとっている。
  しかし、かかる方針は憲法の平和原則及び国連憲章の原則に違反し、かつイラク特措法第2条3項にも違反するなど、とうてい容認できるものではない。
  そこで、当会は、自衛隊のイラク派遣継続に強く反対し、自衛隊がイラクから速やかに撤退することを強く求める。

2005年10月 4日

憲法改正国民投票法案に反対する会長声明

2005(平成17)年10月4日

福岡県弁護士会 会長 川副正敏

1 2005年9月22日、衆議院に憲法調査特別委員会を設置することが決議された。その設置趣旨は、憲法改正手続きについての国民投票法案を審議することにあるとされている。
  与党自由民主党と公明党は、すでに2001年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えた法案骨子に合意しており、これをもとにした法案が提案されると考えられる。\n  憲法は国家体制の基本秩序を定める最高法規であると共に、国家権力から国民の権利・自由を保障することをその本質としている。同時に、憲法改正手続きは国民の主権行使の最も重要な場面である。従って、改正手続きにおいては十分な議論を保証しさらに国民の意思が適正に反映されなければならないことは言うまでもない。\n2 しかるに、法案骨子には以下の問題がある。 
(1)第1に、憲法の複数の条項について改正案が発議される場合、各発議毎に投票方法を定めることとされており、各条項毎に投票する制度が保証されていない。仮に異なる条項について一括して賛否を投票する場合、一部賛成や一部反対の有権者は投票が困難となり、有権者の意思を正確に反映させることができない。従って、投票においては、改正点について個別に賛否の表明ができる方法にするよう、法で定めるべきである。\n(2)第2に、法案骨子は国民投票運動について、公務員・教育者の運動制限、外国人の運動の全面禁止、予想投票公表\禁止、メディアに対する報道制限など広範な禁止規定を定めこれを罰則によって担保している。
本来憲法改正にあたっては、できる限り有権者に情報が提供され活発な議論がなされるべきであり、そのためには表現の自由が最大限尊重されなければならない。従って、その規制には十\分な必要性と合理性が求められるべきであるが、上記規制は公選法の制限規定を無批判に取り入れたに等しい。当選人と職務の関係で利害関係が生じかねない選挙と憲法改正の是非を問う国民投票では全く異なる性格のものであることを考えると、公選法の規制が国民投票にも妥当するとはとうていいえないのである。
国民投票運動においては、公務員の政治活動の制限の適用除外等こそ検討され規制緩和をはかるべきであるにもかかわらず、定住者を含めた外国人の運動をすべて禁止するなど、公選法より厳しい規制も含まれており、重大な問題である。
(3)第3に投票の効果については、有効投票総数の二分の一を超える賛成があれば当該憲法改正について国民の承認があったものとするとされている。
しかし、無効票となったものは、少なくとも賛成票とは見なされなかったものであるし、憲法改正について何らかの意思を表示したものであるから、投票しなかったものと同様には考えられない。また、無効票が多い場合は少数の賛成で憲法改正が承認されたと見なされる可能\性もある。
  国民投票は国の最高法規たる憲法を改正するか否かを問うものであるから、少なくとも有効投票総数ではなく、投票総数の過半数が賛成を投じたと判断されなければ国民の承認があったと見なされるべきではない。
また、投票率に関する規程がなく低い投票率で憲法改正が実現する可能性があることも問題である。\n(4)第4に、法案骨子では、発議から投票までの期間を30日から90日としているが、これは余りにも短く憲法改正を国民が議論する期間としては不十分と言わざるを得ない。憲法改正の発議について国会で議論される期間があるとしても、最終的な改正案は国会の議決によって確定するのであり、国民はこれについて十\分な議論を行う必要がある。議連案ではこの期間は60日から90日とされており、それでも短すぎるとの意見が出されていたところ、法案骨子ではさらに30日に短縮されており、十分な議論がないまま投票を余儀なくされる可能\性がある。
(5)第5に、国民投票無効訴訟について、投票結果の告示から30日以内に東京高等裁判所にのみ提起できるとすることも問題である。
  憲法改正という重要な事項についての提訴期間としては短すぎるし、管轄を東京高裁に限るという点も、広く国民が司法審査を受ける権利を阻害するもので、慎重な検討を要する。
3 以上のとおり、与党の国民投票法案骨子には重大な問題を多く含んでいる。 
  そもそも憲法改正そのものについても、その最高法規制から憲法の基本原則について改正の対象になりうるかの議論すらあるところ、今回の法案骨子ではその点には全く触れない上、手続き上の規定に含まれる問題点は、国民投票により国民の真摯に国民の意思を問う姿勢で提案されているのか疑念を持たざるを得ないような内容である。
このような重大な欠陥を有する法案骨子をもとにした憲法改正国民投票法案の国会上程には強く反対するものである。

                                                以上

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