福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2013年2月 1日
災害対策委員会報告 「被災地視察のご報告」
東日本大震災復興支援対策本部 青 木 歳 男(60期)
平成24年11月25日から28日にかけて、福島県二本松市、浪江町、南相馬市、宮城県南三陸町、気仙沼市の各所を視察いたしましたので、ご報告いたします。なお、本報告は、視察3日目、4日目についてのものです。前半部分の報告は、前号の通りです。
27日午前8時30分に、宮城県南三陸町の宿泊施設を発つと、午前中は同町の被災状況、ボランティア活動の実態、復興の現在を視察しました。
この日は、南三陸町の中心である志津川地区の視察です。南三陸町は、宮城県北東部に位置するリアス式海岸の町で、人口約1万5000人、中心部は15m超の津波で壊滅状態、1000名を超える犠牲者が出ています。
志津川地区は、市街地の瓦礫はほとんど片付けられ、市街地はほぼ更地の状態である一方で、海沿いの一カ所に集積された瓦礫は山のように積まれています。町役場職員が最後まで防災無線を発信し続けたことで有名となった南三陸町役場防災対策庁舎跡場所ですが、引っかかった瓦礫の撤去は済んだものの、鉄骨部分だけが残っていました。未だ町の多くの地区が立ち入り禁止区域に指定され、建物を建てることはできないため、街の復興は進んでいないのが現状でした。
他方、このような状況を少しでも改善しようと、志津川地区に存した店舗の有志が仮設の商店街「南三陸さんさん商店街」を建てています。
また、Yes工房(南三陸復興たこの会)では、職を失った町民を中心に雇用の創出を図り、地域活動を維持しながら、被災した住民の自立を支えることを目的として、南三陸のゆるキャラ「オクトパス君」製品の製造をしていました。オクトパス君は「置くとパス」とのダジャレとかわいい風体が受けて、全国(主に受験生)から注文が殺到していました。同工房にて木彫りのストラップを彫る技術を提供しているのは民間会社で、代表者が震災後に一人南三陸町を訪れて協力を申し出たことが、同工房の成功を支えた要因の一つです。複数のNPO団体や支援企業の動きが洗練され、進化していることは特筆すべき今回の視察の発見です。
その後、気仙沼市を訪れ、復興支援Cafe「NONOKA」と宿泊先であるホテル望洋でそれぞれお話を伺いました。気仙沼市は、人口約6万8000人の三陸海岸沿いにおける一大漁業基地でしたが、震災による20m超の津波、大火災で千数百人の犠牲者を出しています。
気仙沼市でも、復興のあり方とスピードが問題となっていました。復興計画を進める上での住民の意見集約については、自治体と住民との意見の相違、地区ごとの意見の対立、世代間の考えの相違など克服すべき課題は山積しています。意見を集約できずに時間ばかりが経過し、人が(特に働き盛りの)都会へと流出している現状に皆強い危機感を抱いていました。
翌28日午前は、気仙沼市内の鹿折地区の仮設商店街「複幸マルシェ」を訪ねました。周囲は以前基礎コンクリートだけが残る荒地のままであり、近くには陸に打ち上げられた大型船「第18京徳丸」が見えます。復興は進んでいないという印象を受けたまま、気仙沼市を後にし、帰福しました。
震災から1年9ヶ月が経過し、震災に対する国民的な注目が減退する中、逆に復興問題の本質である地域社会の再生は正念場を迎えています。地域間での意見の調整が進まず、行政もリーダーシップを発揮するのが難しい中、地域の空洞化が進んでいるという現状は、視察をしてみなければわからない課題を明確にしてくれました。対策本部において、今回の大震災に対する復興支援が、長期的視野に立った息の長い活動でなければならないことは宮下弁護士の前号の報告の通りです。
弁護士会として、今後は大規模災害時の対策・対応だけではなく、災害後の各種支援団体の設立・運営に対する支援(NPO法人、一般社団法人、ファンドの設立・運営)、復興の際の「街作り」にいかに住民の意思を最大限かつ迅速に反映させるスキームを作るかといったことが新たな課題です。
拘置所による接見妨害とたたかう
刑事弁護等委員会委員 丸 山 和 大(56期)
1 拘置所による接見妨害
拘置所と弁護人の接見交通権をめぐる対立は、抜き差しならないところまで来ている。
弁護人が、接見室(面会室)内で被疑者・被告人の心身の状況を記録するためにカメラを使用しようとすると、被疑者・被告人の後方に設置されている覗き窓からこれを見ていた拘置所職員が、断りもなく接見中の接見室内に立ち入り、強制的に接見を中断させ、接見を終了させる。
そして、拘置所長が、当該弁護人の所属する弁護士会に対し、個人名で、当該弁護人の懲戒を申し立てる。
冗談のような話であるが、これが平成22年以降、全国で起きている拘置所による接見妨害の実態である。
2 当会会員による接見妨害国賠訴訟
監獄法に代わる刑事収容処遇法が施行され、被疑者・被告人の権利が明示されたことにより、被疑者・被告人との接見交通権は従前に比して確保されるかにみえた。ところが、現実には、従前よりも接見交通権が妨害されるという皮肉な状況となっている。
現在、当会会員を原告、福岡拘置所(国)を被告とする二つの接見交通国賠訴訟が係属している。
一つは、上田國廣会員を原告とする、再審請求弁護人からの再審請求人への文書差し入れが妨害されたことなどを原因とする「上田国賠」であり、もう一つは、田邊匡彦会員を原告とする、接見室内での写真撮影中に拘置所職員が接見室内に立ち入り、さらに撮影した写真を消去するまで拘置所からの退去を認めなかったことなどを原因とする「田邊国賠」であり、私は上記二つの国賠訴訟の原告弁護団に加わっている。
本稿では、接見室での写真撮影と接見交通権の問題について、後者の田邊国賠の状況にも触れながら報告したい。
なお、以下、接見交通権の語には、特に断りのない限り秘密交通権の意を含む。また、写真撮影行為とビデオ録画行為とを合わせて写真撮影等ということがある。
3 田邊国賠の概要
平成24年2月29日、小倉拘置支所にいる被告人から「ケガをした」旨の電報を受け取った田邊会員は、同日に小倉拘置支所に赴き、午後6時50分から接見を開始した。そして、田邊会員が拘置所職員の暴行による被告人のケガの状況をカメラ付き携帯電話で撮影したところ、拘置所職員が接見室内に立ち入って接見を中断させ、田邊会員に対し撮影した画像を消去するよう要求した。田邊会員がこれを断ると、拘置所職員は接見室内から出て行ったものの、接見が終了した午後7時20分、田邊会員に対し、南京錠で施錠されている控室に同行を求め、「画像を消去しないと帰すことはできない」などと繰り返し述べた。30分に渡る押し問答の末、午後7時50分、田邊会員は、退去するためにやむなく画像を消去し、拘置所職員が田邊会員の携帯電話の画面を見て画像を消去した事実を確認した後、ようやく拘置支所から退去することができた。
以上の事実を請求原因とし、田邊会員を原告、北九州部会刑事弁護等委員会有志を中心とした当会会員を代理人として、平成24年6月20日、福岡地裁小倉支部に国家賠償請求が提起された。
その法的主張は、当然ながら、弁護人と被告人との接見交通権の侵害を理由とする不法行為を主張するものである。
4 国側の主張
これに対する国側の反論は概要以下のようなものであった。
(1) 接見とは、「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」
(2) 撮影行為等を「接見」に含めると、「撮影行為等により未決拘禁の目的を没却したり、未決拘禁者のプライバシーを侵害したり、刑事施設の保安警備上の重大な支障が生じたりするおそれが高い」
(3) 職員の立入は刑事収容処遇法117条に定める権限の適切な行使である
(4) 接見室内での写真撮影等は、『被収容者の外部交通に関する訓令の運用について』(H19・5・30矯成3350矯正局長依名通達。以下「平成19年通達」という。)に基づき、「刑事施股の長の庁舎管理権の行使によって禁止されてい」る
(上記(1)乃至(4)の「 」内は国側準備書面からの引用である。)
かかる国の主張に理由がないこと、特に「接見」の意義を極めて過少、限定的に解することにより妨害を正当化しようとしていることの問題点は明らかであり、本稿執筆中の1月14日現在、原告側において反論の準備書面を起案中である。
5 拘置所の対応が全国統一のものであること
田邊国賠のような写真撮影等に対する拘置所の対応は、残念ながら特異なものではない。
拘置所は、平成22年以降、全国的に、弁護人の接見室内での写真撮影等を徹底して抑圧しようとしており、かかる対応が法務省矯正局の統一された意思によるものであることは疑いがない。
具体的には、京都拘置所、名古屋拘置所、大阪拘置所及び東京拘置所で同様の事例が報告されている(各事例の概要は髙山巌「接見室内での録音・録画をめぐる実情と問題の所在」季刊刑事弁護72号68頁以下に詳しいので参照されたい。)。
特に、東京拘置所では、体調不良を訴える外国人(希少言語使用)被告人との接見において、弁護人が接見状況を録画していたところ、拘置所職員が接見室内に立ち入り、被告人を接見室から連れ出して接見を強制的に終了させ、しかも、東京拘置所長が、個人名で、東京弁護士会に対して当該弁護人の懲戒請求を行った事例が報告されている。
これに対しては、東京弁護士会は速やかに懲戒請求を却下し(懲戒しない旨の決定)、当該弁護人を原告、東京三会の有志を代理人として、接見交通権侵害を理由とする国家賠償請求が平成24年10月12日東京地方裁判所に提起されている。
また、田邊国賠における上記4記載の国側の主張をみても、拘置所、更には検察庁を含めた法務省が一体となって接見室内での写真撮影等を抑圧しようとしていることが窺える。
というのも、国側が、「接見」の意義について「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」と定義したことは着目すべき点であり(過去の裁判例で「接見」の内容を具体的に定義したものは見当たらない。)、かかる定義付けを一法務局(福岡法務局)のみで行ったとは考えがたく、かかる主張を行うにあたって法務省訟務局、法務省矯正局と協議がなされていることは確実といえ、更に接見交通権という権利の性質に鑑みると、検察庁との協議も行われていると考えるのが妥当である。
かかるように、国は、検察庁を含め法務省全体として事に当たっている。
6 日弁連の対応
かかる法務省の動きに対し、日弁連も具体的な対応を始めている。
日弁連は、別掲のとおり、平成23年1月20日付けで「面会室内における写真撮影(ビデオ録画を含む)及び録音に関する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を表明し、「面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって、接見・秘密交通権で保障されており、制限なく認められるものであり、刑事施設、留置施設もしくは鑑別所が、制限することや検査することは認められない。」との意見を明らかにしている。
各会員におかれては、理論的側面を含めて、いま一度日弁連意見書を確認されたい。
また、昨年末には、日弁連刑事弁護センター、日弁連接見交通権確立実行委員会などを中心とした「面会室内における写真撮影等の問題に関する連絡会議」が立ち上がり、全国横断的な情報の交換と、全国の国賠訴訟のバックアップが開始された。
法務省矯正局首脳が「写真撮影問題は裁判で決着をつける」と公言したといわれていることからすれば、一般指定問題以来の全国的な接見国賠訴訟の係属が予想されるところであり、かかる日弁連の動きは当然といえるし、一人一人の弁護士が自覚をもって事に当たる必要がある。
7 怯むことなく
ところで、なぜ法務省はかかる抑圧を始めたのであろうか。
個人的な感想であるが、法務省には、被疑者国選対象事件の拡大など、被疑者・被告人の防御権を拡大する動きに対する危機感があるのではないだろうか。
拘置所による接見妨害が報告され始めたのは平成22年に入ってからであるが、その前年の平成21年は被疑者国選対象事件が必要的弁護事件全てに拡大された年である(また、裁判員法が施行された年でもある。)。
平成19年通達が平成19年5月に発せられたにもかかわらず、平成22年になってから具体的な妨害事例が報告され始めたことに鑑みると、平成21年から平成22年にかけて法務省で接見室内での写真撮影の抑圧に向けた方針策定がなされたと考えられ、その動きは上記のような刑事訴訟制度の変化、なかでも被疑者・被告人の防御権を拡大する動きと無縁とは思われないのである。
もっとも、法務省の方針を正確に知ることはできないし、知る必要もないといえる。
私たち現場の弁護士にとって重要なのは、拘置所が接見妨害を行っている現実である。
かかる現実に対し、怯むことは許されないであろう。
接見は、憲法34条に定められた弁護人依頼権(弁護人から実質的な援助を受ける権利)を実現するためのツールであって、特に捜査弁護活動においては実質的な防御の機会を確保するための必要不可欠の手段であり、その確保・確立は弁護士の本質的使命であると同時に、市民に対する責任でもある。
小田中聡樹教授がいうように「捜査段階における弁護活動の権利が歴史上最も遅く登場し、しかもその権利保障が捜査当局の絶えざる妨害・侵害により弱いものとなる傾向を持つのはそのため(筆者注:国家の刑罰権、治安維持の要求との対立を指す。)である。そうであればこそその権利性は、その確立・強化をめざす自覚的弁護士層の各種の実践的活動が日常的に展開されている状態の中でのみ存在しうる」(「現代司法と刑事訴訟の改革課題」日本評論社234頁)のである。
もちろん、接見国賠訴訟は、国、なかでも検察庁を含めた法務省と鋭く対立することとなる。しかし、事柄の性質上、一部の裁判官に判断させるのではなく、できるだけ多くの裁判官に判断を迫る必要がある。 そのためにも、各会員におかれては、日弁連意見書の趣旨にのっとり、怯むことなく弁護活動に励まれたい。その中で接見妨害に遭うようなことがあれば、速やかに各部会刑事弁護等委員会に報告されたい。国家賠償請求等を含め十全なバックアップが得られることと思う。
面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書(日弁連)
2012年12月 1日
616字の「ほう!な話」と10分間の「ぐるっと8県」のこと ~対外広報活動の裏話、アレコレ~
対外広報委員会 副委員長 春 田 久美子(48期)
1 私が対外広報委員会に入った経緯
弁護士になるまで、弁護士会の委員会活動のことは、詳しくは知りませんでした。裁判所で勤務していたときから、子供さんを含む一般市民の方々向けの広報活動をする係をしたりしていたので、そのような活動に引き続き関わっていきたいな、と思い、ネーミングからして"研修"という言葉が入っていたので、そのような活動をしているのは研修委員会だろう、と思い、入ってみると、そこは、(いわば、対内的に)会員弁護士向けの研修を行う委員会であることがわかりました。もっとも、研修委員会に入ったおかげで、知っておくべき弁護士倫理についての研修会の司会役を仰せつかったりするなど、それはそれで勉強になったので感謝しています。
話しを戻しますが、私がやってみたかった活動をしているのは、実は、「対外広報PT」というところらしい、というのが次第に分かってきました(その後、PTは委員会に生まれ変わりました)。そして、そのPT長は、金子龍夫先生らしい、ということも分かったので、「PTに入れていただけませんか」とお電話をすると、金子先生は、快く「一緒にやってくれるの?ありがとうね!」と言って下さり、間もなく「委員に委嘱するように手続きをしておいたからね!よろしくね。」と早速のお返事をいただいたのです。その直後、金子先生は急逝され、結局、そのお電話での会話が最後になってしまったのですが、今でも、そのときの明るいお声が耳に残っています。短い会話ですが、今後、弁護士会は、市民の方々などに向けて、積極的に、対外的にアピールする活動が必要なんだ、ということを熱く仰っていました。私の対外広報委員会での活動は、このときの電話でのやりとりが出発点だったかもしれません。
2 「ほう!な話」コラム誕生秘話
「ほう!な話」というのは、地元紙である西日本新聞の朝刊・文化欄に毎週1回(土曜)掲載されている福岡県弁護士会のコラムの名称です。
西日本新聞は、朝刊で約80万部、沖縄を除く九州各県に配布されている日刊紙です。地域に密着した新聞ですので、とりわけ地元・ローカル情報という点で全国紙にはない魅力満載で、その地域に住む一般の方々にとってはなくてはならない存在でしょう。
私が対外広報PTに入ったころ、相応の金額が必要なテレビCMをどうするか、といった、いわゆる有料の広告についての議論が活発で、業界用語のような"パブリシティ"とか"GRP""忘却曲線"などの耳慣れない言葉が飛び交っていたのを覚えています。強くインパクトに残っているのが、広報と広告は(似ているようだけど、全然)違うんですよ、という話でした。そんなことも含め、じっと議論の状況等を見聞きしているうちに、広報媒体の一つとして、どうも「市政だより」というのが有効らしい、ということが私なりにボンヤリと掴めてきました。当時、私は、福岡市民ではなかったので具体的なイメージは分からなかったのですが、回覧板とかで回ってくる、自治体が発行している、お役立ち情報とかが載っているアレね、と思って聞いていました。この市政だよりに、弁護士会の企画(無料法律相談会とかシンポジウムなど)を載せるのが、広報手段として有効なんだけど、無料なこともあってか人気が高いので中々載せられないんだよね~という話でした。そうか!紙媒体もまだまだ有効なのか、だったら、新聞はどうかな、それも地元紙だったら、「市政だより」よりももっともっとたくさんの読者の方に、情報が届くんじゃないかな、そんなシンプルな発想から考えたのが、このコラムの企画でした。早速、他の弁護士会で、新聞を通じた広報活動として、どういうことをしているかな~などを調べてみました。愛知県弁護士会の中部経済新聞(「こちら弁護士会」)、島根県弁護士会の山陰中央新報(「新法律トラブルを斬る」)、兵庫県弁護士会の神戸新聞(「くらしの法律相談」)など少しずつ情報を集めるうちに、私なりに、「こんなのはどうかな」「弁護士のパーソナリティ、人間的なぬくもりなどを伝える企画としてこんなコーナーを入れたら良いのでは」などアイディアを色々考えること自体がとても楽しかったです。今でも、よく質問を受けるのが、どうやって、そのアイディア、企画を実現していったか、ということなのですが、それは、自分の持っていた小さなコネクションを頼りに、少しずつ、会っていただける方を紹介してもらいながら、企画の"素晴らしさ"(手前味噌ですみません)、読者にとっての有益さ、新聞社にとっての意味合いなどをひたすらお伝えし、こんな企画はいかがですか、こんなアイディアも良いですよね~と他紙のサンプルなども示しながら、聞いて下さる方々にバンバン売り込んだからかな、と思っています♥もちろん、何度も新聞社に足を運び、いわゆるプレゼンというのでしょうか、限られた時間の中で、企画のコンセプト・意義・具体的な展開方法等を要領よく伝えることにかなりのエネルギーを割いたことは事実です。私の勢いに押されたのか、西日本新聞社のお偉い方々は、よ~くお話を聞いて下さり、中には「春田さん、弁護士よりも、編集者の仕事した方がいいんじゃない?!」などと言って下さったり・・・。そうこうしているうちに、正式にコラムの欄をつくってみよう!と決まったときはとても嬉しかったです。頂いた枠の大きさ(文字数)は、イメージしていたよりは小さいもの(616字)になったのですが、小さくても、毎週、定期的に弁護士会として読者に伝えるべき有益で良質な法的情報を提供する場所が獲得できた!社会に通じる窓が一つけた!と、ハードルを一つ越えた気分でした。次は、その毎週の原稿の遣り取りを具体的にどうやって行うか、弁護士会内部での仕組みをどうするか、など実務的な作業を少しずつ詰めていきました。何より、最初の"大問題"だったのは、コラムのタイトルを何にするか、ということでした。私自身も、無い知恵を振り絞ってアレコレ考え、新聞社の方に提案したりしてみたのですが、凝り過ぎ、とか、イメージが湧きにくい、など色々なダメだしをされ、結局は、ほうっ!へぇ~っ!なるほどっ!と読者の方に喜んでいただけるようなイメージで、ということで、「ほう!」という感嘆詞と「法」をかけて、「ほう!な話」に決まったのです。タイトルが決まると、次は挿絵。え?絵?そんなのあったかな?...そうなんです、実は幻のウサギさんがいて...。私は、何とか、このコラムを、それまでの弁護士や弁護士会の(堅くて、ちょっと近づきにくい)イメージを少しでも良い意味で変えたいと、柔らかくて、親しみやすいイメージにしたかったので、ゆるキャラのような、コラム用の新キャラクターを作れないかな、と真剣に思っていたのです(皆さまは、覚えていらっしゃいませんか?裁判員制度を念頭に当時、各地で、例えば、福岡高等検察庁の「サイバンインコ」とか日弁連の「サイサイ」のようなイメージです。)。企画を持ち込む段階で、「季節感を意識した、旬で、タイムリーな話題をご提供します!」(引越シーズンには敷金の話題、竹の子の季節には相隣問題を、国際女性dayには、女性に多い法律問題を、など)と売り込んでいたこともあり、そのウサギをシーズンごとに着せ替えたりして、出来ればカラー刷りの挿絵のようなものを入れてみたい、と思い、対外広報委員会のメンバーの先生に「何か、キャラクター描ける?かいて~!」とお願いして、「ウサギなら...」と描いてもらったイラストを何回か、新聞社に持っていったりしました。ちょうど5月だったので、カーネーションを持ったウサギだったり、夏に向けて浴衣姿のウサギの絵柄もありました。ですが、懸命のアタックも空しく、「どうして、ウサギ...??」という担当者の方の質問に答えられるはずもなく、やむなくここは断念しました(その後、福岡弁護士会では、ゆるキャラか、ロゴマークかの議論を経て、決まった爽やかなブルーのロゴマークがこのコラムにも途中から毎回登場するようになりました。)。折角の機会なので、「幻のウサギ」さんたちを今回、紹介しておきますね...。
このような準備を経て、平成21年6月4日から連載が始まり、お陰様で、現在に至るまでの2年半の間、なんとか続いています。第1回目の記事は、役得ということで、私が執筆させていただくこととなり、裁判官で晩年弁護士になった(正確には、法律事務所の看板を掲げた直後に亡くなった)祖父の法服姿の写真も入れて、弁護士の歴史みたいな内容の記事になりました。当日の朝、初めて活字になった記事を見たくて、ドキドキしながら新聞が配達されるのを待っていたのを思い出します。そして、平成24年3月下旬、リレー方式で、延べ110名を超える会員の方々によって綴られてきたこのコラムを冊子にし、一つのまとまったカタチにすることも出来ました。その他、毎週一回のレギュラー版とは別に、新聞社の御協力もあり、「ほう!な話 スペシャル版」と称して、各回4名の弁護士で一つの特集記事を組む、という企画も時々出来るようになりました(このスペシャル版では、氏名の他に顔写真も掲載されます。)。さらに、このコラムは、福岡のみならず、九州全県(沖縄を除く)に配布される頁に掲載されているので、九弁連管内を網羅する情報を、わずかですが掲載するような取り組みも試みたりしています。
3 「ほう!な話」の記事が掲載されるまでとコラムの効果。今、見えてきたこと
このコラムは、弁護士会内にたくさんある各委員会毎に、予め掲載枠を割り当て、執筆者が決まれば、実際には、新聞社との窓口になっている私とデータ等で原稿を遣り取りし、新聞社から送られてくるリライト版を経て、ゲラ刷りを最終チェックし、内容を確定させていく、という段取りで活字になっていきます。執筆者の先生方からは、早々に原稿を頂戴しておきながら、私の作業が遅れたり、こんな情報をプラスして欲しいとか、内容の修正をお願いしたりと、度々ご迷惑をおかけしておりますことを、この場を借りてお詫びいたします。
当初は、大混乱でした...。新聞社からのダメだしと執筆者からのお叱りなど、両方の板挟みになり、どうやって、あるべきコラムにしていけばいいのか、その方法を模索する日々がしばらく続きました。そのうち、私自身も、良い意味での開き直り、割り切りをするようになり、本当は、不快な思いをされている会員の方々もいらっしゃるかとは思いますが、自分なりのやり方みたいなものを少しずつ学び、何とか続いているのが現状です。会員の方々から、「新聞に自分の名前が載ったから、古い友人から連絡があったよ」とか、「今日、相談センターのお客さんが、『ほう!な話』の切り抜きを握りしめて、相談にみえていましたよ」など、それとなく読者の方々の反応等が垣間見えるお声をかけていただくことがあり、そんな瞬間が何よりも嬉しい私です。
私自身が、次第に見えてきて課題として思っているのが(これは個人的な感想なのですが)、弁護士(会)が伝えたいことと、読者ないし新聞社が求めている情報とが、必ずしもマッチしていない場面が多いけど、それはどうしてなんだろう、ということです。読者(一般の、法や司法には素人の方々)が求めている情報とは一体どういうものだろう?私たちの提供している情報は、真に求められているものだろうか、ということです。これからも、読者の人たちが求めている情報は何なのか、という視点を忘れることなく、このコラムが続いていくと嬉しいな、と思っています。
4 NHK福岡「ぐるっと8県九州沖縄」の<すいよう元気塾>のコーナーに出演しています!
「ほう!な話」の企画を思いついたころ、今度は、テレビの番組、出来れば、公共放送のNHK福岡で、有益な法律情報を提供する場を作れないか、こちらも売り込みを開始してみました。皆さまもご存じ、NHK大阪局で制作されている『生活笑百科』があれだけの長寿番組になっていることから考えても、素材はたくさんあるはずだし、法律ネタを、出来る限り柔らかく、市民(視聴者)目線でお届けするようなスタイル・内容にして届けたい、新聞(活字)では伝えにくい、テレビならではの伝え方もあるのでは、とこれまた「季節感」を意識した「旬で、タイムリーな情報」を「生活者」目線で、というキーワードをキャッチフレーズにして、機会を見はからっては、お願いをしたりしていました。そうしたところ、毎週水曜日、午前11時半から正午まで、月曜日から金曜日までの「ぐるっと8県九州沖縄」という番組内の「すいよう元気塾」というコーナーに何回か出演するうち、レギュラーで法律情報を放映してみたい、というお申し出を受け、平成23年4月以降、毎月1回、第一水曜日に出演する企画が実現することとなりました。
国会中継がない限りは毎月1回、10分間(緊急警報の試験放送日にあたれば9分間)の"尺"のコーナーです。その10分間に、どういう情報を、どういう順序で盛り込むか、テーマのチョイスから含めて企画を提案します。担当のディレクターの方と打ち合わせを重ね、NHK内部での会議でOKが出れば、先ずは、一安心。あとは、イメージをより伝えやすくするための、イラストやテロップ、パターン(フリップ)やOC(再撮)の確認作業です。用意してある台本に従って、当日のリハーサルで、本番通りに一回流します。1階のスタジオからは見えませんが、4階の制作フロアーからは、たくさんのスタッフたちが細かくチェックをしながら見ています。リハーサルの直後、その上層階のスタッフたちから、様々な指示が飛び、本番を迎えます(生放送です)。私は、このリハーサル終了後、本番までの短い時間に、喋る順番や、落としたくないキーワードなどを再確認し、一気に集中力を高めます。スタッフの方たちは、イラストを修正した方がよい箇所や、テロップの字句などの変更作業を、時間が許す限りやって下さいます。カメラマンの方々も、私がリハーサルで動かしてみた指示棒の動きなどから、カメラワークを何度も練習していますし、音声さんは、マイクの位置などを細かく調整して下さいます。相方のキャスターさんとは、なるべく掛け合いやクイズみたいなものも織り込みながら、キャスターさんのリアルな驚き感や反応などを引き出すべく、直前までお喋りをしながら、二人で、"演出"方法について作戦を練ります(*^_^*)。
内容ももちろんですが、実は、衣装や髪型も気になる私です...。第一水曜日が近づくと、何となく、女子アナの衣装などがチラホラ気になります。膨張色は避け、(少しでも)引き締まって見えるような色、デザインの衣装を、などと考えたつもりでも、録画したものを自宅で再生する度、現実に打ちのめされている私です...。そんなときは、気になるうちはまだ大丈夫かも、気にならなくなったときはとしておしまいだよね~、と自分を奮い立たせるしかありません。ビミョーに気にしているのが、笑顔でお話するかどうか、ということ。デリケートな話題、法的にシビアな話題を喋るときに笑顔ってどうなんだろう、と思わないこともないのですが、妙に、堅い表情をするのもどうなのかな、と思うに至り、結局は、フツーに、自然体でお話しています。一応、滑舌が少しはマシになるようにと、「アエイウエオアオ...」とか、韓流ドラマでやっていた「ケグリ ティッタリ~(かえるの後ろ足~)♪」という発声練習のようなものもスタジオの隅でこっそり試したりしています。本番中は、ADさんが、「あと3分」「残り30秒」など、残り時間が書いてあるスケッチブックを次々とめくって教えてくれます。時間が"押して"きたときには、バババーっとまとめに入って"巻き"ます。キャスターの方に「以上、春田先生でした~!このコーナーへのお便りお待ちしています。」で締めていただき、天気予報の画面に切り替われば、私の出番は終了。そして、正午の時報とともに、全国ニュースの画面に切り替わり、「お疲れさまでした~!」の声が響けば番組は終わります。その後、4階のフロアーから、編責(プロデューサー)などスタッフの方たちが降りてこられ、ちょっとした反省会や、次回の企画ネタなどを少し会話しながらスタジオを後にします。NHKから事務所まで帰るタクシーの中で、真っ先に電話をするのが実家の母親です。法律なんて全く知らない、本当の素人なので、母に伝わったかどうか、で確認をするのです。
5 今後のこと
「616字」の活字と「10分間」という時間。限られた空間・時間ですが、与えられた機会を精一杯有効に活用出来るよう、最新のホットな情報を盛り込みながら、読者・視聴者の方々にとって、知っておいて損はしない、お役に立つ情報とは一体何だろう、とニーズを意識しながら、これからも、弁護士会の対外広報活動のあり方を考え続け、実践していきたいと思っています。漠然とですが、近づきたいな、理想型かな、と私が思い描いているのは、市民の方々と弁護士会の"双方向型"の広報活動、です。具体的なイメージはまだまだ固まってはいないので、これからまた、ゆっくりと考え続けていきたいです。今後とも、委員会の活動にどうぞ御協力をいただきますよう、お願いいたします。
2012年11月 1日
無料労働相談が始まりました 生存権の擁護と支援のための緊急対策本部労働関係部会長
会 員 井 下 顕(52期)
1 無料労働相談が始まりました!
本年10月1日より、県内19カ所の法律相談センターにおいて、労働者側の労働相談の無料化がスタートしました(筑豊部会では、名簿登録会員事務所に順次配転されます。)。すでに、CM(アリが出てくるものです...。)もオンエアされており、各メディア媒体を通じた宣伝もされ始めています。
2 無料労働相談の制度趣旨は...
この無料労働相談の試みは、当初生存権の擁護と支援のための緊急対策本部において提起され、その後様々な議論を通じて実現されました。
不肖私、当会を代表して福岡労働局が主催する個別労働紛争解決制度関係機関連絡協議会に出席させていただいておりますが、福岡労働局や県の労働者支援事務所に寄せられる労働相談のうち、あっせん等の手続で解決しない労働相談の大部分が法テラスを紹介されています。ちなみに、昨年の厚労省の総合労働相談窓口に寄せられた民事個別労働紛争(解雇、雇止め、賃金未払、セクハラ・パワハラ等の相談)は約25万件、うち全国の労働局のあっせん手続で受理された件数は約6500件、全国の地裁本庁に継続した労働審判、仮処分、労働事件本訴等はすべて合計しても8000件超くらい(福岡県内では総相談件数4万件のうち、実に1万件が民事個別労働紛争で、福岡労働局のあっせん受理件数は約300件、天神センターの年間の労働相談件数も約300件です。)。実に多くの労働事件は弁護士への相談にすら行き着いていない状況にあると思われます。そして、これらの原因の一つに、労働相談の相談料が実は大きな壁になっていると思われます。解雇、雇止めによって明日の糧すら奪われた労働者は30分5,250円を出して、弁護士に相談することには相当な躊躇があることは明らかではないでしょうか。
3 無料労働相談の副次的効果も...?
当会の生存権対策本部始め関係委員会では、このように労働者の生存権を擁護・支援するという観点からこの無料化を議論してきたわけですが、この無料化には副次的な効果もあると思われます。すなわち、労働は様々な法領域の基軸となっている、労働分野にトラブルが発生したり、傷がつくと、家庭内の問題、子どもの問題、地域の問題等多くの問題に波及していく...(例えば、一家の支柱が解雇されれば、負債の問題、夫婦間の問題その他に影響が出てくると思われます。)、そうすると、無料労働相談を通じて、実は潜在化している法的ニーズが立ち現れてくるのではないかと思われますし、労働者側に無料労働相談を通じて弁護士が代理人に就いた場合、事業主側の法的ニーズも当然ながら高まってくるものと思われます。
すでに、無料労働相談の反響があちらこちらで聞かれるところですが、会員のみなさまにおかれましては、どうか、無料化の制度趣旨をお汲みとりいただき、お力をお貸しいただければと思います。
2012年10月 1日
ジュニア・ロースクール2012報告
会 員 日 浅 裕 介(63期)
1 はじめに
平成24年8月18日(土)に、西南学院大学法科大学院にて、ジュニア・ロースクール(以下「JLS」といいます。)が開催されましたので、報告致します。
JLSは、法教育委員会の目玉イベントとして、主に中高生を対象として、毎年この時期に行われていますが、私は、本年度から委員を委嘱されたため、初めての参加となりました。
今年は、小学生1名、中学生18名、高校生10名、大学生1名と幅広い年齢層の参加となり、他に保護者の方など17名のご出席があり、弁護士は15名が出動しました。また、弁護士会の職員の福井さんと中山さんにも当日の応援をしていただきました。
2 模擬裁判
まずは、司会の山本聖先生から、開校のご挨拶があった後、当会の古賀和孝会長と梅崎進哉西南学院大学法科大学院長のご挨拶があり、その後、早速、模擬裁判がスタートしました。
模擬裁判の事件の概要は、被害者のおばあさんが、バイクに乗った若い男からひったくりにあって、金を盗まれた上、けがをしたと主張する一方、被告人は、何もしていないし知らないといって犯人性を否認したという内容です。模擬裁判では、委員の先生方扮する裁判官、検察官、弁護人、被告人、被害者、証人の迫真の演技により、緊張感がありながらも笑いの混じった素晴らしいものとなりました。特に、被害者のおばあさん役を演じた八木大和先生は、プロの俳優としか思えない名演技で、完全にホークス好きで博多弁丸出しのちょっと(かなり?)うざいおばあさんになりきっていました。参加者のアンケートでも、八木先生の演技は大絶賛されていました。
3 ディスカッションと発表
模擬裁判の後は、まずは、参加者が検察チーム、弁護チームとしてそれぞれ4班に分かれて、各班で有罪、無罪の検討をしました。私は弁護チーム班の1つを担当させていただきましたが、中学3年生と高校生のグループということもあり、鋭い視点で事実認定を試みる学生が多かったです。私も参加者と一緒に事実認定の勉強をさせていただきました。
次に、各班の検討結果を順番に発表していきました。この時点では、当然、検察チームは被告人有罪、弁護チームは被告人無罪という発表内容で、各班とも、重要な事実は共通して指摘する一方、独自の視点に基づいた発表もあり、興味深い発表でした。
今度は、検察チームと弁護チームをミックスして、裁判員チームを4班作り、最終的な結論に向けてのディスカッションをし、各班が結論を発表しました。結論は、4班とも「被告人は無罪。」でした。私が担当した班も他の班も、当初は、結論が分かれていましたが、各証拠を丁寧に検討するうちに、被告人が犯人であると断定できないという結論に達しました。
今回の事案は、被害者が所持していた現金の入っていた封筒のホッチキス穴の位置と、被告人が所持していたお札のホッチキス穴の位置及びお札の状態から、被告人の所持していた現金と被害者が所持していた現金とは同一ではない可能性が高いということが決め手になりました。
4 まとめ
発表後、山本先生から講評があり、残りの時間で質疑応答がありました。参加者の多くは、法学部や法曹を志望しており、このJLSを通じて、ますます法律の世界に興味を持ってもらえればと思いました。
最後に、当会の宮崎智美副会長から、閉校のご挨拶があり、今年のJLSも無事終了しました。夜は、弁護士と弁護士会職員とで反省会をしましたが、検察官役の横山令一先生が、模擬裁判と同様に、だんだんとヒートアップして、菅藤浩三委員長を拘束(?)して三次会へと消えて行きました。
私の感想としては、とても良いイベントだったと思いますが、今回の参加者は、進学校の学生が多かったので、今後は、いろいろな学校の学生に参加してもらうことも重要ではないかと思いました。
給費制維持緊急対策本部だより シンポジウム「岐路に立つ法曹養成~志望者激減の原因を探る~」に参加して
会 員 羽田野節夫(33期)・市丸健太郎(63期)・髙木 士郎(64期)
1 はじめに
平成24年8月29日、仙台弁護士会館において開催されたシンポジウム「岐路に立つ法曹養成~志望者激減の原因を探る~」に参加して参りました。今回のシンポジウムは、給費制の問題だけでなく、法曹養成全般について、特に法科大学院の志望者が『激減』しているという事実について考えるという切り口から、問題点を整理し、幅広く意見の交換を行うことを目指すものでした。
これまでも給費制維持の活動などで先進的な取り組みを行ってきた仙台弁護士会が力を入れて開催しただけに、北は北海道から南は福岡まで全国各地から、弁護士だけではなく多くの市民の方も参加され、会場は大盛況でした。
2 法曹養成制度の現状について
まず、法曹養成制度の現状について客観的データに基づく報告がなされました。
その中で特に印象的だったのは、法科大学院入学のための適性試験の受験者数が、初年度(平成15年)の約5万人から本年度(平成24年)は約6,500人へと減少しているという事実でした(実に87%の減)。
また、社会人の入学者数も、平成16年度は2,792人であったのに対し、平成23年度では764人へと減少しているということでした。
これらのデータから見れば、法曹志望者がまさに激減していることは疑いようのない事実といえるでしょう。
3 法曹志望者の置かれている現状について
次に、大学生や法科大学院修了生といった、法曹となることを目指して勉強している人たちから、彼らが置かれている状況についての報告がなされました。
この中で最も衝撃的だったのは、小学生のころから弁護士となることを志して法学部に入学したものの、悩んだ末、弁護士となることをあきらめることにした大学3年生からの報告でした。この方が弁護士となることをあきらめた主な理由は、奨学金・貸与金など経済的な面での負担が重く、サラリーマン家庭で他に3人の姉妹がいることを考えると、その負担に耐えきれないというものでした。
これらの報告を聞いて、法曹を目指す人たちの中では、法曹という進路を選ぶことを躊躇せざるを得なくなるほど、法曹、特に弁護士について、将来性への不安が切実なものになっているのだということを強く感じました。
4 法曹養成制度に関する日弁連の見解について
日弁連給費制存続緊急対策本部本部長代行の新里宏二弁護士からは、裁判所法の改正をふまえ、日弁連は、(1)地域適正配置を前提とした法科大学院の統廃合と定員削減の具体化、(2)司法試験合格者をまずは1,500人とすること、(3)給費制の復活を含む修習生への経済的支援の実現、(4)法曹の活動領域拡大、などを求めていくことが示されました。
また、8月28日に始動した法曹養成検討会議に対して、修習制度は自己のスキルアップという以外にも多くの意義を有すること、弁護士になれば貸与金も返済は簡単という状況ではないことなどを踏まえて、働きかけを行っていくということも示されました。
5 パネルディスカッション
(1) 志望者減少の原因について
パネルディスカッションでは、まず、法科大学院専任教員である森山文昭弁護士から、志願者減少の原因として、(1)法曹の職としての魅力の低下、(2)法科大学院修了義務のもたらす経済的負担及び経済的負担を負った上での合格率の低迷がもたらす精神的負担、が考えられるのではないか、との分析がなされました。
また、歯科医であり、市民のための法律家を育てる会の共同代表である伊藤智恵氏からは、「成功は医科に学べ、失敗は歯科に学べ」、として、歯学部においては、定員の大幅な増加がもたらした歯科医師の経営難が顕在化した結果、歯学部志望者数が減少し、国家試験合格率の低下も相まってさらなる志望者の減少を招くという悪循環が生じているのに対し、医学部では、北米のメディカルスクールの養成制度を導入する、専門医制度を設けるなどの方策で、実務家となるまで及びなった後の教育・研修を充実させ、個々の能力のみならず、その職業的魅力をも高めることによって、志願者数を増加させることに成功しており、現在ではセンター試験受験者の約2割が医学部志望となっている、ということが報告されました。
これらの分析・報告を聞いて、法曹養成課程と医師養成課程を単純に比較はできませんが、それぞれが制度改革において念頭に置いていた出発点が違うことが、今日の結果を招いているのではないかと感じました。すなわち、医師養成の場合、メディカルスクールに学び、良き実務家としての医師を育てることを目標とし、そのためにはケーススタディなどの手厚い実践教育が必要であるとして、その実施のために受け入れ可能な医学部の定員はどれだけか、ということを考えながら定員の漸増を行ってきたということでしたが、一方、法曹養成の場合は、まず合格者を増やそう、というところから出発し、増えた合格者を教育するために、前期修習を担う法科大学院を設置し、そこで「法曹にとって必要な教育」を行おうとした、ということです。
また、法曹の「職としての魅力」が経済的にみて「低下」していることは現状からも明らかではありますが、法曹という職の魅力は経済的なものだけではないはずです。医師の場合よりもわかりにくい面はあるかもしれませんが、法曹という職の有する社会的責任や仕事のやりがいといった部分についての情報を、法曹を志す人たちにもっと積極的に発信しても良いのではないか、とも感じました。
(2) 日弁連の提案について
日弁連の提案について、森山弁護士及び宮城学院女子大学元学長の山形孝夫氏からは、法科大学院の統廃合といっても、大学の経営、文部科学省との関係などを考慮すれば現実的にはかなり難しいだろうという指摘がなされました。また、法科大学院という入り口の段階で志望者を絞りたいというのであれば、未修者の扱いが問題ではあるが、全国統一試験を実施するという方法も考えられる、との意見がありました。
また、司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会事務局長の菅井義夫氏からは、意思と能力があれば誰でも法曹を目指すことができる制度が望ましいこと、日弁連の今回の提言は、すでに破綻しかけている制度をそのままにするもの、すなわち、お金をかけただぶだぶの服を仕立て直すと価値が下がるから、そのままにして身体の方を合わせましょう、と言っているかのようだ、との厳しい意見がありました。
さらに、司法試験受験資格としての法科大学院修了義務づけについては、森山氏、菅井氏から廃止すべきとの明確な意見がありました。
給費制問題だけでなく、法曹養成制度のあり方については、日弁連においても様々な意見があります。ですので、日弁連の提言が、少々歯切れの悪いもの、もっと踏み込んでいえば、どのような改革・変化を目指しているのか判然としないもの、となるのもある意味やむを得ない部分があると思います。ただ、法曹養成会議は検討結果の報告を1年後には行うわけですから、長い時間をかけて議論をする暇はなく、走りながら考えなければなりません。そして、弁護士会からの声を法曹養成制度に反映させるためには、弁護士会の中でもっと集中的に議論を行い、問題点の集約と、一致できるところとできないところを明確にしておかなければならず、これができなければ、これまでと同じように外部の声に押し込まれることになってしまうでしょう。今回のシンポジウムでは、多くの解決すべき問題が存在することが改めて明らかになりましたが、その結果、法曹養成のあり方という問題について、早急に議論し意見集約をしていかなくてはならないことについてのコンセンサスが、参加者において醸成されることになったという点で非常に意義深いものであったと思います。また、日弁連の提言に対する市民の方からの厳しい意見もありましたが、それだけ、良き法曹をいかに育てるか、ということについては市民の方にとっても関心が高く重要な問題ということであり、私たち弁護士こそが、人権保障と社会正義の実現に資するような法曹養成のあり方について、一人一人がもっと危機意識を持って真剣に議論しなければならないのだということを実感することができました。
6 終わりに
今回のシンポジウムに参加して、給費制復活も含めた法曹養成制度のあり方について多くの意見があり、日弁連としてもその意見を、総論として、集約できているわけではないことをはっきりと知ることができました。また一方で、各論としては、一致できるものもあるのではないかとも感じました。
そこで、私たちが、一弁護士として今できること、すべきこととは、私たちの将来にも大きく影響することになる法曹養成制度のあり方について、どのような問題点が存在するのか、それについて個々の弁護士にはいかなる意見があるのか、その集約はどこまで可能なのか、といったことについて議論し整理しておくことではないかと考えます。
今後、福岡県弁護士会給費制維持緊急対策本部では、法曹養成制度検討会議において、給費制を復活させることが相当であるとの結論を導くべく、この1年間も、給費制の復活を強く訴えていく所存です。給費制と法曹養成制度のあり方は密接な関わりを有しているところ、給費制の復活を訴えていくには、法曹養成制度のあり方等も含めた広い観点からの訴えかけも必要になることを本シンポジウムにおいて強く再認識させられました。そこで、当対策本部においても、給費制の復活を世間に訴えていく上での前提として、当対策本部の守備範囲を超えない範囲で法曹養成制度のあり方全般についても検討を行い、その成果を今後の活動に活かしていきたいと考えています。
最後になりましたが、この様に収穫の多いシンポジウムに派遣していただきまして、誠にありがとうございました。
日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「「自死」をなくすために~自死を防ぐための気づき・つなぎ・見守りとは何かを考える~」のご報告
会 員 疋 田 陽太郎(61期)
1 はじめに
去る平成24年9月3日、福岡市天神にあるレソラ天神5階「夢天神ホール」において、「「自死」をなくすために~自死を防ぐための気づき・つなぎ・見守りとは何かを考える~」と題して、日弁連人権擁護大会のプレシンポジウムが開催されました。
全国の自殺者が毎年3万人を超える状況が続く中、日弁連は、自殺問題を強いられた死「自死」の問題と位置づけて、自死予防への本格的な取組みを行っています。本プレシンポジウムは、その取組みの一環として、福岡県弁護士会が主催し、日弁連との共催の下、福岡県・福岡市・北九州市・福岡県社会福祉会・福岡県臨床心理士会・福岡県司法書士会・福岡県精神保健福祉士協会・福岡県医療ソーシャルワーカー協会の各後援を受けて、自死予防の問題を、専門家や遺族のみならず、一般市民も交えて考えようという趣旨で実施されました。
2 基調講演
まず、橋山吉統副会長から開会の挨拶がなされた後、長崎こども・女性・障害支援センター所長で精神科医の大塚俊弘氏による基調講演が行われました。
講演では、冒頭、わが国で自死が多い背景に、自死やその要因が不名誉なものであるという誤った社会通念があるとの問題認識が示され、誤った社会通念からの脱却の必要性が訴えられました。その後、長崎県における自死の統計の報告、負債や過労等自死の背景となる原因についての説明、うつ病の発症機序や、心理的視野狭窄から自死に至る過程についての分かり易い解説が行われました。「自殺を試みた人で本当に死にたいと思っている人は誰1人いない」、「皆、家族に迷惑をかけたくない、家族が悲しむのはわかっているが他に方法がない」、「判断能力が通常ではなくなり、行動が思考とつながらなくなる」といったお話は大変印象に残りました。
続いて、長崎県が取り組む自死対策事業の実施状況の報告として、「ゲートキーパー」の養成活動の紹介等が行われました。「ゲートキーパー」とは自殺のハイリスク者に対する早期対応の中心的役割を果たす人材のことで、自死リスクを抱える人に気づき、その人に正確な情報をさりげなく伝えて、専門機関への確実な紹介につなぐ役割を果たすことが期待されます。長崎県では、医師や保健師、弁護士等の専門家にとどまらず、八百屋さんや床屋さん、スナックのママさん、さらには学生までをも「ゲートキーパー」として養成しているそうです。長崎県の裾野の広い自死対策は大変興味深いものでした。
3 パネル・ディスカッション
休憩の後は、基調講演をされた大塚俊弘氏、福岡いのちの電話副理事長で司祭の濱生正直氏、福岡大学病院精神科の医師・衞藤暢明氏、リメンバー福岡自死遺族の集い代表・小早川慶次氏をパネリストとして、宇治野みさゑ会員がコーディネーターとなり、パネル・ディスカッションが行われました。
パネル・ディスカッションでは、濱生正直氏から、ある少女の自殺をきっかけにチャド・バラ牧師が「いのちの電話」を設立したという経緯や、相手の話を聞き共感するという電話相談の考え方のお話などがあり、続いて、小早川慶次氏から、リメンバー福岡自死遺族の集いの活動内容の報告が行われ、さらに衞藤暢明氏から、救命救急センターに運ばれた自殺未遂者に対する精神的アプローチや自殺の再企図を防ぐための社会的サポート導入の取組み等の報告が行われました。
その後は、各パネリストの経験を踏まえた深く活発な議論が展開され、小早川慶次氏が自死遺族となった体験談など非常に印象的なお話も拝聴いたしました。また、衞藤暢明氏から、医師が用いる自殺の危険因子の英語頭文字を用いたSAD PERSONSスケールの解説がなされました。性別や年齢、うつ状態、アルコール・薬物の乱用といった自殺の危険因子を意識しておくことは、法律相談に臨むうえでも重要であると感じました。
4 おわりに
自死問題は非常に重く、難しいテーマですが、本プレシンポジウムには多数の一般市民の方々も参加しており、その関心の高さがうかがえました。大変有意義なプレシンポジウムでした。
2012年9月 1日
簡易算定表の研修を受講して
両性の平等委員会 会 員 小 倉 知 子(49期)
6月19日養育費等の簡易算定表についての研修が行われました。講師は元久留米大学法科大学院法務研究科特任教授の松嶋道夫先生でした。松嶋先生は、平成24年3月3日日弁連のシンポジウム「子ども中心の婚姻費用・養育費への転換−簡易算定表の仕組みと問題点を検証する−」でパネリストとして参加されておられます。私は、大抵北九州の弁護士会館でライブ中継で受講しているのですが、この日は福岡で他の予定があったので県弁会館で受講することにしました。研修は申込段階でも定員いっぱいとなっており、(私は前の方に座っていて後ろの様子はよく分かりませんでしたが)大盛況であり、この問題に対して会員の関心の高さがうかがえました。
今回の研修は、家庭裁判所において「恒常的」に利用されている『養育費等の簡易算定表』の問題点を学ぶという目的で実施されました。この簡易算定表は判例タイムズ(1111号)に東京・大阪養育費等研究会というグループ(裁判官で構成)が発表したもので、『簡易迅速な養育費等の算定を目指して』という副題が付いています。
この算定表は平成15年に公表され、当時は簡単に養育費や婚姻費用の目安額が分かるということで大変便利なものと思われました。それまでは、相談者や依頼者から「養育費はいくらくらいですか」と質問されても、「父母の収入に応じて決まるので、いくらとは言えません」と応じるしかありませんでした。実際、養育費等を決めるときには、父母双方の収入に加えて、債務状況や教育費などについて調査官によって聴取調査が行われ、その上でどこまで養育費等に反映されるかが判断された上で、養育費等が決定されていました。そのため、相談者等から「だいたいでいいですから、金額を教えて下さい」と言われて非常に困った記憶があります。「自分の経験では、低い金額は子ども1人5,000円というのもあったし、高ければ15万円というのもあったから、収入によって大幅に変わるもので一概にいえない」「ただ基準という訳ではないけれども、調停で決められる金額としては2万から4万が多いように感じます」という程度の曖昧なことしか言えませんでした。しかし、簡易算定表が出てからは、一応「目安ですが」といいながら、表を提示して説明することができるようになり、便利になったものだと思いました。
ところが、だんだん簡易算定表が普及するにつれておかしなことになってきました。単なる目安だったものが「絶対的」な基準と変化し、調停などで算定表の基準とは異なる金額を要求すれば「算定表から外れている」とか「(異なる金額の)根拠を示せ」とか言われるようになってしまったのです。簡易算定表は、あくまでも「簡易迅速」を目的としたもので、「簡易迅速」に決める必要がなければ元に戻って、実態に即した計算をすべきなのです。ところが、次第に裁判所、弁護士が簡易算定表に縛られてしまうようになって本末転倒とも言える状況になってしまったのです。
私は、算定表に拘束されている状況がときに歯痒く、特に養育費が「安すぎる」という印象はあるものの、一体算定表のどこに問題があるのか、という部分はサッパリ分かりませんでした。それが、今回松嶋先生のお話を聞いて、(一部ですが)問題点が分かったように思います。というわけで、いくつか私の印象的な部分をご紹介したいと思います(松嶋先生のレジュメから引用)。
まず、算定表が不合理である典型的な例です。母(年収109万円)、父(年収600万円)が離婚し、母が子ども4人を育てている場合、算定表の計算からすれば、養育費は1人2万9,000円(4人合計11万6,000円)となります。一見養育費としては多いように思えます。ところが、父親は養育費を支払ったとしても、手元に年間460万8,000円残り、これが父一人の生活費となります(もちろん税金も含まれますが)。では母子はどうなるかというと、5人の生活費は248万2,000円(109万円+11万6,000円*12ヶ月)しかならないのです。父親は4人の子どもの生活に責任を負うべき立場にあるのに、一人で5人世帯の1.8倍の収入で暮らせるというのは、誰がどう考えても、不合理ではないでしょうか。
更に、子ども3人を、父(年収600万)が1人、母(年収109万)が2人と、それぞれ引き取って生活することになった場合でも、子ども同士に大きな生活格差が生じることになります。計算の紹介は省きますが、父親世帯の生活費525万3,300円、母子(子ども2人)世帯の生活費は183万4,700円となり、父子2人世帯の生活費は母子3人世帯の3倍ということになり、子ども同士の生活水準に極端な格差が生じます。同じ父母から生まれた子どもなのに、父母どちらと一緒に暮らすかによってこんなに格差が出来ていいのでしょうか。
しかも、これらの計算で重大な欠陥というべきものは、子どもの生活費を確定した上で、父母で負担割合を決めるため、母が一所懸命働いて、多くの収入を得たとしてもその恩恵を子どもは(生活費の増加という意味で)ほとんど受けられず、養育費負担額の減少という恩恵を父親が享受することになるのです。すなわち、子どものために頑張って収入を得ても、子どもの生活水準は変わらず、習い事が出来るなどの余裕には結びつかないのです。これは正当なのでしょうか。収入の増加は、そのまま子どもに還元すべきではないのでしょうか。
では、どうすればいいか。計算方法のどこを変えろというべきなのか。ここが一番弁護士にとって大事なところです。松嶋先生は、養育費制度として、子どもの成長・発達に必要な費用がいくらなのかを計算した上で(養育費の最低保障基準額)、この費用を父母で分担すべきだと言われています。そして、養育費について、養育費立替払制度(公的扶助)を導入すべきだと言われています。子どもの貧困化改善、子どもの生存権保障のためには国が責任を持つことが大事だと強調されておられます。なお、日弁連も20年前に養育費立替払制度を提起しています。そして、簡易算定表を前提とするならば、控除額(現在は60%程度が認められている)を減額させるしか方法はないと言われています。大きな控除が認められることによって、父は自分の生活が安泰(収入の6割は自分で使えるという保障になる)となり、母と生活している子どもは生活保護基準以下の生活を強いられることにもなるからです。
松嶋先生のレジュメには「便利だと利用している算定額には子どもの涙がこもっています」と一文がありました。10年間簡易算定表を批判しつづけてこられた先生の言葉には重みがあります。これからの時代を担う子どもたちの生存権を保障することは、社会の責任であり、弁護士の責務でもあります。今後、安易に算定表の金額を鵜呑みにせず、不合理な点を指摘しつづけていかなければならないとつくづく思いました。
北九州部会 ジュニアロースクールのご報告
会 員 諸 隈 美 波(64期)
7月28日、北九州部会にてジュニアロースクールが開催されましたのでご報告させていただきます。
今年のテーマは「民事模擬調停」で、対象は小学生(5、6年生)。当日は小学生34人が参加、うち30名くらいの子どもたちを小学校の先生3人が引率してきてくれました。
1 民事模擬調停の内容
今年は、中学校で学ぶ「対立と合意」を少し先取りし、昔話を題材にした模擬民事調停を行いました。「桃太郎エピローグ」と題する昔話を用いて、双方の利害が対立している場面において、双方の言い分を理解し、対立点を明確にし、グループで議論し最終的には利害を調整した妥当な解決案として、調停条項をまとめるというものです。
さて、「桃太郎エピローグ」は、昔話の「桃太郎」の続きの話です。桃太郎は鬼退治をしましたが、実はその島は、以前鬼たちが住んでいた島で、鬼が修行で出ている間に人が住み着いてしまったという渡邊典子先生オリジナル(!)のお話です。鬼が村人から奪ったものをどうするのか(鬼は鶏を奪って、その後ひなが産まれている)、鬼が今後どこで暮らすか(鬼ヶ島は作物がとれない、現在村人が住んでいる島は狭くて鬼は住めない、などなどの事情有り。)という2点が大きな争点でした。
2 子どもたちの様子
まずは全体の話がわかるような寸劇、それから民事調停の説明、そして桃太郎と赤鬼が小倉子ども民事調停に申立を行い、調停をしているという寸劇という形で進めました。
寸劇の中から、双方のいい分からわかったことや対立点を理解してもらうよう、ワークシートに書き込んでもらい解決策をグループで議論してもらいました。最初こそ、子どもたちはとてもおとなしく、なかなか質問も出ませんでしたが、調停条項を考えるときにはするどい質問もたくさん出て子どもたちの発想の柔軟さを感じるとともに、一生懸命考えている姿を見ることができました。
グループ討論では、たとえば一つの案(今後桃太郎と鬼が一緒に住む)を出せば、桃太郎もしくは赤鬼にとってはあまりよくないもの(村人は鬼を怖がっている)なので、さらにそれをカバーするために別の条項(鬼は村人に手を出さないことを約束する、田んぼ仕事を一生懸命手伝って村人に鬼のことを理解してもらう)を考えるなど、悩み工夫している姿が見受けられました。
最後には各グループから発表をしてもらいました。私は採点する役でしたが、どれもよく考えられていて、とても迷いました。最終的には、一番いろいろな考慮要素をクリアできていると思える案を選びました。(鶏とひなを半数ずつわける、鬼は鬼ヶ島で住むが、村人が住んでいる場所から離れている場所で米作りを教えてもらうなど。)
3 感想・今後の課題
対立が生じている裏には双方の言い分があり、解決のためには、双方の言い分を良く聞いて解決案を示すことが大事だということがわかってもらえたかと思います。今回は模擬民事調停ということで、刑事裁判のように厳密なものの見方を教えられたわけではありませんが、今回の模擬民事調停が子どもたちの日常生活に役立つ視点となったのであれば嬉しいかぎりです。
もっとも、子どもたちからたくさんの意見を引き出し、議論を活発にするためにどのように進めていくべきかは今後の課題であり、工夫できるところだと思います。また1つの学校からまとめて参加していたことからすると、ジュニアロースクール自体の宣伝広報活動も考える必要がありそうです。
なお、アンケート結果からすると、おおむね楽しんでくれたようで少しホッとしました。個人的には、普段子どもと話す機会がない私にとっては、とても楽しい時間となりました。
2012年7月 1日
純真短期大学で模擬裁判をしてきました
会 員 梅 野 晃 平(62期)
第1 はじめに
本年の4月16日、23日に、向原栄大朗弁護士とともに、純真短期大学に赴いて模擬裁判を行いました。今回は、そのご報告です。
第2 事案の概要
事案を簡単にご説明しますと、犯人が民家に押し入って現金やCD等を強取した強盗致傷事件で、被告人が犯人性を争っているという事案です。
証拠関係としては、(1)被害品と「同じタイトルの」CDが被告人宅から発見、(2)被害者宅の鍵付きタンスにバールのようなものでつけられたと思しき傷があるところ、バールが被告人宅から発見(被告人は、内装工事のバイトをしていたため所持していたと説明)、(3)共犯者の証言あり(ただし、真の共犯者を秘匿している可能性が疑われないでもない)、(4)目撃者の証言あり(ただし、観察条件は必ずしも良くない)等々、もりだくさんの内容となっています。
第3 講義の流れ
1日目は、まず、刑事裁判の流れを説明し、その後、あらかじめ決めていた配役に従い、冒頭手続及び証拠調べ手続を行います。
2日目は、『証拠の分析をしてみよう!』というワークシートに従い、検察官グループと弁護人グループでそれぞれ証拠の証明力などについて検討を行い、その結果を発表します(論告・弁論に相当するものです。)。
これを聞いて、裁判官(裁判員)グループが議論し、犯人性の有無について結論を出すという流れです。
第4 講義の感想と、気になった点
当初、受講生の反応があまりみられなかったため、どうなることかと心配したのですが、徐々に打ち解けてきて、終わってみると、なかなか良かったという感想です。
とくに、証拠の分析については、回答例として想定していた要素はほとんど出揃い、的確な分析がなされていました。
大学で学生向けに講義をするというのは初めての経験でしたので、無事に終えることができて、心底ホッとしています。
ただ、やってみていろいろと思うところもありましたので、そのあたりについても少しご報告させていただきます。
1 弁護士という職についていると、つい忘れがちになりますが、法律や裁判というのは、一般の学生・生徒の多くにとって、たいして興味のある分野ではありません。
今回はなんとかなりましたが、受講生の知的好奇心を刺激する切り口や、受講生を議論に積極的にコミットさせる工夫については、改善すべき余地が大いにあると思いました。
2 また、講義の「獲得目標」を明確にする必要があったように思います。
法律家が伝えるべきことというのは、「ものごとの見え方というのは、見る人、立場、状況などによって変わるものであり、ある側面から見た見え方のみが唯一正しいと考えるのは妥当でない」というような根本的なことであったり、「逮捕されたときにどういう権利があるか」というようなお役立ち情報であったり、「刑事裁判が社会でどのような役割を果たしているのか」といった社会学的なことであったりと、それこそ山のようにあると思いますが、実際問題、90分2コマで伝えられることは限られています。
模擬裁判をし、刑事裁判の流れを一から十まで説明し、その根底にある法の考え方を理解してもらい、ちょっとしたお役立ち情報も盛り込み......としていると、時間がいくらあっても足りませんし、無理に詰め込もうとすると、駆け足すぎて記憶に残らないということになりかねません(大学に入学したころの我が身を振り返れば、わずか3時間でこれらをすべて理解するのはまず無理です。)。
「この講義では、このことを理解してほしい」という「獲得目標」(学校教育風にいうと、「めあて」)を絞って、それにリソースをつぎ込むようにした方がよいと思いました。
3 そのほか、根本的な話になりますが、時間的制約との関係で、「模擬裁判をやること」の意義も考えた方が良いように思いました。
刑事裁判の流れを説明するだけであれば、教材DVDなどを使いつつ、ときおり弁護士が補足して説明するようにした方が、短時間で効果的にできるようにも思います。
また、模擬裁判では、証人役、被告人役などのロールプレイを行うため、その役割をうまくこなす(間違えないように台本を読み上げる)ことに気を取られ、考えることが二の次になる弊害があるように思います。
模擬裁判をすると、どうしてもそれなりの時間を要します。
「模擬裁判をやること」自体が目的であればそれでよいのですが、模擬裁判が、それを通じて法教育的な何かを伝えようという「手段」なのであれば、模擬裁判をやることが本当に手段として適切なのかを考える必要があると思います。
第5 最後に
いろいろと出すぎた話をしてしまいましたが、私自身としては、総じていい経験になったと思っています。
皆様も、一度やってみてはいかがでしょうか。