福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2012年2月 1日
給費制維持緊急対策本部だより
給費制本部事務局次長 高 平 奇 恵(61期)
1 はじめに給費制本部は、会員の皆様とともに、給費制維持の活動を継続してまいりました。
今後も活動は続きますが、改めて、これまでの活動の成果を確認するとともに、今後の活動予定について、ご報告させていただきたいと思います。
2 給費制本部のこれまでの活動
2010年11月26日、会員の皆様の力強い支援や、市民連絡会、ビギナーズネットの活動により、司法修習生に対し司法修習期間中に給与を支給する制度(給費制)を2011年10月31日まで延長する「裁判所法の一部を改正する法律」が国会において成立しました。
このことは、大きな成果であったとはいえ、暫定的な措置でした。給費制本部は、本来あるべき給費制の維持存続のために、決意を新たに2011年の活動に取り組みました。2011年の震災で、一時は、給費制に理解を求めることは一層困難になったかとも思えました。11月4日、政府は貸与制の下で修習資金の返済が困難な者について返還を猶予する裁判所法の一部改正案を提出しました。これに対し、公明党からは、2013年10月31日までに様々な問題点が指摘されている法曹養成に関する制度を見直し、その間は給費制を維持する等とする修正案が提出されました。いずれも12月6日の衆議院法務委員会で質疑が行われましたが、会期末の9日、継続審議となっています。
3 今後の活動
2012年も、厳しい状況は続いていますが、粘り強く活動を継続し、給費制の必要性について、なお一層理解を広げる活動を展開していく予定です。これまでの活動の中で、法曹養成制度の抱える問題点も明らかになってきています。法曹養成制度全体を見直すなかで、給費制の必要性についても、確認していきたいと思います。
ご参考までに、2011年12月22日付日弁連会長声明もご一読ください。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/111222.html
2月には、日弁連主催の集会も予定されています。また、現在、65期の修習生は貸与制のもとで修習生活を送っています。修習生が実際に直面している様々な問題が、今後明らかになることと思います。その点については、追ってご報告させていただきたいと思います。
4 結びにかえて
2011年の日本は、震災に文字通り揺れました。そんな中で、お互いを強く支え合おうとする、人々の強さや温かさを目の当たりにすることも多々ありました。
震災のような緊急事態でなくとも、人々が支え合う社会でありつづけるために、法的サービスが行きとどいていることは不可欠の要素だと思います。法曹養成に必要な制度としての給費制を維持することは、その大前提といえるでしょう。
新年を迎え、気持ちも新たに、給費制の運動を続けていきたいと思います。会員の皆様には、引き続き、ご支援、ご協力をお願い申し上げます。
「薬害肝炎裁判史」の出版案内
会 員 古 賀 克 重(47期)
「薬害肝炎裁判史」(薬害肝炎全国弁護団編)が日本評論社から1月20日に出版されました。編集責任者として出版にかかわりましたのでご案内させて頂きます。1 薬害肝炎訴訟とは
薬害肝炎訴訟とは、C型肝炎ウイルスに汚染された血液凝固因子製剤を止血剤などとして使用された結果、C型肝炎に感染した患者らが、国と製薬企業を被告として、2002年10月から順次全国5地裁で提訴した損害賠償請求事件をいいます。
2 訴訟の経緯
薬害エイズと同種血液製剤による感染被害であったため、「薬害エイズの宿題」とも言われていた薬害肝炎問題は、長年放置され、解決の糸口は全く見えていませんでした。
そういう中、2002年、東京、大阪、九州、名古屋、東北の5地域から120名を超える弁護士(現在約500名)が「1つの弁護団」を立ち上げ、その支部として5地裁に提訴しました。3年解決を目標に掲げ、各地での分散立証・集中証拠調べを経て、2006年から2007年にかけて下された5地裁判決をもとに運動を展開。当時の政府(自民党福田総理)の政治決断を引き出し、製剤の使用時期・製剤の種類を問わない全面解決を勝ち取ったのがこの訴訟です。
現在も、全国で追加提訴が行われ、必要な個別立証を行い、順次和解が成立しています。
3 九州弁護団の結成と福岡地裁判決
九州では、九州沖縄山口の医療問題を手がける弁護士や集団訴訟の経験のある弁護士に呼びかけ、九州弁護団が立ち上がりました(共同代表:八尋光秀弁護士<36期>、浦田秀徳弁護士<38期>)。
40期から50期の弁護士約30名が実働弁護団として活動。
2003年4月に提訴後、3年強の審理期間を経て、福岡地方裁判所第1民事部(須田啓之裁判長、現長崎地方裁判所)が2006年8月30日、全国で2番目の判決を下しました(判例時報1953号11頁)。この福岡地裁判決は、国及び企業の責任範囲を大幅に広げ、全面解決への一里塚としての役割を果たしました。
なお、薬害肝炎九州弁護団の若手弁護士の一部は、予防接種B型肝炎訴訟九州弁護団(弁護団代表:小宮和彦弁護士<39期>)にも参加し、中心として活動してくれています。
4 裁判史の読みどころ
特徴のひとつは、全国で「1つの弁護団」として活動した点です。
集団訴訟において各地弁護団が緩やかな連携をとることは通例です。薬害肝炎弁護団はさらに進んで当初から1つの弁護団としての意思決定を行って活動してきました。その具体的な内容について書き記しています。
特に全国弁護団代表・事務局長による「座談会」は必見です。弁護団運営や立証の工夫から始まり、若手弁護士へのエールに及ぶまで、様々な論点につき掘り下げた意見交換を行っています。
5 これからの集団訴訟
集団訴訟(特に国賠訴訟など司法判断をもとに政策変更を求める多数当事者訴訟)は、その置かれた時代背景や諸処の条件を前提に行うものです。今後の集団訴訟ではさらなる「進化した訴訟戦術だとか、解決への戦略が必要」(八尋光秀弁護士談・裁判史「座談会」参照)になることは疑いの余地がありません。
もちろん「被害に始まり被害に終わる」という集団訴訟のエッセンスは普遍です。また多数の弁護士の英知を結集し裁判所に対する説得作業を緻密に行い、工夫された立証活動を通じて、法的責任を導き出す最大限の努力を行うことも当然の前提です。
一方で、政治が流動化・液状化して不安定であるため、与野党ともに大きな決断を下しにくくなっています。さらにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の浸透とともに世論自体が細分化・多様化しているため、被害の受け止め方もまた多様になりつつあります。
以上の意味でこれからの集団訴訟は、様々な局面において、新しい工夫がより求められるように思います。
私自身も、薬害肝炎九州弁護団事務局長として関わるにあたり、過去の裁判史(「サリドマイド裁判」、「水俣病裁判全史」、「薬害スモン全史」、「薬害エイズ裁判史」)を繰り返し読み返しました。それらを通じて「被害に始まり被害に終わる」集団訴訟のいわば「幹」を学ぶとともに、自分なりの工夫を付け加えアレンジしてきたつもりです。
この「薬害肝炎裁判史」も、今後の集団訴訟を手がける若い方々や法律家を目指す方にとって何らかのヒントになればと思い、今回紹介させて頂いた次第です。
「東日本大震災復興支援対策本部・災害対策委員会報告」
災害対策委員会 宮 下 和 彦(46期)
平成23年12月18日、天神弁護士センターにおいて、東日本大震災被災者のための説明・相談会~原発賠償を中心として~を開催いたしました。報道関係者等の話によりますと、福岡県内にも福島県からを中心として約200世帯600名を超える方々が避難されているとのことです。また、東京電力の賠償手続が開始されて約3か月が経過し、原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解が成立しつつある(報道によると1月10日時点で2件)状況を踏まえて、県内で初めて開催したものです。福岡部会から市丸信敏、坂巻、吉野隆二郎、網谷、佐藤力、後藤富和、中村伸子各会員と私、北九州部会からは池上会員、筑後部会からは青木会員が説明・相談担当として参加しました。参加いただいた先生方大変お疲れ様でした。説明・相談会には午前の部で11人6家族の方々がみえられ、5組の相談がありました。午後の部には7人3家族の方々がみえられ、3組の相談がありました。参加者はほとんどが福島県内からの避難者(警戒区域からの避難者のほか自主避難の方もおられました)で、参加された方々の現在の居住地は福岡市内、福岡市近郊、筑後地方と様々でした。相談内容は原発に関する賠償請求がほとんどで、その他債務整理関連の相談もありましたが、漠然とした生活への不安、東京電力に対するとめどない怒りを訴える方々も多くおられました。あらためて今回の大震災、原発事故の被害の甚大さ、しかも、被害は現在進行形であることを痛感させられました。説明・相談会については、事前に新聞報道もされ、当日午前中には地元テレビ局の取材も入りましたので、社会的にはそれなりの関心も集めたと思うのですが、参加者数については多数であったとまではいえないと思います。原発問題に関する相談・説明会は、今後も定期的に開催したいと考えていますが、今後広報の仕方についてのより一層の工夫が必要だと感じました。大震災発生から10か月以上を経過して、今後一層東京電力に対する賠償請求も本格化し、原子力損害賠償紛争解決センターへの和解仲介の申立も激増する可能性があります。その場合、当会会員が具体的な請求手続の代理受任や和解仲介の申立の代理受任をすることもあり得ます。東日本大震災復興支援対策本部、災害対策委員会においては、今後とも会員の皆様に対して、震災関連相談、原子力損害賠償請求に関する必要知識やノウハウの情報提供、研修会等を企画していきたいと思いますので、今後ともご協力のほどよろしくお願いいたします。
なお、災害対策委員会では、昨年8月から震災関連、原発賠償に関する勉強会を行っています。1月からは、具体的な原発賠償問題への対応と一般的な震災関連問題とを毎回それぞれテーマを決めて取り上げ、委員に報告してもらう形式で行っています。委員以外の一般の会員の参加も大歓迎ですので、皆様どうぞふるってご参加ください。
2012年1月 1日
シンポジウム 司法改革の光と闇 法曹人口大増員政策の行方
法曹人口問題シンポジウム準備会 委員 三 山 直 之(62期)
平成23年11月26日(土)午後2時から午後5時30分にかけて、福岡商工会議所において、標記シンポジウムが開催されましたので、その準備会の様子も含め、ご報告いたします。0 準備会・勉強会
平成13年の司法改革審議会最終意見書から10年を経た本年、3月27日付け日弁連緊急提言が出される等、司法改革の見直し、更なる改善の動きが見られるようになり、全国で法曹人口問題に関するシンポジウムが開催されました。
福岡県弁護士会においても、標記シンポジウムの開催に向けて、本年6月に準備会が設置されました。
また、本年8月以降、外部の方も招き、広く会員向けに告知をした上で、勉強会が開催されてきました。
1 当日-基調報告
当日、小林洋二先生の司会のもと、滞りなくプログラムが進められました。
まず、当会会長吉村敏幸先生から開会の挨拶を頂いた後、石渡一史先生から、基調報告として、法曹人口問題に関するこれまでの経緯報告と論点の提示を頂きました。
設定された論点は、以下のとおりでした。
・ 諸外国との数的比較
・ 弁護士過疎の問題
・ アクセスルートの問題等
・ 職務拡大の問題等
・ 法化社会とは
・ 法化社会と法曹像
・ 法化社会と法曹人口
・ 弁護士像について
・ 法曹人口問題と法曹(弁護士)の質との関連について
・ 法曹の質の問題と資格試験・OJT
2 当日-ディベート
次に、上記の各論点について、森裕美子先生、柴田耕太郎先生、伊藤巧示先生が増員賛成派、松尾重信先生、向原栄大朗先生、桑原義浩先生が増員反対派の立場から、それぞれ意見を戦わせました。
もちろん、ディベートですから、先生方個人としての意見ではありません。
しかし、いずれの先生方も、両者の意見をよく勉強された上で、それぞれの立場から、主張・反論をなさっており、準備会・勉強会の成果を遺憾なく発揮されておられました。
3 当日-パネルディスカッション
その後、前田憲徳先生がコーディネーターを務め、全国消費生活相談員協会九州支部長の井出龍子様、西日本新聞社編集局長の井上裕之様、福岡市医師会理事の原祐一様、エムクラフト・代表取締役の松波徳明様、石渡一史先生によるパネルディスカッションが行われました。
井手様からは、このような問題があること自体あまり一般市民に知られていないのではないかとの問題提起がありました。
松波様からは、「弁護士に頼むというのは、一生に一度あるかないかの経験。質の確保の問題は重要。」との指摘がありました。
原先生からは、教育・質の確保という観点から、医師の世界においてはこれほどの急激な増員というのはあり得ないとの発言がありました。
また、井上様からは、子どもが「弁護士になりたい。」と言える社会でなければならないとの意見を頂きました。
この他、いずれの方々も、多岐にわたる論点について、それぞれの立場から様々な意見を述べられました。それら意見の中には、弁護士同士での議論では必ずしも明らかにならなかったり、重要視されないものであったりするものもあり、極めて貴重なご意見・ご発言を頂けたものと思われます。
また、会場からも、試験制度の問題点に踏み込んだ発言がなされる等、活発な意見交換が行われました。
4 当日-まとめ
最後に、準備会委員長の市丸信敏先生、日弁連副会長の中村利雄先生からまとめの言葉を頂戴し、当会副会長の_橋直人先生から閉会挨拶が述べられました。
当初3時間の予定でありましたが、議論白熱のため30分ほど超過し、盛況のうちに閉会となりました。
中村先生が、ご発言の中でPDCA(Plan→Do→Check→Act)サイクルについて触れられ、検証の必要性を訴えられていたのが印象に残りました。
5 今後について
準備会については、標記シンポジウムの盛況により、ひとまずその役割を終えたということになるかと思います。
しかし、もちろん標記シンポジウムのみをもって法曹人口問題に解決の目途がついたというものではありません。
私が強く感じたことは、この問題は、「あるべき司法とは何か。」を考えるものであるということであり、したがって、・継続的に検証と改善を重ねていかなければならず、・身内の議論に終始せず、広く市民・国民の声を聞かなければならないという点です。
本拙稿が、会員皆様方がこの問題について再考察をするためのきっかけとなれば幸いです。
ITコラム
会 員 塗 木 麻 美(62期)
今年も後わずか、2011年は未曾有の大震災の年として記憶されるでしょうが、ことIT界においては、スマートフォン元年と位置づけられるかもしれません。昨年も既にiPhoneは珍しい存在ではありませんでしたが、今年は電車やバスの中で、人々がやや大きめのケータイに向かう様も普通の光景となりました。
ヒトにとっての外部記憶となる機器が、一部の好き者の「ガジェット」としてでなく、完全に市民権を得た感があります。
元祖ガジェット好き(現在は予算難らしく隠遁中)の私の夫に言わせると、「隔世の感、夢の世界まであと少し」といったところのようです。
さて、そんな相方がこれまで蒐集?したモバイル系情報機器は、覚えている限りでも、DataScope(京セラのでかいPHS)、Libretto70、jornada720、WorkPad30J、CLIE、ZaurusSL-C3000、sigmarionIII、ノートPCではvaioPCG-U1、 thinkpadやLet_sNote、Eee PC(ネットブック)、そしてiPad2...(知っている人だけ懐かしんでください)。
さて、これらのうち、いわゆるPalm系の機器は、ご記憶の方も多いかともいます。
Palmは、携帯情報端末(PDA。死語??)の一つです。99年、IBMから日本語版Workpadが出荷され、2000年にはSonyが独自にカスタマイズしたClieを出すなど、一世を風靡しました。形や特徴は概ね現在のスマホに近く、今でも現役で見かけますね。
PalmがそれまでのPDAと違って成功しかけた要因は、「Zen(禅) of Palm」という哲学で、機能をシンプルに絞ったことにあります。白黒画面にスケジュール、メモ帳等といった基本的なアプリケーションで、当時の貧弱な機器スペックでも軽快に動作するものでした(単にアプリ製作の技術力がなかっただけかもしれませんが)。
しかし、ご存じのとおり、Palmは一部好き者のための「おもちゃ」にとどまり、携帯電話の高機能化に伴い、日本からはほとんど姿を消しました。
ところが今年、PDAは一気に「スマホ」という形で復活し、反対にこれまでのケータイを駆逐しかけています。この違いは何でしょうか?
私は(というか相方が言うには)、人が携帯情報端末に求める機能(キラーアプリ)にあったのかと思います。実は人々は情報端末にスケジュールやメモ帳の機能は求めていません。紙の手帳で充分です。それよりも、ネット等への「つながり感」を容易に確保してくれるアプリやサービスを求めていたのではないでしょうか。
情報検索、SNS、Twitter、地図サービス...。情報端末は、単なる召使いではなく、社会への入り口となるスーパー秘書であることが求められているようです。今後は毒舌執事、能面家政婦など進化を遂げていくのでしょうか。
なお、つながり非重視の相方には、キラーアプリは議事録メモのようで、いまだにsigmarionIIIを現役で使っています。
インターネット被害対策110番
ホームページ委員会 松 尾 重 信(51期)
平成23年12月2日午後1時から午後5時まで、インターネット被害110番を実施しましたので報告します。ホームページ委員会では、インターネットがらみでのトラブルが多発しているにもかかわらず、インターネットが絡んでいるとなると及び腰になり、法的救済を受けられずにいるケースが多いという認識から、平成17年度よりインターネット被害対策110番と題して、無料電話相談を実施しております。過去の相談においては、ワンクリック詐欺、ワンクリックすらしていない架空請求詐欺、オークション詐欺、ネットによる名誉毀損、ホームページリース詐欺等、当時委員会として想定していた事件も多くありましたが、某通信会社の代理店詐欺、内職紹介トラブル(ないし詐欺)等相談を通じて手口を知るようなものもあり、被害対策弁護団を結成し、解決を得た事案もありました。ある意味ネットが介在すると被害が拡大する傾向にあり、今後消費者委員会等関連委員会と協力体制を作っていく必要もあると思われます。
本年の相談では、事件化に至った相談はなかったものの、ネット上での名誉毀損ないしプライバシー侵害や、パソコンを起動すると特定のサイト(出会い系やアダルトサイト等が多い)を自動的に表示するスパイウェアプログラムに関する相談、迷惑メールの対処法等の8件の相談がありました。もちろん、この中には、パソコンやインターネットの近時動向を知らなければ対応できないような相談もありましたが、相談内容としては、通常の法律相談と同様であるものもありました。
弁護士としてはネットやパソコンが絡むと、知識がないとして敬遠されがちな分野であります。ホームページ委員会では、今後会員へITがらみの事件に対する対処法や基礎知識を提供するための講演を企画していき、会員間で情報を共有していけるようにしていきたいと思います。
2011年12月 1日
「裁判ウォッチング」のご報告
会 員 中 村 亮 介(63期)
さる平成23年10月19日、福岡地方裁判所において、「裁判ウォッチング」が実施されました。参加者は約50名と非常に多かったです。私はその日の午後の担当で、田畠光一先生、梅津奈穂子先生、和智大助先生、鍋嶋隆志先生とご一緒することとなりました。まずは、参加者の方々に弁護士会館3階で、裁判に関する簡単な説明のDVDを観ていただいたあと、2つの班に分かれました。
私は、和智先生と鍋嶋先生と一緒に引率をすることになりましたが、鍋嶋先生から、参加者の方々に対して、これから傍聴する事件について簡単な説明をしていただき、その後、法廷へ向かいました。
まず、刑事裁判の傍聴に行きました。参加者のほとんどは、腰縄をまかれ手錠をかけられた被告人を見たということで、参加者のうちの一人の方は、「初めて手錠をかけられた人を見て、とても衝撃を受けました。」とおっしゃっていました。
次に、民事裁判の傍聴に行きました。傍聴前に、鍋嶋先生より参加者に対して「民事裁判を見る前にひと言だけ言っておきますが、民事裁判は、単なる書面のやり取りだけで、内容はよくわからないので、がっかりしないでくださいね。」とのご説明があり、その後法廷へ入りました。
しかし、その日の参加者は強運の持主が揃っていたようで、いざ法廷にはいると、傍聴した裁判は双方とも代理人の就いていない当事者裁判で、裁判官を通じて詳細なやりとりが丁寧になされました。参加者の方々も、「裁判らしい裁判」を見られて満足そうでした。
最後に、民事裁判の証人尋問の傍聴に移りました。この裁判は、請求金額が3億円という裁判で非常に緊張感のある裁判でした。しかし、私達に残された時間は20分ほどしかなく、尋問の途中で時間がきてしまい、仕方なく途中で退廷し、弁護士会館にもどりました。
弁護士会館に戻り参加者の方々にアンケートを書いていただく段になって、ようやく弁護士と参加者の距離も縮まってきました。参加者の方からも、弁護士に対して「(刑事裁判の)あの被告人はこれからどうなるのですか?」など、いくつか質問がありました。
「裁判ウォッチング」の参加者は、これまで裁判所や法廷には縁のない方々がほとんどで、傍聴を自由にできることも初めて知ったという方が非常に多かったのですが、この裁判ウォッチングを通じて、裁判所との距離が縮まったのではないでしょうか。これからも「裁判ウォッチング」を通じて、市民にとって裁判所が少しでも身近な存在になり、気軽に裁判所が利用されるようになることを願うばかりです。
拡がれ!『法教育』の輪! ~懸賞論文で優秀賞を受賞しました!~
法教育委員会 委員 春田 久美子(48期)
1 懸賞論文に応募した経緯私は、法務省が昨年初めて実施した「法教育懸賞論文」に応募し、平成23年1月、思いがけず、優秀賞を受賞しました。
テーマは「学校現場において法教育を普及させるための方策について」。この懸賞論文の存在を知ったのは、応募締め切りが約2週間前に迫ったころでした。偶然見かけた法テラスの広報誌(ほうてらす)の裏表紙にあった「締め切り迫る!!」「学校現場において法教育を普及させるための...」との文字が目に飛び込んできたのです。当時、手詰まり感を感じていて、ずっと何か法教育を拡げていくためのアイディアはないかな~と考えていたので、私は、これまでにやってきた活動を振り返りつつ、とりあえず自分が思っていることをまとめる良い機会だと思い、応募してみることにしました。
2 法教育と私
私が小学生を含む学生さんの相手をするようになったのは福岡地裁小倉支部に左陪席として働いていたときのことです。福岡地裁本庁を始め、裁判所全体が(一般の市民向けの)"広報"というものを意識し始めた頃だったと思います。初めのうちは、一体何をやったらいいんだろう、という感じでしたが、本庁にいらっしゃった広報上手な職員の方にアイディアを色々教えていただいたり(模擬裁判の体験と子供たちとの質疑応答・お話など)、他の庁の子供たち向けの取り組みの工夫例を色々調べたりするうちにドンドン楽しくなっていきました。一番忘れられないのは、小学校3年生くらいの子供たち10数人を担当したときのことです。引率をされた女性の先生が(感動しました!ということで)、後日、子供さんたちの可愛い感想文を郵便で届けて下さったのです。簡単な模擬裁判をやってみたのですが、『検察官と弁護人の言い分を聞いていると、どちらもそう思えるところがあるから、どうしていいかますます分からなくなりました...』という感想が忘れられません。また、時間内には出来なかった質問等も書かれていたので、嬉しかった私は御礼も兼ねて返事の手紙を出しました。今でもそのときの感想文は私の宝物です。もう一つ、私が法教育というものを続けていこう、と思ったエピソードがあります。毎年5月位に、最高裁判所の裁判官が全国各地の裁判所を訪問する、という企画があるのですが、山口繁裁判官がお見えになった際、昼食会の席上で予定の話題が意外と早く終わってしまったため、支部長が突然、私に話を振り「子供さん向けの相手をしている判事補です」と私に何か話をするよう向けられたのです。私はドキドキしながら活動の様子を報告したのですが、その後、山口裁判官が各裁判官室を回って来られた際、「さっきの方ね。これからは、若い人向けの裁判の世界の紹介、是非お願いしますね。」とお言葉をかけていただいたのです。あ~やっぱり大切なんだ、この活動は!と素直に嬉しく思えました。
3 論文に書いたこと
論文には、法教育にはどのような意義があるのか、どういう魅力が詰まっているのか、その有意義さと楽しさを踏まえ、それなのに学校現場(教師の方々)になかなか拡がっていかない理由は何なのか、などを私なりに考え、それを解消するためにやった方がいいと思うことを先ず書きました。そして、やはり、具体的に、じゃあ、どんな風に意味があるの?という疑問に応えるべく、授業例の紹介や、授業で取り扱う際の切り口の数々を思いつく限り書いてみました。自分の中で、クライマックスの部分は、NIE(教育現場に新聞を)とのコラボレーションの部分です。法教育の意義は、その捉え方によって様々あるようですが、詰まるところは、民主主義を支える将来の子供たちを育む、という点でNIEが目指すところと一致すると思えたのと、コラボ出来れば、メディアを介して法教育自体も拡がっていく可能性に魅力を感じたのです。
4 応募と発表、そしてその後
締め切り直前の日、もうキリがないよね、と事務員さんとも話して、論文を取り上げられ(!)、中央郵便局に速達で出しに行ってもらいました。発表は12月下旬となっており、御用納めの日までに何も連絡がなかったので、ダメだったのかな~と思っていたら、年明け、少年鑑別所での面会を終えて帰ってくる途中、携帯に電話がありました。最優秀賞(1名)と優秀賞(2名)の受賞者は、法務省にて授賞式が行われることになっていました(平成23年3月15日)が、東日本大震災の発生直後だったため急遽取りやめになりました。ですが、この受賞をきっかけに、色々なところから法教育について何かを書かせていただいたり、メディア(特に新聞)からの取材を受ける機会が増え、学校現場の先生方や教育委員会等に法教育についての広報に伺う際、一つの話題とすることが出来るようになったことは嬉しいことでした。
5 法務省でお話してきました
平成23年11月4日(金)、法務省の「法教育推進協議会」というところに招かれ、法教育の取組みについてお話をさせていただく機会を得ました。論文を書いてからちょうど1年が経っていましたので、当会の法教育の車の両輪としての"法教育センター"と"法教育研究会"の活動内容を含め、今、直面している課題等についてもお話してきました。
法教育、と一口に言っても、法務省・裁判所、そして司法書士等の隣接業のそれぞれが法教育に取り組んでおり、学校現場の先生方にとっては選択肢があり過ぎるように受けとめられ、何と言っても"何だか難しそう..."と思われているのが現状です。私自身は、今、日本全体で問題になっている、子供たちの言語能力の向上や対話力、コミュニケーション能力のスキルアップの観点からも、この法教育は有用なのではないか、と信じており、さらには、立場が異なり利害がシビアに対立する場面で普段仕事をしている私たち弁護士だからこそ伝えられる何かがあると思っています。その魅力を、法教育研究会に集まってきて下さる学校現場の教員の方々等と一緒に知恵を出し合い、良い教材を開発しながら、今後も地道に伝え続けていこうと思っています。
6 結びにかえて‐会員各位へのお願い
お子様を学校に通わせていらっしゃる世代の会員の皆さま、子育てはもう終わったけれど、教員に知り合いがいらっしゃるという皆さま、私たち法律家が日ごろから思っている知恵などを子供たちにも伝えたいという理念に共感して下さる方、PTA役員である方はもちろん、顧問先として学校現場の先生方にお知り合いがいらっしゃる皆さま、どうか、当会の法教育センターの、弁護士の出張授業のことをお知り合いの学校の先生、あるいは保護者の方に「これやってみませんか?」とご紹介いただけませんでしょうか!それを期待しまして、間もなく皆さまのお手元にレターケースを通じて法教育センターのチラシを一枚ずつお届けする準備をしています。今年度は80クラス無料キャンペーン実施中ですので、金銭面では学校の負担はありません(そこも売り込んで下さいね。)。世界一受けたい法教育の授業を開発するべく、私たち法教育委員会のメンバー皆頑張っています。福岡から「生きる力」を持った子供たちをたくさん育むため、法教育の輪が拡がっていくために、お知恵やお力を貸していただけましたら幸いです。あっ、そうそう!肝心の受賞論文は、法務省のホームページに載っていますので、ご一読いただけましたら幸いです。
2011年11月 1日
講演会「いま、原子力発電を考える」のご報告
会 員 中 鐘ケ江 啓 司(63期)
1 本年9月29日、天神ビル11階にて長崎県立大学講師(元・慶応大学助教授)の藤田祐幸先生の講演があり、その後、福留英資会員から原発問題と憲法上の人権の関係についての報告がありました。2 藤田先生からは、原発の問題点として、(1)大事故の危険性、(2)労働者被曝、(3)放射性廃棄物の3点が存在するとの説明があり、それぞれについての詳細と、福島原発事故後の放射能汚染についての現状、玄海原発の問題点、今後のエネルギー政策についての講演がされました。
3 (1)については、チェルノブイリの現状と、福島第一原発の現状が話されました。福島については、汚染が沿岸部だけではなく内陸部にまで及んでおり、広い範囲でチェルノブイリの強制避難区域レベルの放射線が観測されていることや、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)での放射能拡散の試算結果から、気流にのって全国に放射性物質がまき散らされたことなどの話がありました。そして、日本政府は福島だけが汚染区域のように言っているが、EUでは「福島、群馬、茨城、栃木、宮城、長野、山梨、埼玉、千葉、東京、神奈川、静岡」の各県の出荷物につき放射能検査が行われており、これは観測データとも一致するので正確な汚染地域と見るべきとの話がありました。全県について輸入規制をかけている国も複数あるとのことです。
4 (2)については、藤田先生がライフワークにされている、原発に従事している「最下層労働者」の話がされました。原発の点検時に施設内にたまった放射性物質を除染するために日雇い労働者が大量に動員されており、多重下請け構造の下で犠牲になっているという話です。作業員に放射能計測装置は持たされるけれど、付けていたらすぐ限界になって仕事にならないので、付けずにやることになり健康を害して補償もされていないという話でした。原発が構造的に被爆者を生み出し、差別を生み出す構造になっているというのです。
5 (3)については、放射性廃棄物はガラスに閉じこめて、ステンレス筒に詰められて地中深く処分されることになっているが、無害になるまでには数万年単位の時間が必要であり、非現実的だという話がありました。この点に関して、藤田先生から処分場を巡るエピソードが話されました。藤田先生が慶応大学の助教授だった当時、東京大学の教授が3万年はこの方法で保管できると主張したのに反論して反対運動をしていると、役所の担当者が住民に対する説明会で「あちらは慶応、こちらは東大。どちらが信用できるか。」と説明しており、「どちらが正しいではなくて、どちらが信用できるか、では科学ではなくて宗教ではないか。」と思ったそうです。
6 玄海原発については、1号機の圧力容器の脆性遷移温度(金属の性質変化)が全国で一番高い98度に達しており(通常は−30度程度で、中性子があたることの劣化により温度が上昇していきます)、冷却時に破損する可能性があり、極めて危険な状態にあるそうです。
7 そして、今後のエネルギー政策について、現状から再生エネルギーなどでの代替という話は非現実的とのことで、火力発電(原発を作るときは必ずバックアップで同出力の火力発電所を設置しているので、こちらを稼働させれば補えるそうです)や水力発電の稼働率を上げること、民間の自家発電を解放して市場化を進めること、発電効率の良いコンバインドサイクルの導入を進めること、を提案されていました。
8 これらの話は、全て政府か電力会社が提供しているデータに基づいての説明であり、煽るような形ではなく淡々と説明されているからこそ、原発被害の問題が深刻だということを理解することが出来ました。
9 その後、福留会員から日弁連が原発に関して1976年から運転中止や廃止を度々求めてきたこと、原発が幸福追求権、生存権、国民主権、知る権利、居住移転の自由、財産権、地方自治の本旨など多くの憲法上の権利と関わりがあることの説明がされました。
10 今回の講演会の内容はいずれも興味深いものでしたが、その中で一番印象に残ったのは、藤田先生の「法律が扱えるのは3世代までと聞くが、放射能は数万年の単位で残る」という趣旨のお話でした。
原発の問題を、電力会社や立地自治体、周辺自治体の住民との利害調整の問題と捉えた場合、上関町の町長選で原発推進派の町長が三選したように、原発の立地自治体の住民にとっては、原発により得られる利益の方が、原発により受けるリスクを上回るということがあり得ます。
しかし、福留会員の発表にもあったのですが、原発については、放射性廃棄物や事故により実際に放射線の影響を受けるのは原発を誘致した世代以降が中心となるという特徴があります(原発の老朽化や放射性物質の蓄積、若年層ほど放射能の影響を受けやすい等)。そのようなものを現役世代の利害調整だけで決めて良いのでしょうか。
憲法上の人権については「他者の人権でなければ制約できない」などと説かれるので、その考え方だと生まれてもいない人の人権などを考える必要はない、となりそうです。しかし、憲法の判例で、ため池の破損、決壊の原因となるため池の堤とうの使用行為について、「憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外」(昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁)として何人も当然使用行為の禁止を受忍しなければならないとされているものもあります。原発についても、少なくとも福島原発の事故後は、安全性に問題があることがわかった以上、もはや原発の稼働は憲法上保障されている財産権の埒外になった...と考えることも出来るのではないでしょうか。
原発の危険性や現状だけでなく、通常の公害問題との相違点を意識させられる素晴らしい講演でした。藤田先生の講演はインターネット上でも見られますので、興味を持たれた方は是非ご覧下さい。
給費制維持緊急対策本部だより「第7回災害復興支援に関する全国協議会in神戸のご報告」
会 員 中 村 亮 介(63期)
1 はじめに 平成23年9月28日(水曜日)午後0時から1時20分まで、参議院議員会館1階講堂で、院内集会が盛大に行われました。院内集会には、鴻池祥肇議員、米長晴信議員をはじめ、多数の国会議員が参加され、約20名もの国会議員からのご挨拶がありました。 院内集会は、清水鳩子先生による開会宣言で始まり、その後、順に、法科大学院修了生、国会議員、大学学部生、日弁連から次々と発言がなされ、最後は、宇都宮健児日弁連会長による閉会宣言で集会は終りました。 発言の要旨は、以下のとおりです。
2 法科大学院修了生の声
アベケイイチさん(立命館大学法科大学院修了生)
自分は、宮城県仙台市出身で、今年の3月に法科大学院を修了し5月の新司法試験に向けて準備をしていた。しかし、受験の直前に震災が起き、過度のストレスのため今年の受験を断念した。その後、震災の影響で実家からの経済的援助が受けられなくなり、合格後は貸与制に移行し、就職難が待ち構えているという状況から考えて、弁護士になること自体を諦めざるを得なくなった。
貸与制になると、人のために役に立ちたいと思って弁護士になろうと思っても、裕福な人しか弁護士になれなくなる。お金のない人は、弁護士になりたいという夢を奪われる。
自分と同じような思いをする若者がこれ以上出ないように、貸与制への移行はするべきではない。
3 発言された国会議員の発言要旨
(1) 大口善徳議員(公明党)
給費制維持の問題については、3党協議も呼びかけている。法案成立に向けた時間は切迫しているが、給費制の維持に向けて頑張っていきたい。
フォーラムは、内容のない形だけの議論をしただけで、一時とりまとめをした。法曹養成は危機的な状況にある。根本的な議論の必要性がある。その議論をすることなく、財務的な問題があるからといって、貸与制にするのは、問題がある。なによりも他学部、社会人からの志望者が減っているが、このことこそ問題とするべきである。平岡大臣には、フォーラムの内容を否定して欲しい。フォーラムを継続するのであれば、根本的なところから議論して欲しい。
(2) 井上哲士議員(共産党)
フォーラムは、弁護士の5年目の年収のことしか検討していない。そもそも司法試験を受けることすら断念するという状況を全く見てないし、給費制の意義についても、検討していない。
戦後の厳しい中でも、給費制を実現したことを考えるならば、むしろ今こそ、給費制は必要なのではないか。
(3) 福島瑞穂議員(社民党)
給費制廃止は、大反対。法曹養成が借金が前提になると、日本の司法制度全体が崩れていく。
法律家養成だけの問題ではない。社会の人材育成の問題。
もんじゅは、1日5,000万円、年間200億円も維持費がかかっている。給費制のことくらいけちけちするなといいたい。
(4) 照屋寛徳議員(社民党)
法曹志望者が経済的な理由で法曹になることを断念するようなことがあっては絶対にならない。それは国家の大きな損失になる。
沖縄銀行は、琉球大学法科大学院の学生を支援して7名合格者を輩出した。民間が支援しているのになぜ国が支援しないのか。
私は、1970年から72年まで司法研修所で勉強した。家族は9人兄弟で貧乏だったが、旧司法試験ではそのような私も司法試験に合格することができた。現在のように、法科大学院修了が受験資格である新司法試験制度だったら、私は司法試験に合格することができなかった。
(5) 今野東議員(民主党)
莫大な学費がかかり借金を前提とする法科大学院に行こうとする人がいなくなっている。
そもそも、小泉時代の司法制度改革が破綻している。そのことから議論を始めるべきではないか。法曹養成制度全体のことから議論を始めるべきであり、給費制の議論はその後にするべきである。議論の順番が逆になっている。
(6) 吉田忠智議員(社民党)
法案成立に向けた日程がタイトである。厳しい状況ではあるが、給費制を見直すことには問題がある。給費制は絶対に存続していかなければならない。
(7) 山本剛正議員(民主党)
借金が増えていくと心がすさむ。これから法曹となる者に借金を課してくことは、道理として許すことはできない。法曹界が目指すべきは、質の高い弁護士を育てていくことである。
(8) 松野信夫議員(民主党)
私は現在、法務部門会の座長をしており、給費制問題の責任者である。
法曹養成をどうするか、という姿勢を示していかなければ、単に給費制、貸与制の二者択一の議論にしてはいけない。
7年前の司法制度改革において、法科大学院は大きな柱であった。しかし、現実にはうまくいっていない。法曹志望者が激減している。新司法試験の合格率も低迷している。
お金がない人でも、志のある人は立派な法律家になってもらう、そんな仕組みを作る必要がある。とにかく、経済的な負担があるために法曹を断念することがないようにする。
(9) 仁木博文議員(民主党)
当面給費制の継続をみんなで一緒に勝ち取っていきたい。
(10) 横粂勝仁議員(民主党)
裁判員制度をはじめとした司法制度改革は、明らかに理念に逆行している。
現状は厳しいが、諦めたらそこで試合終了。諦めずに頑張っていきましょう。
(11) 牧山ひろえ議員(民主党)
私はアメリカで弁護士をしていた。アメリカのロースクールで学んでいたとき、友達のほとんどは借金していた。どういった経済状況であっても夢が実現できる、そんな社会にしなければならない。 (12) 道休誠一郎議員(民主党)
私は医療の現場から議員になった。医療も法曹界も、パブリックインフラとしてとらえていく必要がある。弱者を守っていくための弁護士を育てる必要がある。政治も志が必要だが、法曹界も志ある人がなる必要がある。
(13) 中屋大介議員(民主党)
私は、今33歳になる。ちょうど法科大学院が始まった頃には大学院に在籍していた。学部と大学院で併せて数百万円の借金があった。その頃、自分に万が一のことがあったら借金のことで親に迷惑がかかると思い、生命共済をかけた記憶がある。
若い人にとって、数百万円というお金がどれだけ大きなお金か、もう一度改めて考えてみる必要があるのではないか。
(14) 姫井由美子議員(民主党)
給費制がなくなるのは、国益を損なう。
この国はどうやって人の権利と財産を守っていくのか、というところから議論していきたい。
(15) 荒木清寛議員(公明党)
我が国は人材に対する投資を惜しんではいけない。
(16) 広野ただし議員(民主党)
よい人材を育成するためには、給費制は絶対に必要。日弁連の活動には、全面的に賛同します。
(17) 穀田恵二議員(共産党国会対策委員長)
今朝の宇都宮先生の話を聞いて、改めて給費制を守る意味合いの深さに気づいた。
4 大学学部生
ナガセヒロアキさん(青山学院大学法学部生)
学部、大学院、司法修習でお金を借りて、就職難も待ち構えている。そんな道を選ぶ人が果たしてどれだけいるだろうか。
貸与制移行は、司法修習生になった後にも、親のすねをかじるか、それができない者は国からお金を借りるという選択を迫るもの。そんな状況で、果たしてどれだけの人が法曹になる道を選ぶだろうか。
どうか、この国の若者の夢を崩さないでほしい。
5 日弁連からの報告
(1) 川上明彦会長代行
数字には表れていないが、なんと、高校生が法学部を目指さなくなってきた。これは非常に問題がある。
国会の日程から考えると、10月に給費制が法案には出ない状況で、厳しい。
1年6ヶ月たっても、まだ結論が出ない。長期戦になっている。われわれ自身との戦いになっている。
(2) 宇都宮健児会長
こういう集会をあと何回かやらないといけない。
フォーラムで決まったからもうだめだ、と思ったらそこで終わり。われわれは諦めない。給費制の問題は、国が財政難だからということで、やめていいという話ではない。
貸与制にするということは、弁護士の資格が個人のものになるということを意味する。それは、それまで公共的な役割を担ってきた弁護士の性格が変わることを意味する。
この運動は、日弁連だけではなく、市民団体も一緒に戦ってくれている。市民が政治に参加している。これこそが民主主義ではないか。
またビギナーズネットの皆さんと一緒にやってこれたことはすばらしい。
最後まで諦めないで、ビギナーズネットの皆さんと一緒に戦っていきたい。
6 おわりに
院内集会に参加して、ますます給費制維持の必要性を感じたとともに、諦めなければ、給費制維持は必ず実現できるのだという思いを強くしました。今後も、この給費制維持活動に積極的に参加して参りたいと思います。