福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
「難民に関する研修会」開催のご報告
会 員 岡 部 信 政(61期)
平成25年12月9日(月)午後5時より、福岡県弁護士会館にて「難民に関する研修会」が行われましたので、ご報告します。この研修会は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)からの委託を受けた日弁連との共催によるものです。福岡では昨年に続いての開催です。講師は、関聡介先生(東京弁護士会)にお越し頂きました。
実は、福岡では現在、20名の弁護士でネパール難民弁護団を組織して、9名のネパール人難民申請者を支援しています。彼らは一時期大村入管に収容されていましたが、現在仮放免(長崎県弁の先生方のご尽力がありました)され、全員が東海地区に居住しています。そして難民不認定処分につき異議申立手続き中であり、審尋(名古屋入管で!)が行われつつあります。こうした状況をふまえて応用的、実務的な内容を中心にしつつ、初心者にも分かりやすいものとなるよう、お願いをしていました。
当日は、弁護団以外からも、長崎から参加頂くなど20名程度の参加者がありました。「難民」とは何か?という基本的な問題から(ただし、論点が多く含まれています)、難民申請手続(一次・異議)における弁護活動での留意点、訴訟における諸問題など、充実した資料と、経験に基づいた講義をしていただきました。訴訟はともかく、口頭意見陳述や審尋手続きについて経験が少ない我々は、それこそ「何を聞かれるのか」「何分話す機会を与えられるのか」といったつまらないことが気になっていましたので、関先生の講義を経て不安感はかなり払拭できたように思います。
日本での行政手続での難民認定率(平成23年)は一時手続・異議手続をあわせて1.5%であり、欧米諸国はいざ知らず、韓国の12%と比較しても「異常」と評価してよい状況です。しかも、難民参与員制度がとられている異議手続において、参与員が難民該当性を認めたにも関わらず法務大臣がその判断を覆すなど、制度が骨抜きにされている問題が報道されてもいます。申請者が増大して手続が滞留し、最終判断に数年かかることもあり、その地位は非常に不安定です。人権保障、手続保障のために弁護士が積極的に関与していくことが求められている分野です。
福岡入管を抱える当会としても、このような研修を通じて、難民事件に対応可能な弁護士を増やしていく必要があるでしょう。
さて、研修後には某有名もつ鍋店にて懇親会が行われました。忘年会の季節、地元の人間は食べ飽きた(?)感もありますが、楽しく情報交換をさせて頂きました。講師の先生もたっぷり堪能されたことと思います。
あさかぜ基金だより ~いぶすきだより~
会 員 城 石 恵 理(63期)
ご無沙汰しております。私は、弁護士登録から1年9ヶ月余り弁護士法人あさかぜ基金法律事務所に所属した後、平成24年10月に鹿児島県指宿市の法テラス指宿法律事務所に赴任しました。今回紙面をいただき、指宿の様子を簡単にご報告したいと思います。
1 指宿市は、地図で見て鹿児島県左側、薩摩半島の南端に位置し、市内に指宿簡易裁判所・鹿児島家庭裁判所指宿出張所がある、人口4万3231人(平成25年12月1日現在、以下同じ)の都市です。事務所から車で約1時間のところにある鹿児島地方・家庭裁判所知覧支部の管内であり、南九州市(中心部に知覧町があり、そこに裁判所があります。人口3万7205人)・南さつま市(人口3万6598人)・枕崎市(人口2万2685人)との計4市が同裁判所管轄地域となります。
同管内の常駐弁護士数は私を含めて3名、その他に非常駐の鹿児島市内の法律事務所の支所と、任期付公務員の弁護士がいます。指宿市内には他に弁護士がいないため、一般事件の相談・受任をすることができ、最近では、受任事件の約半分ほどが家事事件です。週に数件相談があり、弁護士としての経験不足を補うため、あさかぜで見聞した様々な先輩弁護士の法的考え方や依頼者との接し方を折に触れて思い出し、参考にさせていただいています。
同管内の刑事事件は、福岡と比較してかなり少なく、かつ鹿児島市内の弁護士が多数国選名簿に登録しているため、実は来鹿してからまだ1件も刑事国選・当番は経験していません。事務所の一般相談で、示談金の額についての相談を受けたり、在宅の窃盗事件の示談について依頼を受けることは数回あり、国選・当番対象外の事件等につき地域の法律事務所として補完的な役割を果たすニーズがあると考えています。
2 枕崎市・南さつま市までは、車で約1時間半はかかり、そこから相談に来所されたり、出張相談で出かけることもあります。同管内の4市のうち、枕崎市を除く3市は鹿児島市に隣接していますが、鹿児島市内までは遠い、高齢で行けないなど難色を示す相談者もおり、司法サービスへのアクセスが困難な地域・相談者層があることを実感します。司法過疎の完全な解消には、もう少し管内の弁護士数増加が必要であると感じることもあります。一方で、所得水準や裁判所等への距離など、これまで司法過疎となってきた理由の一端は明らかであり、難しい問題です。
また、独居高齢者の認知症等が原因の近隣トラブル相談や、高齢化した親の相続に関する相談など、当事者の判断能力に疑問を持たざるを得ない類型の相談もあり、受任には大変気を使います。離婚訴訟や相続など、未経験の相談や手続きも多く、赴任当初から現在まで、あさかぜ時代の指導担当弁護士や先輩弁護士にメールや電話をして助言をいただくこともたびたびあり、非常に心強く、ありがたく思っています。
私自身、鹿児島は初めてなのですが、あさかぜ時代の九州沖縄の協議会や開所式等に参加したり、あさかぜ委員会自体で他県の先輩弁護士と顔を合わせる機会があったことで、赴任する際も各地への親近感という点でも違いがあり、九弁連で養成した弁護士を九州・沖縄の各地へ赴任させるというあさかぜの理念は、地域への愛着という点でも意味のあることだと感じています。
3 南薩地域は、日本百名山の一つである開聞岳や錦江湾、桜島など、裁判所の行き帰りに素晴らしい景色を目にすることができます。砂蒸し温泉や新鮮な食べ物、町ごとに異なる焼酎も楽しめます。当初は恐る恐るだった車の運転にも慣れ、気分転換にドライブをすることも多いです。
しかしながら、司法サービスという点に目を移すと、司法過疎ならではの問題があり、養成を受けて赴任をするという制度も現時点ではまだ必要なものではないかと思います。特に、九州で養成されること、また多くの先輩弁護士に関わっていただくことが、赴任後、実務上も心理的にも非常に助けになると感じています。九州・沖縄の司法過疎が解消するまで、これからもあさかぜで弁護士を養成し赴任していくことは、決して無駄ではないと思いますので、今後とも、あさかぜ基金法律事務所をどうぞよろしくお願い致します。また、南薩地域の事件がございましたら、是非ご紹介ください。
給費制本部だより 給費制が問いかけるもの ~法曹は誰のものか~
司法修習費用給費制復活緊急対策本部 本部長代行
市 丸 信 敏(35期)
司法修習第66期生ほか新入会員の皆さん、ようこそ福岡県弁護士会にご入会を頂きました。本稿では、皆さんに司法修習生の給費制の復活のための運動についてご理解と今後のご協力を頂きたく筆を執りました。(なお、最近の運動や動きの詳細については、昨年5月以降の毎月の月報「給費制本部だより」をご参照下さい。)
1 給費制運動の系譜
福岡県弁護士会では、とりわけこの4年来、司法修習生の給費制の存続・復活のための運動に大変な力を注いで来ています。もちろん、日弁連や全国の弁護士会とも連携した運動としてです。
今次の司法改革の結果、司法試験合格者の大幅増員、多額の司法改革関連予算の支出などの理由によって、日弁連の反対にも拘わらず、平成16年に給費制廃止・貸与制への移行が決められました。本来は平成22年11月(新64期生)から貸与制となるはずでしたが、平成22年度における日弁連や全国弁護士会の熱烈な存続運動の結果、暫定的に貸与制実施を1年先送りし、その間に修習生の経済的支援問題を再検討すべしとする成果(議員立法による裁判所法一部改正)を得ました。
しかし、その翌春に発生した東日本大震災という特殊事情もたぶんに影響したと考えられますが、平成23年8月には、「法曹の養成に関するフォーラム」(H23.5~H24.5)において、給費制の存続を主張する日弁連はほとんど孤立したに等しい状況で貸与制を是認する意見が圧倒し、ついに同年11月(新65期生)から貸与制が実施されてしまった次第です。すでに貸与制のもとでの修習生は3期目を迎えています。
しかし、日弁連や全国の弁護士会はなお諦めず、フォーラム後継組織としての「法曹養成制度検討会議」(H24.8~H25.6)では、経済的理由によって法曹への道を断念する人が少なからず生じるなどの不都合が現に露わになってきていること、貸与制の下で修習生は過酷な経済生活を余儀なくされていること等々を、修習生アンケート結果その他のデータで訴えるなど懸命の巻き返しを図りました。その結果、給費制を支持する数名の有識者意見を引き出すほか、従前の貸与制是認の有識者委員からも、この(貸与制)ままではいけない、修習生に対するさらなる経済的支援が検討されるべき、との多くの声を引き出すことができました。ただ、残念ながら、検討会議のとりまとめにおける具体的方策としては、67期生から、移転料の支給、集合修習時の入寮の保障、修習専念義務の緩和(アルバイトの部分的容認)が実施されることになったなど、期待はずれに止まっていることもご承知の通りです(アルバイトの容認は本末転倒であると、日弁連は安易な専念義務の緩和に反対しています)。
2 給費制運動の展望
給費制については、あれほど力を入れて全国運動を展開し、その後2度にわたる政府審議会での検討の機会がありながら、やっぱり給費制の存続(復活)は無理だったか、とすでに諦めておられる会員も少なくないように感じます。しかし、まだまだ簡単に諦める訳には参りません。なぜなら、
(1) 検討会議では、佐々木毅座長自ら、後継の新たな検討体制で経済的支援問題を引き続き検討するように要望するとの発言を特別に残されたことからも伺えますが、上記の微々たる3点の措置も、法改正の手当をせずとも可能な応急的措置として講じるものであると理解されているのです。つまり、経済的支援の問題は後継の新たな検討組織での引き続きの検討課題であることが検討会議委員の共通認識とされ、その取りまとめでも、司法修習の充実方策を検討する上で必要に応じて修習生の地位のあり方やその関連措置を検討すべきことが明記されています。
(2) 確かに、国家財政の危機的状況の下で依然として財務省の壁は厚く高く、新たな検討組織である内閣官房の「法曹養成制度改革推進室」(H25.9~)でも官僚側の抵抗は根強く、また法曹養成制度の改革について解決が先送りされ推進室で取り組む課題も多く、修習生の経済的支援問題を俎上に載せること自体が簡単ではない現状です。しかし、推進室に対して意見を述べる立場の「法曹養成制度改革顧問会議」では、給費制復活の意見が出るほか、修習生の経済的支援問題を引き続き検討するという点では意見が一致しています。この問題は、司法修習の充実方策、法曹人口(司法試験合格人数)の見直し問題、法科大学院制度の改革問題など、目下、具体的方策が検討されつつある法曹養成制度改革の各論点とも密接な関係を有しており、今後、それらとの相互関係で貸与制の見直しが図られる余地が残されています。
(3) もっとも、すでに若者の法曹離れは著しく、その大きな原因の一つに過重な経済的負担問題がある以上、修習生に対する経済的支援問題の解決は急がなくてはなりません。その意味で、一昨年政権与党に復帰した自民党と公明党に、それぞれこの問題について積極意見が少なくなく、かつ、ダイナミックに早期の解決を期していることは追い風とも言えます。自民党(司法制度調査会)は、昨年6月の中間提言で、給費制については賛否両論があるとしつつも、司法修習の位置づけや修習生の地位のあり方を再検討し、修習生の過度な負担の軽減、経済的支援のあり方について早急に対策を講ずべきとして、政府や最高裁に対して6ヶ月以内の検討・報告を求めました。そのうえで、昨年11月には、政府の検討が不十分であると指摘したうえ、本年3月頃にも同党司法制度調査会の最終提言をとりまとめるとしています。公明党も、少なくとも研修医に準じた経済的支援が必要で、公務員の研修日額旅費制度に準じて給付をすべきとの考え方です。これら与党の動きや考え方は、当然、推進室や顧問会議などにも少しずつ影響を及ぼしつつあるように伺えます。
(4) 以上のような次第ですから、決して、諦めないで下さい。まだまだ巻き返しのチャンスはあります。以上の情勢に鑑みると、むしろ今こそ頑張り時と言えます。国会議員にも、与野党を問わず、給費制の意義を理解し、熱心に支援してくれている人は沢山おり、また、仮に賛同的ではない議員にも繰り返し要請し意義を伝えることで徐々に理解者は増えています。肝心の私たちが諦めてしまっては、何にもなりません。情熱と気概を持って、正しいことのためには粘りに粘る、との強い気持ちで取り組みを続け、政府や推進室・顧問会議に、また、国会議員にと、声を届け続けなければなりません。
3 給費制運動の根源で問われていること
この4年間、当会の歴代執行部と給費制本部は、会員の皆さんともども、街頭に立ってマイクを持ち、ビラ配り・署名集めを続け、市民集会・パレードを繰り返す等して、この問題の重要性を訴え、市民の皆さんの理解・支持をお願いしてきました。国会議員や諸団体に対しても、幾度も要請活動を繰り返して来て、今も続けています。国(財務省)の、「もはや国民的理解が得られない」との理屈が正しくないことを、圧倒的な国民的支持の広がりをもって示さなければなりません。
ですが、実際、運動の中で、市民の皆さんからよく尋ねられることに「どうして修習生は給与を貰える(貰えていた)のですか。資格はたくさんあるのに、修習生が特別扱いを受けるのはどうしてなのですか。」との素朴な問いかけがあります。市民の方と話すとき、正直、そこの説明が一番難しく感じるところですが、さて、皆さんなら、どのようにお答えになりますか。
私自身は、嬉しいことに、この運動を通じて、当会は、多くの先達を含む会員諸氏による熱心な会務活動、幅広い公益活動の歴史と日頃の弁護士業務のあり方によって、広く市民からの理解、支持を得ることができていることを実感することができました。ただ、残念なことに、当会ではこのところ大型不祥事も相次ぎ、手厳しい批判に晒され、信頼が揺らぎました。今後、会員数はいよいよ増大して、業務のビジネス傾斜的傾向は一層顕著になることが避けられないでしょう。
私たちは、これからもずっと市民の皆さんからの信頼と支持を寄せ続けて頂き、この給費制の復活を実現させるためには、不断に、どのようにあらねばならないのでしょうか。
ともに頑張って参りましょう。
2014年1月 1日
「転ばぬ先の杖」
広報委員会委員長
田 邊 俊(53期)
1 はじめに
福岡県弁護士会の月報は、昨年、500号という節目を迎えましたが、当初は純然たる会内広報誌という性格を有していました。しかしながら、その性格も徐々に変化しており、現在では、会員の各弁護士や弁護士会以外に、記者クラブ、県立図書館、地方自治体等の外部にも配布されるようになり、市民の目に触れる機会も増加して来ました。
そのような観点から、橋本執行部より、月報における対外広報という側面も強化されるべきではないかという意見が出され、広報委員会としても、対外広報の意味合いを有する連載記事を掲載することの検討を始めました。もっとも、対外広報とは言っても、月報は会内広報誌という性格も有するため、弁護士の自慢話と捉えられる記事を掲載することには躊躇を覚えざるを得ません。
そこで、この平成26年1月号から、実験的に、「弁護士が付いていれば、大事に至らなかった」、「当初、弁護士に相談していなかったので、大変なことになった」という事案をご紹介することで、弁護士の必要性ということを考えていただくコラムを掲載したいと考えております。題して、「転ばぬ先の杖」という連載記事ですが、第1回は、責任上(?)、私からはじめさせて頂きます。
2 事案
甲社は、上場企業の子会社で、機械販売を主たる業務とする株式会社であり、乙社は、福岡県に本拠を持つゼネコンでした。
乙社は、甲社の代理人Aとの間で、甲社がBより発注を受ける予定であった老健マンションの建設工事につき、乙社が甲社の下請けとなることにつき協議を重ね、その後、乙社の代表者らは、甲社の親会社である丙社を訪問し、応接室にて、甲社の専務取締役らの社員の面前で、Aに対し、乙社の記名押印済みの請負契約書(契約金額15億円)を手交しましたが、当日は、甲社の専務取締役の呼びかけで会食をしたのみで、その後、乙社は甲社の専務取締役名で記名押印された請負契約書をAから受領しました。
さらに、乙社はJ社との間で金12億円にて請負契約(孫請契約)を締結して建設に着手しましたが、地鎮祭には甲社の専務取締役らの社員が出席し、乙社は、毎月、甲社に対して、工事報告書を送付し、甲社の専務取締役、部長らも、工事期間中に工事現場を訪問していました。そして、本件マンションが完工し、乙社が、甲社に対して、引き渡しを行おうとしたところ、今まで甲社の専務取締役が関与していたにも拘わらず、「甲社は契約を締結していない」と拒否されたことから、契約の履行を求めて、乙社が、私の事務所へ相談に来られました。
その後も、甲社は、「専務取締役には代表権限がない。」、「契約書に押印された印鑑は、正式な社印ではなく、専務の私印である。」、「そもそも、Aへ代理権を授与した契約書も偽造されたものである。」、「地鎮祭に甲社の専務取締役が出席したのは、Aから頼まれたからに過ぎない。」等と主張をして本件マンションの引取りを拒んだ上に、注文者であるBにも支払能力がなかったことから、乙社は、J社への請負代金の支払いに窮することとなり、メインバンクに融資を求めたものの、メインバンクは、本件で乙社が多額の負債を抱えることを畏れて融資を拒否したことから、民事再生を申し立てざるを得なくなり、結局、自己破産に追い込まれることとなりました。
破産手続において、私が管財人より委任を受けて、甲社に対する損害賠償訴訟を提起し、過失相殺の結果、5億円の認容判決が出され、甲社が支払ったものの、お金は乙社の債権者に配当されたのみで、乙社はその50年の歴史にピリオドを打つことになりました。
3 結語
この不可思議な事件の背景には、甲社内における社長派と専務派の派閥抗争が存在し、新規事業で勢力拡大を図った専務派が社長派に敗れたこと、さらに、事業としての採算性に疑問の目が向けられたことから、甲社が本件マンションの引取りを拒んだのではないかと推測しています。
この事案において、もし、契約締結の段階において、弁護士に対して、「専務取締役との契約締結で法的な問題がないのか?」という相談がなされていれば、弁護士としては、「代表権限の確認が必要である」、「印鑑登録証明書での確認が不可欠である」との法的助言を与えたことは確実ですので、乙社が50年もの歴史にピリオドを打つことは避けられたはずであり、そのことが今でも悔やまれてなりません。
現在では、予防法務の重要性が叫ばれていますが、私は、予防法務という言葉を聞くと、本件を必ず思い出しますし、このような事案こそ、弁護士が転ばぬ先の杖であることを雄弁に物語るものだと感じています。
あさかぜ基金だより ~KBCラジオ「ひまわり号」出演記~
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士
青 木 一 愛(35期)
去る平成25年11月19日、KBCラジオ「ひまわり号」において、「弁護士過疎地域」をテーマとして採り上げて頂きました。このテーマとの関係で、当事務所に出演のお鉢が回って参りまして、私が当事務所を代表して出演いたしましたので、ご報告させて頂きます。
まず、出演に先立ち、当日の台本を作成致しました。私は、高校、大学時代と演劇部に所属し、脚本をやたらと書いておりましたので、当時を思い出しながら、ラジオ用の台本を作成致しました。
「ひまわり号」は、5分間ほどのコーナーですが、少しでも多くの話題を詰めたいと思うと、あっと言う間に10分間位の台本になってしまいます。一方、あまりに専門用語が飛び交う台本になってしまうと、耳だけで聞くリスナーの方には、何のことだか良く分からないことにもなってしまいます。この辺りの塩梅を考えながら、台本を仕上げる作業は、意外と骨の折れるものでした。
台本の内容については、耳に残りやすいキーワードということで、「ゼロワン地域」を切り口として話を始めることに致しました。ご存知のとおり、現在、「ゼロワン地域」については、「ゼロ」が解消、「ワン」も大分の佐伯支部を残すのみとなってきたので、そういう意味では、「ゼロワン地域」は、旬を過ぎた話題かもしれません。しかし、一方で、一時は、弁護士ゼロ地域が復活したり、ワン地域が増加したりするような出来事もありましたから、決して「終わった」問題であるということではないと思います。そのため、今回の放送においても、改めてゼロワン問題から話題をスタートすることに致しました。
放送当日は、放送1時間ほど前に、リポーターの方が事務所に来られ、早速、リハーサルとなりました。何回かリハーサルを重ねていくと、これまた、昔取った杵柄なのか、台本を「読んでいる」感じではなく、「自然な会話をしている」感じで話したい、と言った余計な目標が気になってしまいます。しかし、そうは言っても、リポーターの方から質問されるごとに、「えー」とか「はい」とか答えてしまうと、かえって聞きにくくなってしまいます。さて、どうしたものかと、あれやこれやと考えてみましたが、こうなってくると、「インタビューを受けている」というより、「演技をしている」といった方が近くなってきてしまい、心の中で苦笑してしまいました。
そうこうしている内に本番の時間を迎えることとなりました。結局、どのように話すと「自然な会話」に近いのかは皆目見当がつかなかったので、「大事な部分は早口で話さない」「しっかりと聞き取ってもらえるように滑舌よく話す」という、ごくごく当たり前のことを意識することに致しました。
本放送においては、地域に弁護士が少ないことによって生じる問題、このような弁護士過疎問題を解決するために九弁連が当事務所を設立したこと、当事務所の出身弁護士が九州各地のいわゆる「過疎地」に赴任し、地域の司法サービスの一翼を担っていることを中心にお話し致しました。また、法的トラブルに直面した方が弁護士に辿り着けるか否かが重要である、ということを日々の業務の中で改めて痛感しておりましたので、ありきたりな言葉ではありますが、「法律トラブルに直面されたら、お気軽にご相談下さい」ということもお話し致しました。このように、多方面な話題を織り込んだ結果、あっという間に、5分ほどの放送時間は終了を迎えました。内容面は散漫になってしまったかもしれませんが、何とか、皆様に聞きやすく話すことはできたのではないかと思っております。
最後に、この度のラジオ出演にあたっては、原田直子先生、網谷拓先生をはじめとした、対外広報委員会の皆様に大変お世話になりました。月報の場ではございますが、改めて、御礼申し上げます。
「沈黙の12歳」
会 員 安孫子 健 輔(62期)
「先生、付添人サポート研修のお願いです。12歳の女子。虞犯です。」
「12歳!?」
「私も家裁に何回か聞き返したんです。間違いありません。」
ここ最近、どういうわけか女子のケースばかり配点されてくる。このあいだはシンナー依存の16歳女子、その前は虞犯の16歳女子。そだちの樹で受理したケースや未成年後見のケースも例外なく女子。気がつけば、私のスケジュールには年ごろの女の子の名前ばかり並んでいる。
そして今回も女子。たださすがにローティーンの経験はなかった。この年齢で虞犯立件されるとは、いったいどれほど過酷な環境に身を置いていたのだろう。出動要請の電話から受け取れるわずかな情報でも、受話器をギュッと握らせるのに十分だった。
いざフタを空けてみると、それは想像を遥かに超える困難ケースだった。否、困難かどうかすら量りかねるケースだったと言ったほうが正確かもしれない。彼女は私にも、一緒に担当した徳川泉先生にも、調査官にも、観護教官にも、鑑別技官にも、家裁送致した児童相談所のケースワーカー(CW)にも、まったく口を開こうとしなかった。こちらが問いかけても、首を傾げたり、天井を仰いだり、俯いたまま両手の指を絡ませてみたりと、じっと何かを考えているのか、何も聞こえていないのかすら分からない。
ケースワークのきっかけになる情報が何も引き出せないことに、私たちは焦った。とにかく関係をとらないと始まらない。毎日面会に行こう。話ができなくても、顔を見に行くつもりで通ってみよう。そんな方針しか立てられなかった。記録を読んで保護者とコンタクトを取り、児相CWから話を聴き、鑑別技官にもカンファレンスを申し入れた。皆、悩みは同じだった。そうしているうちに、もう家裁送致から10日が過ぎていた。
しかし、子どものケースに急展開は付きものだ。徳川先生が面会のたびに送ってくれるメモが、ある日突然、すごいボリュームになっていた。彼女が堰を切ったように話を始めた様子が、その中に伝えられていた。
どうして彼女が急に話を始めたのかは今でも分かっていない。ただ、徳川先生だけが彼女から話を引き出せるようになったことは確かだった。それから私たちはようやく、審判に向けて動き始めた。
記録には児相の苦労がにじみ出ていた。児童自立支援施設への同意入所を目指してかかわってきたものの、その頑張りが実を結ぶ見込みはない。だから最後の手段として、家裁に施設送致を認めてもらいたい。詰まるところ、それが児相の見解だった。
しかし、彼女をいま施設に送致していったい何が解決するのか、私にはうまく飲み込めなかった。少年院と違って、児童自立支援施設を出た後は保護観察に付されない。児相CWが丁寧にかかわっていく以外に彼女の要保護性を解消する途がない状況は、今と何も変わらない。ここで彼女の納得を得ないまま施設送致を進めても、児相との関係が悪化して、施設から帰ってきた後のケースワークにも悪い影響を与えかねない。結局、このケースで司法ができることと言えば、「次に何かあったら少年院だよ。」と、懇切で和やかに、しかし絶望的なプレッシャーを伝えることだけではないか。私は、18条1項を使ってケースを児相に戻すべきだと考えた。
審判結果は施設送致。抗告も蹴られた。彼女はいま、送られた施設でどうにか前を向こうと頑張っているが、気力はそう長く続かないようだ。色んなものを溜め込んでは吐き出して、それを受け止めてもらって、そうしたことを繰り返す中で、大人への、そして社会への信頼を獲得していってくれることを願うしかない。鑑別所で徳川先生と一緒に自分と向き合った時間は、その過程できっと大きな糧になる。そう信じて、彼女の成長を見守りたい。
シリーズ―私の一冊― 「海賊とよばれた男」 (百田尚樹著 講談社)
会 員 萬 年 浩 雄(34期)
私は人の生き様や人間力を描いた小説が好きである。百田尚樹著の「海賊とよばれた男」は久方振りにスケールの大きい人物を描いている。
出光興産の創業者である出光佐三をモデルにしたドキュメント小説である。私の知人の姉が出光家に稼しており、私はかねてから、馘首なし、タイムカードなし、定年なしの出光興産の経営の実態はどこからくるのであろうかと思っていたし、創業者出光佐三の人間力には非常に興味をもっていた。
佐三が石油小売会社から出発し、既存の石油元売や官僚からの徹底的な弾圧や国際メジャーとの激しく厳しい闘いに臨み、ついにはイランから石油採掘し、輸入に成功した歴史を読んで、私は、スケールの大きさと創業者オーナーの経営哲学に感服した。そして佐三の創業の資金援助をし、かつ自分の財産を投げ出して今日の出光興産の基礎を築きあげた、日田重太郎というスケールの大きい男の存在に度肝を抜かれた。日田が佐三に惚れたとしても、全財産を投げ打って資金援助する度量の広さはどこからでてくるのか。昔は日田みたいな人が数多くいたとは聞いていたが、ここまでの人間の描写を私は初めて読んだ。佐三は日田の恩義には日田が死ぬまで報いている。この佐三の義理と人情、そして人間力には全く感動した。
私が人間力に興味をもったのは、人間が大成する、あるいは成功するのは、知識ではなく知恵の勝負、そしてその人がどういう哲学をもった人間如何によるかではないかと思ったことによる。その意味で経営者の経営哲学を知るとその人間力の大きさがわかる。
この問題点に気付いたのは、私が弁護士稼業に嫌気がさした時である。
弁護士5年目位に、尊敬する故國武格弁護士の私に対する発問があった。「萬年君、弁護士稼業にもそろそろ飽いてきたろう」と尋ねられ、私は「いやいや弁護士は私の天職ですから飽きることはありません」と回答した。そうすると故國武先生は悲しそうな顔をされて一言も発せられなかった。私はその故國武先生の表情を忘れることができなかった。
弁護士10年目位に、私は弁護士になったのは道を間違えたのではないかと、弁護士稼業がイヤになった。弁護士の仕事は民事、刑事にしろ所詮人間の欲望処理ではないか。苦労して司法試験に合格したものの他人の欲望処理のために仕事をするのかと弁護士稼業に疑問をもったのである。
あの全共闘世代では学生運動に熱中したのは当然であり、私は逮捕歴こそないもののその寸前は何回もあった。逮捕された友人に、警視庁でお前の写真は何十枚もあったぞと言われ、就職することはあきらめた(現に司法研修所の検察教官からは、君は青法協の大幹部だろう、国家権力は公安を使って君の身上経歴は徹底的に調査していると言われた。ただ私は、青法協の会議には100パーセント出席していたが、組織嫌いであったため青法協の会員にはならなかった)。
学生運動に熱中し、大学の授業をほとんど欠席していた私は、卒業後独学で法律を勉強し、昼夜逆転の生活でアパートに閉じ籠もって勉強し、やっと司法試験に合格した。そして社会正義と基本的人権を確保するために弁護士稼業を始めたものの、前述の他人の欲望処理に嫌気がしたのである。ここで5年前の故國武先生の発問の意味が初めて理解できたのである。
そして、弁護士の仕事は形としての成果物が残らないし、この空しさを覚えていた。
私は幼児のころ、毎日隣家の大工さんの作業場に遊びに行き、大工仕事を一日中飽きもせず見ていた。大工仕事は仕事が成果物として残る。やはり仕事は、形として仕事の成果物が必要ではないかと思っていた。
丁度その頃、企業再建の仕事がきた。企業再建に成功すると、依頼者であるオーナー、従業員、取引先、金融機関等関係者全員が喜び、又その企業名を見聞するたびに仕事の成果物を味わうことができる。これは丁度私が幼児の頃、大工仕事に憧れていたのと同じでないかと気付いた。すると私は企業再建の仕事がおもしろくなり、弁護士冥利を味わうことができるようになった。
そうすると企業再建するには何が必要か、それは経営者の経営哲学や人間力如何にかかるのではないかと思い、経済、経営、企業実態、経営者の生き様を描いている本、雑誌、新聞等を乱読するようになった。特に創業者オーナーの創業の経緯や哲学等は興味津々である。そこに共感するのは、独創的発想はするものの、強固な哲学に裏付けられた経営の理念、そして人の生きる道を考えた人生訓である。出光佐三が会社経営を、従業員を家族とみなして大事にする思想が理解できた。この考えであれば労働組合も不要だし、従業員も必死になって働くだろうと思った。会社という組織をいかに機能させるかを本能的に理解し、それを経営ビジョンにして会社運営しているのである。私の知る伸びている企業経営者にはそういう人が多い。
そこで、企業が倒産するのは経営者の人間力の弱さが露呈したに過ぎないのでないかと思った。その場合は旧経営陣は経営責任をとって辞職し、人間力に富んだ経営陣を選出するしかなかろう。その人間力に富んだ経営陣か否かは、人間力に関する幅広い知識と洞察力が問われ、幅広く勉強する必要があるのだ。
私はその意味で日経新聞の「私の履歴書」や経済人のエッセイ、そして日経ビジネスの「敗軍の将、兵を語る」シリーズは勉強の糧となる。企業再建するには金融法務の知識は勿論のこと、会社法、経営論、日本経済、世界経済の知識は前提事実である。そして人間力の根底にある哲学、人間性をも理解する必要がある。そうすると読書の範囲は必然的に幅広くなるし、文学だけではなく、映画の世界を見て人間の性や情を学ぶ必要がある。
私は人間の生き様や死に様に興味をもち、それを究めたいと熱望している。この「海賊とよばれた男」を読んで、私が弁護士稼業に嫌気がさして、弁護士稼業で成果物を見ることができる「企業再建」の仕事に熱中し始めた原点を想起させた本であると思った。
給費制本部便り ~12.4市民集会と福岡県弁護士会の取組みの報告~
会 員 髙 木 士 郎(64期)
1 はじめに
平成25年12月現在、司法修習生に対する経済的支援を含めた法曹養成制度のあり方は、平成25年9月17日の閣議決定により発足した法曹養成制度改革推進会議(および、内閣官房に設置された法曹養成制度改革推進室や顧問会議)において審議・検討されています。この推進会議での検討のなかで、司法修習生に対する充実した経済的支援策が盛り込まれるよう、日弁連及び各単位会では、議員要請や団体署名への協力要請など様々な働きかけを行っているところです。その一環として、12月4日に日比谷図書文化会館コンベンションホール(東京)において『司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める市民集会』を開催いたしましたので、現在実施中の福岡県弁護士会の取組みとあわせてご報告いたします。
2 12.4市民集会
12.4市民集会は、大盛況のうちに終わった10月30日の院内集会の盛り上がりを受けて、さらに広く市民を対象として実施されることとなったものです。ちょうど特定秘密保護法案の参議院での審議が大詰めを迎えており、国会の中も外も騒然とする状況での開催となりましたが、集会には国会議員ご本人の出席もいただくことができ、給費制問題に対する議員の関心はまだ高いことを感じました。特に、登壇してご発言くださった鈴木貴子衆議院議員(北海道)の、修習生や学生からの支援を求める声がこれほど上がっているのに、検討会議などがそれをことさら顧みようとしないのはおかしい、といったお話には会場中から共感の拍手が起きていました。
また、新66期司法修習生に対するアンケートの集計結果の分析も発表されましたが、中でも修習生の修習への意欲が下がってきていることを示すような回答が新65期に対するアンケートと比較しても増えていることが報告されました。経済的要因だけの問題ではないのかもしれませんが、貸与制のもとでの修習が与える影響がじわじわと広がり、修習制度そのものを蝕み始めているかのような薄ら寒い印象を受ける報告でした。
一方で、現在実施している、修習生に対する給費の実現等を求める要請に対する賛同の団体署名への協力要請についての報告は、これまで以上の支援の広がりを感じさせる心強いものでした。特に、医師会や農協など、従前協力をいただけてなかった団体から賛同をいただけることとなったのは、今の法曹養成のあり方、特に修習生に対する経済的支援の問題点が社会でも、危機感を持って認知されてきたことの現れではないかと感じました。
3 国会議員との面談
市民集会の当日には、市丸信敏給費制本部長代行、鐘ヶ江啓司給費制本部委員、髙木の3名で議員会館を訪ね、福岡県選出の国会議員との面談を行いました。これまで地元事務所での面談などをしてきた経緯もあってか、国会が大荒れとなり多忙を極めておられる中であるにもかかわらず、濵地雅一衆議院議員(公明)、宮内秀樹衆議院議員(自民)にはまとまった時間を取っていただき、議員ご本人と直接お話をすることができました。濵地議員は、弁護士のご出身ということもあり問題についても危機感を持っておられ、党の司法改革PTでの検討をさらに進めていきたいと心強いお言葉をいただきました。宮内議員は、先々月地元事務所で面談をした後に、給費制問題を含めた司法制度改革について情報を集められたようで、優秀な人材が法曹を目指さなくなりつつあるということに以前にも増して危機感を覚えておられるようでした。
また、三原朝彦衆議院議員(自民)、武田良太衆議院議員(自民)、遠山清彦衆議院議員(公明)は、政策秘書の方が時間を取ってくださり、しっかりとお話をすることができました。
今回の議員との面談を通じて、司法修習生への経済的支援の問題については以前にも増して国会議員のなかでも理解と共感が広がっているとの印象を受けるとともに、会長を始めとした地元議員への働きかけなどこれまで実施してきた福岡県弁護士会の地道な取組みがしっかりと根付いていることを改めて感じました。
4 団体署名への協力要請
現在、弁護士会では、司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める要請への協力の要請を関係諸団体に対して行っています。コンセプトは、これまで協力をお願いしていなかった団体へも支持の輪を広げていこう、というものです。
福岡県弁護士会ではこれまでに、2010年来の運動の成果の蓄積のおかげで、全国に先駆けて福岡県医師会からの賛同を頂くことができ、また、その勢い駆って、日弁連としても日本医師会から団体署名を頂くことができました。さらには、古賀前会長のご尽力で農協諸団体からも賛同をいただいております。その他にもたくさんの会員の先生方のご協力で多くの賛同の署名を得つつあります。
今後も団体署名への協力要請を続けてまいりますので、更なるご協力のほどよろしくお願いいたします。
5 終わりに
推進会議での修習生に対する経済的支援策についての検討はまさにこれから(平成25年12月17日から)です。自民党の司法制度調査会では、推進室からの修習生に対する経済的支援がこれ以上必要であるとの立法事実はない旨の報告に対し、実態をあまりにも無視するものだとの強い非難が加えられたという話があるように、法務省、最高裁が主導して進める現在の検討状況についての疑問が国会議員の間でも共有されてきているように感じます。特に、自民党の司法制度調査会(法曹養成制度小委員会)では、この3月にも法曹養成制度改革の各重要論点についての提言を出す予定とのことであり、私たちは、ここで今一度、充実した司法修習を行うために必要な、給費制も含めた環境整備のあり方について再検討すべき、との声をしっかりとあげていかなければならないと思います。
会員の皆様、お力添えのほど、どうぞよろしくお願いいたします。
2013年12月 1日
あさかぜだより 番外編~徳之島だより~
鹿児島県弁護士会
会 員 小 池 寧 子(64期)
1 私は、今年の7月まであさかぜ基金法律事務所で養成を受けて、8月1日に開所しました法テラス徳之島法律事務所に赴任しました。現在、赴任してから3か月ちょっと過ぎましたが、私の徳之島での日々をご紹介いたします。
2 徳之島は鹿児島県の奄美群島のうちの一つの島で、奄美大島より更に南に位置し、距離的には沖縄本島の方が九州本土より近いです。なので、急病人等が出ると、ヘリコプターで沖縄に運ばれます。
徳之島の人口は2万5000人ほどであり、裁判所は簡易裁判所と家庭裁判所の出張所があります。ただ、簡裁の判事は、1か月に1回3日間来られるだけですし、家裁にいたっては、2か月に1回(こちらも3日間)しか期日は開かれません。どんなに急いでいても2か月に1回です。その代わり1回の調停は長く、ほぼ1日がかりです。
当然、地裁事件は、徳之島で処理することはできないので、おとなりの奄美大島にある鹿児島地方裁判所名瀬支部に行くことになります。ちなみに、名瀬に行く場合は、飛行機かフェリーで行きますが、飛行機であれば30分ほど、フェリーだと3時間かかります。
3 法テラス徳之島法律事務所は、東シナ海を望む高台にあり、事務所からキラキラと輝く海を見ることができて景色はとても綺麗です。そこで、弁護士1名、事務員2名という体制で執務にあたっています。
事務所は新規開設のため、私が初代の弁護士ということになり、現在受任している事件は、12、3件ほどでありさほど多くはありませんが、相談は結構あります。この3か月でおよそ100件の相談を受けました。相談内容として、多いのは離婚に関することかなあと思いますが、特徴的なのは土地に関する相談がとても多いということです。相続に関すること境界に関すること等様々な相談がありますが、お墓の境界線に関する相談等お墓に関する相談も結構あるので、最初に相談を受けたときには頭が真っ白になりました。今では、少しお墓に関しても詳しくなったと思います。
また、徳之島は、保徳戦争に代表するように政争が激しい地域でもあるのですが(現在は落ち着いています。)、相談にそういった政治がらみの話をされる方がとても多いです。争いになっている相手方が、「応援している政治家や政党が違うから、あいつはこんな嫌がらせをするんだ」といった具合にです。他にも、役所や農協の不正を訴える相談も多くあります。さらには、調停委員が依頼者になったり、初めての管財事件の主な任務が闘牛用の牛を売却することだったり・・・と島ならではのことが多く、その度に右往左往している毎日です。
4 このように、どうしたら良いかわからないということも多々あります。そんなときには、あさかぜにいるときに指導担当としてお世話になった先生などに電話してアドバイスを求めますが、どの先生も優しく丁寧に教えて下さり、あさかぜ出身で良かったなあと思います。島の事件は特殊なものが多く、あさかぜで関わっていた事件がそのまま参考になるということはほとんどありません。しかし、指導担当の先生と事件をご一緒させて頂くなかで、分からないことはいつでも聞いていいんだなというふうに思えている、そういう環境を作って赴任できたということが、今一番の支えになっています。
今、あさかぜや法テラスは弁護士ゼロワン地域が解消されたことなどから、その存在意義が問われることになっています。しかし、奄美大島には弁護士事務所が複数あることから、支部管内というくくりではゼロワン地域が解消されたということになっていましたが、徳之島には、私が赴任するまで弁護士はいませんでした。ですから、相談にいらっしゃった方からは、奄美では遠すぎて行けなかった、徳之島に法律事務所ができて本当に嬉しいという声をたくさん聞きます。そういう声を聞くと、まだまだ弁護士過疎が解消できたといえない地域が他にもあるのではないだろうかと思います。また、こういった地域に私のような経験の浅い弁護士が赴任する場合には、やはり、遠慮無く相談できる環境というのは必須だと思いますが、あさかぜ出身ということでその点もカバーできているというのは本当にありがたいことだと思っています。
徳之島では、目の前の事件を一つ一つ丁寧に誠実に対応していくことで、島の人たちの役に立ちたいという思いで毎日仕事をしています。これからもその気持を忘れることなく、福岡での日々に感謝しつつ、3年間頑張っていきたいと思います。
徳之島は、何にもないところですが、海はほんとうに綺麗で黒糖焼酎が美味しいです。ダイビング、釣り、焼酎が好きな方はぜひ遊びに来てください!
「RKBラジオまつり」のご報告
会 員 中 村 亮 介(63期)
1 平成25年10月19、20日の2日間にわたり、福岡市早良区百道浜の福岡タワー前にて「RKBラジオまつり」が開催され、福岡県弁護士会が出展しましたので、ご報告致します。
2 10月19日(1日目)
今年のRKBラジオまつりは天候にも大変恵まれ、昨年を上回る延べ8万人の来場者が訪れたようです。福岡県弁護士会では、RKB放送会館1階ロビーに無料法律相談ブースを設置し、原田直子先生、北古賀康博先生、上田英友先生が中心となり、対外広報委員会と法律相談センター運営委員会の会員が、ブース前でティッシュやパンフレットを配り、無料法律相談の呼び込みを行いました。
実は、福岡県弁護士会がRKBラジオまつりに出展するのは今回が初めてでした。そのため、設営も手探りで行わざるをえませんでした。無料法律相談のブースも、ブース前に大きな衝立が一枚置かれているだけ。完全なプライバシーは確保できていませんでした。そもそもRKBラジオまつりは、歌やダンスなど催しもので盛り上がる「まつり」です。法律相談ブースの前に立ち呼び込みをしている私たちの目の前を、フラダンスの衣装を身にまとったグループが往来していました。来場した市民の方々が楽しいイベントの脇で行われる「無料法律相談」に反応するのか確たる見通しも立っていませんでした。「無料法律相談」はこのような環境で始まりました。
しかし、始めてみると予想以上に相談者が訪れました。相続のことで兄弟と揉めている、離婚しようか悩んでいる、旅行中に病気をしたけど保険金がもらえない...。いつの間にか、ブースの端に準備した椅子に、相談待ちの方が座るようになっていました。
「これは意外にいける!」。さっそく1日目で手応えを感じることができました。
3 10月20日(2日目)
2日目も、同じく朝10時から法律相談の呼び込みを行いました。また、朝10時半からはラジオ生放送で無料法律相談の実施を30秒間でアピールする機会もありました。お昼すぎには、春山九州男先生がおまんじゅうの差し入れを持って激励に来てくださりました。
12時30分過ぎからは、春田久美子先生、三山直之先生と私の3名で会場特設ステージに上がり、会場の方々に福岡県弁護士会の活動を直接アピールしてきました。ステージ上で話すことは原稿で準備されていたのですが、MCの方が漫才師だったこともあり、原稿どおりに話は進まずほぼアドリブ対応となりましたが、お客さんも笑ってくれていたとのことでしたので、少しだけ、「怖い、冷たい、敷居が高い」から「明るく、優しく、爽やか」へと弁護士に対するイメージが変わったのではないでしょうか。
2日目も、多くの方が法律相談に訪れました。
4 結果と課題
この2日間の法律相談者数は、1日目と2日目ともに25名、合計50名でした。もっとも、この数字はブース前での立ち話で終わった相談者を外した数ですので、立ち話での法律相談を含めると60名は超えているのではないでしょうか。結果、1時間あたり約5名の相談者が訪れたことになります。
こうも結果が出てしまうと、来年も引き続き出展することになりそうですが、来年の課題としては、さらに来訪者を増やすために、(1)ポケットティッシュは2000個以上準備する(ポケットティッシュがなければお客さんとの接触が難しく、相談者数も増えない。)、(2)法律相談場所の仕切り板を増やしてよりプライバシーを確保する(他方で、他の人が相談しているのが見える方が、かえって安心して相談しやすいという意見もありました。)、(3)法律相談の予約が入った場合には、ブースの外側に「ただ今○分待ち」の張り紙を貼るなどして相談枠が埋まっていることをアピールし、焦らせる(笑)、といった改善点が見えてきました。
5 最後に
2日間とも10時から16時過ぎまで、ほとんど休憩時間もなく呼び込みと法律相談に大忙しで、初めての試みにしては大盛況でした。会場では、福岡県弁護士会の存在を十分にアピールすることができましたし、多くの市民の方々が、コンビニに立ち寄るような気軽な気持ちで、ちょっとした法律相談に訪れる場を提供できたことで公益的役割も果たすことができたのではないかと思います。
最後になりましたが、原田先生、上田先生、北古賀先生をはじめ、参加された先生方、本当にお疲れさまでした。また、電通九州の樋口一様とRKB毎日放送の鳥井佳奈様には、準備から出展当日まで、大変なご協力をいただきました。お二人は当日の呼び込みまで手伝ってくださいました。この場をお借りして御礼申し上げます。
来年のRKBラジオまつりも、ぜひ盛り上げていきましょう!