福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
大連訪問報告 ~大連に法律相談センターはなかった
副会長 古 賀 克 重(47期)
7月25日から28日まで大連律士協会(弁護士会)を訪問しましたので、ご報告致します。
1 大連律師協会との交流とは
大連との交流は、1992年、日中法律家協会のメンバーを主体とした福岡県弁護士会訪中団が大連を訪問したのが始まりです。その後も交流を続け、2010年2月、大連から18名を迎え、正式に当会と大連律師協会が交流提携の調印を行うに至りました。それ以来、当会と大連律師会が交互に往訪して国際交流を継続しています。
ちなみに大連律師協会の会員数は2633人、うち女性会員は1077名(42.6%)に達しており、日本よりも女性進出が進んでいるようです。一方において、大連には法律相談センターはなく、弁護士会が会員に事件を提供したり、新人弁護士をトレーニングするという発想はないようでした。
2 初日の卓話会
国際委員会及び新旧執行部から構成される訪問団20名は、7月25日に大連に到着し、そのまま宿泊先のホテルに向かいます。車窓を流れる大連の風景は、近代的なビル群と昔ながらの老朽化した建物が混在する大都市といった趣きでしょうか。
ホテル到着後は、福岡銀行大連支店及び北九州貿易協会大連事務所からもご参加頂き、夕食会兼卓話会が開催され、大連進出企業の動向等をお聞きしました。
3 日系企業・裁判所訪問
翌日は、大連ソフトバンクを訪問し、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の現場を見学したり、大連市中級人民法院を表敬訪問しました。日本統治時代の旧「関東地方法院」である裁判所1階のホールには、裁判官直筆による達筆の書や写真が飾られており、日本の裁判所よりも開放的な雰囲気です。
残念ながら裁判自体は傍聴できませんでしたが、裁判官との質疑応答が行われました。訪問団から「日本の裁判所では夜遅くまで窓の明かりが消えないが、こちらはどうですか」と質問すると、「中国も全く同じです」と笑顔が返ってきました。
4 大連律師会との法律セミナー
その後、法律セミナーが開催されました。
まず、山口銀行のU氏が、「日系企業が中国で遭遇する様々な問題」と題する講演を行いました。
U氏は、「当局の権限が大きく、担当者を知っているかでかなり違う」、「不渡が出ても当局への罰金のみで取引停止にならない」、「譲ったら負けという意識が強い」、「自社仕入企業を立ち上げ利ザヤを抜くことがある」と率直な感想を述べた上、「郷に入れば郷に従えで理解し合うことが大事。法制度も急速に整備されつつある」と締めくくりました。
また、当会の中村亮介会員が、上海留学経験を生かした流暢な中国語で「従業員の競業禁止」と題する発表も行いました。
セミナー終了後は盛大な懇親会が設けられました。私は、中国語の堪能な国際委員会の先生方に助けられ、大連律士協会の皆さんと懇談を深めることができました。
5 さらに続く国際交流
初めて足を踏み入れた中国本土は、日本との様々な違いを肌感覚で感じる機会になりました。例えば、車が行き交う3~4車線の幹線道路を、老若男女問わず、時間帯を問わず、車線と車線の間に立ち止まりつつ平気で横断していく生命力(?)には何とも驚かされました。
そして何よりも毎年の交流が、着実に実を結んでいることを実感しました。
来年度は大連律士協会から福岡に来られる予定です。興味を覚えた方はぜひ大連律士協会との国際交流を直にご体験下さい。
憲法委員会市民講座 「自衛隊が国防軍に変わるとき」に参加してみて
会 員 西 村 遼(65期)
1 憲法委員会では、日々生起している社会事象について、福岡県民に憲法的視点からの素材を提供し、共に議論していただきたいと考え、市民講座を開催し、問題提起や提言を行ってきました。そして、今年は、安倍政権のもと集団的自衛権行使が認容の方向へシフトしつつある現状を踏まえ、9月6日に、「自衛隊が国防軍に変わるとき」と題し、東京新聞編集委員の半田滋さんをお招きして、市民講座を開催いたしましたので、当日の様子をご報告いたします。
2 まず、半田さんのプロフィールをご紹介しますと、半田さんは、1991年に中日新聞入社後、92年から防衛庁の取材を担当され、現在は、東京新聞論説兼編集委員です。2007年には、「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞され、その問題意識の深さが反響を呼び、現在日本各地で講演依頼が殺到しているそうです。
3 当日は、120名収容の会場がほぼ満席になるくらいの聴講者の方々がお集まりのなか、半田さんの講演が始まりました。
冒頭、半田さんは、スライド写真を利用して、本来、自国防衛が役目であるはずの自衛隊の活動について、海外活動が増えてきている現状を説明されました。スライドには、ソマリア沖で海賊船対策を行っている自衛隊の様子、インド洋で米艦船やパキスタン海軍に無料で燃料供給をしている自衛隊の給油艦の様子、及びP3C対潜哨戒機が、オーストラリアを飛んで訓練している様子など、自衛隊が米国や他の同盟国と軍事一体化が進んでいる事実が映し出されていました。
4 続けて、半田さんは、自衛隊の海外派遣がもたらした影響について説明されました。イラクへ派遣された自衛隊員の自殺率が一般の公務員の5~10倍であること、PKO法における武器使用基準が事実上緩和されたこと、座間基地に中央即応集団が配置されたことなどをご説明されました。また、これまでの自衛隊のPKO活動は、憲法9条の制約のもと、武力行使から距離をおいて、派遣先の人々に喜ばれるような救援活動が中心であった(日本モデルPKOとして、海外からも高い評価を受けていたそうです。)が、憲法9条が改正されて集団的自衛権の行使が容認されてしまうと、自衛隊はアメリカ軍の武力行使を後方から支援することとなり、海外から高く評価されてきたこれまでの活動とは一変してしまうおそれがあるとの指摘もありました。最近、自衛官を志す若者の中には、自衛隊の海外支援や災害救助の活躍に憧れをもって入隊してくる者も少なくないそうですが、自民党の改憲はこのような若者の夢や希望までをも奪ってしまいかねないと感じました。
5 加えて、安倍政権が法律を改正することで、憲法解釈を変え、実質的に憲法改正を行おうとしている筋道についても、国家安全保障基本法案や秘密保全法の話を交えながらご説明いただきました。
講演終了後には、聴講者から10以上の質問が寄せられ、今回の講演のテーマに対する市民の関心の高さがうかがわれました。
6 半田さんは、終始、軽快な語り口で、話の内容も非常に興味深くかつ鋭い問題意識を提起してくださいましたので、講演のときにはよく居眠りをしてしまう私も、半田さんの話に聞き入っていました。
今回、半田さんのお話をお聞きして、日本国憲法の中核である第9条の解釈が今まさに変えられようとしている事の重大さをきちんと認識し、一国民としてこの問題にきちんと向き合わなければならないと感じました。
7 講演会後は、会場近くの「博多窯山」という居酒屋で、半田さんも交えて懇親会を行い、会場では聞くことができなかったお話を、ざっくばらんな語り口で、聞くこともできました。
「労働の規制緩和が日本を壊す!?」 シンポジウムのご報告
会 員 國 府 朋 江(65期)
平成25年8月30日(金)に、「労働の規制緩和が日本を壊す!?」というシンポジウムが行われましたので、ご報告いたします。
1 基調講演
まず、早稲田大学の遠藤美奈教授(専攻は憲法)から憲法25条と労働の規制緩和というタイトルの基調講演がありました。
憲法25条は、社会保障諸給付の水準・内容、所得税の課税最低限等を画する権利としての規律であるとともに、26条以下の社会権規定の総則です。したがって、憲法の労働権規定を通じて、「健康で文化的な最低限度の生活」が労働生活においても実現されなければなりません。
生存権は、「健康で文化的な最低限度の生活」を確保することを規定しているにも関わらず、貧困率の高さや生活意識別世帯割合において「大変苦しい」「苦しい」と答えた人が合計6割に上る現代においては、逆に「生存」に足りる程度にまで、生活が切り詰められているという課題があります。
非正規社員や派遣労働が増加している中で、今後は、労働者の生命・健康のより手厚い保護、意に反する非正規就労の極小化を目指し、学者と弁護士が協同することにより、政策への憲法的価値の反映と訴訟の可能性の検討を行う必要がある、として基調講演は締めくくられました。
2 パネルディスカッション
パネルディスカッションは、遠藤先生、九州大学の笠木映里准教授(専攻は社会保障法)、自治労福岡県本部の黒岩正治さんをパネラー、井下顕弁護士をコーディネーターとして行われました。
笠木先生からは、90年代半ばからの規制改革によって、非正規労働者が増加し、ワーキングプアの問題や、労働者の二極化の問題が生じてきたが、日本では、職場の人間関係・コミュニケーション構築が容易でないことから、メンタルの問題や、セクハラ・パワハラ問題が顕在化してきたこと、日本の雇用制度がこれまで社会保障制度の不十分さを補ってきたが、非正規労働者の増加に伴い、問題が露呈したといった影響が生じたという点が指摘されました。更に、比較法的な観点から、フランスでは、職場の人間関係については、安全衛生委員会という職場の中にある機関が大きな権限を持っており、従業員代表として問題のある職場環境については使用者に対して権限を行使していることや、EUでは「フレキシキュリティ政策」という政策が実行されており、規制緩和によって柔軟な労働市場が実現されているけれど、手厚い失業補償と積極的労働市場政策(教育訓練等)により、労働者が労働市場に戻ることが容易になっている、ということが報告されました。
黒岩さんからは、公務員バッシングがあるが、現場の公務員は、自治体による予算の使い道について知らされないままに、公務員の給料だけが取り出されてバッシングされているように思う、生活保護担当の職員は、行政の側の人間として、対応を厳しくしなければならないが、目の前にいるのは市民であるという板挟みから、メンタルな問題で休職・入院する人が5%程度いること、貧困層を減少させ、地域経済を活性化させるためにも、公契約条例の制定が必要とされていること、といった、現場の実情が報告されました。
3 まとめ
このシンポジウムでは、労働環境の現状、生活保護制度の現状を確認した上で、今後、憲法25条が労働生活においても具体化された社会を築くために、何ができるのかということが、憲法の理念、諸外国の制度、公務員の視点から、多角的に検討され、とても内容の凝縮されたもので、とても勉強になりました。講師・パネリストの先生方、ありがとうございました。
シンポジウム「福祉における弁護士とケアマネジャーの連携体制の構築に向けて」報告
会 員 市 丸 健太郎(63期)
1 はじめに
去る平成25年8月10日(土)にパピヨン24ガスホールにて、シンポジウム「福祉における弁護士とケアマネジャーの連携体制の構築に向けて」を開催しました。
本シンポジウムは、その名前のとおり、弁護士とケアマネジャー(以下「ケアマネ」と呼びます。ちなみに、正式名称は「介護支援専門員」です)の連携を模索するもので、おそらく全国初の取り組みになるということでした。
本シンポジウムには、総勢363名(ケアマネ281名、弁護士52名、その他30名)もの参加者があり、休日だったにもかかわらず、写真のとおりほぼ満席の状態でした。
自分は田代知愛先生と一緒に総合司会を務めさせて頂きましたが、人の多さに最初はだいぶ緊張してしまいました。参加された方にはお聞き苦しいところがあったところをここでお詫び申し上げます。
2 内容
当日は、午前にプレ合同研修、午後にシンポジウムを行う二部構成をとりました。
プレ合同研修では、長野ケアマネから弁護士に向けて「ケアプランの作成方法」について、篠木先生からケアマネに向けて「1時間でマスターする成年後見制度」について、それぞれ研修を行って頂きました。短い枠での研修でしたが、小気味のいいテンポで要所を押さえた説明をして頂き、受講者の評判も大変よかったです。
シンポジウムでは、両業種の組織、業務内容について簡単に紹介をした後、パネルディスカッションを行いました。司会は篠木先生、パネリストは岩城和代先生、和智大助先生及び福岡県介護支援専門員協会の中心メンバーである3名のケアマネという強力な布陣で、「ケアマネなどの専門職を支援し連携する際の視点」、「ケアマネが遭遇する諸問題と弁護士による支援の可能性と課題」、「成年後見分野での連携の可能性」、「今後の両業種の連携と課題」など、実に8つのテーマについて検討を行いました。
とにかく活発な議論をしようということで、パネリスト、司会、総合司会で事前に何度も打合せを行ったのですが、その甲斐もあり、とても活発で、かつ、会場のみなさんにお互いにもっと連携を深めていこうという思いを抱いてもらえる内容になったと思います。
3 印象的だったこと
パネルディスカッションの中で特に印象的だったのは、弁護士は困っている法律問題を解決することだけに目線が行きがちというケアマネからの指摘でした。ケアマネは利用者を継続的に全人的に支援するように常に心掛けているということであり、福祉の分野に携わる際には、弁護士もそのような視点を持つことが大切であると感じました。
また、ケアマネとしては、法的支援を要請したことで本人と家族、又は家族とケアマネの関係が壊れてしまうことにつき、強い危惧があるということでした。具体的には、本人が遺言書の作成を望んでいる場合が分かり易いのですが、遺言書を作成することによって不利益を被る家族が憤慨して、本人への支援が中断されてしまうことや、余計なことをしたとしてケアマネ自身が攻撃の対象になるリスクがあるので、法的支援を要請することを躊躇してしまうことがあるということでした。この点、弁護士からは、本人の権利擁護という視点から、そのようなリスクがあっても介入しなければいけないときもあるのではないかという指摘がありましたが、その一方、弁護士としても、ケアマネがそのような懸念を持っていることについて十分配慮しながら支援をしていく必要があることを感じました。
4 今後の連携に向けて
本当に多くのケアマネに参加して頂いたことからも分かるとおり、ケアマネはその業務を行う中で、法的問題を抱えて悩んでいる利用者をたくさん知っており、法的問題に強い関心を持っています。そして、法的ニーズを把握しているケアマネと連携すれば、法的支援が必要な方に適切な支援をできる可能性があります。
しかしながら、ケアマネを含む福祉職の方には「弁護士は敷居が高い」(費用が高い、顔が見えない、相談場所で待っているだけで利用者のところまできてくれない等)というイメージを持っている方が多く、なかなか連携が進んでいないのが実情です。
本シンポジウムではアンケートをとりましたが、「弁護士を身近に感じることができた」、「弁護士ともっと連携を深めていきたい」、「利用者が抱えている問題について弁護士に相談してみようと思った」という声をたくさん頂きました。その意味でも、本シンポジウムは大成功に終わったと言えます。
本シンポジウムのパネルディスカッションでは、今後の連携策として、「相談窓口を作る」、「勉強会を行う」、「メーリングリストを作成する」、「懇親会を開催する」など様々な連携案を具体的に検討しました。既にいくつかの試みについては具体的に動き始めているところですが、今後も、一担当者として、積極的にケアマネとの連携を進めていきたいと思います。
2013年9月 1日
発達障害という個性~マジックワード化に注意
会 員 三 浦 徳 子(61期)
1 蔓延する「発達障害」
最近よく使われる言葉だ。
一方で、私は、自分も含め、何かにつけて「発達障害」を持ち出す風潮に対し、何となく「本当にそれでよいのか?」という違和感を覚えていた。
2 「発達障害」とは何か~原田剛志医師の講義
私は、ひょんなことから、違和感の理由を知ることとなった。
平成25年7月18日に行われた「福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会(医師と子どもの権利委員会有志らとの勉強会)」においてである。
今回は、パークサイドこどものこころクリニック院長・精神科医の原田剛志医師より、「少年事例における発達障害の視点」と題して、発達障害に関する最新の知見や具体例等をご講義いただいた。以下、概要を紹介する。
【定義】 発達障害とは、脳機能の障害であって、発達における凸凹が生活上の障害に至ったものである(育て方の問題ではない)。
【下位分類】 自閉症スペクトラム(障害)、ADHD(多動性障害)、LD(学習障害)等があり、合併症もある。なお、アメリカ精神医学会の最新診断ガイドライン「DSM‐Ⅴ」では、従来の広汎性発達障害は「自閉症スペクトラム(障害)」という名称に変更され、「アスペルガー症候群」に代表される下位分類は廃止された。
【原因】 ADHDの原因は脳の前頭前野のホルモン不足と考えられている。自閉症スペクトラムでは、脳機能の広汎にわたって発育に凸凹が見られる。いずれも根本原因は解明されていない。虐待(環境)により脳の発育に影響があり発達障害を引き起こす場合もあるといわれる。
【対処法】 薬物療法と心理社会的トレーニングが有効とされている。療育の臨界点は中学生までであり、中学生以降はソーシャルワークによる対応が中心となる。
3 「発達障害」とは個性である
その後、原田医師は発達障害を持つ少年の具体例を紹介された。
些細なことにこだわり、正論を曲げない少年。自分をいじめた相手は死んでも構わないと信じている少年。罪悪感がなく反省しない少年・・・。
たしかに度を超えた面はあるだろうが、個人的には「変わった人」の範疇だと思った。事柄によっては、私自身も少年たちに近いものを持っているのではないかとも思われた。
と同時に、発達の凸凹であることの帰結として、優れた才能を持った人にも発達障害が多いとのこと。エジソンやアインシュタインが自閉症だった話は有名だし、トム・クルーズはLDで文字が読めない等々・・・。
そう考えると、発達障害とは「障害」なのか?
最後に、原田医師がこう言われた。
発達障害とは「個性」なのだと。発達障害という言葉を使う主な意義は、「生きづらい人を受け止め、適切な指導法を選択する周りの者にとっての便利さ」にあると。
4 「発達障害」のマジックワード化に注意
原田医師の最後の言葉を聞いて、発達障害を多用することに対する違和感の理由がわかった。「(私だけかもしれないが)発達障害というラベリングをすることにより、あたかも全ての謎が解けたかのように満足しがちだが、実は違う」からであった。
発達障害が個性であるとすれば、論理的には、その「症状」も対処法も発達障害者と言われる人の数だけ存在するはず。
自閉症やADHD等の大まかなラベリングができたとしても、その人の全てを把握できるわけでも、特効薬が見つかるわけでもないのだ。
その意味で、「発達障害」や下位分類というラベルは、皆が気持ちよく過ごすための便利な道具である反面、人の具体的な個性を見落とさせるマジックワードにもなりうる。
発達障害が多様な個性を意味することを頭において、この問題を学んでいかなければならないと感じた。
司法修習生の給費制を取り巻く現状について
司法修習費用給費制復活緊急対策本部 副本部長
千 綿 俊一郎(53期)
1 はじめに
2011年に司法修習生の給費制が貸与制に移行して以降、まもなく2年が経過しようとしています。2011年に採用された第65期(2012年修習修了)と、2012年に採用された第66期(現在修習中)の修習生が、無給での修習を余儀なくされています。
しかるに、弁護士会員の大半には、「司法修習生の給費制問題は既に終わった問題である。」と受け止めていらっしゃる方も少なくないようです。
特に、2011年5月に設置された「法曹の養成に関するフォーラム」と、その後の2012年8月に設置された「法曹養成制度検討会議」において、いずれも「貸与制を原則とする。」と取りまとめられたために、「日弁連は敗北した。」との雰囲気も一部に漂っているかのようです。そのような雰囲気の中、弁護士会における給費制復活運動は、かつてほどの熱気を維持することが困難となっています。
しかしながら、司法制度を担う法曹の養成は国の責務であり、司法修習生の給費制復活は、法曹養成制度として本来あるべきものと言えます。また、1年間もの研修期間中に、給与を支払わない会社があれば、それは違法なブラック企業であり、国が司法修習生に対してこれを強いるのは明らかに誤っています。
そのため、「貸与制は誤っている」という声は挙げ続けなければならないと考えています。
もちろん、「司法制度改革の失敗」は「失敗」として受け止めて、貸与制以外の諸課題も改善されなければならないことは当然のことです。ただ、諸課題が改善されないまま遺っているからと言って、同じく問題を遺している貸与制が是認されて良いことにはなりません。また、なにより、給費制の復活に向けてはなおチャンスが残されている目下の状況にあることも後述致すとおりです。
本稿では、引き続き給費制復活への運動を継続することに対して、会員各位のご理解を得て、再び関心を持っていただきたく、給費制を取り巻く最近の状況について、ご報告したいと思います。
2 2013年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定「法曹養成制度の改革の推進について」
法曹養成制度関係閣僚会議は、2013年6月26日付の「法曹養成制度検討会議」の取り纏めを受けて、同年7月16日「法曹養成制度の改革の推進について」を決定しました。
そこでは、第67期司法修習生(2013年11月修習開始)から、(1)分野別実務修習開始に当たり現居住地から実務修習地への転居を要する者について、旅費法に準じて移転料を支給すること、(2)集合修習期間中、司法研修所内の寮への入寮を希望する者のうち、通所圏内に住居を有しない者については、入寮できるようにすることが求められました。
他方で、(3)司法修習生の兼業の許可について、法の定める修習専念義務を前提に(中略)、司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和する。具体的には、司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めるという提案をなしています。これは、「生活ができないなら、ほかに働けばよい」という提案ですが、修習期間が1年と短縮されているにもかかわらず、その専念義務を緩和するのは、かえって有害でさえあると言えます。
この点、2012年7月27日に可決した「裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携に関する法律の一部を改正する法律」において、修習資金の貸与制について、「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置づけを踏まえつつ、検討が行われるべき」と明記され(同法第1条)、この改正に際しての国会質疑では、将来の給費制復活も排除されていない旨の答弁がなされていました。
また、この法改正を受けて設置された「法曹養成制度検討会議」では、新たなメンバーからの給費制復活を求める声や、従来からの委員からさえも貸与制の問題状況を踏まえて少なくとも一定額の手当の支給などを求める声も多く挙がっていました。
そのため、個人的には、一足飛びに給費制復活とはならなくとも、その足がかりくらいにはなる手立てがなされるのではないかという期待は有していました。
しかしながら、現実には、上記の(1)、(2)の改正に止まるものであり、そのあまりに「しょぼい」内容に驚きを隠せませんでした。かえって、有害な(3)のような内容まで提案されているのです。
「どうしてかかる結果になってしまったのか」については、様々な分析があるところです。例えば、「法曹養成検討会議」に寄せられたパブリックコメントは3119通あったところ、そのうち法曹養成課程における経済的支援に関する意見は2421通にも上り、そのほとんどが給費制を復活させるべきという内容であったとのことですが、これらは何ら反映されませんでした。
ただ、検討会議の議論状況からは、この取りまとめは、法改正を要せずに直ちに実施できる最低限の措置であったところです。貸与制の問題状況を改善すべく、検討会議に続く次の検討体制において、修習生に対する経済的支援策を引き続き検討してもらうことを求める旨が共通認識となっています。この点は今後に希望をつなぐ足がかりと言えます。
3 2013年6月18日自民党司法制度調査会「法曹養成制度についての中間提言」
そして、2013年6月18日の自民党の司法制度調査会による「法曹養成制度についての中間提言」では、司法修習生の給費制について、その復活を求める声も多かったことが触れられています。
具体的には、「司法試験合格者数の動向や生活実態も踏まえつつ、司法修習の位置づけや司法修習生の地位のあり方を再検討し(ただし、給費制については復活すべきという意見と、これまでの経緯からあり得ないという両論があった旨両論付記する)、修習生の過度な負担の軽減や経済的支援の必要性について、真剣かつ早急に検討し、対策を講じるべきである」とされています。
4 2013年6月11日公明党法曹養成に関するPT「法曹養成に関する提言」
また、2013年6月11日の公明党の法曹養成に関するプロジェクトチームによる「法曹養成に関する提言」でも、踏み込んだ指摘がなされています。
すなわち、「司法試験に合格した法曹有資格者に対し、国家が特別の義務として課する実務研修である司法修習においては、少なくとも研修医に準じてその経済的支援を行うべきである。」「実務庁の近くに住居を移すことに伴う引越代や、修習中に生じる通勤・交通費等の実費的支出の補填がなされるべきである。また、司法研修所の集合修習において、寮に入れない人が生じている事態の解消も図られるべきである。」「国家公務員、地方公務員に対し認められている旅費法上の『研修日額旅費』を参考に支給することを検討すべきである。」などとされています。
5 今後について
今後は、上記の2013年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定「法曹養成制度の改革の推進について」を受けて、内閣に関係閣僚で構成する会議体(閣僚会議)を設置し、その下に事務局を置いて、各施策の実施をフォローアップするとともに、2年以内をめどに課題の検討を行うとされています。残る課題についての検討作業は、ほどなく開始される予定です。
給費制問題は、公式には決着済みの論点であり、法曹人口論、法曹資格者の活動領域、法科大学院のあり方、司法試験のあり方、司法修習の充実などをメインに議論される予定ですので、そこにおいて、日弁連が給費制復活を主張し続けることの賛否、様々な勢力がいる中でのかじ取りの難しさはあろうかと思います。
しかしながら、救いは、上記3、4のとおり、給費制復活を熱烈に支持して頂ける国会議員が少なからず存在することであり、それは、「司法制度を担う法曹の養成は国の責務である」という認識を持っていただいているからこそと言えます。また、上記2の通り、法曹養成制度検討会議も、次の検討体制において更なる経済的支援策の検討を求めつつ閉幕したことも忘れられてはなりません。
そのような中、この問題について、我々弁護士自身が関心を失くして、その燈火を消してしまうことがあってはなりません。
上記のとおり、その中間提言で給費制について両論併記とした自民党の司法制度調査会では、近く議論を再開したうえで最終提言を取りまとめるものと見込まれます。政権与党の自民党や公明党の意向は重大です。当会の対策本部や日弁連の対策本部においては、この数ヶ月間をとりわけ重要な時期と認識し、国会議員要請や世論喚起に注力する決意です。
どうか、会員の皆様の一層のご理解、ご協力を頂きますようお願い申し上げる次第です。
2013年8月 1日
災害対策委員会報告
会 員 吉 野 大 輔(64期)
1 はじめに
平成25年6月17日に、日本弁護士会連合会、四国弁護士会連合会、高知弁護士会主催によるシンポジウムが、高知市で開催されました。シンポジウムのタイトルは、「災害時における個人情報の適切な取り扱い~高齢者・障がい者等の安否確認、支援、情報伝達のために~」というものです。
現在、災害対策委員会・東日本大震災対策本部の委員を中心に、東日本大震災・原発事故による被災者支援活動として、東日本大震災被災者のための無料相談会を定期的に行っています。多くの被災者及び自主避難者が、福岡県内にも避難しています。私たちは、福岡県への避難者に向けて無料相談会が開催されることについて自治体への広報や記者レク等を活用して広報を行ってきました。しかしながら、多くの避難者へ広報が届いているのか、確認できないまま広報の方法を模索している状況です。被災者を支援する上で、支援者側が避難者へのアクセスをする上で障害となっているのが、個人情報保護法です。支援者側の立場からは支援を望む被災者へのアクセスを要望しても、行政側の立場からは、個人情報保護の観点から被災者の個人情報の開示に消極的になるという問題があります。東日本大震災から2年以上経過しましたが、東京電力への損害賠償請求の消滅時効問題、不動産等の賠償問題、慰謝料の算定の問題など様々な問題が新たな問題として浮上してきています。新しく発生する法的問題について、被災者への広報を続けていくことが必要です。そこで、被災者へのアクセスの現状を考えるために、シンポジウムに参加して来ました。
2 基調報告について
東日本大震災における高齢者・障がい者や避難者の個人情報取り扱いの実情について、基調報告がありました。まず、避難者をサポートするNPO法人の代表者より支援者側からの話がありました。震災の際に大きな被害を受けた人達は、サポートなくして避難することが困難な高齢者や障がい者でした。支援者側としては、高齢者や障がい者等を支援するためには、住所や病状等の個人情報が必要でしたが、個人情報保護法が壁になって、スムーズな支援ができなかったようです。次に、行政側の立場から報告がありました。行政側の立場から被災者支援のために個人情報を開示するためには、目的外利用については原則として本人の同意が必要という問題がありました。行政側に震災が起きたときに個人情報を開示する準備ができていなかったことが大きな原因だったようです。
支援者側も行政側も、被災者を支援する目的を同じくしていたにもかかわらず、個人情報の開示制度の不備のためにスムーズな被災者支援ができず、特に支援が必要だった高齢者や障がい者に支援が行き届かず不幸な結果が生じたことが理解できました。
3 平成25年災害対策基本法について
東日本大震災の個人情報の取り扱いについての教訓を踏まえて、災害対策基本法一部改正法が平成25年6月17日に成立しました。かかる改正で、震災における個人情報の取り扱いの交通整理が行われました。この改正では、地方自治体に、震災が起きたときのために、事前に個人情報を開示するルール等を準備することが求められるようになりました。
4 最後に
私たち支援者側としては、スムーズかつ安心して個人情報を開示してもらうためには、個人情報の管理体制を築き被災者や行政側との信頼関係を築くことが必要です。このシンポジウムから得たことを、無料相談等の被災者支援に結びつけていきたいと思います。
あさかぜ だより
会 員 島 内 崇 行(65期)
1 はじめに
昨年12月の弁護士登録と同時にあさかぜ基金法律事務所に入所しました65期の島内崇行と申します。弁護士登録して既に半年以上経過し、月日の経過の早さに驚いております。
さて、私が所属するあさかぜ基金法律事務所ですが、どういった事務所であるのかについてまだまだご存知ない方もいらっしゃると思いますので、この場をお借りして当事務所をご紹介させていただきたいと思います。
2 あさかぜ基金法律事務所について
あさかぜ基金法律事務所は、九州弁護士会連合会の支援の下に設立された、九弁連管内の司法過疎・偏在地域へ赴任する弁護士を養成することを主たる目的とする法律事務所です。
これまでには、五島、対馬、阿蘇、西都、島原、壱岐、小林、指宿といった九州管内の司法過疎地に設置された法テラスやひまわり基金法律事務所に、当事務所で養成を受けた弁護士が赴任しました。
現在、当事務所には64期の弁護士2名、65期の弁護士2名の合計4名が所属しており、事務局2名と力を合わせて仕事をしています。
3 事務所の日常について
当事務所の弁護士は、1~2年間の養成期間の後、九弁連管内の司法過疎地等へ赴任することになっています。したがって、当事務所には、若手弁護士しか所属しておらず、処理に悩む機会は日常茶飯事であり、自分で調べ物をするだけでは対応を決めかねることも多いです。実際の業務は、これまでの勉強だけでは対応できない部分が非常に多いことを実感します。
そのようななか、指導して下さる先生方に質問したときには、自分では思いつかないような解決方法や実務的な感覚まで教わることができとても勉強になります。
このように、当事務所に所属する弁護士は、九弁連の管理委員の先生方、福岡県弁護士会の運営委員の先生方、福岡県の指導担当の先生方など、多くの先生方からのご支援、ご指導によって日々の業務を進めています。
4 大川市での事務所披露パーティー
本年度4月より、当事務所に所属していた63期の油布貞徳先生が、独立して、福岡県大川市に「ゆふ法律事務所」を開設しました。6月に事務所披露がありましたので、所属弁護士全員で参加しました。
大川市は、家具の大生産地であり、また「のだめカンタービレ」の主人公、野田恵が同市出身の設定ということもあり、認知度は低くないと思います。しかし、人口は年々減っており、弁護士も現在油布先生1人という弁護士過疎地でもあります。大川市は、交通の便があまり良くないため、市内に弁護士が存在することの意味は大きいと思われます。
あさかぜ基金法律事務所出身の油布先生が、大川市唯一の弁護士という極めて重要な立場になられたということで、私も、いずれ司法過疎地に赴任してリーガルサービスを提供する立場になることを改めて認識し、今後もさらに精進していく決意を致しました。
5 おわりに
まだまだ弁護士として至らない点ばかりではありますが、1~2年など直ぐに経過してしまうことを肝に銘じ、日々の業務に取り組むつもりです。この報告をご覧になっておられる先生方からも、ご指導、ご鞭撻のほど、どうかよろしくお願いいたします。
日弁連刑弁センターだより
会 員 丸 山 和 大(56期)
6月7日、8日の二日間にわたり日弁連刑弁センター全体会議が開催されました。同会議の議題のうち、実務上重要と思われる二点についてご報告します。
1 取調べDVDの実質証拠化について
捜査機関の取調べについて、その全過程を録画・録音して可視化しようとする動きが、法制審特別部会「新時代の刑事司法制度特別部会」でようやく実現する機運が高まっていることは周知のことと思われます(もっとも、捜査機関側の委員は未だに「捜査官の裁量」論を唱えており、予断を許しません。)。
そのような中、可視化の成果物である「取調べDVD」について、これを自白調書に代えて請求するなどして積極的に罪体立証に使用しようとする動きが検察庁にあります。
かかる「取調べDVDの実質証拠化」の動きについては、「法廷のビデオ上映会化」を招くなどとして裁判所は否定的な立場に立っていると解されていましたが、最近になって、裁判所が取調べDVDを実質証拠として採用した事例が複数報告されるようになりました。
取調べDVDの実質証拠としての証拠能力については、これを認めるのが現在の多数説(伝聞証拠にあたらず刑訴法322条の要件を要しないとする説。ちなみに、個人的には、取調べDVDに実質証拠としての証拠能力を認めない説が妥当であると考えています。)と思われ、現行法上、法廷顕出を妨げることは困難な状況です。
従って、実務にあたる弁護人としては、将来の公判において、取調べDVDが実質証拠として請求されることを見越して捜査弁護にあたる必要があります。
なお、取調べDVDの実質証拠化に対応する弁護手法については、10月22日に予定されている日弁連ライブ研修において検討が行われる予定ですので、ぜひご聴講ください。
2 拘置所弁護士待合室における携帯電話の預け入れについて
拘置所による、接見室における写真撮影に対する接見妨害についての全国的状況については、本誌2月号の田邉国賠訴訟の紹介記事においても触れたところです。
拘置所による接見妨害に関して、もう一つ全国的に顕在化している問題が、拘置所による、弁護人の接見室内への携帯電話の持込みに対する妨害です。
福岡拘置所においても、接見室に携帯電話を持ち込むことは出来ません、ロッカーに預けて下さい、という趣旨の張り紙が掲示してあり、これ見よがしにロッカーが備え付けられていることはご存知のことと思います。
そして、実際に、拘置所職員から「携帯電話はロッカーの中に入れて下さい」と声を掛けられ、預け入れている弁護人の方々も散見されます。
しかし、拘置所が、弁護人に対し、ロッカーに携帯電話を預け入れることを強制する法的根拠はありません(もっとも、拘置所側は、「刑事収容施設・処遇法は拘置所の「施設管理権」の存在を前提としており、かかる施設管理権に基づいて持込を禁止することができる」、と主張するようです。あるいは、「被疑者の外部交通の規制のために弁護人の携帯電話の持込を禁止することができる」、とも主張するようです。)。
従って、携帯電話をロッカーに預け入れるか否かの判断は弁護人に委ねられており、携帯電話をロッカーに預け入れるにせよ、それは弁護人の自発的意思に基づいてなされなければならない、という点に留意する必要があります。
些細なことかもしれませんが、このような些細な点から国による接見妨害が始まり、そこから接見妨害の範囲が拡大されていく危険性があることに注意を払う必要があります。 なお、接見における電子通信機器の使用に関しては、接見の補助手段として使用することは許され、秘密交通権の保障が及ぶ、とする研究者の論文も発表されているところですのでご参照ください(葛野尋之「弁護人接見の電子的記録と接見時の電子通信機器の使用」季刊刑事弁護72号)。
労働相談ホットライン(6月10日)実施報告
会 員 宮 原 三 郎(62期)
1 はじめに
去る平成25年6月10日(=労働の日)に日弁連主催の全国一斉労働相談ホットラインが実施されました。私事ですが、弁護士登録から3年半、もっぱら使用者側代理人として労働事件に関与して参りました。もっとも、この正月に東京から福岡に登録換えをして独立し、かつ、労働に強い弁護士になるという強い志のもと労働法制委員会委員に委嘱して頂きましたので、自己研鑽を図る意味でもこれはよい機会と労働者側の相談であるホットラインの担当をさせて頂くことに致しました。
2 福岡での相談件数等
まず、福岡県弁護士会で受けた相談の統計をご紹介致します。なお、全相談件数と項目ごと合計数に若干のずれがあるのは、相談者にご了解頂いた事項のみの記録であるなどの理由による思われますのでご了解頂ければと存じます。
<全相談件数>
43件
<年 代 別>
50代 13名
30代 12名
40代と60代 それぞれ5名
70代以上 1名
<正規・非正規の別>
正規雇用 18名
非正規雇用 22名
<相談事項>
改正労働契約法関係 13件
解雇・雇止め 12件
賃金未払い 9件
労災関係 3件
いじめ・パワハラ 2件
契約と実際が違う 1件
その他
3 今回の特徴
今回のホットラインにおいて特徴的なのは改正労働契約法関係の問合せの多さではないでしょうか。
皆様ご存知のとおり、先だって労働契約法が改正され、本年4月1日から無期労働契約への転換申込権、無期労働者と有期労働者との間で不合理な労働条件の相違を設けることの禁止という制度が施行されました(なお、昨年8月1日から、雇止め法理の法定化もされています。念のため。)。
上記統計が示すとおり、全43件の問合せのうちの約3分の1、非正規労働者からの問合せでは約6割が改正法に関する問い合わせだったことになります。私が担当した4件ほどの相談のうちでも、2件で改正法についての相談がありましたので個人的にも注目度が高いという印象でした。
私が受けたものはいずれも無期労働契約への転換申込権についてのもので、「既に数年間有期労働契約で働いているが、いつから正社員になれますか」というものでした。ご相談頂いた方にとっては残念ながら通算契約期間のカウントが本年4月1日からスタートになるため、「さらに5年後になってしまいます」との説明にならざるを得ませんでした。他の担当者の先生方と話しても、転換申込権については5年を経過すると当然に正社員になれるという勘違いをなされていた相談者が多かったようです。
4 所感として
無期労働契約への転換申込権の制度は、若干誤解を生みやすい制度のような気もしますが、それなりにニュースなどで取り上げられ、解説もされていたように思います。そのような制度であっても不正確な伝わり方をしていたことは、普段法律に携わらない方々にとって法律がなかなか浸透しづらいものであることを表していると思います。われわれ法律家が正確な法的知識を伝えることは重要であり、そのインフラとして無料でしかも、電話一本で弁護士にアクセスできるという今回のようなホットラインのシステムは今後も拡充していくことが望ましいと感じました。