福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
あさかぜ基金だより
会 員 西 村 幸太郎(66期)
私の所属するあさかぜ基金法律事務所(以下「当事務所」といいます。)は、過疎地赴任を見据えた弁護士が活動する、特徴ある事務所です。いわゆる養成事務所と呼ばれることもありますが、「養成」といっても、その方法は千差万別です。今回、私自身が当事務所での取組みを振り返り、養成の在り方について考えながら、取組みの内容についてご紹介させていただきたいと思います。
扱っている事件についてです。過疎地に赴任すると、弁護士の絶対数が少ないため、その地に生起する玉石混淆の紛争が、一挙に持ち込まれることになります。良質なリーガルサービスを提供するためには、その弁護士が、どのような分野においても、一定以上の処理が出来ることが必要です。そこで、当事務所では、法律相談等によって各自で受任した単独事件はもちろん、他の先生方との共同受任事件にも取り組み、幅広い事件を経験しながら、技術の研鑽に努めています。当事務所をバックアップしていただいている組織・制度は多数ありますが、共同受任事件を確保できるようなシステムの構築もすすめています。様々な方にご協力いただいており、感謝の気持ちでいっぱいです。今後とも宜しくお願いいたします。
経営面についてです。当事務所では、「事務所会議」と題して、毎月のキャッシュフローデータをにらみながら、事務所経営に関する議論を行っています。その他、HPの改修についてや、各種制度についての見直し・検討など、議題は多岐に亘りますが、過疎地赴任後に自ら事務所運営ができるような能力を醸成できるように、意欲的に取り組んでいます。これとは別に「弁護士会議」と称して、事務所に所属する弁護士の新件を確認し、利益相反がないかをチェックしたり、処理に困っている事件について、弁護士間で意見交換を行ったりしています。会議の内容は、事務所運営がよりよくなるよう、弁護士自身で設定すべきものだと思いますので、今後も、創意工夫を凝らしながら、取り組んでいきたいと思います。
簡単にですが、事件面及び経営面について、当事務所の取組みを紹介させて頂きました。他の事務所での創意工夫も気になるところで、情報収集も継続して行っていきたいと思っています。技術の向上のためにどのような工夫が出来るかは、弁護士として常に意識すべきものだと思いますので、初心を忘れずに頑張っていきたいです。
法曹人口が増加する中、今こそ弁護士がどうあるべきか問われているように思います。司法制度改革において、リーガルサービスを全国津々浦々に浸透させようという理念が掲げられ、一定程度の成果は上げていると思いますが、まだまだ十分とは言えません。司法過疎地においても良質なサービスを提供できるよう、今後も精進していきたいと思います。
2014年6月 1日
あさかぜ基金だより ~あさかぜのこれまで~
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 青 木 一 愛(65期)
あさかぜ基金法律事務所は、平成20年9月に開設されました。現在、事務所開設から5年9か月が経過し、間もなく丸6年を迎えようとしているという時期になるかと思います。そこで、本稿では、(大変中途半端な時期ではありますが)改めて当事務所のこれまでを振り返りたいと思います。
さて、当事務所の開設当初は、旧61期の井口夏貴弁護士1人が所属している状況でした。当時の事務所は南天神ビル7階の1室であり、今の事務所(同ビルの2階)に比べると、若干狭かったようです(もっとも、所員は井口弁護士1人でしたから、事務所は広く感じられたのではないかと思いますが)。
その後、同年12月には新61期の細谷文規弁護士、水田祐輔弁護士、吉澤愛弁護士が入所して弁護士4名体制となり、以降は、毎年、2~3名の新人弁護士が入所し、常時弁護士4~6名体制で稼働しております。
当事務所は、「九弁連管内の司法過疎・偏在問題を解消する」ことを目的として設立されたものです。そのため、当事務所の所属弁護士は、事務所を退所後、九弁連管内のひまわり公設事務所又は法テラス4号事務所の所長弁護士として赴任することや、いわゆる司法過疎地において新規に事務所を開業することが予定されております。
そこで、これまでの所属弁護士の赴任先について振り返っていきます。
井口夏貴弁護士(旧61期) 2009年10月~
対馬ひまわり基金法律事務所へ赴任
細谷文規弁護士(新61期) 2010年1月~
法テラス高森法律事務所へ赴任
水田祐輔弁護士(新61期) 2010年6月~
西都ひまわり基金法律事務所へ赴任
吉澤愛弁護士(新61期) 2011年1月~
島原中央ひまわり基金法律事務所へ赴任
井寄靖弁護士(新62期) 2011年9月~
井寄法律事務所を開設
伊藤拓弁護士(新62期) 2011年10月~
対馬ひまわり基金法律事務所へ赴任
坂巻道生弁護士(新62期) 2012年3月~
小林ひまわり基金法律事務所へ赴任
松坂典洋弁護士(新63期) 2012年1月~
壱岐ひまわり基金法律事務所へ赴任
城石恵理弁護士(新63期) 2012年10月~
法テラス指宿法律事務所へ赴任
油布貞徳弁護士(新63期) 2013年4月~
ゆふ法律事務所を開設
福元温子弁護士(新64期) 2013年6月~
法テラス五島法律事務所へ赴任
小池寧子弁護士(新64期) 2013年8月~
法テラス徳之島法律事務所へ赴任
今井洋弁護士(新64期) 2013年11月~
法テラス壱岐法律事務所へ赴任
このように振り返ると、まず、離島の公設事務所へ赴任した例が多いことが分かります(13名中6名が赴任)。特に、昨年度は、新64期の弁護士が全員離島の法テラス事務所へ赴任しており、より一層、この傾向が色濃いものとなりました。また、対馬のように当事務所の出身者(井口弁護士)から出身者(伊藤弁護士)へと所長が交代している事務所もあれば、壱岐のように、ひまわり公設(松坂弁護士)及び法テラス(今井弁護士)のいずれの事務所も当事務所の出身者が所長を務めている地域もあります。
一方、昨年4月には、油布弁護士が福岡県大川市(現在、弁護士は油布弁護士1名のみ)に独立開業しており、今後は、このような形で、当事務所の出身者が、司法過疎地に定着することを前提に事務所を開設する例も増えてくるでしょう。
更に、細谷弁護士は、法テラス高森での任期を終えると、鹿児島県出水市(現在、細谷弁護士も含め弁護士2名)に事務所を開設し、引き続き弁護士の少ない地域で弁護士業務を行っています。今後、当事務所の出身弁護士も、順次、上記の事務所の任期を終えることになりますが、これらの弁護士が、新たに司法過疎地で独立開業したり、ひまわり公設事務所を引き継ぐ形でその地域に定着したりする事例も増えてくるでしょう。
以上、簡単に当事務所のこれまでを振り返って参りました。
今後も、当事務所の所員は、司法過疎地に赴任又は独立開業することを志し、研鑽を積んで参る所存ですので、会員の皆様には、引き続きご指導・ご鞭撻賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
給費制本部だより 「4.15院内集会のご報告」
会 員 石 井 衆 介(66期)
1 はじめに
平成26年4月15日、参議院議員会館1階講堂において、ビギナーズ・ネット等共催のもと、日弁連主催の「司法修習生への給費の実現と充実した司法修習を求める院内集会~給費の実現へ『国民の理解は得られています!』~」が行われました。
今回私は、給費制本部本部長代行の市丸信敏先生、同本部委員の髙木士郎先生、鐘ヶ江啓司先生と共に、同集会に参加させていただきましたので、その模様をご報告させていただきます。
2 院内集会の概要
今回の集会には、衆参両院から61名(本人出席21名、代理出席40名)の国会議員が参加されました。さらに日弁連関係者、各種支援団体代表者の方々など多数の参加があり、その合計数は180名を超えました。このことは、給費制廃止に対する注目度の高さを象徴しているといえます。
集会の進行について簡単にご説明します。
まず初めに第65期弁護士の野口景子先生より、貸与制経験者の立場から、司法修習生の実情についてご報告がありました。先日フジテレビの番組「ニュースJAPAN」内で放送された映像を用いながらのご説明であり、参加者の方々にも、司法修習生の窮状をよりリアルに感じ取っていただけたように思います。
その後、日弁連の村越進会長のご挨拶により開会し、続いて前回の院内集会同様、参加された国会議員の方々に、給費制の問題について、個別のご発言をいただきました。さらに、ビギナーズ・ネットによって給費制復活にご賛同いただけた各団体の紹介がなされ、公害・地球環境懇談会の小池信太郎代表幹事からも、給費制復活に向けた温かいメッセージをいただきました。
3 国会議員のご発言等
今回何よりも特徴的だったことは、国会議員の方々のご発言だけで、院内集会の終了予定時刻となってしまったことです。それほど多くの方々が、給費制が廃止された現状に問題を感じておられるということであり、同時に、発言時間が長くなったことは、お一人お一人が、この問題の解決に向けて強い意欲をお持ちであるということの表れでもあるといえるでしょう。
司法修習生や若手法曹の経済状況等ミクロな観点からだけではなく、法曹志願者の激減や国際的な司法戦略というマクロな観点からも、多数の問題点が指摘されました。もはや、司法修習生に対する何らかの経済的支援が必要であることは、集会参加者の共通認識であったといえます。
また、与野党を含めた複数の議員から、超党派による解決が繰り返し指摘され、国会における問題意識と給費制復活への声が着実に広がっていることが実感されました。
既にご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、院内集会の直前である平成26年4月9日、公明党法曹養成に関するプロジェクトチームが、法曹養成に関する緊急提案を発表しました。同提案では、司法修習生に対する経済的支援の必要性についても明言されており、「修習手当」制度の創設をも選択肢に含めた抜本的な改革が要請されています。
一方自民党も、同日、自民党政務調査会及び司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議が、法曹人口・司法試験合格者に関する緊急提言を発表しましたが、同提言では、そのタイトルからも明らかなとおり、主に司法試験の合格者に関する検討がなされ、司法修習生への経済的支援については触れられていません。そのため、自民党の給費に関する今後の方針には注目が集まっていました。
そんな中、自民党の司法制度調査会の事務局長代理も務めておられる宮崎政久衆議院議員から、同調査会は、既に残された司法制度の諸問題についても検討する準備に入っているとの心強いご発言をいただきました。
福岡県選出の国会議員としては、原田義昭衆議院議員及び仁比聡平参議院議員のお二人に、ご発言をいただくことができました。特に仁比議員は、国会議員のご発言のトリとして、債権回収に怯えることになる若手法曹や携帯弁の例を挙げながら、給費の問題は日本の司法のあり方にかかわる重要課題であると熱弁されており、給費制復活にかける思いを強く感じられました。
今後、国会において、給費制に関する議論がますます活発になることが期待されます。
4 おわりに
以上のとおり、院内集会に参加していると、給費制復活に向けた各種取り組みが、少しずつ実を結び始めているのではないかと感じられます。また、弁護士会以外の諸団体の方々の間でも、給費制への支援は確実に広まっています。
当会会員の先生方におかれましても、今後の展開を見守っていただきますとともに、引き続き変わらぬご支援の程よろしくお願い申し上げます。
2014年5月 1日
弁護士に期待されること・家族の役割
会 員 西 野 裕 貴(66期)
平成26年3月20日に行われましたアルコール依存症研修会第2回「弁護士に期待されること・家族の役割」に参加いたしましたので、ご報告いたします。
1 福岡保護観察所長荒木龍彦氏のお話
研修会の前半は、福岡保護観察所長の荒木龍彦氏より、ご自身の立場からみたアルコール問題の現状と課題についてお話しを頂きました。
荒木氏は、まず、窃盗、殺人、放火、性犯罪等の重大犯罪は、それ自体は罪とならないアルコールの問題が原因となっていることが多いと話されました。
そのため、近年は、刑務所において、受刑者に対し、薬物の危険性だけでなくアルコールの問題について深く理解してもらうために多くの時間を割いて話がされていること、刑務所によっては、元受刑者がアルコール問題について話をするために刑務所内に立ち入り話をすることが認められる場合があるとのことでした。
荒木氏がアルコール問題の課題として挙げられたのは、自己がアルコール依存症であることの認識を欠いている患者を治療につなげていくことの困難さでした。そして、この課題を克服するには、アルコール依存症患者の近くにいる家族への介入を強化すること、また、問題の当事者である自助グループとの連携の強化が必要であると話されました。
2 福岡県断酒連合会の家族会員のお話
三人お話しになられたのですが、紙面の関係上お一人の話を要約します。現在断酒されているアルコール依存症の旦那さんの横で次のように話されました。
私は、夫と結婚し、二人の子供ができ幸せな生活をしていました。しかし、夫は、いつの間にか晩酌では足りず、よく飲み屋に入り浸るようになりました。子供のミルク代も飲み代に消えていく始末でした。
あるとき、飲んだ旦那が、中洲でタクシーの無賃乗車をしたので、その代金を払いにいったところ、旦那はタクシーを降りて、また中洲の飲み屋へ消えていきました。このときは旦那を殺してやろうと思いました。
しかし、旦那を殺して犯罪者になるのはバカらしかったので、離婚をしようと考え、毎日、旦那の悪行をノートにつけていました。
ようやく、旦那を病院に連れて行くことができ、旦那を入院させることができました。息子は「これでやっと車庫の段ボールで寝らんでよくなったね」ととても笑顔でした。
旦那が退院する1週間前には、恐怖で眠れませんでした。
旦那は退院後、お酒を飲まなくなり、以前の平穏な生活が戻りました。しかし、退院から1年が経つ日の1週間前に旦那は酒に手を付け、以前よりも、手を付けられないひどい状況になりました。そして、再度病院に入院となりました。
再度の退院後、私は旦那と共に断酒会の会員となりました。同じ悩みを持つ断酒会の会員同士で話し合いを根気強く続けることで、48歳で断酒した旦那は72歳になった現在まで断酒を続けることが出来ています。
3 感想
本PTの花田先生がおっしゃったように、弁護活動に際し、被疑者・被告人の被疑・公訴事実がアルコールの問題に起因していると感じたとしても、弁護活動時間の事実上の制限から、アルコールの問題までフォローすることが難しいのが現状です。
しかし、断酒会の家族会員の方の話から明らかなように、アルコール依存症は、患者本人だけでなくその家族や関係者までも不幸にする危険性を秘めています。
それゆえ、弁護活動に際しては、アルコールの問題から生じる多くの人の不幸を想像し、できる限りアルコールの問題をフォローすることに尽力することが大切であり、被告人が家族や自助グループの協力を得られるようサポートしていきたいと感じました。
ITコラム
会 員 小 川 松太郎(59期)
1 「IBMはベンツ、コンパックはBMW、日本製は日本車かな」。
20年くらい前、大学の友達がパソコンのキーボードについて言った言葉です。
その言葉の意味が最近分かるようになってきました(コンパックは後にHPに吸収合併される)。
2 私が使っているノートパソコンは、IBM社製のThinkPad・X40(以下「X40」と言います)というものです。
このX40は、平成17年ころ(約9年前)に購入したもので、当時のIBMのノートパソコンの中では、最小、最軽量、ハイパフォーマンスを謳っており、バッテリー持続時間も最大で10時間、OSもwindowsXPprofessionalが搭載される等機能としては申し分ないものでした。
それが、4年前にバッテリーの充電が出来なくなり、使用するにはACアダプターをコンセントに差し込まなければならず、ノートなのに携帯できなくなりました。ある時、少年事件の記録を書き取るため家庭裁判所にX40を持ち込み、ACアダプターをコンセントに差し込もうとしたら、職員から怒られました。家庭裁判所の電源は使ったらいけないのです。
3年前からパソコン本体が異常に熱くなったり、突然電源が落ちたりするようになり、書面が消えてしまう等の事態が発生したため、やむを得ず買換の検討をはじめました。
3 この3年間Let's noteやMacBook等のノートパソコンを検討していますが、悩むだけで、未だに新しいものが買えません。
どうしてか?X40のキーボードより良いものがないからです。
キーを押す感触やキーの返しが良い、シャキ・シャキという静かで知的な音が良い、何より慣れている等いくつか理由があるのですが、とにかく、X40で打つと快適なのです。そのため、X40で起案すれば準備書面の出来も良くなるような気がします(実際は変わりません)。
当時のIBMの製品仕様には、「人間工学に基づきチューンされた7列フルサイズ・キーボード」と記載されており、今更ながらなるほどと感心しています。
事務所内でもデスクトップパソコンがあるのに、わざわざその前にX40を置いて起案することも頻繁にあります。
4 ということで、今後もX40が完全に壊れるまで使い続けるでしょう。
書面が消えることが分かっていれば頻繁に保存をくり返せばいいし、本体が熱くなったら休憩させればいいし、コンセントのないところでは起案しなければいいし、少年事件の記録も手書きで書き取ればいいのです。
ノートパソコンと思うからいけない、快適パソコンと思えばいいのです。
たとえwindowsXPのサポートが終了(平成26年4月9日)しても大丈夫。
「転ばぬ先の杖」(第5回)
会 員 原 田 直 子(34期)
Aさんとは、20年くらい前に遺産分割の手続きのご依頼を受け、その後ずっと季節のご挨拶を頂いてお付き合いがありました。ご自分で届けてくださるので、時々のご心配事なども伺っていました。ご自身が再婚で、ご夫婦にはお子さんがなく、先妻のお子さんを小さいときに養子に出しているので、何かの時にはよろしくというおつもりだと解釈していました。私は度々遺言書をお勧めしましたが、突然倒れられ亡くなってしまいました。
不動産と預貯金はすべて妻Bさんに相続させるという自筆の遺言書が見つかり、検認も済ませました。ところが、相続財産を調査すると、自宅の他は、株や保険、投資信託などが主で、不動産と預貯金という文言ではカバーできない内容でした。さらに、相続対策と思われたのか、知的障がいのある末弟Cさんと養子縁組をされていました。結局、後見人を選任して遺産分割したのですが、遺留分以上の財産を分割しました。
Cさんは、独身だった2人の姉からも相当の遺産を相続しておられ、施設に入所して障がい年金で事足りているので、貯金が増えただけになりました。もっと強く、遺言書の相談をしていただくよう、お勧めすればよかったと後悔しました。
妻のBさんも、一人暮らしになった途端、物忘れがひどくなり、不安だと言われるので、将来に備え、任意後見契約と見守り契約を締結しました。毎月お電話をし、3か月に一度は姪御さんと打ち合わせて自宅を訪問し、おしゃべりをして、おいしいものを食べることにしました。女性3人、Aさんの思い出(悪口?)に花を咲かせ、楽しいひとときでした。私も、2人のお姉さんの遺産分割に関わり、親戚の方々の関係を把握していたので、話に入れたのです。
先日、Cさんがふとお墓参りに行きたいと漏らされたと聞き、姪御さんも誘って一緒にお寺に行き、Cさんの好物だった鰻屋さんに行きました。足が不自由になり、2人の姪御さんが両脇から抱えるようにして、お連れしました。Cさんの後見人も一緒でした。昔話に花が咲き、楽しい半日。帰りには、Bさんの大好きなチョコレートを買いに、博多チョコレートショップにお連れしたところ、目を輝かせて、チョコレートを選んでおられました。
ここで気づいたことは、Cさんの後見人が全く話の輪に入れないこと。選任されてから3年ほどですが、3か月に一度施設を訪問してはいるものの、一人では話すことがないので、姪御さんを同行し、姪御さんとの交流を見ているだけのようでした。「おじさん(Cさんのこと)は、お金はあっても、好きなことに使えないのはつまらないですね・・。」とは姪御さんの言葉でした。判断能力が低下してから士業の専門家が後見人になると、本人との交流は難しいようです。身上監護してくれる身内がいればまだいいですが、そうでなければ、ちょっと寂しい老後だなとしみじみ思ったことでした。
私自身も、子育てが終わり、親を見送り、還暦を過ぎて、自分の老後を真剣に考える時がやってきました。自分で自分のことを決められる間に、自分がどのようにして人生の終末期を過ごしたいか、その実現を誰に託すのか、決めることはたくさんあるなと感じながら、皆さんにも任意後見をお勧めし、元気な間は、みなさんの「転ばぬ先の杖」になろうと思う出来事でした。
2014年4月 1日
「転ばぬ先の杖」(第4回)
会 員 瀬 戸 伸 一(59期)
1 「転ばぬ先の杖」第4回を担当させていただきます。市民向けとお聞きしておりますので、事案も簡略化して紹介させていただきます。
2 借金問題
最近は減ってきたものの、自殺対策白書によれば、平成24年度に、借金問題(経済・生活問題)と思われる理由で自殺をした人が全体の19%近くいるそうです。
私のところにも、ある方が「今日、どうしても相談を受けてもらいたい。」と言って、その方の家族(依頼者)を連れてきたことがありました。
聞くと、依頼者は消費者金融に数百万円の高金利の借金があり、まじめに働いているが借金が減らない。自殺をしようと家で首をくくる準備をしていたところ、別の家に住んでいた家族が、数日前から様子がおかしかった依頼者を見に来たため、事なきを得たとのこと。本人は自殺するしかないと考え、「死なせてくれ」と言っていたが、その家族が「弁護士に相談してどうしようもないと言われたら死んでいいから相談に行こう」と説得して連れてきたということでした。
20年間程貸し借りの取引があり、利息制限法の制限利息で計算すると、返済する借金がなくなりそうな状況であったので、「借金が残るどころか、お金を返してもらえる(過払金)可能性が高そうです。借金が残るにしても、残らないにしても、死ぬ必要は全くないですよ。弁護士が受任すれば、請求も直接来なくなります。」と説明し、本人も安心して帰宅していかれました。
後日、消費者金融から返還を受けた過払金を依頼者に返還し、借金は全くなくなったことを報告すると、「あのとき、死なないで家族に相談に連れてきてもらって良かったです。」と涙ぐんでお話されていました。
自分が経営している会社も含めて、借金問題で自殺をする必要はありません。自殺を考える前に弁護士に相談していただければ、必ず、いいアドバイスが受けられるはずです。
3 合意書の作成
A会社の甲社長とB会社の乙社長は仲が良く、A会社とB会社とは長年取引がありました。
B会社の帳簿にはA会社に対する1,000万円の売掛金が載っていましたが、これは実は購入した商品に難があってキャンセルされた分で、実際には、B会社は請求できないものでした。
あるとき、この1,000万円の売掛金について、甲社長と乙社長が話をしました。乙社長は、「キャンセル分というのは分かったけど、売掛金が全部無くなると、大赤字になってしまうから、形だけ、売掛金があるということにしてほしい。今後は請求しないから。あと、今、会社の運転資金がないから、1,000万円のうち、100万円だけ支払う形でお金を融通してほしい。今後、B会社がA会社に売る商品の価格を値引きする形で返済をするから。」と言ってきました。
甲社長は、この話を信じて、乙社長の出す合意書にサインをしました。その合意書には、「A会社は、B会社の売掛金1,000万円があることを認めて、そのうち、100万円をすぐに支払う。」という内容しか書かれていませんでした。
A会社が100万円を支払った後、B会社からA会社に売掛金900万円の支払請求の裁判が起こされました。その裁判の中で、乙社長は、「売掛金は、キャンセル分などではない。合意書でも売掛金が認められているし、1,000万円のうち、100万円が支払われていることがなによりの証拠だ。」などと主張しました。
最終的には、900万円の売掛金は認められませんでしたが、それまでに、長期間裁判を行う時間、労力、費用がかかってしまいました。
嘘をつかれたことが本件の原因ですが、それでも、甲社長が、合意書にサインをする前に、弁護士に相談をしていれば、「当事者間の合意と合意書の記載が異なっている。このままサインすると危ない。」という忠告が受けられ、合意書にサインをしなかったり、合意内容がきちんと記載された合意書を作成したりしていれば、裁判にもならなかったものと思われます。
仲のいい間柄でも、いつ紛争になるかわかりませんので、簡単なものでも、合意書を作成する際には、一度弁護士に相談することをおすすめします。 ちょっと体調がおかしいと思ったときに、薬を飲んだり医者に見てもらったりしたほうが、大事に至らないのと同じように、この件大丈夫かな?とちょっとでも思ったら、弁護士に相談したほうが後日の安心につながります。
ITコラム
会 員 是 枝 秀 幸(60期)
今回は、私が取扱う機会のある投資詐欺に関連して、実際の業務で利用しているITについて紹介させていただきます。弁護士がどこまでやるべきかという問題はあるものの、一つの情報を端緒に様々な情報を収集するよう、努めています。
1 Google https://www.google.com/
・業者や関係者が運営しているサイト等
インターネット唯一神Googleの手にかかれば、業者や関係者に関連して、各種報道から、国や地方自治体による発表、弁護士や被害者等による情報提供や評判、業者が過去に出していた求人情報まで、様々な情報を得ることができます。
2 Internet Archive https://archive.org/
ウェブ魚拓 http://megalodon.jp/
・過去のサイトの状態や記載内容の記録(過去ログ)
Internet Archiveでは、自動収集された過去ログの一部を見ることができます。
ウェブ魚拓では、自ら保存することができるほか、利用者により既に保存された過去ログがあればそれを見ることができます。
3 総務省 http://www.soumu.go.jp/
・固定電話や携帯電話の番号の割当先として指定された電気通信事業者
業者の使用している固定電話や携帯電話等の番号が判明している場合、当該番号の割当先として指定された電気通信事業者に対して弁護士会照会をすることで、契約者の名義・住所や利用料金引落口座が判明することがあります。
事前に総務省のサイトで電気通信番号指定状況を確認しましょう。
4 JPRS WHOIS /JPRS http://whois.jprs.jp/
aguse.jp:ウェブ調査 http://www.aguse.jp/
・サイトの運営者に関する情報
WHOIS(フーイズ)とは、簡単に言えばウェブサイトの運営者を把握する方法の一つで、実際にやっていただいた方が分かりやすいと思います。
例えば、JPRS WHOIS /JPRSで、http://www.fben.jp/のドメイン(fben.jp)をもとに検索すると、登録者名(福岡県弁護士会)等の各種情報が表示されます。
業者のサイトのドメインをもとに検索することで、業者の氏名や住所や電話番号等が判明することがあります。
但し、ドメイン取得代行等がなされている場合があり、ドメイン取得代行業者等に関する情報しか得ることができないこともあります。
5 日本郵便株式会社 http://www.post.japanpost.jp/
・郵便物の配送状況に関する情報
業者に対して登記や住民票上の住所に郵便物を送付しても、業者が郵便物を転送させる等して、業者の実際の居所を掴むことが困難な場合があります。
郵便追跡サービスを確認することで、郵便物の配送状況に関する情報を把握することができますので、業者の実際の居所の参考になることがあります。
6 登記情報提供サービス【有料】 http://www1.touki.or.jp/
・法人の登記の有無や代表者の氏名・住所に関する情報
・法人の所在地や代表者の住所の不動産に関する情報
いずれも法務局で取得することのできる情報ですが、探索的に業者に関する情報を収集する際、検索機能により効率的に情報を収集することができます。
もっとも、認証文言は付記されていないので、裁判所に附属書類として提出する際は、法務局で認証文言付記謄本を取得する必要があります。
7 官報情報検索サービス【有料】 https://search.npb.go.jp/kanpou/
・業者や関係者に関連する官報公告に関する情報
業者や関係者の氏名等で検索することで情報が得られることがあります。
もっとも、同姓同名の方に関する情報にすぎない可能性もあるので、当該情報を端緒にした住民票等の職務上請求等は、第三者のプライバシーに配慮して、情報の関連性を十分に検討してからが良いと思います。
8 振り込め詐欺救済法に基づく公告トップページ
http://furikomesagi.dic.go.jp/
・犯罪利用預金口座等に係る取引停止等の措置の有無や状況等
業者や関係者に関して措置がなされているか情報が得られることがあります。
9 その他
・業者が加盟している業界団体のサイト
・被害回復に取り組む弁護士のメーリングリスト
法律相談センターだより
法律相談センター運営委員会 副委員長
金 﨑 智 久(59期)
平成26年3月8日(土)に天神地下街イベントコーナーで無料法律相談会を行いましたので報告します。
1、発端
昨秋、日弁連が「ひまわりお悩み110番」開設1周年記念として、各単位会に広報の行事を行うよう要請していました。これに応じれば補助金10万円が支給されるという話でした。
法律相談センター運営委員会では、10万円の補助金が出るなら、とりあえず何かやるということになり検討に入りました。検討の結果、昨年10月のRKBラジオ祭りで対外広報委員会が行った無料法律相談を参考にして、無料法律相談会を実施することとなりました。場所は、福岡市中心部の天神で行うこととしました。
2、準備
天神地区で無料相談会が実施できるイベント・スペースを探し、料金面、人通りの多さ、天候に影響されにくい点などを総合考慮して、天神地下街イベントコーナーを実施場所に決定しました。机、椅子、パーテーションなどはレンタルで準備しました。
事前の広報は、対外広報委員会の協力を得て、テレビ・ラジオのパブリシティ枠を利用した告知や西日本新聞の記事で取り扱ってもらうなどしました。
当会のPRという観点から、当会のテレビCMを会場で流し、当会のロゴマークパネルや「のぼり」を設置し、来場者と通行人に当会のパンフレットや広報用ポケットティッシュを配布することにしました。しかし、言うのは簡単ですが、実際に準備を行うと結構大変でした。当会職員の方々(大西さんや茂さんをはじめとした皆様)にご協力を頂きました。
3、当日
午前8時30分ころから準備を開始したのですが、既に、相談開始を待ち構えている人がいて、驚きました。午前10時開始予定だったのですが、前倒しして午前9時30分ころから相談を開始しました。準備や相談には、対外広報委員会から原田直子委員長ほか多くの方々にご協力を頂きました。
実際に開始すると、テレビ、ラジオ、新聞での広報の効果が出て、多くのお客さんに来ていただくことができました。相談机は3つ準備したのですが、お昼くらいには、終了予定の午後4時までの予約が一杯になってしまいました。そこで、急遽、丸テーブルを設置して、追加の相談にも応じることとしました。
最終的には、90組前後のお客さんが、この無料相談会を利用されました。しかし、それ以外にも、立ち話しでもよいからアドバイスが欲しいというお客さんもおられ、弁護士が立ち話でアドバイスに応じるというケースもかなりありました。そのような方々を含めるとお客さんの数は合計で100組を優に超えていたと思われます。
4、イベントを終えて
相談の内容は、相続や離婚が多かったのですが、それ以外にも種々の内容がありました。また、皆さんいずれも真剣な相談内容でした。オープンスペースでの相談だったのですが、特に気にされる方はおられず、この点は意外でした。
複数のお客さんから「次はいつやるのか」と聞かれ、このようなイベントに対する潜在的な需要が大きいと感じました。
当会と法律相談センターのよいPRになったと思います。このイベントにご協力いただいた対外広報委員会の方々、当会職員の方々に感謝いたします。
あさかぜ基金だより ~島原中央ひまわり基金法律事務所引継式~
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士
中 嶽 修 平(66期)
はじめに
平成26年2月24日、長崎県島原市のホテル南風楼にて、島原中央ひまわり基金法律事務所引継式が開催されました。あさかぜ基金法律事務所1期生の吉澤愛先生が、所長を退任されるため、事務所の後輩である私も引継式に参加してきました。
島原市について
島原市は、長崎県の南東部にある島原半島の東端に位置する、人口47,904人(平成26年1月31日現在)の都市です。そして、長崎地方・家庭裁判所島原支部、島原簡易裁判所の所在地です。さらに、島原半島中央部の眉山(標高818.7m)を中心として東側の有明海へ伸びる傾斜地となっており、湧水や温泉もある土地です。私は、島原の魅力を肌で感じるため、前日に島原入りしました。
まず、島原の郷土料理である具雑煮でお腹を満たしました。そして、アーケード街にある足湯で疲れを癒しながら、水路で泳ぐ鯉を眺め、水屋敷や四明荘を見て回り、心も体もリフレッシュ出来ました。夜は居酒屋に行き、居酒屋の店主の話を聞きつつ、有明海の魚を堪能しました。島原の住環境はとても良く、司法過疎地域への赴任を目指す私にとって楽しみが増えました。
引継式について
九弁連理事長の住田定夫先生をはじめ、日弁連副会長の大沢一實先生、日弁連公設事務所・法律相談センター委員長の藤田哲先生や長崎県弁護士会会長の梅本國和先生らが引継式に出席なさいました。そして、退任された吉澤先生と着任された平野正也先生が、任期中の感想や今後の抱負などを述べられました。
吉澤先生は3年間の任期中に、相談314件、事件121件を取扱い、刑事事件を同時期に9件ほど取り扱っておられました。また、保健所や社会福祉協議会などと外部機関との連携を深め、小中学生の法廷傍聴を実施されるなど法教育にも熱心に取り組まれていました。そのようなことから、裁判所や行政機関などからの信頼も厚く、さらに地域住民にコアなファンが生まれるなど、様々な方から頼りにされていました。
平野先生は、養成事務所である東京フロンティア基金法律事務所では、東日本大震災関連の相談業務や犯罪被害者問題に取り組まれてきました。そして、2代目所長の抱負として、吉澤先生が築かれた福祉関係者との関係をさらに発展させ、高齢や病気で相談に行くことが出来ない人のために、自分から近寄っていきたい旨、力強く宣言なさいました。また、平野先生は、大の温泉好きで、島原半島に泉質の異なる温泉があることもご存知で、どう入浴したら最も効果があるのか研究したい、とも述べられ、島原での生活を楽しみにされていました。
引継式の後は、引継披露会が開催されました。披露会には、島原市副市長、長崎地方裁判所島原支部長、地元司法書士会の関係者や九州各地の公設事務所の弁護士など、多数の方が駆けつけて下さいました。これだけ盛大な引継披露会になったのも、吉澤先生の島原での活躍と、平野先生への期待の大きさによるものだと思いました。
おわりに
今回の島原中央ひまわり基金法律事務所引継式は、翌日の地元新聞にも大きく取り上げられており、島原での大きな関心事でありました。また、ひまわり基金法律事務所が司法過疎地域に対し、司法サービスを提供してきたことの意義を再認識することが出来ました。
最後に、吉澤先生、3年間の任期大変お疲れ様でした。平野先生、より一層島原の住民のために頑張ってください。お2人の今後のご活躍とますますの発展を祈念いたしまして、結びの言葉といたします。