福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

偽装質屋被害者110番と消費者委員会の 取り組み

消費者委員会 河 内 美 香(57期)

1 110番実施の状況~台風に負けました

平成26年8月10日(日)、「偽装質屋被害無料電話相談会」を実施しましたので、まず、その結果を、簡単にご報告します。

110番当日の電話の件数は「4件(うち、偽装質屋関係の電話は、2件)」でした。

今回の110番は本当に残念な結果でした。事前に(2日前の8月8日、なお、この日は業者及びその代表者に対する刑事判決言渡日でした。)、記者レクを行った際の記者の方々の関心は「高い」と感じていたので、正直、がっかりしました。おそらく、週末に迫っていた台風報道に110番報道が吹き飛ばされてしまったようです。

110番自体は極めて低調で、ご報告できることはこの程度です。

とはいえ、今後、本件に関し、被害者の方から、法律相談を求められる場合もあると思われます。そこで、「偽装質屋」問題と消費者委員会における取り組み及び破産手続の状況を説明いたします。

2 「偽装質屋」問題と消費者委員会における取り組み

平成24年10月、福岡県警が、福岡県内及び近隣の県で質屋営業を行っている業者(2社)に対し、貸金業法違反等の容疑で捜索・差押えを行いました。

当時の報道によれば、上記業者は、高齢者等に融資を実行する際、貸付金に対し担保価値のない安価な物品を預け入れさせつつ、一方で、年金等公的給付が振り込まれる口座から口座振替させるなどの方法で返済を受け、実質的には年金等公的給付を担保に貸付を行っていたとされています。この業者は質屋営業であることを理由に、金利は、月8%もの高金利(年利96%)を受け取っていました(質屋営業法上の上限金利は109.5%)。この事件は、新聞・テレビ等で大きく取り上げられ、このような形態をとる業者は、以後、「偽装質屋」という名称で報道されるようになりました。

この報道により、上記業者から貸付を受け高利の利息を支払っていた被害者の相談が顕在化するのではと予想されたことから、消費者委員会所属の弁護士が中心になり、同年11月、北九州・福岡・筑後の3カ所で、被害者説明会や無料電話相談会を実施しました。その後、黒木和彰消費者委員会委員長が団長となり、違法質屋被害者弁護団が立ち上がりました。

3 上記業者の破産事件の状況

福岡地方裁判所において、上記2社の破産手続きが進行しています。破産手続の進捗状況は、以下のとおりです。

  • 平成25年2月 債権者破産申立
    *この破産申立は、破産法23条(国庫仮支弁)の適用が初めて認められたケースでもあります。
  • 平成26年1月7日 破産手続開始決定(破産管財人 髙松康祐弁護士)
  • 平成26年7月31日 債権届出期間及び債権調査期間の決定
4 最後に

今回の110番の広報のため、対外広報の関係で、原田直子先生、塗木麻美先生に多大なるご助力をいただきました。この場をお借りして、お礼申し上げます。

奨学金問題研修会のご報告

会 員 清 田 美 喜(66期)

1. はじめに

生存権対策本部では、去る7月30日、東京弁護士会の岩重佳治先生を講師にお招きして、奨学金問題研修会を開催しました。この研修会には一般の方も参加が可能で、行政機関から聞きに来られた方もいたようです。また当会からも、事前に呼びかけを行った子どもの権利委員会、消費者委員会、生存権対策本部を中心に、大勢の先生方にご参加をいただきました。当日の様子と、奨学金問題の概要をご報告申し上げます。

2. 日本の奨学金制度とその問題点

日本の奨学金には、日本学生支援機構のもの、行政が行っているもの、他の民間団体が行っているものがあります。そして、これらのほとんどは貸与型、すなわち将来返済をしなければならない奨学金です。日本では、奨学金を返済することは当たり前のように思われていますが、諸外国では、学費を無償化することや給付型(返済不要)の奨学金によって進学費用を援助しており、貸与型の奨学金はそれらを補うものにすぎません。海外では、貸与型の奨学金は奨学金ではなく、「学資ローン」と呼ばれています。

日本では、高等教育にかかる学費が高額であることに加え、雇用環境の変化に伴って家計が厳しくなり、学生の多くが奨学金を借りざるを得ない状況にあります。それにもかかわらず貸与型の奨学金が多いということは、進学するためには否応なく借金をしなければならないということを意味します。

さらに、現在の日本の社会状況では、借りた奨学金を返済していくことは、さほど簡単なことではありません。非正規雇用など不安定で低賃金の働き方を強いられている人が多く、返済に十分な収入を得られない人も少なくありません。加えて、多くの奨学金の貸し手である日本学生支援機構が、返済の免除の要件を非常に厳しくしていることや、延滞金が発生すると免除が認められないこと、容赦ない取り立てを行っていることなど、借り手にとって非常に厳しい制度設計・制度運営をしていることから、多くの若者がこの問題で苦しんでいると考えられています。

3. 声を上げにくい問題

他方で、奨学金の問題は、これまでなかなか顕在化してきませんでした。それは、奨学金の返済に苦しむ人が、声を上げることを躊躇してしまうためだといわれています。岩重先生も講義の中で、「当事者が声を上げられない状況を打破したい」とお話しされていました。なぜ声を上げられないか、ということに対する岩重先生の分析は、借り手が自分は助けてもらう価値があると思えないと感じていることと、相談する価値がない話だと感じていることにあるのではないか、というものでした。「勉強するために借りたお金だから、多少無理をしてでも返さないといけない」という借り手の真面目さが、この問題を人目に触れにくくしていると言えると思います。

現状を打破するために、岩重先生が提案されていたのが、相談できる窓口を作ること、相談されたら何とかなるということを示すこと、返せないのは自分のせいではないということを周囲が理解できるようにすること、でした。

相談窓口の一つとして、本年6月15日に当会でも実施した、奨学金問題に関するホットライン(電話相談)が挙げられます。このとき、私自身は電話を取る機会はありませんでしたが、他の先生方の対応を聞いていると、子どもが借りた奨学金のことで高齢の親が相談してくるなど、連帯保証人からの相談もあったようです。

奨学金を借りる際、保証人は自然人保証と機関保証とが選べるようになっていますが、ここで自然人保証を選ぶと、借りた本人が破産しても保証債務が残り、連帯保証人になってくれた親などに迷惑をかけることになるため、破産が事実上できないという問題があります。そのような奨学金ならではの問題に直面した場合、どのような点に注意し、また対応すればよいのかについて、研修会では詳細なQ&Aを配布していただきました。奨学金は多くの人が抱えている可能性の高い負債です。弁護士のところに相談が持ち込まれる場合もあると思います。どのような場合に返済期限の猶予や返還免除が認められるのかなど、弁護士も奨学金制度についてきちんと把握していく必要があると言えます。

4. 社会的な課題の解決に向けて

現在負債を抱えている人が、現状の制度を活用して、少しでも状況を改善することも急務です。それに加えて、奨学金問題は、学費が高額である、奨学金のほとんどが貸与型である、労働環境が悪いといった日本の社会構造に起因しているものですから、その社会構造を変えていく必要があります。学費にもっと公費を投入し、生まれた家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが十分な教育を受けられるようにすることや、給付型の奨学金を増やすこと、非正規雇用の増大を止め、労働環境を向上させること―いずれも困難な課題ですが、若者が安心して勉強でき、安心して社会に出ていけるようにするには、不可欠な取り組みであると言えます。
私の周囲でも、多くの同級生が当たり前のように奨学金を借りていましたし、「司法試験に合格できなかったら奨学金はどうやって返せばよいのだろう」と途方に暮れていた姿も記憶に残っています。若者に借金を強制することがおかしいということに、日本の社会がなかなか気づかないのは、これまでそれが当たり前と思われていたことにも原因があるのだと思います。若者は社会の未来の担い手であって、その学びや成長は、個人の利益にとどまらず、ひいては社会全体の利益につながります。教育に対する考え方が変わり、学費や奨学金のあり方を変える日が、一日でも早く訪れてほしいと思います。

あさかぜ基金だより

会 員 西 村 幸太郎(66期)

いわゆる「若者問題」、すなわち、多額の支出を強いるロースクル制度の是非と、法曹人口増加による若手の就職難等の問題が叫ばれて久しく、現在も、活発に議論がなされているようです。一方で、いわゆる「司法過疎偏在問題」は、一時に比べると、議論も落ち着いてきたようで、ゼロワン地域が解消されたことによって、同問題は解決済みだとする見方もあるようです。しかし、ゼロワン地域が解消されたことが、イコール司法過疎偏在問題の解決というわけではありません。そもそも、ゼロワン地域とは、「地方裁判所の支部が管轄する地域区分内に、法律事務所などを置く弁護士の数が、1名しかいない、あるいは全くいない地域」を指すところ、この定義から分かるとおり、便宜上、裁判所の支部を基準に設定されたものであり、裁判所の支部がない地域であっても、リーガルサービスを必要としている過疎地域は存在するのですから、ゼロワン地域の解消によって、弁護士会の当面の目標は達成したとしても、司法過疎偏在問題が解決したとみるのは、早急に過ぎると思います。司法過疎偏在問題は、古くて新しい問題であり、今なお取り組むべき重要な問題であると考えています。

ところで、私は、司法過疎偏在問題への取組みの起源を、司法制度改革にあるものと理解しています。司法制度改革は、2000年頃から着々と進められてきたものですが、意外と、その内容をよく理解している人も少ないのではないかと感じているところです。私も、細かい議論にまで精通しているわけではないですが、以下では、私なりにかみ砕いて理解している、司法制度改革の概要についてお話させていただこうと思います。

日本は、従来から、行政が、護送船団方式によって、強力な事前規制を行うことによって、事後的な紛争を避け、適正な経済活動を担保していました。しかし、不景気の影響もあり、事前規制は抑制し、ある程度自由な経済活動を行わせつつ、紛争が生じた場合は適切な事後的解決を行うことによって、適正な経済活動を担保していくという方向性にシフトしていくべきではないかという風潮が強くなっていきます。そして、ついに、いわゆる「規制緩和」がなされることになります。これが、行政改革です。その後、立法の分野でも、小選挙区比例代表並立制が採用され、より民意を反映できるように立法改革がなされます。残るは司法改革ですが、規制緩和を行った日本では、事後的な紛争解決の制度として、司法の役割が益々大きくなっていきます。そこで、司法制度改革では、(1)ロースクールの設立と(新)司法試験、(2)法テラスの設立、(3)裁判員裁判の開始を大きな柱として、改革を進めることとなりました。具体的には、(1)良質な法曹を育成するため、実務をにらんだ教育機関であるロースクールを設立し、実務家としての資質を図るために、試験内容も大きく検討し直すことになりました。また、合格者を増やすことで、法曹人口の増加を図り、マンパワーを確保し、リーガルサービスの行き届いていない地域にも、これを行き届かせようとしたのです。そして、(2)法曹と市民の距離感を縮め、法曹による紛争解決が望まれるケースを拾い上げるために、公的な機関として「法テラス」を設立することになりました。更に、(3)これまで、日本では、市民にとって、裁判の世界が縁遠いものであるという風潮があったので、市民が裁判に参加し、裁判の世界を身近に感じられるようになることで、市民が法曹による紛争解決について興味を持ち、法曹と市民の距離感を縮めようという狙いがあって、裁判員裁判が開始されたものといえるでしょう。こうした取組みにより、紛争解決の砦として「司法」が機能し、より身近にリーガルサービスを提供できるようになるとともに、全国津々浦々に、満遍なくリーガルサービスを提供できるようにしていこう、としたのが「司法制度改革」といってよいと思います。
以上述べた司法制度改革のスローガンは、「法の支配の国民的浸透」でした。つまり、法による紛争の解決を、日本の全国民が受けられるようにしていこうということです。この過程で、司法過疎偏在問題についての取組みの必要性が叫ばれるのは必然のことであり、私は、司法制度改革で掲げられたスローガンの達成のために、今なお取り組んでいくべき重要なテーマだと認識しています。

先日、当事務所の所員である島内崇行弁護士が、壱岐ひまわり基金法律事務所へ赴任することが決まりました。同じ所員として大変喜ばしいことだと思っております。当事務所は、司法過疎偏在問題に正面から取り組み、所員各人が、日々、赴任に向けて、精進しているところです。67期の2人を採用していただくことも決定し、これからも、司法過疎偏在問題の解決に取り組んでいく所存ですので、どうぞ宜しくお願いいたします。

長々と書いてしまいまして本当に恐縮ですが、本稿が、司法過疎偏在問題に興味をもつ一助となり、また、先人達が、いかにして司法過疎偏在問題に取り組み、成果を上げていったかを知るひとつのきっかけとなれば、幸いです。

給費制維持緊急対策本部だより 「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」の報告

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 副本部長
千 綿 俊一郎(53期)

1 はじめに

福岡県弁護士会では、平成26年9月6日土曜日、福岡市中央区天神のエルガーラホールにて、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会、ビギナーズネットとの共催により、「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める福岡集会」を開催しました。

当日は、「給費制」というマイナーな問題であるにも関わらず、たくさんの市民の方を含め170名を超える、エルガーラの中ホールがびっしりと埋まるほどの参加者がありました。

改めて、ご協力いただいた関係各位の皆様に感謝申し上げる次第です。

2 基調講演

当日は、法政大学教授の山口二郎先生から、「法律家育成という社会的作業」という基調講演を頂きました。

司法の位置づけとして、「多数決原理に対するブレーキ」という意味で「権力分立の柱」であること、公害事件や薬害事件のように「裁判が政策形成を担っている」という点を強調されました。

そして、「司法への市民参加」や「市民感覚を持った法律家の育成」という司法制度改革の目指すべき方向自体は正しかったけれども、経済的支援が見送られたために、格差社会を反映して、法律家になることをあきらめる若者が続出してしまっていることなどの問題点を指摘されました。

また、具体的データを用いて、現在の日本の経済情勢を分析されており、「企業収益と雇用者報酬」が逆方向に進み、富める者はさらに富み、困窮するものがさらに困窮するという状況があり、教育や人材育成という場面にしわ寄せがきているとのことでした。

安定した収入のない若者に対して、「自己責任」という名の下に、義務や負担だけを課すのは相当でないこと、高等教育については、特に「自己責任」という感覚が強いかもしれないが、経済的理由で高等教育を受けられないのは、やはり社会にとって損失であることなどを指摘されました。

さらに、国際比較をした上で、子どもの貧困の問題、特に高等教育での格差の深刻度が日本では著しいことなどをご説明いただき、「社会的共通資本」である法律家を育成するのが、社会の安定や経済の発展のためにも必要であるということを述べられました。

最後に、「なぜ、修習生だけ優遇するのか」などと言われることがあるが、そのような意見ばかり言っていては「高等教育・法曹育成における格差」を是認するだけであり、妥当ではない、修習生のこの問題こそが高等教育における機会均等実現のための突破口であるとの意見を述べられました。

3 関係団体や市民の皆様からのエールなど

福岡県医師会、福岡県社会福祉協議会、企業経営者、消費生活アドバイザーの関係団体や市民の皆様から、「法曹を目指す者への経済的支援が必要不可欠である」という熱いエールをいただきました。

それぞれ、日ごろの弁護士らとの関わりから、具体的体験に基づいてお話しいただき、非常に心強いメッセージでした。

それに引き続き、大学生や大学院生からは、これからの司法の担い手を目指す熱い思いを語っていただきました。

4 国会議員のご参加

国会議員ご本人にも複数ご参加いただきましたので、以下、ご紹介します(発言順)。

河野正美議員(衆議院、日本維新の会)は、ご自身が精神科医であるということで、「市民のための権利擁護という点で共通する、しっかり、養成していくべきだ」ということをご発言いただきました。

また、野田国義議員(参議院、民主党)からは、「今、問題となっている格差是正という意味で取り組むべき課題と思っている」、「市長をしていた経験から行政にも弁護士職員が必要と考えている」というご指摘をいただきました。

仁比聡平議員(参議院、共産党)は、「参議院の法務委員会で給費制問題を取り上げたこと、その際、3回のどよめきが起こった((1)1回で期限の利益を喪失して、14.6パーセントの遅延損害金が付くこと、(2)保証会社がオリエントコーポレーションであること、(3)国税庁の調査で弁護士の年の所得が70万円に届かない人が2割に上っている)」、「議員としても実態に目を向けなければならない」という意気込みをお話しいただきました。

原田義昭議員(衆議院、自民党)は、「この運動は長く続いてきているが、そろそろ具体的な方針を出さなければならないと考えている。以前の給費に戻すという案も財政上の問題から難しい面はあるが、他の諸々の援助、支援もあり得るので、例えば、研修医に準じた経済的支援など、具体的な案を出す段階であると考えている、日弁連の具体的運動も工夫して欲しい、また『なぜ弁護士だけが』という声を乗り越えていかなければならない」という説明がありました。

また、国会議員秘書、地方議会議員からも多数ご参加いただき、ご欠席の国会議員からも多数のメッセージを頂戴しました。

5 今後

自民党が、今年の4月に「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」を出し、「司法試験合格者数は、まずは、平成28年までに1500人程度を目指すべき」などと、司法改革審議会路線の修正を打ち出しています。これに引き続き、今年度中に、法曹養成についても、さらに踏み込んだ意見がなされるのではないかとも予想されています。

同じく、与党である公明党は、今年の4月に「修習手当のような制度を創設すること」「研修医に準じて経済的支援を行うべきこと」「貸与金の猶予、免除の要件を緩和すること」なども提言しています。

このような政治情勢の中、弁護士会としても、より一層の意見表明、積極的運動を継続していかなければならないと思います。
引き続きのご理解、ご協力をどうぞよろしくお願いします。

2014年9月 1日

「転ばぬ先の杖」(第8回)~離婚事件の「転ばぬ先の杖」って何だろう~

会 員 東 敦 子(52期)

「転ばぬ先の杖」というお題で・・とある弁護士にお願いしたのに、「私は転んでばっかりだから、そんなテーマは書けませんねえ。」ときっぱり断られてしまいました。ということで投げたボールが上手いこと打ち返されたため、東が担当させていただきます。
さて、私が受ける相談の多くは離婚(女性、たまに男性)。離婚のときの「転ばぬ先の杖」って何でしょうか?
離婚については、インターネットで検索すると様々な情報が出ており、弁護士に相談に来る前に予備知識を持っている方が多くなりました。ですが、情報が多すぎて、不安になっている人が増えた気がします。また、相談に来られる方の多くは、弁護士には「はい」か「いいえ」を求めておられるのですが、どうして、そんな質問をしているのか、どんな事情があるのかを聞かないと簡単には回答できないことばかりです。
普段の相談を振り返ってみますと・・・

Aさん「離婚したいって、先に言い出したら不利になるんですよね。」
このAさんタイプの質問をはじめて聞いたとき「都市伝説・・・?」と思いました。先に言い出したから、不利ってことはないしなあ・・・。こんな場合はどうでしょうか。~Aさんは単純に夫との性格の不一致で離婚がしたかった、ところが、Aさんの夫には浮気相手がいてAさんと離婚したいと思っていた。Aさんは、夫の浮気を知らないまま、本来、慰謝料が請求できるのにそれに気づかないまま離婚。夫の方はしばらくして再婚し、内心ラッキー~。まあ、先に言い出したから不利になったというわけではありませんが、いつのタイミングで切り出すのか、相手に離婚を切り出す前に、弁護士に相談しといてよかったわあと言っていただくこともあります。

次は、限りなく心配性のBさんです。
Bさん「私はずっと専業主婦です。夫から『お前は子どもを育てられないから、親権は取れないぞ』って、本当ですか?」
わたし「まだお子さん小さいですよね。生まれてからも、今も、お世話しているのはお母さんでしょう?」
Bさん「でも、夫は『お前と別れて、再婚でもして、その女性が育てるからいい、俺の親が育てるからいい、家事なら家政婦雇うからいい』って言うんですよ。」
わたし「再婚相手も義母も家政婦さんも『お母さん』の代わりはできないし。」
Bさん「でも、でも、私は何の資格もないし、子どもを大学に行かせられないかも。」
わたし「まだね、赤ちゃんだし、大学はもう少し先のことですよね。今、お子さんが小さいうちに、お母さんも仕事のこと頑張ってみませんか。離婚して、生活基盤が弱くても、母子を支援する制度もあるし、就業支援もありますよ。私の依頼者の方で、専業主婦だったけど、県外の母子寮に入って、看護師になった人もいるし、保育士になった人もいますよ。」
Bさんは、子どもの生活のことを思うから、将来のことを思うからこそ、自分が育てていいのか、悩みます。「子どもさんのことを、こんなに真剣に考えて悩んでいるあなたこそが、親権者にふさわしいのですよ。」Bさんは大泣きして、そのあと笑顔になって、帰っていきました。人生の大きな転機を迎えて、不安で押しつぶされそうなとき、励ましたり、支援機関につないだりすることも弁護士の仕事です。

最後に、DV加害者のCさん(男性)です。ある日、とても暗い表情で、訴状をもって相談に来られました。Cさんの暴力で大けがをした妻から届いた訴状でした。Cさんの相談は「僕は離婚したくありません。」でした。
わたし「ごめんなさいね。あなたの希望にそう結論は出せないと思うから、私は代理人になれません。」
Cさん「どうしてですか?僕のことを軽蔑するからですか?あなたが女性だからですか?」
わたし「そうではありません。この事件の内容では、私がどんなに頑張っても、離婚しないという結果を出すことはできない、それを私がわかっているから、あなたに正直に伝えているのです。」
Cさん「僕は、妻のことが大切だ。ちゃんとやり直せる。」
わたし「あなたはそう思っている。でも、奥さんはそう思っていない。私には奥さんの気持ちを変える力はない。そうなると最終的には裁判所が判断するのです。私は、裁判所は離婚を認めると思います。だから、離婚したくないというあなたのお役には立てない。ごめんなさいね。」
こんな会話が1時間、いえ、2時間は続いたでしょうか。Cさんは「わかった。僕は、あなたに代理人を頼みたい。離婚する方向で話し合いをするが、自分の意見も伝えてほしい。」と真剣に言われました。「私が代理人でよいのですか?もし、途中で気持ちが変わったら、言ってください。」と私も腹をくくって受任しました。もちろん、Cさんが簡単に割り切れたわけではありません。訴訟は離婚の方向で話し合いを続けたものの、その後の打ち合わせのときも、Cさんの気持ちは揺れ続けていました。寂しい、僕だけが悪いのか?僕が妻に手を挙げたとき、僕なりの理由はあったんだ・・・。普段は、妻の代理人をすることが多い私ですが、Cさんの立場からみた夫婦の関係、妻への思いを、一つ一つ受け止めていきました。Cさんにとって、とても苦しい時間だったと思います。Cさんは、私を解任することはなく、裁判所の和解離婚も受け入れました。Cさんが苦しみながらも離婚を受け入れた理由は「これ以上、妻に嫌われたくない。離婚したいっていう妻の希望を叶えてあげることにした。離婚は嫌だけど、受け入れる。」でした。
私は、Cさんの「転ばぬ先の杖」にはなっていませんが、転んでしまったけれど、次に進むための小さな杖にはなれたかもしれません。

シリーズ―私の一冊― 「空の如く 海の如く」(新田純子著 株式会社毎日ワンズ発行)

会 員 三 浦 啓 作(22期)

はじめに

日経か、朝日の書評で見た本である。

普段は、俳句関係の本しか読まない私が新聞の書評に惹かれて、最近の作家の本を読んでみた。

著者の新田純子は、1983年に中央公論女流新人賞を受賞した作家で、他に浅野総一郎の伝記を扱った「その男はかりしれず」などがある。

本書は、空海の幼児期から晩年までを丹念に辿った一代記である。

一代記であるから、登場人物が多く、また時間軸も長い。できれば弁護士お得意の登場人物の関係図や年表などを作りながらお読みになることをお勧めする。

司馬遼太郎との比較

空海については、以前に司馬遼太郎の「空海の風景」を興味深く読んだことがあった。

司馬遼太郎の「空海の風景」が一々証拠や傍証をもって論証していくのに対し、本書は、ほとんど証拠傍証を援用することはない。あたかも神の目で空海の一生を眼前に見ているような書き方である。

先ず、この本を読んで感じたことは、文章のスピード感である。1文平均20字ないし30字くらいであり、そのスピード感は読みながら小気味良いくらいである。

次に、ほとんど半頁か1頁くらいで場面が転換する。いわゆる映画やテレビのモンタージュ手法である。この場面転換の速さが文章のスピード感と併せて読者を飽きさせない。

また、本書の文章はほとんど現在形で書かれている。それによって一層臨場感が出ている。

空海の母方は宗像族と関係

空海は幼名を「真魚(まお)」といい、西暦774年、讃岐国多度の郡(こおり)の長(おさ)・佐伯善通の五男として生まれた。

善通の妻、つまり空海の母親の実家の阿刀(あとう)氏は、九州の宗像一族との関わりが深い。冒頭に、空海と宗像一族との関わり合いが出てきたので、この本に引き込まれた。

東大寺大学寮に入る

空海の母方の伯父に、桓武天皇の次男である伊予親王の教育係に抜擢された阿刀大足(あとうおおたり)なる者がいた。聡明な空海は、満15歳の時に、その伯父に連れられて奈良の都に出る。

18歳のとき、伯父阿刀大足の助けもあって、東大寺大学寮に入る。しかし、そこでの修行に飽き足らず、渡来僧の菩提僊那(ぼだいせんな)を知っている大安寺の僧戒明(かいみょう)に出会う。戒明の示唆もあり、菩提僊那から伝えられた宇宙の普遍的波動に自分の魂を同化することができる「虚空蔵求聞持法(こくぞうくもんじほう)」の修行に入る。空海は厳しい苦行の末に終に虚空蔵求聞持法を習得する。

その後、空海は密教の根本を習得するためには、唐に渡って密教の正当な第一人者から教えを受けなければならぬと考えるようになった。

遣唐使船に乗る

伯父大足の斡旋で、空海は、運良く遣唐使船に乗ることが出来た。

空海と同じ機会の遣唐使船に乗った者の一人に最澄がいた。当初、4隻で出発した遣唐使船は、空海と最澄が乗った2隻のみが無事に唐に辿り着いた。

密教第一人者恵果(えか)との出会い

唐の長安では、密教の正当な承継者である恵果と、まるで仏が引き合わせでもしたかのように出会う。恵果は、他の弟子達を差し置いて、空海に対し、真言密教の第一人者となる灌頂の儀式を授けた。それによって、それまで金剛頂系の流れと大日経系の流れの二つに分かれていた密教の教えは一挙に空海という一人の人物に伝授されることになった。第一祖龍猛菩薩から数えて、恵果は第七祖であり、空海は第八祖に当たる。恵果は空海に教えを伝授すると、程なく亡くなってしまう。

その頃、折良く唐の徳宗帝が崩御し、日本から国使が派遣されることになり、空海は、その帰りの船に便乗して帰国することができた。

歴史の襞

空海の帰国の道程として、途中、唐の越州についた後、太宰府に到着するまでの間に4ヶ月の空白期間がある。

この4ヶ月の間に、空海は越州で膨大な仏典を集めさせていたことになっているが、著者は、この4ヶ月間に空海が秘かに佐渡或いは能登に帰国し、密教の道具類を、安全のために佐渡と能登に上陸させたと書く。今で云えば、密航である。これによって佐渡と能登は真言密教有縁の地となった。この部分は、今まで誰も書かなかった著者の創作である。

高野山の建設

その後、帰国した空海が高野山に一大伽藍を建築し、最後に、そこで、入定するまでが詳細に描かれているが、それから先はお読みになってのお楽しみとしておこう。

空海は、真言密教の第一人者として、多忙な日々を過ごしながら、全国津々浦々を巡っていわゆる空海伝説なるものを残している。

筑後川のエツ

筑後川の河口付近にたどり着いた空海が、向こう岸に渡るのに、舟を見つけて、船頭に渡してくれと頼む。船頭は二つ返事で乗せはしたが、金を払ってもらえるかどうかが心配であった。渡り終えると、案の定、空海は船賃に関しては素知らぬ顔。しかし、岸辺近くの葦の葉を小刀で切り取り、それを河に浮かべた。すると、その葦の葉は、銀鱗を閃かせて泳ぎ始めた。これが筑後川のエツである。その後、その船頭は季節になると、エツを捕って暮らしたとのことである。

最後に(最澄との関係)

もう一つ本書で読み応えがあるのは、同時代に生きた最澄との関係である。同じ機会の遣唐使船で唐に渡った最澄と空海は、最澄が空海より7歳年長である。最澄は既に都において朝廷の力を背景に仏教界における第一人者としての地位を築きつつあった。それに対し、空海は一介の私度僧(しどそう)に過ぎなかった。また、最澄は、唐における滞在期間を当初から1年間と決めていた。それに対し、空海は、当初は7,8年を予定していたが、まことに都合良く、密教の正統な承継者第七祖の恵果に巡り会い、正統な密教を伝授され、密教の第八祖となる僥倖を得たので、当初の予定を切り上げて2年で帰国した。

帰国後の空海に対する最澄の微妙な態度の変化も見所である。

給費制本部だより ~7.13札弁市民集会報告~

会 員 清 田 美 喜(66期)

1.はじめに

福岡部会の66期の清田です。会員の皆様には、常日頃給費制の復活を目指す活動への温かなご理解とご尽力をいただいておりますこと、心より感謝を申し上げます。

去る7月13日に、札幌弁護士会主催、日弁連・道弁連・ビギナーズネット共催で行われた、「司法修習生への給費の実現と司法修習の充実を求める札幌集会」に、当会から市丸信敏先生(35期)、髙木士郎先生(新64期)、國府朋江先生(新65期)、石井衆介先生(66期)とともに出席してまいりましたので、ご報告申し上げます。

2.集会の模様

集会当日は、札幌らしからぬ少し蒸した天気でしたが、100名ほどの方が会場に足を運んでくださいました。

集会は国会議員の先生方のご挨拶に始まり、与野党を問わず、地元の先生方から熱のこもったお話がありました。国会議員の本人出席が6名、代理出席が4名、メッセージを寄せられた国会議員が14名、市議会議員の本人出席が1名と、多くの議員の方々から賛同の声を寄せていただくことができました。

また、賛同団体として、道医師会会長、消費者協会専務理事、連合北海道事務局長と、幅広い団体のトップクラスの方々が出席し、激励の言葉を述べられました。

当事者の声として、東京の新65期、札幌の66期2名、北海道出身のロースクール修了生が、それぞれの体験に基づく給費制復活への思いを述べました。

3.集会の特徴

今回印象的だったのは、自らの体験に引き付けてこの問題を語る声が複数聞かれたことです。例えば、議員の方の中で、裕福でない生活の中、ご家族が副業をこなして進学資金を捻出してくださったというご経験をお持ちの先生は、生まれた場所や家庭ゆえに法曹になれない者が生まれることを憂慮されました。また、医師として研修医時代に苦労された経験をお持ちの先生は、自分の生活すらままならなくて人のために尽くせるだろうかと訴えかけられました。

道医師会会長は、「自分が医師になろうとした頃はインターンが終わった後に国家試験を受ける制度になっており、資格もなく稼ぎもないという中途半端な身分を味わった。その頃、司法修習生は給与を受けており、自分たちと随分違うなと思っていた。今、司法修習生の給与が廃止されていることは不条理であると思う。人権を守るためにきっちり仕事をしてもらいたい、そのために経済的裏付けが必要であり、一日も早く給与が復活されることを願う」という深いお話をしてくださいました。また、消費者協会からは、自分たちとともに消費者トラブルの予防解決に取り組む存在であった弁護士に、お金持ちしかなれないようになることは社会全体の損失であるし、民主主義を危うくしかねない問題だという強い危機感が示されました。連合からも、電話相談や、労使交渉の場面で、決してお金になる仕事ではないが、弁護士がともに取り組んでくれると、その存在意義を訴える言葉がありました。

このように、給費制の問題が、単に修習生が給与をもらえなくて気の毒だというものにとどまらず、広く優秀な人材を法曹界に集めるためにも、また市民の権利を守るという法曹のあるべき姿を維持していくためにも、給費制の復活がぜひとも必要だということを列席の方々が深く理解され、ご自身の実感のこもった言葉で語られることに、驚きと、深い感動を覚えました。

4.当事者の声

当事者からも、自らの体験に基づく生の声を聞くことができました。札幌の66期2名は、「一度は家族から経済的援助を断られ進学を諦めたが、頼み込んで援助をしてもらった。経済的理由で進学を諦めようとした時の辛い気持ちを、後輩に繰り返してもらいたくない」「やっと試験に合格して、親に報告できたと思ったのに、続けて連帯保証人になってくださいと言わなければいけなかった」と、それぞれの辛さや悔しさを語り、とても身につまされるものがありました。

現在、今年の試験の結果を待っているという修了生からは、テレビドラマを見て検事に憧れ、司法試験を志したが、貸与制になる以前にもお金がかかることを知って躊躇した、貸与制になった今、インターネット上でも「法曹になるにはすごくお金がかかります」「奨学金などは自分の努力で減らすことができるが、貸与金は避けて通れません」などという言葉を目にするようになり、自分と同じようにドラマを見て憧れた若い人の夢がすぐに潰えてしまうのではないか、この制度は絶対に間違っているという、素朴でまっすぐな怒りの声が上げられました。

後に続く後輩たちのためにも、この運動を何としても成功させようという思いは、私だけでなく、集会の場に集った法曹関係者、来賓の方々の胸にも、きっと強く刻まれたことと思います。

5.リレー集会に向けて

札幌集会の最後に時間をいただき、当会で9月6日に行う給費制復活の市民集会の案内をさせていただきました(写真はそのときの模様です)。

札幌、福岡に続き、仙台、名古屋、岡山と各地で市民集会が行われる予定になっています。

この月報が皆様のお手元に届く頃には福岡集会は終了していますが、一人でも多くの会員の皆様に足をお運びいただき、大成功の裡に終われることを祈ってやみません。
今後も引き続き、給費の復活に向け、皆様の心強いご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

2014年8月 1日

「転ばぬ先の杖」(第7回)「いきなり解雇はまずいでしょ」~企業の経営者・人事担当者の方へ~

会 員 杉 原 知 佳(51期)

「転ばぬ先の杖」シリーズは、一般市民の方に、「もっと早く弁護士に相談すれば良かったのに」と思って頂く事例をご紹介するシリーズだそうです。

今回は、一般市民の方、特に企業の経営者や人事のご担当者にお読み頂くことを念頭において執筆させて頂きます。弁護士の皆様は、どうぞ、読み飛ばして下さい。

1 働かない課長を解雇

A社には、ほとんど働かず、会社内をいつもウロウロしているB課長(55才)がいました。B課長は、就業時間中、携帯電話で長時間ゲームをしたり、時には、無断で外出することもありました。

2年前に父親から社長業を引き継いだ若社長は、先代社長の時代から長年勤務しているB課長をどう扱ってよいか分からず、社長も、B課長の上司である部長も、B課長に対し、あまり仕事を与えることもせず、注意や指導をすることもありませんでした。

B課長は、勤続年数は長かったので、真面目に働いている若手社員よりも給料は多く受け取っていました。社内では、ほとんど働かないB課長に対する不満が囁かれ、社内の雰囲気も悪化していました。

あるとき、B課長は、いつものように、上司である部長に断ることなく外出し、2時間後に戻ってきました。堪忍袋の緒が切れた社長は、B課長を呼び出し、「お前なんか、クビだ。解雇だ」と解雇を言い渡しました。

その1ヶ月後、A社は、B課長の代理人である弁護士から、「解雇は無効です。これまで通り、毎月の給料を支払って下さい」という内容証明郵便を受け取りました。

2 返事をしなかったら、労働審判を起こされた

A社の社長は、弁護士ではない専門家に相談した上、B課長の代理人である弁護士に返事はしませんでした。

そうしているうちに、A社は、B課長から、「従業員の地位にあることを確認する。毎月の給料を支払え」という内容の労働審判を起こされました。

3 裁判官から「いきなり解雇はまずいでしょ」

A社は、労働審判が起こされたので、ようやく弁護士を探して相談に行き、労働審判の代理人になってもらいました。

労働審判において、A社長は、裁判官から「確かに、B課長が働かないことで社内の人たちが苦労していたことはよくわかりました。でも、いきなり解雇はまずいでしょ」と言われ、解雇は無効であることを前提に、それなりの解決金を支払わなければなりませんでした。

そうなんです。いきなり解雇はまずいのです。横領をしたり、悪質なセクハラをした場合などはともかく、「ほとんど働かない」、「就業時間中にゲームをする」、「無断で外出する」といった状況だけでは、注意・指導することなく、いきなり解雇した場合、裁判所においては、その解雇は無効と判断されることが多いのです。

4 問題社員に対する対応の仕方

会社内に「問題社員」がいる会社は多いと思います。問題社員に対しては、いきなり解雇するのではなく、慎重に対応しなければなりません。

会社としては、問題社員に対して、例えば次のような対応をすることが考えられます。

(1)まずは、問題社員に対しても、他の従業員と同様、仕事を与えましょう。仕事を与えないことが「パワハラ」と言われる可能性もありますし、仕事を与えないと、注意・指導をして改善の機会を与えることも出来ません。(2)問題社員が問題行為をしたら、上司がその都度、注意・指導しましょう。但し、大勢の前で上司が怒鳴ると、後に「パワハラ」と言われる可能性がありますので、注意・指導は余り人目に付かない場所で、冷静にする必要があります。(3)問題社員の問題行為やそれに対する注意・指導については、きちんと記録しておきましょう。(4)場合によっては、問題社員自身に問題行為についての報告書等を提出してもらいましょう。(5)問題行為が繰り返される場合には、「指導書」等の文書で注意・指導しましょう。(6)それでも問題行為が繰り返される場合には、軽い懲戒処分(譴責等)をしましょう。(7)その後も、問題行為が繰り返されて初めて、退職勧奨、解雇を検討することになります。

(以上の手順のうち、状況によって、省略できるものもあります)

5 弁護士の活用

上記のとおり、問題社員に対しては、注意・指導を重ね、改善の機会を与える等、慎重に手順を踏むことが必要です。

弁護士は、訴訟や労働審判になってから代理人として活動することはもちろんですが、それ以前の段階から問題社員の対応等のご相談もお受けしています。
訴訟や労働審判等の紛争にならないように、予防的な観点からも弁護士をご活用いただければと思います。お近くの弁護士又は福岡県弁護士会の各地の法律相談センターにご相談下さい。

2014年7月 1日

「転ばぬ先の杖」(第6回)

法律相談センター委員会委員 甲 木 真 哉(55期)

1 身近にある刑事事件

「刑事事件」というと、多くの皆さんは「自分には関係のない事件」「関係するとしても被害者側だろう」と思われるのではないでしょうか。

しかし、弁護士として法律相談を受けていると、対応を誤ると刑事事件になりかねないケースに当たることがしばしばあります。

そこで、今回の「転ばぬ先の杖」では、身近にあるトラブルで、対応を誤ると刑事事件になりかねないようなケースで、弁護士に相談・依頼したことで大きな問題とならずに解決した事例を、いくつか紹介したいと思います。

2 お酒に酔った上でのトラブル

飲食店などでお酒を飲み過ぎ、酔っ払って周りのお客さんや従業員とトラブルになる・・・。皆さんの周りでも、聞くことのある話ではないでしょうか。

しかし、そこで叩いたり蹴ったりしていれば暴行や傷害罪ということになりますし、物をわざと壊していれば器物損壊罪、相手を脅すようなことを行っていれば脅迫罪に当たります。

やった本人としては、酔っていてよく覚えていないこともあり、「飲みすぎて失敗してしまった」というぐらいの認識でしかなくても、被害を受けた側の受け止め方は全く違うかもしれません。

酔った上でのことではあるので、ちゃんと謝罪なり弁償なりがあれば許すつもりだが、何の音沙汰もないようであれば、警察に正式に被害届を出そう・・・そんな風に考えているかもしれません。

このような場合、早期に対応することが重要です。

実際の相談事例でも、早い段階で弁護士に相談をし、適切なアドバイスを受けて相談者本人が被害者に謝罪や被害弁償を行い、事なきを得たケースもありますし、記憶がほとんどないために本人では謝罪や弁償がしづらいケースで、弁護士が依頼を受けて被害者と示談交渉を行い、無事に示談が成立して刑事事件にはならなかったというケースもあります。

一方で、対応が遅くなって正式に被害届が出され、警察に逮捕された後に、当番弁護士という形で呼ばれたというケースも多いです。

逮捕された本人から話を聞くと、ちゃんと謝罪や被害弁償をしていればこうならなかったと思われるのに、それほどのことでもないと思って対応を怠ったために逮捕されてしまったというような話だったりします。

もちろん、逮捕された後でも、被害弁償を行って不起訴を目指すことができますが、一番いいのは刑事事件にならずに逮捕もされないことです。

何かトラブルを起こしてしまったというときは、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。

3 わいせつ事件

強姦や強制わいせつなどの性犯罪は、処罰が重くなっている傾向にあります。

その意味でも性犯罪は重大事件なのですが、男性としては無理やりというつもりではなかったけれども、女性から見ると意に沿わずに性的なことをされてしまった・・・というような顔見知りや友人同士での関係で、性犯罪に問われる事例も少なくありません。

このようなケースは、対応を誤れば、よりシビアな状況になりかねません。

一方で、男性が直接被害者に接触を図ること自体、二次被害を生みかねませんので、きちんと対応をするためにも、第三者、できれば弁護士に間に入ってもらった上で、解決を図るのが望ましいと言えます。

男性側に無理やりしたという意識がなく(故意がなく)、厳密には強姦罪や強制わいせつ罪が成立しないというケースもあるわけですが、女性に対して大きな精神的損害を与えたことに違いはないですし、重大事件ですので刑事事件になったり逮捕されたりすること自体が大変なことです。

「こんなことで刑事事件になるはずがない」などとタカをくくらず、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。

4 結語

早い段階で対応したために刑事事件にはならなかった、あるいは対応が後手に回ったために刑事事件になってしまった、というケースは、他にもたくさんあります。

自分は関係ない、自分の家族は関係ない、自分の周りの人間は関係ない・・・そんな風に決めつけずに、トラブルを起こしてしまい、不安が残るようであれば、まずは弁護士にご相談ください。

きっと、あなたの「不安」を「安心」に変えてくれるはずです。

給費制維持緊急対策本部だより ~日弁連の会議に出席してみての感想~

会 員 中 嶽 修 平(66期)

はじめに

去る5月27日、日弁連会館にて開催された給費制対策本部会議に、市丸健太郎委員の代理として出席しました。当会からは、私の他に、鐘ケ江啓司委員、髙木士郎委員が出席し、千綿俊一郎委員がTV会議で出席しました。

給費制対策本部会議は、月2回のペースで開催されており、他の日弁連会議と比較しても、その回数は多く、日弁連の中での関心の高さがうかがえます。そのため、遠方ながら出席している委員もおり、活発な議論が繰り広げられていました。

事前打合せ

給費制対策本部会議は、午後5時からですが、それに先立ち、午後4時から事前打合せが開催されています。事前打合せは、TV会議では中継されていません。そのため、給費制対策本部会議に出席することの意義は、まさに、この点にあるのだと思いました。

今回の事前打合せでは、貸与制の問題を、司法修習との関連で新たな視点から訴えることはできないか、ということについて議論しました。丁度、私が66期で貸与を受けていたことから、司法修習の現状や、貸与制に対する感想や不便さなど、貸与制の下で修習を行った弁護士の声を届けることができたのではないかと思います。ただし、貸与制の問題を司法修習と関連づけて議論することは、司法修習自体の問題にもなってしまうことから、今回の事前打ち合わせでは結論は出ませんでした。次回以降の事前打合せに期待します。

給費制対策本部会議

給費制対策本部会議は、TV会議を利用して、各地の委員も参加して、活発に議論が繰り広げられました。

まず、最高裁判所関係について、司法修習中の交通費・住居手当だけでも推進室に提案してもらえないかと、要望しているが、実際には厳しい状況であるとのことでした。というのも、67期司法修習生からは、経済的支援として移転費が支給されていますが、その予算を獲得するにあたり、財務省から相当厳しい注文があり、結果的に、最高裁が詰め腹を切らされるような事態になったからだそうです。

次に、自民党の動きとして、修習生に対する経済的支援についての提言が、平成26年7月末に出る予定でしたが、それが平成26年度末まで延期になりました。自民党内の文科部会で法科大学院の見直しPTが立ち上げられ、その中で法科大学院生に対する給付型奨学金を求めるなどの動きが起こっており、法科大学院制度の問題と給費制の問題とをセットで検討する必要があるためとのことでした。

給費制本部としては、予備試験、法科大学院ともに、最終的には司法修習に来るということ、法科大学院の問題とセットになると給費制の問題が後回しになるおそれが高いことから、法科大学院の問題と給費制問題がセットで論じられるのはおかしいという議論がされました。

今後、各地で市民集会が開催される予定ですが、自民党の修習生に対する経済的支援についての提言が平成26年度末に延期されたため、テーマやスローガンなどについてもその練り直しの必要性がでてきました。

おわりに

実際に会議に参加し、改めて、財務省のハードルの高さを痛感しました。給費制の問題は、予算措置を伴うことから、政治家や財務省を動かす必要がありますが、そのためには、市民集会などを通じ、国民の支持を得て、政治家に訴えかけていかなければなりません。

給費制問題の解決まで、まだまだ、先は長いですが、粘り強く取り組んでいきたいと思いました。

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