福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2016年1月 1日

あさかぜ基金だより ~あさかぜを卒業します~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 中 嶽 修 平(66期)

1月から人吉市で

あさかぜの弁護士は、2年の養成を受けたあと、九弁連管内の弁護士過疎地域に赴任または開業することになります。私があさかぜに入所してから2人の先輩弁護士があさかぜを卒業していきましたが、ついに私自身があさかぜを卒業する順番となり、平成28年1月から、弁護士過疎地域の一つである熊本県人吉市にて独立開業することになりました。

あさかぜ事務所での養成について

あさかぜ事務所は、弁護士過疎地域に赴任する弁護士を養成するための事務所であり、福岡県弁護士会のあさかぜ基金法律事務所運営委員会や九弁連のあさかぜ基金管理委員会をはじめとして、多くの弁護士先輩に携わっていただいています。

私も、あさかぜ委員会の委員をはじめとして、指導担当、あさかぜ応援団など多くの弁護士先輩と事件をご一緒してきました。そのため、事件処理にあたりさまざまなノウハウを吸収することができ、とても貴重な経験を積むことができました。さらに、あさかぜの事務所会議を通じて、事務所経営のあり方も考えることができ、事務所の経営者としての経験も積むことが出来ました。人吉市でもこれらの経験を活かしていきたいと思います。

人吉市での独立開業について

私の出身地は、熊本県球磨郡水上村という人口2400人ほどの小さな村で、人吉市から車で1時間のところにあります。また、私は、大学を卒業したあと、平成16年4月から平成20年3月まで人吉市役所で勤務していました。人吉市役所時代には、地元消防団にも所属し、地域づくり活動にも参加するなど、地元住民とふれあう機会が数多くありました。そのような縁もあり、将来的には人吉・球磨地域に戻ろうと考えていました。

私は、あさかぜでの養成を終えたら、ひまわり基金法律事務所への赴任を考えていましたが、養成が終わるタイミングでのひまわり基金法律事務所の後任所長の空きがありませんでした。そこで、養成終了後すぐに人吉市での独立を検討しましたが、開業資金や子どもの教育面など、いろいろ不安がありました。しかし、開業資金については日弁連による偏在対応弁護士等経済的支援、子どもの教育面をはじめとする生活全般については妻のバックアップにより、それらの不安を解消することができ、人吉市での独立開業を決心しました。

私の事務所が入居するテナントは、国宝に指定されている青井阿蘇神社の蓮池のすぐそばにあり、蓮池を眺めるには絶好のロケーションとなっています。蓮池の周囲には桜も植えてあり、桜と蓮の花が心を和ませてくれます。さらに、昼過ぎにはSLの汽笛が鳴り響き、静かな空間に心地よいアクセントとなっています。人吉市に来られたときには、ぜひ、事務所にお立ち寄り下さい。

人吉市の魅力について

福岡市内から人吉市までの交通アクセスは格段に良くなっており、JR九州のB&S(高速バスと新幹線のセット)を利用すれば、2時間もかかりません。

人吉市といえば球磨焼酎と温泉が有名です。また、日本三大急流の一つである球磨川では、球磨川下りやラフティングを楽しむことができます。さらに、鰻をはじめとする美味しい食べ物もたくさんあります。

ラフティングを目一杯楽しみ、温泉でその疲れを癒やし、鰻と球磨焼酎を堪能するという日帰りツアーを企画してはいかがでしょうか。もちろん、現地の案内役を務めさせていただきます。

おわりに

私はあさかぜを卒業しますが、あさかぜでの経験は一生の宝となりました。今後は、人吉・球磨地域において、司法サービスを必要としている住民のために全力を尽くしていきます。

また、あさかぜには新たに68期の弁護士が2名加入します。あさかぜの弁護士一同、弁護士過疎問題解消への熱い思いを胸に抱きながら日々研鑽を積み、赴任の準備を着々と行っております。引き続き、ご支援ご協力をいただきますよう、よろしくお願いします。
最後に、あさかぜ委員会をはじめとする皆様には大変お世話になりました。本当にありがとうございました。

2015年11月 1日

「転ばぬ先の杖」(第20回) 暴力団等反社会的勢力との関係遮断の方策について

民事介入暴力対策委員会委員 藏 健一郎(55期)

暴力団等の反社会的勢力に対する規制強化の一環として、各都道府県で続々と暴力団排除条例が制定されたことは周知のとおりです。条例の内容は各都道府県により様々ですが、多くの条例では、暴力団側だけでなく、一般事業者側の行為も規制の対象となっている点に注意が必要です。

例えば、福岡県暴力団排除条例では、一般事業者に対して、暴力団員等への利益供与を禁止する規定が設けられています。具体的には、同条例第15条において、一般事業者が暴力団員等に対し、(1)暴力団の威力を利用する目的で金品等の利益を供与すること、(2)行う事業に関し、暴力団の活動または運営に協力する目的で、相当の対償のない(取引の対価に見合わない)利益を供与すること、(3)行う事業に関し、暴力団等に対し、情を知って、暴力団の活動を助長し、または運営に資することとなる利益の供与をすること、等が禁止されており、(1)に違反した場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則が設けられ、(2)に違反した場合も、罰則規定はないものの、公安委員会の是正勧告の対象となるうえ、正当な理由なくこれに従わない場合には公表できることとされています。

暴力団側だけでなく、一般事業者側も規制、処罰の対象とされた理由は、暴力団側のみの取り締まりでは限界があり、活動資金のもとである事業者からの資金供給を絶つことが効果的という観点によるものです。しかしながら、裏返していうと、一般事業者が暴力団側の威力に屈して利益の供与(例えば、不当に高額な商品の購入)に及んだケースでも、単純に被害者として同情されるとは限らず、場合によっては勧告・公表の対象になるわけですので、一般事業者にとって非常に怖い一面もあります。

このように、現状では、暴力団等反社会的勢力と関係をもつこと自体が、事業存続にとって大きなリスク要因となってきているといえます。事業者の皆様方におかれては、このことを念頭におかれたうえ、(1)暴力団等反社会的勢力との関係を予め遮断するよう今まで以上に注意を払うとともに、(2)仮に取引先が暴力団等反社会的勢力であることが後日判明した場合は、速やかに取引を解消できる措置を予めとっておくことが必要と考えられます。

暴力団等との関係を事前に遮断するための方策としては、事業所内部における社員教育の徹底、不当要求責任者講習の受講の他、顧問弁護士制度等を活用し、日常的に外部の専門家と連携しておくことも有効です。また、何か問題が生じた場合は、早期に関係各機関(警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等)に相談することが重要です。

一方、事後的に取引先が暴力団等であることが判明した場合の方策としては、取引契約書にいわゆる暴力団排除条項を予め設けておくことが効果的です。取引契約書の中に、(1)暴力団等反社会的勢力との取引を予め拒絶する旨の規定や、(2)取引が開始された後に相手方が暴力団等反社会的勢力であることを知った場合は、契約を解除してその相手方を取引から排除できる旨の規定(これらの規定が暴力団排除条項と呼ばれます)を設けておけば、速やかな取引解消のための大きな武器となります(前述した福岡県暴力団排除条例でも、当該条項を導入することが事業者の努力義務として規定されています)。

具体的な暴力団排除条項の作成にあたっては、各業界団体で作成されているひな型を参考にされてもよいですし、弁護士に個別に相談頂ければ、事業内容や実情に応じた適切なアドバイスが可能ですので、気軽にご利用頂けたらと存じます。

あさかぜ基金だより ~諸先生方より学んだこと~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所
弁護士 西 村 幸太郎(66期)

事務所経営に関する勉強会について

当事務所は、弁護士過疎偏在問題に取り組む事務所です。その一環として、来年1月には、当事務所の中嶽修平弁護士が、熊本県人吉市で独立する予定です。弁護士過疎偏在を解消する一助になると確信しています。

中嶽弁護士は、開業準備に奔走中ですが、その姿を目の当たりにしている私たち所員も、この機に、弁護士過疎地域に赴任後、あるいは独立後を見すえ、一緒に、広い意味での事務所経営の勉強をしていこうと思い、さまざまな勉強会を行ってきました。

事務所経営については、各事務所で、創意工夫を凝らして、取り組んでいるところであると思います。先輩弁護士のお話もうかがいながら、自分なりに、事務所経営について、深めているところです。以下では、思いつくままですが、とくに印象に残っている学んだことについて、記載してみます。

事務所経営を学ぶ意義について

なぜ、事務所経営について、学ぶ必要があるのでしょうか。

ある先輩弁護士はこう言います。弁護士は、社会正義の実現のため、成し遂げたい本懐があるはずだ。これを全うするための手段としても、経営をしっかり行うことは、重要なのだと。

またある先輩弁護士はこう言います。経営者の悩みが分からない者には、依頼は来ないと。特に、中小企業のオーナーが依頼者である場合などは、自分の事務所の経営もできていないような弁護士に、依頼したいと思うだろうかと。

そもそもの、経営を学ぶ意義についても、さまざまなとらえ方があることが分かりました。自分も、しっかりと考えていきたいと思いました。

具体的な人に向けた働きかけの重要性について

抽象的・理念的なことから、個別具体的な広報活動まで、さまざまなことを学びましたが、広報の在り方として、共通していると感じたのは、抽象的な誰かではなく、ある特定の具体的な人をイメージしながら、営業活動・広報活動をすべきだということです。

目の前の依頼者に対しては、当然、その人に対して全力でぶつかっていくべきです。これは、広報活動でも同じです。たとえば、現在、ホームページは、情報発信のための、1つの媒体として、浸透しています。このホームページの在り方1つをとっても、とにかく全般に向けたホームページより、法人なら法人、個人なら個人、経営者なら経営者、従業員であれば従業員、男性であれば男性、女性であれば女性といったように、メッセージを届けたい相手を具体的にイメージし、その人に向けた、その人に語りかけるような内容を目指すことにより、感銘力が異なってきます。もちろん、営業活動においても同様で、目の前にいる人に応じ、相手が何を求めているのか、どのような人に、どのようなことを依頼したいと思っているのかをイメージした、個別具体的なやり取りによって、目の前の人の心を掴んでいき、関係を築いていけるのだと思います。

あるべき弁護士像、事件との向き合い方について

私たち弁護士は、ゼネラリストでありスペシャリストであるべきだ。

私が、今後、胸に留めて活動していきたいと思った言葉です。つまり、弁護士として、どんな依頼にでも、一定程度は対応する能力が必要であるとともに、(少なくとも)実際に受任した事件については、高度の専門性をもって対応できるよう、研鑽を積まなければならないということです。それが、1つ1つの事件に、真摯に取り組むということでもあると思い、大変胸に響きました。そして、結局は、そうした積み重ねこそが、次の依頼を引き寄せていくのだということです。

思いつくままに、これまで学んできたことを述べてきましたが、これを実践できるかということこそが、問われていると思います。これらの教えを大切にし、自分でもしっかり考えながら、1日1日を大切に、今後も、精進していく決意です。

引き続き、よろしくお願いします。

「国際仲裁セミナー」開催のご報告

国際委員会・中小企業海外展開法的支援プロジェクトチーム委員
浜 田  宏(57期)

1 はじめに

月報8月号でご案内致しました、日本弁護士連合会主催・福岡県弁護士会共催の「国際仲裁セミナー」を、去る平成27年9月25日(金)に開催いたしましたので、ご報告申し上げます。

本セミナーは、弁護士、企業法務担当者等を対象として開催された無料セミナーであり、約100名程度のご参加を予定しておりましたが、後援機関による広報活動へのご協力を頂くことができ、事前に108名もの参加申込を頂き、当日も91名(弁護士53名、企業関係者27名、その他11名、実行委員会関係者を除く)もの方にご参加頂くことができました。

2 講演「国際商事仲裁の基礎知識と活用戦略~新興国取引・投資を視野に入れて~」

本セミナーは二部構成で開催され、第一部は、日弁連法律サービス展開本部国際業務推進センター・国際商事投資仲裁ADR部会委員である早川吉尚弁護士(立教大学教授)による講演「国際商事仲裁の基礎知識と活用戦略~新興国取引・投資を視野に入れて~」が行われました。

講演は、早川先生の豊富な学識と実務経験に基づく大変中身の充実した濃い内容でした。まず、新興国投資におけるリスクと法務戦略の必要性という観点から、新興国においては法的インフラ(法制度、裁判制度等)が未整備であったり、信頼性を欠くものであることも少なくなく、法的リスクヘッジ手段として国際仲裁法制を戦略的に利用することが有意義であることを強調された上で、国際仲裁法制についてわかりやすくご説明頂きました。国際商事仲裁の利点として、「国際的中立性」「専門性」「手続の柔軟性・迅速性(控訴審がない)」「秘密性(紛争の存在自体を秘密にできる)」「国境を越えた執行可能性(ニューヨーク条約の存在)」が挙げられ、具体的にご説明頂きました。問題点として、裁判では必要とされない仲裁人の報酬が負担となるのではという懸念については、国際商事紛争の解決におけるコストの大部分は弁護士報酬であり、仲裁手続の迅速性を考慮すれば、早期解決出来る場合には裁判手続よりも低いコストで解決できる場合もあるとご説明を頂きました。また、仲裁手続を利用するには当然ながら仲裁合意が必要ですが、その仲裁地の選択についても事前に十分な検討が必要であること、例えば、新興国を仲裁地とした場合、仲裁判断を現地裁判所により取り消されるリスク(仲裁合意の不存在、公序良俗違反等を理由とする)があること等についても詳しくご解説頂きました。

そして、前述したリスクに鑑みれば、新興国投資においては、投資対象国以外の仲裁機関、とりわけ主要仲裁機関(ICC、AAA、SIAC、JCAA、CIETAC)、及びインド、ベトナム、インドネシア、ロシアといった、幅広い新興国の仲裁機関の実情等についてご説明頂きました。

さらに、国家による事後規制によって海外投資主体が損害を蒙ることがないよう、国家間で投資保護協定が締結されることがあり、同協定に基づく投資協定仲裁の戦略的活用についてもご解説頂きました。

講演時間は約70分と非常に限られた時間でしたが、上記の通り非常に高いレベルのお話しをわかりやすくお話し頂くことができ、参加者にご記入頂いたアンケートでも「基本的な部分も含め、仲裁の方法、メリットをご教示いただき、非常にわかりやすかったです。」「国際商事仲裁に関する実務的知見が得られて有益だった。」「内容満足です。やはり、きちんと研究している方の話はレベルが高いです。」といった高い評価を頂きました。

3 パネルディスカッション

第二部は、早川先生に加え、国際仲裁のご経験が豊富なジェイコブソン・クリス弁護士(福岡県弁護士会)、既に海外展開をされている企業パネリストとして、鶴田直氏(環境テクノス株式会社代表取締役社長)、重光悦枝氏(重光産業株式会社代表取締役副社長)の4名パネリスト、及び紫牟田洋志弁護士(福岡県弁護士会国際委員会委員)をコーディネーターとして、パネルディスカッションを行いました。

パネルディスカッションでは、早川先生の講演を踏まえて、会場からのご質問や、企業パネリストの方からのご質問に、早川先生やジェイコブソン先生から的確な回答を頂くことができました。また、ジェイコブソン先生からは、仲裁のご経験に基づく事例のご紹介を頂き、アンケートでも「ジェイコブソン弁護士の事例の紹介はとても参考になった。」とのご意見を頂くことができました。

4 おわりに

本セミナーは、日弁連国際業務推進センターから開催のご提案を頂き、他の地域に先駆けて福岡で開催されたものです。今回のセミナーでは、前述の通り、参加者の方から大変ご好評を頂くことができました。特に企業参加者の方からは、「元々、福岡ではこのレベルのプロ(弁護士、企業実務家)向けのセミナーが全くないので、各種テーマで定期的に開催を強く望みます。(特に法務関係・国際法務関係が全くない。)よくあるのが『地方だから入門レベルで良いだろう』というセミナーですが、そのようなものは一切求めていません。実務者は、東京だろうが地方だろうが、高いレベルのセミナーを求めています。」とのご意見も頂いております。企業法務、とりわけ国際法務分野では、弁護士のアウトリーチ拡大の一環としても、地方におけるセミナー等を通じた高いレベルの情報提供・啓発活動の必要性を痛感致しました。また、高いレベルの司法サービスを提供するためには、地方の弁護士も渉外分野における最新の知見について深く学習することが不可欠であり、そのための機会を多く設ける必要性が高いことを強く感じました。

弁護士による行政ホットライン秋の大相談会(9月12日)

行政問題委員会委員 弁護士 岩 田 篤 典(66期)

1 はじめに

行政問題委員会では、定期的に「弁護士による行政ホットライン」を実施しており、年に2回春と秋には大相談会として午前11時から午後3時までの4時間の枠を設けています。私は、今年の4月から行政問題委員会の委員となり、今回初めて行政ホットラインに参加させていただきましたので、「弁護士による行政ホットライン秋の大相談会」を中心に、行政問題委員会の取組みをご報告いたします。

2 行政問題委員会の活動

平成17年の改正行政事件訴訟法の施行や原告適格や処分性を広く解する裁判例の集積等により、行政に対する不服申立ての利用が活性化しつつあります。行政問題委員会では、行政事件訴訟法、行政不服審査法等の活用を通じて、国民の権利利益の実効的な救済及び適法な行政の確保を実現すべく、行政事件に取り組むマンパワーの強化、「行政法制度」全般の更なる改革を目指して活動しています。

そのような活動の一環として、行政問題委員会は今回ご報告する「弁護士による行政ホットライン」の実施や、行政法制度改革に関する検討、行政実務研究会の開催等を行っています。

3 「弁護士による行政ホットライン」

前述のとおり、行政問題委員会では定期的に「弁護士による行政ホットライン」を実施しています。行政ホットラインとは、市民の皆様からの行政に対する疑問や不服に関する相談を弁護士が無料で受け付けるというものです。相談の方法は電話相談と面談相談の2つがあり、行政問題委員会の委員が交代で対応しています。

行政ホットラインの実施時間は通常は午後3時から午後5時までの2時間ですが、春と秋の大相談会は午前11時から午後3時までの4時間となっています。

4 行政ホットラインでの相談内容

行政ホットラインには手続などに関する行政の窓口対応に対する一般的な疑問をはじめとして、行政処分等に対して不服申立て等の対応を要するものまで、様々な相談が寄せられます。それらに関連して、行政の保有している情報の開示手続等に関する相談もあります。

行政ホットラインでは、これらの相談に対して、相談を受けた時点での今後の見通しや当面行うべき対応について、まず相談を担当した委員がアドバイスを行います。その後、相談を対応した委員が行政問題委員会で相談内容を報告し、行政問題委員会においてアドバイスが適切だったか等の再検討を行います。後日、相談を担当した委員からアドバイスを補充する連絡をすることや、行政問題委員会の委員が事件を受任することもあります。

5 平成27年度弁護士による行政ホットライン秋の大相談会について

平成27年9月12日に、行政ホットライン秋の大相談会が開催され、委員7名で対応しました。同日は、「近隣住民が反対しているのに施設の設置認可がされようとしている」、「行政の不作為に対して訴訟提起をしたい」等多岐にわたる相談が寄せられました。
行政ホットラインでは、行政に対する強い憤りの感情を抱えた相談者の方が多く来られます。行政問題委員の先生方はそういった相談者の方に対しても冷静かつ的確なアドバイスをされ、時には「その主張を通すことは法律的には難しい」といったアドバイスを相談者の感情に配慮しつつ伝えておられました。今回初めて行政ホットラインに参加したのですが、普段見ることのできない他の事務所の先生方の法律相談の様子を見ることができ、大変勉強になりました。

2015年10月 1日

「転ばぬ先の杖」(第19回)

会員(消費者委員会)藤 村 元 気(61期)

1 私は現在、消費者委員会に所属していますが、電話や訪問により勧誘を受けて断りきれずに契約をしてしまったという問題にしばしば触れます。中には、一人暮らしの高齢者の方からのご相談で、お金も払ってしまったのだけれど、買った商品は言われていたような良いものではなかったので、契約をキャンセルしたいということを希望されるというようなものもあります。

もちろん、事業者の勧誘行為に不実の告知等があれば、法律上、契約を取り消すことができる可能性があります。ケースによっては、取消しを待たずとも、契約自体を無効にできるものもあるかもしれません。

しかし、この勧誘をしたのが悪質業者であればあるほど、支払った代金を取り戻すことは困難になります。悪質業者は、自らの販売方法が法に触れることを知りながら売っているわけですから、そもそも名前や所在を明確にしていなかったり、また、一定の量が売れて苦情が出始めると行方をくらませたりして、回収を困難にしてしまいます。

勧誘されても、その都度きちんと断ることができればいいかもしれませんが、突然勧誘を受けることで慌ててしまい、言葉巧みに契約を締結させられてしまう例は後を絶ちません。そうだとすると、現状、市民の方々にとっては、そもそもこのような勧誘に巻き込まれないことが望ましい、ということになろうかと思います。しかし、どうすれば勧誘に巻き込まれないようにできるのでしょうか。これはとても悩ましい問題です。

2 そこで、今、特定商取引法に「事前拒否者への勧誘を禁止する制度」を導入しようということが提案されています。

「Do-Not-Call制度」、「Do-Not-Knock制度」という二つの制度を合わせたものを「事前拒否者への勧誘を禁止する制度」と呼んでいます(日弁連「特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書」2015年(平成27年)7月17日参照)が、これは、海外でも比較的広く導入されているもので、どちらも、電話勧誘や訪問販売による勧誘を受けたくない消費者が、事前に登録などをすることによって、それらの勧誘を受けたくないという意思を示すことができるようにしておき、事業者は、そのような勧誘を拒否している消費者に対して、電話勧誘や訪問販売による勧誘をできないようにする、というものです。さらに、「Do-Not-Knock制度」においては、登録をすること以外にも、「訪問販売お断り」というようなステッカーを貼っていれば、そのような家への訪問販売を禁止するという制度も検討されています。

消費者の中には、欲しい物は自分で調べて買うから、勧誘は一切受けたくない、という方もおられると思います。そのような方は、予め電話勧誘や訪問販売勧誘を受けたくないということを登録などしておけば、個別に事業者とやり取りをせずに済むことになります。

3 もちろん、この制度については、登録した情報が適切に管理されるか(登録した情報が却って悪用されてしまうことになると本末転倒になってしまいます。)などといった課題もあります。

そこで、制度の導入にあたっては、リスクをいかに管理するのかということについても十分に検討される必要がありますが、「その都度その都度断るのは大変。」という思いを抱いておられる方や、「きちんと断れないかもしれない。」と心配される方にとっては、この制度が導入されれば、とても有益な「転ばぬ先の杖」になるのではないかと思います。

あさかぜ基金だより

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士
河 野 哲 志(67期)

はやくも9か月たって・・・

私が、司法過疎地で仕事することを目指して、当事務所に入所し、早くも9か月以上が経ちました。

当事務所では、司法過疎地への赴任に向けて、専門性の高い案件も含め、多種多様な事件を経験できるよう、福岡県弁護士会と九州弁護士会連合会に配慮をいただいています。

具体的には、指導担当制度、応援団制度、県外からの紹介制度などがあります。これらを通じて、自分達だけではなかなか経験できない類型の事件にも携わることができています。

私が、経験した業務の一部をご紹介します。

破産管財人代理

福岡では、破産管財人候補者名簿への登録は、弁護士登録後3年以上の実務経験が必要です。

しかし、司法過疎地では、赴任後すぐに、破産管財人に選任される可能性があります。そこで、当事務所では、福岡県弁護士会の経験豊富な先輩弁護士から、破産管財業務についての研修講義を受けました。

私の場合、指導担当弁護士の管財人代理に選任される機会もありました。破産管財業務の一連の流れを実際に体験するとともに、債権認否の一部を担当しました。

指導担当弁護士の裁判所へのきめ細かな報告、そして慎重かつ迅速な対応を目の当たりにしたことは、日々の弁護士業務にも役立っています。

中小企業・個人事業主からの法律相談

司法過疎地では、地元の中小企業・個人事業主から、法律相談を受ける機会も多いと考えられます。利益相反の問題はありますが、企業や個人事業主の方々が、時間をかけることなく、地元で法律相談ができることで、地元経済にはプラスの効果があるものと考えます。

ところが、企業や個人事業主の方々が、あさかぜに相談を持ち込むことは、ほとんどありません。

私は、指導担当弁護士を通じて中小企業の経営権に関する法令・制度の調査報告を行うことができました。

このように法律相談に関する調査報告のような形でも勉強になります。

裁判員裁判

司法過疎地に赴任したら、裁判員裁判を担当する可能性もあります。

私は、指導担当弁護士と共同受任する形で、裁判員裁判に参加することができました。裁判員に対して、ケースセオリーをわかりやすく伝えることがいかに重要であるかが、よくわかる裁判の展開でした。

処理方針の相談

刑事事件の被告人への対応について、指導担当弁護士に相談し、被告人に見通しを明確にすることが大切であると、とても勉強になった事案がありました。

また、指導担当等の制度ではありませんが、委員会活動を通じて知り合った先輩弁護士に相談し、とても勉強になった事案もありました。

不当解雇の事案で、相手方が、解雇撤回を主張した場合の対応について、委員会活動で知り合った先輩弁護士に方針を相談し、最終的に依頼者が望む結果を得ることができました。

事件の方針を相談できるチャンネルをたくさん持っておくことは、赴任後、自分が多種多様な事案を処理するうえで重要であると感じました。

多種多様な事案への対応

司法過疎地では、専門案件の発生数・比率は、それほど高くないのではないか、という心配もあるかもしれません。

これは、大先輩である春山九州男弁護士の受け売りですが、そうした案件が一旦持ち込まれた場合、他事務所を紹介するのではなく、自分で処理できなければ、司法過疎地に赴任する意味は乏しいのではないかと思います。

多くの司法過疎地は、同時に、物理的アクセス障害を抱えた土地でもあります。物理的な障害から、専門案件を抱えた人が泣き寝入りをすることはあってはなりません。
多種多様な事案に対応できるよう、今後とも研鑽を積むとともに、自分が考える方針について、相談できるチャンネルをたくさん作っておく努力を続けたいと考えています。

中小企業法律支援センターだより 「北極しろくま堂」園田正世氏講演会報告

中小企業法律支援センター委員長
池 田 耕一郎(50期)

1 はじめに

当会は、日弁連及び全国各弁護士会とともに、平成19年度から中小企業のための全国一斉シンポジウム(講演会)を開催しています。

本年度は、9月9日(水)、福岡、北九州、筑後の3地区で講演会を開催しました。北九州、筑後で開催した「マイナンバー制度」をテーマにした講演会に関しては、次号(11月号)「部会だより」にて開催報告がなされる予定ですので、本稿では、福岡地区で開催した講演会について報告します。

2 講師:園田正世さんについて

福岡地区では、「創業」をテーマに、女性起業家として著名な園田正世さんによる講演会「毎日が戦い!?私のビジネス奮闘記!!」を開催しました(当会主催、福岡県中小企業振興センター(福岡県よろず支援拠点)共催、日本政策金融公庫福岡支店後援)。

園田さんについては、著書、数々の表彰(日本商工会議所「女性起業家大賞」、日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2006」、平成18年静岡県男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞、内閣府「平成20年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者特命担当大臣表彰奨励賞」等々)、テレビや新聞等様々な媒体の報道でご存じの会員も多いかと思います。

園田さんは、もともと企業経営には全く関わりがなかったそうです。第一子の子育てで悩み、仲間と始めた育児サークルの活動で、アメリカ生まれの抱っこひも「スリング」に出会い、「困っているお母さんに教えてあげたい」という純粋な気持ちから、「北極しろくま堂有限会社」を設立されました(現在は3人の子のお母さんでもあります。)。

その後、日本人の体格や日本の気候に合った改良の必要性を感じ、アメリカの企業と契約して、日本生産のライセンスを取得しました。さらに、オリジナルだっこひも「キュットミー!」や顧客の要望から始めた昔ながらの「おんぶひも」がヒットを呼び、一大ブランドとして事業を確立しています。

現在、東京大学大学院博士課程で「抱っこ」の研究をされているほか、経済産業省の音頭で設置された「抱っこひも安全協議会」の常任理事に就任するなど、その真摯な活動が社会的にも評価されています。

3 臨場感あふれる講演内容

会員の皆様も、創業支援セミナーや講演会を聴講した経験がおありかと思いますが、どちらかというと創業資金融資を得るための計画書の策定のヒントであったり、具体的な道のりの説明を欠く成功体験報告であったりと、起業への意欲をかき立てる要素が強いものの、経営に伴うリスクやその回避の必要性を認識させる契機が少ないと感じることが多いのではないでしょうか(だからこそ、私たち弁護士ないし弁護士会は、創業の段階から積極的に事業者に関わり、事業開始後の様々なトラブル発生のリスクを伝え、円滑な事業継続を支えるべき役割があります。)。

この点、園田さんの講演の内容は、どれも具体的で、講演会に参加された経営者ないし創業希望者にとって、一つ一つの場面を想定しながら、自分のことに置き換えて理解できるものでした。

企業経営において、キャッシュフローをいかに堅実に予測するかは基本的で重要な事柄であるものの、実際、起業家が陥りやすい点として、売上の過大予測、経費の過少予測があげられるのではないでしょうか。

園田さんは、主婦目線でのまさに「究極の」キャッシュフロー会計での経営方針でした。縫製工場への支払額がいくらで、何万円売れたら手もとにいくら残るのか、というように、常に現金勘定で考え、無謀な予測を立てることなく経営に取り組まれてきたことが手に取るように伝わってきました。

他にも、海外企業とのやりとりに伴い発生した契約書上の問題点、テレビ番組で取り上げられたことで対応困難なほど注文がきたものの企業運営のためには必ずしも好ましいものではなかったこと、高額の開店資金を借り入れて初めての直営店を東京の自由が丘にオープンしたもののその後閉鎖したこと、知的財産権に関するクレームをつけられ専門家のアドバイスを受けて危機を回避したことなど、シビアな局面に遭遇しつつもその状況を打開していく過程の話もあり、まさに創業希望者にとって「地に足がついた創業準備」を進めるために貴重な体験談であると強く感じました。

特に、「起業に使うエネルギーと継続するエネルギーは種類が違う」(起業するときは強い意欲を持っているのでスタートはそれで良いが、事業を継続するためには、自分は何のために企業経営をするのかという明確な目的意識が必要である)、「売上に直結しないことも大切にする」(取引の話ではなくても、声がかかればまず交流する)という指摘は、それを実践している園田さんの言葉であるからこそ説得力があり、心に染みました。

講演会終了後、来場者からの質問や相談、果ては、記念撮影やサインなど、会場の高揚した雰囲気を感じさせる光景が続きました。

園田さんの誠実でウラオモテのない人柄と論理的な思考が、来場者の共感を呼んだのだと感じました。園田さんが成功に至る過程での取引先や顧客からの支持は、園田さんの人格に対する信頼感によるところが大きいと思います。

4 おわりに

今回、企業経営者ないし創業希望者向けの企画ということもあり、会員の参加が少なかったのは残念でしたが、私たち弁護士が創業希望者から相談を受ける際の視点を得ることができる実に有意義な講演でした。
近い将来、園田さんに是非福岡にお越しいただき、お話をうかがう機会を設けたいと思いますので、その折には改めてご案内差し上げます。

マイナンバー研修

会 員 馬 場  勝(64期)

1 はじめに

平成27年9月4日に大阪弁護士会所属で日弁連情報問題対策委員会委員長の坂本団(さかもとまどか)先生にマイナンバー制度に関するご講演をしていただきました。坂本先生は司法修習時代を福岡で過ごされたため、福岡の地にはかなり思い入れがあるとのことでした。

2 マイナンバー制度について
  1. まずはじめに、福岡県弁護士会におけるこれまでのマイナンバー制度に対する取り組みについて、丸山明子先生よりご報告をいただきました。
    丸山先生からは、福岡県弁護士会として平成24年8月7日に「マイナンバー法案に反対する声明」、平成25年5月10日に「共通番号法制定に反対する声明」、そして平成27年8月6日には「マイナンバー制度の運用延期を求める会長声明」を出していることなどが報告され、併せて会員の皆さまには本研修を機に今一度マイナンバー制度の問題点について考えて欲しいとのお話がなされました。
  2. 丸山先生の報告に続き、坂本先生のご講演となりました。
    • マイナンバー制度とは住民票を有する全ての方に一人一つの番号を付して社会保障や税などの分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものです。マイナンバー制度は(1)公平、公正な社会の実現、(2)行政の効率化、(3)国民の利便性の向上というメリットがあるものの、実際には一般的に懸念されている情報漏えい以外にも多くの問題点が残されているようです。
      具体的には、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)19条では「何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。」と特定個人情報の提供が厳しく制限されていますが、その12号で「訴訟手続その他の裁判所における手続」が規定されているため、裁判所へ提出するためならマイナンバーを提供する(つまりマイナンバーが記載されている書類を裁判所に証拠として提出する)ことが認められています。しかし、例えば源泉徴収票にもマイナンバーが記載されるため、弁護士が依頼者から受け取った源泉徴収票を裁判所に証拠としてそのまま提出することが許されるのか(少なくともマイナンバー部分を黒塗りにして提出しなければならないのではないか)、あるいは後見人が被後見人のマイナンバーを取り扱うことや破産管財人が破産会社の従業員のマイナンバーを取り扱うことがどこまで許されるのかなど、解決しなければならない問題点が多く残されているとのことでした。
    • さらに、一般的にも、事業者が従業員からマイナンバーの提供を受けた場合には慎重な取り扱いや厳重な管理が必要となることはもちろんですが、マイナンバー法16条はマイナンバーを取得する際の本人確認を義務付けていることから、従業員本人のみならず従業員が扶養している親族からもマイナンバーの提供を受ける際はどこまで本人確認を行うべきか(扶養親族の本人確認までもしなければならないのか)などの問題もあるとのことでした。
3 坂本先生からのアドバイス

最後に、坂本先生からは、平成27年10月には国民に個人番号の通知が行われる予定となっているので、我々事業者はマイナンバー導入のための最低限の対策(事務所内でマイナンバーを取り扱う人を予め決めておく。マイナンバー取得の際には相手に利用目的を伝える。マイナンバー取得の際には身分確認を忘れない。マイナンバーが記載された書類は鍵が掛かる棚や引き出しに大切に保管する。パソコン内に保管する場合には最新のウィルス対策を行う。マイナンバーが必要なくなったら、マイナンバー記載書類は速やかに廃棄するなど)をしておくようアドバイスをいただき、本研修は終了となりました。

4 マイナンバー制度に関する補足

なお、マイナンバー法は平成28年1月より施行されますが、同年3月までに行う個人事業者の確定申告や源泉徴収票の発行に関しては、それが平成27年分の収入に対するものであることから、マイナンバーの取得・利用は不要となります。他方、平成28年1月以降の収入に関するものについてはマイナンバーの取り扱いが必要となります。すぐに必要なのは、例えば1月に退職された従業員に対する1か月以内に発行する源泉徴収票の作成(平成28年1月分以降の収入にかかるもの)のためのマイナンバーの取得・利用となります。皆さんお間違えのないようご注意ください。

5 最後に

本研修はマイナンバー制度の概要を理解するのみならずマイナンバーを取り扱う際に我々弁護士が注意すべき点についても具体的に説明があり、非常に有意義な研修であったと思います。
本研修については、福岡県弁護士会の会員専用ページから研修動画を見ることができますし、後日DVD研修も予定されていますので、本研修を受けられていない方は是非ご覧又はご受講いただければと思います。

シンポジウム「なくせ『女性の貧困』~男女がともに豊かな社会を創造するために~」

会 員 里 本 麻 衣(66期)

1 シンポジウムの開催

平成27年8月29日(土)午後1時半から4時半まで、天神ビルにて、「なくせ『女性の貧困』~男女がともに豊かな社会を創造するために~」と題する、第58回人権擁護大会プレシンポジウムが開催されました。

同じ女性として、また、女性の相談を受けることが多い立場の者として、「女性の貧困」という問題は、非常に興味があったので、このシンポジウムに参加させて頂きました。

2 シンポジウムのご報告

会場に入ると、席はほとんど満席の状態でした。シンポジウムの内容から、当然女性の出席者が多いのですが、男性の姿も、それなりに見受けられました。

シンポジウムでは、竹信三恵子氏(和光大学教授)の基調講演があり、その後、シングルマザーとして働く女性の実態報告や、阿部広美氏(熊本県弁護士会)の日弁連の活動、そして、竹信三恵子氏、鈴木泰輔氏(広島県弁護士会・マタハラ原告訴訟代理人弁護士)、樋口充喜氏(福岡県労働組合総連合事務局長)、大戸はるみ氏(しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福岡理事長)をパネリストとして、そして、深堀寿美会員をコーディネーターとして、パネルディスカッションが行われました。

これらのプログラム全てに言及したいところですが、紙面上不可能なので、私が特に印象に残った、竹信三恵子氏の基調講演について、ご報告させて頂きます。

3 竹信三恵子氏の基調講演

竹信三恵子氏は、ジャーナリストでもあり、そのご講演はとても刺激的なもので、お話に引き込まれてしまいました。私のように、竹信氏のお話に引き込まれた人は、会場にとても多かったのではないでしょうか。

竹信氏は、「なくせ『女性の貧困』~家事ハラと再分配から考える」という題名でご講演をされました。

ご講演では、女性の貧困率は高いこと、女性の給与所得額において、年収200万円台が1996年以降徐々に増えていること、女性の正社員は少数派であること等の基本的知識の紹介がなされました。そして、女性の貧困が社会的に非常に問題であり、この貧困問題を解消するには、社会の意識改革をしなければならないこと等の問題提起がなされました。

その問題提起をされた上で、竹信氏は、非常に鋭い視点を与えてくださいました。現在政府が打ち出している女性政策は、本当に女性のためになされているのか甚だ疑問であること、本当のワークライフバランスとは一体どうあるべきか、現在の労働時間は男性の労働時間を基準とされているが、労働時間の基準は、女性を基準とするべきであること、家事労働が蔑視されていることの問題(家事の価値をかなり低く見られていること。竹信氏は「家事ハラ」と呼ばれていました。)等です。

4 シンポジウムを受けて

今回のシンポジウムを受けて、特に感じたことは、「今の日本の社会には、日常生活が一体どのようにして回っているのか、という大切な視点が抜け落ちているのではないか」ということです。この視点の欠落が、竹信氏の言う「家事ハラ」に繋がっているのではないでしょうか。

この視点を欠落させたまま、労働政策や女性政策が行われると、日本の将来に大きな影響を及ぼしてしまうのではないかと、私はとても不安を感じます。

「何を大げさな」と思われるかもしれません。しかし、日常生活をないがしろにするということは、人としての根本をないがしろにすることにもなるのではないでしょうか。日常生活をないがしろにして、果たして日本は幸せになれるのでしょうか。

私は普段シャワーで済ますことが多いですが、やはり入浴の際には湯船に浸かった方が断然、体の調子は良いですし、なるべく自炊をして野菜を多めに取るほうが、お腹の調子も良いです。そしてなにより、規則正しい生活は、心を健康にしてくれます。「お前は一体何を言っているんだ」と思われるかもしれませんが、日常生活は、心と体を健康に保つための重要なものであるということを、その日常を作り上げるのは、家族(人)なのだということを、もっと社会全体で認識すべきだと思います。
今回のシンポジウムを受けて、私は改めて、大事な視点を頂けました。良い機会を与えてくださって、本当にありがとうございました。

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