福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2016年6月 1日
ITコラム Windows10に乗り換えるべきか
会員 松本 圭司(55期)
Windows10の無償アップグレード期間が2016年7月29日に終了します。
私が保有するパソコンは、Windows7が6台、8.1が1台、Vista(笑)が1台ですが、マイクロソフトの執拗なアップグレードへの働きかけをずっと無視してきました。
私は、Windows7の使い勝手に満足しており、延長サポート期間もまだまだ2020年1月14日まであるので、これまでアップグレードに関心がなかったのです。
しかし、無償アップグレード期間が間もなく終了するということで、ふとマイクロソフトストアのホームページをのぞいてみると、Windows10proの有償版がなんと27,864円になっているではありませんか。小心者の私は、ひとまず8.1のパソコンだけアップグレードしてみることにしました。
ちなみに、アップグレードの途中で「簡単設定を使う」を選んでしまうと、マイクロソフトに個人情報垂れ流しになってしまいますので、アップグレードの際には「設定のカスタマイズ」を選ぶようにしましょう。
アップグレード直後に、とりあえず一太郎やOffice等の業務で使用するソフトを使って原稿の印刷までやってみましたが、何事もなく普通にできました。8.1のスタート画面は不評でしたが、10では、7以前の伝統的なスタートメニューっぽいものも復活しており、7に慣れている私としては、8.1よりも使いやすく感じました。8.1→10は、十分「アリ」だと思います。
しかし、まだ、7のパソコンを10に移行するかどうかは悩み中です。
身近で7から10に変えた人の話を聞きましたが、wordで作成した文書を印刷すると文字がぐちゃぐちゃになり、正常化するためにプリンタのドライバーの削除等でかなり苦労したそうです。8.1からの移行よりもハードルが高いのかもしれません。
また、弁護士業務に関する話でいうと、現在も10は電子内容証明郵便に対応していないようです。過去に7に対応するまでにものすごく時間がかかったことを考えると、10にすぐ対応してくれる保証はありません。
登記情報提供サービスに関しては、ネットで調べた情報では、10でも使えているようですが、正式対応しているわけではありません。
というわけで、私は、とりあえず7月29日ぎりぎりまで問題先送りでWindows7を使い続けることにしました。
同じような考えの方も多いのではないかと思いますが、「Windows10を入手する」という通知のポップアップがパソコン画面の右下に頻繁に現れて目障りだという方はいないでしょうか。
これに対しては、根本的な解決ではありませんが、右下のタスクバーの△の部分をクリックして、更に「カスタマイズ」をクリックし、アイコンの中からGWXというのを探して「アイコンと通知を非表示」を選択すると、ひとまず煩わしいポップアップからは解放されます。今まで悩んでいた方は、ぜひお試し下さい。
ホームページ委員会だより
委員 是枝 秀幸(60期)
ホームページ委員会(現在、IT委員会へ改称することを目指しています。)の委員の是枝です。
皆さん、知っていますか?(その1)
2016年5月から、裁判所は、ウェブ上で、裁判員裁判の開廷情報を掲載していることを。
いささか今更感もないではないですが、ウェブ上で開廷情報を公開することで、裁判員裁判を傍聴しやすくして、市民の裁判員裁判への理解を深めてもらうことが、狙いのようです。
ウェブ上で情報を公開することは、紙面媒体と異なり、情報の取得や発信において、時間・空間・技術・費用からの解放、検索性・効率性・即時性・速報性等の様々な長所があります。
という訳で、ホームページ委員会は、ウェブの長所を活かして福岡県弁護士会の情報を発信することができるよう、活動しています。
以下、いくつかの最近の活動を紹介します。
1 災害時の機動的な情報発信
2016年4月14・16日に熊本地震が発生して多くの被害が発生したため、福岡県弁護士会は熊本県弁護士会の電話無料相談を応援していたそうですが、並行して、25日から福岡県弁護士会の法律相談センターで、無料法律相談を開始したそうです。
無料法律相談は、18日ころから執行部や法律相談センター運営委員会等でメーリングリスト上も含め議論したうえ、23日ころ25日からの開始決定が決まったようですが、速やかに掲載されたようです。
2 日常的・継続的な情報発信
皆さん、知っていますか?(その2)
2016年4月から、福岡県弁護士会が、ツイッターを始めたことを。
こちらも今更感がないではないですし、現在のところ、法律相談会等の情報を自動的に呟くだけで面白くないため多分フォローしてもすぐに外されると思いますが、いろいろと試みているようです。
3 その他
市民の弁護士への法律相談に結び付けるための積極的な情報発信として、民業圧迫等と言われない程度にグーグルアドワーズ等のいわゆるスポンサードリンクも行っています。
今年は、市民向けだけではなく、会員向け情報発信として、スマートフォン対応による会員ページの利便性の更なる向上等(未定)も検討されるようです。
そのほか、例年、IT110番(無料電話相談会)やITに関する研修会等、開催しております。
いささか雑多な文章となりましたが、ウェブの長所を活かした情報発信ができるように、ホームページ委員会が日々取り組んでいることが、お分かりいただけたのではないでしょうか。
あさかぜ基金だより あさかぜのホームページの刷新にむけて
会員 中田 昌夫(67期)
ホームページを刷新します
あさかぜでは、現在、事務所のホームページ(URL http://www.asakaze-law.jp/)の刷新について、議論を重ねています。
ホームページを刷新することには、第1に、あさかぜでは弁護士が2年程度で赴任していなくなるので、事務所としての認知度を高め、多くの人に相談に来てもらうため、という意義があります。
第2に、あさかぜが弁護士過疎問題を解消するために設立された公設事務所であることから、ホームページを通じて、弁護士過疎問題について市民の皆様に知っていただくとともに、あさかぜの活動についてあさかぜを支えてくださる弁護士に、より広くご理解をいただくという意義があります。
そして、第3に、あさかぜに所属する弁護士の養成活動の一環としての意義があります。あさかぜに所属する弁護士が、自らホームページの刷新に携わり、事務所の広報について学ぶことは、赴任後に弁護士過疎地で地域の人に広く相談に来てもらうための準備として必要なことです。また、養成期間中に、事務所の広報について学んでおくことは、赴任後に、弁護士過疎地において、弁護士へのアクセスをより容易なものにするという点からも有意義といえるでしょう。
ホームページ刷新に向けて
ホームページ刷新に向けて準備を重ねる中で、あさかぜ内で議論を重ねるとともに、ITに詳しい数多くの会員の皆様から、示唆に富んだアドバイスをいただきました。
この場をお借りして、たくさんのアドバイスをいただいたことに、改めてお礼を申し上げます。
いただいたアドバイスのうち、複数の方が強調されたこととして、ホームページを通じて、誰に向けて、どういった情報を発信、提供するのかというホームページの目的を常に意識しなければならないというものがありました。あさかぜの弁護士間で、ホームページの刷新に向けて議論をするとなると、ついつい些末な点に気を取られてしまい、こうした基本的なポイントを忘れてしまいがちでした。誰に向けて、どういった情報を発信、提供するのか考えるということは、これまでの自分たちの活動を見直す機会であるとともに、自分たち弁護士としての志を再確認する機会であるといえます。副次的ではありますが、ホームページの刷新にあたって、このような機会を設けることができたことは、養成活動の一環として、有意義であったと思います。
あさかぜのホームページにつき、お気付きの点があれば、アドバイスをいただければ幸いです。
新しいホームページの運営に向けて
新しいホームページが完成した後は、ホームページを適切に運営していかなければなりません。
新しいホームページを放置せず、適切に更新が行われるように、事務所内で、更新のルールを作成しています。こうした更新のルールは、あさかぜの弁護士は、赴任により、引継ぎがなされることからしても、必要なものです。
また、あさかぜの弁護士が赴任後に自らの事務所のホームページを運営することを見据えて、弁護士各人において、ホームページの仕組みを理解し、各人でホームページの基本的な保守、管理ができるよう少しずつ勉強をしています。
このように、ホームページの適切な運営に向けても、課題が山積していますが、ホームページ刷新の意義を生かしていけるよう、今後も努力と工夫を重ねていきたいと考えております。
特集/障害のある人もない人も共に生きる社会への第一歩! ~障害者差別解消法が施行されました~
会員 國府 朋江(65期)
はじめに
2016年4月1日、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下では単に「差別解消法」といいます。)が施行されました。差別解消法は、障害者を差別しないという、当たり前のことを内容としたものですが、行政機関等のみならず、事業者に対する義務も定めており、適用される範囲が広い上、どのようなことが差別となり、禁止されるのかは同法には定義されていません。
このたび、月報の紙面をいただきましたので、差別解消法の内容について簡単に説明した上で、会員の皆様が具体的な相談を受けるに際し、どのような資料を参照すればよいのかについて触れたいと思います。また、福岡県弁護士会高齢者障害者委員会における、差別解消法に関する取り組みについてもご紹介させていただきます。
なお、本年4月1日から、障害者雇用促進法も改正されましたが、紙面の関係上、差別解消法との適用関係についての説明に留め、内容の説明は割愛させていただきます。
Ⅰ 差別解消法
1 差別解消法制定の経緯
日本は2007年9月に障害者権利条約に署名し、2014年1月、同条約を批准しました。
障害者権利条約は障害者に対する差別の禁止や尊厳と権利保障を義務付けています。日本では、障害者の権利保障のための国内法が整備されていなかったため、障害者権利条約の批准だけが先行してしまうことに危機感を持った障害者団体の声により、国内法整備の後に条約が批准されることとなりました。そのため、署名から批准までの間に時間のずれがあるのです。
これまでは、障害を個人の問題とし、機能の障害を福祉で補い、いかに健常者社会に障害者を溶け込ませるかという視点が中心でしたが(障害の医学モデルの考え方)、健常者を中心として作られた社会が、少数者である機能障害のある人々にとっての社会的な障壁を生み出しているのであり、社会の側が積極的に障壁をなくさなければならないという視点(障害の社会モデルの考え方)にシフトチェンジするための法整備が進められました。障害者基本法改正(2011年)、差別解消法の制定(2013年)、障害者雇用促進法の改正(同年)などです。
社会モデルの考え方とは、例えば、駅に階段しかなく、車椅子ユーザーが電車に乗ることができない場合に、駅に階段しか設置していないことによって、移動が妨げられるという生きづらさが発生しているという考え方です。これに対し、医学モデルの考え方からは、同じ状況について、足が動かなかったり、内部障害で車椅子を使用しなければならないという機能障害自体から移動が妨げられていると考えます。
差別解消法や改正障害者雇用促進法は、障害を理由とする差別をしてはいけないということだけでなく、合理的配慮を提供しなければならない点を規定しました。この合理的配慮という概念が法律で定められたという点が重要です。
2 法律の概要(内閣府作成の法律概要参照)
差別解消法は、行政機関等に対し、不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供を義務付けています(7条)。事業者に対しては、不当な差別的取扱いを禁止していますが、合理的配慮の提供を努力義務と定めています(8条)。
具体的にどのようなことをすべきか、すべきでないかということは、差別解消法には規定されていません。
では、どこに記載されているかというと、法に策定することが義務付けられている、政府全体の方針を示す基本方針(6条)、基本方針に即して作成される国・地方公共団体等の機関における取組に関する対応要領(9条、10条。地方公共団体は努力義務)、主務大臣が事業分野毎に定める事業者向けの対応指針(11条)に具体的な対応が書かれています。
全ての生活分野が対象となりますが、雇用の場面における差別や合理的配慮の提供については障害者雇用促進法が適用され、差別解消法は適用除外されます(13条)。
対応要領は行政職員の服務規律となり、懲戒処分の対象となることに注意が必要です。
実効性の確保のため、法に反する状態が続く事業者に対しては、特に必要な場合に主務大臣による事業者に対する報告の徴収、助言、指導、勧告ができることとされています(12条)。
第4章では、差別を解消するための支援措置として(1)相談及び紛争の防止等のための体制の整備(14条)(2)啓発活動(15条)(3)情報の収集、整理及び提供(16条)(4)障害者差別解消支援地域協議会(17条~20条)が定められています。
3 「障害者」(2条1号)
差別解消法は、障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義し、障害の社会モデルの考え方を採用することを明らかにしています。
したがって、対象となる障害者とは、障害者手帳の交付の有無を問いません。
4 行政機関等(2条3号~6号)
国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人をいいます。ただし、地方独立行政法人の行う業務の中で、主に事業の経費を当該事業の経営に伴う収入をもって充てる事業で、軌道、自動車運送、鉄道などの事業や病院事業などは除外されています(2条6号)。
5 事業者(2条7号)
「商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。」と定義されています。
社会的地位に基づいて継続、反復して行われることが予定されている事柄を行う者で、個人・法人、営利目的・非営利目的を問いません。
6 不当な差別的取り扱い(7条1項、8条1項)
正当な理由なく、障害を理由として、障害のある人とない人で異なる取扱いをすることや、一見して障害を理由としていないものの、サービス等の提供にあたって場所や時間を制限することによって実質的に障害者がサービスを利用できないようにすること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けてサービスを利用できないようにすることは、不当な差別的取扱いとして禁止されます。
ただし、障害者の事実上の平等を促進し、または達成するための措置は不当な差別的取扱いには当たりません。
差別類型 | 相手方が持ち出す理由 | 相手方の行為態様 |
---|---|---|
直接差別 | 障害 | 異別取扱 |
間接差別 | 障害そのものではないが、 障害に関連する事由 |
同一取扱(同一基準) |
関連差別 | 異別取扱 |
基本的な考え方は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」に、具体例は各省庁の対応要領の別紙・留意事項に書かれています(いずれも内閣府のホームページにあります。)。留意事項に不当な差別的取り扱いに当たりうるものとして記載されているのは
- 障害を理由として窓口対応を拒否する
- 障害を理由に対応の順序を後回しにする
- 障害を理由に書面の交付、資料の送付、パンフレットの提供等を拒む
いったものがあります。
7 合理的配慮(7条2項、8条2項)
(1) 規定
障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をする旨が定められています。
前述のとおり、合理的配慮の提供は、行政機関等は法的義務、事業者は努力義務とされています。
(2) 具体例
合理的配慮の具体例を挙げると、ホームページ上に文字データをアップする時に、ルビありのものや、テキストデータのものもアップする(知的障害、発達障害、視覚障害のある人向け)、筆談の対応をする(聴覚障害のある人向け)、難病で疲れやすい人がいる場合に、休憩をこまめに入れるなどです。ただし、これらの配慮は、個人によって求めるものは様々です。当事者に聞いてみたり、試行錯誤してみたりしましょう。以下も参考になります。
(障害者権利条約策定の過程で使用された"Nothing about us without us"【私たち抜きに私たちのことを決めるな】という言葉があります。この考え方を常に念頭に置くことが大切だと思います。)
- 各省庁の対応要領別紙・留意事項(内閣府HP「関係府省庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」からダウンロードできます)
- 合理的配慮サーチ(内閣府HP)
- 厚生労働省の各事業者向け対応指針
- みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年度版)
(3) 意思の表明
差別解消法は、非常に広い範囲で適用されるため、相手方になる行政機関や事業者にとっては、当該障害者に何が社会的障壁となっているのか知り得ない場合もあります。そこで、差別解消法は意思の表明を求めています。
意思の表明は手話や点字、その他コミュニケーションを図る際に必要な手段であれば何でも構いません。また、知的障害や精神障害(発達障害を含む)等により本人の意思表明が困難な場合には、家族や介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含むこととされています(基本方針)。
(4) 過重な負担
過重な負担については、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況などの要素を個別の事案ごとに考慮し具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。過重な負担に当たると判断した場合は、障害者にその理由を説明し、理解を得るよう努めることが望ましいとされています(以上、対応要領にかかる留意事項)。
もっとも、過重な負担であるとして、本人の求める配慮が提供できない場合であっても、代替手段の有無について検討をすべきです。
8 紛争解決
差別解消法では、国及び地方公共団体は障害を理由とする差別に関する相談に応じ、紛争の防止又は解決を図ることができるような体制の整備を図るものとすると規定しています(14条)。
差別解消法では具体的にどのような機関をおき、どのように紛争を解決するかという点までは定めていないため、このままでは実効的な紛争解決が困難です。
これに対し、具体的な紛争解決の制度を条例の中で設けている自治体が増えてきています。福岡市においても、差別禁止条例をつくる会が取り組みを進めており、市長が2016年3月3日の議会で条例制定に取り組む発言をするなど、盛り上がりを見せています。
九州・沖縄では、長崎県、熊本県、大分県別府市、鹿児島県、沖縄県で差別禁止条例が定められています。
9 参考文献・資料まとめ
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
- 関係府省庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領
- 関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
- 地方公共団体における対応要領の策定状況
- 国や主管省庁の相談窓口一覧
- 合理的配慮サーチ
- みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年度版)
- 東京都差別解消法ハンドブック
- 「Q&A障害者差別解消法」生活書院
- 「合理的配慮、差別的取扱いとは何か」解放出版社
- 「詳説障害者雇用促進法」弘文堂
- 「今日からできる障害者雇用」弘文堂
Ⅱ 福岡県弁護士会高齢者障害者委員会における取り組み
1 差別解消法に関する研修
高齢者障害者委員会では、差別解消法が施行される2016年4月1日に先立ち、本年3月28日に差別解消法の研修を行いました。
4月15日には、ライブ研修に来ることのできなかった会員向けにDVD研修を行いました。
2 障がい者差別解消ホットラインの実施
差別解消法の施行のタイミングと併せ、電話相談を行いました。
電話相談では次のような相談が寄せられました。
- 天神地下街は一方の通路しか点字ブロックが設置されていない。運営会社はバリアフリー法に則っているので問題はないという対応をされた。
- 大学院に進学中、視覚障害の程度が進行し、テキストデータを音声リーダーで読み込み授業等を受けるようになった。その後、同じ大学院のドクターコースへ進学を希望したところ、「一旦あなたのような人を受け入れると今後も同じように受け入れざるを得なくなるから受け入れることはできない」と言われ、進学を諦めた。
- 福岡市のホームページ上にアップされている文書データがテキスト形式になっていないことがあり、音声リーダーで読み込むことができない。「福岡市 差別解消法」のキーワードで検索して出てきたものがPDF形式で、テキスト形式になっていなかったので非常に残念だった。
これまでも福岡市に改善を求めてきたが、担当者が変わるとまた元通りになっている。
このように、今後の取組みの参考になるような事案が寄せられ、ホットラインを実施してよかったと感じました。
2016年5月 1日
ITコラム 「あとで読む」
1 はじめに
インターネットは今や情報収集の重要な手段です。特に若手弁護士にとっては、キーワードで検索をすれば、社会常識に属する基本的知識から諸先輩方の応用的知見まで、短時間に大量の情報に触れることができるインターネットは手放せないツールです。
他方、インターネット上にはとにかく大量の情報がありますので、効率的に情報収集しないと無駄に時間を費やしてしまうおそれもあります。
そこで、インターネットで収集した情報の効率的な管理方法について、検討とご紹介をしたいと思います。
2 収集した情報の管理方法
インターネット検索サイトでキーワードを入れて検索すると、何百万というWEBページがヒットします。必要な情報に出会えるまで検索ワードを変えて検索を繰り返し、ページを探索していきます。
さて、ようやく気になるページに出会えたとき、これをどのように管理すればよいでしょうか。
(1) 後で再検索する又は履歴から再表示する
これは簡単です。しかし、検索を繰り返すと、どの検索ワードでヒットしたか忘れてしまうこともありますし、履歴も大量にあると、「あのページはどこだろう?」ということになりがちです。無駄な時間と労力を費やす原因になります。
(2) 「お気に入り」に登録する
ブラウザのお気に入りボタンを押して「お気に入り」に登録すれば、簡単に再表示できます。しかし、情報の管理という観点からは、常用するWEBサイトのみ「お気に入り」に登録すべきです。ちょっと気になるページの一時保存には適しません。
(3) 「あとで読む」サービスを使う
そこで、「あとで読む」サービスがあります。これは、気になったページを(一時的に)キープし、後でまとめて読むことができるサービスです。
代表的なものは、"Pocket"、"Instapaper"、"Readability"等です(特に"Pocket"が使いやすくおすすめです)。詳細は省略しますが、(1)基本的に無料、(2)(設定をすれば)ネットサーフィン中にボタン1つでページを保存できる、(3)保存したページのリストはWEB上で手軽に確認できる、(4)パソコンとスマホでリストを共有できる、といった点が特徴です。
ポイントは、気になるページを見つけたら、あまり深く考えず、とりあえず「あとで読む」リストに入れてしまうことです。そうすれば、前に見たページをもう一度見たいというときに、リストからサッと見つけることができます。そして、もう必要ないと判断したページはリストから随時削除すれば、無駄な情報でいっぱいになることもありません。とりあえずキープし、その上で情報の取捨選択を行う要領です。
また、(4)も重要です。外出先の空き時間にスマホでたまたま見つけた有益なページを後でパソコンでも見たいというとき、この機能が役立ちます。逆に、パソコンで保存しておいたページを外出先でスマホでも見ることができますので、上手に使えばとても便利です。
(4) 長期的に保存する方法
「あとで読む」は一時的な保存を予定していますが、長期的に保存したいという場合もあります。保存の方法は色々ありますが、便利なのは、"Evernote"等でWEBクリップとして保存しておく方法です。"Evernote"は多機能で中々使いこなすのが難しいサービスですが、1つの使い方として、(1)"Pocket"に気になったページを手当たり次第保存し、(2)時々リストの見直し(選別・削除)を行い、(3)特に保存版だと思うページのみ厳選して"Evernote"に移し、別個に整理して保存する、という方法があります。これはとても便利です。
3 おわりに
効率的な情報管理の工夫は他にもあると思いますが、「あとで読む」をまだ活用されていらっしゃらなければぜひ活用をご検討下さい。
本コラムも「あとで読んで」頂ければ幸いです。
あさかぜ基金だより ~異業種より学ぶ業務改善~
社員弁護士 西村 幸太郎(66期)
オフィスツアーへの参加
業務改善のため、民間の企業はどのような工夫をしているのでしょうか。
当事務所は、弁護士過疎地赴任をにらんだ弁護士を養成する事務所です。事務所を切り盛りするうえで、経営も学ばなければなりません。その一環として、複合機を扱うある会社のオフィスツアーに参加。目から鱗のツアーでした。
そこで参考になったこと、学んだことをご報告させていただきます。
ワークスタイルの変革を目指して
業務改善のためには、そもそものワークスタイルの変革が必要です。
(1) コストのかけ方:スペースコスト・紙コストの無駄が悩ましい。この会社は、印刷機の配置の工夫などによりこのコストを削る反面、セキュリティコストを増やします。パソコンの持出しを認めることで、社外にも活動のフィールドを広げることができ、業務効率があがります。セキュリティを厳しくすることで、さらなる効果もあります。最近、情報管理に厳しい企業が増加しており、そのような業者との取引にも十分対応できるのです。時流に即した変革です。
(2) 時間の使い方:データ処理や必要書類の探索に莫大な時間を奪われてしまう。ここでは、データ処理の時間を削る反面、コミュニケーションの時間を十分にとれるよう、時間配分を変革します。適切なデータにもとづく十分な議論は、意思決定の迅速性をももたらします。
限られたコストと時間で何をすべきか。やみくもに削るのではなく、必要なものには投資するなど、目的意識をもって業務改善にあたっています。
デスクのきれいさ
なにより驚くのは、この会社の社員のデスクがあまりにきれいなこと。
過去1年間使っていない書類をみる確率は1%未満。不要な文書は廃棄を徹底します。紙文書は減量化し、電子化を進めます。
悩ましいのは、放置プリント。しかし、これも、「パソコンの操作+複合機における社員証の提示」→印刷開始というシステムの導入で大胆に削減。印刷後、結局書類を取りに行くため、社員証の提示は余計な手間となりません。ミスプリはキャンセルできます。印刷を試みるも、間に合わず出社した際に放置されるプリントが散見されましたが、この場合も印刷されなくなり、無駄が省けます。このシステムでは、パネルに利用した印刷枚数・費用等が表示されるため、社員のコスト意識も高まります。
データの電子化にあたっては、そのファイルのネーミング、フォルダの仕分けにつき、全社で共通ルールをもうけます。ルールを実践すべく、ルールに沿って自動でネーミングと仕分けをしてくれるソフトを導入します。データ管理は自動で適切になされ、データ処理にかかる時間が圧縮されます。
ここでは、社員の付近にごみ箱を置きません。ごみ箱が近くにあると、ついつい書類を捨ててしまいます。別の社員が、その中にプライバシー情報を見つけます。その社員は、これを選別しシュレッダーにかけるという作業を強いられます。そのような手間を避けるため、ごみ箱は定位置に数か所だけ。ごみ箱から1番遠いのは上司であり、上司がごみ箱まで動いて捨てているなら私も・・・と配置を工夫しています。あえて移動して捨てる場合、適切な分別のうえ、必要なものはシュレッダーにかけるなど、適切な処理が促進されます。
無駄の排除により、「電話以外に何もないデスク」を実現。きれいなオフィスは、情報漏洩リスクが低い。生産性が高い。一方、必要以上に手間がかからないよう、ルールが定着しやすいよう、十分に配慮がされています。社員は、いきいきと仕事に取り組むことができます。
自戒もこめて・・・
ここで紹介したものは、氷山の一角。このほか、自動車の削減と公共交通機関のすすめ、グループ会社と同室にするメリット、地震対策など、さまざまな取組みにつき紹介してもらいました。
この会社の変革はBefore/Afterで示され、その変わりようには驚くばかり。Beforeの部分では、散乱したデスクがもたらすリスクなど、耳が痛い話も。しかし、工夫1つでここまで変われるのか!と感心しました。
これまでの自分を振り返ると、いたらない点ばかり。今回のツアーを参考に、ぜひとも、業務改善に取り組んでまいります。
みなさんも、機会があれば、民間の企業の取組みにつき、見学してみてはいかがでしょうか。きっと学ぶところが多いと思います。
「転ばぬ先の杖」(第24回) 犯罪被害に遭ったときには・・・
犯罪被害者支援委員会委員長 藤井 大祐(57期)
1 ある相談電話
ある日、日本司法支援センター(法テラス)から一本の電話。「犯罪被害者の精通弁護士紹介ということで、傷害事件の被害について相談に乗って頂きたい」とのこと。
《法テラスは、犯罪被害者支援ダイヤル(0570−079714。http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/)として、犯罪被害にあわれた方(ご家族も)に対して、被害後の状況やニーズに応じて、さまざまな支援情報を提供しています。そして、事案の内容等によっては、犯罪被害者の支援に精通した弁護士の紹介も行い、弁護士費用等の援助制度((1)加害者への民事での損害賠償請求等について法テラスが費用立替する民事法律扶助、(2)刑事手続における加害者との対応等について法テラスが費用援助する犯罪被害者法律援助)等も準備しています。(http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/nagare/index.html)》
2 事案の内容
法テラスからの情報を元に早速、被害者の方と連絡を取ってお話を聞く。
事案は強盗致傷事件。相談に来られたのは被害者のお母様(被害者本人は未成年)で、加害者は20代の無職者。ナイフで斬りつけられるという凶悪な犯行態様であったが、不幸中の幸いにも後遺症等は残らなかったという事案。
起訴後、加害者の国選弁護人から被害者のお母様に対しては、加害者の親の捻出によるという、損害賠償金が提示されていた。
ところが、被害者のお母様としては、「加害者の刑が決まるまでは、受け取れない」として、損害賠償金の受け取りをいったん拒否し、そのまま裁判は進行。
加害者には、10年近くの懲役刑の判決が下され、一審判決で確定後、提示のあった損害賠償金を受け取りたいと、法テラスに相談されてきた次第・・・
3 手の平返し?
加害者本人は若く資力はない。では、加害者の親を訴えたところで、法的責任があるかというと、加害者本人は成人している以上、親の責任を認めさせるのはなかなか困難。
こんな説明をしつつ、一応、相談の延長ということで、加害者の国選弁護人に電話をしてみる。「いったん提示したんだし、払いませんか」と。
しばらくして回答。案の定「刑も確定したので、親御さんとしてはもう払えません」と。
4 「知らなかった」
被害者のお母様に上記報告の上、改めてお話し。
当時は、犯罪被害者の刑事裁判への参加制度も施行されたばかりであったが、参加手続は取られていなかった。被害者のお母様いわく、(今回の事件の刑事公判は全て傍聴されていたものの)そんな制度があるのは「知らなかった」、知っていれば「参加していた」とのこと。
《平成20年に施行された刑事裁判への被害者参加制度では、一定の犯罪類型について、法廷の中で検察官の横で審理を傍聴し、被告人への質問、情状証人への質問や事件についての被害者参加人としての意見を述べられるようになりました。また、この参加に弁護士の支援を受ける場合の費用援助も法テラスで受けられます(被害者参加人のための国選弁護制度 http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/trouble_ichiran/20081127_3.html)》
もっと早く弁護士なりに相談してくれれば、参加するか否かや、(賠償金受領による減刑の可能性は視野に入れつつも)相手方から提示のあった賠償金を受け取るか、判断するという選択の余地はあったのに・・・
5 所感
犯罪被害の多くは、日常生活の中に突然訪れる。警察・検察の捜査等、普段全く経験しないことへの対応をしながら、日々の生活の維持に精一杯になる。
ただ、「転ばぬ先の杖」ということで、民間の支援団体への相談や、弁護士への相談も、被害に遭った早い段階で、行って頂ければと改めて思う。
《福岡県弁護士会でも、犯罪被害者を対象にした無料電話相談を行っています。匿名での相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。福岡県弁護士会・犯罪被害者支援センターの無料電話相談=092(738)8363(毎週火曜と金曜の午後4時~7時)。
また、福岡でも民間の支援団体(http://fukuoka-vs.net/)が存在します。こちらにもご相談下さい。》
紛争解決センターだより
会員 樋口 明男(46期)
本年2月15日、弁護士会事務局から「2月に申立が為された事件について仲裁人を引き受けることが可能か否か」打診があった。詳細に書かれた紹介状をみると、ドロドロした男女関係事件であり気が重かった。私は2013年に初めて担当したADRで和解を成立させている。専門性の高い建築紛争で一級建築士の助力を得ることが出来た上に当事者も冷静だったことにもとづく(月報13年9月号参照)。本紛争を容易に和解に導くことが出来るとは思えなかった。それでも仲裁人を引き受けたのは「誰かが担当しなければならない」という責任感による。
事案は夫と不貞行為をした女性に対する妻の慰謝料請求事件である。相手方女性の直筆書面(不貞行為の存在を認めた上で高額の金員を払う旨明記されている)が証拠として提出されていた。相手方には代理人弁護士が就いており、当該書面は事実に反して作成を強要されたもので、この書面により金員を請求することは恐喝に該当するとの主張がなされていた。私は「和解成立の見込みがなく1回で終了となるだろう」と予想した。
3月7日弁護士会館ADR室で双方の言い分を聞いた。双方当事者に母親が同伴していた。事案の性質上、双方ともに感情的だったが、とにかく最初はじっくり話を聞いた。その上で私が双方に言ったのは「仮にあなたの主張が事実だったとしても結論はあなたの思うようにはならないだろう」ということである。不貞行為慰謝料の成否や額については多くの議論がある。申立人に対しては「あなたの主張が事実であったとしても裁判所が認める慰謝料はあなたが思うほど高くないかも」と示唆した。相手方に対しては「あなたの主張が事実であったとしても先方は書証を有しているので訴訟に踏み切るだろう・その際に着手金が必要となる・あなたの主張が認められれば成功報酬が必要になる」と示唆した。弁護士費用の具体的議論は代理人の先生に委ねることにした。双方に話をした後「和解の見込みがなければ期日はこれで終わりますが、続行期日指定を希望されますか?」と聞いた。意外なことに双方とも期日続行を希望された。私は少し手応えを感じた。
3月17日第2回期日を開いた。先に相手方から話を伺うと代理人の先生はある程度の金銭を支払う和解案を用意されていた。私が考えていた水準と大差なかった。次に申立人から話を伺うと「和解案を出してきたことは評価するが、相手が自分の行為を恐喝と主張していたことが許せない」と怒りを表明された。私は数年前に被告側で受任した不貞行為慰謝料請求訴訟の経験を話した。当該事案で私は「美人局類似の抗弁」を主張していた。裁判所から示された和解案は高額ではなかった。この経験をふまえ「書面に記された金額に貴女がこだわることは良くないのでは」と示唆した。その前提の下、相手方提示案を示し「合理的な案だと私は思う」と付け加えた。申立人が持ち帰り検討することになった。
3月22日第3回期日を開いた。申立人は冷静になられており、母親も感情的な素振りを全く見せなくなった。申立人は最終的に和解案を受諾された。相手方に伝えるとホッとした感情が見受けられた。和解案を双方に示し双方から署名押印を得た。この作業は仲裁人弁護士ではなく職員さんが機械的に行うほうが手続がスムーズにいくようである。
弁護士会ADRにおける和解成立の場面では双方から成立手数料を払って貰う必要がある。支払の義務を負う相手方まで払ってもらえるのか不安があったが、事前に代理人から説明がなされていたようで相手方からも気持ちよく支払っていただいた。
こうして私は第2回目のADRも和解を成立させることが出来た。後から振り返れば事案に恵まれたと言うほかはない。紹介状を書いた弁護士の書面は的確なものだったし相手方に就いた代理人弁護士のスタンスの切り替えは「お見事」であった。
弁護士は紛争解決の専門家である。立場は違えど各自が役割を果たせば結果を残せるのである。
福岡市医師会とのパートナーシップ講演会
会員 楠田 瑛介(66期)
平成28年3月30日に、福岡市医師会・福岡県弁護士会パートナーシップ協議会の主催による講演会「虐待と非行」が開催されました。
講演会の報告の前に、主催団体である医師会・弁護士会パートナーシップ協議会についてご説明します。
この協議会は、医師会、弁護士会が互いの専門的知識の共有を図り市民へのサービス向上に繋げることを目的として平成19年2月に立ち上げたものです。
協議会の具体的な活動を担う組織として「高齢者障害者権利擁護委員会」と「児童虐待防止対策委員会」が置かれ、勉強会や講演会を実施してきました。
児童虐待防止対策委員会は、発足以来、活発な活動を行ってきました。
具体的には、定例委員会を2か月に1回程度開催し、福岡市児童相談所(こども総合相談センター)、NPO法人ふくおかこどもの虐待防止センター(F・CAP―C)とともに、児童虐待に関する様々な知見や制度について学んできました。
また、平成20年以降、震災のため中止となった平成23年を除く毎年3月に、児童虐待に関する講演会を開催して、医療関係者や弁護士のみならず、行政職員、NPOの方々など一般市民に対して、児童虐待に関する啓発をしています。
さて、今年の講演会は、「虐待と非行、そして発達障害−被害と加害の臨床を考える−」として、花園大学社会福祉学部臨床心理学科の橋本和明先生にご講演いただきました。
まず、虐待と非行について、加害者の中にも過去に虐待などの被害を受けた者もおり、「被害と加害の逆転現象」あるいは「被害と加害の反復現象」に対応する必要性について強調されました。
虐待が子どもに与える影響について、様々な影響がある中で、橋本先生は、「解離」について詳しく話されました。
解離とは簡単にいうと、意識の連続性がなくなることです。トラウマ体験があると、その体験を「冷凍」しなければ自分を保てない、そのような体験を人格・意識から切り離す、そうした心理的メカニズムが解離です。解離にも一次解離から三次解離(健康な解離から解離性同一性障害)まで広がりがあります。
三次解離の具体例として【性的虐待を受けているのは別の女性で自分ではない】というのが挙げられます。
次に、虐待と非行のつながりについてのお話です。虐待から逃れようと、非行の一歩手前、回避的行動をとる、暴力粗暴型非行・薬物依存型非行・性的逸脱型非行という非行の種類によって様々な行動があり、それは解離状態ともいえる、この回避的行動にいち早く気が付き、別の手段を与えることが大切である、と、橋本先生は、具体例を交えながら説明されました。
次に発達障害についてです。すでに残り時間がわずか、DSM-5による分類など細かな話は省略です。
発達障害と非行について、「自我と枠」の関係を橋本先生が書かれた絵を参考にしながら、成長とともに自我と枠のバランスが悪くなり、逸脱が生じると説明がありました。なかでも、性に関するつまずきや逸脱が多くなる理由として、親密な仲間関係から知識が得にくいハンディキャップなどを挙げられました。ものの見方が違うようです。例えば、「(少しふくよかな女性)担任の先生に対して、『先生が浴槽に入っているのを見たい』と言った」という例を挙げられました。フツーは、「先生の裸を見たい」ととらえるのではないでしょうか?しかし、自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害−アスペルガー障害や自閉症)の子は、「先生が浴槽に入ったときの『水位』」に興味を持っているのです。
ここで時間切れとなってしまいました。最後に橋本先生は、虐待・非行・発達障害は本来関係が遠いはずが、それぞれへの対応によって距離が近くなる、と強調されました。
このように、分かりやすい具体例を交えてのお話だったので、抽象的になりがちなお話について大変わかりやすい講演でした。
橋本先生は、近年は、少年の裁判員裁判などでの情状鑑定に力を注いでおり、人材育成もされているようです。
みなさま、来年はどのようなテーマになるか分かりませんが、大変勉強になるので、ぜひ講演会にご参加ください。
連載/高齢者障がい者の権利擁護と弁護士~権利擁護法務の実務解説 第4回/地域包括支援センターの役割
高齢者・障害者委員会 委員 大町 佳子(62期)
1 地域包括支援センターの概要
(1) 地域包括支援センターは、下記2で説明する事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設です(介護保険法第115条の46第1項)。
(2) 地域包括支援センターの設置主体は、市町村、または市町村から委託を受けた者です(介護保険法第115条の46第2項、第3項)。
(3) 地域包括支援センターの職員としては、原則として保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が配置されています(介護保険法施行規則第140条の66第1号)。
2 地域包括支援センターの役割(介護保険法第115条の46第1項)
地域包括支援センターの主な業務は以下のとおりです。
(1) 総合相談・支援業務(介護保険法第115条の45第2項第1号)
総合相談・支援事業は、地域の高齢者が、住み慣れた地域で安心してその人らしい生活を継続していくことができるようにするため、どのような支援が必要かを把握し、地域における適切なサービス、関係機関および制度の利用につなげる等の支援を行うものです。高齢者だけではなく、その家族、近隣に暮らす人などからの高齢者に関する相談も受け付けています。
(2) 介護予防ケアマネジメント業務(介護保険法第115条の45第1項第1号ニ)
介護予防ケアマネジメントでは、チェックリストにより「介護予防・生活支援サービス事業対象者」に該当すると判断される者に対して、その心身の状況、置かれている環境、その他の状況に応じて、その選択に基づき、訪問型サービス、通所型サービス、その他の厚労省が定める生活支援サービスから、対象者の状況にあった適切なサービスが包括的かつ効率的に提供されるように必要な援助を行います 1。なお、これらの予防サービスには、ボランティアなど住民が主体となった支援なども含まれます。
また、要支援者については、必要に応じて、介護予防訪問看護や介護予防福祉用具貸与等のサービスを利用することもできます。
(3) 権利擁護業務(介護保険法第115条の45第2項第3号)
権利侵害を受けている、または受ける可能性が高いと考えられる高齢者が、地域で安心して尊厳のある生活を行うことができるよう、権利侵害の予防や対応を専門的に行うものです。事業内容としては、高齢者虐待の防止および対応、消費者被害の防止および対応、判断能力を欠く常況にある人への支援などがあります。
例えば、高齢者に成年後見制度の利用が必要なケースについては、親族に制度の説明をして申立ての支援をし、申立てを行える親族がないと思われる場合や親族があっても申立てを行う意思がない場合は、市町村長申立てにつなげるなどしています。また、高齢者への虐待事例を把握した場合は情報の収集等を行って状況把握をしたうえで、緊急性が高い場合には養護者との分離を行ったり、養護者や家族の状況に応じた支援を行ったりします。
(4) 包括的・継続的ケアマネジメント業務(介護保険法第115条の45第2項第3号)
包括的・継続的ケアマネジメント支援業務は、地域の高齢者が住み慣れた地域で暮らすことができるよう、ケアマネージャーが個々の高齢者の状況や変化に応じた包括的・継続的なケアマネジメントを実現することができるように指導や支援を行うものです。
具体的には、地域のケアマネージャーに対する個別の相談窓口を設置する、ケアマネージャーの日常的業務の実施に関しケアプランの作成技術の指導等を行う、ケアマネージャーが抱える支援困難事例について、関係機関との連携のもとで具体的な支援方針を検討し、指導助言等を行うといった業務を行っています。
また、施設・在宅を通じた地域における包括的・継続的なケアを実施するため、医療機関を含めた関係機関との連携体制を構築し、地域のケアマネージャーと関係機関の間の連携を支援するといった業務も行っています。
(5) その他
上記(1)~(4)のほか、地域包括支援センターの業務として、在宅医療・介護連携の推進(介護保険法第115条の45第2項第4号) 2 、生活支援・介護予防サービスの体制整備(介護保険法第115条の45第2項第5号) 3 、認知症施策の推進(介護保険法第115条の45第2項第6号) 4 、などもあります。
3 福岡県内における地域包括支援センター
(1) 地域包括支援センターは、市町村の人口規模、業務量、運営財源や専門職の人材確保の状況、地域における保健福祉圏域(生活圏域)との整合性に配慮して、最も効果的・効率的に業務が行えるように、市町村の判断により担当圏域が設定されることとなっています。
(2) 福岡県には、平成27年11月1日現在、173カ所の地域包括支援センターが設置されています。
1 平成26年6月18日に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(以下、「医療介護総合確保推進法」という。)が成立し、同月25日に公布された。これにより介護保険法が一部改正された。
この改正により、従来の介護予防給付によるサービスうち介護予防訪問介護と介護予防通所介護については介護予防・日常生活支援総合事業(以下、「総合事業」という。)へ移行されることとなり、平成29年度までに全ての市町村で実施されることとなった。
従来の介護予防給付によるサービスのうち、訪問介護・通所介護以外のサービスについては、引き続き介護予防給付によるサービスの提供が継続される。
また、総合事業のみを利用する場合については、要介護認定等を省略し、チェックリストにより「介護予防・生活支援サービス事業対象者」に該当すれば、サービスを利用することが可能となった。
2 医療介護総合確保推進法による介護保険法の改正により、平成30年度までに全ての市町村で実施されることとなった。
3 同上
4 同上