福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

九州北部豪雨に関する無料法律相談実施報告

災害対策委員会委員長 吉野 大輔(64期)

1 九州北部豪雨に関する福岡県弁護士会の取組み

2017(平成29)年7月5日から6日にかけて、福岡県と大分県を中心とする九州北部で集中豪雨、いわゆる平成29年7月九州北部豪雨が発生しました。

福岡県弁護士会は、7月12日付で、本部長を作間功会長とする九州北部豪雨復興対策本部を立ち上げ、多くの関連委員会に協力いただき、福岡県弁護士会が一体となって被災者支援を行っていく体制を整えました。

これまで、福岡県弁護士会は、広島県弁護士会の今田健太郎弁護士から広島土砂災害に関する被災者支援について講演をしていただいたり、弁護士があっせん人となり災害に関する紛争の円満な解決を図る調停の制度(災害ADR)を整備したり、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の登録支援専門家の依頼を受け入れる準備等、様々な支援活動を行ってきました。また、被災者への情報提供については、弁護士会ニュースの作成及び配布、HPやツィッターなどを通じて被災者支援情報の提供などを行ってきました。

ただし、本報告では、無料法律相談を中心に報告させていただきます。

2 無料面談相談

福岡県弁護士会は、福岡地区及び筑後地区では7月7日から、北九州地区及び筑豊地区では7月10日から、県内17カ所の法律相談センターでの無料面談相談を開始しました。

7月の相談件数は、合計18件で、その内12件が北九州地区の相談でした。相談内容のほとんどが、崖崩れにより隣の家の土砂などが相談者の土地に流れ込んできたなどの相隣関係のトラブルでした。かかる相談傾向は、その分析を今後丁寧に行う必要がありますが、北九州市では多くの崖崩れが確認されており、九州北部豪雨が広範囲に甚大な被害をもたらしたことを物語っていると思います。

3 無料電話相談

無料電話相談は、7月11日から開始しました。8月4日まで、電話相談の時間帯を午前10時から午後4時まで行っていましたが、電話相談の件数等を考慮して、8月5日から、午後1時から午後4時までに変更しました。

8月17日時点で、合計29件の電話相談がありました。

最も多い相談内容は、公的支援・行政認定等に関する相談です。災害被災者への法的支援制度として、住宅に被害が生じた場合にはその被害程度に応じて支援金が給付される被災者生活再建支援制度や被災者のご遺族に弔慰金が支給される災害弔慰金制度等があります。被災者に対し、これらの法的支援制度の情報を提供することは、無料電話相談の重要な役割であります。

次いで多い相談内容は、工作物責任・相隣関係に関する相談です。九州北部豪雨災害は、河川の増水・氾濫や土砂崩れなどにより、周辺地域の土砂や流木が被災者の土地や住居に流れ込む被害が多かったことが原因であると思われます。

4 避難所への出張相談

避難所への出張相談は、不定期ではありますが、7月25日から、随時避難所へ会員を派遣する方法で開始しました。

朝倉市の避難所には、7月25日に1カ所、7月29日に2カ所、8月9日に1カ所、8月11日に1カ所、8月12日に2カ所で出張相談を行いました。東峰村の避難所には、8月8日に1カ所、8月16日に2カ所で出張相談を行いました。8月17日時点で、福岡県の全ての避難所で出張相談を行いました。

弁護士が避難所に行っただけでは、被災者から相談に来ることはほとんどありません。弁護士による被災者への法的支援が可能であることの周知が行き届いていないことが原因と思われます。そのため、弁護士から被災者に声をかけて話を直接聞いて行く方法で行われています。避難所にいる被災者は、住居に住むことができなくなっている方々ですので、罹災証明書の申請の有無、罹災証明取得後の公的支援制度の説明をすると、熱心に聞いていただけますし、被害状況等の話をしていただけます。弁護士にとっても、そうした中で、被災者に必要な支援が何かを把握することに努めております。

5 今後の課題

災害対策員会は、九州北部豪雨の被害状況に比して、法律相談件数が少ないと考えています。弁護士による被災者に対する法的サービスが可能であることが、被災者等に周知できていないことが原因と思われます。また、特に在宅被災者には、公的サービスが行き届かない問題があります。今後は関係自治体の職員やボランティア団体と連携して、法律相談の周知をさらに図って行くことが必要であること考えています。

8月18日から仮設住宅への入居が始まりました。今後は仮設住宅への出張法律相談を行っていくことも検討していかなければなりません。

また、これまでの相談内容を分析することで、被災者支援に必要なことを把握し、関係自治体やボランティア団体に対し、被災者支援に必要な情報提供及び政策提言をしていきたいと考えています。現在の段階では、災害対策委員会では罹災証明の認定が厳格に過ぎることが問題であると考えており、様々なチャンネルを使って、自治体やボランティア団体と問題点の共有を図っています。

6 まとめ

九州北部豪雨に関する法律相談には、多くの会員にご協力いただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。ただ、被災地の復興には、継続的かつ長期的支援が必要です。災害対策委員会としては、被災地復興まで継続的支援を行う予定ですので、今後ともご協力のほど宜しくお願い申し上げます。

あさかぜ基金だより ~ひとよし法律事務所を訪問して~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 服部 晴彦(68期)

ひとよし法律事務所を訪問しました

あさかぜ基金法律事務所の所員弁護士の服部です。あさかぜは、弁護士過疎偏在問題の解消のため、弁護士過疎地域で働く弁護士を養成する公設事務所です。あさかぜで養成を受けた弁護士は九弁連管内のひまわり基金法律事務所や弁護士過疎地に所在する法テラス7号事務所(総合法律支援法第30条第1項7号)に赴任していますが、日弁連の支援を受けて、弁護士過疎地で独立開業した弁護士もいます。66期の中嶽修平弁護士は、平成28年3月に熊本県人吉市にて「ひとよし法律事務所」を開業しました。

私と若林毅弁護士は、本年8月5日に、ひとよし法律事務所を訪問、見学し、中嶽弁護士から開業前や開業してからの話を聞きました。

人吉市はこんなところ

人吉市は熊本県の南東に位置し、宮崎県、鹿児島県と境を接している人口3万3000人の城下町です。球磨焼酎と温泉で有名で、球磨川での川下りやラフティングなど自然を活かした観光に力を入れています。中嶽弁護士は、人吉市に近い熊本県球磨郡水上村の出身で、弁護士になる前は人吉市役所の職員として勤務していました。

人吉市には、熊本地裁人吉支部があり、人吉市のほか、球磨郡の9町村(人口5万3000人)を管轄しています。人吉市には中嶽弁護士の他に2名の弁護士がいます。

事務所を開業するにあたって

福岡から人吉までは、新幹線と高速バスを乗り継いで2時間もかかりません。ひとよし法律事務所は、古社青井阿蘇神社の境内近くのマンション2階にあり、人吉駅からも徒歩で10分かからない好立地です。

事務所を探したときの苦労話を中嶽弁護士に聞いたところ、エレベーターなどバリアフリーに対応していること、複数台を駐車できる駐車場があること、オートロックなどセキュリティが十分であることなどを条件に探したが、条件に見合う事務所用テナントの空きがなく、自宅を探そうと立ち寄った不動産業者からたまたま事務所用の物件を紹介され、条件に合致した物件でそのまま契約に至ったとのことでした。

開業準備で苦労した点は、複合機はリースだったが、その他の什器備品類は、新品で購入することになり、初期費用が高くなってしまった。福岡と違って、中古でオフィス用品を揃えるのが難しいので、過疎地での開業では注意が必要とのことでした。また、備品類の納品に時間がかかるので、早めに発注しないと開業に間に合わなくなるため、計画的に開業準備を進めるほうがよいとのことでした。

相談件数、受任件数を増やすには

法律事務所の運営において、一定数以上の相談件数、受任件数を確保する必要がありますが、過疎地域での開業直後は一からのスタートなるので、大変ではないかと思い、相談件数を増やす営業活動についても聞いてみました。

相談や受任の経路としては、地元紙や電話帳への広告の掲載、ホームページ作成といった広報をしているので、そこから相談予約がある、また、消費生活センターや球磨郡各自治体の出張相談から受任するケースもある。その他、相談を増やすための工夫としては、税理士や司法書士ほかの他士業との交流や青年会議所などの団体に積極的に参加する、仕事用の携帯電話を転送設定にして、業務時間外の予約受付をする、相談料も30分2000円と安くして気軽に相談してもらえるようにしているとのことで大変参考になりました。

中嶽弁護士は、私達が事務所訪問した日も、夕方からは地元の夏祭りが開かれ、実行委員として参加するということを言っていて、地域の活動にも積極的に参加して、弁護士の存在をアピールしていくことも、営業活動として必要だと痛感しました。

弁護士過疎地赴任に向けて

私は平成27年12月にあさかぜに入所し、弁護士過疎・偏在地域への赴任に向けて、あさかぜで養成を受けてきました。未だに赴任先は決まっていませんが、独立開業という選択肢も考えて、あさかぜにおいて準備を進めていきたいと考えています。

「転ばぬ先の杖」(第34回) 自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインのご紹介

災害対策委員会 宮下 和彦(46期)

1 今夏の九州北部豪雨災害で被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。

今回の転ばぬ先の杖では、九州北部豪雨災害のように災害救助法が適用される大規模な災害に遭ってしまい、そのため住宅ローンなどの支払が難しくなった個人の方のための一つの解決手段として、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)をご紹介します。

2 このガイドラインは、元々東日本大震災に伴い策定された個人債務者の私的整理に関するガイドラインの運用の経験を踏まえて、全国銀行協会を始めとする関係金融機関、金融庁ほか関係各庁、日弁連、日本不動産鑑定士協会連合会ほかの関係士業団体や学識経験者らが協議を重ねて平成27年12月に策定されたもので、平成28年4月1日から運用が開始されました。ガイドラインは、被災した債務者の自助努力による生活や事業の再建、ひいては被災地の復興・再活性化を目的とするもので、自然災害に被災したがため、従来から有していた住宅ローンや事業性ローンその他の債務の支払が出来なくなった、あるいは出来なくなるおそれがある被災者(この要件を災害起因性と言い、り災証明書の入手が必要です)が、一定の要件の下、債務の全部または一部の減免を受けられる制度です。これまで、昨年4月の熊本地震や10月の鳥取県中部地震、12月の新潟県糸魚川市における大規模火災などで利用されており、熊本地震においてはこれまで660件以上の利用申込みがなされています。

ガイドラインを利用することのメリットとして、破産や民事再生などの法的手続と異なり、

(1) 弁護士などの登録支援専門家の手続支援を無料で受けられる。

(2) 自分の手元に残せる現金などの自由財産の枠が、破産などに比べると大きい。

(3) 個人の信用情報として登録されず、将来新たな借入れも可能である。

(4) 原則として、保証債務の履行も認められない。

ことが挙げられます。

手続の流れは、債務者が、まず最大の債権者(いわゆるメインバンク)からガイドラインの手続を進めることについての同意書をもらいます。次に、債務者が、同意書を各地の弁護士会に提出します。すると、一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関(全国銀行協会からガイドラインに関する事業を譲り受けた組織です)によって、当該債務者の担当の登録支援専門家の弁護士が選任されます。債務者は、その弁護士と打ち合わせを行い、支援を受けながら、必要書類や資料を整えて全ての債権者に対して債務整理開始の申出をします。この申出により、債務の支払について一時停止の効力が生じます。つまり支払わないことについて、債権者のお墨付けを得ることになります。その後、債務者は、登録支援専門家の支援の下、債権者ごとの特定調停条項案を作成し、各債権者宛に提出します。各債権者の同意が得られれば、債務者は特定調停の申立をして、債務の免除や減額を内容とした特定調停が成立することになります。

債務の免除を受けるためには、原則居住不動産を手放さなければなりませんが、不動産鑑定士の登録支援専門家に鑑定を依頼し、適正に評価された価格を5年間で支払うことにより、当該不動産を手元に残すことも可能です。

3 但し、ガイドラインの利用には先に述べた災害起因性などの一定の要件があるうえ、あくまで債権者の同意が必要です。また、認められている自由財産枠には限界もあります。あくまで個人債務者のための手続であり、法人については認められません。特定調停によって、当該債権について判決を受けたのと同様の債務名義が生じますので、調停条項通りの支払が滞ると、競売申立などの強制執行を受ける恐れがあるなど、デメリットが無いわけではありません。

それでも、被災者にとっては、生活・事業の再建に有用な一定の現預金を確保して、従来の債務の減免を受け、さらに、将来の借入れ等の可能性も残すことが出来ますので、生活・事業再建の有力な手段となり得ることは間違いありません。被災者におかれては、まずガイドラインによる解決の可能性を探ることは転ばぬ先の杖と言えるはずです。

2017年8月 1日

あさかぜ基金だより

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 若林 毅(68期)

あさかぜの所員弁護士は、およそ2年の養成を経て、九州内の弁護士過疎地域に赴任します。平成20年9月の事務所開設以来、これまでに18名の弁護士が、九州内の弁護士過疎地に赴任しています。私も2年目となり、赴任を考える時期となりました。

そこで、今回は弁護士過疎地域への赴任に向けて、あさかぜでどのような養成を受けているかについて、ご紹介したいと思います。

事件処理の養成について

あさかぜは、委員会方式という運営方式を採っており、所長はいません。

所員弁護士に、福岡県弁護士会所属の指導担当弁護士がそれぞれ3名選任され、事件の共同受任などを通じて指導を受けます。また、福岡県弁護士会の執行部経験者を中心としたあさかぜ応援団や九弁連管内の弁護士との共同受任や事件の紹介を通じて経験を積みます。

私自身も指導担当をはじめ多くの諸先輩弁護士と様々な種類の事件を共同受任させていただき、日々多くのことを学んでいるところです。

単独受任事件では、刑事、債務整理、離婚等の家事事件が比較的多く、共同受任事件では、一般民事事件その他の事件が多い印象です。

あさかぜでは、事件管理簿を作成し、毎週弁護士と事務局がミーティングを行い、事件処理についてその週にするべきことを確認・共有し、業務の効率化に努めています。あさかぜでは所員の転出が常に予定されているため、事件の引継をスムーズにすることも目的の一つです。

事務所経営・運営の養成について

あさかぜ所員は、主として九州管内のひまわり基金公設事務所に赴任することが予定されており、基本的に独立して事務所を経営していく必要があるため、事件処理だけではなく、事務所の経営・運営についても意識的に考え実践するよう養成を受けています。

具体的には、九弁連のあさかぜ基金管理委員会と福岡県弁のあさかぜ基金法律事務所運営委員会から、経営、養成、赴任準備などについて指導・助言を受けています。

事務所会議も開催しています。事務所会議は、運営委員会委員長と事務局長、担当副会長、所員弁護士、そして事務職員が参加し、月1回開かれています。ここでは、キャッシュフローデータにもとづき、毎月の収支の動きの把握に努め、経営ノウハウについてもアドバイスを受けています。キャッシュの動きを月単位で把握することで、事件について終結する目途を考えたり、法律相談をどのように受任につなげていくか工夫したり、賞与の支払いや税金・社会保険料の支払いを念頭に置いてランニングコストを意識するように心掛けています。事務所の広報についても、さらにホームページを拡充する方策を検討しているところです。

また、あさかぜでは、事務職員の労務管理も養成の一環としています。ひまわり公設事務所に赴任すれば、事務職員の募集・採用、就業規則の作成・改定、36協定の提出、労働時間の管理などを行う必要があるからです。赴任後の事務職員への指導も視野に、所員弁護士が一度は各所の事務手続(裁判所・検察庁・弁護士会・法務局・労基署・郵便局関係など)を行うようにもしています。

この他にも赴任へ向けて、所員弁護士各自が委員会活動や各種研修にも積極的に参加し、弁護士としての活動の幅を広げるべく研鑽を積んでいます。

日々の業務では、目の前の事件処理に追われがちになることも多いのですが、事務所経営・運営についてもしっかり学び、今後の養成期間をより充実したものにしていくつもりですので、引き続きご指導、ご援助をお願いします。

「転ばぬ先の杖」(第33回) 貸金業者の取立てと消滅時効

消費者委員会 山田 裕二(69期)

転ばぬ先の杖。このコーナーは、一般の方に役立つ法律知識をお伝えするコーナーです。今回は、消費者委員会が担当します。

消費者問題には、様々な種類のものが存在します。今回はその中でも、貸金業者の取立てと消滅時効との関係について取り上げたいと思います。

そもそも消滅時効というのは、一定期間権利行使をしないことにより、権利を消滅させる制度のことを言います。これは、権利の上に眠る者を保護しない、すなわち、権利を持っているのに一定期間使わない人は保護しないという法の考え方を具体化したものです。

具体的には、民法第167条に規定されていて、債権の場合には、時効期間は10年とされています。また、商行為によって生じた債権の場合については、商法第522条で、時効期間は5年とされています。商行為とは、例えば、貸金業者がお金を貸す行為等をいいます。したがって、貸金業者の貸金債権は消滅時効期間が5年になります。

つまり、貸金業者からお金を借りていた場合でも、お金を返さなければならない日(弁済期)に支払をせず、その日から5年経過してその間に貸金業者から何の請求も無い場合には、消滅時効により返済しなくてよいということになります。

ただし、時効期間が経過したからといっても当然に権利が消滅するわけではありません。消滅時効は「援用」、すなわち時効期間が経過したので債権を消滅させますという意思表示をしないと効果が発生しません。そのため、貸金業者は、時効期間が経過していることをわかった上で請求してくることがよくあります。時効期間が経過していても支払ってもらえればそれでよいからです。

時効期間を経過しているかもしれないと感じた場合には、弁護士に相談するなどして、確認してから対応するようにしましょう。

また、注意を要しますが、何らの請求もないまま5年過ぎた後でも、時効の援用ができなくなる場合があります。

それは、「時効期間経過後に債務者が債務を承認した場合」です。

この場合には、もはや時効の援用ができなくなるという最高裁昭和41年4月20日判決があるため、時効期間が過ぎた後に債務を承認すれば、それ以降は時効の主張ができなくなるとされているのです。そして、これは、時効期間が経過したことを時効を主張する人が知っていたか否かに関係ないとされています。その理由としては、債務者が時効期間を経過したことを知っていたかどうかにかかわらず、時効期間満了後に債務を認めたのであれば、債権者としてはもはや時効を言い出すことはないであろうと信頼するはずで、その信頼を保護して、時効主張を許さないとするのが信義則に照らして相当であるからと説明されています。

では、「債務の承認」とは何かですが、よく出てくるのは、弁済、例えばお金を借りたときにお金の返すような場合があたります。お金の支払いをすると言うことは、自分に支払うべき債務が残っていることを認めてその支払をしているものということで、債務の承認に当たるとされます。

そして、そのような前提の下で問題となったのが下記の事案です。

時効期間が経過した債務者に対し、貸金業者が債務名義(例えば判決等)がないにもかかわらずこれがある旨の虚偽の事実を記載した「強制執行予告通知」を送り付け、困惑して電話をしてきた債務者に対し、「いくらでもよいからお金を入れてくれ」と申し向けて10万円を支払わせ、その後、更に47万円の貸金返還請求がされたという事案です。

この事案の場合、上記最高裁の判決から考えると消滅時効の期間が経過した後に10万円を支払っているので、追加で請求された47万円について、消滅時効の援用はできないこととなりそうです。

しかし、大分地裁平成28年11月18日判決は、時効の援用を認めました。

理由としては、本件貸金業者は、組織的に強制執行通知を送付するという脅迫的な言動による取立てをしており、社会通念上許されない違法なものであると認定したことにあります。

つまり、貸金業者は、違法な取立行為を行っており、今後時効を援用されないだろうと信頼することが相当であるとは言えないから、消滅時効の援用が信義則違反にならないと考えたのです。

同様の事案で、督促状に不安や恐怖を感じた後に債権者の従業員に連絡したところ、従業員から一括返済を重ねて求められて困惑又は畏怖した結果一部弁済した事案でも、消滅時効の援用を認めています。(浜松簡裁平成28年6月6日判決)

また、時効完成後に、債権者が債務者に対して督促状を頻繁に送り、さらに債権者の従業員が債務者宅を訪れて2000円の弁済を受けた上で、早期返済計画を立てることを求め、その求めに応じて債務者が分割弁済案を提案したものの債権者が拒否した事案でも、時効の援用を認めました。

この事案では、貸金債権の時効期間が経過した後の借主の支払いは、債権者従業員の訪問請求に対して、十分な法的知識を持ち合わせていない借主が従業員の言動に誘導された結果の反射的な反応の域を出るものでなく、債務の弁済の実質をなしていないとして、債権者における時効を援用しないという信頼が信義則上保護するに足りないものと判断され、消滅時効の援用が認められています。(宇都宮簡裁平成24年10月15日判決)

以上のような最近の裁判例からすると、時効完成後に弁済をした場合であっても、貸金業者の取立ての行い方によっては、時効の援用が認められる可能性があることになります。

貸金業者の取立てについても、当然適法な方法で行わなければならず、法律を遵守する必要があります。そのため、騙したり脅したりという取立てを受けて支払いをなした場合には、時効を援用する権利は失われないというのが、裁判例の傾向であると言えます。

貸金業者の問題のある取立て、対応に悩まされている方は、ぜひ弁護士にご相談下さい。

平成29年6月22日付 「弁護士による行政ホットライン」実施のご報告

行政問題協議会 委員 稲場 悠介(62期)

第1 はじめに

私個人の話で恐縮ですが、私は特に行政事件に詳しい訳ではありません。

また、事務所事件も行政事件が多いということもありません。

そんな私が、なぜこの委員会に所属しているのかというと、ある行政絡みの集団訴訟事件を手伝ってほしいと事務所の兄弁に言われたからです。それを了承したところ、「じゃあ委員会に委嘱しとくね~。」と言われて、いつのまにか委員になっていたのです。

しかし、冷静に考えると、行政事件について素人同然の私が「行政問題委員会」という堅そうな委員会でやっていけるのか、当初は不安もありました。

「その程度の知識でよく入ってきたね」なんて思われたらイヤだなぁ、とか考えていました。

ただ、結論から言うと、それは杞憂に終わりました。

一応、司法試験で行政法の勉強はしていたので、全く分からないということはありません。むしろ、その知識があれば委員会内の議論は十分に理解できます。

また、委員会の雰囲気も全然堅くなかったです。

誤解を恐れずに言えば、学生時代の部活の部室のような雰囲気といった感じでしょうか。

第2 弁護士による行政ホットラインについて

さて、当委員会の活動の一つに「弁護士による行政ホットライン」という活動があります。

これは、市民の行政に対する苦情や悩みを電話や面談で相談を受ける、というものです。

社会生活の中に行政活動は様々な形で入り込んでいますので、相談内容の守備範囲はかなり広いです。また、相談内容もタフなことが結構あります。

しかし、相談者の話をよく聞いて、しっかりと紐解いていくと、回答の道筋が見つかるものです。よくあるのが、行政に対しては不満だけで、実質は私人間の民事問題の相談であったりすることです。

また、面談相談の場合は、基本的に二人一組で対応するため不安はありません。

電話相談の場合は、性質上、一人で応対しなければなりませんが、他の委員が待機している場所に電話を設置しているので、分からなければ保留にしていつでも相談できます。

新人研修以降、諸先輩方の法律相談に同席する機会は少なくなりますが、このホットラインではその機会が数多く提供されます。

ですから、このホットラインでの相談を受けると、自分の法律相談スキルが凄く上がっていくことが実感できます。

平成29年6月22日は、電話相談が3件、面談相談が1件入りました。

このうち、私は電話相談を2件担当しました。

簡単に内容を説明しますと、自宅敷地外の隣地に勝手に土が捨てられてコバエが出てきて困っているという相談と生活保護に関する相談でした。

いずれも諸先輩方のお知恵を借りながら、上手く対応できたと思います。

第3 行政ホットライン後の対応

この日の相談は事件に結び付くものはありませんでしたが、相談内容によっては事件として受任することもあります。

ホットライン終了後には定例委員会が開催され、その中で本日の相談内容の報告があります。そして、事件として対応すべき案件の場合、有志で継続相談を行ったり、場合によっては事件として受任します。

このときは、事務所を超えた先生方と一緒に事件をすることができるので、普段とは違った経験をすることもできます。何より、一緒に事件に取り組むということは、単なる委員会活動を超えた連帯感を醸成する機会になると思います。

第4 おわりに

当委員会ではホットラインを始めとした行政問題に関する様々な取り組みを行っています。行政法の関連法規は近時改正が相次いでいますので、その簡単な勉強会や各委員が実際に担当した事例報告会等をしています。

行政事件は、行政機関は勿論、国会議員・地方議員またはマスコミなどと協議することもあり、通常の事件とは違ったスケールの大きな展開を感じることもあります。

でも、それは、ホットラインを通じた市民の一本の電話から始まるということもあるのです。

もし、本記事をお読みになって、当委員会の活動に興味を持たれる方がいらっしゃれば、是非当委員会の扉を叩いてみてください。

「部室」でお待ちしています。

「女性の権利110番」のご報告

両性の平等に関する委員会 糸瀬 真理(65期)

1 はじめに

日弁連が男女共同参画週間に毎年開催している「女性の権利110番」を、当会においても本年6月23日から6月30日に開催しました。「女性の権利110番」とは、離婚や職場における差別など女性の権利一般についての無料電話相談で、福岡県及び福岡市に後援していただいています。また、以前は、各部会の弁護士会館でのみ実施していましたが、平成26年以降は、県内の男女共同参画センターにも共催いただき、各男女共同参画センターでは弁護士と相談員の方が一緒に電話相談に応じています。なお、昨年からは、女性の権利に関する相談に加え、LGBTの方々からの相談も受け付けています。

2 準備

福岡県及び福岡市に後援の依頼をするとともに、昨年共催をお願いした男女共同参画センターに今年も共催を依頼しました。後援及び共催の決定をいただいた後、関係各所や報道機関にチラシを配布しました。例年は、日弁連から送付されるひな形を利用してチラシを作成していたのですが、今年は少しでも多くの方に手に取っていただけるようにと当会独自のチラシを作成しました。その後、6月12日に福岡地方裁判所の新聞記者室で記者レクを行いました。

3 実施

例年、福岡県弁護士会館(以下、「会館」といいます。)では初日に相談を実施しており、午前中に報道機関が取材に来てくださいます。今年も23日午前中にテレビ局3社が取材に来てくださり、相談風景をお昼や夕方のニュースで放映してくださいました。また、26日の午前中には飯塚法律相談センターでラジオカー中継をしていただきました。

私は23日午後の会館担当だったのですが、報道効果もあったのか12件の相談がありました。会館は2回線で実施しているのですが、電話はほぼ鳴りっぱなしで、終了15分ぐらい前からやっと少し落ち着いた感じでした。他の相談箇所もほぼ同じような状況だったと聞いています。

4 おわりに

近年の相談件数は、平成25年43件、平成26年81件、平成27年118件、平成28年81件と推移してきており、今年は120件でした。昨年と比べると、福岡部会内9件、北九州部会内9件、筑後部会内9件、筑豊部会内12件の増加です。件数増加の明確な要因は分からないのですが、電話をかけてきた相談者に、どのような媒体で「女性の権利110番」のことを知ったのかアンケートを実施したところ、テレビや新聞という回答が比較的多く見受けられました。相談件数が多ければ良いというわけではありませんが、せっかく実施するのであれば、やはり多くの方に知ってもらい、相談していただきたいので、来年以降も積極的に広報活動に取り組んでいきたいと思います。

連続シンポジウム「地域で防ごう消費者被害in福岡」が開催されました

消費者委員会委員 桑原 義浩(58期)

1 連続シンポジウム企画

6月17日土曜日、インペリアルパレスシティホテル福岡で、日本弁護士連合会と福岡県弁護士会の主催による連続シンポジウム「地域で防ごう消費者被害in福岡」が開催されました。この連続シンポジウムは、高齢者に対する消費者被害が増加している中で、被害の予防と救済のためには地域での連携が不可欠であることから、全国各地での開催を目指し、日弁連と各弁護士会とで主催して開催してきているものです。当職も日弁連消費者問題対策委員会副委員長ですが、某N弁護士から参加するかの確認の電話が入るほど、開催前には参加人数を気にしていたようです。結構早めに会場に行ったつもりでしたが、既に満席、椅子を持ち込んでも立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。140名ほどの参加があったようです。

2 基調講演

まず、独立行政法人国民生活センターの松本恒雄理事長から、「地域で防ごう消費者被害−『弱い消費者』をめぐって」と題する基調講演がありました。一言に「消費者」と言っても色々な人々が含まれますが、消費者の中でも特に弱く、傷つきやすい消費者として、高齢者や若年消費者がある、その被害の防止には消費者教育では限界があり、見守りネットワークなどの組織的対応が必要といった内容でした。

3 基調報告

次に、国府泰道弁護士(大阪弁護士会)から、「被害防止の手法と取組について」と題して、訪問勧誘、電話勧誘の被害状況と、その防止のための色々な工夫が紹介されました。シンポへの参加を呼び掛ける電話勧誘はいいとしても、高齢者に電話で勧誘して被害を生むことは、止めさせなければいけません。最近は迷惑電話対策装置も色々と出ています。大阪府警では、受話器を取ると「ちょっとまった!!」との手形POPが立体的に起き上がってくるなどというのもあるそうです。さすが大阪。さらには、訪問販売お断りステッカーを作成し、そのステッカーのある家に訪問勧誘すると条例違反にするような活動もされています(大阪弁護士会のステッカー参照)。これらの活動は、福岡でも取り組んでいきたいところです。

大阪弁護士会のステッカー
4 取組報告

その後は、色々な団体からの取組報告です。列挙していきますと(1)福岡県消費生活センターからの活動報告、(2)最近も投資詐欺事案の摘発を行った福岡県警察の取組、(3)福岡県生活協同組合連合会の篠田専務理事から、見守りネットふくおかの活動について、(4)NPO法人I'サポート新宮の井上理事長から、「あっというまに年をとる、他人事でない後見の話」、(5)苅田町の見守りネットワークと消費者の安全確保についてのご紹介、(6)佐賀大学経済学部経済法学科3年生の皆さんによる消費者教育の取組、そして(7)セブンイレブンジャパンから、「コンビニエンスストア セイフティステーション活動」について。

それぞれに大変興味深い報告でした。佐賀大学の活動は、「Consumer's Why みんな消費者」というテキストになっていて、これは消費者庁のホームページにも掲載されるほどになっています。食の安全について学んでもらうために人工イクラを作ってみよう、という市民向けの啓発企画も行われています。本物そっくりの人工イクラを知ることで、見た目だけでだまされないことを学ぶものです。実際に受けてみたいなと思いました。

5 福岡で防ごう消費者被害!

このように、各種の団体がそれぞれに、高齢者など「弱い消費者」を守り、救済しようという活動をされていることが分かりました。今後は、その団体同士が横のつながりを持って、連携をしていけば、より大きな活動になっていくものと思います。そして、その運動の盛り上がりから、これを全国規模の活動につなげて、悪質な訪問勧誘、電話勧誘を防止できるような法改正につなげていくことができれば、と思っています。そのスタートの1つとなるシンポジウムでした。

日弁連では、今後も、九州の他県でも開催していくことを考えています。参加確認の電話勧誘を受けることなく、是非、参加してみてください。

共謀罪法の問題を考える緊急シンポジウムのご報告

情報問題対策委員会委員 一坊寺 麻希(66期)

1 はじめに

平成29年6月15日、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法(以下「共謀罪法」と略称します。)が成立し、同年7月11日に施行されました。当委員会では、成立した共謀罪法に多くの重大な問題が残ったままであることを広く市民に伝達し、今後、共謀罪法の無限定な運用により国民の権利が不当に侵害されることを防ぐため、共謀罪法成立後間もない同年6月25日に緊急シンポジウムを開催しました。以下、その内容をご報告いたします。

2 共謀罪法とは?

(1) 今一度、共謀罪の内容を振り返ると、共謀罪は(1)「組織的犯罪集団」が、(2)長期4年以上の刑を定める277の犯罪(例えば、窃盗、傷害等)について、(3)犯罪を計画し、(4)犯罪準備行為が行われたときに成立します。

(2) 共謀罪の問題点として、法益侵害の現実的危険性が生じる随分前の段階で処罰対象とするため我が国の刑法の基本原則と相容れないこと、テロ対策と言いながら「組織的犯罪集団」に一般人も含まれうること、対象犯罪が広範である一方で政治家が問擬されうる罪は除外されていること、犯罪準備行為にはATMで預金を引き出すなどの日常的行為も含まれるため処罰範囲を制限できていないこと、「共謀罪」の捜査により監視社会となり国民の表現が萎縮する可能性があることなどが指摘されてきました。

3 内田博文九州大学名誉教授(以下「内田名誉教授」といいます。)の基調講演

(1) シンポジウムでは、まず、内田名誉教授(刑事法学)に「治安維持法と共謀罪」と題して基調講演をいただきました。講演では、治安維持法と「共謀罪」の共通点が示され、治安維持法施行下で生じた問題事例が共謀罪法施行下でも生じうる可能性について指摘がありました。

(2) たとえば、治安維持法制定当時の帝国議会では司法大臣が「思想を圧迫するとか研究に干渉するとかは有り得ない」「善良な国民、普通の学者であり研究者というものに何ら刺激を与えるものでない」(1925年3月11日貴族院本会議)などと答弁していましたが、周知のとおり、治安維持法は一般国民に広く適用され国民の自由を制約してきました。共謀罪法においても、法務大臣は「共謀罪法は一般人に適用されない」と答弁していますが、それと矛盾する答弁がなされるなどしており、一般人に共謀罪が適用される可能性があることが示されました。

また、拡張適用の事例についても具体的にご説明いただきました。治安維持法施行当時、妻が夫のために家事を行うこと、あるいは金銭を用意することは極々自然の行為でしたが、夫が日本共産党中央委員長である場合には「日本共産党の目的遂行の為にする行為」と問擬され懲役2年の実刑判決(昭和8年7月6日題一刑事部判決)が下されることとなり、治安維持法はまさに思想を弾圧する道具として利用されたのでした。

(3) 内田名誉教授は、共謀罪法を監視社会や国民の表現を萎縮させる道具として利用させないためには、第三者機関を設置し、共謀罪法の運用が適正になされているかを常に監視する必要があると仰っていらっしゃいました。

4 パネルディスカッション

(1) その後、内田名誉教授、田淵浩二九州大学教授(専門:刑事訴訟法、以下「田淵教授」といいます。)、当会の情報問題対策委員会の武藤糾明委員長によるパネルディスカッションが行われました。ディスカッションの要旨は以下のとおりです。

(2)共謀罪の問題点は?

田淵:これまでの犯罪は実行しなければ基本的に成立しなかったため犯罪を思いとどまる自由が与えられていた。しかし、共謀罪によりその自由が奪われる。

内田:国民の権利主張活動を妨害するために利用される。

武藤:国民の表現活動が萎縮する。人権侵害を制限する仕組みが存在しない。

(3) 共謀罪の立法過程の問題点は?

内田:中間報告によるのであれば、法務委員会で決議できなかった理由を説明しなければならないがこれをしていない。国会法違反にあたる。

田淵:政府の説明にごまかしがある。パレルモ条約批准のために「共謀罪」が必要と説明されているが「共謀罪」がなくてもパレルモ条約は批准できる。条約はテロ対策のためのものでないのに「共謀罪」はテロ対策と説明されている。

武藤:法案の内容を国民がよく理解できないまま「テロ対策であれば必要」という短絡的な考えのまま進んでしまった。

(4) 今回共謀罪法が成立してしまった原因は?

田淵:研究者声明を出したが、あまり報道されなかった。

内田:以前は与党からも廃案にすべきとの声があったが今回はなかった。メディアも以前は反対したが今回は必要かもしれないという報道が目立った。

武藤:弁護士会は反対運動を継続的にやっていたが、反対運動がメディアで報道されるのは国会に法案が提出されるなど重要な機会に限られた。もっと多くの報道の機会を設けてほしい。

(5) 「共謀罪」の具体的危険性は?

内田:「共謀罪」の摘発には徹底した個人情報の収集が必要。徹底的に個人情報、意思伝達情報が収集されることになる。

武藤:監視社会となり徹底的に個人の行動が分析され個人の持つ思想などが丸裸にされる。

田淵:逮捕が今までよりも前倒し、通信傍受の強化、司法取引により密告が生じる可能性がある。

(6) 捜査機関の権限拡大に対する対抗策は?

内田:第三者機関によって「共謀罪」の運用を監視することが必要。民間の相談窓口が必要。弁護士会に期待。

田淵:任意捜査の限界を制限的に解釈していく必要がある。

武藤:弁護士会として相談窓口を作る必要がある。

(7) 「共謀罪」廃止に向けた取り組みは?

武藤:「共謀罪」の運用の歯止めとなる法制度を作る必要がある。ドイツでは、過去の犯罪を取り締まる警察と未来の犯罪を防止する情報機関が分かれている。また、情報取得について事後通知が必要である。ドイツの制度を参考にすべき。

5 おわりに

共謀罪法は極めて問題の多い法律です。これまで、共謀罪法の成立に反対してきましたが、同法が施行された現在、弁護士会としてやるべきことを考える必要があります。今回、内田名誉教授、田淵教授のお話をお伺いし、反対運動の継続に加えて、不必要な監視、表現の萎縮が生じないように第三者機関や相談窓口の設置に向けての活動を行うべきであると感じました。

当委員会として、今後も継続的に活動を行っていきたいと思いますので、会員の皆様にも是非ともお力添えいただきたくお願い申し上げます。

2017年7月 1日

あさかぜ基金だより

会員 島内 崇行(65期)

1 はじめに

65期の島内崇行と申します。平成29年5月1日より、長崎県弁護士会から福岡県弁護士会へ登録換えしました。

私は、平成24年12月に弁護士登録し、あさかぜ基金法律事務所において、2年間執務しました。そして、平成27年2月より壱岐ひまわり基金法律事務所所長として赴任し、2年間の任期を終えました。

私が司法過疎地での任期を満了することが出来たことは、一重に、あさかぜ時代に福岡県弁護士会の諸先輩方より賜ったご指導ご鞭撻のおかげ、さらには九州弁護士会連合会のご支援のおかげだと思います。

まずは、この場をお借りして御礼申し上げます。

2 壱岐の島民性ついて

(1) 私は、壱岐に赴任した直後、「壱岐島民は、農耕民族で争いを好まない」という話を、壱岐のある方から伺いました。

私は、赴任したてのころは半信半疑でしたが、任期を終えた今では、十分納得できる言葉です。

(2) まず、2年間の任期のうち、後半1年間は、刑事事件がほぼありませんでした。数えてみたところ、2件です。壱岐では、当番担当日を一月単位で区切り、壱岐ひまわり所長と法テラス壱岐スタッフの2人が、一月毎に当番担当日を交代していました。つまり、2人とも、1年の半分が当番担当日ということになります。それでもなお、受任した件数は2件でした。1年目は、少年事件含めて10件弱ありましたので、驚きの数字です。

そして、事件類型も、ほぼ窃盗(強盗ではない)でした。

(3) また、民事事件も、最初に相談に来る時、相談後に依頼する時、それぞれにハードルがありました。そこには弁護士に相談したことや弁護士に依頼したことを知られたくないという思いがあるようでした。

壱岐は狭い社会で島民間の距離が非常に近い印象です。それ自体は素晴らしく、街を歩くと小中高生が元気よく挨拶してくれたことは、今でも強い印象として残っています。ただ、そういう島ですので、島の皆さんは弁護士に相談したことや弁護士に依頼したことが周りに知られ、わざわざ争いを大きくしていると思われることを、心配しているようでした。

3 弁護士に対するイメージについて

(1) そもそも、なぜこういった不安が生まれるのでしょうか。

(2) それは、やはり弁護士に対するイメージに原因があるのでしょう。相談に来られた方が、「弁護士を間に入れて争いが大きくなることが不安である」というニュアンスの言葉を、口にされていました。

私は、弁護士に依頼することは、争いが大きくなる前に紛争を解決する、紛争を早期に解決するためのものであって、そのイメージとは逆だという説明をしたものです。

(3) 壱岐は、そもそも法律事務所の歴史自体が浅いですから、まだまだ弁護士そのもののプレゼンが必要な土地であって、それは、今後の課題として後任に引き継ぐことになりました。

4 おわりに

弁護士に対するイメージを変えるということは、壱岐のような土地だけでの課題ではなく、私は、福岡での今後の活動においても、そのことを意識しつつ職務に励むつもりです。

改めて、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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