福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

「実務に役立つLGBT連続講座」第5回/刑事弁護とLGBT

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

さて、5回に亘って連載してきたLGBT連続講座ですが、今回で一応最終回ということになります(もしかしたら番外編等あるかもしれませんが。)。

これまではLGBTに関する基本的知識をベースに、LGBTをめぐる社会情勢や日常業務において弁護士が注意すべきことなどをご紹介してきました。

今回は、少し場面を限定して、刑事弁護活動において配慮すべき点を取り上げつつ、これまでの連載の内容をおさらいしてみたいと思います。

2 刑事弁護とLGBT

これまでこの連載で繰り返し紹介してきましたが、LGBTは13人に1人はいるといわれている、ありふれた個性です。

ということは、当然、担当することとなった被疑者・被告人がLGBTである可能性も十分にあるということです。

事案の内容によっては、例えば、同性カップル間でのDV事案等、性的なアイデンティティが事件の内容に直接かかわる場合もあります。また、LGBTが抱える生きづらさが事件の背景になるなど、間接的に関わってくる場合もあります。事案とは関係がなくても、保釈請求など、身柄解放を目指す場合、家族関係を始めとして、被疑者・被告人の人間関係に踏み込んだ検討を行う必要もあります。

したがって、刑事弁護においても、性に多様性があることを前提に活動を行う必要があることは言うまでもありません。

3 被疑者・被告人とどのように接するか

では、具体的にどのような配慮を行うべきでしょうか。

まず、被疑者・被告人と接する場面で、性の多様性に配慮した対応をする必要があります。

例えば、男性の被疑者・被告人にパートナーがいる場合、それが「妻」や「彼女」であることを当然の前提とすべきではありません。同性パートナーである可能性もあることを前提とし、「交際相手」や「パートナー」という言い方をすることが適切です。

いわゆる「ホモネタ」「オカマネタ」を話題にすることなど、言語道断です。

もし、被疑者・被告人が、あなたに性の多様性に関する理解がないと感じれば、接見で自分の性的アイデンティティについて口にすることはないでしょう。

後述するように、LGBTであったとしても、そのことを必ずしも弁護活動に反映させる必要はありません。しかし、知っているかどうかでその後の手続において配慮できるかどうかが変わってきます。また、弁護活動に反映させる必要がある場合には、被疑者・被告人の更生にとって必要な情報に触れることができないまま活動することになります。

知ってから配慮するのではなく、まったく白紙の状態で接する場面から配慮する必要があるということです。

4 主張における配慮

被疑者・被告人がLGBTである場合、弁護人の主張においてどのような配慮が必要でしょうか。

弁護人としては、大前提として、LGBTという特性が生まれ持ったものであり、変えられないもの、変える必要がないものであること、そして、ありふれた個性であることを十分に理解しておく必要があります。

「LGBTであることが事件の原因である。」したがって「更生のためには原因となったLGBTという特性を治療すればよい。」などという主張は完全に間違いです。それだけでなく、被疑者・被告人に回復し難い傷を負わせることになりますので、絶対にすべきではありません。

むしろ、裁判官や検察官に上記の点について偏見がある場合、これを取り除く努力をしてください。

LGBTであることによる生きづらさが事案の背景にある場合は、これをどのように主張に盛り込むかは悩ましいと言えます。この生きづらさは解決が困難なだけに、これを不利な情状として受け取られる可能性があるからです。どのような主張や結論と結びつけてLGBTであることを明らかにするのか、慎重に判断する必要があります。背景となっている生きづらさについて被疑者・被告人が前向きに取り組むことができそうなら(例えば、もともと家族にはカミングアウトしようと考えていたので、これを機会にカミングアウトし、悩みを共有するなど)、弁護人としては、被疑者・被告人の決意が偏見によって誤解されないよう、最善を尽くす必要があります。

一口にLGBTと言っても、そのあり方はとても多様であり、それぞれが抱える生きづらさも千差万別です。個々の被疑者・被告人の個性に応じた対応をしなければならないのが難しいところではありますが、当事者がLGBTではない事案においても、事件の背景となる事情が千差万別であり、決まった答えがないことは同じです。違うのは、担当する弁護人にLGBTに関する知識や経験が欠けていることが多いことだけだと思います。

当事者がLGBTであるということだけで尻込みせず、被疑者・被告人あるいは関係者とよく話し合って、必要があれば刑弁ネット等で情報収集をするなどしてみてはいかがでしょうか。会員間でも知識や経験を共有することが必要であり、そのための企画は現在LGBT小委員会でも検討中です。

ただ、本人がLGBTであることをオープンにしていない場合、これを主張に盛り込むべきかどうかは慎重に検討する必要があります。

残念ながらLGBTに対する偏見は現在も根深く存在し、これをオープンにするかどうかは被疑者・被告人のその後の人生に大きくかかわる問題です。同性愛の少年が同性愛者向けの雑誌を万引きして見つかり、迎えにきた家族にセクシャリティを知られることを恐れて投身自殺してしまったという事案もあるとのことであり、本人にとっては生死を左右するほどの問題であることを念頭に置くべきです。

まずは被疑者・被告人の意思を確認し、本人が望まない場合は絶対にオープンにしないでください。

本人の承諾がある場合でも、本当にそれに触れる必要があるかどうかを慎重に吟味する必要があると言えます。

5 公判廷における配慮

被疑者・被告人がLGBTであることをオープンにしていない場合、公判廷でこれが公開されないように配慮する必要があります。

情状証人として家族が法廷に出頭している場合はもちろん、そうでなくても、公開の法廷ですから、知人等が傍聴に来る可能性も否定できません。一度オープンになってしまえば取り返しがつきませんので、「大丈夫だろう」と安易に考えないようにしてください。

この点については、弁護人が配慮するだけでは足りず、裁判所や検察官に配慮を求める必要があります。

事案によっては、パートナーの性別に言及しないなど、性的アイデンティティに触れずに公判運営を行うことも可能です。事前に裁判所・検察官と協議して理解・協力を求めましょう。

事案の内容にもよりますが、この連続講座でもご紹介したように、国においてもLGBTへの取り組みが広がりつつあり、理解・協力してくれることも十分期待できます。

6 刑事収容施設での問題

刑事弁護活動特有の問題として、収容施設での処遇の問題があります。

被疑者・被告人がトランスジェンダーの方で、ホルモン剤の定期的な投与が必要な場合、施設収容によって、これが止められてしまうことがあります。ホルモン剤も、中止によって脳梗塞や心筋梗塞などの発生率が上昇するなど、重大な疾患の原因となることがあります。

これは、まさに生死に直結する問題であり、万が一このようなことがあれば、刑事収容施設に投薬再開を求める活動を行うことが不可欠です。

法務省が「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針」を出していますが、ホルモン剤の投与については「医療上の措置の範囲外」にあるとして原則認めないとされています。しかし、2016年1月の国会において安倍晋三首相が「医師がホルモン療法の必要性を認めれば実施する」旨答弁しているので、これを前提に交渉を行う必要があると思われます。

7 さいごに

以上つらつらと述べて来ましたが、刑事弁護とLGBTについてより詳しいことを知りたい方は、現代人文社が出している「季刊刑事弁護」という雑誌の89号で「セクシャルマイノリティの刑事弁護」が特集されておりますので、ぜひご参照ください。

刑事弁護においても、それ以外の事件と基本的に配慮すべき点は共通していることがご理解いただけたのではないでしょうか。

LGBTへの配慮は相対する人間の個性への配慮です。普段は忘れていても、事件処理のときだけ「スイッチを入れる」ことなどできるような性質のものではありません。

適切な弁護活動ができるように、という観点からも、例えば飲み会の席などでいわゆる「ホモネタ」「オカマネタ」を口にしないなど、普段の生活から自分の行動を見直してみましょう。

交通事故専門研修 共同不法行為について

交通事故委員会 委員 黒野 賢大(64期)

1 平成29年1月23日に行われました共同不法行為を題材とした交通事故専門研修についてご報告いたします。交通事故事案では、複数当事者が関与する事案に遭遇することは少なくなく、その事案の処理にあたり、共同不法行為や寄与度減責における論点の理解が必要となりますが、その議論状況は混迷を極めています。そこで、共同不法行為についての理解を深める機会を設けるべく、今回の専門研修の題材とされました。

なお、本研修会は、法科大学院の教員が地元の法曹のスキルアップに助力いただいている九州大学法科大学院主催「継続学修セミナー」プログラムのひとつとしても位置付けられており、今回は、九州大学大学院法学研究院・九州大学法学部の五十川直行教授にご協力いただき、交通事故委員会と綿密な打ち合わせを重ね、当日の開催に至りました。

2 今回の研修は二部構成になっており、第一部は五十川教授による共同不法行為の制度についての講演でした。

五十川教授からは、共同不法行為論の議論状況について、古代ローマ法に遡ったり、また、比較法的な視点に立ったり、と様々な視点から解説があり、そのうえで、共同不法行為論の現況についての解説がなされました。今回の研修のメインである複数行為(原因)が関与して損害が発生するいわゆる競合的不法行為については、特に詳細な説明がありました。

また、共同不法行為論の今後の展望について、不法行為法の改正案や外国の法状況の説明があり、そのうえで、共同不法行為という概念がなくても、結局は因果関係論のなかで解決できるのではないかという考え方なども出てきているとのお話がありました。

五十川教授の講演は、共同不法行為論の第一人者としての視点からの緻密なものが多く、基本的なことを再確認できる、あるいは新たな発見のある大変貴重なものでした。

普段、不法行為法の起源や比較法的視点といった点からの思考や検討を怠っており、理論的思考や検討の重要性を再確認する点でも大変有意義なものでした。

3 第二部は、第一部の講演を踏まえて、五十川教授、小野裕樹先生、高藤基嗣先生をパネリストとして参加いただき、赤木孝旨先生がコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、(1)交際中の女性(甲)が運転する車両の助手席にシートベルトを着用せずに同乗していたXが、信号機により交通整理の行われていない交差点において、甲が一時停止の規制に違反し交差点に進入したところ、右方から交差点に進入してきた乙が運転する車両と衝突する事故により受傷した、(2)本件事故当時、乙車の走行道路では、警備会社丙1が交通誘導、警備を行っていたが、その従業員丙2が、本件交差点の具体的状況を確認せずに、乙に対して、本件交差点の進入を誘導していた事情があった、(3)甲は、受傷後丁1病院に緊急搬送され、勤務医丁2の診察を受けたが、甲には、本件事故前から存在していた椎間板ヘルニアがあったため、本件事故で頚椎捻挫を負い、それと相俟って上肢の痺れが発現したものとの診断を受けた。その後も甲は丁1病院に通院を続け、半年後に頚椎椎間板ヘルニアの除去手術を受けたところ、丁2は、同手術に失敗し、その結果、甲は、頸髄を損傷し、第5級の後遺障害が残存するに至った、という事例をもとに議論が進められていきました。甲から相談を受けた弁護士として、誰を相手として訴訟提起するのか、その場合のメリット、デメリット、といった実務的な議論から、関連共同性や寄与度減責という概念をどう考えるのかという五十川教授がパネリストとして参加しているからこその議論等様々なテーマに基づいて議論が繰り広げられました。本件事案では、医療過誤と交通事故が競合している、さらに、交通事故においては、警備員の過失が競合している、被害者であるXにシートベルト不着用という過失がある、そういったなかで、相手方が寄与度減責を主張してくる可能性が高い、といった様々な問題が複雑に絡み合った事案であり、本件事案を適切に処理するためにどうしたらいいのかを深く考えさせられました。事案を頭の中で整理し、分析と自分なりの回答が追い付かなくなり傍観者となったところもありましたが、ディスカッションの内容が充実しており、時間を感じさせない程白熱した議論が交わされました。

4 今回の研修に際し、五十川教授、パネリスト及びコーディネーターの先生方は、何度も打ち合わせを重ねていただき、その中で、参考とした文献及び判例を挙げていただきましたので、末尾にご紹介させていただきます。

平成20年版赤い本講演録齊藤顕裁判官執筆の『交通事故訴訟における共同不法行為』は、交通事故における共同不法行為(異時事故)についての裁判例の検討並びに要証事実及び立証責任についての整理・検討が簡潔に行われております他、能見善久教授の法学協会雑誌での連載『共同不法行為責任の基礎的考察』は、古い論文ではありますが、学術的・理論的な視点から共同不法行為についての深い考察がなされており、共同不法行為を理解するためのパイブルとも言えるのではないでしょうか。その他にも、共同不法行為を理解するために非常に参考となる文献等は数多くありますが、紙面の関係上、文献及び判例につきましては、論文名(文献名)及び裁判年月日の適示のみとさせていただきます。

5 最後となりましたが、本研修に際し数多くの文献判例のご検討や打合せ、レジュメの作成、そして当日の大変有意義なご講演及びパネルディスカッションをいただきまして、五十川教授をはじめ、小野先生、高藤先生、赤木先生にこの場を借りて御礼申し上げます。

参考文献 (敬称略)
  • 北河隆之 「交通事故損害賠償法(第2版)」
  • 田山輝明 「事務管理・不当利得・不法行為(第3版)」
  • 森冨義明・村主隆行(裁判官)編著「交通関係訴訟の実務」
  • 中西 茂ら(裁判官) 「交通事故損害賠償実務の未来」
  • 神田孝夫 「共同不法行為」(「民法講座第6巻 事務管理・不当利得・不法行為」)
  • 平井宜雄 「不法行為法理論の諸相」(「共同不法行為に関する一考察」)
  • 北河隆之 「共同不法行為」(「判タ1088」)
  • 現代不法行為法研究会 「不法行為の立法的課題」(「別冊NBL No.155」)
  • 内田 貴 「近時の共同不法行為論に関する覚書」(「NBL No.1081、1082、1086、1087」)
  • 能見善久 「共同不法行為」(「民法の争点」)
  • 能見善久論文 「共同不法行為責任の基礎的考察」(法学協会雑誌)
  • 能見善久 「寄与度減責―被害者の素因の場合を中心として」(加藤一郎ら編「民法・信託法理論の展開」)
  • 能見善久 「複数不法行為者の責任」(「司法研修所論集82号26頁」)
  • 原田和徳 「自動車事故と共同不法行為」(「現代損害賠償法講座3」)
  • 冨上智子 「複数加害者関与事故の損害賠償における諸問題」(佐々木茂美編「民事実務研究Ⅰ」)
  • 大塚 直 「共同不法行為・競合的不法行為に関する検討」(「NBL1056」)
  • 淡路剛久 「共同不法行為 因果関係と関連共同性を中心に 変動する日本社会と法(加藤一郎先生追悼)」
  • 中村哲也 「共同不法行為論の現状と課題」(「法政理論第40巻3−4号(新潟大学)」)
  • 齊藤 顕裁判官 「交通事故訴訟における共同不法行為」(「平成20年赤い本講演録63頁」)
  • 神谷善英裁判官 「時間的、場所的に近接しない複数の事故により同一部位を受傷した場合における民法719条1項後段の適用の可否等」(「平成28年赤い本講演録5頁」)
  • 南 敏文 「不法行為責任と医療過誤」(「新・裁判実務体系5交通損害訴訟法」)
  • 塩崎 勤 「自賠法三条の運行供用者責任と製造物責任」同上
  • 北河隆之 「自賠法三条と道路管理者責任」同上
  • 藤村和夫 「事故の競合」同上
  • 宮川博史 「医療過誤との競合」(「現代裁判法体系(6)」))
  • 手嶋 豊 「医療過誤と交通事故の競合」(ジュリスト1403)
  • 窪田充見 「交通事故と医療事故が順次競合した事案における共同不法行為の成否と損害賠償」(ジュリスト1224)
  • 橋本佳幸 「交通事故と医療過誤の競合における賠償額の限定の可否」民商法雑誌125巻4・5号579頁
  • 本田純一 「交通事故と医療過誤との競合」(ジュリスト861号131頁)
  • 塩崎 勤 「複数医療関係の医療過誤と複数原因の競合」(「現代損害賠償法の諸問題」144頁)
  • 山口斉昭 「交通事故と医療事故の競合」(「交通賠償論の新次元」)
  • 山本 豊 「加害者複数の不法行為と過失相殺-交通事故と医療過誤の競合事例と加害者複数の交通事故の事例を中心に」(紛セ40周年)
  • 大塚 直 「原因競合における割合的責任論に関する基礎的考察―競合的不法行為を中心として―」(中川良延ら編 「日本民法学の形成と課題・下」 879頁)
  • 奥田隆文 「原因競合による減額―共同不法行為者の一部連帯」(「裁判実務体系第15巻」)
  • 曽根威彦 「不法行為法における相当因果関係論の帰趨」(「早法84巻3号」)
  • 野村好弘 「因果関係の割合的認定」(「賠償医学NO.10」)
  • 若杉長英ら「死亡・後遺障害に関する因果関係の割合的認定のための新基準」(「賠償医学NO.18」)
  • 池田清治「割合的責任論の現在−共同不法行為事例を素材として−」(「紛セ40年周年記念」)
  • 石橋秀起 「不法行為法における割合的責任の法理」
  • 谷口 聡 「寄与度減責理論の展開と本質的課題 法学研究論集第5号」
  • 馬場純夫裁判官 「交通事故と医療過誤の競合と寄与度減責の可否」(「平成12年赤い本講演録287頁」)
  • 丸山一朗 「交通事故における共同不法行為の過失相殺の方法」(「交通賠償論の新次元」233頁)
  • 武田昌之「動車交通事故民事損害賠償における複数加害者と被害者の関係」(「専修大学社会科学年報第40号」)
  • 前田陽一 「交通事故における共同不法行為と過失相殺」(「ジュリスト1403」)
  • 藤村和夫 「共同不法行為における「連帯」の意義」(「交通事故損害賠償の新潮流(紛セ30年記念)」)
  • 奥田昌道 「紛争解決と規範創造―最高裁判所で学んだこと、感じたこと」
  • 潮見佳男 「民事過失の帰責構造」
  • 石橋秀起 「不法行為法における割合責任の法理」
  • 前田達明・原田 剛 「共同不法行為法論」
参考判例
(大審院・最高裁判例)
  • 大正2年4月26日判決民録19輯281頁
  • 大正3年10月29日民録20輯834頁
  • 昭和12年6月30日民集16巻1285号
  • 昭和31年10月23日判決民集10巻10号1275頁
  • 昭和32年3月26日民集11巻3号543頁
  • 昭和35年4月7日判決民集14巻5号751頁
  • 昭和41年11月18日民集20巻9号1886頁
  • 昭和43年4月23日判決民集22巻4号964頁
  • 昭和45年4月21日判決判タ248号125頁
  • 昭和48年1月30日判決判時695号64頁
  • 昭和48年2月16日民集27巻1号99頁
  • 昭和57年3月4日判決判タ470号121頁
  • 平成3年10月25日判決民集45巻7号1173頁
  • 平成6年11月24日判決判時1514号82頁
  • 平成8年4月25日判決民集50巻5号1221頁
  • 平成8年5月31日判決民集50巻6号1323頁
  • 平成10年9月10日民集52巻6号1494頁
  • 平成13年3月13日判決民集55巻2号328頁・最高裁判所判例解説民事篇平成13年(上)228頁
  • 平成15年7月11日判決民集57巻7号815頁
  • 平成20年6月10日裁判集民事228号181頁
(下級審判例)
  • 東京地判昭和42年6月7日判時485号21頁
    (控訴審:東京高判昭和45年5月26日判タ253号273頁)
  • 神戸地尼崎支判昭和45年2月26日交民集3巻1号304頁
  • 千葉地判昭和45年9月7日判時619号80頁
  • 東京高判昭和47年4月18日判時669号69頁
  • 津地四日市支判昭和47年7月24日判タ280号100頁
  • 京都地判昭和48年1月26日判時711号120頁
  • 静岡地沼津支判昭和52年3月31日交民集10巻2号511頁
    (控訴審:東京高判昭和57年2月17日判時1038号295頁)
  • 札幌地判昭和52年4月27日判タ362号310頁
  • 新潟地長岡支判昭和53年10月30日交民集11巻5号1525号
  • 東京地判昭和54年7月3日判時947号63頁
  • 岡山地津山支判昭和55年4月1日交民集13巻2号453頁
  • 山形地判昭和56年6月1日交民集14巻689号
  • 横浜地判昭和56年9月22日交民集14巻5号1096頁
  • 岡山地判昭和57年10月4日判タ487号140頁
  • 横浜地判昭和57年11月2日判時1077号111頁
    (控訴審:東京高判昭和60年5月14日判時1166号62頁)
  • 浦和地判昭和57年11月26日判タ491号126頁
  • 大阪高判昭和58年6月22日判タ506号176頁
  • 東京地判昭和58年7月20日判時1132号128頁
  • 横浜地判昭和59年3月23日判タ527号121頁
  • 浦和地川越支判昭和60年1月17日判時1147号125頁
  • 高知地判昭和60年5月9日判時1162号151頁
  • 東京地判昭和60年5月31日判時1174号90頁
  • 横浜地判平成2年3月15日判タ739号172頁
  • 名古屋高判平成2年7月25日判時1376号69頁
    (原審:岐阜地多治見支判昭和63年12月23日判タ686号147頁)
  • 横浜地判平成3年3月19日判タ761号231頁
  • 大阪地判平成3年3月29日訟務月報37巻9号1507頁
  • 名古屋地判平成4年9月7日交民集25巻5号1108頁
  • 広島高判平成4年9月30日交民集25巻5号1064頁
  • 浦和地判平成4年10月27日交民集25巻5号1272頁
  • 名古屋地判平成4年12月21日判タ834号181頁
  • 神戸地判平成5年10月29日交民集26巻5号1345頁
  • 岡山地判平成6年2月28日交民集27巻1巻276頁
  • 岡山地判平成6年3月23日判タ845号46頁
  • 神戸地尼崎支判平成6年5月27日交民集27巻3号719頁
  • 大阪地判平成6年9月20日交民集27巻5号1284頁
  • 仙台地判平成6年10月25日判タ881号218頁
  • 東京地判平成6年11月17日判タ第879号164頁
  • 神戸地判平成7年3月17日交民集28巻2号419頁
  • 大阪地判平成7年6月22日交民集28巻3号926頁
  • 大阪地判平成7年7月5日訟務月報43巻10号249頁
  • 神戸地判平成8年2月29日交民集29巻1号282頁
  • 神戸地判平成8年3月8日交民集29巻2号363頁
  • 大阪地判平成9年5月16日交民集30巻3号714頁
  • 仙台地判平成9年11月25日自保ジャーナル1249号
  • 大阪地判平成10年6月29日交民集31巻3号954頁
  • 名古屋地判平成10年12月25日自保ジャーナル1316号3頁
  • 浦和地判平成12年2月21日交民集33巻1号271頁
  • 大阪地判平成12年2月29日交民集33巻1号407頁
  • 東京地判平成12年3月29日交民集33巻2号619頁
  • 名古屋地判平成12年8月30日交民集33巻4号1407頁
  • 京都地判平成12年9月18日自保ジャーナル1368号
  • 大阪地判平成13年3月22日交民集34巻2号411頁
  • 横浜地判平成13年8月10日自保ジャーナル1410号
  • 京都地判平成13年10月2日自保ジャーナル1434号17頁
  • 大阪地堺支判平成14年4月17日交民集35巻6号1738頁
  • 岡山地判平成15年6月13日交民集36巻3号846頁
  • 東京地判平成16年1月19日
  • 水戸地土浦支判平成16年2月20日自保ジャーナル1537号9頁
  • 神戸地判平成16年3月12日交民集37巻2号336頁
  • 大阪地判平成16年5月17日交民集37巻3号635号
  • 鹿児島地判平成16年9月13日判時1894号96頁 (控訴審:福岡高宮﨑支判平成18年3月29日判タ1216号206頁)
  • 横浜地判平成16年9月16日自保ジャーナル1590号
  • 東京高判平成16年9月30日交民集37巻5号1183頁
  • 大阪高判平成17年1月25日交民集38巻1号1頁
  • 東京地判平成17年3月24日交民集38巻2号400頁
  • 高松高判平成17年5月17日
  • 山口地下関支判平成17年11月29日
  • 名古屋地判平成18年7月28日自保ジャーナル1667号2頁
  • 名古屋地判平成18年11月7日交民集39巻6号1547頁
  • 東京地判平成18年11月15日交民集39巻6号1565頁
  • 東京地判平成19年11月22日
  • 横浜地判平成19年1月23日自保ジャーナル1690号
  • 名古屋地判平成19年3月16日自保ジャーナル1706号8頁
  • 東京地判平成19年9月27日交民集40巻5号1271頁
  • 東京地判平成19年11月22日交民集40巻6号1508頁
  • 名古屋地判平成20年8月22日交民集41巻4号1003頁
  • 東京地判平成21年2月5日交民集42巻1号110頁
  • 福岡高判平成21年4月10日自保ジャーナル1787号
  • 千葉地判平成21年6月18日自保ジャーナル第1817号
  • 横浜地判平成21年12月17日自保ジャーナル1820号93頁
  • 大阪地判平成22年3月15日自保ジャーナル第1837号
  • 京都地判平成22年3月30日自保ジャーナル1832号76頁
  • 東京地判平成23年2月14日自保ジャーナル1854号79頁
  • 大阪地判平成23年2月23日自保ジャーナル1855号28頁
  • 東京地判平成23年3月15日自保ジャーナル1852号
  • 名古屋地判平成23年5月27日判決自保ジャーナル第1855号
  • 福岡高判平成23年10月19日判決自保ジャーナル第1862号
  • 大阪地判平成24年3月27日自保ジャーナル1877号
  • 横浜地判平成24年4月26日自保ジャーナル第1878号
  • 東京地判平成25年2月27日自保ジャーナル第1896号
  • 横浜地判平成25年3月14日交民集46巻2号397頁
  • 東京地判平成25年3月27日自保ジャーナル1900号28頁
  • 名古屋地判平成25年3月27日自保ジャーナル第1899号
  • 神戸地判平成25年5月23日交民集46巻3号637頁
  • 東京地判平成25年5月29日交民集46巻3号693頁
  • 名古屋地判平成25年7月3日交民集46巻4号865頁
  • 東京地判平成25年7月23日交民集46巻4号968頁
  • 名古屋地判平成25年11月14日交民集46巻6号1466頁
  • 名古屋地判平成26年1月28日交民集47巻1号140頁
  • 名古屋地判平成26年1月31日交民集47巻1号205頁
  • 東京地判平成26年3月12日交民集47巻2号308頁
  • 東京地判平成26年3月28日交民集47巻2号468頁
  • 名古屋地判平成26年4月25日交民集47巻2号551頁
  • 大阪地判平成26年5月13日自保ジャーナル1928号62頁
  • 名古屋地判平成26年6月27日自保ジャーナル1931号85頁
  • 大阪地判平成26年9月12日交民集47巻5号1161頁
  • 東京地判平成26年10月28日交民集47巻5号1313頁
  • 大阪地判平成27年1月16日交民集48巻1号87頁
  • 東京地判平成27年1月26日交民集48巻1号159頁
  • 東京地判平成27年3月6日自保ジャーナル第1949号
  • 東京地判平成27年3月13日自保ジャーナル第1949号
  • 名古屋地判平成27年4月27日交民集48巻2号527頁
  • 横浜地判平成27年5月15日自保ジャーナル1953号
  • 大阪地判平成27年7月2日交民集48巻4号821頁
  • 横浜地裁平成27年7月15日交民集48巻4号862頁
  • 名古屋地判平成27年8月24日交民集48巻4号982頁
  • 東京地判平成28年2月19日自保ジャーナル1973号142頁

2017年3月 1日

共謀罪シンポジウムに参加して

情報問題対策委員会 松本 敬介(68期)

1 シンポジウムの開催

ここ最近いわゆる共謀罪法案が世間を賑わせております。

というのも、政府は共謀罪の名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変え、組織犯罪処罰法改正案として国会に提出しようとしているからです。

共謀罪法案は、平成15年に小泉政権下のもとで最初の法案が提出されてから現在に至るまで合計3回にわたって提出されてきましたが、野党等の反対によりいずれも廃案に追い込まれてきました。その共謀罪法案が、テロ対策目的というお題目を携えて、しかも名前を変えて復活したというわけです。

当会においてもこれまで共謀罪法案の問題点を指摘し、法案の成立に強く反対してきたところですが、共謀罪法案の再提出が差し迫っているタイミングで、今一度市民の皆様と問題意識を共有する必要があると思い至りました。

そこで、平成29年1月14日、当委員会主導のもと「政府批判はいけないことか?~共謀罪で表現の自由が奪われる!~」と題して、共謀罪シンポジウムを開催いたしました。

今回のシンポジウムの開催にあたっては、九州大学法学部の学生さん4名にご協力いただきました。また、ゲストとして、元北海道警察の警察官でジャーナリストの原田宏二氏、元共同通信の記者で同じくジャーナリストの青木理氏、九州大学で刑事訴訟法を研究していらっしゃる豊崎七絵教授をお招きしました。

当日は140名にものぼる多数の来場者により、追加でイスを出すもイスを設置するスペースが足らなくなるほどで、この問題に対する市民の皆様の関心がいかに高いかが分かります。

シンポジウムは、まず学生の皆さんからの基調報告からスタートしました。共謀罪法案の必要性、構成要件の明確性、処罰対象としての犯罪の範囲の妥当性、主体となる人的範囲の妥当性など、多角的に共謀罪法案を検討していただきました。

続いて、「共謀罪・盗聴法・デジタル捜査は、市民監視の3点セット」と題して、原田氏から基調講演を行っていただきました。原田氏は、Nシステム・インターネット監視・GPS捜査などデジタル捜査が高度化したことで捜査機関は個人監視の手段を着実に手に入れている、昨今の刑訴法改正に伴い通信傍受の対象犯罪が拡大するとともに要件が緩和し法的な意味でも監視しやすくなっている、さらに共謀罪が成立することでその構成要件の曖昧さが捜査機関側の恣意的運用を可能にし、共謀罪の捜査という名目で個人監視が堂々と行われることを訴えました。まさに元警察官という独特のキャリアを持つ原田氏ならではの講演内容だったと思います。

最後に、当委員会より武藤糾明委員長をコーディーネーターとして、青木氏、原田氏、豊崎教授のほか、学生の方から1名に登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。青木氏からは、共謀罪法案について捜査機関の目線にたった考察が重要であることや、路上の防犯カメラの設置など、本当に防犯対策になりうるか分からないにも関わらず、極めて表層的な安心や安全のために個人のプライバシーを譲り渡していいのか問題提起がされました。

また、豊崎教授は、共謀罪が成立した場合、従来の判例の傾向を踏まえると黙示の共謀が認められることになるのではと見解を示し、黙示の共謀を認定するために、個人の行動や場所の出入りから思想を推定することになるなど、懸念を明らかにしました。

2 雑感

国連越境組織犯罪防止条約の批准にむけた国内法整備の是非を皮切りに、長きにわたって共謀罪法案をめぐって議論されてきましたが、ここに来て条約の目的に含まれていないテロ対策を大々的に打ち出し、名前を変えてまで法案の再提出を図る政府の態度に、市民の方々も違和感があったかと思います。今回のシンポジウムは、政府の真の目的に迫るとともに、共謀罪法案だけでなく、特定秘密保護法や刑事訴訟法の改正を含めた全体的な考察が必要であることを、市民の皆様と共有できる機会になったと思います。

今後も、弁護士会として共謀罪法案の提出および成立に断固として反対する活動に取り組んで参ります。

給費制維持緊急対策本部だより 「修習給付金」制度、閣議決定される

司法修習費用給費制復活緊急対策本部 本部長代行 市丸 信敏(35期)

■ ご高承のとおり、さる2月3日、司法修習生に国が「修習給付金」を支給する新制度を設ける内容の裁判所法改正案が閣議決定されました。

同法案によれば、修習給付金は、司法修習生の全員に支給する「基本給付金」、自ら住宅を借り受けている修習生に対する「住居給付金」、修習に伴い引っ越しを必要とする修習生に対する「移転給付金」の三種類とされています。具体的な金額は、それぞれ最高裁判所規則で定めることとされていますが、これまでの折衝等で合意されている金額は、基本給付金13.5万円、住居給付金3.5万円の合計17万円です。

また、本改正案では同時に、現行の貸与制が変更され、「修習専念資金」として、修習給付金では足りない者に対して一定額を無利息で貸し付ける制度も設けられることになりました。

因みに、同改正案では、司法修習生の非行について、現行の「罷免」に加えて、新たに「修習停止」、「戒告」の制度も新設されることとされました。

改正法の施行日は本年11月1日とされ(附則)、第71期司法修習生から適用される予定です。

法案は、本年2月中旬頃には国会に提出され、同3月中には、成立が見込まれています。

■ 給付金の金額については、もう少し上を目指してきていたので率直に言って若干の残念感も否定できませんが、国家財政の危機的状況の下、日弁連会長自らも精力的に各方面に働きかける等したうえでのギリギリの到達点であること、日弁連が実施した修習生の生活実態調査(アンケート)から浮かび上がっていた必要生活費額ともほぼ符合する金額水準でもあること等から、さしあたりはやむを得ないものと受け止めています。

■ 平成22年4月、日弁連及び当会を含む全国の弁護士会が立ち上がって給費制の維持を求めて精力的な運動に取り組み始めてから7年、ついに悲願であった給費制の事実上の復活まであと一歩のところまでこぎ着けることができました。「一度廃止された制度が数年で復活するというのは、あり得ない」(某国会議員)ことが実現しつつあるのは、この間の、当会会員の皆さまの深いご理解、熱いご支援のおかげに他ならないものと篤く感謝致しております。そもそも市民にとって全く縁遠いこの課題が、市民ほか各界各層に広くご理解とご支援を仰ぐことができて、その結果としてここに至ることができたのは、当会会員の皆さまの長年に及ぶ日ごろからの地道で幅広い各種公益活動をはじめ、弁護士・弁護士会に対する信頼と理解があったからこそであると、運動を通じて強く実感しているところです。ただ、一方で、新しい法曹養成制度のもと、残念ながら法曹志願者が毎年減少し続けるという窮状が顕著となり、その大きな要因の一つと考えられる経済的負担を軽減する必要への理解が進んだこともあります。そして、この間の歴代執行部のご理解、何よりも、自ら無給制(貸与制)のもとで体験した苦労や不条理を踏まえ、後輩たちに同じ思いをさせてはならないとして、運動の絶望的状況の中でも決してあきらめずに、足を棒にして数え切れないほどの各種団体や国会議員回り、街頭行動や幾度もの市民集会開催等々の地道でねばり強い活動に身を投じ続けてくれた若手会員の皆さんの力に負うところが大です。この場を借りて、篤く御礼申し上げます。

■ 司法修習生に対して、いわば特別待遇をすることに対する異論はいまだ根強く残っていることも事実です。私たちは、戦後一貫して国民の負担で修習中の生活を保障してもらって法曹としての養成を受けてきたこと、また、今般、再びその在り方に戻すこととされたことの意義に思いを致し、改めて、深く胸に刻み込む必要があることは言うまでもありません。

無事に法改正が叶った暁には、この間、無給制(貸与制)で耐えてきてくれた65期生から70期生の皆さん、この運動の原動力でもあった彼らを、如何にして救済するかが、残された大きな課題です。引き続き、会員の皆さまのご理解とご支援をお願い申し上げます。(平成29年2月14日記)

中小企業法律支援センター企画「中小企業経営者と若手弁護士の交流会」

弁護士 吉田 大輝(68期)

1 はじめに

去る平成29年2月17日(金曜日)、福岡市中央区天神、「西鉄イン福岡」にて、中小企業法律支援センター企画の「中小企業経営者と若手弁護士の交流会」が行われ、当職が出席させていただきましたので、ご報告いたします。

2 【第一部】ご講演 (ダイヤ精機株式会社代表取締役 諏訪貴子氏)

第一部は、講演がありました。

講演いただいたのは、「町工場の星」としてメディア等に多数出演され、また、経産省中小企業政策審議会委員等も務めておられる、諏訪 貴子(すわ たかこ)社長です。諏訪社長は、先代(お父様)を引き継ぐ形で、東京都大田区のいわゆる町工場、「ダイヤ精機株式会社」の代表取締役社長に就任されました。

諏訪社長は、大変パワフルかつ溌剌な方でした。諏訪社長の激動の人生は、「町工場の娘」「ザ・町工場」(いずれも日経BP社)で書籍化されているそうです。

諏訪社長は話がとても上手で(聞く者を飽きさせない、という点がとても秀逸でした)、1時間半があっという間に感じたのですが、その中で、当職が講演内容において感銘を受けた点を3点、ご紹介いたします。

まず一点目。(1)理念の重要性という点です。

諏訪社長は、リーマンショックによって倒れかけた会社を建て直す際、まずは理念及び方針決定から始めたそうです。「理念」の機能は、社員間のベクトル合わせであり、社員全員が一丸となって進んでいく上で不可欠であるとのことでした。また、先代の想いや思想・本流こそが、企業経営において必要不可欠であるということです。

もっとも、理念を定める際におけるポイントは、とにかく「分かりやすい」ものであることです。いかに崇高な理念を掲げたとしても、社員間で直ぐに共有できなければその意義がなくなってしまう、とのことでした。

二点目。それは、(2)自分の決断は強い意志を生む、ということです。

ダイヤ精機株式会社においては、新人社員に対しても、とにかく、自ら決定させることを励行しているようです。その理由は、「やらされる」ことでは成長しないが、「自らやってみる」という決断を下した場合、どんなことであっても責任を持ち、強い意志が生まれるのだ、ということでした。

例えば、ダイヤ精機では、非常に細かい部品に手作業で型番を掘るという作業を行うそうですが、ある新人女性社員が、「私、この作業で一番になります!」と宣言し、業務の合間を見つけてはひたすら練習し、その結果、誰よりも美しく正確に掘ることができるようになったため、超ベテランの先輩からもその作業をお願いされるようになった、というエピソードがあったそうです。

最後に三点目。(3)印象戦略の重要性です。

どういうことか。それは、相手に物事を伝える際の戦略術です。例えば、相手に物事を伝える際、ポイントを「3つ」に絞り、内容を伝える前に「ポイントは3点です。」と伝え、実際にそのように伝える、ということです(本月報記事もそれにならって3点に絞ってみました。)。またあるいは、計画を立てる際、「3ヶ月」・「3年」スパンで計画するなど、「3」という印象に残りやすく分かりやすい言葉を効果的に用いて、相手に印象づけ、実践する者にとって計画を実行しやすくする、といった取り組みのことです。

これは、尋問や依頼者との相談の際などにも、非常に応用できる内容であると思いました。

諏訪社長の講演は、このほかにもご紹介できないほどに数多くの示唆があり、非常に刺激的かつ有意義な内容でありました。

3 【第二部】名刺交換会(懇親会)

その後、懇親会場へと場を移し、講演聴講者(中小企業経営者及び当会の若手弁護士)が立食形式で軽食をつまみながら、名刺交換や日頃の経営上の悩みなどをざっくばらんに相談するなど、カジュアルな雰囲気で懇親する機会もございました。

まだまだ、企業経営者の方々にとっては、弁護士と出会う機会というのは珍しいようで、弁護士の潜在的ニーズをとても強く感じました。

4 最後に

このように、中小企業経営者の生の声を聞くことができ、そして、企業経営者と出会うことのできる機会は非常に有意義ですので、是非とも、今後とも継続して開催されることを熱く希望いたします。

最後になりましたが、ご開催いただきました中小企業法律支援センターの先生方、ご協力いただきました弁護士会館の職員の皆様に御礼の気持ちを申し上げ、以上をもってご報告とさせていただきます。

知的財産権に関する連続講義【第二弾】 「実用品に関する著作権侵害訴訟の組立て」 ~第2回 証拠の作成・整理・提出方法~

弁護士 鬼束 雅裕(67期)

1 はじめに

中小企業法律支援センターは、会員の皆様に中小企業の相談を受ける際に役立つ知識・情報を提供するため研修会を企画・実行しています。

今回は、昨年12月22日に行われた知的財産権に関する連続講義「実用品に関する著作権侵害訴訟の組立て」の第二弾として、前回に引き続き、九州大学大学院法学研究院教授・寺本振透先生をお迎えし、著作権法について特に中規模・小規模の株式会社でも理解しておかねばらない著作権侵害訴訟の組立て方につきお話しいただきましたので、ご報告いたします。

講師の寺本先生は、東京の大手事務所のパートナー弁護士として多くの知的財産権案件に関与され、その後は東京大学法学政治学研究科教授として、そして現在は九州大学大学院法学研究院教授として知的財産権に関する研究をされております。

本連続講義においては、おそらく福岡県弁護士会初の試みだと思いますが、寺本先生の発案で、クリエイティブサーベイシステム(webを利用したアンケートコミュニケーションツール)を利用して、リアルタイムで受講者の回答を集約・データ化し、その結果を踏まえての講義を行うという取り組みがなされました。

2 本講義の概要

本講義では、「Tripp Trapp」という幼児用椅子について著作権侵害の有無が争われた知財高裁裁判例(「Tripp Trapp事件」。平成27年4月14日判決)を題材に、著作権侵害訴訟において、原告側として、どのような点に注意しながら証拠の作成・整理・提出を行い、攻撃・防御を組み立てていくかについてご説明いただきました。

本講義において、寺本先生は、著作権訴訟における原告側がおこなうべき作業手順を一つの「型」として示されたわけですが、その前提として、ふだん、ほとんど無意識にしている作業を、あえて「型」として示すことにより、同じ水準の作業を繰り返すことができるようになるという説明がなされました。

3 著作権訴訟における原告側がおこなうべき作業手順
(1) 戦場の設定

まずは、請求原因事実に対し、被告がどのような認否を行ってくるのかを予想することにより戦場となるのはどこであるかを確認する作業から始めます。

前回の講義でもご説明いただいたのですが、著作権の分野では請求原因事実そのものの存否が争点になるのではなく、請求原因事実の存在自体は認められるが、それが要件事実を充たすものといえるかという点が争点になることが多いということから、否認の中でも請求原因事実が存在しないという単純な否認と、請求原因事実の存在自体は認めるが要件事実を充たすものではないという面倒な否認とに分けて整理する必要があるとのことでした。

(2) 各戦場での作業手順

上記で確認された戦場において、原告としては、以下の手順で作業をしていく必要があるとの説明がなされました。

① 請求原因事実を書いてみる

著作物性に関する請求原因事実であれば、Tripp Trappの原デザインを特定するように、「昭和47年頃、ピーター・オプスヴィックが、別紙記載の製品をデザインした。」といったものになります。

② 請求原因事実が要件事実に対応することを説明する

著作物性の要件事実は抽象的なものが多く、そのため請求原因事実が要件事実を充たすことを説明しなければなりません。たとえば、Tripp Trappが「美術の著作物」(著作権法2条2項、10条1項4号)に該当することを説明するために、「Tripp Trappの原デザインの全体的な形状は、一見して驚くべきシンプルさで見る者の芸術的感性に訴えかけてくるものであり、日本を含む各国で数々のデザイン賞を受賞するなど、一定の美的感覚を備えた一般人を基準として純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を備えている。」といった説明を行うことになります。

③ 抽象的な説明しかできないこと、だから、説明に説得力がないこと、を認識する。

上記「美術の著作物」該当性の説明からも、著作物性に関する請求原因事実が要件事実に該当するとの説明を行うのは難しいことが確認できます。

④ しかたがないので、「否定を否定する」戦術を採用する。

そこで、発想を転換し、Tripp Trappの原デザインが「美術の範囲」に該当することを説明するのではなく、被告が主張すると予想されるTripp Trappの原デザインは「美術の範囲外」との主張は認められないということを説明することにより、Tripp Trappの原デザインが「美術の範囲」に該当することを説得力のあるかたちで説明する戦術を採用します。

⑤ 被告の「否認の理由」を具体的に想像する。

そうすると、原告の仕事は、原告の請求原因事実が要件事実を充たさないことに関する被告の「否認の理由」の説得力のなさを説明することになり、そのため、被告の「否認の理由」を具体的に想像することとなります。たとえば、「美術」該当性に関する被告の否認の理由としては、原告によるTripp Trappの原デザインの定義付けは間違いであるとの理由と、原告による「美術の範囲」の定義付けは間違いであるとの理由の2つが考えられますが、前者については争いようがありませんので、後者を理由に否認してくるものと考えられます。

⑥ 「否認の理由」のうち、論理構造が脆弱な箇所を特定する。

上記の例でいうと、被告は「美術の範囲」について狭い定義を与える作業を行ってくることが予想され、その場合の手順としては、

  • 著作権法で美術の定義を探して、これを利用する(可能ならⅱおよびⅲで補強)。
  • (ⅰに失敗したら、ⅰの結果を否定しつつ)美術の範囲を説明した裁判例を探して、これを利用する。
  • (ⅰおよびⅱに失敗したら、ⅰおよびⅱの結果を否定しつつ)著作権法で、「美術の範囲」の説明(例示など)を探して、これを利用する。
  • (ⅰ、ⅱおよびⅲに失敗したら、ⅰ、ⅱおよびⅲの結果を否定しつつ)立法時の考え方に頼ることを考える。
  • (ⅰ、ⅱ、ⅲおよびⅳに失敗したら、ⅰ、ⅱ、ⅲおよびⅳの結果を否定しつつ)独自の定義を打ち出す。

という手順を踏むものと考えられる。もっとも、ⅰ、ⅱ、ⅲにより通常決着はつくので、ⅰ~ⅲについて検討する。

「美術の範囲」に関しては、著作権法に定義はなく(ⅰ)、裁判例は狭く説明したものと柔軟に考えたものがある(ⅱ)。「美術の範囲」に関しては、著作権法2条2項において、「美術工芸品を含む」とされている(ⅲ)。

以上の手順を踏まえると、被告は、「(ア)著作権法に『美術の範囲』に関する定義はない。(イ)そのため、『美術の範囲は』社会通念どおりとなるのが原則である。(ウ)一般的な、ふつうに教養ある常識人は、Tripp Trappのようなインダストリアル・デザインを『美術』とは扱わない。(エ)よって、Tripp Trappは「美術の範囲」には入らない」との主張をしてくることが予想される。

上記論理のうち、(ウ)は、「・・・はない」という構造の命題。そうすると、「有る」例を示せば、「・・・はない」という命題は突き崩せる。なので、(ウ)が脆弱。

⑦ 脆弱な箇所を撃破する戦術を準備する。戦術に従って、証拠を用意する。

上記でいうと、原告としては、(ウ)を衝く証拠を準備し、提出することとなる。例えば、有名な美術館でTripp Trappが展示されていることを証拠として提出する。

(3) 著作権侵害訴訟の難しさ

上記作業手順を戦場ごとに行っていくことをTripp Trapp事件を基に詳しく説明いただいたのですが、Tripp Trapp事件においては、「著作物性」が認められるか否かの戦場では原告に有利に働いていたTripp Trappの特徴を際立たせるための証拠が、著作権の「侵害」が認められるか否かの戦場では原告に不利に働いてしまった(被告製品はTripp Trappのような特徴を持たない)とのことであり、著作権侵害訴訟の難しさを認識させていただきました。もっとも、依頼者にとって、著作物性が認められたうえでの敗訴と著作物性自体が否定されたうえでの敗訴では全く異なることから、「侵害」が否定されることを恐れて「著作物性」の戦場で証拠の出し惜しみをしないように注意しなければならないとの説明をされておられました。

4 おわりに

本講義はTripp Trapp事件という著作権侵害訴訟を題材に行われたものですが、行われた説明内容は、著作権侵害訴訟はもちろんのこと、一般の民事訴訟においても、十分活用できるものとなっており、大変勉強になりました。

「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」研修会のご報告

両性の平等に関する委員会 糸瀬 真理(65期)

1 はじめに

平成29年2月4日、大手門パインビル2階会議室に於いて、日弁連両性の平等に関する委員会副委員長である竹下博將先生(以下、「竹下先生」といいます。)をお招きし、「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」についての研修会が開催されましたので、ご報告させていただきます。

2 日弁連による提言の経緯

実務においては、平成15年3月に東京・大阪養育費等研究会により提案された算定方式(以下、「現算定方式」といいます。)及び算定表(以下、「現算定表」といいます。)が定着している状況です。しかし、現算定方式・現算定表は、その利便性ゆえに、定着過程において、詳細な検証もなく、無批判に受け入れられてきたという問題があります。また、統計資料の更新もされていません。竹下先生によれば、現算定方式・現算定表は、算定のモデルが示されていないため、そもそも検証不可能とのことです。日弁連は、平成24年3月15日付の「『養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表』に対する意見書」において、現算定方式・現算定表の問題点を指摘しています。そして、この意見書を具体化したものが、平成28年11月15日付で日弁連が取りまとめた「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」です。

3 新しい簡易な算定方式による現算定方式の修正

新しい簡易な算定方式(以下、「新算定方式」といいます。)による現算定方式の修正点の概要は以下のとおりです。

(1) 基礎収入算定のために総収入から控除される経費等

ア 公租公課

現算定方式は理論値を用いていますが、新算定方式においては、実額又は最新の理論値を用いることとしています。

イ 職業費

現算定方式では、家計調査年報の数値(更新されていない数値)が用いられていますが、家計調査年報に記載されているのは世帯の支出額であるため、職業費に含まれる項目は、有業人員のための支出額ではなく世帯の支出額で算出されているものがほとんどです。新算定方式では、最新の家計調査年報の数値を用いるとともに、全項目について有業人員のための支出額のみを職業費としています。

ウ 特別経費

現算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について、特別経費として総収入から控除されていますが、新算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について特別経費として控除することはしていません。

(2) 生活費指数

現算定方式では、生活費指数について生活保護基準を用いていますが、生活扶助居宅第2類(光熱費や家具什器購入費など)の世帯全体で算出される項目について、親1人世帯の場合と親子1人ずつの世帯の場合との差額をもって子の生活費の金額を算定しています。また、子どもの生活指数区分は、0~14歳と15~19歳の2区分しかありません。新算定方式では、居宅第2類については、世帯員数で頭割りして各世帯員の金額を算出し、子どもの生活指数区分も、0~5歳、6~11歳、12~14歳、15~19歳の4区分としました。

4 新たな算定表

新算定方式に基づき、新たな算定表(以下、「新算定表」といいます。)も作成されました。子どもの人数については、現算定表と同様に0~3人です。また、子どもの生活指数区分は、頁数の関係で新算定方式とは異なり、0~5歳、6~14歳、15~19歳の3区分です。

竹下先生からは、新算定表の見方等についてもご説明いただきました。新算定表の枠外には、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額が記載されています。今後は、調停や審判の場において、新算定方式・新算定表を用いることを裁判所に対して明示していく必要がありますが、それが採用されるまでには難航も予想されるところです。これに対して、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額については、現算定表のデータを新しくしただけの数値なので、裁判所の理解も比較的得やすいと思われることから、こちらについても積極的に活用したほうが良いとのことです。

また、新算定方式・新算定表を実務において定着させるには、まずは世間一般に広く普及させることが有効であるとのことで、関係各所に新算定表を備え置くほか、ブログやSNSなどを利用して広報していって欲しいとのことでした。

5 所感

私は今回の研修を受けるまで、現算定方式・現算定表について深く考えてみたことがありませんでした。しかし、今回の研修で、現算定方式・現算定表には、総収入から控除される職業費の中に、有業人員のための支出ではなく世帯のための支出額が多く含まれていることや、職業費の中に含まれている「こづかい」という項目は、家計調査年報における定義が不明であることなどを知って大変驚きました。その結果、収入に占める職業費の割合が、不必要に大きくなっていました。その他にも現算定方式・現算定表には様々な問題点が含まれていることを知り、これまで特に疑問を持つこともなく利用していたことを反省しました。

6 最後に

新算定方式・新算定表は、単に権利者が得られる養育費や婚姻費用を増額させるためのものではなく、生活保持義務に基づいた適正妥当な金額を算定するためのものです。実際、権利者の生活費指数については、現算定方式・現算定表では常に100であったのに対し、新算定方式・新算定表では、養育する子の数に応じ、69、57、47、41と変動することになり、必ずしも権利者に有利になるように算定されているわけではありません。

提言には別紙がついており、別紙に新算定方式の概要や現算定方式との比較が分かり易くまとめてあります。また、新算定方式・新算定表を用いた場合の算出具体例も記載されています。今回の研修に参加されていない会員の皆さまも、提言をご一読いただき、今後は新算定方式・新算定表を積極的に活用していただくことをお勧めいたします。

2017年2月 1日

「転ばぬ先の杖」(第29回) ADRという手続をご存知ですか?

会員 壇 一也(57期)

1 みなさんは、トラブルが発生したときにどうされるでしょうか。

まずは、相手と話し合ってみるのが一般的だと思います。しかし、それでも解決しないときは、弁護士に相談されるのが一番かもしれません。

ところが、弁護士に相談しても勝ち目がないとのアドバイスを受けることも、もちろんあると思います。

私たち弁護士としても、決して安いとは言えない費用をいただいて事件の処理をする以上、安請け合いをするわけにはいきません。弁護士が介入しても相談者の方の希望を叶えることが難しい場合は、私たち弁護士は、はっきりとそのように説明しなければなりません。

しかし、それでも納得できない・・・ということもあると思います。

今回は、そのような相談者の方について、私が弁護士としてどのように対応し、その方がどうすることを選択し、そしてその結果どうなったのかについて概括的にお話ししたいと思います。

2 事案の内容

あることが原因で、ご主人が精神的に不安定になられました。主に経済面での不安を訴えられるようになりました。ご主人は、実のお母さんに相談した結果、お金を貸してもらえることになりました。ただ、条件として生命保険の受取人を奥様から、ご自身(ご主人のお母さん)に変更して、担保とすることを求められました。奥様は、その必要はないとご主人に伝えましたが、ご主人の不安は続いたため、やむを得ずご主人に任せることにしました。それからしばらくして、奥様宛に保険金の受取人がお母さんに変更になったとの通知が保険会社から届きました。それから間もなくしてご主人は自死されました。なお、ご主人は、結局、お母さんから借入れをしていませんでした。

そして、保険金は、そのままお母さんに支払われました。

3 相談の内容とアドバイス

これらの経緯から、奥さんは、お母さんに対して、受領された保険金の支払いを求めました。ところが、お母さんは、これに応じられることはありませんでした。

そのため、奥さんは、私のところに相談にいらっしゃいました。奥さんは、相談に来られた時点で、理屈ではお母さんに保険金を支払ってもらうことは難しいということは理解されていました。そのため、奥さんには半ば諦めざるを得ないとの気持ちであった一方で、やはり納得できないとの思いも強くお持ちでした。

このような奥さんの気持ちを踏まえて、私は、理屈では奥さんの希望を叶えることは難しいことを説明したうえで、「これ以上悪くなることはないことからダメ元で再度話し合いを求めてみてはどうですか。」と提案しました。これに対し、奥さんも「できることはやってみてダメだったら諦めます。」ということで再度話し合いを求めることにしました。

4 具体的な解決手段の選択

私は、理屈では難しい案件であることもあり、極力、かける費用も抑えられる方法を考えました。その結果、選択した方法が福岡県弁護士会の裁判外紛争解決手続(以下「ADR」といいます)です。

このADRとは、福岡県弁護士会所属の弁護士が間に立って双方の意見を聞いたうえで適切な紛争の解決を目指す制度です。

このADRを利用するためには、1万円(別途消費税)の申立手数料がかかるだけです(なお、仮に何らかの解決が得られた場合は、別途成立手数料がかかります)。そのため、万が一、お母さんが保険金を支払ってくれない場合であっても、奥さんが負担すべき費用は1万円だけで済ませることができます。

そして、実際にこのADRを利用して、お母さんと話し合った結果、こちらが求める金額の一部を支払ってもらえることで和解が成立しました。

5 最後に

このような解決を図ることができたのも、お母さんに奥さんの気持ちを理解していただけたことが大きかったと思います。そして、そこに至るまでには、ADRで弁護士の関与の元、十分な話し合いをできたことが大きかったと思います。

もちろん、全ての案件でこのような解決を図れる保証はありません。しかし、まずは弁護士に相談していただくことで、何らかの解決の糸口を見つけることができるかもしれません。

お気軽に弁護士にご相談ください。

被害者支援は弁護士の責務 −明石市・泉房穂市長のご講演−

会員 小谷 百合香(64期)

条例制定に向けた全国の機運

犯罪被害者が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」が開始してはや7年が経過しました。被害者参加事件に関与する会員も増えていると思われます。

犯罪被害者給付金制度、損害賠償命令制度、ワンストップセンターの創設など、犯罪被害者に対する法的な支援は確実に広がりつつあります。

さらに、全国的には各自治体が犯罪被害者の支援のための条例を制定する機運が高まっているところです(日弁連でも、昨年12月26日にシンポジウムが開催され、モデル条例案が公表されています。)。ところが、ここ福岡県では、被害者条例を制定している自治体がわずか2市ときわめて少なく、今後の取り組みが求められるところです。

そこで、昨年11月15日、福岡県弁護士会館3階ホールにおいて、全国に先駆けて被害者条例を制定・改正し、被害者の支援に積極的に取り組んでおられる兵庫県明石市の泉房穂市長にお越しいただき、被害者支援・被害者条例の制定についてのご講演をいただきました。

明石市・泉市長の熱い思いを聞き、私も一弁護士として血が沸き立つような興奮を覚えました。若干の裏話も含め、ご講演の様子をご報告します。

市長の熱い思い
(1) 経歴等

泉市長はNHK、テレビ朝日のディレクター等を経て弁護士となり(49期)、衆議院議員の後に、明石市長に当選されました(現在2期目)。市長のベースには、障害者や犯罪被害者などに優しい社会づくりをしたいという強い信念があり、その信念のもと活発に行動されています。

(2) 市長とご対面

講演の30分ほど前に到着されたのですが、到着のときから市長の熱気が伝わってきました。

被害者を支援する弁護士が、時効中断のため再度の訴訟提起をする際に、一銭も実入りのない被害者(遺族)から着手金として数十万円をいただくことに強い違和感を持ち、明石市では、そのような場合の弁護士費用を支援していく条例改正を検討していることを話されました。当会や当委員会でも、関係機関に呼びかける等して、そのような場合に支援策を検討する余地がありそうです。

(3) 講演が始まって

午後4時、犯罪被害者委員会の林誠委員の司会のもと、藤井大祐委員長による市長のご紹介があった後、市長による熱意ある講演が始まりました。ネイティブの関西弁を駆使し、熱血的に話す泉市長の姿に、最初は皆が圧倒されました。

しかし、徐々に熱意だけでなく、理論的にも学ぶべきことや課題が多いことが分かってきました。

被害者支援は誰のためかとの問いには、明日被害に遭うかもしれない「全ての市民のため」と明言されました。

残念ながら、(他の自治体でもほぼ同様ですが)明石市の条例では過去の被害者やその遺族は救済されません、ですが過去の被害者や遺族たちは、将来の被害者となるであろう人々の権利向上のために立ち上がり、声を上げ続けています。具体的には、医療的ケア、家族(遺族)のケア(家事援助、一時保育費用補助)、経済的なケア(支援金、家賃補助)など、将来の被害者のための総合的な支援が可能となる条例を制定しているのです。

被害に遭っただけでも苦痛なのに、その人が自ら声を上げなければ何の助けも受けられないのでは、社会は生きやすいと言えるでしょうか。私たちは、過去の被害者や遺族により切り拓かれ、少しは被害者に優しくなった社会に今、生きています。

将来の被害者にとってさらに優しい社会となるよう、今、私たちにできること、その一つが、条例を制定し、継続的で質の高い支援体制を整備することだと感じています。

日弁連条例シンポジウム

先述しましたが、平成28年12月26日、日弁連でも条例制定に関するシンポジウム(犯罪被害者支援モデル条例案セミナー)が開かれました。

地方自治体による条例制定は今、社会から求められている"熱い"テーマといえます。

法務研究財団の研究班によるモデル条例案も発表されましたので、条例制定の機運はますます高まるものと期待されます。

今後の展望

福岡県内では、こと性犯罪の被害が多い(ここ数年、認知件数では全国ワースト5位以内、人口当たりの発生率では全国ワースト2位や3位)にもかかわらず、まだまだ条例を制定している自治体が少なく、被害者への支援は不十分といえます。

被害者支援条例が福岡県内の各自治体で制定され、被害者がもれなく継続的で質の高い支援を受けられるようになることを願うとともに、そのためには弁護士においても各自治体(地域)の実情・特質に応じた条例制定に関与するための研鑽を積むことが求められていることを感じられた、刺激の多い講演でした。

2017年1月 1日

「実務に役立つLGBT連続講座」第4回/弁護士としての職務上の注意点

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 緒方枝里(62期)

■はじめに

LGBT小委員会メンバーによる「実務に役立つLGBT連続講座」も今回で4回目となりました。これまで、第1回と第2回では、LGBTの基礎知識やLGBTを取り巻く現在の情勢を、第3回では「周りの人との接し方、注意点」と題して、12~13人にひとりがLGBTの特性を持っていると言われるほどありふれた「個性」の1つであり、私たちの身近に必ず当事者がいるということ、無自覚な差別的言動をしてしまわないよう日頃のふるまいが大切であること等をお話してきました。

そこで、連載4回目となる今回は「弁護士としての職務上の注意点」ということで、実際の法律相談や事件処理で気を付けるポイントについてお話します。

■法律相談の場面

LGBTの法律相談というと、トランスジェンダーの性別変更の話や同性パートナーに財産を遺すための公正証書遺言の作成というように、相談者がLGBTであることをカミングアウトしていることを前提とした特殊な相談というイメージがありますが、大半は通常の法律相談と変わりません。

例えば、交際相手や一緒に暮らしているパートナーとのトラブル、学校や職場での人間関係や雇用に関するトラブル、個人間の金銭トラブル(貸金・保証)など、弁護士であれば誰でも受けたことがあるような相談の場合、相談者がLGBTであることをカミングアウトしない場合も多くあります。なので、どんな相談であっても、相談者がLGBT当事者である可能性を念頭に、相談に臨む必要があります。

相談を受けて弁護士としてアドバイスする内容は、当事者がLGBTであるかどうかでそんなに変わらないことも多いかもしれません。しかし、LGBT当事者は、弁護士の差別・偏見をおそれて、トラブルに巻き込まれていても法律相談に行くことを躊躇することが多いそうです。勇気を出して法律相談に来てくれた当事者に、担当弁護士の不用意な言動で二次被害を与えないようにするために、最低限の基本的な知識を持っておくことが必要です。

  • 性自認と性的指向の違い
  • 性自認や性的指向は治せるものでも当事者の趣味でもなく、変えようと思って変えられるものではないことを理解する
  • トランスジェンダーであれば、みんなが性別適合手術を望んでいるものだと決めつけない
  • 「ホモ」「レズ」「おかま」などの蔑称を安易に用いない 等

同性カップル間のトラブルの場合、交際相手の性別をごまかさなければと思うだけで、相談に行くハードルがあがるという話を聞いたこともあります。本人が「彼氏」・「彼女」といった表現を用いていない場合は、性別を特定せず「交際相手」・「パートナー」といった表現を用いるような工夫も心がけましょう。

また、実は問題の根本にLGBT当事者であることが関係していることもありえます。同性パートナーとの別れ話で、周囲にばらすと脅されて暴力を受けているのに別れられないとか、LGBTであることを理由に学校や職場でいじめや嫌がらせを受けているとか、相談者が相談担当弁護士のことを信頼してLGBT当事者であることを話してくれれば、より適切なアドバイスができる場合もあります。そのためには、信頼されるような共感的な姿勢を心がける必要があります。間違っても、LGBTであることを理由に嫌がらせを受けている相談者に「あなたが男(女)らしくないからダメなんだ」「同性愛をやめればいい」といった偏見に満ちた発言をしないように気をつけましょう。

私自身、小委員会に入るまでLGBTに関する法律相談は受けたことがないと思いこんでいましたが、気づかなかっただけで、これまでの相談者の中には当然のようにLGBT当事者がいたはずです。みなさんはどうでしょうか?これまで無自覚に相談者を傷つけてしまったかもしれないことを反省しつつ、今後は気をつけて法律相談に臨みたいと思います。

■事件処理

受任後の事件処理にあたっても、心がけるポイントは基本的に相談のときと同じです。加えて気をつけなければならないのは、事件処理の過程で、依頼者本人が望まないのに性自認・性的指向を第三者にカミングアウトすることにならないように細心の注意を払う、ということです。例えば、刑事事件で被告人がLGBTの当事者であることが証拠に記載されているけれども、本人が第三者(傍聴人や情状証人等)にそのことを知られたくないと思っている場合、LGBTであることが本当に公訴事実の立証と関係があるのか等検察官と予め十分な協議をしておくと共に、証拠の該当箇所を不同意にしたり、証拠調べで読上げないよう検察官に申し入れたり、書面の提出をもって証言に代えたりする等の工夫が必要です。

また、紛争の相手方がLGBTの当事者である場合に、不用意に第三者にそのことを知られないように配慮することも忘れてはなりません。

■おわりに

私たち弁護士は、いろんな方から相談を受け、事件を受任します。相談者・依頼者それぞれに個性があり、事案ごとの特性もあります。相手の理解力に応じて話し方や説明の方法を変えたり、耳の聞こえにくい方には筆談で対応したり、日中は仕事で電話に出られない人には夜間の電話や手紙やメールなど連絡方法を工夫したり、精神的に不安定な方にはこまめに連絡をしたり、日々個別具体的な事案に応じて必要な配慮をしながら、対応されていることと思います。当事者がLGBTであるということも、変に身構えすぎるのではなく、依頼者の個性や事案の特性の一つとして、普段依頼者や事案に応じてやっている当たり前の配慮をやっていただければと思います。

    ■参考文献

    もっと深く知りたい!という方のために、今回私が参考にした文献等を挙げておきます。是非業務の合間にお読みください。

  • 『セクシュアル・マイノリティQ&A』弘文堂 2016年7月
    LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト
  • 『LGBTsの法律問題Q&A』LABO 2016年6月
    大阪弁護士会人権擁護委員会性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム
  • 『セクシュアル・マイノリティの法律相談 LGBTを含む多様な性的指向・性自認の法的問題』ぎょうせい 2916年12月 東京弁護士会 性の平等に関する委員会セクシュアル・マイノリティプロジェクトチーム
  • LIBRA vol.16 No.3(2016年3月号)特集「LGBT−セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)−」
  • 自由と正義 vol.67 No.8(2016年8月号)特集1「LGBTと弁護士業務」
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