福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」

憲法委員会委員 山崎 あづさ(54期)

去る3月2日、憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」が行われました。会員の他に市民の参加も50名ほどあり、なかなか盛況な会となりました。

今回は、日弁連憲法問題対策本部事務局の井上正信弁護士(広島弁護士会所属)を講師にお迎えしました。井上弁護士は、これまで法律雑誌等で、憲法問題(特に憲法9条、安全保障、防衛政策)に関する論文を多数執筆されているとあって、豊富な知識に基づき、わかりやすく、明快な解説をしてくださいました。以下、その内容をご紹介します。

1 こんなにある、9条加憲論の論点

○ 現在の9条加憲論の特徴は、「イメージ先行型」、「感情論」である。条文案が示されない段階なのに「9条加憲で何も変わらない」と宣伝し、「自衛隊をきちんと憲法に位置づけないと、命をかける隊員に失礼だ」と情緒的に訴えかける。

○ 9条の最大の特徴は2項にあるが、「加憲」により2項との矛盾が生じ、2項の効力が変わることになるのではないか?

○ 「何も変わらない」と言うなら、わざわざ何のために改憲するのか?

○ 政府は60年間、自衛隊合憲論を積み重ねてきているのに、自衛隊違憲論を払拭するためだけに改憲する必要があるのか?現憲法の下では自衛隊員は誇りを持てていないというのか?

2 「何も変わらない」論への徹底批判

○ 現在の自衛隊は9条2項の下で作られた自衛隊法により規定されているが、加憲により9条の2に書き込まれる「自衛隊」は、それとは別物となり、9条の2の解釈に全て委ねられてしまう。そうして結局、9条2項はほとんど死文化してしまう。「何も変わらない」という主張は、憲法に書き込む意味を過小評価しているか、全く理解していないか、あるいは、ごまかしている、と理解するしかない。

○ 9条の2に自衛隊を書き込めば、次は、これを実行するための法律が必要となる。軍事秘密保護法、軍事法廷、安保法制のバージョンアップなど、フルスペックの軍隊を持つことが可能になる。

○ 自衛隊が憲法上の国家機関となれば、自衛隊の活動や任務と基本的人権が衝突する場面では、基本的人権が制約されることになる。

○ 9条が築いた平和な社会がどんな社会であったかを再確認しよう。9条は、自由な社会を下支えしている。なぜなら、「戦争は最大の人権侵害」である。

3 安保法制下の自衛隊の実態

○ 「専守防衛政策」が、安保法制制定後の防衛白書でも全く同じ文言で書き込まれているが、実際は、「再定義」という形で意味を変えられ、それまでの「専守防衛」とは似て非なるものとなっている。

○ 専守防衛政策の意義は、我が国が他国に対する脅威とならないことを宣言し、安心を供与することで我が国の平和と安全を図るところにある。しかし、これが揺らがされ、葬り去られる恐れがある。

4 9条改正と北朝鮮脅威論

○ 現在のマスコミ等の報道の仕方には問題がある。一度リセットしてみよう。世の「常識」に囚われず、現実・事実を踏まえて考えてみよう。

○ 抑止力を強化して平和と安全が守られるのか?「抑止」とは、互いに相手国の市民を人質に取る政策である。抑止が破れたときに犠牲になるのは、私たち国民・市民である。

○ そもそも北朝鮮の弾道ミサイルと核兵器だけが脅威なのか?挑発しているのは北朝鮮だけなのか?約束を破ったのは北朝鮮だけなのか?アメリカはどうなのか?「万一日本が攻撃されたら」というが、どの国がなぜ攻撃してくるのか?その想定は現実的か?

○ 北朝鮮の脅威というのは、9条の問題ではなく、対北朝鮮政策の問題である。場当たり的に、派生した問題だけを解決しようとしても本当の解決にならない。

○ 私たちが北朝鮮の脅威に向き合うときに大前提に置くべき条件は、絶対に武力紛争にしてはならないとの強い意思である。

井上弁護士のお話は、時に細かい情勢分析や実態報告を交え、事実を踏まえて理論的な指摘を展開するものでありながら、とても熱く、パワフルなものでした。特に印象的だったのは、「絶対に武力紛争にしてはならないという強い意思」が大前提だとの言葉です。何が大切なのかという点を見失うことなく、冷静に考えていきたいと改めて思いました。

精神保健当番弁護士制度発足25周年記念公開シンポジウム 「オープンダイアローグが日本の精神科医療にもたらすもの」 ~地域精神科医療の推進に向けて~

精神保健委員会委員 原口 圭介(63期)

1 はじめに

2018(平成30)年2月24日、福岡市中央区天神・福岡ビルにおいて、精神保健当番弁護士制度発足25周年記念公開シンポジウム「オープンダイアローグが日本の精神科医療にもたらすもの」~地域精神科医療の推進に向けて~が開催されました。

医療・福祉関係者、弁護士、当事者ら合わせて約140名が参加し、近時、注目を集めている「オープンダイアローグ」に対する関心の高さがうかがえました。

2 オープンダイアローグとは?

(1) ここで、オープンダイアローグについて、簡単な紹介を試みたいと思います。

オープンダイアローグは、急性期精神病における開かれた対話によるアプローチと言われます。発祥は、フィンランドの西ラップランド地方です。薬物をできるだけ使わない対話による治療法として、同地方において、1980年代から導入されました。統合失調症による入院の減少、入院治療期間の短縮などのエビデンスを蓄積し、フィンランドの同地方では、公的な医療サービスに組み込まれています。日本でも2013年頃から、これまでの精神科医療の枠を打ち破るものとして注目を集めています。

(2) その特徴をいくつか列挙しますと、

  • 本人抜きではいかなる決定もなされない。
  • 依頼があったら24時間以内に本人・家族を交えて初回ミーティングを開く。
  • 治療対象は最重度の統合失調症を含むあらゆる精神障害をもつ人。
  • 薬はできるだけ使わない。
  • 危機が解消するまで、毎日でも対話をする。
  • テーマは事前に準備しない。スタッフ限定のミーティングなどもない。
  • もちろん幻覚妄想についても突っ込んで話す。
  • 本人の目の前で専門家チームが話し合う「リフレクティング」がポイント。
  • 治療チームは、クライアントの発言全てに応答する。

などです(斎藤環著+訳「オープンダイアローグとは何か」医学書院より引用)。

(3) 我々福岡県弁護士会精神保健委員会は、昨年夏、北海道浦河町「浦河べてるの家」(精神障害等を抱えた当事者の生活共同体)の研修に参加しましたが、研修の一つとしてオープンダイアローグの実践に触れ、その内容に衝撃を受けました。その高揚感冷めやらぬままに、このテーマでのシンポジウムを企画したものです。

3 基調講演

(1) シンポジウムでは、日本でのオープンダイアローグの普及を担っている「オープンダイアローグネットワークジャパン(ODNJP)から、西村秋生さん(医師/だるまさんクリニック)、矢原隆行さん(教授/熊本大学大学院社会文化科学研究科)をお招きし、オープンダイアローグの7つの原則 について、講演していただきました。

(2) 特徴的だったのが、お2人が掛け合いのように、1つずつの原則について内容を確認していくかたちで、講演をされたことです。オープンダイアローグには、厳密なマニュアルのようなものがあるわけではありません。それは単なる「技法」ではなく、その本質は、対話実践の考え方といったものです。そのようなわけで、オープンダイアローグの7つの原則についても、人によって答えは違うことがありえます。その観点から、まさに開かれた対話形式によって、答えを作り上げていくという手法が取られ、大変興味深いものでした。

(3) 下記にご紹介する7つの原則の考え方は、医療機関に限らず、福祉、教育、そして我々のフィールドである司法(特に刑事事件、家事事件、そして退院請求事件でしょうか)など、あらゆる対人支援の現場で応用することが可能と言えそうです。特に重要な⑥と⑦については、お2人の発言とともに紹介します。

① 即時対応(Immediate help)

→必要に応じて直ちに対応する。

② 社会的ネットワークの視点を持つ(A social networks perspective)

→クライアント、家族、つながりのある人々を皆、治療ミーティングに招く。

③ 柔軟性と機動性(Flexibility and mobility)

→その時々のニーズに合わせて、どこででも、何にでも、柔軟に対応する。

④ 責任を持つこと(Responsibility)

→治療チームは必要な支援全体に責任を持って関わる。

⑤ 心理的連続性(Psychological continuity)

→クライアントをよく知っている同じ治療チームが最初からずっと続けて対応する。

⑥ 不確実性に耐える(Tolerance of uncertainty)

→答えのない不確かな状況に耐える。

(西村さん)
決まらないことの苦しさに耐える。

(矢原さん)
私は「耐え」たくない。Toleranceとは、寛容とか包容。専門家が答えを出すのではない。多様な声(ポリフォニー)をそのまま置いて並べていき、必要な答えを本人が選んでいく。

(西村さん)
矢原さんの考えを教えてもらってよかった。

⑦ 対話主義(Dialogism)

→対話を続けることを目的とし、多様な声に耳を傾け続ける。

1 詳細は「精神看護」2018年3月発行(通常号)(Vol.21 No.2)の特集「オープンダイアローグ対話実践のガイドライン(医学書院)。

(西村さん)
対話を続けることが目的。

(矢原さん)
治ろうが治るまいが対話を続けることが大事。対話の本質はスキルではない。フィンランドツアーを組んで学びに行くようなものでもない。

(4) 特に、「不確実性に耐える」については、弁護士が最も苦手とするところというのが参加弁護士の共通認識でした。しかし、この観点は、勝ち負けを決める必要のない成年後見業務などおいて、参考になりうると感じました。また、当事者のご家族からの発言で、「不確実性に耐える」という考え方が大きな収穫だった、気持ちが楽になったというものがありました。

4 精神保健当番弁護士25周年の歩みと取組み

(1) 続けて、福岡県弁護士会精神保健委員会委員長鐘ヶ江聖一会員より、現在、精神保健当番弁護士名簿登録者数は402名であり、概ね順調に運用されている等の報告がありました。

(2) 九州弁護士連合会精神保健に関する連絡協議会副委員長橘潤弁護士(宮崎県弁護士会)より、現在、九弁連管内のすべての単位会で精神保健当番弁護士制度が実施されている等の報告がありました。

5 パネルディスカッション

(1) 続けて、八尋光秀会員をコーディネーターとしたパネルディスカッションが、西村さん、矢原さんに加え、和田幸之さん(こころの病の患者会うさぎの会会長)、楯林英晴さん(医師/福岡県精神保健福祉センター所長)、森豊会員の5名にて行われました。

(2) 和田さんより、奥様が措置入院となった際、頼れる社会資源がなかったことのエピソードや、オープンダイアローグも入院中心の精神科医療の中で骨抜きにされる可能性があることなどが語られました。

(3) 楯林さんより、福岡県精神保健福祉センターの活動(保健所の支援、家族及び支援者の研修会、精神医療審査会、クライシスプラン、病院と地域の連携推進など)について、報告がありました。

(4) 森会員より、入院医療中心から地域生活中心へと謳った平成16年の精神保健医療福祉の改革ビジョンの実現は現状ではほど遠いこと、オープンダイアローグはその起爆剤となりえ、特に急性期の患者に対する非自発的入院治療の必要性の判断を適正な判断に変えていく契機となって、非自発的入院の減少につながりうること、などが語られました。

(5) パネルディスカッションの後半で、矢原さんより、この度、精神医療とは直接は関係のない弁護士会からオープンダイアローグについての講演依頼が来たことで、オープンダイアローグの普及を実感するとともに、ブームとして終わってしまうのではないかと心配になったとのお話がありました。日本において、どこまでオープンダイアローグの拠点を作っていけるか。あくまでフィンランドはフィンランド。土地によって文化は違い、その土地なりの実践がある、とのことでした。

6 閉会あいさつ

九州弁護士連合会精神保健に関する連絡協議会委員長野林信行会員より、閉会のあいさつとして、今日の参加者が今日学んだことを自身の現場で実践していきましょうとのことばがありました。

思うに、日本において、オープンダイアローグは、まだ緒についたばかりです。オープンダイアローグは、薬物と入院をできる限り遠ざけようとする治療法ですから、現在の精神医学界において積極的に受け入れられることは考えにくいです。しかし、オープンダイアローグの考え方を知った今日の参加者は、普及するまで、まさにその不確実性に耐え、その有効性を実践によって地道に確かめていくことが求められたと思います。

犯罪被害者の支援条例制定へ! ~犯罪者支援シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える(第2回)」~

会員 德永 由華(64期)

1 犯罪被害者支援条例で支援が具体化!

2017年12月19日、アクセス良好の天神ビル会議室にて福岡県弁護士会主催シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える(第2回)」が開催されました。同年7月の第1回に引き続き、半年もしないうちに同じタイトルで第2回を開催するということからも、犯罪被害者支援条例が福岡県で制定される機運が非常に高まっていることがお分かりいただけると思います。ちょうどシンポジウムから1か月後の今年1月19日、西日本新聞朝刊一面でも、"早ければ今年3月に福岡県議会へ犯罪被害及び性被害の2本立てで被害者支援条例案が提出される"旨の報道もあったところです。

そもそも第1回のシンポジウムは、2004年に犯罪被害者等基本法(以下「基本法」といいます。)が制定され、2013年3月に「福岡県犯罪被害者取組指針(2017年4月改定)」が策定されたものの、未だ犯罪被害者及びその家族又は遺族(以下「犯罪被害者等」といいます。)に対する支援が十分であるとはいえない現状を踏まえ、充実した犯罪被害者等に対する支援のための福岡県条例制定に向けた啓蒙活動の一環として開催されたものです。

当日は、多数の市民や役場の被害者支援担当者のほか、当会会員も参加し、テレビ・新聞などのマスコミも多数参加する中、会議室は程良い緊張感に包まれました。

当会会長作間功弁護士の挨拶により開会となる予定でしたが、あいにく、急用で出席は叶わなかったものの、丁寧なメッセージを寄せていただき、当日司会だった私が代読しました。作間会長のメッセージは、第1回シンポジウムに引き続き、弁護士会が日本最大の人権NGOとして、立法活動を支えることは法律の専門家集団としても大きな意義があることに触れるなど、大変力強いものでした。

2 第1部 犯罪被害者支援条例の解説

第1回シンポジウムでも好評だった当委員会副委員長林誠弁護士の犯罪被害者支援条例についての解説は、基本法及び地方自治法から、地方公共団体が犯罪被害者等に対する具体化支援の役割を担うべきであることを確認したうえ、基本条例のみでは担当窓口が継続される保証はなく、担当者次第で支援が細切れになってしまい、現実には犯罪被害者等の方々が役所へ問合せに行ってもたらい回しにされ長時間待たされた挙句「分る者がおりません」と言われたとのエピソードも交え、犯罪被害者支援条例の必要性が指摘されました。

第1回シンポジウムパネリストの佐藤悦子氏の尽力により、大分県でも佐賀県に続いて犯罪被害者支援条例が制定され、内容としても市町村が支援金支給し、県が助成することを含めて制定されるなど、充実した条例が制定されたと報告がなされました。特に、福岡県は性犯罪認知件数が全国第3位、人口割合では第2位と件数・犯罪率とも特に高いため、犯罪被害者支援条例制定が急務であるとのことでした。

また、神奈川県の犯罪被害者支援条例等の実例を交え、現実的で、かつ犯罪被害者等が求める条例モデル案を叩き台にして、あるべき福岡県の犯罪被害者支援条例について丁寧に講義がなされました。

3 パネルディスカッション

後半は、犯罪被害者遺族2名と当会会員で児童相談所常勤弁護士の久保健二会員、当委員会委員長の藤井大祐会員、同前委員長の世良洋子会員をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。

被害者遺族の古賀敏明氏から、婚約直前のご子息が大阪で通りすがりの男2名から暴行を受けて死亡したものの、犯人は分らず、懸賞金300万円をかけご子息友人達の協力を得て探し出し、2名とも刑事裁判では実刑となったこと、しかし、民事裁判で合計8900万円の損害賠償請求を認める判決が確定したのに、ほとんど支払いはなく、時効完成前に自費で再提訴を余儀なくされ、やはり支払いはほとんどなされていないと、なんともやるせないお話がありました。また、弁護士探しにも心当たりがなくて苦労したそうです。

久保健二会員からは、児童相談所に常勤する中での児童に対する性加害の実態、認知が困難であること、被害児童が何度も同じことを聞かれて疲弊すること等の対処の困難さについて報告がありました。特に、性加害を認知した大人の対応として気をつけるべきこととして、「親が実子に性加害をするわけない」「男子は性加害の被害者にならない」等との偏見から、被害児童が勇気を出して告白しても逆に疑われる等の二次被害が生じている等の指摘がありました。

被害者遺族のもうお1人は、前回シンポジウムでも事例報告をしてくださった山本美也子氏でした。山本氏は、飲酒運転で当時高校生の息子さんを亡くされ、福岡県の飲酒運転撲滅条例制定へ尽力され、報道等でもご存じの方も多いと思います。講演活動(既に約900回にもなるそうです!)や被害者等でつながりを持つなかで、様々な犯罪被害者の方々の状況を知るようになったそうです。特に性被害では、人には言えなくとも髪をむしったり学校に早朝から遅くまでいる等のSOSは出していたケース、幼少の頃の性被害について子育てするようになって苦しめられるようになった母親等、被害に終わりはないようです。また、犯罪被害者は犯罪の性質や状況により、様々であり被害者同士であっても安易に声をかけられず、地方自治体の専門窓口による継続的な支援の必要性を指摘されました。

藤井大祐会員からは、依頼者が犯罪被害者の場合に、無保険の交通事故など損害賠償の回収が難しいケースのほか、児童に対する性加害には社会資源として一般には重要な家族に期待ができないことの深刻さを指摘され、弁護士業務の視点からも地方自治体による支援制度としての犯罪被害者等の条例による救済が必要との指摘がありました。

様々な視点から、コーディネーターの世良洋子会員が、上記のような様々なエピソードを引き出し、犯罪被害者支援活動を継続してきた同会員だからこそ、「犯罪被害者支援条例は悲願です」との言葉には非常に重みがありました。

4 おわりに

犯罪被害者やその遺族の方々は、犯罪被害に遭うまでは普通の生活を送ってきた方々ばかりです。私が、あなたが、今日、被害者になるかもしれません。また、性被害の暗数の多さは想像に難くありません。犯罪者の権利擁護を率先してきた弁護士ですが、犯罪被害者に寄り添うことも少数者の人権擁護に不可欠です。

既に、福岡県議会でも犯罪被害者支援条例の制定に動きつつありますので、ぜひ当会会員の経験や意見を反映させ、より良い被害者支援へ役立てていきたいものです。どうぞ今後とも犯罪被害者支援条例制定へのご支援、ご意見をお寄せください。

2018年3月 1日

あさかぜ基金だより ~あさかぜを卒業します~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 若林 毅(68期)

3月から対馬へ

あさかぜの弁護士は、およそ2年の養成を終えたあと、九弁連管内の弁護士過疎地域で弁護士として活動することとなります。私が入所してから3名の先輩弁護士が養成を終え、弁護士過疎地域で活躍されていますが、いよいよ私もあさかぜから巣立つこととなりました。2月末であさかぜでの養成を終え、3月から長崎県の対馬ひまわり基金法律事務所の後任所長として弁護士過疎地域での活動をはじめます。任期は2年の予定です。

あさかぜでの日々

およそ2年間の養成期間は、あっという間に過ぎていきました。私が公設事務所の中でもあさかぜに入所を希望したのは、多くの経験豊富な先輩弁護士と一緒に事件を担当でき、事務所経営も学べ、弁護士として大きく飛躍ができる環境にあると思ったからです。

実際にあさかぜ基金では、数多くの民事・家事・刑事の事件を、多くの先輩弁護士と共同受任でき、およそ2年の養成期間でたくさんの得がたい経験を積むことができました。特に、少年や両親に対する医師によるカウンセリングの設定、両親以外の親族の協力、学校や仕事先との調整など、指導担当の先輩弁護士と環境調整に尽力し再抗告まで争った少年事件や、外国人の子の引渡し事件などが印象に残っています。また、あさかぜでは、扶助事件の相談・受任、当番弁護士の出動・受任、国選弁護、破産申立事件など公設事務所で必ず求められる事件を数多く経験することができました。さらに、あさかぜ委員会を通じて、キャッシュフローデータを意識した事務所経営、事件処理(相談の受け方、受任率の向上、依頼者とのトラブル防止など)、ホームページ等の広報、事務職員の労務管理などについても学びました。これらの経験は、弁護士過疎地域である対馬における活動にも必ず役立つものと思います。

対馬ひまわり

対馬ひまわり基金法律事務所は2005年10月に開設された公設事務所です。井口夏貴弁護士、伊藤拓弁護士、青木一愛弁護士に続き、あさかぜで養成を受けた弁護士が4代連続で所長として活動することとなり、私で6代目の所長となります。島には、ひまわり基金の弁護士1名のほかに、法テラスのスタッフ弁護士1名が常駐しています。

離島である対馬においては、九州本土と異なり、島内に身近に相談できる弁護士がいなければ、法的ニーズを広く汲み取ることが難しくなります。また、島内だけで生活圏が完結しているため、人と人とのつながりが濃密で人の目を気にして弁護士への法律相談を控えてしまう人も多いと思われます。そうした離島特有の事情を少しでも改善し、島の身近な弁護士として法の支配を広く根づかせる手助けをしたいと思い、対馬を希望しました。弁護士へのアクセスの問題は、歴代の所長が築いてきた行政や福祉とのつながりをより密にすることや、各種の講演や広報活動等を通じて、事務所の存在を広く知ってもらい、気軽に相談できるように工夫することで解消していきたいと思います。

対馬の魅力

対馬は面積の9割が山林を占める自然豊かな島です。国の天然記念物に指定されている原始林や、リアス式海岸など勇壮な自然が広がっています。また、国の天然記念物であるツシマヤマネコや、渡り鳥など動植物もたくさん生息しています。人口はおよそ3万人。福岡からは飛行機で35分(1日4往復)、高速船で2時間強(1日2往復)で行くことができます。島の北端から韓国の釜山まではおよそ50キロしか離れていません。朝鮮半島に近い地理的条件から、古くから大陸と日本を結ぶ中継地として朝鮮半島との交流が盛んに行われていたため、書物・仏像・建造物・古墳などの文化財が多く残されています。また、砲台跡が島に31カ所もあり、対馬が古くから国境の島であったことを想起させます。青く澄んだ海の景色とともに、シーカヤックや釣りを楽しむこともできます。

対馬に来られたときは、ぜひ事務所にお立ち寄りください。

むすびに

私は、あさかぜを卒業しますが、これからはあさかぜや福岡県弁護士会で経験したことを活かして、対馬の人々のために力を尽くします。あさかぜ所員の弁護士は、弁護士過疎問題解消への思いを抱きながら、日々研鑽を積んでいます。引き続き、ご支援ご協力をいただきますよう、よろしくお願いします。

最後に、あさかぜ委員会をはじめとする会員の皆様方にはたいへんお世話になりました。ありがとうございました。

創業支援研修会 ~中小企業診断士・梅山香里さんを講師に招いて~

中小企業法律支援センター委員 松村 達紀(65期)

1 創業支援研修会の開催について

中小企業法律支援センターでは、国家戦略の一つでもある創業支援において、各会員が十分な力を発揮することができるよう各種研修会等を企画しており、これらの活動の一環として、平成30年1月29日(月)、中小企業診断士である梅山香里さんを講師にお招きし、「創業支援」をテーマとしてご講演いただきました。

今回の研修会は、1月中旬までに参加申込みが定員に達するなど、会員の関心が非常に高いことが窺われ、当日は雪も散らつく寒空であったにもかかわらず、会場は満員御礼、熱気ある中で始まりました。

2 創業支援について(創業との関わり方)

(1) 講演会は、主として、(1)中小企業診断士の業務内容の紹介、(2)創業と創業支援に関する動向の紹介・分析、(3)創業支援の実例の紹介の3本立てで行われました。

中小企業診断士の業務内容の紹介においては、まず始めに、中小企業診断士の資格概要を説明いただきました。その後、中小企業診断士として、中小企業の経営に関するアドバイスを行う中で、弁護士・公認会計士・税理士・弁理士・社労士等の各専門家への橋渡し的な役割を果たしていることや、これらの役割を円滑に行うために、各専門家との連携を進めていることの紹介がありました。

また、平成29年に福岡県中小企業診断士協会が中小企業診断士養成機関に登録されたことにより、中小企業診断士試験第1次試験に合格し、この養成課程を修了すれば、第2次試験を省略して中小企業診断士としての登録が可能となったことが紹介されました(これまでは養成機関が九州になかったため、養成課程を経るためには東京等のその他の地域に行くほかなかったそうです。)。

(2) 創業と創業支援に関する動向の紹介・分析においては、我が国における開廃業の現状や男女別・年代別の起業家数等の説明がなされました。また、他国と比較して開業率が低い理由の分析として、創業に当たってのハードル(障害)等の説明がなされ、あわせて創業者が直面しやすいリーガルリスクの紹介がなされました。

【創業におけるリーガルリスク】
  • HPリース契約によるトラブル
  • 契約書不備に起因するトラブル
  • 知的財産権に関する諸問題
  • 融資、経営者保証に関する諸問題
  • 共同創業者とのトラブル(安易な協業)
  • 労務管理に関する諸問題
  • 情報管理、情報漏えい
  • 廃業に関する諸問題

開業率の分析にあたっては、起業に関する相談相手がいないことが問題である点が指摘されましたが、その場で使用された統計データにおいては、相談相手として(税理士・公認会計士は挙げられている一方)そもそも弁護士は挙げられておらず、ビジネス構築段階における相談である以上、多少役割が異なる点はあるのかもしれませんが、残念ながら、現時点において、弁護士は十分な関与ができていないことを痛感いたしました。また、リーガルリスクの紹介においては、会員にとっては当たり前・自明なリスクであったとしても、創業者にとってはそうでないことも多数あり、創業段階から弁護士が関与し、サポートすることの重要性を改めて実感いたしました。

(3) 最後に、創業支援の実例の紹介においては、創業相談として、相談を持ち込まれることの多いテーマの説明がなされるとともに、相談実例をもとに、具体的にどのような事項をヒアリングし、アドバイスしていくのか、簡単に実例紹介がなされました。事業展開を検討することで見えてくるリーガルリスクもあることから、弁護士においても、ビジネスモデルや経済情勢等にアンテナを張っておく必要があると感じました。

3 おわりに

今回の研修は、18時から20時までの2時間だったのですが、初めから終わりまで終始各会員が熱心に臨んでおり、冒頭にも記載いたしましたが、「創業」に対する関心の高さを改めて感じました。

また、「創業」と一言で表現されたとしても、ビジネスの中身は様々であり、また、創業者ごとに準備のレベル(状況)やリスクの程度は、大きく異なるものと思います。国家的に「創業」が盛り上がっている中、トラブル等により失敗に陥る創業者を防ぎ、より多くの創業の成功への一助となるためにも、当センターとしては、各専門家との連携を深めつつ、早期の段階で創業にタッチし、多くの創業者のサポートを行えるよう、活動を続けてまいりたいと考えております。

公金の債権回収業務に関する法務研修(福岡開催)の実施報告 ~行政連携に関する新たな取り組みとして~

弁護士業務委員会 福山 聖(64期)

1 はじめに

平成30年1月26日(金)午前10時~午後5時、電気ビル共創館3階A会議室において、総務省行政管理局公共サービス改革推進室と当会が主催、日弁連が共催し、九州全域(沖縄を除く)の自治体職員を対象として、「公金の債権回収業務に関する法務研修」を実施しました。当日は、自治体職員106名、弁護士33名(他会含む)の方に参加いただきました。

公金債権は、強制徴収公債権(地方税等)のみならず、たとえば、母子父子寡婦福祉資金貸付金といった私債権等も含まれます。債権管理にあたっては、費用対効果という「効率性」の観点だけでなく、「公平性」・「平等性」等の観点や福祉的配慮等も考慮する必要があるという特徴も有しています。今回は、そのような債権の管理に関する本研修について、ご報告いたします。

2 研修について
(1) 総務省・各自治体・当会の取組報告等について

午前の部は、作間功会長の開会挨拶に始まり、総務省・福岡県・福岡市・中間市・当会の各公金債権回収業務に関する取組等について報告が行われました。各自治体の取り組みは、それぞれ工夫がなされており、たとえば、色付きの督促状を使用する等、私たちの業務でも参考になるものもありました。

当会の取組報告(報告者:当委員会森山大輔委員長)では、行政との連携メニュー(http://www.fben.jp/gyousei/)、任期付き公務員や当委員会の活動予定等について紹介がありました。

(2) 公金の債権回収に関する法令と実務(前編・後編)について

午後の部前半は、当委員会副委員長・日弁連自治体等連携センター委員の服部博之委員による2時間の講義が行われました。条文や裁判例集、資料を使用した講義は好況で、アンケートでは「全部参考になった」「もっと時間をかけて講義をしてほしかった」等、参加職員の9割以上から「参考になった」という結果をいただきました。

なお、当日の配布資料は、近日中に、総務省のホームページで公開予定ですので、ご覧いただけると幸いです。

(3) 意見交換会について

午後の部後半は、今回のメインイベントである意見交換会を1時間半、2会場に分かれ実施しました。意見交換会は、参加者が18グループに分かれ、各グループ6~8名の自治体職員に対し、弁護士が1~3名担当者として入り、自治体職員と弁護士(会)との間で、公金債権回収に関する自治体職員の日々の悩み等を共有し、交流することで、弁護士(会)との接点をもってもらう機会として実施しました。

参加職員、担当弁護士の双方から、充実した時間であったという感想を伺っており、当委員会では、公金債権管理に関する取り組みを始める良いきっかけになったのではないかと感じております。

3 懇親会について

同日午後5時30分からは、ビストロアトリにおいて、自治体職員の方も交え、懇親会を実施しました。自治体職員の方も14名出席され、研修に引き続き、交流を深める時間となりました。

4 最後に

今回、企画から実施までの約1年間、日弁連自治体等連携センター委員として、本研修を担当し、貴重な経験をさせていただくことができ、心から感謝しております。昨年4月、当委員会で、本研修について報告・提案をさせていただいてから、服部博之委員を研修責任者として、牟田遼介委員と共に本研修PTを組み、事前勉強会等を経て、研修実施に至るまでの間、甲斐田靖副会長、森山大輔委員長、当委員会の先生方、牟田哲朗先生や小野裕樹先生を筆頭とする当委員会外の先生方、他県の先生方、担当事務局の福井さんをはじめ、多くの方に、お力添えをいただきました。

そのお力添えのおかげで、無事に、盛況のうちに、本研修を終えることができました。参加者満足度の高い研修であったことは、アンケート結果からも明らかですが、研修終了後、自治体職員の方々から直接伺った感想や拝見した笑顔を通して、実感することもでき、貴重な体験となりました。

この場をお借りして、準備から実施まで、当方の至らぬ点多々あったことにつき、お詫び申し上げるとともに、多くの方にご協力いただけたこと、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

当委員会では、本研修をきっかけに、新たな取り組みの一つとして、公金債権管理に関する自治体職員向けのメール相談等検討しております。今後も、行政連携の分野においても、弁護士をもっと身近に感じてもらえるように、弁護士を活用してもらえるように、努めてまいりますので、よろしくお願い申し上げます。

シンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」報告

公害環境委員会委員 中藤 寛(59期)

本年1月20日、九州弁護士連合会及び福岡県弁護士会共催のシンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」が開催されました。大変興味深い内容でしたので、その概要をご報告いたします。

1 基調報告「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」

まず、当会公害環境委員会の埋田昇平先生より、「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」について基調報告が行なわれました。

日本の再生可能エネルギーの導入がヨーロッパ諸国に比べて大幅に遅れていること(日本6%、ドイツ24.5%、スペイン26.1%)、国内では都道府県別の再生可能エネルギーの導入比率(水力除く)で大分県が1位であること(40%弱)等が報告されました。

また、再生可能エネルギーについての弁護士会の取組として、福岡県弁護士会館及び北九州部会会館における新電力導入、北九州部会のエコアクション21認証取得などが紹介されました。

2 基調講演「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」

特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也様より、「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」と題する基調講演が行われました。主な内容は以下のとおりです。

(1) 再生可能エネルギーへの産業革命規模の大転換(破壊的変化)

デジタル技術の急速な進歩によって銀塩フィルムのカメラが短期間でほぼ100%デジタルカメラに置き換えられたように、世界では、化石(火力)・原子力の既存エネルギーから風力・太陽光などの再生可能エネルギーへの急速な転換(破壊的変化)が起きている。風力・太陽光発電、蓄電の技術革新がIT革命並のスピードで急激に進んでおり、風力・太陽光の発電コストが急速に低下しているからである。

このような急速なコスト低下により、全世界の発電量に占める割合が、風力発電は10年で10倍、太陽光発電は6年半で10倍に増えており、今後、そのスピードはさらに加速することが予測される。実際、現時点においても、世界的に見れば、風力・太陽光による発電量は、いずれも既に原発の発電量を超えている。

(2) 「ベースロード電源」から「フレキシビリティ」へ

風力・太陽光は、発電量が気象の影響を受けるため安定供給が課題とされ、原発や火力などの既存エネルギーが「ベースロード電源」として重視されてきた。しかし、風力・太陽光発電も、気象予報、水力等他の発電による調整、他地域との電力融通、需要側での調整、蓄電池の活用などの柔軟な需給調整(フレキシビリティ)によって、安定供給という課題は解消できる。

(3) 日本の現状

日本では、固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電が普及し、電力小売自由化も実現したが、以下の課題がある。

すなわち、土地利用規制や環境アセスメントがなく、地域参加が優遇されなかったために太陽光発電開発で事業者と地域の対立が深刻化しつつあること、送電線を独占する既存の電力会社が化石・原子力による「ベースロード電源」にこだわり、変動型電源である太陽光・風力発電について送電線への接続を忌避・抑制しつつあり、太陽光・風力の日本における市場が急激に縮小しつつあること、日本の太陽光発電は世界の水準と比較して未だ2~3倍の高コストであることなどである。

日本において再生可能エネルギーをさらに普及させるには、これらの課題の解決が必要であり、特に、送電線を道路と同様に公共財として競争主体から分離する完全な発送電分離、完全にオープンな市場の実現が不可欠である。

(4) 地域からのエネルギー・デモクラシー

既存の発電は大規模・中央独占型であるのに対し、太陽光・風力などの再生可能エネルギーは、必ずしも大規模な設備が必要ではなく、小規模・地域分散型である。いわばエネルギーの地産地消が可能であり、誰もが発電することが可能である。日本でも各地に小規模分散型のエネルギーシステムで自立を目指す「ご当地エネルギー」が次々と誕生している。

このような発電の担い手の広がり、多様さは、「エネルギー・デモクラシー」というべきものである。

3 パネルディスカッション「地域の力でなしうる取り組み」

パネリストを飯田所長、みやまスマートエネルギー株式会社(みやま市)代表取締役の磯部達様、大分県商工労働部工業推進課エネルギー政策班の渡辺康志様、コーディネーターを当会公害環境委員会委員長緒方剛先生として、パネルディスカッションが行われました。

(1) 大分県の施策

まず、渡辺様から、再生可能エネルギー導入比率全国一位の大分県における施策と実績、及び他の都道府県と異なり、太陽光・風力以外にも大分県特有の地域資源を活かした地熱・バイオマス・小水力など多様な発電方式を導入していることが報告されました。このような再生可能エネルギーの普及は、大分県のエコエネルギー導入促進条例を契機としたものであるとのことでした。

これについて、飯田所長より、地方自治体が条例によって再生可能エネルギー導入促進を図ると、それが他の自治体にも広がっていき、さらには国レベルでの施策につながっていくことから、県レベルでの施策が重要であるとの指摘がなされました。

(2) みやまスマートエネルギーの取組み

みやま市は、多くの地方自治体と同様、人口減少・高齢化による活力減退という問題を抱え、また、電気代として市外へ年間約40~50億円が流出していました。そこで、地域資源を活かし、地域で電力を作って地域で売ることで、安定した雇用を生み出すとともに、その収益を地域に還元する(子育て支援など生活支援に充てる)ため、みやま市が筆頭株主となり、地元企業に呼び掛けて、みやまスマートエネルギー株式会社が設立されました。

実績として、出資者に年間8%の配当ができており、また、大分県豊後大野市、同県竹田市などの自治体の再生可能エネルギー導入支援も行なっていることが報告されました。

再生可能エネルギーの課題である需給調整についてコーディネーターより質問がなされましたが、専門家ではない地域住民を雇用して需給調整を行なっているが、特に問題は生じていないとのことでした。

4 最後に

以上のように、コスト低下により、太陽光・風力を初めとする再生可能エネルギーは急速に普及しており、現在、同時進行しているグローバルなエネルギーの大転換は、大規模・集中・独占型から地域分散・ネットワーク型への移行という点に大きな特色があるようです。

飯田所長がこのような大転換を、「パワーエリート」から「民衆のパワー」へ、「核による戦争」「石油を巡る戦争」から「太陽による自立・平等・平和」へ、と表現していたのが非常に印象的でした。

広報関連委員会だより ~ライジングゼファー福岡とコラボしました!~

対外広報委員会委員・対外広報委員会戦略PT委員 南川 克博(67期)

1 はじめに

平成30年1月20日(土)、福岡市民体育館にて、プロバスケットボールリーグBリーグ2部(B2)のライジングゼファー福岡とコラボしたA5サイズカレンダーを1000部配布しました。

弁護士会とBリーグの(おそらく)全国初のコラボについて、僭越ながら、ご報告させていただきます。

2 コラボが実現するまで

これまで当会は、より弁護士会を身近に感じてもらうことを目的として、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスや、Jリーグのアビスパ福岡など、地元のプロスポーツチームとコラボした広報活動(グッズの配布)を行ってまいりました(詳細は月報547号、551号をご参照下さい)。

当会の公式twitterアカウント(@fben2016)でこれらの活動を報告したところ、「ライジングゼファー福岡とも是非コラボしませんか」という連絡(リプライ)をいただきました。その主は、ライジングゼファーの取締役も務められている、当会の八尋光良会員でした。中高バスケ部だった(今は面影ないですが・・・)私は、是非コラボできればと思い、ここからライジングゼファー福岡とのコラボプロジェクトが始動しました。

そして、冒頭にお話したように、チームの選手の写真と、弁護士会のロゴや電話番号、QRコード等が記載されたオリジナルのA5カレンダーを製作し、ホームでの試合の際に配布することとなりました。

3 試合当日

試合開始は18時ですが、熱烈なファン(ブースターといいます)の方は良い席を確保するため15時から入場するとのことでしたので、我々弁護士会有志も15時から配布を行い、無事試合前に目標の1000部を配布することができました。2時間以上立ちっぱなしでの配布でしたが、手に取って喜んでくれるブースターの皆様の様子を見て、(少なくとも私の)疲れは吹き飛びました。ちなみに、配布にご参加いただいた某先生は、年間シートをお持ち(しかも2席!)の熱狂的なブースターで、会場スタッフの方とも気さくにお話をされており、私は憧憬の念を禁じ得ませんでした。ご協力いただいた先生方、本当にありがとうございます!

カレンダー配布については当会の公式twitter(@fben2016)でも事前告知・当日の実況を行っておりましたが、チームの公式twitterでも告知していただいたこともあり、ネット上の反応も上々でした。試合後の報告ツイートに対して、一般のブースターの方から「今日は観戦できなかったけれど、貰った方は嬉しかったと思います。」という連絡をいただき、とても嬉しかったです。

試合も西地区1位の力を見せ、福岡が奈良に快勝しました。

4 さいごに

今後も、対外広報委員会は、地域の皆様にとって弁護士会が身近な存在になるように、様々な形で情報発信を行って参ります。会員の皆様におかれましては、所属される委員会のイベントや情報について、我々がよりよい形での広報のご提案やご協力をさせていただきますので、ぜひ対外広報委員会及び対外広報戦略PTをご活用ください。

2018年2月 1日

あさかぜ基金だより

会員 小林 洋介(70期)

自己紹介

このたび、あさかぜ基金法律事務所へ入所しました、所員弁護士の小林洋介です。私は、長崎県佐世保市で生まれ、高校までを過ごしました。長崎は、大小様々な島があるとともに、大村湾で東西が分断される地理的特徴があり、加えて、北は平戸、南は島原半島が突き出る形となっていて、県内各所の交通アクセスが非常に不便な県でもあります。

長崎県には、長崎市と佐世保市が中核市としてありますが、私が住んでいた当時、佐世保には中心市街地にわずかに弁護士がいるというくらいで、身近な存在ではありませんでした。

私は母子家庭で育ちました。母子3人で古アパートに住んでいましたが、ある日、退去要請通知が送られてきました。アパートを壊すから出て行ってくれというものでしたが、母の収入だけで家計を支える家庭にとって、新しく住む場所を探し、引っ越しをするということは、経済的にも時間的にも容易なことではありません。しかし、無知とは酷なもので、私たち一家が正当事由や立退料など知るはずがありません。むしろ、貸主から出て行けといわれれば出て行かなければならないのが当然という認識です。母は、仕事をしながら家を探したり引っ越し準備をしたり、時間的にも経済的にも大変だったと思います。そのため、とうとう体調を崩してしまいました。

法律家へのアクセスが容易でない地域では、法の支配は後退し、人治による紛争解決が横行します。ひとたび紛争が生じると、当事者の社会的力関係がそのまま反映されてしまい、力のあるものが有利な立場に立ち、弱いものが不利な立場に立たされるという、まさに、強いものが勝つ世界です。

私はこのような経験から、弁護士が身近にいることの重要性を身をもって感じるようになりました。弁護士の存在を必要とする地域がまだまだあり、弁護士が近くにいるだけで救われる人々が必ずいる。そういう人々のために仕事をしたいとの思いから、司法過疎地域への赴任を考えるようになりました。就職活動も、法テラスと公設事務所に絞り、最終的には自分が生まれ育った九州の地で貢献していきたいとの思いから、あさかぜ基金法律事務所への入所を決めました。将来の赴任先はまだ分かりませんが、故郷である長崎に貢献できる日が来ればありがたいなという思いを抱きつつ、あさかぜで弁護士としての第一歩を歩み始めたところです。

あさかぜ基金法律事務所の紹介

あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域へ派遣する弁護士を養成するために設立された都市型公設事務所です。所員弁護士は、2、3年の養成期間を経たあと、九弁連管内の司法過疎地域に赴任することになります。2017年1月には、中田弁護士が壱岐ひまわり基金法律事務所へ、河野弁護士が島原中央ひまわり基金法律事務所へ赴任したのに加え、2018年春からは若林弁護士が対馬へ赴任することが決まっています。当事務所は2008年の設立以来、九州各地の司法過疎地域へ弁護士を派遣していますが、派遣弁護士の定着により公設事務所としての役目を終える事務所も増えてきているなど、司法過疎の解消に着実に成果をあげています。

当事務所では、債務整理、家事事件、国選弁護事件を多く扱っています。また、法テラスの利用が多いのも当事務所の特徴といえます。生活保護受給者については、法テラスの立替金が免除になる場合もあり、そのことを説明するとほっとした表情を浮かべて依頼者の方は帰って行かれます。このような依頼者の姿を見るにつけ、法律扶助制度の果たす役割の重要さを感じます。

入所後の抱負

弁護士数が少ない過疎地域では、都市部と異なり数ある中から弁護士を選ぶことができません。地域の人々の法的権利が守られるかどうかは、赴任した弁護士の力量にかかっているところも大きいと思います。養成期間を過ごすにあたっては、このことを肝に銘じ、真摯に誠実にひとつひとつの事件にあたるとともに、日々研鑽を積んでいきたいと考えています。

また、あさかぜ基金法律事務所は、九弁連や福岡県弁護士会会員の支援をはじめ、あさかぜ出身弁護士のこれまでの尽力により支えられている事務所です。これまで受け継がれてきたバトンをしっかりと受け取り、引き継いでいけるよう努めていきますので、引き続きのご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。

弁護士知財ネット 九州・沖縄地域会主催 知的財産を活用した高付加価値農林水産物の開発と展開セミナー(第2回)~農林水産知財の横断的解説と活用例の分析~@福岡

弁護士知財ネット九州沖縄地域会事務局 網谷 拓(63期)

平成29年12月20日、弁護士知財ネット九州沖縄地域会主催、知的財産を活用した高付加価値農林水産物の開発と展開セミナーを、特別後援をいただいた株式会社NCBリサーチ&コンサルティング様のセミナールームにて開催しました。

当日は、約50名の方にご参加いただきました。

司会は松本幸太先生が務め、まず、弁護士知財ネット九州沖縄地域会幹事の柴田耕太郎先生から挨拶がありました。

その後、基調講演として、九州経済産業局地域経済部知的財産室室長の横田之俊様から「農水知財制度の解説」を、沖縄で活躍されている弁理士の大久保秀人先生から「農水知財取得・活用の実務」を、有限会社緑の農園専務取締役の早瀬憲一様から「農水知財活用企業の実例報告「つまんでご卵®」」を、それぞれお話しいただきました。

横田様からは、農林水産分野においても知的財産が関係すること、このことを踏まえ、知的財産を意識した取り組みが重要であることをご説明いただきました。

また、知的財産に関係したトラブル事例の紹介とトラブル対策として、どのような措置を講じるべきか、また、国として、どのような支援を行っているかについて、説明、紹介をいただきました。

次に大久保先生からは、商標法による権利保護、種苗法による権利保護の違い、それぞれの権利取得までに要する時間が異なるために生じる問題等について解説いただきました(「商標追い越し問題」等。農林水産省でも重要論点として解説しておりますので、気になる方は農林水産省のHPをご参照ください。)。

また、平成27年6月1日から施行された特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)に基づく地理的表示保護制度(GI)についての説明もいただきました。

大久保先生は、GIの登録申請をサポートするGIサポートデスクのアドバイザーを務めており、実務家として、日々の業務の中で感じる問題点について聞けて勉強になりました。

早瀬様からは、つまんでご卵のこれまでの歴史(「早瀬さんの美味しい卵」から「つまんでご卵」になるまでの歴史)、どのようにして卵を生産しているのかについて、お話いただきました。つまんでご卵は、「にわとりの幸せ」を追求した飼育方法で生産されているそうです。

一度、糸島に行かれる際は、つまんでご卵直売店に行かれてみてはいかがでしょうか。

その後、弁護士知財ネット九州・沖縄地域会幹事である田中雅敏先生をモデレーターとして、基調講演にてお話しいただいた方々で、パネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、活発な議論がなされました。例えば、海外進出を念頭に、どこの国に進出するのか、どこの国で、どの程度権利を取得し、ブランドを保護するのか、ブランド戦略について意見交換がなされました。

また、他方で、権利取得を目指すよりも、営業秘密として情報を秘匿しておくべきではないかといった議論もなされました。

この議論にて、農林水産事業について、いずれ海外進出を念頭に事業を行う必要があること、その進出にあたり、国も、弁理士、弁護士等の専門家も支援していくこと、その体制を整えていかなければならないことが確認されました(と私は感じました)。

来年度も、このような機会を提供できればと思いました。

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