福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2018年3月 1日

あさかぜ基金だより ~あさかぜを卒業します~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 若林 毅(68期)

3月から対馬へ

あさかぜの弁護士は、およそ2年の養成を終えたあと、九弁連管内の弁護士過疎地域で弁護士として活動することとなります。私が入所してから3名の先輩弁護士が養成を終え、弁護士過疎地域で活躍されていますが、いよいよ私もあさかぜから巣立つこととなりました。2月末であさかぜでの養成を終え、3月から長崎県の対馬ひまわり基金法律事務所の後任所長として弁護士過疎地域での活動をはじめます。任期は2年の予定です。

あさかぜでの日々

およそ2年間の養成期間は、あっという間に過ぎていきました。私が公設事務所の中でもあさかぜに入所を希望したのは、多くの経験豊富な先輩弁護士と一緒に事件を担当でき、事務所経営も学べ、弁護士として大きく飛躍ができる環境にあると思ったからです。

実際にあさかぜ基金では、数多くの民事・家事・刑事の事件を、多くの先輩弁護士と共同受任でき、およそ2年の養成期間でたくさんの得がたい経験を積むことができました。特に、少年や両親に対する医師によるカウンセリングの設定、両親以外の親族の協力、学校や仕事先との調整など、指導担当の先輩弁護士と環境調整に尽力し再抗告まで争った少年事件や、外国人の子の引渡し事件などが印象に残っています。また、あさかぜでは、扶助事件の相談・受任、当番弁護士の出動・受任、国選弁護、破産申立事件など公設事務所で必ず求められる事件を数多く経験することができました。さらに、あさかぜ委員会を通じて、キャッシュフローデータを意識した事務所経営、事件処理(相談の受け方、受任率の向上、依頼者とのトラブル防止など)、ホームページ等の広報、事務職員の労務管理などについても学びました。これらの経験は、弁護士過疎地域である対馬における活動にも必ず役立つものと思います。

対馬ひまわり

対馬ひまわり基金法律事務所は2005年10月に開設された公設事務所です。井口夏貴弁護士、伊藤拓弁護士、青木一愛弁護士に続き、あさかぜで養成を受けた弁護士が4代連続で所長として活動することとなり、私で6代目の所長となります。島には、ひまわり基金の弁護士1名のほかに、法テラスのスタッフ弁護士1名が常駐しています。

離島である対馬においては、九州本土と異なり、島内に身近に相談できる弁護士がいなければ、法的ニーズを広く汲み取ることが難しくなります。また、島内だけで生活圏が完結しているため、人と人とのつながりが濃密で人の目を気にして弁護士への法律相談を控えてしまう人も多いと思われます。そうした離島特有の事情を少しでも改善し、島の身近な弁護士として法の支配を広く根づかせる手助けをしたいと思い、対馬を希望しました。弁護士へのアクセスの問題は、歴代の所長が築いてきた行政や福祉とのつながりをより密にすることや、各種の講演や広報活動等を通じて、事務所の存在を広く知ってもらい、気軽に相談できるように工夫することで解消していきたいと思います。

対馬の魅力

対馬は面積の9割が山林を占める自然豊かな島です。国の天然記念物に指定されている原始林や、リアス式海岸など勇壮な自然が広がっています。また、国の天然記念物であるツシマヤマネコや、渡り鳥など動植物もたくさん生息しています。人口はおよそ3万人。福岡からは飛行機で35分(1日4往復)、高速船で2時間強(1日2往復)で行くことができます。島の北端から韓国の釜山まではおよそ50キロしか離れていません。朝鮮半島に近い地理的条件から、古くから大陸と日本を結ぶ中継地として朝鮮半島との交流が盛んに行われていたため、書物・仏像・建造物・古墳などの文化財が多く残されています。また、砲台跡が島に31カ所もあり、対馬が古くから国境の島であったことを想起させます。青く澄んだ海の景色とともに、シーカヤックや釣りを楽しむこともできます。

対馬に来られたときは、ぜひ事務所にお立ち寄りください。

むすびに

私は、あさかぜを卒業しますが、これからはあさかぜや福岡県弁護士会で経験したことを活かして、対馬の人々のために力を尽くします。あさかぜ所員の弁護士は、弁護士過疎問題解消への思いを抱きながら、日々研鑽を積んでいます。引き続き、ご支援ご協力をいただきますよう、よろしくお願いします。

最後に、あさかぜ委員会をはじめとする会員の皆様方にはたいへんお世話になりました。ありがとうございました。

創業支援研修会 ~中小企業診断士・梅山香里さんを講師に招いて~

中小企業法律支援センター委員 松村 達紀(65期)

1 創業支援研修会の開催について

中小企業法律支援センターでは、国家戦略の一つでもある創業支援において、各会員が十分な力を発揮することができるよう各種研修会等を企画しており、これらの活動の一環として、平成30年1月29日(月)、中小企業診断士である梅山香里さんを講師にお招きし、「創業支援」をテーマとしてご講演いただきました。

今回の研修会は、1月中旬までに参加申込みが定員に達するなど、会員の関心が非常に高いことが窺われ、当日は雪も散らつく寒空であったにもかかわらず、会場は満員御礼、熱気ある中で始まりました。

2 創業支援について(創業との関わり方)

(1) 講演会は、主として、(1)中小企業診断士の業務内容の紹介、(2)創業と創業支援に関する動向の紹介・分析、(3)創業支援の実例の紹介の3本立てで行われました。

中小企業診断士の業務内容の紹介においては、まず始めに、中小企業診断士の資格概要を説明いただきました。その後、中小企業診断士として、中小企業の経営に関するアドバイスを行う中で、弁護士・公認会計士・税理士・弁理士・社労士等の各専門家への橋渡し的な役割を果たしていることや、これらの役割を円滑に行うために、各専門家との連携を進めていることの紹介がありました。

また、平成29年に福岡県中小企業診断士協会が中小企業診断士養成機関に登録されたことにより、中小企業診断士試験第1次試験に合格し、この養成課程を修了すれば、第2次試験を省略して中小企業診断士としての登録が可能となったことが紹介されました(これまでは養成機関が九州になかったため、養成課程を経るためには東京等のその他の地域に行くほかなかったそうです。)。

(2) 創業と創業支援に関する動向の紹介・分析においては、我が国における開廃業の現状や男女別・年代別の起業家数等の説明がなされました。また、他国と比較して開業率が低い理由の分析として、創業に当たってのハードル(障害)等の説明がなされ、あわせて創業者が直面しやすいリーガルリスクの紹介がなされました。

【創業におけるリーガルリスク】
  • HPリース契約によるトラブル
  • 契約書不備に起因するトラブル
  • 知的財産権に関する諸問題
  • 融資、経営者保証に関する諸問題
  • 共同創業者とのトラブル(安易な協業)
  • 労務管理に関する諸問題
  • 情報管理、情報漏えい
  • 廃業に関する諸問題

開業率の分析にあたっては、起業に関する相談相手がいないことが問題である点が指摘されましたが、その場で使用された統計データにおいては、相談相手として(税理士・公認会計士は挙げられている一方)そもそも弁護士は挙げられておらず、ビジネス構築段階における相談である以上、多少役割が異なる点はあるのかもしれませんが、残念ながら、現時点において、弁護士は十分な関与ができていないことを痛感いたしました。また、リーガルリスクの紹介においては、会員にとっては当たり前・自明なリスクであったとしても、創業者にとってはそうでないことも多数あり、創業段階から弁護士が関与し、サポートすることの重要性を改めて実感いたしました。

(3) 最後に、創業支援の実例の紹介においては、創業相談として、相談を持ち込まれることの多いテーマの説明がなされるとともに、相談実例をもとに、具体的にどのような事項をヒアリングし、アドバイスしていくのか、簡単に実例紹介がなされました。事業展開を検討することで見えてくるリーガルリスクもあることから、弁護士においても、ビジネスモデルや経済情勢等にアンテナを張っておく必要があると感じました。

3 おわりに

今回の研修は、18時から20時までの2時間だったのですが、初めから終わりまで終始各会員が熱心に臨んでおり、冒頭にも記載いたしましたが、「創業」に対する関心の高さを改めて感じました。

また、「創業」と一言で表現されたとしても、ビジネスの中身は様々であり、また、創業者ごとに準備のレベル(状況)やリスクの程度は、大きく異なるものと思います。国家的に「創業」が盛り上がっている中、トラブル等により失敗に陥る創業者を防ぎ、より多くの創業の成功への一助となるためにも、当センターとしては、各専門家との連携を深めつつ、早期の段階で創業にタッチし、多くの創業者のサポートを行えるよう、活動を続けてまいりたいと考えております。

公金の債権回収業務に関する法務研修(福岡開催)の実施報告 ~行政連携に関する新たな取り組みとして~

弁護士業務委員会 福山 聖(64期)

1 はじめに

平成30年1月26日(金)午前10時~午後5時、電気ビル共創館3階A会議室において、総務省行政管理局公共サービス改革推進室と当会が主催、日弁連が共催し、九州全域(沖縄を除く)の自治体職員を対象として、「公金の債権回収業務に関する法務研修」を実施しました。当日は、自治体職員106名、弁護士33名(他会含む)の方に参加いただきました。

公金債権は、強制徴収公債権(地方税等)のみならず、たとえば、母子父子寡婦福祉資金貸付金といった私債権等も含まれます。債権管理にあたっては、費用対効果という「効率性」の観点だけでなく、「公平性」・「平等性」等の観点や福祉的配慮等も考慮する必要があるという特徴も有しています。今回は、そのような債権の管理に関する本研修について、ご報告いたします。

2 研修について
(1) 総務省・各自治体・当会の取組報告等について

午前の部は、作間功会長の開会挨拶に始まり、総務省・福岡県・福岡市・中間市・当会の各公金債権回収業務に関する取組等について報告が行われました。各自治体の取り組みは、それぞれ工夫がなされており、たとえば、色付きの督促状を使用する等、私たちの業務でも参考になるものもありました。

当会の取組報告(報告者:当委員会森山大輔委員長)では、行政との連携メニュー(http://www.fben.jp/gyousei/)、任期付き公務員や当委員会の活動予定等について紹介がありました。

(2) 公金の債権回収に関する法令と実務(前編・後編)について

午後の部前半は、当委員会副委員長・日弁連自治体等連携センター委員の服部博之委員による2時間の講義が行われました。条文や裁判例集、資料を使用した講義は好況で、アンケートでは「全部参考になった」「もっと時間をかけて講義をしてほしかった」等、参加職員の9割以上から「参考になった」という結果をいただきました。

なお、当日の配布資料は、近日中に、総務省のホームページで公開予定ですので、ご覧いただけると幸いです。

(3) 意見交換会について

午後の部後半は、今回のメインイベントである意見交換会を1時間半、2会場に分かれ実施しました。意見交換会は、参加者が18グループに分かれ、各グループ6~8名の自治体職員に対し、弁護士が1~3名担当者として入り、自治体職員と弁護士(会)との間で、公金債権回収に関する自治体職員の日々の悩み等を共有し、交流することで、弁護士(会)との接点をもってもらう機会として実施しました。

参加職員、担当弁護士の双方から、充実した時間であったという感想を伺っており、当委員会では、公金債権管理に関する取り組みを始める良いきっかけになったのではないかと感じております。

3 懇親会について

同日午後5時30分からは、ビストロアトリにおいて、自治体職員の方も交え、懇親会を実施しました。自治体職員の方も14名出席され、研修に引き続き、交流を深める時間となりました。

4 最後に

今回、企画から実施までの約1年間、日弁連自治体等連携センター委員として、本研修を担当し、貴重な経験をさせていただくことができ、心から感謝しております。昨年4月、当委員会で、本研修について報告・提案をさせていただいてから、服部博之委員を研修責任者として、牟田遼介委員と共に本研修PTを組み、事前勉強会等を経て、研修実施に至るまでの間、甲斐田靖副会長、森山大輔委員長、当委員会の先生方、牟田哲朗先生や小野裕樹先生を筆頭とする当委員会外の先生方、他県の先生方、担当事務局の福井さんをはじめ、多くの方に、お力添えをいただきました。

そのお力添えのおかげで、無事に、盛況のうちに、本研修を終えることができました。参加者満足度の高い研修であったことは、アンケート結果からも明らかですが、研修終了後、自治体職員の方々から直接伺った感想や拝見した笑顔を通して、実感することもでき、貴重な体験となりました。

この場をお借りして、準備から実施まで、当方の至らぬ点多々あったことにつき、お詫び申し上げるとともに、多くの方にご協力いただけたこと、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

当委員会では、本研修をきっかけに、新たな取り組みの一つとして、公金債権管理に関する自治体職員向けのメール相談等検討しております。今後も、行政連携の分野においても、弁護士をもっと身近に感じてもらえるように、弁護士を活用してもらえるように、努めてまいりますので、よろしくお願い申し上げます。

シンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」報告

公害環境委員会委員 中藤 寛(59期)

本年1月20日、九州弁護士連合会及び福岡県弁護士会共催のシンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」が開催されました。大変興味深い内容でしたので、その概要をご報告いたします。

1 基調報告「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」

まず、当会公害環境委員会の埋田昇平先生より、「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」について基調報告が行なわれました。

日本の再生可能エネルギーの導入がヨーロッパ諸国に比べて大幅に遅れていること(日本6%、ドイツ24.5%、スペイン26.1%)、国内では都道府県別の再生可能エネルギーの導入比率(水力除く)で大分県が1位であること(40%弱)等が報告されました。

また、再生可能エネルギーについての弁護士会の取組として、福岡県弁護士会館及び北九州部会会館における新電力導入、北九州部会のエコアクション21認証取得などが紹介されました。

2 基調講演「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」

特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也様より、「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」と題する基調講演が行われました。主な内容は以下のとおりです。

(1) 再生可能エネルギーへの産業革命規模の大転換(破壊的変化)

デジタル技術の急速な進歩によって銀塩フィルムのカメラが短期間でほぼ100%デジタルカメラに置き換えられたように、世界では、化石(火力)・原子力の既存エネルギーから風力・太陽光などの再生可能エネルギーへの急速な転換(破壊的変化)が起きている。風力・太陽光発電、蓄電の技術革新がIT革命並のスピードで急激に進んでおり、風力・太陽光の発電コストが急速に低下しているからである。

このような急速なコスト低下により、全世界の発電量に占める割合が、風力発電は10年で10倍、太陽光発電は6年半で10倍に増えており、今後、そのスピードはさらに加速することが予測される。実際、現時点においても、世界的に見れば、風力・太陽光による発電量は、いずれも既に原発の発電量を超えている。

(2) 「ベースロード電源」から「フレキシビリティ」へ

風力・太陽光は、発電量が気象の影響を受けるため安定供給が課題とされ、原発や火力などの既存エネルギーが「ベースロード電源」として重視されてきた。しかし、風力・太陽光発電も、気象予報、水力等他の発電による調整、他地域との電力融通、需要側での調整、蓄電池の活用などの柔軟な需給調整(フレキシビリティ)によって、安定供給という課題は解消できる。

(3) 日本の現状

日本では、固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電が普及し、電力小売自由化も実現したが、以下の課題がある。

すなわち、土地利用規制や環境アセスメントがなく、地域参加が優遇されなかったために太陽光発電開発で事業者と地域の対立が深刻化しつつあること、送電線を独占する既存の電力会社が化石・原子力による「ベースロード電源」にこだわり、変動型電源である太陽光・風力発電について送電線への接続を忌避・抑制しつつあり、太陽光・風力の日本における市場が急激に縮小しつつあること、日本の太陽光発電は世界の水準と比較して未だ2~3倍の高コストであることなどである。

日本において再生可能エネルギーをさらに普及させるには、これらの課題の解決が必要であり、特に、送電線を道路と同様に公共財として競争主体から分離する完全な発送電分離、完全にオープンな市場の実現が不可欠である。

(4) 地域からのエネルギー・デモクラシー

既存の発電は大規模・中央独占型であるのに対し、太陽光・風力などの再生可能エネルギーは、必ずしも大規模な設備が必要ではなく、小規模・地域分散型である。いわばエネルギーの地産地消が可能であり、誰もが発電することが可能である。日本でも各地に小規模分散型のエネルギーシステムで自立を目指す「ご当地エネルギー」が次々と誕生している。

このような発電の担い手の広がり、多様さは、「エネルギー・デモクラシー」というべきものである。

3 パネルディスカッション「地域の力でなしうる取り組み」

パネリストを飯田所長、みやまスマートエネルギー株式会社(みやま市)代表取締役の磯部達様、大分県商工労働部工業推進課エネルギー政策班の渡辺康志様、コーディネーターを当会公害環境委員会委員長緒方剛先生として、パネルディスカッションが行われました。

(1) 大分県の施策

まず、渡辺様から、再生可能エネルギー導入比率全国一位の大分県における施策と実績、及び他の都道府県と異なり、太陽光・風力以外にも大分県特有の地域資源を活かした地熱・バイオマス・小水力など多様な発電方式を導入していることが報告されました。このような再生可能エネルギーの普及は、大分県のエコエネルギー導入促進条例を契機としたものであるとのことでした。

これについて、飯田所長より、地方自治体が条例によって再生可能エネルギー導入促進を図ると、それが他の自治体にも広がっていき、さらには国レベルでの施策につながっていくことから、県レベルでの施策が重要であるとの指摘がなされました。

(2) みやまスマートエネルギーの取組み

みやま市は、多くの地方自治体と同様、人口減少・高齢化による活力減退という問題を抱え、また、電気代として市外へ年間約40~50億円が流出していました。そこで、地域資源を活かし、地域で電力を作って地域で売ることで、安定した雇用を生み出すとともに、その収益を地域に還元する(子育て支援など生活支援に充てる)ため、みやま市が筆頭株主となり、地元企業に呼び掛けて、みやまスマートエネルギー株式会社が設立されました。

実績として、出資者に年間8%の配当ができており、また、大分県豊後大野市、同県竹田市などの自治体の再生可能エネルギー導入支援も行なっていることが報告されました。

再生可能エネルギーの課題である需給調整についてコーディネーターより質問がなされましたが、専門家ではない地域住民を雇用して需給調整を行なっているが、特に問題は生じていないとのことでした。

4 最後に

以上のように、コスト低下により、太陽光・風力を初めとする再生可能エネルギーは急速に普及しており、現在、同時進行しているグローバルなエネルギーの大転換は、大規模・集中・独占型から地域分散・ネットワーク型への移行という点に大きな特色があるようです。

飯田所長がこのような大転換を、「パワーエリート」から「民衆のパワー」へ、「核による戦争」「石油を巡る戦争」から「太陽による自立・平等・平和」へ、と表現していたのが非常に印象的でした。

広報関連委員会だより ~ライジングゼファー福岡とコラボしました!~

対外広報委員会委員・対外広報委員会戦略PT委員 南川 克博(67期)

1 はじめに

平成30年1月20日(土)、福岡市民体育館にて、プロバスケットボールリーグBリーグ2部(B2)のライジングゼファー福岡とコラボしたA5サイズカレンダーを1000部配布しました。

弁護士会とBリーグの(おそらく)全国初のコラボについて、僭越ながら、ご報告させていただきます。

2 コラボが実現するまで

これまで当会は、より弁護士会を身近に感じてもらうことを目的として、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスや、Jリーグのアビスパ福岡など、地元のプロスポーツチームとコラボした広報活動(グッズの配布)を行ってまいりました(詳細は月報547号、551号をご参照下さい)。

当会の公式twitterアカウント(@fben2016)でこれらの活動を報告したところ、「ライジングゼファー福岡とも是非コラボしませんか」という連絡(リプライ)をいただきました。その主は、ライジングゼファーの取締役も務められている、当会の八尋光良会員でした。中高バスケ部だった(今は面影ないですが・・・)私は、是非コラボできればと思い、ここからライジングゼファー福岡とのコラボプロジェクトが始動しました。

そして、冒頭にお話したように、チームの選手の写真と、弁護士会のロゴや電話番号、QRコード等が記載されたオリジナルのA5カレンダーを製作し、ホームでの試合の際に配布することとなりました。

3 試合当日

試合開始は18時ですが、熱烈なファン(ブースターといいます)の方は良い席を確保するため15時から入場するとのことでしたので、我々弁護士会有志も15時から配布を行い、無事試合前に目標の1000部を配布することができました。2時間以上立ちっぱなしでの配布でしたが、手に取って喜んでくれるブースターの皆様の様子を見て、(少なくとも私の)疲れは吹き飛びました。ちなみに、配布にご参加いただいた某先生は、年間シートをお持ち(しかも2席!)の熱狂的なブースターで、会場スタッフの方とも気さくにお話をされており、私は憧憬の念を禁じ得ませんでした。ご協力いただいた先生方、本当にありがとうございます!

カレンダー配布については当会の公式twitter(@fben2016)でも事前告知・当日の実況を行っておりましたが、チームの公式twitterでも告知していただいたこともあり、ネット上の反応も上々でした。試合後の報告ツイートに対して、一般のブースターの方から「今日は観戦できなかったけれど、貰った方は嬉しかったと思います。」という連絡をいただき、とても嬉しかったです。

試合も西地区1位の力を見せ、福岡が奈良に快勝しました。

4 さいごに

今後も、対外広報委員会は、地域の皆様にとって弁護士会が身近な存在になるように、様々な形で情報発信を行って参ります。会員の皆様におかれましては、所属される委員会のイベントや情報について、我々がよりよい形での広報のご提案やご協力をさせていただきますので、ぜひ対外広報委員会及び対外広報戦略PTをご活用ください。

2018年2月 1日

あさかぜ基金だより

会員 小林 洋介(70期)

自己紹介

このたび、あさかぜ基金法律事務所へ入所しました、所員弁護士の小林洋介です。私は、長崎県佐世保市で生まれ、高校までを過ごしました。長崎は、大小様々な島があるとともに、大村湾で東西が分断される地理的特徴があり、加えて、北は平戸、南は島原半島が突き出る形となっていて、県内各所の交通アクセスが非常に不便な県でもあります。

長崎県には、長崎市と佐世保市が中核市としてありますが、私が住んでいた当時、佐世保には中心市街地にわずかに弁護士がいるというくらいで、身近な存在ではありませんでした。

私は母子家庭で育ちました。母子3人で古アパートに住んでいましたが、ある日、退去要請通知が送られてきました。アパートを壊すから出て行ってくれというものでしたが、母の収入だけで家計を支える家庭にとって、新しく住む場所を探し、引っ越しをするということは、経済的にも時間的にも容易なことではありません。しかし、無知とは酷なもので、私たち一家が正当事由や立退料など知るはずがありません。むしろ、貸主から出て行けといわれれば出て行かなければならないのが当然という認識です。母は、仕事をしながら家を探したり引っ越し準備をしたり、時間的にも経済的にも大変だったと思います。そのため、とうとう体調を崩してしまいました。

法律家へのアクセスが容易でない地域では、法の支配は後退し、人治による紛争解決が横行します。ひとたび紛争が生じると、当事者の社会的力関係がそのまま反映されてしまい、力のあるものが有利な立場に立ち、弱いものが不利な立場に立たされるという、まさに、強いものが勝つ世界です。

私はこのような経験から、弁護士が身近にいることの重要性を身をもって感じるようになりました。弁護士の存在を必要とする地域がまだまだあり、弁護士が近くにいるだけで救われる人々が必ずいる。そういう人々のために仕事をしたいとの思いから、司法過疎地域への赴任を考えるようになりました。就職活動も、法テラスと公設事務所に絞り、最終的には自分が生まれ育った九州の地で貢献していきたいとの思いから、あさかぜ基金法律事務所への入所を決めました。将来の赴任先はまだ分かりませんが、故郷である長崎に貢献できる日が来ればありがたいなという思いを抱きつつ、あさかぜで弁護士としての第一歩を歩み始めたところです。

あさかぜ基金法律事務所の紹介

あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域へ派遣する弁護士を養成するために設立された都市型公設事務所です。所員弁護士は、2、3年の養成期間を経たあと、九弁連管内の司法過疎地域に赴任することになります。2017年1月には、中田弁護士が壱岐ひまわり基金法律事務所へ、河野弁護士が島原中央ひまわり基金法律事務所へ赴任したのに加え、2018年春からは若林弁護士が対馬へ赴任することが決まっています。当事務所は2008年の設立以来、九州各地の司法過疎地域へ弁護士を派遣していますが、派遣弁護士の定着により公設事務所としての役目を終える事務所も増えてきているなど、司法過疎の解消に着実に成果をあげています。

当事務所では、債務整理、家事事件、国選弁護事件を多く扱っています。また、法テラスの利用が多いのも当事務所の特徴といえます。生活保護受給者については、法テラスの立替金が免除になる場合もあり、そのことを説明するとほっとした表情を浮かべて依頼者の方は帰って行かれます。このような依頼者の姿を見るにつけ、法律扶助制度の果たす役割の重要さを感じます。

入所後の抱負

弁護士数が少ない過疎地域では、都市部と異なり数ある中から弁護士を選ぶことができません。地域の人々の法的権利が守られるかどうかは、赴任した弁護士の力量にかかっているところも大きいと思います。養成期間を過ごすにあたっては、このことを肝に銘じ、真摯に誠実にひとつひとつの事件にあたるとともに、日々研鑽を積んでいきたいと考えています。

また、あさかぜ基金法律事務所は、九弁連や福岡県弁護士会会員の支援をはじめ、あさかぜ出身弁護士のこれまでの尽力により支えられている事務所です。これまで受け継がれてきたバトンをしっかりと受け取り、引き継いでいけるよう努めていきますので、引き続きのご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。

弁護士知財ネット 九州・沖縄地域会主催 知的財産を活用した高付加価値農林水産物の開発と展開セミナー(第2回)~農林水産知財の横断的解説と活用例の分析~@福岡

弁護士知財ネット九州沖縄地域会事務局 網谷 拓(63期)

平成29年12月20日、弁護士知財ネット九州沖縄地域会主催、知的財産を活用した高付加価値農林水産物の開発と展開セミナーを、特別後援をいただいた株式会社NCBリサーチ&コンサルティング様のセミナールームにて開催しました。

当日は、約50名の方にご参加いただきました。

司会は松本幸太先生が務め、まず、弁護士知財ネット九州沖縄地域会幹事の柴田耕太郎先生から挨拶がありました。

その後、基調講演として、九州経済産業局地域経済部知的財産室室長の横田之俊様から「農水知財制度の解説」を、沖縄で活躍されている弁理士の大久保秀人先生から「農水知財取得・活用の実務」を、有限会社緑の農園専務取締役の早瀬憲一様から「農水知財活用企業の実例報告「つまんでご卵®」」を、それぞれお話しいただきました。

横田様からは、農林水産分野においても知的財産が関係すること、このことを踏まえ、知的財産を意識した取り組みが重要であることをご説明いただきました。

また、知的財産に関係したトラブル事例の紹介とトラブル対策として、どのような措置を講じるべきか、また、国として、どのような支援を行っているかについて、説明、紹介をいただきました。

次に大久保先生からは、商標法による権利保護、種苗法による権利保護の違い、それぞれの権利取得までに要する時間が異なるために生じる問題等について解説いただきました(「商標追い越し問題」等。農林水産省でも重要論点として解説しておりますので、気になる方は農林水産省のHPをご参照ください。)。

また、平成27年6月1日から施行された特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)に基づく地理的表示保護制度(GI)についての説明もいただきました。

大久保先生は、GIの登録申請をサポートするGIサポートデスクのアドバイザーを務めており、実務家として、日々の業務の中で感じる問題点について聞けて勉強になりました。

早瀬様からは、つまんでご卵のこれまでの歴史(「早瀬さんの美味しい卵」から「つまんでご卵」になるまでの歴史)、どのようにして卵を生産しているのかについて、お話いただきました。つまんでご卵は、「にわとりの幸せ」を追求した飼育方法で生産されているそうです。

一度、糸島に行かれる際は、つまんでご卵直売店に行かれてみてはいかがでしょうか。

その後、弁護士知財ネット九州・沖縄地域会幹事である田中雅敏先生をモデレーターとして、基調講演にてお話しいただいた方々で、パネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、活発な議論がなされました。例えば、海外進出を念頭に、どこの国に進出するのか、どこの国で、どの程度権利を取得し、ブランドを保護するのか、ブランド戦略について意見交換がなされました。

また、他方で、権利取得を目指すよりも、営業秘密として情報を秘匿しておくべきではないかといった議論もなされました。

この議論にて、農林水産事業について、いずれ海外進出を念頭に事業を行う必要があること、その進出にあたり、国も、弁理士、弁護士等の専門家も支援していくこと、その体制を整えていかなければならないことが確認されました(と私は感じました)。

来年度も、このような機会を提供できればと思いました。

筑後地区ジュニアロースクール2017 −アリとキリギリスを題材とした主権者教育−

日弁連市民のための法教育委員会委員
県弁法教育委員会委員・筑後部会法教育委員会委員
廣津 洋吉(60期)

1 はじめに

平成29年12月2日、筑後弁護士会館において、福岡県弁護士会主催、九州弁護士会連合会共催、福岡県教育委員会・久留米市教育委員会後援の下、筑後地区ジュニアロースクール2017が開催されました。参加者は7名(高1女子1名、中3男子1名、中2男子1名、中1男子1名、中1女子3名)と若干少なめではありましたが、以下のとおり充実した討論と発表が行われました。

開講の冒頭において、参加者の緊張をほぐしてもらい、また法曹への興味や理解を深めてもらうべく、法曹三者のバッチに関するクイズが出されました。テレビドラマなどの影響もあり、やはり弁護士バッチの認知度は高いものがありました。それぞれのバッチに込められた意味の説明にも興味をもって聞いてもらうことができました。

2 今回のテーマはアリとキリギリスを題材とした主権者教育

今回のジュニアロースクールにおいては、アリとキリギリスを題材として、団体での食料の分け方を巡る、ものの考え方・決め方(民主主義の仕組み、少数者への配慮)について学んでもらう主権者教育を実施しました。

筑後部会においては、例年、刑事模擬裁判をテーマとしてきましたが、18歳選挙権の実施により主権者教育が盛り上がっていること、高等学校における新しい学習指導要領において「公共」が必須科目となり、その中で、自立した主体として国家・社会の形成に参画し、他者と協働することが求められているなど主権者教育が重視されていることなどから、趣向を変え、主権者教育に取り組むことにしました。

今回の題材であるアリとキリギリスのあらすじは、「ある冬の日、アリの群れに空腹のキリギリスが食料を恵んで欲しいとやってきた。キリギリスをかわいそうに思った女王アリが食料を分け与えることを他のアリたちに命じたところ、他のアリたち(働きアリ2匹、兵隊アリ1匹、老人のアリ1匹、病気のアリ1匹)から反発が出た。」というもので、女王アリが食料全てをキリギリスに与えることを一人で決めることの是非(テーマ1)、アリたちで食料の分け方を決める場合の適当な決め方(テーマ2)、多数決で決める場合のあるべき参加者(テーマ3)、病気のアリに分ける食料を少なくすることが多数決で決まった場合の問題点(テーマ4)、多数決で決めて欲しくないもの(テーマ5)について、福井弁護士会法教育委員会作成の寸劇DVDを鑑賞の上、討論と発表を行ってもらいました。

3 充実した討論と発表

まず、テーマ1の、「女王アリが食料全てをキリギリスに与えることを一人で決めることの是非」については、独裁制と民主制の違い、すなわち、集団で物事を決める際にはメンバー全員の利益を確保するため、一部の者が独断で決めるのではなく、全員で決める必要があることについて考えてもらうものでしたが、参加者からは、「女王アリとしてはキリギリスを助けるために良いことをしているので問題ない」という結果を重視する意見や、「働きアリの立場に立つと理不尽」という食料確保者の立場に立った納得し得る意見、「食料はアリみんなのものだから女王アリが一人で決めるのは問題」というみんなのことはみんなで決めるべきという民主主義の発想に基づいた意見、「女王アリが決めるのではなく話し合いの場を設けるべき」という話し合いを重視する意見などが出ました。テーマ1の最後に、筑後部会法教育委員会委員長である吉田星一先生より、前記趣旨説明の他、女王アリが選挙で選ばれたのか、血筋で選ばれたのかによっても考え方が変わり得るなどの講評がなされました。

次に、テーマ2の、「アリたちで決める場合の適当な決め方」については、じゃんけん、話し合い、全員一致、多数決など様々な決め方があること、そのメリットデメリット、全員一致とならない場合の次善の策として多数決があることについて考えてもらうものでしたが、参加者からは、「食料を集めることができる力の強い者が決めるべき」「年寄りは経験豊富だから年寄りが決めるべき」などの意見が出た他、「働きアリ、老人のアリ、病気のアリなどの利益代表を出して多数決を採るべき」などの高度な意見も出ました。テーマ2の講評では、利益代表という考え方は政党の考えにつながるとの説明などがなされました。

また、テーマ3の、「多数決で決める場合のあるべき参加者」については、女王アリ、働きアリ、兵隊アリ、老人のアリ、病気のアリの中で多数決に参加すべき者を全て挙げさせ、その理由を問うものでした。参加者からは、「食料を取ってきた働きアリと兵隊アリが多数決に参加すべき」という意見が出たのに対して、「老人のアリも若い時は働いていたのだし、病気のアリも元気な時は働いていたのだから、老人のアリと病気のアリも多数決に参加すべき」という意見も出ました。また、「食料は全員で食べるのだから全員参加すべき」という意見も出ました。このテーマは、主権者、有権者の範囲や普通選挙・制限選挙について考えてもらうものであり、きちんと整理しようとすると難しいところもありますが、参加者は前述のとおり、当年の食料確保の功績を重視したり、食料確保は当年に限らず過去、未来においてもなされることを重視したり、食料の分け方は全員の問題であることを重視したりするなどして、様々な意見を理由とともに発表してくれました。テーマ3の講評では、女王アリが多数決に参加すべきか否かに関して、天皇には選挙権がないが総理大臣には選挙権があるということが紹介され、多数決に参加すべき者を考えるにあたって、参加者にとっての新たな視点が提示されました。

また、テーマ4の、「病気のアリに分ける食料を少なくすることが多数決で決まった場合の問題点」については、多数決により切り捨てられる少数者の保護、多数決にも限界があり個人の自由を優先させるべきことがあることについて考えてもらうものでした。参加者からは「多数決をするにしてもみんなの意見をきちんと聞いた上でするべき」、「多数決では少数意見が通らないので多数決で決められないこともあるはず」、「病気のアリが少ない食料しか分けてもらえていないのは平等ではないので問題だ」という意見が出るなど、多数決の問題点について人権・平等の観点から深く考えてもらうことができました。

また、テーマ5の、「多数決で決めて欲しくないもの」については、多数決でも侵害することができない人権について考えてもらうものでした。参加者からは「自分の住むところ」「自分の仕事」「自分のライフスタイル」「自分の髪型」「病気の人の扱い方、待遇」などの意見が出ました。「病気の人の扱い方、待遇」という意見は、テーマ4の少数者の保護を意識したものとなっていました。テーマ5の講評において、憲法には多数決のやり方(憲法56条等)や、多数決では奪ってはいけない人権について書かれていること、「自分の住むところ」、「自分の仕事」については憲法22条、「自分のライフスタイル」、「自分の髪型」については憲法13条に規定があることなどの説明がありました。

4 アンケート結果

アンケート結果においては、すべての参加者が「おもしろかった」と回答するなど高評価を得ました。また、難易度については「難しかった」「やや難しかった」とする者が多く、多数決や人権というテーマが刑事模擬裁判などと比べるとなじみが薄いことが影響したものと思われました。ただそれでも、「多数決についていろいろ考えさせられた」「多数決で決めていいこととダメなことがあることが分かった」など今回のテーマを評価する感想が多数寄せられており、主権者教育についての有意義なイベントとなったのではないかと思われます。

5 最後に

今後の課題として、参加者増加とそのための広報、テーマ選定(主権者教育か刑事模擬裁判かその他か)、寸劇実演などがありますが、次回も有意義なジュニアロースクールとすべく委員会での検討を進めていきたいと思います。また、本年10月に久留米で開催される九弁連大会のシンポジウムのテーマが主権者教育ですので、今回のジュニアロースクールの成果を当該シンポジウムに活かし、より充実したシンポジウムにしていけたらと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

憲法・自衛隊勉強会のご報告とご案内

憲法委員会 副委員長 迫田 登紀子(53期)

1 自衛隊加憲論への論議が始まります

2017年5月3日の憲法記念日、読売新聞の朝刊1面に「憲法改正20年施行目標」の見出しで、安倍総理大臣のインタビュー記事が掲載されました。この中で、東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年を目標に、憲法9条に自衛隊の根拠規定を設けるなどの改正を行いたいとの考えが示されました。

この方向性に対して、弁護士会はどのような声を上げるべきでしょうか。日弁連からの資料(「憲法改正問題に関する会内討議資料」)を基に、来年度から、福岡県弁護士会においても、積極的な論議を始める予定です。「憲法改正問題に関する会内討議資料」は、会員専用ページからダウンロードできるようになっておりますので、会員の皆様におかれましては、ぜひ、ご一読いただきますようにお願い申しあげます。

2 津留雅昭弁護士勉強会のご報告
(1) 勉強会の概要

議論を始める前提として、自衛隊の現実について、改めて勉強しましょう。ということで、去る11月17日、福岡県弁護士会きっての軍事専門家(?)、津留雅昭弁護士を講師にお迎えして勉強会を行いました。会員及び市民50名ほどが参加しました。

(2) 自衛隊のこと、どれほどご存知でしょうか

正直に告白します。私は、オスプレイって航空自衛隊のものとばかり思っていました。佐賀空港に配備計画があるオスプレイって、陸上自衛隊のものだったんですね。

皆さんは、自衛隊のことをどの程度、ご存知でしょうか。以下は、講演内容を題材としたクイズです(答えは末尾)。

  1. 防衛省の平成30年度概算要求には、「統合機動防衛力」という考え方が出てくる。「概算要求」にこの考え方が出てくるのはいつから?
  2. 民主党政権時の防衛費は年間いくら?
  3. 平成30年度の防衛費の概算要求額は?
  4. 防衛費の2大要素は?
  5. 兵器の価格に自由競争原理は働くか?
  6. 兵器は一度買えば、使えなくなるまでは安泰?
  7. 諸外国も防衛費は増額の方向にある?
  8. 自衛隊が存在しない都道府県はあるか?
  9. アメリカの軍隊は、陸軍、海軍、空軍ともう一つは何?
  10. 今年スタートする「日本版海兵隊」は、3つの自衛隊のうち、どれに所属?
(3) 安保法制の現実と「日本の歴史に学べ」

以上は、ほんのさわりの部分にすぎませんが、本当に自分は何も知らないのだなと思い知らされました。

何より、これまでの自衛隊は、それぞれの部隊がばらばらに活動するという体制だったのが、統合化が図られてきている、アメリカとの合同練習も始まっているという現状に、安保法制の重み・現実を突きつけられた思いがしました。

津留先生からは「日本の歴史に学べ」という話もありました。制裁で苦しんだのがかつての日本。それを突破するために戦争に突き進み、その結果がどうなったのか。北朝鮮に対して、日本こそがなすべきは、かつて同じような状況で苦しんだ日本がどのように歩んだのか、戻れるならば何をすべきだったのかを教えることではないのか。皆さんは、どのようにお考えでしょうか。

3 井上正信弁護士勉強会のご案内

冒頭にご紹介した「憲法改正問題に関する会内討議資料」を基に、会内議論を活発化するために、第二弾の勉強会を開催します。

題して"自民党の「加憲」案を考える"

来る3月2日18時(パインビル2階)から、講師は、広島弁護士会の井上正信弁護士(27期 日弁連憲法委員会副委員長 同秘密保護法対策本部副本部長)です。

ぜひ、多くの会員のご参加をお待ちしております。

4 クイズの答え
  1. 27年度から 2014(平成26)年7月1日の解釈改憲のあとから
  2. 4兆6000億円~7000億円程度
  3. 5兆2000億円(SACO関係経費、米軍再編関係経費の一部等も含む)
  4. ⅰ)人件・糧食費(2兆1000億円程度)と、ⅱ)物件費(装備・兵器購入、維持費等)(2兆8000億円程度)。ⅱのうち、29年までの契約に基づき30年に支払われる金額(歳出化経費)が1兆8000億円程度、30年の契約に基づき30年に支払われる金額(一般物件費)が1兆円程度。
  5. 売り手であるアメリカ企業の言い値なので、働くわけがない。
  6. 修理代や、システムのバージョンアップに莫大な費用がかかる。
    例えば、新型戦闘機F35・約50機の本体価格は約7000~8000億円の見込みですが、30年以上とされる運用期間中のランニングコストは2兆円を超えるそうです。
  7. NO
  8. ありません。全都道府県にあります。なお、奈良県には陸上自衛隊はありません。
  9. 海兵隊
  10. 陸上自衛隊

中小企業法律支援センター企画「事業承継における会計と税務」

中小企業法律支援センター委員 井川原 有香(69期)

1 はじめに

平成29年12月4日(月)、福岡県弁護士会館において、公認会計士・税理士の内田健二先生に「事業承継における会計と税務」というテーマのもとご講演いただきました。本講演は、中小企業の相談を受ける際に必要な知識や情報の提供・共有を目的に、中小企業法律支援センターが企画・実施する研修の一つでもあります。

2 概要

内田先生には、(1)事業承継のタイプ、(2)事業承継手法の選び方、(3)事業承継に向けての事前準備、(4)事業承継に際して生じる税金、(5)事業承継に関する節税論点、(6)特徴的な事業承継事例という6つの柱に分けて、ご経験を交えながらお話していただきました。

3 事業承継スキームの策定

(1)に関しては、親族内承継、親族外承継、M&A、株式上場といったタイプ別に分類した上で、それぞれのメリット・デメリットをご教示いただきました。その上で(2)として、そもそも利益を出せているのか・先行きは明るいのかという議論の前提ともいえる問題点(=事業承継ではなく清算や破産を検討すべきではないのか)、有能な後継者がいるのかという現実的な問題点、そして経営者の心情と実際の事業状況とにギャップがある場合の問題点等着目すべき事項を数多く挙げていただきました。得意先・協力業者の安定、特色ある技術の保持、安定的かつ長期的な利益を生みだす見込みがある等の理由から実際にはM&Aを検討するようなケースでも、当初から選択肢に含めない経営者の方もいらっしゃるとのことでした。

(3)に関連した情報として、福岡県事業引継ぎ支援センターについてお話しいただきました。同センターのホームページには、平成29年12月21日時点で、事業の譲渡希望が191件、譲受け希望は213件が登録されており、事業承継のサポートの需要が高いことを改めて感じました。

また、(3)の具体的な内容としては、親族内承継における暦年贈与非課税枠の活用のみならず内部統制の整備のあり方(経理部門の充実、経営企画部門、監査部門の創設、月次試算の適時報告、分析、予算管理)についても具体的にお教えいただきました。M&Aの場面では、過度な節税をするのではなく利益決算を組むことで印象が良くなり、結果的に譲渡金額も上がるとのことでした。そのほか上場の場合には、監査報告書の準備との関係で少なくとも上場の3期前から準備を開始すること、また上場準備コストや専門的な経理スタッフの人件費、監査報酬等を考慮すると年間2000~3000万円の負担が生じるという具体的数値も示していただきました。

4 事業承継と税金

(4)と(5)に関しては、まず大原則として、節税に注力し過ぎてその他の大切なこと(持続的な利益の作出)を見失ってはいけないと仰っていました。この点につき留意した上ではありますが、節税のために会社のサイズ指標を上げて評価額低減を目指す場合には合併は避けるべきということや(合併して業種に変更が生じると類似業種比準方式自体が採用されない可能性があるため)、相続税や遺留分の問題が生じた場合でキャッシュ資産の確保も不十分なときは経営者貸付や種類株式発行なども早めに視野に入れるといったご指摘がありました。なお、M&A等で生じる譲渡所得税については、売却益を算定する計算上節税の論点になるところがほぼないため、本講演では主に相続税に関する節税論点をご教示いただきました。

5 最後に

円滑な事業承継を進めるにあたっては、会計・税務に関する知識が必要不可欠ですが、本講演において初めて知ることも多くあり、非常に貴重な機会となりました。引続き中小企業を取り巻く問題にアンテナを張り、支援の一助となる活動ができたらと思います。

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