福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2019年4月 1日

あさかぜ基金だより ~弁護士過疎地における事務所開設披露,及び壱岐ひまわり基金法律事務所引継式に出席して~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所
社員弁護士 田中 秀憲(69期)


昨年12月31日まであさかぜで勤務していた服部晴彦・古賀祥多の両弁護士が弁護士過疎偏在地域に,それぞれ赴任,開業しました。その事務所の開設披露(平成31年3月2日)と引継式(平成31年2月12日)に出席してきましたので報告します。

佐賀県みやき町での事務所開設披露
みやき町での初めての法律事務所

佐賀県三養基郡みやき町は,人口が2万5000人の町で佐賀県東部に位置し,鳥栖市,吉野ヶ里町などに隣接するほか,福岡県久留米市とも筑後川を県境として接しています。服部弁護士は故郷のみやき町で,日弁連の過疎偏在対策解消支援制度を利用して,「みやき法律事務所」を開設しました。服部弁護士がみやき町で事務所を開設するまで,同町は,弁護士が存在しない偏在解消対策地区でしたが,服部弁護士が事務所を開設したことによって弁護士の偏在が解消されました。

事務所訪問

みやき町は西鉄久留米駅からバスで30分ほどのところにあります。西鉄久留米駅周辺には商店が軒を連ねていますが,みやき町に向かうにつれ,次第にその数が減り,かわりに,田畑やビニールハウスなどの,のどかな田園風景が広がってきました。

事務所最寄りのバス停で降り,幹線道路から住宅地へと入っていくと,みやき法律事務所が見えてきて,服部弁護士が出迎えてくれました。事務所内に案内され,事務所のレイアウトや什器備品類等を見学しつつ,事務所を開設するうえでの苦労話やこれからのみやき町での弁護士としての活動の抱負を聞かせてもらいました。弁護士のいない地域で新しく事務所を開設し,弁護士過疎偏在問題を解消しようとしている服部弁護士の姿を見て,私自身の赴任という,そう遠くない将来の自分に照らし合わされ身が引き締まる思いがしました。

壱岐ひまわり基金法律事務所の引継式
壱岐ひまわり基金法律事務所

壱岐市は,人口2万7000人,面積139平方キロメートル,福岡市から北西80キロに位置し,高速船で1時間です。海産物が豊富で,稲作も盛んです。

壱岐ひまわり基金法律事務所は,平成22年に開設され,梶永圭弁護士が初代所長に就任し,以降は,あさかぜのOBである,松坂典洋,島内崇,中田昌夫の三弁護士が所長を代々引継ぎ,このたび古賀祥多弁護士が中田弁護士から所長を引き継ぐこととなりました。

引継式

引継式では,中田弁護士の話が印象的でした。それは,もう少し早く相談してくれればよかったという案件があり,弁護士に相談することが住民にとってまだ敷居が高いことを実感したというものでした。住民の方がどんな理由から弁護士に相談ができないのか,はいろいろな事情・背景があって簡単には解消されない問題だとは思いますが,弁護士過疎地域で活動することの難しさを感じました。

このような中田弁護士の話を受けて,古賀弁護士が,ちょっとしたことでもいいから大ごとになる前に相談してもらえる事務所にするために,とにかく相談をすることの重要性を住民の方にも分かりやすいように説明していきたい,と決意を表明しました。それを聞いて,弁護士として相談が来るのを待つだけではなく,自ら出向いてでも住民の方の話に耳を傾けることが大事なんだと考えさせられました。

披露会

続く披露会では,壱岐の行政や裁判所,そして,公設事務所の設営・運営等に関わる関係者がたくさん出席され,中田弁護士がこれまで積みあげてきた信頼や古賀弁護士に対する期待の大きさを実感しました。

披露会では,地元壱岐で漁れた海の幸などがふんだんに振る舞われ,脂ののった刺身を大変美味しくいただき,大満足でした。

公設事務所支援委員会

披露会のあと,長崎県弁護士会による公設事務所支援委員会が開かれ,あさかぜ所員も委員会の一部に出席することができました。委員会では長崎県内のひまわり基金法律事務所における事件処理や運営状況の報告などが行われ,壱岐ひまわり基金法律事務所が長崎県弁護士会の強力なバックアップのもとに運営されていることを実感しました。経験年数が浅い弁護士でも事務所を運営するにあたっての悩みや問題点などを相談できる場が設けられていることを知り,赴任したときの不安がいくらか解消し,少しだけほっとした思いでした。

これからもがんばります

退所するまで一緒に活動していた先輩弁護士が,独立開業・赴任するのを見たのは今回が初めてでした。このような経験ができ,私も新天地に赴任したときにはしっかり弁護士としての職責をまっとうしたという思いを強くしました。残りの養成期間,赴任に向けてしっかりと研鑽を積んでいきますので,引き続きのご支援・ご指導をよろしくお願いします。

2018年12月 1日

「来たれ、リーガル女子!」~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~

両性の平等に関する委員会 石田 淳(62期)

1 はじめに

平成30年(2018年)11月3日、西南学院大学法科大学院棟にて、内閣府・男女共同参画推進連携会議・日弁連・九弁連・当会主催の、学生・保護者・教員向けシンポジウム「来たれ、リーガル女子!」~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~が開催されましたので、ご報告いたします。このシンポジウムは、内閣府の男女共同参画推進事業の一環と位置付けられ、一昨年は、東京(早稲田大学法科大学院)で、昨年は大阪(大阪大学法科大学院)で、同様のシンポジウムが開催され、本年度は福岡にて九州初開催となりました。新聞の他、当日はテレビカメラ取材が入るなど、マスメディアの関心も高いイベントとなりました。また、このシンポジウムの基調講演及びパネルディスカッションは鹿児島大学、琉球大学にも中継され、それぞれの会場にも学生・保護者・教員が多数参加していたようです。

2 当日の状況

当日は、女子中高生・その保護者・教員等約100名が参加する盛況でした。「来たれ、リーガル女子!」という標題に表れているとおり、女子中学生・女子高校生をターゲットにしたシンポジウムではありますが、男子学生も参加可能でしたので男子学生も数名参加し、また、少数ながら小学生や大学の法学部生の参加(傍聴)もあり、関心の高さがうかがわれました。

第1部の基調講演(講師と聞き手の対談形式)では、講師の原田直子先生から「弁護士になって良かった!」とのタイトルで、ご自身の経験を踏まえ、弁護士になって良かったと感じたときのことや、法律家、特に弁護士になることを勧める理由などについてお話いただきました。福岡セクハラ訴訟で時代を切り開いた原田先生の目から見た、現在の我が国のセクハラ問題など、世間の関心の高い話題も多く、中学生・高校生にわかりやすかったのではないかと思います。

第2部のパネルディスカッションでは、弁護士、裁判官、検察官それぞれ1名ずつのパネリストが、職業選択の動機や、やりがい等を、お互いの職業と対比しながら説明しました。法曹が題材となったテレビドラマと実際との違い、たとえば、テレビドラマのように、法律家が1つの事件だけを1日中扱っているようなことは実際にはないといった話もあって、中学生・高校生の興味を引いたのではないかと思います。

第3部のグループセッションでは、中学生・高校生に6~8名程度ずつの、「民事・家事」、「刑事」、「国際関係」、「企業法務・組織内弁護士」、「憲法・人権」というテーマを設定した小グループに、概ね中学生・高校生の希望に沿って分かれていただき、各グループごとに、弁護士、裁判官、検察官の2名ないし3名からなる登壇者が仕事内容の紹介等をし、中学生・高校生が質疑応答できる時間を設けました。登壇者の話を熱心に聞き取り、メモを取る学生のほか、主体的に質問や発言をする学生の姿もありました。弁護士はドラマのように検察官とバチバチやっているのかとか、結婚相手は同業者が多いのかといった質問もあったようです。中学生・高校生は、将来の進路のために今何をすべきなのかという問題意識が高かったようです。

中学生・高校生がグループセッションを行っている間、保護者・教員向けに、宇加治副会長が裁判官、検察官のパネリストを交え、「法曹という職業選択について」と題する法科大学院、法曹としての就職等に関するガイダンスを行いました。中学生・高校生に負けず劣らず、保護者・教員が熱心に聞き入っていました。

3 所感

私は、両性の平等に関する委員会、法教育委員会、法科大学院運営協力委員会、対外広報委員会のメンバーからなる本シンポジウムの当会における実行委員会のメンバーとして、本年7月から準備業務に携わるとともに、第1部の基調講演の聞き手弁護士として登壇もさせていただきました。シンポジウム当日、中学生・高校生の前に座り、また、後ろから傍聴した者としては、法曹に関心を持ち、来場した中学生・高校生の真剣な眼差しや、登壇者の発言をメモに取る熱心さに驚かされました。また、学生同士の「面白かったね」との感想の会話が漏れ聞こえたという報告に接し、大変嬉しく思いました。同時に、中学生・高校生の関心、質問、発言を引き出すためにコーディネートする登壇者の必要性、重要性も認識し、この点においては学生向けイベントを定例的に実施している法教育委員会のメンバーの知見が大いに役立ったと感じています。

法曹人口における女性割合の拡大のため、また、法曹を目指す意欲ある学生の確保のために、このようなシンポジウムを開催し続け、かつ、開催していることを広く知ってもらうための広報活動が重要であることを改めて認識した次第です。

第61回人権擁護大会シンポジウム「組織犯罪からの被害回復」~特殊詐欺事犯の違法収益を被害者の手に~のご報告

民事介入暴力対策委員会副委員長 天久 泰(59期)

はじめに

日弁連民事介入暴力対策委員会が中心となって、第61回人権擁護大会(10月4、5日。青森市)において、特殊詐欺事犯に関する被害の防止、回復等を目指す大会決議について承認を得ることができました。本稿では、大会前日のシンポジウム(4部構成)の内容を中心にご報告します。なお、このシンポジウムに先立ち、本年7月28日には、北九州市において、「特殊詐欺事案の被害回復の現状とその課題」をテーマに、日本弁護士連合会及び九州弁護士会連合会と共催のもとプレシンポジウムが開催されています。

1 第1部「特殊詐欺被害の実態」

「特殊詐欺」とは、面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込みその他の方法により現金等を騙し取る詐欺をいい、オレオレ詐欺、架空請求詐欺に代表される振り込め詐欺、振り込め詐欺以外の特殊詐欺(金融商品等取引名目の特殊詐欺等)を総称したものです。2017年の「特殊詐欺」の認知件数は、1万8212件、被害総額は約394.7億円に上り、一向に減少の兆しが見えません。

第1部では、特殊詐欺被害者の被害実態に詳しい辰野文理教授(国士舘大学法学部)による基調講演を含む、パネルディスカッションが行われました。

その中では、特殊詐欺の手口も電子マネー型、収納代行利用型の手口が急速に増えつつあり、特殊詐欺を敢行する犯罪組織が、民間企業が社会に提供するサービスやツールを利用して、その利益の最大化を図っていることが報告されました。近年では、暴力団の特殊詐欺への関与が深まっている実態があり、2017年における検挙被疑者に占める暴力団構成員等の割合は約25.2%となっています。

実際に被害を受けた被害者のインタビュー映像も流されました。老後の資金として貯めた多額の現金を詐取された事例では、資金を失った喪失感とともに、加害者の言葉を信用した自らの落ち度を責め、心身に失調を来たしたり、自殺を図ることを考えたりする事態に追い込まれていることも報告されました(特殊詐欺件数1万3196件のうち、65才以上の割合は72.5%)。このような被害実態からは、他人に被害を打ち明けられず、一人で抱え込む傾向にあること、被害者の主体的な申告を期待するのではなく、事前予防こそが重要であるという意見が示されました。

2 第2部「特殊詐欺に対する行政・民間企業の各種取組」

被害者対策、通信手段対策について、行政・民間企業の取り組みに関する報告がありました。

通信手段については、IP電話の転送機能や転送電話サービスを悪用するなど、犯罪組織の手口は更に進化しており、必要十分な対策が講じられているとは言い難いようです。

その他、民間企業が提供するサービスやツールを犯罪組織に入手・利用させないことによって特殊詐欺による被害を未然に防止するよう自主的な取組の推進や、民間企業同士で特殊詐欺の手口や、これに対する有効な対応策及び取組事例について情報共有する仕組みなどの紹介がありました。

3 第3部「特殊詐欺に対する捜査と裁判の現状」

特殊詐欺に対する捜査と裁判の現状についてパネルディスカッションがありました。

具体的には、警察庁は、2015年1月29日、重点的に取り組むべき事項等、特殊詐欺対策の推進について指示した「当面の特殊詐欺対策の推進について」を発信する等、特殊詐欺の取締りを強化しています。その結果、2017年においては検挙件数4644件(2011年以降で最多。)、検挙人員2448人(過去最多だった2015年とほぼ同等の水準。)という成果を挙げています。

また、最高裁第三小法廷平成29年12月11日決定は、「だまされたふり作戦」の開始後に共謀に加功した「受け子」について、加功前の欺罔行為の点も含めて詐欺未遂罪の共同正犯としての責を負うとの判断をしたことなど、裁判実務においても積極的な判断がなされる傾向にあることが紹介されました。

もっとも、特殊詐欺を敢行する犯罪組織の首謀者らは、犯罪組織の実態を巧みに隠蔽しているため、末端の受け子や出し子に対して有罪判決が下されても、首謀者の検挙にまで至る例は少なく、特殊詐欺の犯罪組織の解明や被害回復には程遠い状態にあるとの指摘もありました。

4 第4部「特殊詐欺等の組織犯罪に係る被害回復」

被害回復手段について、スイス視察の結果報告が注目すべき点でした。

スイスでは、詐欺被害者に附帯私訴を申し立てる権利があること、犯罪被害者が、犯罪者、保険会社等の第三者からの補償を受けられない場合、犯罪者が支払った罰金、没収物等を被害者に給付することができること、有罪判決によらない没収手続があること、有罪判決によらない没収手続のうち、訴訟手続による没収は、検察官又は裁判官が凍結し、刑事責任を問えない限定的な場合に判決により没収すること、犯罪組織が処分権を有する全ての資産は没収できること、捜査手法として郵便・電気通信の監視、技術監視装置、観測、銀行取引の監視、司法取引、潜入捜査が可能であることの紹介がありました。

また、刑法にマネーロンダリング罪及び没収の規定があること、マネーロンダリング対策のための法(AMLA)では、「疑わしき取引の報告」が定められ、同法10条に「財産の凍結」が定められていることが重要であり、日本でも導入が検討されるべきであると指摘されました。

5 さいごに

シンポジウムの翌日の大会では、前日までのシンポジウム及び基調報告書の内容に基づき、大要以下のような内容の決議案が採択されました。

  1. 特殊詐欺による被害を未然に防止するため、各企業は各種防止措置を講じ、各業界団体は取組事例を周知共有して、業界レベルでの防止措置を推進するとともに、国及び地方自治体は特殊詐欺対策としての取組を強化すること。
  2. 国及び地方自治体は、十分な予算及び人員を投入し、特殊詐欺に係る捜査態勢を拡充すること。
  3. 国は、刑事訴訟手続を利用した実効性を有する犯罪被害回復制度を採用している諸外国の例も参考にしつつ、実効性のある被害回復制度を構築すること。
  4. 国は、金融機関による自主的取組として実施されている預金口座等の凍結を支援し、更に推進・拡充するため、実効的に被害の回復を行うことができる法制度の導入を検討すること。
  5. 国は、海外に移転された犯罪収益につき海外当局による没収を通じた被害回復のための国際的連携を強化すること。
  6. 国は、以上の取組を推進するため、犯罪対策閣僚会議において、特殊詐欺に係る対策の基本計画を策定し、関係各政府機関へその対応を指示することにより、官民一体の特殊詐欺対策を推進すること。

以上のような決議を前提に、民事介入暴力対策委員会のみならず、全ての弁護士が特殊詐欺の被害は甚大な人権侵害であるとの認識を持ち、積極的に被害回復と被害の事前予防に向けた各種方策の提言等、必要な活動を行うべきであると考えます。

中小企業法律支援センターだより「創業応援セミナー~創業時のお金のハナシ~」

中小企業法律支援センター副委員長 牧 智浩(61期)

1 はじめに

本年10月24日、「創業応援セミナー~創業時のお金のハナシ~」を福岡市スタートアップカフェにて、九州北部税理士会、日本政策金融公庫、福岡県信用保証協会と共催しました。

4機関での創業応援セミナーは昨年に続き2回目の開催でした。講演、パネルディスカッション、交流会・相談会の3部構成で開催しましたが、関係者を除く参加者が42名(定員50名)と大盛況でした。また、セミナー当日には、日経新聞の記者による取材もあり、10月25日付の紙面に記事が掲載されました。

2 第1部(講演)について

最初に、日本政策金融公庫福岡ビジネスサポートプラザ所長の高橋秀彰氏と福岡県信用保証協会保証統括部創業・経営支援統括課主任の沖隆一郎氏に、「創業時の資金調達のポイント」というタイトルでご講演いただきました。

高橋所長からは、参加者に対し、金融機関に提出する創業計画書作成にあたっては、(1)簡潔に読みやすく書くこと、(2)具体的に書くこと、(3)自己の強みをアピールすることが重要であるとの助言がありました。

また、沖主任からは、自己資本については、単純に額面のみではなくその形成過程にも着目しているとのお話がありました。

やはり金融機関の担当者の話には非常に興味があるらしく、参加者はメモを取るなどしながら真剣に聞いていました。アンケートでも、講演内容について、38%の方が大変参考になった、54%の方が参考になったと回答しており、参加者から高い満足が得られました。

3 第2部(パネルディスカッション)について

次に、「専門家に聞く!これだけは知っておきたい創業のイロハ」というテーマでパネルディスカッションを行いました。高橋所長、沖主任に加え、九州北部税理士会所属の寺井博志税理士、当会の日隈将人会員がパネラーとして登壇しました。

寺井税理士、日隈会員から、金融機関のお2人に対し、「初年度赤字の創業計画書でも大丈夫なのか?」、「創業計画あるいは事業計画に士業が関与している場合、融資審査の際の信頼度が上がるのか?」、「法人と個人とで融資の受けやすさに違いがあるという噂は本当か?」といった質問がありました。

みなさん、これらの質問への回答はどうだったと思いますか?

気になる方は是非、来年度の創業応援セミナーにご参加ください!!開催未定ですが・・・(笑)

また、高橋氏や沖氏からは、弁護士や税理士に対して、創業時の支援活動の内容やアクセス方法などについて質問がありました。

日隈会員が、無用な法的トラブルを避けることの重要性とリスク回避における弁護士の有用性を訴えたうえで、ひまわりほっとダイヤルなどの相談ツールがあることを参加者に案内していました。参加者や金融機関を含む関係者各位に、弁護士による創業支援活動を知ってもらういい機会になったと思います。日隈会員、お疲れさまでした!!

このパネルディスカッションの目的は、第1部の講演内容の掘り下げと、弁護士や税理士の有用性を伝えることでした。アンケートでは、パネルディスカッションに対して、概要、「シナリオがよかった」、「それぞれの機関の考え方を知ることができた」、「詳細な話が聞けてよかった」との意見が寄せられており、目的は十分に達成できました。また、パネルディスカッションについては、54%の方が大変参考になった、38%の方が参考になったと回答しており、非常に高い満足を得られたようです。関係者一同、講演へのアンケート結果も含め、安堵しました。

4 第3部(交流会・相談会)について

セミナーを開催した会場では、そのまま、参加者と登壇者との交流会を行い、同刻、別会場で相談会を開催しました。

交流会場では、各登壇者のもとに参加者が集まり、個別に話を聞いて盛り上がっていました。

また、相談会では、5つの相談ブースを設け、合計10組の相談を受けました。この相談会の特色は何といっても、日本公庫、保証協会、税理士、弁護士が同席して相談を受ける真のワンストップサービスの実現にあります。

相談を受けた方に私が感想をお聞きしたところ、「4機関に一度に相談できるのはスゴイですね!!」とのご回答がありました。

5 最後に

本セミナーを開催するにあたっては、多くの方にご協力いただきました。

お忙しい中にもかかわらず閉会のご挨拶をいただきました池田耕一郎副会長、また広報の面でお力添えいただいた対外広報戦略PTの南川克博会員には、この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

最後になりましたが、当センターでは、今後も、創業支援を含む中小企業支援を通じて、中小企業事業者の方たちに、弁護士をより身近に感じてもらえるように努力していきたいと思っております。会員のみなさまにおかれましては、今後とも、当センターの活動にご理解・ご協力賜りますようお願い申し上げます。

第61回人権擁護大会シンポジウム「外国人労働者100万人時代の日本の未来」のご報告

国際委員会 丸山 明子(61期)

1 はじめに

本シンポジウムは2018年10月4日リンクステーションホール青森で開催されました。

「外国人雇用状況」の届出状況(2017年10月末時統計)によると、日本で働いている外国人労働者の数は約128万人(前年比18%増)、このうち約30万人が留学生等の資格外活動、26万人が技能実習生、約24万人が専門・技術(外国料理の調理師、語学教師など)分野となっています。すでに労働者50人のうち1人が外国籍の方となっており、今期の臨時国会では新しく在留資格「特定技能」を設置し、現行技能実習制度で受け入れている業種を拡大するための入管法改正案1が審理されており、成立すれば来年4月から施行される予定となっています。

まさに時機にかなったシンポジウムの内容ですので、本稿でご紹介できればと思います。

2 移民大国ドイツの先例

基調講演では宮島喬お茶の水女子大学名誉教授が登壇され「外国人労働者の受け入れと『人』との権利の保障」と題し講演されました。その中で、戦後の労働不足を補うため1961年より主にトルコから外国人労働者を受け入れてきたドイツの事例が紹介されました。

当初、ドイツでは彼らを定住化させないために2年〜数年程度の短期ローテーションで受け入れる政策を採っていましたが、受入企業から短期雇用による不経済(仕事ができるようになると帰国されるため、再度新たに人材育成しなければならない)を指摘され、1971年法律を改正し、より長期かつ更新可能な在留資格を設定するようになったという経過があります。石油危機後の不況で73年に外国人労働者の受け入れを停止し、帰国奨励政策を採るも効果がなく、かえって定住を選択し(帰国すると二度と戻れないため)、家族の呼び寄せを権利として求めるようになり、90年法律の改正により家族の呼び寄せを制度として認めるようになります。

受入当初の政策の姿勢及びその後の経過は、日本が現在そしてこれから直面する問題をそのまま映しているようです。

3 日本の現状:「技能実習生」

報告では「技能実習生」に特化し、問題点等が報告されました。報道等で頻繁に取り上げられておりますが、簡単にご紹介すると、

  1. 技能実習生は現地送出機関(ブローカー)に多額の保証金等を納めている人がほとんどで、こうした初期費用を返済するためには1年以上かかる。
  2. 安価な労働力としか見なさない受入機関が後を絶たず、劣悪な労働環境(雇用契約違反、低賃金、長時間労働、残業代の不払い、過労死、労災死、セクハラ、パワハラ等)、劣悪な住環境、強制帰国など労働法違反・人権侵害の温床となっている。
  3. 職場移転(原則)・転職の自由がない上、保証金等の返済のため帰国もできず、劣悪な職場から抜け出すために失踪、不法残留、不法就労に陥る実習生が少なくない。
  4. 技能実習という建前だが実態は単純労働に従事させるもの。

といった問題が存在します。「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」鳥井一平代表が、実習生がまさに受入機関の人から強制的に帰国されようとしている空港での緊迫したやり取りを撮ったビデオを流されましたが、日本でこのようなことが起きているのかと唖然とするものがあります。

これまで日本は援助や支援を通じた外交により、こうした送り出し国の人々からは好印象を持ってもらっていたはずですが、このままでは、これまでの外交成果を無に帰するどころか、若い人たちに日本への悪感情を植え付けることになりかねず、憂慮せずにはいられません。

なお、留学生(技能実習生よりも労働人口として多い)や専門・技術の在留資格で働いている外国籍の人、その他様々な就労形態で働いている外国籍の人たちには、それぞれ同様・固有の問題があるのですが、当該シンポジウムではそれについては全く触れられませんでした。「外国人労働者」と銘打っていますが「技能実習生」とすべきでしょう。なお宣言案採択に際し留学生について質問が上がり「新たな非熟練労働者受け入れ制度ができれば解決する。そもそも人権侵害の訴えが少ない。」と回答されていましたが、決してそのようなことはありません。

4 「特定技能」制度

パネルディスカッションでは、経団連井上隆常務理事が、経営者は中長期の在留・人材育成を望んでいること、労働人材獲得の国際的競争があり日本で働きたいと思ってもらえるような制度・環境が望ましいと発言されており、先に紹介したドイツの先例をも合わせて考えると、「移民政策は取らない」、「単純労働による就労資格は認めない」建前を考え直さなければならないのは、時間の問題であろうと思われました。

現在国会で審理されている特定技能制度は、残念ながらこうした声に応えるものではなく、また先に述べたような技能実習制度の問題を解決するものにはなっていません。また、最長10年の在留を認める制度でありながら家族の帯同を認めない、外国人のための生活支援(日本語の習得等)を国が行わない(民間や地方に丸投げ)といった問題点がさらに指摘されています。

なお、当該法案については、11月13日付で日弁連が意見書を出しています。

5 さいごに

今回のシンポジウムでは、外国人労働者受入後のあるべき社会として「共生」をテーマにした報告もあり、お決まりの海外=欧州視察報告もありましたが、1991年から日本語を母語としない人の日本語支援、生活支援、地域との交流会をしている「のしろ日本語学習会」、外国人の子の不就学ゼロに取り組まれている「浜松国際交流会」、66名(2017年度)の外国籍生徒を有する東京都立一橋高校(定時制)が抱える様々な課題と取り組みが紹介されました。

シンポジウムの成果として宣言が採択されましたが、法的サービスが必要な外国人労働者にアウトリーチできていない我々の課題について、他に向ける厳しい目を自分たちにも向ける必要はないのだろうかと思われました。

また、今回、私は、本シンポジウムの実行委員として福岡からスカイプを利用し会議に参加していましたが、会議の進行ではそうした参加者を把握しない等々広く意見を聞く様子はなく、一部(主に関東)の意見に日弁の衣を着せる場のようで、これまで日弁で活動されてきた地方委員の方々のご苦労に想いを馳せる機会ともなりました。

2018年10月 1日

事業承継セミナー・個別相談会のご報告

中小企業法律支援センター 委員 三角 亘平(67期)

第1 はじめに

当会は、毎年、日弁連及び全国の弁護士会と連携して全国一斉で中小企業向けシンポジウム及び無料相談会を開催しています。

当会では、同シンポジウム及び無料相談会を、福岡、北九州、筑後、筑豊の4地区で同時開催しておりますが、今年は、平成30年9月7日(金)、例年同様に同4地区で同時開催されました。

具体的には、福岡地区では天神のエルガーラホールにおいて、事業承継に関するセミナー等が開催されました。

同セミナーにおいては、まず「伝統の味をつなぐ」と題し、因幡うどん前社長竹﨑敏和氏による、当事者側から見た事業承継に関する講演、次に「事業承継支援ネットワーク事業について」と題して承継コーディネーター田淵耕一郎氏による講演、さらに「弁護士による事業承継支援」と題し、当委員会の委員である高柴弁護士の講演が行われました。その後、それに付随して、弁護士による個別相談会も実施されました。

セミナーは、ほぼ満員の大盛況であり、弁護士にとっても大変ためになるものでした。

以下、福岡地区での個々のセミナー及び個別相談会それぞれの概要についてご報告いたします。

第2 「伝統の味をつなぐ」

創業65年の歴史と伝統を持つ因幡うどんにおいて、工場設備の老朽化による大きな再投資が必要になり、後継者選定の必要性が現実のものとなって事業承継が検討されることとなりました。

その際、店を閉める、子供に経営を譲る、社員に経営を譲るといった選択肢も検討されましたが、資金力の問題や、従業員の雇用の問題、別の仕事を生き生きとしている子供の意思といった問題を考慮し、最終的に第三者に経営を譲るという選択をされたということでした。

第三者に経営を譲るとの決断をしてから、弁護士、会計士、税理士を含む専門家集団に譲受企業の紹介から、会社の客観的価値の評価、譲渡対象にどこまでの資産を含めるのか、会社分割等利用するスキームの選択、具体的契約内容まで支援を受けることになりました。

この際、前社長が最も重視していたのが、演題でもある「伝統の味をつなぐ」、すなわち、味と品質を承継する、ということでした。

実際に事業承継を終えた後も、前社長は顧問として承継会社に残り、店で出汁を取ったり、味と品質の維持に関わり続けており、非常に満足感を得ているとのことでした。

仮に専門家集団の支援がなければ、伝統の味や品質が維持できなかった可能性があるばかりか、そもそも伝統ある会社が廃業していた可能性もあります。弁護士を含む専門家集団の支援の必要性が痛感されるとともに、その影響の大きさに感銘を受けました。

第3 「事業承継支援ネットワーク事業について」

承継コーディネーターの田淵氏からは、主として事業承継の現状と課題及びネットワーク事業の意義等の説明がありました。

まず、事業承継の現状と課題として、好業績企業でさえ、高齢化の波に押され、後継者難に瀕し、廃業の可能性がある現状が指摘されました。

第2で取り上げた因幡うどんといえば、博多うどんといえばココ!というほどの有名店なわけで、そのような好業績企業が廃業予定企業の中に存在しているということでした。

因幡うどんの場合はうまく弁護士等が入ることで成功した例ですが、実際には、事業承継がなされずに廃業予定の企業が多数あり、それにより雇用、技術、ノウハウが失われてしまう可能性が指摘されました。

なお、廃業予定企業の廃業理由は下のグラフのとおりであり、後継者難という消極的な理由が3割近く占めていることが目を引きます。

事業承継セミナー・個別相談会のご報告 廃業予定企業の廃業理由(田淵氏の当日配付資料より引用)

(田淵氏の当日配付資料より引用)

他方、事業承継を支援するに当たって、弁護士を含む支援機関の支援が細切れになっているという問題点が指摘されました。

そこで、福岡県事業承継支援ネットワークでは、この点を解決すべく、地域中小企業支援協議会と商工団体、金融機関、士業等専門家、行政が連携するネットワーク構築を重要視しているとのことでした。

具体的には、事業承継診断を実施して、潜在的な事業承継問題を顕在化させ、連携する専門家への相談が適当と判断される場合には、専門家を派遣するとともに、診断ヒアリングの実施者がこれに同席して連携していること等が説明されました。

また、診断においては、事業承継前に経営改善を図り、後継者候補等が継ぎたいと思えるような経営状態に高める取り組みや経営の「見える化」、企業の魅力作りを進める取り組みについて、わかりやすい説明がなされました。

第4 「弁護士による事業承継支援」

高柴弁護士からは、M&A以外の事業承継の場合に何が問題になるのかといった説明や、事業承継における法的問題の指摘がなされ、弁護士の支援の必要性が説かれるとともに、ひまわりほっとダイヤルが一般向けに周知されました。

第5 個別相談会

その後、個別相談会が催され、こちらも事業承継を主たるテーマに設定してはおりましたが、その周辺分野も含め、不動産の所有権について、M&Aで買い取る場合の法的問題点について、M&Aによる買収の進め方について、労働関係について、契約書について、といった様々な相談がなされ、大変盛況でした。

第6 おわりに

事業承継は、高齢化が進む現在において、ホットな分野であることは間違いありませんが、中小企業経営者にとっては先送りしがちな問題です。

我々弁護士が、その支援をしていくことの重要性が痛感されるとともに、逆に当事者からのフィードバックを受け、より良い支援体制を構築していくことが重要だと感じました。

養育費110番、スタートしました!

両性の平等に関する委員会 委員長 山崎 あづさ(54期)

8月25日(土)、福岡県による「養育費110番」の第1回が行われました。当日の様子と、この新たな取り組みの内容をあわせて、ご報告いたします。

養育費の受給率向上への取り組み

ひとり親世帯の親子の生活を支える上で、養育費の経済的な支払いはとても重要です。しかし、離婚の際に言い出せなかった、金額を決めたのにその後一切貰えていない、あるいは数か月や数年で支払われなくなったなど、様々な経緯で養育費を受け取れていないケースは多々見られます。

平成28年度福岡県ひとり親世帯当実態調査によると、ひとり親(母子世帯)の平均年収は約240万円、離婚の際に養育費の取り決めをしている割合は44%、実際に養育費を受給している割合は約24%にとどまっているといいます。

こうした、ひとり親世帯が抱える養育費に関する問題などの解決を図るため、福岡県と福岡県弁護士会は、今年、2つのサービスについて協定を締結しました。

それが、「養育費110番」(弁護士による無料電話相談の開催)と、「養育費クーポン無料相談」(福岡県ひとり親サポートセンターが発行するクーポンを利用して県内17カ所にある福岡県弁護士会の法律相談センターで、60分の無料面談相談を受けられるサービス)です。

特に「養育費110番」は、ひとり親世帯の所得向上を図るための新たな事業であり、全国的にも珍しい取り組みだということです。

110番当日・・・次々と電話が!

その第1回が、8月25日(土)に行われました。

午前10時から午後4時まで、福岡県弁護士会館にて、電話4台、弁護士8名(午前・午後各4名)という体制で待機しました。

事前に新聞各紙や自治体の広報誌等で告知されていたためか、午前10時に電話回線をつないだ途端、次々と電話が鳴り、あっという間に4台とも埋まりました。相談を終えて受話器を置いたら、すぐにまた電話が・・・!時間帯にもよりますが、その後もほぼ途切れることなく電話が鳴りました。

相談の内容は、やはりご自身の抱えておられる問題についてのものが多く、事案を聞き取って、法的なアドバイスをして・・・と、通常の法律相談に近い対応が必要でした。さらに弁護士による支援が必要だと判断されるケースについては、福岡県の無料相談クーポンの対象地域にお住まいの方であれば、クーポンの利用を案内しました。

相談結果の集計

この日の相談件数は、全部で32件でした。

相談者は20歳代から70歳代まで幅広く、「娘の件です」といって電話をかけてこられている方も数名いました。お住まいの地域も、福岡市をはじめ、久留米市、筑紫野市、宗像市、八女市、行橋市など、県内全域に及んでいました。

相談内容の集計結果は、以下のとおりでした。(複数回答あり)

  • 離婚問題 全般 2件
    養育費の取り決め方法 4件
    養育費の金額 4件
  • 離婚後の問題 全般 1件
    養育費の不払い 16件
    養育費の金額 3件
    養育費の取り決め方法 4件
    その他 1件(支払いが遅れ気味)
  • 未婚の場合の養育費 1件

これを見ると、養育費の不払いの相談が突出して多いことがわかります。やはり、養育費の不払いが深刻な状況にあるのだと実感しました。

今後の開催について

今回、初めて開催した「養育費110番」でしたが、予想を超える電話の件数でした。また、内容も、どれも切実なものでした。後日、県の担当の方から、「本当にこの事業を実施してよかった」との言葉をいただきました。

「養育費110番」は、今年10月27日(土)と来年2月にも実施することが決まっています。また、少なくとも3年間は継続して実施する予定だということです。

ということは、それだけのメンバーを確保していかなければならないわけで・・・今後、110番の相談担当にご協力いただける弁護士の名簿を作成することを考えています。

みなさま、ぜひご協力をよろしくお願いいたします!

全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」ご報告

子どもの権利委員会委員 浅上 紗登美(69期)

1 はじめに

去る平成30年8月18日、天神ビル10号会議室にて、全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」が開催されましたのでご報告致します。

2 開会のご挨拶

知名健太郎定信委員長の開会のご挨拶とともに、ご多忙の中駆け付けて下さった、野田国義参議院議員、大島九州男参議院議員、山内康一衆議院議員、仁戸田元氣福岡県議会議員、鬼木誠衆議院議員の秘書の方よりご挨拶いただきました。

それぞれの皆様のご挨拶では、少年に裁量で国選付添人がつけられていることへの驚き、そして早急な解決に向け尽力したい旨の熱いお言葉を頂戴しました。

3 基調講演

「少年法講義」でお馴染みの武内謙治九州大学大学院教授による「国選付添人制度の課題」と題した基調講演が行われました。

全ての少年に国費で付添人がつかないといった現行少年法の問題点やその原因が国費を拠出することへの国民の納得を得ようとする制度設計になっていること等をご説明いただきました。

環境調整の重要性は明らかであるにも関わらず、環境調整の役割を果たしている付添人がつかない現行制度では、少年の特質、環境等の要保護性を勘案した適切な処遇をすることができず、結果的に少年の立ち直りを阻害しているのではと感じました。

4 九弁連報告

九弁連子どもの権利に関する連絡協議会吉田孝光委員長より、九州各地の独自の付添人活動のご報告、そして、九弁連としても各地でのシンポジウム開催や宣言など、全面的国選付添人制度実現に向け活動することが表明されました。

5 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、ご講演いただいた武内教授、NPO法人田川ふれ愛義塾理事長の工藤良さん、SFD21JAPAN理事長の小野本道治さん、野口石油中原給油所所長兼保護司の野口純さん、そして元少年2名をパネリストとしてお招きし、少年との関わり方、付添人の関与による利点、少年自身の経験をお話いただきました。

全ての方々が共通してお話していたのは、「少年は必ず変わることができるが、時間がかかる。1ミリでも軌道修正できるよう、諦めず見守っていくことが大切」、「責任ある仕事を与え、社会での役割を与える」、「怒られることに慣れているので、とにかく褒めてあげる」ということでした。

大人を敵視していた元少年たちは、工藤さんたちに引き合わせてくれたり、処遇決定後も面会に来る弁護士の姿を見て、周囲のありがたみ、自分のしたことの重大さを知ることができ、立ち直るきっかけとなったそうです。

さらに、元少年たちが、100名以上もの参加者を前にして、「これからは、少年たちに辛い思いをさせないよう寄り添い、時には本気でぶつかりながら、人としての筋道を教えていきたい。少年たちのおかげで日々自分も成長させられ、日々感謝して過ごせている。」と話していました。

大人を信じられなくなるような境遇で過ごしたはずの元少年たちの堂々とした姿を見て、私自身も感動しましたが、何より、元少年たちに携わってきた弁護士の先生方や受け入れ先の方には、万感胸に迫るものがあったのではないでしょうか。

少年の立ち直り支援、全面的国選付添人の必要性について、参加者の方々に深く考えるきっかけを与えた大変意義深いパネルディスカッションであったと思います。

6 集会宣言

少年更生を支える各団体の皆様と賛同者一同で「全面的国選付添人の実現を求める集会宣言」を行い、付添人の質の向上及び全ての子どもたちへの支援実現を宣言しました。

7 閉会のご挨拶

最後に、当会の上田英友会長より閉会の挨拶がなされ、盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じました。

8 おわりに

本シンポジウムは、他の少年には付添人がいるのに、自分には付添人がおらず適切な支援を受けられない少年の不平等間をなくしたいという想いから、タイトルを「なんで、弁護士ついとらんと?」にしました。

当日は、100名以上の方々にご参加いただき、アンケートにもご協力いただきました。アンケートでは「弁護士の支援の重要性をよく理解できた」、「支援に関わる人・機関の連携の重要性を改めて感じることができた」、「若気の至りで間違っても、長い人生の中で次代を担う市民として健全に育っていく機会をもっと増やしていくべきと考えた」等の意見が大多数でした。少年の不平等感をなくしたいという想いにご賛同いただけたことを喜ばしく思いました。

他方で、制度実現に伴う付添人の質の低下を懸念する意見もあり、付添人としての質の向上に努めることが、制度の早期実現の近道なのかもしれないと感じた次第です。

私自身も「愛は与えっぱなし」という言葉を体現できるよう、付添人として日々邁進して参ります。

最後に、この場をお借りして、携わって下さった各関係機関の皆々様に厚く御礼申し上げます。

第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~

法教育委員会 委員 見越 あけみ(69期)

1 はじめに

平成30年8月10日(金)福岡ビル9階 大ホールにおいて開催されました「第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~」について、ご報告致します。

本セミナーは、教育関係者(高等学校・小中学校の教員や教育委員会)、教科書出版社など教科書作成に携わる方々、弁護士を対象として、2022年度より高校の必修科目として導入される「公共」(現行科目「現代社会」は廃止となります。)について、授業のあり方や教科書(教材)の内容について考えることを目的として開催されました。

2 セミナーの内容

セミナーは、(1)基調講演2本、(2)「公共」の授業内容・教科書に関する報告、(3)弁護士が目指すモデル授業案の提示、(4)パネルディスカッションという盛りだくさんの内容でした。

まず、(1)基調講演(その1)として、橋本康弘先生(福井大学教授)より、「『公共』の基本的な考え方と授業づくり」というテーマでご講演いただきました。新科目「公共」のキーワードは「見方・考え方」、授業づくりのポイントは「見方・考え方」をしっかり使うことにある(=主題を設定し、「見方・考え方」を使いながら、その主題の解決のあり方を構想する。)とのことでした。「公共」では、決論に至る手続の公正、機会の公正、結果の公正という視点に加え、「世代間公正」「地域間公正」という視点からも結論の妥当性判断が求められるようです。

基調講演(その2)では、吉村功太郎先生(宮崎大学大学院教授)が、「シティズンシップ教育から新科目『公共』に期待するもの~社会の担い手である市民としての資質・能力の育成~」というテーマでご講演されました。英国のシティズンシップ教育論に触れた上で、問題を多面的・多角的に捉え、自らの選択・判断基準を反省的に磨いていくことのできる授業が求められる旨お話しされました。

次に、(2)「公共」の授業内容・教科書に関し、日弁連 市民のための法教育委員会 委員長の野坂佳生先生(福井弁護士会)よりご報告がありました。公(おおやけ)と私(わたくし)の概念、事実と論拠に基づいて主張を組み立てることなど、「見方・考え方」に関する分析的な視点が示されました。

続いて、(3)当会の法教育委員会 委員長の甲木真哉先生より、弁護士会が目指すモデル授業案のご提案がありました。法教育委員会が行っている「出前授業」と「公共」が目指す思考訓練には通ずるものがあるという観点から、「公共」の授業運営のヒントとして、出前授業の教材や授業進行案が提示されました。

そして、本セミナーのメイン企画、(4)パネルディスカッションです。当会会員で九弁連の法教育に関する連絡協議会委員長を務める春田久美子先生をコーディネーターとして、基調講演をしてくださった橋本先生、吉村先生に加え、福岡県折尾高校社会科教諭の中野孝太先生、当会法教育委員会副委員長の柏熊志薫先生の4名のパネリストが、それぞれのお立場から意見を述べ、議論されました。「論理的思考力」という世界ベースで求められる能力を、教育課程の中でいかに生徒に習得させるか、教員の指導力に依拠する面もあり、期待と不安が混在する現場の状況が窺えました。

「公共」は、単に知識の習得を目的とするのではなく、多角的・論理的な思考力の習得を目指す科目であるという特性から、質疑応答の場面では、評価方法に関する質問も多く出されました。評価するためには思考過程の見える化が必要なこと、その際には言語力も求められること、だとすれば国語で使用される評価基準も参照に値するのではないか・・・などなど、活発に意見交換が行われました。

3 最後に(感想)

今回、「現社(現代社会)」が「公共」に変わる!?、「公共」とは何ぞや・・・という興味から本セミナーに参加させていただきました。

高校の授業で論理的思考力が重視されることは歓迎すべきことと思いますが、授業内容や評価方法、試験対策など未知数の部分が多くあり、教育関係者も不安を抱えているように感じました。

「公共」と法教育委員会が行う出前授業とは精通する部分も大いにあるように思いますので、教育関係者と弁護士とが密に協力・連携することで、「公共」も出前授業も質の向上につながればよいなと感じました。私もその一助となれるよう尽力出来ればと思います。

LGBT研修報告 ~スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル~

LGBT委員会 委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

去る2018(平成30)年8月1日、福岡県弁護士会館3階ホールにて、LGBTに関する研修会が開催されました。

3部構成で、第1部は久保井会員からLGBTに関する基礎知識について、第2部は入野田会員からLGBTに関する裁判例についての講演があり、最後に福岡市の人権推進課課長から、LGBTに関する福岡市の取り組みについてご紹介いただきました。

2 当事者がかかえる困難~社会は変えられるか~

久保井会員からは、いわゆる性的マイノリティであるLGBTに関する基礎知識と、当事者が抱える困難について、社会学の文献まで引用しながら非常に分かりやすくご説明いただきました。

LGBTに対する根深い社会的差別があるため、我が国ではそもそもいないものとされていること。ひとたび露見すれば強い差別や嫌悪にさらされる恐れがあり、当事者は時に自死にもつながる様々な困難を抱えていること。

どうにかしなければと思いつつ、社会を変えるなんてどうしたらいいんだと頭を抱えてしまいそうですが、久保井会員から希望を感じられるエピソードをご紹介いただきました。

3 スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル

それは、スカーレットヨハンソンをめぐる宇多田ヒカルとそのフォロアーのツイートに関するエピソードです。

映画を観る方なら、ヨハンソンのことはご存じだと思います。著明なハリウッド映画俳優ですが、生まれつき割り当てられた性別が女性で、自認する性も女性である、いわゆるストレートの女性です。その俳優が、トランスジェンダーの役で映画に出演することが決まったのですが、これについて批判を受け、結局その映画への出演を断るに至りました。

このときの批判は、トランスジェンダーの俳優はそもそも出演機会が限られているのに、トランスジェンダーの役をストレートの俳優が演じてしまうと、トランスジェンダーの俳優の貴重な出演機会が奪われる結果となり、少数者がより圧迫されてしまうという趣旨のものでした。そして、ヨハンソンが降板したのは、このような批判に共感したためでした。

これに対し、宇多田が、「ストレートがトランスを演じてはいけないと言うならば、トランスはストレートを演じてはいけないということにならないか」、という趣旨の英語によるツイートをしました。スカーレットヨハンソンに対する様々な批判について困惑してのものと思われます。

これに対し、その発言の間違いを指摘するツイートが多く寄せられました。ここで問題となっているのは「ストレート」(性的指向)ではなく、性自認であり、シスジェンダーであるヨハンソンがトランスを演じること、トランス俳優にはお笑い的な演技以外の活躍の場がない現状、だからこそトランスを扱った映画においてトランス俳優が起用されないことの問題などを指摘するものでした。

しかし、それらの指摘はいわゆる「炎上」というような、相手を非難したり罵倒したりするものではなく、相手の立場を尊重し、理性的に誤りを指摘するものだったそうです。ある投稿者の多少揶揄的な表現への批判について、当の投稿者が誠実に返答し、批判した者が改めてその返答に敬意を示すなど、それなりに「成熟した」会話が見られました。

こうして、宇多田の投稿から数時間内に、何千もの反応があり、それは概ねトランスに対する「正しい」理解の方向へと収束していきました。これを受け、宇多田自身も、性自認と性的指向を混同していたことについて率直に謝罪した上で、「問題の核心であるアイデンティティの問題を見失っていた」、「寛容と忍耐のみが不寛容と無知と闘う唯一の手段だ」というツイートをしました。

このように、意見が対立していた人達も、相手を尊重しつつ率直に意見を述べ、最後にはお互いに理解を深め、他方をリスペクトするという関係になっていきました。

事態は、関わる人達みんながLGBTに関する理解を深める方向で収束していったのです。

それは英語によるやりとりでしたが、炎上→沈静化という過程を辿り、何ら生産的でない言説が垂れ流されがちな我が国の現状と比較すると、なんと素晴らしいやり取りかと感動しました。

4 成熟した議論を

このような成熟した議論が積み重ねられるのであれば、どうでしょうか。LGBTに対する差別や偏見も、少しずつかもしれませんが無くなっていくと思えます。

そして、このような建設的な議論を展開することがそんなに難しいことなのかというと、真摯に学び続けようとする姿勢や態度さえあればできることなのではないでしょうか。

先入観や固定観念に縛られ、思考停止して他者の言説を否定していては何かを学ぶことなどできません。無知であることを認めないなどもっての他です。

真摯に学び続けようとするからこそ、他者の言説に耳を傾け、自らの誤りを認めることができる。手の届く努力で、社会を変えることができるかもしれません。

私自身が、学び続けようとする態度や姿勢を持てているのか、まずは見直してみようと考えさせられました。

5 裁判例に見る事件処理上の注意点

入野田会員からは、LGBTに関する裁判例をほぼ網羅する形で紹介していただきました。

印象に残ったのは、LGBTについて理解が不足していると指摘せざるを得ない裁判例が比較的多いとの指摘があったことです。

紙面の関係で多くはご紹介できませんが、例えば、生物学的な性が男性で、自認する性が女性であるトランスジェンダーの当事者が、会社に女性の服装、化粧等をして出勤したり、会社に対して女性としての取扱を求めたところ、それを理由として解雇された東京地判平成14年6月20日の事案では、結果として解雇が違法であるとしたことは妥当なのですが、理由の中で「女性の容姿をした債権者を就労させることが、債務者における企業秩序又は業務遂行において、著しい支障をきたすと認めるに足りる疎明はない。」とされており、仮に当事者の見た目が社会的には女性として受け入れられにくいものである場合にはどうなるのかと疑われる認定になっているとのことでした。

我々も、実際の事件を取り扱うときには、LGBT当事者を巡る法律関係を正確に理解し、LGBTであることについて言及する際には不正確な表現や誤った主張にならないよう、裁判所にも誤った認定をさせないよう、細心の注意を払う必要があると感じました。

6 福岡市の取り組み

福岡市のLGBTに関する取り組みについて、人権推進課の合屋四郎課長からご紹介いただきました。目玉となるのは、パートナーシップ宣誓制度を創設されたことです。既に20組を超える利用があるとのことでした。LGBT当事者のための交流会も定期的に開催しておられ、毎回多くの方が参加されているそうです。

行政が人権課題として取り組んでくれているのは心強い限りです。

当会とは電話相談を共同で実施していますが、今後も色々な面で連携していければと思います。

7 最後に

今回の研修は盛りだくさんでしたので、印象的なお話に絞ってご紹介させていただきました。

今後も充実した研修を企画する予定ですので、奮ってご参加ください。

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