福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2019年9月 1日
民事介入暴力対策全国拡大協議会旭川の報告
民事介入暴力対策委員会 甲谷 健幸(62期)
1 はじめに
本年7月19日、北海道の旭川市にて開催された、民事介入暴力対策全国拡大協議会旭川に参加してきましたので報告いたします。
協議会のテーマは、「給付行政等における反社会的勢力排除」と「暴力団排除条項の裁判規範性に関する諸問題」であり、昨今何かと話題となっている反社会的勢力の排除に重点が置かれた内容となっていました。
2 テーマ設定の背景
21世紀最初の民事介入暴力対策大会は、平成13年(2001年)5月に旭川で開催されています。この18年前に開催された大会において、旭川の民暴委員会は先進的に暴力団排除条項をテーマとされました。
暴力団排除条項については、平成19年6月19日の政府指針が、世間へと浸透していく契機となったのですが、その約6年前にはすでに旭川で開催された民事介入暴力対策大会において提言がされていたのです。
今回の拡大協議会では平成13年(2001年)5月に旭川で開催された民暴大会の経緯を踏まえ、契約関係の解除などの現実に問題となる場面が裁判の場に持ち込まれた場合に暴力団排除条項が裁判規範としてどの程度機能するのか、暴力団排除条項を遡及的に適用することに問題はないのかといった視点から「暴力団排除条項の裁判規範性に関する諸問題」のテーマが設定されました。
また、北海道では約2億4000万円もの生活保護費が不正受給されるという事件が発生し世間に大きな衝撃を与えたこともあり、生活保護費の不正受給に関する事例等を分析して諸論点を取りまとめ、特に、暴力団員という属性認定の判断要素はどのようなものなのかについて検討すべきとして「給付行政等における反社会的勢力排除」のテーマが設定されました。
3 協議会の内容
(1) 給付行政等における反社会的勢力排除について
- 生活保護制度を所掌する厚生労働省は、暴力団員は稼働能力の活用要件、資産・収入の活用要件を満たさないとして、生活保護の受給を基本的に認めないという通知を発出しています(以下「平成18年通知」といいます。)。そのため、暴力団員が生活保護の受給申請をするに当たっては、暴力団員ではない又は既に離脱した等の虚偽の事実を述べて申請することになり、これが発覚した場合には、詐欺事件として取り扱われることとなります。他方で、真実暴力団員ではない者や、暴力団を離脱し生活に困窮した者が生活保護の受給申請をする場面もあることから、生活保護の現場においては、不正受給を目論む暴力団員を排除しつつ、暴力団員ではない者や暴力団を離脱し生活に困窮している者に適切な保護費を支給する必要があり、暴力団員という属性認定が重要な課題となっています。
- このテーマについては、札幌、函館、釧路の各弁護士会の民暴委員が担当し、生活保護申請者が真実暴力団を離脱したかが争われた事例、離脱の真実性ではなく現役の暴力団員かどうかが争われた事例をそれぞれ検討の上、論点整理と暴力団員の属性認定の判断要素について整理がなされました。
暴力団員該当性の判断においては、①警察における暴力団員登録の有無、②当該人物の外部からの評価・認識、③当該人物の活動実態、④当該人物の交友関係、⑤当該人物の外形的特徴、⑥当該人物の生活状況を要素とし、①の要素については推認力が強く、その余の要素については事実関係によって推認力の軽重は生じるものの、概ね、この6要素によって、暴力団員該当性の判断されるのではないかとの報告がされました。 - 協議会ではさらに進んで、仮に、誤情報により生活保護申請を却下し、後に国家賠償請求がされた場合には、どのような判断がされるのかという点の検討もされました。
国家賠償請求においては、職務行為基準説により違法性が判断されることは周知のことですが、警察の依頼に基づく口座凍結について銀行の不法行為責任が争われた事例において、銀行の不法行為責任を否定した裁判例とパラレルに考察することができるのではないかという視点で報告がされました。
(2) 暴力団排除条項の裁判規範性に関する諸問題について
- 平成3年5月に暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律が制定され、その後、同19年6月の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の公表によって、企業に反社会的勢力との一切の関係遮断が求められ、さらには同年23年10月までに全国の都道府県に暴力団排除条例が施行されるに至ったこと等を契機に暴力団排除条項の導入が広がりました。もっとも、暴力団排除条項を具体的に適用する場面、特に契約関係の解除の場面において、どこまでの効力が認められるかについてなお具体的検討が必要な重要な課題となっています。
- このテーマについては、旭川弁護士会の民暴委員が担当し、法人内部における暴力団等反社会的勢力の排除、金融取引における暴力団等反社会的勢力の排除、不動産取引における暴力団等反社会的勢力の排除について、それぞれ暴力団排除条項の裁判規範性の視点から検討がなされました。
加えて、ゴルフ場からの暴力団等反社会的勢力の排除と保険契約における暴力団等反社会的勢力の排除(重大事由解除)についても検討がなされました。ゴルフ場からの暴力団等反社会的勢力の排除と保険契約における暴力団等反社会的勢力の排除(重大事由解除)については、実務経験豊富なパネリストとのパネルディスカッションの形式で行われました。 - 法人内部からの暴排については定款や就業規則に暴力団排除条項を加えた場合の効力、金融取引からの暴排については改正民法下で定型約款に暴力団排除条項を加えた場合の効力、不動産取引からの暴排については不動産流通4団体作成のモデル条項例や国土交通省作成のマンション標準管理規約の暴力団排除条項の効力が、それぞれ報告されました。
- ゴルフ場からの暴力団等反社会的勢力の排除については、具体的な事例の寸劇が披露され、特に暴力団排除条項を導入する前から当該ゴルフ場の会員になっていた暴力団員(既存会員)を排除できるかについて検討がされました。これについては、そもそも暴力団排除条項の導入が既存会員に及ぶかについて難しい論点があり、最高裁判所平成12年10月20日判決(判例タイムズ1046号89ページ)、最高裁判所昭和61年9月11日判決(判例タイムズ623号74ページ)、東京地方裁判所平成22年7月30日判決(ウエストロー・ジャパン2010WLJPCA07308002)、東京地方裁判所平成22年11月4日判決(ウエストロー・ジャパン2010WLJPCA11048002)などの裁判例の検討、さらに暴力団排除条項の導入に加えて、受付において表明保証や誓約等を求めることにより暴力団等反社会的勢力の排除の実効性がより高まるという整理がされました。
- 保険契約における暴力団等反社会的勢力の排除(重大事由解除)については、暴力団員と判明した時点と解除行使の時点、保険金支払いの有無などの内容により場面を分け、具体的な検討がされました。これについては、解除すべきか否か、どの時点で暴力団員であることが必要か、支払った保険金や弁特保険金の返還請求ができるかなどの検討がされました。
4 最後に
今回の拡大協議会は、反社会的勢力の排除について基本的なところを押さえつつ、現時点における到達点が報告され、資料もよくまとまっており非常に有益なものでした。
反社会的勢力の排除は近時でも某芸能事務所で問題になったように実際には様々な論点の絡み合う解決困難なテーマです。反社会的勢力なのか否かの判定や、反社会的勢力の排除が、これを逆手に取った「ゆすり」や「たかり」などの材料にされないような配慮も必要です。
反社会的勢力の排除を少しでも容易にし、かつ、仮に反社会的勢力であることが発覚した場合にも適切な対応をするための道具として反社会的勢力排除条項が生み出され、今日まで様々な場面で活用されてきました。今回参加して、同条項の適用には、なお検討の余地もあることや、(折しも某芸能事務所で問題となっている)反社会的勢力とのかかわりが発覚した場合の適切な対応とは何なのかについて、深く考えさせられました。
反社会的勢力排除の問題はこれから先もまだまだ議論の発展がなされるものと思われます。議論に遅れることなくアップツーデートで対応できるよう今後も研鑽を続けていきたいと思います。
最後に、令和元年11月15日に第89回民事介入暴力対策大会が、大分市で開催されます。この大会のテーマは「暴力団の資金に対する課税について」となっています。暴力団の資金を根絶することは、暴力団被害の根絶の最たる方法と考えられます。暴力団資金への課税の場面に弁護士として関与することはなかなかないことではありますが、暴力団への金銭請求に弁護士が関与することはあり得るところです。かかる場面における一助となり得るテーマと思いますのでふるってご参加ください。
旭川会場
旭川垂れ幕
外国人相談研修のご報告
国際委員会 仁田畑 莉加(70期)
1 はじめに
令和元年7月22日、福岡県弁護士会館にて外国人相談研修が行われましたので、ご報告いたします。
第1部は、福岡出入国在留管理庁就労・永住審査部門の総括審査官、入国審査官をお招きし、入管手続についての基礎知識及び改正入管法の概要についてご解説いただきました。第2部前半は、国際委員会川上誠治先生より、外国人相談・入管相談において注意すべきポイントについて、後半は同委員会松井仁先生より退去強制手続と在留特別許可・行政訴訟についてご解説いただきました。
2 福岡出入国在留管理庁によるご講演
第1部では、入管手続の基礎知識として、外国人の入国(上陸)審査手続から在留手続・退去強制手続までの一連の手続をご説明いただき、「特定技能」に関する入管法改正についてご説明いただきました。
入管法改正で新設された在留資格「特定技能1号」は、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格で、「特定技能2号」は、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。特定産業分野は介護、ビルクリーニング等の14分野とされています。
特定技能1号は在留期間を通算5年とし、技能水準・日本語能力水準は試験等で確認されます。また受入機関等による支援の対象となり、受入機関は支援計画の作成、支援を行うことになります。これに対し、特定技能2号は、技能水準は試験等で確認し、日本語水準は試験等による確認が不要で、受入機関又は登録支援機関による支援の対象外となります。
外国人増加に伴い、外国人の受入環境の整備・支援の方向に進んでいるとのことでした。
3 川上誠治先生によるご講演
第2部前半では、入管業務に関して、①入国・上陸、②在留、③出国・退去強制・出国命令手続の各時点における具体的設例の解説をいただきました。さらに帰化手続業務に関する具体的設例を解説していただきました。
まず入国・在留手続に弁護士が関与するにあたり、弁護士会を経由して各地方入国管理局庁に事前届出をすることで、各種手続において、申請者本人の出頭を要することなく申請等を行うことができるとのことでした。届出手続、届出済証明書の発行までには1~2ヶ月を要するそうです。
在留期限が近づいており、在留期間の更新許可申請をせずに永住許可申請のみを行う場合、永住許可がなされなければ帰国しなければならなくなるため、永住許可手続と更新許可手続が独立の手続であることに注意して対応をしなければならないとのことでした。
外国人に対する政策や出入国管理庁の方針は、国際情勢等によっても変化する可能性があることに留意して活動をすることが大切だそうです。
4 松井仁先生によるご講演
松井先生からは、実際にご経験された2つの事例をご紹介いただき、詳細な対応方法についてご紹介いただきました。
1つ目の事例は、専従資格外活動をしたとして、退去強制事由該当性が問題となった事案での立証資料準備、退去強制手続の流れについてご説明いただきました。退去強制事由に該当する容疑がある場合、収容令書により収容され、仮放免許可を受けると在宅手続になりますが、仮放免中は就労はできず保証人等の扶助で生活し、原則として一月毎の更新手続のために入管に出頭する必要があるそうです。
2つ目の事案は、オーバーステイの外国人について、在留特別許可申請をし、その後行政訴訟、執行停止の申立、そして再審情願をされた事案をご紹介いただきました。退去強制事由に該当する場合であっても、在留特別許可手続があり、在留特別許可についてはガイドラインがあり、法務省サイトで事例集が毎年発表されているそうです。
5 おわりに
本研修で入管法を始め、様々な外国人の法律関係について広く学ぶことができる貴重な機会となりました。今後、実務に活かしてまいります。
交通賠償法研究会・新人会員等向け交通事故連続研修(第5回)-物損・責任論-
会員 井上 瑛子(70期)
第1 はじめに
令和元年7月31日、福岡県弁護士会館にて、交通賠償法研究会・新人会員等向け交通事故研修(第5回)が開催されましたので、その内容をご報告いたします。
本研修は、交通事故委員会内のPTである賠償法研究会所属の先生方により、主に新規会員や交通事故事案の取扱経験の少ない会員を対象として、交通事故事案に関する入門的・体系的な知識・意見共有のために開催いただいているものです。平成から令和にかけて毎月連続して開かれた本研修(全5回)も、今回をもって最終回となりました。
今回の講演では、「物損・責任論」をテーマに、田部貴大会員(68期)を講師として、物損特有の法的問題や、(損害補填の実現可能性のある)請求の相手方という観点から検討される法的責任者について、ご解説頂きました。
第2 物損
以下のとおり、物損事案特有の法的問題を体系的にご説明頂いた後(1~5項)、想定事案を基に事例研究が行われました(6項)。
1 車両損害
(1) 修理費
①車両が当該事故によって損傷した事実、②修理済み又は修理予定であることの事実、③修理費の額又は見込み額を主張・立証すれば、原則として、必要かつ相当な修理費の請求が可能。立証には、領収書、修理明細書、事故車両の写真等が用いられるとのご説明でした。
実務上では、加害者側保険会社のアジャスターが事故車両を検分し、修理工場との間で協議の上、修理費の金額について協定が締結されることが多いとのことでした。
(2) 買替差額
修理費が、①「事故当時の車両価格」及び②「買替諸費用」(被害車両と同種同等の車両の取得費用)の合計額を上回る場合(経済的全損)、事故当時の車両価格と売却代金との差額を請求し得るとのことで、①②の検討方法をご教示いただきました。
①の参考資料として、いわゆるレッドブックや、インターネット上の中古車価格情報等が挙げられました。②については、実務上、廃車・登録等の法定手続手数料や、ディーラー報酬部分のうち相当額、自動車取得税などが買替諸費用として認められている一方、旧車にかかる自動車税や自賠責保険料については、還付制度があるため認められていないとのことです。
2 代車両
車両の修理や買替えのために車両が使用できない場合、①代車を使用し、②代車料を支出し、③当該代車を使用する必要性があるときは、現実に修理・買替えに要した期間のうち相当期間に限り、代車料を請求できるとのことです。
③については、被害車両が営業用車両の場合は原則として肯定される一方、自家用車の場合は当該車両の使用目的・状況、代替交通機関の使用可能性・相当性等の事情を主張しておく必要があるとのことでした。
なお、代車期間について、修理期間は概ね2週間程度、買替え期間は概ね1か月程度が一般的な目安とされているそうです。
3 休車損
被害車両が営業用車両であった場合、①事故車を使用する必要性があるが、②代車を容易に調達できず、かつ③遊休車が存在しない場合は、修理又は買替えに必要な期間中の営業損失(【計算式】〔事故車両の一日あたりの営業収入-経費〕×休車日数)を請求できる。ただし、前項の代車料が認められる場合は、休車損は発生しないことに留意が必要とのことです。認定資料には、事業損益明細書、事故発生後に被害者が作成した計算書・会計書類のほか、国交省自動車局が刊行している「自動車運送事業経営指標」を用いることもあり得るそうです。
②については、いわゆる"緑のナンバープレート"車両は、許認可との関係から、基本的に調達困難として認められているとのことです。③については、諸般の事情を総合考慮し、被害者が遊休車を活用して休車損の発生を回避し得たか否かが検討されることとなり、たとえば各営業所に予備車両を多く備える路線バス会社のケースでは、③が認められない可能性があるとのことでした。
4 評価損
事故当時の車両価格と、修理後の車両価格との差額をいい、以下(1)・(2)に区分されるとのことで、ご説明頂きました。評価損の算定方法につき、現在の裁判例は、車種、走行距離、初年度登録からの期間、損傷の部位・程度等を考慮の上、修理費用の一定割合とする方法を採用するものが多いとのことです。
(1) 技術上の評価損
車両の修理をしても完全な原状回復ができず、機能や外観に何等かの欠陥が存在することにより生じた評価損のことをいい、損害賠償の対象になり得ることについてはほぼ争いがないとのことでした。
(2) 取引上の評価損
車両の修理をして原状回復され、欠陥が残存していないときでも、中古車市場において価格が低下した場合の評価損のことをいいます。以前は争いがあったものの、現在の裁判例では、これを損害賠償の対象として肯定するものがほとんどであるとのことでした。
また、評価損の本質は被害車両の交換価値の低下、すなわち所有権に対する侵害と考えられているため、その請求権は原則として車両所有者に帰属するものと考えられるが、売主・買主間に評価損の帰属について合意があれば、買主にも評価損の請求が認められるそうです。そのため、代理人弁護士としては、早期に車検証等から所有権留保等の有無を確認し、依頼者に見通しを述べられるようにしておくとよい、とのことでした。
5 物損に関する慰謝料
被侵害利益が財産権である以上、物損を理由とする慰謝料請求は原則として認められないとのことです。
6 事例研究
タクシーとの衝突事故(過失割合に争いあり)により、自身の運転するリース車両に物損を被った依頼者から相談を受けた、という想定事案を基に、参加会員との間で議論が交わされた後、相談時から受任後の初動、交渉・訴訟に至るまで、代理人弁護士として留意すべき事項に関するご解説をいただきました。
本件で慎重に検討すべきポイントは3点あり、①過失割合の立証、②レンタカー代、③評価損、とのことです。
①については、ドライブレコーダーや防犯カメラ(Googleマップで現場付近に店舗がないかを確認しておくとよい、とのことです。)等が考えられるが、いずれも短期で自動削除されるおそれが高いため、特に前者については、依頼者に早急にSDカードを抜くよう指示すべきとのご指摘でした。
②については、過失割合に争いがある本件では、修理費・レンタカー代が手出しになる可能性がある(修理着工を踏みとどまるケースもある)ため、依頼者に十分に説明しておくべきとのことでした。
③については、上述(4項)のとおり、車両所有者をすみやかに確認すべきとのことでした。
第3 責任論
責任論においては、法的責任の所在について検討した上で、損害補填の実現可能性のある請求の相手方(保険金の支払を受け得る加害者、資力ある加害者)を検討する、とのことです。
以下のとおり、運行供用者責任(1項)、共同不法行為(2項)の順に、それぞれご説明いただきました。
1 運行供用者責任
(1) 自賠法3条(運行供用者責任)について
民法の不法行為責任が過失責任主義であるのに対し、自賠法の運行供用者責任は事実上の無過失責任であり、人損事故において適用されるとのことです。
(2) 運行供用者とは
(自賠法3条:「自己のために自動車を運行の用に供する者」)
- 判断基準
実務上、運行供用者とは、車の運行についての①運行支配と②運行利益が帰属するものとされている、とのご説明でした(二元説)。
①運行支配とは、社会通念上、自動車の運行に対し支配を及ぼすことのできる立場にあり、運行を支配制御すべき責任があると評価される場合をいい、②運行利益とは、客観的外形的に観察して利益が帰属する場合をいうそうです。 - 運行供用者の範囲
詳細にわたりご解説いただきました。概要をまとめると、下記表のとおりです。
記
原則肯定 | 原則否定 |
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(3) 自賠法3条:「運行によって」損害が生じたこと
- 「運行」によって
「運行」については、自賠法2条2項に定義規定がありますが、同項の「当該装置」の解釈については、最高裁が固有装置説を採用しているとのご紹介がありました。 - 運行「によって」
実務では、運行と事故との間に相当因果関係が存することを要するとされている、とのことです。
本要件との関係で問題となる事例として、駐停車中の自動車における事故が挙げられました。駐停車中の自動車への追突事故や停車中のドアの開閉による事故については、肯定される場合が多いとのことです。他方、荷物の積み降ろしを原因とする事故においては、判断が分かれているとのことです。
(4) 自賠法3条:「他人」の生命または身体
「他人」とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者を除く、それ以外の者」をいうとのことです。
(5) 免責
運行供用者責任の免責規定について、自賠法3条ただし書のご説明を頂きました。
以上のとおり、運行供用者責任についてご解説いただきましたが、自賠法3条の適用が否定されるおそれのある場合には、不法行為責任からのアプローチを検討することも重要であるとのことでした。
共同不法行為(民法719条1項)
(1) 導入
共同不法行為を主張する意義は、個別的因果関係の立証責任が緩和されたり、加害者に連帯責任を負わせ得るという点にあるとのことでした。
以下、各種の問題点についてご説明いただきました。
(2) 純粋異時事故の問題点
- 同時事故・異時事故とは
同時事故は、各加害行為が同一場所で同時に行われた場合をいい、異時事故は、複数の事故の間に時間的経過が存在する場合をいいます。後者のうち、複数の事故が時間的場所的に近接して生じた場合を同時類似事故といい、それ以外の場合を純粋異時事故という、とのことです。 - 問題の所在
純粋異時事故においては、具体化した損害が、先行事故による損害か後行事故による損害か、区別がつかなくなるケースがある点で問題となります。 - 被害者の請求方法
裁判上は、寄与度に応じた分割責任が認定されていますが、被害者の代理人弁護士としては、損害全額が各加害行為と相当因果関係があると主張し、各加害者に連帯責任を求めることになるとのことでした。
(3) 医療過誤との競合
交通事故加害者に全損害の賠償を請求できるかという観点のもと、共同不法行為といえるか、単なる不法行為の競合か、検討すべきとのご説明でした。参照判例として、共同不法行為の成立を認めた最判平成13年3月13日をご紹介いただきました。ただし、当事案は交通事故・医療過誤が時間的に接着していた事案であり、一般化はできないとのことです。
(4) 共同不法行為と過失相殺
①絶対的過失相殺(各加害者の行為を一体的にとらえ、これと被害者の過失割合とを対比して過失相殺をする方法)、②相対的過失相殺(各加害者と被害者ごとに、その間の過失の割合に応じて、過失相殺をする方法)についてご説明いただいた後、各立場の判例についてご紹介いただきました(①:最判平成15年7月11日、②:最判平成13年3月13日)。
第4 おわりに
今回の研修では、物損・責任論という、広く、ややとっつきにくさを感じる分野がテーマでしたが、田部会員のご丁寧なレジュメ(豊富な資料と、約60に及ぶ脚注のフォローまで・・!)と解説で、基本的・体系的なポイントを余すところなくご教示いただきました。
全5回の連続研修がついに最終回を迎え、入門者として参加させていただいた身としては、なんともいえない寂しさと不安感を覚えていますが、手元には、基本書・辞書よりも豊かなレジュメと、ご登壇いただいた先生方の、豊富な実務経験をふまえた解説のメモ書が残っています。今後は、これをバイブルとして、しっかり復習しながら事件処理に臨めたらと思います。
賠償法研究会の先生方には、連続研修を通して、交通事故事案の扉を広く開けていただきました。大変有意義な時間とご縁をいただき、誠にありがとうございました。
【北九州部会】「ジュニアロースクール北九州2019」のご報告
会員 見越 あけみ(69期)
1 はじめに
法教育委員会は、令和元年8月21日(水)、福岡地裁小倉支部204号法廷において、「ジュニアロースクール北九州2019」を開催しました。
中高生19名、その引率者4名の合計23名のご参加により、無事に実施することが出来ましたので、その報告を致します。
2 内容
今回は、殺人事件を題材に模擬裁判(弁護士による寸劇)を行い、「被告人を有罪にすべきか、無罪にすべきか」を中高生に検討してもらうという内容でした。
題材は、本年3月に福岡県弁で実施したもの(ジュニアロースクール2019春in福岡)をたたき台に、多少アレンジを加えました。
事件の概要は、「製薬会社勤務の男性(被告人)が、愛人と結婚したいために、妻(製薬会社の研究員)に離婚話を持ちかけていたところ、ある日、妻が寝室で死体で発見された。妻の死因はトリカブトに含有するアコニチン系アルカイド中毒だった。製薬会社の研究室からは、トリカブトが持ち出されており、寝室に置かれていたコップ(トリカブトの粉が顕出されたもの)からは、被告人と妻の両方の指紋が顕出されている・・・。果たして、妻は自殺したのか?それとも、被告人が毒殺したのか?」というものです。
中高生を5班に分け、引率者班も設けて、班ごとに補充尋問事項を考え、証言や供述の信用性を検討し、有罪・無罪の結論を議論し、発表(判決言渡し)しました。
各班には、担当弁護士を割り当てて議論の補助を行い、証人の目撃証言は信用できるのか、視力は?明るさは?とか、被告人に殺人の動機はあるのか?など、活発に議論されていました。
結論は、全ての班が「無罪」判決を出し、被告人は喜んでいました。
3 感想
模擬裁判では、末廣清二先生が検察官役、竹内佑記先生が弁護人役、古野慧輔先生が裁判官役、中里彰宏先生が被告人役、仲地彩子先生と私が証人役を務めました。
竹内先生以外、普段とは異なる役回りで、皆新鮮な気分だったことと思います(笑)。
私も、証言台の前で宣誓書を読み上げ、尋問をされる経験はありませんので、役とはいえ、非常に貴重な経験になりました。
当然台本はあるのですが、末廣先生や竹内先生が、時折アドリブを入れて来られるので、証人役と被告人役は、終始気を抜けませんでした(笑)。
4 最後に
今回の開催に際して、委員の先生方には、通常業務でお忙しい中、多大なご尽力を頂きました。また、部会事務局の皆様方にも、様々お手伝い頂き、本当に感謝しています。
反省点や改善点は、今後検討していかねばと思いますが、まずは、皆様本当にお疲れ様でした。
2019年7月 1日
養育費・ひとり親110番 ―本年度から毎月開催になりました
会員 井澤 わかな(71期)
去る5月15日13時~16時、第2回「養育費・ひとり親110番」が開催されました。
福岡県ひとり親サポートセンターと福岡県弁護士会の協定に基づき、平成30年度に始まった「養育費110番」ですが、本年度から毎月開催へとバージョンアップされ、電話3台、弁護士3名体勢で対応しています。
昨年度から前回まで全て土曜日開催だったのですが、今回は初の試みで平日の昼間に開催ということで、福岡県の担当課長が「件数が伸びるか心配」と語る中でのスタートでした。
TVQの取材
5月10日に民事執行法の改正があり、利用実績が低調だった財産開示手続に関して「第三者からの情報取得手続」という制度が新設されました。これは、裁判所から、金融機関・市町村・日本年金機構等に照会をして、預貯金債権や給与債権(勤務先)に関する情報が取得されるというものです。
離婚後相手との連絡が途絶え、預貯金口座が変えられていたり、転職で勤務先が分からなくなったりして、養育費の不払いに対する強制執行を諦めていたひとり親にとって光明となることが期待される制度改正ということで、メディアの関心も高く、急遽「養育費・ひとり親110番」にもTVQの取材が入りました。
ひとり親サポートセンターのポスターなども掲示、リポーターやカメラマンの方も合流と、俄然にぎやかな雰囲気の相談室となりました。
相談結果の集計
この日の相談件数は、11件でした。
相談者のお住まいの地域も県内各所、年代もばらばら、属性も離婚前、離婚後、未婚と、あらゆる点で幅広い層からのご相談でした。養育費・ひとり親110番を知ったルートも、福岡県ひとり親サポートセンター経由の方から市報で知った方まで、様々な媒体での広報効果が出ているようです。
今回のご相談内容(複数回答あり)は、
- 離婚問題
親権 1件
養育費の取り決め方法 5件
養育費の金額 4件 - 離婚後の問題
養育費の金額 1件
養育費の不払い 2件 - その他
未婚・認知なし 2件
不貞や財産分与 1件
面会交流 1件
DV 1件
など、養育費単体のテーマから、ひとり親が抱える様々なトラブルまで、ご相談内容の幅も広くなってきているように感じます。
相談担当をやってみて
今回は、未婚・認知なしのご相談が2件あったことが印象的でした。電話の合間、福岡県の担当課長と担当者間の雑談で、未婚での妊娠・出産においては特に、認知請求にしても養育費請求にしても、相手の住所特定・調査に繋がる情報を入手しておくことが不可欠という点から、女子高生/女子大生等にそういう視点での啓蒙も必要ではないかというような話が出ました。
確かに、相手が偽名や経歴詐称であったというご相談は私も受けたことがありますが、リアルな社会生活をよく知らない、SNSやLINEといった手段でしか繋がっていない相手に対する認知/養育費請求という、時代を反映したトラブルは今後も増加が予想されるので、必要な啓蒙だろうと感じます。
また、私は、今回相談担当をやるまで知らなかったのですが、福岡市・北九州市・久留米市以外の方で更なる相談が必要な方については、県内の福岡県弁護士会の法律相談センターで60分の無料面談相談が受けられるクーポン(通称:養育費クーポン)の配布をひとり親サポートセンターから受けられます。ひとり親世帯の所得向上につながる心強い取り組みだと思います。
今回の110番でも、開始時刻からすぐにお一人目の方の電話が鳴り、3台埋まるのも早かったですし、終了までコンスタントに電話が入りました。養育費やその他ひとり親の方が抱える問題の相談需要の多さを体感すると共に、毎月養育費・ひとり親110番が開催されることで支援が行われていることへの認知度も上がり、養育費等の問題解決をあきらめている方の救済に繋がっていくと感じています。
インターネット・IT関連相談会(5月25日開催)報告
IT委員会 委員長 瀬戸 伸一(59期)
2019年5月25日土曜日13時から16時の時間帯で、福岡県弁護士会館にて、IT委員会主催のインターネット・IT関連相談会が開催されました。
例年IT委員会ではインターネット被害110番として、電話相談のみの相談会を行っておりましたが、今回は新会館設立記念のイベントとして、電話相談と合わせて面談相談も実施することにしました。相談者に弁護士会館に来ていただいて認知してもらうということを目的としています。
電話相談は2階の会議室を利用し、面談相談は弁護士会館1階の相談室を利用して行いました。
相談者が来やすいよう、相談日を土曜日に設定したため、面談相談の受付も弁護士が行う形で実施をしました。当日は会館事務局が不在でしたが、事前に万全の準備をしていただいていたため、滞りなく相談実施ができました。
相談会とは関係のないお話ですが、当日は弁護士以外の参加者が多数訪れるイベント(研修会・講演会)が実施されており、入り口近辺に設置されたこの相談会の受付で、「エレベーターはどこか」、「自販機はどこか」という問い合わせを多数いただきました。弁護士会館の設備に関する表示について、不十分な点があると思われます。この点は既に担当副会長など執行部にもお伝えしております。
話を戻しますが、面談相談室は空調も完備され、また、防音対策もしっかりしており、非常に良い環境で相談が実施できました。
また、弁護士会館はwi-fiの使用ができ、弁護士がパソコンやスマートフォンなどを持ち込めば、インターネット利用により、法律その他の資料を自由に参照することができますので、非常に便利です。
実際の相談内容としては、電話相談では、wi-fiの契約に関するトラブルについての相談等が寄せられました。
面談相談では、情報商材の販売に関するトラブル、フィッシング詐欺に関するトラブル、インターネット上への誹謗中傷対策・予防法に関する相談などが寄せられました。
規定の相談時間(電話相談については30分程度、面談相談については30分)では、相談時間が足りない事案もあり、継続相談となるものもありました。
相談会実施後は、有志で、土日は15時から開いている地下鉄六本松駅すぐそばの居酒屋のんちゃんと言う焼き鳥店で懇親会を行い、相談会の反省その他いろいろな話をして懇親を深めました。
相談会受付
弁護士会館1F相談室
電話相談
「子どもの権利条約批准25周年記念トーク&ライブ」のご報告
子どもの権利委員会 委員 伊藤 裕貴(71期)
1 はじめに
1994年に日本が「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」を批准し、今年で25年となりました。そこで、子どもの権利条約批准25周年を記念して、令和元年5月18日(土)、福岡県弁護士会館において、「うまれてきてくれて ありがとう」と題し、子どもの権利条約批准25周年記念トーク&ライブが行われました。
今回は、シンガーソングライターであるmonさんをゲストとしてお招きし、monさんのトーク&ライブの後に、迫田登紀子会員から子どもの権利についてご講演いただきました。
2 monさんによるトーク&ライブ
(1) monさんのプロフィール
monさんは、糸島市在住の2児の母であり、6人兄弟の末っ子として大分でお生まれになられました。叔父の「にしきの あきら」に憧れて、幼少期から歌手になることを決意され、現在は、シンガーソングライターとして、小中高等学校、ホールを中心に年間約180か所でコンサート活動を行っておられます。
また、monさんは、様々な特性をお持ちであるがゆえに幼少期にイジメを受けた経験をお持ちで、当時のエピソードを交えたお話も伺うことができました。
(2) monさんによるライブ
monさんは、開演前のリハーサルの段階から、来場者の方々に美しい歌声を披露してくださり、会場整理を担当していた私も、その歌声に聴き入ってしまい、全く仕事が手につきませんでした(笑)。
monさんは、お話とお話の合間に、「短い愛の歌」、「宝物」、「ほんとはね」、「いのりのうた」、「ふなつきうた」、「千の風になって」、「日めくりのカレンダー」など、多くの歌を披露してくださり、来場者の方々も手拍子で応えるなど、普段の会館からは全く想像できない雰囲気に包まれていました。トークの時の柔らかい話し方とは対照的に、その歌声は、とても力強く、心に直接訴えかけてくるものがあり、ご来場くださった方々の中には涙を流しながら、うなづきながら、その歌の世界に入り込んでいる方も多くいらっしゃいました。
会場の様子
歌を歌うmonさん
(3) monさんによるトーク
monさんは、幼少期のお話、中学校に行けなくなってしまったお話、お姉ちゃんのお話、おばあちゃんのお話など、様々なお話をしてくださり、いずれも楽しくもあり、悲しくもあり、深く考えさせられるお話でした。私は、monさんの講演の最中、忙しいことを言い訳に普段なかなか考えることができない、自分の家族や大切な人のことを考えることができました。monさんがお話しくださった全てのお話をご紹介したいのですが、紙幅の都合上、到底ここには書ききれないものですので、私が特に印象に残ったmonさんの幼少期のお話をご紹介したいと思います。
monさんは、6人兄弟の末っ子としてお生まれになりましたが、出生後、間もなくおばあちゃんの家で育てられ、小学校に入学するまでお母さんや、他の5人の兄弟と一緒に生活をせずに、おばあちゃん宅で暮らしていたそうです。そして、小学校に入学する時に、他の兄弟が住むご実家に戻られ、これまで会ったこともない兄弟との共同生活、小学校という新しい環境での生活がスタートしました。
monさんは、小さいころからどこか落ち着きがない子で、授業中も頭に浮かんだ歌を教室で突然歌いだしたり、描きたいと思った絵をノートなどに落書きしていたそうです。そのような状況でしたので、当然、先生からは「廊下に立っていなさい!」と叱られ、ほとんど教室の中に入れてもらえなかったそうです。また、クラスメイトからは変なやつとからかわれて、登校すると上靴の裏に31個の画鋲が刺さっていたり(全部抜いて机のうえにならべて数を数えてみたそうです。)、下校中にはクラスメイトから、後ろから石を投げられ、的あてゲームの的にされていたそうです。
しかし、小学校3年生の時の担任の先生との出会いがmonさんの学校生活を一変させました。その担任の先生は、monさんがこれまで他の先生から叱られていたことを、むしろ褒めてくれて、monさんがいつものように授業中突然歌いだすと、「いい歌だね。だけど、教室の後ろの方で小さな声で歌おうか。」と教室の外に出すことなく、教室の中で歌わせてくれ、また、授業中の落書きも「とても絵がうまいんだね。」と言って、教室の掲示板にその落書きを掲示してくれたそうです。monさんは、これまでずっと叱られてきたことを褒めてもらえて、好きな歌を歌ってもいいんだ、好きな絵を書いていいんだととても嬉しく思い、それから学校に行くのが好きになったそうです。さらに、担任の先生がmonさんをそのように褒めると、不思議とmonさんをいじめていたクラスメイトの反応も変わってきて、「さっきの歌は、なんていう歌なの?」、「僕の絵も書いて!」と自分の歌や絵に興味を持ってくれるようになったそうです。このように大人の対応が変わると、周りの子どもたちの対応が変わってくる光景を目の当たりにして、monさんは「大人の力ってすごい!」と感じたそうです。
monさんは、このお話の後、ご来場くださったお子様方に向けて、「大人の力ってすごいんだよ。何かあったら頼っていいんだよ。たしかに悪い大人もいるけどね、でも良い大人もちゃんといるよ。みんな君たちのことを一生懸命守ろうとしている大人もいるんだよ。だから、頼っていいんだよ。」とメッセージを送られました。また、monさんは、ご来場くださった大人の方に向けて「大人みんなが手と手を取り合って、大きな網を作って、子どもたちを守っていきましょう。」とメッセージを送られました。
3 迫田登紀子会員のご講演
迫田会員は、まず、子どもの権利条約について、全世界で197か国が批准しているものの、アメリカ合衆国のみが批准していないこと、子どもの権利条約というのは子と向き合うために大人が考えていこうというものであり、ある種当たり前のことが書かれていることをご来場くださった方々に向けてご説明されました。
そして、迫田会員は、子どもがゲームやYouTubeで遊んでいる時に、単に「勉強しなさい。」とか「学校に行きなさい。」と注意してしまいがちだけれども、注意をする前に、「この子は何が楽しいのかな?学校は楽しくないんかな?」と考える時間を作る大切さをお伝えになられました。さらに、そのように考える時間を作ることができたら、次は、子どもと話し、見つめ合い、子どもがやりたいということをやらせてみて、それで失敗したら抱きしめてあげるというのが、大人がすべきことではないかとご来場の方々にメッセージを送られました。
4 おわりに
monさんの優しいお人柄、ほんわかとした雰囲気、力強い歌声、頭ではなく心に直接語りかけるようなメッセージを、私の文章力の稚拙さゆえに皆様にお伝えすることができず大変心苦しい思いでいっぱいです。
私は、子どもの権利条約批准25周年を機に改めて自身の家族のことや大切な人を見つめ直す良い機会を頂戴することができたことに感謝いたしますとともに、すっかりmonさんのファンになってしまいました。
今後ともmonさんの活躍に乞うご期待です!
福岡県弁護士会役員就任披露会のご報告
福岡県弁護士会主任 西原 宗佑(71期)
1 はじめに
令和元年5月29日、西鉄グランドホテル2階鳳凰の間において、福岡県弁護士会役員就任披露会が開催されましたので、ご報告いたします。
役員就任披露会とは、今年度の新執行部が、法曹界のみならず、政界をはじめとした各界のご来賓を多数ご招待して、お披露目をする会となっております。
今回は、来賓143名、会員76名と大勢の方々が出席されておりました。
2 開会
まず、会のはじめに、会場前で新執行部の写真撮影が行われました。
そして、参加者が新執行部とそれぞれご挨拶を交わしながら、会場に入場しました。
全員が入場した後、前田恭輔先生と浅上紗登美先生の司会で開会しました。
次に、来賓のご挨拶としまして、小川洋福岡県知事から、新執行部に対して、祝辞が述べられました。
その後、更なる祝辞として、小林昭彦福岡高等裁判所長官から、お言葉を頂きました。
そして、乾杯の挨拶は、榊原一夫福岡高等検察庁検事長に行って頂きました。
3 新執行部のご挨拶
しばしの歓談の後、新執行部が登壇し、会長、副会長、部会長の順にご紹介がなされていきました。
山口雅司会長が主催者を代表してご挨拶をなされました。
4 新弁護士会館の紹介
新弁護士会館を設計した古森弘一一級建築士が、前方のスクリーンに映しながら、新会館の設計方法や魅力をご紹介されておりました。
山口新会長のご挨拶
古森一級建築士による新会館のプレゼンテーション
5 閉会
そして、最後に副会長兼福岡部会長である光安正哉先生より、閉会のご挨拶を頂き、会は大盛況のうちに終了しました。
6 おわりに
私はまだ弁護士になり、半年ほどしか経っておりませんが、このような法曹界だけではなく、多種多様な他業種の方々が大勢集まる会に1年目から参加できたことは、大変光栄でした。それにもかかわらず、私は、この月報に記載するための写真撮影を行う係となっていましたので、写真撮影に夢中で、多くの来賓の方々と交流をすることができませんでした。このことが本会での心残りでありますので、今後も積極的に参加して、普段関わることの少ない来賓の方々と交流を持つことを今後の目標としたいと考えております。
2019年5月 1日
『ジュニアロースクール2019春 in福岡』開催報告
法教育委員会 委員 田上 雅之(69期)
1 はじめに
年度が変わる直前の平成31年3月26日午後1時から午後4時まで、新会館2階大ホールにおいて、『ジュニアロースクール2019春in福岡』が行われました。例年当委員会で開催しているジュニアロースクールと比べ、かつてないほどの参加者が集う大盛況ぶりだったようです。
今年は、中・高生の参加者を15チームに分けて、それぞれ「被告人が有罪であるのか、それとも無罪であるのか」を証拠に基づき考えてもらうという刑事模擬裁判を行いました。
この度、鹿児島県弁護士会から登録換えをして間もない私でありますが、移籍後初の会務活動としてお手伝いをした平成最後のジュニアロースクールにつき、鹿児島の実情も交えつつ、以下ご報告させていただきます。
2 イベントについて
(1) 開催規模
例年開催しているジュニアロースクールの参加者は、中・高生合わせて30名程度のようです。
今回のイベントには、145名(中学生27名・高校生118名)もの参加者が集まりました。
この度の参加者増については、例年よりもイベント告知を早めたことから、より多くの中・高生にイベントの周知ができたことによるものであり、これに移転間もない新会館での開催であったことなどが後押ししたのではないかと考えられています。
(2) 事案の概要と進行
今回は、『家政婦は見た!・・・のかもしれない事件裁判』と題して、妻を毒殺したとして殺人に問われた被告人が、毒薬ではなくビタミン剤をコップに入れたに過ぎない、毒薬はその後に妻が自分で飲んだと主張する事案につき、中・高生に考えてもらいました。
当日は、当委員会の所属会員が公判手続の寸劇を披露しました。
配役は、被告人役(横山先生)・証人役(家政婦:佐渡先生、研究所職員:八木先生)・法曹役(裁判長:吉田(俊)先生、弁護人:柳先生、検察官:吉村先生)であり、それぞれ熱演を繰り広げました。
とりわけ、佐渡先生の家政婦(某テレビドラマの某登場人物を彷彿とさせる特徴の設定)や八木先生の研究所職員(被告人の実家で35年間家政婦を務めており、被告人に大変愛着があるように窺える設定)の役作りが素晴らしく、各グループに付いた所属会員のみならず、参加者もかなり爆笑し、釘付けになっていました。
参加者には、現場に遺留された物の状態を手がかりに、被告人がコップに何かを入れる様子を目撃していた家政婦や、事件前後の被告人や妻の様子を見聞きしていた研究所職員の供述を踏まえ、15に分けたグループ内で、ほぼ初対面の参加者同士で議論してもらい、家政婦に対する補充尋問・被告人に対する補充質問を考えてもらいました。
そして、証拠調べの後、有罪・無罪を理由と共に検討してもらいました。
(3) 「被告人・・・」
最後に、15のグループの代表者から、それぞれ判決主文と理由を発表してもらいました。
結論は、有罪0、無罪15となり、全てのグループが無罪としました。
各チームは、被告人がビタミン剤を入れたに過ぎず、その後に妻が自分で毒薬を飲んだ可能性を排斥できないということについて相応な理由を示していました。判決についての評議時間が約25分程度と限られていた中で、参加者一人一人が「ああでもない、こうでもない」と真剣に悩み、結論を導いていた点に感心しました。
(4) 他会では・・・
同じ九弁連管内である鹿児島では、当会と異なり、例年8月のお盆休み前に、三庁共催で小・中学生を対象に刑事模擬裁判を実施しております。定員29名に対して40名程度の応募があるといった状況です。
鹿児島のイベントは、地裁の裁判員裁判用法廷を会場として行っており、参加者を法曹三者にそれぞれ配役し、法曹三者からサポートを受けつつ公判手続をロールプレイングで実践し、尋問内容・論告弁論・判決を実際に考えてもらうというものになっています。
3 参加者の様子から
(1) 「・・・についてどう思う?」
参加者には、イベント直前に起訴状と当日取り調べられる証拠書類の抜粋が配布され、「その場で見聞きして考える」を実践してもらいました。
各裁判体に所属会員がサポート弁護士として付きながらも、議論そのものは参加者に進めてもらうなどしました。
サポート弁護士が直前の寸劇の内容を改めて説明するなどして議論のポイントをそれとなく示すと、さすがは中高生です。特に誘導しなくとも、「証拠の○○についてはどう思う?」など想定している議論に次々と進んでいきました。
特に、高校生が学校の授業で学んだ「疑わしきは被告人の利益に」を意識しながら議論をリードし、証拠の評価を行っていたのがとても印象的でありました。
(2) あらゆる方向から証拠を検討する姿勢
今回のイベントの事案は、目撃者証人の当時の視認状況と内容が重要なポイントの一つになっていました。
座って議論していた参加者が、各裁判体に証拠物のコップが回ってくるとおもむろに立ち上がり、あらゆる方向からコップの見え方を確認するなどしていました。
あらゆる角度から証拠を吟味する重要性を改めて感じた次第です。
(3) 説得的に意見を述べる姿勢
グループの代表者に判決理由を発表してもらいましたが、家政婦の目撃供述について推認力の限界や、犯行に用いたとされるコップから被告人の指紋が出ていながら、薬包紙から被告人の指紋が出ていない不自然さを法曹さながらに説得的に言及する発表者もおり、大変圧倒されました。
4 本年度のジュニアロースクールに向けて
(1) アンケート結果から
イベント後に参加者アンケートを実施したところ、9割近くの参加者が「おもしろかった」と回答してくれているものの、7割近くの参加者が「難しかった」と回答しております。
これは、ほとんど初対面の参加者同士で議論し、参加者がよく考え悩みながらも結論を出すという体験を通じて、今回のイベントを充実したイベントであると感じてくれたという証であり、イベントの目的を存分に味わってくれたということになるでしょう。
(2) 題材はどうか
今回のイベントのアンケート結果では「有罪を決定づける証拠がない」とする回答が複数寄せられておりました。
今回の事案では、台所で被告人が何らかの粉末を入れていることが認定できる状況で(家政婦供述と被告人供述とは、被告人が台所で粉末を入れているという限度で符合しております。)、家政婦供述に基づき「台所で毒薬を入れた」という検察官の主張と、「ビタミン剤を入れた」という被告人の主張とが対立しているところ、妻の寝室で毒薬の成分が付着した薬包紙が落ちていたという事実が証拠により認定できるということになっていました。
参加者のグループ代表者の発表でも問題意識が表れていたように、仮に検察官の主張のとおり、被告人が台所で毒薬を入れたのであれば、その際用いた薬包紙を台所で処分するのが自然であると思われます。寝室で毒薬の成分が付着した薬包紙が落ちていたという状況自体、妻が寝室で自ら服毒したという被告人の主張を強く裏付けており、この点、特段検察官の反論を支える事実や証拠の手当てがなされていませんでした。
なお、鹿児島のイベントでは、毎年三庁から事案を持ち寄ってシナリオを決定していますが(無罪の昨年は検察庁が準備したものが、有罪の一昨年は弁護士会が準備したものが、それぞれ採用されています。)、シナリオとしては有罪・無罪がきわどいものとなっております。
(3) まとめ
当会の法教育委員会では、広く市民の方々に開かれた法教育の提供を目指しており、刑事模擬裁判に限らず、様々な方法で法や司法制度の背景にある価値観を発信し、とりわけ将来の担い手となる中・高生を対象として、「自分で、よく考え、物事の判断をすること」の重要性の"気づき"となる取り組みを続けています。
次回以降のジュニアロースクールのイベント実施にあたっては、結論の方向性への匙加減(証拠のちりばめ方)もよく議論することで、一つでも多くの"気づき"を提供でき、よりよいイベントとして好評を博するのではないかと考えています。
2019年4月 1日
あさかぜ基金だより ~弁護士過疎地における事務所開設披露,及び壱岐ひまわり基金法律事務所引継式に出席して~
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所
社員弁護士 田中 秀憲(69期)
昨年12月31日まであさかぜで勤務していた服部晴彦・古賀祥多の両弁護士が弁護士過疎偏在地域に,それぞれ赴任,開業しました。その事務所の開設披露(平成31年3月2日)と引継式(平成31年2月12日)に出席してきましたので報告します。
佐賀県みやき町での事務所開設披露
みやき町での初めての法律事務所
佐賀県三養基郡みやき町は,人口が2万5000人の町で佐賀県東部に位置し,鳥栖市,吉野ヶ里町などに隣接するほか,福岡県久留米市とも筑後川を県境として接しています。服部弁護士は故郷のみやき町で,日弁連の過疎偏在対策解消支援制度を利用して,「みやき法律事務所」を開設しました。服部弁護士がみやき町で事務所を開設するまで,同町は,弁護士が存在しない偏在解消対策地区でしたが,服部弁護士が事務所を開設したことによって弁護士の偏在が解消されました。
事務所訪問
みやき町は西鉄久留米駅からバスで30分ほどのところにあります。西鉄久留米駅周辺には商店が軒を連ねていますが,みやき町に向かうにつれ,次第にその数が減り,かわりに,田畑やビニールハウスなどの,のどかな田園風景が広がってきました。
事務所最寄りのバス停で降り,幹線道路から住宅地へと入っていくと,みやき法律事務所が見えてきて,服部弁護士が出迎えてくれました。事務所内に案内され,事務所のレイアウトや什器備品類等を見学しつつ,事務所を開設するうえでの苦労話やこれからのみやき町での弁護士としての活動の抱負を聞かせてもらいました。弁護士のいない地域で新しく事務所を開設し,弁護士過疎偏在問題を解消しようとしている服部弁護士の姿を見て,私自身の赴任という,そう遠くない将来の自分に照らし合わされ身が引き締まる思いがしました。
壱岐ひまわり基金法律事務所の引継式
壱岐ひまわり基金法律事務所
壱岐市は,人口2万7000人,面積139平方キロメートル,福岡市から北西80キロに位置し,高速船で1時間です。海産物が豊富で,稲作も盛んです。
壱岐ひまわり基金法律事務所は,平成22年に開設され,梶永圭弁護士が初代所長に就任し,以降は,あさかぜのOBである,松坂典洋,島内崇,中田昌夫の三弁護士が所長を代々引継ぎ,このたび古賀祥多弁護士が中田弁護士から所長を引き継ぐこととなりました。
引継式
引継式では,中田弁護士の話が印象的でした。それは,もう少し早く相談してくれればよかったという案件があり,弁護士に相談することが住民にとってまだ敷居が高いことを実感したというものでした。住民の方がどんな理由から弁護士に相談ができないのか,はいろいろな事情・背景があって簡単には解消されない問題だとは思いますが,弁護士過疎地域で活動することの難しさを感じました。
このような中田弁護士の話を受けて,古賀弁護士が,ちょっとしたことでもいいから大ごとになる前に相談してもらえる事務所にするために,とにかく相談をすることの重要性を住民の方にも分かりやすいように説明していきたい,と決意を表明しました。それを聞いて,弁護士として相談が来るのを待つだけではなく,自ら出向いてでも住民の方の話に耳を傾けることが大事なんだと考えさせられました。
披露会
続く披露会では,壱岐の行政や裁判所,そして,公設事務所の設営・運営等に関わる関係者がたくさん出席され,中田弁護士がこれまで積みあげてきた信頼や古賀弁護士に対する期待の大きさを実感しました。
披露会では,地元壱岐で漁れた海の幸などがふんだんに振る舞われ,脂ののった刺身を大変美味しくいただき,大満足でした。
公設事務所支援委員会
披露会のあと,長崎県弁護士会による公設事務所支援委員会が開かれ,あさかぜ所員も委員会の一部に出席することができました。委員会では長崎県内のひまわり基金法律事務所における事件処理や運営状況の報告などが行われ,壱岐ひまわり基金法律事務所が長崎県弁護士会の強力なバックアップのもとに運営されていることを実感しました。経験年数が浅い弁護士でも事務所を運営するにあたっての悩みや問題点などを相談できる場が設けられていることを知り,赴任したときの不安がいくらか解消し,少しだけほっとした思いでした。
これからもがんばります
退所するまで一緒に活動していた先輩弁護士が,独立開業・赴任するのを見たのは今回が初めてでした。このような経験ができ,私も新天地に赴任したときにはしっかり弁護士としての職責をまっとうしたという思いを強くしました。残りの養成期間,赴任に向けてしっかりと研鑽を積んでいきますので,引き続きのご支援・ご指導をよろしくお願いします。