福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

第61回人権擁護大会シンポジウム「外国人労働者100万人時代の日本の未来」のご報告

国際委員会 丸山 明子(61期)

1 はじめに

本シンポジウムは2018年10月4日リンクステーションホール青森で開催されました。

「外国人雇用状況」の届出状況(2017年10月末時統計)によると、日本で働いている外国人労働者の数は約128万人(前年比18%増)、このうち約30万人が留学生等の資格外活動、26万人が技能実習生、約24万人が専門・技術(外国料理の調理師、語学教師など)分野となっています。すでに労働者50人のうち1人が外国籍の方となっており、今期の臨時国会では新しく在留資格「特定技能」を設置し、現行技能実習制度で受け入れている業種を拡大するための入管法改正案1が審理されており、成立すれば来年4月から施行される予定となっています。

まさに時機にかなったシンポジウムの内容ですので、本稿でご紹介できればと思います。

2 移民大国ドイツの先例

基調講演では宮島喬お茶の水女子大学名誉教授が登壇され「外国人労働者の受け入れと『人』との権利の保障」と題し講演されました。その中で、戦後の労働不足を補うため1961年より主にトルコから外国人労働者を受け入れてきたドイツの事例が紹介されました。

当初、ドイツでは彼らを定住化させないために2年〜数年程度の短期ローテーションで受け入れる政策を採っていましたが、受入企業から短期雇用による不経済(仕事ができるようになると帰国されるため、再度新たに人材育成しなければならない)を指摘され、1971年法律を改正し、より長期かつ更新可能な在留資格を設定するようになったという経過があります。石油危機後の不況で73年に外国人労働者の受け入れを停止し、帰国奨励政策を採るも効果がなく、かえって定住を選択し(帰国すると二度と戻れないため)、家族の呼び寄せを権利として求めるようになり、90年法律の改正により家族の呼び寄せを制度として認めるようになります。

受入当初の政策の姿勢及びその後の経過は、日本が現在そしてこれから直面する問題をそのまま映しているようです。

3 日本の現状:「技能実習生」

報告では「技能実習生」に特化し、問題点等が報告されました。報道等で頻繁に取り上げられておりますが、簡単にご紹介すると、

  1. 技能実習生は現地送出機関(ブローカー)に多額の保証金等を納めている人がほとんどで、こうした初期費用を返済するためには1年以上かかる。
  2. 安価な労働力としか見なさない受入機関が後を絶たず、劣悪な労働環境(雇用契約違反、低賃金、長時間労働、残業代の不払い、過労死、労災死、セクハラ、パワハラ等)、劣悪な住環境、強制帰国など労働法違反・人権侵害の温床となっている。
  3. 職場移転(原則)・転職の自由がない上、保証金等の返済のため帰国もできず、劣悪な職場から抜け出すために失踪、不法残留、不法就労に陥る実習生が少なくない。
  4. 技能実習という建前だが実態は単純労働に従事させるもの。

といった問題が存在します。「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」鳥井一平代表が、実習生がまさに受入機関の人から強制的に帰国されようとしている空港での緊迫したやり取りを撮ったビデオを流されましたが、日本でこのようなことが起きているのかと唖然とするものがあります。

これまで日本は援助や支援を通じた外交により、こうした送り出し国の人々からは好印象を持ってもらっていたはずですが、このままでは、これまでの外交成果を無に帰するどころか、若い人たちに日本への悪感情を植え付けることになりかねず、憂慮せずにはいられません。

なお、留学生(技能実習生よりも労働人口として多い)や専門・技術の在留資格で働いている外国籍の人、その他様々な就労形態で働いている外国籍の人たちには、それぞれ同様・固有の問題があるのですが、当該シンポジウムではそれについては全く触れられませんでした。「外国人労働者」と銘打っていますが「技能実習生」とすべきでしょう。なお宣言案採択に際し留学生について質問が上がり「新たな非熟練労働者受け入れ制度ができれば解決する。そもそも人権侵害の訴えが少ない。」と回答されていましたが、決してそのようなことはありません。

4 「特定技能」制度

パネルディスカッションでは、経団連井上隆常務理事が、経営者は中長期の在留・人材育成を望んでいること、労働人材獲得の国際的競争があり日本で働きたいと思ってもらえるような制度・環境が望ましいと発言されており、先に紹介したドイツの先例をも合わせて考えると、「移民政策は取らない」、「単純労働による就労資格は認めない」建前を考え直さなければならないのは、時間の問題であろうと思われました。

現在国会で審理されている特定技能制度は、残念ながらこうした声に応えるものではなく、また先に述べたような技能実習制度の問題を解決するものにはなっていません。また、最長10年の在留を認める制度でありながら家族の帯同を認めない、外国人のための生活支援(日本語の習得等)を国が行わない(民間や地方に丸投げ)といった問題点がさらに指摘されています。

なお、当該法案については、11月13日付で日弁連が意見書を出しています。

5 さいごに

今回のシンポジウムでは、外国人労働者受入後のあるべき社会として「共生」をテーマにした報告もあり、お決まりの海外=欧州視察報告もありましたが、1991年から日本語を母語としない人の日本語支援、生活支援、地域との交流会をしている「のしろ日本語学習会」、外国人の子の不就学ゼロに取り組まれている「浜松国際交流会」、66名(2017年度)の外国籍生徒を有する東京都立一橋高校(定時制)が抱える様々な課題と取り組みが紹介されました。

シンポジウムの成果として宣言が採択されましたが、法的サービスが必要な外国人労働者にアウトリーチできていない我々の課題について、他に向ける厳しい目を自分たちにも向ける必要はないのだろうかと思われました。

また、今回、私は、本シンポジウムの実行委員として福岡からスカイプを利用し会議に参加していましたが、会議の進行ではそうした参加者を把握しない等々広く意見を聞く様子はなく、一部(主に関東)の意見に日弁の衣を着せる場のようで、これまで日弁で活動されてきた地方委員の方々のご苦労に想いを馳せる機会ともなりました。

2018年10月 1日

事業承継セミナー・個別相談会のご報告

中小企業法律支援センター 委員 三角 亘平(67期)

第1 はじめに

当会は、毎年、日弁連及び全国の弁護士会と連携して全国一斉で中小企業向けシンポジウム及び無料相談会を開催しています。

当会では、同シンポジウム及び無料相談会を、福岡、北九州、筑後、筑豊の4地区で同時開催しておりますが、今年は、平成30年9月7日(金)、例年同様に同4地区で同時開催されました。

具体的には、福岡地区では天神のエルガーラホールにおいて、事業承継に関するセミナー等が開催されました。

同セミナーにおいては、まず「伝統の味をつなぐ」と題し、因幡うどん前社長竹﨑敏和氏による、当事者側から見た事業承継に関する講演、次に「事業承継支援ネットワーク事業について」と題して承継コーディネーター田淵耕一郎氏による講演、さらに「弁護士による事業承継支援」と題し、当委員会の委員である高柴弁護士の講演が行われました。その後、それに付随して、弁護士による個別相談会も実施されました。

セミナーは、ほぼ満員の大盛況であり、弁護士にとっても大変ためになるものでした。

以下、福岡地区での個々のセミナー及び個別相談会それぞれの概要についてご報告いたします。

第2 「伝統の味をつなぐ」

創業65年の歴史と伝統を持つ因幡うどんにおいて、工場設備の老朽化による大きな再投資が必要になり、後継者選定の必要性が現実のものとなって事業承継が検討されることとなりました。

その際、店を閉める、子供に経営を譲る、社員に経営を譲るといった選択肢も検討されましたが、資金力の問題や、従業員の雇用の問題、別の仕事を生き生きとしている子供の意思といった問題を考慮し、最終的に第三者に経営を譲るという選択をされたということでした。

第三者に経営を譲るとの決断をしてから、弁護士、会計士、税理士を含む専門家集団に譲受企業の紹介から、会社の客観的価値の評価、譲渡対象にどこまでの資産を含めるのか、会社分割等利用するスキームの選択、具体的契約内容まで支援を受けることになりました。

この際、前社長が最も重視していたのが、演題でもある「伝統の味をつなぐ」、すなわち、味と品質を承継する、ということでした。

実際に事業承継を終えた後も、前社長は顧問として承継会社に残り、店で出汁を取ったり、味と品質の維持に関わり続けており、非常に満足感を得ているとのことでした。

仮に専門家集団の支援がなければ、伝統の味や品質が維持できなかった可能性があるばかりか、そもそも伝統ある会社が廃業していた可能性もあります。弁護士を含む専門家集団の支援の必要性が痛感されるとともに、その影響の大きさに感銘を受けました。

第3 「事業承継支援ネットワーク事業について」

承継コーディネーターの田淵氏からは、主として事業承継の現状と課題及びネットワーク事業の意義等の説明がありました。

まず、事業承継の現状と課題として、好業績企業でさえ、高齢化の波に押され、後継者難に瀕し、廃業の可能性がある現状が指摘されました。

第2で取り上げた因幡うどんといえば、博多うどんといえばココ!というほどの有名店なわけで、そのような好業績企業が廃業予定企業の中に存在しているということでした。

因幡うどんの場合はうまく弁護士等が入ることで成功した例ですが、実際には、事業承継がなされずに廃業予定の企業が多数あり、それにより雇用、技術、ノウハウが失われてしまう可能性が指摘されました。

なお、廃業予定企業の廃業理由は下のグラフのとおりであり、後継者難という消極的な理由が3割近く占めていることが目を引きます。

事業承継セミナー・個別相談会のご報告 廃業予定企業の廃業理由(田淵氏の当日配付資料より引用)

(田淵氏の当日配付資料より引用)

他方、事業承継を支援するに当たって、弁護士を含む支援機関の支援が細切れになっているという問題点が指摘されました。

そこで、福岡県事業承継支援ネットワークでは、この点を解決すべく、地域中小企業支援協議会と商工団体、金融機関、士業等専門家、行政が連携するネットワーク構築を重要視しているとのことでした。

具体的には、事業承継診断を実施して、潜在的な事業承継問題を顕在化させ、連携する専門家への相談が適当と判断される場合には、専門家を派遣するとともに、診断ヒアリングの実施者がこれに同席して連携していること等が説明されました。

また、診断においては、事業承継前に経営改善を図り、後継者候補等が継ぎたいと思えるような経営状態に高める取り組みや経営の「見える化」、企業の魅力作りを進める取り組みについて、わかりやすい説明がなされました。

第4 「弁護士による事業承継支援」

高柴弁護士からは、M&A以外の事業承継の場合に何が問題になるのかといった説明や、事業承継における法的問題の指摘がなされ、弁護士の支援の必要性が説かれるとともに、ひまわりほっとダイヤルが一般向けに周知されました。

第5 個別相談会

その後、個別相談会が催され、こちらも事業承継を主たるテーマに設定してはおりましたが、その周辺分野も含め、不動産の所有権について、M&Aで買い取る場合の法的問題点について、M&Aによる買収の進め方について、労働関係について、契約書について、といった様々な相談がなされ、大変盛況でした。

第6 おわりに

事業承継は、高齢化が進む現在において、ホットな分野であることは間違いありませんが、中小企業経営者にとっては先送りしがちな問題です。

我々弁護士が、その支援をしていくことの重要性が痛感されるとともに、逆に当事者からのフィードバックを受け、より良い支援体制を構築していくことが重要だと感じました。

養育費110番、スタートしました!

両性の平等に関する委員会 委員長 山崎 あづさ(54期)

8月25日(土)、福岡県による「養育費110番」の第1回が行われました。当日の様子と、この新たな取り組みの内容をあわせて、ご報告いたします。

養育費の受給率向上への取り組み

ひとり親世帯の親子の生活を支える上で、養育費の経済的な支払いはとても重要です。しかし、離婚の際に言い出せなかった、金額を決めたのにその後一切貰えていない、あるいは数か月や数年で支払われなくなったなど、様々な経緯で養育費を受け取れていないケースは多々見られます。

平成28年度福岡県ひとり親世帯当実態調査によると、ひとり親(母子世帯)の平均年収は約240万円、離婚の際に養育費の取り決めをしている割合は44%、実際に養育費を受給している割合は約24%にとどまっているといいます。

こうした、ひとり親世帯が抱える養育費に関する問題などの解決を図るため、福岡県と福岡県弁護士会は、今年、2つのサービスについて協定を締結しました。

それが、「養育費110番」(弁護士による無料電話相談の開催)と、「養育費クーポン無料相談」(福岡県ひとり親サポートセンターが発行するクーポンを利用して県内17カ所にある福岡県弁護士会の法律相談センターで、60分の無料面談相談を受けられるサービス)です。

特に「養育費110番」は、ひとり親世帯の所得向上を図るための新たな事業であり、全国的にも珍しい取り組みだということです。

110番当日・・・次々と電話が!

その第1回が、8月25日(土)に行われました。

午前10時から午後4時まで、福岡県弁護士会館にて、電話4台、弁護士8名(午前・午後各4名)という体制で待機しました。

事前に新聞各紙や自治体の広報誌等で告知されていたためか、午前10時に電話回線をつないだ途端、次々と電話が鳴り、あっという間に4台とも埋まりました。相談を終えて受話器を置いたら、すぐにまた電話が・・・!時間帯にもよりますが、その後もほぼ途切れることなく電話が鳴りました。

相談の内容は、やはりご自身の抱えておられる問題についてのものが多く、事案を聞き取って、法的なアドバイスをして・・・と、通常の法律相談に近い対応が必要でした。さらに弁護士による支援が必要だと判断されるケースについては、福岡県の無料相談クーポンの対象地域にお住まいの方であれば、クーポンの利用を案内しました。

相談結果の集計

この日の相談件数は、全部で32件でした。

相談者は20歳代から70歳代まで幅広く、「娘の件です」といって電話をかけてこられている方も数名いました。お住まいの地域も、福岡市をはじめ、久留米市、筑紫野市、宗像市、八女市、行橋市など、県内全域に及んでいました。

相談内容の集計結果は、以下のとおりでした。(複数回答あり)

  • 離婚問題 全般 2件
    養育費の取り決め方法 4件
    養育費の金額 4件
  • 離婚後の問題 全般 1件
    養育費の不払い 16件
    養育費の金額 3件
    養育費の取り決め方法 4件
    その他 1件(支払いが遅れ気味)
  • 未婚の場合の養育費 1件

これを見ると、養育費の不払いの相談が突出して多いことがわかります。やはり、養育費の不払いが深刻な状況にあるのだと実感しました。

今後の開催について

今回、初めて開催した「養育費110番」でしたが、予想を超える電話の件数でした。また、内容も、どれも切実なものでした。後日、県の担当の方から、「本当にこの事業を実施してよかった」との言葉をいただきました。

「養育費110番」は、今年10月27日(土)と来年2月にも実施することが決まっています。また、少なくとも3年間は継続して実施する予定だということです。

ということは、それだけのメンバーを確保していかなければならないわけで・・・今後、110番の相談担当にご協力いただける弁護士の名簿を作成することを考えています。

みなさま、ぜひご協力をよろしくお願いいたします!

全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」ご報告

子どもの権利委員会委員 浅上 紗登美(69期)

1 はじめに

去る平成30年8月18日、天神ビル10号会議室にて、全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」が開催されましたのでご報告致します。

2 開会のご挨拶

知名健太郎定信委員長の開会のご挨拶とともに、ご多忙の中駆け付けて下さった、野田国義参議院議員、大島九州男参議院議員、山内康一衆議院議員、仁戸田元氣福岡県議会議員、鬼木誠衆議院議員の秘書の方よりご挨拶いただきました。

それぞれの皆様のご挨拶では、少年に裁量で国選付添人がつけられていることへの驚き、そして早急な解決に向け尽力したい旨の熱いお言葉を頂戴しました。

3 基調講演

「少年法講義」でお馴染みの武内謙治九州大学大学院教授による「国選付添人制度の課題」と題した基調講演が行われました。

全ての少年に国費で付添人がつかないといった現行少年法の問題点やその原因が国費を拠出することへの国民の納得を得ようとする制度設計になっていること等をご説明いただきました。

環境調整の重要性は明らかであるにも関わらず、環境調整の役割を果たしている付添人がつかない現行制度では、少年の特質、環境等の要保護性を勘案した適切な処遇をすることができず、結果的に少年の立ち直りを阻害しているのではと感じました。

4 九弁連報告

九弁連子どもの権利に関する連絡協議会吉田孝光委員長より、九州各地の独自の付添人活動のご報告、そして、九弁連としても各地でのシンポジウム開催や宣言など、全面的国選付添人制度実現に向け活動することが表明されました。

5 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、ご講演いただいた武内教授、NPO法人田川ふれ愛義塾理事長の工藤良さん、SFD21JAPAN理事長の小野本道治さん、野口石油中原給油所所長兼保護司の野口純さん、そして元少年2名をパネリストとしてお招きし、少年との関わり方、付添人の関与による利点、少年自身の経験をお話いただきました。

全ての方々が共通してお話していたのは、「少年は必ず変わることができるが、時間がかかる。1ミリでも軌道修正できるよう、諦めず見守っていくことが大切」、「責任ある仕事を与え、社会での役割を与える」、「怒られることに慣れているので、とにかく褒めてあげる」ということでした。

大人を敵視していた元少年たちは、工藤さんたちに引き合わせてくれたり、処遇決定後も面会に来る弁護士の姿を見て、周囲のありがたみ、自分のしたことの重大さを知ることができ、立ち直るきっかけとなったそうです。

さらに、元少年たちが、100名以上もの参加者を前にして、「これからは、少年たちに辛い思いをさせないよう寄り添い、時には本気でぶつかりながら、人としての筋道を教えていきたい。少年たちのおかげで日々自分も成長させられ、日々感謝して過ごせている。」と話していました。

大人を信じられなくなるような境遇で過ごしたはずの元少年たちの堂々とした姿を見て、私自身も感動しましたが、何より、元少年たちに携わってきた弁護士の先生方や受け入れ先の方には、万感胸に迫るものがあったのではないでしょうか。

少年の立ち直り支援、全面的国選付添人の必要性について、参加者の方々に深く考えるきっかけを与えた大変意義深いパネルディスカッションであったと思います。

6 集会宣言

少年更生を支える各団体の皆様と賛同者一同で「全面的国選付添人の実現を求める集会宣言」を行い、付添人の質の向上及び全ての子どもたちへの支援実現を宣言しました。

7 閉会のご挨拶

最後に、当会の上田英友会長より閉会の挨拶がなされ、盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じました。

8 おわりに

本シンポジウムは、他の少年には付添人がいるのに、自分には付添人がおらず適切な支援を受けられない少年の不平等間をなくしたいという想いから、タイトルを「なんで、弁護士ついとらんと?」にしました。

当日は、100名以上の方々にご参加いただき、アンケートにもご協力いただきました。アンケートでは「弁護士の支援の重要性をよく理解できた」、「支援に関わる人・機関の連携の重要性を改めて感じることができた」、「若気の至りで間違っても、長い人生の中で次代を担う市民として健全に育っていく機会をもっと増やしていくべきと考えた」等の意見が大多数でした。少年の不平等感をなくしたいという想いにご賛同いただけたことを喜ばしく思いました。

他方で、制度実現に伴う付添人の質の低下を懸念する意見もあり、付添人としての質の向上に努めることが、制度の早期実現の近道なのかもしれないと感じた次第です。

私自身も「愛は与えっぱなし」という言葉を体現できるよう、付添人として日々邁進して参ります。

最後に、この場をお借りして、携わって下さった各関係機関の皆々様に厚く御礼申し上げます。

第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~

法教育委員会 委員 見越 あけみ(69期)

1 はじめに

平成30年8月10日(金)福岡ビル9階 大ホールにおいて開催されました「第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~」について、ご報告致します。

本セミナーは、教育関係者(高等学校・小中学校の教員や教育委員会)、教科書出版社など教科書作成に携わる方々、弁護士を対象として、2022年度より高校の必修科目として導入される「公共」(現行科目「現代社会」は廃止となります。)について、授業のあり方や教科書(教材)の内容について考えることを目的として開催されました。

2 セミナーの内容

セミナーは、(1)基調講演2本、(2)「公共」の授業内容・教科書に関する報告、(3)弁護士が目指すモデル授業案の提示、(4)パネルディスカッションという盛りだくさんの内容でした。

まず、(1)基調講演(その1)として、橋本康弘先生(福井大学教授)より、「『公共』の基本的な考え方と授業づくり」というテーマでご講演いただきました。新科目「公共」のキーワードは「見方・考え方」、授業づくりのポイントは「見方・考え方」をしっかり使うことにある(=主題を設定し、「見方・考え方」を使いながら、その主題の解決のあり方を構想する。)とのことでした。「公共」では、決論に至る手続の公正、機会の公正、結果の公正という視点に加え、「世代間公正」「地域間公正」という視点からも結論の妥当性判断が求められるようです。

基調講演(その2)では、吉村功太郎先生(宮崎大学大学院教授)が、「シティズンシップ教育から新科目『公共』に期待するもの~社会の担い手である市民としての資質・能力の育成~」というテーマでご講演されました。英国のシティズンシップ教育論に触れた上で、問題を多面的・多角的に捉え、自らの選択・判断基準を反省的に磨いていくことのできる授業が求められる旨お話しされました。

次に、(2)「公共」の授業内容・教科書に関し、日弁連 市民のための法教育委員会 委員長の野坂佳生先生(福井弁護士会)よりご報告がありました。公(おおやけ)と私(わたくし)の概念、事実と論拠に基づいて主張を組み立てることなど、「見方・考え方」に関する分析的な視点が示されました。

続いて、(3)当会の法教育委員会 委員長の甲木真哉先生より、弁護士会が目指すモデル授業案のご提案がありました。法教育委員会が行っている「出前授業」と「公共」が目指す思考訓練には通ずるものがあるという観点から、「公共」の授業運営のヒントとして、出前授業の教材や授業進行案が提示されました。

そして、本セミナーのメイン企画、(4)パネルディスカッションです。当会会員で九弁連の法教育に関する連絡協議会委員長を務める春田久美子先生をコーディネーターとして、基調講演をしてくださった橋本先生、吉村先生に加え、福岡県折尾高校社会科教諭の中野孝太先生、当会法教育委員会副委員長の柏熊志薫先生の4名のパネリストが、それぞれのお立場から意見を述べ、議論されました。「論理的思考力」という世界ベースで求められる能力を、教育課程の中でいかに生徒に習得させるか、教員の指導力に依拠する面もあり、期待と不安が混在する現場の状況が窺えました。

「公共」は、単に知識の習得を目的とするのではなく、多角的・論理的な思考力の習得を目指す科目であるという特性から、質疑応答の場面では、評価方法に関する質問も多く出されました。評価するためには思考過程の見える化が必要なこと、その際には言語力も求められること、だとすれば国語で使用される評価基準も参照に値するのではないか・・・などなど、活発に意見交換が行われました。

3 最後に(感想)

今回、「現社(現代社会)」が「公共」に変わる!?、「公共」とは何ぞや・・・という興味から本セミナーに参加させていただきました。

高校の授業で論理的思考力が重視されることは歓迎すべきことと思いますが、授業内容や評価方法、試験対策など未知数の部分が多くあり、教育関係者も不安を抱えているように感じました。

「公共」と法教育委員会が行う出前授業とは精通する部分も大いにあるように思いますので、教育関係者と弁護士とが密に協力・連携することで、「公共」も出前授業も質の向上につながればよいなと感じました。私もその一助となれるよう尽力出来ればと思います。

LGBT研修報告 ~スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル~

LGBT委員会 委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

去る2018(平成30)年8月1日、福岡県弁護士会館3階ホールにて、LGBTに関する研修会が開催されました。

3部構成で、第1部は久保井会員からLGBTに関する基礎知識について、第2部は入野田会員からLGBTに関する裁判例についての講演があり、最後に福岡市の人権推進課課長から、LGBTに関する福岡市の取り組みについてご紹介いただきました。

2 当事者がかかえる困難~社会は変えられるか~

久保井会員からは、いわゆる性的マイノリティであるLGBTに関する基礎知識と、当事者が抱える困難について、社会学の文献まで引用しながら非常に分かりやすくご説明いただきました。

LGBTに対する根深い社会的差別があるため、我が国ではそもそもいないものとされていること。ひとたび露見すれば強い差別や嫌悪にさらされる恐れがあり、当事者は時に自死にもつながる様々な困難を抱えていること。

どうにかしなければと思いつつ、社会を変えるなんてどうしたらいいんだと頭を抱えてしまいそうですが、久保井会員から希望を感じられるエピソードをご紹介いただきました。

3 スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル

それは、スカーレットヨハンソンをめぐる宇多田ヒカルとそのフォロアーのツイートに関するエピソードです。

映画を観る方なら、ヨハンソンのことはご存じだと思います。著明なハリウッド映画俳優ですが、生まれつき割り当てられた性別が女性で、自認する性も女性である、いわゆるストレートの女性です。その俳優が、トランスジェンダーの役で映画に出演することが決まったのですが、これについて批判を受け、結局その映画への出演を断るに至りました。

このときの批判は、トランスジェンダーの俳優はそもそも出演機会が限られているのに、トランスジェンダーの役をストレートの俳優が演じてしまうと、トランスジェンダーの俳優の貴重な出演機会が奪われる結果となり、少数者がより圧迫されてしまうという趣旨のものでした。そして、ヨハンソンが降板したのは、このような批判に共感したためでした。

これに対し、宇多田が、「ストレートがトランスを演じてはいけないと言うならば、トランスはストレートを演じてはいけないということにならないか」、という趣旨の英語によるツイートをしました。スカーレットヨハンソンに対する様々な批判について困惑してのものと思われます。

これに対し、その発言の間違いを指摘するツイートが多く寄せられました。ここで問題となっているのは「ストレート」(性的指向)ではなく、性自認であり、シスジェンダーであるヨハンソンがトランスを演じること、トランス俳優にはお笑い的な演技以外の活躍の場がない現状、だからこそトランスを扱った映画においてトランス俳優が起用されないことの問題などを指摘するものでした。

しかし、それらの指摘はいわゆる「炎上」というような、相手を非難したり罵倒したりするものではなく、相手の立場を尊重し、理性的に誤りを指摘するものだったそうです。ある投稿者の多少揶揄的な表現への批判について、当の投稿者が誠実に返答し、批判した者が改めてその返答に敬意を示すなど、それなりに「成熟した」会話が見られました。

こうして、宇多田の投稿から数時間内に、何千もの反応があり、それは概ねトランスに対する「正しい」理解の方向へと収束していきました。これを受け、宇多田自身も、性自認と性的指向を混同していたことについて率直に謝罪した上で、「問題の核心であるアイデンティティの問題を見失っていた」、「寛容と忍耐のみが不寛容と無知と闘う唯一の手段だ」というツイートをしました。

このように、意見が対立していた人達も、相手を尊重しつつ率直に意見を述べ、最後にはお互いに理解を深め、他方をリスペクトするという関係になっていきました。

事態は、関わる人達みんながLGBTに関する理解を深める方向で収束していったのです。

それは英語によるやりとりでしたが、炎上→沈静化という過程を辿り、何ら生産的でない言説が垂れ流されがちな我が国の現状と比較すると、なんと素晴らしいやり取りかと感動しました。

4 成熟した議論を

このような成熟した議論が積み重ねられるのであれば、どうでしょうか。LGBTに対する差別や偏見も、少しずつかもしれませんが無くなっていくと思えます。

そして、このような建設的な議論を展開することがそんなに難しいことなのかというと、真摯に学び続けようとする姿勢や態度さえあればできることなのではないでしょうか。

先入観や固定観念に縛られ、思考停止して他者の言説を否定していては何かを学ぶことなどできません。無知であることを認めないなどもっての他です。

真摯に学び続けようとするからこそ、他者の言説に耳を傾け、自らの誤りを認めることができる。手の届く努力で、社会を変えることができるかもしれません。

私自身が、学び続けようとする態度や姿勢を持てているのか、まずは見直してみようと考えさせられました。

5 裁判例に見る事件処理上の注意点

入野田会員からは、LGBTに関する裁判例をほぼ網羅する形で紹介していただきました。

印象に残ったのは、LGBTについて理解が不足していると指摘せざるを得ない裁判例が比較的多いとの指摘があったことです。

紙面の関係で多くはご紹介できませんが、例えば、生物学的な性が男性で、自認する性が女性であるトランスジェンダーの当事者が、会社に女性の服装、化粧等をして出勤したり、会社に対して女性としての取扱を求めたところ、それを理由として解雇された東京地判平成14年6月20日の事案では、結果として解雇が違法であるとしたことは妥当なのですが、理由の中で「女性の容姿をした債権者を就労させることが、債務者における企業秩序又は業務遂行において、著しい支障をきたすと認めるに足りる疎明はない。」とされており、仮に当事者の見た目が社会的には女性として受け入れられにくいものである場合にはどうなるのかと疑われる認定になっているとのことでした。

我々も、実際の事件を取り扱うときには、LGBT当事者を巡る法律関係を正確に理解し、LGBTであることについて言及する際には不正確な表現や誤った主張にならないよう、裁判所にも誤った認定をさせないよう、細心の注意を払う必要があると感じました。

6 福岡市の取り組み

福岡市のLGBTに関する取り組みについて、人権推進課の合屋四郎課長からご紹介いただきました。目玉となるのは、パートナーシップ宣誓制度を創設されたことです。既に20組を超える利用があるとのことでした。LGBT当事者のための交流会も定期的に開催しておられ、毎回多くの方が参加されているそうです。

行政が人権課題として取り組んでくれているのは心強い限りです。

当会とは電話相談を共同で実施していますが、今後も色々な面で連携していければと思います。

7 最後に

今回の研修は盛りだくさんでしたので、印象的なお話に絞ってご紹介させていただきました。

今後も充実した研修を企画する予定ですので、奮ってご参加ください。

あさかぜ基金だより ~豊前ひまわり基金法律事務所に行ってきました!

あさかぜ基金法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)

あさかぜ所員の古賀です。8月25日、豊前ひまわり基金法律事務所に行ってきましたので、そのときのことを報告します。

豊前に行くことになった経緯

私たちあさかぜ基金法律事務所の弁護士は、弁護士過疎地域に赴任することを目的として、日々精進しています。しかし、実際に弁護士過疎地域で弁護士業務を行うために必要なことが何なのか、具体的に知る機会が少ないため、豊前ひまわり基金法律事務所の西村幸太郎弁護士にお願いし、赴任後の弁護士活動に関する研修を開いていただきました。

西村弁護士は、あさかぜ事務所で2年半近く研鑽を積んだ後、豊前ひまわり事務所の初代所長として赴任し、それから2年、豊前市にて法的サービスを提供しています。西村弁護士は、地域に根ざした法律家として、依頼者に寄り添い、最善の結果を出すために日々頑張っているとのことで、私が尊敬している先輩弁護士の1人です。

いざ、豊前へ

研修当日、私たちは、豊前ひまわり事務所に向かいました。私たちは、博多駅で特急ソニックに乗車し、小倉経由で豊前ひまわり事務所の最寄り駅である宇島駅へ向かいました。

博多から宇島まで特急で90分の道のりです。私は、車窓からの景色を眺めながら、北九州市から遠く離れた豊前市の住民にとって身近に弁護士がいることがどれだけ心強いのかと考え、弁護士過疎偏在問題を解消することの重要性を実感しました。

宇島駅には大きな天狗像が鎮座していました。豊前市と築上郡築上町の境界に位置する求菩堤山(くぼてさん)には鴉天狗(からすてんぐ)の伝説が伝えられており、豊前市のマスコットキャラクターである「くぼてん」は、求菩提山の鴉天狗にちなんでいます(豊前ひまわり基金法律事務所のマスコットキャラクターも弁護士姿のくぼてんです。)。

宇島駅からはタクシーで、豊前ひまわり事務所に向かいました。駅から車で約5分の距離にあり、徒歩でも10分程度と非常にアクセスの良い場所です。事務所は、市役所が近くにあり、町の中心に近く大きめの道路が通っていて、交通量も多いため、住民にとって相談に行きやすい場所にあると思いました。

事務所見学、そして研修

事務所に到着してから、まずは、事務所内を見学しました。私たちは、事務所のレイアウトや、備え置かれている什器備品類などを見せてもらいました。このとき、事務所の間取りから備品の内容、置き方に至るまで、西村弁護士のこだわりを強く感じることができました。事務所見学の後、研修がスタートしました。

西村弁護士の研修は、事務所を開設するに際して何をするのか、どのように開設準備を進めていくか、といったところから始まり、開業場所や事務所名の決定、設備投資や広報活動等、従業員の雇用とその内容等、経営理念等について、幅広く、私たちへの質問も交えながら進められ、色々と考えさせられる内容でした。

この中で、一番印象に残ったのは、西村弁護士の担当していた事件に関する話でした。私が西村弁護士から事件の概要を聞いたとき、どのように事件を解決するのか、すぐには思いつきませんでしたが、西村弁護士は、当該事件を受任し、一生懸命自分で考え抜いて、事件を解決したということでした。今回、西村弁護士の話を聞いて、依頼者の言い分を法的主張として整理する能力を身に付けることの大切さを実感しました。

私は、弁護士過疎地域への赴任に際し、何が必要なのか、何となく漠然と考えていたところ、西村弁護士の話を聞いて、改めて弁護士過疎地地域で事務所を開設し、経営することの難しさを知りました。普段の業務では、主として自分が担当する事件のことを考えているだけで、経営についてここまで考えることはあまり無かったものですから、とても勉強になりました。

研修の後は、事務所近くのワインバーで、懇親会となりました。おいしいワインをいただき、楽しく会話が弾みました。

気持ちを新たに

今回は、実際に豊前ひまわり基金法律事務所を訪問し、弁護士過疎地域の最前線で頑張っている西村弁護士に接して、来たるべき赴任に向け、私も気持ちを新たに頑張ろうという気持ちになりました。

今後とも精進していきますので、皆様、何卒よろしくお願いします。

2018年8月 1日

あさかぜ基金だより 都市型公設あさかぜに注目してください

会員 小林 洋介(70期)

都市型公設事務所

あさかぜ基金法律事務所は、九弁連が設置した都市型公設事務所です。都市型公設事務所は全国に十数カ所設けられており、事務所毎に色々な特色を持っています。あさかぜは、弁護士過疎地域へ派遣する弁護士の養成に特化した事務所ですが、刑事事件とりわけ裁判員裁判に力を注いでいる事務所(北千住パブリックなど)や成年後見業務を数多く行っている事務所(岡山パブリック)もあります。また、「市民の駆け込み寺」として、都市部における司法アクセスの拡充を行うことを設立理念として掲げる公設事務所もあります。

あさかぜの受任事件

あさかぜは、公設事務所であるという性質上、顧問契約を締結することはできないので、依頼者は無料法律相談の相談者が大半です。扱う事件は、いわゆる「マチ弁」が取り扱うものとなりますが、その中でも、債務整理や離婚、遺産分割、成年後見申立などの家事事件、刑事国選事件が多くを占めます。

もっとも、あさかぜは弁護士過疎地域への弁護士派遣を目的とした養成事務所であるため、養成期間の2年ほどの間に幅広い事件を経験できるような体制が用意されています。具体的には、福岡県弁護士会所属の先生方(あさかぜ応援団)から事件の紹介を受けて共同受任したり、県外の先生方やあさかぜ出身の先生から事件の紹介を受けたりしています。共同受任事件・紹介事件では、建物明渡請求、交通事故、労働、消費者、強制執行、刑事告訴などを受任することができ、事件の種類はバラエティに富んでいます。このようにして、私たち所員は、養成期間中に数多くの類型の事件を受任し、来るべき弁護士過疎地域への赴任に向けて研鑽を積んでいます。

事務所会議

あさかぜでは、毎月1回、九弁連の管理委員会と福岡県弁の運営委員会の先生方を交えた会議を開催しています。この会議では、事務所の毎月の経営状況、紹介事件や共同受任事件の進捗状況、公設事務所をめぐる日弁連や九弁連での議論状況について報告がなされたりします。

私は、所員の中で最も期が若いので、議事録作成を担当しています。会議中は、ひたすら議論に耳を傾けつつ、漏れがないようメモを取り、それを基にパソコンで議事録を作成します。入所し立てのころは、そもそも会議でのやり取りが理解できず、メモを取るのも一苦労でしたが、最近は、議論の内容を理解することができるようになり、議事録作成もずいぶん速くなりました。

事務所の運営

あさかぜでは、事務所運営に関連する業務が色々あります。私が入所して最初にしたのは、弁護士法人の変更登記でした。弁護士法人であるあさかぜは、所員の交代があると変更登記をしなければなりません。私は、過去の申請書類を参照したり、法務局へ問い合わせたりしながら、登記の申請を行いました。

また、あさかぜでは、最も期の若い弁護士が修習生の採用担当者となり、新規登録弁護士の採用活動を行います。私は、ひまわりナビへの求人情報の掲載や、ロースクールへの採用案内の送付を行ったほか、あさかぜの仕組みや業務のイメージが伝わりやすいように採用案内の改訂を行いました。採用案内はあさかぜのホームページからも見ることができるので、ぜひ見てください。

そのほかにも、事務局の就業規則の作成など、労務管理についても、所員が担当する必要があります。

さいごに

近年、弁護士の就職状況が大幅に好転したこともあってか、全国的に公設事務所や法テラスへの新規登録弁護士の応募が減っているということです。私としては、公益弁護士への関心が薄れてきていることに危機感も感じます。

現在、弁護士会の活動の成果によってゼロワン地域は解消され、弁護士過疎問題はいったん解決したといわれていますが、地域によっては、利益相反などの問題から弁護士が定着することが困難な事務所もあり、たとえば壱岐・対馬のような事務所には定期的に弁護士を派遣する必要があります。

また、弁護士数がゼロではないものの、女性弁護士がゼロの地域が多数あります。離婚問題、DV問題などでは、男性に対して恐怖心をもっていて、女性弁護士にしか相談することができない人が少なくないのですが、女性弁護士がゼロであれば、法律相談のハードルが高くなってしまいます。このような事態を避けるため、女性弁護士ゼロの地域を少なくすることはとても大切なことです。

あさかぜ所員として、過疎地域における弁護士の存在意義とその重要性について、一人でも多くの人に関心を持ってもらえたら嬉しく思います。

2018年6月 1日

あさかぜ基金だより~壱岐ひまわり基金法律事務所に行ってきました!

あさかぜ基金法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)

あさかぜ所員の古賀です。4月20日、壱岐ひまわり基金法律事務所に事務所見学に行ってきました。

壱岐ひまわり基金法律事務所とは

壱岐ひまわりのある長崎県壱岐市は、福岡市から北東80キロメートルに位置する壱岐島と周辺の4つの有人島、19の無人島で構成された人口約2万7000人の市です。

壱岐では、平成18年10月に法テラス壱岐法律事務所が設置されましたが、1つの法律事務所があるだけでは、弁護士が当事者双方の代理人となることができないため、相手方となった人は島外で弁護士に依頼するほかない状況でした。平成22年1月29日に、壱岐ひまわり基金法律事務所が開所したことから、必要があれば、いずれの当事者も、いつでも島内の弁護士に依頼することができるようになりました。

このように、離島における法テラス7号事務所、ひまわり基金法律事務所は、地域のリーガルサービスの拠点と位置づけられています。

壱岐への上陸

この度、私は、ひまわり基金法律事務所への赴任に先立ち、同事務所のことをより深く知るため、事務所見学に行くこととしました。

午前10時、博多港からフェリーに乗船し、島の南東部に位置する郷ノ浦港に向かいました。博多から郷ノ浦までは、2時間20分かかります。私は、本を読んだり、船内を回りながら、ゆっくりと船旅を楽しみました。その日はそれほど悪天候でもなかったため、船は揺れず、穏やかな船旅となりました。

郷ノ浦港に到着後、歩いて壱岐ひまわり基金法律事務所へ向かいました。郷ノ浦港から事務所までは徒歩10分程度です。事務所周辺に到着したときは、ちょうど昼休みの時間でしたので、時間調整も兼ねて、事務所周辺にある食堂で昼食をとることにしました。

昼食メニューをみると、「ウニ丼」という文字が目に付きました。

そうか、ウニか。壱岐はウニが名物だし、ここは奮発してウニ丼にしよう。

そう思って、私は、迷うことなくウニ丼を注文することにしました。そうして、ウニ丼を食べていると、店長さんが、「ウニは、これから先、6月、7月くらいが食べ頃になる。旬のウニは、とても甘いよ」と話してくれました。私は、その時食べたウニがとても甘く、非常においしかったので、旬の時はどれだけおいしいのだろう、と思いました。

事務所見学・周辺の散策

さて、昼食を済ませ、いよいよ目指す壱岐ひまわり基金法律事務所の事務所訪問に行きました。

壱岐ひまわり基金法律事務所は、郷ノ浦地区にあるNTT西日本壱岐営業所ビル3階にあり、長崎地方裁判所壱岐支部まで歩いて5分ほどの距離にあります。

壱岐ひまわり基金法律事務所の所長は、あさかぜ事務所において養成を受けてきた中田昌夫弁護士です。中田弁護士は、4代目の所長となります。

事務所訪問では、事務所内を見学させていただき、事務所の受任事件の概況・事件の種類等や、事務所での仕事の内容など説明を聞きました。中田弁護士の説明の中で興味深いと思ったのが、利益相反となる案件が多く、月1回で実施している社会福祉協議会での法律相談は、法テラス壱岐法律事務所の弁護士と一緒に実施しているということでした。福岡では、役所での法律相談で利益相反の問題が生じることは滅多に無いので、驚きました。離島で弁護士業務を行う難しさを考えさせられました。

その後、中田弁護士と一旦別れ、ホテルにチェックインし、事務所周辺を散策しました。郷ノ浦は、壱岐のなかでも役所が集まっている場所で、徒歩数分の圏内に警察署、裁判所、法務局があり、1時間もかからず、すべての場所を回ることができました。私は、裁判所の建物の中に入りましたが、長崎地方裁判所壱岐支部は常駐の裁判官・調査官がおらず、その日はがらんとしていました。

中田弁護士と合流するまで余裕があったので、事務所から徒歩10分くらいにある温泉に入ることにしました。長く入る時間はありませんでしたが、日頃の疲れをとることができました。

島内見学

午後5時、中田弁護士と合流し、自動車に乗って島内を見学しました。

壱岐島には、郷ノ浦、石田、勝本、芦辺の4つの集落があり、各地域に特色があります。郷ノ浦は、先に述べたとおり、役所が置かれています。石田は、流通関係の施設が集まっており、唐津行きのフェリーが出ているため、佐賀県とのつながりがあります。勝本は、漁業が盛んで、漁業関係者が多く住んでいるところで、芦辺は、発電所があり、電力会社の人が多く住んでいるとのことでした。

私たちは、郷ノ浦から出発し、石田、勝本、芦辺へと車を走らせました。壱岐は、山地が少なく平らな島で、平地が少なく耕地に乏しい対馬とは対照的です。道中は、田畑や牛舎が点在し、のどかな光景が続きました。酒蔵を見かけることもありましたが、壱岐は麦焼酎が有名とのことです。また、車も少なく、非常に運転しやすい道路だと感じました。実際、壱岐では交通事故事件が滅多にないそうです。その他、原の辻遺跡、一支国博物館の近くを通りましたが、途中下車して施設見学をする余裕はなかったので、後日の楽しみとすることにしました。

1時間くらいで、主要地域を全て回ることができました。

島内見学を終えて、夕食の時間となりました。寿司屋で特上握りを食べたのですが、ネタのなかに「壱岐牛」がありました。少しだけ熱を加え、薄くスライスされた壱岐牛が、しゃりの上に乗っていました(ローストビーフのような感じでした)。他の魚介類のネタの中に壱岐牛があるのは若干不思議な感じでしたが、いざ食べてみると、非常に柔らかく、口の中に入れると、肉の甘みがしっかりと伝わってきました。以前、壱岐ひまわりの所長引継式・披露会に出席した際、壱岐牛のローストビーフを食べたことがあり、その時もあまりのおいしさに感動しましたが、今回も、壱岐牛のおいしさに魅了されてしまいました。

島内見学が終了し、中田弁護士と別れました。私は、ホテルに戻った後、もう一回温泉に入りたいと思い、昼行った温泉に再び入浴しました。気軽に温泉に入ることができるなんて、すばらしいところだと感嘆しました。

博多へ

翌日、私は、郷ノ浦のホテルを出発し、郷ノ浦港に向かいました。途中、釣りのために壱岐に来ていた観光客がちらほら目にとまりました。釣りが趣味の方にとって、壱岐は魅力的な場所なのですね。

午前9時25分頃、私は、郷ノ浦港を出発し、高速船・ジェットフォイルで博多港に向かいました。ジェットフォイルだと、博多・郷ノ浦間は、1時間10分で移動することができます。

こうして、私の壱岐ひまわり基金法律事務所の事務所訪問は、つつがなく終了したのでした。

感想

壱岐ひまわり基金法律事務所を訪問し、離島での弁護士業務の難しさを知るとともに、壱岐の魅力を存分に体感することができ、非常に有意義なものとなりました。弁護士過疎地域に赴任するにあたり、今回の事務所訪問を活かしていきたいと思います。

みんな悩んでいます~「子どもの日記念無料電話相談」の現場から~

子どもの権利委員会事務局長 森 俊輔(65期)

1 はじめに

去る2018年5月12日(土)午前10時から午後4時まで「こどもの日記念無料電話相談」を実施しました。この企画は、毎週土曜日午後0時半から午後3時半まで行っている「子どもの人権110番」の拡大版です。

子どもの人権に関する相談と謳ってはいるものの、子どもに関する相談であれば、離婚と親権に関するものから、いじめ、体罰、無戸籍問題、貧困、非行事件など様々なジャンルの相談を受け付けています。

2 閑散とした午前・嵐のような午後

当日午前は静かな滑り出し。取材に来たNHKの記者さんも"いい画"を撮ろうと意気込みますが、そんな時に限って電話が鳴らないのです。「テレビに映りたい」という私の願望が強く出過ぎたせいでしょうか。

相談担当の弁護士たちは、皆、正午のNHKニュース(九州沖縄版)効果を期待してお互いの顔を見合わせます。会場となった弁護士会館第二会議室は、どこか閑散としていました。

それがどうしたことでしょう(ここで皆さんの頭の中に「大改造!劇的ビフォーアフター」のBGMを流してください)。NHKニュースが流れ終わるや否や、プルルルルと電話が鳴り、用意していた2回線はあっという間に埋まってしまったのです。閑散とした第二会議室は、あっという間に活気溢れる電話相談会場に様変わりしました。電話機も自分の役割が果たせたからか、どこか嬉しそうです(BGM終わり)。

3 私はどうしたらいいの!?

「いじめに遭った子どもが不登校になっている。どうしたらいいのか」「家を出て知人宅で寝泊まりする娘を自宅に取り戻せないのか」「どこに相談したらいいのか分からないんです」

早急に法的な対応が必要なものもあれば、電話から得られる情報の限りでは家族同士の話し合いに委ねるほかないと思われるものもありました。ただ、ひとつ確かなことは、皆さんがそれぞれの立場から子どものことを考え、そして悩んでいるということです。だからこそ、ニュースを見て、すがる思いで電話を手に取られたのでしょう。

この日、午後4時までに合計14件の電話相談が寄せられ、うち数件は継続して面談相談等を受けることとしました。6時間だけで電話口からはいくつもの「ありがとう」が聞こえてきました。

午後4時に回線を切るとき、第二会議室には、温かな光と爽やかな皐月の風が吹き込んでいました。

4 みんな悩んでいる

行政機関も司法機関も民間でも様々な相談窓口が設けられています。それでも、どこにどうやって相談していいのか分からないまま、ひとりで悩んでいる人が大勢います。そんな方々の一助になる事ができ、子どもの人権擁護のために私たちは何をすべきか、何ができるのかを考えさせられました。

今後も広報を充実させて、「子どもの人権110番」を新たなステップに進化させていく予定です。乞うご期待。

今回、ご協力いただいた皆様にこの場を借りて御礼を申し上げます。

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