福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

シンポジウム「民法の成年年齢引下げを考える~18歳で成人になるということ~」ご報告

消費者委員会委員 南正覚 文枝(67期)

1 はじめに

平成30年4月21日、インペリアルパレスシティホテル福岡にて、当会主催、日弁連、九弁連共催で、シンポジウム「民法の成年年齢引下げを考える~18歳で成人になるということ~」が開催されましたので、その概要についてご報告いたします。

2 当日までと当日の様子

本シンポジウム開催に当たっては、県内大学等教育機関への案内状の送付や、会員、後援団体である福岡県、福岡市の消費生活センターや司法書士会、NPO法人消費者支援機構福岡等の呼びかけなど、様々な形で周知がなされました。

その甲斐あってか当日は、会場がほぼ満員になる約100名もの方々が集まってくださいました。

多くの参加者の方々の熱気を感じる中、当会の中村博則副会長の開会挨拶により、本シンポジウムは始まりました。

このシンポジウムの最中に、ご多忙の中、古賀之士参議院議員、稲富修二衆議院議員、野田国義参議院議員、国会議員秘書の方1名も駆けつけられ、ご挨拶いただきました。それぞれの皆様のご挨拶から、立法を担う国会議員の方々もこの問題に対して深い関心を寄せていることが窺えました。

なお、当日のシンポジウムの状況は、当会公式ツイッターで、リアルタイムで伝えられました。

3 基調講演1「成年年齢引下げに関する問題点」

まず初めに、日弁連消費者問題対策委員会副委員長の中村新造弁護士による「成年年齢引下げに関する問題点」と題した基調講演が行われました。

「民法」と「民法以外の法律」の区別がついているか、未成年者取消権、親権とは何かといった基本的な概念の説明から入り、民法の成年年齢は何を定めているのか、民法の成年年齢を引き下げる必要性はあるかといった内容を20歳成年制の歴史などにも言及しながら、パワーポイントを使用してわかりやすく説明していただきました。

4 基調講演2「若年者の消費者被害拡大防止の課題」

次に、日弁連消費者問題対策委員会成年年齢引下げ問題プロジェクトチーム座長の平澤慎一弁護士による「若年者の消費者被害拡大防止の課題」と題した基調講演が行われました。

プロジェクトチーム座長の立場から、民法の成年年齢引下げの問題の現状及び議論状況を詳しく説明していただきました。その上で、そもそも成年年齢引下げの必要があるのか、この問題についてもっと積極的に広報活動を進めていく必要があるのではないか、実践的な消費者教育を実践していかなければならないのではないかといった課題についても言及されました。

5 リレー報告
(1)「未成年者の消費生活相談の現状について」

福岡県消費生活センター相談員の岩尾より子氏より、平成28年度の福岡県消費生活相談の概要から、未成年者の消費生活相談の現状に関する報告がありました。

その中で19歳以下の相談については挙がってこないエステサービスやフリーローン・サラ金についての相談が、20歳代になると上位に挙がってきている現状が報告されました。このことから、未成年者取消権等が行使できなくなる20歳代になるとともに若者に対する業者等からの勧誘が急増すること、それとともに判断能力が未熟な若者が高額な契約金額の契約を締結させられ被害額も急増するといった実態が浮かび上がります。

今後成年年齢が18歳になることで、18歳から20歳までの若者の高額契約にまつわる被害が飛躍的に増えていくのではないかということが強く懸念される報告でした。

(2)「消費者教育の観点からー視点の整理―」

佐賀大学教授であり、適格消費者団体NPO法人佐賀消費者フォーラム理事長の岩本諭氏より、消費者教育の視点からの報告がありました。

「消費者教育推進」政策の動向をご説明いただき、「若年消費者への消費者教育」推進の必要性やその場合どのような教育内容が必要と思われるかについて、実際に大学生と日々接している岩本教授より、現実の若年消費者の実態を踏まえた提言がなされました。

(3)「若年者の契約意識と消費者トラブル」

当会の朝見行弘会員より、若年者の契約にまつわるトラブルについて、消費者契約法改正の内容も交えて報告がありました。消費者のトラブルを予防・解決するための法律である消費者契約法の概要と、本年3月に提出された改正案の改善点等について具体的な説明がなされました。

成年年齢を引き下げることにより想定される若者の契約にまつわる被害拡大を防止する必要性が高いことからすると、今回の消費者契約法改正ではまだまだ十分でないと感じました。

6 シンポジウム閉会

最後に、当会の千綿俊一郎消費者委員会委員長より閉会の挨拶がなされ、盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じました。

7 おわりに

民法の成年年齢引下げに関して、日弁連等が慎重であるべきとの意見を表明する中、法務省は平成30年3月13日、民法の定める成年年齢を20歳から18歳に引き下げることを内容とした民法の改正案を国会に提出しました。

今回この法案が成立した場合に18歳以上の若者の多くに降りかかるかもしれない消費者被害など様々な問題点について、多くの方々に知っていただき、そして考えていただきたいという趣旨で本シンポジウムは企画されました。

4月の天気の良い土曜日の開催となり、シンポジウムへの参加者は少ないのではないかと危惧されましたが、実際には10歳代から70歳代までの学生や教師、消費生活相談員など、様々な年代、属性の方々に多数お集まりいただきました。これは取りも直さず、今回の成年年齢引下げについて、世代等を問わず多くの方々が強い関心を寄せていることの表れだと感じました。

実際に本シンポジウムに参加してくださった方々がどのような感想をお持ちになったか、任意にアンケートをお願いしたところ、参加者の半数以上の58名の方が回答を寄せてくださいました。

そのアンケートによると、アンケートに回答してくださった方の実に82.7%もの方が成年年齢引下げに「反対」若しくは「どちらかといえば反対」との結果となりました。

「反対」、「どちらかといえば反対」の理由としては、法整備等の施策が十分になされていない、若者に対する消費者教育が十分になされていない、議論が深まっておらず拙速であるといった意見が数多く挙げられ、やはり現段階での成年年齢引下げに対しては強い危惧を抱いていることが窺えました。

原稿を執筆している現在、本法案はいまだ成立していない状況ですが、私自身消費者委員会の一員として、今後ともこの問題に強く関心を持ち続け、若者の消費者被害の防止のための消費者教育の推進や消費者被害の相談などにも積極的に関わっていこうと思っています。

2018年5月 1日

あさかぜ基金だより~対馬ひまわり基金法律事務所引継式に出席して~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 服部 晴彦(68期)

対馬ひまわり基金法律事務所の引継式

3月26日、対馬市の「対馬グランドホテル」において、対馬ひまわり基金法律事務所所長の引継式が開催されました。対馬ひまわり基金法律事務所の新しい所長は、「あさかぜ」において養成を受けてきた若林毅弁護士です。5代目の所長を退任するのは、同じく「あさかぜ」で養成を受け、3年前に赴任した青木一愛弁護士です。

対馬ひまわり基金法律事務所とは

「対馬ひまわり」のある対馬は、福岡市から北東130キロメートルにあり、韓国釜山とは約50キロの距離にある国境の島で、東アジアの国々、特に朝鮮半島との玄関口として栄えてきました。風光明媚でリアス式海岸の景色が広がり、韓国からの観光客が年間約36万人も訪れる観光の島でもあります。

対馬ひまわり基金法律事務所は、平成17年10月に開設され、若林弁護士で6代目の所長となります。3代所長の井口夏貴弁護士、4代所長の伊藤拓弁護士も「あさかぜ」出身です。事務所は、対馬市役所のある厳原地区のNTT厳原ビル1階にあり、長崎地方裁判所厳原支部まで歩いて2分ほどの距離です。

対馬には、対馬ひまわりのほかには、法テラス対馬法律事務所があります。

弁護士過疎解消への情熱

引継式は、長崎県弁護士会の山下俊夫弁護士(九弁連元理事長)の司会で進行し、小野寺日弁連副会長らが挨拶されました、青木弁護士は所長退任の挨拶の中で、赴任後の3年間について、弁護士会からの指導、援助、あさかぜの先輩後輩の支援、事務所の事務職員の協力で、任期満了を迎えることができた。対馬赴任中には、707件の法律相談を行った。家事や債務問題の相談が多かったが、明治時代の抵当権登記の抹消や境界線の確定などの土地問題があったのが印象的だった。障害者、高齢者に関する相談について、福祉、行政との連携を進めてきたが、その途上で任期が終了してしまうのが心残りだ、と述べました。

若林弁護士は、「大学卒業後に就職していた信用金庫を辞めて、四国八十八箇所のお遍路の旅に出ました。その間に、悩み事を持っておられるお遍路さんや施しをしてくれた住民の方々と話をしていくなかで、困った人を助ける仕事がしたいと思い、弁護士になろうと思いました」、「司法試験の勉強をしていく中で、弁護士過疎偏在問題の存在を知り、以前から父親が地元に弁護士が身近にいないため困っていたという話を聞いていたこともあり、弁護士になったときは、弁護士過疎の解消のために働く弁護士になりたいと思い、司法修習後にあさかぜ基金法律事務所に入所しました」と弁護士を志望した動機、弁護士過疎解消への熱い思いを語りました。さらに抱負として、「自分で6代目の所長ということで、弁護士の存在は知られるようになっているが、より身近な存在になれるように積極的に事務所の外に出て活動し、弁護士にできることがたくさんあることを島民の方に知ってもらって、島民の方の役に立てる事務所にしていきたい」と力強く決意表明しました。

引継式後の披露会には、対馬市副市長、長崎地裁厳原支部支部長をはじめ、多数の地元関係者が来賓として参加するとともに、歴代の対馬ひまわりの所長弁護士も参列して、対馬ひまわりが地域で果たしてきた役割と歴史の重さを垣間見ることができました。

引継式に出席して

私も、あさかぜに入所して3年目を迎えました。これまで、先輩弁護士の引継式、開所式に何回も出席してきましたが、若林弁護士は同期入所ということもあり、私も新天地に向けて頑張ろうという思いを強くしました。養成期間もあとわずかになりましたので、赴任に向けて準備をしっかり進めていきたいと思います。

KBCセカンドライフHAPPYフェスタ

対外広報委員会 委員 太田 千遥(70期)

第1 はじめに

去る平成30年3月31日(土)に、大丸エルガーラ8階大ホールにて、セカンドライフHAPPYフェスタが開催され、当会からは上田英友弁護士(2018年度会長)、原田直子弁護士(2016年度会長)、岡部信政弁護士が「出張版!まずは、弁護士に聞いてみよう!」のコーナーにご出演されました。

このイベントは、第二の人生(セカンドライフ)をよりHAPPYなものにする支援のために開催されたイベントで、ご来場の方の多くがご年配の方でした。私も対外広報委員会の一員として同イベントに参加させていただきましたので、僭越ながらご報告させていただきます。

第2 当日について
1 会場の様子について

当日はひふみんこと加藤一二三さんや洋七師匠こと島田洋七さん、映画評論家のおすぎさんら著名な方のトークショーも行われており、広い大ホール内は立ち見の人がいるほどの大盛況ぶりでした。会場後方には体内年齢を測定できるブースや酵素水等の健康食品のブース等、様々な企業の出店ブースがありました。

そのような盛り上がりの中、上田先生はじめ3人の先生方が登壇されました。

2 弁護士活動の紹介について

まず、上田先生と原田先生から福岡県弁護士会の紹介と、弁護士の業務内容についての説明がありました。

具体的には、福岡県弁護士会に所属する弁護士の数や、また弁護士は相続問題やパワハラ問題等の様々な場面で活動しており、市民の皆様の日々の暮らしの中で起こるちょっとしたトラブルでも解決に向けてお役に立つことができるという内容です。

「身体の不調は病院へ、それ以外の身近な悩みは弁護士会の法律相談センターへ」ということで、福岡県弁護士会の法律相談センターの概要等についても説明がありました。

3 高齢者の消費者被害について

次に、高齢者の消費者被害についての相談に対し、岡部先生にご回答いただきました。

具体的には、業者から必要のないリフォーム工事を迫られ、80代の母親が工事の契約をしてしまったという事例において、業者から請求されている300万円の工事代金を支払う必要があるのかという相談内容でした。

岡部先生からは、近年、高齢者が訪問販売によって高額なリフォーム工事を契約させられているという相談が国民生活センターに年間6000件から7000件寄せられていること、対応策としてクーリングオフ制度によって解約できること、クーリングオフ期間の8日間という期間は法律が定める内容を満たす書面の交付があって初めてカウントが始まること、同期間が経過した後も錯誤無効の主張ができる可能性があることをお話しいただきました。

さらに、高齢者がトラブルに巻き込まれないための対応策として、離れて暮らしている場合も家族が見守ることが重要であること、必要に応じて成年後見制度を利用すること、後見制度の概要や手続の流れ、弁護士が後見人となる場合もあることをお話しいただきました。

第3 感想

個人的にはひふみんに会いたかったのですが、私が会場に行ったときにはひふみんのトークショーは既に終わっており、とても残念でした。洋七師匠のトークでは、ビートたけしさんの独立騒動について軽快な語り口で話されていたことが印象に残っています(たけしさんの第二、第三の人生といったところでしょうか。)。また、イベントの抽選で桝谷委員が2等の景品(ひよこ(お菓子)の詰め合わせ)を当てるという珍事もありました(ひよこは桝谷委員がその後事務所で美味しくいただいたそうです)。

私は会場の後方から壇上の先生方を応援させていただいていましたので、全体を見渡すことができました。後ろから見ていると、高齢者の消費者被害に対する対応策等の話を聞きながら数名の方々が何度も大きく頷いておられた姿がとても印象的でした。

私自身も高齢者の消費者被害の問題等、大変勉強になりました。なお、司会進行が台本と異なるというハプニングがあったのですが、その際、司会の沢田さんに原田先生がアドリブで突っ込み、その後のトークはさらに和やかな雰囲気に包まれたというシーンがありました。大勢の観衆の前でも臨機応変に対応するという点でも大変勉強になりました(笑)。

人生100年と言われる現代社会ですが、そんな時代に弁護士としてどのように役に立っていけるのか、改めて考えさせられたイベントでした。消費者委員会からご出演いただきました岡部先生、誠にありがとうございました。

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ステージ上の様子

ジュニアロースクール2018春in福岡(3/27)

法教育委員会 会員 畑田 将大(70期)

1 はじめに

平成30年3月27日午後1時より、西南学院大学法科大学院棟にて、毎年恒例の法教育委員会主催の「ジュニアロースクール」(以下「JLS」といいます。)が開催されました。今年は、「救急車の有料化って、どう思う?」と、身近であり、かつ、難しいテーマを中学生・高校生と共に弁護士も頭を悩ませつつ議論をしてまいりました。以下、今年のJLSについて具体的にご報告いたします。

2 当日の状況
(1) 参加人数

今年も中学生6名、高校生23名、合計29名と、例年通り多数の参加者が集いました。

(2) 弁護士による寸劇

議論に入る前に、「救急車の有料化って、どう思う?」というテーマをイメージしやすいように、我々弁護士で寸劇をさせていただきました。寸劇の役者は、八木先生、横山先生、芳賀先生、末廣先生、高橋先生、吉村先生、山室先生、そして私の8名です。みなさん本物の役者ではないかと見間違えるほど迫真の演技をされていたため、臨場感のある寸劇となり、笑いあり、涙ありの会場となりました。私も救急車無料制度維持を推奨する政治家役を担当したため、スティーブ・ジョブズ並のボディランゲージを駆使し、中学生・高校生相手に演説をさせていただきました。

(3) 議論の様子

まずは、あらかじめ立場を決めた6つのグループ(無料化3グループ、有料化3グループ)に中学生・高校生を配分し、それぞれの立場からメリット・デメリットを出し合っていただきました。適宜各グループに配属された弁護士が疑問をぶつけ、グループの論拠の弱い部分をどう克服できるのか、克服できずともそれを上回るメリットはあるのか、意見を出し合い、最後に代表者による発表を通して各グループの意見を共有します。私は、特定のグループに所属せず会場全体の様子を見守っていたのですが、どこのグループもレベルの高い議論をされており、大人である我々にとって勉強になった部分も多々ありました。

次に、他のグループの発表及び無料化・有料化を推奨するそれぞれの政治家役の演説を聞いた上で、各自が妥当だと思う立場で改めて議論をしていただきました。ここでも熱い議論が繰り広げられ、「無料化してしまっては、軽傷患者が気軽に救急車を呼んでしまい、重傷患者へすぐに救急車を派遣することができなくなるのではないか」「有料化してしまうと、お金のある人のみが救急車を呼べるようになってしまい、不公平である」といった意見が飛び交う中、「所得制限を設けて、一定の所得のある人のみが有料化という案もよいのでは?」という折衷案も飛び出しておりました。そして、議論の結果、各々のグループはどの立場を推奨するのか結論を出していただき、発表してもらいました。結果は有料化2グループ、無料化4グループと無料化が多数となりましたが、結果以上に、今回の議論を通して、子ども達はもちろんのこと、大人である私も相手を説得することの難しさ、論拠をしっかりと組み立てて説明することの大切さを改めて学べたことに、大きな収穫があったものと思われます。

3 最後に

JLS後に取ったアンケート結果によりますと、9割近くの中学生・高校生が「面白かった」と回答してくれたものの、それと同数程度の生徒が今回のテーマの難易度について「難しい」と回答しておりました。たしかに、子ども達にとっては難しいテーマであったかもしれません。しかし、「面白い」にも関わらず、「難しい」と感じたということは、それだけ子ども達が頭を使い、悩み、議論を尽くしたという何よりの証拠ではないでしょうか。福岡県弁護士会副会長柴藤先生が仰っていたように、今回のJLSの目的は、子ども達に議論の場を与え、自分の考えに一定の筋道を立てて話し合い、相手を説得することの難しさ・大切さを学んで欲しいという点にあります。この目的についてはアンケート結果に出てきた「面白かった」けど「難しかった」という両回答の多さから見るに、達成できたのではないかと思います。

シンポジウム「依存症と自殺予防~私たちにできることは?~」のご報告

自死問題対策委員会 日髙こむぎ(70期)

2018年3月24日(土)午後2時から、TKPガーデンシティにおいて、福岡県弁護士会主催「依存症と自殺予防~私たちにできることは?」が開催されましたので、その内容をご報告します。

当日は、晴天に恵まれた花見日和の土曜日の午後にもかかわらず、依存当事者、支援者、医療関係者、行政職員、法曹関係者、一般市民の方など、約50名の参加があり、依存症と自殺予防についての関心が高いことがうかがえました。

基調講演では、独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター院長の杠(ゆずりは)岳文氏に、「アルコール依存症と自殺予防」というタイトルで、わが国における自殺の実態、アルコール問題の現状、多量飲酒と急死・うつ・自殺の関連性、アルコール依存症患者・多量飲酒者対策等についてお話しいただきました。

杠氏によると、約109万人のアルコール依存症患者のうち、約4万人しかアルコール依存症として治療を受けておらず、また、アルコール依存症まで至らない問題群への対策(2次予防)が全くなされていないという実態があるそうです。

飲酒関連死は、アルコール健康障害の最たるものですが、アルコール使用障害の様々な段階に見られ、依存症でなくとも、3分の1程度がアルコール依存症の前の段階で亡くなっています。さらに、急死者全体の12%が飲酒関連死であることが判明しています。

多量飲酒とうつ・自殺との関係では、アルコール依存症は精神疾患と相互に合併しやすく、アルコール依存症患者の精神疾患合併率は、男性5倍・女性20倍になるとの報告があります。また、国民1人あたりの飲酒量が多い国は、自殺率も高く、日本国内の研究でも、アルコール消費量の多い都道府県は自殺率も高くなることが分かっています。

このように、アルコール問題の現状として、アルコール依存症でなくても、飲酒期間が長期に亘り、飲酒量が増化する程、自殺リスクは高くなります。また、杠氏は、自殺例における血中アルコール検出率が約50%と、死亡時に飲酒率が高いことを紹介され、飲酒により恐怖感や、思考の健康的な展開がなくなることが原因で、自殺に繋がるのではないかと考察されていました。

そこで、現状を踏まえ、杠氏は、依存症と多量飲酒者対策として、減酒支援を提言されています。これは、(1)断酒ではなく、飲酒量の減量を目標とし、(2)依存症の専門家ではなく、ヘルスケアの従事者(看護師、管理栄養士等)によってカウンセリングを行い、(3)依存症ではない患者を対象とするものです。減酒支援により、飲酒量を約3分の2程度に減少させることができ、早期介入を行うことで、飲酒関連死の減少に繋がると紹介されました。

基調講演の後は、当会自死問題対策委員会の星野会員から、当会が運営している自死遺族法律相談制度、自死問題支援者法律相談の概要とこれまでの実績、いくつかの相談事例の紹介を行いました。

休憩を挟み、パネルディスカッションを行いました。当会自死問題対策委員会委員長の松井仁会員の進行のもとで、杠氏に加え、3名の有識者の参加を得て、依存症と自殺予防について議論しました。

まず、福岡市精神保健福祉センター所長の本田洋子氏から、センターにおける依存症支援についてプレゼンをしていただきました。

薬物依存当事者は、依存症が病気であるという問題に気づくことができないか、認めることができない人が多く、これは、依存症の「否認」という症状であるとの説明がありました。否認から脱し回復するためには、(1)医療機関等でのプログラムの受講、(2)自助グループやリハビリ施設への入所という手段があることを教えていただきました。センターでは、薬物依存当事者を対象に、SMARPP(認知行動療法プログラム)などを参考に作成した、センター独自のプログラムを提供されています。また、本人に回復を促すためには周囲の協力が必要であるところ、家族や支援者も限界な状態にあることが多いことから、CRAFT(コミュニティ強化法と家族トレーニング)などを参考に「福岡Drawプログラム」という独自のプログラムを提供し、家族に対する専門支援も行われているそうです。

次に、ジャパンマック福岡施設長の岡田昌之氏からは、ご自身のアルコール依存症からの回復の経験を中心に、施設における支援を紹介していただきました。マックでは、12ステッププログラムというプログラムを用い、アルコール依存症、薬物依存症だけでなく、ギャンブル依存症、買物依存症、ゲーム・ネット依存症、性依存症、クレプトマニア(窃盗症)等の様々な依存症支援に取り組まれています。

さらに、NPO法人九州DARC代表の大江昌夫氏からは、ダルクにおける支援について具体的にお話いただきました。

ダルクでは、共同生活を送る中で、既に回復過程にある仲間が、新加入の仲間の回復を援助しているそうです。依存症が病気であることの理解を促し、否認から脱するため、本人にとって最良の支援は何かを考え支援されています。

また、最初にダルクに繋がるのは、困っている家族が多いため、家族支援も行っており、本人との関わり方をアドバイスしているとのことでした。

その後の議論では、まず、目前に依存当事者がいるとして、どの機関に繋げればよいか?という点につき、杠氏及び本田氏から、離脱症状が激しい人や併存している精神疾患がある人は治療のために医療機関、そのような症状が出ていない人は自助グループにつなぐのが良いとの回答を頂きました。

また、依存症の否認の症状について、家族が治療プログラムに参加させたいと考えても、本人が参加を拒否している場合に、家族や支援者はどのように治療を受けさせたらよいか?という会場からの質問がありました。

杠氏からは、CRAFT等により、家族や支援者が、本人の自尊心を傷つけること無く本人とコミュニケーションを行う技術を会得することが重要との指摘がありました。また、岡田氏からは、否認している人はまず本人のやり方でやってもらい、止められなかったら治療に向き合いましょうと誘導するという工夫を紹介していただきました。

この質問に関連し、否認はどのように解消できるのか?という会場からの質問については、大江氏にご自身の経験を踏まえ、依存当事者の心理について詳しく話していただきました。また、自助グループで行われているミーティングは、否認を脱するために重要な手段であり、継続していくことに意義があるため、良くなりたいとの思いがあれば、是非継続して参加してほしいとのことでした。

自助グループに参加しつつも、途中でスリップ(薬物の再使用)してしまった場合のフォローについて、岡田氏・大江氏ともに、本人が希望すれば支援は継続して行っているそうです。

また、杠氏から、本人の依存症からの回復に伴い、それまでは見えていなかった現実に直面し、ストレスからうつ病になってしまう人もいるため、本人の素振りに注意する必要があるとの指摘がありました。さらに、「死にたい」と述べた人に対しての対応の注意点としては、本田氏から、まずは本人のいつもとは異なる様子に気づくこと、本人の話を否定せずに傾聴すること、家族や支援だけで抱え込まず、医療機関や自助グループに繋げること、繋げた後は見守ることが重要であると教えていただきました。

会場からもこの他に多くの質問が寄せられましたが、残念ながら時間切れとなり、全てを議論することはできませんでした。

弁護士として活動する上で、依存症当事者に出会うことは少なくなく、依存当事者は身体的・精神的にどのような状態にあるのか、どうすれば回復に繋がるのか、悩まれる会員の先生も多いと思います。今回のシンポジウムでは、支援者、当事者経験者の双方の話を聞くことにより、依存症についての理解が深まるとても良い機会となりました。

シンポジウムに参加された聴衆の皆さんも、依存当事者、家族、支援者の方に関わる上での様々なヒントを得られたようで、出口で回収したアンケートでも、参加して良かったとの声が多数寄せられました。

2018年4月 1日

あさかぜ基金だより

あさかぜ基金法律事務 弁護士 古賀 祥多(69期)

若林弁護士の退所

あさかぜ所員・69期の古賀です。去る2月28日、若林毅弁護士があさかぜ基金法律事務所を退所し、3月より対馬ひまわり基金法律事務所に赴任しました。若林弁護士は、私があさかぜ事務所に所属してから1年以上のあいだ、隣の席で一緒に仕事をしていて、共同で事件を担当することも多く、とてもお世話になった先輩弁護士でした。そのため、3月に入って、隣の席が空いていると、なんだか無性に寂しい限りです。

あさかぜ事務所は、九州沖縄の各県の弁護士会で構成される九州弁護士会連合会(九弁連)が、その管内の弁護士過疎地(簡単にいえば、人口あたりの弁護士の数が少ない地域のことです)に派遣する弁護士を養成するために設立した事務所で、所属する弁護士は、原則として2年間の養成期間を経て、九弁連管内の司法過疎地域に赴くことになっています。このような設立理念等からすれば、所属弁護士が事務所を離れ、各弁護士過疎地に旅立つことは当然のことです。しかし、長年お世話になった先輩弁護士が事務所を去るのは、やはり寂しいものです。

ただ、あさかぜ事務所に所属する弁護士は、弁護士過疎地における司法サービスの充実、法の支配をあまねく行き届かせるという志をもって、あさかぜ事務所に入所し、研鑽に励んでいます。そのため、過疎地への赴任は、自分の目標をかなえるための第一歩です。若林弁護士の今後ますますの活躍を期待しています。

残る所員弁護士の今後

若林弁護士が退所した現在、あさかぜ事務所には、服部晴彦弁護士、田中秀憲弁護士、小林洋介弁護士と私の計4名の弁護士が在籍しています。いずれも、ゆくゆくはあさかぜ事務所を出て、九弁連管内の弁護士過疎地に赴くことになります。

所属弁護士は、あさかぜ事務所に在籍する間、様々な事件を担当するだけでなく、あさかぜ委員会を通じて、キャッシュフローデータを意識した事務所経営、事件処理(相談の受け方、受任率の向上、依頼者とのトラブル防止など)、ホームページなどの広報、事務職員の労務管理などについても学んでいくこととなっていますが、若林弁護士も、法律事務にとどまらず、事務所経営、事件処理など多くの研鑽を積んできました(若林弁護士のあさかぜでの活動については、前月号の「あさかぜ基金だより」をご参照ください)。私も、残りの養成期間、来たるべき旅立ちの日に備えて、広く深くできる限り多くの経験を積んでいきたいと思います。

私は、あさかぜ事務所に所属して、1年4ケ月ほど経過していますので、もう1年と経たないうちに赴任する可能性が高いものと考えられます。こうして自分を振り返ると、折り返し地点を既に超えてしまっていることに、我ながら驚いてしまいます。あさかぜ事務所のOBで現在赴任している先輩弁護士を見ていると、いかにも頼もしく、私はまだまだとても及ばず心配してしまいます。あと半年少しで、本当に一人前の弁護士になれるのかどうか、いささか不安に駆られるところではありますが、あさかぜ事務所での日々の業務を通じ、事務所経営・事件処理を学び、一つ一つ積み重ねていきたいと思います。

未熟な点も多い私ですが、これからも引き続き、より一層のご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

対外広報委員会だより

対外広報委員会委員 溝江 香菜子(70期)

1 当会の無料法律相談会

当会では、2014年、2015年、2017年に天神地下街において無料法律相談会を実施しております。また、2016年は、日弁連作成の武井咲さんのポスタージャックと連動して、福岡県下のイオンモール2店舗においても無料法律相談会を行いました。

2 無料法律相談会の開催

今年も、3月11日に天神地下街の1番街イベントブースにおいて、福岡県弁護士会無料法律相談会を開催しました。

今年は12時から16時(15時半まで受付)で相談会を実施する予定でしたが、11時半前から相談者の方がいらっしゃったため、30分ほど前倒しして、11時半頃より相談会を開始しました。相談会は大変盛況で、13時から14時頃までは常に5~10人待ちの状態でした。このため、本来の5つのブースに加え、臨時ブースを2つ追加し対応させていただきました。

また、相談会と並行して、「福岡県弁護士会」という当会のロゴマークの入ったジャンパー・ベストを着用したメンバーが、法律相談センターの案内、無料相談の案内、ライジングゼファー福岡(プロバスケットボールクラブ)とのコラボカレンダーなどが入ったチラシ一式や、法律相談センターのナビダイヤル入りのティッシュなどを配布する広報活動を行いました。

また、今年も昨年に引き続き、日弁連から、武井咲さんのメモ帳、ジャフバくん(日弁連のキャラクター)の風船など、配布グッズが多数支給されました。特に、風船については、お子さん連れの通行人の方々とお話をさせていただくきっかけにもなり、大変有益なグッズでした。

3 実施結果

最終的には、72件の相談を受け付けました。

相談者の方がどのようにして今回の法律相談会を知ったかについては、アンケートに回答してくださった71名のうち、「偶然通りかかった」が38名(約54%)、「市政だよりを見て」が19名(約27%)、「インターネットor県弁HP」が4名、「新聞」が2名、「SNS」が1名という結果でした。

偶然通りかかったという方が半数以上を占めており、弁護士による法律相談に対する潜在的なニーズが大きいことを示すものだと思います。

また、市政だよりをご覧になっていらっしゃった相談者の方が予想以上に多い結果となりました。市政だよりは今後も有効な宣伝ツールとして活用していくことが望ましいと思われます。

今回、相談会に立ち会う中で、「弁護士に相談となると敷居が高く、相談できずにいたが、思い切って立ち寄ってみてよかった。」、「ずっと気にかかっていたことが、今回の相談会を通じて解決し、とてもほっとした。」といった市民の方の生の声を聞くことができました。

今後も、無料法律相談会を継続し、市民の方に当会を身近に感じていただくとともに、より多くの先生方にも参加していただき、市民の方と直接お話ししていただく機会を持っていただければと思います。

憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」

憲法委員会委員 山崎 あづさ(54期)

去る3月2日、憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」が行われました。会員の他に市民の参加も50名ほどあり、なかなか盛況な会となりました。

今回は、日弁連憲法問題対策本部事務局の井上正信弁護士(広島弁護士会所属)を講師にお迎えしました。井上弁護士は、これまで法律雑誌等で、憲法問題(特に憲法9条、安全保障、防衛政策)に関する論文を多数執筆されているとあって、豊富な知識に基づき、わかりやすく、明快な解説をしてくださいました。以下、その内容をご紹介します。

1 こんなにある、9条加憲論の論点

○ 現在の9条加憲論の特徴は、「イメージ先行型」、「感情論」である。条文案が示されない段階なのに「9条加憲で何も変わらない」と宣伝し、「自衛隊をきちんと憲法に位置づけないと、命をかける隊員に失礼だ」と情緒的に訴えかける。

○ 9条の最大の特徴は2項にあるが、「加憲」により2項との矛盾が生じ、2項の効力が変わることになるのではないか?

○ 「何も変わらない」と言うなら、わざわざ何のために改憲するのか?

○ 政府は60年間、自衛隊合憲論を積み重ねてきているのに、自衛隊違憲論を払拭するためだけに改憲する必要があるのか?現憲法の下では自衛隊員は誇りを持てていないというのか?

2 「何も変わらない」論への徹底批判

○ 現在の自衛隊は9条2項の下で作られた自衛隊法により規定されているが、加憲により9条の2に書き込まれる「自衛隊」は、それとは別物となり、9条の2の解釈に全て委ねられてしまう。そうして結局、9条2項はほとんど死文化してしまう。「何も変わらない」という主張は、憲法に書き込む意味を過小評価しているか、全く理解していないか、あるいは、ごまかしている、と理解するしかない。

○ 9条の2に自衛隊を書き込めば、次は、これを実行するための法律が必要となる。軍事秘密保護法、軍事法廷、安保法制のバージョンアップなど、フルスペックの軍隊を持つことが可能になる。

○ 自衛隊が憲法上の国家機関となれば、自衛隊の活動や任務と基本的人権が衝突する場面では、基本的人権が制約されることになる。

○ 9条が築いた平和な社会がどんな社会であったかを再確認しよう。9条は、自由な社会を下支えしている。なぜなら、「戦争は最大の人権侵害」である。

3 安保法制下の自衛隊の実態

○ 「専守防衛政策」が、安保法制制定後の防衛白書でも全く同じ文言で書き込まれているが、実際は、「再定義」という形で意味を変えられ、それまでの「専守防衛」とは似て非なるものとなっている。

○ 専守防衛政策の意義は、我が国が他国に対する脅威とならないことを宣言し、安心を供与することで我が国の平和と安全を図るところにある。しかし、これが揺らがされ、葬り去られる恐れがある。

4 9条改正と北朝鮮脅威論

○ 現在のマスコミ等の報道の仕方には問題がある。一度リセットしてみよう。世の「常識」に囚われず、現実・事実を踏まえて考えてみよう。

○ 抑止力を強化して平和と安全が守られるのか?「抑止」とは、互いに相手国の市民を人質に取る政策である。抑止が破れたときに犠牲になるのは、私たち国民・市民である。

○ そもそも北朝鮮の弾道ミサイルと核兵器だけが脅威なのか?挑発しているのは北朝鮮だけなのか?約束を破ったのは北朝鮮だけなのか?アメリカはどうなのか?「万一日本が攻撃されたら」というが、どの国がなぜ攻撃してくるのか?その想定は現実的か?

○ 北朝鮮の脅威というのは、9条の問題ではなく、対北朝鮮政策の問題である。場当たり的に、派生した問題だけを解決しようとしても本当の解決にならない。

○ 私たちが北朝鮮の脅威に向き合うときに大前提に置くべき条件は、絶対に武力紛争にしてはならないとの強い意思である。

井上弁護士のお話は、時に細かい情勢分析や実態報告を交え、事実を踏まえて理論的な指摘を展開するものでありながら、とても熱く、パワフルなものでした。特に印象的だったのは、「絶対に武力紛争にしてはならないという強い意思」が大前提だとの言葉です。何が大切なのかという点を見失うことなく、冷静に考えていきたいと改めて思いました。

精神保健当番弁護士制度発足25周年記念公開シンポジウム 「オープンダイアローグが日本の精神科医療にもたらすもの」 ~地域精神科医療の推進に向けて~

精神保健委員会委員 原口 圭介(63期)

1 はじめに

2018(平成30)年2月24日、福岡市中央区天神・福岡ビルにおいて、精神保健当番弁護士制度発足25周年記念公開シンポジウム「オープンダイアローグが日本の精神科医療にもたらすもの」~地域精神科医療の推進に向けて~が開催されました。

医療・福祉関係者、弁護士、当事者ら合わせて約140名が参加し、近時、注目を集めている「オープンダイアローグ」に対する関心の高さがうかがえました。

2 オープンダイアローグとは?

(1) ここで、オープンダイアローグについて、簡単な紹介を試みたいと思います。

オープンダイアローグは、急性期精神病における開かれた対話によるアプローチと言われます。発祥は、フィンランドの西ラップランド地方です。薬物をできるだけ使わない対話による治療法として、同地方において、1980年代から導入されました。統合失調症による入院の減少、入院治療期間の短縮などのエビデンスを蓄積し、フィンランドの同地方では、公的な医療サービスに組み込まれています。日本でも2013年頃から、これまでの精神科医療の枠を打ち破るものとして注目を集めています。

(2) その特徴をいくつか列挙しますと、

  • 本人抜きではいかなる決定もなされない。
  • 依頼があったら24時間以内に本人・家族を交えて初回ミーティングを開く。
  • 治療対象は最重度の統合失調症を含むあらゆる精神障害をもつ人。
  • 薬はできるだけ使わない。
  • 危機が解消するまで、毎日でも対話をする。
  • テーマは事前に準備しない。スタッフ限定のミーティングなどもない。
  • もちろん幻覚妄想についても突っ込んで話す。
  • 本人の目の前で専門家チームが話し合う「リフレクティング」がポイント。
  • 治療チームは、クライアントの発言全てに応答する。

などです(斎藤環著+訳「オープンダイアローグとは何か」医学書院より引用)。

(3) 我々福岡県弁護士会精神保健委員会は、昨年夏、北海道浦河町「浦河べてるの家」(精神障害等を抱えた当事者の生活共同体)の研修に参加しましたが、研修の一つとしてオープンダイアローグの実践に触れ、その内容に衝撃を受けました。その高揚感冷めやらぬままに、このテーマでのシンポジウムを企画したものです。

3 基調講演

(1) シンポジウムでは、日本でのオープンダイアローグの普及を担っている「オープンダイアローグネットワークジャパン(ODNJP)から、西村秋生さん(医師/だるまさんクリニック)、矢原隆行さん(教授/熊本大学大学院社会文化科学研究科)をお招きし、オープンダイアローグの7つの原則 について、講演していただきました。

(2) 特徴的だったのが、お2人が掛け合いのように、1つずつの原則について内容を確認していくかたちで、講演をされたことです。オープンダイアローグには、厳密なマニュアルのようなものがあるわけではありません。それは単なる「技法」ではなく、その本質は、対話実践の考え方といったものです。そのようなわけで、オープンダイアローグの7つの原則についても、人によって答えは違うことがありえます。その観点から、まさに開かれた対話形式によって、答えを作り上げていくという手法が取られ、大変興味深いものでした。

(3) 下記にご紹介する7つの原則の考え方は、医療機関に限らず、福祉、教育、そして我々のフィールドである司法(特に刑事事件、家事事件、そして退院請求事件でしょうか)など、あらゆる対人支援の現場で応用することが可能と言えそうです。特に重要な⑥と⑦については、お2人の発言とともに紹介します。

① 即時対応(Immediate help)

→必要に応じて直ちに対応する。

② 社会的ネットワークの視点を持つ(A social networks perspective)

→クライアント、家族、つながりのある人々を皆、治療ミーティングに招く。

③ 柔軟性と機動性(Flexibility and mobility)

→その時々のニーズに合わせて、どこででも、何にでも、柔軟に対応する。

④ 責任を持つこと(Responsibility)

→治療チームは必要な支援全体に責任を持って関わる。

⑤ 心理的連続性(Psychological continuity)

→クライアントをよく知っている同じ治療チームが最初からずっと続けて対応する。

⑥ 不確実性に耐える(Tolerance of uncertainty)

→答えのない不確かな状況に耐える。

(西村さん)
決まらないことの苦しさに耐える。

(矢原さん)
私は「耐え」たくない。Toleranceとは、寛容とか包容。専門家が答えを出すのではない。多様な声(ポリフォニー)をそのまま置いて並べていき、必要な答えを本人が選んでいく。

(西村さん)
矢原さんの考えを教えてもらってよかった。

⑦ 対話主義(Dialogism)

→対話を続けることを目的とし、多様な声に耳を傾け続ける。

1 詳細は「精神看護」2018年3月発行(通常号)(Vol.21 No.2)の特集「オープンダイアローグ対話実践のガイドライン(医学書院)。

(西村さん)
対話を続けることが目的。

(矢原さん)
治ろうが治るまいが対話を続けることが大事。対話の本質はスキルではない。フィンランドツアーを組んで学びに行くようなものでもない。

(4) 特に、「不確実性に耐える」については、弁護士が最も苦手とするところというのが参加弁護士の共通認識でした。しかし、この観点は、勝ち負けを決める必要のない成年後見業務などおいて、参考になりうると感じました。また、当事者のご家族からの発言で、「不確実性に耐える」という考え方が大きな収穫だった、気持ちが楽になったというものがありました。

4 精神保健当番弁護士25周年の歩みと取組み

(1) 続けて、福岡県弁護士会精神保健委員会委員長鐘ヶ江聖一会員より、現在、精神保健当番弁護士名簿登録者数は402名であり、概ね順調に運用されている等の報告がありました。

(2) 九州弁護士連合会精神保健に関する連絡協議会副委員長橘潤弁護士(宮崎県弁護士会)より、現在、九弁連管内のすべての単位会で精神保健当番弁護士制度が実施されている等の報告がありました。

5 パネルディスカッション

(1) 続けて、八尋光秀会員をコーディネーターとしたパネルディスカッションが、西村さん、矢原さんに加え、和田幸之さん(こころの病の患者会うさぎの会会長)、楯林英晴さん(医師/福岡県精神保健福祉センター所長)、森豊会員の5名にて行われました。

(2) 和田さんより、奥様が措置入院となった際、頼れる社会資源がなかったことのエピソードや、オープンダイアローグも入院中心の精神科医療の中で骨抜きにされる可能性があることなどが語られました。

(3) 楯林さんより、福岡県精神保健福祉センターの活動(保健所の支援、家族及び支援者の研修会、精神医療審査会、クライシスプラン、病院と地域の連携推進など)について、報告がありました。

(4) 森会員より、入院医療中心から地域生活中心へと謳った平成16年の精神保健医療福祉の改革ビジョンの実現は現状ではほど遠いこと、オープンダイアローグはその起爆剤となりえ、特に急性期の患者に対する非自発的入院治療の必要性の判断を適正な判断に変えていく契機となって、非自発的入院の減少につながりうること、などが語られました。

(5) パネルディスカッションの後半で、矢原さんより、この度、精神医療とは直接は関係のない弁護士会からオープンダイアローグについての講演依頼が来たことで、オープンダイアローグの普及を実感するとともに、ブームとして終わってしまうのではないかと心配になったとのお話がありました。日本において、どこまでオープンダイアローグの拠点を作っていけるか。あくまでフィンランドはフィンランド。土地によって文化は違い、その土地なりの実践がある、とのことでした。

6 閉会あいさつ

九州弁護士連合会精神保健に関する連絡協議会委員長野林信行会員より、閉会のあいさつとして、今日の参加者が今日学んだことを自身の現場で実践していきましょうとのことばがありました。

思うに、日本において、オープンダイアローグは、まだ緒についたばかりです。オープンダイアローグは、薬物と入院をできる限り遠ざけようとする治療法ですから、現在の精神医学界において積極的に受け入れられることは考えにくいです。しかし、オープンダイアローグの考え方を知った今日の参加者は、普及するまで、まさにその不確実性に耐え、その有効性を実践によって地道に確かめていくことが求められたと思います。

犯罪被害者の支援条例制定へ! ~犯罪者支援シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える(第2回)」~

会員 德永 由華(64期)

1 犯罪被害者支援条例で支援が具体化!

2017年12月19日、アクセス良好の天神ビル会議室にて福岡県弁護士会主催シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える(第2回)」が開催されました。同年7月の第1回に引き続き、半年もしないうちに同じタイトルで第2回を開催するということからも、犯罪被害者支援条例が福岡県で制定される機運が非常に高まっていることがお分かりいただけると思います。ちょうどシンポジウムから1か月後の今年1月19日、西日本新聞朝刊一面でも、"早ければ今年3月に福岡県議会へ犯罪被害及び性被害の2本立てで被害者支援条例案が提出される"旨の報道もあったところです。

そもそも第1回のシンポジウムは、2004年に犯罪被害者等基本法(以下「基本法」といいます。)が制定され、2013年3月に「福岡県犯罪被害者取組指針(2017年4月改定)」が策定されたものの、未だ犯罪被害者及びその家族又は遺族(以下「犯罪被害者等」といいます。)に対する支援が十分であるとはいえない現状を踏まえ、充実した犯罪被害者等に対する支援のための福岡県条例制定に向けた啓蒙活動の一環として開催されたものです。

当日は、多数の市民や役場の被害者支援担当者のほか、当会会員も参加し、テレビ・新聞などのマスコミも多数参加する中、会議室は程良い緊張感に包まれました。

当会会長作間功弁護士の挨拶により開会となる予定でしたが、あいにく、急用で出席は叶わなかったものの、丁寧なメッセージを寄せていただき、当日司会だった私が代読しました。作間会長のメッセージは、第1回シンポジウムに引き続き、弁護士会が日本最大の人権NGOとして、立法活動を支えることは法律の専門家集団としても大きな意義があることに触れるなど、大変力強いものでした。

2 第1部 犯罪被害者支援条例の解説

第1回シンポジウムでも好評だった当委員会副委員長林誠弁護士の犯罪被害者支援条例についての解説は、基本法及び地方自治法から、地方公共団体が犯罪被害者等に対する具体化支援の役割を担うべきであることを確認したうえ、基本条例のみでは担当窓口が継続される保証はなく、担当者次第で支援が細切れになってしまい、現実には犯罪被害者等の方々が役所へ問合せに行ってもたらい回しにされ長時間待たされた挙句「分る者がおりません」と言われたとのエピソードも交え、犯罪被害者支援条例の必要性が指摘されました。

第1回シンポジウムパネリストの佐藤悦子氏の尽力により、大分県でも佐賀県に続いて犯罪被害者支援条例が制定され、内容としても市町村が支援金支給し、県が助成することを含めて制定されるなど、充実した条例が制定されたと報告がなされました。特に、福岡県は性犯罪認知件数が全国第3位、人口割合では第2位と件数・犯罪率とも特に高いため、犯罪被害者支援条例制定が急務であるとのことでした。

また、神奈川県の犯罪被害者支援条例等の実例を交え、現実的で、かつ犯罪被害者等が求める条例モデル案を叩き台にして、あるべき福岡県の犯罪被害者支援条例について丁寧に講義がなされました。

3 パネルディスカッション

後半は、犯罪被害者遺族2名と当会会員で児童相談所常勤弁護士の久保健二会員、当委員会委員長の藤井大祐会員、同前委員長の世良洋子会員をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。

被害者遺族の古賀敏明氏から、婚約直前のご子息が大阪で通りすがりの男2名から暴行を受けて死亡したものの、犯人は分らず、懸賞金300万円をかけご子息友人達の協力を得て探し出し、2名とも刑事裁判では実刑となったこと、しかし、民事裁判で合計8900万円の損害賠償請求を認める判決が確定したのに、ほとんど支払いはなく、時効完成前に自費で再提訴を余儀なくされ、やはり支払いはほとんどなされていないと、なんともやるせないお話がありました。また、弁護士探しにも心当たりがなくて苦労したそうです。

久保健二会員からは、児童相談所に常勤する中での児童に対する性加害の実態、認知が困難であること、被害児童が何度も同じことを聞かれて疲弊すること等の対処の困難さについて報告がありました。特に、性加害を認知した大人の対応として気をつけるべきこととして、「親が実子に性加害をするわけない」「男子は性加害の被害者にならない」等との偏見から、被害児童が勇気を出して告白しても逆に疑われる等の二次被害が生じている等の指摘がありました。

被害者遺族のもうお1人は、前回シンポジウムでも事例報告をしてくださった山本美也子氏でした。山本氏は、飲酒運転で当時高校生の息子さんを亡くされ、福岡県の飲酒運転撲滅条例制定へ尽力され、報道等でもご存じの方も多いと思います。講演活動(既に約900回にもなるそうです!)や被害者等でつながりを持つなかで、様々な犯罪被害者の方々の状況を知るようになったそうです。特に性被害では、人には言えなくとも髪をむしったり学校に早朝から遅くまでいる等のSOSは出していたケース、幼少の頃の性被害について子育てするようになって苦しめられるようになった母親等、被害に終わりはないようです。また、犯罪被害者は犯罪の性質や状況により、様々であり被害者同士であっても安易に声をかけられず、地方自治体の専門窓口による継続的な支援の必要性を指摘されました。

藤井大祐会員からは、依頼者が犯罪被害者の場合に、無保険の交通事故など損害賠償の回収が難しいケースのほか、児童に対する性加害には社会資源として一般には重要な家族に期待ができないことの深刻さを指摘され、弁護士業務の視点からも地方自治体による支援制度としての犯罪被害者等の条例による救済が必要との指摘がありました。

様々な視点から、コーディネーターの世良洋子会員が、上記のような様々なエピソードを引き出し、犯罪被害者支援活動を継続してきた同会員だからこそ、「犯罪被害者支援条例は悲願です」との言葉には非常に重みがありました。

4 おわりに

犯罪被害者やその遺族の方々は、犯罪被害に遭うまでは普通の生活を送ってきた方々ばかりです。私が、あなたが、今日、被害者になるかもしれません。また、性被害の暗数の多さは想像に難くありません。犯罪者の権利擁護を率先してきた弁護士ですが、犯罪被害者に寄り添うことも少数者の人権擁護に不可欠です。

既に、福岡県議会でも犯罪被害者支援条例の制定に動きつつありますので、ぜひ当会会員の経験や意見を反映させ、より良い被害者支援へ役立てていきたいものです。どうぞ今後とも犯罪被害者支援条例制定へのご支援、ご意見をお寄せください。

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