福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2017年2月 1日
「転ばぬ先の杖」(第29回) ADRという手続をご存知ですか?
会員 壇 一也(57期)
1 みなさんは、トラブルが発生したときにどうされるでしょうか。
まずは、相手と話し合ってみるのが一般的だと思います。しかし、それでも解決しないときは、弁護士に相談されるのが一番かもしれません。
ところが、弁護士に相談しても勝ち目がないとのアドバイスを受けることも、もちろんあると思います。
私たち弁護士としても、決して安いとは言えない費用をいただいて事件の処理をする以上、安請け合いをするわけにはいきません。弁護士が介入しても相談者の方の希望を叶えることが難しい場合は、私たち弁護士は、はっきりとそのように説明しなければなりません。
しかし、それでも納得できない・・・ということもあると思います。
今回は、そのような相談者の方について、私が弁護士としてどのように対応し、その方がどうすることを選択し、そしてその結果どうなったのかについて概括的にお話ししたいと思います。
2 事案の内容
あることが原因で、ご主人が精神的に不安定になられました。主に経済面での不安を訴えられるようになりました。ご主人は、実のお母さんに相談した結果、お金を貸してもらえることになりました。ただ、条件として生命保険の受取人を奥様から、ご自身(ご主人のお母さん)に変更して、担保とすることを求められました。奥様は、その必要はないとご主人に伝えましたが、ご主人の不安は続いたため、やむを得ずご主人に任せることにしました。それからしばらくして、奥様宛に保険金の受取人がお母さんに変更になったとの通知が保険会社から届きました。それから間もなくしてご主人は自死されました。なお、ご主人は、結局、お母さんから借入れをしていませんでした。
そして、保険金は、そのままお母さんに支払われました。
3 相談の内容とアドバイス
これらの経緯から、奥さんは、お母さんに対して、受領された保険金の支払いを求めました。ところが、お母さんは、これに応じられることはありませんでした。
そのため、奥さんは、私のところに相談にいらっしゃいました。奥さんは、相談に来られた時点で、理屈ではお母さんに保険金を支払ってもらうことは難しいということは理解されていました。そのため、奥さんには半ば諦めざるを得ないとの気持ちであった一方で、やはり納得できないとの思いも強くお持ちでした。
このような奥さんの気持ちを踏まえて、私は、理屈では奥さんの希望を叶えることは難しいことを説明したうえで、「これ以上悪くなることはないことからダメ元で再度話し合いを求めてみてはどうですか。」と提案しました。これに対し、奥さんも「できることはやってみてダメだったら諦めます。」ということで再度話し合いを求めることにしました。
4 具体的な解決手段の選択
私は、理屈では難しい案件であることもあり、極力、かける費用も抑えられる方法を考えました。その結果、選択した方法が福岡県弁護士会の裁判外紛争解決手続(以下「ADR」といいます)です。
このADRとは、福岡県弁護士会所属の弁護士が間に立って双方の意見を聞いたうえで適切な紛争の解決を目指す制度です。
このADRを利用するためには、1万円(別途消費税)の申立手数料がかかるだけです(なお、仮に何らかの解決が得られた場合は、別途成立手数料がかかります)。そのため、万が一、お母さんが保険金を支払ってくれない場合であっても、奥さんが負担すべき費用は1万円だけで済ませることができます。
そして、実際にこのADRを利用して、お母さんと話し合った結果、こちらが求める金額の一部を支払ってもらえることで和解が成立しました。
5 最後に
このような解決を図ることができたのも、お母さんに奥さんの気持ちを理解していただけたことが大きかったと思います。そして、そこに至るまでには、ADRで弁護士の関与の元、十分な話し合いをできたことが大きかったと思います。
もちろん、全ての案件でこのような解決を図れる保証はありません。しかし、まずは弁護士に相談していただくことで、何らかの解決の糸口を見つけることができるかもしれません。
お気軽に弁護士にご相談ください。
被害者支援は弁護士の責務 −明石市・泉房穂市長のご講演−
会員 小谷 百合香(64期)
条例制定に向けた全国の機運
犯罪被害者が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」が開始してはや7年が経過しました。被害者参加事件に関与する会員も増えていると思われます。
犯罪被害者給付金制度、損害賠償命令制度、ワンストップセンターの創設など、犯罪被害者に対する法的な支援は確実に広がりつつあります。
さらに、全国的には各自治体が犯罪被害者の支援のための条例を制定する機運が高まっているところです(日弁連でも、昨年12月26日にシンポジウムが開催され、モデル条例案が公表されています。)。ところが、ここ福岡県では、被害者条例を制定している自治体がわずか2市ときわめて少なく、今後の取り組みが求められるところです。
そこで、昨年11月15日、福岡県弁護士会館3階ホールにおいて、全国に先駆けて被害者条例を制定・改正し、被害者の支援に積極的に取り組んでおられる兵庫県明石市の泉房穂市長にお越しいただき、被害者支援・被害者条例の制定についてのご講演をいただきました。
明石市・泉市長の熱い思いを聞き、私も一弁護士として血が沸き立つような興奮を覚えました。若干の裏話も含め、ご講演の様子をご報告します。
市長の熱い思い
(1) 経歴等
泉市長はNHK、テレビ朝日のディレクター等を経て弁護士となり(49期)、衆議院議員の後に、明石市長に当選されました(現在2期目)。市長のベースには、障害者や犯罪被害者などに優しい社会づくりをしたいという強い信念があり、その信念のもと活発に行動されています。
(2) 市長とご対面
講演の30分ほど前に到着されたのですが、到着のときから市長の熱気が伝わってきました。
被害者を支援する弁護士が、時効中断のため再度の訴訟提起をする際に、一銭も実入りのない被害者(遺族)から着手金として数十万円をいただくことに強い違和感を持ち、明石市では、そのような場合の弁護士費用を支援していく条例改正を検討していることを話されました。当会や当委員会でも、関係機関に呼びかける等して、そのような場合に支援策を検討する余地がありそうです。
(3) 講演が始まって
午後4時、犯罪被害者委員会の林誠委員の司会のもと、藤井大祐委員長による市長のご紹介があった後、市長による熱意ある講演が始まりました。ネイティブの関西弁を駆使し、熱血的に話す泉市長の姿に、最初は皆が圧倒されました。
しかし、徐々に熱意だけでなく、理論的にも学ぶべきことや課題が多いことが分かってきました。
被害者支援は誰のためかとの問いには、明日被害に遭うかもしれない「全ての市民のため」と明言されました。
残念ながら、(他の自治体でもほぼ同様ですが)明石市の条例では過去の被害者やその遺族は救済されません、ですが過去の被害者や遺族たちは、将来の被害者となるであろう人々の権利向上のために立ち上がり、声を上げ続けています。具体的には、医療的ケア、家族(遺族)のケア(家事援助、一時保育費用補助)、経済的なケア(支援金、家賃補助)など、将来の被害者のための総合的な支援が可能となる条例を制定しているのです。
被害に遭っただけでも苦痛なのに、その人が自ら声を上げなければ何の助けも受けられないのでは、社会は生きやすいと言えるでしょうか。私たちは、過去の被害者や遺族により切り拓かれ、少しは被害者に優しくなった社会に今、生きています。
将来の被害者にとってさらに優しい社会となるよう、今、私たちにできること、その一つが、条例を制定し、継続的で質の高い支援体制を整備することだと感じています。
日弁連条例シンポジウム
先述しましたが、平成28年12月26日、日弁連でも条例制定に関するシンポジウム(犯罪被害者支援モデル条例案セミナー)が開かれました。
地方自治体による条例制定は今、社会から求められている"熱い"テーマといえます。
法務研究財団の研究班によるモデル条例案も発表されましたので、条例制定の機運はますます高まるものと期待されます。
今後の展望
福岡県内では、こと性犯罪の被害が多い(ここ数年、認知件数では全国ワースト5位以内、人口当たりの発生率では全国ワースト2位や3位)にもかかわらず、まだまだ条例を制定している自治体が少なく、被害者への支援は不十分といえます。
被害者支援条例が福岡県内の各自治体で制定され、被害者がもれなく継続的で質の高い支援を受けられるようになることを願うとともに、そのためには弁護士においても各自治体(地域)の実情・特質に応じた条例制定に関与するための研鑽を積むことが求められていることを感じられた、刺激の多い講演でした。
2017年1月 1日
「実務に役立つLGBT連続講座」第4回/弁護士としての職務上の注意点
両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 緒方枝里(62期)
■はじめに
LGBT小委員会メンバーによる「実務に役立つLGBT連続講座」も今回で4回目となりました。これまで、第1回と第2回では、LGBTの基礎知識やLGBTを取り巻く現在の情勢を、第3回では「周りの人との接し方、注意点」と題して、12~13人にひとりがLGBTの特性を持っていると言われるほどありふれた「個性」の1つであり、私たちの身近に必ず当事者がいるということ、無自覚な差別的言動をしてしまわないよう日頃のふるまいが大切であること等をお話してきました。
そこで、連載4回目となる今回は「弁護士としての職務上の注意点」ということで、実際の法律相談や事件処理で気を付けるポイントについてお話します。
■法律相談の場面
LGBTの法律相談というと、トランスジェンダーの性別変更の話や同性パートナーに財産を遺すための公正証書遺言の作成というように、相談者がLGBTであることをカミングアウトしていることを前提とした特殊な相談というイメージがありますが、大半は通常の法律相談と変わりません。
例えば、交際相手や一緒に暮らしているパートナーとのトラブル、学校や職場での人間関係や雇用に関するトラブル、個人間の金銭トラブル(貸金・保証)など、弁護士であれば誰でも受けたことがあるような相談の場合、相談者がLGBTであることをカミングアウトしない場合も多くあります。なので、どんな相談であっても、相談者がLGBT当事者である可能性を念頭に、相談に臨む必要があります。
相談を受けて弁護士としてアドバイスする内容は、当事者がLGBTであるかどうかでそんなに変わらないことも多いかもしれません。しかし、LGBT当事者は、弁護士の差別・偏見をおそれて、トラブルに巻き込まれていても法律相談に行くことを躊躇することが多いそうです。勇気を出して法律相談に来てくれた当事者に、担当弁護士の不用意な言動で二次被害を与えないようにするために、最低限の基本的な知識を持っておくことが必要です。
- 性自認と性的指向の違い
- 性自認や性的指向は治せるものでも当事者の趣味でもなく、変えようと思って変えられるものではないことを理解する
- トランスジェンダーであれば、みんなが性別適合手術を望んでいるものだと決めつけない
- 「ホモ」「レズ」「おかま」などの蔑称を安易に用いない 等
同性カップル間のトラブルの場合、交際相手の性別をごまかさなければと思うだけで、相談に行くハードルがあがるという話を聞いたこともあります。本人が「彼氏」・「彼女」といった表現を用いていない場合は、性別を特定せず「交際相手」・「パートナー」といった表現を用いるような工夫も心がけましょう。
また、実は問題の根本にLGBT当事者であることが関係していることもありえます。同性パートナーとの別れ話で、周囲にばらすと脅されて暴力を受けているのに別れられないとか、LGBTであることを理由に学校や職場でいじめや嫌がらせを受けているとか、相談者が相談担当弁護士のことを信頼してLGBT当事者であることを話してくれれば、より適切なアドバイスができる場合もあります。そのためには、信頼されるような共感的な姿勢を心がける必要があります。間違っても、LGBTであることを理由に嫌がらせを受けている相談者に「あなたが男(女)らしくないからダメなんだ」「同性愛をやめればいい」といった偏見に満ちた発言をしないように気をつけましょう。
私自身、小委員会に入るまでLGBTに関する法律相談は受けたことがないと思いこんでいましたが、気づかなかっただけで、これまでの相談者の中には当然のようにLGBT当事者がいたはずです。みなさんはどうでしょうか?これまで無自覚に相談者を傷つけてしまったかもしれないことを反省しつつ、今後は気をつけて法律相談に臨みたいと思います。
■事件処理
受任後の事件処理にあたっても、心がけるポイントは基本的に相談のときと同じです。加えて気をつけなければならないのは、事件処理の過程で、依頼者本人が望まないのに性自認・性的指向を第三者にカミングアウトすることにならないように細心の注意を払う、ということです。例えば、刑事事件で被告人がLGBTの当事者であることが証拠に記載されているけれども、本人が第三者(傍聴人や情状証人等)にそのことを知られたくないと思っている場合、LGBTであることが本当に公訴事実の立証と関係があるのか等検察官と予め十分な協議をしておくと共に、証拠の該当箇所を不同意にしたり、証拠調べで読上げないよう検察官に申し入れたり、書面の提出をもって証言に代えたりする等の工夫が必要です。
また、紛争の相手方がLGBTの当事者である場合に、不用意に第三者にそのことを知られないように配慮することも忘れてはなりません。
■おわりに
私たち弁護士は、いろんな方から相談を受け、事件を受任します。相談者・依頼者それぞれに個性があり、事案ごとの特性もあります。相手の理解力に応じて話し方や説明の方法を変えたり、耳の聞こえにくい方には筆談で対応したり、日中は仕事で電話に出られない人には夜間の電話や手紙やメールなど連絡方法を工夫したり、精神的に不安定な方にはこまめに連絡をしたり、日々個別具体的な事案に応じて必要な配慮をしながら、対応されていることと思います。当事者がLGBTであるということも、変に身構えすぎるのではなく、依頼者の個性や事案の特性の一つとして、普段依頼者や事案に応じてやっている当たり前の配慮をやっていただければと思います。
- 『セクシュアル・マイノリティQ&A』弘文堂 2016年7月
LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト - 『LGBTsの法律問題Q&A』LABO 2016年6月
大阪弁護士会人権擁護委員会性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム - 『セクシュアル・マイノリティの法律相談 LGBTを含む多様な性的指向・性自認の法的問題』ぎょうせい 2916年12月 東京弁護士会 性の平等に関する委員会セクシュアル・マイノリティプロジェクトチーム
- LIBRA vol.16 No.3(2016年3月号)特集「LGBT−セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)−」
- 自由と正義 vol.67 No.8(2016年8月号)特集1「LGBTと弁護士業務」
■参考文献
もっと深く知りたい!という方のために、今回私が参考にした文献等を挙げておきます。是非業務の合間にお読みください。
あさかぜ基金だより ~豊前ひまわり基金法律事務所開所式に出席して~
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 服部 晴彦(68期)
豊前ひまわり基金法律事務所開所式が開催されました
福岡県の東部に位置する豊前市では、40年近くにわたって常設の法律事務所がない状態が続いてきました。
地域社会の高齢化がすすみ、法律の専門家による助力が必要とされる問題がますます増えるなかで、地元では、常駐の弁護士が待望されてきました。
そうした地元の期待を受けて、10月3日、福岡県内ではじめてのひまわり基金法律事務所である、豊前ひまわり基金法律事務所が開設されました。
豊前ひまわり基金法律事務所の初代所長は、「あさかぜ」において養成を受けてきた西村幸太郎弁護士です。
今月号では、11月22日、豊前市のホテル「築上館」で開催された豊前ひまわり基金法律事務所の開所式について報告します。
地域に根ざした親しみ深い事務所をめざして
開所式当日、鉄道の不通というアクシデントにもかかわらず、周辺地域自治体の首長をはじめとする多くの人が出席しました。会場の熱気から、地域のリーガルアクセスが改善することへの喜びと期待が感じられます。
西村弁護士は、大学時代に弁護士過疎・偏在問題に関心をもって以降、「この道しかない」という強い意気込みをもって、弁護士過疎地に赴任する道を志したとのこと。志を実現するための第一歩を踏み出し、開所式にのぞむ西村弁護士の表情は晴れ晴れとしたものでした。
西村弁護士は、豊前ひまわり基金法律事務所を地域に根ざした親しみ深い事務所としていきたい、地域社会の発展に寄与し、法の支配の国民的浸透に貢献したいと力強く宣言しました。
西村弁護士は、開所式にあたり、豊前市の特徴を解説した書面を作成し、出席者に配布しましたが、豊前市を愛し、少しでも多くの人に豊前市の良さを知ってもらいたいという西村弁護士の気持ちがひしひしと伝わってくるものでした。
そんな西村弁護士に対して、出席者は、口々に、「そのひまわりのように大きな笑顔で地域を明るく照らしてほしい」と激励していきます。西村弁護士の人柄が、早くも豊前地域において、愛されていることが見てとれました。
周辺地域からの出席者からは、地域の高齢化に伴う法的トラブルについて、西村弁護士の活躍を期待する声が次々にあがりました。西村弁護士の、福岡県弁護士会の高齢者障害者等委員会や消費者委員会の一員として精力的に活動してきたこれまでの経験が、存分に活かされることが期待されるところです。
豊前ひまわり基金法律事務所が、地域に根ざした親しみ深い事務所となるべく、着実に一歩を踏み出したことを心から実感できた開所式でした。
大きな刺激を受けて
豊前ひまわり基金法律事務所開所式では、弁護士過疎地に、新たに法律事務所が開設されることへの地域社会の期待の強さを体感しました。これから弁護士過疎地へと赴任していこうとあさかぜで研鑽を重ねている私にとって、大きな刺激となるものでした。
私も、弁護士過疎地において、地域に根ざした親しみ深い弁護士になれるよう、より一層の精進を重ねていきたいと思います。
2016年12月 1日
あさかぜ基金だより
会員 今井 洋(64期)
はじめに
あさかぜ基金法律事務所から、司法過疎地である長崎県壱岐市の法テラス壱岐法律事務所に赴任し、平成28年10月をもって、3年間の勤務を終えました。
あさかぜでは、九弁連の皆様に様々なご支援やご指導を頂き、司法過疎地での勤務を終えることができたのはその賜物と思っております。御礼を兼ねて、壱岐の実情等をご報告させて頂きます。
壱岐市のご紹介
長崎県壱岐市は、壱岐島全域がそのまま市であり、人口は2万8千人ほどです。長崎県ですが、福岡市との関係が非常に深く、福岡には、壱岐の人口を超える数の壱岐出身者やその家族がいるそうです。
島外との交通は、博多港へ高速船及びフェリーが1日10往復、唐津港へフェリーが1日5往復している他、長崎大村空港へ飛行機が1日2往復しています。
島内の公共交通機関は、バスのみですが、本数が少なく、普段の足として使うのは困難なため、ほとんどの人が自家用車で移動します。
高度経済成長期には、漁業や海運業、土木事業などを中心に活気があったようですが、現在は、どこもあまり景気が良くなく、地元紙などでは、民間の平均収入は、公務員の半分以下と言われています。
司法過疎地での業務
壱岐市は、司法過疎地とされており、当然ながら、弁護士は少なく、私以外にはひまわり基金法律事務所の弁護士が1名いるだけでした。
業務について誰かに聞きたいことがあっても、すぐに相談できる環境ではありませんが、法テラスの電話相談のほか、あさかぜ時代にお世話になった福岡の経験豊富な先生方に電話やメールで相談することができ、弁護士として勉強できるとともに、精神的にも助けられました。
弁護士業務は、幅広いうえ、最近でこそ、マニュアル本も多く出るようになりましたが、まだまだ経験が物を言うことが多いと感じます。マニュアルにない実務的な知識や、知識に留まらない意識などを教えていただけ、大変助かりました。
また、なかなか他の弁護士と話をする機会もないなか、業務で福岡や長崎市に行くと、大変温かく接して下さり、孤独感が癒やされました。
事件傾向等
あさかぜでは、指導担当の先生方と共同受任させていただく他は、自分で法律相談等で受任した債務整理や離婚などの家事事件といった扶助事件が多くを占めていました。
壱岐でも、多くは同様の扶助事件で、あさかぜでの経験が生きたと思います。
また、数は少ないですが、賃貸借や遺産分割、保全といった事件や、成年後見や破産管財、相続財産管理人といった裁判所案件もありましたが、あさかぜで指導担当の先生方と共同受任させていただいた経験が活かせました。
振り返ってみると、あさかぜで経験したことは、そのまま司法過疎地の業務に役立つものだったと思います。
ただ、数年前までは、弁護士事務所の存在を広めつつ、過払い等の債務整理が業務の中心でしたが、ここ数年は、債務整理事件の占める割合が、非常に低下しました。その代わり、家事事件の占める割合が多くなり、全国的な傾向と同じです。
おわりに
壱岐での相談者には、九弁連の先生方が行っていた法律相談センターで相談したという方や先代の先生方らに相談したという方もいました。
先達の先生方が続けてこられた過疎地対策で、弁護士への信頼を培ってこられたからこそ、私も壱岐の方から多くの相談を受けることができたのだと思います。
また、壱岐は、土地柄が素晴らしく、魚介は言うに及ばず、壱岐牛あり、温泉あり、弥生時代の王都であった原の辻遺跡もあり、皆様も一度来ていただければ日々の疲れが癒されることは間違いありません。
行政問題委員会だより
行政問題委員会委員 前田 恭輔(68期)
平成28年9月10日午前10時から午後3時まで、福岡県弁護士会館において、「行政ホットライン 秋の大相談会」が行われましたのでご報告します。
1 「弁護士による行政ホットライン」について
行政問題委員会は、年10回、「弁護士による行政ホットライン」を実施しています。行政ホットラインでは、行政に対する不満や疑問について、市民の皆様から、電話または面談で相談を無料で受け付けています。相談では、税金に関する問題や生活保護に関する問題、区画整理や用地買収に関する相談など、毎回多岐にわたる相談が寄せられています。
また、年10回の行政ホットラインのうち春と秋の2回は、休日の午前11時から午後3時までの4時間で大相談会を行っています。大相談会には、普段は仕事で相談に来られない方も参加され、毎回10件前後の相談が寄せられています。
2 行政ホットライン秋の大相談会について
平成28年9月10日に、行政ホットライン秋の大相談会が開催され、弁護士10名で対応しました。当日は、遺族年金に関する相談2件、公営住宅の立退きに関する相談1件、国民健康保険料の減免に関する相談1件、ハローワークに関する相談1件、国家賠償請求に関する相談1件、火災保険に関する相談1件の計7件の相談がありました。
直ちに受任につながるものはありませんでしたが、遺族年金に関する相談及びハローワークに関する相談については、当日の面談だけでは結論が出ないものであったことから、後日、担当した弁護士が関係する法令等を調査検討の上面談を行いました。
相談者の中には、これまで長期間にわたって行政側と交渉を重ねてきた方や、行政側の対応の不適切さから強い不満を抱えている方もいらっしゃいました。そういった中でも、委員の先生方は、相談者の話を丁寧に聴き取り、具体的なアドバイスをされていました。相談者の方々は、期待した回答が得られなかった場合であっても納得した表情で相談を終えられていました。
3 今後について
行政問題委員会では、平成29年2月7日に行政事件の研修会を行う予定です。同研修会の第1部では、今年の4月に施行された改正行政不服審査法について木佐茂男九州大学名誉教授にご講演いただく予定です。また、第2部では、当委員会の委員が、「行政事件のイロハ」と題して、情報公開請求や補助金の問題など日常業務で遭遇しやすい行政事件について講演を行う予定です。日々の弁護士業務に役立つ内容になると思いますので、是非ご参加ください。
給費制維持緊急対策本部だより 修習手当の創設を求める院内意見交換会について (10月11日衆議院第一議員会館)
会員 南正覚 文枝(67期)
1 平成28年10月11日、衆議院第一議員会館において「修習手当の創設を求める院内意見交換会~実現させるこの秋に~」が開催されましたので、そのご報告をさせていただきます。
2 今回の院内集会は、参議院の本会議とちょうど時間帯が重なってしまい参議院議員の出席が望めなくなったにもかかわらず、国会議員本人出席31名、秘書代理出席70名、一般出席185名、合計286名出席と、多くの方々にご出席いただきました。
集会までに寄せられた国会議員の賛同メッセージは、当日寄せられたものを加えると432通に達し、議員総数の6割を超えました。
3 集会の開会前には、これまで全国8カ所で行われたリレー市民集会の動画が上映されました。
集会はまず、中本和洋日弁連会長による開会挨拶から始まりました。
4 その後、各党を代表して国会議員の方々からの発言がありました。
自由民主党・宮崎政久議員、公明党・吉田宣弘議員、社会民主党・福島瑞穂議員、日本維新の会・河野正美議員、民進党・逢坂誠二議員、日本共産党・畑野君枝議員、それぞれの方々からご意見を頂きました。
皆さん共通して、ビギナーズの地道なあいさつ運動等の活動を称え、司法修習生への給費の実現を一刻も早く図らなければならないという強い認識を持っておられました。
そしてまた、何人もの国会議員の方が、ここにいる国会議員たちは本来全く政治的立場は異なるが、司法修習生への給費の実現という待ったなしの課題については、その立場の違いを超えて共に戦っていく必要があるという発言をしておられました。
その後、集会に出席してくださった他の国会議員の方々からも次々と、早急に給費を実現するために最後まで共にがんばりましょうといった熱いエールを頂き、会場が一体となって盛り上がっていきました。
5 国会議員の方々からのエールの合間には、70期修習予定者と大学生2名、計3名の当事者からの発言がありました。
70期修習予定者からは、これまで奨学金を借りてきたため現時点で700万円近くの借金があり、修習が貸与のままであった場合、修習終了時点で約1000万円の借金を背負うことになること、貸与を受けるため保証人を立てなければならないが世話になった両親に頼むのは心苦しく機関保証にしようと考えていること、このようなことから今年の司法修習を辞退しようかと悩んでいることなどが、語られました。
また、大学生からは、実家がそれほど裕福ではないため経済的不安が大きく、このままでは安心して法曹への道を目指せないといった悩みが語られました。
このような当事者の生の声は、集会に参加した方々の心を深く打つものがありました。
6 最後に、新里宏二司法修習費用給費制存続緊急対策本部本部長代行が、これまでの活動を振り返りつつ、「修習手当の創設を実現させ新しい法曹を育てていきましょう、もう猶予はありません!」と力強く述べ、会場は熱気に包まれた中、盛況のうちに閉会となりました。
7 このようにこの秋からの司法修習生への経済的支援の実現に向けての活動は、多くの国会議員の理解と賛同も得て、いよいよ大詰めを迎えております。
会員の皆様の変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。
2016年11月 1日
ITコラム 「クラウドの必要性?」
IT委員会 関口 信也(53期)
1 クラウドとは
IT関連広告で「クラウド」を耳にすることがあります。このクラウドは英語の意味では「雲」ですが、IT分野で使う場合はインターネットを利用したネットワークの意味です。なぜ「雲」なのかは定説はありませんが、ネットワークを図説するときに、雲状のものをつなげたことによるとの有力説があります。
このクラウドをより簡単に説明するならば、大切なデータを個人のパソコンや携帯端末に保管するのではなく、インターネットを利用して、外部に蓄積することです。個人のパソコンが壊れた、持ってきていない、必要とする情報量が多すぎるなどの不便な状態のときに、身近な端末を利用してインターネット接続で、データの閲覧・編集などができるようになります。Gmailなどもクラウドを利用したメールサービスと言えます。
2 サーバーはどこにある?
ところで、最近は法律事務所の多くがホームページを持つようになりました。
ある業界雑誌のアンケートでは、法律事務所のホームページ所持率は40%とのこと。そのURLに使う文字の配列をドメインと言いますが、事務所や個人の名前を設定することが多いですね。つまり独自ドメインを使っていることになります。独自ドメインを設定するときに、その元になるのがサーバーです。外部のサーバーを利用することはクラウドに似たものとなります。
3 クラウドのメリットとデメリット
クラウドを利用すると前記のとおり遠隔操作が可能ですが、そのほかにもサーバーやソフトの購入、その維持管理が不要となり、コストが低減できます。
逆に不安なのはサービスの安定稼働とセキュリティです。ネットの不具合、提供会社側の障害発生や人的アクシデントは、利用者側ではどうしようもありません。十分な対策が講じられた提供会社を選ぶべきでしょう。
クラウドを利用する事務所はまだ少ないと思いますが、外出の多い弁護士やチーム弁護の場合には大いに活用の場面が増えます。瞬時にクライアントの要望する資料が出せることは、事務所の営業にも役立ちます。これからはさらにIT技術が進みますから、デメリットを克服したネットワークが完成すると私は期待しています。もちろん現状においても、法律相談用の知識としてクラウドを知っておくべきでしょう。
あさかぜ基金だより・番外編 ~徳之島より戻ってきました~
会員 今井 寧子(64期)
元・あさかぜ所員の今井(小池)寧子と申します。平成23年12月の弁護士登録と同時にあさかぜ基金法律事務所に入所しました。その後、平成25年8月1日より鹿児島県の徳之島に赴任し、3年の任期を終え、この度福岡に戻ってまいりました。どうぞよろしくお願いします。
初めての徳之島
忘れもしない、平成25年7月31日、私は生まれて初めて徳之島の地に降り立ちました。その年は、後に奄美群島全体で雨乞いをするほど晴天続きの日々で、私が徳之島に着いたときにも青い空と青い海、ギラギラと輝く太陽に迎えられました。その輝く太陽に負けないように私もこれからこの地で輝こうと決意を新たにしたものでした。一方で、徳之島(子宝)空港に降り立ったときに、青い空などの次に目に入ってきたものが、「全国闘牛サミット」なる横断幕であり、これからの生活に一抹の不安を覚えたことはここだけの秘密です。
平成25年8月1日、法テラス徳之島法律事務所は、無事に開所の運びとなりました。奄美群島における2大地元紙である南海日日新聞と奄美新聞に取材に来ていただき、翌日には、奄美新聞ではなんとカラー写真付きで1面を飾りました。
その後、なぜか私の両親も出席し、なんだか結婚式の披露宴のようになってしまった開所式があったり、初めての島での台風を経験したりしながら(大変恐ろしい経験でした。)、徐々に徳之島での生活にも慣れていきました。
徳之島での活動
徳之島は、8つの有人島からなる奄美群島のうちの一つであり、人口2万5000人ほど、主な産業は農業(サトウキビ栽培)という(ちょっぴり賭け事も好きだけど)のどかなのどかな島です。
そんな徳之島での活動を少しご紹介します。
一番の思い出は、やはり「初めての管財事件」です。徳之島に赴任して比較的早い時期に依頼を受けたのですが、本当に何もかもが初めてだったので、軽くパニックでした。にもかかわらず、私の主な任務は、闘牛用の牛の査定、その牛に価値があるのであれば換価すること、という困難を極めるものでした。なんと、私は、闘牛牛の管理者になってしまったのです。ひとまず、その牛を見に行かねばなりません。牛小屋をたずねると、大きくて、黒い牛が「ぶもももも」と鳴いています。その牛は、800キログラムあるそうなのですが、それでも、階級は軽量級。大きい牛は1トンを超えるそうです。なお、闘牛用の牛の価値は、牛同士で喧嘩をさせてみないと分からず、勝数が多くなればなるほど、その価値は上がっていき、100万円を超える価格で取引されることもあるそうです。一方で、勝てない牛はただの牛。それどころか、食用の肉としては、筋肉ゴツゴツで、そう美味しいものではないので、2、3万円の価値しかないそうです。うんうん、勉強になりますね!
その他、「先生からは都会の香りがする」とお客様に言われてしまうほど都会育ちの私には、特に土地問題等では慣れないことも多かったですが、色々な方々の助けもあり、なんとか3年の任期を終えることができました。
徳之島とあさかぜと
紙面も尽きてきましたが、あさかぜだよりなので最後に大事なことを。徳之島史上、弁護士が常駐するのは私が初めてであり、それが使命感となる一方で、島に一人きりという孤独感に苛まれることも実は結構ありました。そんななか、あさかぜで指導担当をしてくださった先生方に事件の相談が出来たり、あさかぜ出身の先輩方にお話を聞いていただいたりして、仕事の面でも精神的にも支えていただき、あさかぜ出身で良かったなあと思うことが多々ありました。また、あさかぜにいると自然と色々な先生方と交流する機会が増え、それが赴任後の糧となっているなあと感じることもありました。
時代は変わっていきますが、あさかぜ共々今後とも何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
「転ばぬ先の杖」(第28回) 「整骨院での施術について」(交通事故委員会)
会員 黒野 賢大(64期)
1 はじめに
この「転ばぬ先の杖」シリーズは、月報をご覧になった一般市民の方に、法的な取り扱いや弁護士の取り扱い業務を知っていただくためのコーナーとなっております。
今回は、交通事故委員会から交通事故の際の賠償問題について取り上げたいと思います。
2 交通事故の被害に遭われた方で、「整骨院に通院したいが、病院に許可をもらわないといけないのか」「整骨院への通院を保険会社から打ち切る旨の連絡が来たがどうしたらいいのか」といった内容の相談を弁護士が受ける場合があります。
そこで、被害者の整骨院への通院の際の施術について、実務上の取り扱いについて紹介したいと思います。
3 判例・実務上、整骨院での施術費が交通事故の賠償として認められるためには、原則として、医師の同意(施術についての指示を受けること)が必要とされています。
もっとも、医師の指示を受けなければ全く認められないものではなく、下記(1)から(5)の事情や、患者(被害者)側の事情(整形外科への通院の困難性、副作用回避、時間的拘束)等を考慮して適正な範囲で施術費が認められるものと考えられています。
- 施術の必要性 → 施術を行うことが必要な身体状況にあること。これは、各施術が許される受傷内容であることを前提に、従来の医療手段では治療目的を果たすことが期待できず、医療に代えてこれらの施術を行うことが適当である場合、又は、西洋医学的治療と東洋医学に基づく施術とを併施することにより治療効果が期待できる場合である必要があると考えられています。
- 施術の有効性 → 治療の効果(症状緩和の効果)があることが必要と考えられています。
- 施術内容の合理性 → 受傷の程度や症状の程度に応じたものであることが必要と考えられています。
- 施術期間の相当性 → 受傷の内容、治療経過、疼痛の内容、施術の内容及びその効果の程度などから施術を継続する期間が相当であると判断できなければなりません。
- 施術費の相当性 → 報酬金額が社会一般の水準と比較して妥当であることが必要だと考えられています。
4 上記のような取り扱いによれば、整骨院での施術についての医師の指示がない場合で、整骨院での施術内容に全く変化がなく、施術の効果が全くなく、1年間整骨院に通い続けた場合に施術費が賠償されないということは想像できると思いますし、一方で、事実上、整骨院の通院を保険会社が承諾して、数か月の通院であれば、それほど問題なく施術費全額を支払ってもらえることになると思います。
しかし、施術費がどの範囲で認められるかという点は、上記のように様々な事情をもとに判断されることになりますので、後から施術費の一部を賠償してもらえなかったということにならないように、早期の段階で専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
その他に、過失割合や慰謝料・休業損害の算定など、交通事故における賠償の法的問題は多岐にわたります。
早期に弁護士に相談することで、賠償にまつわる様々な悩みを弁護士に任せ、治療に集中できる環境づくりをするという意味でも、まず、お気軽に弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。
5 福岡県弁護士会では、以下ように交通事故の法律相談を行っております。
交通事故無料電話相談:092(741)2270
(月・火:午後1時~午後3時30分、 水~金:午後1時~4時)
無料面接相談:お問い合わせ 092(741)3208