福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

「先生のための〈夏休み法教育セミナー2015〉」を開催しました!! ~法教育委員会の皆で頑張りました☆~

教育委員会 委員長
春 田 久美子(48期)

法教育委員会として初めての企画「先生のための〈夏休み法教育セミナー2015〉」を8月10日(月)、アクロス福岡にて開催しました。

これは、当会が行っている法教育センターの出前授業のこと、すなわち、弁護士が学校の教室などに赴き、GT(ゲストティーチャー)として子供たちに直接の授業を行っていること♥を広くアピールするため、もっと言うと、思ったようには、なかなか普及していかない法教育の意義や魅力について、先ずは学校現場の先生方に直接伝え、知っていただき、法教育のファンを一人でも増やして、さらには先生方と私たち弁護士(会)との繋がり・ルートをしっかりとしたものとして作り上げたい・・・そんなことを目標・狙いとした企画です。

【初めての試み、を思いついたわけは・・・】

私は、法教育委員会の委員長になって2年目ですが、例年、夏休みに行っているJLS(ジュニアロースクール)では、参加する児童・生徒さんの数が期待するようには集まらず、"動員"をどうするかがいつも悩みの種であり、苦労している部分でした。委員長1年目の昨夏は、JLSのあり方について、準備段階から本番当日の様子を含めて問題点などを自分なりに浮かびあがらせようと、そっと様子を探っていました。そんな折、昨年の夏休み、岡山弁護士会より法教育についてのセミナーを開くとのことで、講師依頼があり行ってみると、びっくり!たくさんの学校の先生方が集まっていらっしゃったのです。主催者として法曹三者が名を連ねている他、岡山県・市の各教育委員会、岡山大学も後援していました。このセミナーの件を2ヶ月に一度位の頻度で開いている福岡法教育研究会(法教育委員会の弁護士全てと法教育に興味がある先生なら誰でも入れる集まり)にも情報提供したところ、羨ましいね~良いね~との声が・・・。"そっか!直接、学校の先生方にアクセスできる研修会、セミナーみたいな企画を実施したらいいのか!"。シンプルにそう気付いたのです。やるからには良い企画にしたい!でも、相当のマンパワーも労力もエネルギーも要るよね・・・う~ん・・・乗ってくれるかな~なにより例年実施のJLSはどうするの?・・・きっと突っ込まれるよね・・・・・・。今年は思い切ってお休みしよう、一回パスをしてでも先生向けの企画を実現した方が、きっと法教育の普及のためには早道かつ確実になるのは間違いない、それだけの充実した企画にしたら、きっと大丈夫...そう訴えよう...。そう心に決めて、思い切って委員会で提案したところ、意外(?)とあっさり了承(ホッ♪)。そうして、秋以降、少しずつ準備が始まったのです。

【企画内容を煮詰めるまでの道のり・・・】

今回の企画を練るに当たっては、福岡法教育研究会に参加して下さっている学校の先生方からのアドバイスが欠かせません。学校の先生方に如何に興味をもってもらい、たくさんの方に参加してもらえるような企画にするか!それが最大の目標だからです。

皆で議論して、コンセプトは"誰でもできる""明日から直ぐに授業に使える""一コマ(45~50分間)でできる法教育の授業の提案"、になりました(それが、学校現場のニーズなのです)。キャッチーなワードとしては、今、学校の先生方にとって最も関心が高い"アクティブ・ラーニング"を盛り込むことも決まりました。問題は内容ですが、喧々諤々の議論を経て、公法系、私法系(契約)、そして言語活動&法教育の3つの分科会方式をとること、全体を貫くトーンを示すような基調講演を行い、最後、参加者全員との意見交換・交流を行うひとときになるような全体会を設けること、どういう方々に協力をいただくか、いただくべきかなども徐々に決まっていきました。

【セミナーの内容と盛況だった当日の様子】

基調講演には、法教育を学習指導要領との関連でお話できそうな方、ということで大倉泰裕氏(元文科省教科調査官で現在は千葉県立高校の現役教諭)より「学習指導要領と法教育」とのタイトルで。もうお一人、祇園全禄氏(福岡教育大学監事)からは「法教育の裾野を拡げ内容の充実を図る教育風土の醸成」と題して、学校教育全般を見渡して法教育の有意義性と必要性についてお話しいただきました。

大倉氏は、以前、私が同様のセミナー(学校の先生向けの金融教育セミナー)に参加してみたときに出会ったのですが、具体的実践と関連づけたお話がとても面白く、非常に良い記憶が残っていたところ、修猷館高校の公民の先生が繋いでみる、と仰ってくれて実現しました。祇園氏は、中学校の先生から紹介されて個人的に繋がりがあった方でしたが、義務教育に携わる教員の方々にとってのネームバリューが非常に高い、参加者を呼べる方ということで決まりました。実際、祇園氏には、当日のセミナーに向けて、後援を頂いた学校の先生方の諸団体や福岡市の教育委員会の先生方など、具体的な効果を伴う顔つなぎの労を執っていただき、それ自体が非常に有意義であり大変お世話になりました。当日の講演内容は、いずれも参加者からのアンケート結果でも好評のようでした。

分科会は(欲張って)3つも立ち上げたので準備が大変でした。今回、分科会企画で意識したのは、モデル授業案を作るだけでなく、それを必ず授業として実践し、弁護士からだけでなく学校の先生との共同発表の形をとること、でした。徹底して現場目線を大切にしてみる、という方針で臨んだのです。なので、協力して下さる学校の先生をこの企画に巻き込む必要があります。心当たりのありそうな、力を貸してくれそうな先生方の顔を思い浮かべ、連絡をとりました♥今まで、法教育を通じて知り合った先生方との人間関係を大切にしてきて、本当に良かった、と思えたのがこの部分でした(かなり無理をお願いしたのかもしれませんが(^_^;))。

公法系は憲法、特に立憲主義&選挙の意義をとりあげることになったのですが、折しも公職選挙法の改正で選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたのでタイムリーなテーマとなりました。甲木先生をキャップに、柏薫先生が若手委員を指導しながら警固中学校(3年生)での実践に向けて頑張ってくれました。

私法系は消費者教育の意味合いも込めて、契約の部分を、学校で喫緊の課題となっているネットモラル授業(ネットゲームやネットショッピングを素材にしたもの)と関連づけて行うことにしました。これは、家庭科や生徒指導の先生など、社会科以外の教科でも法教育が広く関連することを知っていただき、間口を拡げたかったからです。塗木先生と日浅先生を中心に、若手委員も奮起し筑紫丘中学校(2年生)の授業に臨みます。

言語活動は、主に国語の先生方を念頭に置いたのですが、諸々の理由で、ここだけは高校生を念頭においた授業スタイルにすることになりました。かつて受験予備校で本格的に小論文の指導経験のある八木先生にお願いし、私・春田が一コマ目にオーソドックスな法教育の授業を行うのと併せた形の授業として筑紫女学園高校(3年生)に打診し、快諾いただきました(授業の様子はNHKニュースや新聞でも報道されました)。

全体会では、相原先生の司会のもと、学校の先生方だけによる法教育の取り組み事例として紹介するべく、頑張っておられる宗像地区の中学校社会科研究会を代表して城山中学校(3年生)の先生方に発表して頂きました。

当日は、用意していた席を大きく上回る参加者を得(約100名)、立ち見の人が会場外にあふれるなど大盛況でした。質疑応答の場面では、にわかにクローズアップされてきた"主権者教育"、どうする?!に関し、非常に関心が高い様子が窺え、最後、お土産として諫山先生を中心に用意した教材集もお渡しし、たくさんのアンケート結果も得ることが出来ました。セミナーの様子は西日本新聞などメディアにも取り上げられました。総合司会の鎌田先生、ありがとうね!

【広報活動と今後のこと・・・】

個人的には、一番大変だったけど、一番今後につながったかな、収穫だったかなと思ったのは、後援名義を頂戴したりした各種研究会(福岡県・福岡市中学校社会科研究会や福岡県高等学校公民科研究会、福岡市中学校技術・家庭科研究会や福岡県高等学校国語科研究会)の会合や各教育委員会、私学協会、県教育センター等を訪れ、このセミナーの広報活動をしたこと自体、先生方の集まりに直接参加させていただき、その場で直接、学校現場の先生方とお話しが出来たことです。時間とエネルギーが必要でしたが今後の法教育委員会の活動を普及する上で、じわりと、でも確実に繋がっていくことを実感できました。

弁護士は、やっぱり憲法や法律の"先生"として学校や市民の方々から期待されているんだ・・・そういうことも実感できた経験となりました。

その他、アンケート結果で見えてきた多くの課題やヒントを宝物にして、今後、法教育委員会の活動につなげていきたい...心からそう思えた充実のセミナーでした。何よりも今回のセミナー企画が成功したのは、各委員それぞれが自分の持ち場で精一杯頑張り、力を合わせたからだと思い、嬉しかったです。参加した教員の方々からは是非ともこのようなセミナー企画を年に1~2回でも続けていって欲しい、たくさんの同僚を連れて来ますから~などの声も頂きました。
この記事を読んで、私も是非来年は!と思っていただけたら、どうぞ法教育委員会に御参加下さいね!委員一同、お待ちしております。Fin

2015年9月 1日

「転ばぬ先の杖」(第18回) 「交通事故に遭ったら早期に弁護士に相談を。」

会 員 宮 田 卓 弥(55期)

私の所属する事務所は、交通事故の案件を比較的多く扱っています。

この「転ばぬ先の杖」のコラムとして、交通事故の弁護士への相談を取り上げたいと思います。

交通事故は、日常生活の中でどんな方にも起こる可能性のある事ですが、ひとたび事故に遭うとその後の人生を左右するような事態にもなりかねません。その中でも、私がご相談を受ける中で感じることが多い、交通事故に遭った場合の早期相談の重要性について述べたいと思います。

1 交通事故発生件数の多さ

福岡県は他県に比べて交通事故が多く、平成25年には、4万3678件発生しています。この件数は、全国でワースト3位であり、福岡での交通事故の多さを物語っています。

実際に私たち弁護士が受ける相談においても、福岡県内での死亡事故、介護を要するような重大事故も多く、被害者救済の重要性を痛感しています。

2 早期相談のすすめ

私たち弁護士による交通事故被害者の救済という活動を行っていく中で、特に重要だと感じることがあります。

それは、交通事故直後のできるだけ早い時期に、弁護士に相談・依頼をすることです。

交通事故の被害に遭うのは、ほとんどの方が人生に一度のことです。突然の事故の後に、ご本人だけでなくご家族の方々も心身共に余裕のない状態で、警察、病院及び保険会社等様々な対応を求められます。何の知識もない状態では、どこに相談し、どんな対応をすればいいのか分からないというのが事故に遭われた多くの方の実情です。

しかしながら、事故後に警察、病院及び保険会社等へ適切な対応を行うことが、その後受取ることが出来る補償内容に大きく影響します。弁護士が早期に介入することにより、事故に遭われた皆様の悩みをお聞きし、関係各所に適切な対応を行うことが可能となります。

また、後遺症が発生しそうな重大な交通事故の場合には、症状固定の前に、弁護士への早期の相談が特に重要だと考えています。

なぜならば、交通事故によって後遺症が残りそうな場合には、交通事故の直後に適切な治療を受けていることや、後遺障害診断書の内容が適切かどうかによって、被害に遭われた被害者の方の実際の後遺症に見合う後遺障害等級が認定されないおそれがあるからです。適切な後遺障害等級の認定を受けるか否かによって、金額にして数千万円の賠償金の違いが出てしまう場合があります。適切で十分な補償を受けることは、ご本人やご家族が抱えて行くかもしれない負担を少しでも軽減できると思われます。

早期に弁護士に相談することで、症状固定の前の段階から、後遺障害の認定における対応や、その後の生活のことまで見据えたアドバイスをすることが可能なのです。

3 弁護士費用について

弁護士費用についてご心配される方も大変多いです。ご相談のタイミングが遅くなることの原因の一つではないかと考えています。

交通事故による怪我で就業が出来なくなっておられる方にも、早くご相談いただきたいのですが、ご本人の収入が絶たれていることにより費用の面で、躊躇されることも無理はないと思います。

しかしながら、交通事故の場合、法律相談料が無料であったり、弁護士費用を後払いにしてもらえる場合も多くあります。

さらに、ご自身又はご家族の自動車保険に「弁護士費用等補償特約」がついていれば、弁護士に依頼した場合の着手金や報酬金が、通常300万円までは、保険会社が支払ってくれます。つまり、弁護士費用が300万円の金額の範囲内であれば、弁護士費用を自己負担なく弁護士に依頼し、示談交渉や裁判を進めることができます。

このように、交通事故の相談に関しては費用の面でもご心配いただくことが少なくなってきていますので、お早めに弁護士にご相談いただく事をお勧めします。

4 弁護士の探し方

弁護士会の相談センターで相談する方法がありますが、最近では、インターネット検索で弁護士を探される方も多くいらっしゃいます。
交通事故に遭われた方が、情報収集にパソコンやスマホを使用される方も増えてきていると感じています。弁護士をお探しの方は、そのような情報発信を参考にされて、弁護士を探されてみるのも一つの方法ではないかと思います。

あさかぜ基金だより あさかぜにおける養成について

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士
中 田 昌 夫(67期)

私が、あさかぜ基金法律事務所に入所してから、9か月がたちました。
当事務所での養成期間は、だいたい2年程度と言われているので、すでに養成期間の3分の1ほどを終えたことになります。月日の経過の早さには驚かされるばかりです。
今回は、当事務所での養成の実情について、これまでの活動を振り返りながら、ご紹介させていただきたいと思います。

まずは、受任事件を通じた養成活動についてです。
弁護士過疎地においては、弁護士の数が少ないため、多種多様な事件が持ち込まれることになります。
そのため、当事務所の弁護士は、弁護士過疎地への赴任を見すえ、さまざまな種類の事件に対処する能力を養う必要性があります。
そこで、当事務所では、弁護士が法律相談等を通じて事件を受任するほかに、外部の事務所の弁護士に協力していただき、共同受任事件を通じて幅広い種類の事件を受任することができるよう、配慮いただいています。
ことに共同受任事件においては、一緒に担当させていただいている弁護士の活動を拝見しながら、事件処理の奥深さを実感するとともに、多くを学ばせていただいています。
たくさんの弁護士にご指導、ご協力をいただき、日々、感謝の気持ちで一杯です。この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。

次に、事務所経営に関する養成についてです。
当事務所の弁護士は、事務所の経営についても、主体的に取り組んでいます。
赴任先において、事務所の経営や顧客開拓がうまくいかなければ、事件処理がとどこおり、法的救済を必要としている人々の依頼に応えられないことになりかねません。また、赴任先において、事務所の経営を安定化させ、広く顧客を開拓することができれば、弁護士過疎地域への弁護士の定着がより容易なものとなるからです。
具体的には、毎月、事務所内で会議を開き、キャッシュフローのデータを確認しながら、事務所の経営改善のために、どのような点を留意するべきか、どのような工夫ができるか、意見をかわしています。
また、広報や、受任ルートの開拓、事務局や弁護士の採用活動について、外部の事務所の弁護士からアドバイスをいただき、試行錯誤を重ねつつ、取り組んでおります。

こうして、当事務所における養成の取り組みを振り返りながら、改めて、貴重な機会をいただいていることを実感いたします。
もっとも、限られた時間の中で、どれだけのことを学び取れるかは、被養成弁護士の目的意識と積極性にかかっているものと考えます。
そうした目的意識や積極性を常に維持するうえで、弁護士過疎地へ司法サービスを供給し、法の支配の貫徹に寄与するという、同じ目標をもった被養成弁護士とともに、切磋琢磨できるという事務所の環境もまた、えがたいものだと思います。
養成の成果を、弁護士過疎地において結実できるよう、初心を忘れることなく、これからも精進を重ねていきます。

ITコラム 「無料でできるメール誤送信対策」

会 員 壹 岐 晋 大(65期)

1.はじめに

依頼者とのやりとりや会務など、メールでの連絡は頻繁になされています。その中で怖いのがメールの誤送信。典型的なものとしては、宛先を間違える、添付ファイルを間違える、「Bcc」で送るはずが「cc」で送ってしまうなどがあります。これらは守秘義務違反や情報漏洩等の責任問題に発展する場合も有り得ます。

メール誤送信対策については有料のソフト等を利用されている方もいると思いますが、今回は無料でできる範囲でのメールの誤送信対策についてまとめてみます。

ちなみに、一般社団法人ビジネスメール協会が発表している「ビジネスメール実態調査2015」によれば、ビジネスメールの送受信でもっとも利用されているメールクライアントは、Outlook(31.47% ちなみに2位はGmailの31.27%)とのことだったので、下記に述べる手順についてはOutlookのみ記載します(Outlook2010での手順です)。

その他のクライアントでも設定できる場合もありますので、参考にしていただければと思います。

2.対策(1)【送信フォルダに一旦預ける】

メール送信後に誤送信に気づくことは多いです(送信前に気づけば送りません。当たり前です。)。そこで、メッセージを一度送信フォルダにあずけて、再度チェックした上で送信をするという対策が考えられます。実際に送信前にチェックするということは有効な誤送信対策といえますが、面倒ではあります。

(手順)

設定時:「ファイル」→「オプション」→「詳細設定」→送受信「接続したら直ちに送信する」というチェックを外す

送信時:「送受信」タブから「すべてのフォルダを送受信」

3.対策(2)【オートコンプリート機能を無効にする。】

アドレスを途中まで入力すると、自動的にアドレスが全て表示される機能があります(オートコンプリート機能)。非常に便利な機能ではありますが、宛先間違いによる誤送信のもとです。全会員への誤送信回避のためにも「all」などから始まるアドレスを使っている知り合いがいる方は要注意です。

これと似た対策としては、アドレス帳の登録名を分かりやすくしておくというのは有効です。

(手順)

「ファイル」→「オプション」→「メール」→「メッセージの送信」「宛先、CC、BCCに入力するときにオートコンプリートのリストを使用して名前の候補を表示する」のチェックを外す

4.対策(3)【遅延送信】

対策(1)と似たものですが、送信ボタンを押して、1分から数分程度、送信をキャンセルできるように設定しておけば、誤送信が防げる場合があります。ちなみにGmailにも30秒送信を取り消せる機能があります。

(手順)

「ルール」→「仕訳ルールと通知の管理」→「新しい仕訳ルール」→「送信メッセージにルールを適用する」→「次へ」→「次へ」→「はい」→「指定した時間分後に配信する」にチェック→「指定した時間」→「1分後」に設定→「次へ」→「次へ」→名前を入力→「完了」→「OK」もしくは「適用」

5.その他対策

以上、代表的な対策を3つほど紹介しましたが、その他にも

  • CCを使うときは、文中に「Cc:○○様」と記載する。
  • 「Outlook宛先確認アドイン(拡張機能)」を入れて、メール送信時に宛先を確認するダイアログを表示する。
  • ファイルの添付にはパスワード付きのZIP圧縮ファイルを使用する。
  • 月報に誤送信についての記事を書いて自らプレッシャーをかける。

などの対策も考えられます。

ちなみに、私はThunderbird(上記実態調査3位:11.07%)を使っていますが、「Check and Send」というアドインを入れています。これは、(1)事前に指定しておいた単語(「添付」等)がメッセージ中にあり、添付ファイルがない場合、(2)事前に指定しておいた単語がメッセージ中にある場合、(3)宛先がアドレス帳にある(ない)場合等に、確認メッセージがでるように設定ができます。 それでも、メールの誤送信をしてしまった場合は、当たり前ですが速やかに削除を依頼することが重要になると思われます。

ホームページ委員会だより

ホームページ委員会委員長 菅 藤 浩 三(47期)

平成27年7月7日に、外部講師をお招きして情報セキュリティガイドライン研修を、弁護士向けに当委員会主催で実施しました。

多くの会員にご参加いただき、これで今年度の当委員会主催の研修企画はオシマイにしたいなと安堵したのもつかの間、今年度中に当委員会と他委員会との共催のかたちで、あと2つの研修企画が開催されることになりました。

1つは、年度当初から予定していた外部講師をお招きしてのIT利用研修です。自由と正義平成27年2月号の特集で「弁護士業務におけるIT利用入門の入門」を執筆された滋賀弁護士会の野田隼人弁護士を講師にお招きして、当委員会の委員も所属している任意の勉強会、IT法研究会とのコラボ企画を、12月4日(金)夕方に弁護士会館で実施します。

自由と正義の特集は体裁上活字ばかりが並んでいますけれども、そこに載せることができなかったITを利用しての業務時間短縮や隙間時間の合理的活用など、実践者ならではの貴重な話が聞けるものと確信しています。

もう1つは、急きょ実施が決定した弁護士業務におけるマイナンバー研修です。9月4日(金)にも日弁連主催で実施されますが、あっという間に席が埋まったということで、別の切り口から10月27日(火)夕方に当委員会所属の吉井和明弁護士に講演していただきます。

マイナンバーは平成27年10月から12ケタの番号が個人ごとに1つ、法人にも13ケタの番号が1社ごとに通知されます。番号漏えいにより不正に利用される場合を除き、一度付与されたマイナンバーが変更されることはありません。平成28年1月から、年金労働医療福祉といった社会保障・税・災害対策における行政手続でマイナンバーが必要となります。

そういえば10年ほど前に住基ネットが導入されましたが、あれとの違い自体ほとんど知られていませんし、マイナンバーの場合は近い将来の民間利用(例:預金口座との関連づけの強制)も視野に入れられているようです。

少なくとも平成28年1月から施行されることから、マイナンバー制度への賛否はさておき、それがどういう制度で弁護士業務にどうかかわってくるのかはきちんと知っておく必要があります。ちなみに、住基ネットにより行政機関が住民の本人確認情報を収集管理利用することは憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示公表されない自由を侵害するものではないという最高裁判例平成20年3月6日判例時報2004号17頁が出ています。
ITの進化や個人情報を巡る法改正により、市井の弁護士が学ばなければならない内容がますます増える一方です。会員の皆さんも、こういうITに関する企画を実施してほしいという希望があればぜひお寄せ下さい。

憲法市民集会(8月2日)

会 員 朝 隈 朱 絵(67期)

8月2日、ペシャワール会現地代表の中村哲氏を講師にお招きし、憲法市民集会がウェル戸畑で行われました。
当日は、800人を超える人が集まり、開場は満席となったうえ、中村氏の書籍等も完売する、大盛況となりました。

アフガニスタンは、かつては実りの多い農業国でしたが、長引く戦乱に加え2000年に歴史的な大干ばつが発生し、100万人以上が飢餓に直面して難民となりました。これに追い打ちをかけたのが、2001年に始まった米軍等による空爆でした。中村氏が働いていたPMS(平和医療団)の診療所には、栄養失調や不衛生な水のために、赤痢等に感染した子供や高齢者等が殺到し、次々と命を落としたそうです。
このような状態を目の当たりにした中村氏は、一人一人の治療をしていても埒が明かない、病気の大本を断つ必要があると、清潔な水と農業用水をもたらすため、用水路の建設を決意しました。そして、現地の人々とともに、福岡市の約4割に当たる1万5千ヘクタールを潤す用水路の建設を成し遂げました。

アフガニスタンは、日本から距離的にも非常に遠く、文化もまったく違い、日本人である私たちからは非常に疎遠な国で、報道等で現地の映像を見ても、別の世界のことのように思えます。しかし、現実に、現地では飢餓や空爆で多くの人々が命を落としているのです。このような瀕死の状態にある国で、日本人が活動をし、その結果、多くの人々の命を救い、生活に再び命を吹き込んだという多大な貢献をしたことは、私たち日本人にとって、非常に大きな誇りであると思います。
日本は、世界の中でも有数の先進国であり、あらゆる分野で優れた功績を挙げています。そのような日本が、世界に貢献できる分野は非常に多く、これから日本が世界の中で果たすべき役割は、山ほどあります。資源開発・農業復興のための技術協力や、道路・橋・水道・発電施設等のインフラ整備、大学等の研究機関における技術・研究支援や、立法・司法機関における法整備支援。先進国である日本が、国の垣根を越えて支援を行うことは、世界から期待されていることですし、日本がこのような役割を果たすことは、世界からの信頼を得ることにもつながります。
このような形で、日本は、世界の中での地位を高めていくべきだと思います。

しかし、今、日本が行おうとしていることは、軍事的な力を提供することです。紛争の生じている地域で、どちらか一方に軍事的な援助をして、紛争を助長することが、今、日本のすべき貢献なのでしょうか。アフガニスタンのような、必死に立ち上がろうとしている国で起きている紛争に軍事的援助をする結果、現地では、子供や老人、女性等、弱い立場の市民が、命を落としていくこととなります。このような結果を招くことが、世界において、日本が果たすべき役割とは真逆のことであるのは、誰の目にも明らかではないかと思います。
「銃は何も生み出しません」
「今アフガニスタンに必要なのは、爆弾の雨ではなく水と食料の雨なのです」
中村氏の言葉を受け、会場は拍手で溢れました。
講演終了後の質疑応答の時間には、会場のいたるところで次から次に手が上がり、時間内に質問ができなかった方も多く出るほどでした。
質問の内容は、現地の人々とのコミュニケーションは何語で行っているのかということや、現地での生活実態等についての素朴な疑問から、現地でリーダーシップをとって多くの人々を束ねるための工夫等まで、多岐にわたりました。どの質問からも、現地で実際に活動されている中村氏の生の声を聞ける貴重な機会を逃すまいという気持ちが伝わってきました。

今回の講演は、日本人の世界での貢献の実体を知る、非常に良い機会となりました。今後私たちがどう行動すべきか、改めて考えさせられる内容でした。
今後もこのような機会があれば、さらに多くの人々に参加して頂き、日本という国の国民の一人として、考えを深める機会にしていただければと思います。

倒産実務研究会のご報告

会 員 平 山 聡 子(65期)

1 はじめに

平成27年7月21日、福岡地裁第4民事部から菱川孝之裁判官を講師に、当会の吉原洋先生をアドバイザーにお迎えし、主に破産申立てや管財事件の経験が少ない若手会員を対象として、「自然人破産申立てにおける留意点」と題する研究会が行われましたので、ご報告いたします。

2 概要

研究会の内容は、(1)申立直前の換価行為がある場合、(2)受任後の財産管理、(3)同時廃止基準について、菱川裁判官及び吉原先生からそれぞれのご見解や注意点についてお話を伺い、最後に(4)菱川裁判官より裁判所からのお願いや申立時の注意等がなされるという流れで進行しました。

3 (1)申立直前の換価行為がある場合

当該論点については、過払金回収を例にあげ、過払金の回収の必要性と、予納金の準備の可否を場合分けした上で、申立代理人がいかなる対応をすべきかについて検討しました。

はじめに、申立段階で換価が許される場合について、破産レター(4)にも記載されている「相当な申立費用・管財費用を捻出するなどの必要性がある場合で、かつ、換価行為が相当である場合」に許容されるとの見解が確認されました。

そして、裁判所が問題のある事案として考えているケースについて、以下の3点が指摘されました。

  1. 過払金回収の必要性・・・申立段階で過払金の回収を行うことは、申立遅延の原因ともなり、財産散逸の恐れもあります。そのため、申立費用の捻出の可否(法テラスの利用も含めて)等、申立段階で換価を行う必要性があるかについては慎重な判断をしてほしいとのことです。
  2. 過払金回収の相当性・・・当該換価行為が適切なものであることを管財人に対してきちんと説明できるのかと言う点がポイントになります。特に減額和解を行うことが適切か、過払報酬を受領することが適切か等については、管財人により、申立代理人の行為の相当性がチェックされること(否認されることも含め)を念頭に、慎重な判断をしてほしいとのことです。
  3. 回収金の管理・・・回収金は、申立代理人が預かり、管財人に引き継ぐのが原則です。生活費等のために破産者に渡す必要がある場合でも、渡すのは相当な範囲に限定し、後で回収金を渡した必要性・相当性を管財人に説明できるようにしておくべきとのことです。
    その他、会場からの質問が多く寄せられ、活発な議論がなされました。
4 (2)受任後の財産管理について

当該論点については、まず、申立代理人弁護士は、「債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その財産が散逸することのないよう、必要な措置を採るべき法的義務(財産散逸防止義務)を負う」とし、同義務に反し、必要な義務を講じなかった結果、破産財団を構成すべき財産が散逸した場合には、不法行為に基づく損害賠償義務を負うとした裁判例(東京地判平成25年2月6日判時2177号72頁等)を確認した上で、財産散逸防止義務違反が疑われるもの(破産者による偏頗弁済、財産費消)について、具体例に即して検討しました。

裁判所からは、財産散逸防止義務違反に関する裁判例は、自然人ではなく、法人を対象としたものが多いこと、自然人は開始決定後も生活をしているため、法人と異なり、申立代理人が破産者の財産を完全に管理するのは困難なことが指摘されました。そのため、破産者の偏頗弁済、財産費消があったことから、直ちに申立代理人の財産散逸防止義務違反が問われるものではないが、他方で、申立代理人としては、破産者が偏頗弁済等をしたときに、破産者に対する必要な説明を怠ったために、財産が散逸したのではないかと疑われることがないよう、受任時に破産者に対して行った説明内容について書面で残しておく等の工夫を行うとよいのではないかとの提案がなされました。これに対し、吉原先生からは、偏頗弁済等を防止するためにご自身がされている工夫等の話がなされました。

また、もう1点、裁判例(平成24年10月19日民集241号199頁 債務整理の方針を明示していない受任通知が発送されたことをもって、破産法162条1項1号イ及び3号にいう「支払の停止」にあたるとされたもの)を題材に、債務整理の方針未決定段階でも財産散逸防止義務が生じると考えられる一方、任意整理による柔軟な解決を図る上でどのような点に留意すべきかについて検討しました。

この点に関して、裁判所は、先行する任意整理が奏功せず破産申立てに至った場合に、任意整理をまとめるために債権者ごとに異なる弁済方法・弁済割合等を採用したからといって、それが直ちに問題視されることにはならないだろうと指摘される一方、将来破産申立てに至る可能性があれば、任意整理の段階から申立人による財産散逸がされないよう気をつけてほしいとのことでした。

5 (3)同時廃止基準について

最後に、同時廃止基準については、同廃基準がどのような観点から両事件の振り分けを行っているか、また、同廃基準と換価基準の混同に気をつけてほしいとの話がなされました。

また、注意点として、同廃の前提として、申立人の資産調査の履践が前提とされることから、申立代理人には資産調査をきちんと行ってほしいとの話がありました(通帳に使途不明金がある、車を所持していないのに家計表にガソリンの支出がある、年金受給があるにも関わらず、年金が収入欄にあげられていないなどの場合には事情説明を行うなど)。

6 最後に、(4)菱川裁判官より裁判所からのお願いや申立時の注意等がなされました。この点については、注意すべき点がいくつもありましたのでご報告いたします。
まず、破産手続開始・免責許可申立てに関する陳述書の、「破産に至った経緯及び事情」を記載するにあたっては、破産に至る事情、いつから誰にいくら借りたか、という点について具体的な記載をお願いしたいとのことでした。
また、債権の中に債務名義があるときは、時効完成の有無を判断するためにも、債権者一覧表のその他欄に事件表示をしてほしいとのことでした。
そして、家計表については、同居者の記載がないが別会計とは考えられないものについての記載を行うこと、家賃などの費用が添付資料と違う額になっていないかについて注意してほしいとのことでした。
最後に、DV被害者等の住所を秘匿したい方の申立てを行うときには、後から秘匿する扱いとすることが難しいため、申立前に裁判所に相談するか、申立書に住所を記載せず、債務者審尋をお願いします、と申し出る形で申立てをしてくださいとのことでした。

7 終わりに

今回の研究会は、破産部の裁判官と弁護士の吉原先生のそれぞれの見解を伺うことのできる、とても有意義な研究会でした。

倒産実務研究会は、まだまだ破産や管財事件の経験が少ない若手の会員にとって、書籍には書かれていない実際の福岡の裁判所の運用や、ベテランの先生方の破産事件の処理のやり方を直接伺うことのできる、とても勉強になる研究会です。
3か月に1度程度行われており、それぞれの部会にはサテライト中継されておりますので、若手のみならずベテランの会員の皆様におかれましては、次回以降も奮ってご参加ください。

「情報セキュリティ向上のための研修会」のご報告

ホームページ委員会委員 松 下 ゆかり(66期)

1 はじめに

ホームページ委員会では、去る平成27年7月7日、情報セキュリティコンサルタント事務所プロジェクト・イン代表の宮本和樹先生をお招きして、「情報セキュリティ向上のための研修会」を開催しました。宮本先生は情報セキュリティコンサルタントとしてプライバシーマークの認証やIMSM認証などのコンサルティングを延べ約150社ほどされている他、情報セキュリティの審査員としてもご活動されており、この分野に精通されている先生です。

2 研修会の内容について
  1. 弁護士が保有する情報は、依頼者の個人情報はもとより、ほとんど全てが機密情報に該当します。これらの情報が漏洩した場合、その影響は計り知れません。そのため、弁護士法第23条は、弁護士の秘密保持の権利と義務を規定し、弁護士職務基本規程第18条は事件記録中の秘密及びプライバシーの漏えい防止の注意義務を規定しています。そして、日本弁護士連合会からはこれらの規定に関する解釈指針として「弁護士情報セキュリティガイドライン」が出されています。
    本研修では、上記弁護士情報セキュリティガイドラインに基づき、その具体的実施策についてご講義いただきました。
  2. ガイドラインには、強く推奨する取組として「~すること」とされているものと、環境に応じて推奨する取組として「~が望ましい」とされているものがあります。今回は前者について事例を含めながらその解説を行っていただきました。
    例えば、事件記録の保管については、「事件記録の紛失を防止するため、その重要度に応じて保管場所、データ化、その他適切な保管方法を定めること」とされていますが、その具体的な方法として、事件記録等重要書類はカギ付きキャビネットに保管し、それを見ることができる人を限定すること、そしてその情報を見ることができる人がいないときには必ずキャビネットに鍵をかける運用をするようにとの解説がなされました。これは事件記録の紛失防止はもとより、仮に漏洩事故が起こった場合でも、その情報にアクセスできない人があらぬ疑いをかけられずに済むという側面もあるとのことです。
    また、可搬電子媒体の保管に関しては、「利用目的を達成したときは、直ちに可搬電子媒体から当該データを消去すること」と定められていますが、例えば、USBによってデータの受渡しをする場合には、「コピー」ではなく「移動」をしてもらい、受渡し後のUSB内のデータは空にするといった扱いを推奨されていました。
    上述のようなガイドラインの解説だけではなく、「パスワードの作り方覚え方のヒント」として、Watashiha(私は),nihonno(日本の)Fukuokaken(福岡県)fukuokashi(福岡市)Chuoku(中央区にいる)bengoshi(弁護士です)=「WnFfCb」という風に物語風にして作成する方法の紹介もありました。パスワードは辞書を使って解析されるということで、辞書にないワードを作成するのが解析されないポイントになるそうです。
3 おわりに

ほとんどの情報漏洩事故はメールやFAXの誤送信、携帯電話やノートPCの置き忘れなどの単純なミスが原因となっていると言われています。本研修はガイドラインの内容を知識として再確認するとともに、少しの手間や工夫により漏洩事故を防止できることがわかり、大変勉強になりました。
最後に、宮本先生、わかりやすいご講義をありがとうございました。

2015年8月 1日

中小企業法律支援センターだより 「非公開会社の株式の株価算定方法」研修会

中小企業法律支援センター委員 松 尾  潤(67期)

1 はじめに

去る平成27年6月29日午後6時より、福岡県弁護士会館3階ホールにて、公認会計士・税理士の内田健二先生を講師としてお招きし、中小企業法律支援センター企画「非公開会社の株式の株価算定方法」研修会が開催されましたので、ご報告いたします。本研修会は、通常設置されている数の椅子だけでは足りない程の多くの会員にご参加いただきました。

2 研修会の内容

今回の研修会では、株式評価について、評価事例を参照しながら、基礎的な用語や知識、考え方を解説していただきました。あわせて、M&Aや相続の場面で注意すべき事項について、内田先生の豊富な経験に基づいた実務的な示唆をいただきました。

まず、株式の評価のうち、企業価値評価は、M&A価格の算定等の取引目的のほか、会社法上の買取価格の決定等の裁判目的でなされるのに対し、税務上の評価は、相続税等の税額計算のためになされるとのことでした。

次に、企業価値評価の手法について、代表的な手法として、インカムアプローチ等の3種のアプローチがあることや、将来性・評価対象会社の固有の性質の反映の可否や客観性の有無といった、各手法の特徴を解説していただきました。また、採用頻度が高い手法については、評価事例を示しながら解説していただきました。具体的には、DCF法(もっとも採用頻度が多い)において評価を上下させる要素の一つである個別リスクプレミアムにつき、これらは種類が多くかつ見積が難しいため、価格交渉の材料となる、といった実務に直結する知識を解説していただく等しました。さらに、評価手法の選択につき解説していただき、特に裁判目的で評価をする場合には、裁判官の信頼を得る観点から、評価手法の選択が重要であるとのことでした。

最後に、税務上の評価について、解説していただきました。まず、税務上の評価の目的は、課税の公平にあること、誰が行っても同一の評価金額になる必要のあることを強調され、原則的には、類似業種比準方式及び純資産価額方式によりそれぞれ評価し、各評価を会社の規模によって定められている割合に従って折衷する、とのことでした。また、例外的な手法や特殊な手法についても解説していただいたほか、相続税や贈与税との関連で、企業再編や株価の評価にあたって注意すべき点を指摘していただきました。

3 おわりに

内田先生の講義は、基礎的な事項・用語についての丁寧な説明と、具体例を取り入れたイメージしやすい解説で構成されており、また、随所に、会員が実務上注意すべき事項が散りばめられていました。そのため、今回の研修会は、前提知識の多寡によらず、得るところの多いものであったと感じました。非公開会社の株式の株価の評価は、中小企業の企業再編や、同族会社の株主が関与する相続案件等を取り扱うにあたって、避けては通れないものですので、相談を受ける上で参考になる研修会であったと思います。

中小企業法律支援センターでは、今後も中小企業から相談を受ける際に役立つ内容の研修を多く企画しております。ぜひ、ご参加ください。

紛争解決センターだより 「あっせん・仲裁人に聞く!(大神朋子先生)」

紛争解決センター運営委員会委員 管 納 啓 文(62期)

本連載では、福岡県弁護士会紛争解決センター(以下、「弁護士会ADR」といいます。)の利用促進のため、弁護士会ADRの和解成立事案に関与されたあっせん・仲裁人(以下、「あっせん人」といいます。)の先生に、当該事案の概要や解決に至ったポイントなどをご報告いただいておりますが、今回は、医療ADRのあっせん人として紛争解決にご尽力いただいている大神朋子先生に、医療ADRの現状や課題等についてお話をうかがいました。

なお、医療ADRとは、福岡県弁護士会が平成21年10月に開設した医療紛争に特化したADRであり、主任のあっせん人(主に裁判官経験のある弁護士が担当)、患者側代理人経験が豊富なあっせん人及び医療機関側代理人経験が豊富なあっせん人の3名体制で、専門性の高い医療紛争について話し合いによる解決にあたっています。

Q1 大神朋子先生は弁護士会ADRのあっせん人として、どのような経歴をお持ちですか。

A 医療ADRが発足した平成21年10月から、医療ADRの医療機関側のあっせん人として活動しています。医療ADRでは、医療機関にあっせん手続きに応諾していただけない事案が相当数ありましたが、応諾していただいた事案でいうと、4件にあっせん人として関与し、うち2件で和解が成立しています。

Q2 最近の和解成立事案について、差し支えない範囲でご紹介いただけますか。

A 申立人が患者、相手方が医療機関の事案です。

第1回あっせん期日には、申立人側は申立人の夫が代理人として出席され、相手方は院長と副院長(医療安全担当者)が出席されました。

申立人の言い分は、相手方において、ある疾病(以下、「疾病1」といいます。)の治療を受けた際に、担当の医師がその過程で行われた血液検査の結果から別の疾病(以下、「疾病2」といいます。)の発症を見落としたために、容体が悪化し、治療期間も長期化したとして、疾病1及び疾病2の治療費の免除と慰謝料及び治療の延長により断念した旅行のキャンセル料の支払いを求めるというものでした。

これに対し、相手方の言い分は、血液検査に見落としがあったことは認めるが、その後すぐに、疾病1の治療と合わせて速やかに適切な治療を行っているので、疾病2を悪化させた事実はないし、治療期間が長期化したわけでもない。そのため、疾病1及び疾病2の治療費を免除することはできないし、旅行のキャンセル料も支払えない。ただし、一定程度の慰謝料を支払う用意はあるとのことでした。

以上の双方の言い分を踏まえ、あっせん人から当事者双方に対して、金額を特定したうえ、相手方が申立人に対して慰謝料を支払うことで解決したらどうかという和解案を提示したところ、双方ほぼその場でご同意いただけましたが、申立人側は代理人出席であったこともあり、持ち帰って申立人本人と検討してもらうことになりました。

そして、第2回期日において先に述べた内容で和解が成立しました。

Q3 手続を進めるにあたって配慮した点を教えてください。

A 当事者に対しては、双方の言い分や法的な枠組みについて丁寧に説明し、理解を得られるよう努めました。

和解案の提示にあたっては、相手方に一定額の支払いを求めるとしても、その金額は適正妥当なものでなければならないということを念頭に置きつつ、他方で、申立人の治療費の支払義務との兼ね合いも考慮しました。最終的には、あっせん人3名で協議した上で、治療費の免除はせず、治療費を超える慰謝料額を示して和解案を提示したところです。

Q4 早期の解決に至った要因はどこにあったと考えておられますか。

A 事案についていえば、相手方が血液検査に見落としがあったことは認めていたので、過失に争いがなく、争点が金銭面の調整に絞られていたことが挙げられます。

また、当事者双方に「話し合いによってこの紛争を解決するんだ」という熱意があったことも早期解決に至った大きな要因として挙げられます。

申立人の代理人(夫)は、相手方の言い分に冷静に耳を傾けてくださり、法的な枠組みについても理解を示して下さいました。

相手方も、事前に和解に向けた検討をした上で第1回期日に臨まれ、同期日においては持参されたカルテ等を示しながら申立人の疑問点等について詳細に説明されました。和解について決定権を持つ相手方院長が出席され、第1回期日の席上であっせん人の提示した和解案に同意して下さったことも、迅速な解決に寄与したといえます。

Q5 医療ADRでは、医療機関に手続に応諾していただけない事案が多いのですが、この事案の相手方医療機関の反応等はいかがでしたか。

A 手続に出席された院長からは、「この手続で紛争を解決することができて満足している。このような低額の手数料で、弁護士3名が関与するこのようなシステムを運営できるというのは素晴らしいことだと思う。医療機関としても積極的に利用していきたい。」といった評価をいただきました。

医療ADRについては、確かに医療機関が不応諾の事案が多いのですが、この事案の相手方も含め、徐々に医療機関の理解も進んできているのではないかと実感しています。

Q6 これまでのご経験を踏まえて、医療ADRに向いている事案とは、どのような事案だと考えていらっしゃいますか。

A 過失に争いのない事案や請求金額が少額の事案、争点はそうないけれども感情的なもつれ等から当事者間での話し合いがまとまらない事案が向いていると思います。

そのような医療紛争を調停で解決することも多いと聞きますので、あてはまる事案を抱えている会員の皆様には、調停だけでなく、医療ADRも選択肢の一つとして検討されてみたらいいのではないかと思っています。

Q7 医療ADRの良い点をお聞かせください。先ほど調停の話が出ましたが、調停との比較という観点からも、ご意見をいただけるとありがたいのですが。

A 期日を柔軟に設定できることなど手続の柔軟性が挙げられますが、やはり弁護士があっせん人をしていることが一番の強みといえるのではないでしょうか。あっせん人の皆様は、法的な知識を十分に備えていることはもちろんのこと、訴訟、訴訟外交渉及び法律相談等についての豊富な実務経験をお持ちですから、当事者からの話の聞き出し方、落とし所の探り方、説得の仕方も心得ておられますので。また、先ほど医療機関から医療ADRを評価していただいたエピソードをご紹介しましたが、弁護士会が運営しているからこその信頼感もあると思います。

医療ADR特有の事情としては、主任のあっせん人、患者側代理人経験が豊富なあっせん人、医療機関側代理人経験が豊富なあっせん人の3名体制で運営しているのは良い点だと思っています。あっせん人自身の実務経験から、どうしてもスタンスが片方に寄ってしまいがちなところがあると思いますので、専門性を維持しつつ中立公正な解決を図るには、3名体制が適していると思います。

Q8 逆に改善を要する点についてもお聞かせください。

A 医療ADRについては、まだまだ医療機関側にあっせん手続に応じていただけない事案が多いですので、その点は改善を要すると思っています。

解決実績を積み上げて、医療ADRが円満解決に向けた制度であることの理解が進んでいけば、自ずと応諾していただける事案も増えていくと思います。

現在は患者から医療機関に対する申立てがほとんどですが、医療機関から申立てをしたいというニーズもそれなりにあると思いますので、医療ADRに対する医療機関の理解と信頼が高まっていけば、医療機関からの申立て件数が増えていくことも期待できます。

医療ADRが発足して、まもなく6年を迎えます。医療ADRが患者側、医療機関側双方に信頼され、利用しやすい制度となり、より多くの医療紛争を適切、迅速かつ公平に解決できるよう工夫を重ねてまいりましたが、愛知県など弁護士会の医療ADRが活発に利用されている地域と比べると、当会の医療ADRの解決件数はまだまだ少なく、伸び代が大きいと考えています。

医療ADRを含む弁護士会ADRが確固たる制度として社会に定着するには、着実に成功実績を積み上げていくことが何より重要であろうと思いますので、会員の皆様には、本連載等を通じて弁護士会ADRで解決された事例や、弁護士会ADRの特色などを知っていただき、事件処理の選択肢に加えていただければ幸いに思います。また、実際にご利用いただいた際には、積極的にご意見、ご要望等を頂戴できればと思います。

最後に、大神朋子先生には、ご多忙のところ、お話をお聞きする機会を設けてくださり、誠にありがとうございました。

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