福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
2013年5月 1日
福島を訪れて
会 員 吉 野 隆二郎(51期)
3月1日から2日にかけて福島に行き、貴重な体験をさせていただいたと思いましたので、その報告をしたいと思い、月報に投稿させていただきました。
私が最初に福島県に行ったのは、2002年10月に福島県郡山市で開催される人権大会で、湿地に関するシンポジウムが企画されていましたので、それを見に行くためでした。その後、そのシンポジウムの参加などを契機に有明海の問題に取り組むようになり、現在に至っています。東日本大震災後、なかなか機会はなかったため、初めての福島行きとなりました。
私が、福島県に行くことになったのは、福島県弁護士会から「公害紛争処理制度の活用に関する学習会」の講師として呼ばれたからでした。私は、諫早湾干拓事業に関する原因裁定手続きの事務局長をしていたこともあり、日弁連の中でも公害紛争処理、特に原因裁定手続きに詳しい弁護士という扱いになっていました(2010年には近弁連の勉強会の講師をしました)。福島県弁護士会の方からの要請に対して、福島の被害に対して、何か私で役に立てることがあればと思い、講師を引き受けました。勉強会は、3月1日の午後5時30分から2時間程度行われました。参加申込者が36名と聞き、福島県弁護士会の会員の人数を調べましたところ、156名でしたので、かなりの割合の方が参加されるのだと身の引き締まる思いがしました(実際には、8名が修習生でしたが、それでも28名の会員に対して話しをしたことになります)。原発賠償のADRの限界が見えだしているところで、裁判以外にも何か福島の被害を回復するための手段がないかとの思いからの企画とのことでした。私なりに原因裁定手続きを行った経験をふまえた話しをさせていただきました。同日は、懇親会も開催していただき、本田哲夫会長を始め何名かの会員には2次会までお付き合いしていただきお世話になりました。
翌日は、日弁連の公害環境委員会の委員でもある福島県弁護士会の湯坐聖史会員に案内していただいて、現場の状況について関係者の話しを聞くことができました。今回の勉強会を開催するきっかけは、湯坐会員が、福島県の内水面に水産関係の被害の問題について公調委を利用できないだろうかという問題意識から始まったとのことでした。それなら湯座会員が念頭に置いている事案の現場を見れば、より的確なアドバイスができるのではないかと考えたことから、翌日である2日に現場の案内をお願いしたところ、快く引き受けていただきました。午前は、矢祭町(合併をしない宣言をした有名な町です)にある河川の内水面漁業者のお話を聞くことができました。河川のある場所は、福島県の中では線量の低い方の場所なのですが、山を経由して川にセシウムが流れ込んでいて、イワナから基準値以上のセシウムが検出され、国による採補等の禁止措置がなされたりするなどの被害を受けているとのことでした。川の様子だけ見ると、山の間を流れるきれいな川で、とてもその川の魚がセシウムを体内に蓄積しているとは思えませんでした。午後は、雪が降る中を、郡山市にある鯉の養殖(食用)の業者のお話を聞くことができました。鯉は、養殖池の底の部分の泥を食べるため、底に集まっているセシウムを体に取り込んでしまうとのことでした。国の基準値を超えているわけではないようですが、セシウムが検出されるということで、イメージダウンは大きいようです。そのため、福島県が鯉の養殖の日本一の生産地だったのが、現在は茨城県が1位だそうです(しかし、茨城県も霞ヶ浦などにはセシウムがたまっており、福島県と同様の状況にあるようです)。どちらの例でも言えることは、山に降ったセシウムが、川などを伝わって徐々に、下ってきており、その影響から、特に内水面の漁業は深刻な状況にあるということでした。セシウムの半減期等から考えると、このような状況はかなり長期間及ぶことが予測されます。福島における被害はずっと継続し続けるということを実感することができました。貴重な機会を与えていただいた福島県弁護士会へ感謝するとともに、福島県の被害の問題について、今後も私なりに何らかのお手伝いができたらと思っております。
毛利甚八さんが語る「弁護士のかたち」 ~5月22日定期総会記念講演のお知らせ~
業務事務局長 知名健太郎定信(56期)
毎年、定期総会に先立ち行われる記念講演ですが、今年は、5月22日午後1時から、漫画「家栽の人」(小学館・1987~96)の原作者である作家の毛利甚八さんにご講演いただくことになりました。そこで、ここでは、簡単に毛利甚八さんのご紹介をさせていただきたいと思います。
1 毛利さんは、雑誌のライターとして生計を立てていた28歳のころ、ビックコミックオリジナルの編集長に声をかけられ、家裁の裁判官を主人公にした漫画の原作を手がけることになりました。法律的な知識がほとんどなかった毛利さんは、はじめて手にした六法に書かれていた「審判は懇切を旨として、和やかに行わなければならない。」(2000年改正前少年法22条1項)を文字通りうけとり、そこからあの桑田判事が生まれたのでした。
家事・少年事件という一見して地味なテーマを扱いながら、人間の本質を描くストーリー展開は、今見ても色褪せることはありません。また、裁判官や弁護士といった法曹関係者が読んでもまったく違和感のない正確な描写にも頭が下がります。まだ、読んだことがない方は、ぜひ講演の前にご一読されることをお勧めします。
余談になりますが、福岡県弁護士会所属の大谷辰雄弁護士、八尋八郎弁護士がモデルと言われる登場人物が出てくる点も、当会会員にとっては見所と言えるでしょう。
「家栽の人」が、司法というものを市民に分かりやすく伝え、身近なものにしたという功績は、非常に大きかったと言えます。
2 他方で、毛利さんは、自らが描いた「家栽の人」の世界と実際の裁判所のあり方のギャップに悩むこともあったといいます。
そのようななか、現実の裁判所がどういうところかを確認し、また、司法はどうあるべきかを訴えかけるため、毛利さんは、裁判官へのインタビューを中心とした「裁判官のかたち」(現代人文社・2002年)を書かれました。この他、自ら中津少年学院において篤志面接委員を務めている経験も踏まえて、「少年院のかたち」(現代人文社・2008年)なども書かれています。
3 法曹人口の増加や相次ぐ不祥事などにより、弁護士が置かれた状況は、「家栽の人」の時代から大きく変化しました。
このような時代のなかで、市民は弁護士をどのように見て、何を期待しているのか。また、弁護士は、市民の信頼を回復し、自分たちの活動を理解してもらうためにどのような情報発信をすべきなのか。
司法をわかりやすく市民に伝えつつ、他方で、司法がどうあるべきかを問い続けてきた毛利さんだからこそ、激動の時代におかれた弁護士が新しい「弁護士のかたち」を見つけるためのヒントをくれるかもしれません。
これまで日弁連や各弁護士会で、数多くの講演を経験された毛利さんですが、"弁護士"をテーマに講演をするのははじめての試みということです。ぜひみなさん、奮ってご参加ください。
<毛利甚八さんのその他の法律関連著作>
・漫画原作
「裁判員になりました」、同PART2、
同番外編(日本弁護士会連合会)
裁判員の女神(実業之日本社)
2013年4月 1日
研修「DV被害及びDV被害者支援と法的処理の基礎知識」のご報告
両性の平等に関する委員会
相 原 わかば(55期)
1 はじめに
去る2月14日、精神科医の佐藤真弓先生と、当会会員の松浦恭子先生に講師を務めていただき、表記の研修会を行いました。
これは、犯罪被害者の支援に関する委員会、両性の平等に関する委員会が共催して行ったものですが、当会が、平成25年度に実施を目指すDV被害者支援制度の相談担当弁護士名簿の登録要件とすることを予定した研修でした。なお、その後、DV被害者支援制度が正式に発足した後、当日の研修のDVD録画を上映する形で、改めて登録研修を実施することになっております(福岡部会で4月8日と17日に実施予定、他各部会にて実施予定)。
DVについては、2001年にDV防止法が実施された後、2度の改正を経ておりますが、行政機関における認知件数、裁判所への保護命令申立件数も増加しており、深刻な被害も後を絶たない状況です。DV被害が家庭内という密室で生じ、被害者が孤立させられがちであることに鑑みれば、まだ法的支援にアクセスできていない被害者の存在も少なくないと考えられます。このような現状から、当会では、DV被害者が法的支援にアクセスできるよう広報等を充実させると共に、上述のDV被害者支援制度として、保護命令を検討し得るようなDV事案について無料相談制度を創設すると共に、今回の研修を企画した次第です。
本研修では、松浦恭子先生から、「DVが問題となる事件の実務について」と題して、DV支援に関する行政・司法の制度と実務の現状を、佐藤真弓先生から、「DV被害への理解と留意点」と題して、DVの背景・被害者心理などにつき、ご講義いただき、この種事案に対応する上で大変実践的な内容でした。
2 DV事件の実務について
松浦先生のお話では、まず、相談時の留意点として、被害者の中には、正確に出来事を話せなかったり、どうしたいのか考えがまとまらなかったりする人も少なくないけれど、それこそがDVの影響と理解できるということです。
DVによって、支配されたり、尊厳を奪われた状態に置かれていると、自分の言うことや自分の考えを持つことさえ封じられてしまいます。また、ひどい目にあったのだから記憶している筈というのは正しくないこと、被害者は必ずしも別居・離婚を希望したり決意したりしてはいないかもしれないことに留意が必要です。
相談に当たる上では、被害者が安心して話ができるよう受け止めることが大切で、また、私達弁護士ら支援者にあたる者は、その人自身の意思決定のスピード、タイミングを大事にして、その人自身が持っている力で回復できるよう手助けするスタンスが必要ということです。また、相談者の安全な生活を確保することが大事で、殊に、居所等の情報の取扱いには注意を要するところです。
また実務では、法的手続の他、新たに健康保険に加入したり、世帯主に支給されていた児童手当等をつけかえたりする手続について相談されることが多々あります。これらについても、例えば、健康保険の場合には、配偶者(例えば夫)の健康保険の被扶養者から抜けて、新たに国民健康保険に加入するには、通常、被保険者(例えば夫)によって資格喪失証明書を得てもらわなければなりませんが、DV事案の場合には、行政の援助証明書を得ることで、被保険者の協力なしに手続ができます。また、児童手当は、離婚を前提とする別居事案では、受給者の付け替えができますが、児童扶養手当の方は、本来、「1年以上遺棄されていること」との要件が必要であり、このため多くは離婚後にしか受給できない実情にありました。しかし、平成24年の政令改正で、保護命令を受けた事案については、「保護命令確定証明書」をもって受給できる扱いになった旨教えていただきましたが、この点、あまり知られていないのではないでしょうか。
その他、保護命令制度の要件や運用実態のご説明と共に、申立人の居所などの情報の取り扱いを誤り、申立人を危険にさらすことがないよう配慮すべきポイントをご教示いただきました。
3 DV被害の理解について
佐藤先生からは、最初に、DVの本質・背景につき、お話いただきました。
重要なのは、DVが決して個人間の問題ではなく、それを生じさせ、助長させていく背景として、性別役割分業の強制、結婚に関する社会的通念(「結婚して一人前」)、世帯単位の諸制度、子どもをめぐる社会通念(「一人親はかわいそう」)、経済的自立の困難、援助システムの不備などがあるということです。
これらが、外部社会の状況が、社会装置として働いて、DVの様々な力と支配の形態―身体的暴力の他、心理的暴力、経済的暴力、性的暴力、子供を利用した暴力、暴力等の過小評価・責任転嫁、社会的隔離など―を支え、助長させていくとの指摘は、具体的で大変分かりやすい内容でした。 DVの形態につき、具体例を挙げれば以下のようなものです。
心理的暴力:いわゆる暴言の他、「あーいえば、こーいう」式で追いつめ女性が切れると攻撃する、欠点等を執拗に言い、言われた方が気が変になったのではないかと思わせる、罪悪感を抱かせる等
経済的暴力:女性が職に就いたり仕事を続けることを妨害する、家計管理を独占する、支出を事細かく問いただす等
性的暴力:望まない性行為、性欲を満たす対象とする、避妊に協力しない、子供に分かるのに性交を強要する等
子供を利用した暴力:母親として至らないと思わせ正当な権利や要求を封じ込める、子供に母親の悪を吹き込み子供に責めさせる、子供の前で暴力を振るい侮辱する、子供を虐待し(または虐待すると脅し)しかもそれを女性のせいにする、「子供を渡さない」と脅し別れる力をそぐ等、
暴力等の過小評価・責任転嫁:暴力の深刻度や女性の不安な気持ちを過小評価する、相手のせいにする、「お前が怒らせた」等
社会的隔離:仕事・社会活動を制限する、事細かく問う、会う相手の悪口を言ったり嫉妬心をむき出しにして女性の方から人に会うのを断念させる、行動制限の理由を愛情によると正当化する等
また、佐藤先生は、DVの理由は往々にして誤解されているとおっしゃり、「アルコールのせい、怒りが抑えられないせい、ストレスがたまっているせい、言葉で表現できないせい」等というのは間違いであると共に、DVが正当化される事由はないと指摘されます。DVが振るわれる理由は、加害者がジェンダーや人権に歪んだ価値観をもっていること、暴力を甘く見ていること、自分の感情が育っていないこと等だといい、実際の事案を通して実感されると言います。
そして、DV被害者は、何をしても無駄だと学習し、自分が無価値なものと洗脳される結果、本来その人に備わっていた筈の諸々の力が奪われます。また、時にPTSDにみられる症状に悩まされるといいます。
さらに佐藤先生は、DVは子供に深刻な影響を及ぼすことにつき、児童虐待防止法が、DVの目撃も心理的児童虐待に当たる旨定めていることを挙げて強調されました。人格の成長に不可欠な安全・安心・安定が決定的に不足すること、自尊感情が不十分な大人になること、加害者の価値観や行動を学習したり、被害者を見下したり、自分の安全との選択を迫られたりし、長期的に深刻な影響があるといい、現在の実務で監護者や親権者の判断においてDVが過小評価されているのではとの疑問も示しておられました。
そして、支援者に必要なことは、「それはDVで、あなたは被害者である。NOという権利がある。しかし、何事もあなたの決断を待ってから。一緒に考えていきましょう」というスタンスであり、「支援者が最善の方法を考えてあげる」のではないということです。この点は、松浦先生のお話にも出ていましたが、被害者の立場を理解して、無力化された被害者が自分自身の力に気づき、取戻していくことを支援する、回復の方向、スピード、方法を選択するのは被害者自身だということです。
佐藤先生には、時間の関係で全てをご説明いただくことができませんでしたが、大変詳しいレジュメをご用意いただいております。
4 研修を終えて
私自身も、DV事案を扱っていますが、今回の研修は、本質を言い当てて、よく整理していただいており、大変分かりやすい内容でした。
DV事案では、相手方への対応は勿論、情報管理や依頼案件以外の付随事務に神経や労力を使いますが、被害者の心が定まらなかったり、話にまとまりがなかったりして苦労することも少なくありません。そんな風に苦労して支援しても、加害者の下に戻ってしまう例も中にはあります。が、何度も躊躇して、ようやく踏み出せる一歩があります。私達弁護士は、「こんなことで相談していいのか」「私の話なんか聞いてもらえるのか」という不安のトンネルを抜けて、やっとたどり着いた「支援機関」です。その決意に敬意を払うと共に、もし本人が事態の打開を決意できなくても、望む時にはいつでも支援の手があることを知ってもらうことが大切です。また、DVの背景となる価値観につながる言動を不用意にしていないかどうかも注意しなければなりません。
また、DV事案は苦労も多いですが、両先生が述べておられたとおり、被害者自身が力を取り戻していく過程に立ち会うのは、感動を覚えますし、やりがいがあります。
DV被害者支援制度に登録していただくと否とにかかわらず、本研修を多くの会員に受講していただければ幸いです。
ADRの更なる活用を 〜久留米法律相談センター20周年によせて
元・筑後部会紛争解決センター運営委員会委員長
富 永 孝太朗(54期)
これは、先日行われた久留米法律相談センター20周年記念パーティーにて配布した冊子に掲載されたADRに関する文章を修正した上で再掲したものです。
1 はじめに
福岡県弁護士会が行うADR手続は、代理人弁護士による申立て以外は、弁護士による法律相談を前置すること(弁護士による紹介状の作成)を要件としており、その意味では、法律相談センターこそがADRの窓口的機能を果たしていると言っても過言ではありません。
本稿は、筆者の経験に基づいた福岡県弁護士会久留米紛争解決センターにおける解決事例を紹介するとともに裁判所における民事訴訟あるいは民事調停とは異なる弁護士会ADRの存在意義を踏まえ、法律相談センターの更なる発展と共に弁護士会ADRの理解と活用をお願いすることを目的とするものです。
2 久留米紛争解決センターにおける解決事例
ADR手続における弁護士と紛争解決を望む当事者との関わりは、(1)本人申立を前提に紹介状を作成する。(2)申立代理人としてADRを申し立てる。(3)相手方代理人として応諾し、手続に関わる。(4)仲裁人弁護士として手続を主宰する。といったものに概ね分類されます(ただし(4)の類型は、仲裁人弁護士候補者となっている弁護士に限ります)。
(1)の類型については、紛争の金額が低廉で弁護士に依頼するのは費用対効果の点から適当ではない反面、相手方も何らかの形で解決を希望することが窺われる紛争で解決した例が見られました。筆者が紹介状を作成した事例では、婚約不履行や共同事業の不履行などの紛争において、数10万円の解決金の支払で解決したものがありました。
(2)の類型については、筆者が関与した事例として、マンション建物新築工事において既に入居が始まった後に配管に瑕疵が判明し、その瑕疵修補及び損害賠償請求を求めてADRを申し立てたという事例がありました。この手続では専門委員として1級建築士の関与の下、補修箇所を特定し、多数回の期日を設けて、入居者への説明や補修方法などを慎重に協議して進め、概ね納得の行く瑕疵修補を完了させることが出来ました。他には、ある食品工場の機械に挟まれ指が損傷するという労災事故の被害者の代理人として損害賠償を求めてADRを申し立てた事例もありました。この事例の主たる争点は、事故態様に伴う過失相殺割合でしたが、速やかに相手方代理人とともに事故現場に赴き、状況を確認することができたことにより、短期間で解決を見ることが出来ました。
(3)の類型については、内縁の妻と戸籍上の妻との遺産に関する紛争に関して相手方代理人として関与し、解決を見ました。相手方代理人として関与する場合には、相手方本人に十分にADR手続の内容、特に解決した際の成立手数料の負担を要することを説明し、納得を得る必要があります。
(4)の類型としては、いわゆる上司によるパワハラ・セクハラによる損害賠償を求め申し立てられ、相手方が一定の解決金を支払うことで解決した事例があります。被害を受けたとする申立人の話を十分な時間を取って耳を傾け、共感をすることにより、当初は当事者双方の解決金額に大きな開きがあったのですが、解決を見ることができました。ADR手続では、パワハラやセクハラといった当事者双方共に公開を望まない紛争の解決事例も多く見られます。
3 ADRの存在意義
裁判所における民事訴訟は、全ての紛争を解決に導くことの出来る万能の手続ではありません。訴訟手続では、1回の期日に十分議論が出来る時間を取れず、その厳格な手続から、証拠が限定され、その紛争の実態を正確に把握して貰うまでに多くの時間や費用を要することも少なくありません。高度に専門化された紛争であれば、より一層時間と費用が必要となるでしょう。また、公開したくない紛争には、民事訴訟は馴染みません。
また、民事調停もADRの一類型であり、裁判所における簡便な紛争解決手続という意義は十分に認められます。もっとも特に複雑な紛争に関しては、紛争解決の専門家である弁護士の方が速やかに紛争の実態把握をでき、期日の設定や解決内容の柔軟性からすれば、紛争の性質や規模、当事者の関係性によっては、民事調停よりもADR手続が適している紛争が少なからずあると考えられます。
さらに、この点はあくまで私見ですが、民事訴訟は、一度提起してしまえば、事実上、その結論が好むと好まざるに関わらず判決という形で決着を見てしまう不可逆的な手続であるのに対し、ADR手続は当事者が合意しなければ、結論を見なくても良いという中間的な手続であるところも長所ではないかと考えます。当事者間の交渉が捗らないときに直ちに訴訟提起をするのでは無く、仲裁人という中立的第三者を挟んだ上での交渉という選択もありますし、訴訟となった場合でも争点整理機能も果たすことになります。
2で概観した解決事例のような民事訴訟及び民事調停手続による解決に適していない紛争、さらにはADR手続の方が迅速かつ円満な解決が期待される紛争が存在するというのがADRの存在意義であると思います。
4 最後に
ADR手続は、民事訴訟や民事調停手続とは存在意義を異にする有益な紛争解決手続であるということが本稿をその窓口的機能を果たす法律相談センターを支える多くの皆様(特に法律相談を行う弁護士)に認識して頂ければ幸いです。
更なるADRの活用を切に望みます。
2013年3月 1日
給費制市民集会についてのご報告
会 員 菰 田 泰 隆(65期)
1 去る平成25年1月19日土曜日、福岡県弁護士会館にて司法修習生の給費制に関する市民集会が開催されましたので、その反響の大きさについて会員の皆様にご報告させていただきます。
まず当日は、千綿俊一郎先生から給費制に関する法改正の経過や現在の議論状況について基調報告がなされた後、初めて貸与制での司法修習を経験した新65期会員である私菰田泰隆、高松賢介先生、國府朋江先生から貸与制における司法修習の実情等を報告させていただきました。加えて、弁護士を目指したきっかけや給費制に対する想いについて、馬奈木昭雄先生、椛島敏雅先生、下村訓弘先生、九州大学法学部生の安井あんなさんによる、リレートーク形式での貴重な体験談などをお話しいただきました。そして最後に、羽田野節夫先生、平田広志先生、高松賢介先生によるパネルディスカッションが行われ、給費制の意義やあるべき制度論、市民に理解して欲しい点等が活発に議論されました。会場には、一般の方々だけでなく、国会議員や議員秘書の方々、テレビ局関係者や新聞記者の方々、他県のビギナーズネット会員の方々等、参加者は100名を超え、給費制に対する関心の高さに驚かされるばかりでした。
2 中でも私が最も印象に残ったのは、以下の2点です。
第1に、今回の市民集会全体を通じて強調されてきた統一司法修習の重要性です。国民の権利保護を司る司法が適正な裁判を行うためには、その裁判過程や判決に至る論理を十分に理解した法曹三者による適切な訴訟追行が不可欠です。それはつまり、法曹三者同士がいかなる思考過程を経て訴訟を追行するのか、互いにいかなる点に重点を置いた訴訟活動を行っているのかを知り、互いの行動原理を共通理解としなければ成り立たないものです。そこで、長年続く統一司法修習は、司法試験合格者全員に対して法曹三者すべての行動原理を学ばせるために、統一した実務修習制度を用意しているのであり、これが現在の司法制度の根幹を成していると言っても過言ではないでしょう。そんな中で給費制廃止の議論から発展して、貸与制での司法修習が困難であるならば、統一司法修習自体を廃止し、法曹三者ごとで個別の研修を行えばよいとの議論が発生していることも事実です。今回の市民集会では、全体を通じて統一司法修習の重要性が説かれ、給費制廃止の議論が統一司法修習という司法制度の根幹にかかわる問題であることが浮き彫りになったという意味で、他に類を見ない市民集会を開催することができたと実感しております。
第2に、市民集会終了後、マスコミ各社が新66期である現司法修習生から詳細なインタビューをとっていた事実です。後にマスコミの方々から聞いたお話では、記者の方々も給費制廃止について関心はあったものの、司法修習の実情や統一司法修習の意義など、司法修習自体についての理解はあまりなく、「私たちが記者として関与していてもこの程度の知識・理解しかないのだから、市民のみなさんは司法修習というものを理解するどころか、存在すら知らない方が多数を占める。そんな状況下で給費制廃止の議論を進めても、適切な結論が得られるわけもなく、その前提知識を伝えることが私たちの役目なのだから、生の声を伝えて行きたい。」とおっしゃっていました。私たち法曹の情報発信能力には限界があり、マスコミなどの力を借りなくては私たちの意見を世論に反映させていくことは不可能です。そんな中で、法曹関係者だけでなく、マスコミの方々が市民集会に参加した結果として危機感を抱いてくださったことは、給費制復活に向けた極めて大きな前進であると感じました。
3 以上のとおり、部分的な紹介にとどまりましたが、今回の市民集会は今後の給費制復活議論を進めていくにあたって、極めて大きな影響を与えることができたと実感しております。今後も、司法修習の重要性や実情を市民のみなさまに広く知っていただく機会を設け続け、少しずつでも給費制に対する理解を得ていく地道な活動を続けて行く必要があると思われます。
会員の皆様方におかれましては、これから後に続く後輩たちが司法修習に専念できる環境を整えるため、これからも給費制復活に向けた活動にお力添えをお願い致します。
2013年2月 1日
災害対策委員会報告 「被災地視察のご報告」
東日本大震災復興支援対策本部 青 木 歳 男(60期)
平成24年11月25日から28日にかけて、福島県二本松市、浪江町、南相馬市、宮城県南三陸町、気仙沼市の各所を視察いたしましたので、ご報告いたします。なお、本報告は、視察3日目、4日目についてのものです。前半部分の報告は、前号の通りです。
27日午前8時30分に、宮城県南三陸町の宿泊施設を発つと、午前中は同町の被災状況、ボランティア活動の実態、復興の現在を視察しました。
この日は、南三陸町の中心である志津川地区の視察です。南三陸町は、宮城県北東部に位置するリアス式海岸の町で、人口約1万5000人、中心部は15m超の津波で壊滅状態、1000名を超える犠牲者が出ています。
志津川地区は、市街地の瓦礫はほとんど片付けられ、市街地はほぼ更地の状態である一方で、海沿いの一カ所に集積された瓦礫は山のように積まれています。町役場職員が最後まで防災無線を発信し続けたことで有名となった南三陸町役場防災対策庁舎跡場所ですが、引っかかった瓦礫の撤去は済んだものの、鉄骨部分だけが残っていました。未だ町の多くの地区が立ち入り禁止区域に指定され、建物を建てることはできないため、街の復興は進んでいないのが現状でした。
他方、このような状況を少しでも改善しようと、志津川地区に存した店舗の有志が仮設の商店街「南三陸さんさん商店街」を建てています。
また、Yes工房(南三陸復興たこの会)では、職を失った町民を中心に雇用の創出を図り、地域活動を維持しながら、被災した住民の自立を支えることを目的として、南三陸のゆるキャラ「オクトパス君」製品の製造をしていました。オクトパス君は「置くとパス」とのダジャレとかわいい風体が受けて、全国(主に受験生)から注文が殺到していました。同工房にて木彫りのストラップを彫る技術を提供しているのは民間会社で、代表者が震災後に一人南三陸町を訪れて協力を申し出たことが、同工房の成功を支えた要因の一つです。複数のNPO団体や支援企業の動きが洗練され、進化していることは特筆すべき今回の視察の発見です。
その後、気仙沼市を訪れ、復興支援Cafe「NONOKA」と宿泊先であるホテル望洋でそれぞれお話を伺いました。気仙沼市は、人口約6万8000人の三陸海岸沿いにおける一大漁業基地でしたが、震災による20m超の津波、大火災で千数百人の犠牲者を出しています。
気仙沼市でも、復興のあり方とスピードが問題となっていました。復興計画を進める上での住民の意見集約については、自治体と住民との意見の相違、地区ごとの意見の対立、世代間の考えの相違など克服すべき課題は山積しています。意見を集約できずに時間ばかりが経過し、人が(特に働き盛りの)都会へと流出している現状に皆強い危機感を抱いていました。
翌28日午前は、気仙沼市内の鹿折地区の仮設商店街「複幸マルシェ」を訪ねました。周囲は以前基礎コンクリートだけが残る荒地のままであり、近くには陸に打ち上げられた大型船「第18京徳丸」が見えます。復興は進んでいないという印象を受けたまま、気仙沼市を後にし、帰福しました。
震災から1年9ヶ月が経過し、震災に対する国民的な注目が減退する中、逆に復興問題の本質である地域社会の再生は正念場を迎えています。地域間での意見の調整が進まず、行政もリーダーシップを発揮するのが難しい中、地域の空洞化が進んでいるという現状は、視察をしてみなければわからない課題を明確にしてくれました。対策本部において、今回の大震災に対する復興支援が、長期的視野に立った息の長い活動でなければならないことは宮下弁護士の前号の報告の通りです。
弁護士会として、今後は大規模災害時の対策・対応だけではなく、災害後の各種支援団体の設立・運営に対する支援(NPO法人、一般社団法人、ファンドの設立・運営)、復興の際の「街作り」にいかに住民の意思を最大限かつ迅速に反映させるスキームを作るかといったことが新たな課題です。
拘置所による接見妨害とたたかう
刑事弁護等委員会委員 丸 山 和 大(56期)
1 拘置所による接見妨害
拘置所と弁護人の接見交通権をめぐる対立は、抜き差しならないところまで来ている。
弁護人が、接見室(面会室)内で被疑者・被告人の心身の状況を記録するためにカメラを使用しようとすると、被疑者・被告人の後方に設置されている覗き窓からこれを見ていた拘置所職員が、断りもなく接見中の接見室内に立ち入り、強制的に接見を中断させ、接見を終了させる。
そして、拘置所長が、当該弁護人の所属する弁護士会に対し、個人名で、当該弁護人の懲戒を申し立てる。
冗談のような話であるが、これが平成22年以降、全国で起きている拘置所による接見妨害の実態である。
2 当会会員による接見妨害国賠訴訟
監獄法に代わる刑事収容処遇法が施行され、被疑者・被告人の権利が明示されたことにより、被疑者・被告人との接見交通権は従前に比して確保されるかにみえた。ところが、現実には、従前よりも接見交通権が妨害されるという皮肉な状況となっている。
現在、当会会員を原告、福岡拘置所(国)を被告とする二つの接見交通国賠訴訟が係属している。
一つは、上田國廣会員を原告とする、再審請求弁護人からの再審請求人への文書差し入れが妨害されたことなどを原因とする「上田国賠」であり、もう一つは、田邊匡彦会員を原告とする、接見室内での写真撮影中に拘置所職員が接見室内に立ち入り、さらに撮影した写真を消去するまで拘置所からの退去を認めなかったことなどを原因とする「田邊国賠」であり、私は上記二つの国賠訴訟の原告弁護団に加わっている。
本稿では、接見室での写真撮影と接見交通権の問題について、後者の田邊国賠の状況にも触れながら報告したい。
なお、以下、接見交通権の語には、特に断りのない限り秘密交通権の意を含む。また、写真撮影行為とビデオ録画行為とを合わせて写真撮影等ということがある。
3 田邊国賠の概要
平成24年2月29日、小倉拘置支所にいる被告人から「ケガをした」旨の電報を受け取った田邊会員は、同日に小倉拘置支所に赴き、午後6時50分から接見を開始した。そして、田邊会員が拘置所職員の暴行による被告人のケガの状況をカメラ付き携帯電話で撮影したところ、拘置所職員が接見室内に立ち入って接見を中断させ、田邊会員に対し撮影した画像を消去するよう要求した。田邊会員がこれを断ると、拘置所職員は接見室内から出て行ったものの、接見が終了した午後7時20分、田邊会員に対し、南京錠で施錠されている控室に同行を求め、「画像を消去しないと帰すことはできない」などと繰り返し述べた。30分に渡る押し問答の末、午後7時50分、田邊会員は、退去するためにやむなく画像を消去し、拘置所職員が田邊会員の携帯電話の画面を見て画像を消去した事実を確認した後、ようやく拘置支所から退去することができた。
以上の事実を請求原因とし、田邊会員を原告、北九州部会刑事弁護等委員会有志を中心とした当会会員を代理人として、平成24年6月20日、福岡地裁小倉支部に国家賠償請求が提起された。
その法的主張は、当然ながら、弁護人と被告人との接見交通権の侵害を理由とする不法行為を主張するものである。
4 国側の主張
これに対する国側の反論は概要以下のようなものであった。
(1) 接見とは、「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」
(2) 撮影行為等を「接見」に含めると、「撮影行為等により未決拘禁の目的を没却したり、未決拘禁者のプライバシーを侵害したり、刑事施設の保安警備上の重大な支障が生じたりするおそれが高い」
(3) 職員の立入は刑事収容処遇法117条に定める権限の適切な行使である
(4) 接見室内での写真撮影等は、『被収容者の外部交通に関する訓令の運用について』(H19・5・30矯成3350矯正局長依名通達。以下「平成19年通達」という。)に基づき、「刑事施股の長の庁舎管理権の行使によって禁止されてい」る
(上記(1)乃至(4)の「 」内は国側準備書面からの引用である。)
かかる国の主張に理由がないこと、特に「接見」の意義を極めて過少、限定的に解することにより妨害を正当化しようとしていることの問題点は明らかであり、本稿執筆中の1月14日現在、原告側において反論の準備書面を起案中である。
5 拘置所の対応が全国統一のものであること
田邊国賠のような写真撮影等に対する拘置所の対応は、残念ながら特異なものではない。
拘置所は、平成22年以降、全国的に、弁護人の接見室内での写真撮影等を徹底して抑圧しようとしており、かかる対応が法務省矯正局の統一された意思によるものであることは疑いがない。
具体的には、京都拘置所、名古屋拘置所、大阪拘置所及び東京拘置所で同様の事例が報告されている(各事例の概要は髙山巌「接見室内での録音・録画をめぐる実情と問題の所在」季刊刑事弁護72号68頁以下に詳しいので参照されたい。)。
特に、東京拘置所では、体調不良を訴える外国人(希少言語使用)被告人との接見において、弁護人が接見状況を録画していたところ、拘置所職員が接見室内に立ち入り、被告人を接見室から連れ出して接見を強制的に終了させ、しかも、東京拘置所長が、個人名で、東京弁護士会に対して当該弁護人の懲戒請求を行った事例が報告されている。
これに対しては、東京弁護士会は速やかに懲戒請求を却下し(懲戒しない旨の決定)、当該弁護人を原告、東京三会の有志を代理人として、接見交通権侵害を理由とする国家賠償請求が平成24年10月12日東京地方裁判所に提起されている。
また、田邊国賠における上記4記載の国側の主張をみても、拘置所、更には検察庁を含めた法務省が一体となって接見室内での写真撮影等を抑圧しようとしていることが窺える。
というのも、国側が、「接見」の意義について「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」と定義したことは着目すべき点であり(過去の裁判例で「接見」の内容を具体的に定義したものは見当たらない。)、かかる定義付けを一法務局(福岡法務局)のみで行ったとは考えがたく、かかる主張を行うにあたって法務省訟務局、法務省矯正局と協議がなされていることは確実といえ、更に接見交通権という権利の性質に鑑みると、検察庁との協議も行われていると考えるのが妥当である。
かかるように、国は、検察庁を含め法務省全体として事に当たっている。
6 日弁連の対応
かかる法務省の動きに対し、日弁連も具体的な対応を始めている。
日弁連は、別掲のとおり、平成23年1月20日付けで「面会室内における写真撮影(ビデオ録画を含む)及び録音に関する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を表明し、「面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって、接見・秘密交通権で保障されており、制限なく認められるものであり、刑事施設、留置施設もしくは鑑別所が、制限することや検査することは認められない。」との意見を明らかにしている。
各会員におかれては、理論的側面を含めて、いま一度日弁連意見書を確認されたい。
また、昨年末には、日弁連刑事弁護センター、日弁連接見交通権確立実行委員会などを中心とした「面会室内における写真撮影等の問題に関する連絡会議」が立ち上がり、全国横断的な情報の交換と、全国の国賠訴訟のバックアップが開始された。
法務省矯正局首脳が「写真撮影問題は裁判で決着をつける」と公言したといわれていることからすれば、一般指定問題以来の全国的な接見国賠訴訟の係属が予想されるところであり、かかる日弁連の動きは当然といえるし、一人一人の弁護士が自覚をもって事に当たる必要がある。
7 怯むことなく
ところで、なぜ法務省はかかる抑圧を始めたのであろうか。
個人的な感想であるが、法務省には、被疑者国選対象事件の拡大など、被疑者・被告人の防御権を拡大する動きに対する危機感があるのではないだろうか。
拘置所による接見妨害が報告され始めたのは平成22年に入ってからであるが、その前年の平成21年は被疑者国選対象事件が必要的弁護事件全てに拡大された年である(また、裁判員法が施行された年でもある。)。
平成19年通達が平成19年5月に発せられたにもかかわらず、平成22年になってから具体的な妨害事例が報告され始めたことに鑑みると、平成21年から平成22年にかけて法務省で接見室内での写真撮影の抑圧に向けた方針策定がなされたと考えられ、その動きは上記のような刑事訴訟制度の変化、なかでも被疑者・被告人の防御権を拡大する動きと無縁とは思われないのである。
もっとも、法務省の方針を正確に知ることはできないし、知る必要もないといえる。
私たち現場の弁護士にとって重要なのは、拘置所が接見妨害を行っている現実である。
かかる現実に対し、怯むことは許されないであろう。
接見は、憲法34条に定められた弁護人依頼権(弁護人から実質的な援助を受ける権利)を実現するためのツールであって、特に捜査弁護活動においては実質的な防御の機会を確保するための必要不可欠の手段であり、その確保・確立は弁護士の本質的使命であると同時に、市民に対する責任でもある。
小田中聡樹教授がいうように「捜査段階における弁護活動の権利が歴史上最も遅く登場し、しかもその権利保障が捜査当局の絶えざる妨害・侵害により弱いものとなる傾向を持つのはそのため(筆者注:国家の刑罰権、治安維持の要求との対立を指す。)である。そうであればこそその権利性は、その確立・強化をめざす自覚的弁護士層の各種の実践的活動が日常的に展開されている状態の中でのみ存在しうる」(「現代司法と刑事訴訟の改革課題」日本評論社234頁)のである。
もちろん、接見国賠訴訟は、国、なかでも検察庁を含めた法務省と鋭く対立することとなる。しかし、事柄の性質上、一部の裁判官に判断させるのではなく、できるだけ多くの裁判官に判断を迫る必要がある。 そのためにも、各会員におかれては、日弁連意見書の趣旨にのっとり、怯むことなく弁護活動に励まれたい。その中で接見妨害に遭うようなことがあれば、速やかに各部会刑事弁護等委員会に報告されたい。国家賠償請求等を含め十全なバックアップが得られることと思う。
面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書(日弁連)
2012年12月 1日
616字の「ほう!な話」と10分間の「ぐるっと8県」のこと ~対外広報活動の裏話、アレコレ~
対外広報委員会 副委員長 春 田 久美子(48期)
1 私が対外広報委員会に入った経緯
弁護士になるまで、弁護士会の委員会活動のことは、詳しくは知りませんでした。裁判所で勤務していたときから、子供さんを含む一般市民の方々向けの広報活動をする係をしたりしていたので、そのような活動に引き続き関わっていきたいな、と思い、ネーミングからして"研修"という言葉が入っていたので、そのような活動をしているのは研修委員会だろう、と思い、入ってみると、そこは、(いわば、対内的に)会員弁護士向けの研修を行う委員会であることがわかりました。もっとも、研修委員会に入ったおかげで、知っておくべき弁護士倫理についての研修会の司会役を仰せつかったりするなど、それはそれで勉強になったので感謝しています。
話しを戻しますが、私がやってみたかった活動をしているのは、実は、「対外広報PT」というところらしい、というのが次第に分かってきました(その後、PTは委員会に生まれ変わりました)。そして、そのPT長は、金子龍夫先生らしい、ということも分かったので、「PTに入れていただけませんか」とお電話をすると、金子先生は、快く「一緒にやってくれるの?ありがとうね!」と言って下さり、間もなく「委員に委嘱するように手続きをしておいたからね!よろしくね。」と早速のお返事をいただいたのです。その直後、金子先生は急逝され、結局、そのお電話での会話が最後になってしまったのですが、今でも、そのときの明るいお声が耳に残っています。短い会話ですが、今後、弁護士会は、市民の方々などに向けて、積極的に、対外的にアピールする活動が必要なんだ、ということを熱く仰っていました。私の対外広報委員会での活動は、このときの電話でのやりとりが出発点だったかもしれません。
2 「ほう!な話」コラム誕生秘話
「ほう!な話」というのは、地元紙である西日本新聞の朝刊・文化欄に毎週1回(土曜)掲載されている福岡県弁護士会のコラムの名称です。
西日本新聞は、朝刊で約80万部、沖縄を除く九州各県に配布されている日刊紙です。地域に密着した新聞ですので、とりわけ地元・ローカル情報という点で全国紙にはない魅力満載で、その地域に住む一般の方々にとってはなくてはならない存在でしょう。
私が対外広報PTに入ったころ、相応の金額が必要なテレビCMをどうするか、といった、いわゆる有料の広告についての議論が活発で、業界用語のような"パブリシティ"とか"GRP""忘却曲線"などの耳慣れない言葉が飛び交っていたのを覚えています。強くインパクトに残っているのが、広報と広告は(似ているようだけど、全然)違うんですよ、という話でした。そんなことも含め、じっと議論の状況等を見聞きしているうちに、広報媒体の一つとして、どうも「市政だより」というのが有効らしい、ということが私なりにボンヤリと掴めてきました。当時、私は、福岡市民ではなかったので具体的なイメージは分からなかったのですが、回覧板とかで回ってくる、自治体が発行している、お役立ち情報とかが載っているアレね、と思って聞いていました。この市政だよりに、弁護士会の企画(無料法律相談会とかシンポジウムなど)を載せるのが、広報手段として有効なんだけど、無料なこともあってか人気が高いので中々載せられないんだよね~という話でした。そうか!紙媒体もまだまだ有効なのか、だったら、新聞はどうかな、それも地元紙だったら、「市政だより」よりももっともっとたくさんの読者の方に、情報が届くんじゃないかな、そんなシンプルな発想から考えたのが、このコラムの企画でした。早速、他の弁護士会で、新聞を通じた広報活動として、どういうことをしているかな~などを調べてみました。愛知県弁護士会の中部経済新聞(「こちら弁護士会」)、島根県弁護士会の山陰中央新報(「新法律トラブルを斬る」)、兵庫県弁護士会の神戸新聞(「くらしの法律相談」)など少しずつ情報を集めるうちに、私なりに、「こんなのはどうかな」「弁護士のパーソナリティ、人間的なぬくもりなどを伝える企画としてこんなコーナーを入れたら良いのでは」などアイディアを色々考えること自体がとても楽しかったです。今でも、よく質問を受けるのが、どうやって、そのアイディア、企画を実現していったか、ということなのですが、それは、自分の持っていた小さなコネクションを頼りに、少しずつ、会っていただける方を紹介してもらいながら、企画の"素晴らしさ"(手前味噌ですみません)、読者にとっての有益さ、新聞社にとっての意味合いなどをひたすらお伝えし、こんな企画はいかがですか、こんなアイディアも良いですよね~と他紙のサンプルなども示しながら、聞いて下さる方々にバンバン売り込んだからかな、と思っています♥もちろん、何度も新聞社に足を運び、いわゆるプレゼンというのでしょうか、限られた時間の中で、企画のコンセプト・意義・具体的な展開方法等を要領よく伝えることにかなりのエネルギーを割いたことは事実です。私の勢いに押されたのか、西日本新聞社のお偉い方々は、よ~くお話を聞いて下さり、中には「春田さん、弁護士よりも、編集者の仕事した方がいいんじゃない?!」などと言って下さったり・・・。そうこうしているうちに、正式にコラムの欄をつくってみよう!と決まったときはとても嬉しかったです。頂いた枠の大きさ(文字数)は、イメージしていたよりは小さいもの(616字)になったのですが、小さくても、毎週、定期的に弁護士会として読者に伝えるべき有益で良質な法的情報を提供する場所が獲得できた!社会に通じる窓が一つけた!と、ハードルを一つ越えた気分でした。次は、その毎週の原稿の遣り取りを具体的にどうやって行うか、弁護士会内部での仕組みをどうするか、など実務的な作業を少しずつ詰めていきました。何より、最初の"大問題"だったのは、コラムのタイトルを何にするか、ということでした。私自身も、無い知恵を振り絞ってアレコレ考え、新聞社の方に提案したりしてみたのですが、凝り過ぎ、とか、イメージが湧きにくい、など色々なダメだしをされ、結局は、ほうっ!へぇ~っ!なるほどっ!と読者の方に喜んでいただけるようなイメージで、ということで、「ほう!」という感嘆詞と「法」をかけて、「ほう!な話」に決まったのです。タイトルが決まると、次は挿絵。え?絵?そんなのあったかな?...そうなんです、実は幻のウサギさんがいて...。私は、何とか、このコラムを、それまでの弁護士や弁護士会の(堅くて、ちょっと近づきにくい)イメージを少しでも良い意味で変えたいと、柔らかくて、親しみやすいイメージにしたかったので、ゆるキャラのような、コラム用の新キャラクターを作れないかな、と真剣に思っていたのです(皆さまは、覚えていらっしゃいませんか?裁判員制度を念頭に当時、各地で、例えば、福岡高等検察庁の「サイバンインコ」とか日弁連の「サイサイ」のようなイメージです。)。企画を持ち込む段階で、「季節感を意識した、旬で、タイムリーな話題をご提供します!」(引越シーズンには敷金の話題、竹の子の季節には相隣問題を、国際女性dayには、女性に多い法律問題を、など)と売り込んでいたこともあり、そのウサギをシーズンごとに着せ替えたりして、出来ればカラー刷りの挿絵のようなものを入れてみたい、と思い、対外広報委員会のメンバーの先生に「何か、キャラクター描ける?かいて~!」とお願いして、「ウサギなら...」と描いてもらったイラストを何回か、新聞社に持っていったりしました。ちょうど5月だったので、カーネーションを持ったウサギだったり、夏に向けて浴衣姿のウサギの絵柄もありました。ですが、懸命のアタックも空しく、「どうして、ウサギ...??」という担当者の方の質問に答えられるはずもなく、やむなくここは断念しました(その後、福岡弁護士会では、ゆるキャラか、ロゴマークかの議論を経て、決まった爽やかなブルーのロゴマークがこのコラムにも途中から毎回登場するようになりました。)。折角の機会なので、「幻のウサギ」さんたちを今回、紹介しておきますね...。
このような準備を経て、平成21年6月4日から連載が始まり、お陰様で、現在に至るまでの2年半の間、なんとか続いています。第1回目の記事は、役得ということで、私が執筆させていただくこととなり、裁判官で晩年弁護士になった(正確には、法律事務所の看板を掲げた直後に亡くなった)祖父の法服姿の写真も入れて、弁護士の歴史みたいな内容の記事になりました。当日の朝、初めて活字になった記事を見たくて、ドキドキしながら新聞が配達されるのを待っていたのを思い出します。そして、平成24年3月下旬、リレー方式で、延べ110名を超える会員の方々によって綴られてきたこのコラムを冊子にし、一つのまとまったカタチにすることも出来ました。その他、毎週一回のレギュラー版とは別に、新聞社の御協力もあり、「ほう!な話 スペシャル版」と称して、各回4名の弁護士で一つの特集記事を組む、という企画も時々出来るようになりました(このスペシャル版では、氏名の他に顔写真も掲載されます。)。さらに、このコラムは、福岡のみならず、九州全県(沖縄を除く)に配布される頁に掲載されているので、九弁連管内を網羅する情報を、わずかですが掲載するような取り組みも試みたりしています。
3 「ほう!な話」の記事が掲載されるまでとコラムの効果。今、見えてきたこと
このコラムは、弁護士会内にたくさんある各委員会毎に、予め掲載枠を割り当て、執筆者が決まれば、実際には、新聞社との窓口になっている私とデータ等で原稿を遣り取りし、新聞社から送られてくるリライト版を経て、ゲラ刷りを最終チェックし、内容を確定させていく、という段取りで活字になっていきます。執筆者の先生方からは、早々に原稿を頂戴しておきながら、私の作業が遅れたり、こんな情報をプラスして欲しいとか、内容の修正をお願いしたりと、度々ご迷惑をおかけしておりますことを、この場を借りてお詫びいたします。
当初は、大混乱でした...。新聞社からのダメだしと執筆者からのお叱りなど、両方の板挟みになり、どうやって、あるべきコラムにしていけばいいのか、その方法を模索する日々がしばらく続きました。そのうち、私自身も、良い意味での開き直り、割り切りをするようになり、本当は、不快な思いをされている会員の方々もいらっしゃるかとは思いますが、自分なりのやり方みたいなものを少しずつ学び、何とか続いているのが現状です。会員の方々から、「新聞に自分の名前が載ったから、古い友人から連絡があったよ」とか、「今日、相談センターのお客さんが、『ほう!な話』の切り抜きを握りしめて、相談にみえていましたよ」など、それとなく読者の方々の反応等が垣間見えるお声をかけていただくことがあり、そんな瞬間が何よりも嬉しい私です。
私自身が、次第に見えてきて課題として思っているのが(これは個人的な感想なのですが)、弁護士(会)が伝えたいことと、読者ないし新聞社が求めている情報とが、必ずしもマッチしていない場面が多いけど、それはどうしてなんだろう、ということです。読者(一般の、法や司法には素人の方々)が求めている情報とは一体どういうものだろう?私たちの提供している情報は、真に求められているものだろうか、ということです。これからも、読者の人たちが求めている情報は何なのか、という視点を忘れることなく、このコラムが続いていくと嬉しいな、と思っています。
4 NHK福岡「ぐるっと8県九州沖縄」の<すいよう元気塾>のコーナーに出演しています!
「ほう!な話」の企画を思いついたころ、今度は、テレビの番組、出来れば、公共放送のNHK福岡で、有益な法律情報を提供する場を作れないか、こちらも売り込みを開始してみました。皆さまもご存じ、NHK大阪局で制作されている『生活笑百科』があれだけの長寿番組になっていることから考えても、素材はたくさんあるはずだし、法律ネタを、出来る限り柔らかく、市民(視聴者)目線でお届けするようなスタイル・内容にして届けたい、新聞(活字)では伝えにくい、テレビならではの伝え方もあるのでは、とこれまた「季節感」を意識した「旬で、タイムリーな情報」を「生活者」目線で、というキーワードをキャッチフレーズにして、機会を見はからっては、お願いをしたりしていました。そうしたところ、毎週水曜日、午前11時半から正午まで、月曜日から金曜日までの「ぐるっと8県九州沖縄」という番組内の「すいよう元気塾」というコーナーに何回か出演するうち、レギュラーで法律情報を放映してみたい、というお申し出を受け、平成23年4月以降、毎月1回、第一水曜日に出演する企画が実現することとなりました。
国会中継がない限りは毎月1回、10分間(緊急警報の試験放送日にあたれば9分間)の"尺"のコーナーです。その10分間に、どういう情報を、どういう順序で盛り込むか、テーマのチョイスから含めて企画を提案します。担当のディレクターの方と打ち合わせを重ね、NHK内部での会議でOKが出れば、先ずは、一安心。あとは、イメージをより伝えやすくするための、イラストやテロップ、パターン(フリップ)やOC(再撮)の確認作業です。用意してある台本に従って、当日のリハーサルで、本番通りに一回流します。1階のスタジオからは見えませんが、4階の制作フロアーからは、たくさんのスタッフたちが細かくチェックをしながら見ています。リハーサルの直後、その上層階のスタッフたちから、様々な指示が飛び、本番を迎えます(生放送です)。私は、このリハーサル終了後、本番までの短い時間に、喋る順番や、落としたくないキーワードなどを再確認し、一気に集中力を高めます。スタッフの方たちは、イラストを修正した方がよい箇所や、テロップの字句などの変更作業を、時間が許す限りやって下さいます。カメラマンの方々も、私がリハーサルで動かしてみた指示棒の動きなどから、カメラワークを何度も練習していますし、音声さんは、マイクの位置などを細かく調整して下さいます。相方のキャスターさんとは、なるべく掛け合いやクイズみたいなものも織り込みながら、キャスターさんのリアルな驚き感や反応などを引き出すべく、直前までお喋りをしながら、二人で、"演出"方法について作戦を練ります(*^_^*)。
内容ももちろんですが、実は、衣装や髪型も気になる私です...。第一水曜日が近づくと、何となく、女子アナの衣装などがチラホラ気になります。膨張色は避け、(少しでも)引き締まって見えるような色、デザインの衣装を、などと考えたつもりでも、録画したものを自宅で再生する度、現実に打ちのめされている私です...。そんなときは、気になるうちはまだ大丈夫かも、気にならなくなったときはとしておしまいだよね~、と自分を奮い立たせるしかありません。ビミョーに気にしているのが、笑顔でお話するかどうか、ということ。デリケートな話題、法的にシビアな話題を喋るときに笑顔ってどうなんだろう、と思わないこともないのですが、妙に、堅い表情をするのもどうなのかな、と思うに至り、結局は、フツーに、自然体でお話しています。一応、滑舌が少しはマシになるようにと、「アエイウエオアオ...」とか、韓流ドラマでやっていた「ケグリ ティッタリ~(かえるの後ろ足~)♪」という発声練習のようなものもスタジオの隅でこっそり試したりしています。本番中は、ADさんが、「あと3分」「残り30秒」など、残り時間が書いてあるスケッチブックを次々とめくって教えてくれます。時間が"押して"きたときには、バババーっとまとめに入って"巻き"ます。キャスターの方に「以上、春田先生でした~!このコーナーへのお便りお待ちしています。」で締めていただき、天気予報の画面に切り替われば、私の出番は終了。そして、正午の時報とともに、全国ニュースの画面に切り替わり、「お疲れさまでした~!」の声が響けば番組は終わります。その後、4階のフロアーから、編責(プロデューサー)などスタッフの方たちが降りてこられ、ちょっとした反省会や、次回の企画ネタなどを少し会話しながらスタジオを後にします。NHKから事務所まで帰るタクシーの中で、真っ先に電話をするのが実家の母親です。法律なんて全く知らない、本当の素人なので、母に伝わったかどうか、で確認をするのです。
5 今後のこと
「616字」の活字と「10分間」という時間。限られた空間・時間ですが、与えられた機会を精一杯有効に活用出来るよう、最新のホットな情報を盛り込みながら、読者・視聴者の方々にとって、知っておいて損はしない、お役に立つ情報とは一体何だろう、とニーズを意識しながら、これからも、弁護士会の対外広報活動のあり方を考え続け、実践していきたいと思っています。漠然とですが、近づきたいな、理想型かな、と私が思い描いているのは、市民の方々と弁護士会の"双方向型"の広報活動、です。具体的なイメージはまだまだ固まってはいないので、これからまた、ゆっくりと考え続けていきたいです。今後とも、委員会の活動にどうぞ御協力をいただきますよう、お願いいたします。
2012年11月 1日
無料労働相談が始まりました 生存権の擁護と支援のための緊急対策本部労働関係部会長
会 員 井 下 顕(52期)
1 無料労働相談が始まりました!
本年10月1日より、県内19カ所の法律相談センターにおいて、労働者側の労働相談の無料化がスタートしました(筑豊部会では、名簿登録会員事務所に順次配転されます。)。すでに、CM(アリが出てくるものです...。)もオンエアされており、各メディア媒体を通じた宣伝もされ始めています。
2 無料労働相談の制度趣旨は...
この無料労働相談の試みは、当初生存権の擁護と支援のための緊急対策本部において提起され、その後様々な議論を通じて実現されました。
不肖私、当会を代表して福岡労働局が主催する個別労働紛争解決制度関係機関連絡協議会に出席させていただいておりますが、福岡労働局や県の労働者支援事務所に寄せられる労働相談のうち、あっせん等の手続で解決しない労働相談の大部分が法テラスを紹介されています。ちなみに、昨年の厚労省の総合労働相談窓口に寄せられた民事個別労働紛争(解雇、雇止め、賃金未払、セクハラ・パワハラ等の相談)は約25万件、うち全国の労働局のあっせん手続で受理された件数は約6500件、全国の地裁本庁に継続した労働審判、仮処分、労働事件本訴等はすべて合計しても8000件超くらい(福岡県内では総相談件数4万件のうち、実に1万件が民事個別労働紛争で、福岡労働局のあっせん受理件数は約300件、天神センターの年間の労働相談件数も約300件です。)。実に多くの労働事件は弁護士への相談にすら行き着いていない状況にあると思われます。そして、これらの原因の一つに、労働相談の相談料が実は大きな壁になっていると思われます。解雇、雇止めによって明日の糧すら奪われた労働者は30分5,250円を出して、弁護士に相談することには相当な躊躇があることは明らかではないでしょうか。
3 無料労働相談の副次的効果も...?
当会の生存権対策本部始め関係委員会では、このように労働者の生存権を擁護・支援するという観点からこの無料化を議論してきたわけですが、この無料化には副次的な効果もあると思われます。すなわち、労働は様々な法領域の基軸となっている、労働分野にトラブルが発生したり、傷がつくと、家庭内の問題、子どもの問題、地域の問題等多くの問題に波及していく...(例えば、一家の支柱が解雇されれば、負債の問題、夫婦間の問題その他に影響が出てくると思われます。)、そうすると、無料労働相談を通じて、実は潜在化している法的ニーズが立ち現れてくるのではないかと思われますし、労働者側に無料労働相談を通じて弁護士が代理人に就いた場合、事業主側の法的ニーズも当然ながら高まってくるものと思われます。
すでに、無料労働相談の反響があちらこちらで聞かれるところですが、会員のみなさまにおかれましては、どうか、無料化の制度趣旨をお汲みとりいただき、お力をお貸しいただければと思います。
2012年10月 1日
ジュニア・ロースクール2012報告
会 員 日 浅 裕 介(63期)
1 はじめに
平成24年8月18日(土)に、西南学院大学法科大学院にて、ジュニア・ロースクール(以下「JLS」といいます。)が開催されましたので、報告致します。
JLSは、法教育委員会の目玉イベントとして、主に中高生を対象として、毎年この時期に行われていますが、私は、本年度から委員を委嘱されたため、初めての参加となりました。
今年は、小学生1名、中学生18名、高校生10名、大学生1名と幅広い年齢層の参加となり、他に保護者の方など17名のご出席があり、弁護士は15名が出動しました。また、弁護士会の職員の福井さんと中山さんにも当日の応援をしていただきました。
2 模擬裁判
まずは、司会の山本聖先生から、開校のご挨拶があった後、当会の古賀和孝会長と梅崎進哉西南学院大学法科大学院長のご挨拶があり、その後、早速、模擬裁判がスタートしました。
模擬裁判の事件の概要は、被害者のおばあさんが、バイクに乗った若い男からひったくりにあって、金を盗まれた上、けがをしたと主張する一方、被告人は、何もしていないし知らないといって犯人性を否認したという内容です。模擬裁判では、委員の先生方扮する裁判官、検察官、弁護人、被告人、被害者、証人の迫真の演技により、緊張感がありながらも笑いの混じった素晴らしいものとなりました。特に、被害者のおばあさん役を演じた八木大和先生は、プロの俳優としか思えない名演技で、完全にホークス好きで博多弁丸出しのちょっと(かなり?)うざいおばあさんになりきっていました。参加者のアンケートでも、八木先生の演技は大絶賛されていました。
3 ディスカッションと発表
模擬裁判の後は、まずは、参加者が検察チーム、弁護チームとしてそれぞれ4班に分かれて、各班で有罪、無罪の検討をしました。私は弁護チーム班の1つを担当させていただきましたが、中学3年生と高校生のグループということもあり、鋭い視点で事実認定を試みる学生が多かったです。私も参加者と一緒に事実認定の勉強をさせていただきました。
次に、各班の検討結果を順番に発表していきました。この時点では、当然、検察チームは被告人有罪、弁護チームは被告人無罪という発表内容で、各班とも、重要な事実は共通して指摘する一方、独自の視点に基づいた発表もあり、興味深い発表でした。
今度は、検察チームと弁護チームをミックスして、裁判員チームを4班作り、最終的な結論に向けてのディスカッションをし、各班が結論を発表しました。結論は、4班とも「被告人は無罪。」でした。私が担当した班も他の班も、当初は、結論が分かれていましたが、各証拠を丁寧に検討するうちに、被告人が犯人であると断定できないという結論に達しました。
今回の事案は、被害者が所持していた現金の入っていた封筒のホッチキス穴の位置と、被告人が所持していたお札のホッチキス穴の位置及びお札の状態から、被告人の所持していた現金と被害者が所持していた現金とは同一ではない可能性が高いということが決め手になりました。
4 まとめ
発表後、山本先生から講評があり、残りの時間で質疑応答がありました。参加者の多くは、法学部や法曹を志望しており、このJLSを通じて、ますます法律の世界に興味を持ってもらえればと思いました。
最後に、当会の宮崎智美副会長から、閉校のご挨拶があり、今年のJLSも無事終了しました。夜は、弁護士と弁護士会職員とで反省会をしましたが、検察官役の横山令一先生が、模擬裁判と同様に、だんだんとヒートアップして、菅藤浩三委員長を拘束(?)して三次会へと消えて行きました。
私の感想としては、とても良いイベントだったと思いますが、今回の参加者は、進学校の学生が多かったので、今後は、いろいろな学校の学生に参加してもらうことも重要ではないかと思いました。