福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
第56回人権擁護大会・広島 (平成25年10月3、4日)
会 員 三 浦 邦 俊(37期)
去る10月3日午後12時から、広島国際会議場において、第56回の人権擁護大会のシンポジウムが開催されました。第1分科会が、「放射能による人権侵害の根絶をめざして」、第2分科会が、「なぜ、今『国防軍』なのか―日本国憲法における安全保障と人権保障を考える―」、第3分科会が、「不平等」社会・日本の克服―誰のためにお金を使うのか」というテーマでしたが、私は、第3分科会に日帰りで参加し、翌日の人権擁護大会も、午前8時19分の「みずほ」に乗って、9時30分過ぎには会場に到着、大会の懇親会と、その後の某会合も参加し、午後11時前には、自宅に帰りついていました。見分した範囲で、人権擁護大会の報告を致します。
全体的な感想を述べれば、それこそ何年振りか、何十年か振りで、戦争と平和、基本的人権、法の支配の原則など、基本的な理念、原則に立ちかえって考えることができて、大変勉強になったと思います。来年は、函館で、イカそうめんを食べましょうが、函館弁護士会会長の呼びかけでした。
シンポジウム報告
第3分科会のシンポは、日本の生活困窮者は増大の一途をたどっている、相対的貧困率(世帯所得をもとに国民一人ひとりの所得を計算し、順番に並べて真ん中の所得の半分に満たない人の割合)は16%、アメリカに次ぐ高さであり、一人親世帯の相対的貧困率は2011年においては50%である。その一方で、社会保障費削減による餓死、孤独死の増加、経済・生活問題を理由にする自殺者の増加傾向は15年間変わらない状態にあるとの問題提起がありました。この貧困拡大の要因は、第一に、非正規雇用の拡大による不安定・低賃金労働の蔓延にあって、年収200万円以下の民間企業の労働者は、2006年以降、6年連続で1000万人を超え、非正規労働者は、全労働者の38.2%、非正規労働者の賃金水準は、正規労働者の約5割であるとの指摘がありました。また、他方で、労働組合の組織率が2012年時点でわずか17.9%であり、中小零細企業や、非正規労働者層は、事実上未組織状態におかれていることが、このような不安定、低賃金労働が蔓延している原因である。第二として、日本の社会保障制度は、年功序列制度と終身雇用制度に基づく賃金体系を前提とした男性正社員が一家の働き手・支柱であることを前提にして、社会保障制度が本来担うべき役割の多くを企業、地域及び家族の負担と責任に委ねて、出生から生涯を終えるまでの漏れのない社会保障制度の構築を怠ってきた。その結果、いったん収入の低下や失業が生じると社会保障制度によっても、救済されず、根本から生存権を脅かさせている、日本の社会保障制度はセーフティネットとして機能不全に陥っているとの指摘がおこなわれました。熟年離婚の果てに、常習累犯窃盗事件を繰り返す、一流大学卒業の元一流企業社員の国選事件を思い出しました。また、医療に関しては、医療費の自己負担率が増加していること、年金に関しては、国民年金を40年間納付しても、基礎年金額は夫婦とも高齢者世帯が受給する生活保護基準にも及ばないとの指摘がありました。歳を取ったら、資産をはたいて生活保護で暮らした方が得だという話は、到底、容認できないと思われました。また、住宅の確保も、日本では国民の自助努力と位置付けられているために、近時は、家賃負担に耐えられなくなって、ネットカフェ難民や野宿等のホームレス状態に陥る人が後を絶たないとの指摘と、フランスなどでは住宅の問題は、社会保障の中で考えられていることの紹介がありました。フランスでは、犯罪を犯した人の帰住先で頭を悩ますことはないように思えました。
第三として、社会保障費の削減による低所得者層家庭の経済的基盤の脆弱化がもたらされている一方で、公教育が縮小されて教育の私費負担が拡大しているため、経済的理由で、高校中退を余儀なくされたり、大学進学をあきらめたりする子ども、医療を受けられずに心身の健康を悪化させる子ども、家族の中で育つ機会を奪われ貧困に直面させられている子どもが増加しているとの指摘がなされ、親の貧困が子どもの貧困に繋がる「貧困の連鎖」の構造、貧困の再生産が「機会の不平等」を生じさせ、この貧困の連鎖が社会階層の固定化を生じさせているとの指摘がありました。
そして、これらの問題に対する対策として、税と社会保障制度による所得再分配機能の必要性が強調され、所得の再分配は、生存権を保障するなど福祉主義を採用する憲法においては当然に予定されている機能であって、「応能負担の原則」も、憲法第13条、第14条、第25条、第29条などから要請されるが、現状では、所得1億円の人の所得税負担率は28.9%であるのをピークに10億円で23.5%、100億円では16.2%に低下し、所得が高くなるほど納税負担率は軽くなっている。他方、給与所得者の所得税率は、課税所得330万円以下が10%、課税所得330万円超から500万円が20%であり、住民税負担まで考慮すると、所得100億円の人の所得税負担率より、平均的給与所得者の納税負担率が高いとの指摘、所得税の基礎控除(38万円)の引き上げを検討すべきである、資産所得に対する分離課税の所得課税率15%は給与所得に対する課税率より低い、相続税の最高税率は75%だったものが50%となっている、資産所得の分離課税や、減税措置は、応能負担の原則に逆行してきたものであるとの指摘がおこなわれ、海外との比較においても、2007年時点の比較で、スウェーデン、フランスでは社会保障費のGDP比が30%近くであるのに対して、日本では、20%にも達しておらず、社会保障費の中身をみても、欧州諸国と比較すると日本では高齢者関係、医療関係に偏り、家族関係支出、失業関係支出、住宅関係支出の割合が少なく、日本には、所得再分配機能が低く、所得再分配前後のジニ係数の改善度の比較においても、OECD加盟国の中では、最低レベルにある等の指摘がおこなわれました。
以上のような分析の中から、不平等社会の克服の視点として、第一に、貧困を生む要因を排除するために、社会保障制度の整備・充実、労働者の権利の確立及び子どもの貧困対策の必要性の指摘、第二として、社会保障の権利性の確認と社会保障基本法の制定の必要性の指摘、具体的には、医療・年金・介護の各社会保険制度について、社会保険中心主義の社会保険制度から、年金を含めた税財源によるという普遍主義の原則にたった社会保障制度への転換が必要であり、健康で文化的な居住環境で生活することは生存権保障の重要な要素であり、低所得者一般に対する普遍的な家賃補助制度を創設すべきであるとの指摘がありました。第三として、不平等社会を克服するためには、税制においては、応能負担原則に従った適切な課税によって所得再分配機能を発揮させることが必要であり、生活費控除原則は、応能負担の原則の中でも重要なものであり、生活費控除原則を徹底した課税最低限の再検討がなされるべきであるとされ、さらには、応能負担の原則に基づく実質的平等の確保の観点からも、担税力に応じた資産所得課税のあり方、減税措置等の見直しなども含めて再構築等が必要との指摘がありました。第四として、憲法による「租税法律主義」及び「財政民主主義」の規定の指摘があり、税制調査会、財政制度等審議会、規制改革会議、産業競争力検討会議等、税制、社会保障制度、労働法制等を審議する場における政策形成過程の不透明、委員構成の不均衡は、審議過程における情報の公正性を欠き、民主主義の機能不全を招いている。これら重要な政策形成過程における国民の参加が保障される制度が構築されるべきであって、このような観点から、学校教育の場における主権者教育の観点からの法教育の推進の中に、社会保障、税金及び財政等の教育について、国民の権利、民主主義の観点からも、充実化が図られるべきとの指摘がありました。
最後に、日弁連の提言として、税制及び財政に関しても、憲法は租税法律主義及び財政民主主義を採用しているのであるから、今後は、税制、社会保障制度も、人権及び民主主義の観点から調査、研究をおこなって、継続的に提言をおこなうことが宣言されました。特別報告の中で、青山学院大学教授で、実行委員会の委員でもある三木義一先生が、租税法律主義の観点からは、税法を民法と同じように趣旨解釈で救済する裁判所は間違っている、裁判官は、文理に従った解釈をせよと指摘されましたが、この指摘は、行政庁の処分一般にも、応用できるのではないかと思った次第で、裁判官に対する人権教育が必要だとの指摘を思い出した次第でした。この分科会だけでも、一般の方を含めて、700名の参加があったそうです。
人権擁護大会について
10月4日の人権擁護大会当日は、この1年間の日弁連の人権擁護活動について、九弁連推薦の松田幸子副会長から時間がないところで要領良く説明がおこなわれたことや、当会の永尾廣久会員が、恒久平和主義、基本的人権の意義を確認し、「国防軍」の創設に反対する決議案において、分科会の長として、簡潔に要領良く議案説明をされたことをまずは、報告すべきであるでしょう。
当日は、日弁連の決議として、(1)立憲主義の見地から憲法改正発議要件の緩和に反対する決議案、(2)福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議案、(3)恒久平和主義、基本的人権の意義を確認し、「国防軍」の創設に反対する決議案、(4)貧困と格差が拡大する不平等社会の克服を目指す決議案の質疑と採決がおこなわれ、いずれも、活発な意見交換の末、賛成多数で、決議は承認されました。これ以外に、日弁執行部から、いわゆる可視化問題に関する刑事司法制度特別部会に関する報告がおこなわれました。
大会に参加してもっとも印象深かったのは、来賓として最後に挨拶された広島市長の松井一實さんの「私は、憲法の前文が好きです。特に、最後の段落が好きです。市長としては、憲法99条を忘れないようにしています。」という趣旨の言葉でした。この市長さんは、生粋の広島人で、外務省勤務もされた労働官僚であることを後で調べて知りましたが、幼いころから、平和の尊さを教えられた広島の方であるから、「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」と、自然に言うことが出来るし、公務員の職についてからも、「公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と自覚を持たれていることには、うれしくなってしまいました。
若い会員の皆さんは、来年以降の人権擁護大会に是非参加してみてください。何かを感じさせてくれるものがあると思います。
2013年10月 1日
中小企業法律支援センターだより 中小企業のための講演会「中小企業版M&Aのすすめ」及び全国一斉無料法律相談会開催報告
中小企業法律支援センター委員
中 原 幸 治(64期)
平成25年9月12日、福岡市中央区天神の福岡国際ホールにおいて、福岡県事業引継ぎ支援センターとの共催で中小企業経営者を対象とした講演会を開催しました。また、同日、福岡、北九州、筑後、筑豊の各地区(部会)において、中小企業を対象とした無料法律相談会を実施しました。この中小企業経営者を対象とした全国一斉無料法律相談会及びシンポジウムの企画は、日弁連及び全国各弁護士会と連携し、平成19年から毎年行っているものです。
今回は、福岡県事業引継ぎ支援センターの統括責任者で中小企業診断士の河合慶司先生に、「いま考える事業承継−中小企業版M&Aのすすめ−」と題してご講演いただきました。河合先生には、5月24日の当会中小企業法律支援センターの研修合宿において、中小企業への支援実績を踏まえてご講演いただきましたが、参加した会員からは、中小企業からの相談に即時に対応できる大変参考になる内容であったと大好評でした。そこで、中小企業経営者及び中小企業支援に携わる士業に、事業引継ぎ支援センターの活動内容、事業承継対応の基本的情報の提供を行うことが中小企業支援の観点から有益であると判断し、今回、講演を依頼することになったものです。
講演会当日は、平日の午後という貴重な業務時間帯であるにもかかわらず、中小企業経営者を中心に合計67名もの参加者がありました。河合先生からは、統計データを基に、後継者不在を含む事業承継問題が決して個々の企業の問題ではなく、日本の中小企業の多くが抱える社会的な問題であることが示され、企業価値を将来に残すため、積極的な姿勢で事業承継に取り組むことが重要であるとのお話がありました。
講演後の質疑応答では、参加された企業経営者から自社の企業価値をどのように評価するのか、企業価値が買いたたかれることがないのか、などと個別的なご相談に近い具体的なやり取りがなされました。
参加者からのアンケート結果も上々で、「講演内容が役に立った」との評価ばかりでした。事業承継やM&Aは、詳しく説明しようとすればとっつきにくいものになり、逆に深く立ち入らないようにすると形式的な内容になる可能性がある、取扱いが難しいテーマといえますが、具体的な対応策を交えてテンポ良くお話しいただいた河合先生のわかりやすい講演内容が参加者に伝わったとの手応えを感じました。
河合先生には、本企画の意義をご理解いただき、お忙しい中ご講演いただきましたことを、本誌面を借りて御礼申し上げます。また、本企画準備中に、福岡県事業引継ぎ支援センターから、当会との連携をさらに進めていきたいとのご提案をいただきました。当会中小企業法律支援センターにおいて議論のうえ、当会執行部に上程し、検討をお願いしております。今回の講演会が、当会と福岡県事業引継ぎ支援センターとの今後のさらなる連携、福岡県内の中小企業の事業承継支援活動の端緒となることを祈念しております。
無料法律相談会については、例年どおり県内4箇所(福岡、北九州、筑後、筑豊)で開催しましたが、短期間の周知にもかかわらず、あわせて9件もの相談がありました。手弁当で相談をご担当いただいた12名の会員のご協力に御礼申し上げます。
以上が本企画についての報告となりますが、今回の企画に当たっては準備が若干遅れ、弁護士会事務局の皆様及び執行部にご負担をお掛けしたことをお詫び申し上げるとともに、きめ細やかなご配慮をいただきましたことに感謝いたします。
来年度以降も、実効的な中小企業支援に結びつく講演会、法律相談会を継続実施するとともに、今回の反省をふまえてより緻密かつ迅速に準備を行う所存です。
大連訪問報告 ~大連に法律相談センターはなかった
副会長 古 賀 克 重(47期)
7月25日から28日まで大連律士協会(弁護士会)を訪問しましたので、ご報告致します。
1 大連律師協会との交流とは
大連との交流は、1992年、日中法律家協会のメンバーを主体とした福岡県弁護士会訪中団が大連を訪問したのが始まりです。その後も交流を続け、2010年2月、大連から18名を迎え、正式に当会と大連律師協会が交流提携の調印を行うに至りました。それ以来、当会と大連律師会が交互に往訪して国際交流を継続しています。
ちなみに大連律師協会の会員数は2633人、うち女性会員は1077名(42.6%)に達しており、日本よりも女性進出が進んでいるようです。一方において、大連には法律相談センターはなく、弁護士会が会員に事件を提供したり、新人弁護士をトレーニングするという発想はないようでした。
2 初日の卓話会
国際委員会及び新旧執行部から構成される訪問団20名は、7月25日に大連に到着し、そのまま宿泊先のホテルに向かいます。車窓を流れる大連の風景は、近代的なビル群と昔ながらの老朽化した建物が混在する大都市といった趣きでしょうか。
ホテル到着後は、福岡銀行大連支店及び北九州貿易協会大連事務所からもご参加頂き、夕食会兼卓話会が開催され、大連進出企業の動向等をお聞きしました。
3 日系企業・裁判所訪問
翌日は、大連ソフトバンクを訪問し、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の現場を見学したり、大連市中級人民法院を表敬訪問しました。日本統治時代の旧「関東地方法院」である裁判所1階のホールには、裁判官直筆による達筆の書や写真が飾られており、日本の裁判所よりも開放的な雰囲気です。
残念ながら裁判自体は傍聴できませんでしたが、裁判官との質疑応答が行われました。訪問団から「日本の裁判所では夜遅くまで窓の明かりが消えないが、こちらはどうですか」と質問すると、「中国も全く同じです」と笑顔が返ってきました。
4 大連律師会との法律セミナー
その後、法律セミナーが開催されました。
まず、山口銀行のU氏が、「日系企業が中国で遭遇する様々な問題」と題する講演を行いました。
U氏は、「当局の権限が大きく、担当者を知っているかでかなり違う」、「不渡が出ても当局への罰金のみで取引停止にならない」、「譲ったら負けという意識が強い」、「自社仕入企業を立ち上げ利ザヤを抜くことがある」と率直な感想を述べた上、「郷に入れば郷に従えで理解し合うことが大事。法制度も急速に整備されつつある」と締めくくりました。
また、当会の中村亮介会員が、上海留学経験を生かした流暢な中国語で「従業員の競業禁止」と題する発表も行いました。
セミナー終了後は盛大な懇親会が設けられました。私は、中国語の堪能な国際委員会の先生方に助けられ、大連律士協会の皆さんと懇談を深めることができました。
5 さらに続く国際交流
初めて足を踏み入れた中国本土は、日本との様々な違いを肌感覚で感じる機会になりました。例えば、車が行き交う3~4車線の幹線道路を、老若男女問わず、時間帯を問わず、車線と車線の間に立ち止まりつつ平気で横断していく生命力(?)には何とも驚かされました。
そして何よりも毎年の交流が、着実に実を結んでいることを実感しました。
来年度は大連律士協会から福岡に来られる予定です。興味を覚えた方はぜひ大連律士協会との国際交流を直にご体験下さい。
憲法委員会市民講座 「自衛隊が国防軍に変わるとき」に参加してみて
会 員 西 村 遼(65期)
1 憲法委員会では、日々生起している社会事象について、福岡県民に憲法的視点からの素材を提供し、共に議論していただきたいと考え、市民講座を開催し、問題提起や提言を行ってきました。そして、今年は、安倍政権のもと集団的自衛権行使が認容の方向へシフトしつつある現状を踏まえ、9月6日に、「自衛隊が国防軍に変わるとき」と題し、東京新聞編集委員の半田滋さんをお招きして、市民講座を開催いたしましたので、当日の様子をご報告いたします。
2 まず、半田さんのプロフィールをご紹介しますと、半田さんは、1991年に中日新聞入社後、92年から防衛庁の取材を担当され、現在は、東京新聞論説兼編集委員です。2007年には、「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞され、その問題意識の深さが反響を呼び、現在日本各地で講演依頼が殺到しているそうです。
3 当日は、120名収容の会場がほぼ満席になるくらいの聴講者の方々がお集まりのなか、半田さんの講演が始まりました。
冒頭、半田さんは、スライド写真を利用して、本来、自国防衛が役目であるはずの自衛隊の活動について、海外活動が増えてきている現状を説明されました。スライドには、ソマリア沖で海賊船対策を行っている自衛隊の様子、インド洋で米艦船やパキスタン海軍に無料で燃料供給をしている自衛隊の給油艦の様子、及びP3C対潜哨戒機が、オーストラリアを飛んで訓練している様子など、自衛隊が米国や他の同盟国と軍事一体化が進んでいる事実が映し出されていました。
4 続けて、半田さんは、自衛隊の海外派遣がもたらした影響について説明されました。イラクへ派遣された自衛隊員の自殺率が一般の公務員の5~10倍であること、PKO法における武器使用基準が事実上緩和されたこと、座間基地に中央即応集団が配置されたことなどをご説明されました。また、これまでの自衛隊のPKO活動は、憲法9条の制約のもと、武力行使から距離をおいて、派遣先の人々に喜ばれるような救援活動が中心であった(日本モデルPKOとして、海外からも高い評価を受けていたそうです。)が、憲法9条が改正されて集団的自衛権の行使が容認されてしまうと、自衛隊はアメリカ軍の武力行使を後方から支援することとなり、海外から高く評価されてきたこれまでの活動とは一変してしまうおそれがあるとの指摘もありました。最近、自衛官を志す若者の中には、自衛隊の海外支援や災害救助の活躍に憧れをもって入隊してくる者も少なくないそうですが、自民党の改憲はこのような若者の夢や希望までをも奪ってしまいかねないと感じました。
5 加えて、安倍政権が法律を改正することで、憲法解釈を変え、実質的に憲法改正を行おうとしている筋道についても、国家安全保障基本法案や秘密保全法の話を交えながらご説明いただきました。
講演終了後には、聴講者から10以上の質問が寄せられ、今回の講演のテーマに対する市民の関心の高さがうかがわれました。
6 半田さんは、終始、軽快な語り口で、話の内容も非常に興味深くかつ鋭い問題意識を提起してくださいましたので、講演のときにはよく居眠りをしてしまう私も、半田さんの話に聞き入っていました。
今回、半田さんのお話をお聞きして、日本国憲法の中核である第9条の解釈が今まさに変えられようとしている事の重大さをきちんと認識し、一国民としてこの問題にきちんと向き合わなければならないと感じました。
7 講演会後は、会場近くの「博多窯山」という居酒屋で、半田さんも交えて懇親会を行い、会場では聞くことができなかったお話を、ざっくばらんな語り口で、聞くこともできました。
「労働の規制緩和が日本を壊す!?」 シンポジウムのご報告
会 員 國 府 朋 江(65期)
平成25年8月30日(金)に、「労働の規制緩和が日本を壊す!?」というシンポジウムが行われましたので、ご報告いたします。
1 基調講演
まず、早稲田大学の遠藤美奈教授(専攻は憲法)から憲法25条と労働の規制緩和というタイトルの基調講演がありました。
憲法25条は、社会保障諸給付の水準・内容、所得税の課税最低限等を画する権利としての規律であるとともに、26条以下の社会権規定の総則です。したがって、憲法の労働権規定を通じて、「健康で文化的な最低限度の生活」が労働生活においても実現されなければなりません。
生存権は、「健康で文化的な最低限度の生活」を確保することを規定しているにも関わらず、貧困率の高さや生活意識別世帯割合において「大変苦しい」「苦しい」と答えた人が合計6割に上る現代においては、逆に「生存」に足りる程度にまで、生活が切り詰められているという課題があります。
非正規社員や派遣労働が増加している中で、今後は、労働者の生命・健康のより手厚い保護、意に反する非正規就労の極小化を目指し、学者と弁護士が協同することにより、政策への憲法的価値の反映と訴訟の可能性の検討を行う必要がある、として基調講演は締めくくられました。
2 パネルディスカッション
パネルディスカッションは、遠藤先生、九州大学の笠木映里准教授(専攻は社会保障法)、自治労福岡県本部の黒岩正治さんをパネラー、井下顕弁護士をコーディネーターとして行われました。
笠木先生からは、90年代半ばからの規制改革によって、非正規労働者が増加し、ワーキングプアの問題や、労働者の二極化の問題が生じてきたが、日本では、職場の人間関係・コミュニケーション構築が容易でないことから、メンタルの問題や、セクハラ・パワハラ問題が顕在化してきたこと、日本の雇用制度がこれまで社会保障制度の不十分さを補ってきたが、非正規労働者の増加に伴い、問題が露呈したといった影響が生じたという点が指摘されました。更に、比較法的な観点から、フランスでは、職場の人間関係については、安全衛生委員会という職場の中にある機関が大きな権限を持っており、従業員代表として問題のある職場環境については使用者に対して権限を行使していることや、EUでは「フレキシキュリティ政策」という政策が実行されており、規制緩和によって柔軟な労働市場が実現されているけれど、手厚い失業補償と積極的労働市場政策(教育訓練等)により、労働者が労働市場に戻ることが容易になっている、ということが報告されました。
黒岩さんからは、公務員バッシングがあるが、現場の公務員は、自治体による予算の使い道について知らされないままに、公務員の給料だけが取り出されてバッシングされているように思う、生活保護担当の職員は、行政の側の人間として、対応を厳しくしなければならないが、目の前にいるのは市民であるという板挟みから、メンタルな問題で休職・入院する人が5%程度いること、貧困層を減少させ、地域経済を活性化させるためにも、公契約条例の制定が必要とされていること、といった、現場の実情が報告されました。
3 まとめ
このシンポジウムでは、労働環境の現状、生活保護制度の現状を確認した上で、今後、憲法25条が労働生活においても具体化された社会を築くために、何ができるのかということが、憲法の理念、諸外国の制度、公務員の視点から、多角的に検討され、とても内容の凝縮されたもので、とても勉強になりました。講師・パネリストの先生方、ありがとうございました。
シンポジウム「福祉における弁護士とケアマネジャーの連携体制の構築に向けて」報告
会 員 市 丸 健太郎(63期)
1 はじめに
去る平成25年8月10日(土)にパピヨン24ガスホールにて、シンポジウム「福祉における弁護士とケアマネジャーの連携体制の構築に向けて」を開催しました。
本シンポジウムは、その名前のとおり、弁護士とケアマネジャー(以下「ケアマネ」と呼びます。ちなみに、正式名称は「介護支援専門員」です)の連携を模索するもので、おそらく全国初の取り組みになるということでした。
本シンポジウムには、総勢363名(ケアマネ281名、弁護士52名、その他30名)もの参加者があり、休日だったにもかかわらず、写真のとおりほぼ満席の状態でした。
自分は田代知愛先生と一緒に総合司会を務めさせて頂きましたが、人の多さに最初はだいぶ緊張してしまいました。参加された方にはお聞き苦しいところがあったところをここでお詫び申し上げます。
2 内容
当日は、午前にプレ合同研修、午後にシンポジウムを行う二部構成をとりました。
プレ合同研修では、長野ケアマネから弁護士に向けて「ケアプランの作成方法」について、篠木先生からケアマネに向けて「1時間でマスターする成年後見制度」について、それぞれ研修を行って頂きました。短い枠での研修でしたが、小気味のいいテンポで要所を押さえた説明をして頂き、受講者の評判も大変よかったです。
シンポジウムでは、両業種の組織、業務内容について簡単に紹介をした後、パネルディスカッションを行いました。司会は篠木先生、パネリストは岩城和代先生、和智大助先生及び福岡県介護支援専門員協会の中心メンバーである3名のケアマネという強力な布陣で、「ケアマネなどの専門職を支援し連携する際の視点」、「ケアマネが遭遇する諸問題と弁護士による支援の可能性と課題」、「成年後見分野での連携の可能性」、「今後の両業種の連携と課題」など、実に8つのテーマについて検討を行いました。
とにかく活発な議論をしようということで、パネリスト、司会、総合司会で事前に何度も打合せを行ったのですが、その甲斐もあり、とても活発で、かつ、会場のみなさんにお互いにもっと連携を深めていこうという思いを抱いてもらえる内容になったと思います。
3 印象的だったこと
パネルディスカッションの中で特に印象的だったのは、弁護士は困っている法律問題を解決することだけに目線が行きがちというケアマネからの指摘でした。ケアマネは利用者を継続的に全人的に支援するように常に心掛けているということであり、福祉の分野に携わる際には、弁護士もそのような視点を持つことが大切であると感じました。
また、ケアマネとしては、法的支援を要請したことで本人と家族、又は家族とケアマネの関係が壊れてしまうことにつき、強い危惧があるということでした。具体的には、本人が遺言書の作成を望んでいる場合が分かり易いのですが、遺言書を作成することによって不利益を被る家族が憤慨して、本人への支援が中断されてしまうことや、余計なことをしたとしてケアマネ自身が攻撃の対象になるリスクがあるので、法的支援を要請することを躊躇してしまうことがあるということでした。この点、弁護士からは、本人の権利擁護という視点から、そのようなリスクがあっても介入しなければいけないときもあるのではないかという指摘がありましたが、その一方、弁護士としても、ケアマネがそのような懸念を持っていることについて十分配慮しながら支援をしていく必要があることを感じました。
4 今後の連携に向けて
本当に多くのケアマネに参加して頂いたことからも分かるとおり、ケアマネはその業務を行う中で、法的問題を抱えて悩んでいる利用者をたくさん知っており、法的問題に強い関心を持っています。そして、法的ニーズを把握しているケアマネと連携すれば、法的支援が必要な方に適切な支援をできる可能性があります。
しかしながら、ケアマネを含む福祉職の方には「弁護士は敷居が高い」(費用が高い、顔が見えない、相談場所で待っているだけで利用者のところまできてくれない等)というイメージを持っている方が多く、なかなか連携が進んでいないのが実情です。
本シンポジウムではアンケートをとりましたが、「弁護士を身近に感じることができた」、「弁護士ともっと連携を深めていきたい」、「利用者が抱えている問題について弁護士に相談してみようと思った」という声をたくさん頂きました。その意味でも、本シンポジウムは大成功に終わったと言えます。
本シンポジウムのパネルディスカッションでは、今後の連携策として、「相談窓口を作る」、「勉強会を行う」、「メーリングリストを作成する」、「懇親会を開催する」など様々な連携案を具体的に検討しました。既にいくつかの試みについては具体的に動き始めているところですが、今後も、一担当者として、積極的にケアマネとの連携を進めていきたいと思います。
2013年9月 1日
発達障害という個性~マジックワード化に注意
会 員 三 浦 徳 子(61期)
1 蔓延する「発達障害」
最近よく使われる言葉だ。
一方で、私は、自分も含め、何かにつけて「発達障害」を持ち出す風潮に対し、何となく「本当にそれでよいのか?」という違和感を覚えていた。
2 「発達障害」とは何か~原田剛志医師の講義
私は、ひょんなことから、違和感の理由を知ることとなった。
平成25年7月18日に行われた「福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会(医師と子どもの権利委員会有志らとの勉強会)」においてである。
今回は、パークサイドこどものこころクリニック院長・精神科医の原田剛志医師より、「少年事例における発達障害の視点」と題して、発達障害に関する最新の知見や具体例等をご講義いただいた。以下、概要を紹介する。
【定義】 発達障害とは、脳機能の障害であって、発達における凸凹が生活上の障害に至ったものである(育て方の問題ではない)。
【下位分類】 自閉症スペクトラム(障害)、ADHD(多動性障害)、LD(学習障害)等があり、合併症もある。なお、アメリカ精神医学会の最新診断ガイドライン「DSM‐Ⅴ」では、従来の広汎性発達障害は「自閉症スペクトラム(障害)」という名称に変更され、「アスペルガー症候群」に代表される下位分類は廃止された。
【原因】 ADHDの原因は脳の前頭前野のホルモン不足と考えられている。自閉症スペクトラムでは、脳機能の広汎にわたって発育に凸凹が見られる。いずれも根本原因は解明されていない。虐待(環境)により脳の発育に影響があり発達障害を引き起こす場合もあるといわれる。
【対処法】 薬物療法と心理社会的トレーニングが有効とされている。療育の臨界点は中学生までであり、中学生以降はソーシャルワークによる対応が中心となる。
3 「発達障害」とは個性である
その後、原田医師は発達障害を持つ少年の具体例を紹介された。
些細なことにこだわり、正論を曲げない少年。自分をいじめた相手は死んでも構わないと信じている少年。罪悪感がなく反省しない少年・・・。
たしかに度を超えた面はあるだろうが、個人的には「変わった人」の範疇だと思った。事柄によっては、私自身も少年たちに近いものを持っているのではないかとも思われた。
と同時に、発達の凸凹であることの帰結として、優れた才能を持った人にも発達障害が多いとのこと。エジソンやアインシュタインが自閉症だった話は有名だし、トム・クルーズはLDで文字が読めない等々・・・。
そう考えると、発達障害とは「障害」なのか?
最後に、原田医師がこう言われた。
発達障害とは「個性」なのだと。発達障害という言葉を使う主な意義は、「生きづらい人を受け止め、適切な指導法を選択する周りの者にとっての便利さ」にあると。
4 「発達障害」のマジックワード化に注意
原田医師の最後の言葉を聞いて、発達障害を多用することに対する違和感の理由がわかった。「(私だけかもしれないが)発達障害というラベリングをすることにより、あたかも全ての謎が解けたかのように満足しがちだが、実は違う」からであった。
発達障害が個性であるとすれば、論理的には、その「症状」も対処法も発達障害者と言われる人の数だけ存在するはず。
自閉症やADHD等の大まかなラベリングができたとしても、その人の全てを把握できるわけでも、特効薬が見つかるわけでもないのだ。
その意味で、「発達障害」や下位分類というラベルは、皆が気持ちよく過ごすための便利な道具である反面、人の具体的な個性を見落とさせるマジックワードにもなりうる。
発達障害が多様な個性を意味することを頭において、この問題を学んでいかなければならないと感じた。
司法修習生の給費制を取り巻く現状について
司法修習費用給費制復活緊急対策本部 副本部長
千 綿 俊一郎(53期)
1 はじめに
2011年に司法修習生の給費制が貸与制に移行して以降、まもなく2年が経過しようとしています。2011年に採用された第65期(2012年修習修了)と、2012年に採用された第66期(現在修習中)の修習生が、無給での修習を余儀なくされています。
しかるに、弁護士会員の大半には、「司法修習生の給費制問題は既に終わった問題である。」と受け止めていらっしゃる方も少なくないようです。
特に、2011年5月に設置された「法曹の養成に関するフォーラム」と、その後の2012年8月に設置された「法曹養成制度検討会議」において、いずれも「貸与制を原則とする。」と取りまとめられたために、「日弁連は敗北した。」との雰囲気も一部に漂っているかのようです。そのような雰囲気の中、弁護士会における給費制復活運動は、かつてほどの熱気を維持することが困難となっています。
しかしながら、司法制度を担う法曹の養成は国の責務であり、司法修習生の給費制復活は、法曹養成制度として本来あるべきものと言えます。また、1年間もの研修期間中に、給与を支払わない会社があれば、それは違法なブラック企業であり、国が司法修習生に対してこれを強いるのは明らかに誤っています。
そのため、「貸与制は誤っている」という声は挙げ続けなければならないと考えています。
もちろん、「司法制度改革の失敗」は「失敗」として受け止めて、貸与制以外の諸課題も改善されなければならないことは当然のことです。ただ、諸課題が改善されないまま遺っているからと言って、同じく問題を遺している貸与制が是認されて良いことにはなりません。また、なにより、給費制の復活に向けてはなおチャンスが残されている目下の状況にあることも後述致すとおりです。
本稿では、引き続き給費制復活への運動を継続することに対して、会員各位のご理解を得て、再び関心を持っていただきたく、給費制を取り巻く最近の状況について、ご報告したいと思います。
2 2013年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定「法曹養成制度の改革の推進について」
法曹養成制度関係閣僚会議は、2013年6月26日付の「法曹養成制度検討会議」の取り纏めを受けて、同年7月16日「法曹養成制度の改革の推進について」を決定しました。
そこでは、第67期司法修習生(2013年11月修習開始)から、(1)分野別実務修習開始に当たり現居住地から実務修習地への転居を要する者について、旅費法に準じて移転料を支給すること、(2)集合修習期間中、司法研修所内の寮への入寮を希望する者のうち、通所圏内に住居を有しない者については、入寮できるようにすることが求められました。
他方で、(3)司法修習生の兼業の許可について、法の定める修習専念義務を前提に(中略)、司法修習に支障を生じない範囲において従来の運用を緩和する。具体的には、司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認めるという提案をなしています。これは、「生活ができないなら、ほかに働けばよい」という提案ですが、修習期間が1年と短縮されているにもかかわらず、その専念義務を緩和するのは、かえって有害でさえあると言えます。
この点、2012年7月27日に可決した「裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携に関する法律の一部を改正する法律」において、修習資金の貸与制について、「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置づけを踏まえつつ、検討が行われるべき」と明記され(同法第1条)、この改正に際しての国会質疑では、将来の給費制復活も排除されていない旨の答弁がなされていました。
また、この法改正を受けて設置された「法曹養成制度検討会議」では、新たなメンバーからの給費制復活を求める声や、従来からの委員からさえも貸与制の問題状況を踏まえて少なくとも一定額の手当の支給などを求める声も多く挙がっていました。
そのため、個人的には、一足飛びに給費制復活とはならなくとも、その足がかりくらいにはなる手立てがなされるのではないかという期待は有していました。
しかしながら、現実には、上記の(1)、(2)の改正に止まるものであり、そのあまりに「しょぼい」内容に驚きを隠せませんでした。かえって、有害な(3)のような内容まで提案されているのです。
「どうしてかかる結果になってしまったのか」については、様々な分析があるところです。例えば、「法曹養成検討会議」に寄せられたパブリックコメントは3119通あったところ、そのうち法曹養成課程における経済的支援に関する意見は2421通にも上り、そのほとんどが給費制を復活させるべきという内容であったとのことですが、これらは何ら反映されませんでした。
ただ、検討会議の議論状況からは、この取りまとめは、法改正を要せずに直ちに実施できる最低限の措置であったところです。貸与制の問題状況を改善すべく、検討会議に続く次の検討体制において、修習生に対する経済的支援策を引き続き検討してもらうことを求める旨が共通認識となっています。この点は今後に希望をつなぐ足がかりと言えます。
3 2013年6月18日自民党司法制度調査会「法曹養成制度についての中間提言」
そして、2013年6月18日の自民党の司法制度調査会による「法曹養成制度についての中間提言」では、司法修習生の給費制について、その復活を求める声も多かったことが触れられています。
具体的には、「司法試験合格者数の動向や生活実態も踏まえつつ、司法修習の位置づけや司法修習生の地位のあり方を再検討し(ただし、給費制については復活すべきという意見と、これまでの経緯からあり得ないという両論があった旨両論付記する)、修習生の過度な負担の軽減や経済的支援の必要性について、真剣かつ早急に検討し、対策を講じるべきである」とされています。
4 2013年6月11日公明党法曹養成に関するPT「法曹養成に関する提言」
また、2013年6月11日の公明党の法曹養成に関するプロジェクトチームによる「法曹養成に関する提言」でも、踏み込んだ指摘がなされています。
すなわち、「司法試験に合格した法曹有資格者に対し、国家が特別の義務として課する実務研修である司法修習においては、少なくとも研修医に準じてその経済的支援を行うべきである。」「実務庁の近くに住居を移すことに伴う引越代や、修習中に生じる通勤・交通費等の実費的支出の補填がなされるべきである。また、司法研修所の集合修習において、寮に入れない人が生じている事態の解消も図られるべきである。」「国家公務員、地方公務員に対し認められている旅費法上の『研修日額旅費』を参考に支給することを検討すべきである。」などとされています。
5 今後について
今後は、上記の2013年7月16日法曹養成制度関係閣僚会議決定「法曹養成制度の改革の推進について」を受けて、内閣に関係閣僚で構成する会議体(閣僚会議)を設置し、その下に事務局を置いて、各施策の実施をフォローアップするとともに、2年以内をめどに課題の検討を行うとされています。残る課題についての検討作業は、ほどなく開始される予定です。
給費制問題は、公式には決着済みの論点であり、法曹人口論、法曹資格者の活動領域、法科大学院のあり方、司法試験のあり方、司法修習の充実などをメインに議論される予定ですので、そこにおいて、日弁連が給費制復活を主張し続けることの賛否、様々な勢力がいる中でのかじ取りの難しさはあろうかと思います。
しかしながら、救いは、上記3、4のとおり、給費制復活を熱烈に支持して頂ける国会議員が少なからず存在することであり、それは、「司法制度を担う法曹の養成は国の責務である」という認識を持っていただいているからこそと言えます。また、上記2の通り、法曹養成制度検討会議も、次の検討体制において更なる経済的支援策の検討を求めつつ閉幕したことも忘れられてはなりません。
そのような中、この問題について、我々弁護士自身が関心を失くして、その燈火を消してしまうことがあってはなりません。
上記のとおり、その中間提言で給費制について両論併記とした自民党の司法制度調査会では、近く議論を再開したうえで最終提言を取りまとめるものと見込まれます。政権与党の自民党や公明党の意向は重大です。当会の対策本部や日弁連の対策本部においては、この数ヶ月間をとりわけ重要な時期と認識し、国会議員要請や世論喚起に注力する決意です。
どうか、会員の皆様の一層のご理解、ご協力を頂きますようお願い申し上げる次第です。
2013年8月 1日
災害対策委員会報告
会 員 吉 野 大 輔(64期)
1 はじめに
平成25年6月17日に、日本弁護士会連合会、四国弁護士会連合会、高知弁護士会主催によるシンポジウムが、高知市で開催されました。シンポジウムのタイトルは、「災害時における個人情報の適切な取り扱い~高齢者・障がい者等の安否確認、支援、情報伝達のために~」というものです。
現在、災害対策委員会・東日本大震災対策本部の委員を中心に、東日本大震災・原発事故による被災者支援活動として、東日本大震災被災者のための無料相談会を定期的に行っています。多くの被災者及び自主避難者が、福岡県内にも避難しています。私たちは、福岡県への避難者に向けて無料相談会が開催されることについて自治体への広報や記者レク等を活用して広報を行ってきました。しかしながら、多くの避難者へ広報が届いているのか、確認できないまま広報の方法を模索している状況です。被災者を支援する上で、支援者側が避難者へのアクセスをする上で障害となっているのが、個人情報保護法です。支援者側の立場からは支援を望む被災者へのアクセスを要望しても、行政側の立場からは、個人情報保護の観点から被災者の個人情報の開示に消極的になるという問題があります。東日本大震災から2年以上経過しましたが、東京電力への損害賠償請求の消滅時効問題、不動産等の賠償問題、慰謝料の算定の問題など様々な問題が新たな問題として浮上してきています。新しく発生する法的問題について、被災者への広報を続けていくことが必要です。そこで、被災者へのアクセスの現状を考えるために、シンポジウムに参加して来ました。
2 基調報告について
東日本大震災における高齢者・障がい者や避難者の個人情報取り扱いの実情について、基調報告がありました。まず、避難者をサポートするNPO法人の代表者より支援者側からの話がありました。震災の際に大きな被害を受けた人達は、サポートなくして避難することが困難な高齢者や障がい者でした。支援者側としては、高齢者や障がい者等を支援するためには、住所や病状等の個人情報が必要でしたが、個人情報保護法が壁になって、スムーズな支援ができなかったようです。次に、行政側の立場から報告がありました。行政側の立場から被災者支援のために個人情報を開示するためには、目的外利用については原則として本人の同意が必要という問題がありました。行政側に震災が起きたときに個人情報を開示する準備ができていなかったことが大きな原因だったようです。
支援者側も行政側も、被災者を支援する目的を同じくしていたにもかかわらず、個人情報の開示制度の不備のためにスムーズな被災者支援ができず、特に支援が必要だった高齢者や障がい者に支援が行き届かず不幸な結果が生じたことが理解できました。
3 平成25年災害対策基本法について
東日本大震災の個人情報の取り扱いについての教訓を踏まえて、災害対策基本法一部改正法が平成25年6月17日に成立しました。かかる改正で、震災における個人情報の取り扱いの交通整理が行われました。この改正では、地方自治体に、震災が起きたときのために、事前に個人情報を開示するルール等を準備することが求められるようになりました。
4 最後に
私たち支援者側としては、スムーズかつ安心して個人情報を開示してもらうためには、個人情報の管理体制を築き被災者や行政側との信頼関係を築くことが必要です。このシンポジウムから得たことを、無料相談等の被災者支援に結びつけていきたいと思います。
あさかぜ だより
会 員 島 内 崇 行(65期)
1 はじめに
昨年12月の弁護士登録と同時にあさかぜ基金法律事務所に入所しました65期の島内崇行と申します。弁護士登録して既に半年以上経過し、月日の経過の早さに驚いております。
さて、私が所属するあさかぜ基金法律事務所ですが、どういった事務所であるのかについてまだまだご存知ない方もいらっしゃると思いますので、この場をお借りして当事務所をご紹介させていただきたいと思います。
2 あさかぜ基金法律事務所について
あさかぜ基金法律事務所は、九州弁護士会連合会の支援の下に設立された、九弁連管内の司法過疎・偏在地域へ赴任する弁護士を養成することを主たる目的とする法律事務所です。
これまでには、五島、対馬、阿蘇、西都、島原、壱岐、小林、指宿といった九州管内の司法過疎地に設置された法テラスやひまわり基金法律事務所に、当事務所で養成を受けた弁護士が赴任しました。
現在、当事務所には64期の弁護士2名、65期の弁護士2名の合計4名が所属しており、事務局2名と力を合わせて仕事をしています。
3 事務所の日常について
当事務所の弁護士は、1~2年間の養成期間の後、九弁連管内の司法過疎地等へ赴任することになっています。したがって、当事務所には、若手弁護士しか所属しておらず、処理に悩む機会は日常茶飯事であり、自分で調べ物をするだけでは対応を決めかねることも多いです。実際の業務は、これまでの勉強だけでは対応できない部分が非常に多いことを実感します。
そのようななか、指導して下さる先生方に質問したときには、自分では思いつかないような解決方法や実務的な感覚まで教わることができとても勉強になります。
このように、当事務所に所属する弁護士は、九弁連の管理委員の先生方、福岡県弁護士会の運営委員の先生方、福岡県の指導担当の先生方など、多くの先生方からのご支援、ご指導によって日々の業務を進めています。
4 大川市での事務所披露パーティー
本年度4月より、当事務所に所属していた63期の油布貞徳先生が、独立して、福岡県大川市に「ゆふ法律事務所」を開設しました。6月に事務所披露がありましたので、所属弁護士全員で参加しました。
大川市は、家具の大生産地であり、また「のだめカンタービレ」の主人公、野田恵が同市出身の設定ということもあり、認知度は低くないと思います。しかし、人口は年々減っており、弁護士も現在油布先生1人という弁護士過疎地でもあります。大川市は、交通の便があまり良くないため、市内に弁護士が存在することの意味は大きいと思われます。
あさかぜ基金法律事務所出身の油布先生が、大川市唯一の弁護士という極めて重要な立場になられたということで、私も、いずれ司法過疎地に赴任してリーガルサービスを提供する立場になることを改めて認識し、今後もさらに精進していく決意を致しました。
5 おわりに
まだまだ弁護士として至らない点ばかりではありますが、1~2年など直ぐに経過してしまうことを肝に銘じ、日々の業務に取り組むつもりです。この報告をご覧になっておられる先生方からも、ご指導、ご鞭撻のほど、どうかよろしくお願いいたします。