福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2013年7月 1日

シリーズ ―私の一冊― 「燃える男」 A.J.クィネル作

会 員 伊 藤 巧 示(45期)

長嶋茂雄の話ではない。この作品は海外冒険小説の傑作である。主人公クリーシィは外人部隊の勇者だった。しかし、戦闘で心も体も傷つき落ちぶれてしまい、10歳くらいの富豪の娘ピンタのボディガードをすることとなった。クリーシィは純真で好奇心旺盛な少女とのふれあいに最初は戸惑いつつも、戦争で傷ついたかたくなな心も徐々に打ち解けていった。ついには、クリーシィにとってピンタがこの世で最も大事な愛しいものとなり、失った人生を取り戻してくれそうな存在となった。しかし、あるとき、ピンタがマフィアに誘拐され(クリーシィも負傷する。)、強姦された上惨殺されてしまう。クリーシィは復讐を誓い、いろいろな人々(こう書かないとこれから読む人の愉しみが半減してしまう。)の協力を得ながら、誘拐に関与した人物を次々に殺害して最後は単身マフィアのボスの要塞に乗り込む・・・。

読んだ後で、もうちょっとしゃれた日本語訳の題名はなかったのかと思ったが、原題が「Man on Fire」だから仕方がない。舞台はイタリアと地中海の島だ。最近デンゼル・ワシントン主演で(ピンタはダコタ・ファニング)、「マイ・ボディーガード」という題名で映画化されたが舞台も背景もほとんど何もかも原作とは違っており、この映画を見たけれど本書を読んでいない人には是非読んでほしいが、読んだ人で映画を見ていない人には、映画は期待して見ない方がいいといいたい。

平成22年の月報10月号で、マイクル・コナリー作のハリー・ボッシュシリーズを「私の一冊」として紹介したことがあり、このときはハードボイルド小説を中心にいろいろ書いた記憶がある。今回、再び原稿の依頼が来た。なぜだろうと思いつつも深くは考えず、何でも好きなことを書いてやれと思って、今度は冒険小説の中から選ぶことにした。純文学や教養書ではないが、あまり頭を使わずに読んでスカッとする類いの分野の本が好きな人にとってはお勧めの本である。

昔の話になるが、受験時代に受験仲間の早田明文先生から、このA.J.クィネルという国籍不明作家の作品を紹介された。題名は「ヴァチカンからの暗殺者」。フィクションであるが、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世暗殺未遂事件を題材に、暗殺を企てたソ連のアンドロポフに対し(史実かどうか不明)、報復のためヴァチカンが刺客を送り込むという話である。その刺客はポーランドからの亡命将校であるが、ヴァチカンの枢機卿が選んだ本物の尼僧と偽装夫婦となって潜入するという筋書きで、その過程で二人の間に起こるいろいろな出来事(恋愛も含めて)とともに物語が進んでいく。かなりおもしろかったので、デビュー作を読んでみようと思い手に取ったのが「燃える男」である。

それから、時間だけはいっぱいあった受験時代に冒険小説・スパイ小説をむさぼり読んだ記憶がある。これを読まずして冒険小説は語れないというジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」は評判どおり面白かった。ドイツ落下傘部隊の将校が主人公で、チャーチル首相を誘拐しにイギリスに夜間落下傘で降下するという奇想天外な話(もちろん創作)であるが、各登場人物の描写がすばらしく、主人公に協力する元IRAの闘士が魅力的だった。この元IRAの闘士は、大学の教授でもありガンマンでもあり、醒めたロマンチストで、この世は神様が酔っぱらったときに間違って創ったものに違いないと言いながら、アイリッシュ・ウィスキーのブッシュミルズばっかり飲んでいる。おかげで、一時期私はブッシュミルズばかり飲んでいたことがあった。

スパイ小説では、ジョン・ル・カレのスマイリーものの3部作(イギリス情報部員ジョージ・スマイリーとKGB幹部のカーラとの情報戦を描いたもの)も有名なので読んでみた。作品としては面白いが、なぜか文章が読みにくい。他の作品も同様に読みにくい。訳が下手なのか、文体の好みによるものなのかと思っていたところ、佐藤至先生から「あれは原文自体が変らしい。」と聞いて納得した。なお、3部作の最初の「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」は、昨年あたり「裏切りのサーカス」という題名で映画化されている。また、イギリスのスパイものでは、グレアム・グリーン(映画で有名な「第三の男」の作者)の「ヒューマン・ファクター」が秀逸でお勧めだ。解説者によればミステリにして純文学なのだそうだが、なぜそうなのか私にはさっぱりわからない。

有名なイギリスの冒険小説に「深夜プラス1」(ギャビン・ライアル作)という作品がある。ハヤカワ文庫から出ているが、その解説には「深夜プラス1」のようなすぐれたエンターテインメントの条件は再読、いや再々読に耐えるということだとあった。冒険小説などは、暇つぶしに読むもので、私の場合、移動中や寝っ転がって読むことが多く、一度読んだらそれっきりというものがほとんどであるが、前回の月報で紹介した諸作品や、本書「燃える男」も含めて今日ここに挙げた冒険小説は、確かに再読に耐える小説である。私も3回以上は読んでいて、ほかの本は捨てたりしても、ずっと本棚の片隅を飾っている。

東日本大震災復興支援対策本部・災害対策委員会報告

災害対策委員会
宮 下 和 彦(46期)

今回は、これまでの福岡県弁護士会における東日本大震災に関連する相談状況のご報告とごく一部ですが最近の震災関連の立法状況のご報告です。

県弁では大震災発生直後に東日本大震災復興支援対策本部を設置し、県内19カ所の各法律相談センターにおいて、30分の相談枠を1時間に拡大して無料法律相談を開始するとともに、1昨年9月からは、無料出張法律相談も実施しております。また、平成23年12月を第1回として、平成25年5月26日まで計9回にわたり天神弁護士センターにおいて、原発賠償問題を中心とした東日本大震災被災者のための相談会(当初は説明・相談会)を開催してきました。以上の相談結果について集計しましたところ、これまでの累計相談数は62件(福岡地区52件、北九州地区6件、筑後地区3件、飯塚地区1件)となっています。その相談内容は東京電力に対する賠償関係が半数以上を占めるものの、雇用問題、ローン問題、津波の被害、親族間のトラブル(離婚を含みます)、生活保護受給の是非、健康保険料の多寡など極めて多岐にわたっております。相談件数そのものについては、復興庁が把握しているだけで福岡県内に700名以上、自主避難者数を含めると2000名以上と推定される避難者数に比し、必ずしも多いとは言えないかもしれませんが、原発賠償問題について3年の消滅時効の適用が取りざたされていることなど考え合わせますと潜在的な需要は否定できないと思います。今後も執行部にご協力いただきさらなる広報、PRに務めたいと考えています。

近時、原発賠償に関する特例法(原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律)が成立し、一般に時効後も原発賠償の提訴が可能になった旨の報道がなされました。しかし、この特例法は、原子力損害賠償紛争解決センターにADRを申し立てて不調になった場合が対象とされているに過ぎず、根本的な解決とは程遠いばかりか、かえって「時効は関係ない」との誤解を招きかねないと思われます。1日も早く抜本的な対策が求められるところです。

また、災害対策基本法が改正され、災害時要援護者の名簿作成が市町村に義務付けられ、災害時には同意なしで外部に提供できることとなりました。個人情報保護法の悪しき萎縮効果が弱まり、障害者ら要援護者に対するきめ細かな支援が可能になることが期待されます。さらに、大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法が制定され、震災復興時に制定された罹災都市借地借家臨時処理法が廃止されました。加えて、大規模災害からの復興に関する法律が新設され、復興に関する諸行政手続の特例がひとまとめにされました。その他被災地域のより迅速、適正な復興を図るべく種々の法整備が進められている状況です。

今後も、災害対策委員会では、震災関連、原発賠償に関する勉強会を継続し、関連諸法令に対する知見を深め、より適切に会員の皆様への情報提供にも努めたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

2013年6月 1日

給費制復活緊急対策本部だより 司法修習給費制を巡る現状報告

会 員 鐘ケ江 啓 司(63期)

1、政府の「法曹養成制度検討会議」は、本年4月12日に司法修習生に対する貸与制維持という意見を含む、法曹養成制度全体について検討した「中間的取りまとめ」を発表しました。新聞やテレビのニュースで「合格者3000人の計画撤回」「法科大学院の統廃合を進める」などといった見出しで取り上げられていましたので、ご存じの会員も多いことと思います(この原稿を書いている5月13日(月)が中間的取りまとめに対するパブリックコメントの最終期限でした)。

おそらく、パブリックコメントに給費制維持の意見を寄せて頂いた会員もいらっしゃると思いますので、まずはここで一言お礼を述べさせて頂きます。ありがとうございました。福岡県弁護士会においても、弁護士会名義で給費制を復活することを求める意見書がパブリックコメントとして提出されています(意見書の内容は、5月13日に福岡県弁護士会の全会員メーリングリストに紹介されています)。

今後、中間的取りまとめに提出されたパブリックコメントの検討を経て、検討会議からの最終提言がなされ、内閣の「法曹養成制度関係閣僚会議」において、この最終提言を踏まえて平成25年8月2日までに検討を経て一応の結論を出す、という予定となっています。

この短期間しか残されていないスケジュールそのものから分かるように、今回の「中間的取りまとめ」は最終的な閣僚会議の結論に大きな影響を与えることが予想され、今後の弁護士業界がどうなっていくのかを考えていくにあたって重要な資料です。

さて、この記事では、この中間的取りまとめに記載されている給費制の論点について、取りまとめの内容や議論の経緯を説明させて頂いた上で、今後の給費制本部の活動について述べたいと思います。

2、中間的取りまとめは、「第1 法曹有資格者の活動領域のあり方」「第2 今後の法曹人口のあり方」「第3 法曹養成制度のあり方(小目次として「1 法曹養成制度の理念と現状」「2 法科大学院について」「3 司法試験について」「4 司法修習について」「5 継続教育について」)という構成になっています。それぞれの部分につき、現状認識や今後の方針が書かれていますが、内容については、白紙から客観的データに基づいて今後の方針について議論したといったものではなく、民主党政権下での「法曹の養成に関するフォーラム」の「第一次取りまとめ」(一昨年8月)や「論点整理(取りまとめ)」(昨年5月)の内容を踏まえた上での議論がされたものです。

このうち、給費制の問題については、「第3の1(3)法曹養成課程における経済的支援」にて取り上げられていますが、残念ながら、「司法修習生の修習期間中の生活の基盤を確保し、修習の実効性を確保するための方策として、司法修習生に対する経済的支援を行う必要がある。そして、具体的な支援の在り方については、貸与制を導入した趣旨、貸与制の内容、これまでの政府における検討結果に照らし、貸与制を維持すべきである。」ということで貸与制を維持すべき、という内容となっています。さらに、続けて「その上で、司法修習生に対する経済的支援については、司法修習の位置付けを踏まえつつ、より良い法曹養成という観点から、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう、司法修習に伴い個々の司法修習生の間に生ずる不均衡への配慮や、司法修習生の修習専念義務のあり方などを含め、必要となる措置を本検討会議において更に検討する必要がある」とされています。要するに、あくまで貸与制を前提とした上で、個別の不公平については対処するというものです。

この中間的取りまとめからすると、まだ給費制復活のための道は半ばであると言わざるを得ません。

3、もっとも、議事録を見ていくと、検討会議発足に際して新しく加入された和田吉弘委員(弁護士)や国分正一委員(医師)、田島良昭委員(社会福祉法人理事長)が検討会議で給費制を復活させるべきという立場から積極的に発言をしたことなどにより、前身の法曹養成フォーラムが平成23年8月に発表した「第一次取りまとめ」の時期よりも大分議論の雰囲気は変わってきて、給費制復活に向けての方向性は見えてきました(法曹養成制度第8回会議の議事録などを見ると、委員の間で激しく意見が対立して、議論が白熱していることが伺えます)。

もともと、貸与制については、国家的財政難を背景に、(1)司法制度全体に対する国民負担の点から多すぎると国民の納得が得られない、(2)司法修習生の数が給費制導入時より増えている、(3)公務員でない者に給与を支給するのは異例である、といった理由から導入がされたものです。

ここで、フォーラムの時は、貸与制への反対意見が挙げる、(1)経済的負担の増大により法曹になれない人が出ること、(2)法曹志願者が減ること、(3)給費制が公共心を養うこと、(4)給費制が、司法修習生が修習専念義務や身分上の制約を受けることの代償措置であること、といった意見は、十分な根拠がないとか、弁護士の所得は高いとかいった理由でばっさり切り捨てられていました。

しかし、実際に貸与制に移行して修習生間に経済的負担の格差が生じてきたことや、法学部生や法科大学院生を対象としたアンケートで経済的不安から法曹への道を断念した人が多くなっていること、現実に法科大学院志願者の減少傾向が止まらないこと(平成25年度の法科大学院全体の志願者は延べ計1万3924人(前年比4522人減)で、合格者は延べ計5619人(同903人減)となり、当初の7万2800人の2割以下に落ち込んでいます)などもあり、法曹志願者の経済的負担の問題は軽視出来ない問題であるという認識は、共通認識になってきています。

実際、貸与制の支持者からも「一昨年の議論はいろいろな事情があったとは思いますが、給費制か貸与制かという二者択一的な話が非常に強くて、いわばバサッと切り捨ててしまうような雰囲気もなかった訳ではないと思います。(第8回における伊藤鉄男委員(弁護士(元次長検事))の発言)」として個別の実情に合せての対応はすべきではないか、といった方向の発言がされるなど、現実の状況の変化は貸与制を主張している委員でも無視できなくなっているようです。

現在、一部の法科大学院関係者は給費制復活に強く反対していますが、今後、現実が積み上がって、議論の俎上に乗っていくことで、貸与制の維持を主張し続けることは、予備試験への流出が多くなり法科大学院にとっても不利益だ、といったことになっていけば、更に議論の流れは変わっていくはずです。

4、この月報記事が掲載される頃には、全国から投稿されたパブリックコメントがインターネット上で掲載され、またパブリックコメントの内容についての法曹養成検討会議が開かれる予定です。また、ビギナーズネットでは、給費制から貸与制への移行について、憲法訴訟を起こす予定だとの新聞報道もあっています。

元々、私の個人的意見としては、一年間も人を無給で拘束することを正当化する理由など存在しないと思っていますが(現行の貸与制の修習制度であれば、存在しない方がまだマシだとすら思っています)、実際に貸与制に移行したことで、その不合理さはより明らかになってきています。給費制本部においても、貸与制の不合理さ、給費にて法曹を育てる必要性について市民の理解を得るための活動を継続して進めていく予定です。会員の皆様におかれましても引き続き暖かいご支援を頂けるように、よろしくお願いいたします。

最後に一言、貸与制の下で修習をされた、新65期の方々は是非一度委員会にお立ち寄り下さい。賛成・反対問わず是非皆様のご意見をお伺いしたいと思っています。歓迎いたします。

2013年5月 1日

福島を訪れて

会 員 吉 野 隆二郎(51期)

3月1日から2日にかけて福島に行き、貴重な体験をさせていただいたと思いましたので、その報告をしたいと思い、月報に投稿させていただきました。

私が最初に福島県に行ったのは、2002年10月に福島県郡山市で開催される人権大会で、湿地に関するシンポジウムが企画されていましたので、それを見に行くためでした。その後、そのシンポジウムの参加などを契機に有明海の問題に取り組むようになり、現在に至っています。東日本大震災後、なかなか機会はなかったため、初めての福島行きとなりました。

私が、福島県に行くことになったのは、福島県弁護士会から「公害紛争処理制度の活用に関する学習会」の講師として呼ばれたからでした。私は、諫早湾干拓事業に関する原因裁定手続きの事務局長をしていたこともあり、日弁連の中でも公害紛争処理、特に原因裁定手続きに詳しい弁護士という扱いになっていました(2010年には近弁連の勉強会の講師をしました)。福島県弁護士会の方からの要請に対して、福島の被害に対して、何か私で役に立てることがあればと思い、講師を引き受けました。勉強会は、3月1日の午後5時30分から2時間程度行われました。参加申込者が36名と聞き、福島県弁護士会の会員の人数を調べましたところ、156名でしたので、かなりの割合の方が参加されるのだと身の引き締まる思いがしました(実際には、8名が修習生でしたが、それでも28名の会員に対して話しをしたことになります)。原発賠償のADRの限界が見えだしているところで、裁判以外にも何か福島の被害を回復するための手段がないかとの思いからの企画とのことでした。私なりに原因裁定手続きを行った経験をふまえた話しをさせていただきました。同日は、懇親会も開催していただき、本田哲夫会長を始め何名かの会員には2次会までお付き合いしていただきお世話になりました。

翌日は、日弁連の公害環境委員会の委員でもある福島県弁護士会の湯坐聖史会員に案内していただいて、現場の状況について関係者の話しを聞くことができました。今回の勉強会を開催するきっかけは、湯坐会員が、福島県の内水面に水産関係の被害の問題について公調委を利用できないだろうかという問題意識から始まったとのことでした。それなら湯座会員が念頭に置いている事案の現場を見れば、より的確なアドバイスができるのではないかと考えたことから、翌日である2日に現場の案内をお願いしたところ、快く引き受けていただきました。午前は、矢祭町(合併をしない宣言をした有名な町です)にある河川の内水面漁業者のお話を聞くことができました。河川のある場所は、福島県の中では線量の低い方の場所なのですが、山を経由して川にセシウムが流れ込んでいて、イワナから基準値以上のセシウムが検出され、国による採補等の禁止措置がなされたりするなどの被害を受けているとのことでした。川の様子だけ見ると、山の間を流れるきれいな川で、とてもその川の魚がセシウムを体内に蓄積しているとは思えませんでした。午後は、雪が降る中を、郡山市にある鯉の養殖(食用)の業者のお話を聞くことができました。鯉は、養殖池の底の部分の泥を食べるため、底に集まっているセシウムを体に取り込んでしまうとのことでした。国の基準値を超えているわけではないようですが、セシウムが検出されるということで、イメージダウンは大きいようです。そのため、福島県が鯉の養殖の日本一の生産地だったのが、現在は茨城県が1位だそうです(しかし、茨城県も霞ヶ浦などにはセシウムがたまっており、福島県と同様の状況にあるようです)。どちらの例でも言えることは、山に降ったセシウムが、川などを伝わって徐々に、下ってきており、その影響から、特に内水面の漁業は深刻な状況にあるということでした。セシウムの半減期等から考えると、このような状況はかなり長期間及ぶことが予測されます。福島における被害はずっと継続し続けるということを実感することができました。貴重な機会を与えていただいた福島県弁護士会へ感謝するとともに、福島県の被害の問題について、今後も私なりに何らかのお手伝いができたらと思っております。

毛利甚八さんが語る「弁護士のかたち」 ~5月22日定期総会記念講演のお知らせ~

業務事務局長 知名健太郎定信(56期)

毎年、定期総会に先立ち行われる記念講演ですが、今年は、5月22日午後1時から、漫画「家栽の人」(小学館・1987~96)の原作者である作家の毛利甚八さんにご講演いただくことになりました。そこで、ここでは、簡単に毛利甚八さんのご紹介をさせていただきたいと思います。


1 毛利さんは、雑誌のライターとして生計を立てていた28歳のころ、ビックコミックオリジナルの編集長に声をかけられ、家裁の裁判官を主人公にした漫画の原作を手がけることになりました。法律的な知識がほとんどなかった毛利さんは、はじめて手にした六法に書かれていた「審判は懇切を旨として、和やかに行わなければならない。」(2000年改正前少年法22条1項)を文字通りうけとり、そこからあの桑田判事が生まれたのでした。

家事・少年事件という一見して地味なテーマを扱いながら、人間の本質を描くストーリー展開は、今見ても色褪せることはありません。また、裁判官や弁護士といった法曹関係者が読んでもまったく違和感のない正確な描写にも頭が下がります。まだ、読んだことがない方は、ぜひ講演の前にご一読されることをお勧めします。

余談になりますが、福岡県弁護士会所属の大谷辰雄弁護士、八尋八郎弁護士がモデルと言われる登場人物が出てくる点も、当会会員にとっては見所と言えるでしょう。

「家栽の人」が、司法というものを市民に分かりやすく伝え、身近なものにしたという功績は、非常に大きかったと言えます。

2 他方で、毛利さんは、自らが描いた「家栽の人」の世界と実際の裁判所のあり方のギャップに悩むこともあったといいます。

そのようななか、現実の裁判所がどういうところかを確認し、また、司法はどうあるべきかを訴えかけるため、毛利さんは、裁判官へのインタビューを中心とした「裁判官のかたち」(現代人文社・2002年)を書かれました。この他、自ら中津少年学院において篤志面接委員を務めている経験も踏まえて、「少年院のかたち」(現代人文社・2008年)なども書かれています。

3 法曹人口の増加や相次ぐ不祥事などにより、弁護士が置かれた状況は、「家栽の人」の時代から大きく変化しました。

このような時代のなかで、市民は弁護士をどのように見て、何を期待しているのか。また、弁護士は、市民の信頼を回復し、自分たちの活動を理解してもらうためにどのような情報発信をすべきなのか。

司法をわかりやすく市民に伝えつつ、他方で、司法がどうあるべきかを問い続けてきた毛利さんだからこそ、激動の時代におかれた弁護士が新しい「弁護士のかたち」を見つけるためのヒントをくれるかもしれません。

これまで日弁連や各弁護士会で、数多くの講演を経験された毛利さんですが、"弁護士"をテーマに講演をするのははじめての試みということです。ぜひみなさん、奮ってご参加ください。


<毛利甚八さんのその他の法律関連著作>

・漫画原作

「裁判員になりました」、同PART2、

同番外編(日本弁護士会連合会)

裁判員の女神(実業之日本社)

2013年4月 1日

研修「DV被害及びDV被害者支援と法的処理の基礎知識」のご報告

両性の平等に関する委員会
相 原 わかば(55期)

1 はじめに

去る2月14日、精神科医の佐藤真弓先生と、当会会員の松浦恭子先生に講師を務めていただき、表記の研修会を行いました。

これは、犯罪被害者の支援に関する委員会、両性の平等に関する委員会が共催して行ったものですが、当会が、平成25年度に実施を目指すDV被害者支援制度の相談担当弁護士名簿の登録要件とすることを予定した研修でした。なお、その後、DV被害者支援制度が正式に発足した後、当日の研修のDVD録画を上映する形で、改めて登録研修を実施することになっております(福岡部会で4月8日と17日に実施予定、他各部会にて実施予定)。

DVについては、2001年にDV防止法が実施された後、2度の改正を経ておりますが、行政機関における認知件数、裁判所への保護命令申立件数も増加しており、深刻な被害も後を絶たない状況です。DV被害が家庭内という密室で生じ、被害者が孤立させられがちであることに鑑みれば、まだ法的支援にアクセスできていない被害者の存在も少なくないと考えられます。このような現状から、当会では、DV被害者が法的支援にアクセスできるよう広報等を充実させると共に、上述のDV被害者支援制度として、保護命令を検討し得るようなDV事案について無料相談制度を創設すると共に、今回の研修を企画した次第です。

本研修では、松浦恭子先生から、「DVが問題となる事件の実務について」と題して、DV支援に関する行政・司法の制度と実務の現状を、佐藤真弓先生から、「DV被害への理解と留意点」と題して、DVの背景・被害者心理などにつき、ご講義いただき、この種事案に対応する上で大変実践的な内容でした。

2 DV事件の実務について

松浦先生のお話では、まず、相談時の留意点として、被害者の中には、正確に出来事を話せなかったり、どうしたいのか考えがまとまらなかったりする人も少なくないけれど、それこそがDVの影響と理解できるということです。

DVによって、支配されたり、尊厳を奪われた状態に置かれていると、自分の言うことや自分の考えを持つことさえ封じられてしまいます。また、ひどい目にあったのだから記憶している筈というのは正しくないこと、被害者は必ずしも別居・離婚を希望したり決意したりしてはいないかもしれないことに留意が必要です。

相談に当たる上では、被害者が安心して話ができるよう受け止めることが大切で、また、私達弁護士ら支援者にあたる者は、その人自身の意思決定のスピード、タイミングを大事にして、その人自身が持っている力で回復できるよう手助けするスタンスが必要ということです。また、相談者の安全な生活を確保することが大事で、殊に、居所等の情報の取扱いには注意を要するところです。

また実務では、法的手続の他、新たに健康保険に加入したり、世帯主に支給されていた児童手当等をつけかえたりする手続について相談されることが多々あります。これらについても、例えば、健康保険の場合には、配偶者(例えば夫)の健康保険の被扶養者から抜けて、新たに国民健康保険に加入するには、通常、被保険者(例えば夫)によって資格喪失証明書を得てもらわなければなりませんが、DV事案の場合には、行政の援助証明書を得ることで、被保険者の協力なしに手続ができます。また、児童手当は、離婚を前提とする別居事案では、受給者の付け替えができますが、児童扶養手当の方は、本来、「1年以上遺棄されていること」との要件が必要であり、このため多くは離婚後にしか受給できない実情にありました。しかし、平成24年の政令改正で、保護命令を受けた事案については、「保護命令確定証明書」をもって受給できる扱いになった旨教えていただきましたが、この点、あまり知られていないのではないでしょうか。

その他、保護命令制度の要件や運用実態のご説明と共に、申立人の居所などの情報の取り扱いを誤り、申立人を危険にさらすことがないよう配慮すべきポイントをご教示いただきました。

3 DV被害の理解について

佐藤先生からは、最初に、DVの本質・背景につき、お話いただきました。

重要なのは、DVが決して個人間の問題ではなく、それを生じさせ、助長させていく背景として、性別役割分業の強制、結婚に関する社会的通念(「結婚して一人前」)、世帯単位の諸制度、子どもをめぐる社会通念(「一人親はかわいそう」)、経済的自立の困難、援助システムの不備などがあるということです。

これらが、外部社会の状況が、社会装置として働いて、DVの様々な力と支配の形態―身体的暴力の他、心理的暴力、経済的暴力、性的暴力、子供を利用した暴力、暴力等の過小評価・責任転嫁、社会的隔離など―を支え、助長させていくとの指摘は、具体的で大変分かりやすい内容でした。 DVの形態につき、具体例を挙げれば以下のようなものです。

心理的暴力:いわゆる暴言の他、「あーいえば、こーいう」式で追いつめ女性が切れると攻撃する、欠点等を執拗に言い、言われた方が気が変になったのではないかと思わせる、罪悪感を抱かせる等

経済的暴力:女性が職に就いたり仕事を続けることを妨害する、家計管理を独占する、支出を事細かく問いただす等

性的暴力:望まない性行為、性欲を満たす対象とする、避妊に協力しない、子供に分かるのに性交を強要する等

子供を利用した暴力:母親として至らないと思わせ正当な権利や要求を封じ込める、子供に母親の悪を吹き込み子供に責めさせる、子供の前で暴力を振るい侮辱する、子供を虐待し(または虐待すると脅し)しかもそれを女性のせいにする、「子供を渡さない」と脅し別れる力をそぐ等、

暴力等の過小評価・責任転嫁:暴力の深刻度や女性の不安な気持ちを過小評価する、相手のせいにする、「お前が怒らせた」等

社会的隔離:仕事・社会活動を制限する、事細かく問う、会う相手の悪口を言ったり嫉妬心をむき出しにして女性の方から人に会うのを断念させる、行動制限の理由を愛情によると正当化する等

また、佐藤先生は、DVの理由は往々にして誤解されているとおっしゃり、「アルコールのせい、怒りが抑えられないせい、ストレスがたまっているせい、言葉で表現できないせい」等というのは間違いであると共に、DVが正当化される事由はないと指摘されます。DVが振るわれる理由は、加害者がジェンダーや人権に歪んだ価値観をもっていること、暴力を甘く見ていること、自分の感情が育っていないこと等だといい、実際の事案を通して実感されると言います。

そして、DV被害者は、何をしても無駄だと学習し、自分が無価値なものと洗脳される結果、本来その人に備わっていた筈の諸々の力が奪われます。また、時にPTSDにみられる症状に悩まされるといいます。

さらに佐藤先生は、DVは子供に深刻な影響を及ぼすことにつき、児童虐待防止法が、DVの目撃も心理的児童虐待に当たる旨定めていることを挙げて強調されました。人格の成長に不可欠な安全・安心・安定が決定的に不足すること、自尊感情が不十分な大人になること、加害者の価値観や行動を学習したり、被害者を見下したり、自分の安全との選択を迫られたりし、長期的に深刻な影響があるといい、現在の実務で監護者や親権者の判断においてDVが過小評価されているのではとの疑問も示しておられました。

そして、支援者に必要なことは、「それはDVで、あなたは被害者である。NOという権利がある。しかし、何事もあなたの決断を待ってから。一緒に考えていきましょう」というスタンスであり、「支援者が最善の方法を考えてあげる」のではないということです。この点は、松浦先生のお話にも出ていましたが、被害者の立場を理解して、無力化された被害者が自分自身の力に気づき、取戻していくことを支援する、回復の方向、スピード、方法を選択するのは被害者自身だということです。

佐藤先生には、時間の関係で全てをご説明いただくことができませんでしたが、大変詳しいレジュメをご用意いただいております。

4 研修を終えて

私自身も、DV事案を扱っていますが、今回の研修は、本質を言い当てて、よく整理していただいており、大変分かりやすい内容でした。

DV事案では、相手方への対応は勿論、情報管理や依頼案件以外の付随事務に神経や労力を使いますが、被害者の心が定まらなかったり、話にまとまりがなかったりして苦労することも少なくありません。そんな風に苦労して支援しても、加害者の下に戻ってしまう例も中にはあります。が、何度も躊躇して、ようやく踏み出せる一歩があります。私達弁護士は、「こんなことで相談していいのか」「私の話なんか聞いてもらえるのか」という不安のトンネルを抜けて、やっとたどり着いた「支援機関」です。その決意に敬意を払うと共に、もし本人が事態の打開を決意できなくても、望む時にはいつでも支援の手があることを知ってもらうことが大切です。また、DVの背景となる価値観につながる言動を不用意にしていないかどうかも注意しなければなりません。

また、DV事案は苦労も多いですが、両先生が述べておられたとおり、被害者自身が力を取り戻していく過程に立ち会うのは、感動を覚えますし、やりがいがあります。

DV被害者支援制度に登録していただくと否とにかかわらず、本研修を多くの会員に受講していただければ幸いです。

ADRの更なる活用を 〜久留米法律相談センター20周年によせて

元・筑後部会紛争解決センター運営委員会委員長
富 永 孝太朗(54期)

これは、先日行われた久留米法律相談センター20周年記念パーティーにて配布した冊子に掲載されたADRに関する文章を修正した上で再掲したものです。


1 はじめに

福岡県弁護士会が行うADR手続は、代理人弁護士による申立て以外は、弁護士による法律相談を前置すること(弁護士による紹介状の作成)を要件としており、その意味では、法律相談センターこそがADRの窓口的機能を果たしていると言っても過言ではありません。

本稿は、筆者の経験に基づいた福岡県弁護士会久留米紛争解決センターにおける解決事例を紹介するとともに裁判所における民事訴訟あるいは民事調停とは異なる弁護士会ADRの存在意義を踏まえ、法律相談センターの更なる発展と共に弁護士会ADRの理解と活用をお願いすることを目的とするものです。

2 久留米紛争解決センターにおける解決事例

ADR手続における弁護士と紛争解決を望む当事者との関わりは、(1)本人申立を前提に紹介状を作成する。(2)申立代理人としてADRを申し立てる。(3)相手方代理人として応諾し、手続に関わる。(4)仲裁人弁護士として手続を主宰する。といったものに概ね分類されます(ただし(4)の類型は、仲裁人弁護士候補者となっている弁護士に限ります)。

(1)の類型については、紛争の金額が低廉で弁護士に依頼するのは費用対効果の点から適当ではない反面、相手方も何らかの形で解決を希望することが窺われる紛争で解決した例が見られました。筆者が紹介状を作成した事例では、婚約不履行や共同事業の不履行などの紛争において、数10万円の解決金の支払で解決したものがありました。

(2)の類型については、筆者が関与した事例として、マンション建物新築工事において既に入居が始まった後に配管に瑕疵が判明し、その瑕疵修補及び損害賠償請求を求めてADRを申し立てたという事例がありました。この手続では専門委員として1級建築士の関与の下、補修箇所を特定し、多数回の期日を設けて、入居者への説明や補修方法などを慎重に協議して進め、概ね納得の行く瑕疵修補を完了させることが出来ました。他には、ある食品工場の機械に挟まれ指が損傷するという労災事故の被害者の代理人として損害賠償を求めてADRを申し立てた事例もありました。この事例の主たる争点は、事故態様に伴う過失相殺割合でしたが、速やかに相手方代理人とともに事故現場に赴き、状況を確認することができたことにより、短期間で解決を見ることが出来ました。

(3)の類型については、内縁の妻と戸籍上の妻との遺産に関する紛争に関して相手方代理人として関与し、解決を見ました。相手方代理人として関与する場合には、相手方本人に十分にADR手続の内容、特に解決した際の成立手数料の負担を要することを説明し、納得を得る必要があります。

(4)の類型としては、いわゆる上司によるパワハラ・セクハラによる損害賠償を求め申し立てられ、相手方が一定の解決金を支払うことで解決した事例があります。被害を受けたとする申立人の話を十分な時間を取って耳を傾け、共感をすることにより、当初は当事者双方の解決金額に大きな開きがあったのですが、解決を見ることができました。ADR手続では、パワハラやセクハラといった当事者双方共に公開を望まない紛争の解決事例も多く見られます。

3 ADRの存在意義

裁判所における民事訴訟は、全ての紛争を解決に導くことの出来る万能の手続ではありません。訴訟手続では、1回の期日に十分議論が出来る時間を取れず、その厳格な手続から、証拠が限定され、その紛争の実態を正確に把握して貰うまでに多くの時間や費用を要することも少なくありません。高度に専門化された紛争であれば、より一層時間と費用が必要となるでしょう。また、公開したくない紛争には、民事訴訟は馴染みません。

また、民事調停もADRの一類型であり、裁判所における簡便な紛争解決手続という意義は十分に認められます。もっとも特に複雑な紛争に関しては、紛争解決の専門家である弁護士の方が速やかに紛争の実態把握をでき、期日の設定や解決内容の柔軟性からすれば、紛争の性質や規模、当事者の関係性によっては、民事調停よりもADR手続が適している紛争が少なからずあると考えられます。

さらに、この点はあくまで私見ですが、民事訴訟は、一度提起してしまえば、事実上、その結論が好むと好まざるに関わらず判決という形で決着を見てしまう不可逆的な手続であるのに対し、ADR手続は当事者が合意しなければ、結論を見なくても良いという中間的な手続であるところも長所ではないかと考えます。当事者間の交渉が捗らないときに直ちに訴訟提起をするのでは無く、仲裁人という中立的第三者を挟んだ上での交渉という選択もありますし、訴訟となった場合でも争点整理機能も果たすことになります。

2で概観した解決事例のような民事訴訟及び民事調停手続による解決に適していない紛争、さらにはADR手続の方が迅速かつ円満な解決が期待される紛争が存在するというのがADRの存在意義であると思います。

4 最後に

ADR手続は、民事訴訟や民事調停手続とは存在意義を異にする有益な紛争解決手続であるということが本稿をその窓口的機能を果たす法律相談センターを支える多くの皆様(特に法律相談を行う弁護士)に認識して頂ければ幸いです。


更なるADRの活用を切に望みます。

2013年3月 1日

給費制市民集会についてのご報告

会 員 菰 田 泰 隆(65期)

1 去る平成25年1月19日土曜日、福岡県弁護士会館にて司法修習生の給費制に関する市民集会が開催されましたので、その反響の大きさについて会員の皆様にご報告させていただきます。

まず当日は、千綿俊一郎先生から給費制に関する法改正の経過や現在の議論状況について基調報告がなされた後、初めて貸与制での司法修習を経験した新65期会員である私菰田泰隆、高松賢介先生、國府朋江先生から貸与制における司法修習の実情等を報告させていただきました。加えて、弁護士を目指したきっかけや給費制に対する想いについて、馬奈木昭雄先生、椛島敏雅先生、下村訓弘先生、九州大学法学部生の安井あんなさんによる、リレートーク形式での貴重な体験談などをお話しいただきました。そして最後に、羽田野節夫先生、平田広志先生、高松賢介先生によるパネルディスカッションが行われ、給費制の意義やあるべき制度論、市民に理解して欲しい点等が活発に議論されました。会場には、一般の方々だけでなく、国会議員や議員秘書の方々、テレビ局関係者や新聞記者の方々、他県のビギナーズネット会員の方々等、参加者は100名を超え、給費制に対する関心の高さに驚かされるばかりでした。

2 中でも私が最も印象に残ったのは、以下の2点です。

第1に、今回の市民集会全体を通じて強調されてきた統一司法修習の重要性です。国民の権利保護を司る司法が適正な裁判を行うためには、その裁判過程や判決に至る論理を十分に理解した法曹三者による適切な訴訟追行が不可欠です。それはつまり、法曹三者同士がいかなる思考過程を経て訴訟を追行するのか、互いにいかなる点に重点を置いた訴訟活動を行っているのかを知り、互いの行動原理を共通理解としなければ成り立たないものです。そこで、長年続く統一司法修習は、司法試験合格者全員に対して法曹三者すべての行動原理を学ばせるために、統一した実務修習制度を用意しているのであり、これが現在の司法制度の根幹を成していると言っても過言ではないでしょう。そんな中で給費制廃止の議論から発展して、貸与制での司法修習が困難であるならば、統一司法修習自体を廃止し、法曹三者ごとで個別の研修を行えばよいとの議論が発生していることも事実です。今回の市民集会では、全体を通じて統一司法修習の重要性が説かれ、給費制廃止の議論が統一司法修習という司法制度の根幹にかかわる問題であることが浮き彫りになったという意味で、他に類を見ない市民集会を開催することができたと実感しております。

第2に、市民集会終了後、マスコミ各社が新66期である現司法修習生から詳細なインタビューをとっていた事実です。後にマスコミの方々から聞いたお話では、記者の方々も給費制廃止について関心はあったものの、司法修習の実情や統一司法修習の意義など、司法修習自体についての理解はあまりなく、「私たちが記者として関与していてもこの程度の知識・理解しかないのだから、市民のみなさんは司法修習というものを理解するどころか、存在すら知らない方が多数を占める。そんな状況下で給費制廃止の議論を進めても、適切な結論が得られるわけもなく、その前提知識を伝えることが私たちの役目なのだから、生の声を伝えて行きたい。」とおっしゃっていました。私たち法曹の情報発信能力には限界があり、マスコミなどの力を借りなくては私たちの意見を世論に反映させていくことは不可能です。そんな中で、法曹関係者だけでなく、マスコミの方々が市民集会に参加した結果として危機感を抱いてくださったことは、給費制復活に向けた極めて大きな前進であると感じました。

3 以上のとおり、部分的な紹介にとどまりましたが、今回の市民集会は今後の給費制復活議論を進めていくにあたって、極めて大きな影響を与えることができたと実感しております。今後も、司法修習の重要性や実情を市民のみなさまに広く知っていただく機会を設け続け、少しずつでも給費制に対する理解を得ていく地道な活動を続けて行く必要があると思われます。

会員の皆様方におかれましては、これから後に続く後輩たちが司法修習に専念できる環境を整えるため、これからも給費制復活に向けた活動にお力添えをお願い致します。

2013年2月 1日

災害対策委員会報告 「被災地視察のご報告」

東日本大震災復興支援対策本部 青 木 歳 男(60期)

平成24年11月25日から28日にかけて、福島県二本松市、浪江町、南相馬市、宮城県南三陸町、気仙沼市の各所を視察いたしましたので、ご報告いたします。なお、本報告は、視察3日目、4日目についてのものです。前半部分の報告は、前号の通りです。

27日午前8時30分に、宮城県南三陸町の宿泊施設を発つと、午前中は同町の被災状況、ボランティア活動の実態、復興の現在を視察しました。

この日は、南三陸町の中心である志津川地区の視察です。南三陸町は、宮城県北東部に位置するリアス式海岸の町で、人口約1万5000人、中心部は15m超の津波で壊滅状態、1000名を超える犠牲者が出ています。

志津川地区は、市街地の瓦礫はほとんど片付けられ、市街地はほぼ更地の状態である一方で、海沿いの一カ所に集積された瓦礫は山のように積まれています。町役場職員が最後まで防災無線を発信し続けたことで有名となった南三陸町役場防災対策庁舎跡場所ですが、引っかかった瓦礫の撤去は済んだものの、鉄骨部分だけが残っていました。未だ町の多くの地区が立ち入り禁止区域に指定され、建物を建てることはできないため、街の復興は進んでいないのが現状でした。

他方、このような状況を少しでも改善しようと、志津川地区に存した店舗の有志が仮設の商店街「南三陸さんさん商店街」を建てています。

また、Yes工房(南三陸復興たこの会)では、職を失った町民を中心に雇用の創出を図り、地域活動を維持しながら、被災した住民の自立を支えることを目的として、南三陸のゆるキャラ「オクトパス君」製品の製造をしていました。オクトパス君は「置くとパス」とのダジャレとかわいい風体が受けて、全国(主に受験生)から注文が殺到していました。同工房にて木彫りのストラップを彫る技術を提供しているのは民間会社で、代表者が震災後に一人南三陸町を訪れて協力を申し出たことが、同工房の成功を支えた要因の一つです。複数のNPO団体や支援企業の動きが洗練され、進化していることは特筆すべき今回の視察の発見です。

その後、気仙沼市を訪れ、復興支援Cafe「NONOKA」と宿泊先であるホテル望洋でそれぞれお話を伺いました。気仙沼市は、人口約6万8000人の三陸海岸沿いにおける一大漁業基地でしたが、震災による20m超の津波、大火災で千数百人の犠牲者を出しています。

気仙沼市でも、復興のあり方とスピードが問題となっていました。復興計画を進める上での住民の意見集約については、自治体と住民との意見の相違、地区ごとの意見の対立、世代間の考えの相違など克服すべき課題は山積しています。意見を集約できずに時間ばかりが経過し、人が(特に働き盛りの)都会へと流出している現状に皆強い危機感を抱いていました。

翌28日午前は、気仙沼市内の鹿折地区の仮設商店街「複幸マルシェ」を訪ねました。周囲は以前基礎コンクリートだけが残る荒地のままであり、近くには陸に打ち上げられた大型船「第18京徳丸」が見えます。復興は進んでいないという印象を受けたまま、気仙沼市を後にし、帰福しました。

震災から1年9ヶ月が経過し、震災に対する国民的な注目が減退する中、逆に復興問題の本質である地域社会の再生は正念場を迎えています。地域間での意見の調整が進まず、行政もリーダーシップを発揮するのが難しい中、地域の空洞化が進んでいるという現状は、視察をしてみなければわからない課題を明確にしてくれました。対策本部において、今回の大震災に対する復興支援が、長期的視野に立った息の長い活動でなければならないことは宮下弁護士の前号の報告の通りです。

弁護士会として、今後は大規模災害時の対策・対応だけではなく、災害後の各種支援団体の設立・運営に対する支援(NPO法人、一般社団法人、ファンドの設立・運営)、復興の際の「街作り」にいかに住民の意思を最大限かつ迅速に反映させるスキームを作るかといったことが新たな課題です。

拘置所による接見妨害とたたかう

刑事弁護等委員会委員 丸 山 和 大(56期)

1 拘置所による接見妨害

拘置所と弁護人の接見交通権をめぐる対立は、抜き差しならないところまで来ている。

弁護人が、接見室(面会室)内で被疑者・被告人の心身の状況を記録するためにカメラを使用しようとすると、被疑者・被告人の後方に設置されている覗き窓からこれを見ていた拘置所職員が、断りもなく接見中の接見室内に立ち入り、強制的に接見を中断させ、接見を終了させる。

そして、拘置所長が、当該弁護人の所属する弁護士会に対し、個人名で、当該弁護人の懲戒を申し立てる。

冗談のような話であるが、これが平成22年以降、全国で起きている拘置所による接見妨害の実態である。

2 当会会員による接見妨害国賠訴訟

監獄法に代わる刑事収容処遇法が施行され、被疑者・被告人の権利が明示されたことにより、被疑者・被告人との接見交通権は従前に比して確保されるかにみえた。ところが、現実には、従前よりも接見交通権が妨害されるという皮肉な状況となっている。

現在、当会会員を原告、福岡拘置所(国)を被告とする二つの接見交通国賠訴訟が係属している。

一つは、上田國廣会員を原告とする、再審請求弁護人からの再審請求人への文書差し入れが妨害されたことなどを原因とする「上田国賠」であり、もう一つは、田邊匡彦会員を原告とする、接見室内での写真撮影中に拘置所職員が接見室内に立ち入り、さらに撮影した写真を消去するまで拘置所からの退去を認めなかったことなどを原因とする「田邊国賠」であり、私は上記二つの国賠訴訟の原告弁護団に加わっている。

本稿では、接見室での写真撮影と接見交通権の問題について、後者の田邊国賠の状況にも触れながら報告したい。

なお、以下、接見交通権の語には、特に断りのない限り秘密交通権の意を含む。また、写真撮影行為とビデオ録画行為とを合わせて写真撮影等ということがある。

3 田邊国賠の概要

平成24年2月29日、小倉拘置支所にいる被告人から「ケガをした」旨の電報を受け取った田邊会員は、同日に小倉拘置支所に赴き、午後6時50分から接見を開始した。そして、田邊会員が拘置所職員の暴行による被告人のケガの状況をカメラ付き携帯電話で撮影したところ、拘置所職員が接見室内に立ち入って接見を中断させ、田邊会員に対し撮影した画像を消去するよう要求した。田邊会員がこれを断ると、拘置所職員は接見室内から出て行ったものの、接見が終了した午後7時20分、田邊会員に対し、南京錠で施錠されている控室に同行を求め、「画像を消去しないと帰すことはできない」などと繰り返し述べた。30分に渡る押し問答の末、午後7時50分、田邊会員は、退去するためにやむなく画像を消去し、拘置所職員が田邊会員の携帯電話の画面を見て画像を消去した事実を確認した後、ようやく拘置支所から退去することができた。

以上の事実を請求原因とし、田邊会員を原告、北九州部会刑事弁護等委員会有志を中心とした当会会員を代理人として、平成24年6月20日、福岡地裁小倉支部に国家賠償請求が提起された。

その法的主張は、当然ながら、弁護人と被告人との接見交通権の侵害を理由とする不法行為を主張するものである。

4 国側の主張

これに対する国側の反論は概要以下のようなものであった。

(1) 接見とは、「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」

(2) 撮影行為等を「接見」に含めると、「撮影行為等により未決拘禁の目的を没却したり、未決拘禁者のプライバシーを侵害したり、刑事施設の保安警備上の重大な支障が生じたりするおそれが高い」

(3) 職員の立入は刑事収容処遇法117条に定める権限の適切な行使である

(4) 接見室内での写真撮影等は、『被収容者の外部交通に関する訓令の運用について』(H19・5・30矯成3350矯正局長依名通達。以下「平成19年通達」という。)に基づき、「刑事施股の長の庁舎管理権の行使によって禁止されてい」る

(上記(1)乃至(4)の「 」内は国側準備書面からの引用である。)

かかる国の主張に理由がないこと、特に「接見」の意義を極めて過少、限定的に解することにより妨害を正当化しようとしていることの問題点は明らかであり、本稿執筆中の1月14日現在、原告側において反論の準備書面を起案中である。

5 拘置所の対応が全国統一のものであること

田邊国賠のような写真撮影等に対する拘置所の対応は、残念ながら特異なものではない。

拘置所は、平成22年以降、全国的に、弁護人の接見室内での写真撮影等を徹底して抑圧しようとしており、かかる対応が法務省矯正局の統一された意思によるものであることは疑いがない。

具体的には、京都拘置所、名古屋拘置所、大阪拘置所及び東京拘置所で同様の事例が報告されている(各事例の概要は髙山巌「接見室内での録音・録画をめぐる実情と問題の所在」季刊刑事弁護72号68頁以下に詳しいので参照されたい。)。

特に、東京拘置所では、体調不良を訴える外国人(希少言語使用)被告人との接見において、弁護人が接見状況を録画していたところ、拘置所職員が接見室内に立ち入り、被告人を接見室から連れ出して接見を強制的に終了させ、しかも、東京拘置所長が、個人名で、東京弁護士会に対して当該弁護人の懲戒請求を行った事例が報告されている。

これに対しては、東京弁護士会は速やかに懲戒請求を却下し(懲戒しない旨の決定)、当該弁護人を原告、東京三会の有志を代理人として、接見交通権侵害を理由とする国家賠償請求が平成24年10月12日東京地方裁判所に提起されている。

また、田邊国賠における上記4記載の国側の主張をみても、拘置所、更には検察庁を含めた法務省が一体となって接見室内での写真撮影等を抑圧しようとしていることが窺える。

というのも、国側が、「接見」の意義について「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」と定義したことは着目すべき点であり(過去の裁判例で「接見」の内容を具体的に定義したものは見当たらない。)、かかる定義付けを一法務局(福岡法務局)のみで行ったとは考えがたく、かかる主張を行うにあたって法務省訟務局、法務省矯正局と協議がなされていることは確実といえ、更に接見交通権という権利の性質に鑑みると、検察庁との協議も行われていると考えるのが妥当である。

かかるように、国は、検察庁を含め法務省全体として事に当たっている。

6 日弁連の対応

かかる法務省の動きに対し、日弁連も具体的な対応を始めている。

日弁連は、別掲のとおり、平成23年1月20日付けで「面会室内における写真撮影(ビデオ録画を含む)及び録音に関する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を表明し、「面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって、接見・秘密交通権で保障されており、制限なく認められるものであり、刑事施設、留置施設もしくは鑑別所が、制限することや検査することは認められない。」との意見を明らかにしている。

各会員におかれては、理論的側面を含めて、いま一度日弁連意見書を確認されたい。

また、昨年末には、日弁連刑事弁護センター、日弁連接見交通権確立実行委員会などを中心とした「面会室内における写真撮影等の問題に関する連絡会議」が立ち上がり、全国横断的な情報の交換と、全国の国賠訴訟のバックアップが開始された。

法務省矯正局首脳が「写真撮影問題は裁判で決着をつける」と公言したといわれていることからすれば、一般指定問題以来の全国的な接見国賠訴訟の係属が予想されるところであり、かかる日弁連の動きは当然といえるし、一人一人の弁護士が自覚をもって事に当たる必要がある。

7 怯むことなく

ところで、なぜ法務省はかかる抑圧を始めたのであろうか。

個人的な感想であるが、法務省には、被疑者国選対象事件の拡大など、被疑者・被告人の防御権を拡大する動きに対する危機感があるのではないだろうか。

拘置所による接見妨害が報告され始めたのは平成22年に入ってからであるが、その前年の平成21年は被疑者国選対象事件が必要的弁護事件全てに拡大された年である(また、裁判員法が施行された年でもある。)。

平成19年通達が平成19年5月に発せられたにもかかわらず、平成22年になってから具体的な妨害事例が報告され始めたことに鑑みると、平成21年から平成22年にかけて法務省で接見室内での写真撮影の抑圧に向けた方針策定がなされたと考えられ、その動きは上記のような刑事訴訟制度の変化、なかでも被疑者・被告人の防御権を拡大する動きと無縁とは思われないのである。

もっとも、法務省の方針を正確に知ることはできないし、知る必要もないといえる。

私たち現場の弁護士にとって重要なのは、拘置所が接見妨害を行っている現実である。

かかる現実に対し、怯むことは許されないであろう。

接見は、憲法34条に定められた弁護人依頼権(弁護人から実質的な援助を受ける権利)を実現するためのツールであって、特に捜査弁護活動においては実質的な防御の機会を確保するための必要不可欠の手段であり、その確保・確立は弁護士の本質的使命であると同時に、市民に対する責任でもある。

小田中聡樹教授がいうように「捜査段階における弁護活動の権利が歴史上最も遅く登場し、しかもその権利保障が捜査当局の絶えざる妨害・侵害により弱いものとなる傾向を持つのはそのため(筆者注:国家の刑罰権、治安維持の要求との対立を指す。)である。そうであればこそその権利性は、その確立・強化をめざす自覚的弁護士層の各種の実践的活動が日常的に展開されている状態の中でのみ存在しうる」(「現代司法と刑事訴訟の改革課題」日本評論社234頁)のである。

もちろん、接見国賠訴訟は、国、なかでも検察庁を含めた法務省と鋭く対立することとなる。しかし、事柄の性質上、一部の裁判官に判断させるのではなく、できるだけ多くの裁判官に判断を迫る必要がある。 そのためにも、各会員におかれては、日弁連意見書の趣旨にのっとり、怯むことなく弁護活動に励まれたい。その中で接見妨害に遭うようなことがあれば、速やかに各部会刑事弁護等委員会に報告されたい。国家賠償請求等を含め十全なバックアップが得られることと思う。


面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書(日弁連)
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