福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2011年8月 1日

法教育委員会

会 員 菅 藤 浩 三(47期)

約1か月半前の5月21日に開催した法教育研究会では、新聞メディアの取材を受けながら、修猷館高校で実施した福岡県弁法教育委員会開発の新教材の感触や改良点を、教師側・弁護士側という立場から検証しました。 今回は、北九州市のひびき高校で、教師独力で、弁護士の力を借りずに、日本における死刑制度の存廃に関する授業を実施したという報告をもとに、授業の際に生徒が示した反応と弁護士が関与することで授業内容をどう改良できるかについて検討しました。
例えば、教師がオフィシャルに入手できる資料の1つに死刑制度の存廃に関するそれぞれの主張の対照表があるにはあるそうですが、その対照表では意見の相違が、刑罰の本質に関するものなのか、死刑執行の方法に関する非難なのか、誤判のおそれにウェイトを置くからなのか、釈放無き終身刑を採用することと極刑とはいえ時間をかけず贖罪させることとの価値相対なのか、要するに倫理の問題か手続の問題か、近代刑法における刑罰の目的の問題かそれらが意識して整理されて対照されるとは言い難いという問題をはらんでいるようです。どうも対照表の作成者が死刑制度の存廃の論点を正確に意識しないまま作成しているようだと弁護士側から指摘したところ、当該教師からやはりそういう視点は弁護士でなければ適切に生徒に授業で提示できないと感心されました。
社会の授業でとりあげる司法の領域に関連して、現代社会の教科書で太字キーワードになっている「罪刑法定主義」や「適正手続の保障」についても、教師から、なぜそれらの原理が大事なものと扱われるべきなのかを生徒にピンとくる形で教えることが容易でないので弁護士からのサジェスチョンを請いたいとの提案があったのに対し、弁護士からは違法収集証拠排除法則の事例などを用いるやり方を紹介したり、さらに、立憲主義の歴史的背景を踏まえて『目的は手段を正当化する、目的のためには手段を選ばない』マキャベリズムが世上まれに横行することの危険にも発展させて生徒と一緒に考えていく授業の進め方を提案しました。
もちろん研究会ですから、教師が質問者・弁護士が回答者という場面ばかりではありません。今夏、西南学院大学LSの教室を借りて行うジュニアロースクールの教材の中身や進行方法も課題にあがったのですが、教育界では当たり前となっているアイスブレーキング(会議やセミナーや体験学習でのグループワークなどの前に、初対面の参加者同士の抵抗感を無くす為に行われる、コミュニケーション促進のために、つかみのゲームなどを行うこと)の利用も教えてもらいました。 改めて法教育を実践していくにあたり、法律家が教育者から学ぶことは接する機会を重ねる中でまだまだたくさんあることを痛感した、お互いにとって非常に有意義な研究会でした。次回研究会は9月17日(土)午後3時から福岡県弁の本庁会館2階で行われます。

2011年7月 1日

修猷館高校での出前授業のご報告

法教育委員会委員
会 員 高 山 大 地(58期)

法教育委員会では、小中高校生を対象とした法教育の普及のために、平成23年4月1日に法教育センターを立ち上げる等、法教育の普及に取り組んでおります。その一環として、法教育委員会では、平成23年5月の17日、18日及び20日に、修猷館高校で出前授業を行ってまいりました。

出前授業というのは、実際の授業の現場に弁護士がゲストティーチャーとして参加し、担当教師と協力して、ルール作りや憲法、民事(契約など)、刑事手続(裁判員裁判や少年事件など)等のテーマに沿って、さまざまな教材をもとに法教育の授業を行うものです。今回の修猷館高校では、憲法上の平等権の学習の一環として、男女差別をテーマに授業を行いました。

生徒は、あらかじめ平等権の条文の内容について学校の通常の授業の中で勉強した上で、法教育委員会の方で用意した事例と設問について、まず自分なりにある程度の答えを出して、出前授業の本番に臨みます。今回用意した事例は三つで、まず一つ目は、女子トイレに入ろうとした12歳の男子を係員が制止することの合憲性、二つ目は、女子校において男子の入学を拒否することの合憲性、三つ目は、受付担当職員の募集を女性に限ることの合憲性を問うものでした(詳しい事例につきましては福岡県弁護士会のホームページ中の法教育センターのページをご覧ください)。

当日は、まず生徒にいくつかのグループに分かれてディスカッションをしてもらい、その後各グループの意見をまとめて発表してもらい、最後に弁護士が総括を行う形式で行われました。弁護士的な発想からすれば、事例1は合憲、事例3は違憲で、事例2が微妙なのでこちらを議論しましょうという話になりそうな感じですが、生徒たちは、初めての法教育の授業ということもあって、事例1から活発な議論が交わされ、グループによっては事例1の議論だけでディスカッションの時間が終わってしまったところもありました。

その後各グループの発表に移るのですが、生徒たちの意見は私にとっては非常に新鮮で、意外な発見がたくさんありました。事例1については、12歳ってことは小学生なので、小学生だったら女子トイレを使わせてあげてもいいのではないか、あるいは、おなかが痛くて我慢ができなかったりしたら女子トイレを使うのもやむを得ないのではないか、といった議論が出され、グループによっては違憲の結論を出すところもありました。事例3についても、受付はやはりいかつい男性よりきれいな女性の方がいいから女性限定だったとしてもやむを得ないといった議論や、女性の雇用創出のためといった理由があるかもしれないから、そのような理由であれば許されるはずだ、といった議論が出されました。どれも確かにもっともな面もあり、これを限られた時間内でどう法律的に整理して生徒たちに説明すればいいのか、今後法教育委員会としても、私自身としても、考えていかなければいけないと強く実感しました。

法教育センターでは、2011年5月9日から、学校からの出前授業の申し込みの受け付けを始め、2011年9月1日から順次実施していく予定です。出前授業のゲストティーチャーは、法教育委員会の委員でなくても事前に簡単な研修を受ければ登録することができます。出前授業は、生徒たちの法的素養を磨くだけではなく、ゲストティーチャーにとっても、生徒たちの自由で新鮮な発想は大きな刺激となり、得難い経験となることは間違いありません。ぜひ皆様ゲストティーチャー名簿にご登録をよろしくお願いいたします。

災害地の現場から

会 員 佐 藤 力(60期)

1 未曾有の大災害
平成23年3月11日、我が国を未曾有の大災害が襲いました。報道によると平成23年6月5日現在の死者は1万5365人、行方不明者は8206人で、約9万8500人の方が避難所生活を強いられています。
私の出身地である茨城県の(現在は潮来市)は、もともと干拓地のため今回の震災で、両親の住む実家の敷地も含め町全体が液状化、地盤沈下の被害を受けました。しかも、かつてゼロワン地域と呼ばれる司法過疎地域でもあったため、地元の先生方と連絡をとり、Jリーグチームになぞらえて「アントラーズ・ホームタウン・協力弁護士ネット」を立ち上げ、弁護士として地元をサポートすることを開始しました。
2 被災地へ
震災から二ヶ月近くが経過し、ライフラインが復旧しはじめたことから、福岡に避難していた両親も帰宅することになり、併せて私も地元に出向くことになりました。事前に避難所を担当している部署に確認したところ「法律相談の案内はしましたが、どなたも相談はない、とのことでした」という回答でした。とはいえ、たとえゼロであっても話をするだけでも意味がある、と思い、5月5日、6日に避難所や自治体に出向くことにしました。避難所は、当初300名から10数名に避難者が減少していましたが、せっかくなので避難者の女性に話しかけてみました。
私が、「こんにちは。私はこの地域出身の弁護士です。今日は九州から来ました。」と、挨拶すると、女性は「弁護士さんに頼むようなことはないけどね。ははは」ということでした。そこで、世間話のつもりで「お住まいはどのような状況ですか」と質問すると、避難者の方は「アパートに住んでんだけどさ。ドアが壊れて入れないから住めないのよ。それでも大家は家賃を下げてくれなくて、毎月払わされてるのよ。」という話をされたのです。私は驚きました。避難者の方は法律的な被害を受けているにもかかわらず、そのことに気づいてさえもいないのです。ただでさえ弁護士のいない地域ですから、これでは相談など来るはずもありません。そこで私の方から、「お仕事は」「お住まいは」「ご家族の状況は」と質問すると、不動産トラブル、雇用問題(便乗解雇、派遣切り)、消費者トラブル、保険など、次から次へと法律問題が山のように出てきたのです。
私は近隣自治体(潮来市、、神栖市、、鹿嶋市)をすぐに訪問し、市民への法教育、情報提供の必要性を訴え、各地の広報誌などに「震災における法律問題Q&A」を連載すること、今後地域フェスタなどで法律に関する講演会をボランティアで行うことで合意することになりました。 3 弁護士が手を差し伸べることの意味
久しぶりの故郷を歩いて見ると、さながらパニック映画のように変わり果てた街の姿に驚いて言葉を失いました。これだけの被害を受けていながら、まだ多くの人々が弁護士のサポートを受けられることに気づいてさえもいないのです。
私は法テラスのスタッフ弁護士として高齢者、障がい者、ホームレス、外国人の方の事件を常時50~60件ほど抱えていますが、この仕事を通して「本当に困っている人は、無料法律相談にさえもたどりつくことができない。」ということを何度も痛感させられました。私たちが手を差し伸べなければ救われない人たちは、まだまだたくさんいるのです。そして、実際に被災地に出向くことで、この思いが一層強くなった気がします。
被災地での経験を生かして、福岡市に対して「私たちが避難者に手を差し伸べてはどうでしょうか」と申し入れたところ、早速避難者を対象に避難者の集いが始まることになり、弁護士もアドバイザー参加が認められました。 被災地の現場で学んだこと、それは弁護士が手を差し伸べることの重要性ではないかと思います。今後も出来る限り地域の人々の支援に取り組んでいきたいと思います。

福岡県弁護士会のロゴマークについて

対外広報委員会
古 賀 克 重(47期)

当会のロゴマークが決定しましたので、ご報告します。
1 意義
対外広報委員会およびHP委員会は、当会をイメージとして認知してもらうとともに、他の広報手段と連携されることによって広報効果をより高める目的から、ロゴマークを提案しました。
ちなみにロゴマークは、日弁連、東京弁護士会、大阪弁護士会、福井弁護士会、東京3会の法律相談センターなどが導入しています。
なおHP委員会からは合わせて「キャラクター」の提案もなされましたが、具体的に利用できる場面が現時点では限られるため、今回は見送りました(キャラクターを採用する弁護士会も見受けられ、岡山弁護士会「たすっぴ」、兵庫県弁護士会「ヒマリオン」などがあります)。

2 採用の経過
ロゴのイメージとしては、対外広報委員会およびHP委員会において、「様々な分野で全国をひっぱってきた進取の気質」、「市民に開かれた地元の法律家」などの意見が出ました。
そのイメージも参考に、広告代理店から10種類以上の案を提案してもらい、常議員会でも議論した上、会員に対するアンケートを実施しました。
アンケートでは3つのロゴマークに票が集中しましたので、最終的に、常議員会で決を取り、今回のロゴマークを採用したものです。

3 採用されたロゴ「開かれた扉」
扉(ドア)をモチーフにした今回のロゴマークは、弁護士が気軽に相談できる存在であることを表現したもので、市民の皆さんに気軽に相談して頂きたいとの思いが込められています。
そしてシンプルで覚えやすくこちらの意図が伝わりやすく、弁護士会の新しいイメージを醸成することを狙っています。

4 利用方法
利用方法としては、以下のようなものが考えられます。
当会執行部の名刺、弁護士会の封筒、記念品、レターヘッド、プレスリリース、チラシ、パンフレット、月報、ウェブサイト、テレビCM、パブリシティ(無料広告)、電話帳、省庁訪問資料、他県弁護士会への配布資料などです。
なお、あくまで「弁護士会」としてのロゴマーク・ロゴタイプですので、会員が個人の名刺・封筒・サイトなどに利用することは想定していませんのでご注意ください。

5 他広報との連携
西日本新聞に毎週掲載している弁護士会コラム「ほう!な話」では早速ロゴマークが利用されているほか、6月4日に開催した「法曹養成制度について考える市民集会」翌日の新聞でも、ロゴマーク入りバックボードを背にするカラー写真付き記事が掲載されました。 今後も様々な広報活動とも連携させることによって、福岡県弁護士会の存在、そして地元の弁護士が市民に開かれた頼れる存在であることを一層訴えていきたいと思います。

2011年6月 1日

法教育センター登録説明会ご報告

会 員 渡 邊 典 子(61期)

1 はじめに
平成23年4月、福岡県弁護士会内に法教育センターが設立されました。法教育センターでは、講師のあっせん等を行うため申込窓口を設置し、担当する弁護士名簿から講師を配転するシステムが整えられました。多くの北九州部会の弁護士にも登録していただけるよう、4月27日、法教育センターの登録説明会が北九州弁護士会館にて開催されました。

2 説明会の内容
登録説明会には、19名が参加されました。
説明会では、北九州部会法教育委員会の末廣委員長が、そもそも「法教育」とはなんぞやというところから説明されました。
法務省が発足させた法教育研究会が、平成16年に提出した意見書では、法教育とは「法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎となっている価値を理解し、法的なものの考え方を身につけるための教育を意味する」と定義づけられています。生徒・児童たちに、法律の条文や、法的な知識を学んでもらうものではないという点を強調されていました。
資料として配布された弁護士白書2010年版では、法教育は『個人が尊重される自由で公正な社会』の構成員としての市民を育てることが目標であり、そのような市民として必要な技能や知識とは、・事実を正確に認識し、問題を多面的に分析する能力、・自分の意見を明確に述べ、また他人の主張を公平に理解する能力、・多様な意見を調整して合意を形成し、また公平な第三者として判断を行ったりする能力があげられています。

3 感想
私は、先ほど・から・であげられた能力について学校で学んだ記憶がありません(教えられていたかもしれませんが、記億に残っていません。)
以前、何かの調査で、親が子どもに期待する性格について、日本では「思いやり」や「規則を守る」などが上位であるのに対し、アメリカでは、「責任感」や「正義感・公平性」が上位であることを目にしました。特に、日本では、「公平性」への意識が低い点が印象に残っていました(平成17年 子供と家族に関する比較調査概要 総務省青少年対策本部に同旨の内容が見つかりました。)
私の学生時代を振り返ると、きまりを守ることは教えられましたが、問題を解決するため事実を分析し、利害を調整してきまりを作ることや、既存のきまりを批判的に検証し、作り替えるなどの経験は乏しかったように思います。
しかし、よりよい社会を作り、その社会で主体的に生きていくには、言われたとおりにしているだけでは足りないはずです。・から・の能力を身に付けておくことは、別に法律専門家だけに必要なものではなく、社会の一員として生活していく中で、有意義なことではないかと思います。よく、法教育の目標を語るとき「生きる力を育てる」と表現されていますが、まさに、法教育の成果は生きていく糧になると思いました。
説明会では、実際の授業風景のDVDも視聴しましたが、生徒たちが積極的に楽しそうに議論している姿が印象的でした。
このような経験を重ねる中で、生きる力を身に付けてくれることを期待し、私も少しでも役に立てればと思いました。

4 おわりに
平成23年5月9日から、出前授業の無料キャンペーンの受付が始まりました。北九州エリアでもたくさんの要請があるようおおいに期待しています。私も、生徒たちと議論して、活力をいただいてきたいと思います。

精神保健当番弁護士活動報告

会 員 坂 巻 道 生(62期)

1 はじめに
平成22年4月、精神保健相談の申込みを受け、出動しました。私にとっては、始めての精神保健当番の出動でした。バックアップについて下さったのは鬼塚恒先生です。始めてのことで要領の分からない私が何とか最後までたどり着けたのは、鬼塚先生の貴重なアドバイスがあってのことでした。鬼塚先生にはこの場を借りて御礼申し上げます。
2 自分の一生は自分で決める
相談者は65歳、統合失調症の診断を受け、医療保護入院として、既に12年ほどの入院期間が経過しており、今回は退院請求を希望しています。
始めて精神病院に足を踏み入れると、独特な匂いにも、閉鎖病棟の鍵を閉める音にも、反応してしまいます。相談者に会って驚いたのは、本人に病識は全くなかったことでした。「電波障害」を口にしながら、自分がなぜ入院しているのか、自分は病気ではない、と口にしています。
ただ、今回退院請求をする理由を尋ねた時、相談者はそれまで下に向けていた視線をわずかに上げ、静かに答えました。
「自分の人生は残り少なくなってきた。自分の一生は自分で決めたい」
相談者のこの言葉は、今回の活動の全体を通じて、私の脳裏から消えることはありませんでした。
3 何かあったとき、あなたに責任がとれるのですか?
面談を終え、相談者の保護者であるお兄さんに連絡を取りました。主に対応されたのはその奥さんです。奥さんは私に対してまくし立てました。「今まであの人のためにどれだけ苦労してきたか分かっているのですか」「娘の夫には身内に精神病患者がいることを隠している、出てきたらどうするのか」「大事な家族を守るためなら、あの人を殺して自分も自殺する」。現在の病状はとても落ち着いています、と申し向けても、言われたことは一言。「何かあったとき、あなたに責任がとれるのですか」。
保護者のご家族とは何度もお話しました。電話の奥で、夫婦間の諍いを聞き取る時もありました。私自身、この幸せな家族にとって、災いでしかないことを自覚しました。
保護者、主治医からは、退院請求を取りやめるよう言われましたが、請求は行うことにしました。請求の可否について見通しが立たなかったこともありますが、相談者の今後のためにも、退院を判断すべき人間は私でないと考えたからです。
保護者にも、その旨伝えました。私の「立場」は理解していただけたと思っています。
4 電波障害は止まりました
現地調査の期日、相談者は、「電波障害は止まりました」と言いました。私と話した際に、「電波障害」のことを絶えず口にしていただけに、私は驚きました。これが、本当に治まったのか、審判を有利に進めるために口にしたことなのか、私には今でも分かりません。
5 朝から寝込んでおります
退院請求の結果は「6か月を目処に他の入院形態(任意入院)への移行が適当である」。
早速、保護者の方に結果報告のために連絡をとりました。保護者の奥さんは「予想外...、ショックのあまり朝から寝込んでおります」と力なく話しました。
相談者に対し結果の説明のため、病院に行きました。病院に着くと、相談者はなにやら電話をしており、しばらく私は待合室で待っていました。電話が終わった後、電話の相手は誰ですかと尋ねました。相手は、保護者で、「今後は一切の縁を切る」と言われたそうです。私は、相談者に対して、かける言葉が見つかりませんでした。
6 その後
結果の通知から、6か月が経ち、私は担当のソーシャルワーカーの方に連絡を取り、相談者の現状を尋ねました。相談者は、現在、病院を退院し、グループホームにおり、保護者との関わりあいを少しでも持たせるため、保護者を説得しているとのことでした。

2011年5月 1日

京都法教育推進プロジェクト

会 員 諌 山 佳 恵(62期)

1 「京都ですごいことをやっているから見てきて」と声をかけて戴き、平成22年10月29日、「法教育シンポジウム~未来を拓く法教育in京都~」に行って参りましたので、ご報告いたします。
2 京都府内の小中高等学校では、本年6月から、このプロジェクトに基づく多様な法教育メニューが実施されています。この企画のすごいところは、「京都市教育委員会、京都府教育庁、京大法科大学院、同志社大法科大学院、立命館大法科大学院、法学部、京都地裁、京都地検、京都弁護士会、京都司法書士会、法テラス京都、京都地方法務局、京都刑務所、京都保護観察所」が参加するオール京都による取り組みである点です。
3 まず、京大の笠井教授から法教育のこれまでの動きや将来を踏まえた本プロジェクトの意義について、基調講演を頂きました。
4 立命館中学校1年生の録画授業放映
次に、その実践報告として、中学校1年生に対する法教育授業の模様が放映されましたが、生徒達の興味を引きつけた理想的な授業は、ドラマを見ているようでした。
この授業では、歴史ある京都市の街に高層マンションが建設される場面を想定し、建築の景況について、生徒達を反対派・賛成派・中立派に分けて討論した後、各派が納得できるルール作りを再討論しました。身近な問題に直面した生徒達は、これを自分の問題として考え、マンションの色や形、店舗の出店条件に至るまで、柔軟なアイデアを出していました。最後に、先生が京都市の景観保全条例を紹介したときには、市民生活におけるこの条例の役割を実感でき、また、このような授業を受けた経験がなかった私は、生き生きと議論する生徒達を羨ましく感じました。
5 立命館宇治高等学校2年生の公開授業
次に、高校2年生の刑事模擬裁判が公開され、生徒達が自作の台本に基づく証人尋問及び被告人質問を発表しました。
証人尋問では犯人の目撃状況というポイントを突いた尋問が行われ、被告人質問でも的確な尋問が行われ、見応えがありました。異議も積極的に飛び出し、手続きを充分に勉強して尋問を全て暗記するまで努力した生徒達の熱意を感じました。
6 パネルディスカッション
その後、法テラス理事の草野氏をコーディネーターとし、エッセイストの市田氏、京都弁護士会の伊藤氏、立命館宇治高校教諭の太田氏、京都市教育委員会の島本氏、嵯峨野高校の松宮氏、法務省大臣官房付丸山氏という様々な立場の方をパネリストに迎え、「法教育の普及における地域社会の役割」について議論が行われ、各機関とも、積極的に法教育に取り組む意思があること、法教育実践のために地域の専門家の力が不可欠であるという共通認識をもつことがわかりました。
7 これからの法教育
このプロジェクトによる局地的・一回的な取り組みの成果を、普遍的継続的な法教育実践にどうつなげるべきか、翌日京都弁護士会で開かれた意見交換会で話題になりました。
このプロジェクトの意義は、通常協力しない機関が一定の連携をとって法教育に取り組んだ点にあります。特に、法の専門家と教育現場の指導力が連携することによる相乗効果は大きく、弁護士会が、出前授業、裁判傍聴はもちろん、日々の業務活動を通じて、現場の教師とのパイプを拡大、強化していく必要性を感じました。
学校に弁護士が来て話をしてくれた経験は、小中高生にとって一生心に残るはずです。また、先日の裁判傍聴で引率を担当させて戴いた専門学校生達は、刑事裁判に興味津々であり、裁判の現場に足を運んでもらう契機が重要と感じました。
福岡でも、現場の教師のニーズを掘り起こし、全ての学校で当たり前に法教育が実践されるよう、これから学校現場にいって法教育に関わっていきたいと感じました。

2011年2月 1日

月報2月号福岡県弁護士会会長日記

会 長 市 丸 信 敏(35期)

◆ランナー1月12日、平成23年度の当会役員選挙の立候補受付が閉め切られ、会長・副会長や常議員の候補者が出そろいました。現執行部のメンバーにとっては、スムーズに後任者が決まってくれるのか、実は昨年の晩秋の頃からの大きな関心事となっており(およそ11ヶ月前、「後任者が決まらなければ留任だ」とか、「それぞれの後任者探しが副会長の最大の仕事だ」などと、冗談ともつかないような引き継ぎを受けた記憶が消えません!)、それだけに、年が明けて次年度の役員候補者が無事に出そろったこと、これによって、いよいよ自分たちの任期明けも間近に迫ってきたのだとの実感が湧いてきたことに、現執行部の各人それぞれが、ジワッと喜びを噛み締めておるところです。その次年度会長予定者からは、「地域司法計画の実現と、さらなる人権擁護活動を!」という立派な所信も配布されました。多くの会員がご存知のとおり高い理念・見識と若々しい行動力を兼ね備えておられる会員であるだけに、この困難な時代の船長を託するにまさに打って付けの方が名乗りをあげて頂いたと、心から敬意を表するとともに、大変頼もしく思っております。現執行部としても、残る力を振り絞って、今年度内に片づけるべきことに精力を傾注し、また、遺漏なき引継に向けての準備作業に努めたいと思います。ついでながら、福岡ほどの大規模会でありながら、そして、現に多士済々の会員が数多おられながら、昨今のように会執行部の担い手の確保に毎年難儀するというのは、いささか口惜しくも思われます。もっとも、年々歳々増大する一方の会務、他方で厳しさを増す業務環境といった事情を反映してか、役員のなり手の確保に困難を伴っているのは全国的に共通のようです。東京3会や大阪などのように、会内にいくつもの会派(派閥)を抱えているところにあってさえも、役員のなり手を確保するため、そして多大な犠牲に対するいくらかの補償として、正副会長に多少の給与を支払っている会がこのところさらに増加傾向にあるようです。当会でも今後の課題として検討してみる価値はありそうです。

◆歴史から学ぶ弁護士魂今年度の研修委員会の研修改革に向けての取り組みには誠にめざましいものがあります。大量入会者時代に対応すべく、昨年度の池永執行部が取り組んで布石し、今年度から実施された新人会員に対する主任指導弁護士制度や、とりわけ「新人ゼミ」(昨年5月から12月まで毎月実施(試行))は大変好評なようです。但し、講師を務めて頂いた会員の皆さんには、毎月の創意工夫に満ちた事前準備や、熱のこもった指導、そしてゼミ後の懇親会までを含めてのお世話を頂き、そのご負担は大変なものであったと察します。毎月各班から上がってくるゼミ実施報告書やレジュメなどを拝見していますと、この内容、この講師であれば、自分も是非話しを聞きたい、勉強させて貰いたいとの衝動に駆られることも度々でした。講師陣の会員、そして班の世話役の研修委員の皆さまに、この場を借りて厚く感謝申し上げます。この新人ゼミは、バージョンアップを図りながら次年度以降も継続することが期待されます。実は、新人研修に関するもう一つの大きな改革に、入会(登録)後の集合研修(今年は1/27・28予定)があります。新人を対象に、弁護士会のことや、弁護士倫理のこと等について丸2日間をかけて講義を行うもので、永年にわたって行われてきたものです。今年度は、新任の橋本千尋研修委員長の陣頭指揮のもと、文字通り研修委員会の総力を傾けてその刷新が図られました。委員の精魂を込めた共同執筆でできあがった「新規登録弁護士等研修 集合研修テキスト」は、わが国弁護士制度の歴史や当会の歴史を俯瞰し、弁護士自治の意義・根拠、司法改革の歴史などを、コンパクトながらもコラムを織り交ぜることによって具体的、そして如実に描き出したものです。このテキスト、そして、豪華講師陣によって、じっくりと、熱く、弁護士会、弁護士自治、司法改革の意義や歴史が伝えられる予定です。これによって新人の皆さんが、福岡県弁護士会の会員としての誇りと精神に触れ、これをそれぞれの心に刻み込む契機になることを願います。また、このテキストは、新人のみならず、既存の会員にとっても貴重で、面白い読み物です。全会員に配布を致したいと思いますので、司法改革に際して「陽は西から昇る」と形容された当会の奮闘の歴史を再確認するためのバイブルとして、是非、ご一読を乞う次第です。

◆専門性3題・ 専門研修21世紀のあるべき法化社会を実現するため、社会の潜在的な法的ニーズの掘り起こしを含めて「社会生活上の医師」としての弁護士の使命を果たすため、ひいて、弁護士として生き残っていくために、専門性を高めることは不可欠と思料します。研修はその中心手段として重要です。当会(研修委員会や各委員会)や日弁連、法務研究財団などが企画・開催する各種の実務研修・専門研修は、ご承知のとおり、近年めざましく充実してきておりますが、会館が古くて手狭なために、研修会に定員を設けるなど、会員の皆さまにご迷惑をお掛けしておりますことをお詫び致します。他面、もったいないことに、折角の貴重な研修が案外閑散としており残念なことも少なくありません。研修案内にアンテナを張って頂ければ幸いです。・ 専門認定・登録積年の課題ですが、日弁連や当会(業務委員会)では、専門認定・登録制度の研究・検討が続けられております。いろいろと困難な点、解決すべき課題は少なくないように見受けられますが、ニーズに的確に応えるべく、ユーザーからみた専門家集団としての在り方という見地に鑑みると、やはり断固たる決意でその方向を目指して前進してゆくべきものと思料します。ちなみに、1月18日には、この問題の第一人者である武士俣敦教授(福岡大学)を招いての勉強会が当会で開かれ、諸外国の歴史と実情を教えて頂くなどしました。専門性の認定・登録制度は、例えばイギリスでは、1983年の精神衛生法制定に伴って最初のスペシャリストパネルができたとの事実(但し、法律扶助制度と一体として)や、教授の見解では、世界的には、専門認定制度は経済的魅力に乏しい分野(換言すると、ごく一般の市民が直面するがあまり経済的ではない法的分野。刑事法、家族法、移民法など)で法律扶助と密接に関連して成立している傾向にあるとの指摘や、完全なものを作ろうとせず、できるところから始めようとの問題提起は、刑事被疑者(当番弁護士)、少年保護付添、精神保健、生活保護、高齢者・障害者、精神保健など、権利擁護活動の場面において全国をリードしてきた当会に身を置く私にとっては示唆的でした。わが国においても、法律扶助制度が飛躍的に充実されてゆくには、これら権利擁護活動の全国的拡充、それを下支えするための精通化(専門化)のための努力が一体として必要・有益なのだろうと感じた次第です。・ 相談の減少・無料化傾向目下、法テラスが問題提起した「初期相談」構想(無資力であるか否かを問わず、初回の法テラス相談を無料とする制度の創設)を巡って論議がされています。その多方面への影響は大きく、いち早く反対の意見を表明した会もあります。もっとも、その制度構想の内容自体が必ずしも煮詰まってはおらず、また多額の国家予算を要することであって、容易に実現することではなく、日弁連では冷静かつ慎重に対応をしておるところです。他方、全国の弁護士会の法律相談センターは、この数年来、相談件数の減少に悩み続けて、相談センター存続の危機に瀕した会もあります。当会でも昨年度よりも今年度と、さらに減少傾向が顕著になっております。その打開策として、一部では、相談センターの相談を全面的に無料化して沢山の相談を呼び込むようにしてはどうか、という議論もあるようです。その是非については色々な指摘があり得ることかと思いますが、私見では、相談センターが無料化に踏み切るということは(上記の初期相談も同様ですが)、個々の会員の相談業務に対する大きな圧力(相談料を貰いにくくなる、相談がセンターに流れる等)になる事象であり、もしそれを実施するとすれば、それを是とする会員のコンセンサスと客観情勢が備わることが前提となるのではないか(従って、無料化に踏み切るには相応の時間を要する)との視点も忘れてはならないのではないかと考えます。むしろ、個々の会員の業務における対策と同様に、相談センターとしても、専門性をより高め、顧客満足度をさらに高める工夫を重ねながら、潜在的なニーズを深く掘り起こし、また、新たな分野を切り開いて行く、そうしてリピーター(ないしファン=紹介者)を増やしていく等、地道な努力の積み重ねをもってこの難局を乗り切るよう進むべきではないのだろうかと愚考する次第です。

◆「必要とされるときの弁護士」昨年末、福岡市で一般社団法人・福岡成年後見センター「あさひ」が発足しました。代表理事は宇治野みさゑ会員(福岡部会)で、医師、精神保健福祉士などの多分野の専門家を糾合した組織として、認知症となった高齢者や知的障害者などを施設での相談会や成年後見事務で支援しようというものです。この団体で特筆すべきは、宇治野会員の、当会の精神保健相談活動を中核メンバーとして支えて来て頂いたという経歴や経験に由来すると思われますが、精神障害者の支援も明確に意識されている点にあります。弁護士会として、人権擁護ないし権利擁護活動や業務開拓の一環として別団体を組織して活動を広げることの有益性は感じても、現実問題としては弁護士会が団体を設立してまで活動することには困難を伴います。従って、上記のように、会員個人が率先して組織を作り、多方面で活躍されることは今後益々増えて来ることが期待されます。県内では、成年後見事務を担う団体として、つとに北九州市の一般社団法人北九州成年後見センター「みると」(代表理事・中野昌治会員(北九州部会)が広く活躍中ですし、また、消費者問題の分野では、NPO法人「消費者支援機構福岡」が存し、すでに当会の沢山の会員もメンバーとして関わっています。さらに、子どもの虐待問題については、当会の子どもの権利委員会のメンバーが参画してNPO法人を設立して「子どものシェルター」(虐待を受けた子どもの緊急避難施設)を設置・運営する取り組みの準備が目下進行中です。まさに、「社会生活上の医師」、「必要とされるときの弁護士」たらんとして、これら困難な分野に果敢に挑戦される会員・団体の活動に、ご理解とご支援・ご協力をお寄せ頂きたく、よろしくお願いします。

2011年1月 1日

月報1月号福岡県弁護士会会長日記

会 長 市 丸 信 敏(35期)

会員の皆さま、明けましておめでとうございます。輝かしい新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。今月は、次年度の当会役員選挙が実施されます。早いもので、当執行部の任期も残り3ヶ月を切りました。執行部一同、バトンタッチへの備えを致しつつ、最後まで力一杯に頑張る決意です。どうぞ、よろしくお願い致します。

◆会員一丸となって現行63期生6名のみなさん(8月26日付入会)、新63期生54名のみなさん(12月16日付入会)、ようこそ福岡県弁護士会にご入会頂きました。心から歓迎を申し上げます。当会は、みなさんのご入会により、会員数は928名となりました。また、この度、全国の弁護士数は3万人を突破しました。昨今の急速な勢いでの会員の増大は、当会においても、裁判員裁判や当番弁護士・被疑者弁護人、少年保護付添人、精神保健当番弁護士、生活保護当番弁護士、福祉の当番弁護士ほか高齢者・障害者支援活動等々の各種法律援助事業活動の充実や法律扶助受任数の伸張、50有余に及ぶ当会の委員会活動の活性化など、弁護士の社会公共的な存在感をより大きくすることに貢献しています。もちろん、弁護士急増にともなって、新人弁護士の就職難の問題、会員各層の業務基盤の維持・拡充の課題、研修充実・専門性強化の課題、裁判所・検察庁の増員の必要、そして適正な法曹人口の在り方如何等々、重要課題は山積しています。しかし、市民の司法へのアクセス拡充のためにと25年前に法律相談センターの開設に踏み出し、また20年前に刑事司法の改革のため当番弁護士制度を全国に先駆けて開始するなど、「市民の司法」との理念のもと、地道に草の根の司法改革運動に努めてきた当会としては、司法改革の完遂のためには法曹人口の増大の方向性自体はなお維持すべきものと考えます(問題は、その適正なペースの在り方ではないでしょうか)。弁護士・弁護士会としての使命を果たすべく、会員がその一点で心を一つにしながら、それぞれの持ち場、それぞれの役割でベストを尽くすこと、それによってこそ、国民からの信頼を維持してゆくことができると信じます。自由闊達な議論を尽くしつつも、目指すものを共有することによって、内部対立や内部分裂は絶対に避けなくてはなりません。私たちは、弁護士数の増大と二極化による求心力の喪失の結果、弁護士自治が崩壊した英国弁護士協会の衝撃(2007年。ご関心のある方は「自由と正義」2009年10月号をご覧ください)を、対岸の火事として笑って済ませることはできません。わが弁護士自治権も、決して永遠不朽のものでは全くなく、万が一にも国民からの信を失った場合には、たった一本の法改正で剥奪されかねないものなのです。

◆最高裁裁判官を当会から最高裁裁判官のうちの、那須弘平裁判官(第二東京弁護士会出身)と宮川光治裁判官(東京弁護士会出身)が、平成24年2月に相次いで定年退官を迎える予定であることから、日弁連(最高裁判所裁判官推薦諮問委員会)は、各弁護士会に後任候補者の推薦を依頼してきております。昨春の日弁連会長選挙で無派閥ながら多くの地方会の支持を集め激戦を制して劇的勝利を収めた宇都宮会長は、今次の最高裁裁判官推薦について、「東京や大阪の“株”は無くす。是非とも地方会から最高裁判事を出して欲しい」と、本気で檄を飛ばしています。とりわけ、当番弁護士はじめ刑事司法改革の分野で多大な実績を積んできた当会は然るべき人材を推挙するにふさわしい、との声がすでに随所から出はじめておりますが、皆さんのお考えはいかがでしょうか。推薦の期限は今年4月28日です。

◆部会の底力12月には、筑後部会(4日)と北九州部会(10日)の忘年会にも出席させていただきました。楽しいひとときをありがとうございました。筑後部会の忘年会は、永年の吉例通りに、その日にゴルフ大会、テニス大会を開催されたうえでの忘年会でした。嵐の中、ひとつの船に乗り合わせた仲間同志として船を沈没させないために結束をと呼びかける、樋口部会長の格調高い挨拶で始まった会は、40数名もの参加者でにぎわい、昔からいささかも衰えない筑後部会の親密さ、暖かさを体感しました。北九州部会では、忘年会に先立ち、定例の部会集会も開催されましたが、その出席者は、なんと60名超。県弁総会をも凌駕する数です。議題も、会館建設資金の繰り上げ返済、北九州会館の全館禁煙化、豊前相談センターにおけるチケット制導入、本庁昇格期成会運動、小倉拘置所の現地建替え(アンケート実施)など盛りだくさんで、服部部会長の議長のもと、熱心な討議が繰り広げられました。忘年会では、50年、40年の永年勤続表彰を受けられた会員を囲んで、老若を問わず沢山の会員(90名超)で最後まで大にぎわいでした。4年遅れで50年勤続表彰のお祝いを受けられた三代英昭会員は「人の寿命は127歳である」として、本当にご自身もその歳まで長生きされそうなお元気ぶりでした。県弁組織の中に、飯塚部会を含め、各部会として、しっかりとした執行部・評議議決機関・部会集会そして部会独自の委員会が存するという形態は、一種の連邦制であり、全国的にも異色です。これに部会員の結束が相まって、これこそが、当会が地域に根ざした弁護士会活動を県内隈無く果たし得てきている最大の秘訣ではないでしょうか。今後とも、部会の力を更に蓄えて頂き、大いなる力を発揮して頂きたいと願います。私たち県弁執行部も各部会とがっちりとスクラムを組ませて頂いておる積もりですが、それでも、県弁執行部がついつい福岡中心に偏った発想に陥りがちなときなど、遠慮無く指弾して頂きたいものです。

◆給費制に込めた信念すでにご報告致しましたが、司法修習生の給費制問題は、さる11月26日、暫定的に1年間延長するとの議員立法が成立し、ひとまずの決着を見ました(延長戦突入です!)。昨年中の会員の皆さまの絶大なるご理解とご支援に、重ねて厚く御礼申し上げます。11月29日には、新64期生の修習開始式が執り行われましたが、その日の朝一番で、修習生の沢山のみなさんが当会会館に来館して、心を込めた当会あてのお礼状を届けてくれました。書面を見て思わず目頭が熱くなり、また、全国のここかしこで喜びに満ちた光景が繰り広げられているのだろうと思うと、まことに感慨深いものがありました。一部新聞報道では、給費制問題があたかも政党間の取引材料とされた結果として難しい国会情勢のもとでも法案が通ったのだ、との書きぶりでしたが、決してそんなことはありません。半年余に及ぶ必死の運動、各党議員への説明・要請行動等々の積み重ねがあって、そして各政党に万遍なく給費制の重要性について理解・賛同する国会議員が沢山出てきた状況があったからこそ、奇跡的とも思える立法措置が叶ったのです。「混迷の時代であるからこそ、信念を持った者の志が通るのだ。」と、宇都宮日弁連会長の言葉です(12月の日弁連理事会)。給費制の延長期限は本年10月末です。これから設置される政府内での検討会議を主戦場として、法曹養成制度全体の在り方についての検討や、修習生に対する経済的支援の在り方についての検討が急ピッチでなされてゆきます。もちろん、日弁連も当会も、これからも給費制の維持を目標として戦い抜く決意です。どうか、本年も、引き続きご理解とご支援を頂きますようお願い致します。

2010年12月 1日

「精神科医療を動かすもの‥『社会的入院』の解消に何が必要か」~精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム~

精神保健委員会 委員 野 中 貞 祐(57期)

1 10月18日、午後1時より、天神ビル11階会議室において、 精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム「精神科医療を動かすもの‥『社会的入院』の解消に何が必要か」が開催されました。  当日は、法曹関係者、医療関係者、福祉関係者、当事者等約130人の方に参加頂き、事前に用意していた席数が足りなくなるほどの盛況ぶりでした。

2 司会を務めた当会の吉武みゆき会員の進行に従い、まず、当会の市丸会長の開会の辞、続いて九州弁護士会連合会の当山理事長の来賓挨拶がありました。 いずれも当会が全国に先駆けて実施してきた精神保健当番弁護士制度につき、その意義、重要性及び今後の全国への発展等を祈念するすばらしい内容のものでした。

3 その後、九州大学大学院法学研究院助教の内山真由美さん、大阪精神障害者連絡会の塚本正治さん、医療法人卯の会新垣病院院長の新垣元さん、厚生労働省精神障害保健課課長補佐の川島邦裕さん、福岡県精神保健福祉センター所長下野正健さんから、それぞれ講演を頂きました。諸外国との比較による我が国の精神医療の立ち後れのシンボル的数値である「精神病床数33万床余り、平均在院期間約350日」という数字を中心にして、それぞれの講演者が自己の見解を示して、社会的入院につき特色のある講演をして頂きました。特に塚本さんと新垣さん、川島さんとでは見解が分かれ、非常に興味深い内容となりました。

4 講演に続いて、コーディネイターとして当会の八尋光秀会員を迎え、上記5名の講演者をパネラーとしてパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションは、まず、各パネラーが講演で言い足りなかったことなどを5分程度で補足する発言を行ったうえで、事前に会場から集めた質問をコーディネイターが集約して、各パネラーに発言を求めるという形をとって進行しました。ここでも塚本さんと、新垣さん、川島さんとでは見解が鋭く対立し、非常に盛り上がりをみせました。精神障害者が退院をしたくても家を借りられないから結局退院できないという極めて現実的な問題につき、なぜ、行政がもっと力を貸してくれないのかという塚本さんの訴えに対しては、会場からも大きな共感がわき、それに関連して活発な発言が会場から起こりました。それらを巧みに集約しつつ進行する八尋会員のコーディネイトにより、家主はなぜ精神障害者に対して賃貸するのをいやがるのか、保証人に対してはどの範囲につき保証をして欲しいと考えているのかなどについて、しだいに議論が深まっていきました。また、県営住宅における精神障害者の受入れが進まないことについては、この問題について、当会が弁護士会としてどのような活動をしているのかという質問が会場から出され、当会の森豊会員(現精神保健委員会委員長)や宇治野みさゑ会員(前精神保健委員会委員長)が回答するなどして、議論は大いに盛り上がりました。もっとも、議論が際限なく発展する様相を見せると、八尋会員が巧みに集約し、パネルディスカッションは、当初の予定どおり4時45分ころ終了しました。パネルディスカッションは、コーディネイターが議論を集約するという形で終了する予定でしたが、それに加え、パネラーの塚本さんが「檻の庵」という歌を歌うというサプライズ演出がありました。私は、少しもの悲しい「檻の庵」という歌の歌詞の中で、30年間精神科病院に閉じこめられた人の時代認識の象徴として用いられていた「100円札でおつりをくれる駄菓子屋」というフレーズがとても耳に残りました。

5 シンポジウムは、当会の森会員の閉会の辞で終了し、その後は、懇親会に席を移しました。懇親会では、シンポジウムで鋭く見解が対立した方々もうち解けた雰囲気となり、とても楽しい時間を過ごすことができました。

6 本シンポジウムは、前回の平成21年2月28日のシンポジウム以来、約2年ぶりのものであり、開始前には、参加者がどれくらい集まるか心配していました。しかし、当日は、約130名もの方に参加を頂き、大成功に終わりました。これは、森豊委員長をはじめ、シンポ実行に携わった精神保健委員会委員の努力と、コーディネイターをつとめて頂いた八尋会員及び各講演者(パネラー)が、そもそも社会的入院という言葉を使うかどうかという基本的なところから打ち合わせを重ね、問題意識を共有したうえでシンポジウムに臨んだという各位の尽力の賜物といえるでしょう。

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