福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

当番弁護士日誌

会員 中野 俊徳

1 事案の概要

昨年12月、現住建造物等放火罪の被疑者弁護において、不起訴処分(嫌疑不十分)との結果を得ましたので、報告します。

まず、事案の内容につきましては、ごく概要に留めさせていただきますと、被疑者が自宅(借家)でうっかり火事を起こした後、いったんは消火活動を行ったが、火を消すことができなかったという事案です。

そして、被疑者がその2日後、自ら警察署に出頭したところ、火事を起こした後に放置したとの不作為の放火(現住建造物等放火)の被疑事実で逮捕されました。

2 毎日の面会

逮捕が新聞で報道されたことを受けて、逮捕の翌々日には、美奈川先生が弁護士会派遣の当番弁護士として面会しました。

そして、被疑者が作為の放火の容疑で取調べを受けており否認事件となることから、美奈川先生が弁護人となられましたが、地元の私にも声をかけていただき、私も弁護人となって2名での弁護活動になりました。

弁護活動の内容は、連日の面会を行い、作為の放火を認めた虚偽の内容の自白調書を被疑者が取られないように精神的にサポートすることが中心でした。

そこで美奈川弁護士と私とで分担して、20日の勾留期間のうち最終日を除く19日間、毎日面会を行い、お互いの接見メモをファックスでやり取りしました。

被疑者も最初のうちは顔色も良かったのですが、連日の取調べを受けて、時々気弱な発言をすることもありました。

しかし、被疑者は、一度嘘を言ってしまえば、嘘を説明するために次々に嘘を重ねてしまうことになる、だから自分は嘘を言わない、と自分自身に言い聞かせ続け、最後まで虚偽の自白はしませんでした。

なお、被疑者には被疑者ノートを差し入れていましたが、被疑者が毎日の取調べの内容をこまめに書き込み、面会時にも被疑者ノートを持参して、前日に書いた内容を参照しながら話をしてくれましたので、私達弁護人も取調べの内容を比較的詳しく把握することができました。

面会の他の弁護活動としては、火事の発生時に同じ屋内にいた被疑者の知人に火事の発生前後の話を聞いたり、火事の発生現場を実際に見に行ったりもしました。

一方、警察の捜査は取調べの他に、勾留4日目にポリグラフ検査を行い、勾留19日目には警察署の道場で火事発生時の動きの再現写真を撮り、また消防局で火事発生現場を再現した火災実験を行いましたが、被疑者が火事を故意に起こしたという証拠や被疑者が火事を放置して逃げたという証拠は得ることができていないようでした。

3 勾留満期直前の出来事

この勾留19日目には、弁護活動でヒヤリとしたことがありました。

この日、私が面会を申込み、面会室でこれまでの接見メモを読み返しながら被疑者が来るのを待っていたところ、気づいたら10分経っても被疑者が来ません。

そこで、文句を言おうと思ったところに被疑者が面会室に入ってきたのですが、ナント、火災実験についての調書を作成していて、被疑者が調書の一部の表現に対して訂正を求めていたところ、取調官がニュアンスの違いだと言って応じず、その取調官は私が面会室にいることを知りながら調書の作成を優先し、調書に半ば強引に被疑者の署名指印を取ったというのです。

被疑者の話によれば、取られた調書自体は被疑者にそれほど不利な内容ではありませんでしたが、このような取調官の態度を放置しておくわけにもいきません。

そこで私は事務所に帰ってすぐ、厳重抗議の文書を地検の支部長宛にファックスしました(美奈川先生には事後報告です)。

今考えますと、ファックスするよりは、すぐに取調官のところに行き、直接抗議をしたほうが良かったのかもしれないと反省しています。

しかし、このときは、これまでの経験上、警察官にいくら抗議しても暖簾に腕押しといった状態でむなしい気持ちになることが多かったので、ついついファックスでの抗議に留めてしまったというのが正直なところです。

4 処分保留で釈放

私が被疑者の話を聞く限り、警察は作為の放火の決定的な証拠は掴んでいないように感じていましたし、不作為の放火で構成するにしても、消火活動をせずに放置して逃げたという証拠も無いように感じていました。

ですから、私としては、勾留期間の満期が近づくにつれ、これは起訴されずに釈放されるのではないかとの希望的観測を持つようになっていました。

しかし、その一方で、警察が勾留19日目にわざわざ火災実験等までしていましたので、もしかしたら、警察が決定的な証拠を隠し持っているのかもしれないという、漠然とした不安も持っていましたし、現住建造物等放火罪という重罪の否認事件ですから、もしかしたら公判前整理手続を経験することになるのではないかとすら思っていました。

そこで、勾留20日目の午前、検察庁に起訴の予定について尋ねたところ、被疑者を昼過ぎに処分保留で釈放するとの回答が返ってきたのです。

処分保留というところに一抹の不安は感じましたが、とりあえず、ほっとした気持ちでした。

5 釈放後の出来事

被疑者が釈放されて3日後、被疑者から電話があり、何事かと思って被疑者の話を聞くと、取調官に呼ばれたので、同行して欲しいというのです。

そこで私が取調官に電話して確認したところでは、押収していた被疑者の靴等を返還するためだということでした。

しかし、処分保留の状態だということもあり、被疑者はとてもナーバスになっていて、私が同行しなければ怖くて警察署に行けないと強く言うので、私は警察署に同行して、押収物の返還手続に立会いました。

その帰り道、被疑者が「先生が同行していなければ、警察は自分を再逮捕していたかもしれない」と言っているのを聞き、私の想像以上に逮捕勾留の精神的負担が被疑者にはあったのだろうなあと感じました。

そして、被疑者が釈放されて9日後、私が検察庁に処分を確認したところ、嫌疑不十分で不起訴処分とするとの回答でした。

早速被疑者に電話で連絡すると、とても弾んだ声で「ありがとうございました」とのお礼の言葉が返ってきました。

6 感想

今回は、逮捕勾留の被疑事実が不作為の放火でありながら、取調べでは一貫して作為の放火ではなかったのかという点が追及されていました。

それで、私としては、捜査機関の真意を探る意味で、勾留理由開示請求が頭をよぎることがありましたが、結果としては、主に連日の面会しかできませんでした。

しかし、振り返って思うに、この連日の面会が無ければ、接見禁止が付いていた被疑者を孤独にしてしまい、あるいは虚偽の自白をしていた可能性もあります。

ですから、私にとって今回の弁護活動は、弁護活動における面会の重要性を再認識する良い機会となりました。

その意味で、私に声をかけて下さり弁護団を組んで下さった美奈川先生と、弁護人2名の被疑者弁護援助を認めていただいた法律扶助協会福岡県支部に感謝しています。

また、被疑者ノートのおかげで、面会時に取調べの内容をより正確により詳しく把握することができたと思います。

ですから、否認の被疑者弁護には被疑者ノートを差し入れることが重要であることも再認識できましたし、皆様にも被疑者ノートの差入れをお勧めいたします。

『あなたはチクリますか!?』

−依頼者密告法案(ゲートキーパー制度)問題、重大な局面を迎える−

福岡部会 会員 山崎 吉男

1  皆さん、ゲートキーパー制度って知ってますか?多くの皆さんが、ご存じないか、なんか名前はきいたことあるよね、程度の認識のことと推察致します。

2003年6月20日、OECD加盟国を中心とする31国等が参加する政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)が、弁護士、公認会計士などの専門職に対して、顧客の本人確認義務及び記録の保存義務と、マネーロンダリングやテロ資金の移動として疑わしい不動産売買、資産管理等の取引について、各国に設置されるFIU(金融情報機関)に報告する義務を課すことを定める勧告(改正)を出しました。このように、民間の専門職をゲートキーパー(門番)として、違法な資金移動を監視させ規制しようとするのが、ゲートキーパー制度です。

「テロ対策。うん、それは、良いことですね」と、思う方も多いかな。

2  それで、悪い国際法規にはよく従う日本の政府のことですから、それじゃぁ、早速我が国でも、ゲートキーパー制度を導入しなくては、ということで、2004年12月10日、政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は「テロの未然防止に関する行動計画」なるものを策定し、その中で専門職に対してのFATFの先ほどの勧告を完全実施することを決定しました。そして、2005年11月17日には「FATF勧告の実施のための法律の整備について」の決定で、その骨子を定めました。

この骨子では、疑わしい不動産売買、資産管理等の取引の報告先であるFIU(金融情報機関)を現在の金融庁から警察庁に移管することとし、FIUが十分な機能を果たすために必要な体制を確保する、と定められています。

もう「それは良いことですね」なんて思う方は、一人もいませんよね!!

そうです、ゲートキーパー制度は、依頼者を密告する制度であり、しかも、弁護士を「岡っ引きの犬」にまで、堕落させてしまうのです!!

3  この「疑わしい取引」を警察へ密告するという制度は(依頼者へは報告したことを黙って無くてはいけないんです。)、弁護士・弁護士会の存立基盤である国家権力からの独立性を危うくする(この点は、日本司法支援センターと全く同じですね。)だけでなく、弁護士としての職業の存立基盤を破壊するものです。

−弁護士という職業の中核的価値は、単に法律に関する専門知識を有するというだけではなく、公権力から独立して依頼者の人権と法的利益を擁護することにある。

その職責を全うするため、弁護士は、依頼者に対して、職務上知り得た依頼者の秘密を保持する義務があり、これは国家機関を含む第三者に対する関係では、重要な権利でもある。弁護士に厳格な守秘義務があり、かつ、それが法的に保障されているからこそ、依頼者は弁護士にすべての情報を包み隠さず開示することができる。

そして、そのような依頼者の全面的な情報開示があってはじめて、弁護士は効果的にその任務を遂行することができるのであり、すべてを打ち明けてもらうことで依頼者に合法的な行動をするよう指導することができる。これを依頼者である市民の立場から見ると、秘密のうちに弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受ける権利を有していることにほかならない。それは、弁護士としての依頼人に対する重大な職責であって、このことは、1990年12月に行われた国連の第45回総会決議『弁護士の役割に関する基本原則』の中でも「完全に秘密を保障された相談において、適切な方法で依頼人を援助し、彼と彼らの利益を守るための法的行為を行うこと」をもって、弁護人の依頼人に対する義務である旨述べているところである。

− (2006年1月18日前川副正敏会長声明から抜粋)

『疑わしい』取引というだけで、いつなんどき、こそっと警察にチクるかも知れないヤツに、誰が重要な相談をするもんですか!!

4  この依頼者密告制度については、イギリスでは既に1993年から存在し、2001年のEU指令により仏、独、ポルトガル等のほとんどのEU諸国で国内立法化されたこともあり(アメリカ等は作っていません。)、日弁連は、国内法化が進められたら、個々の弁護士の直接の報告先を「弁護士会」として弁護士会からFIU へ報告するような制度にしてもらいましょう(と、いつものように最初から崖っぷちまで退いて)、との姿勢でさしたる反対行動はしていませんでした。

ところが、上述の2005年11月17日の決定「FATF勧告の実施のための法律の整備について」によって、FIUが警察庁に移管することとされて、あわてて同月18日の日弁連会長の反対声明を皮切りに、各単位会でも同月22日の沖縄弁護士会の会長の反対声明から始まって各地で反対声明をあげ、上述のように今年の1月18日に福岡県弁も反対の会長声明を出しました。

もう崖から突き落とされたのですから、あとは、死に物狂いで崖から這い上がるしかありません(這い上がっても、また崖っぷちに止まっていては、いけませんですよ。また、いつ、突き落とされるか分かりませんから)。

5  そして、この依頼者密告制度はすでに立法化の具体的スケジュールが決まっており、法案が来年度の国会に上程される予定です。

日弁連では、5月26日の第57回定期総会において「弁護士による警察への依頼者密告立法(ゲートキーパー立法)を阻止する決議」(まだ、案の段階ですので仮題です)を上程する予定です。

また、県弁でも5月24日の定期総会において、反対ないし阻止決議を上程する予定になっております。

是非、みなさんも、顧客やお知り合いの方々、特に議員さん等へ、「大変だ!大変だ!大変な悪法ができそうだ。おい、君も困るだろう。絶対に潰さにゃいかん」と宣伝してください。

代監って知ってますか ー3・31市民集会報告ー

平成18年3月31日 福岡県弁護士会館3階ホールにて

会 員 村井 正昭

3月31日「代用監獄の廃止を求める市民集会」を弁護士会館3Fホールで開催しました。

主催者の心配を余所に、3Fホールが満席となる盛会となりました。

「代用監獄「拘禁二法」という言葉を知らない会員もいるのではないでしょうか。」、

会報29号に「拘禁二法に反対する市民集会」(1992年3月24日開催)の写真が掲載されています。

982年「刑事施設法」「未決拘禁施設法」が国会に上程され、併せて、警察庁が「警察拘禁施設法」を上程準備されていることが発表されました。これらの法案は、弁護人との接見交通権を著しく阻害するものであり、日弁連を先頭に、全国の弁護士会が反対の声を上げました。  既決については、刑事施設法が成立しましたが、未決に関する立法については、代用監獄の廃止を強く主張する弁護士会と代用監獄の温存、恒久化を望む法務省、警察庁との対立が続き、立法が見送られてきました。

警察に設置されている留置場が代用監獄と呼ばれるのは、明治41年、監獄法施行時に「警察署に附属する留置場はこれを刑事施設法に代用することを得」とされたことに由来するもので、明治政府の財政理由から、全ての未決を収容しうる拘置所を建設する予算がなかったために「代用」を認めたもので、将来は廃止すべきものとされていました。

私たちは、夜間休日の接見が自由なため、拘置所よりは代監が便利であり、接見を重ねることを重視しがちです。

また、接見の便利さから、取調の可視化が実現すれば、代監でも問題なしとの声もあります。

集会での4人の方の報告を聞くと、このような考えが、いかに甘いかを思い知らされました。

残念ながら、法案は衆議院を通過しました。

しかし「代監を将来に向け、廃止すべき」との付帯決議があります。

この付帯決議をテコに、引き続き、代監廃止を訴えて行く必要があります。

これが、21世紀に至るも存続し、恒久化しようというのが今通常国会に上程された「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律」であります。

警察庁は、代用監獄の恒久化から更に一歩進め、独自に、大規模な「警察留置場」を設置しようという動きを示しています。「代用監獄は冤罪の温床」と指摘されています。

捜査機関である警察が、同時に、身柄を監督し、長期間、長時間の自白強要のための取調を可能としています。

死刑再審事件は、代監の下で発生しています。

捜査機関と拘禁者の身柄を拘束する機関とを分離すべきというのは、国際的な常識であります。

今回の立法は、歴史の流れに逆行するものです。

3月31日の集会では、安田好弘弁護士、鹿児島の公職選挙法違反事件の女性被疑者に体験談を語っていただき、武内謙治九大助教授、甲木真哉会員に報告をいただきました。

安田弁護士は「弁護士の接見よりも取り調べは時間と空間を容疑者から奪い、圧倒的不利を与える」と語り出し、警察留置場の設備、監視実態を具体的に報告されました。

留置場には机もなく、筆記用具も自由に所持できません。弁護人が記録を差し入れしても、被疑者がそれを十分に検討することはできないのです。

女性体験者は、「拘置所は食事も手作り、本の貸出しもあるし、外の空気にも接することができる」と語り、警察留置場の厳しさを報告されました。

2006年3月29日

英国留学帰国報告(後編)

会員 松井 仁

留学報告の最後になる今回は、留学全体を振り返っての感想や裏話を、質問と答え形式で書きたいと思います。将来留学したいと考えている方の参考にでもなれば幸いです。

一 そもそも、なぜ留学したのか?

ロンドン大学にも、日本人弁護士は数人留学してきていましたが、皆、東京の渉外事務所からの派遣でした。そういう人たちからも、よく「なぜ自腹を切ってまで留学するんですか?」と聞かれました。また、弁護士以外の人からは「いっぱい勉強して司法試験にも受かって弁護士の資格があるのに、またわざわざ大学に行くのはなぜですか」と言われました。あえて答えると、「趣味」としか言いようがありません。大学のころから、留学することは私の夢だったのです。また、弁護士になってからも、私は趣味で英語の勉強を続けていましたが、やればやるほど、一度本場で、基本から英語を勉強しなおしたい、そして正しい法律英語を覚えたい、という思いが募っていたのです。

二 なぜアメリカでなく英国だったのか?

実をいうと、第一の理由は、ついでにヨーロッパ中を旅行して回りたい、という不純な動機でした。私は、弁護士になって毎年どこかへ海外旅行に行っていましたが、ヨーロッパには一度も行っていませんでした。それは、英国留学のときのためにとっておいたのでした。第二の理由は、英国の歴史と街並み、田舎の風景に憧れていたからです。先に留学されていた九大の大出教授や当会の池永先生の影響もあるかもしれません。イギリス英語も、アメリカ英語に比べればどこか知的な雰囲気がして格好いいと思いませんか? しかし、それでも、「アメリカに行って弁護士資格をとるべきだ」というアドバイスを周りから受けたときは心が揺れました。アメリカではLLMに一年行ったあと、弁護士資格がとれますが、英国では少なくとも四年はかかります。しかし、そのころお会いした新潟大の鯰越教授から「人権ならアメリカよりヨーロッパだ」と聞き、ビジネスロイヤーになろうかという邪まな考えを捨て、趣味を貫く決意を固めました。

三 木上法律事務所でかかえていた仕事はどうしたのか?

それを言われると本当に心が痛みます。事務所を出て留学するという勝手な行動を寛容に許していただいた木上先生や、事務所での私の担当事件を引き継いでいただいた増永先生、徳永隆志先生、張替先生、大倉先生、そして留学中の事務的なことを担っていただいた事務局の皆様には、感謝してもしきれません。また、個人事件については、留学の約一年前から当番弁護士、国選、法律相談センターの当番を免除していただいたおかげで随分減ってはいましたが、なお残っていた事件は大倉先生に引き継いでもらいました。さらに、弁護団関係では、HIV訴訟で原田先生に、中国残留孤児連れ子訴訟で大塚先生と大倉先生に、国際委員会では、上田秀友先生に外国人リーガルサービスセンターの仕事を、それぞれ引き継いでいただきました。

この他にも、ご迷惑をおかけしてしまった人はたくさんおられ、これらの方々の協力なくして、留学はできなかっただろうと思います。

四 大学に入学を認められるのは難しかったか?

英国の大学には入試はありません。自分の出身の大学の成績表と、恩師や先輩弁護士による推薦状を願書に添付して申し込めば、よほどのことがない限り、学術面では合格します(弁護士資格を有することも大きなプラス要因です)。ただし、曲者なのは、一定の英語のレベルが要求されることで、法学部は特に要求される英語テストのスコア(TOEFLE や IELTS)が高いのです。しかし、多くの大学が英語のできない留学生のための基礎コースを準備しています。ですから、二年の留学期間があれば、ほとんど英語ができなくても、最初の一年目は基礎コースに行き、二年目にLLMに進学するということは十分可能です。私もそうだったのです。

五 費用はどのくらいかかったか?

私たちは夫婦二人で留学し、どちらも二年間大学に通いました(妻は、児童文学の修士コース)。結果的に、二人合わせて、一年間あたり貯金が約一〇〇〇万円も減りました。具体的には、一年間の学費が約四〇〇万円(書籍なども含み一人当たり約二〇〇万円)、家賃が二四〇万円(一ヶ月二〇万円)、食費が約一二〇万円(一ヶ月約一〇万円)、光熱・通信費が約六〇万円(一ヶ月五万円)、交通費が約二〇万円(一ヶ月約一万七千円)、日本で払っている弁護士会費が約六〇万円(一ヶ月約五万円)、国民年金等が約四〇万円、残りの六〇万円(一ヶ月五万円)ほどが娯楽費ということになります(旅行のときは、これをオーバーすることも多いですが)。

私たちの方針は、できるだけ留学を楽しむということでしたので、家は環境のいい郊外の街の一軒屋の二階部分(一ベットルームだが六〇平米ほどある)を借り、外食も時々しましたが、特に贅沢な暮らしをしていたわけではありません。とにかくロンドンの物価は高いのです(世界一と言われており、実感としては福岡の二倍くらいです)。

もし、ロンドンを避けて地方都市の大学に留学し、単身で大学の寮に住み、外食は原則として学食だけという生活をすれば、一人当たり、一年間で三〇〇〜四〇〇万円くらいで済ませられるかも知れません。

六 旅行はたくさん行けたのか?

旅行はこの留学の大きな目的のひとつでしたが、学期中は、予習や宿題に追われて、旅行に行く暇はなかなかありませんでした。しかし、長めの春休み、夏休み、冬休みには、できるだけ旅行に行くようにしました。英国内では、ウィンザーやグリニッジなどロンドンの郊外や、日本人に人気のコッツウォルズや湖水地方、大学町オックスフォードやケンブリッジ、英国の庭園と呼ばれるケント州など。ヨーロッパでは、フランス、スイス、オランダ、スゥエーデン、イタリア、スペイン、ベルギーを夫婦で旅行し、昨年六月に双方の両親が来たときにはヨーロッパをユーレイルパスで三週間の鉄道旅行をし、上記に加えてドイツ、オーストリア、ハンガリーまで足を伸ばしました。この家族旅行では、私たちが案内役を務め、今回の留学で心配をかけている親への罪滅ぼしをすることができました。

七 留学して得られたものは?

前回、大学の授業によって視野が広がったこと、世界各国からの友人を得られたことは書きました。それに加え、今回の留学は、私にとっていろいろなものを「見つめなおす」ことのできた貴重な機会であったと思います。

まず、自分自身を見つめなおすことができました。私は、それまで日本で弁護士として一〇年余り生きてきましたが、世間は、「弁護士」という肩書きを持つ者に一目おき、私もその恩恵を被っていました。しかし、留学中は、私は一人の学生に戻り、しかも英国では民族的少数者でした。そこでは肩書きは関係なく、一人の裸の外国人として他人と交わっていかねばならず、今まで認識していなかった自分の欠点にも気づかされました。次に、日本を見つめなおすことができました。日本にいるときは、英国は紳士の国、大人の国というイメージが先行し、すばらしい国であるかのように思っていましたが、実際住んでみると、そうとは限らず、日本の優れた点をいろいろ発見しました。最後に、法律家の仕事を見つめなおすことができました。日本で日々のルーティンワークをしていると忘れてしまいがちな、法というもの奥深さや面白さが再確認できました。

もう少し早く留学しておけば、もっと英語の覚えもよかっただろうとは思いますが、三六歳での留学でも、使った時間とお金に見合う十分な意義があったと思います。皆さんも、ぜひ留学されることをお勧めします。

長い間読んでいただき、どうもありがとうございました。

最高裁は何故期限の利益喪失特約でみなし弁済の成立を否定したのか

会員 本田 祐司

一、最高裁第二小法廷平成一八年一月一三日判決、同第一小法廷平成一八年一月一九日判決及び同第三小法廷平成一八年一月二四日判決は、「元本又は利息の支払を遅滞したときには、当然に期限の利益を失い、直ちに元利金を一時に支払う」という期限の利益喪失特約は、「債務者に対し、支払期日に約定の元本及び制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の利益を喪失し、残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになるとの誤解を与え、制限超過部分の支払いを事実上強制する特約であるから、この特約の下で、債務者が、利息として、制限超過部分を支払った場合には、右のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り、債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできない」と判示し、この特約に基づく支払いにみなし弁済(貸金業法四三条)の成立を否定した。

債務者に右のような誤解が生じなかった場合には、右最高裁判決によっても、なお、みなし弁済は成立することになるが、制限超過部分を支払わなくとも期限の利益を喪失しないことを正確に理解している債務者が、あえて制限超過部分を支払うことは通常はないから、今回の最高裁判決は、みなし弁済規定が適用される場面が事実上はないことを認めたに等しい判決である。

二、これまで、これと同一の争点が下級審の裁判所で争われたことは何度もあったが、高等裁判所を含め、これまでの下級審裁判所の判決は、ことごとく、右特約に基づく支払いに任意性を認め、みなし弁済の成立を認めるものであった(最高裁平成一六年二月二〇日判決の補足意見で滝井裁判官が、初めて、今回の最高裁判決と同一の判断を示したが、それまでは、この争点で債務者が勝訴するなどとは誰も考えていなかった)。

その意味で、今回の最高裁判決は解釈が固まっており、ほとんど異論のなかった多数の裁判所の判断を一八〇度変更したものであり、異例中の異例の判断である。

最高裁が、今回、このような思い切った判決を書いた理由は、次に述べるとおり、貸金業法のみなし弁済規定が、あまりにもできの悪い法律であるために解釈で救うことには限界があったためであると思われる。

三、貸金業法は、貸金業者に、契約書面と受取証書に高利の約定が有効であることを前提とした記載を求め(貸金業法一七条、一八条)、高利の約定が有効であることを前提とした業務を営むことを求めている。そして、この義務を遵守した貸金業者にみなし弁済の恩典を与えている。一方、貸金業法は、貸金業者に、利息制限法に従った業務を営むよう求めてはいない。したがって、現行の貸金業法の下では、高利の貸金業者が高利の約定が有効であることを前提とした業務を営むことはむしろ当然のことであり、期限の利益喪失の特約についてもしかりであった。

これまでの下級審の裁判所は、高利の約定が有効であることを前提とした業務を忠実に営んでいる貸金業者にみなし弁済の恩典を与え続けてきたのである。

しかしながら、高利の約定が有効であることを前提とした貸金業者の業務は、期限の利益喪失特約の適用場面で論理的に破綻をきたすことになる。「高利の約定それ自体は、みなし弁済の成立によって有効とみなされる」が、「高利を前提とする期限の利益喪失特約は、たとえみなし弁済が成立しても有効とはならない」ので、期限の利益喪失特約を文言通りに適用する業務は、貸金業法上も違法だからである。このことは、「債務者が約定の利息支払期日に制限額は上回るが、約定額には不足する利息しか支払えなかったケース」を想定してみれば明らかなことであって、貸金業者の高利の約定の有効を前提とする業務と期限の利益喪失特約とは、どうしても両立し得ない関係に立つのである。

四、制限超過利息の約定は制限超過部分につき無効であるが、これを任意に支払えば有効とみなされるというみなし弁済規定では、制限超過部分の不払いによる期限の利益の喪失を説明できないのである。

今回の最高裁判決は、弁護団が最高裁に対して、右の理論的説明をしつこく求め続けたことと、最高裁がこの点の矛盾にようやく気付いてくれたことの成果ではないかと思われる。

公設事務所IT日記

島根県弁護士会会員 田上 尚志

お久しぶりです。元?HP委員会の田上です。去年の一月から島根県浜田市の浜田ひまわり基金法律事務所に派遣され、はや一年間が過ぎました。島根県は、東部の出雲地方(県土の三分の一、県民人口のおおよそ六〇パーセント)と西部の石見地方(県土の三分の二、県民人口のおおよそ四〇パーセント)に分かれています。浜田市は、石見地方の中心都市です。もっとも、出雲地方は、松江城や小泉八雲など、観光地として有名で、県庁所在地でもある松江市や、出雲大社などがあり、結構観光客などで賑わっています。これに対して、石見地方は……。あっ、津和野は島根県です。断じて山口県ではありません。まあ、とにかく、島根では出雲に比べて石見が地味な印象があることは否めません。これが弁護士の分布ということになると、登録三二名中二六名が出雲地方、これに対して石見はわずか五名です。決して計算を間違えたわけではなく、もう一人は隠岐に事務所を開いています。

こんな事情の島根県浜田市ですが、一年間暮らしてみて、弁護士過疎地では都市部以上にITの活用が必要というか不可欠なのではないかと思う今日この頃です。  その理由として、第一に、石見地方は過払い無法地帯です。今まで弁護士がおらず、相談に行くところがなかったからか、過払金返還請求権の桁が違います。統計を取っているわけではないので多分に感覚的なものですが、少なくとも半数以上が純粋に過払い元金だけで訴額一四〇万円を超えていると思います。サラ金業者が開示した取引履歴にS五八…とか、S五九…という文字がしばしば躍ります。過払い金計算ソフトがなければとてもやってられません。

第二に、移動が多く、しかも時間がかかるので、待ち時間を有効に活用するには小型軽量のノートパソコンが必需品です。県庁所在地が松江なので、裁判で松江に行く機会も多いのですが、松江と浜田を結ぶ特急は一日に七本しかありません。博多までJRの特急が二〇分おきに発車し、三〇分おきに天神まで西鉄の特急が発車していた大牟田時代が夢のようです。二枚切符や四枚切符など、あるわけがありません。私は浜田市ではなく、妻の実家がある隣町の益田市に住んでいるのですが、最初の松江出張のとき、「松江までの四枚切符を下さい」と駅員さんに言ったら、「そんなものはありません」と言われてしまいました。「福岡にはあったのですが」と食い下がったら、「うちはJR西日本ですから、JR九州のことは知りません」と返答されました。もっともなことです。こんな状況なので、期日が終わっても列車(電化されていないのです)の時間まで一時間半くらいあるということもしばしばです。そんなときは、裁判所の弁護士待合室で起案に励む時もあります。また、なにしろ島根県には弁護士が少ないので、私のような登録後間もない者でも、日弁連の委員に選任されます。東京に行く際、出発時間の関係で寝台特急のサンライズ出雲を利用し、移動時間中に寝台車の個室の中で起案することもあります。最近、私のノートパソコンに重要な周辺機器が加わりました。USB接続の一二〇GBハードディスクです。判例秘書のデータが丸ごと入ります。USBから電源も供給するので、ACアダプタも不要です。これに判例秘書のデータを入れて持ち運べば最強のモバイル環境でしょう。

げっ、延長コードを持って来るのを忘れた!。

全国一斉先物取引被害・外国為替証拠金取引被害110番報告

会員 柳 教 日

一 全国一斉先物取引被害・外国為替証拠金取引被害一一〇番について、ご報告させていただきます。

福岡部会及び筑後部会では、平成一八年一月二六日と二七日の両日に、北九州部会では、同月三〇日に、全国一斉先物取引被害・外国為替証拠金取引被害一一〇番の電話相談が実施されました。

二 全部会の相談件数は、合計五六件に上りますが、取引別の内訳は、先物取引被害相談が四四件、外国為替証拠金取引被害相談が二一件、その他が一六件となります。今回の相談件数は、例年よりも多かったとのことです。

なお、北九州部会では、ライブドア株主からの相談が、八件ありました。インターネットの一部HPで、相談に乗ってもらえるような記載があったためらしいとのことです。

三 相談者の年齢層は、確認された限りでは、三〇代が四件、四〇代が五件、五〇代が一一件、六〇代が一〇件、七〇代以上が七件となります。

当然のことながら、先物取引被害・外国為替証拠金取引被害に遭うには、ある程度の蓄えがあることが前提になりますから、相談者の年齢層が五〇代以上に偏ることになりますが、しかし、その蓄えたお金は、老後の生活の糧としての意味があることを考えると、被害は深刻といえます。

四 被害額についてみると、九九万円以下が四件、一〇〇万円以上四九九万円以下が一三件、五〇〇万円以上九九九万円以下が一〇件、一〇〇〇万円以上一九九九万円以下が七件、二〇〇〇万円以上二九九九万円以下が二件、三〇〇〇万円以上四九九九万円以下が五件、五〇〇〇万円以上九九九九万円以下が二件となり、高額の被害が目立ちました

取引別・年齢層別の被害額の特徴についてみると、外国為替証拠金取引では、九九九万円以下が主流を占めるのに対し、先物取引においては、被害額が数千万円単位に上るものが散見されました。

もっとも、外国為替証拠金取引被害では、会社が倒産しているため、損害の回復については微々たる金額で甘んずるしかない事例が多くありました。

先物取引被害では、前述のように被害額が数千万円単位に上るのが散見されましたが、加えて、このような高額の被害者が高齢者に偏っているという特徴があります。

五 以下、若干の感想を述べたいと思います。

まず、外国為替証拠金取引被害相談では、前述のように会社が倒産している事例の場合、相談者が期待するアドバイスができず、相談者のため息を聞きながら、不甲斐ない気持ちになりました。相談者の側から素朴に考えると、会社が倒産したとしても、彼らが出したお金は燃やさない限りどこかにあるはずですから、そのお金を返してほしいと思うのは当然だと思います。彼らを救う手立てが考え出されて然るべきなのでしょうが、しかし、如何せん知識、経験不足ゆえ、私には、良い考えが浮かびません。

次に、電話相談されたほとんどの方が、取引の仕組みを理解していないようにみえ、そもそも、なぜ、高度な専門的知識と経験が必要な先物取引や外国為替証拠金取引が一般人を相手に堂々と行われているのか、という疑問を深くしました。欧米諸国では、先物取引を行うのは、八割が専門業者なのに対し、日本では、一般人が八割を占めているとのことです。法制上の欠陥があるように思われるのですが。

最後に、短時間で相談者の話を聞き取り、事案を把握することの難しさを実感しました。ベテランの先生方が横について、適切なアドバイスをしてくださったのですが、それがなかった場合を想像すると、ぞっとした気分になりました。

先輩の諸先生方、ありがとうございました。

2006年1月22日

英国便りNo.13 「動物の権利」と「人間の権利」論争(2004年9月29日記)

刑弁委員会の皆様

松井です。

暑かった日本も、天高き爽やかな秋が訪れていることと思います。

ロンドンは肌寒い日が続いています。(九月半ば、まだ夏の太陽が照りつけていたイタリア旅行から帰り着いたとき、あまりの気温の差に冬が来たのではないかと思ったくらいです。)

さて、今回は、イギリスでの動物の権利をめぐる最近の動きについてお伝えしたいと思います。

日本でも報道されたかも知れませんが、九月一五日に、ロンドンの国会議事堂の前で、狐狩り禁止法に反対するデモ隊と警官との大規模な衝突があり、怪我人が出る騒ぎとなりました。

法案は可決され、狐狩りは二〇〇六年七月をもって全面禁止となってしまいます。

英国の狐狩り(Fox Hunting)は、人が馬に乗って、猟犬を操りつつ、狐を追い詰めて捕らえるというもので、中世の貴族から受継がれてきた伝統的なスポーツの一つでした。

しかし、動物愛護団体は、「楽しみのために狐を追い詰めて犬に噛み殺させるのは残酷である」という理由で、長い間反対運動をしていましたが、動物愛護に理解のあるブレア労働党政権になって、一気に法案化されたようです。

確かに、国民の多数は狐狩り禁止に賛成しているのですが、私は、狐狩り擁護派の言い分にも理があると思います。

というのは、狐狩りを禁止しても、農産物に被害を及ぼす狐の数をコントロールする必要はあり、今後も、一定数の狐は銃や罠で狩られるそうです。同じ狩られるなら、狐狩りでもいいではないか、むしろ、無差別に殺される銃よりも、年を取った狐が捕われる狐狩りのほうが自然にかなっている、というのが擁護派の主張です。

それに加え、狐狩りによって収入を得ている地方の人々(一万五千人ともいわれる)の生活の問題もあります。

もっと根本的には、娯楽のために生き物を苦しめることが悪であるとすると、スペインの闘牛はもちろん、私たちが楽しんでいる魚釣りや、ひいては贅沢な肉食のために家畜を殺すことも悪ということになってしまいます(人間はベジタリアンでも健康に生きていける)。

実際、このような極論も冗談ではなくなってきています。

今年の七月に出された動物福祉法の改正案では、動物を虐待する行為への刑の上限が、四〇〇万円の罰金及び一年の懲役に引き上げられるだけではなく、「その苦痛が科学的に証明される限り」保護の対象が昆虫やナメクジやミミズなどの生物にも拡大されています。

「科学的証明」が可能かどうかは別として、釣り針に刺したミミズがもがき苦しんでいるのは痛いからではないでしょうか? こちらの新聞も、庭仕事でナメクジを捕まえてハサミで切ったり塩に入れることも、許されなくなるのか、と当惑しています。

動物愛護の最も行き過ぎた例と言えるのは、動物実験反対過激派と言われる人たちでしょう。

大学や製薬会社では、医療研究や新薬開発のために動物実験を行いますが、動物過激派の人たちは、そこで働くスタッフや、物品納入業者に対して、爆弾入り手紙を送る、車をパンクさせる、注文していないものを送りつける、近所に「He is a killer」などと書いた紙をばら撒くなどの、ヤミ金業者顔負けの嫌がらせを繰り返しています。

昨年は、そういう脅迫事件が二五九件あったそうです。

その結果、ケンブリッジ大学が研究所建設を中止したり、医療研究機関がアメリカに引っ越したりという弊害(過激派に言わせれば成果)が出ています。オックスフォード大学もこの七月から標的となってます。

研究所のほうも、むやみに動物実験をしているわけではなく、できるだけ代替手段を使うようにしているのですが(この三〇年で実験に使われる動物の数は半減)、過激派の活動はおさまらないようです。

もちろん脅迫事件は犯罪として取り締まられるべきですが、ブレア政権は、「動物実験をなくすことを目指す」と公約したことがある手前、動きが鈍いようです。

私の個人的な意見としては、ある生物の数を減らしたり、種を絶やすような人間の行為は、生活に必要であっても制限・禁止されるべきだけれども、その心配がない場合には(例えば、家畜や、増えている野生生物)、人間が生活していくうえで、食用や研究に使用することはもちろん、娯楽目的でも、それに文化的価値が認められる限り、生物を殺すことが許されるように思うのですが、皆さんはどう思われますか?

英国便りNo.12 イギリスの入管・難民事件への法律援助(2004年8月31日記)

会員 松井 仁

刑弁委員会の皆様

最近福岡に大型台風がやって来たそうですが、皆様ご無事でしたでしょうか?

こちらロンドンでは、季節も秋めいてきて、気温も夜は一〇度以下に下がっています。

BBCでオリンピックを観戦しましたが、イギリス選手ばかりで、なかなか日本人選手が写らないのでイライラしました(まあ、当たり前といえば当たり前)。また、野球やシンクロナイズドスイミングは、全く放送がなく、変わりに乗馬やボートは延々とやっていました。

さて、今回は、イギリスの入管・難民事件へのリーガルサポートの現状についてご報告します(これは、実は私が一年間通った大学院準備コースで書いた論文のテーマなのです)。

イギリスには、観光客やビジネス以外に、毎年多くの外国人が、留学、労働、難民申請などを目的に入国してきます。その数は日本の比ではなく、例えば、難民申請を例にとると、日本の二〇〇二年の申請者は二五〇名(うち在留を許可された者五四名)なのに対して、イギリスでは約八万四〇〇〇人(同約二万八〇〇〇人)と、約四〇〇倍もの差があります。

それゆえ、入管・難民事件に関するリーガルシステムも、非常に発達しています。

まず、入管・難民手続の中で外国人をサポートする人材として、弁護士以外に、「Immigration Advisor」と呼ばれる職業の人たちがいます。Advisor は、非営利のNGOのメンバーであることもありますが、営利目的で事務所をかまえている人々も多数あり、入管・難民事件は、「一大産業」と言われています。

イギリスでは、原則として非弁活動を禁止する法律がないので、もともと誰でも自由に Advisor の仕事をできたのですが、一〇年ほど前から、悪質な営利 Advisor の存在(たとえば、いいかげんな仕事をして法外な報酬を請求する、など)が問題となりました。

そこで、政府は、二〇〇一年から、「Office of Immigration Service Commissioner」という独立官庁をつくって、Advisor は、その官庁の審査を受けて許可を得なければ入管・難民事件を手がけてはならない、というしくみにしました。

この制度は、Advisor の質の維持に資するとして、法曹界ではおおむね歓迎されています。

ところで、弁護士については、弁護士会の監督下にあるため、現在はこの官庁の管轄外とされています。しかし、最近、入管・難民事件にたずさわる弁護士に対する苦情が増えており、今後は Advisor と同じように官庁の監督下におくべきではないかという意見も出ています。弁護士会は、危機感を募らせ、会員のレベルアップに必死です。

次に、イギリスには、入管・難民事件専門の裁判所(審判所)があります(Immigration Appellate Authority と呼ばれます)。

その裁判所では、入管当局の決定に不服がある外国人の申立が、Adjudicator と呼ばれる裁判官によって再審査され、さらに、その裁決に不服があれば、Immigration Appeal Tribunal という裁判体で再々審査されます。

私も一度見学に行きましたが、審判所の建物は、様々な人種の当事者の人たちと、Advisor や弁護士でごったがえしていました。

二〇〇〇年には、約二〇〇〇〇件の不服申し立てがなされ、うち約一七%で、入管当局の結論が覆っており、重要な役割を果たしています。

ところが、政府は最近、不服申し立て事件を処理する経費を節減するため、外国人の不服申し立ての権利を制限する法律を次々と成立させており、法曹界からは強い批判が出ています。

最後に、法律扶助(リーガルエイド)についても触れておきましょう。

日本でもよく紹介されるイギリスの充実した法律扶助制度には、ずいぶん以前から、入管・難民関係のカテゴリーも設けられており、この法律扶助によって、弁護士やNGOの Advisor による活発な援助が支えられてきました。

ところが、最近、政府は、法律扶助支出の増大を押さえるために、支出要件の引き締めを試みており、入管・難民関係でも、例えば、「入管当局の手続段階で五時間分まで、不服申し立て段階で四時間分までしか扶助しない」というような通達を出し、NGOや法曹界からの大反対を招きました(因みに、刑事の法律扶助も大幅に制限されたようです)。

以上のように、イギリスの制度にも色々な問題はあるのですが、日本では Immigration Advisor の制度も、入管・難民事件専門裁判所の制度もなく、外国人に対する法律扶助の支給要件も厳しいことを考えると、やはり我々が参考にすべき点が多々あると思います。

2005年12月15日

英国便りNo.11 イギリスのテレビ番組事情(2004年8月6日記)

刑弁委員会の皆様

松井です。日本は猛暑と聞きますが、皆さんお体は大丈夫ですか?

こちら英国は去年に比べ涼しい夏を迎えています。

夏休みになり、(英語のヒアリングの練習だと正当化しつつ)、だらだらテレビを見ることも多くなりました。

そこで今回はイギリスのテレビ番組についての感想を述べたいと思います。

ロンドンでは、TVを買って、TVライセンス料(受信料)年二万四〇〇〇円を払うと、国営のBBC二局、民放三局の地上波放送が見れます

日本の番組を流す衛星放送もありますが、契約料や受信機が高いので私は入っていません(ダイエーホークスの中継が見たいのは山々ですが)。こちらでは、野球中継はなく、スポーツ放送といえばサッカーかラグビー、あるいはルールのさっぱり分からないクリケットやスヌーカー(ビリヤード)ばかりです。

一、不動産好きのイギリス人

イギリスのテレビ番組で特に多いのが、不動産関係の番組です。  不動産関係にもいろいろあって、例えば、

  • 家の内装をかっこよく改造する番組
  • 家の庭をかっこよく改造する番組
  • 汚れた家をきれいに掃除する番組
  • 格安の家を買って、手入れをして高く売って儲ける番組
  • オークションに出ている家を買う番組
  • 土地を買って個性的な家を建てる番組
  • 海外の「ドリームホーム」を買いに行く番組
  • などなど、枚挙に暇がありません

これらを見て分かったのは、イギリスでは築何年というのは古いほど喜ばれ、内装や設備がしっかりしていれば、家の価値は下がらないということ、そのうえ、家を新築するためには、日本よりずっと難しい許可手続(安全性だけでなく、景観や近隣関係も含む)をとらなければならないことです。それで、イギリス人は、古い家の内装をいかに立派にして価値を高めるかに相当の思い入れを持っているようです。

二、古いもの好きのイギリス人

古い建物といえば、「Restoration」という番組があります。これは、朽ち果てつつある古い城や教会などを紹介して、保存するための基金を募る番組です。いったん放送されると、視聴者から多額の寄付が実際に寄せられるのは驚きます。

骨とう品関係の番組もたくさんあります。地方へ出張して住民の持ち寄った骨とう品を値踏みする「アンティークロードショー」は、日本でもNHKで放送されておなじみですが、こちらではオークションからみの番組をよく見かけます。これも、家と同様、掘り出し物を安く買ってオークションで高く売って利益を出すという内容です。私はこれまで、骨とう品集めは金のかかる趣味だと思っていましたが、実は、最初にある程度買い集め、あとはそれを転売して次の資金とするという具合に、金をかけずに楽しんでいる人がたくさんいることを知りました。

三 議論好きのイギリス人

日本の討論番組は、たいてい専門家どうしで討論するものばかりですが、イギリスでは、素人中心でやっている討論番組がたくさんあります。例えば、BBCの「You are talking」という番組では、参加者の一人が自分の体験や意見を語り(例えば、「自分はタバコが嫌だから街中禁煙にして欲しい」など)、それに対して他の参加者が賛成したり、反論したりします。感心するのは、素人とはいえ、皆しっかり自分の意見をもっていて、それを堂々と言っていることです。時にはかなり辛らつに相手を攻撃する人もいて、和を尊ぶ日本人の私はハラハラしてしまいます。

ラジオ番組でも、DJとリスナーが議論する形をとるものが多く、最初にその日のテーマをDJが提供すると、次々と電話がかかってきて、例えば「俺はトラックの運転手をしているが、最近の警察に言いたいことがある」などと喋りはじめ、DJが、「それはあんたのほうが悪いんじゃないの?」などと答えて渡りあっています。

とにかく、違う意見をぶつけて楽しむ、といった雰囲気があるのです。

四 日本でも是非やってもらいたい陪審番組

犯罪ものや裁判ものも多いのですが、中でも特筆すべきは「Courtroom」(法廷)という番組です。これは、架空の刑事事件を題材にして、陪審法廷の様子を、冒頭陳述から、検察側証人尋問、弁護側証人尋問、被告人質問、論告弁論、評決まで一事件毎回三〇分にまとめて放送するものです(模擬裁判のようなもの)。

これがとてもよくできていて、結論の微妙な事件が、争点を絞って(かつ書証なしで)提供されています。ドラマのような派手な演出はなく、検察官や弁護人が淡々とポイントを突いた鋭い尋問を積み重ねていく様子にはリアリティがあり、思わず自分も陪審員のひとりになったような気になって真剣に見入ってしまいます。

論告弁論後の裁判官の陪審員に対する説示も、「被告人の前歴に惑わされずに、被告人が被害者を殴ったという証拠が十分にあるか、それだけを判断するように」など、的を得ています。

この番組は、将来陪審員に呼ばれるであろうイギリス市民にとって、裁判の流れや事実認定のポイントなどを知る絶好の機会となっていると思います。裁判員制度の導入が決まった日本でも、ぜひこのような番組を作って繰り返し放送してもらいたいものです(とりあえず、この番組を輸入して日本語に吹き替えて放送しても十分効果があるでしょう)。

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