福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

英国便りNo.6 イギリスのクリスマスと新年の迎え(2004年1月24日記)

松井 仁

刑弁委員会の皆様

少し時期おくれですが、明けましておめでとうございます。

松井です。

今回は、英国でのクリスマスと新年の様子についてレポートしたいと思います。

一一月に入ると、商店街では、どの店もクリスマスの飾りつけをして、プレゼントやクラッカーを店頭に並べます。(クラッカーというのは、紙製の筒状のもので、ひもを引っ張ると、パン! という音と共に、中から小物、クイズの書かれたカード、紙の冠などが出てきます。これを、パーティーの時に各自の席の上に置いておいて、鳴らして盛り上がるのです)。

しかし、街の飾りつけ方(イルミネーション)は、Oxford Street や、Bond Street といったロンドン第一の繁華街でも、いまひとつパッとしません。

私たちの分析では、その理由は、(1)電照が密ではない(2)色がほとんど白熱灯一色、(3)そもそも英国人に飾りつけのセンスがない(?)ということではないかと話しています。福岡天神の方がずっと綺麗であることは確かです。

よく西欧のクリスマスは日本の正月のようなものだと言われますが、確かに、英国でも、クリスマスは年に一度遠く離れた家族が一堂に集まって祝う日となっており、その気合の入れようは並大抵のものではありません。

ある新聞によると、親たちは、独立して遠くの町に住む子供たちに、一〇月ころから「クリスマスにお前たちが帰ってくるのが楽しみだ」などと書いた Emotional Blackmail(感情的脅迫状)を送り、プレッシャーをかけるそうです。とりわけ結婚し た若い夫婦にとって、どちらの両親と過ごすかは悩みの種で、ある夫婦は、片方の親と過ごすと、もう片方が悲しんだり妬んだりするので、いっそ自分たちだけで過ごすことにした、とか、別の夫婦は、クリスマスの日に両方の親に会うため、何百マイルの距離を車で移動する、といった例が紹介されていました。

親の方も、クリスマスにどんな料理を作るかは重大事で、テレビでは、七面鳥のグリルや、クリスマスプディング(肉や果物や砂糖をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて固めたもの)をはじめとするクリスマス料理番組を連日やっていました。そして、雑誌では、「クリスマスパーティーを成功させる一〇の鉄則」とか、「クリスマスのストレスをどう乗り切るか」という特集をやっていました。

(クリスマス後には、「クリスマス燃え尽き症候群への対処法」とか、「クリスマス後の借金の整理の仕方」などになっていました)。

英国では、一二月二五日(クリスマス当日)と翌二六日(Boxing Day)は公休日となっており、特に二五日は、基本的にすべての商店は閉じられ、公共交通機関までもが運休になります(少数のタクシーが、法外な料金をとって走っているだけです)。ですから、前日に食糧を確保したうえで、家にじっとしているしかありません。

それを聞いていた私たちは、実は、一二月二二日から二六日までの間、ロンドンを抜け出し、パリに滞在していました。ですから、ロンドンの実際の状況を見たわけではありません。どのくらいの人がクリスマスに教会に行っているのかは気になるところですが、今の英国人で、日頃教会に行っている人はほとんどないそうなので(毎日曜日教会に行っている人は、かえって奇異に見られているような感じがします)、ほとんどの人は家で過していたのではないかと想像します。

ところで、パリのクリスマス飾りは、やはりロンドンよりも華やかで(キャバレー・ムーランルージュのネオンを想像してみてください)、わくわくさせられました。そして、クリスマスイブの深夜には、ノートルダム大聖堂をはじめ、街の各教会から鐘の音が鳴り響き、荘厳でした。

さて、パリからロンドンに戻ってみると、クリスマス明けの一二月二七日から、街は冬のバーゲン一色になっていました。ところが私たちは、パリでひどい風邪をもらってきて出遅れてしまいました(寒風の中、オルセー美術館の前の長蛇の列に一時間ほど並んだのが原因)。

一二月三一日大晦日の日は、街のどのパブでも、カウントダウンパーティーを催していて、夕方ころから人が集まりだし、夜には、たくさんの酔っ払いが街を徘徊していました。私たちは、異常に盛り上がったパブの中に入っていく勇気はなく、静かに自宅で新年を迎えることにしました。時計が一二時を回り、テレビで、ロンドンアイ(最近できたテムズ川沿いの大きな観覧車)の上空にあがる花火の中継を見ていると、家の近くからも花火の音がしてきました。窓を開けて外を見てみると、北から東から西から、あちこちの街で花火が上がっているのです。まるでロンドン全体で花火大会があっているような光景を、私たちはしばらく飽きずに眺めていました。

ITコラム 〜“it”と私の六年半〜

弁護士会職員 松本 寛朗

今となっては昔のことですが、一時期弁護士会のホームページを担当していた縁(だと思う)で今月号のITコラムを担当することになりました。

とはいうものの、元来不精者で一応自宅にかなり時代遅れのパソコンがあることはあるけれど、日常生活において全くといっていいほど活用していない私に書くことがあるだろうかと考えました。

現ホームページ委員会担当シスターズの言葉が頭をよぎります。

「ITについてであれば何でもいいんですよ。」

「ものすごく高尚な内容か、ものすごくおもしろい内容じゃないと承知しませんよ。」

…(汗)。

何はともあれ、まずは自宅のパソコンをおよそ一ヶ月ぶりに起動してみることにしました。

カッカッカッ…と何かがひっかかっているような不気味な音。ディスプレイに「Insert system diskette」の文字。再試行。同じ表示。再試行。同じ表示…。

この異常事態発生に、この手の問題に恐ろしく無知な私は短絡的に「壊れた! もうだめだ!」と決めつけてしまいました。元来物持ちの良い私は、今までたいして活用していなかったくせに、いざ故障! ということになると感傷的になるらしくこれまでの様々な記憶がよみがえってきました。ということで、我がパソコン、通称 it と私の歴史をひもといてみようと思います。

思い起こせば約六年半前、it は我が家の一員となりました。当時の接続はダイヤルアップで、まず、接続すればその間だけ電話代がかかり、また、深夜料金で夜一一時以降は電話代が安くなるので、その時間に利用者のアクセスが殺到するためなかなかプロバイダーにつながらない。そんな時代で、自分の部屋が寝るためだけにあるため冷暖房器具を置いていない私は、深夜、冬は毛布にくるまりながら、夏はうちわ片手にひたすら接続するのを待っていたものです。また、奇跡的に接続に成功したとしても、今思うと信じられないほど遅い通信速度でありながら、当時はそれが普通だと思っていたため苦にならず、やっとつながった喜びをかみしめながらメールやインターネットに勤しんだのも懐かしい思い出です。

しばらくすると、アクセスポイントの数も増え、前ほどには接続に時間がかからなくなったのですが、元来飽き性で貧乏性の私は、接続している間中電話代がかかるということに耐えられず、いつしか it とは、職員旅行のパンフレットや親に頼まれて町内会の会計報告を作成といったような簡単な作業や、知りたいことや気になったことをたまーにインターネットで検索したりといった、なんとも薄っぺらな関係となってしまいました。

やがて、世にADSLや光ケーブルといった通信手段が普及し始めてからしばらくたった頃、遅まきながら it もようやく ADSL一二Mの通信手段を得て生まれ変わりました。今までのダイヤルアップに比べると飛躍的な進歩です。電話代は定額だし、とにかく早い(あくまでも今までと比べると)! これを機会にはまり出したのがインターネットオークションです。元来あまり物欲がない私で利用回数こそ少ないものの、出品物(日用品から情報までとにかくありとあらゆるもの)を眺めているだけでもその種類の多様さと安さ、また中には眉つばと思える出品物の胡散臭さに驚かされます。暇さえあればこのオークションに参加しておりました。この画期的なシステムは、ルールさえきちんと守って注意を怠らなければとても有効なものですので、皆さんも利用してみてはどうでしょうか。

さて、この頃になると、約六年をかけて蓄積された情報量に it の頭脳も限界を迎えており、何をするにしてもやたらと時間を要する状態になっていました。あるアプリケーションのアイコンをクリックしてもそれが立ち上がるまで一分以上かかるのも珍しくなく、おまけに頻繁にフリーズ状態に陥ります。そんなことが続くうちに it と私の関係も月に一度アクセスすればいいほう、というなんとも冷え切った関係になっていったのでした。

そんなことを思い出しつつ、ほぼたしなむ程度のインターネットとごく表面的な能力の利用のみのために存在していた it も、天命かそれとも私の使い方がまずかったのか、診断の結果、ハードディスクの一部に損傷を受け、生命活動は継続しているものの外部との意思の疎通に障害があり、情報管理職としての能力は皆無もしくは極めて微小。見えず聞こえず書けず話せずただ回り続けるという、いわゆる脳死状態となってしまったのです。

使用者として it の能力の何%を引き出せただろう。 it としては、「我が生涯に一片の悔いなし!」とは決して言ってくれないだろうとは思いますが、ただ、最後に自らの活動停止をもって私の悩みの種を解決してくれるネタを提供してくれた it に感謝と哀悼の意を捧げつつ、このコラムをしめくくりたいと思います。

今後は、 it に大容量メモリの新たな脳を移植して復活させるのか、全く別の it を迎え入れるのかは決めていないけれど、いずれにしろもっとかまってあげないとな…。

ホームページ委員会だより 〜初めてのブログ体験〜

会員 後藤 富和

県の弁護士の有志でブログを立ち上げました。その内容を少しだけご紹介します。

〜 山笠(六月一七日)〜

山笠の醍醐味は何と言っても、巨大な山笠を舁き廻る舁き山ですが、その前の飾り山も美しくて好きです。その飾り山ですが、博多人形師さんが精魂込めて作り上げた人形を人形師さんの指示に従って私達が地上一〇メートルの山笠に登って飾り付けていきます。山笠に登ったままの私達にはどんな山笠ができているのか、全く分かりません。で、山笠から下りてみて、少し離れた位置から振り返ると、とてもきれいな山笠が出来上がっているという次第です。毎年この瞬間が大好きです。

〜 中国総領事(八月一三日)〜

中国総領事館で総領事と会ってきました。総領事は大変気さくな方で、私の話に真剣に耳を傾けてくださり、それに対して的確なアドバイスと感想をくれました。総領事と私の思うところは概ね一致していました。私の子や孫の世代には、もっともっと日本と中国の関係が良くなって、二度とかつての過ちを繰り返すことのないような平和な関係を築かなくてはならないということです。

仕事で中国に出張することが多いのですが、そのとき思うのは相互に誤解が誤解を生んでいて不信感が募る悪循環に陥っているということです。誤解を解くためにはまず事実をきちんと認識することでしょう。互いに事実をきちんと認めた上で付き合うと、一気に信頼関係が深まります。昨年、出会った中国の方に、今度食事をしようと手紙を出していたら、北京に行った際、私を高級な北京ダックのお店に招待してくれました。食いしん坊の私には最高のもてなしでした。

〜 憲法(九月三日)〜

市民センターで、憲法の講演を行いました。学習会では、そもそも憲法とは何? という質問をします。この質問に対しては、多くの方が「私たち(国民)が守らなきゃいけない義務」と答えます。この答えは大間違いです。憲法は、私たちが義務付けられるものではなく、私たちが国を義務付けるものなんです。正確に言うと「権力を制限して国民の権利を保障する高次の法」です。さらに、憲法の目的って何? という質問もします。よく九条が大事と叫ばれますが(それ自体は間違いじゃない)、憲法の目的は「個人の尊厳」を確保すること(一三条)です。その目的達成の手段の一つとして、戦争放棄(九条)があるということです。

今、九条の改正(特に二項の改正が重要)の裏で、密かに(?)一三条も改正されようとしています。「公共の福祉」の文言が「公益及び公の秩序」に変えられようとしていますが、もしこれが実現されれば、公益(国の利益)の名の下に人権の制約を受け、明治憲法下の法律の留保の下での人権保障と同じレベルになってしまうおそれがあります。

八月二〇日に九弁連で憲法のシンポを行いましたが、今、まさに憲法が旬です。憲法を知らないまま改正されることが一番危険なことだと思います。多くの人に、是非一度憲法を読んでいただきたいと思っています。

…というような感じです。興味をもたれた方、一度覗いてみてください。県弁HPにリンクがあります。

裁判員裁判用法廷の公開

刑事弁護等委員会副委員長 安武 雄一郎

福岡地裁本庁の三〇一号法廷が、この度、裁判員裁判用の法廷として改装され、九月二日、法曹関係者に公開されました。改装のポイントは次のとおりです。

  1. 裁判官三名と裁判員六名が一列に並んで座れるように、法壇がアーチ型となっている(東京高裁に設置された裁判員法廷と同じモデルです)
  2. 法壇の高さが、他の法廷より一〇センチメートル低い
  3. 法壇の後ろに補充裁判員六名が座れるテーブルと椅子が置いてあるため、他の法廷に比べ、法壇がやや前にせり出している
  4. 当事者フロアが傍聴席フロアより五センチメートル高く、いわゆるOAフロアとなっている
  5. 傍聴席フロアが広がり、傍聴席の数が増えた

法壇が前にせり出し、逆に傍聴席が広がりましたので、当事者のフロアのスペースは以前より狭くなり、証人席と法壇の距離が近くなりました。そのため、法壇の高さが低い割には、意外に圧迫感を感じます。当日は、裁判所や検察庁の関係者も多数見学しており、裁判官・裁判員席に見学者に座ってもらって、証人席にも見学者に座ってもらい感想を聞きましたが、尋問中、どこを見ていればよいのか戸惑うとのことでした。実際に私も証人席に座ってみましたが、法壇との距離が近く、法壇が横長いので、単に前を向いているだけでは、裁判官・裁判員九名全員を一度に視野に入れることができず、両端に座っている裁判員の顔を見ようと思ったら、自分の顔を横に動かさなければなりません。また、法壇が横長いため、弁護人席に立って法壇の方向を見たところ、やはり両端に座っている裁判員の顔が見えにくい感じでした。今までみたいに弁護人席に立って、弁論要旨を見ながら弁論したところで説得力はなく、陪審裁判のように、弁護人が法廷の中央に立ち、書類を見ずに裁判官・裁判員全員の目を見据えて語りかけなければ説得的な弁論にはならない、とすら感じました。

裁判員裁判は平成二一年施行ですが、新三〇一号法廷は九月の夏期休廷明けから通常の事件で使用されるとのことであり、この記事が月報に掲載されるころには、新三〇一号法廷を経験される会員も増えることと思います。来るべき裁判員裁判を想像しながら、しばらくは裁判官のお顔だけを拝顔することになります。

2005年9月 1日

英国便りNo.5 イギリスのクリスマスと新年の迎え方(2004年1月24日記)

刑弁委員会の皆様 松井です。

年末となり、皆様忙しい日々を送っておられることと思います。今年最後の便りは、最近英国のマスコミを賑わせた、Soham 殺人事件についてご報告いたします。少々長くなってしまい申し訳ありませんが、英国の刑事手続の特徴が具体的に分かっていただけると思います。

一 事件の概要

二〇〇二年の八月六日、England 東部の街 Soham で、二人の小学生女児が行方不明になりました。

警察総出の捜索の後、八月一七日に二人の死体が発見され、同日、二人の通っていた小学校の男性職員(二九才)が殺人の主犯容疑で、その恋人が従犯容疑で逮捕されました。

二 起訴から公判まで

二人は、当初から犯行を否認していましたが、逮捕の三日後の八月二〇日に殺人罪で起訴されました。日本と違い、起訴前の身柄拘束時間が原則三日しか許されていないためです。当然、その後に様々な客観的証拠収集が行われたものと思われます。

公判(陪審裁判)が始まったのは、二〇〇三年の一一月です。つまり、起訴後一年三ヶ月も経過しています。

このうち最初の二ヶ月は、精神鑑定に費やされています。

その後は、検察側と弁護側で、証拠開示や争点整理などが徹底的になされたものと思われます。

このことは、公判開始直後、弁護側が詳細な事実認否をしたことからもうかがえます。陪審による集中審理のためには、相当の準備期間がいることを物語っています。

三 メディアと陪審員

この事件は、二人の少女が行方不明になったときから世間の注目を集め、容疑者逮捕後は、日本と同じように憶測も交えたセンセーショナルな報道がなされていました。

そのため、弁護側は、公判開始前、「被告人らは、すでにメディアによって有罪とされてしまっている。公正な陪審裁判は期待できない」として、公訴棄却の申立をしました。しかし、裁判長は「陪審員はこれまで報道に接しただろうが、漠然としか記憶していないはず。私は、彼らが証拠だけに基づいて判断できるものと信じる」として申\立を棄却しています。ただし、報道機関に対して、偏見をもった報道をしないように警告するコメントを出しています。報道の自由と裁判の公正との兼ね合いは、どこの国でも難しい問題です。

四 陪審裁判

 一一月にはじまった裁判は、六週間のあいだ、ほぼ連日開廷され、毎日次々と証拠が提出され、たくさんの証人が証言をしていました。

時には、陪審員は皆でバスに乗せられて、少女らが死亡した男性職員の家や、死体発見現場の実況見分にも連れていかれていました。

また、一度陪審員の一人が病気になったため、その人が回復するまで、数日間審理が中止したこともありました。

 陪審員の心理的・肉体的負担は大変なものだろうと思いました。(もちろん検察側・弁護側も連日開廷に対応するのは大変でしょう)。

五 評議と評決

審理当初の弁護側認否のなかで、弁護側は、二人の少女が男性職員宅で死亡したこと、そのとき男性職員がその場にいたという重大な事実を認めていました。しかし二人とも風呂場で溺れて事故死したという主張でした。

ところが、その後の審理の過程で、男性職員は、「少女のうち一人が風呂場で溺れて死んだ。それを見たもう一人が悲鳴をあげたので、黙らせようと首をしめていたら死んでしまった」と供述を変遷させました。

このようなことから、私も含め、多くの新聞が、男性職員の供述を信用しておらず、有罪は間違いないといった論調でした。

しかし、審理が終わって陪審が評議にはいってもなかなか結論がでず、四日間も評議は続きました。そして、本年一二月一七日、一一対一で男性職員に対して二人の少女に対する殺人の有罪判決が出ました(英国では、一二人のうち一〇人以上の多数決で評決を出せます。ちなみに恋人については殺人従犯は無罪、偽証で有罪)。ある新聞は、「この事件で陪審員が四日間真剣に討議し、一人は最後まで無罪主張を譲らなかったということは、英国で無罪推定原則が陪審員にもよく理解されているということを示している」と評価していました。私も感心しました。

六 量刑

ご承知のように、英国では、陪審員は有罪無罪を決めるだけで、量刑は裁判官が決めます。英国は死刑制度がありませんので、最高刑は無期懲役となります(*一)。

本件も、陪審評決をうけて、裁判官は男性職員に無期懲役を言渡しました。

英国の無期懲役は、日本と同じように仮釈放がありますが、最低何年現実に服役しなければならないかは、高等裁判所の裁判官が別途決めることになっています。

本件でも、それが決まるのは来年一月とのことです。

なお、最近Criminal Justice Act二〇〇三という法律が新しくできて、連続して性的動機から子どもを殺した場合には、文字通りの終身刑が適用できることになったのですが、本件でそれが適用されるかは微妙とのことです(本件での性的動機は必ずしも立証されていません。なお後記七参照)。

(*一) 最近、野党保守党の幹部の一人が、「連続殺人犯には死刑を導入すべきだ」と主張しましたが、与党労働党はもちろん、野党内同僚からも大反発を受けていました。ある議員は「近年で最も恥ずべき政治家の発言だ。この三〇年間、もし死刑があったなら間違って処刑されていたであろう者が何人いると思うか」、と怒っていました。死刑は当分導入されないでしょう。

七 事後談

判決後、センセーショナルな事実が公表されました。

有罪とされた男性職員は、一九九五年から一九九九年までの間に八回も、一二歳から一八歳までの少女に対してセックスをしたりレイプをしたという容疑をかけられた「前歴」があったのです。

しかしこれらはいずれも証拠不十分として起訴されず、男性職員は小学校で仕事をし続けていたということです。このことに対して、世論は「いったい警察やソ\ーシャルワーカーは何をしていたのか!?」と反発が巻き起こり、政府は早急な調査を開始しました。

しかし、私が逆に感心したのは、これらの「前歴」がこれまで法廷にも全く提出されず、したがって報道もされていなかったことです(日本の刑事裁判では前歴票などですぐ出てきますよね)。おそらく、証明されていない前歴により、陪審員が予断偏見をいだくおそれがあるので厳しく制限されていたものと思われます。

八 さいごに

以上のように、英国の刑事手続では、公判開始後に集中審理は行われるものの、事前準備に十分な時間をかけたり、証拠の提出にも細心の注意が払われるため、時として裁判終了まで時間がかかってしまうことも多いようです。

このことについて、ある検察官は述べています。

「無期懲役を言渡された被告人が、その後、何を望みに人生を生きると思いますか? 自分の裁判手続に過誤があることを理由に判決を覆すことができないか、そればかりを考えるのです。そして、本当に高裁は判決を覆すのです(*二)。だから、凶悪事件ほど、手続の隅々まで気を使う必要があるのです」

(*二) 陪審の有罪評決および裁判官の量刑に対しては、当該裁判官が許可しないかぎり控訴ができません。ただし法律問題については権利として控訴ができます。

それでは皆さん、よいお年をお迎えください。

英国便りNo.4 留学一年目の勉強内容(2003年12月3日記)

松井 仁

刑弁委員会の皆様 松井です。

一二月に入り、こちらロンドンでは、寒さこそ日本とあまり変わりませんが、日が極端に短くなり、朝八時ころまで夜は明けず、午後四時ころには日が暮れるという毎日です。

さて、今回は、私の現在の勉強内容についてご報告いたします。

私が通っているのは、ロンドン大学SOAS(School of Oriental and African Studies)で開設されている、Foundation Diploma for Postgraduate Studiesというコースです。つまり、大学院進学のための留学生向け基礎コースです。もともと法学部大学院(いわゆるLLMコース)に願書を出していたのですが、英語力不足のため、最初の一年間は基礎コースで英語力を磨きながら、法律以外の勉強もしてみようと思ったわけです。

授業の内容は、

  1. Academic English: 学術的英語(週二時間)
  2. Research Method: 学術的研究の仕方(週二時間)
  3. IELTS: 大学院進学用英語試験の準備(週三時間)
  4. 選択科目 以下の六科目から二つ選択(週各六時間)
    1. 国際関係学
    2. 国際ビジネス学
    3. 開発学
    4. メディア学
    5. ヨーロッパ社会学
    6. 文化学
  5. 卒業論文 (八〇〇〇語)

となっています。

私は、国際ビジネス学と開発学を選択しています。前者は、将来渉外事件をやることになったら役に立つかもしれないと思っての選択です。後者の開発学というのは、発展途上国の様々な問題を研究する学問で、例えば、貧困、飢、医療、教育といった各論から、国連・企業・NGO等の役割、モダニズムやマルキシズムといった理論までを勉強します。人権問題に深くかかわるので、選択しました。

卒業論文は、何でもいいということだったので、私の興味のまま、「英国の難民認定制度」(日本と違い、毎年何万人も申請があり何千人も認定されている)について書く予\定にしています。

このコースには、約一〇〇人の学生が通っていますが、国籍の割合は、中国人三:日本人三:韓国人二:その他二くらいです。見たところ、平均年齢は二〇代後半くらいで、三六歳の私は最も年寄りの部類に入ります。皆本国の大学の学部を卒業しており、半数以上は何らかの仕事の経験を持っています。中国人の多くは、ビジネス分野の大学院(MBAなど)に進むことを目指し、できれば英国で就職したいと思っているようです。日本人は、文化学や開発学の方面に進もうとしている人が多いようです(お寺のお坊さんもいます)。弁護士出身は、今のところ私だけしか知りません。

授業は、ゼミ中心で、各科目一〇人くらいのグループに分かれて、事前に読んできた資料や講義をもとに、議論をしたり、プレゼンテーションをしたり、小テストが行われたりします。内容のほとんどが新しく勉強することばかりで、弁護士であることは武器にならず、英語が並以下の私は、日々授業や宿題についていくのが精一杯という感じです。

講義の教室に座ってさえいればよかった九大の学生時代よりもはるかに大変で、欧米の大学は「入るのは易しく出るのは難しい」というのを痛感しています。

今の苦労が、来年LLMコースに入ったときにきっと役に立つと信じて頑張っています。

ITコラム〜メールサービスに見るプロバイダ比較

有限会社アイビージー 代表取締役 大神 与志雄

こんにちは、ホームページ委員会を通じて、福岡県弁護士会の仕事に携わらせていただいてます有限会社アイビージーの大神 与志雄と言います。今回が月報への寄稿は二回目となります。よろしくお願いします。

ADSL、光サービスなどここ数年で Internet への接続サービスはブロードバンド花盛りとなり、大きなデータも簡単にやり取りができる時代になりました。少し前までは一MB程度のデータをやり取りするのも大変だったことを考えると、時代は大きく変わってきたなと感じています。

そんなブロードバンドの時代へ変遷しても、あまり変わってない世界が各プロバイダが提供する電子メールの環境です。今回は各プロバイダが提供する電子メール環境について、述べさせていただきます。

まず、個人的に一番注意が必要と思われるOCNの電子メール環境です。ここの電子メールの利用者は注意が必要です。ホームページによると最大容量は二五MBです。しかし、一週間で五MBを超える部分が古いメールから消えていきます。つまり、ちょっとした旅行などで一週間以上メールが利用できない場合、古いメールは消えてしまう可能性が高いのです。そのため、旅行に行かれる際は Yahoo メールなどの大容量のメールが利用できる無料サービスを利用して、転送させるような設定をしておくべきです。

続いて、ひどいなと思うのがDION(KDDI)のメールサービスです。ここは最大容量が一〇MBという容量ですが、ユーザーからの申請に基づいて一〇MBのサイズが利用できると言うことです。何もしないで放置しておく場合は、三MBしかありません。私自身が弁護士会のメーリングリストを管理していて、もっとも容量オーバーになって管理者の元に送られてくるメールもこのDION利用者が一番多いです。DION利用者の方は是非、サポートに連絡をして容量アップの申\請をしてください。

容量を気にせずに利用できるのはso-netです。基本的に容量は無制限です。但し、保存期間は二ヶ月のためいつまでも古いメールを残せるというわけではありません。

@nifty は容量が二〇MBと制限はありますが、ここは送受信できるメールのサイズに制限がありません。一五MBのファイルなど大きなサイズでも送信は可能です。但し、メールの場合、相手先の容量制限や受信制限がありますので、誰にでも送信できるとは限りません。送信先の受信環境を配慮して、送るようにしましょう。

YahooBBは後発のプロバイダらしく、メール環境は一番充実しています。(決して、Yahooをおすすめするわけではありませんが)メールを利用する上では優れた環境といえます。但し、送信できるメールサイズは一〇MBとの制限はありますが、普通のメールであれば全く問題は無いと思います。

最近はYahooメールやlivedoorのギガメールなど無料で大容量メールボックスサイズをもったメールサービスが登場しています。自分の通常利用するメールアドレスから大容量メールサービスのメールアドレスに転送させるなどして、上手に使い分けるのが良いかと思います。メールを上手に活用して、仕事効率アップを目指しましょう。

最後になりましたが、コンピュータウィルスの伝播は電子メールを介して行われるものがほとんどです。最近のコンピュータウィルスは一昔前の愉快犯による犯行から、金儲け主義者による犯行へと時代が変わって、非常に高度化しています。現在においてウィルスに感染してしまうと、犯罪の片棒を担ぐ羽目になりかねませんので必ずウィルス対策ソフトの導入と更新を徹底するようにお願いします。

釜山地方弁護士会訪問

国際委員会 副委員長 安 武 雄一郎

七月一七日から一九日にかけて、川副会長夫妻をはじめとする総勢二四名の訪問団で釜山を訪問し、恒例の釜山地方弁護士会(黄翼会長)との交流会を開催しました。今回の訪問の目玉は「韓国における捜査の可視化を『可視化』する」と題した見学ツアーであり、韓国の捜査における「可視化」の現状を見聞するというものです。刑事弁護等委員会の有志が、八月上旬にソウルの「可視化ツアー」を企画しておりますが、今回の釜山訪問はそのプレツアーの意味もありました。

七月に入ってから大雨続きの福岡でしたが、出発当日は天気も良好で、午後一時前に釜山に到着しました。一七日は日曜日ですが、街のあちこちに「太極旗」が掲揚されていました。この日は憲法記念日(制憲節)で祝日なのです。もっとも、韓国には日本のような振替休日がありませんから、翌月曜日は休みではなく、日本人からすれば休日を一日損したような感覚になります。翌一八日は一日中公式行事が入っていますので、実質的なフリータイムは初日の午後のみでしたが、釜山の金周學弁護士の案内で、釜山博物館と国連墓地を見学し、夕方は韓定食の店で前夜懇親会を催しました。数年前、釜山随一の若者スポット「広安里」を臨む海上に「広安大橋」という長大な吊り橋が架けられ、我々一行も市内見物の行き帰りにバスで通りましたが、夜景の美しさは抜群です(残念ながら、福岡都市高速の荒津大橋では太刀打ちできません)。これから釜山に行かれる方には是非お勧めです。

一八日はメインの可視化ツアーです。まず、宿泊したホテルロッテ釜山の近くにある釜山鎭警察署を訪問し、一般面会室、弁護人接見室、ビデオ録画装置を備えた女性児童調査室を見学しました。一般面会室の構造は日本と大差ありませんが、弁護人接見室が、警察官(刑事)の執務室の中にあり、執務室とガラスで仕切られただけで、素通しになっていることに驚きました。しかも、被疑者が座る場所と弁護人が座る場所の間にアクリルの仕切り板がなく、全くの個室に机がひとつ、椅子がふたつ置いてあるだけです。日本の少年鑑別所の面会室の構\造に似ていますが、警察官の執務室から丸見えである点が大きく違います。もっとも、このガラスは防音強化ガラスであり、執務室から接見室の中の会話は全く聞こえません。説明によれば、被疑者と弁護人の間に仕切り板がないので、危険防止のために警察官の執務室から見えるようになっているが、秘密交通権の確保のため会話が聞こえないようになっているとのことです。完全に隔離された個室だが、被疑者との間に仕切り板がある(日本)のがよいのか、警察官から姿が丸見えだが、被疑者との間に仕切り板がない(韓国)のがよいのか、究極の選択のような感じがしました。また、性犯罪事件等を取り扱う捜査課で、ビデオ録画装置を備えた女性児童調査室を見せてもらいました。通常の調査室(取調室)にビデオカメラがセットされており、隣のモニター室からビデオカメラを通して事情聴取の模様がパソコンのモニターに映し出され、これを録画することができる構\造になっています。我々は、犯罪被害者である少女の事情聴取が実際に行われている模様がモニターに映し出されているところを見せてもらいました(事情聴取の実施中なので、人権の問題がありますから写真やビデオ撮影はしないで下さいと言いつつ、実際にモニターを見るのは可、というところが「ケンチャナヨ(大丈夫)」精神の韓国らしいところと思いました)。韓国では、性暴力犯罪の処罰及び被害者保護に解する法律により、年少(子供)被害者と女性の性犯罪被害者については、事情聴取を録画するように義務づけられており、録画したビデオに証拠能\力が認められています。これにより、被告人がこれらの被害者の供述調書を不同意にした場合でも、法廷で被害者を再尋問する必要がなくなり、セカンドレイプを防止できることになっているとのことでした(もっとも、弁護人の立場からすれば、反対尋問が事実上制限されるのですから、この点は問題にならないのだろうかというのが疑問です)。現在のところ、警察では、被疑者の取り調べは録音・録画されておらず(場合によっては、性犯罪の女性の被疑者の取り調べではビデオ調査室を使うことがあるとのことです)、警察大学校で、その実施を具体的に検討しているとのことでした。

次に、釜山地方検察庁を訪問し、やはりビデオ録画システムが設置されている女性児童調査室と検事尋問室(電子調査室)を見せてもらいました。検察庁の女性児童調査室は、機能的には警察署のものと同じですが、釜山地方検察庁の女性児童調査室は、壁面の色が薄い茶系統のクリーム色に統一され、中央に丸テーブルが置かれるなど、事情聴取の雰囲気を和らげる工夫がされていました。また、検事尋問室(電子調査室)は、一二畳ほどの広さの個室ですが、壁側に検事が座る椅子とテーブル(法壇のような造りで立派です)が配置され、これに対峙する格好で窓側に被疑者と弁護人(!)が座る椅子とテーブルが配置されています。そして、検事のテーブルの端に検察事務官が座っており、そこに設置されたパソ\コンのモニターに、ビデオカメラ(防犯カメラのような格好です)を通じた室内の模様(取り調べの状況)が映し出されており、これを録画できるようになっています。日本の裁判所の勾留質問室を格段に立派にしたような造りですが、特徴的なことは、検事の取り調べに弁護人の立ち会い(参与)が認められていることです。韓国では、憲法裁判所の判例が取り調べに対する弁護人参与を権利として認めており、現在は、弁護人が希望すれば、検事の取り調べに立ち会うことができるようになっています。もっとも、被疑者国選弁護が制度化されておらず、起訴前の弁護人選任率が低い韓国では、弁護人が実際に立ち会った事例はそれほど多くないとのことです。また、どのような事件の処理に電子調査室が使われるかということですが、個々の検事の判断で使うかどうかを決めるようにしているものの、取り調べ時には自白しているが、公判で否認することが想定されるような事件で多く使われているのではないか、とのことでした。警察署でも、検察庁でも、被疑者の人権保護が重要であると強調していたことが非常に印象的でした。

盛り沢山の見学コースが終了した後、午後三時三○分から釜山地方弁護士会で討論会が開催されました。釜山側の報告(鄭勝允弁護士)は、当会の希望により「弁護人参加制度と録音・録画の現実」であり、当会は、伊藤巧示総務事務局長が「福岡での法科大学院の概要および弁護士会の連携態勢の実情とその問題点」を報告しました。鄭弁護士の報告では、人権保護のため弁護人の立ち会いや取り調べの可視化に対する捜査機関の対応について一定の評価が示されつつ、立ち会いをより活性化するための弁護士側にも努力が必要であり、取り調べの録音・録画については、制度の実務的な運用が固まっておらず、録音・録画が公正に行われたかの制度的担保がないこと、録画物の証拠能力の存否が立法的に解決されていないなどの問題点があることが紹介されました。また、伊藤事務局長の報告では、当会と県内四大学の連携が紹介され、今後のロースクールのあり方などが紹介されましたが、釜山側から「新司法試験の合格率が低くなる見込みであり、日本のロースクールは失敗したとの報道がなされているが、本当のところはどうなのか」という厳しい質問がありました。韓国も三年後を目処にロースクール制度を導入するとのことであり、実務法曹に与える影響の大きさを懸念している様子が見受けられました。

討論会終了後、有名なカルビ専門店で懇親会となりました。総勢六○人以上の大懇親会であり、顔なじみも多く、大いに盛り上がりました。今回も通訳として同行された本村さんの韓国語教室(「韓塾」)で、訪韓直前のレッスンとして、川副会長御夫妻をはじめ数名が韓国語での簡単なあいさつを勉強されていましたが、懇親会でそれを披露すると、釜山側から大きな拍手となりました。また、宴会にあたり、韓国の女性声楽家がソロを披露するなどの出し物も用意されておられました。歓談の最中、韓塾の生徒代表\として、宮下業務事務局長の奥様や、相島会員の奥様とお子さんなどが韓国語でスピーチを行い、これも拍手喝采でした。懇親会終了後、訪問団のうち一部は二次会、三次会に繰り出しましたが、韓国名物「爆弾酒」の味は格別でした。

最終日の一九日は、早朝にホテルを出発し、一二時前に福岡空港に無事到着し、短かった二泊三日の釜山訪問が終了しました。

今回の可視化ツアーを通じて、韓国の法律実務家、特に官側の意気込みを感じました。普通の日本人(これは実務法曹もそうですが)には、心の底では韓国には学ぶところがないと思っている方が多いのではないでしょうか。私が「韓国好き」だから言うのではありませんが、韓国に学ぶべきところはたくさんあります。少なくとも、アジアに最も近い福岡の実務法曹は、声を大にしてそのことを全国に発信すべきです。 今回も釜山の先生方には本当にお世話になりました。一○月ころに釜山地方弁護士会一行が福岡を訪問予定です。川副会長もその気になっておられますので、例年以上に「熱烈歓迎」したいと考えています。

2005年8月 1日

裁判官評価アンケート報告

野田部 哲也

一 はじめに

福岡県弁護士会では、平成一四年より、裁判官評価アンケートを実施してきましたが、このたび、平成一七年のアンケート調査を行い、集計結果がまとまりました。

二 アンケート調査の概要
1 対象裁判官

裁判官評価アンケートは、司法の利用者である市民の目線に立って、裁判官の客観的評価をなし、もって「市民の司法」を築こうとの目的ではじめられたものです。

平成一七年度の裁判官評価アンケートの調査対象となる裁判官は、福岡高等裁判所の民事(一六名)及び刑事裁判官(八名)、福岡地方裁判所の本庁及び各支部の民事(三九名)及び刑事(二二名)の単独事件裁判官、福岡家庭裁判所本庁及び小倉支部の家事(九名)及び少年(一一名)裁判官です。

平成一六年四月一日現在の配置で行ないました。

アンケートは、平成一七年二月から六月にかけて回収されましたが、回答頂いた会員数は合計二三三名にも及びました。

回答頂いた会員数は、平成一四年七九名、平成一五年一六四名、平成一六年は一七〇名であり、飛躍的に伸びているといえます。アンケート結果の客観性、信頼性はその回答数の多さに比例しますので、裁判官評価アンケートは、年々その客観性、信頼性を増していると言えます。

2 アンケート方法とその評価

アンケートは、民事、刑事、家事、少年に分け、後掲の分析表のとおり、民事一四項目、刑事、家事及び少年はそれぞれ一〇項目について、「大変良い」(五)、「良い」(四)、「普通」(三)、「悪い」(二)、「大変悪い」(一)の五段階評定としました。

また、わからない裁判官や項目については、空欄のまま回答してもらいました。つまり、アンケート回答用紙に記載の裁判官及び項目のうち、評価できる裁判官や項目についてのみ回答することもできるようにしました。

評価の対象とすべき期間としては、平成一六年四月以降とし、その期間における経験をもとに回答することを原則としましたが、当該期間に事件がかからなかった裁判官については平成一六年三月以前の経験で回答することも可能としました。

また、再任審査の対象となる二八期、三八期、四八期の裁判官については、回答用紙の名前に★印をつけ、特に回答を頂くよう配慮しました。

評価項目以外にも、別欄を設け、特記すべき事項がある場合には記載できるようにしました。

なお、回答については、アンケートの正確性を担保するため、回答者の氏名の記入を求めています。

三 分析方法について

1 上記のような方法を採ったことから、裁判官によって、回答数にばらつきが生じ、一番多い裁判官では一〇五でした。

回答〇という裁判官も三名おられましたが、いずれも着任後間もないことなどから会員に当該裁判官に当たった経験がなかったためと推測されます。

回答数が一桁台の裁判官は一六名でした。

回答数の多寡と評価の良し悪しは、必ずしも関連しませんが、回答数を多数確保した裁判官については、会員にとって、一定の印象を与えた裁判官と言え、それ自体が評価に値すると思われます。

2 アンケートの分析をするにあたっては、アンケート結果の客観性が必要と考え、また、平成一六年等のアンケート結果との対比を可能にするため、高裁民事、高裁刑事、家裁家事、家裁少年の裁判官については、五名以上の回答のあった裁判官を対象とし、地裁民事裁判官については一〇名以上、地裁刑事裁判官については、八名以上の回答のあった裁判官を対象としています。

3 別表に記載のとおり、各裁判官について、回答数、全ての評価項目での回答の平均点、また項目毎の平均点を記載しています。

アンケート結果については、若手会員で構成した裁判官評価アンケートチームを基本に、司法改革推進本部のベテラン会員などからも参加頂き、協議を行いました。

四 裁判官全体について

1 裁判官全体の平均点をみると、高裁民事裁判官三・四六(平成一六年三・六二)、高裁刑事裁判官三・四五(同三・四〇)、地裁民事裁判官三・四三(同三・五四)、地裁刑事裁判官三・四四(同三・五七)、家裁家事裁判官三・三四(同三・五一)、家裁少年裁判官三・二一(同三・二二)という結果でした。

全ての裁判官毎の平均点は三・〇(普通)を超えており、また全ての評価項目毎の平均点も三・〇を超えており、福岡の裁判官は高裁、地裁、家裁のいずれも基準ラインを超えていると評価できます。また、前回アンケートに比べて、高裁刑事が平均点を上げています。

平均点が三・〇に満たない裁判官も、高裁民事二名、高裁刑事一名、地裁民事四名、地裁刑事二名、家裁家事二名、家裁少年二名(なお、家事、少年の二名はいずれも同じ裁判官)いることから、個々の裁判官レベルでは普通以下の評価を受ける人もいます。

2 全体的な傾向として、総合的に平均点のよい裁判官は、概ね全ての項目についてよい評価を受けており、一方、総合的に平均点の悪い裁判官は、いずれの項目についても悪い評価を受けているといえることは、これまでと同様です。

また、同じ部の中でも、裁判長よりも右陪席や左陪席の裁判官の方が高い評価を受けることもままみられました。単独事件や争点整理、和解等で受命裁判官の印象が強いように思われます。

五 民事裁判官について

1 全体的な印象として、高裁は、部によって良し悪しの評価が分かれているようです。

地裁は、本庁については、大部分の裁判官は平均的な評価を得ているといえます。支部についても、ほぼ平均的なレベルといえますが、三・〇点に満たない裁判官がありました。

2 次に項目毎にみてみると、高裁では「当事者に高圧的な態度をとっていないか」三・六八、「熱意をもって取り組んでいるか」三・六四と高く評価されています。一方、評価の低い項目は、「判決書が説得的か」三・一〇、「判決はすみやかに言渡されているか」三・二一となっています。

地裁では、「当事者に高圧的な態度をとっていないか」三・五六、「記録はよく読んでいるか」三・五五が高くなっており、「訴訟指揮に思い込みはないか」三・三一、「判決書は説得的か」三・三二が基準点は越えていますが、低い評価となっています。

高裁及び地裁とも、「判決書が説得的か」が最も悪い項目又はそれに次いで悪い項目となっており、厳しい評価となっています。負けた代理人がいれば勝った代理人もいるのですから、敗訴判決を受けたから評価が低いのだとは言えないと思います。勝敗の結果と同時に、当事者・代理人は結論に結びつくより説得的な判決書を求めていると言えます。

「当事者に高圧的な態度をとっていないか」という項目がいずれも一番高く、また前回と比べても平均点がアップしており、裁判官が当事者や代理人と接する際、一定の配慮をするようになってきていると言えるのではないでしょうか。

但し、高裁及び地裁で平均点の低かった裁判官については、本項目「訴訟指揮に思い込みはないか」、「自分のした争点整理に固執しないか」等の項目が特に低い評価となっています。評価の低い裁判官は、全体的な傾向に反して、高圧的な態度を堅持し、訴訟指揮も強権的であると思われる面がありそうです。

六 刑事裁判官について

1 全体的な特徴として、高裁、地裁とも、裁判官毎の評価にばらつきが少なく、平均的な範囲にほぼ収まっているといえます。総合的な平均点も高裁三・四五、地裁三・四四と基準レベルを〇・四ポイント以上上回っています。

2 項目毎にみると、高裁では、「判決はすみやかに言渡されているか」三・七五、「判決書はすみやかに交付されているか」三・六九に続いて、「熱意をもって取り組んでいるか」三・五三、「被告人・証人に高圧的な態度をとっていないか」三・五三の評価が高く、「量刑は適切か」三・二二、「判決は説得的か」三・二三、「十分な審理(証拠の採用)をすすめているか」三・三二が基準レベル以上ではありますが、低い評価となっています。

地裁では、「熱意をもって取り組んでいるか」が三・六三と一番高く評価され、反面「事実認定能力は優れているか」三・二五、「判決は説得的か」三・二五が低い評価となっています。熱意を持って取り組んではいるが、事実認定能\力や判決の説得性に疑問があるというのは如何に解すべきなのでしょうか。

高裁において、地裁に比べ、「十分な審理(証拠の採用)をすすめているか」の項目が三・三二と低いのは、事後審としての性質上やむを得ない評価なのでしょうか。

また、刑事事件において重要な「量刑は適切か」という項目は、前回の調査より、高裁では、〇・〇四ポイント下降しましたが、地裁では、さらに〇・一六ポイントも下がっており、重く感じる量刑判断が増えている傾向にあるようです。

七 家事裁判官について
  1. 家事

    全体的に三・五〇前後の評価を受けている裁判官が比較的多く、項目については「当事者に高圧的な態度をとっていないか」三・五〇、「当事者の意見はよく聞くか」三・四四、「熱意をもって取り組んでいるか」三・四〇、「記録はよく読んでいるか」三・四〇が高い評価を受けています。

    ところが、総合的な平均点が三・〇を割っている裁判官は、「当事者に高圧的な態度をとっていないか」、「当事者の意見はよく聞くか」、「熱意をもって取り組んでいるか」、「記録はよく読んでいるか」等、他の裁判官では評価の高い項目について、かなり低い評価を受けています。これらの項目は、家事事件では、とくに基本中の基本といえるものばかりで、その成否を決めるといっても過言ではなく、これらについて評価されない裁判官はやはり総合的な面でも基準レベルを割っているといえます。

  2. 少年

    ここでも、概ね三・五〇前後の評価を受けている裁判官が比較的多く、その中で、家事で評価の低かった裁判官は、少年でも同じく三 ・ 〇を大きく下回る評価に甘んじる結果となっています。項目別でも「少年・証人に高圧的な態度をとっていないか」、「審判は説得的か」、「熱意をもって取り組んでいるか」等の項目で、かなり低い評価は、少年審判においては、問題が大きいと感じます。

八 特記事項について

会員が記載した特記事項は、当該裁判官に対する思い入れの強さを感じさせるものが多いようです。

その一部を後掲の別表に記載しています。

なお、裁判官が特定される記載のある部分については、変更、省略しています。

九 平成一六年等のアンケート結果との比較

過去のアンケート結果との対比は別表のとおりです。全体的にみると、平成一六年の評価に比べ、若干下がっているものの、例年とほぼ同様であり、裁判官の審理や判決に向けた姿勢は、評価できるものと思われます。

しかし、平成一六年と比べ、評価の下がった項目としては、「判決が速やかに言渡されているか」(高裁民事三・四一↓三・二一)、「事件の筋を見通す理解力はあるか」(地裁民事三・五七↓三・四四)のほか、地裁刑事では、「熱意をもって取り組んでいるか」(三・八三↓三・六三)、「被告人・証人に高圧的な態度をとっていないか」(三・六五↓三・四三)、「十分な審理(証拠の採用)をすすめているか」(三・六二↓三・四二)、「判決書はすみやかに交付されているか」(三・五九↓三・五二)と評価を下げ、家裁家事でも、「当事者に高圧的な態度をとっていないか」(三・五二↓三・五〇)、「争点整理は十\分か」(三・五三↓三・三二)、「十分な審理をすすめているか」(三・四七↓三・二三)、「審判はすみやかに言渡されているか」(三・四八↓三・一八)となっています。

一〇 福岡高裁地裁への申入れ等
  1. 高裁長官等への申入れ\

    今般の裁判官評価アンケートの集計結果については、裁判官の研鑽と人事評価の資料として役立てて頂くべく、福岡高裁長官、福岡地裁所長に対して伝えております。

  2. 評価結果の開示

    今回実施したアンケート結果についても、これまでと同様に、裁判官本人の申出があれば開示し、今後の審理・判決に役立てていただくようにしています。

    前回も複数の裁判官から開示の申し込みがありました。

    所定の用紙で開示申込をして頂いたり、弁護士会の執行部、職員、私に声をかけ、口頭で申\し出て頂き、多くの裁判官にアンケートの結果を活用頂けたら幸いと考えます。

一一 おわりに

1 回数を重ねる度に、回答数が増え、より客観性、信頼性が高くなっていることは大変喜ばしいことです。

テレビの世界では、視聴率が大腕を振って歩き、番組の存続をも決しているようですが、視聴率のデーターは関東地区約一五八〇万世帯に対し、六〇〇世帯程度であり、約二万六三〇〇世帯に一世帯程度の割合です。

これに対し、今回のアンケートは、会員総数六六五名中二三三名に回答頂き、三五パーセントを超える協力を得ており、その信頼性はますます高くなっているものと自負しております。

ご協力頂いた会員の皆様には心より御礼申し上げます。

2 今回も、メンバーの力強いサポートを受け、裁判官評価アンケートの分析においても、熱心な議論が繰り広げられました。

裁判官評価としての分析においても、多数の回答を得ている裁判官は、その評価の良し悪しに関わらず、それだけの仕事をしていることになるのではないか等、新鮮な意見も多数出されていました。また、アンケートの結果の活用についても、もっと有効利用をするべき方法を検討するべきであり、アンケート結果を実名で公表するべきではないか等の意見も出され、今後も議論が必要と考えます(なお、裁判官評価アンケート結果そのものを実名で公表\することについては、アンケートの回収において、実名の公表を前提としておらず、また、弁護士と裁判所との適切な共同関係を形成することを目指すべきであり、消極的に考えています)。

さらには、アンケート方法それ自体についても、必ず、記名してもらうようにするとか(この点も、回答者数を多くすることを目指し、記名の有無は二次的に考えてよいように思われます)、地裁四民の裁判官について、一般的な民事裁判官と同様の質問事項でよいのか、家裁家事事件についても、離婚訴訟に関して管轄が家裁になったことから、一般的な民事裁判官と同じ質問をしたほうがよいのではないか等、種々の問題提起がされていました。

3 ある懇親会の席で、裁判官同士で裁判官評価アンケートに話題が及んだ際、ある裁判官が後輩の裁判官に対し、「弁護士の評価に基づいたアンケートなんか気にする必要はない。そんなことを気にする時間があったら、記録を読み、信念を持って判決を書けばいい。」ときっぱりと言い切り、たしなめる場面に遭遇したことがありました。しかし、このように言い切った先輩の裁判官に対するアンケート評価は極めて高いものでした。

後輩の裁判官は、やはりアンケートの開示を求めました。当初は、その裁判官の評価は、あまり芳しいものではなはありませんでしたが、その後、次第に評価を上げられ、最終的には著しく高い評価を得るに至っておられます。

いずれも立派な裁判官に思われてなりません。このアンケートの実施そのものやその結果が何らかの形で、役に立ったら幸いです。

4 おわりに、事件の相手方を評価するときに、弁護士が心得なければならないことについてのアラン・ダショーウイッツ・ハーバード・ロースクール教授の話を引用して、本稿を締めたいと思います(「若き弁護士への手紙」小倉京子弁護士翻訳)。

「絶対に相手方を甘く見てはいけません。少なくとも、自分と同じくらい優秀だと推定して下さい。彼らと同じように考えようとしてみて下さい。彼らの頭や、心や、皮膚の中に入り込もうとしてみて下さい。相手が少しでもまともな弁護士なら、彼らも同じことをするでしょう。」

「相手方弁護士の知性、モチベーション、正義感を評価するときは、疑わしきは相手の利益に解さなければなりません。準備不足より、準備しすぎが悪かったためしはありません。」

この教えは、弁護士が相手方の弁護士を評価するときのみならず、相手方の検事、裁判官を評価するときにも思い出すべき話ですし、相手方の検事や裁判官が弁護士を評価するときにも思い出すべき話といえるのではないでしょうか。

5 最後に、アンケートの回収やその分析に尽力してくれた裁判官評価アンケートチームのメンバーと集計作業に尽力してくれた職員の荒木さんに対し、この場を借りて心より感謝致します。

〈高裁民事 特記事項〉
  • まじめで熱心で謙虚で良い。
  • 争点整理能力、事実認定能\力、当事者の利害関係を調整する能力、いずれもすばらしい。
  • 裁判官としての能力が高いこともさることながら、思慮深さや人柄の良いことが訴訟指揮や和解等にも反映されており、裁判官自身が説得力を持っている。
  • 自分のノウハウ等スキルを同じ部の後輩の裁判官にも上手に伝え、いい後進の指導をしている。実際にも、同じ部だった若い裁判官が頭角を現している。
  • 第○民事部は、できるだけ一期日に一事件という処理をしていることを聞いて感服した。高裁という性質上、双方の主張を聞く姿勢は評価に値する。
  • ・第○民事部は私の事件で最高裁で破棄差戻された。実に記録を読んでいないかが分かる。
  • 記録を読んでいないのに読んだふりをして和解に臨むなど。和解案もコロコロ変える。当事者からの信頼もない。代理人として、依頼者に対する説明に困る。
  • 思い込みがひどすぎる。
  • 原判決は間違っていると断定し(当事者と代理人の前で)、判決の結論を示しながら和解を試みる。これでは和解に応じざるを得ない状況となる。(特に相手方も同席する席上でのことだけに決定的である。)交替前の前任裁判官の和解方針とも完全に異なり、この点でも不信を倍加している。
  • 高裁においても、真実を発見し、紛争を解決しようという熱意がすばらしい。
  • 高裁と最後の事実審として充分に機能させている。
  • 記録を丹念に読み、求釈明等を行い、高裁の口頭弁論を活性化している。
  • 事件についての予断を最後まで絶対に変えない。その予\断に従わない当事者や証人と法廷で喧嘩をする。
  • 本筋でない細かな所にこだわる所があるように思われる。
  • 第○民事部について、判決言渡期日の変更が多すぎる。
  • 判決が極めて遅い。いったん決めた判決期日を延期して、一年待たされました。
〈高裁刑事 特記事項〉
  • 第○刑事部は量刑が重すぎる。
  • ○○裁判官は、勉強熱心な人。弁護士に電話し、法理論について協議する。
  • 事案を冷静に分析し、問題意識を持って事実認定に取り組んでいる。
  • 事実認定が客観的かつ説得的である。
〈地裁民事 特記事項〉
  • 丹念に記録を読んで、オーソドックスな裁判をされ、安心して裁判ができる。
  • ○○裁判官はひどい。常識に欠けている。
  • 人格・能力とも資質は高いと思われる。
  • ○○裁判官は素晴らしい。事件の見通しの立て方が迅速。
  • ○○裁判官は、訴訟の進行で特に問題があるとは思わないが、非常に理由付けの粗い納得できない判決を出した。(類似事件で別の部では勝訴。勝訴を抜きにしても理由付けがひどかった。)
  • 証拠調べをしたがらなかった。(不倫の事件で損害請求)
  • 紛争の実態とは離れて書きやすい判決をする傾向が顕著。
  • 和解の進め方が少し強引なところがある。
  • ○○裁判官はバランスがいい。
  • 実に細やかに記録を読んでおり、感心させられる。
  • 問題意識が自然かつ合理的で、これが不利益な判断に結び付いたとしても、理解はできる。
  • ○○裁判官は、全般的に優れた裁判官である。信頼できる。
  • ○○裁判官の判決和解は安心できる
  • やる気を感じない。
  • ○○裁判官は緻密でいい。
  • 証拠の整理に時間がかかる。不当ではないが、介入は多い。
  • 若い裁判官ではあるが、当事者の立場や気持ちを配慮した訴訟指揮や和解ができる。
  • ○○裁判官はぼっとしているがよく分かっている。
  • やる気がない。声の大きい側になびく。
  • ○○裁判官はものすごく形式的で、紛争の妥当な解決という視点が欠如している。
  • 個別審尋の際、当事者のことを「あんた」と呼び、事実を問い質す際に高圧的で、当事者を精神的に追い詰め、泣かせたことがある。当事者は言いたいことを言える情況ではない。
  • 企業VS個人の事件で企業に偏見を持っている。
  • 思い入れが激しすぎる。
  • 人格・能力ともに資質は高いと思われる。
  • ○○裁判官はますます頑固になっている。
  • 頑固一徹。正義感が強い。
  • 予断大。うちが勝ったからいいようなものの相手方が可哀想。
  • 指揮がやや強引。実体的真実追求型だが丁寧ともいえる。
  • 方言があるので、当事者にはわかりにくい。
  • やる気乏しい。思い込みに従い、説明責任を果たさない。
  • ○○裁判官は、ほのぼのしていて、牧歌的な雰囲気にしてくれそう。
〈地裁刑事 特記事項〉
  • ○○裁判官は、独自の価値観に基づき事件を見る傾向がある。
  • 否認すれば執行猶予事案も実刑になる。
  • ○○裁判官は、弁護人の弁護活動について不服があると、それを他の事件の量刑等で報復する。又その弁護人について国選弁護をさせないという対応をしている。又予断排除について無神経であり、刑事裁判官として不適格である。
  • 人間の弱さに対する理解が欠けている。
  • ○○裁判官は、刑事裁判官として真面目で丁寧である。立派な裁判官である。
  • 熱意を持って事件に取り組むのは評価できるが、感情的に訴訟指揮をしたり、介入尋問をすることは、止めて欲しい。
  • 被告人の主張に基づいて、弁護人がその利益を擁護する発言をすると、とたんに不機嫌になる。裁判所の意には沿わなくても、弁護人は、被告人の利益を擁護するため活動する立場にあることを理解して欲しい。
  • 人間の弱さに対する理解が欠けている。
  • ○○裁判官は、被告人に対し、人間味ある説諭をしていただき、弁護人としても大変救われる思いをしたことがありました。
  • ○○裁判官は、民事のように手続を簡略化しすぎている。被告人は納得いかない様子。(適正手続上?)
  • 被告人に丁寧に手続の説明をしている。
  • ○○裁判官は、刑事部の良心だった。戻ってきて欲しい。
〈家裁家事 特記事項〉
  • 審判が二年半になるも出せないでいる。
  • ○○裁判官は、すばらしい。
  • 逆送する少年に対し、「言いたいことがあったら裁判で言うように」と一言いっておわった。非行少年をきらっているとしか思えない。
  • 少年に「神を信じるか?」ときいたり、「人間は何かによって作られた」といったり。中絶をきらい、望まない妊娠でも出産をすすめるような言動あり。
  • ○○裁判官は、結審から審判までが長すぎる。(二年になろうとする事件あり)
  • 審判以外でも、観護措置なども弁護士の意見をきかない。取消についても自分で責任を持とうとしない。
〈家裁少年 特記事項〉
  • ○○裁判官は思い込みが強すぎる。
  • ○○裁判官は、少年に対してはそうではないが、付添人に対して高圧的。少年の気持ちをきく前に頭ごなしに自分の意見を付添人に押し付けるのはやめて欲しいと思う。(審判そのものが問題という訳ではないのだが……。)
  • ○○裁判官は、保護観察処分になった少年について、審判後も付添人に現在の生活状況をわざわざ電話で尋ねてくださったりして気にかけてくださっており、大変にうれしく思っています。
  • 担当事件が逆送され、不起訴処分となった。五頁くらいの意見書を三回くらい出したのに全く理解がなく、同じものを読んだ検察官は不起訴にして釈放した。
  • 少年審判で、黙秘権の告知をしない。物言いや質問の仕方が高圧的。処分も重い。審判も説得的でない。
  • 黙秘権・抗告権の告知がない。事実関係に関する質問はほとんどない。やる気が感じられない。

学生無年金訴訟について

千綿 俊一郎

一 はじめに

皆さん、学生無年金訴訟というものをご存じでしょうか。

今回、福岡地裁で、勝訴判決を頂きましたので、新聞報道もなされましたが、問題点が分かりにくいのと、今後の社会福祉訴訟への誘いも兼ねて、御報告させて頂きます。

二 福岡訴訟が目指したもの
  • 原告の主張

    我々原告弁護団は、平成元年改正前の国民年金法が、学生らが障害を有するにいたった場合に備えて救済手段を何ら講ずることなく、漫然と学生を強制適用の対象から除外していた点で、憲法第一四条、第二五条に違反することを、主張してきました(いわゆる「憲法問題」)。

    また、同時に、福岡訴訟の原告については、二〇歳になる前の時点で、発症し、医師の診断を受けていたことを主張してきました(いわゆる「初診日問題」)。二〇歳になる前の時点で、初診を受けていたことが認められれば、障害福祉年金(昭和六〇年改正後は、障害基礎年金)を受給することができるのです。

  • 福岡での立証活動

    憲法問題について、九州大学名誉教授の河野正輝先生に御証言をいただき、熊本学園大学助教授の?倉統一先生に意見書を作成頂きました。その他、国会議事録や委員会審議録、立法担当者による文献など、大量の資料から、制度の矛盾、問題点を見て取ることのできる箇所をピックアップして、整理、検討しました。同時に、学生無年金者や家族、全国脊髄損傷者連合会などが、国に対して様々な働きかけをしてきたにもかかわらず、国がこの問題を放置してきたことを明らかにしてきました。これらの作業は、全国弁護団の驚くべき程に精力的な立証活動に大きく依拠するところでした(言うなれば、福岡弁護団はおんぶにだっこ)。

    また、初診日問題については、西南学院大学講師の平直子先生に御証言をいただきました。平先生には、精神疾患の特有の問題として、発症段階では他の内科疾患等との区別が付きにくいこと、偏見や制度の未整備などのため受診が遅れる傾向にあること、そのため、初診日の認定実務の際に問題が多いことを論じて頂きました。

三 各地の判決結果

学生無年金訴訟は、二〇〇四年三月の東京地裁判決を皮切りに、各地裁で判決が出されています。東京地裁は、改正前国民年金法が憲法第一四条に違反していたものとして、原告らに損害賠償を認める原告勝訴判決を下し、続けて、二〇〇四年一〇月の新潟地裁でもほぼ同様の原告勝訴判決が出されました。さらに、二〇〇五年三月の広島地裁は、さらに一歩進んで、改正前国民年金法が憲法第一四条に反していたことを理由に、原告に対する不支給決定を取消す判決を出しました。

しかしながら、東京地裁判決に対する控訴審判決(東京高裁)は、二〇〇五年三月二五日に原告敗訴の逆転判決を下しました。この判決は、国会の立法裁量の範囲を広く認め、改正前国民年金法の内容も、この国会の立法裁量の範囲内であるとしたものでした。そして、判決は、「障害による稼得能力の喪失に対する備えは、本来、各個人又はその扶養義務者においてもなすべきものであり」とまで判示しており、障害者の生活実態や家族の苦悩を全く理解しない、冷たい判決でした。

四 勝訴判決と国側の控訴断念について
  • 福岡判決の言渡

    二〇〇五年四月二二日、福岡地裁第三民事部(一志裁判長)は、判決の言渡しをしました。その内容は、原告の二〇歳前初診を認め、不支給処分の取消を命じるものでした。

    立法不作為による損害賠償については、これを認めませんでしたが、これは、憲法問題等に関する原告の主張を退けたものではありません。上記の通り、我々は、立法不作為の内容として、「二〇歳以上で初診となった学生と二〇歳未満で初診となった学生との間の差別」を主張していたところ、裁判所は、本件原告について「二〇歳以上での初診」ではなく、「二〇歳未満での初診」を認めたために、差別の問題については立ち入るまでもなく、原告が救済されることとなったものです。

    私は、原告や家族の苦労やこれまでの立証活動の大変さが報われたことが思い返され、同時に、福岡訴訟の裁判体が、東京高裁判決後であったにもかかわらず、原告勝訴判決を出してくれたことに対して、深い感動を覚え、退廷後、思わず涙を流してしまいました。

  • 判決言渡し後の活動

    勝訴判決後は、厚生労働省や社会保険庁の担当者と控訴断念の交渉をなしました。国会議員にも御報告とお願いのために、原告のご両親が上京され、我々弁護団からも、厚生労働委員会の議員の方に、委員会で取り上げてもらうようFAXや電話でお願いをするなどしました。そして、ゴールデンウィーク中の五月二日に、無事、社会保険庁の担当者が、控訴を断念することを発表しました。 五 今回の弁護活動について

    今回の福岡弁護団は、津田聰夫団長と山崎あづさ事務局長を中心として、皆、他の仕事に振り回されながらも頑張ってきたなあと思っています。当初は、「保険料も払っていない人がどうして年金をもらえるんだ」という冷たい指摘もある中、ドンキホーテのような気持ちで裁判所での弁論に望んでいました。しかし、全国の弁護士のすさまじい仕事にやり方にカルチャーショックを受けながら、どうにか、やってきました。福岡訴訟は、訴訟の審理を迅速に進めたい裁判所、訟務検事とたびたび対立してきましたが、弱腰になりがちな我々弁護団の尻を叩いていただいたのは、野林豊治弁護士でした。初診日問題は安部尚志弁護士が担当し、不屈の精神で頑張られたため、見事勝利投手となりました。平田広志弁護士は、さすが、社会福祉訴訟の専門家で、学者や国との接し方は見事でした。

    社会福祉訴訟は、障害者の生活の厳しさを目の当たりにして、制度の矛盾を突いて裁判所に説得していくという、なかなかやりがいのある仕事だと思います。皆さんも、社会福祉訴訟に是非関心を持って頂きたいと思っています。

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