福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2003年7月 1日

裁判員ドラマ上映会

徳田宣子

5月24日、中央市民センターにおいて、日弁連作成のドラマ「裁判員〜決めるのはあなた」の福岡上映会が開催されました。その模様をお伝えしようと思います。

当日は、集客に多少の不安はあったものの、160名を越す方々の参加がありました。私は司会をしていたため、ステージの上から会場にいらした方を見ていましたが、大学生風の人から年輩の方まで、幅広い層の市民の方々に参加していただいたという印象を受けました(残念ながら会場を満員にすることはできなかったのですが)。

さて、当日のプログラムとしては、まず今回の目玉である日弁連作成ドラマ「裁判員〜決めるのはあなた」の上映が行われました。見ていない方というのために簡単に説明しますと、嫁が姑を殺したとされる殺人被告事件において、石坂浩二扮する裁判長とともに選挙人名簿から無作為に選ばれた個性あふれる7人の裁判員が審理をしていくという内容のものです。見どころは何と言っても審理の過程です。始めは、被告人が故意に被害者を突き落としたと考えていた裁判員が議論を深めていく中で次第に考えが変わり、最後には被害者は誤って転落したにすぎず被告人は無罪であると全員一致で判断するに至ります。和製「12人の怒れる男たち」といったところでしょうか。かなり本格的な作りです。参加者の方からも大変好評で、協力いただいたアンケートでは、「裁判員1人1人の描写が深く表現されていて感動的で説得力のあるドラマだった」「予\備知識なしでも十分楽しめるし、裁判員制度についても身近に感じられると思う」といった感想が寄せられました。

ドラマの上映に続いては、福岡上映会の独自の企画として、関西学院大学の丸田隆教授に「市民が参加しやすい裁判員制について」と題する特別講演を行っていただきました。丸田教授は、法的観点から市民が利用しやすい裁判員制度と言えるためには、人数・対象事件・評議方法・評決方法などの点でどのような制度が望ましいかということや、現実的に市民が使いやすい制度と言うためには、どのような補償が必要となってくるかということなどを、流暢な関西弁に乗せて、大変わかりやすく説明してくださいました。もちろん参加者の方からの評判も大変よく、会場のあちらこちらから「わかりやすかった」という声が聞こえてきました。

最後に、船木副会長から、閉会の挨拶に代えて、「より良い制度の実現に向けて」として、裁判員制度導入にあたって、捜査の可視化が不可欠だという提案がされ、裁判員ドラマ福岡上映会が幕を閉じました。あっという間の三時間。参加された方は、時間を忘れて裁判員制度の理解を深められたのではないかと思います。

平成13年6月、司法制度改革審議会から裁判員制度を取り入れた意見書が答申され、裁判員制度の導入がいよいよ現実化しようとしていますが、正直なところ、私自身は恥ずかしながらどのような制度が導入されるのか、よくわかっていませんでした。しかし、今回の上映会を通じて少しではありますが、イメージすることができました。もちろん、これまでとは全く違う制度が導入されるのですから問題がないということはあり得ないと思います。しかし、よりよい制度にするためにできることとして、まずは1人1人が関心を持つことが何より大事なのではないかと思います。私を含めて少なくとも上映会に参加された方は裁判員制度に関心を持ち、自分なりに「理想的な制度とは?」ということを考えた1日だったのではないかと思います。

さて、裁判員ドラマ上映会は、6月27日は久留米で、また本稿執筆段階では日程は未定ですが、北九州でも開催されます。また、ご希望の方がいらしたら再度の上映会の開催も考えています。まだ裁判員ドラマをご覧になっていない方はぜひご覧頂きたいと思います。

「すべての少年に付添人を!」 公的付添人制度実現に向けたシンポジウム報告

山之口 泉

平成一五年五月三〇日、弁護士会館2階クレオにて、「すべての少年に付添人を!」−幅広い公的付添人制度実現のために−と題して、日弁連、東京三会及び法律扶助協会の共同主催による公的付添人制度実現を目指すシンポジウムが開催されましたのでご報告いたします。

シンポジウムでは、前半に東京での現在の付添人制度の実情及びケース報告が行われ、後半に少年事件に異なる立場から関わる四人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。

一 付添人制度の現状及びケース報告

まず、日弁連副会長高階貞男氏による開会の辞に続き、第二東京弁護士会の樫尾わかな弁護士が現在の付添人選任状況について報告されました。

東京家庭裁判所管内における付添人の選任状況について、観護措置決定件数総数に対する付添人選任件数の割合は平成一〇年では二三パーセントであったのに対し平成一三年には三一パーセントであり上昇傾向にはあります。しかし、計算の対象となる付添人選任件数については観護措置がとられていない場合も含んでおり観護措置決定された少年に対する付添人選任割合としてはさらに低くなるとの報告でした。

次に、法律扶助協会の専務理事である藤井範弘弁護士から付添扶助の現状について報告がありました。

付添扶助は全国五〇支部によって格差があり付添扶助が全くないという支部もあるものの、全体としては平成一三年における援助決定は二四二九件で前年度比にして四〇.七パーセント増という驚異的な数字であるとのことです。

しかし、現在の段階でも財源が限界にきておりそのために援助要件の変更を余儀なくされつつあるという問題点が指摘され、早急に公的付添人制度を実現する必要性を訴えていました。

続いて、日弁連子どもの権利委員会副委員長である羽倉佐和子弁護士から現在の公的弁護制度検討会における法曹三者の意見について報告がされました。

平成一五年二月二八日の第七回公的弁護制度検討会における法曹三者の意見についてはメールマガジン等を通じてご存知の方も多いかと思われますが要約してご説明いたします。

日弁連:公的付添人制度を実現すべきである。

最高裁事務総局:要保護性が問題となる事件については調査官がいるので付添人制度の必要性はさらに検討すべきである。他方事実認定が問題となる事件は適正な事実認定という観点から検察官関与と併せて公的付添人制度を検討すべきである。

法務省刑事局:事実認定の適正化という観点からは検察官関与のない公的付添人制度は考えにくくかつ被害者の納得も得られない。要保護性の適切な認定のためには調査官が存在する。公的付添人制度の導入については真に必要性があるか十分に検討すべきである。

その後、東京弁護士会の川村百合弁護士の司会により四名の弁護士の付添人のケース報告がなされました。

ケース報告では、非行事実に争いがなくても付添人活動により認定落ちをさせた事案や身柄解放に向けて付添人が活動した事案が報告され、川村弁護士は成人の刑事事件の九〇パーセントが自白事件であることと比較しても事実認定に争いがない少年事件についても付添人の必要性があることは明らかであると話されていました。また、要保護性のみが問題となっていても親からの虐待について調査官には話せず付添人との信頼関係のなかでようやく打ち明けたという事案、付添人が被害者との交渉や審判後にも少年の環境調整を行ったという事案などが生き生きと報告されており、まさに東京版「非行少年と弁護士たちの挑戦」といった内容で非常に勉強になりました。

二 パネルディスカッション

ここで休憩をはさんだ後、日弁連子どもの権利委員会委員の坪井節子弁護士のコーディネートにより、4人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。

まず学者としての立場から九州大学大学院法学研究院助教授の武内謙治氏より、付添人選任率の現状は五パーセントであり成人とくらべると異常に低いこと、また少年審判に主体的に少年が参加できるようにするためにまた適正手続の観点から付添人制度は必要であり少年には経済力がないことから公的制度が必要であるとの理論付けをされていました。

次に、元家庭裁判所調査官である寺尾絢彦氏より要保護性が問題となる事案では調査官がいるから付添人は不要であるとの意見に対して調査官はあくまで少年の処分を決定する裁判所の立場であること、また成年後見制度や少年法の改正により調査官の職域が広がっているので従来の調査官としての仕事が十分にできにくくなっている状況にあるという指摘がありました。

また、少年の親の立場から「非行」と向き合う親たちの会世話人である菊池明氏より付添人弁護士が子どもとの架け橋になってくれた体験を紹介され法律的な専門的知識をもった付添人の必要性と親の経済的状況により付添人を依頼できない状況にある親も多くいることから公的制度による付添人の制度を実現していくことが必要性があることを訴えていました。

そして、元裁判官でもあり現役の弁護士としての立場から大谷辰雄弁護士が、坪井弁護士から「私たちの希望の星です!」と紹介され話をされました。大谷弁護士は裁判官と付添人の両方の経験をふまえて裁判官は少年の処分を決める側の人間であり付添人は少年の更生を考える立場にあり全く異なる立場にあること、そして福岡での全件付添人制度の取り組みを紹介されていました。福岡では成人には国選弁護人制度があるのになぜ少年事件にはないのかという素朴な疑問から制度の発足にいたったこと、現在の福岡での取組みは公的付添人制度発足に向けて弁護士の対応能力の基礎をつくっておくためという意味合いもあったこと、制度の発足にあたって会員に対し3年後には公的制度ができるはずであるのでそれまで負担をお願いしたので公的制度を実現しなければ「私は約束を破ったことになります!」と鬼気迫る勢いで訴えていました。

その後会場との質疑応答が行われ、最後に日弁連子どもの権利委員会委員長の山田由紀子氏より、少年が納得して処分を受け入れる体制を作るべきでありそのために付添人弁護士が果たす役割は非常に重要である、しかし費用的な限界があることから公的付添人制度を早急に実現すべきであり、公費投入することについて国民の理解が得られるようさらに活動を続けていきましょうとの総括がなされ満場一致の拍手の中で閉会しました。

当日は、約二〇〇人の参加者が集まり、全国各地から弁護士も集まっており、また会場では特に学生、少年の親や教育関係者などの一般の方の参加が目立ち、シンポジウム後は「非行少年と弁護士たちの挑戦」も四〇冊完売しました。

パネルディスカッションの中で特に印象的だったのは、調査官の寺尾氏と少年事件を親として経験した菊池氏のお話でした。元調査官の寺尾氏が調査官が存在するからという理由で付添人不要論に対して調査官の事情としても付添人は必要であり少年の更生のためには調査官と付添人が情報交換をして協力していくべきであるという話をされ、また少年の親の立場から菊池氏が非行に走った少年の親の苦悩する心情を非常に生々しく語っており親の立場からしても「専門知識をもった」付添人弁護士は必要であると話されていました。検討委員会の意見でも公的付添人制度に対する厳しい反対意見が出されていますが、このお二人のお話は非常に心強いものでした。この日と前後して東京でも全件付添人制度の導入の検討に入ったということで、全国にもこの日の熱気が伝えられたことと思います。

2003年5月 1日

「止めよう住基ネット・住基カード」シンポジウム開催

永田一志

皆さん、「住基ネット」という言葉を覚えておられるでしょうか。昨年の8月頃、皆さんの家に葉書で「住民票コード」(11桁の番号)なるものが送られて来ましたよね。そのころ、横浜市が住基ネットから離脱するとか、どこそこの町がつながないと決めたとか言う話が新聞やテレビ等で流されていたことをご記憶の方が多いと思います。

ただ、その後新聞もほとんど取り上げなくなり、テレビでこの問題を見ることも皆無と言っていい状態になって、皆さんも「住民票コード?」、そう言えばそんなものが来たな、でも番号なんか覚えてもいないし、何も変わっていないみたいだし、という感覚になっておられるのではないでしょうか。

ところがどっこい、この問題はまだ終わっていなかったのです。昨年稼働した住基ネットは、本来の住基ネットの一部でしかなかったのです。それが、今年8月に全面的(本格的)稼働となるのです。どういうことかと言うと、昨年8月に稼働を始めたのは、住民票に付随する個人情報を、住民票を管理する市町村から県へ、県から地方自治情報センターへ、地方自治情報センターから国の機関へコンピュータ回線で流していくという、いわば縦のラインだけでした。それが、今年の8月に「住基カード」という個人情報を載せたカードを発行することにより、一つの市町村から他の市町村へという、いわば横のラインでもコンピュータ回線で個人情報が流されるようになるのです。昨年動き出した縦のラインと今年動き出す横のラインの両方がそろって、「ネット」が完成するわけです。

しかし、縦横で情報が流れるようになれば、個人情報が流出の危険がより高くなります。また住基カードには国が決めた情報の他、発行する市町村が決めた情報を載せることができるようになっていますが、たくさんの情報を載せれば載せるほど、利便性は高まりますが、(カードからの)個人情報流出の危険性も高くなります。また、個人情報の名寄せはできないことにはなっていますが、それが行われない保証もありません。これら個人情報の流出や名寄せに対する防止策はどうでしょうか。今年再提出された個人情報保護法案(この原稿を書いている時点では衆議院で審議中ですが)も民に厳しく官に甘いといわれる基本的な問題点は改善されていないようです。また、実際の現場でのセキュリティー管理もとても十分とは言えません。(人口何千人の村にもネットにつながった端末がありますが、それを村の予\算で管理するのが非常に難しいことは想像に難くないでしょう。)

そこで、この危険な「住基ネット」を何とか停止すべく、昨年から引き続き活動をしていますが、その一環として、去る3月28日に中央市民センターでシンポジウムを開催しました。マスコミの無関心さに比例するようにとまでは行きませんが、昨年のシンポよりも少ない参加者となってしまいました。しかし、パネリストを初め、熱い議論・意見が出され、参加者の情熱は失われていないことが分かりました。今後も、住基ネットの稼働停止に向けて、再度のシンポ等を企画していますので、皆さんも是非参加、ご協力下さい。

2003年3月 1日

女性相談研修第3回

山崎あづさ

1 3月11日、3回連続講座として行ってきた「女性相談研修」の最終回である、「性暴力被害について」の研修が行われましたので、そのご報告をしたいと思います。

2 はじめに、原田弁護士から、性暴力の意義、問題となる点、対応において留意すべき点などについての説明が行われました。その内容をご紹介します。\n 性暴力には、強姦、強制わいせつ、痴漢、ストーカー、未成熟者との性行為、性的虐待等が含まれ、それぞれの事案によって、問題となるポイント、それを踏まえた被害者に対する対応が異なってきます。

まず、強姦のケースでは、被害直後に相談を受けた場合には、事後避妊の処置や性感染症の対策のために産婦人科で診察を受けてもらうとか、事件のショックによりPTSDやうつ状態といった精神的な症状が表れている場合は、精神科の受診を勧めるなど、被害者の安全の確保のためのアドバイスが必要となります。

相談後、事件として受任する際、注意すべきなのは、被害女性本人の意思を十分に確認することです。特に、家族や恋人が相談に同行して、積極的に進めようとしている場合は、被害者本人の意思は十\分固まっていないこともあるので、周囲のペースに引きずられないよう注意が必要です。また、本人が責任追及をしたいという意思を持っている場合でも、刑事告訴、民事損害賠償などの違いを十分説明し、理解してもらうことが必要です。

それから、なるべく早い段階で、構成要件該当性で問題となりそうなポイントについて十\分な聞き取りを行い、把握することが必要です。判例で犯罪の成否が争われている事案の中には、「誘われて車に乗った」「逃げ出さなかった」「すぐに被害届けを出していない」など、被害女性の行動を問題にしてその信用性を否定しているものがありますが、こういった形で被害者を無用な攻撃にさらさないため、事前の聞き取りで問題となりそうな点を十分把握し検討しておくことが重要ということです。最初の聞き取りはざっと行い、反論が出た段階でその部分について聞き取りをする、という方法をとると、被害者は自分の代理人から攻撃を受けていると感じてしまうので、相手が問題にしてくる前に詳しく聞き取っておき、できれば陳述書等を作成しておくのがよいということです。なお、その際、被害者を非難することがないように留意することが必要です。

ストーカーの事案の場合、ストーカーを行う人には何種類かの特性があり、動機が了解可能で法的措置や警察の介入が功を奏する場合と、精神障害が原因で治療の対象となる場合、これらでは説明できず対応が功を奏さず事件化しやすい場合があり、事案ごとに相手の特性を十\分見極めることが重要です。法的措置としては、ストーカー防止法に基づく警告を求める、告訴を行う、民事仮処分の申立てをする、などが考えられます。

痴漢については、最近、冤罪が問題となっており被害者の供述の信用性を否定する傾向が強まっていますが、犯人の同一性のところで争われることがほとんどなので、警察の捜査のずさんさと被害者の問題は区別して考えることが必要です。

3 次に、松原弁護士から、性暴力事件についての捜査側の取り組み方などを、検察官の経験を踏まえてお話していただきました。性暴\力の場合、男性と女性の間の力の差を十分理解したうえで事実を把握していくことが重要であること、しかし現実にはこういった感覚について男性の捜査官はなかなか理解できていないことなど、貴重なお話を聞くことができました。

4 それから、私が先日、刑事事件で遮へい措置の中に入って被害者の付き添いをする、という経験をしましたので、それについての報告をしました。参加者からは、遮へい措置自体が被害者にとって圧迫感を与えないように、配置などについて弁護士が積極的に意見を出していくべきだというご意見や、家庭裁判所の法廷を活用してはどうかというご意見が出されました。

5 最後の質疑応答の中では、犯罪被害者の方の事件を受ける場合に法律扶助を使えるのか、という質問があり、萬年先生から、4月から犯罪被害の事案でも扶助の利用ができるようになるとのお話がありました。

6 今回の研修は、難しい、扱いにくい、気を遣うといったことから精神的に気おくれしてしまいがちな性暴力事件について、基本的なところから実践的なところまで勉強することができ、大変有意義なものとなりました。

虐待と少年事件についての一考察

井下 顕

月報1月1日号の小坂昌司会員の付添人日記に感動して、小坂会員に「感動しました」のメールを送ったのが運の尽きで、じゃあ次は君が書いてくれという話になってしまった。

付添人、付添人…。そういえばここ半年近く付添人やってないなあ(こんなことを書いて当番弁護士担当の時にどっと来ないだろうなあ…)。何を書こうか。全件付添人制度を支える若手に付添人活動が集中して、若手が疲れてるんじゃないかということを書こうと思ったが、月報に載せるようなことでもない。

私も二児の父親なので、日頃の父親不在の状況についての反省文でも書こうか…。そういえば私は名前だけ「ふくおかこどもの虐待防止センター(F・CAP−C)」のメンバーでもあるので虐待と少年事件の関係について書こう。しかしながら、とてもそれだけの大それたテーマは書けない。自分自身が関与した少年事件の中で感じたこと、考えたことを素直に書こう…。

もう一年以上も前の事件だが、ひったくりをして在宅で審判待ちだった少年が仲間と三人でバイクに乗って、通行中の女性からひったくりをして被害者が軽傷を負ったという事案で、結果は短期の少年院送致になったという事件があった。

私は当番弁護士で宗像署に赴き、少年と接見した。少年は当初私を相当に警戒しているのか、付添人制度のことや、付添扶助を受ければ費用は要らないという話をしても、そんな都合のいい話があるわけない、何か企んでいるなという感じでなかなか信頼してくれずその日はとりあえず考えるということで別れた。その後、少年から再度連絡があり、私が付添人として活動することになった。少しずつ信頼関係ができるにつれ、少年はいろんな話をしてくれるようになっていった。

その中で少年が実の父親から、かなりひどい暴力を受け続けてきたことが分かった。少年は父親に対して、別に憎いとも思っていないと言い、ただあんな人間にはなりたくないと言っていた。少年は母親と妹と三人暮らしで、母は父親と離婚していた。少年と何度も接するうち、私は少年の「開き直り」がどうしても気になるようになっていった。事件そのものについて反省はしているし、将来の目標も具体的に持っている。実直に働く母親を尊敬していると言い、被害者にも申\し訳なかったという気持ちもちゃんと持っている。しかしながら、どこか人生に対し、開き直っているという感じがするのだ。語弊を恐れず言えば「潔すぎる」ともとれる態度を時に示すのである。そういえば、修習生のころ、九州ダルク(薬物治療のための自立支援団体)に遊びに行ったとき、ひどい虐待を受けて育った少年が自分の生い立ちを語る中で、彼も人を殴ることに何の躊躇も覚えないと言っていたが、その時の彼も人生に「開き直った」ような感じがあったことを思い出した。

最近私は、人生に「開き直る」ということは、自分はこういう人間になりたい、こうありたいんだという自分自身を放棄してしまうことではないかと思っている。本来無条件の愛情を注がれてしかるべき親からひどい虐待を受ける、そのために、だれもが持ちうる自分自身の理想像、目標を心の中に描けなくなる、そのためのモチベーションさえ沸かなくなってしまうのではないかと思うのだ。大変分かりにくい表現になってしまったが、つまるところ親から虐待を受けるということは、自分の中にある「自分自身を形作る力」を喪失させてしまうというように思う。

最近私はネグレクト(不保護)も虐待であるとの痛切な(!?)認識のもとに、どうしても出なければならない飲み会には出るが、それも一次会だけにして帰るようにしている。かかる認識にいたるには、かなりの「格闘」と葛藤があったが、少しずつ父親になっていっているかなと思う今日この頃である。

女性相談研修

オンライン書店活用術

石田光史

とうとう私にもITコラムの順番が回ってきてしまいました。メールの活用法、なんてテーマは既にやられちゃってるし、そもそも一部地域ではメール中毒なんて言われてる私が語るメール活用法なんて、ろくなモンじゃないだろうし・・・。とまあいろいろ考えまして、今回はオンライン書店について書くことにいたしました。「活用術」などと銘打っている割には大したことは書いていませんが、ご勘弁願います。

さて。オンライン書店とは要するに、インターネット上の本屋さんのことです。本を検索できるし、トップページにはお薦めの本が紹介されていたり(現実の本屋さんの平積みですね)、書評が載っていたり、大変便利です。もちろん気に入った本があれば購入することができますし、指定の場所へ配送してくれるので、重い本を担いで家まで持って帰る必要もありません。

オンライン書店の代表格と言えば、やはりアマゾンでしょう。しかし私がよく使うのはbk1です。なぜ後者を使うかというと、アマゾンは私にはあまり使い勝手が良くないのと、決済方法が違うからです。アマゾンを含め、多くのオンライン書店ではクレジットカード決済が基本ですが、これがどうも小心者の私には抵抗があるのです。自分のカード番号をあまり入力したくないんですよね。その点bk1だと、ニフティの会員の場合、ニフティのIDとパスワードを入力するだけでニフティの料金が引き落とされている口座で決済ができます。カード決済はイヤだしニフティ会員でもないという方は、イーエスブックスなど、最寄りのコンビニまで配達してくれてそこで代金と引き換えに受け取ることのできるサービスを行っている書店もありますので、ご利用されてみてはいかがでしょうか。

私がオンライン書店を使うのは、主に仕事関係の本を購入する場合です。キーワードや著者名、書名などで検索がかけられるので、本を探すのがとても便利です。例えばこの前、人格障害について調べなければならない事件があったのですが、bk1で「人格障害」を検索すると、ざっと34冊の本がヒットしました。現実の書店でこれだけの本を探すのは至難の業ですが、オンライン書店ならわずか数秒で検索でき、時間をグッと節約できます。ただそうは言っても、買うべき本か否か、実際に本を手に取ってみないと分からない場合もあります。そのような場合私は、紀伊国屋BookWebを使います。ここでは、検索した本について、現実の紀伊国屋のどこの店に在庫があるかを調べることができます。例えば『人格障害論の虚像』という本について調べると、福岡本店(博多駅)にも福岡天神店にも在庫があることが分かりました。そこで私は天神の紀伊国屋に行き、実際に本を手に取り、買うべきか否かをじっくり確認できたわけです(結局買いませんでした)。

私は現実の書店も大好きで、日曜はたいていジュンク堂あたりに出没しています。趣味の読書用の本を探すのは、非効率もまた楽しいものです。オンライン書店と現実の書店、それぞれの長所を生かして使いこなすと、とても充実した本ライフ(?)が送れると思いますよ。

2003年2月 1日

「精神保健欧州視察団」同行記 

副会長 市丸信敏

1 なぜ今、精神保健の旅か?

前年秋の臨時国会で衆議院を通過して、目下の通常国会で参議院に付議されている「精神障害者医療観察法案」が、もはや時間の問題で成立しそうな情勢にある。この法案は、当会の昨年来の常議員会決議はじめ、各方面から重々指摘されてきているように、「再犯のおそれ」という極めて曖昧で判断が困難な要件で、事実上、触法精神障害者に対する拘禁を半永久的に容認してしまいかねない制度内容となっており(衆議院で通過した修正案であっても実質は異ならない)、人権保障の見地からは到底看過しがたい問題性をはらんでいる。にも関わらず、一般市民のみならず、実は弁護士の関心も薄く、却って「池田小事件」などを引き合いに世上の不安感が煽られるようにして、法案はついにここまで来きてしまった。

かかる状況下、当会の精神保健委員会(池永満委員長)では、わが国における精神障害者処遇制度のモデルとなったと言われているイギリス、そして、今、最も進んだ精神医療への取組を実践していると伝えられるオランダを緊急視察して、この法案の問題性を再検証するとともに、今後のわが国における触法精神障害者の処遇のあり方、ひいては、精神障害者に対する医療や社会的ケアのあり方について学ぶため、このほど「精神保健欧州視察」(一月四日〜一三日)を企画・敢行したものである。

(*私は、今年度の精神保健委員会の担当副会長という立場から視察団に同行させて頂いたが、正直に告白すると、本来この分野に関してはずぶの素人であり、肝心の視察内容については報告の責を果たす任に無い。視察団ではおって報告書が作成される予定であり、また、当会の精神保健当番弁護士制度一〇周年記念集会(三月一六日)での報告もなされる予\定であるので、私からは、取り急ぎ、視察の概要と簡単な感想を述べさせて頂くに留めることをお許し頂きたい。)

なお、池永会員は、今から六、七年ほど前に、事務所を他のメンバーに委ねて、二年間の英国(若干の期間はオランダ)留学を敢行するという離れ業を行い周囲を驚かせたが、今回は、まさにそのとき築かれたであろう人脈を活かして、超一流の報告者や視察内容等を取り揃えて頂いた。そればかりか、旅行中はツアコンよろしく、視察団一同の世話を終始一手に引き受けて頂き、まことに恐縮の限りであった。視察団一同に成り代わって、厚く感謝の意を表させて頂きたい。

2 視察の概要

視察団は、団長である池永満会員と奥様、当会から梶原恒夫会員と奥様、久保井摂会員、私(長男帯同)、さらに熊本から吉井秀広弁護士(熊本における弁護士としての精神保健活動の中心メンバー)、東京から池原毅和弁護士(全国精神障害者家族会連合会顧問。平成13年9月の当会の精神保健シンポジウムのパネラー)にも加わって頂き、更に当会から呼びかけて参加をお願いした、大学講師の藤井千枝子さん、福岡や東京のNPO関係(薬剤師、看護婦、ソーシャルワーカー等)である猿渡桂一郎さん、土屋眞知子さん、平田孝さん、吉原幸子さん、加々見陽子さんらにも加わって頂き、合計一五名での編成であった。かように法律家と精神医療の現場での専門家からなる視察団であった故か、次に報告する各視察先でも、きわめて友好的ながらも真摯に、そして高度で専門的な内容のレクチャー及び質疑がなされた。

◆イギリス

〔1日目〕午前:ロンドンの中心部に位置するソーホー地区(若者の歓楽街)にある精神保健デイケア施設を訪問。警察段階における精神障害者の迅速な振り分けを行っているという精神看護婦はじめ、触法精神障害者に対する警察、裁判、矯正の各段階の取組状況に関する三件のレクチャー。午後:チャリングクロス警察署を訪問。警察における精神医療看護施設や取組等、三件のレクチャーと留置施設の視察。

〔2日目〕午前・午後:ロンドン市内の施設を借り、一日がかりで、イギリスの精神保健法(八三年法)の改正に関する専門家チーム委員長であるリチャードソン教授、欧州人権裁判所の活動に関わっている医事法専門家であるサラルド教授、内務省精神衛生課係官(国側の言い分)、民間支援団体で働く弁護士(ソ\リシター)などから、イギリスにおける触法精神障害者の処遇や改正法案を巡る論議の状況など、四件のレクチャー。

〔3日目〕午前:ロンドン大学セントジョージ医学部に付属する触法精神障害者に対する中間的強制処遇施設の視察。その後、同医学部を訪問して、精神科医で法律家のイーストマン教授(全国精神医学会の法律関係の委員長)からイギリスの精神医療の歴史と問題状況等のレクチャー。

◆オランダ

〔4日目〕午後:アムステルダム大学付属病院を訪問。パンドラ基金関係者から、精神障害者に対する正しいイメージ形成のための広報活動への取組状況や、WHO「患者の権利促進宣言」(九四年)の起草者の一人であり医事法の専門家である同大学のヘルベス教授から、精神障害者にとっても患者の権利が重要であることなど、三件のレクチャー。

〔5日目〕午前:ユトレヒト市を訪問。パンドラ基金の従事者(元患者ら)から、オランダにおける精神医療の向上のための諸制度や支援団体の活動状況などのレクチャー。午後:同市内にあるオランダ最古の精神病院を訪問。ユトレヒト大学の教授のレクチャーの他、患者評議会代表(入院患者)のレクチャーも受ける。その後、病院内を視察。

3 最良の社会防衛は最善の治療にあり 〜視察雑感〜

我が国では、厳重な精神鑑定を経て、刑事手続からの離脱ないし不処罰が行われる。ところが、イギリスでは、精神看護婦(特別資格の看護婦)のアセスメントのみで、いち早く、警察段階の刑事手続から切り離しての処遇を行ったり、精神障害の故に裁判過程で公訴を取り消して入院させる場合でも、入院先(原則として本人の地元)等の処遇案を裁判官に報告した上でその決定を求める、また、刑務所内に専門的治療チームと精神障害者の区画を設けて治療に当たる、あるいは、触法精神障害者専門の多少緩やかな強制入院施設を設けてそこに入院させて処遇する(この間は刑期に参入される)、また、社会内における強制処遇(通院による)をも導入しようとしている等々、医療に重点を置いた処遇が試みられていることが印象的であった。まさに、最良の社会防衛は、最善の治療にこそある、とでもいうべき発想が根底にあるように思われた。それにしても、最後に聞いたイーストマン教授の「危険の評価は全く精度がなく、大変難しい。」「マスコミや政治的圧力によって、医療側が護身的になり、必要以上に拘束を受ける者が増えてしまう。」という言葉は、まるで我が国の現法案を初めとする問題状況をズバリ指摘されたかのような錯覚を覚えた。

オランダでも、患者を対等に位置づけて処遇する理念が更に徹底しており、極めて感銘深かった。各病院には、法律に基づいて苦情委員会が設置され、他方、全ての入院患者をPA(PATIENT'S ADVOCATE患者の弁護人。もと患者が多くを占めるボランティア組織(パンドラ基金)がこれを担っている。)が助言・援助する制度が確立している。さらには、病院内には患者評議会という患者組織が置かれ、毎週ミーティングを開き、病院側と協議し、マスコミ取材さえも受けるという。視察した病院では職員の制服が廃止されていたが、制服は患者の差別につながるからとの理由であった。そして、触法精神障害者の処遇については、刑務所でもあり病院でもある特別の施設を設けて、そこで治療が行なわれている旨であった。

我が国でも、一度法案が通ってしまったら、弁護士の役目はそれで終わりでは決してない。むしろ、新しい法制度の下では、弁護士は、「国選付添人」として触法精神障害者の処遇問題に関与せざるを得ないことになる。当会が奮闘してここ一〇年来取り組んできている精神保健当番弁護士活動を、さらに全国に展開・充実させてゆきつつ、今後もねばり強い持続した取組みが益々重要になるであろう。

4 旅情

近年、競争原理、市場原理主義、自己責任主義という言葉に完全に覆い包まれてしまった我が国にあって、もっぱらアメリカとせいぜい中国位にしか関心が向かず、何かに付け、アメリカンスタンダードこそ世界標準であるかのごとき感覚に陥ってしまっている自分自身にとって、あくまでも福祉を重視しつつ調和ある発展を目指しているヨーロッパの、そしてEUとしての大統合への歩みにともなう宿題(欧州人権条約に基づく諸指令等)を自他を高める契機にして努力している姿を、精神保健というテーマから垣間見ることができたことは有意義であった。

厳冬のヨーロッパであり、真昼のお天道様でも30度くらい?にしか上がらず、日の暮れも早い。

前評判通りに?ロンドンでは、物価は高く、食事もお世辞にも旨いとは言えない。パブの生ぬるいビールも私にはいまいちに感じた。たまたま何年かぶりの積雪ということで、土地の人でも滅多に見られない美しい雪景色のロンドンを愛でることができたことをラッキーと思っておこう。

オランダでは、土地の人が凍り付いた川面でスケートを楽しんでいた。夜の外歩きは耳が痛くなり、持参した毛糸の帽子が威力を発揮した。しかし、さすがはハイネケンの地元。レストランで「ビール」と注文すれば、黙ってハイネケンの生ビールがジョッキで出てくる。定番のインドシナ料理や、中華料理、イタリアン等ともども、堪能させて頂いた。オランダ、イズ、デリシャスであった。

オランダは、かねて、安楽死やダッチカウント(割り勘)、フリーセックス、そして最近ではワークシェアリングでの「オランダモデル」の成功、また先般の日弁連司法シンポでアムステルダム高裁長官から伺った弁護士任官の充実ぶり等々、個別的、断片的にはその合理的国民性を十分に伺い知っていた積もりであった。が、今般、現地に赴いてみると、確かに質素で寛容の国民性、省エネ、省資源の理念も国民に行き渡っており、現にアムステルダムの都心部でも、張り巡らされた自転車専用道や自転車レーンを人々が寒風を物ともせず自転車でガンガンと走り抜けてゆく(従って、歩道では日本のように後ろ(自転車)を気にせず安心して歩ける)。街角の分別収集ゴミ箱も充実していた。学校では、普通に二、三カ国語の外国語を教えるらしく、現に視察で接した人たちは、公用語のオランダ語をさておき、英語とドイツ語のどちらでレクチャーしたらよいか、と視察団側に尋ねてくるほどであった。これらの諸条件の故か、日本のある調査機関によれば、オランダは「潜在成長力」で堂々の世界第三位にランキングされている(日本は残念ながら第一七位程度)。オランダに学ぶべき点は、まだまだ沢山ありそうに感じた。

かくして、次は是非、花の季節の欧州を再訪してみたいと想いつつ、無事、岐路についた。

動き出した「福岡県弁護士会紛争解決センター」

芦塚増美

平成14年12月20日に福岡県弁護士会紛争解決センターが発足しましたが、私が平成14年(福仲)第1号仲裁申立事件の仲裁人となりました。平成15年1月16日に第1回仲裁期日が開かれました。

さて本稿では紛争解決センター立ち上げに至る経緯を報告します。

私は犯罪被害者支援に関する委員会に所属しており、紛争解決センターの立ち上げにも末端ではありますがご助力させていただきました。昨年5月17日には、岡山弁護士会の岡山仲裁センターを見学させていただき岡山弁護士会の先生方からのご意見を拝聴いたしました。岡山では建築紛争等における仲裁が多いとのことでした。岡山では犯罪被害者と加害者との対話に臨床心理士が専門家として仲裁に参加している事例も報告されました。

昨年6月5日には、犯罪被害者支援に関する委員会とADR委員会の合同委員会が開催され紛争解決センターの立ち上げについて協議しました。

昨年7月15日には裁判外紛争解決についての専門家であります九州大学のレビン小林久子先生をお迎えしての講演会が開催され私も参加しました。先生のお講演では、海外の仲裁の事例が報告されています。また、先生の講演で日本では当事者に裁判官選択の自由がないとのお話が印象に残りました。民事裁判の第1回期日で初めて裁判官と会いますが、その裁判官を選択できる自由は当事者にはないです。海外では、紛争解決の担当者と当事者に選択できる場合もあるとのお話でした。

昨年11月7日に会長から仲裁人候補者が委嘱されましたが、私も含まれていました。仲裁人候補者の中から、事件ごとに仲裁人が選任されます。

昨年11月13日には名古屋弁護士会の渡邉一平先生を講師としてお招きしての研修会が開催され私も参加しました。名古屋では刑事手続での利用が多いとのことでした。

昨年12月12日には、実務面からの研修会が開催されています。

そして、昨年12月20日から正式に福岡県弁護士会紛争解決センターが開催されました。最初の事件である平成14年(福仲)第1号事件は、昨年12月24日に申し立てられています。

さて、最初の事件の仲裁人となったわけですが、仲裁人とての感想を述べます。

  1. 仲裁といっても法律上の「仲裁」ではなく、あくまで和解契約を前提として手続を始めるのが前提です。
  2. 仲裁人といっても弁護士ですので様々な配慮が必要です。当事者が入室する場合にも仲裁人が座っているより立って迎えるほうが印象がいいかもしれません。また、事務手続でも控室に仲裁人から足を運び説明するほうが妥当でしょう。「少しの親切」で、当事者が当紛争解決センターに与える印象が違います。
  3. 仲裁申立には、申\立手数料1万円が必要です。裁判所の調停において印紙額が1万円を超える場合には、仲裁が好ましいかもしれません。しかし仲裁から民事裁判へ移行した場合、印紙代の控除はないです。
  4. 仲裁が成立した場合に成立手数料を申立人と相手方の双方が支払います。解決額が100万円ですと申\立人が4万円、相手方が4万円の合計8万円を支払います。この相手方負担というのが、あまり、知られていない様子です。裁判所の調停とは異なります。
  5. 仲裁申立には時効中断効がないです。時効完成直前には仲裁は適さないです。
  6. 仲裁において、合意が成立した場合、和解契約書を作成しますが債務名義とはなりません。そこで、仲裁においては、現実の金銭受取後に和解契約書を作成することが好ましいと思います。

ともあれ、形式にこだわらない仲裁は、これから広く浸透していくことと思います。

建築紛争では、現地視察などが円滑に行われると予想されています。仲裁人と専門委員(建築士等)、そして当事者の都合で、土曜にも現場視察が可能\となり早期の紛争解決が期待されています。

刑事手続においても、刑事弁護人からの仲裁申立も予\想されます。刑事弁護人が被害者と示談をする際に、示談が進行しない場合には、仲裁申立もひとつの選択として考慮することも考えられます。他方、被害者側の場合、被害者側から仲裁を申\し立て示談を円滑に行う場合もあると思います。被害者から相談を受けた弁護士が自分で依頼を受けない場合、仲裁手続を被害者に知らせることも解決手段です。

ともあれ、裁判所の調停と弁護士会の仲裁との違いをよく認識しておくと、円満な紛争解決が期待できると思います。今後、岡山と名古屋の双方の仲裁手続を参考に、当会独自の仲裁手続が発展していくように努力します。

「あとは弁護士だけなんです!」 子どもの虐待問題についての取り組み

松浦恭子

子どもの虐待問題については、子どもの権利委員会において、平成7年度に研修会が開催され、平成8年度から虐待問題小委員会が設置されて取り組まれるようになりました。平成12年度には、九弁連大会シンポジウムでテーマとして取り上げられ、多くの会員が参加されました。

そして、福岡部会の稲村鈴代会員が中心になって、民間団体として多くの専門職と一緒にふくおかこどもの虐待防止センター(略称F・CAP−C)が発足するに伴い、子どもの権利委員会メンバーを中心に、平成12年12月に、同センター弁護団が発足しました。現在当会から47名が参加し、児童相談所など関係機関からの相談や、虐待が問題となったケースの家庭裁判所の申立事件への代理人活動などに取り組んでいます。このほか福岡県、福岡市、北九州市の児童福祉審議会や福岡県児童虐待防止地域連絡会議(県内14ブロック)等に多くの会員が参加され、関係機関との連携が進んでいます。

平成12年11月には、児童虐待の防止等に関する法律が施行され、平成13年には、福岡家庭裁判所においても各支部で、関係機関連絡協議会が開催され、当会から参加しています。

こうした、いわば全体としての骨格となる取り組みが進むに連れ、様々な関係者と協議する機会が増え、実質的な連携が始まるようになりました。冒頭の言葉は、私がある児童養護施設の施設長さんから、開口一番いわれたものです。当初は、お互いにおっかなびっくりだった児童相談所との連携も、信頼関係が築けるに従い、中身の濃いものになりました。

これまで関わった事例では、当初は、乳児に対する身体的虐待や、重度のネグレクト(養育の懈怠、放棄)など比較的判断しやすいケースについて児童相談所が子どもを保護するにあたって、ケース会議で積極論を述べたり、現場に立ち会ったりと、どちらかといえば「励まし役」や「現場の用心棒?」的な役割を果たすことが多くありました。私も、頭部外傷で緊急入院した生後3ヶ月の男の子を病院から保護するなど、いわば典型的なケースに立ち会う経験をしました。また、家庭裁判所への申し立てにあたって、証拠のアドバイスをしたり、比較的簡単な法律相談を受けたり、ということが多かったのです。

しかし、最近は「親権」について、どのように考えていくのか、裁判所(司法)は、家族にどのように関わっていくのかを考えさせられる問題が多く、現代の問題の解決にふさわしいような条文や先例があまりない分野で、どうすれば子どもの保護を円滑に行なうことができるか、頭を悩ませることが多くなっています。例えば、民法766条は、離婚に際しての子どもの監護者の指定について定めていますが、これについて、親権者ではない第三者からの申し立ては許されるか、また第三者を監護者として指定することは認められるか、という問題が出てきています。先日開催された日本子どもの虐待防止研究会第8回大会では、初めて最高裁家庭局から講演が行なわれましたし、民法766条の問題などを協議した分科会には、東京家裁や横浜家裁から現職の裁判官も参加し、児童相談所関係者に交じって、意見を述べるようになりました。

問題となる虐待の種別も、性的虐待や心理的虐待など、司法の場での主張、立証が困難だったり、方針の建てにくい、難しいケースの相談が多くなりました。

まさにこれから、という分野ですが、弁護士としては、関係機関の一員としての動きということから、通常業務とは異なる手間もかかる、どちらかというと地味な仕事になるのかもしれません。

それでも、ケース担当可能な会員をFAXで募るのに対して、次々と担当可能という返事が返ってくるとき、こうした分野で骨身を惜しまず足を運ぶ仲間が多くいることを実感する、事務局として嬉しい一瞬です。

2004年には、福岡で日本子どもの虐待防止研究会第10回大会が開催される予定で、準備も進んでいます。弁護団では、1ヵ月に1度の事例検討会(勉強会)を軸に活動を続けていますので、興味のある方、ぜひ弁護団に御参加ください。

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