福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2002年12月 1日

九弁連大会シンポジウム 川と海を考える〜環境保全と住民参加〜 

吉野隆二郎

1 さる10月25日の第55回九弁連大会に先立ち、午前9時30分からホテル日航熊本において表記の内容のシンポが行われました。今回のシンポについては、環境問題がテーマとして選ばれたうえに、その内容としても「川から海を考える」というタイトルからもお分かりのように、複数県にまたがる有明海・不知火海・筑後川・球磨川などが調査の対象となりましたことから、これまでの九弁連大会と異なり、開催県以外の単位会からも実行委員が選任されるということになりました。私は、福岡県弁護士会の公害環境委員会の副委員長として、このシンポの担当となり、その準備のために他県の委員としては最も多い回数、熊本との間を往復しましたので、その舞台裏を含めた報告をさせていただきます。

2 最初にこの実行委員の話が来たのは、2月8日の日弁連・九弁連等の共催の泡瀬干潟のシンポジウムのときでした。本年は、日弁連の人権大会のシンポにおいても湿地保全が1つのテーマと選ばれていたことや、ここ2年九弁連として泡瀬干潟の問題に取り組んでいたこともあり、その時点で福岡からは私と長戸弁護士が委員となることが事実上決まりました。

3 7月6日には、シンポのパネラーになっていただいた山村氏・福岡氏を講師にまねいて勉強会を開催しました。当日は、強風により鳥栖・久留米間で特急が止まるというアクシデントがあり、1時間以上勉強会に遅れてしまいました。

4 実行委員会に参加し、コンセプトについての議論を聞いたうえで、福岡県弁護士会公害環境委員会として、7月17日に筑後川の視察を行いました。この詳しい内容につきましては、私と長戸弁護士がシンポの報告書に執筆をしておりますし、月報9月号でも福留修習生が報告をしておりますのでそれを参照していただきたいと思いますが、私の感想としては、過去の計画とは言え、管理者側と漁民との捉え方のズレが大きいということでした。

5 8月31日には九弁連としての諫早視察にも参加しました。この日も台風が接近した日であり、雨が荒れ狂う中で大浦漁協の調査・諫早湾干拓の現場の視察・川副漁協との意見交換会などを行いました。この中で最も心に残っているのは、大浦でタイラギがまったくとれなくなったことなどを組合長の竹島氏から率直に語っていただいたことです。

6 実は上記以外の実行委員会のときにも、鹿児島方面で強風のため、特急が1時間以上遅れて熊本駅で待たされるというアクシデントが1回ありました。この実行委員の仕事はまさに自然任せの状況でありました。

7 シンポの詳しい内容につきましては省略させていただきますが、省庁の縦割りの弊害というべきでしょうが、川と海を1つの水系として捉えて全体の環境を保全していくという視点が不足していたのではないか、また、流域の住民が意見を言う制度も欠けていたのではないか、ということが一番の感想です。そして、その視点は大会の宣言へと結びつきました。

8 大会を前後して、諫早湾干拓事業の再開の問題や、泡瀬干潟の工事の着工などが新聞紙上をにぎわすようになりました。日弁連が反対の意見を出したこれらの事業につき、今後も、県弁及び九弁の環境問題の委員として、これらの大きな問題に関与していきたいと思っています。

釜山弁護士会との懇親会 

南谷敦子

今年も釜山地方弁護士会の弁護士の皆さんが、ご夫人とともに福岡にいらっしゃった。この交流会・懇親会は今年で一二年目になる。毎年福岡県弁護士会の会員も春に釜山を訪問し、盛大なる歓待を受けているときいている。私も経験があるが、韓国に行ったことがあるという人の話を聞くと、たいてい、たいへん素晴らしい接待を受けたということが多い。という訳で、福岡県弁護士会も負けられないと思いながら、国際委員会メンバーを中心に交流会や懇親会の準備をさせていただいた。

平成一四年一〇月一八日金曜日午後、皆さん福岡にご到着。夕方からシーホークで交流会が始まった。国際委員会の内田敬子会員の司会で、テーマは2つ、家庭内暴力の防止関連法規と韓国での金利規制で、日本でもホットな問題だ。前者は釜山の文興晩弁護士から、後者は朴瑛柱弁護士からご報告いただいた。

さて、実は私はこの交流会の間、ご夫人方を観光バスで小戸のマリノアまでご案内し、東洋一の大きさだという観覧車に乗っていた。

マリノアにはアウトレットショップがあり、私も観光案内という職権を利用して買い物でもしようとそわそわしていたのだが、この日はスマップのコンサートで交通渋滞が予想されるとのことで観覧車に乗っただけでシーホークにとんぼ返りだった。

懇親会は午後七時から、国際委員会の紫牟田洋志会員の司会で、福岡県弁護士会会員のご夫人も参加して始まった。日韓の弁護士がテーブルを囲み、通訳がついた。テーブルでは皆、お互いのことをもっと知りたい、でも言葉が通じない、通訳は一人しかいない、というので通訳を奪い合っての懇親会だった。お酒が入るにつれ会はますます盛り上がり、日韓マイクを奪い合ってのスピーチ合戦も始まってとても楽しかった。通訳を通じてなので、各国の笑いには時差があった。釜山弁護士会元会長の金 基弁護士が、会長でいらした国武格会員や荒木邦一会員と過去ずいぶん飲んで盛り上がった話をされ、歴史ある釜山との交流の深さをしみじみと思った。今後、釜山弁護士会と福岡県弁護士会は中国・大連の弁護士会との交流も進めていくとのこと。釜山の会員名付けて「三角関係の構築」(会場笑)。また、太田晃会員と松井仁会員は、見事な韓国語でスピーチをされ、釜山会員には大受けであった。

最後に釜山弁護士会からおみやげの「絵」をいただいた。とても立派なもので、曰く「韓国の有名な作家による貴重な作品」だそうだ。これに対応して、福岡県弁護士会からもおみやげの「有田焼の絵皿」をお渡しした。有田焼は日本の焼き物の原点なのであるが、「くやしいことに」その有田焼の原点は朝鮮にあるのだ・・とは南谷洋至会員のあいさつ。これもまたたいへん美しい絵皿であった。

こうして、盛大に会は幕を閉じた。

釜山の皆さんは、翌日から新幹線で広島・四国へと旅立たれるそうで、強行軍だ・・。

終了後、通訳をして下さった皆さんは御馳走を前に腹ぺこ状態であったので、一緒に二次会をすることとなった。皆さん、大塚芳典会員の一声でお集まりいただいた方々で、福岡の専門学校や大学で勉強されている「新進気鋭」と呼ぶにふさわしい学生達だ。今回の会ではたくさんの法律用語が飛び交い(「当番弁護士」「法律扶助」など)、通訳はとても難しかったが非常に勉強になった、もっと勉強したい、と紅潮した顔で話しており(酒のせいか?)、韓国の若者のエネルギーは素晴らしいなあと感心した。その後、  メールアドレスの交換などしつつ、私も日韓交流を目指すこととした。

外国の法律家と交流する機会があるときにいつも思うのは、折角知り合えた方々と本当に長く交流することができたらなということだ。どうしても一過性の飲み会でちょっとかじっただけの付き合いで終わってしまいがちで残念なのである。今回、金 基のご夫人が英語を話し、「同じ年頃の娘がいるのよ」と、私にとても親しく接して下さったことが忘れられない。この出会いを大切にしなければ・・・

情報化の波にのれない私

田中裕司

今までのホームページ委員の先生方のコラムはネットやメールの活用法の紹介等があり、「すごいな」と思わせるものばかりでしたが、HP委員の幽霊部員である私は、今回あえて消極的にITのデメリットについて思いつくままにしゃべらせていただきたいと思います。

とはいうものの、私の事務所は税理士との共同事務所ということもあり、メール・ネットはもちろん、判例検索、ファックス送信まですべてパソコンで行うほどIT化は進んでいますし、私も日常業務・プライベートでは「便利になったなあ。」とその恩恵をうけることが多くあります。しかしです。なぜか心底パソ\コンと親しくすることができません。「好きになりたいのだけれど、心のどこかで冷めている。」そんな相手です。なぜかな?と考えてみました。

まず、最近食べ過ぎで肥満になっています。なにやらメーリングリストなる情報交換の場が急激に増えて、毎日莫大なメールの量に圧倒されているのは私だけではないはずです。最近はチェックするのが億劫で空けないメールがほとんどです。重要なのがよくわからないし、出欠確認のメールなんかだとごちゃごちゃで何がなんだか分からなくなります。さらに、見るだけで時間をとって仕事になりません。情報交換の趣旨であれば、掲示板のほうが有効に思います。メールはあくまで1対1の伝達方法として考えた方がいいようです。

それから、気まぐれで私の相手を拒否することもあります。復帰するのに相当時間をとります。私は荒いので、忙しいときにバグったりすると、ムカついてキレて電源を切ったり、コンセントを抜いたりするなどの暴行をします。でも、カーッとなった後、冷静になり「大丈夫かな。」と反省の念にかられながら電源をつけてみて大丈夫だと「もう二度としないから。」と更生を誓うのです。(しかし、また再犯を犯してしまいます。)

それから、けっこう口がかるくたくさんのひとにいろんなことを言ってまわります。「〇チャンネル」なる掲示板では誹謗中傷だらけで目を覆いたくなります。知っている人も載せられた事があり、すごい嫌な思いをしたそうです。さらには、ネット犯罪なるものも最近流行しており、われわれの仕事においても他人事では済まない被害が発生するおそれもあります。

そして、これが好きになれない最大の原因だと思うのが、愛情がないということです。個人的なやりとりについては、やはり手書きの方が味があって、なんとも知れないいい気持ちになります。最近は、年賀状やあいさつ状もワープロ字でなんか楽になったけど昔の手書きの暖かさにはかないません。さらには、メールや掲示板でコミュニケーションをとっていると、一方的に話をするものですから、意図を上手く伝えられなかったりして、誤解を生じたり、怒らせたりすることもありますね。

それとやっぱり図面から光を放っているので、目に優しくありません。

そんなこんなで私はまだ、心底好きになれないのです。

あっ1つだけ最近いいことがありました。これまで年に1回話すかどうかという疎遠な弟が海外に仕事で行っているのですが、メール、インターネットでやっと兄弟の国交が正常化して、会話ができるようになりました。

我々兄弟にとっては、「仲裁人」のようですね。

ヤミ金融根絶を目指す決議 〜九弁連定期大会にて〜

石田光史

1 去る10月25日(金),熊本市内のホテル日航熊本において,第55回九州弁護士会連合会定期大会が開催されました。その大会の中で,当会の提案により「ヤミ金融根絶を目指す決議」がなされましたので,ご報告いたします。

2 決議の内容・提案理由等については,全会員に配布される大会議事録をご確認いただきたいと思いますが,決議内容を簡単に要約すると,1.弁護士会としてヤミ金対策を実施するとともに,警察や行政機関などとも連携を取りヤミ金根絶のための活動を行う,2.ヤミ金による超高利の違法な貸付に対しては「返済しない」という基本方針で臨む,ということです。

4 しかし今回,当会があえてこのような内容の決議を提案したのにはもちろん理由があります。

1つには,ヤミ金を根絶するためには,単に捜査機関や行政機関に取締を求めていくのみでは全く不十分で,弁護士が個々の事件処理の中でヤミ金に対して経済的打撃を与えていくことが絶対に必要であり,そのためには「返済しない」という方針を九弁連全体に周知する必要がある,ということです(関係機関との連携等と個々の事件の適切な処理は,ヤミ金根絶を目指す上で車の両輪と考えます)。\n

もう1つ,ヤミ金事件を扱っている会員(特に若手の会員)は,みなヤミ金に手を焼いています。そのような会員に,ヤミ金と対峙する上での武器・拠り所を提供したかった,ということがあります。九弁連で「ヤミ金には返済しない」という決議がなされたということになれば,ヤミ金から「何で返さんのか!」とすごまれても,「いやあ,九州の弁護士の集まりで,返済しないってことになってねぇ。私だけ返すわけにはいかんやろ?」と切り返せます(この点,佐賀県弁護士会の平山泰士郎先生が,賛成討論の中でユーモアたっぷりに指摘されました。)。不適切な対応をした警察に対しても,「九弁連では返さないという方針を確認した,なのに『借りた物は返せ』なんて指導するとは何事だ!」と文句が言えます。そして何より,「返さないという方針は,自分だけがやっていることではなく,九弁連決議という土台があるのだ。」と思えることは,ヤミ金との交渉の際に心理的・精神的な拠り所となるのではないかと思います。

本提案は,我々のこれらの意図を会場の各会員にご理解いただき,圧倒的賛成多数で決議されました。

5 我々は決議提案をするに際して,単に取組みを表明するだけの決議ではなく,実務に「使える」決議にしたいと考えました。もちろん決議自体に会員に対する拘束力はありませんが,ヤミ金根絶のため,「使える」本決議を十\二分にご活用いただき,「ヤミ金に対して返済しない」という方針でヤミ金事件の処理をしていただきたいと思います。

「女性の権利110番」実施報告

山崎あづさ

10月26日(土)、12回目となる「全国一斉女性の権利(女性に対する暴力)110番」の電話相談が行われました。

これは、日弁連両性の平等に関する委員会の設置15周年を記念して1991年から始まったものであり、毎年4月の「女性週間」にちなんで実施してきました。「女性週間」というのは、1949年から2001年まで、日本の女性が初めて参政権を行使した1946年4月10日を記念して、毎年4月10日から16日までの1週間を、「女性週間」と定め、女性の地位向上の啓発活動を行ってきたものです。

今年は、DV法実施1周年を10月13日に迎えるのに伴い、「女性に対する暴力」を相談内容の中心に据えて、10月に実施されることになりました。

今回も、ドメスティック・バイオレンスをはじめストーカー、セクシュアル・ハラスメント等、女性が抱える問題についての相談に応じるため、6人の弁護士が午前、午後に分かれて担当しました。

この日の相談は17件でした。回線が2つしかなく、しかも一つの相談が内容上どうしても長くなってしまいがちなので、電話をかけたけれどもつながらなかった方もいたと思います。

相談内容としては、離婚にまつわる相談が7件、うちDV(心理的暴力を含む)が4件、ストーカーが2件、一般的な知識を尋ねるものが2件、その他(趣旨違い、趣旨不明)が6件でした。中には、直前に夫から暴\力を振るわれて家を飛び出したケース、夫から包丁を持って脅されたケースもあり、このような場合はDVについての相談や保護を行っている各種関係機関の連絡先を伝え、できるだけ次の機関につなげるように対応します。DVの場合、弁護士が保護命令申立をするにしても、女性相談所や警察などの協力が必要になりますし、被害女性自身が一人では対処できない場合が多いので、他の機関との連携というのが重要になってきます。

DVの相談を受けていて思うのは、ひどい暴力を受けていても、まわりから「我慢しなさい」と言われたり、助けを求める方法を知らなかったりということから、暴\力に耐えるしかないと思いこんでしまい、そのためにさらに暴力が日常化していくような面があるということです。今回の電話相談で表\れたケースは本当に氷山の一角であると思いますが、こうしてできるだけ多くの窓口を用意することで、被害を受けている女性が相談できるきっかけを作ることが大切だと思います。

今後とも、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

2002年11月 1日

吃驚仰天!

渕上陽子

ある晴れた日の午後、公園を散歩して店に入る。海(男・仮名)は、日焼けした顔でパクリとドーナツを食べ、私を見てニッと笑う。まさに至福の時……。

でも、当番弁護士として出会ったばかりの海(当時一八才)は、幸福とほど遠い姿だった。首は包帯でぐるぐる巻き、顔も全身も傷だらけ。公務執行妨害罪で逮捕されてから4日経つけど、それにしてはボロボロすぎない?

海の話を要約すると、次のとおりであった。

その夜、元同級生の送別会に行くため、友だちと待ち合わせをしていたら、昔のワル仲間に声を掛けられた。彼らは、近くの広場に集まってシンナーを吸っていた。少年院を出てから真面目な日々を送っていた海であったが、恋人に裏切られた傷心もあって誘惑に負けた。

シンナーを吸い始めてすぐ、パトカーが来た。多くの少年が逃げたが、海は職務質問に応じた。ところが、いきなり両腕をひねり上げられ、パトカーの方に引きずられそうになった。「普通に話しているじゃないですか。手を離してください。」と言ったが、首をも絞められ、お腹も跳び蹴りされた。警察官はどんどん増え、何重にも囲まれた。抵抗しようにも、体中押さえつけられて動けない。あまりの痛さに、ひねられた腕を振りほどこうとしたら、左腕がスポッと抜けて、手の甲が警察官の眼鏡に当たって眼鏡が飛んだ。そのとたん、「公務執行妨害罪で逮捕する」と言われた。海は思わず「助けて!」と悲鳴を上げたが、そのままパトカーに押し込まれ、警察署で尿を取られた……。

「警察は、僕が右手の拳骨で警察官の頬を殴りつけたと言っているけど、嘘です。お願い。信じてください。」と、海は子犬のような目で私を見つめる。しかし、この時点の私は、まさか警察がそこまで?などと思わないでもなく、一〇〇%彼を信じたわけではなかった。ゴメンネ、海。

しかし、海は、その後も一貫して否認を続けた(シンナーを吸ったことは、最初から認めている)。逮捕から一〇日以上経っても調書を取られず、「認めないと少年院に行くぞ。」などと説得(脅?)され続ける毎日だったが、「今辛いけど、やってもいないことを認めたら一生後悔する。」と自分に言い聞かせていたようだ。

実際、警察の対応は凄まじかった。ある日、自己紹介をした私に、「先生は、あの子を少年院に行かせたいのか。警察官が、『殴られた』と言っている以上間違いない。無理にでも認めさせるのが弁護士の仕事でしょうが。」と大声でまくし立ててきた。「現場に目撃者はいませんでしたか。」と聞くと、「少年側の人間なんか、調べる必要はないっ。」とはねつけられた。

海は、こういった強烈な取調べに、よく耐えていたと思う。それでも、S.O.S.の電話は一日に何度も架かってきた。駆けつけると、「陽子先生!」と叫んで嬉しそうに立ち上がる姿が切ない。

期待もむなしく、公務執行妨害についても家裁送致された。実況見分調書すらないズサンな記録を読み終え、ため息をついた。これだけ食い違うとは、まさに『羅生門』(映画の)である。警察側の目撃者の調書もあったが、夜一一時過ぎ(現場はほとんど真っ暗)、約五〇メートルも離れた場所から、「『右手の拳骨で』殴りつけたのを見た」、などと言われてもね…。

しかし、海の側にも立派な証拠があった。彼は気付いていなかったが、待ち合わせをしていた友人二人は、職務質問開始とほぼ同時に現場に着いたそうで、状況を目撃していたのだ。これで、海の供述はほぼ全面的に裏付けられる。海は、ラッキーだったんだろう。彼らがいなかったら、と考えると恐ろしい。

さて、家裁では、まず中間審判で海の言い分を聞かれた。第一回目の審判では証人尋問(海側、二人)が行われ、第二回目に、いよいよ裁判所の判断が下されることになった。その前に海に会ったが、最初の頃とは別人のように落ち着いていた。「無実の罪に泣く人がいなくなるように、自分は絶対にこの経験を忘れません。」なーんて言っている。彼のたくましさと成長ぶりには、学ばされる一方だった。

結果は、「非行事実なしの不処分」(毒劇法違反は試験観察)。「ふんっ、当然だよね。」とばかりに海の方を見ると、海ったら、私を見て泣いているではないか。

よかったね、海!

こんな事件は、二度とあってはいけない。

海は、最近一九才になった。仕事と野球で真っ黒になり、また急に大人っぽくなった。近ごろ「嬉しいこと」があったらしい。今度、教えてね!

心神喪失者等医療観察法案について 

森 豊

1 去る9月27日(金曜日)午後6時から、福岡県弁護士会研修委員会の主催で『心神喪失者等医療観察法案に関するパネルディスカッション』が県弁護士会館三階ホールで開催されました。

この法案は、正式名称を「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)」と言い、平成13年の大阪池田小学校事件に対する高い社会的関心や一部マスコミの煽情的報道もあって、重大犯罪を行った精神障害者の処遇を求める立法化の動きが一気に加速化し、ついに全文121条の法案として本年度通常国会に上程され、継続審議となっているものです。

2 このような急速な立法化の動き及びその結果としての法案の問題点に対してはすでに患者団体や日弁連・各地単位会はもちろんのこと、精神科医の学会・諸団体からも多くの反対声明が出されていますが、国会審議における対決法案となっていないため、これら反対論をも踏まえた十分な審議を経ないまま可決されるおそれが危惧されています。

『パネルディスカッション』は、法案(裁判官1人と精神科医1人で構成される合議体が重大犯罪行為を行った者の精神障害による「再犯の可能\性」を判断して入通院治療を強制するか否かを決定する審判制度の設置を中核とする)について、従来から指摘されてきた一般的な問題点を整理・確認するにとどまらず、さらに法案が規定する弁護士の付添人としての活動の内容に踏み込んだ問題点の洗い出しをも目指すことによって、研修委員会主催の会員研修に則したものになるように企画されました。

3 パネラーの高木茂先生は、日弁連刑事法制委員会において上記の立法化の動きをずっとフォローされ、措置入院審査会(精神科医2人、看護士、精神保健福祉士等の医療関係者の他に、弁護士及び検察官を構成員とする)で入通院治療を強制するか否かを決定する新制度の設置を中核とする対案の取りまとめに尽力されてきた立場から、立法化の経緯、裁判官が入退院の判断をする制度の弊害、判断の対象となる「再犯のおそれ」という要件の不明確性等の重要な問題点を一つずつ丁寧に指摘されました。

もう一人のパネラー池永満先生からは、国際人権規約も踏まえ人に医療を強制する制度はどうあるべきかという観点から、司法関与自体は肯定できるが、裁判官が判断すべきことと医者が判断すべきことの混同、強制入院期間が容易に継続され刑事罰と著しい不均衡が生ずる危険性、一事不再理原則の違背等の問題提起がなされました。さらにこれを補足する形で精神保健委員から、法案に規定された審判手続の種類、手続、付添人の権限等について、主に少年事件付添人と比較した問題点の洗い出し作業の報告がされました。

刑事法制と精神保健の両論客の仲裁の大役を担う司会者は、精神保健に深い見識をお持ちの八尋光秀先生で、司会者として適宜の解説等をしながらも、新制度の設置そのものに反対する持論を時折披露されました。

4 法案反対・精神医療全体の改善こそ最良の問題解決策であるという共通項がありながらも、法案反対のスタンスがそれぞれ異なる三者の間の緊張をはらんだ議論のやりとりに、2時間の所定時間はすぐに消化されました。

週末、夕刻の時間帯で強い雨ということもあり、参加会員は必ずしも多くはありませんでしたが、この法案の重大な問題点や反対する立場の多様性をよく理解して頂けたのではないかと思います。

福祉の当番弁護士

迫田登紀子

会員の皆様、「福祉の当番弁護士」という電話相談の窓口があるのをご存知でしょうか。これは、行政機関、福祉団体、施設等において高齢者や障害者の相談を担当している方を対象に、それらの方の疑問を法的な側面からアドバイスすることを目的とした電話相談です。現在「あいゆう」に登録をした会員(福岡部会中120名)の中から、登録を承諾された49名の会員によって担われています。

2000年9月18日から始まった「福祉の当番弁護士」の丸2年を記念して、去る9月20日に九弁連及び当弁護士会主催の記念シンポジウムが行われました。本稿では、このシンポのプレ企画として9月12日に行われた、高齢者ご本人の相談をも含む電話と面接による相談会についてご報告します。

当日は、朝10時の開始直後から2台の電話ともにふさがるという盛況ぶりで、午後5時の終了までに合計30件もの多数の相談がよせられました。相談の会場には、新聞・テレビの記者が大勢駆けつけ、テレビカメラも数台入りましので、相談の状況がお昼のニュースに流れると、また途絶えることなく相談の電話が続きました。(この日私は、テレビカメラがきているなど全く知らず、「今日は人に会わないもんねえ。」とぼさぼさの頭のまま、相談会場に出かけたのでした。にもかからず、なぜかテレビにうつる羽目になり、そんな日に限って、たくさんの人から観られていて・・・。何人もの依頼者が、にこにこと「先生、見ましたよ!」声をかけてくださるので、何故だかとても落ち込みます。)

相談は、福祉団体や施設からが4件、その他は高齢者ご本人やその家族からでした。

主だった内容としては、行政手続き・行政とのトラブルに関するものが9件、負債関係が5件、家族間のトラブルに関するものが3件、弁護士とのトラブルに関するものが3件、遺産分割・遺言に関するものが2件、入所者の対処に関する施設からの相談が2件ありました。行政手続に関する質問や法的観点からのアドバイスは必要ないと思われる質問も少々見られましたが、このことは、相談窓口が分からずに1人で悩みを抱えておられるご高齢者が多いこと、そして「弁護士による相談」に対する期待・信頼が高いことの証でもあると思います。

これらの他にも、労働問題、刑事手続き、消費者問題、医療過誤に関する相談などもありました。高齢者の相談といっても、成年後見をはじめとする高齢者特有の相談ばかりでなく、一般相談と同様に幅広い相談がなされたと分析できると思います。

この企画の後に行われた2周年記念シンポジウムでも、高齢者や障害者の権利擁護のために、弁護士と関係各機関とが連携をすることや、その中における弁護士の役割の重要性が確認されました。

幅広い市民の皆様に弁護士を知って頂き、そして利用していただこうとしているこの司法改革の中で、高齢者や障害者の分野は、まだ私たちがなかなか手をつけられないでいる未開拓の分野であるといえるのではないでしょうか。会員の皆様、高齢者・障害者へのリーガル・サービスの提供のため、是非「あいゆう」そして「福祉の当番弁護士」にご登録ください。

事務所内での情報の共有化

植松 功

「IT」とは一体何のことだろうか。

Information Technologyの頭文字をとったものらしいことは何となく知っているが、そのまま訳して「情報技術」と言ってみても、何かよく分からない。

仕方ないので、インターネットで調べてみたら、「入手、収集可能な情報資源を積極的に活用して、ビジネスを有利に展開するためのしくみ。それを実現するために使用可能\なさまざまな情報技術のこと。」とある。

「ビジネスを有利に展開する」というのは何か「競争」とか「利益」とかを連想させ、ちょっといやらしいが、なるほど「入手、収集可能な情報資源を積極的に活用できるシステム」というと、弁護士業務にも大いに関係ありそうである。

情報資源はいろんなところにある。

最も身近なのは、事務所内での情報だ。僕のところは弁護士が五人いるが、それぞれが毎日毎日カチャカチャとキーボードを叩いていて、その作成文書量は大変なものとなっている。そして、それらは調査し、悩み、苦労した末に完成したものも少なくないはずで、貴重なノウハウとなっているに違いない。

これを共有の財産とし、簡単に検索できれば、それはまさに「情報資源の積極的な活用」である。

そこで、わが事務所ではLANを組んで、共有化を図っているのであるが、「LANを組んで、共有化すればいいというものではない」という事態に陥っている。インフラは整備されているが、肝心の活用ができていないといってもいい。

なぜ、そういうことになっているかというと、ファイル名とフォルダの作り方にルールがなかったためだ。

ある者は、継続事件と終了事件というフォルダを作り、事件が終了したときにファイルを継続事件から終了事件のフォルダに移すときの感慨に耽っているし、またある者は依頼者を几帳面に五十音順に並べてフォルダを作り、マ行の依頼者が少ないとどうでもいいことに感心したりしている。

ファイル名に至っては、フォルダに当事者名をつけているためか、「訴状」とか「仮処分申立書」とか「契約書」だけで、他人にはその中身はさっぱり分からない。

もちろん、検索して、それらしきものに当たりをつけて、中を見るということはできないではない。しかし、何と言ってもルールがないため、検索もかなり抽象的に単語を設定しなくてはならず、妙な虫眼鏡みたいなアニメーションがひたすらグルグル回っていて、とても時間がかかるし、そのようにして抽出されたファイルも膨大で、とてもじゃないが面倒で中を見る気になれない。

さらに困るのは、独自のルールで文書等を保存して数年が経過してしまうと、「何とかしなければ」と思っても、あまりにファイルが多すぎて手をつけられず、「何ともできない」ということである。かといって、「過去のものはともかく今後はこのルールで」という訳にもいかない。そんなことをしてしまうと、己の使い勝手が悪くなって、急ぎのときなどは逆上するのは必至だからだ。

そういう訳で、わが事務所では、LANを組んで、情報の全てを共有できるような万全の環境の中で、

「こんな事件なんだけど、やったことある?」

「何年か前にやったことある気がする。あの当事者は誰だったかなぁ。」

「思い出して、見つかったらプリントアウトしておいて。」

「思い出したらね。」

という形で情報を共有しているのである。

Technologyの香りがさっぱりしないが、これをITと呼んでいいのだろうか。

2002年10月 1日

福岡県弁護士会紛争解決センター設立へ

石橋英之

平成一四年八月二八日の常議員会で福岡県弁護士会紛争解決センター規則等が承認されました。

これに基づき、福岡県弁護士会紛争解決センター運営委員会(以下、運営委員会といいます。)が設立され、運営委員会による仲裁人候補者名簿の作成等を経て、本年12月初旬には、福岡部会、北九州部会、久留米部会、飯塚部会の各法律相談センターに「福岡県弁護士会紛争解決センター」(以下、紛争解決センターといいます。)を開設して運営を開始したいと考えております。

制度の詳細や手続等については、別途、手引きを作成のうえ、会員各位に配付する予定としておりますが、以下、簡単に制度の概要等をご説明致します。

1 制度の意義

当会が福岡県下一二ヶ所で開設している法律相談センターの相談業務と紛争解決センターを連携することにより、「相談から解決まで」をモットーに市民へのより充実したリーガルサービスが提供できるようにしたいと考えております。

また、当会では、簡易裁判所が廃止された地域等にも法律相談センターが開設されておりますので、当該地域に紛争解決センターを開設することにより、簡易裁判所に替わる紛争解決機関としての役割を果たせればと考えております。

2 解決の方法

紛争解決センターが行うのは、紛争解決へ向けての和解のあっせんと、当事者が仲裁合意をした場合に行う仲裁判断です。

手続は、和解あっせん手続として開始され(原則として3回の期日を予定しております。)、和解が成立すれば和解契約書が作成されます。

但し、和解契約書自体は債務名義となりませんので、債務名義が必要な場合は、形式的に仲裁判断書を作成することもできるようにしております。

和解あっせん手続として開始された後、当事者が和解ではなく仲裁による解決を希望した場合には、仲裁手続に移行し、仲裁人による仲裁判断がなされることとなります。

また、仲裁手続に移行した後も、和解が可能であると仲裁人が判断した場合には、和解を勧試することができるようになっております。

なお、仲裁判断書は債務名義となりますが、強制執行を行うには、別途、執行判決を得る必要がありますので、この点ご留意頂きますようお願い致します。

3 申立の対象となる事件

事案の種類や紛争の価格の多寡等に関係なく、原則として、どのような事件でも受け付けることとしております。

但し、仲裁判断によって解決することができない事件がありますので(例、離婚事件、認知事件、境界確定事件等)、その場合は、和解あっせん手続のみを行うことはできますが、仲裁手続への手続の移行はできませんので、ご注意下さい。

これまで他会の仲裁センターの視察等を行ってきましたが、法律的な構成が難しく訴状を作成するのが難しいと思われるような事件や、立証が難しいと思われるような事件について、仲裁センターを利用して解決することができたとの意見が多数ありました。

また、名古屋では、少年らによる集団暴行事件の賠償問題を仲裁センターで解決することができたとのことですので、刑事事件の被害者と加害者の示談交渉の場としても活用できるのではないかと考えております。

更に、後に述べますように、建築士等の専門職の方々に専門委員として協力して頂く予定にしておりますので、専門的な知識を要する紛争についても対応できるのではないかと考えております。

4 費用

申立ての際に、申\立人から申立手数料として一万円を納付してもらいます。

期日手数料については、他の仲裁センターでは当事者双方から徴収するところもありますが、期日手数料の負担を理由に相手方が期日に出席しないという事態が生じないよう、期日手数料は徴収しないことと致しました。

最終的に和解が成立するか、仲裁判断がなされた場合には、成立手数料として、原則として、解決額に応じて計算した成功手数料(例、300万円の場合の成立手数料は18万円となります。)を紛争当事者双方に半額ずつ納付してもらうことにしております。

なお、和解あっせんが不調に終わった場合には、原則として、申立手数料以外の費用はかかりません。

5 仲裁人・専門員

紛争解決センターの和解あっせん及び仲裁を担当する仲裁人は、原則として、弁護士経験5年以上の弁護士の中から選任された仲裁人候補者の中から、紛争解決センターが選任することとしております。但し、当事者が合意すれば、当事者が選任した仲裁人が手続を主宰することとなります。

仲裁人の公正さの確保等のため、当事者と利害関係がある場合の解任の手続や守秘義務の規定等を置いております。

専門的知識を要する事件については、仲裁人だけで対応することは困難であろうと思われますので、そのような事案に対応するため、仲裁人を補佐する専門委員制度を設けております。

他会の仲裁センターでは、税理士、建築士、土地家屋調査士等の専門職の方々の協力を得て、的確な解決が図れているとのことですし、名古屋では、カウンセラーや医師にも専門委員として協力してもらっているとのことでした。

専門委員として様々な専門職の方々に協力して頂けることが、当紛争解決センターの成功への1つの課題であると考えておりますし、各種専門職の方々のご協力が得られれば、いわゆるワンストップ型のリーガルサービスの提供が可能となるのではないかと考えております。

6 その他

現行の法制度では、紛争解決センターへの申立は消滅時効の中断事由とはなりませんので、消滅時効が迫っているような事案については、何らかの時効中断の手続をとることが別途必要になりますので、ご注意下さい。

7 最後に。会員各位へのお願い

平成一三年度版の仲裁統計年報によれば、平成一三年度の全国の仲裁センターへの申立件数は九三〇件、解決に至った件数は三六九件(旧受事件・七七件、新受事件・二九二件)となっております。

しかし、司法制度改革の流れの中で、ADRが紛争解決機関として重要な役割を担わなければならないことは明らかですし、隣接他業士や各種業界団体にもADR設立の動きが具体化してきていることも事実です。

このような状況の中で、弁護士会以外で設立されるADRにおいて、不適切な解決がなされないよう監視していくことも弁護士・弁護士会の重要な役割ですが、何よりも、弁護士会が運営しているADRが、市民の紛争解決機関としての役割を十分に果たし、手軽で信頼できる機関として市民に認識されることが重要ではないかと考えております。

紛争解決センターが成功するか否かは、仲裁人候補者にいかに優秀な弁護士を揃えることができるか、また、会員の弁護士がこの制度をいかに有効に活用するかにかかっていると思います。会員各位のご協力を心よりお願い致します。

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