福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

2004年2月 1日

当番弁護士日誌

塩澄 哲也

一 弁護士になって約半年、国選弁護や私選弁護もある程度の件数をこなし、大分ペースがつかめてきたかなというときに、1件の当番弁護の出動要請があった。15歳の少年。罪名は窃盗。中学生が、万引きかひったくりでもしたのかなと思いながら、とりあえず久留米署に面会に行った。

二 金髪で髪を逆立てた如何にも悪そうな少年。遊び仲間と原付に二人乗りし、歩行中の女性の背後から近づき手提げバッグをひったくった、他にも同様のひったくりを1件やっているとのこと。窃盗やシンナー等で保護観察処分を受けた前歴もある。既に、中学校は卒業しており、定職にも就かずぶらぶらしていたらしいので、少年院送致という結論も十分にありうると思った。今の段階から環境調整に努めなければと思い、私選弁護の意思についても確認するべく母親に連絡を取ってみると、「あの子は小さい時から親にすぐ嘘をつく、今まで何度あの子のために頭を下げに行ったことか、あの子のためにお金を出すつもりはありません。少年院に行ったほうがあの子のためにはいいのではないか」と言われた。このままでは、少年院送致は避けられないと思い、少年の母親を呼び出し、(1)扶助申請するので弁護士費用は気にしなくてよいこと、(2)少年を今の段階で少年院に送ることが必ずしも少年にとってプラスになるとはいえないことなどを説明し、少年の母親に、被害賠償金を出したり、少年の社会復帰後の就業先を探したりするなど、最大限協力してもらうようにお願いした。結局、被疑者弁護の段階では、被害賠償をすることくらいしかできなかった。

三 観護措置が採られた後、社会記録を読んでみて、少年の家庭は重大な問題を抱えていることが分かった。少年の母親は、実父(少年の祖父)から激しい体罰を受けて育ってきており、同じように、少年も母親から、バットやビール瓶で殴られるなど継続的に体罰を受けて育ってきたのである。少年の祖父は、過去に長期間服役していたこともあり、少年に対して一社会人としての理想の大人像を示すことが全くできていなかった。少年の母親は、少年の父親と離婚した後、数年前に別の男性と再婚しており、再婚後二人の子供を設け、幼子の面倒を見るのに精一杯であったことなどから少年を放任していた。少年の義父は、東京に単身赴任しており年に数日しか戻ってこないこともあり、過去に少年が犯罪を犯したときにも、みな母親任せという状態であった。少年は家庭には居場所がないと考えており、母親に対する根深い不信感があること、母親自身も監督能力に欠けていることから、少年をこのまま家に帰しても元の木阿弥であると思い、私は、実家以外の帰住先を探すことに付添人活動の重点を置こうと考えた。

まず、私は、少年を義父が勤めている会社に就職させ、東京で義父と一緒に生活させることがよいのではないかと考えた。その話がまとまるかと思われたが、少年審判の直前になって、義父の勤める会社の他の社員が少年の面倒を見きれないと反対したことなどから御破算になった。

裁判官は、保護観察処分という結論も考えていたようであったが、少年や母親と何度も面会している私としては、少年を母親から離したところでしっかり監督した方がよいと考えていたので、試験観察処分を獲得すべく別の帰住先を探すことにした。裁判所からは補導委託先として中華料理屋があるといわれたが、少年は、「そのようなところで働きたくはない、力仕事がしたい」というので、結局、私が別のところを探すことになった。

そこで、以前、私が国選事件を担当した際に、型枠会社の社長さんに証人として立って頂いたことがあったのを思い出し電話したところ、面度を見てもよいという思いもよらぬ返事を頂いた。しかも、会社の近くにある下宿先まで紹介して頂き、下宿先のご主人の了解もとることができた。結局、型枠会社に勤め、下宿先から仕事場に通うということ等を条件に、少年は試験観察処分となった。

四 最初は順調かと思われたが、少年は何かと理由をつけて次第に仕事場に行か]なくなった。しかも、二度と原付の無免許運転はしないと約束したにもかかわらず、少年が無免許運転をしているという情報があちこちから寄せられるようになった。調査官や私は、このままでは少年が重大犯罪を犯す可能性が高いと判断し、少年を裁判所に呼び出し、今後のことについてしっかりと話し合おうということになった。

私は少年の下宿先を訪問し、仕事に行かなかったり、無免許運転をしたことが発覚すると、また身柄拘束されてしまう可能性があることなどを説明して、明日からは仕事に行くこと、数日後には裁判所で調査官との面会があるからその時には私が迎えに行くことを告げた。約2時間ほど話し、少年の下宿先を後にした。

調査官との面会日に、私が少年を下宿先まで迎えに行くと、少年は早朝からいないとのこと。下宿先の方の話によれば、私が少年を訪問した日以降、少年は全く仕事に行っていないことも判明した。少年との面会を後日にしてもらうように調査官に連絡した後、私は別件の少年事件の件で少年鑑別所に行くと、私の携帯に事務所から連絡が入った。「少年が窃盗罪で逮捕されたようです。少年は先生に面会に来て欲しいと言っているので鳥栖署に行って頂けませんか!」

五 少年から事情を聞いてみると、3人で自転車を盗んだということで逮捕されたが自分には覚えはないこと、高校生から500円を恐喝をしたが、他の2人から誘われてやむなくしたなどと弁解していた。少年の家庭環境を考えると、急に「立ち直れ、優等生的に振る舞いなさい」と言ったところで、いきなりそのような対応を取らせるのは難しいと考えられること、経営が苦しいにもかかわらず型枠会社の社長さんが、今後しっかりと働くならばもう一度少年の面倒をみてもよいと約束して頂いたことから、私は、再度の試験観察処分を目指すことにした。

窃盗の事実関係についての中間審判を経て(結局、窃盗の事実は認められてしまった)、2回目の審判前に裁判官と事前に面会した際、試験観察期間中にいくつか犯罪を犯していたとしても、今まで嘘をついていたことを謝罪し、心から反省しているとみられるならば、もう一度チャンスを与えようかと思っていると言われた。「ひょっとしてまた試験観察になるのか」などと淡い期待を抱いていたが、審判の場でも、少年は、「自分は窃盗はしていない、無免許運転はしていない」と言い張り、結局、少年の口から反省の弁は聞かれず、少年院送致になってしまった。

六 当番弁護で出動してから4ヶ月間少年と接してきた。自分が少年のために一生懸命動いたことで、少しでも大人に対する不信感を払拭できればいいなとは思う。ただ、「少年院に行って更生する者なんて誰もおらんよ。自分の周りも見てもそうやんけんが」などと嘯いていた少年の今後が心配でならない。

弁護士過疎地域への派遣支援について

石渡 一史

 福岡県弁護士会は、地域司法計画の一環として、弁護士過疎地域を克服する事業を積極的に支援していくことを12月2日の常議員会で決議しました。

弁護士過疎地域の問題については、今回の常議員会決議を経て、具体的に支援事務所の募集を始めることになりました。そこで、本稿を借りて、改めて、弁護士過疎地域克服の今後の計画について、会員の皆様の積極的な参加を呼びかけたいと思います。

 福岡県弁護士会は、今後、直接、間接の支援事務所を募集し、地域司法計画に従って克服すべき弁護士過疎地域(当面の地域は、八女、柳川、田川ですが、この地域には限りません。)への派遣を2004年度以降、順次実施していく予定です。派遣する弁護士については、本人が希望すれば当該地域に定着することが望ましいのは当然ですが、実際には、2年ないし3年の期間を限定した派遣が中心となると思われます。

 福岡県弁護士会が計画している、弁護士過疎地域克服のための事業の柱となるのは、直接、間接の事業支援事務所ですので、この支援事務所の役割について説明したいと思います。

1 直接支援事務所が果たすべき役割は次のとおりです。
  1. 過疎地派遣希望の司法修習生を採用する。

    受入条件については、司法修習生と面接及び協議して、採用することになります。

  2. 派遣弁護士(派遣前)に対して研修を行う。

    一定期間、事件処理や事務所経営等 の研修を行わせることになります。

  3. 派遣弁護士(派遣中)の相談に応じる。

    事件について派遣弁護士の要請があれば相談に応じ、あるいは、共同受任することになります。

  4. 派遣弁護士(派遣後)の受入先となる。

    派遣弁護士が、派遣期間満了後に、直接支援事務所への復帰を希望した場合に、その受入先となることになります。

2 間接支援事務所が果たすべき役割は次のとおりです。
  1. 派遣弁護士就職前に、直接支援事務所が作成する一般的基準研修プログラムに沿って、研修段階で共同受任する事件の種類や数量、及び、設立後の協力体制について、協議する。
  2. 派遣弁護士(派遣前)に対する研修を、直接支援事務所と共同で行う。
  3. 派遣弁護士(派遣中)を支援する。

派遣弁護士から、事件処理について要請があれば、優先的に相談に応じ、あるいは、共同受任することになります。

 もっとも、ここで述べた役割というのはあくまでイメージであり、それぞれの法律事務所が、この計画とは別に独自の構想で、弁護士過疎地域に法律事務所を開設することを妨げるものでないことはいうまでもありません。

また、以前、寄稿した際にも述べたように、ルールに基ずく社会が、地域のすみずみに行き渡るようにしたいというのが、地域司法計画の重要な柱の一つです。また、これによってリーガルサービスセンターに頼らずに公的弁護制度等、新しい改革の試みも実現していくことができるものと考えます。重ねて会員の皆様が本事業の意義を理解され、積極的に支援事務所として名乗りを挙げられることを希望するものです。

ちょっとだけIT病

堀 良一

コンピュータは,わたしの体の一部である。

年々衰えていくわたしの大脳の機能は,次々にノートパソ\コンのCPUとハードディスクによって置き換えられている。

訟廷日誌はとっくの昔に捨てられ,ポケットには電子手帳のクリエが収まっている。携帯はもちろん肌身離さず持ち歩いている。

打ち合わせも相談も全部ノートパソコンでメモを取るし,スケジュールはクリエだし,ペンを使って文字を書くことは,署名以外では法廷で証言をメモるときくらいだ。そのため,ワープロ専用機時代から進んでいた「漢字が書けない病」は,ほぼ極限にまで達している。仮名を書くときも,もたもたして時間がかかる。わたしの書いた字は,もはや,わたしを担当する事務員にも読めない。

最近は,小説やコミックも,かなりパソコンやクリエで見るようになった。カバンのなかに入れているiPODには2000曲近くの音楽が入っていて,自宅のCDライブラリをほぼ持ち歩いていることになる。音楽はクリエからでも聴いている。

メールやネットは,ノートパソコンがメインだが,自宅や事務所のデスクトップからも,携帯からでもクリエからでも頻繁にアクセスしている。わたし宛のメールは,睡眠中と尋問中を除けば,どこにいようと,ほぼ30分から40分程度で確実にわたしに届く。

メーリングリストも自分が開設したものだけで7つあるから,メールは1日に100通前後届く。書いているメールの分量もかなりになる。

担当している集団事件では,もちろんメーリングリストを開設して,20名くらいの弁護団員が議論したり,情報を交換したり,書面の検討をしたりしている。相手方から提出された書面はスキャナで読み込んでOCRにかけ,ワードやPDFのファイルにして,こちらが提出した書面や資料といっしょに,ウェブ上のオンラインストレージにアップして,全員で共有している。いまや,この集団事件の弁護団員はパソコンなしにはついてこれない。

先日,弁護士会の委員会で出かけたモロッコ旅行の際には,毎晩,その日にデジカメで撮った静止画や動画をつなぎ合わせ,BGMをつけて,ムービーファイルを作っていた。海外でもホテルからネットに接続して,日本の情報をチェックし,メールを読み,気が向いたらメールを書いている。モロッコの地方都市のホテルは外線がホテルの交換を通すという古いシステムのままのところがあってネット接続ができず,おかげでその日は早寝ができた。携帯用のスピーカーも旅行カバンに入れているから,ほぼ自宅と同じ環境で音楽も楽しんだ。

西にフリーズしたパソコンがあれば,飛んでいって,あれこれ原因を究明してあげたい。東にパソ\コンを購入しようとしている人がいれば,いっしょにパソコンショップにでかけて悩みを共有してあげたい。

まだパソコンに変身した夢をみたことはないが,最近,ちょっとだけIT病が進行中であるという自覚はある。

2004年1月 1日

少年非行と更生支援

八尋 八郎

弁護士業務委員会の「弁護士に未来はあるか」シリーズ(第3弾)として、昨年12月4日に話をさせて頂いた要旨は次のとおりです。

私は少年事件が多い年には20件くらいあり、10余年前には全国の年間付添人選任件数の1%を越えたことがあります。少年に付添人選任届を書いてもらうときには誠実に精一杯の活動を誓うので、少年の意に反して「少年院に送ってほしい」という付添人意見を述べることはありません。面会と文通を重ねるなかで少年の自分史のなかに本件非行を位置づけ、非行の原因と対策を少年と一緒に考えてゆきます。

また、少年には鑑別所では行動観察という態度評価が行なわれるのでキチンとしておくように伝え、保護者には社会資源(家庭・学校・職場などの少年の更生を支えるもの)の再構成と開拓にフル回転するよう求めます。これらがうまく噛み合えば少年は社会内処遇を受けることになるのですが、その場合にも少年には再非行の抽象的危険は残ります。それで「野獣を野に放つものだ」という批判を甘受しています。とはいえアッサリと少年院に送るよりはギリギリで社会内処遇にした方が再非行の危険性は低く、予\後が良いように思います。

付添活動が奏功せずに少年院に送られたときには、一日潰して面会に行き「少年院の処遇プログラムどおりにしっかり勉強して元気に戻ってほしい」と伝えます。やがて仮退院した少年が事務所に来ます。背筋をピンと伸ばして私の目を見て「ありがとうございました。これから頑張ります」と言うと少し嬉しくなるのですが、今どき運動部の子だってこんな挨拶はしないのです。暗くて反抗的なままでよいから少年院で運転免許くらい取らせて欲しかったと思うのです。免許があれば就職先が広がり生きてゆく役に立つのです。

虐待と少年非行には高い相関があります。虐待に限らず、貧困・離婚などの負因と少年非行とのあいだにも高い相関があります。だからといって親を処罰したところで何も始まりません。逆に出生率が低下するなか産んでくれてありがとうと言うべきです。国がさまざまな負因を抱えた弱い親を支援できれば子どもの役に立つのですが、財政赤字で窮迫したわが国は、福祉のオール切捨てへと逆走中です。

国の年間税収が42兆円であれば、42兆円で予算編成するのが当然です。それなのに、同額の赤字国債を発行して毎年のように収入の2倍を濫費し、いまや国債未償還残高は660兆円の破産状態です。少年に面会して「何やってんだ」と叱責する前に、総理大臣にそう言いたいところです。子どもの世話にはならないと決意して国民が積み立てた年金をデタラメに喰い潰し、若年者に負担してもらうとは何たる言い草でしょうか。今なら年金の使い残しが140兆円あるそうです。いま自己破産を決断すれば、この140兆円を配当できます。配当率が年金積立総額の何パーセントになるか分かりませんが、せめてもの誠意ってやつです。事務費も出ない低利回りの時世に積立額以上の給付を予定する年金制度が存続できる筈はないのです。それなのに、年金制度改悪を弄するのは、これをあと3年で喰いつぶす目的というしかありません。そのついでにイラク派兵というのでは、まるで子どもの学校給食費で福岡ボートに行くようなものです。こんな有様では「やってられない」という子どもに返す言葉はないのです。子どもの不幸のシンボルである非行を少年と家族だけに背負わせて一丁上がりにするのなら、国はいりません。サッチャーは「社会などない。男と女がいて家族があるだけだ」と言って福祉オール切捨の小さな政府宣言をし、ついでに愛国心を強調したのですが、そんな国よりも私は妻を愛します。

私たちにできる更生の援助とは少年本人の意思・意欲を尊重し、曲がった枝は曲がったままに生かしてゆくことであって、枝を折ったり刈り込んだりして形ばかりを整えることではない筈です。或いは、少年に必要なのは警察の取締や少年院ではなく若者宿(地域の若者たちが夜集まって手仕事をしたり話し合ったりして寝泊りする居場所)かなと思いついたりもするのですが、若者宿を開設しても誰も来ないだろうと考えると、やはり子の心、親知らずということでしょうか。

子どもの未来は人類の未来です。子どもに未来がなければ、弁護士の未来だってありません。少年法を「改正」しても「やっぱり」非行は減らなかったし、これに続く教育基本法や憲法の「改正」スケジュールをみると、早めに自己破産させないと、後日、元に戻す法律が多すぎて大変だと思うのです。

犯罪被害者支援研修

恒川 元志

弁護士登録して1か月ほど経った11月12日、われわれ新入会員弁護士は弁護士会館3階ホールにおいて犯罪被害者支援研修を受講しました。一昔前には犯罪被害者は刑事訴訟において忘れられた当事者とまでいわれておりましたが、現在においては被害者保護に関する法令の整備も少しずつ進んでいるところです。ということで近年注目の分野の1つであると思いますので、気を引き締めて研修に参加させていただきました。

今回の研修で配布された資料の中に、西日本新聞の見開き1枚の大きなカラーコピーがありました。おぉ、よく見ると何枚かのコピーを糊付けしてつなぎ合わせてあるではないですか。私はその内容のわかりやすさもさることながら、まずは関係者の方々の研修資料作成の努力に感動してしまいました(事務所には内緒ですが、時間を間違えて30分早く会場に到着してしまいましたので、じっくり目を通させていただきました)。

研修が始まると、まずは福岡県警本部犯罪被害者対策係主任で臨床心理士の加藤友香さんから、県警の犯罪被害者相談電話受付をする「ミズリリーフライン」の説明と、そこによく相談があるドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者を中心とした説明がありました。加藤さんには検察修習中にもお話を聞く機会があり、近年の流れから市民の味方の県警としても力を入れられておられるのだと思いました

次に、郷田真樹先生から、犯罪被害者支援の一般的な注意点と、被害者の代理人となった場合の刑事・民事事件での役割、加害者の弁護人・代理人の役割について丁寧な説明がありました。また、具体的な用例を挙げて、被害者の意思を尊重せずに援助者個人の価値観を押しつけるだとか、被害者の側に落ち度があると責めるだとかの悪い対応例も紹介いただきました。

最後に、特定非営利活動法人福岡犯罪被害者支援センター理事長の内川昭司先生から同法人の概要等について説明がありました。同センターは弁護士だけでなく、医師、臨床心理士、社会福祉士、大学研究者等の専門職の方々と、専門的研修を受けた市民ボランティアの方々で成り立っているとのことでした。また、実際の事件で遺族の方が書かれた文章を紹介いただきましたが、そこには遺族の心境や事件後の環境変化、家族が立ち直るまでの過程等、リアルに描かれており、犯罪被害者支援の重要性とその困難さを改めて認識する事ができたように思います。

その後、質疑応答の時間がもうけられ、われわれ新入会員の質問に対し、途中から参加された萬年先生らが豊富な経験を踏まえられた的確な回答をされていました。 これまでの私にとって犯罪被害者保護といっても机上の空論でしかなかったのですが(本稿執筆段階でも未だ扱ったことはないですが・・・)、今回の研修を通して、犯罪被害者が受ける具体的な被害を考えることができたと思います。研修の途中まで、犯罪被害者支援委員会とミズリリーフラインとの関係は?犯罪被害者支援センターとの関係は?などと、実際自分がどのようにこの分野に携わっていくのか疑問だらけでしたが、研修が終わり、懇親会を経てなんとか研修を受けたといえる程度までには理解できました。

法曹関係者以外の方から、どうして悪者の見方をするのかという質問をよく受けますが、それに対する誤解を解くとともに、被告人だけでなく被害者の支援もしているのだということをもっとアピールしていくことも大切なのではないかと思いました。これからは今回の研修で学んだことを生かして、犯罪被害者の支援に貢献したいと思います。

最後になりましたが、お忙しい中われわれ新入会員のために講義していただきまして、ありがとうございました。

2003年11月 1日

ITコラム 〜サルからの進化

田邊 俊

遂に、私にもITコラムの順番が回って来ました!思い起こせば、修習生になるまでは、パソコンはおろか、ワープロさえ触ったことがなかった超アナログ人間であるにもかかわらず(因みに、現在の趣味は、蓄音機でのSP鑑賞です。)、何の因果か、ホームページ委員会に所属することになり、ITに関するコラムを書いているのですから、人生、何があるか分かりません。という訳で、色々な先生方がITコラムを執筆された後に、何について書けば良いのか悩みましたが、私とパソ\コンとの付き合いは、「サルにも分かる」と銘打たれたパソコン入門本からスタートしましたので、「コンピューターを使わなくても仕事には差し支えがない。」と考えられている年輩の先生方(当然ながら、うちのボスも含まれます。)に向けて、私が、どのようにしてサルから進化したのかをご紹介したいと思います。

まず、修習生になった私は、実務修習に向けて、起案のためにパソコンを使うようになりました(ワープロとしての使用)。勿論、キーボードの使用に慣れていなかったため、悪戦苦闘の日々を過ごしましたが、「特打ち」等のタイピングソ\フトを用いながら、少しずつキーボードに慣れて行きました。この修習生時代には、メールの利用も消極的で、インターネットも、「大人のインターネット」の利用に留まっていました!その後、うちの事務所では、私の就職を機会に、遅蒔きながらワープロからパソコンへの転換が行われ、LANも整備され、情報の共有化が行われるようになりました。

そして、この段階では、複数のメーリングリストに所属するようになったため(福岡の同期、研修所のクラス、修習地など)、メールも積極的に利用するようになり(コミュニケーション手段としての利用)、今では弁護士会のメーリングリストへの加入も増え、何日か出張をすると、100通余りのメールが貯まるという状態です(もう出張にもパソコンを持ち歩かないといけません。)。

さらに、インターネットも多用するようになり(情報収集手段としての使用)、判例検索は勿論のこと、何か調べものをしたいときには、ヤフーやMSNの検索サイトを利用し(相手方の会社の住所、郵便番号などの調査も容易です。)、出張の際には、路線の確認や、電車・飛行機の予約(インターネットを利用すれば割引などの特典が満載)、ホテルの予\約(オークションサイトを使えば、半額以下の料金での宿泊も可能)に重宝しています。加えて、ネットオークションの利用も、趣味のレコードやコンサートチケットに留まらず、書籍や日常品でも、キーワードを予\め登録しさえすれば、オークション会社から出品連絡がメールで入るという便利なシステムであるため、探している物の発見が容易になりました(余談ですが、オークションを通じて同好の士と仲良くなることも多く、弁護士会の一員として釜山を訪問した際には、自由行動時間中に韓国の大学教授と会い、オタク話に花を咲かせました。)。

以上、私とコンピューターとの関わりを披露させていただきましたが、この5年間で、ワープロから通信手段、さらには、情報入手手段へと進化しており、後は、情報発信手段(Hpの作成)への発展という課題が残されているだけです。

このように、典型的な文系人間の私でも、今では、コンピューターなしの生活など考えられない程になっているのですから、パソコンに慣れていない方には、パソ\コンの利用を強くお薦めします。この点、デジタルデバイドとは、ITを使う人と使わない人との間に生じる社会的・経済的な格差を意味しますが、最近宿泊した東京のホテルでは、テレビ代わりにパソコンが装備され、ルームサービスもパソ\コンを通じて依頼するシステムが採用されており、パソコンを使用しなければ生活が出来ないという時代の到来を強く予\感した次第です。

福祉の当番弁護士発足3周年記念シンポジウム報告

吉田 知弘

初秋というのに残暑厳しい9月19日、岩田屋Zサイド夢天神ホールにおいて、福祉の当番弁護士発足3周年記念シンポジウムが開催されました。満場の聴衆に溢れた会場の様子を仰ぎ見るにつけ、この高齢者・障害者関連法務というものには強い社会的ニーズがあるのだと、改めて実感しました。

ところで、会員の皆様は、この「福祉の当番弁護士」という制度をご存知でしょうか。この制度は「専門相談者のための法律相談」とでもいうべき制度です。高齢者や障害者に関わる分野では、法的問題を含む事案でも、医療・保健・福祉等の分野に関わる行政や各種団体の実務者のところで、第一次的な把握がされることが圧倒的に多いと思われます。彼らはそれぞれの専門実務者としての立場から問題の要点を要領よく把握しているものの、法律知識に欠けるために対処方法がわからずに困っている。そこで、これを我々法律専門家に迅速に繋ぐために、専門実務者が抱える事例に関する法律相談を無料で受けられるように配慮した法律相談の仕組が「福祉の当番弁護士」なのです。この福祉の当番弁護士は、当会が全国に先駆けてスタートさせ、その後、九弁連内の各単位会で徐々に採用が進み、目下、岡山や大阪でも採用が具体的に検討されているなど、各般から強い期待が寄せられています。今回のシンポジウムは、この制度の発足3周年を記念して開催されました。

このような経緯もあって、このシンポジウムの開催にあたっては、九弁連や日弁連のみならず、福岡市・福岡県・市社協・県社協・医師会等、行政や医療保健分野の各般の共催を仰ぎました。単なる行事とはいえ、各般のご協力を賜ること自体が高齢者障害者法務にとって欠くことのできない専門実務者間の問題関心の共有と連携強化のために意義あるものと位置付けられていることをご承知いただければと思います。

さて、当日の司会進行は、当会の加茂雅也会員と原志津子会員という溌剌とした組合せで、会の円滑な進行に大いに寄与されました。最初に、福岡市保健福祉局介護保険課の古屋英明課長より「介護保険導入4年目を迎えた福岡市の取組」との題目でまとまったご報告をいただきました。

その後、基調講演として、大阪弁護士会の池田直樹先生より「『高齢の人・障害のある人の権利擁護と虐待防止』に向けて」と題して、基調講演を賜りました。池田先生は、高齢者障害者の権利擁護の活動に大変造詣が深く、虐待防止のために必要なことを抽象的にではなく、具体的な事案の中で取り得べき手段という形で事細かにご紹介いただき、その上で、虐待防止法を制定する必要性とそのための課題を分かりやすくご説明していただきました。また、各地の自治体などにおける虐待防止のための取組や対応方法のマニュアルなどもご紹介があり、参加者やパネリストからも大変な好評を得ていました。
その後、当会の宇都宮英人会員をコーディネーターとし、古賀美穂会員ほか各般から多数のパネリストをお迎えしてパネルディスカッションが催されましたが、虐待を発見した場合の通報義務と実務者に課せられる保秘義務との調整をどのようにして克服するのかが重要な問題となるという共通認識ができたように思いました。

その他、諸々、この狭いスペースで語り尽くすことはできませんが、引き続き催された懇親会を含め、大いに盛会であったことをご報告します。どうぞ、会員の皆様にも、この高齢者障害者法務の分野に対するご理解と積極的なご参加をお願いするものです。

2003年10月 1日

ヤミ金対策法成立す!!  

石田光史

第1節 先の国会において、いわゆる「ヤミ金対策法」が成立しました。この主要部分は、既に九月一日から施行されています。みなさん新聞報道等でご存じかとは思いますが、紹介と解説をさせていただきたいと思います。

第2節 ヤミ金対策法の内実は、貸金業法と出資法の改正です。内容は多岐にわたっていますが、主なところを挙げると、貸金業登録の拒否事由の追加、無登録業者の広告等の禁止、貸金業者に使用人等への従業員証明書の携帯義務を負わせたこと、出資法に定める金利違反の罰則強化などです。

第3節 しかし何と言っても本法の眼目は、契約無効規定を置いたことでしょう。貸金業法四二条の二は、次のように定めます。

貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約において、年一〇九・五%を超える割合による利息の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は無効とする。

ここで言う「貸金業を営む者」とは、登録業者に限りません。したがって、我々が日常相手をするいわゆる「ヤミ金」の契約は、利息部分だけでなく消費貸借契約全体が無効となります。

第4節 ところで、債務者がまだ元本分の返済も終えていない場合、どう処理すべきことになるのでしょうか。

この点、一部では、「元本分を返済すれば利息分は無効となる」といった報道がなされ、また某庁のホームページにはわざわざ「元本の返済義務はある」と記載されていました。会員の中にも、この点で混乱された方もおられるのではないでしょうか。

しかしこの報道・解説は明らかに誤りです。正解は、「この法律は、元本分の返済については何も言っていない」です。返せとも返さなくてもいいとも言っていない。つまり、元本分については、通常の不当利得法理によって処理されることになります。不法原因給付の適用も排除されません。衆議院法制局職員による解説も同旨です(金融法務事情一六八三号三七,三八頁)。したがって、ヤミ金による数百・数千%にも及ぶ超高利の貸付は、不法の原因によって給付されたものであり返還義務はない、としてきた従来の我々の主張に、何ら変更の必要はありません。

第5節 立法過程で、元本の返済不要も明記すべきとの意見もありましたが、今回は見送られました。この点を曲解して、立法により元本分は返済しなければならなくなったとする向きもあるようです。

しかし前述のとおりそれは誤りですし、実質的に考えても、ヤミ金「対策」立法が成立したことにより、従来我々が貫いてきた「ヤミ金に対しては一切返済しない」との原則が否定されるというのはおかしな話です。少なくとも、数百・数千%の超高利を取っている「ヤミ金」の貸付については不法原因給付に該当するとして、従来どおり一切返還しないという立場を貫くべきですし、それは全く可能であると考えます。

第6節 今回のヤミ金対策法には、物足りないとの批判もあります。その批判も解るのですが、ただ「『返済しない』という理屈は立つのか。立つとしても実際にはヤミ金とどう闘うのか。」などという議論をしていた当時(ほんの二年程度前です)からすれば、隔世の感があります。

近頃ヤミ金はだいぶおとなしくなり、数も減ったという印象があります。あと一歩です。このヤミ金対策法を活用して、ヤミ金を撲滅しましょう!

「弁護士報酬の敗訴者負担」に反対する署名3517人分集まる   

安部 千春

1 黒崎合同法律事務所では、依頼者や相談者に年賀と暑中お見舞いの「事務所だより」を発送し、31号になります。

内容の一は裁判の報告で、今回は東敦子弁護士が麻生知事に1億円の支払いを命じた県同教の裁判を、内容の一は「法律相談シリーズ」を田邊匡彦弁護士が、内容の一は政治に関するもので「有事法制三法案と日本の未来」を横光幸雄弁護士が書きました。

これだけでは面白くないので、もう一つは何か依頼者や相談者が面白く読んでくれるようなもの、例えば弁護士宅訪問や子ども時代の思いでなどを書いています。田邊匡彦弁護士の「私の双子時代」というのは評判がよかった。

田邊弁護士は一卵性双生児で2人とも弁護士です。幼稚園、小学校、中学、高校、大学と同じで、いつも比較され続け、匡彦弁護士の最大のライバルは弟だったそうです。弁護士になりたてのころはよく知らない人から声をかけられたが、今は体型が違って双子時代は終わったとまとめてありました。

弟君から「安部先生、兄が事務所ニュースは私のことを書いて面白かったといわれるが、私は読んでいませんので送って下さい」と頼まれて送った。

「事務所ニュース」は、4人の弁護士がそれぞれ書いており、今回は私が面白い記事として2003年憲法集会を書いたが、あまりこんな報告文は面白くなかった。やむなく、もう一本「行列のできる法律事務所の北村晴男弁護士、交渉のために黒崎合同法律事務所に来る」を書いた。こっちはまあまあでした。

2 今回、この事務所ニュースに「弁護士報酬の敗訴者負担」に反対する署名を同封し、返信をお願いしたところ、587人から3517人分の署名が集まりました。私が書いたお願いの文章を参考のためにお知らせします。

『私達の事務所では、筑豊じん肺訴訟や過労死認定訴訟、オンブズマン訴訟など、国や北九州市を相手にした訴訟や、新日鉄などの大企業を相手にした配転無効、出向無効の裁判をしています。

通常の訴訟では、依頼者から着手金をいただいて裁判を始めますが、これらの訴訟は手弁当で行っています。それは、依頼者に着手金を支払う資力がなく、その裁判は人権を守るために私達が弁護士としてやらなければならないと考えたからです。

これらの裁判は、勝か負けるかやってみなければわかりません。大変難しい裁判です。 筑豊じん肺訴訟では、一審では国に敗訴し、控訴審では勝訴しました。

弁護士報酬の敗訴者負担が決まれば、私達は「この裁判を私達は、勝つために必死に闘いますが、敗訴することも考えなければなりません。私達の着手金はいりませんが、敗訴したときには相手の弁護士報酬を支払わなければなりません。」と説明しなければなりません。

こんなことを説明したら、私達に弁護を頼む人がいるでしょうか。

通常の事件でも、敗訴したときには相手の弁護士報酬を支払わなければならない場合に、それでも私達に依頼する人がいるでしょうか。

弁護士報酬敗訴者負担は、結果として国民が国や県や北九州市を被告とする裁判や、医療過誤や労働裁判など被告の方が圧倒的に資力がある裁判ができにくくします。市民を裁判からしめ出すことになります。

日本弁護士連合会では反対署名に取り組んでおります。

お忙しいこととは存じますが、ご家族、友人、知人、ご親戚の方々に反対署名をしていただいて、同封の返信用封筒にて事務所までご返送下さい(できましたら8月末日を目処に)。他の方にご依頼できない方は、自分の分だけでも結構です。

ご協力お願い致します。』

2003年9月 1日

ADRの研修に参加して

松原妙子

1 ADRとは何ぞやと思われている方のために。

簡単に言うと、紛争を早期に解決するために裁判所以外で解決しようという制 度で、民間紛争解決センターのことです。

研修は、本当にびっちりと12日は午後一杯、13日も午前9時から午後1時 まで。議論の内容は、主に、今後制定されるADR法がどう規定されるべきかに ついてであり、参加者は、皆各地でADR設立、運営について活動されている方 ばかりでした。

主な問題点は、ADRに申し立てたことについて、時効中断の効果を認めるか、 成立した和解に執行力を付与するかでした。

私は、時効中断の効果を認めなければ利用価値がないと思います。

そして、そのためには、ADR制度そのものが、信頼されるものである必要が あると思います。

その後、各地からの活動報告があり、石橋先生が立派に発表されました。

福岡は、医師、建築家等各種の専門家との連携を取れる体制になっているとの 発表で、福岡が1番整備されていると各地の先生が羨ましがっておられました。

福岡は、様々な制度で先駆者の役割を果たし、且つ、その制度を円滑に活用し ていることは誇りに思って良いことだと思います。

ところで、私が今回の研修に参加して1番感動したことは、結構お年の先生方 が参加しておられ、熱心に疲れを知らずに議論されていることでした。

ADRの設立準備の時から関与され、これまで熱心に活動され、さらにこれか らの制度、体制等を良くしようと考えておられる情熱は素晴らしく、法律家は何 時までも精神を若々しくしていなければいけないと刺激を受けました。

毎日、仕事に追われる生活ではありますが、そのような生活の中でも、余力を 残し、人のため、社会のために貢献せねばと思わせられた研修でした。

前の10件 47  48  49  50  51  52  53  54  55  56  57

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー