福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
月報記事
福祉の当番弁護士
迫田登紀子
会員の皆様、「福祉の当番弁護士」という電話相談の窓口があるのをご存知でしょうか。これは、行政機関、福祉団体、施設等において高齢者や障害者の相談を担当している方を対象に、それらの方の疑問を法的な側面からアドバイスすることを目的とした電話相談です。現在「あいゆう」に登録をした会員(福岡部会中120名)の中から、登録を承諾された49名の会員によって担われています。
2000年9月18日から始まった「福祉の当番弁護士」の丸2年を記念して、去る9月20日に九弁連及び当弁護士会主催の記念シンポジウムが行われました。本稿では、このシンポのプレ企画として9月12日に行われた、高齢者ご本人の相談をも含む電話と面接による相談会についてご報告します。
当日は、朝10時の開始直後から2台の電話ともにふさがるという盛況ぶりで、午後5時の終了までに合計30件もの多数の相談がよせられました。相談の会場には、新聞・テレビの記者が大勢駆けつけ、テレビカメラも数台入りましので、相談の状況がお昼のニュースに流れると、また途絶えることなく相談の電話が続きました。(この日私は、テレビカメラがきているなど全く知らず、「今日は人に会わないもんねえ。」とぼさぼさの頭のまま、相談会場に出かけたのでした。にもかからず、なぜかテレビにうつる羽目になり、そんな日に限って、たくさんの人から観られていて・・・。何人もの依頼者が、にこにこと「先生、見ましたよ!」声をかけてくださるので、何故だかとても落ち込みます。)
相談は、福祉団体や施設からが4件、その他は高齢者ご本人やその家族からでした。
主だった内容としては、行政手続き・行政とのトラブルに関するものが9件、負債関係が5件、家族間のトラブルに関するものが3件、弁護士とのトラブルに関するものが3件、遺産分割・遺言に関するものが2件、入所者の対処に関する施設からの相談が2件ありました。行政手続に関する質問や法的観点からのアドバイスは必要ないと思われる質問も少々見られましたが、このことは、相談窓口が分からずに1人で悩みを抱えておられるご高齢者が多いこと、そして「弁護士による相談」に対する期待・信頼が高いことの証でもあると思います。
これらの他にも、労働問題、刑事手続き、消費者問題、医療過誤に関する相談などもありました。高齢者の相談といっても、成年後見をはじめとする高齢者特有の相談ばかりでなく、一般相談と同様に幅広い相談がなされたと分析できると思います。
この企画の後に行われた2周年記念シンポジウムでも、高齢者や障害者の権利擁護のために、弁護士と関係各機関とが連携をすることや、その中における弁護士の役割の重要性が確認されました。
幅広い市民の皆様に弁護士を知って頂き、そして利用していただこうとしているこの司法改革の中で、高齢者や障害者の分野は、まだ私たちがなかなか手をつけられないでいる未開拓の分野であるといえるのではないでしょうか。会員の皆様、高齢者・障害者へのリーガル・サービスの提供のため、是非「あいゆう」そして「福祉の当番弁護士」にご登録ください。
事務所内での情報の共有化
植松 功
「IT」とは一体何のことだろうか。
Information Technologyの頭文字をとったものらしいことは何となく知っているが、そのまま訳して「情報技術」と言ってみても、何かよく分からない。
仕方ないので、インターネットで調べてみたら、「入手、収集可能な情報資源を積極的に活用して、ビジネスを有利に展開するためのしくみ。それを実現するために使用可能\なさまざまな情報技術のこと。」とある。
「ビジネスを有利に展開する」というのは何か「競争」とか「利益」とかを連想させ、ちょっといやらしいが、なるほど「入手、収集可能な情報資源を積極的に活用できるシステム」というと、弁護士業務にも大いに関係ありそうである。
情報資源はいろんなところにある。
最も身近なのは、事務所内での情報だ。僕のところは弁護士が五人いるが、それぞれが毎日毎日カチャカチャとキーボードを叩いていて、その作成文書量は大変なものとなっている。そして、それらは調査し、悩み、苦労した末に完成したものも少なくないはずで、貴重なノウハウとなっているに違いない。
これを共有の財産とし、簡単に検索できれば、それはまさに「情報資源の積極的な活用」である。
そこで、わが事務所ではLANを組んで、共有化を図っているのであるが、「LANを組んで、共有化すればいいというものではない」という事態に陥っている。インフラは整備されているが、肝心の活用ができていないといってもいい。
なぜ、そういうことになっているかというと、ファイル名とフォルダの作り方にルールがなかったためだ。
ある者は、継続事件と終了事件というフォルダを作り、事件が終了したときにファイルを継続事件から終了事件のフォルダに移すときの感慨に耽っているし、またある者は依頼者を几帳面に五十音順に並べてフォルダを作り、マ行の依頼者が少ないとどうでもいいことに感心したりしている。
ファイル名に至っては、フォルダに当事者名をつけているためか、「訴状」とか「仮処分申立書」とか「契約書」だけで、他人にはその中身はさっぱり分からない。
もちろん、検索して、それらしきものに当たりをつけて、中を見るということはできないではない。しかし、何と言ってもルールがないため、検索もかなり抽象的に単語を設定しなくてはならず、妙な虫眼鏡みたいなアニメーションがひたすらグルグル回っていて、とても時間がかかるし、そのようにして抽出されたファイルも膨大で、とてもじゃないが面倒で中を見る気になれない。
さらに困るのは、独自のルールで文書等を保存して数年が経過してしまうと、「何とかしなければ」と思っても、あまりにファイルが多すぎて手をつけられず、「何ともできない」ということである。かといって、「過去のものはともかく今後はこのルールで」という訳にもいかない。そんなことをしてしまうと、己の使い勝手が悪くなって、急ぎのときなどは逆上するのは必至だからだ。
そういう訳で、わが事務所では、LANを組んで、情報の全てを共有できるような万全の環境の中で、
「こんな事件なんだけど、やったことある?」
「何年か前にやったことある気がする。あの当事者は誰だったかなぁ。」
「思い出して、見つかったらプリントアウトしておいて。」
「思い出したらね。」
という形で情報を共有しているのである。
Technologyの香りがさっぱりしないが、これをITと呼んでいいのだろうか。
2002年10月 1日
福岡県弁護士会紛争解決センター設立へ
石橋英之
平成一四年八月二八日の常議員会で福岡県弁護士会紛争解決センター規則等が承認されました。
これに基づき、福岡県弁護士会紛争解決センター運営委員会(以下、運営委員会といいます。)が設立され、運営委員会による仲裁人候補者名簿の作成等を経て、本年12月初旬には、福岡部会、北九州部会、久留米部会、飯塚部会の各法律相談センターに「福岡県弁護士会紛争解決センター」(以下、紛争解決センターといいます。)を開設して運営を開始したいと考えております。
制度の詳細や手続等については、別途、手引きを作成のうえ、会員各位に配付する予定としておりますが、以下、簡単に制度の概要等をご説明致します。
1 制度の意義
当会が福岡県下一二ヶ所で開設している法律相談センターの相談業務と紛争解決センターを連携することにより、「相談から解決まで」をモットーに市民へのより充実したリーガルサービスが提供できるようにしたいと考えております。
また、当会では、簡易裁判所が廃止された地域等にも法律相談センターが開設されておりますので、当該地域に紛争解決センターを開設することにより、簡易裁判所に替わる紛争解決機関としての役割を果たせればと考えております。
2 解決の方法
紛争解決センターが行うのは、紛争解決へ向けての和解のあっせんと、当事者が仲裁合意をした場合に行う仲裁判断です。
手続は、和解あっせん手続として開始され(原則として3回の期日を予定しております。)、和解が成立すれば和解契約書が作成されます。
但し、和解契約書自体は債務名義となりませんので、債務名義が必要な場合は、形式的に仲裁判断書を作成することもできるようにしております。
和解あっせん手続として開始された後、当事者が和解ではなく仲裁による解決を希望した場合には、仲裁手続に移行し、仲裁人による仲裁判断がなされることとなります。
また、仲裁手続に移行した後も、和解が可能であると仲裁人が判断した場合には、和解を勧試することができるようになっております。
なお、仲裁判断書は債務名義となりますが、強制執行を行うには、別途、執行判決を得る必要がありますので、この点ご留意頂きますようお願い致します。
3 申立の対象となる事件
事案の種類や紛争の価格の多寡等に関係なく、原則として、どのような事件でも受け付けることとしております。
但し、仲裁判断によって解決することができない事件がありますので(例、離婚事件、認知事件、境界確定事件等)、その場合は、和解あっせん手続のみを行うことはできますが、仲裁手続への手続の移行はできませんので、ご注意下さい。
これまで他会の仲裁センターの視察等を行ってきましたが、法律的な構成が難しく訴状を作成するのが難しいと思われるような事件や、立証が難しいと思われるような事件について、仲裁センターを利用して解決することができたとの意見が多数ありました。
また、名古屋では、少年らによる集団暴行事件の賠償問題を仲裁センターで解決することができたとのことですので、刑事事件の被害者と加害者の示談交渉の場としても活用できるのではないかと考えております。
更に、後に述べますように、建築士等の専門職の方々に専門委員として協力して頂く予定にしておりますので、専門的な知識を要する紛争についても対応できるのではないかと考えております。
4 費用
申立ての際に、申\立人から申立手数料として一万円を納付してもらいます。
期日手数料については、他の仲裁センターでは当事者双方から徴収するところもありますが、期日手数料の負担を理由に相手方が期日に出席しないという事態が生じないよう、期日手数料は徴収しないことと致しました。
最終的に和解が成立するか、仲裁判断がなされた場合には、成立手数料として、原則として、解決額に応じて計算した成功手数料(例、300万円の場合の成立手数料は18万円となります。)を紛争当事者双方に半額ずつ納付してもらうことにしております。
なお、和解あっせんが不調に終わった場合には、原則として、申立手数料以外の費用はかかりません。
5 仲裁人・専門員
紛争解決センターの和解あっせん及び仲裁を担当する仲裁人は、原則として、弁護士経験5年以上の弁護士の中から選任された仲裁人候補者の中から、紛争解決センターが選任することとしております。但し、当事者が合意すれば、当事者が選任した仲裁人が手続を主宰することとなります。
仲裁人の公正さの確保等のため、当事者と利害関係がある場合の解任の手続や守秘義務の規定等を置いております。
専門的知識を要する事件については、仲裁人だけで対応することは困難であろうと思われますので、そのような事案に対応するため、仲裁人を補佐する専門委員制度を設けております。
他会の仲裁センターでは、税理士、建築士、土地家屋調査士等の専門職の方々の協力を得て、的確な解決が図れているとのことですし、名古屋では、カウンセラーや医師にも専門委員として協力してもらっているとのことでした。
専門委員として様々な専門職の方々に協力して頂けることが、当紛争解決センターの成功への1つの課題であると考えておりますし、各種専門職の方々のご協力が得られれば、いわゆるワンストップ型のリーガルサービスの提供が可能となるのではないかと考えております。
6 その他
現行の法制度では、紛争解決センターへの申立は消滅時効の中断事由とはなりませんので、消滅時効が迫っているような事案については、何らかの時効中断の手続をとることが別途必要になりますので、ご注意下さい。
7 最後に。会員各位へのお願い
平成一三年度版の仲裁統計年報によれば、平成一三年度の全国の仲裁センターへの申立件数は九三〇件、解決に至った件数は三六九件(旧受事件・七七件、新受事件・二九二件)となっております。
しかし、司法制度改革の流れの中で、ADRが紛争解決機関として重要な役割を担わなければならないことは明らかですし、隣接他業士や各種業界団体にもADR設立の動きが具体化してきていることも事実です。
このような状況の中で、弁護士会以外で設立されるADRにおいて、不適切な解決がなされないよう監視していくことも弁護士・弁護士会の重要な役割ですが、何よりも、弁護士会が運営しているADRが、市民の紛争解決機関としての役割を十分に果たし、手軽で信頼できる機関として市民に認識されることが重要ではないかと考えております。
紛争解決センターが成功するか否かは、仲裁人候補者にいかに優秀な弁護士を揃えることができるか、また、会員の弁護士がこの制度をいかに有効に活用するかにかかっていると思います。会員各位のご協力を心よりお願い致します。
付添人マニュアル」発刊される!+NHK出版「非行少年と弁護士たちの挑戦」発刊へ
池田耕一郎
1 「付添人マニュアル」発刊
子どもの権利委員会の研修・広報担当としてご報告いたします!!
ついに,福岡県弁護士会子どもの権利委員会が総力を結集して編集した「少年事件付添人マニュアル〜少年のパートナーとして」が日本評論社より発刊されました。
思えば,このマニュアルの企画ができたのが,県弁春山執行部時代の平成12年のことでした。以来,2年を超える歳月を経て,ついに完成へとこぎ着けたのです。
編集長・古賀克重委員におかれては,よくぞ重責を果たされたものと敬服いたします。
この「付添人マニュアル」は,時系列に沿って付添人活動をQ&A形式で説明するほか,「共犯事件」,「共同危険行為」,「シンナー」,「ぐ犯」など,事件類型ごとのマニュアル,すぐに使える書式集,少年法改正のポイントなどふんだんに織り込まれ,かなり欲張った内容になっています。これまでの付添人活動に関するマニュアルと比較し,実際の活動に直ちに役立つ,より実務的なものを目指しています。おそらく,今後しばらくは本書を超えるマニュアルは現れないでしょう。
福岡県弁護士会会員の皆様には,日頃,当番付添人制度へのご理解・ご協力を賜っていることに対する感謝の意を込めて,特別に無料配布させていただきました(定価は,税別2000円です。)。会員の皆様の付添人活動の一助にしていただければ幸いです。なお,本書は福岡県弁護士協同組合をはじめとする各弁護士協同組合において購入可能です。修習生,他の地域の弁護士にも購入をお勧めくださいますようお願いします。
これを読めば,付添人活動をやりたくてやりたくてたまらなくなること,間違いなし!
2 NHK出版「非行少年と弁護士たちの挑戦」発刊へ
さらに,本年11月には,一般市民向けに福岡県弁護士会子どもの権利委員会編著・「非行少年と弁護士たちの挑戦」と題する書籍が,NHK出版より発刊されます。
この刊行物は新書版サイズで,編集者の言葉を借りれば,「書斎で読むのではなく,お茶の間で気楽に読める本」を目指すことになります。コンセプトは,子を持つお父さん,お母さん,そして,子ども自身を読者対象として,少年事件・少年審判とは何か,「付添人」は,その過程においていかなる役割を果たすのかをわかりやすく伝えるというものです。制作にあたっては,当会会員から心に残る付添人活動の実例を広く募集すると共に,注目される付添人活動の事例については,委員会のほうから付添人をされた会員に執筆をお願いするなどして,珠玉の論稿を集めることができました。本書は,それら実例に基づくドキュメンタリー部分のほか,大谷辰雄委員長の(徹夜に近い)執筆による少年事件原因論,全件付添人制度の意義及び国選付添人制度実現に向けての取組みに関する論稿を総論部分として収め,2部構成となっています。本年11月の発刊を目標として,本書編集担当の森裕美子委員を中心に鋭意編集作業を進めています。
本書の出版によって,当会が進めてきた全件付添人制度がより広く市民に認知され,念願の「国選付添人制度」実現へと大きく近づくことを祈っています。
本書が,福岡のみならず,全国の書店の店頭に山積みされ,ベストセラーになることを楽しみにお待ちください。
釜山地方弁護士会交流記
山内良輝
平成14年9月8日から10日までの3日間,当会の執行部と国際委員会の代表団が大韓民国釜山市を訪問しました。当会と釜山地方弁護士会との間では,毎年,相互に公式交流が行われており,本訪問もかかる公式交流の一環として行われました。当会執行部からは,藤井克巳会長,山本一行担当副会長ら7名,当会国際委員会からは,大塚芳典委員長,安武雄一郎副委員長ら4名,そして公式交流会の報告者を務める前田豊会員という総勢12名(ほかに日本側通訳1名が同行)が参加しました。
訪問初日,当訪問団は,午後1時50分発の大韓航空機で福岡空港を出発し,午後2時50分に釜山空港に到着しました。福岡と釜山との距離は,福岡と鹿児島との距離とほぼ同じであり,実際の飛行時間は,対馬海峡(韓国では大韓海峡と呼ばれているそうです)を一跨ぎのわずか3〜40分にすぎません。夕方,釜山のリゾートホテルで夕食会が開かれ,全面ガラス張りの壁を通して日本海(韓国では東海と呼ばれているそうです)の絶景を一望できる会食場で,美味しいカルビを頂きました。
2日目の午前中は,国連記念公園と釜山市立博物館を見学しました。記念公園は,朝鮮戦争で戦死した国連軍兵士を慰霊するものであり,市立博物館は,主に日韓関係史にまつわる文物を展示したものです。記念公園では,アメリカ・カナダなど国連軍参加国の国旗が掲揚され,国旗の下に多数の戦没者の墓石が建てられている一方,朝鮮特需に沸いていた日本の国旗と墓石は一つもなかったのが印象的でした。また,市立博物館では,朝鮮半島の文明の黎明期や,数世紀にわたる半島諸国と日本との親交期の展示品ばかりでなく,豊臣秀吉の朝鮮出征や日帝38年に関する展示品も数多くありました。午後になり,釜山地方法院で刑事法廷を傍聴しましたが,検察官が裁判官と同じように法服を着ている点や,被告人が片手錠のまま傍聴席に着座して審理を受ける点などで日本の法廷との違いが見られました。
そして,午後4時10分から午後5時30分までの2時間20分にわたり,本訪問の目的である公式交流会が釜山地方弁護士会館で開かれ,当訪問団12名と孫済ト会長ら韓国側14名との間で意見交換が行われました。今回の公式交流の議題は,「最新の日本司法改革事情」です。前田会員が,過去の司法改革の経緯を踏まえて,今回の司法制度改革審議会の意見書とこれに基づく国の司法制度改革推進計画を説明し,さらに国の方針の問題点と日弁連の取組み等を説明しました。これを受けて韓国側から質問や意見が相次ぎましたが,韓国でも,日本とは背景事情が異なりますが,つい最近までロースクール問題の可否が議論されていたことがあり,もっぱらロースクール問題に関心があるようでした。公式交流会の終了後,繁華街の韓定食料亭で懇親会が開かれ,酒を酌み交わしつつ楽しい時間を過ごしました。夜も更けて懇親会がお開きとなり,当訪問団はホテルに帰るバスに乗り込み,韓国側との間でお互い手を振って別れを惜しみましたが,よく見ると,南谷洋至会員と成瀬裕会員が韓国側の一群に混じり,にこやかに手を振って当訪問団のバスを見送っているではありませんか。どうやら,両会員は,独自に韓国側と懇親を深める意気込みのようです。
3日目,ある会員(名前は申しますまい)がパスポートをホテルに置き忘れるという椿事もありましたが,「昨日の記憶がない。」という二会員(名前は申\しますまい)も顔を揃えて全員が無事に帰国しました。
「近くて遠い国」・・・韓国はこのような言葉で語られます。私は初めて韓国を訪問し,短い旅程の間にも,海峡と海の名称問題や記念公園と市立博物館の見学を通じて,日韓の緊張関係を意識せざるを得ないような事実を垣間見ました。しかし,釜山地方弁護士会が誠意をもって当訪問団を歓待してくださったことには感謝の気持ちで一杯ですし,このような前向きの関係が継続していることをたいへん誇らしく思いました。今年10月の九弁連大会には釜山地方弁護士会の代表団が参加します。次はわれわれの番です。
法律事務所のIT化について
田中雅敏
私の事務所は、私が入った当初から、全員にパソコン端末がありLANがつながっていると言う状況でしたし、私自身、小学校のころ、富士通のFM−7というコンピュータを買ってもらい、パソ\コンと慣れ親しんでいた(「オタク」ではなかった、と思いたい)ため、仕事にパソコンを使うと言うのは、当然の流れだったように思います。
それでも、やはり、ここ10年程度のコンピュータを取り巻く環境の変化とインフラ整備の速度の速さには目を見張るものがあります。
事務所内での連絡はすべてメールで行いますので、簡単に保存することもできます。
また、作成した文書などは、保存しておき、後日類似の事件がおきたときに検索して探し出し、書式の雛形として使用することもできます。
依頼者との文書のやり取りなども、メールで行えば、時間や量を気にせずいつでも送付することができます。依頼者から来た文書に手直しをして、それを修正案として、直ちに返送することもできます。
最近では、内容証明郵便もインターネットを使って事務所にいながらにして出すことができるようになりましたので、夜中に事務員が中央郵便局までダッシュするということも少なくなりました。
これら以外にも、「計算機」としての本来(?)の用途である、利息制限法引きなおし計算、破産や管財事件処理の際の各種の表の作成などは、データを入力して一発計算ができ、修正も簡単というのは、本当にありがたいと感じる瞬間です。
それらにもまして、情報収集のツールとしてのパソコンの威力は計り知れないものがあると思います。
最近では、各種会社情報、各種統計情報などがインターネットで簡単に検索できますし、中古車の値段から、土地の路線価、過去の新聞記事、官報記載情報の検索、各種行政庁の通達の確認などもインターネットですべてできますし、最新の判例や、判例時報、判例タイムズなどに掲載されない知的財産関係の最新判例なども、最高裁判所のホームページで簡単に調べることができます。
まさに、事務所にいながらにして一次調査はほとんどできると言っても過言ではない状態だと思います。
さて、このように便利になる一方のITではありますが、便利さは常に危険と隣り合わせであることも忘れてはなりません。
IT化の危険性の代表例は、コンピュータウイルスでしょう。これに感染することにより、パソ\コンの動きが止まったり、大切なデータが消えたり、最悪の場合パソコンが壊れたりという事態を招きます。
また、最近では、感染したパソコンが、自動的に自分のパソ\コン内のアドレス帳に記載されているアドレスに無差別にウイルスを再送信してしまう機能を持ったウイルスも発見されているようです。
こうなると、自分が被害者であると同時に、加害者にもなってしまうことになります。
このようなウイルスに対しては、ウイルス対策ソフトを導入するとか、欠陥システムであるとも言われるマイクロソ\フト社の製品を使わないと言った対応をとるのが一般的なようです。
もうひとつ、弁護士事務所として考えておかなければならないことは、悪意の攻撃からどうやって身を守るかと言うことでしょう。
弁護士に対しては、相手方や、依頼者などから、逆恨みを理由とする嫌がらせがなされることが皆無ではありません。
その中で、ちょっとコンピュータの知識のあるものであれば、いろいろな嫌がらせをすることができます。コンピュータウイルスを送りつけるなどは当然として、メール爆弾を送る(大容量のメールで受信し始めるとコンピュータの動きが止まってしまう)とか、パスワードを解析して弁護士本人になりすましてメールを送信し、他人を誹謗中傷するとか、クレジットカードの番号を調べて、インターネットの高額アダルトサイトに登録するというようなことも考えられるでしょう。
さらに、進んで、常時接続しているようなところに対しては、インターネット経由でLANの中に入り込み、データを抹消、改ざんするとか、データを盗み出すと言うようなことも理論上は十分に可能\です。
もうひとつ心配なのは、盗聴ならぬ、メールの「盗み見」です。
メールは、インターネットといういわば準公共の空間を使って転送されるため、知識と機会があれば、他人間でやり取りされるメールを盗み見ることは十分可能\です。警察などの捜査機関がこれを行うことも十分に考えられますし、民事事件の関係者からもこのようなことが行われないという確証はありません。
こうして考えてみると、現在のIT化は、利便性が優先され、セキュリティの面は立ち遅れていると言わざるを得ないものだろうと思います。
これらに対する対応策として、技術的な方策はいくつもありますが、結局のところ、万全のものはありません。
残念ながら、もっとも確実な対策は、本当に重要なデータの取り扱いや通信は、インターネットなどとは無関係に行うしかないのが現状でしょう。
そういう意味では、弁護士事務所のIT化は事務の効率化からいえば非常に重要とはいえますが、一方で、本当に大事なものはパソコンやインターネットから隔離するという「セキュリティ」もまた、常に同時に意識しておかなければならないと思います。
ネット中毒
事務局 江島真由美
私はネット中毒である。
日々の生活のかなりの部分はインターネットと共にある私だが、その中毒症状の中でも特に思い出深いものは次のようなものだ。
1.某ドラマの虜
3年前の4月、私は某テレビドラマの虜になった。それまで純朴な役が多かった某男性アイドルが冷血で復讐に燃える男をハードボイルドに演じており、私はすっかりイカレてしまった。通勤中も仕事中も食事中もその主人公のことで頭が一杯になってしまったのである。そのうち、「もっとコアでレアな情報が欲しい!」という深い深い欲求にかられるようになり、行き着いた先が「インターネット」であった。
これが、私がネットと出会ったきっかけである。私はボーナス2回払でパソコンを即購入し、プロバイダと契約、猛スピードでネットができる環境を整えた。
それから中毒になるまで時間はかからなかった。公式サイト、監督・ファンサイトに入り浸る。他のファンや監督らと深夜まで熱く意見交換する日々が続き、最終回を迎えた夜には、私は完全に燃え尽き、ただ呆然とパソコンの前に座るのみだった…。
2.母が病に
ドラマが終了して1ヶ月も経たない頃、母が入院することになった。
母の病はかなり厳しく難しいもので、かつ担当医師が高圧的で患者と家族を更なる不安に陥れるような物言いをする人物であったため、母と家族は絶望のどん底に突き落とされてしまった。
私は、ネットで母の病に関する情報を調べ始めた。そんな医師には聞きたいことも聞きづらかったし、自分でも出来うる限り情報を集めたかったからである。医療機関・機能性食品情報・患者やその家族などのサイトに毎日毎日アクセスした。情報は溢れるほど存在するので、どの情報が有用か、信憑性があるのかは自分で判断するしかない。しかし、こうすることで多少なりとも不安や疑問を解消していくことができたのである。特に患者やその家族のサイトでは、同じ境遇の人々と率直に悩みを語り合うことができ、どんなに救われたかしれない。
母は天国に召されてしまったが、この経験は貴重な財産になったと思っている。
3.私をW杯に連れてって!
私は数年来の「中田英寿マニア」である。彼の「nakata.net」にアクセスすることが最低限の日課だ。そんな私は今年のサッカーW杯に開幕前からスブスブとはまりこんだ。だが彼だけを観ていたわけではない。悲観的評価も多かった今回のW杯だが、私は(ミーハーにだけど)存在そのものに酔った。ああ字数が足りない、詳しく書けないのが口惜しいが、とにかく再びネット三昧となってしまったのである。これに深夜のスポーツ番組までチェックをするものだから、決勝終了後カフーがカーンに歩みよっていくのを見てジーンときていた眼の下には、寝不足で青黒くなったクマができていた…。
W杯をきっかけに私は単なる中田マニアからワールドサッカーマニア(初心者だけど)へと変貌を遂げた。現在「お気に入り」には関連サイトがずらりと並ぶ。毎晩「nakata.net」とこれらのサイトをチェックしないともはや眠れない体質となってしまったようである。
皆さんはどんなネット生活を送られているだろうか。私などよりかなり進行した中毒の方もおられるだろう。当会のHPもそんな中毒者が出るくらい充実して面白いものになれば、HP担当職員として本望だなあ、とつれづれ考えている次第である。
2002年9月 1日
ADRの可能性について 〜レビン小林久子氏をお招きして〜
石橋英之
さる7月15日、福岡県弁護士会館にレビン小林久子氏をお招きし、ADRについての講演を行って頂きました。
レビン氏は、群馬県のご出身で、ニューヨーク大学院、ロングアイランド大学院をご卒業後、ニューヨーク州立ブルックリン調停センターにおいてボランティアとして調停活動に携わられた後、九州大学大学院法学研究院助教授の職に就いておられます。また、全国各地の弁護士会が設立しております仲裁センターの設立や運営等に重要な役割を果たしてこられ、特に岡山県弁護士会が行っている同席調停の指導者としても著名な方です。
当日は、台風の影響があったにもかかわらず、約40名の会員の方々に参加して頂いたうえ、講演終了後の熱心な質疑応答で大幅に終了時間が遅れるなど、司法改革の一つの柱とされているADRに対する会員の関心の高さが窺われました。
レビン氏の講演の内容を正確に紹介することは、筆者の能力を超えておりますので、その概要をご報告させて頂きます。
1 アメリカの紛争観
1920年代、紛争とは何かという問題提起に対し、ホールディングが、紛争や当事者の定義付けを行い、その後、フォン・ノイマンやジョン・ナッシュという経済学者らによって「ゲーム理論」(人は、ミニマムな出費によってマキシマムな結果を得ようとする)が提唱された。その後、カール・リーインやモートン・ドイシェという社会心理学者らによってフレイミング効果という考え方が提唱された。それは、紛争の過程においては、競争的部分だけではなく、協調的部分も存在するのであるから、紛争当事者が、紛争の最初に遡って経過を辿りながら、主体的に話し合いを行うことによって紛争解決の方法を見いだしていくというものであり、現在のアメリカの調停の理論的基礎となっている。
2 アメリカにおける裁判外紛争解決処理方法(ADR)の種類
アメリカにおけるADRとしては、仲裁、略式陪審審理(サマリー・ジューリー・トライアル)、ミニ・トライアル、オンブズマン、ファクト・ファインディング、早期中立評価、調停、交渉等がある。
当事者に対する拘束力については、仲裁が最も強く、以下、右に記載した順に拘束力が弱くなる。当事者の手続に対するコントロールについては、交渉が最も強く、以下、右に記載した順序とは逆に、仲裁が最も弱くなっている。ADRは協議の裁判に取って替わるものとしてではなく、紛争に応じた解決策としてとらえられている。
3 アメリカの調停
アメリカの調停センターが行っている調停は、ウイン−ウイン・リゾルーションという呼び方に具現されるように、紛争当事者が双方とも満足するような解決策を得ることを目的としている。
調停委員は、28時間の講義を受けたのちシニアの調停委員の下で10時間の訓練を受け、ソロでの実地試験をパスした者のみが資格を取得できる。
調停センターが行う調停はボランティアであり、調停委員の資格を取得した後も、年間最低6時間の講義と、調停の視察を受けなければならない。
調停の目的は、紛争を解決することではなく、当事者の紛争解決へ向けての話し合いによる関係修復が目的であり、紛争解決に向けたプロセスが重要である。そのため、同席調停が基本であり(刑事事件の加害者と被害者についても同席調停が行われているとのことである)、調停委員が当事者から個別に事情を聴くことがあるとしても極めて短時間である。調停委員は、当事者の話し合いがうまくいくようにコントロールするのであって、自らの意見を当事者に押しつけたりするようなことは絶対にない。
調停では、当事者が本音で話し合えるよう、調停の中で話し合われたことについては、調停委員に守秘義務が課されている。従って、たとえ調停委員が法廷に証人として呼ばれたとしても、調停委員は調停の内容について証言を拒否することができるし、証言することもない。また、裁判所から調停センターに送られてきたケースにおいても、調停の結果(成立したか否か)のみを報告すれば足り、調停の経過等についての報告義務は課せられていない。
他方、調停の結果合意が成立したとしても、あくまでも、私的な合意であり、日本の調停調書のような法的な執行力が付与されることはない。
4 まとめ
レビン氏の講演は、この他にもインターネット上の紛争解決機関である「クリックンセトル」や「オンライン紛争解決手続き・ODR」等多岐にわたっておりましたが、紙面の関係上割愛させて頂きます(アメリカ法はもちろんのこと、コンピューターも横文字も苦手な私にとっては、講演の内容を正確にお伝えできないというのが本音です。申し訳ありません。)
レビン氏の話を聞いて、アメリカの調停制度と日本の調停制度とは全く別のものであると判りましたし、紛争解決機関のあり方についても大変勉強になりました。
これまで弁護士として紛争解決の仕事に携わってきましたが、依頼者の紛争解決にあたっては、相手方と交渉を行い、交渉がまとまらなければ調停や訴訟で解決目指すという方法をとってきましたし、その結果、当事者間の関係が悪化するとしても、それは仕方のないことであると思っておりました。
ただ、当事者間の紛争解決といっても、紛争の解決を最終目的とするのではなく、紛争解決へ向けて、当事者が話し合いを行い、お互いの関係の修復を目指すというのも、極めて重要な紛争解決方法であると思いました。
紛争後も接触を余儀なくされる、家族や隣人あるいは職場での紛争においては、白黒つけることを目的とした解決機関ではなく、アメリカの調停制度のような関係修復を目的とした解決機関を利用できれば、結果的に妥当な解決に向かうのではないかと思いました。
現在、当委員会では、紛争解決センターの設立に向けて、岡山県弁護士会が実施しております同席調停を行うか否か等様々な検討を行っておりますが、単に裁判所の調停の機能不全を補完するものとしてではなく、独自の存在意義のあるものとして設立できればとの思いを新たに致しました。
『ゲートキーパー』問題に関する緊急講演会
田村雅樹
1 去る7月29日午後6時から、福岡県弁護士会館3階ホールで「『ゲートキーパー』問題に関する緊急講演会」が開催されました。
当日は、講師として、この問題に関して、日弁連で一番詳しく、正確な情報を有しておられる「日弁連組織犯罪対策立法ワーキンググループ」事務局長吉峰康博弁護士をお招きして、質疑応答を含めて、約2時間講演していただきました。
2 ゲート・キーパー問題とは、国際組織犯罪対策としてのマネー・ロンダリング規制と密接な関連があり、従来的なマネー・ロンダリング規制のループホール(抜け穴)を塞ぐために、金融システムのゲート・キーパー(門番)ともいうべき弁護士、会計士等の専門職に対し、その顧客が「疑わしい取引」を行っていることを知ったときには報告義務を課そうとする問題です。
このような「疑わしい取引」の報告義務を弁護士に課すことは、弁護士が有する職務上の守秘義務との関係で重大な問題があり、弁護活動に深刻な影響を及ぼすものです。
3 しかし、国際的には、ゲート・キーパー問題について、無視できない動きがあります。
1999年10月にモスクワでG8各国の司法・内閣官僚が出席し、「国際組織犯罪対策G8閣僚級会合」が開かれ、ここで発表された「モスクワ・コミュニケ」では、弁護士、会計士といった国際金融システムの「門番(ゲート・キーパー)」によるマネー・ロンダリングへの種々の対処方法を検討するよう各国政府に求めています。
また、FATF(金融活動作業部会、1989年アルシュ・サミット宣言を受けて設立された政府間組織で、マネー・ロンダリングに関する包括的な検討等を行う作業部会)は、2003年6月には、これまでの40の勧告(マネー・ロンダリング対策のために法執行、刑事法制及び金融規制の各分野で各国が採るべき措置をまとめたもの)の改正案をとりまとめる予定で、その中で弁護士の「疑わしい取引」の報告義務についても結論を出す予\定です。
このような、国際的な流れをうけ、実際に各国で立法化が進んでいます。イギリス、スイスでは、すでに「疑わしい取引」に関する報告義務が課されていましたが、近年では2000年7月にカナダでも弁護士に「マネー・ロンダリングの疑いのある取引」に関する報告義務を課す内容の立法が成立し(ただし、カナダの弁護士会が憲法訴訟をして、法の執行が一時停止している)、2001年12月にはEUでも同様の取引について弁護士等の専門職に報告義務を課す内容のEU指令が採択され、今後EU各国はこれに従い立法化の義務を負います。
4 国際的に、弁護士に「疑わしい取引」についての報告義務を課す立法化が進んでいる中、日弁連は、2002年1月19日、ゲート・キーパー問題に対する意見を採択し、その中で、マネー・ロンダリング対策の必要性は認めつつも、法律で弁護士に対して疑わしい取引の報告義務を課すことに明確に反対しました。
今後は、FATFが前述した従来の40の勧告の改正のために、改正の方向を示した照会書に対する意見を8月末日締め切りで求めているほか、10月には日弁連など民間関連団体から直接意見聴取の機会を持つ予定となっています。日弁連の意見聴取は本件の帰趨を決める重要な会議となるもので、現在、この問題は、非常に緊迫した状況にあります。
5 ゲート・キーパー問題は、私選の刑事事件を受任して被疑者・被告人から弁護報酬を受け取ること、また依頼者の求めに応じて国際取引又は国際取引に関与し送金その他金銭のやりとりをすることも、そこに犯罪収益がかかわっていれば問題となりうる、という点で弁護士にとって意外に身近な問題です。
FATFは、弁護士に対して「顧客の確認」「疑わしい取引の報告」「報告したことを依頼者に内報することの禁止」を義務付けるだけでなく、処罰を科すことによって強制する立法を求めています。弁護士業務の基礎にある「依頼者からの秘密情報の取得とその共有」を根底から覆し、破壊し、弁護士業務が成立しないことになる極めて危険な法制が着々と準備されている状況です。
われわれ弁護士にとって、身近であり、かつ業務の根幹を揺るがしかねない重大な問題をはらむゲート・キーパー問題について、今回の講演会を契機に、福岡県弁護士会においても、各会員がしっかりとした認識を持ち,十分な議論をする必要があります。
第二東京弁護士会 仲裁センター合宿参加記
大神昌憲
1 標記の合宿が、平成14年7月13,14日の両日、箱根湯本の「ホテルおくゆもと」にて開催され、当会からは、ADR委員会に所属する筆者と永田一志委員並びに犯罪被害者支援に関する委員会に所属する北村哲委員が参加しました。
2 初日は、弁護士以外の専門家が事件解決に関与した事例が2例紹介されました。
初めは第二東京弁護士会仲裁センターの事例で、夫婦間調整の事案にカウンセラーが関与したものでした。
この事案の家族構成は、50代の夫婦に、高3の長男、高1の長女、中1の二女というもので、専業主婦である妻が娘2人を連れて別居を強行し、会社人間である夫が復縁を希望して第二東京弁護士会仲裁センターに夫婦間調整の仲裁を申\し立てたというものでした。
妻が別居を強行した背景としては、妻が子どもを細かく管理していたため、長男が妻に反抗し、家庭内暴力を振るうに至った(不登校と成績悪化も)。ところが、夫は建築関係の会社に勤務する仕事一遍道の会社人間であったため、家庭内の問題にうまく対処できず、妻の悩みにうまく対応できなかったことにあるようでした。
夫から相談を受けた申立代理人の弁護士は、夫婦間のみならず、親子間の調整も必要だと考え、カウンセラーの役割に期待して、第二東京弁護士会仲裁センターに対する仲裁申\立を選択されたとのことでした。
この仲裁は、12回もの期日を重ねた甲斐なく取り下げで終了していますが(カウンセリングは13回)、申立人に対するカウンセリングを中心に、相手方や長男に対してもカウンセリングが実施され(取り下げ後も申\立人が4回カウンセリングを受けています)、親子間の調整は無事に図られた、また夫婦間についても関係修復のきざしを得ることができたとの報告を受けました。
なお、この事案でカウンセリングを行ったカウンセラーは、FPIC(社団法人家庭問題情報センター)という元家庭裁判所調査官の方々で構成されている団体に所属している方で、FPICは福岡市内にも相談室を展開しているとのことでした。
3 次は、名古屋弁護士会仲裁センターの事例で、建築紛争の事案に1級建築士が関与したものでした。
この事案の内容は、申立人が相手方工務店に既存建物の解体工事と移転先の新居の新築工事を発注したところ、申\立人は、相手方工務店の工事着手、進行の遅れ、工事代金の先行支払い、工事出来高の説明不足等の事情により相手方工務店に不信を抱くに至り、相手方工務店も申立人からの度々の仕様変更要求、解体材の使用を理由とする請負代金減額要求等から態度を硬化させ、双方は工事中止を合意、その結果、工事代金の精算問題と相手方工務店が保管中の旧建物解体材の処理問題が生じ、申\立人個人が名古屋弁護士会仲裁センターに仲裁の申立をしたというものでした(申\立日平成13年4月13日)。
仲裁センターは、まずは弁護士の仲裁人を選任しましたが、工事出来高の調査依頼が申立内容に含まれていたため、1級建築士を仲裁人に追加選任したとのことでした。
第1回の期日は、平成13年5月16日に実施されましたが、その翌日には1級建築士の仲裁人が現地調査に赴き、調査を実施した結果、新築工事の出来高は既払代金にまでは達していないこと、既存建物の解体状況は基礎部分が残存し完了とは評価できないとの判断が下されました。
相手方工務店は、申立人に対し、不足代金381万円及び解体材処理費用50万円合計431万円の請求をしていましたが、上記見解を基に説得を受け、申\立人が相手方工務店に200万円を支払うことで解決したとのことでした(解決は平成13年6月25日に実施された第5回期日)。
1級建築士の見解によると、申立人が相手方工務店に対し金員を支払う必要はないのですが、申\立人は早期に解決して新築中の建物を完成させたいという意向が強く、代理人弁護士が就いた後もその意向は変わらなかったとのことでした。
第1回期日から1か月余り、申立日からも2か月余りで解決というスピード解決の事例紹介でした。
4 2日目は、仲裁法やADR基本法の立法作業状況についての報告、討議、並びに各地の仲裁センターの取り組みについての報告を受けました。
ADR基本法について言えば、時効中断効と執行力を付与することに賛成の議論と反対の議論がなされていました。
賛成の根拠としては、ADRで審理中に時効が完成してしまうのは不都合であること、執行力が認められないと執行力を取得するために結局裁判所等を利用せざるを得ず簡易迅速な解決とは言えないこと等が挙げられていました。
反対の根拠としては、法的効果を付与するとなるとADRへ国家が規制を施すことになり私的で自律的な紛争解決というADRの理念、特徴を害することになること、ADRでは早期に執行の問題を残さず解決することが多いので時効中断効や執行力を付与する必要に乏しく、その必要があれば裁判所を利用すればよいこと等が挙げられていました。
5 1日目、2日目を通じて、特に第二東京弁護士会の萩原、波多野、原後の各先生方(失礼ながらかなりのご年輩です)が実に活発でユニークな議論を展開されていましたが、懇親会の席上、「二弁にはブラジルの3Rならぬ3Hがいる」との発言も出、一同爆笑した次第でした。
各地の参加者からは、「あの福岡県弁護士会にまだ仲裁センターがないとは知らなかった。何故ないの?」と聞かれる始末で、お尻を叩かれて帰ってきました。
各地先達のお話は、要は、我々弁護士が利用しやすい紛争解決機関を自ら持つことのすばらしさということに尽きると思います。
当会でも、年内に紛争解決センターを立ち上げるべく、当委員会で検討中ですが、会員の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。