福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

犯罪被害者支援研修

恒川 元志

弁護士登録して1か月ほど経った11月12日、われわれ新入会員弁護士は弁護士会館3階ホールにおいて犯罪被害者支援研修を受講しました。一昔前には犯罪被害者は刑事訴訟において忘れられた当事者とまでいわれておりましたが、現在においては被害者保護に関する法令の整備も少しずつ進んでいるところです。ということで近年注目の分野の1つであると思いますので、気を引き締めて研修に参加させていただきました。

今回の研修で配布された資料の中に、西日本新聞の見開き1枚の大きなカラーコピーがありました。おぉ、よく見ると何枚かのコピーを糊付けしてつなぎ合わせてあるではないですか。私はその内容のわかりやすさもさることながら、まずは関係者の方々の研修資料作成の努力に感動してしまいました(事務所には内緒ですが、時間を間違えて30分早く会場に到着してしまいましたので、じっくり目を通させていただきました)。

研修が始まると、まずは福岡県警本部犯罪被害者対策係主任で臨床心理士の加藤友香さんから、県警の犯罪被害者相談電話受付をする「ミズリリーフライン」の説明と、そこによく相談があるドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者を中心とした説明がありました。加藤さんには検察修習中にもお話を聞く機会があり、近年の流れから市民の味方の県警としても力を入れられておられるのだと思いました

次に、郷田真樹先生から、犯罪被害者支援の一般的な注意点と、被害者の代理人となった場合の刑事・民事事件での役割、加害者の弁護人・代理人の役割について丁寧な説明がありました。また、具体的な用例を挙げて、被害者の意思を尊重せずに援助者個人の価値観を押しつけるだとか、被害者の側に落ち度があると責めるだとかの悪い対応例も紹介いただきました。

最後に、特定非営利活動法人福岡犯罪被害者支援センター理事長の内川昭司先生から同法人の概要等について説明がありました。同センターは弁護士だけでなく、医師、臨床心理士、社会福祉士、大学研究者等の専門職の方々と、専門的研修を受けた市民ボランティアの方々で成り立っているとのことでした。また、実際の事件で遺族の方が書かれた文章を紹介いただきましたが、そこには遺族の心境や事件後の環境変化、家族が立ち直るまでの過程等、リアルに描かれており、犯罪被害者支援の重要性とその困難さを改めて認識する事ができたように思います。

その後、質疑応答の時間がもうけられ、われわれ新入会員の質問に対し、途中から参加された萬年先生らが豊富な経験を踏まえられた的確な回答をされていました。 これまでの私にとって犯罪被害者保護といっても机上の空論でしかなかったのですが(本稿執筆段階でも未だ扱ったことはないですが・・・)、今回の研修を通して、犯罪被害者が受ける具体的な被害を考えることができたと思います。研修の途中まで、犯罪被害者支援委員会とミズリリーフラインとの関係は?犯罪被害者支援センターとの関係は?などと、実際自分がどのようにこの分野に携わっていくのか疑問だらけでしたが、研修が終わり、懇親会を経てなんとか研修を受けたといえる程度までには理解できました。

法曹関係者以外の方から、どうして悪者の見方をするのかという質問をよく受けますが、それに対する誤解を解くとともに、被告人だけでなく被害者の支援もしているのだということをもっとアピールしていくことも大切なのではないかと思いました。これからは今回の研修で学んだことを生かして、犯罪被害者の支援に貢献したいと思います。

最後になりましたが、お忙しい中われわれ新入会員のために講義していただきまして、ありがとうございました。

2003年11月 1日

ITコラム 〜サルからの進化

田邊 俊

遂に、私にもITコラムの順番が回って来ました!思い起こせば、修習生になるまでは、パソコンはおろか、ワープロさえ触ったことがなかった超アナログ人間であるにもかかわらず(因みに、現在の趣味は、蓄音機でのSP鑑賞です。)、何の因果か、ホームページ委員会に所属することになり、ITに関するコラムを書いているのですから、人生、何があるか分かりません。という訳で、色々な先生方がITコラムを執筆された後に、何について書けば良いのか悩みましたが、私とパソ\コンとの付き合いは、「サルにも分かる」と銘打たれたパソコン入門本からスタートしましたので、「コンピューターを使わなくても仕事には差し支えがない。」と考えられている年輩の先生方(当然ながら、うちのボスも含まれます。)に向けて、私が、どのようにしてサルから進化したのかをご紹介したいと思います。

まず、修習生になった私は、実務修習に向けて、起案のためにパソコンを使うようになりました(ワープロとしての使用)。勿論、キーボードの使用に慣れていなかったため、悪戦苦闘の日々を過ごしましたが、「特打ち」等のタイピングソ\フトを用いながら、少しずつキーボードに慣れて行きました。この修習生時代には、メールの利用も消極的で、インターネットも、「大人のインターネット」の利用に留まっていました!その後、うちの事務所では、私の就職を機会に、遅蒔きながらワープロからパソコンへの転換が行われ、LANも整備され、情報の共有化が行われるようになりました。

そして、この段階では、複数のメーリングリストに所属するようになったため(福岡の同期、研修所のクラス、修習地など)、メールも積極的に利用するようになり(コミュニケーション手段としての利用)、今では弁護士会のメーリングリストへの加入も増え、何日か出張をすると、100通余りのメールが貯まるという状態です(もう出張にもパソコンを持ち歩かないといけません。)。

さらに、インターネットも多用するようになり(情報収集手段としての使用)、判例検索は勿論のこと、何か調べものをしたいときには、ヤフーやMSNの検索サイトを利用し(相手方の会社の住所、郵便番号などの調査も容易です。)、出張の際には、路線の確認や、電車・飛行機の予約(インターネットを利用すれば割引などの特典が満載)、ホテルの予\約(オークションサイトを使えば、半額以下の料金での宿泊も可能)に重宝しています。加えて、ネットオークションの利用も、趣味のレコードやコンサートチケットに留まらず、書籍や日常品でも、キーワードを予\め登録しさえすれば、オークション会社から出品連絡がメールで入るという便利なシステムであるため、探している物の発見が容易になりました(余談ですが、オークションを通じて同好の士と仲良くなることも多く、弁護士会の一員として釜山を訪問した際には、自由行動時間中に韓国の大学教授と会い、オタク話に花を咲かせました。)。

以上、私とコンピューターとの関わりを披露させていただきましたが、この5年間で、ワープロから通信手段、さらには、情報入手手段へと進化しており、後は、情報発信手段(Hpの作成)への発展という課題が残されているだけです。

このように、典型的な文系人間の私でも、今では、コンピューターなしの生活など考えられない程になっているのですから、パソコンに慣れていない方には、パソ\コンの利用を強くお薦めします。この点、デジタルデバイドとは、ITを使う人と使わない人との間に生じる社会的・経済的な格差を意味しますが、最近宿泊した東京のホテルでは、テレビ代わりにパソコンが装備され、ルームサービスもパソ\コンを通じて依頼するシステムが採用されており、パソコンを使用しなければ生活が出来ないという時代の到来を強く予\感した次第です。

福祉の当番弁護士発足3周年記念シンポジウム報告

吉田 知弘

初秋というのに残暑厳しい9月19日、岩田屋Zサイド夢天神ホールにおいて、福祉の当番弁護士発足3周年記念シンポジウムが開催されました。満場の聴衆に溢れた会場の様子を仰ぎ見るにつけ、この高齢者・障害者関連法務というものには強い社会的ニーズがあるのだと、改めて実感しました。

ところで、会員の皆様は、この「福祉の当番弁護士」という制度をご存知でしょうか。この制度は「専門相談者のための法律相談」とでもいうべき制度です。高齢者や障害者に関わる分野では、法的問題を含む事案でも、医療・保健・福祉等の分野に関わる行政や各種団体の実務者のところで、第一次的な把握がされることが圧倒的に多いと思われます。彼らはそれぞれの専門実務者としての立場から問題の要点を要領よく把握しているものの、法律知識に欠けるために対処方法がわからずに困っている。そこで、これを我々法律専門家に迅速に繋ぐために、専門実務者が抱える事例に関する法律相談を無料で受けられるように配慮した法律相談の仕組が「福祉の当番弁護士」なのです。この福祉の当番弁護士は、当会が全国に先駆けてスタートさせ、その後、九弁連内の各単位会で徐々に採用が進み、目下、岡山や大阪でも採用が具体的に検討されているなど、各般から強い期待が寄せられています。今回のシンポジウムは、この制度の発足3周年を記念して開催されました。

このような経緯もあって、このシンポジウムの開催にあたっては、九弁連や日弁連のみならず、福岡市・福岡県・市社協・県社協・医師会等、行政や医療保健分野の各般の共催を仰ぎました。単なる行事とはいえ、各般のご協力を賜ること自体が高齢者障害者法務にとって欠くことのできない専門実務者間の問題関心の共有と連携強化のために意義あるものと位置付けられていることをご承知いただければと思います。

さて、当日の司会進行は、当会の加茂雅也会員と原志津子会員という溌剌とした組合せで、会の円滑な進行に大いに寄与されました。最初に、福岡市保健福祉局介護保険課の古屋英明課長より「介護保険導入4年目を迎えた福岡市の取組」との題目でまとまったご報告をいただきました。

その後、基調講演として、大阪弁護士会の池田直樹先生より「『高齢の人・障害のある人の権利擁護と虐待防止』に向けて」と題して、基調講演を賜りました。池田先生は、高齢者障害者の権利擁護の活動に大変造詣が深く、虐待防止のために必要なことを抽象的にではなく、具体的な事案の中で取り得べき手段という形で事細かにご紹介いただき、その上で、虐待防止法を制定する必要性とそのための課題を分かりやすくご説明していただきました。また、各地の自治体などにおける虐待防止のための取組や対応方法のマニュアルなどもご紹介があり、参加者やパネリストからも大変な好評を得ていました。
その後、当会の宇都宮英人会員をコーディネーターとし、古賀美穂会員ほか各般から多数のパネリストをお迎えしてパネルディスカッションが催されましたが、虐待を発見した場合の通報義務と実務者に課せられる保秘義務との調整をどのようにして克服するのかが重要な問題となるという共通認識ができたように思いました。

その他、諸々、この狭いスペースで語り尽くすことはできませんが、引き続き催された懇親会を含め、大いに盛会であったことをご報告します。どうぞ、会員の皆様にも、この高齢者障害者法務の分野に対するご理解と積極的なご参加をお願いするものです。

2003年10月 1日

ヤミ金対策法成立す!!  

石田光史

第1節 先の国会において、いわゆる「ヤミ金対策法」が成立しました。この主要部分は、既に九月一日から施行されています。みなさん新聞報道等でご存じかとは思いますが、紹介と解説をさせていただきたいと思います。

第2節 ヤミ金対策法の内実は、貸金業法と出資法の改正です。内容は多岐にわたっていますが、主なところを挙げると、貸金業登録の拒否事由の追加、無登録業者の広告等の禁止、貸金業者に使用人等への従業員証明書の携帯義務を負わせたこと、出資法に定める金利違反の罰則強化などです。

第3節 しかし何と言っても本法の眼目は、契約無効規定を置いたことでしょう。貸金業法四二条の二は、次のように定めます。

貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約において、年一〇九・五%を超える割合による利息の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は無効とする。

ここで言う「貸金業を営む者」とは、登録業者に限りません。したがって、我々が日常相手をするいわゆる「ヤミ金」の契約は、利息部分だけでなく消費貸借契約全体が無効となります。

第4節 ところで、債務者がまだ元本分の返済も終えていない場合、どう処理すべきことになるのでしょうか。

この点、一部では、「元本分を返済すれば利息分は無効となる」といった報道がなされ、また某庁のホームページにはわざわざ「元本の返済義務はある」と記載されていました。会員の中にも、この点で混乱された方もおられるのではないでしょうか。

しかしこの報道・解説は明らかに誤りです。正解は、「この法律は、元本分の返済については何も言っていない」です。返せとも返さなくてもいいとも言っていない。つまり、元本分については、通常の不当利得法理によって処理されることになります。不法原因給付の適用も排除されません。衆議院法制局職員による解説も同旨です(金融法務事情一六八三号三七,三八頁)。したがって、ヤミ金による数百・数千%にも及ぶ超高利の貸付は、不法の原因によって給付されたものであり返還義務はない、としてきた従来の我々の主張に、何ら変更の必要はありません。

第5節 立法過程で、元本の返済不要も明記すべきとの意見もありましたが、今回は見送られました。この点を曲解して、立法により元本分は返済しなければならなくなったとする向きもあるようです。

しかし前述のとおりそれは誤りですし、実質的に考えても、ヤミ金「対策」立法が成立したことにより、従来我々が貫いてきた「ヤミ金に対しては一切返済しない」との原則が否定されるというのはおかしな話です。少なくとも、数百・数千%の超高利を取っている「ヤミ金」の貸付については不法原因給付に該当するとして、従来どおり一切返還しないという立場を貫くべきですし、それは全く可能であると考えます。

第6節 今回のヤミ金対策法には、物足りないとの批判もあります。その批判も解るのですが、ただ「『返済しない』という理屈は立つのか。立つとしても実際にはヤミ金とどう闘うのか。」などという議論をしていた当時(ほんの二年程度前です)からすれば、隔世の感があります。

近頃ヤミ金はだいぶおとなしくなり、数も減ったという印象があります。あと一歩です。このヤミ金対策法を活用して、ヤミ金を撲滅しましょう!

「弁護士報酬の敗訴者負担」に反対する署名3517人分集まる   

安部 千春

1 黒崎合同法律事務所では、依頼者や相談者に年賀と暑中お見舞いの「事務所だより」を発送し、31号になります。

内容の一は裁判の報告で、今回は東敦子弁護士が麻生知事に1億円の支払いを命じた県同教の裁判を、内容の一は「法律相談シリーズ」を田邊匡彦弁護士が、内容の一は政治に関するもので「有事法制三法案と日本の未来」を横光幸雄弁護士が書きました。

これだけでは面白くないので、もう一つは何か依頼者や相談者が面白く読んでくれるようなもの、例えば弁護士宅訪問や子ども時代の思いでなどを書いています。田邊匡彦弁護士の「私の双子時代」というのは評判がよかった。

田邊弁護士は一卵性双生児で2人とも弁護士です。幼稚園、小学校、中学、高校、大学と同じで、いつも比較され続け、匡彦弁護士の最大のライバルは弟だったそうです。弁護士になりたてのころはよく知らない人から声をかけられたが、今は体型が違って双子時代は終わったとまとめてありました。

弟君から「安部先生、兄が事務所ニュースは私のことを書いて面白かったといわれるが、私は読んでいませんので送って下さい」と頼まれて送った。

「事務所ニュース」は、4人の弁護士がそれぞれ書いており、今回は私が面白い記事として2003年憲法集会を書いたが、あまりこんな報告文は面白くなかった。やむなく、もう一本「行列のできる法律事務所の北村晴男弁護士、交渉のために黒崎合同法律事務所に来る」を書いた。こっちはまあまあでした。

2 今回、この事務所ニュースに「弁護士報酬の敗訴者負担」に反対する署名を同封し、返信をお願いしたところ、587人から3517人分の署名が集まりました。私が書いたお願いの文章を参考のためにお知らせします。

『私達の事務所では、筑豊じん肺訴訟や過労死認定訴訟、オンブズマン訴訟など、国や北九州市を相手にした訴訟や、新日鉄などの大企業を相手にした配転無効、出向無効の裁判をしています。

通常の訴訟では、依頼者から着手金をいただいて裁判を始めますが、これらの訴訟は手弁当で行っています。それは、依頼者に着手金を支払う資力がなく、その裁判は人権を守るために私達が弁護士としてやらなければならないと考えたからです。

これらの裁判は、勝か負けるかやってみなければわかりません。大変難しい裁判です。 筑豊じん肺訴訟では、一審では国に敗訴し、控訴審では勝訴しました。

弁護士報酬の敗訴者負担が決まれば、私達は「この裁判を私達は、勝つために必死に闘いますが、敗訴することも考えなければなりません。私達の着手金はいりませんが、敗訴したときには相手の弁護士報酬を支払わなければなりません。」と説明しなければなりません。

こんなことを説明したら、私達に弁護を頼む人がいるでしょうか。

通常の事件でも、敗訴したときには相手の弁護士報酬を支払わなければならない場合に、それでも私達に依頼する人がいるでしょうか。

弁護士報酬敗訴者負担は、結果として国民が国や県や北九州市を被告とする裁判や、医療過誤や労働裁判など被告の方が圧倒的に資力がある裁判ができにくくします。市民を裁判からしめ出すことになります。

日本弁護士連合会では反対署名に取り組んでおります。

お忙しいこととは存じますが、ご家族、友人、知人、ご親戚の方々に反対署名をしていただいて、同封の返信用封筒にて事務所までご返送下さい(できましたら8月末日を目処に)。他の方にご依頼できない方は、自分の分だけでも結構です。

ご協力お願い致します。』

2003年9月 1日

ADRの研修に参加して

松原妙子

1 ADRとは何ぞやと思われている方のために。

簡単に言うと、紛争を早期に解決するために裁判所以外で解決しようという制 度で、民間紛争解決センターのことです。

研修は、本当にびっちりと12日は午後一杯、13日も午前9時から午後1時 まで。議論の内容は、主に、今後制定されるADR法がどう規定されるべきかに ついてであり、参加者は、皆各地でADR設立、運営について活動されている方 ばかりでした。

主な問題点は、ADRに申し立てたことについて、時効中断の効果を認めるか、 成立した和解に執行力を付与するかでした。

私は、時効中断の効果を認めなければ利用価値がないと思います。

そして、そのためには、ADR制度そのものが、信頼されるものである必要が あると思います。

その後、各地からの活動報告があり、石橋先生が立派に発表されました。

福岡は、医師、建築家等各種の専門家との連携を取れる体制になっているとの 発表で、福岡が1番整備されていると各地の先生が羨ましがっておられました。

福岡は、様々な制度で先駆者の役割を果たし、且つ、その制度を円滑に活用し ていることは誇りに思って良いことだと思います。

ところで、私が今回の研修に参加して1番感動したことは、結構お年の先生方 が参加しておられ、熱心に疲れを知らずに議論されていることでした。

ADRの設立準備の時から関与され、これまで熱心に活動され、さらにこれか らの制度、体制等を良くしようと考えておられる情熱は素晴らしく、法律家は何 時までも精神を若々しくしていなければいけないと刺激を受けました。

毎日、仕事に追われる生活ではありますが、そのような生活の中でも、余力を 残し、人のため、社会のために貢献せねばと思わせられた研修でした。

最適IT度

中野

ITコラムの原稿依頼を受け,ITに詳しくもない私としては困りましたが,「ITに関する雑感でも何でも良いから」と言われ,引き受けることにしました。

このコラムでITの新活用法や裏ワザが分かるのではないかと思って読まれる方は,参考になりません。以下は全くの雑感です。

私の事務所にも数台のパソコンはあり,簡単なワープロ,表\計算,インターネット,Eメール程度はできますが,それ以上に精通はしていません。携帯電話も一応持っていますが,電話の受発信だけでメールのやりとりなどはしていません。私はITにも各人ごとに「これくらいが丁度良い」というIT度(最適IT度)があるように思うのです。

先日,北九州部会で新弁護士会館が完成したので,記念誌を作ろうということになり,記事にするため,弁護士会館のこれまでの歴史を大先輩の先生方にお聴きする機会がありました。そのとき,昭和30年頃の書面作成などの興味深い話をうかがうことができました。その当時はパソコンは勿論,複写機もありませんでしたので,写しを作成するときなどは複写紙を間に入れて手書きで作成していたとのことでした。複写機,パソ\コン,プリンターなどがなかった時代を経験された先生から見ると,ボタン一つで写しができ,簡単に修正できる文書が即座に印刷されて出てくるなどというのは全く夢の話で,その意味では革命的に便利になったが,他方,何でもコピーしたり,書面を書くにも後から修正すれば良いとして筋立てもそこそこにパソコンで打ち始め,印刷して活字になると何か出来上がったような気になって,そのまま提出してみたりというように仕事に対する「集中度」が希薄になったような気がするという趣旨の話も出ました。

私は弁護士登録前に企業に就職していたのですが,いわゆるワープロ専用機が出始めの頃で,新人の頃は上司からワープロ専用機(それも各部で2台くらいしかないので予約制でした)での書面作成を頼まれたものですが,ほとんどが手書きメモを清書するというパターンでした。パソ\コンやワープロ専用機がひとり一台時代になって,資料や文書をパソコン画面で推敲しながら考えるという執務形態に変わっていきました。パソ\コン等が出まわり,これで文書作成が楽になると思ったら,文書作成や修正が容易なので,かえって上司に何回も修正を命じられたり,上司も膨大なワープロ作成資料を見せられたりして,何がポイントなのかが分からないまま,資料・情報に埋もれてしまうことが多くなったような気がします。電子メールも便利ですが,他方,朝メールを開くとたくさんのメールが入っており,その内容をみるだけで時間がたち(しかも不必要な情報が多い),添付ファイルで取捨選択もないまま膨大な付属書類が流されてくることも多く,辟易することもあります。親指をつかっての携帯電話でのメールの頻繁なやりとりや電子メールでのチャットなどは個人的にはどうも違和感を覚えます。

このようにIT機器には功罪両面あり,また好悪もあり,やはり,各人の人生経験,仕事作法,性格などから,最適IT度には個人差があるように思います。だから,ITを駆使している方を見ても焦る必要はないと思います。ただ,「IT機器を扱ってみたが自分としてはここまでにしておく」という姿勢が大事で,初めからIT機器に近寄りもしないというのでは,最適IT度も分かりません。

「IT機器はどうも」という先生方もおられるかもしれませんが,まずトライしてみて(さしあたり弁護士会のホームページを見ることができるくらいまでは),その上で自分なりの最適IT度に落ち着くというのが良いのではないでしょうか。

2003年7月 1日

裁判員ドラマ上映会

徳田宣子

5月24日、中央市民センターにおいて、日弁連作成のドラマ「裁判員〜決めるのはあなた」の福岡上映会が開催されました。その模様をお伝えしようと思います。

当日は、集客に多少の不安はあったものの、160名を越す方々の参加がありました。私は司会をしていたため、ステージの上から会場にいらした方を見ていましたが、大学生風の人から年輩の方まで、幅広い層の市民の方々に参加していただいたという印象を受けました(残念ながら会場を満員にすることはできなかったのですが)。

さて、当日のプログラムとしては、まず今回の目玉である日弁連作成ドラマ「裁判員〜決めるのはあなた」の上映が行われました。見ていない方というのために簡単に説明しますと、嫁が姑を殺したとされる殺人被告事件において、石坂浩二扮する裁判長とともに選挙人名簿から無作為に選ばれた個性あふれる7人の裁判員が審理をしていくという内容のものです。見どころは何と言っても審理の過程です。始めは、被告人が故意に被害者を突き落としたと考えていた裁判員が議論を深めていく中で次第に考えが変わり、最後には被害者は誤って転落したにすぎず被告人は無罪であると全員一致で判断するに至ります。和製「12人の怒れる男たち」といったところでしょうか。かなり本格的な作りです。参加者の方からも大変好評で、協力いただいたアンケートでは、「裁判員1人1人の描写が深く表現されていて感動的で説得力のあるドラマだった」「予\備知識なしでも十分楽しめるし、裁判員制度についても身近に感じられると思う」といった感想が寄せられました。

ドラマの上映に続いては、福岡上映会の独自の企画として、関西学院大学の丸田隆教授に「市民が参加しやすい裁判員制について」と題する特別講演を行っていただきました。丸田教授は、法的観点から市民が利用しやすい裁判員制度と言えるためには、人数・対象事件・評議方法・評決方法などの点でどのような制度が望ましいかということや、現実的に市民が使いやすい制度と言うためには、どのような補償が必要となってくるかということなどを、流暢な関西弁に乗せて、大変わかりやすく説明してくださいました。もちろん参加者の方からの評判も大変よく、会場のあちらこちらから「わかりやすかった」という声が聞こえてきました。

最後に、船木副会長から、閉会の挨拶に代えて、「より良い制度の実現に向けて」として、裁判員制度導入にあたって、捜査の可視化が不可欠だという提案がされ、裁判員ドラマ福岡上映会が幕を閉じました。あっという間の三時間。参加された方は、時間を忘れて裁判員制度の理解を深められたのではないかと思います。

平成13年6月、司法制度改革審議会から裁判員制度を取り入れた意見書が答申され、裁判員制度の導入がいよいよ現実化しようとしていますが、正直なところ、私自身は恥ずかしながらどのような制度が導入されるのか、よくわかっていませんでした。しかし、今回の上映会を通じて少しではありますが、イメージすることができました。もちろん、これまでとは全く違う制度が導入されるのですから問題がないということはあり得ないと思います。しかし、よりよい制度にするためにできることとして、まずは1人1人が関心を持つことが何より大事なのではないかと思います。私を含めて少なくとも上映会に参加された方は裁判員制度に関心を持ち、自分なりに「理想的な制度とは?」ということを考えた1日だったのではないかと思います。

さて、裁判員ドラマ上映会は、6月27日は久留米で、また本稿執筆段階では日程は未定ですが、北九州でも開催されます。また、ご希望の方がいらしたら再度の上映会の開催も考えています。まだ裁判員ドラマをご覧になっていない方はぜひご覧頂きたいと思います。

「すべての少年に付添人を!」 公的付添人制度実現に向けたシンポジウム報告

山之口 泉

平成一五年五月三〇日、弁護士会館2階クレオにて、「すべての少年に付添人を!」−幅広い公的付添人制度実現のために−と題して、日弁連、東京三会及び法律扶助協会の共同主催による公的付添人制度実現を目指すシンポジウムが開催されましたのでご報告いたします。

シンポジウムでは、前半に東京での現在の付添人制度の実情及びケース報告が行われ、後半に少年事件に異なる立場から関わる四人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。

一 付添人制度の現状及びケース報告

まず、日弁連副会長高階貞男氏による開会の辞に続き、第二東京弁護士会の樫尾わかな弁護士が現在の付添人選任状況について報告されました。

東京家庭裁判所管内における付添人の選任状況について、観護措置決定件数総数に対する付添人選任件数の割合は平成一〇年では二三パーセントであったのに対し平成一三年には三一パーセントであり上昇傾向にはあります。しかし、計算の対象となる付添人選任件数については観護措置がとられていない場合も含んでおり観護措置決定された少年に対する付添人選任割合としてはさらに低くなるとの報告でした。

次に、法律扶助協会の専務理事である藤井範弘弁護士から付添扶助の現状について報告がありました。

付添扶助は全国五〇支部によって格差があり付添扶助が全くないという支部もあるものの、全体としては平成一三年における援助決定は二四二九件で前年度比にして四〇.七パーセント増という驚異的な数字であるとのことです。

しかし、現在の段階でも財源が限界にきておりそのために援助要件の変更を余儀なくされつつあるという問題点が指摘され、早急に公的付添人制度を実現する必要性を訴えていました。

続いて、日弁連子どもの権利委員会副委員長である羽倉佐和子弁護士から現在の公的弁護制度検討会における法曹三者の意見について報告がされました。

平成一五年二月二八日の第七回公的弁護制度検討会における法曹三者の意見についてはメールマガジン等を通じてご存知の方も多いかと思われますが要約してご説明いたします。

日弁連:公的付添人制度を実現すべきである。

最高裁事務総局:要保護性が問題となる事件については調査官がいるので付添人制度の必要性はさらに検討すべきである。他方事実認定が問題となる事件は適正な事実認定という観点から検察官関与と併せて公的付添人制度を検討すべきである。

法務省刑事局:事実認定の適正化という観点からは検察官関与のない公的付添人制度は考えにくくかつ被害者の納得も得られない。要保護性の適切な認定のためには調査官が存在する。公的付添人制度の導入については真に必要性があるか十分に検討すべきである。

その後、東京弁護士会の川村百合弁護士の司会により四名の弁護士の付添人のケース報告がなされました。

ケース報告では、非行事実に争いがなくても付添人活動により認定落ちをさせた事案や身柄解放に向けて付添人が活動した事案が報告され、川村弁護士は成人の刑事事件の九〇パーセントが自白事件であることと比較しても事実認定に争いがない少年事件についても付添人の必要性があることは明らかであると話されていました。また、要保護性のみが問題となっていても親からの虐待について調査官には話せず付添人との信頼関係のなかでようやく打ち明けたという事案、付添人が被害者との交渉や審判後にも少年の環境調整を行ったという事案などが生き生きと報告されており、まさに東京版「非行少年と弁護士たちの挑戦」といった内容で非常に勉強になりました。

二 パネルディスカッション

ここで休憩をはさんだ後、日弁連子どもの権利委員会委員の坪井節子弁護士のコーディネートにより、4人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。

まず学者としての立場から九州大学大学院法学研究院助教授の武内謙治氏より、付添人選任率の現状は五パーセントであり成人とくらべると異常に低いこと、また少年審判に主体的に少年が参加できるようにするためにまた適正手続の観点から付添人制度は必要であり少年には経済力がないことから公的制度が必要であるとの理論付けをされていました。

次に、元家庭裁判所調査官である寺尾絢彦氏より要保護性が問題となる事案では調査官がいるから付添人は不要であるとの意見に対して調査官はあくまで少年の処分を決定する裁判所の立場であること、また成年後見制度や少年法の改正により調査官の職域が広がっているので従来の調査官としての仕事が十分にできにくくなっている状況にあるという指摘がありました。

また、少年の親の立場から「非行」と向き合う親たちの会世話人である菊池明氏より付添人弁護士が子どもとの架け橋になってくれた体験を紹介され法律的な専門的知識をもった付添人の必要性と親の経済的状況により付添人を依頼できない状況にある親も多くいることから公的制度による付添人の制度を実現していくことが必要性があることを訴えていました。

そして、元裁判官でもあり現役の弁護士としての立場から大谷辰雄弁護士が、坪井弁護士から「私たちの希望の星です!」と紹介され話をされました。大谷弁護士は裁判官と付添人の両方の経験をふまえて裁判官は少年の処分を決める側の人間であり付添人は少年の更生を考える立場にあり全く異なる立場にあること、そして福岡での全件付添人制度の取り組みを紹介されていました。福岡では成人には国選弁護人制度があるのになぜ少年事件にはないのかという素朴な疑問から制度の発足にいたったこと、現在の福岡での取組みは公的付添人制度発足に向けて弁護士の対応能力の基礎をつくっておくためという意味合いもあったこと、制度の発足にあたって会員に対し3年後には公的制度ができるはずであるのでそれまで負担をお願いしたので公的制度を実現しなければ「私は約束を破ったことになります!」と鬼気迫る勢いで訴えていました。

その後会場との質疑応答が行われ、最後に日弁連子どもの権利委員会委員長の山田由紀子氏より、少年が納得して処分を受け入れる体制を作るべきでありそのために付添人弁護士が果たす役割は非常に重要である、しかし費用的な限界があることから公的付添人制度を早急に実現すべきであり、公費投入することについて国民の理解が得られるようさらに活動を続けていきましょうとの総括がなされ満場一致の拍手の中で閉会しました。

当日は、約二〇〇人の参加者が集まり、全国各地から弁護士も集まっており、また会場では特に学生、少年の親や教育関係者などの一般の方の参加が目立ち、シンポジウム後は「非行少年と弁護士たちの挑戦」も四〇冊完売しました。

パネルディスカッションの中で特に印象的だったのは、調査官の寺尾氏と少年事件を親として経験した菊池氏のお話でした。元調査官の寺尾氏が調査官が存在するからという理由で付添人不要論に対して調査官の事情としても付添人は必要であり少年の更生のためには調査官と付添人が情報交換をして協力していくべきであるという話をされ、また少年の親の立場から菊池氏が非行に走った少年の親の苦悩する心情を非常に生々しく語っており親の立場からしても「専門知識をもった」付添人弁護士は必要であると話されていました。検討委員会の意見でも公的付添人制度に対する厳しい反対意見が出されていますが、このお二人のお話は非常に心強いものでした。この日と前後して東京でも全件付添人制度の導入の検討に入ったということで、全国にもこの日の熱気が伝えられたことと思います。

2003年5月 1日

「止めよう住基ネット・住基カード」シンポジウム開催

永田一志

皆さん、「住基ネット」という言葉を覚えておられるでしょうか。昨年の8月頃、皆さんの家に葉書で「住民票コード」(11桁の番号)なるものが送られて来ましたよね。そのころ、横浜市が住基ネットから離脱するとか、どこそこの町がつながないと決めたとか言う話が新聞やテレビ等で流されていたことをご記憶の方が多いと思います。

ただ、その後新聞もほとんど取り上げなくなり、テレビでこの問題を見ることも皆無と言っていい状態になって、皆さんも「住民票コード?」、そう言えばそんなものが来たな、でも番号なんか覚えてもいないし、何も変わっていないみたいだし、という感覚になっておられるのではないでしょうか。

ところがどっこい、この問題はまだ終わっていなかったのです。昨年稼働した住基ネットは、本来の住基ネットの一部でしかなかったのです。それが、今年8月に全面的(本格的)稼働となるのです。どういうことかと言うと、昨年8月に稼働を始めたのは、住民票に付随する個人情報を、住民票を管理する市町村から県へ、県から地方自治情報センターへ、地方自治情報センターから国の機関へコンピュータ回線で流していくという、いわば縦のラインだけでした。それが、今年の8月に「住基カード」という個人情報を載せたカードを発行することにより、一つの市町村から他の市町村へという、いわば横のラインでもコンピュータ回線で個人情報が流されるようになるのです。昨年動き出した縦のラインと今年動き出す横のラインの両方がそろって、「ネット」が完成するわけです。

しかし、縦横で情報が流れるようになれば、個人情報が流出の危険がより高くなります。また住基カードには国が決めた情報の他、発行する市町村が決めた情報を載せることができるようになっていますが、たくさんの情報を載せれば載せるほど、利便性は高まりますが、(カードからの)個人情報流出の危険性も高くなります。また、個人情報の名寄せはできないことにはなっていますが、それが行われない保証もありません。これら個人情報の流出や名寄せに対する防止策はどうでしょうか。今年再提出された個人情報保護法案(この原稿を書いている時点では衆議院で審議中ですが)も民に厳しく官に甘いといわれる基本的な問題点は改善されていないようです。また、実際の現場でのセキュリティー管理もとても十分とは言えません。(人口何千人の村にもネットにつながった端末がありますが、それを村の予\算で管理するのが非常に難しいことは想像に難くないでしょう。)

そこで、この危険な「住基ネット」を何とか停止すべく、昨年から引き続き活動をしていますが、その一環として、去る3月28日に中央市民センターでシンポジウムを開催しました。マスコミの無関心さに比例するようにとまでは行きませんが、昨年のシンポよりも少ない参加者となってしまいました。しかし、パネリストを初め、熱い議論・意見が出され、参加者の情熱は失われていないことが分かりました。今後も、住基ネットの稼働停止に向けて、再度のシンポ等を企画していますので、皆さんも是非参加、ご協力下さい。

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