弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

人間

2015年7月 7日

子どもは、みんな問題児

                              (霧山昴)
著者  中川 季枝子 、 出版  新潮社

 絵本「ぐりとぐら」は、うちの子どもたちに大好評でしたし、私も大好きでしたので、何度も何度も読み聞かせました。子どもを膝の上に乗せて絵本を読んでいるときは、人生の至福のひとときだと思います。
 著者は、保育園で主任保母として働いていました。絵本も、その体験をふまえて生まれたのでした。それでも納得のいく絵本は、そんなにつくれなかったというのです。やっぱり、何事も簡単なことではないのですね・・・。
 子どもの時代というのは、大変なもの。実にきびしい。何をやるにも一生けん命なので、欲ばる子は、欲ばって欲ばって、欲ばる。本当に、いつも全力で生きている。そんな子どもたちをみていると、自分がもう一度、子どもになりたいと思わない。
 大人はウソをつけるし、いい加減なことも言えるし、ごまかすこともできる。なんて気楽なことか・・・。だから、子どもは偉いものだと、いつも感心している。
 実は、私も同感なのです。私は子ども時代には戻りたくありません。私が戻りたいと思う時代は、大学1年生と2年生の2年間だけです。不安でいっぱいでしたが、まだ将来を考えるゆとりが少しはあったからです・・・。3年生からは将来への不安が強くなり、戻りたくはありません。高校生よりも前にも戻りたくありません。
子どもは、お母さんが大好き。ナンバーワンは、お母さん。ナンバーツーはお父さん、スリーがおじいちゃんとおばあちゃん。保育者はナンバーフォー以下。
 男の子は、お母さん、べったり。保育園で子どもを注意するとき、「そんなことをしたら、お母さんが悲しむでしょう」というのが、一番効果がある。子どもにとって、自分の大好きな人を悲しませるわけにはいかない。
 遊びは、子どもの自治の世界なので、大人は無神経に踏み込んではいけない。しかし、子どもから決して目を離してはいけない。常に全神経を子どもに向ける。
保育園の魅力は、家庭では味わえない、もっと大がかりな遊び場があること、そして、知恵も体力も対等な同年齢の子どもがいること。
 子どもは人に関心をもつことが大切だ。子どもは、常に成長したがっている。まさに、全身これ成長願望のかたまりである。
 子育てはスリル満点で、だからこそ面白い。
 子どもをバカにしないこと、バカにされないこと。私は私、子どもは子ども。ひとりの個人として付き合うことも必要で、無理して子どもに合わせることはない。
 著者の「いやいやえん」も、私は大好きでした。子どもが大きくなって絵本を読む機会がなくなってしまったのが残念です。
(2015年4月刊。1000円+税)

2015年7月 6日

わが盲想

                                (霧山昴)
著者  モハメド・オマル・アブティン 、 出版  ポプラ文庫

 アフリカはスーダンから19歳のときに日本へやって来た盲目の青年の哀しくも面白い奮闘記です。
 私の娘も、突然、弱視になって盲学校に在学中ですので、目が見えないことの不便さをしのびながら読みました。
 それにしても、底抜けの楽天性であるので、まるで漫談を読んでいるように気楽に読める本です。じめじめした暗さがのないのが救いです。
 著者は、今37歳。19歳の時に日本に来たので、もう20年近く日本にいるから、もちろん日本語はぺらぺらだ。それも、おやじギャグがうまい。
 本をつくるには、視覚障害者向けに、音声読み上げソフトがついたパソコンを使う。イヤホンをつけてキーボードを打つと、打った文字を機会が読み上げてくれる。漢字変換するにしても、「ごとう」と打って変換キーを押すと、「前後の後」、「藤の花のフジ」と機会が言うので、正しい漢字が読みあげられたときにエンターキーを押す。このように、すべて音声による作業である。
 著者が日本に来たのは1998年1月のこと。東京は雪景色だったから、寒さに震えてしまった。そして初めて食べた日本食はカレーライス。あっという間に三杯をたいらげた。
 スーダンでも、イスラムの世界ではどこでも、自分の裸を他人に見せてはいけない規則がある。だから、公衆浴場は困る。そうなんですか・・・。
 福井県で勉強を初め、こてこての福井弁になじんだようです。
 「スーダンって、どこにあるのですか?」
 「ヨルダンという国があるでしょ。その隣にヒルダンがあって、その真ん中にアサダンとスーダンがあるんです」
 これって生真面目な人が聞いたら、本気にしてしまいますよね。
 著者はスーダンの女性と結婚することが出来ました。その女性が示した条件は二つ。
 お酒を飲んでいませんか?
 お祈りをしていますか?
 スーダンでは、酒飲みは社会的信用は低い。実は、著者は日本に来て、お酒を飲んでいた時期があったのです。でも、お酒はやめていたので、飲んでいないと即答することができたのです。偉い!
 スーダンでは、結婚する前に、新郎と新婦の家族が、それぞれ相手の家族について調べる習慣がある。近所の評判とか、両親の職場での評判を聞いて、家族同士のつきあいができるかどうか判断するのだ。こうして、著者はたった1ヶ月前に電話で知りあった女性と結婚した。スーダンでは、あることだが、日本では口が裂けても話せない。
 スーダンの伝統的結婚儀礼では女性しか出席しない。それぞれ女性が50人ずつ集まった。新婦は新郎に向かって牛乳を口にふくむと、遠慮なく吹っかけた。
 『恋するソマリア』を書いた高野秀行氏が著者の友人とのことで、最後に二人の対談ものっています。
 お寿司が大好きな盲目のスーダン人です。こうやって人間の輪が広がっていくのって、いいですよね・・・。これこそ、まさに積極的な平和主義の実践だと思いました
(2015年2月刊。640円+税)

2015年7月 5日

無人島に生きる七六人

                               (霧山昴)
著者  須川 邦彦 、 出版  新潮文庫

 明治32年4月から12月まで、太平洋の真只中で、日本人船員16人が遭難したあと無人島にたどり着いて全員が無事に日本に帰り着いたという実話です。
 明治の日本の男たちは、実にたくましいと驚嘆しました。
 私が何より感嘆したのは、16人の男たちが守り通した「四つのきまり」です。
 一つ、島で手にはいるもので、暮らしていく。
 二つ、出来ない相談を言わない。
 三つ、規律正しい生活をする。
 四つ、愉快な生活を心がける。
 無人島に生活するに当たっての誓いです。最後の四つがいいですね、笑いを忘れないようにしたのです。
 そして、勉強もしたというのですから、本当に偉い人たちです。
 船の運用術、航海術の授業。数学と作文の授業もある。習字は、砂の上に木を削った細い棒の筆で書く。石板の代わりにシャベルを使い、石筆にはウニの針を使う。漢字と英会話、英作文もある。
 一日の仕事がすんで、夕方になると総員の運動が始まる。相撲、綱引き、ぼう押し、水泳、島のまわりを駆け足でまわる。それから海のお風呂に入って、そのあと夕食。規則正しく、毎日これを繰り返す。月夜には、夜になってすもうをとる。そのために立派な土俵をつくった。
 夕食後には、唱歌。詩吟も流行した。
 雨の日は、みんなほがらかに、にこにこした。雨水は、飲用水になる。午後から茶話会をし、おやつを食べた。米のおかゆを雨水でつくって食べる。実に美味しい。
 余興の隠し芸を披露して、おなかの皮をよじって大笑いする。ウミガメ(正覚坊)の卵はうまい。そして、海藻を食べているから、肉も美味しい。
 無人島にいるとき、ぽかんと手をあけて、ぶらぶら遊んでいるのが、一番いけないこと。
 16人は、順番に、まわりもちに決めた。見張り、炊事、たきぎ集め、まき割り、魚とり、ウミガメ(正覚坊)の牧場当番、塩づくり、宿舎掃除せいとん、万年灯、雑業・・・。
これらの仕事は、どれも自分たちが生き延びるためには、ぜひやらなければいけない仕事だ。みんな熱心に自分の仕事に励んだ。
 涙の出てくるほど、美しく、たくましい和装「ロビンソン・クルーソー」集団の話です。
 実話なので、感慨深いものがあります。ちょっと疲れ気味だと感じているあなたにご一読をおすすめします。私の生まれる直前、昭和23年6月10日の本が復刊したものです。
(2010年6月刊。430円+税)

2015年6月13日

腸が寿命を決める

                               (霧山昴)
著者  澤田 幸男・神矢 丈児 、 出版  集英社新書

 人間が生きていくうえで必要な栄養素と水分を体内に取り込む(吸収する)ことができるのは、腸だけ(胃はビタミンB1、鉄、カルシウムは吸収する)。
 人間が病気になるのを防ぐ、からだの「免疫システム」の80%は、腸が担っている。
 口の中でのそしゃくが不十分だと、口から取り入れた食べ物は半分ほどしか消化されずに体外へ排出されてしまうことになる。そしゃくはきちんとしないと、食べ物にふくまれた栄養素の消化・分解の下準備ができない。
 胃に入った食べ物は、胃壁から分泌される強力な胃酸で殺菌される。
 十二指腸がないと、人間は生きていくことができない。
 大腸は、栄養素を吸収することはできるが、消化できない。
 大腸には、消化のための酸素を出す機能はない。大腸内には、無数の外来細菌がすみついている。人間ひとりにつき、100種類を超え、合計数は100兆個以上になる。
 善玉菌(乳酸菌類)は、人間の身体には存在しない消化酵素をもっている。
 酵素は、小腸で消化できなかった残りの栄養素、とくに食物繊維やオリゴ糖などの糖質類を分解し、大切なエネルギーを作り出してくれる。
 健康な人の場合、便の80%は水分である。食べ物の残りカスは、3分の1ほどで、残る3分の2は、さまざまな現象によってはがれ落ちた腸内細菌だった。
 腸は、もっともっと大切にされるべきだという点は、私もまったく同感です。
(2015年4月刊。740円+税)

2015年5月25日

驚異の小器官・耳の科学

                                (霧山昴)
著者  杉浦 彩子 、 出版  講談社ブルーバックス新書

 年齢(とし)をとって、少し耳が遠くなっているようです。聞こえにくくなりました。同世代では補聴器をつけている人もいますが、幸い、まだそこまでではありません。
人間は、時間情報については、視覚よりも聴覚の方が優位な影響をもつ。目でとらえた変化に対して身体が動くよりも、音に反応して体が動く反応の方が早い。
 素早い動きをしなければならないスポーツでは、聴覚が重要な役割を果たしている。
 人間は、まず音を聞いてから、目で確認している。
 聴覚障害の方が視覚障害よりも疎外感が深い。
 胎児は、胎内で母親の心音や話し声を聞いている。
 壊れた鼓膜は、すぐに再生してくる。耳鼻科では聞こえないのを治すため、わざと鼓膜を破ることがある。
 キヌタ骨、ツチ骨、アブシ骨という耳小骨は、生まれたときから成人のサイズとほぼ同じ大きさをもつ例外的な骨。5万個ほどの神経細胞が小児期のあいだに、どんどん死滅して、10代では3万個台に減ってしまう。90代には1万個台になる。
 母国語を聞き取るためには、小児期における神経淘汰が大切だ。これは、神経細胞の数を減らしていくことは、よく聞く言葉のパターンを覚えていくということ。
 1歳までにある程度パターン認識できたかどうかが、その後の言語発達に重大な影響を及ぼす。言語の臨界期は6歳頃。言葉は、まず聞いて、話して、読んで、書いて、という4段階で発達していく。どんな複雑な言語も、まずは聞くところから始まる。繰り返し決まったパターンの発音を聞いていくことで言語を認識するための脳が育っていく。
 音楽と言語では、脳の使い方が異なっている。言語中枢はあるが、音楽の方には中枢はないようだ。
 最後に、耳垢について、著者は何もしないのがよいと強調しています。自然に出てくるのです。まあ気にはなりますけどね・・・。それだけのことなんです。
(2014年10月刊。860円+税)

2015年4月27日

フラガール物語

                                 (霧山昴)
著者  清水 一利 、 出版  講談社

 蒼井優の踊りには圧倒されました。映画『フラガール』の話です。大きなスクリーンでみて、また我が家のテレビでみました。
 常盤炭鉱が行き詰まってつくられた常盤ハワイアンセンター。誰だって、半年もてばいいほうだと思っていました。
 女の子がへそ丸出しで踊る。そんな踊りにスケベな男はともかくとして、リピーターがいるはずがない。私だってそう思います。ところが、その限界を突破したのです。そして、ついに日本アカデミー賞をとる映画にまでなったのでした。
 それでは、どうやってフラガールが誕生したのか、どんな苦労があったのか、知りたくなりますよね。この本は、その要求にこたえてくれるものです。
 福島県いわき市のスパリゾートハワイアンで、毎日昼夜2回のステージを彩るダンシングチーム。フラガールを養成するのは常盤音楽舞踏学院。そして、この学院は昭和40年の設立から50周年を迎えた。
 常盤炭鉱では1トンの石炭を掘るたびに40トンもの温泉が湧き出ていた。この温泉を掘るだけで、年に何億円ものお金がかかった。そこで、温泉を利用したレジャー施設を思いついた。すごい逆転の発想です。
1期生はがんばった。普通なら3年かかるものを、3ヶ月でやり切った。本当に、よく耐えた。
昭和41年1月に、常盤ハワイアンセンターが開業した。
 私が大学に入る前の年ですから、まだ、私は高校3年生です。
オープン直後のステージには、連日、大勢の客がつめかけた。
 昭和44年(1969年)に43人もいたダンサーが、どんどん減っていき、昭和51年には30人を割り、昭和55年には20人を下まわってしまい、ついに昭和63年末には12人にまで減ってしまった。史上最少の危機を迎えた。入ってくる子が少ないのに、辞める子が多かった。やっと一人前になったころに、「寿退社」していく。
 学生時代にアルバイトを経験している子は長続きした。ダンサーの給料は一般のOLに比べたら高給だから、これだけの給料は、ほかではもらえないことが分かっているので、頑張ろうと思うからだ。
 ソロダンサーは、いわばダンシングチームの「顔」。一番大事なのは「華」。その子がステージに立つと、周りがパーッと明るくなるような雰囲気をもっていて、群衆で踊っていても、その子だけは浮き上がって見える。そんな子でなければ、ソロはつとまらない。私生活が乱れているような子、きちんとした言葉づかいができないような子は、ソロはできない。
 うむむ、なるほど、ソロになるのは厳しいものなんですね・・・。
 400人のダンサーのうち、ソロになれたのは、わずか63人。踊りの技術だけでなく、日ごろの人間性やチームをまとめるリーダー的な素養までもが選考の対象となる。
 2006年(平成18年)映画『フラガール』が公開され、観客125万人、興行収入150億円という大ヒットを記録した。そして、第30回日本アカデミー賞で最優秀作品賞などを受賞した。
 いやあ、本当にいい映画でした。かつての炭住街がCDで再現されていましたが、本当になつかしい光景でした。
 福岡県内にも、筑豊と筑後には炭住街がありふれていましたが、残念ながら今はまったくありません。もったいないことをしました。
映画『フラガール』の最後に蒼井優の踊るのがタヒチダンス「タネイムア」だ。人の汗しぶきに圧倒されます。もし、この映画をみていないという人がいたら、今すぐDVDを借りるか買うかして、みてみて下さい。今夜は、芸術に浸って、ぐっすり眠れますよ。
(2015年1月刊。2500円+税)

2015年4月20日

手のひらから広がる未来

                               (霧山昴)
著者  荒 美有紀 、 出版  朝日新聞出版

 私の娘も、大学院生としてパリに留学中に突然、弱視になり、今は盲学校で鍼灸師の勉強をしています。世の中には、いきなり信じられない病魔に襲われることがあるのです。
 この本の著者は、大学生の時、突然耳が聞こえなくなり、また視力を失ってしまったのでした。いやはや、大変な事ですよね。耳も目も不自由だなんて、想像も出来ません。それでも、大変な苦難をついに乗り越えていくのです。読んでいて、人間って、すごいと思いました。そして、彼女を支える人たちがたくさんいるのに救われます。一人娘を支えた両親の苦労は、いかばかりだったでしょうか・・・。
 ヘレン・ケラーになった女子大生というサブ・タイトルがついています。今では著者に彼氏もいて、明るく前向きに生きていますが、そこにいたるまでの苦しみと悩みが、本人によって語られています。ついついホロリとさせられました。難病の名前は、神経繊維腫症Ⅱ型(NF2)。聞いたこともありません。
身体にできた傷を治す分泌液は人間の誰もがもっている。ところが、この病気になると、傷が治ったあとも分泌が止まらない。そのため、身体中のどこかに腫瘍ができて、いろいろな神経を圧迫する。
 はじめ、難聴となり、19歳のときに右手がマヒし、22歳で耳が聞こえなくなり、やがて目も見えなくなった。目と耳の両方に障害をもつ人を「盲ろう」という。東大教授でもある福島智(さとし)氏も盲ろうだ。著者はそのうえ、腰にも障害が出て、車いす利用者になった。
 著者は、16歳までは視力も聴力も問題がなかった。だから、今でも、色や草花の形や人の声、ピアノなどの音色が容易に想像できる。
 盲ろう者にとって、人間の最低限の要求である、安心と安全感が日常生活にない。日常生活そのものがサバイバルなのだ。ごはんを食べるのも、毎日がヤミナベ(闇鍋)状態。
 最初に耳の不調を感じたのは、高校1年生の夏のこと。それで、3ヶ月に1度は、中国へ行き、中日友好病院の国際医療部で治療を受けた。
 著者は、明治学院大学文学部のフランス文学科に合格した。
 ところが、よく聞こえない。そして視界がどんどん白くなっていく・・・。
 福島智教授は、5時間も著者に向かって話をしてくれた。もちろん指点字での会話。
死なない。めげない。引きこもらない。転んでも叩きのめされても起き上がろう。しっかり前を向いて歩いていこうということ。命ある限り、生きよう。
 著者のような盲ろう者は、日本全国に1万5000人いると推計されている。しかし、派遣事業の利用登録をしている盲ろう者は1000人もいない。
著者は指点字を1週間で習得したというのです。すごいですね。そして、周囲の人たちもそれを学び、著者との交流を深めていったとのこと。本当に心温まる話です。
 つらい大変な日々も多いことでしょうが、これからも、めげず、くじけず、前を向いて生きていってくださいね。こんないい本を読むと、心が洗われる思いがします。あなたもぜひご一読ください。
(2015年3月刊。1200円+税)

2015年4月13日

ラスト・ワン


著者  金子 達仁 、 出版  日本実業出版社

 義足アスリートとして有名な中西麻耶のすさまじいまでの半生を描いた本です。
 珍しいほどに自己主張の強い若い日本人女性のようです。アメリカでは問題なく受けいれられても、日本では大変です。やっかみ、ねたみ・・・、いろんな障害が目の前に大きな壁として立ちはだかるのです。
 若い女性が労災事故にあって、右足を切断してしまうのですから、大変な衝撃だったと思います。
右足切断といっても、骨折の痛みほどは感じない。骨が折れたことを脳に伝える神経もなくなっているから。あるのは、皮膚を切った傷の痛みだけ。
 このとき、中西麻耶は真っ赤なブラジャー、下は父親のトランクスをはいていた。これをはいているのを見られたら、絶対に死んじゃう。そっちでパニックになりそうだった。
 右足を切断したら、そこがバーンと腫れる。
 浮腫と呼ばれる症状がおさまるまでには2年ほどかかる。患者は、包帯で強くしばることによって、できるだけ元の太さに戻そうとする。太くなろうとする治癒能力と、細くしようとする人為的な力のせめぎあいの決着がつくまで、足は一日のうちでもサイズが変わってしまう。
 義足をはきだすと、包帯とは比較にならないほどの大きな力がぎゅっとかかるので、より細くなるスピードが高まる。だから、あっという間に、サイズが変わる。それでも追いつかなくて、新しい義足をつくらざるをえない。その繰り返しだった。
 障害者陸上の世界に入ってみると、想像していたよりも、はるかにお金がかかる。遠征の費用、義足、生活費・・・。渡航費や滞在費が全額支給されるパラリンピックと違い、世界選手権の場合、すべての経費は選手の自己負担だ。出場するためには60万円が必要だった。
 中西麻耶はヌードカレンダーをつくった。それも障害の部所までさらけ出したもの。定価は1200円。ところが、なんと9000部を売り切った。
最後のページに、それまでの話とはまったく違ったことが書かれていますので、驚きましたが、私は、それよりも何よりも、障害者陸上競技の世界でのきびしい試練に中西麻耶が耐え抜いていったところに心を打たれました。
 競技用のカーボンファイバーで出来た義足って、130万円ほどもするんです。高いですよね。
 私としては、中西麻耶がこれからも元気に活躍することを願うばかりです。
(2014年12月刊。1500円+税)

2015年4月 6日

続・自閉症の僕が跳びはねる理由


著者  東田 直樹 、 出版  エスコアール出版部

 自閉症の本人が語っています。目が開かされる思いです。
 どんな言葉が、いつ出るのか、自分でも分からない。昔おぼえた絵本の一節、繰り返し聞いたコマーシャル、記憶の中で印象に残っている単語などが、勝手に口から飛び出てくる。
 話を途中で止めるのも大変。どうにかなりそうなくらい、せっぱつまった感じで話している。言葉は、自分の意思ではおさまらない。言葉は、なかなかコントロールできない。
いつもと違い状況で会うと、その人が誰なのか、認識できない。記憶で一番はっきりしているのは場所だから。違う場所で会うと、その人だと分からないのは、背景が違うので、大きなヒントがなくなるから。
 話そうとすると頭が真っ白になってしまい、言葉が出てこない。話せない人は、みんなが思っている以上に、繊細だ。
 気温にあった服装の調節、ジャンケンもうまくできない。手にもっている物など、すぐに何でも口に入れてしまう。汚い物ときれいな物の区別が、分かりにくいのも理由の一つ。
 時間は、本当につかみきれない。時間の流れを記憶しにくいので、時間そのものが苦痛だ。自閉症の人の反復行動は、自分なりの「きり」がつかなければ、終わりにはならない。自分で納得できなければ、終われない。
自分が納得した仕事については、教えられたことをしっかりやり遂げることができる。
 自閉症者は、光や砂、水が好きだ。光を見れば心が躍るし、砂を触れば心が落ち着き、水を浴びれば生きていることを実感する。
 カラオケが大好きな自閉症の高校生でもあります。大勢の人の前で講演している写真があります。人前で声は思うように出ないとのことですので、どうやって講演しているのでしょうか。
 すぐそばに母親がついています。著者の手を握って、パニックにならないようにしている感じです。
 NHKテレビでも放映されたそうですが、とても貴重な体験記だと思います。これからも元気に過ごしてほしいと心から願います。
(2014年12月刊。1600円+税)

2015年3月30日

社会脳からみた認知症


著者  伊古田 俊夫 、 出版  講談社ブルーバックス

 認知症とは、正常に成人になった人が、病気や事故などのために知的能力が低下し、社会生活に支障を来すようになった状態を指す。
64歳以下で発症した認知症を若年性認知症と呼ぶ。その多くは、40~50代で発症する。若年性認知症の患者は全認知症の1%を占める。40~50代で物忘れに深刻に悩む人は、高齢期に認知症になる確率が高い。
 若年性認知症は、症状の進行が早いという特徴がある。異常タンパクの生成が早いためだと考えられる。若年性認知症は周囲の人の気持ちを理解できない。他人への関心が薄くなる。性格の変化が目立つのも特徴。
 日本の認知症患者は460万人をこえ、その予備軍が400万人いる。
 認知症の人には、「配慮を受けている」という自覚が乏しく、同僚に感謝の気持ちを伝えられない。
 認知症の人に最初にあらわれるのは、新しいことを記憶できないこと。そして、物忘れしているという自覚が薄れてくる。
 日課や予定、約束や期限といった緊張感が失われると、人間の記憶力は低下していく。
 認知症の第二の重要な症状は、自分の置かれた状況が分からなくなること。さらに症状がすすむと、自分が病気であることを理解できなくなる。
 人の心の働きのなかで、もっとも重要なのは、他者の心や気持ちを理解するというもので、これは人間特有の働きである。
 認知症の人は、詐欺的商法の相手と長時間にわたって一緒に過ごし、すっかり信用しきってしまう。警戒心がまったくない。
 認知症に陥った人たちからは、苦悩が確実に減少していく。悩まなくなるのだ。
 うつ病が増加している。うつ病にかかった人は、羅患歴のない人に比べて、認知症になる危険性が2~3倍も高い。
 私の同級生も認知症になった人がいます。とても生真面目な性格でした。それと関係があるのでは、と思っています・・・。
(2014年11月刊。900円+税)

前の10件 36  37  38  39  40  41  42  43  44  45  46

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー