弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
人間
2017年5月29日
僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう
(霧山昴)
著者 山中 伸弥、羽生 善治ほか 、 出版 文春新書
実に面白い本です。私も大学生のころを思い出して、一気に読みすすめました。いやあ、若いって、いいですよね。若いときには、いろんなことをしてみて、いろいろ失敗してみると、それがあとになって生きてきます・・・。そのとき、どんなに苦しくても、必ず得られるものがあるのです。といっても、そのときには、ただ苦しいだけなんですが・・・。
各界の第一人者が、若いころの不安、焦燥、挫折を語っています。うひゃあ、この人でも、こんなことがあったのかと驚きます。みなさん、苦労知らずに栄冠を勝ちとったというのではないのですね・・・。
ある何かが起きたときに、心底から不思議と思えるとか、心の底から驚くとかっていうのは、研究者になるための条件ではないか。予想外のことに我を忘れて興奮できるかどうか。それが研究者には大切なこと。
ノーベル賞をとった山中さんは、毎月アメリカに行っている。それは、実際に行ってみないと分からないことが多いから。アメリカの研究の中に行くと、日本にいる残りの時間よりも、はるかに多くの情報が入ってくる。
山中さんはアメリカにも研究室をもっているそうです。でも、毎月のアメリカ行いって、くたびれるでしょうね・・・。
挑戦をしていくときに大切なのは、ミスをしないこと以上に、ミスをしたあと、ミスを重ねて傷を深くしない。挽回できない状況にしないこと。
20歳前後の5年間というのは、何にも代えられない宝物みたいな時間だ。20代の失敗は、宝物であり、財産だ。
羽生善治氏は、人間は誰でもミスをするものだ、動揺して、冷静さや客観性、中立的な視点を失ってしまうとミスを重ねてしまうと語っています。
それにしても、次の一手を打つ前に4時間もじっと考え込むというのは、すごいことですね。
京都大学の山極寿一総長の入学式での祝辞は素晴らしいものでした。さすが京大です。「おもろいことやる大学にしたい」というのですが、大先輩は、「関西弁でおもろいいうのはな、もうひとつ言葉が続くんや。ほな、やってみなはれ」
うん、いい言葉ですね。
山極さんは、アフリカに行って、ゴリラの家族(群れ)のなかに入りこみます。5年から10年かかるそうです。
ゴリラは相手の顔をのぞきこむ。それは、ゴリラ流の挨拶。ニホンザルと違って、ゴリラは相手を見ることが威嚇ではない。挨拶だったり、仲直りのしるしだったり、友好的な合図を意味する。
ゴリラのドラミング(胸を両手で叩く)は、戦いの布告ではなく、興奮や好奇心の表れだったり、遊びの誘いだったり、いろんな意味をもつ重要なコミュニケーションであることが分かってきた。
ゴリラは、相手の言ってることが分かっても、その言いなりにはしたくない。相手の下に立ちたくないからだ。それがゴリラの感性。
ゴリラが6歳のときに親しくなった山極さんが、26年後、同じゴリラに会ったときの反応は信じられません。山極さんがゴリラ語で挨拶するとタイタス(ゴリラの名前です)も、それに答えた。
タイタスの目は好奇心に燃えているときのように金色に輝き、顔つきは少年のようになり、目がくりくりとしてきた。そして、土の上に仰向けに寝っ転がった。山極さんに向かって、大口を開けてゲタゲタ笑い、まったく子どものころの彼に戻っていた。
いやあ、すごいですね。見てみたかったですね、この場面を・・・。
心の震えるような、とてもいい本です。一人でも多くの若い人に読んでもらいたいと思いました。
(2017年2月刊。700円+税)
2017年5月28日
果てしなき山稜
(霧山昴)
著者 志水 哲也 、 出版 山と渓谷社
いやあ、若いってすばらしいですね。若いときにしか出来ない、無謀な北海道の冬山を山スキーで単独踏破した山行記です。寒がりの私なんか思わず、身震いしてしまいました。
山頂へ向かう鞍部にいいテントサイトを見つける。地図ではテントなんて張れそうにないと思わせるヤセ尾根上でも、現地に行くと雪庇の陰に風の当らない絶好のテントサイトを見出すことがある。しかし、風を防ごうとすると雪が積もり、除雪を嫌うと、そこは風が吹く場所だというのが常だ。
夕方から、また雪。雪は、すべてのものを美しく真っ白に覆ってしまうから怖い。
苦しかったこと、怖かったこと、寂しかったこと、楽しかったこと、いろいろあったが、そんな体験のすべてが、やがてただ自分の書いた文字や写真を通してしか思い出せなくなってしまう。文字も写真も、所詮はつくりもの。どんなに努力しても、それをとどめようとしても、どうしたって実際のときめきや感動は、記憶の上に積もる膨大な時間の中で次第に見えなくなってしまう。
なだれにあって、ぼくは奇跡的に窒息死する前に止まった。生きていることすら認識できない茫然自失の状態だった。ぼくは、むせかえりつつ、雪をコホゴホ、ゲェーゲェーと吐き出し、登りはじめた。傾斜60度の、胸まで没する雪壁を、35キロの荷を背負って。その途中にも、斜面は何回となく雪崩れ、一度はザックと別になって再び流されたりもしたが、ぼくは死にもの狂いで登った。
雪崩で遭難し、3日間は生きながらえていた人の書きつづった遺書が後になって発見されたこともある。「死んだらおしまい」とは、誰だって言える。物理的には、たしかにそうだろう。だが、情熱をもって生きていない人間にそれを言う資格があるのか。情熱をもたないで生き続ける人間よりも、たとえひとときでも情熱をもち、死んでいった人間のほうが、きっと、ずっといい。
登山は年数ではない。中身だ。どれだけ情熱をもって山に対しかだと思う。人生だって、きっと同じことだ。
この本は、1994年、著者が28歳のときの北海道縦断の山スキー記行が文庫になったものです。今では50代になった著者は、富山県に住むプロの写真家です。文庫として復刊していただいたことに感謝します。
(2016年10月刊。950円+税)
2017年5月 8日
保健と健康の心理学
(霧山昴)
著者 大竹 恵子 、 出版 ナカニシヤ出版
日本は長寿国ですが、幸福度はそれにともなっていません。
平均寿命は女性87歳(世界2位)、男性81歳(世界4位)。ところが、幸福度は世界53位。
健康心理学は、人間の健康に関するさまざまな問題を心理学の観点から検討し、そこから得られた知見を社会に役立てることを目指した心理学の応用領域の一つ。
感情は、病気にかかる率だけでなく、寿命にも影響を及ぼしている。
ポジティブ感情には、ネガティブ刺激による交感神経系の活性化を速やかに活性化させる「元通り効果」をもっている。
日常的にポジティブな感情を多く経験しているほど、中枢神経系、自律神経系、内分泌系、免疫系に良い影響を及ぼし、これらのシステムの相互作用により、結果として健康状態や寿命に良い影響を及ぼす。
日本のうつ病の患者は、平成8年に20万人、その他の気分障害をふくめて43万人だった。ところが平成20年度には、うつ病患者が70万人、その他をふくめると100万人。3倍にも増えた。
同じ心的外傷体験をしても全員がPTSDになるわけではない。レジリエンスという、一時的に心理的不健康の状態に陥っても、それを乗りこえ、精神的病理を示さず、よく適応する人がいる。
交代制勤務は、睡眠覚醒リズムを乱れさせる。乳ガンのリスクが高まり、前立腺ガンのリスクが2倍から3倍も高まる。
望ましくない出来事はコントロールできるという信念は、健康的な生活習慣やストレスへの上手な対処をもたらし、健康への悪影響を少なくする。
首尾一貫感覚(SOC)は人生経験によって形成され、とくに一貫性、負荷のバランス、結果の形成への参加という3つの経験が重要である。
ルールや責任の所在が明確な一貫性のある経験は把握可能感の基礎となり、また、処理可能感を育む。
自分だって、やれば出来るんだという感覚は大切ですよね。
やや難しいところもありましたが、私の生き方から共感できるところが多々ありました。
(2016年12月刊。3400円+税)
2017年4月17日
脳を最適化すれば能力は2倍になる
(霧山昴)
著者 樺沢 紫苑 、 出版 文響社
脳内物質を見きわめて、毎日、生き生きとしようと呼びかける本です。
絶対に24時間も戦い続けてはいけない。
これは本当にそうだと思います。会社のために過労死するなんて、ぜひやめましょう。
アドレナリンは、ピンチや危機を乗りこえるために重要な物資である反面、アドレナリンが分泌されすぎると、心臓がバクバクして極度な緊張に陥ったり、冷静さを失ったりと、よくないことも起きる。アドレナリンは、強力な味方でもあり、生命を脅かす敵でもある。
セロトニンが分泌されると、「今日も一日がんばるぞ」という気持ちになる。身体にも力がみなぎり、ハツラツとした気分になる。頭もスッキリしているので、すぐに仕事をスタートできる状態になる。セロトニンは、睡眠と覚醒をコントロールする脳内物質である。
カーテンを開けて寝ると、朝、スッキリと目が覚める。この、とても役立つ習慣は、セロトニンによってもたらされている。
私は、ホテルに泊まるときにも、窓はレースのカーテンのみにしておきます。外界の明るさを身体で感じられるようにするためです。
睡眠は「時間の長さ」ではなく、「熟睡感」があるかないかのほうが重要。朝、起きたときに、「ああ、ぐっすりと眠れた」と感じられたときには、それは睡眠の質と量が適切な証拠だ。
私も、この熟睡感を大切にしています。花粉症の季節だけは、思うようにいきませんが・・・。
熱い風呂に入るのもストレス発散によい。脳からエンドルフィンが分泌されるから。ただし、熱い風呂は心臓に負担をかけるから、ほどほどにする。
私も、どちらかというと熱めの風呂が好みです。
今の自分に満足し、現状維持で大丈夫と思ってしまうと、ドーパミンが出なくなり現状維持どころか、記録は悪くなり、人間としての成長がストップしてしまう。
脳はチャレンジを好む。チャレンジして、達成して、幸福になる。だから、常にチャレンジを続けなければいけない。
私は、このところ小説に挑戦していますし、毎朝、フランス語の上達を目ざしています。
ドーパミンは学習脳、フルアドレナリンは仕事脳、セロトニンは共感脳。
脳とうまく折り合いをつけて、楽しく充実した毎日を過ごしたいものです。
(2017年2月刊。1480円+税)
2017年4月16日
ぼくが発達障害だからできたこと
(霧山昴)
著者 市川 拓司 、 出版 朝日新書
世の中には本当に多種多様な人がいるものだと、毎日、痛感しています。私も奇人変人の一人だと自覚していますが、それでも私なんかまだまだ可愛い存在にすぎません。
この本の著者は作家です。私は一冊も読んだことがありませんが、『いま、会いにゆきます』『そのときは彼によろしく』など、私もタイトルだけは聞いて知っています。
アスペルガーであり、ADHD(注意欠陥・多動性障害)をもっています。そんな人がベストセラーになる本を書いているのですから、世の中は不思議です。面白いです。
通常、発達障害者は自分自身について客観的に観察し洞察すること、つまり自己認知ができていないことが多いが、著者はそれを深くしている。きわめて珍しい。
マンツーマンでは会話ができても、三人以上になると会話が混乱して聞きとれなくなってしまうのがAD特有の会話の不得手さ。電話で人と話すこともできない。
ADの人は自分なりの特定の習慣や手順・順番に強いこだわりがあり、臨機応変な対応ができず、変更や変化を極度に嫌う。
また、自分の興味・関心のあること、とくに視覚的な情報を記憶することは得意だが、頭の中で想像することや予測することは苦手とする。
レオナルド・ダヴィンチ、ミケランジェロ、アルバード、アインシュタインもADHDだった。
アーネスト・ヘミングウェイは典型的なADHD.宮沢賢治もADHD・アスペルガー障害を有していた。織田信長も坂本龍馬もADHDだった。
AD、自閉症、ともに遺伝的負因がきわめて強い。AD者は、通常の人より感性が豊かで、美味しいものや心地よい匂いや触感に非常に敏感だ。
この本を読んでいると、この人、とても変わっているよね、そう思われる人ほど、いえ、そんな人こそ、世の中の役に立つ、すごいことをやっているようです。
やっぱり、金子みすずの、みんな違って、みんないい、というのは真理ですね。
(2016年11月刊。780円+税)
2017年3月27日
歯みがき100年物語
(霧山昴)
著者 ライオン歯科衛生研究所 、 出版 ダイヤモンド社
いま、毎日、合計10分間の歯みがきに挑戦中です。歯ぐきに違和感があったので歯科医院に行ったところ、心配していた虫歯はありませんでした。そのとき歯周病の恐ろしさから、毎日20分間の歯みがきをすすめられたのです。実際やってみると大変です。キッチンタイマーを目の前にして歯ブラシを動かしますが、夕食後の6分間は、すごく長く感じられます。
歯の表面をこするより、歯ぐきのマッサージのつもりです。まだまだ力の入れすぎだと反省しています。やり始めた直後は、口を開けている時間が急に長くなったせいで、アゴが痛くて、かむ力が弱くなった気がしたほどです。
そんな苦労をしているときに、この本を紹介されたので、さっそく読んでみました。
庶民が今のような歯みがきを日常的にするようになったのは、明治になって歯みがき剤や歯ブラシが普及してからのこと。
明治になってから、人々が甘い物をたくさんとるようになって、明治末期になると、子どものむし歯罹患率は96%に達した。このままでは、むし歯で国が滅んでしまうという危機感から、口腔衛生思想の普及活動が強まった。
今では、小学生(12歳)のむし歯保有数は1本を切っている。そして8020運動(80歳になったとき、自分の歯を20本もっている人が50%以上)の目標達成に近づいている。
私は、むし歯にやられたのは一本だけです(差し歯をしています)。歯は大切ですよね。
平安時代から江戸時代まで続いていたお歯黒(はぐろ)には、むし歯予防の効果もあった。でも、なんだか気持ち悪いですよね。黒い歯って・・・。やっぱり、歯は白いのが一番です。
日本人の歯並びの悪さは世界でも突出している。
江戸吉原の遊廓では、客が朝帰りするときに、楊枝と歯みがき袋、うがい茶碗を出していた。
子どもたちのむし歯洪水が急速に改善した要因として、フッ素配合の歯みがき剤があげられる。
歯垢(しこう)は、歯の表面に付着した飲食物の残りかすと思うのは間違い。本当は細菌のかたまり。これをそのままにしておくと石灰化が始まり、歯石(しせき)になる。
歯周病は、糖尿病を悪化させる要因のひとつ。日本人の成人で歯周病をかかえている人は8割。歯周病は、糖尿病の6番目の合併症。
よくかんで食べる。食後にはきちんと歯みがきをする。寝る前にも歯みがきをする。
すこやかな生活を送る工夫のひとつだと思います。いい本でした。
(2017年1月刊。1800円+税)
2017年2月25日
屋根うらの絵本かき
(霧山昴)
著者 ちば てつや 、 出版 新日本出版社
私も大学生のころは、毎週、マンガ週刊誌を心待ちにしていました。私のいた学生寮(駒場寮)では、寮生がまわし読みをしていました。発売初日はケンカこそしませんでしたが、奪いあい状態で、みんな競って読んでいました。何をかって・・・。「あしたのジョー」です。この本では原作者の梶原一騎との壮絶なバトルが文章だけでなく、絵によって再現されていますから、まさしく臨場感があります。『少年マガジン』は、そのころ飛ぶように売れていたと思います。
ジョーの相手となったのが力石徹。そして力石徹はついに死んでしまうのです。その死に至るストーリーにするのかどうか、編集とテレビ局と壮絶なバトルが展開していたというのです。ところが、著者はついに力石徹を殺してしまうのです。すると、全国のファンから、たくさんの弔電が届き、ついには力石の葬儀までやられたのです。冗談ではありません。講堂には特設リングがつくられ、お坊さんが真面目な顔でお経をあげたのです。大勢のファンが葬儀に参列しようと行列をつくりました。まあ、私は、そこまではしていませんが、たしかに、「あしたのジョー」のインパクトは相当なものでした。このころ私はまだ20歳前です。著者は30代半ばでした。
私は、著者の丸っこい感じの絵が大好きです。ほのぼの感があり、心がゆったり、気分がよくなります。ちばあきおは弟のマンガ家です。こちらも好きでしたが、50代でなくなったとのこと、惜しいことです。
著者がマンガ家として初めて原稿料をもらったのはなんと高校2年生のとき。1万2351円でした。母親から、本当に原稿料なのかと疑われたとのことです。
著者は戦前の満州で生まれ育ち、6歳までいました。父親は印刷会社につとめていたのです。そして、敗戦後は戦前に親しくしていた中国人に助けられ、生命からがら日本に帰ってきました。その経過も見事な絵で再現されています。ですから、著者は戦争反対、平和を愛する心が人一倍、強いのです。
終戦後に満州で亡くなった日本人が24万5000人もいるとのこと。本当に哀れです。誤った国策による犠牲者です。
いま、著者は宇都宮にある大学で学生に漫画を教えているそうです。そして、東京の自宅では屋根裏のような部屋を仕事部屋としているとのこと。それは満州で中国人一家に隠まれて生活していた屋根裏と同じような気分になって居心地がいいというのです。
著者は何かにつけて要領が悪くてノロマだったとのこと。そのすばらしいマンガからは想像もできません。
ほのぼのマンガをみて、そして人と人とのつながりを大切にして生きてきた著者の話を読んで、いいマンガって、読む人を幸せな気分にしてくれることを実感しました。ありがとうございました。皆さんに強く一読をおすすめします。
(2016年12月刊。1900円+税)
2017年2月13日
乱読のセレンディピティ
(霧山昴)
著者 外山 滋比古 、 出版 扶桑社文庫
セレンディピティとは、思いがけないことを発見する能力のこと。
乱読によって、面白いアイディアが得られる。
夜ねているうちに当面、不要と思われるものが分別されて、廃棄、忘却される。頭のゴミ出しのようなものである。朝、目が覚めたとき気分が爽快なのは、頭のゴミ出しがすんだあとなので、頭がきれいになっているからだ。
まったく忘れることが出来なかったら、人間は生きていられないだろう。それを忘れていられるのは、忘却のおかげである。
どんどんものを忘れるのは健康な証拠。頭をきれいにする、はたらきやすくすることで、忘却は記憶以上のことをすることができる。知識によって人間は賢くなることができるが、忘れることによって、知識のできない思考を活発にする。その点で、知識以上の力をもっている。これを創造的忘却、新忘却と呼べる。
私は、この書評を書くことによって文章力を身につけると同時に、安心して忘れることができます。
本は買って読むべきである。私も同じ考えです。
自分の目で選んで買ってきて、読んでみて、しまった、と思うことのほうが重い読書をしたことになる。人からもらった本がダメなのは、その選択ができないから。
図書館から借りた本だと、読んでいる本に書き込みが出来ません。私は、それでは困るのです。
広く知の世界を、好奇心にみちびかれて放浪する。人に迷惑がかかるわけではないし、遠慮は無用。20年、30年と乱読していれば、ちょっとした教養を身につけることが可能となる。
私も乱読を始めて、もう40年になります。この書評を始めてから16年を過ぎました。好奇心というのは、どこまでいっても尽きないものだと、我ながら驚嘆しています。
さっと読める手頃な文庫本でした。さすが、乱読の大先輩だけあって、含蓄あふれる指摘がいっぱいです。
(2016年10月刊。580円+税)
2017年2月 6日
腸科学
(霧山昴)
著者 ジャスティン・ソネンバーグ 、 出版 早川書房
私は子どものころから胃腸、とくに腸が丈夫ではないと自覚していますので、腸のことをもっと知りたいと思って読みました。この本は腸内細菌がとても大切な役割を果たしていることを強調しています。
腸内にすむ細菌や真菌は、人体と環境間で起きる相互作用を決め、アレルギーや自己免疫疾患の発症や予防にもかかわっている。肥満や糖尿病を引き起こすのを防ぐのも、体内の炎症を抑えるのも、悪化させるのも、これらの細菌だ。
人と微生物の共生関係は人が誕生したときに始まる。人は母親の子宮内では無菌状態にあるが、外界に出たとたんに無菌の身体に菌がどんどんすみついていく。小さい子どもが何か物を口に入れようとしたら、細菌の膜が新たなマイクロバイオータを形成するために貴重な微生物を提供してくれていると考えたらいい。
腸内細菌がヒトの健康と幸福に欠かせないものだという証拠はたくさんある。人の腸内には、100兆個をこえる細菌が暮らしている。その大半は大腸をすみかとしている。大腸には、数百種をこえる細菌が全部で100兆個以上すんでいて、その内容物を小さじにすくうと、一杯あたり5000億個の密度でひしめいている。小腸内にすむ微生物は比較的に少なく、小腸の内容物を小さじにすくうと、一杯あたり、わずか5000万個しかいない。
過剰に加工された欧米の食事、抗生物質の乱用、殺菌がすすんだ家屋などによって、腸内の住人はその健康と安全が脅かされている。
ヒトは、腸内にいる微生物とずっと折り合いをつけてきた。ヒトは腸内マイクロバイオータを必要としている。腸内マイクロバイオータがあるだけで、やせた健康なマウスに体重増加が起きる。
アメリカでは、出産の3分の1以上が帝王切開である。帝王切開で産まれた人には肥満、アレルギー、セリアック病そして虫歯にかかりやすい。帝王切開で産まれた赤ちゃんには、母体の窒に綿棒で細菌を採取し、赤ちゃんの体の複数個所にそれを移植してやるといい。
母乳にふくまれる主要成分の一つは、それを飲む赤ちゃんは消化できないので、役に立たない。しかし、それはマイクロバイオータの食べ物になる。つまり、母乳は、赤ちゃんに飲ませるだけでなく、赤ちゃんの胎内にいる100兆個の細菌にも食事を提供している。
犬を飼っている家庭ではぜん息が減る。あまりに清潔な環境で子どもを育てるのは、その子の免疫系の発達にとって長期にわたって悪影響を及ぼすおそれがある。
腸内細菌を大切にすることは大切なことだということがよく分かる本でした。そのための食事レシピも紹介されています。要は食物繊維をたくさんとること、あまりに清潔すぎるのは良くないということのようです。早速、実行してみましょう。
(2016年11月刊。1900円+税)
2017年2月 4日
山小屋主人の炉端話
(霧山昴)
著者 工藤 隆雄 、 出版 山と渓谷社
私は、年に何回か近くの小山(388メートル)に登りますが、本格的な登山や山歩きはしたことがありません。きつくて、寒くて大変だろうなという気持ちから敬遠したいのです。
私にとって山小屋に泊まったというのは、50年も前の大学生のころに尾瀬の山小屋に泊まったくらいです。山小屋に近いのは、奥鬼怒の三斗小屋温泉の煙草屋旅館です。
この本は各地の山小屋の主人の聞き語りから成っています。主人といっても男性ばかりではありません。若い女性も、いわば、おばさん級もいます。みなさん、山を愛することでは天下一品。
でも、山小屋の経営っていかにも大変ですよね。とても、もうかる商売とは思えません。ですから、この本にも、身内には跡を継がせたくないという話が出てきます。当然ですね。
箱根にある金太郎茶屋に小田原少年院の子どもたちを迎えたという話は心温まるものがありました。大自然のなかを歩かせるのは、「非行」少年だけでなく、どんな子どもでもとってもいいことだと思います。自分の足で苦労して頂上までのぼりつめたとき視界360度のパノラマ(風景)は、何とも言えない感動を湧きあがらせます。
そして、ここの女主人は、何と100キロもある冷蔵庫をかついで、2時間かけて茶屋まで運び上げたというのです。信じられない力持ちです。
今では山小屋のトイレも水洗式になっているところが増えているようですね。環境保護の面からいうと、どうなるのでしょうか。費用対効果ということもあるでしょうし・・・。
山小屋生活の苦労話だけでなく、楽しい話もたくさんある、炉端話が満載の本です。
(2016年11月刊。1300円+税)