弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

人間

2013年7月22日

激走!日本アルプス大縦断

著者  NHKスペシャル取材班 、 出版  集英社

日本海側から日本アルプスの山々を8日間で踏破して太平洋側の静岡に至る、そんな過酷なレースが誌上で生々しく再現されています。読んでいるほうが息が詰まりそうです。
 NHKスペシャルで放映されて大反響を呼んだとのことですが、例によってテレビを見ない私は、そんな山岳レースがあるなんて、まったく知りませんでした。同行取材みたいにしてカメラマンがランナーを追いかけるのです。すごい話でした。
 2012年8月12日午前0時から8日間にわたる山岳レース。富山湾からスタートし、北、中央、南と続く日本アルプスを縦走し、駿河湾に至る415キロを8日以内に走りきる。剱(つるぎ)岳、立山、槍(やり)ヶ岳、木曽駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、聖(ひじり)岳といった3000メートル級の名峰を次々に制覇し、尾根筋を昼も夜も進み続ける。上り下りする累積標高差は2万7000メートル。これは富士山の登山7回分に相当する。
 このレースには賞金も賞品も一切ない。今回、6回目のレースには28人(うち女性1人)が挑戦した。平均年齢40歳。
 レースの主宰者は、選手に対して徹底した自己責任での挑戦であってほしい、誰にも迷惑をかけないことが最低条件だと強調する。
 選手は、ギリギリまで荷物を軽量化する。平均4.5キロ。簡易テント(ツェッルト)は重さ200グラム。
 主なルールとして、山小屋・旅館に宿泊できない。他者の差し入れを受けてはいけない。伴走は禁止。
問われるのは、走力、ビバーク技術、読図力、危険予測回避力。要は、山の技術力が求められる。過激な天候変化や何らかの事故発生時に迅速に対応できる能力。
30の地点が必ず通過しなければならないチェックポイントとして定められている。そこ以外はどこを走っても自由である。
 新田次郎の『剱岳・点の記』で有名な剱岳に、今や選手は麓から山頂まで6時間で登りつめる。な、ななんと・・・、すごーい。
 山岳レースでは食べられるときに食べるのが鉄則。ハンガーノック状態を避けるため。筋肉や肝臓に蓄えられている糖質が使い果たされ、体を動かすためのエネルギー源が失われてしまい、筋肉が動かなくなる。あるいは、脳に栄養が行き渡らなくなって物事を考えられなくなる、極度の低血糖状態、それが人間のガス欠状態ともいえるハンガーノックだ。
 早くエネルギーに変わる食品として、パン、もち、レーズン、はちみつ、せんべいなど。
 3時間の睡眠が不可欠。ところが1日わずか2時間ほどの睡眠でひたすら走っていく。
リタイアする勇気は、選手にもっとも求められる資質の一つだ。
低温症の要因は、低温、濡れ、風である。低温の空気がそのまま内臓器にはいると、体温低下を誘発する。
雨の中を進むときには、レインウェアの洗濯もさることながら、動き続けることが何よりも大切なこと。止まれば一気に身体が冷える。身体のもつ限り歩けばいい。あとは、眠気との戦いだ。
足の裏にできるマメとは、医学的に皮膚の摩擦や衝撃などの力が加わり続けることで表皮と真皮が引きはがされ、その間に滲出液がたまってできた水泡のこと。サイズのあった靴を選び、靴下をこまめに交換し、足をふやけさせずに乾燥した状態を長く保つようにする。
 エチオピアの有名なマラソン選手であるアベベの足は、とても柔らかかった。ゴムのような弾力をもち、地面との接触面が柔軟に伸び縮みした。その結果、衝撃が吸収され、まめが生じず、ケガもしにくい足だった。
 人間が熟睡できるのは31度。人は食後に体温が上がる。その体温が下がり始めることに眠くなる。
 幻想は不眠症の症状の一つとしてよく出てくる。脳の睡眠が十分にとられていないとき、幻覚は出やすくなる。さらに、糖分不足も幻覚を引きおこす要因となる。
なんともすさまじい山岳レースの記録でした。私自身は、ちっともしてみようとは思いませんが、こんな過酷な山岳レースに挑戦できる体力と知力を備えた人をうらやましくは思います。
(2013年4月刊。1500円+税)

2013年7月16日

卵子老化の真実

著者  河合 蘭 、 出版  文春新書

世の中のことについて、本当に知らないことが、こんなにたくさんあるんだってことを実感させてくれる本でした。
 だって、卵子って、女性がまだ胎児のときに700万個つくられて、あとは生まれてから大人になるまで減る一方だ、なんてまったく知りませんでした。ウソでしょ、そんなことが・・・、っていう思いです。
卵子をつくる卵祖細胞は、一気に一生分の卵子をつくりあげて、いなくなってしまう。女性が女の子として初潮を迎えるときには、すでに20万個に減っている。
 卵巣は、何十年も前につくられた卵を大切に寝かせていて、少しずつ起こしてつかっている。卵巣に眠っている卵子は「原始卵胞」といって、とても小さな卵胞。それが間断なく起きてきて、若い人なら1日平均30~40個、つまり月に1000個くらいは新たな原始卵胞が起きて育ちはじめる。
 小さな小さな卵子は、そのほとんどが消えてしまうが、ごく一部のものが生き続ける。3ヶ月目に入るころ、残った1%の卵子のなかから、いよいよ排卵するたった1個の卵子が決まる。一つの卵子が決まると、他の卵子は、すべてしぼんで消えてしまう。
 老化のすすんだ卵子は、数が減るだけでなく、質も低下する。
 卵子は老化すると、減数分裂が苦手となり、若い人より繁繁に、染色体の数が22本とか24本の卵子ができてしまう。
 いま、初めて出産する女性の平均年齢は30.1歳。35歳以上の高齢出産で生まれる子の割合は全国では4人に1人、東京では3人に1人となっている。
 女性の妊娠する力「妊孕(にんよう)」性」は、若いころから下がりはじめる。外見が変わっても、人の卵巣は何も変わらない。
 一度も生まないで年齢を重ねていくと、女性の生殖機能は意外なほど早く弱くなってしまう。
 江戸時代の「おしとね下がり」は30歳、それと同じ年齢が現在では、初産年齢になっている。30代も後半になると、卵巣のなかでは、卵子の老化がどんどん進行している。妊娠力とは、何といっても「若さ」だ。
 精子と卵子が出会っただけでは、妊娠は成立しない。その質、つまり生命の力が問われる。卵子が老化し、質が低下するといっても、母親の年齢と生まれてくる子どもの能力とは何の関係もない。
 高齢出産で生まれた子どもとして、夏目漱石(母は42歳)、羽生善治(母38歳)がいる。
30代後半で妊娠すると、子どもをもうけるのに、20歳の2倍の年月がかかる。
 大正14年、45歳以上の母親から生まれた子が2万人いた。これは、現在の2倍にもなる。50代の母親から生まれた子も、3648人いた。このように、昔は高齢出産が多かった。
 体外受精による出産は、いま日本では年に3万人近い。その費用は、保険の適用がなく、30~80万円ほどかかる。
子どもが3人もいる私なんて、本当に幸せものなんだなと。この本を読んで、しみじみ思ったことでした。とはいっても、今の若い女性に、早く結婚して、子どもを早くつくったほうがいいよ、なんてとても言えませんよね・・・。
(2013年6月刊。850円+税)
 6月に受験したフランス語検定の試験(1級)の結果が分かりました。63点で不合格でした。合格基準点は85点ですから、22点も足りません(150点満点)。実は、自己採点では68点でしたから、5点も自分に甘かったわけです。これは書き取り、仏作文の出来についての評価が甘すぎたということです。
 それでも、ようやく4割台に乗りました。次は5割の得点を目ざします。毎朝、書き取りを続けています。
 今は、梅本洋一氏(故人)によるフランス映画の話をNHKラジオ講座で聞いています。女優の美声が聞けたり、トリュフォー監督も出てくる楽しい講座です。

2013年7月10日

義足ランナー、義肢装具士の奇跡の挑戦

著者  佐藤 次郎 、 出版  東京書籍

いい本でした。読んでいると、ほわっと心が温まってきます。
そうだ、人間って、誰だって可能性が残されているんだよね。なんとかあきらめずにがんばったら、道は開けてくるものなんだ・・・。
日頃、テレビを見ませんので、オリンピックもパラリンピックも見たことがありません。でも、この本を読んで、パラリンピックで義足ランナーが普通に走っているところを見てみたいものだと思いました。
 義足といっても、いろいろあって、この本ではスポーツ用の板バネ義足が中心となっています。心うたれる話の展開です。交通事故とか病気のために下肢を切断してしまった人が、歩くだけでなく、走れるようになったという話です。
日本人が義足をつけて走り始めたのは1992年初夏のこと。はじめの一歩って、すごく勇気のいったことでしょうね。
はじめに走った人は、やはり日本人女性でした。なんといっても、女性のほうが男より勇気がありますよね。
 鉄道弘済会に義足部門ができたのは、国鉄(今のJR)で鉄道作業員の事故が少なくなかったことによる。うひゃあ、そうだったんですか・・・。
 義足は、人それぞれ、歩き方の特徴や筋力までも把握しておかなければ、使いやすい義足にはならない。ソケットづくり、アライメント調整、いずれにも精密な職人技を求められる仕事なのである。
 臼井二美男は、その難しさ、精妙さにやる気をかき立てられた。
簡単には身につかない。しかし、意欲しだい、工夫しだいでいくでも熟達できる。いい義足をつくれば、それはそのまま患者の喜びに直結する。これほどやりがいのある仕事はめったにない。
義足の使用者は全国に6万人。義足は25万円から40万円する。大腿義足だと40万円から80万円する。そして、本人負担分は1割。
 義足の購入申請は年に6千件近くで、修理費用の申請は7千件ほど。しかし、スポーツ用義足は保険の対象外となり、40万円ほどの負担は大きい。
義足で走るのは怖い。浮いた義足がもう一度、地面につく。その瞬間が何より怖い。恐怖とのたたかいがある。地面についた瞬間、膝がカクっと折れるんじゃないか。それが怖い。
義足の人間が100メートル走るのは、普通の人が200メートルを全力で走るくらいの負担がかかる。
 足先からではなく、腰から動くような形で歩くこと。腰を乗せた歩きは、健足、義足の双方にバランスよく体重をかけていく動きづくりに効果があった。
 走るという単純な行為が、脚を失ったものにとって、どれほど大きな意味があるものか・・・。
 反発力の少ない、ふだん使ってる義足には、ある程度は体重を乗せられたが、板バネの義足はまた一からやり直しだ。板バネの義足には軽さとしなやかさがある。
 風が顔に当たって耳のあたりから抜けていく感じ。ヒューッという風を切る音。加速すると音が高くなっていく。あの感じ、気持ちがよかった。ああ、走っているんだなと思った。
 この義足ランナーの言葉に、はっとさせられました。
 いい本を読ませていただいて、ありがとうございました。そんなお礼を言いたくなりました。
(2013年2月刊。1600円+税)

2013年7月 7日

闘う脳外科医

著者  上山 博康 、 出版  小学館

大学2年生のとき、学園闘争が勃発して・・・・、とありましたので、おおっ、これは同世代だと思って奥付を見ました。やっぱり私と同じ団塊世代でした。すごいです。毎朝8時からカンファレンスを始め、これまでの手術数は、なんと2万例以上です。信じられません。
 北海道大学の医学部を卒業し、旭川赤十字病院で20年も働いて、今は札幌の病院で仕事しています。
 クモ膜下出血は、手術によって未然に防げる。脳卒中については、イエローカードが出てきたら、要注意。大きな耳鳴り、気を失う、手足のしびれ・・・、など。
上山ドクターは内臓の絵を描くのも上手で、プロの画家並みです。
 手術するときに使う器具も上山オリジナル。他の病院で手術するときも、道具一式を持参する。腕が一流なら、道具も一流。器具の開発、手術手法の工夫をすすめている。
 著者によると、いま、脳神経外科をめぐる状況は大ピンチ。外科医が激減している。夜中まで働いているのは、脳神経外科。みんな家庭をかえりみることができない。そのうえに医師不足。信じられませんね。こんなに大変な苦労がきちんと報われないとは・・・。
 医療費の削減を撤廃して、働きに応じた報酬を支払うべき。まったく、そのとおりです。
 脳神経外科医は、顕微鏡をのぞいて、両手で針と糸を使って血管を縫いあわせる。その技術を何時間も続ける集中力、気力、体力、人間丸ごと全身力だ。すべてはトレーニングの積み重ね。毎日、一日も休まず練習する。一日休めば鈍る。
何より、患者を助けた命を救いたいという強い思い、病気とたたかう信念をもっていないとできない。
 手術のとき、もっとも必要なものは空間構成力。どこに何が、どのように位置しているのか、全体を把握する力だ。これがないと手術の設計図は描けない。
密室の手術室のなかでは長時間の緊張状態にある。看護師、麻酔医師、臨床検査技師、これらの全員が持ち場をまっとうしなければ手術はうまくいかない。
 人間の尊厳を保った状態で生存できる可能性が信じられたら、迷わず手術する。自分の受けたい手術をする。自分の受けたい手術をする。
脳手術の写真と図解もあって、イメージの湧く本でもあります。上山(かみやま)先生、健康に留意して、がんばってくださいね。
(2013年6月刊。1300円+税)

2013年6月17日

笑いのこころ、ユーモアのセンス

著者  織田 正吉 、 出版  岩波現代文庫

笑いは本当に大切だと思います。涙もストレス発散になるそうですが、やはり笑いにまさるものはないでしょう。
 私は事務所内で笑いの絶えることのないよう心がけています。みんなで気持ちよく仕事をしたいからです。もちろん、深刻な相談を受けているそばで高笑いがあるのは困ります。でも、ずっとずっと胸ふさがる深刻な話を聞いていると、それだけで気が滅入ってしまい、仕事に手がつかないというのでも困るのです。どこかで、気持ちをすっぱり切り換える必要があります。そんなときの救世主こそ、笑いです。
 この本は、この笑いを古今東西、あらゆる角度からアプローチして、その意義を真面目に考えたものです。
茶化すとは、茶にするとも言う。まじめな話を笑いごとにしてしまうこと。まじめな問題を冗談ごとにして話をはぐらかすこと。江戸時代の言葉である。
 ノーマン・カズンズは笑いによって病気も治ると主張した。しかし、笑いさえすれば病気が治ると言ったのではない。重症の患者に必要なことは不安の解消であり、笑いに代表される消極的情緒、つまり希望、信念、愛情、快活、生き甲斐などは医師と患者の協力関係を良くし、回復の見込みを大きくする。
 ギャグの原義は、口をさるぐつわでふさぐこと。セリフを忘れた役者がデタラメのセリフでごまかそうとするのを、相手がその口をふさいだことから、このギャグという言葉が生まれた。喜劇の部品としてのギャグは、日常性に馴らされた頭に瞬間的な刺激を与え、笑いを生む。
 ジェットコースターに乗ったあと、降りてくる人は例外なく笑いを浮かべている。
 緊張の持続に耐えられなくなると、無意識に緊張が緩もうとする。それを引き締めようとする気持ちと、緩めようとする気持ちが揺れ動き、笑いを呼ぶ。体温が高くなると汗が出て自立的に体温が調整されるように、緊張が続くと自然に笑いが起きて解消され、精神の平衡が保たれる。笑いは心の汗である。
 アメリカ人がパーティーや式典でスピーチをするとき、始めにジョークを言うのは、式が始まったときの固い雰囲気をほぐすため。
 ユーモアは、自然や芸術に接するのと同じように自分を見失わないための魂の武器だ。ユーモアとは、ほんの数秒間でも周囲から距離をとり、状況に打ちひしがれないために、人間という存在にそなわっている何かなのだ。それは生きるためのまやかしだ。
 大変な学識の詰まった300頁ほどの文庫本です。内容は濃いものがあります。
(2013年4月刊。1040円+税)

2013年6月10日

腸のふしぎ

著者  上野川 修一 、 出版  講談社ブルーバックス

生来、腸があまり丈夫ではありませんから、とても関心のあるテーマです。健診のとき、腸のぜん動運動が少し弱いようですと言われたときは本当にショックでした。それもあって、毎晩、寝る前には腹筋を鍛える体操をしています。
 腸には立派な神経系がある。この腸神経系は、脳からほとんど独立して行動している。腸管ぜん動運動を支える神経細胞(ニューロン)の数は1億個で、脳からつづく神経組織である脊髄のニューロン数と同じ。腸は第二の脳である。
 脳に、からだ最大規模の免疫系があるのは、腸こそが外界とやりとりをする窓口であり、からだの中でもっとも外部からの危険な侵入者と遭遇する機会が多いからだ。
腸内には100兆個をこえる細菌が星のようにきらめいている。その重さは1キログラムにもなる。
ヒトの腸は、形や働きからみて本来は肉食であったものが、進化の過程で草食も取り入れるようになったと考えられる。
 ヒトは、1年間に1トン近い食物を体内に取り入れている。空腹時の胃の容積は50~100ミリリットル。それが満腹時には2~4リットルと50倍以上に拡張する。
腸の働きは腸神経系による自律運動である。
 小腸は、胃の次に位置する消化管の中心的存在である。小腸の働きなくして、食物はからだの中に入ってはいけない。小腸の働きの中心にいるのは、1600億個の吸収細胞である。この細胞の寿命は実に短く、誕生して死ぬまで1.5日である。しかし、代わりの細胞がすぐに交代要員として用意されている。
 大腸には小腸と異なり、ひだや突起は存在しない。口から侵入した病原菌のうち、食中毒菌などはかなりの部分が胃酸によって殺される。しかし、強い胃酸に耐えた病原菌は十二指腸を経て、小腸へ侵入する。小腸に120~130個あるバイエル板は、病原菌の姿や形の情報を収集し、抗体を生産する細胞をつくり出す最強の基地である。
 腸内細菌は、もう一つの生体器官である。
ヒトの胎児は、母親の子宮にいるあいだは無菌状態で大きくなる。
 腸内細菌は、平均して4~5日間、ヒトの体内に滞在したあと、体外に排出される。腸内細菌は、ヒトの免疫力を高める。
腸というのは、からだの中にある外界なのですね。毎日毎日、お世話になっている腸の話です。とても興味深い内容でした。
(2013年5月刊。860円+税)

2013年4月27日

動じない心

著者  宮城 泰年 、 出版  講談社

京都に聖護院があることは知っていました。昔、日弁連の夏期研修に参加したとき、聖護院別荘(ホテル)に泊まったこともあります。日弁連元会長中坊公平氏の関係するお寺だと聞いていました。
 聖護院は京都にある本山修験宗。山伏の総本山。これは知りませんでした。
 白河上皇が熊野詣するときに先達をつとめた功績で聖護院を賜ったとのこと。山伏を統括し、江戸時代には本山派修験と称して、修験道の一大勢力となった。今でも、毎年、100人ほどの山伏が列をなして吉野から熊野に向かい、厳しい奥駈修行をしている。
 現在の山伏にプロは少ない。本山修験宗で200人、全教団をあわせてもプロは1000人ほど。ほとんどの山伏は、ふだんは会社員であったり。こんな在家信者が全国に1万5000人ほどいる。
 1931年(昭和6年)生まれの著者は25歳のときに山伏となった。以来、50有余年。
山伏とは、山に伏して修行する者のこと。自然の中に入ると、とりわけ山中では、五感はいやでも研ぎすまされる。黙々と歩いていると、いつのまにか雑念が消える。すると、肉体的には疲れていても、感覚は鋭敏になる。わずかな枝葉の動きや物音もたちまち目や耳に入るし、土や風が運んでくる匂いも分かる。空気の変化は肌で感じるし、ひょっとしたら言葉にならないあの妙な感覚を、第六感が察知してくれる。
 昔も今も、行者は山に入ると、「サーンゲ、サンゲ、ロッコンショウジョウ」と唱えながら歩く。掛け念仏だ。サンゲとは懺悔。この世に生を受けてから今日までの罪過を神仏の前にさらけ出すこと。ロッコンショウジョウとは、六根清浄。眼、耳、鼻、舌、身、意の六つの気管を指して「六根」という。
 掛け念仏を一心不乱に唱え、足を一歩でも前へと進める。すると、いつしか身も心も掛け念仏に同化していく。このようにして掛け念仏の意味する境地へと自然に引き上げられていくのが、山の持つ力なのである。
 ひたすら歩く。全神経を足元に集中させる。みなに遅れまいと必死についていく。そうやって無心になれる。山伏の装束は買える。15万円から25万円くらいで買える。
法螺貝は大きな見だが、それにしても出る音はさらに大きい。また、山中では空気が澄み、適当な湿度があるので、音の通りがとてもよい。だから、優に5キロメートルは届く。そんなことから、法螺を吹くには、針小棒大、つまり物事を実際よりも大げさに言うという意味がある。しかし、それは決して嘘をつくことではない。
 動じない心とは何か?
 それは動かされない心であり、また自在に動ける心でもある。動じる心とは動かされる心であり、同時に自在に動けない心である。動揺や迷いは人生に付きもの。自分を動揺させているもの。迷わせているものが何か、その正体をしっかり見きわめることが大切になる。 正体のひとつは、真実を見きわめられずまどわされる心、もうひとつは我執やこだわりから道理を受け容れられない心である。
 五感が曇っていると、見るもの聞くものが正しく受けとれず、真実でないものに惑わされる。心に真実、真理の芯がなければ、空洞のまわりの堂々のめぐりとなり、果ては自分の不満や苦しみを他人や物事のせいにして避難する。
 自分を動揺させ侵す対象を心と五感を研ぎすまして正しく唱え、真実を受けいれる心をもてば、いっときの動揺であっても軸を失い、倒れることはない。軸のある心は倒れることなく、自在に動かせるのだ。
 いったん「動じない心」を獲得しても、放っておけば心の迷いやチリはすぐに積もる。ときどき掃除する必要がある。それが「六根清浄」である。山は、これにまことにふさわしい場所なのである。
 山伏の行の意義が分かりました。
(2012年12月刊。1500円+税)

2013年4月14日

患者も医療者も幸せになる医療をめざして

出版  患者の権利法を作る会 

昨年11月のシンポジウムが冊子になっています。つまみ喰い的に、いくつか内容を紹介します。
 アメリカの州の中にはアイムソーリー法というのを定めている州がある。そうです。そう言えば、アメリカでは交通事故にあったとき、決して日本の「すみません」という感覚で「アイムソーリー」と言ってはいけないそうだと聞いたことがあります。「アイムソーリー」と言うと、自分に非があることを認めたことになって、あとで不利になるというのです。でも、共感を表明するのと過失を認めるのでは違いますよね、ですから、アメリカでも、アイムソーリーと言ったからといって過失を認めたことにはならない。そのことを州法で定めたというのです。そんな法律がなければ、アイムソーリーとは簡単に言えないということでもあります。悪い結果に対して、素直に残念だ、申し訳ないと言えるようにしようという動きです。いいことです。
 患者や遺族が病院・医師を相手として訴訟を起こす理由は三つある。ひとつは、病状の急激な変化、また死亡に至る経緯が不自然であり、その不信感を払拭する説明がなかったとき。二つ目は、病状説明が二転三転するとき。三つめは、事故後の対応があまりにも不誠実または閉鎖的なとき。そうなんですよね。まったくそのとおりだと思います。
 患者・遺族側は、事故が起きたら、隠蔽することなく全てを正直に公開してほしい。この点も、まったく同感です。
最後に、患者の権利法を定めようというとき、そこには患者の権利だけが書かれていると誤解されていることが多いと指摘されています。もちろん、患者の権利だけでなく責務についても触れられていますし、それ以外に「共に」「関係者みんなで」とあるのです。
 お互いにまだまだ知るべきことが多いように改めて思いました。
(2013年3月刊。非売品)

2013年3月 2日

僕の死に方

著者  金子 哲雄 、 出版  小学館

私はテレビを見ませんので、流通ジャーナリストとしてテレビによく出ていたらしい著者を見たことはありません。
 41歳で肺がん(肺カルチノイド)でなくなった著者が死の間際まで書き続けた本です。壮絶な、しかし、さわやかに明るい読後感のある本になっています。
 バリバリ仕事をしていた著者が長くせきに悩まされ、顔にむくみが出て、病院で検査してもらったところ、「末期の肺がんです」と宣告されたのでした。
 肺カルチノイドは、治療法のないタイプ。肺だけではなくすでに肝臓や骨などにも転移していた。肺の中に9センチ大の腫瘍があり、気管を圧迫している。いつ死んでもおかしくない。肺を全摘出することになったら、生きていくことはできない。
女性週刊誌の中吊りをよく見ると、役に立つ。中吊りの見出しは、編集部の知恵を結集させた、言うなれば「言葉のエリート」のもつ、数もスペースも限られた中で、どんな言葉で読者をひきつけるか、中吊りの見出しは、だからこそ時代をあらわす最大公約数といえる。
 朝や昼のテレビワイドショーは、女性視点でつくられている。午前8時前そして午後10時以降のニュースは、男性視点から番組がつくられている。
 牛肉の値段の高い安いが、その地域の商圏の経済力を端にあらわしている。その地域の経済力が高ければ当然、高い肉が売れる。田園調布なら100グラム800円。庶民の町では、100グラム298円。100グラム800円の牛肉を食べる人は、マンションも3LDK、8000万円くらいに住む。スーパーのお刺身が3点盛り398円には意味がある。
 週刊誌350円のなかに、芸能、事件ニュース、生活実用の3点をバランスよく盛り込む。すると、お得に感じてもらえる。そうでないと、350万円では高いという反応が返ってくる。
 このところ、タイムセールの1パック98円の卵を買うために、10時開店のスーパーに朝8時から行列ができる。その多くは年金生活者。これは景気の悪い証拠。景気のいいときは、行列ができても、開店30分前。
この10年、治療費を支払えない患者が急増している。
 著者は、自分の葬儀を全部、自分で準備したのです。信じられません。
葬儀の準備を自分でするなんて、あまりにも淡々と自分の死を受けとめているように思えるかもしれないが、がん宣告のあとは動揺が続いた。ここまでの気持ちになるまでには、ずいぶん時間がかかった。高野山大学大学院に入学したのも、そのせいだ。
 生きるか死ぬかについて真剣に学びたかった。正しい死に方を勉強したかった。
 がん宣告後の1週間は、ひたすら泣いた。
 死の恐怖から救い出してくれたのは、仕事だった。
 そうやって著者は、最後までテレビやラジオ、そして全国をかけまわっていたのでした。
 最後に、通夜・告別式の会葬礼状を著者本人が書いています。ここまで用意していたのです。
 今回、41歳で人生における早期リタイア制度を利用させていただくことに対し、感謝申し上げる。
 とあります。ユーモアも忘れないところがすばらしいですね。死の前日の日付になっています。とても読みごたえのある本でした。
(2013年1月刊。1300円+税)
 朝、雨戸を開けると、水仙の白い花(真ん中に黄色)が庭のあちこちに咲いているのが目に飛び込んできます。そして、白梅が花盛りです。なぜか紅梅は見劣りしています。
 チューリップの芽がぐんぐん伸びています。春に近さを実感します。
 そんな春ですが、花粉症には日夜、悩まされています。目はかゆいし、鼻は詰まるし、ティッシュ・ペーパーが手放せません。
 今年1月からヨーグルト(BB536入り)を250グラムずつ食べていて、花粉症予防になると思ってがんばったのですが、今年も発症してしまいました。
 めげずに仕事を続けています。

2013年2月17日

笑いは病を防ぐ特効薬

著者  松本 光正 、 出版  芽ばえ社

私の事務所の自慢の一つは笑い声が絶えないことです。深刻な相談を受けることが多く、ともすれば暗くなりがちですが、そこを明るい笑いによって吹き飛ばし、ストレスを溜めないように心がけています。
 人生、何事も前向きにとらえて生きていけば、きっと道は開ける、いいことがあるというのが、私の信条です。まっとうな努力が必ずしも報われるとは限りません。それでも、前を向いて、明けない夜はないという確信のもとに一歩一歩あゆみを進めていくことにしています。
 この本では、私より5歳も年長の医師が、どんなサプリメントよりも笑いが優ることを長年の医師体験にもとづいてやさしく語り明かしています。
 笑いは、どんな病にも効く万能薬だ。万能のサプリメント、総合ビタミン剤だ。そして、連効性があり、おまけに無料。副作用は決してなく、あるのは「福の作用」のみ。
 下手に健康診断を受けて、その結果の数値に心配するほうが、ずっと身体に悪い。
 マイナス思考が心筋梗塞を起こす。脳梗塞も、マイナス思考が要因となることがある。
 がんもストレスで説明できる。心が病めば、がんが生まれる。心が病めば、がんは進行する。
 毎日、だれでも1万個のがん細胞が生まれている。そのがん細胞を殺してくれるのがNK細胞。このNK細胞の活性度を高めるのが笑いだ。このことは実証されている。
 マイナス思考が、がんを発生させる。笑いこそが、がん予防であり、治療である。がんとたたかう武器は「笑い」だ。
病気は、「病」を気にするところから始まる。病を気に病むと、なかなか治らない。治らないのは、病だけでなく、病気だから。こんな病なんて、すぐに治るさ、大丈夫だと思う気持ちが大切だ。
 笑いって、毎日の生活で欠かせないものですよね。
(2012年12月刊。1000円+税)

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