弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

人間

2013年9月24日

リンパの科学

著者  加藤 征治 、 出版  講談社ブルーバックス新書

リンパとは、血管から周囲の組織に漏れ出た成分である「組織液」を吸収したもので細胞成分(主にリンパ球)と液体成分(リンパ漿)が生まれる。
 リンパ官系の源流は、組織液を吸収する毛細リンパ官である。
 心臓という「ポンプ」をもたないリンパ管では、からだの位置(重力)や姿勢によって、リンパ管周囲の筋肉などの組織が動くことにともなって受動的な管壁の収縮が生じ、くねるような蠕動(ぜんどう)運動をしたり、弁の開閉によってリンパが行ったり来たりする振り子運動などによって運ばれる。
 リンパは、リンパ節内でいろいろの生体反応を起こしながらも、やがて静脈に合流するまで流れ続けていく。リンパは、いくつもの細いリンパ管が合流した集合リンパ管に集められ最終的には血管に入って血液に戻る。
 リンパは血清に比べて、総タンパク量が少ない。リンパは分子量の低いアルブミンのほうが、グロブリンより60%多い。リンパのほうが、血液より粘土製が低く、さらさらで流れやすいため、ゆっくり流れていても循環できる。
 リンパ管を流れるリンパの中の血球をリンパ球と呼ぶ。
 リンパは、その大部分が液体成分であり、赤血球をほとんど含まないため、薄い黄色である。リンパの中にある血球は白血球であり、その大多数がリンパ球である。リンパが身体中を一周して元に戻るまでには、12時間かかる。リンパの流れを手助けするためには足首をぐるぐる回したり、ふくらはぎをもんだりするのが効果的。
 胸管やリンパ節の輸出リンパ管内のリンパは、免疫担当細胞である多数のリンパ球を含んでおり、全身をめぐって、局所の臓器における免疫反応に働いている。
 リンパ節から胸管に流れるリンパは、免疫反応を起こすための免疫担当細胞の供給という観点から欠くべからざる存在である。
 リンパ組織は、体内における警備室のようなところで、細胞や異物などの抗原が入ってくると、まず警備員として最前線で働くマクロファージ(大食細胞)がそれらを取り込み、その情報がリンパ球に伝えられる。細胞にとりこまれた抗原は、リンパ管内のリンパに乗って、近くのリンパ節に運ばれる。リンパ節内では、「免疫戦争」(抗原-抗体反応)が起こり、特異的な抗体(タンパク質)が産生される。そのときリンパ節の肥大(ぐりぐり)が確認できる。
 大切な人体内のリンパのことを知ることのできる本です。
(2013年6月刊。900円+税)

2013年8月12日

牛乳とタマゴの科学

著者  酒井 仙吉 、 出版  講談社ブルーバックス新書

母牛が乳を与えるのは自分の子牛のみで、血のつながりのない子牛には決して与えない。馬が後ろ脚をうしろにけるのと違って牛は前にける。だから、自分の子牛以外、たとえ人でも乳房に触れるのは容易ではなく、むしろ危険。はじめに子牛に乳を飲ませ、少し早めに親から引き離し、そのあと搾乳する。再び親牛に近づかないよう、子牛は親牛の前足につないでおく。
 キリスト教の創始者のキリスト、イスラム教の祖マホメット、仏教の開祖ブッタは、例外なく牛乳と乳製品を礼賛している。もともと日本本土に牛はいなかった。縄文時代の末期に大陸から運ばれてきた。
 大陸で起きた争乱などによって移住者がでて、日本に馬や牛、ブタ、ニワトリをもたらした。近江(滋賀県)では、農耕の役目を終えると肥えさせ食べたようだ。干し肉、粕漬け、味噌漬けにして、12月から1月にかけて江戸に運ばれた。これが近江牛。
牛乳の完全制は子牛にとってであって、人にとってではない。牛乳は乳児にとって母乳の代わりにはならない。
 有用菌とされる乳酸菌であっても、胃に入れると胃酸によって99.9%は胃で消滅する。
 哺乳類は、ブドウ糖を細胞に無害な乳糖に変えることで子に大量の炭水化物を与えている。子牛が乳を飲むのは1日に2回、ウサギは、1日に1回でしかない。
 人は生まれてすぐ母親の初乳から特別な物質を受けとる。そのため、初乳を飲んだ新生児は感染症をふくめて病気になる割合が格段に低い。初乳には病気を予防するという重要な役割がある。母牛の病気抵抗性が初乳によって子牛に伝えられる。しかし、初乳は出荷禁止。それは、殺菌のために加熱すると、免疫グロブリンが固まるので、市販できないから。
 ニワトリは、ヒナから人手で育ててもなつかない。ただし、無視もしない。ニワトリの性質は珍しい。人を恐れない。腹が減っても催促せず、こびもしない。とにかく雄は気位が高く、闘争心が旺盛。鳴き声は独特で、姿は美しい。自分でエサを探すので、飼う手間はかからない。カゴに入れてもおとなしい。寿命は10年以上。
ニワトリのタマゴが人の食用になるのは江戸時代から。江戸では、ゆで玉子が売られていた。1個50文(200円相当)だった。このころは、そば1杯16文だった。安くはない。江戸で、だし巻きタマゴは高級料理だった。一人あたりの年間消費量をみると、日本は主要先進国のなかで際立って多い。
 卵は、洗わなければ、2ヶ月は保有して生食が可能。本当でしょうか・・・。あまり試したくはありませんよね。
いまのニワトリはタマゴ生産機械と化している。体重2キログラムのニワトリが1年間で280個ほど(17~20キログラム)のタマゴを産む。
 産卵間隔は25時間。鶏舎では、14時間点灯、10時間消灯がやられている。
なぜ、ニワトリは年間280個で十分ではないのか・・・。なーるほど、これってちょっとしたギモンですよね。
牛乳を飲むと、お腹がゴロゴロいうのは、乳糖不耐症と呼ばれるものがあるからです。そして、日本人は過去、牛乳を利用していませんでしたので、日本人の大半は乳糖不耐症である。
 タマゴを食べると、高血圧や心筋梗塞になると騒がれた。これは、タマゴにとって、とんでもない濡れ衣だった。
 毎日の牛乳とタマゴの秘密に迫った面白くて、ためになる本でした。
(2013年5月刊。900円+税)
 妹尾河童原作の映画『少年H』をみました。
 とてもリアルに戦争の怖さが再現されていました。次第に市民生活が息苦しくなっていく様子、政府にタテつく者が突然逮捕されて、まるで不向きの人が兵隊にとられることの不幸がよく描けています。そして、戦争によってすべてを失い、虚脱感に陥り、そこから抜け出すことの大変さもしっかり伝わってきました。
 いま、安倍首相の言うなりに世の中が動いていくと、こうなるよという具体的なイメージもつかむことのできる素晴らしい映画です。ぜひ、ご覧ください。

2013年8月 5日

ボケたって、いいじゃない

著者   関口 祐加 、 出版  飛鳥新社

とても新鮮で、かつ、ショッキングな本でした。
 まず第一に、アルツハイマーになった実母の病態を実の娘が映像で記録して、映画館で上映される映画として完成させたということです。これって、本当にすごいことですよね。日頃から、親子のあいだで一定の距離感覚がなければ、とても考えつかないし、実行できなかったことでしょうね。
 第二に、自分のことが映画になったことを知ったアルツハイマーの母親の反応が衝撃的です。母親が何と言ったと思いますか・・・?
 「テレビに出ていたって、あんた、有名なの?」
 「なんか、わたすも一緒に出ているらしいんだよ」
 「へえ、ま、せいぜいあたすのネタで稼いでちょうだい」
 娘が自分のボケをネタに映画をとっていて、それで有名になってお金を稼いでいるのをアルツハイマーの母親が理解して、それを許し、娘とともに笑うのです。これって、すごいことですよね。とても信じられません。
 第三に、アルツハイマー病にかかるとは、どういうことかを知りました。
アルツハイマー病になると、その人の脳の働きが全部ダメになってしまうと思われがち。しかし、初期から中等度では、脳の働きが悪くなっているのは5%以下だけ。物忘れや判断など、ほんの一部だけ。残りの95%以上は正常な脳の働きができる。そこで喜んだり、戸惑ったり、怒ったりする。そこを忘れてしまうと正しいアプローチはできない。
 なーるほど、これは目からウロコが落ちた気がしました。
 アルツハイマーの初期は、本人もいったい何が起こっているのかが分からず、怖がっているのがヒシヒシと伝わってくる。一番怖いのは、本人なんだ・・・。自分が忘れてしまっていること、分からなくなってしまっていることは、本人も家族も認めたくない。認めるのが怖い。できないことを知られたくない。分からなくなることが怖いという思いが、外出から遠のかせている。
 一見すると明るい感じというのは、典型的なアルツハイマーの所見だ。そして、数字に強い。計算問題はできることが多い。
 そして、いままで抑えられていた喜怒哀楽が、認知症によってストレートに出るようになる。しつこくふつふつと胸の中でくすぶって消えなかった火種が、ついに発火した。ようやく認知症の力を借りて表に出てきた。本当は、母親は料理も商売も風呂も嫌いだった。ガリ勉で友だちもいなかった。そんな自分を押し殺して、隠して、一生けん命に生きてきた。それは認知症によって解放され、いいたいことを言い、やりたいことしかやらなくなった。
「うっせえなー!」は自由人になれた証拠なのである。
介護をしている人に一番必要なのは、精神の健全だと考える。たとえば、自分の好きな仕事や趣味を続けているとか、自分の時間をもつことがとても大切だ。そして、何よりも感受性を磨くこと、みずみずしい感受性と好奇心を保つこと。
 老化現象とは、イマジネーションがなくなっていくこと。
 すばらしい本です。あなたに一読を強くおすすめします。読んで損することは絶対にありません。だって、あなたも私も、いつかは到来する可能性のある身なのですから・・・。
(2013年6月刊。1333円+税)

2013年7月29日

赤ちゃん学を学ぶ人のために

著者 小西 行郎・遠藤 利彦 、 出版  世界思想社

ヒトの赤ちゃんを知るということは、人間を知るということです。
 赤ちゃんは、自ら動くことによって他者や周囲の環境を認知する。
 赤ちゃんの脳は、ムダなシナプスをバランスよく削りながら、成長する。このコンセプトは、何でもかんでも刺激すればするほど、脳は成長するという従来からあった考え方に警鐘を鳴らすものだ。
 赤ちゃん学のもっとも大きな成果は、まったく無力だと思われていた胎児期から新生児期(生後1ヶ月まで)・乳児期(生後1年まで)の赤ちゃんに、きわめてすぐれた能力があることを発見したことにある。
超音波によって、胎児が笑っているような表情を示していることが明らかになった。これは、生まれてきたときに親に愛情を喚起するための方法を準備している証拠ではないかと考えられている。
 新生児微笑というのは、皆さん、私を可愛がってね、というメッセージだそうです。なんと、それを胎児の段階から準備していたというのです。驚きました・・・。
 胎児の睡眠にも、レム睡眠、ノンレム睡眠がすでにある。視聴覚、味覚そして触覚は胎児期にすでに機能している。つまり、胎児は、音を弁別し、母親の声を学習している。赤ちゃんは「白紙の状態で生まれる」わけではない。
 赤ちゃん学の進歩は、何でもできない赤ちゃんという固定概念崩しただけでなく、むしろ大人(親)は、赤ちゃんによって育児されているのではないかという側面を明らかにした。
 赤ちゃんは、生後すぐに目にした母親の顔を記憶して、他人の顔と見分ける能力をもっているようだ。6ヶ月の赤ちゃんは、ヒトの顔でもサルの顔でも見分けることができる。
 赤ちゃんが人見知りするというのは、顔を見分ける能力が身についた証拠だ。
赤ちゃんは、生後すぐに自発的な微笑を示す。そして、生後6~7週間たつと、赤ちゃんは社会的な微笑をあらわす。
 赤ちゃんは、眠っているあいだに身体の中で、あちこちでいろんな活動をすすめている。全身の細胞が点検され、修理され、新しくつくられている。寝る子は育つ。このたとえのように、ぐっすり眠っている間に、成長ホルモンがまとめて分泌されるからである。
 赤ちゃん学の参考文献がたくさん紹介されています。
 人間の不思議さを究明したい人にとって、よい手引き書となっています。
(2012年10月刊。2400円+税)

2013年7月22日

激走!日本アルプス大縦断

著者  NHKスペシャル取材班 、 出版  集英社

日本海側から日本アルプスの山々を8日間で踏破して太平洋側の静岡に至る、そんな過酷なレースが誌上で生々しく再現されています。読んでいるほうが息が詰まりそうです。
 NHKスペシャルで放映されて大反響を呼んだとのことですが、例によってテレビを見ない私は、そんな山岳レースがあるなんて、まったく知りませんでした。同行取材みたいにしてカメラマンがランナーを追いかけるのです。すごい話でした。
 2012年8月12日午前0時から8日間にわたる山岳レース。富山湾からスタートし、北、中央、南と続く日本アルプスを縦走し、駿河湾に至る415キロを8日以内に走りきる。剱(つるぎ)岳、立山、槍(やり)ヶ岳、木曽駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、聖(ひじり)岳といった3000メートル級の名峰を次々に制覇し、尾根筋を昼も夜も進み続ける。上り下りする累積標高差は2万7000メートル。これは富士山の登山7回分に相当する。
 このレースには賞金も賞品も一切ない。今回、6回目のレースには28人(うち女性1人)が挑戦した。平均年齢40歳。
 レースの主宰者は、選手に対して徹底した自己責任での挑戦であってほしい、誰にも迷惑をかけないことが最低条件だと強調する。
 選手は、ギリギリまで荷物を軽量化する。平均4.5キロ。簡易テント(ツェッルト)は重さ200グラム。
 主なルールとして、山小屋・旅館に宿泊できない。他者の差し入れを受けてはいけない。伴走は禁止。
問われるのは、走力、ビバーク技術、読図力、危険予測回避力。要は、山の技術力が求められる。過激な天候変化や何らかの事故発生時に迅速に対応できる能力。
30の地点が必ず通過しなければならないチェックポイントとして定められている。そこ以外はどこを走っても自由である。
 新田次郎の『剱岳・点の記』で有名な剱岳に、今や選手は麓から山頂まで6時間で登りつめる。な、ななんと・・・、すごーい。
 山岳レースでは食べられるときに食べるのが鉄則。ハンガーノック状態を避けるため。筋肉や肝臓に蓄えられている糖質が使い果たされ、体を動かすためのエネルギー源が失われてしまい、筋肉が動かなくなる。あるいは、脳に栄養が行き渡らなくなって物事を考えられなくなる、極度の低血糖状態、それが人間のガス欠状態ともいえるハンガーノックだ。
 早くエネルギーに変わる食品として、パン、もち、レーズン、はちみつ、せんべいなど。
 3時間の睡眠が不可欠。ところが1日わずか2時間ほどの睡眠でひたすら走っていく。
リタイアする勇気は、選手にもっとも求められる資質の一つだ。
低温症の要因は、低温、濡れ、風である。低温の空気がそのまま内臓器にはいると、体温低下を誘発する。
雨の中を進むときには、レインウェアの洗濯もさることながら、動き続けることが何よりも大切なこと。止まれば一気に身体が冷える。身体のもつ限り歩けばいい。あとは、眠気との戦いだ。
足の裏にできるマメとは、医学的に皮膚の摩擦や衝撃などの力が加わり続けることで表皮と真皮が引きはがされ、その間に滲出液がたまってできた水泡のこと。サイズのあった靴を選び、靴下をこまめに交換し、足をふやけさせずに乾燥した状態を長く保つようにする。
 エチオピアの有名なマラソン選手であるアベベの足は、とても柔らかかった。ゴムのような弾力をもち、地面との接触面が柔軟に伸び縮みした。その結果、衝撃が吸収され、まめが生じず、ケガもしにくい足だった。
 人間が熟睡できるのは31度。人は食後に体温が上がる。その体温が下がり始めることに眠くなる。
 幻想は不眠症の症状の一つとしてよく出てくる。脳の睡眠が十分にとられていないとき、幻覚は出やすくなる。さらに、糖分不足も幻覚を引きおこす要因となる。
なんともすさまじい山岳レースの記録でした。私自身は、ちっともしてみようとは思いませんが、こんな過酷な山岳レースに挑戦できる体力と知力を備えた人をうらやましくは思います。
(2013年4月刊。1500円+税)

2013年7月16日

卵子老化の真実

著者  河合 蘭 、 出版  文春新書

世の中のことについて、本当に知らないことが、こんなにたくさんあるんだってことを実感させてくれる本でした。
 だって、卵子って、女性がまだ胎児のときに700万個つくられて、あとは生まれてから大人になるまで減る一方だ、なんてまったく知りませんでした。ウソでしょ、そんなことが・・・、っていう思いです。
卵子をつくる卵祖細胞は、一気に一生分の卵子をつくりあげて、いなくなってしまう。女性が女の子として初潮を迎えるときには、すでに20万個に減っている。
 卵巣は、何十年も前につくられた卵を大切に寝かせていて、少しずつ起こしてつかっている。卵巣に眠っている卵子は「原始卵胞」といって、とても小さな卵胞。それが間断なく起きてきて、若い人なら1日平均30~40個、つまり月に1000個くらいは新たな原始卵胞が起きて育ちはじめる。
 小さな小さな卵子は、そのほとんどが消えてしまうが、ごく一部のものが生き続ける。3ヶ月目に入るころ、残った1%の卵子のなかから、いよいよ排卵するたった1個の卵子が決まる。一つの卵子が決まると、他の卵子は、すべてしぼんで消えてしまう。
 老化のすすんだ卵子は、数が減るだけでなく、質も低下する。
 卵子は老化すると、減数分裂が苦手となり、若い人より繁繁に、染色体の数が22本とか24本の卵子ができてしまう。
 いま、初めて出産する女性の平均年齢は30.1歳。35歳以上の高齢出産で生まれる子の割合は全国では4人に1人、東京では3人に1人となっている。
 女性の妊娠する力「妊孕(にんよう)」性」は、若いころから下がりはじめる。外見が変わっても、人の卵巣は何も変わらない。
 一度も生まないで年齢を重ねていくと、女性の生殖機能は意外なほど早く弱くなってしまう。
 江戸時代の「おしとね下がり」は30歳、それと同じ年齢が現在では、初産年齢になっている。30代も後半になると、卵巣のなかでは、卵子の老化がどんどん進行している。妊娠力とは、何といっても「若さ」だ。
 精子と卵子が出会っただけでは、妊娠は成立しない。その質、つまり生命の力が問われる。卵子が老化し、質が低下するといっても、母親の年齢と生まれてくる子どもの能力とは何の関係もない。
 高齢出産で生まれた子どもとして、夏目漱石(母は42歳)、羽生善治(母38歳)がいる。
30代後半で妊娠すると、子どもをもうけるのに、20歳の2倍の年月がかかる。
 大正14年、45歳以上の母親から生まれた子が2万人いた。これは、現在の2倍にもなる。50代の母親から生まれた子も、3648人いた。このように、昔は高齢出産が多かった。
 体外受精による出産は、いま日本では年に3万人近い。その費用は、保険の適用がなく、30~80万円ほどかかる。
子どもが3人もいる私なんて、本当に幸せものなんだなと。この本を読んで、しみじみ思ったことでした。とはいっても、今の若い女性に、早く結婚して、子どもを早くつくったほうがいいよ、なんてとても言えませんよね・・・。
(2013年6月刊。850円+税)
 6月に受験したフランス語検定の試験(1級)の結果が分かりました。63点で不合格でした。合格基準点は85点ですから、22点も足りません(150点満点)。実は、自己採点では68点でしたから、5点も自分に甘かったわけです。これは書き取り、仏作文の出来についての評価が甘すぎたということです。
 それでも、ようやく4割台に乗りました。次は5割の得点を目ざします。毎朝、書き取りを続けています。
 今は、梅本洋一氏(故人)によるフランス映画の話をNHKラジオ講座で聞いています。女優の美声が聞けたり、トリュフォー監督も出てくる楽しい講座です。

2013年7月10日

義足ランナー、義肢装具士の奇跡の挑戦

著者  佐藤 次郎 、 出版  東京書籍

いい本でした。読んでいると、ほわっと心が温まってきます。
そうだ、人間って、誰だって可能性が残されているんだよね。なんとかあきらめずにがんばったら、道は開けてくるものなんだ・・・。
日頃、テレビを見ませんので、オリンピックもパラリンピックも見たことがありません。でも、この本を読んで、パラリンピックで義足ランナーが普通に走っているところを見てみたいものだと思いました。
 義足といっても、いろいろあって、この本ではスポーツ用の板バネ義足が中心となっています。心うたれる話の展開です。交通事故とか病気のために下肢を切断してしまった人が、歩くだけでなく、走れるようになったという話です。
日本人が義足をつけて走り始めたのは1992年初夏のこと。はじめの一歩って、すごく勇気のいったことでしょうね。
はじめに走った人は、やはり日本人女性でした。なんといっても、女性のほうが男より勇気がありますよね。
 鉄道弘済会に義足部門ができたのは、国鉄(今のJR)で鉄道作業員の事故が少なくなかったことによる。うひゃあ、そうだったんですか・・・。
 義足は、人それぞれ、歩き方の特徴や筋力までも把握しておかなければ、使いやすい義足にはならない。ソケットづくり、アライメント調整、いずれにも精密な職人技を求められる仕事なのである。
 臼井二美男は、その難しさ、精妙さにやる気をかき立てられた。
簡単には身につかない。しかし、意欲しだい、工夫しだいでいくでも熟達できる。いい義足をつくれば、それはそのまま患者の喜びに直結する。これほどやりがいのある仕事はめったにない。
義足の使用者は全国に6万人。義足は25万円から40万円する。大腿義足だと40万円から80万円する。そして、本人負担分は1割。
 義足の購入申請は年に6千件近くで、修理費用の申請は7千件ほど。しかし、スポーツ用義足は保険の対象外となり、40万円ほどの負担は大きい。
義足で走るのは怖い。浮いた義足がもう一度、地面につく。その瞬間が何より怖い。恐怖とのたたかいがある。地面についた瞬間、膝がカクっと折れるんじゃないか。それが怖い。
義足の人間が100メートル走るのは、普通の人が200メートルを全力で走るくらいの負担がかかる。
 足先からではなく、腰から動くような形で歩くこと。腰を乗せた歩きは、健足、義足の双方にバランスよく体重をかけていく動きづくりに効果があった。
 走るという単純な行為が、脚を失ったものにとって、どれほど大きな意味があるものか・・・。
 反発力の少ない、ふだん使ってる義足には、ある程度は体重を乗せられたが、板バネの義足はまた一からやり直しだ。板バネの義足には軽さとしなやかさがある。
 風が顔に当たって耳のあたりから抜けていく感じ。ヒューッという風を切る音。加速すると音が高くなっていく。あの感じ、気持ちがよかった。ああ、走っているんだなと思った。
 この義足ランナーの言葉に、はっとさせられました。
 いい本を読ませていただいて、ありがとうございました。そんなお礼を言いたくなりました。
(2013年2月刊。1600円+税)

2013年7月 7日

闘う脳外科医

著者  上山 博康 、 出版  小学館

大学2年生のとき、学園闘争が勃発して・・・・、とありましたので、おおっ、これは同世代だと思って奥付を見ました。やっぱり私と同じ団塊世代でした。すごいです。毎朝8時からカンファレンスを始め、これまでの手術数は、なんと2万例以上です。信じられません。
 北海道大学の医学部を卒業し、旭川赤十字病院で20年も働いて、今は札幌の病院で仕事しています。
 クモ膜下出血は、手術によって未然に防げる。脳卒中については、イエローカードが出てきたら、要注意。大きな耳鳴り、気を失う、手足のしびれ・・・、など。
上山ドクターは内臓の絵を描くのも上手で、プロの画家並みです。
 手術するときに使う器具も上山オリジナル。他の病院で手術するときも、道具一式を持参する。腕が一流なら、道具も一流。器具の開発、手術手法の工夫をすすめている。
 著者によると、いま、脳神経外科をめぐる状況は大ピンチ。外科医が激減している。夜中まで働いているのは、脳神経外科。みんな家庭をかえりみることができない。そのうえに医師不足。信じられませんね。こんなに大変な苦労がきちんと報われないとは・・・。
 医療費の削減を撤廃して、働きに応じた報酬を支払うべき。まったく、そのとおりです。
 脳神経外科医は、顕微鏡をのぞいて、両手で針と糸を使って血管を縫いあわせる。その技術を何時間も続ける集中力、気力、体力、人間丸ごと全身力だ。すべてはトレーニングの積み重ね。毎日、一日も休まず練習する。一日休めば鈍る。
何より、患者を助けた命を救いたいという強い思い、病気とたたかう信念をもっていないとできない。
 手術のとき、もっとも必要なものは空間構成力。どこに何が、どのように位置しているのか、全体を把握する力だ。これがないと手術の設計図は描けない。
密室の手術室のなかでは長時間の緊張状態にある。看護師、麻酔医師、臨床検査技師、これらの全員が持ち場をまっとうしなければ手術はうまくいかない。
 人間の尊厳を保った状態で生存できる可能性が信じられたら、迷わず手術する。自分の受けたい手術をする。自分の受けたい手術をする。
脳手術の写真と図解もあって、イメージの湧く本でもあります。上山(かみやま)先生、健康に留意して、がんばってくださいね。
(2013年6月刊。1300円+税)

2013年6月17日

笑いのこころ、ユーモアのセンス

著者  織田 正吉 、 出版  岩波現代文庫

笑いは本当に大切だと思います。涙もストレス発散になるそうですが、やはり笑いにまさるものはないでしょう。
 私は事務所内で笑いの絶えることのないよう心がけています。みんなで気持ちよく仕事をしたいからです。もちろん、深刻な相談を受けているそばで高笑いがあるのは困ります。でも、ずっとずっと胸ふさがる深刻な話を聞いていると、それだけで気が滅入ってしまい、仕事に手がつかないというのでも困るのです。どこかで、気持ちをすっぱり切り換える必要があります。そんなときの救世主こそ、笑いです。
 この本は、この笑いを古今東西、あらゆる角度からアプローチして、その意義を真面目に考えたものです。
茶化すとは、茶にするとも言う。まじめな話を笑いごとにしてしまうこと。まじめな問題を冗談ごとにして話をはぐらかすこと。江戸時代の言葉である。
 ノーマン・カズンズは笑いによって病気も治ると主張した。しかし、笑いさえすれば病気が治ると言ったのではない。重症の患者に必要なことは不安の解消であり、笑いに代表される消極的情緒、つまり希望、信念、愛情、快活、生き甲斐などは医師と患者の協力関係を良くし、回復の見込みを大きくする。
 ギャグの原義は、口をさるぐつわでふさぐこと。セリフを忘れた役者がデタラメのセリフでごまかそうとするのを、相手がその口をふさいだことから、このギャグという言葉が生まれた。喜劇の部品としてのギャグは、日常性に馴らされた頭に瞬間的な刺激を与え、笑いを生む。
 ジェットコースターに乗ったあと、降りてくる人は例外なく笑いを浮かべている。
 緊張の持続に耐えられなくなると、無意識に緊張が緩もうとする。それを引き締めようとする気持ちと、緩めようとする気持ちが揺れ動き、笑いを呼ぶ。体温が高くなると汗が出て自立的に体温が調整されるように、緊張が続くと自然に笑いが起きて解消され、精神の平衡が保たれる。笑いは心の汗である。
 アメリカ人がパーティーや式典でスピーチをするとき、始めにジョークを言うのは、式が始まったときの固い雰囲気をほぐすため。
 ユーモアは、自然や芸術に接するのと同じように自分を見失わないための魂の武器だ。ユーモアとは、ほんの数秒間でも周囲から距離をとり、状況に打ちひしがれないために、人間という存在にそなわっている何かなのだ。それは生きるためのまやかしだ。
 大変な学識の詰まった300頁ほどの文庫本です。内容は濃いものがあります。
(2013年4月刊。1040円+税)

2013年6月10日

腸のふしぎ

著者  上野川 修一 、 出版  講談社ブルーバックス

生来、腸があまり丈夫ではありませんから、とても関心のあるテーマです。健診のとき、腸のぜん動運動が少し弱いようですと言われたときは本当にショックでした。それもあって、毎晩、寝る前には腹筋を鍛える体操をしています。
 腸には立派な神経系がある。この腸神経系は、脳からほとんど独立して行動している。腸管ぜん動運動を支える神経細胞(ニューロン)の数は1億個で、脳からつづく神経組織である脊髄のニューロン数と同じ。腸は第二の脳である。
 脳に、からだ最大規模の免疫系があるのは、腸こそが外界とやりとりをする窓口であり、からだの中でもっとも外部からの危険な侵入者と遭遇する機会が多いからだ。
腸内には100兆個をこえる細菌が星のようにきらめいている。その重さは1キログラムにもなる。
ヒトの腸は、形や働きからみて本来は肉食であったものが、進化の過程で草食も取り入れるようになったと考えられる。
 ヒトは、1年間に1トン近い食物を体内に取り入れている。空腹時の胃の容積は50~100ミリリットル。それが満腹時には2~4リットルと50倍以上に拡張する。
腸の働きは腸神経系による自律運動である。
 小腸は、胃の次に位置する消化管の中心的存在である。小腸の働きなくして、食物はからだの中に入ってはいけない。小腸の働きの中心にいるのは、1600億個の吸収細胞である。この細胞の寿命は実に短く、誕生して死ぬまで1.5日である。しかし、代わりの細胞がすぐに交代要員として用意されている。
 大腸には小腸と異なり、ひだや突起は存在しない。口から侵入した病原菌のうち、食中毒菌などはかなりの部分が胃酸によって殺される。しかし、強い胃酸に耐えた病原菌は十二指腸を経て、小腸へ侵入する。小腸に120~130個あるバイエル板は、病原菌の姿や形の情報を収集し、抗体を生産する細胞をつくり出す最強の基地である。
 腸内細菌は、もう一つの生体器官である。
ヒトの胎児は、母親の子宮にいるあいだは無菌状態で大きくなる。
 腸内細菌は、平均して4~5日間、ヒトの体内に滞在したあと、体外に排出される。腸内細菌は、ヒトの免疫力を高める。
腸というのは、からだの中にある外界なのですね。毎日毎日、お世話になっている腸の話です。とても興味深い内容でした。
(2013年5月刊。860円+税)

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