弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2018年3月 5日

世界は変形菌でいっぱいだ

著者 増井 真那 、 出版  朝日出版社

いやはや驚嘆しました。すごい少年がいます。藤井6段は15歳、中学生ですが、こちらも16歳です。変形菌と10年間いっしょに暮らしながら研究を続けています。
この研究は学会にも参加しているほど、本格的なものです。10年間の蓄積があり、写真でも紹介されていますが、見事なものです。ぜひ、あなたも、この本を買うか図書館で借りるかして、写真をじっくり眺めてみて下さい。変形菌の、たとえないようもない美しさに魅入られてしまうことでしょう。
著者は、変形菌の存在をにおいでも察知することができます。
土と水のにおいを足したような・・・。土から腐った感じを抜いて、キノコから酸っぱい感じを抜いて、混ぜたようなにおい・・・。とにかく、さわやかで、やさしいにおい。これって、本当にどんなにおいなんでしょうか、知りたいです。
著者の書斎の写真がありますが、まさに研究室です。理解ある両親の下で、研究一筋ということがよく分かります。なにしろ、この10年のあいだ、毎日欠かさず変形菌を育て、観察しているのです。
1日に2回チェックする。飼育するときの餌は、オートミール。添加物の一切入っていないもの。
変形体はキレイ好きなので、汚れたキッチンペーパーを取り替えてやる。キッチンペーパーは年間30ロールも使う。
変形体は温度に敏感で、急激な温度変化にさらさないようにする。
変形体とは、変形菌の一生のなかで、ネバネバのアメーバとして動き回る形態(段階)のこと。変形体は子実体(しじつたい)に変身する。もう餌は食べないし、自分から動くこともない。子実体の役割は、胞子を外の世界に飛ばして子孫を増やすこと。子実体一つひとつの中には無数の胞子が詰まっている。たくさんの子実体が並んでいる様子は見事です。
変形菌は世界で800種みつかっていて、そのうち半分の400種が日本でみつかっている。四季が豊かで、気候や風土のバリエーションが多く、そこに季節や台風が世界の胞子を運んでくるからだとみられている。

2018年2月19日

数をかぞえるクマ、サーフィンするヤギ


(霧山昴)
著者  ベリンダ・レシオ 、 出版  NHK出版

 とても面白い本です。人間だけが遊ぶ動物だ、なんて思っていましたが、今ではそんなことはないと思い直しています。
 人間だけが悲しいとか感情があり、仲間の死を悼むことができるというのも間違いなのです。ゾウが仲間の死を悼んで、なかなかその場を離れようとしないし、骨になっても戻ってくるというのはテレビの映像で知っていました。
 この本では、ヤギだって仲良しが死んだら、その死骸のそばから数日間は離れない。ゴリラもチンパンジーも静かに仲間の死骸のまわりに集まって、順番ににおいをかいだり、そっと触ったりする。それだけではない。カササギもカラスも友の死に「お葬式」をする。くちばしでそっと死骸をつついてみて、そのあと草を加えて戻ってきて死骸の横に置く。カラスも同じように草や小枝を順番に死骸にかぶせていく。
 ネズミは思いやりを行動で示す。仲間のネズミが苦しんでいるのを見たネズミは、目の前に好きなチョコレートがあっても、ひとまず仲間のネズミを助け出そうとする。これは思いやりの心があることを示すものとしか解せない。
 ネズミは、くすぐられるのが大好き。くすぐられると甲高い声でチュウチュウ鳴くが、これは喜んで笑っているということ。
 魚だって遊ぶ。水槽の水をこっそり飲みにくる猫と「待ちぶせごっこ」をする。猫が水槽のそばにくるまで魚は隠れていて、それから、いきなり水面まではねあがって、水を飲もうと思ってる猫を驚かせる。魚と猫は、このやりとりを何回も繰り返し、どちらも傷つくことはなかった。つまり、遊びとして楽しんでいた。
 サルは自分が公平に扱われないことに気づくと腹を立てる。
 イヌ科の習慣では、公平に遊ばない犬は、群れから追い出されることもある。公平に遊ぶ犬は群れの仲間と信頼の絆を深める。
 熊も大いに遊ぶ。そして、クマは数をかぞえることができる。いったいぜんたい、人間は万物の霊長だなんて、誰が言ったのでしょうか・・・。人間なんて、核のボタンを頭上にぶら下げていつ絶滅するかもわからないのに、ノー天気に自分だけ特別な存在だと空威張りしているだけの存在でしかないのですよね・・・。あなたも、ぜひご一読ください。
(2017年12月刊。1600円+税)

2018年2月13日

動物園ではたらく


(霧山昴)
著者  小宮 輝之 、 出版  イースト新書

 上野動物園の元園長が動物園で働いた半生を振り返った興味深い新書です。
 ナチス・ドイツ支配下のワルシャワ動物園で迫害されるユダヤ人を脱出させていった勇気ある人々を描いた映画を見たばかりでした。動物園というところは、子どもに夢をもたせるばかりでなく、人助けもするところなのですね。
 この本は、動物園がなぜ人間社会に必要なのか、子どもも大人もみんなが行きたがるのかを考えさせてくれる本でもあります。
 動物園は楽しくなければいけない。私も本当にそう思います。子どもも大人も楽しめ、動物たちも生き生きと動きまわっている。そんな動物園であってほしいものです。私も旭川にある旭山動物園には2度行きましたが、圧倒されましたね。また機会があれば行ってみたいところです。
 飼育している野生動物が安心して暮らせるのは、動物たちが飼育係を自分の生きる環境として受け入れたとき。お客さんも楽しくを実現するには、動物が人前に出るのを嫌がったり隠れたりしてしまわないように、いろいろな工夫をしている。職員も楽しくするためには、自分が休日のとき、誰が世話をしても怖がったり暴れたりしないような飼育が必要になる。
動物園の役割の一つにひとの心を癒し笑顔にすることがあげられる。
 ゾウやチンパンジーの飼育係になれるかどうかは、動物たちが担当者として認めてくれるかどうかが大切。いつまでたっても認めてもらえない人もいる。
 ライオンには馬肉を中心として、1頭で1日に5~7キロのえさを与える。
飼育係の職業病の人は腰痛。えさを準備するときに重労働で腰に負担がかかる。また、長靴を常用するので水虫になりやすい。
 動物園内の樹木はエサにすることがあるので、害虫防除のために農薬は使えない。
熊にえさを与えるには、できるだけ同じ時間、決まった時間に熊舎に行く。いつもどおりの時間に飼育係が来ないと不安がる。いつもと違うことをするのは、絶対に避ける。
 動物たちにとって、夕方から夜、そして夜明けを迎えて朝になる。人のいない16時間こそ、マイペースで過ごせる大切な時間なのだ。
 人工保育で育てた動物は、成長してからも人間を恐れない。しかし、動物同士で溶け込めず、繁殖行動がとれない危険がある。
野性のゴリラは群れで暮らし、群れのなかで子は育つ。子が1歳ころ、母親は子育てを父親にまかせる。ゴリラの子は父親に遊んでもらいながら、ゴリラ社会のマナーやルールを学んで成長する。
飼育係は危険と隣りあわせの仕事でもあります。私の小学生のころ、動物園からトラが逃げ出し、そのとき、飼育係と見物客が死んだ(殺された)という事件が起きて大騒動になったことがあります。見物客が便所のなかに隠れ、トラが扉をガリガリひっかいていたというのです。生きた心地はしなかったでしょうね・・・。
昔、上野動物園にパンダが来たばかりのころ、子どもを連れて見物に行きましたが、寝ている姿がちらっと見えただけでした。パンダを間近に見たいなら、やっぱり白浜のアドベンチャーパークですね。読んで楽しく、ためにもなる動物園の話です。
 (2017年11月刊。880円+税)

2018年1月 6日

アリ!なんであんたはそうなのか

著者 尾崎 まみこ 、 出版  化学同人

子どものころから、地上を歩むアリをじっと観察していて、今ではアリと会話までしている著者による面白いアリの本です。
迷子にならず自分の巣に帰るアリ。クロシジミの幼虫にせっせと餌を運ぶアリ。体臭の違いによって敵か味方かを識別しているアリ。働かないアリは、何が違うのか、、、。
アリがどれだけの重さを背負って運べるのか、実験してみた。アリの背中(胸部背面)は、ヒトコブラクダのように盛り上がっていて、平坦ではない。そのうえ、その大きさと形は一定ではなく、きわめて個性的。そこで、ハンダを溶かして、一頭一頭のアリの背中の起伏にあわせた形の荷物をつくった。10ミリグラム、20ミリグラム、40ミリグラムと過重を増やしていく。体重と同程度になってもアリは「平気で」歩いた。しかし、力自慢のアリであっても重たいものは重たいと感じ、歩き方を変えていることが分かった。
クロオオアリの結婚飛行。初夏の5月6月、少し湿度の高い、風のない穏やかな日に一斉に穴から空中へ飛び立つ。早すぎても遅すぎても台なしなのだが、どうやってその同期性を確保しているのか、、、、。何か通信手段をもっているのか、謎のままである。
一斉にオスとメス(女王)のアリが飛び立ち、空中で交尾する。そして、交尾した女王アリは天からおりてきて地面にもぐり、たったひとりで営巣をはじめる。オスのアリは、一人で生きていくことは出来ずに死んでいく。
アリの社会は巣が基本単位。働きアリどうしの仲間づきあいのルールは、巣が同じなら、みんなが共通にもっている体臭による。
働かない働きアリは、すべてにものぐさなので、わざと体表の炭化水素パターンの異なる敵を連れて行き出会わせても、攻撃しようともしない。働かない働きアリの脳の中では、働く働きアリに比べてオクトパミンという神経伝達物質が増えていることが最近判明した。脳内にオクトパミンが多いとやる気がなくなるということはザリガニを調べて実証できた。
アリの小さな脳から脳内物質を取り出して研究するなんて、本当に学者は大変ですよね。
(2017年5月刊。3000円+税)

2018年1月 5日

にっぽんスズメ散歩


(霧山昴)
著者 ポンプラボ、 出版  カンゼン

 身近なスズメたちが写真に生き生きとうつっています。
 驚くのは、そのスズメを固体識別として、名前までつけて観察していることです。
 よほどじっくり、そして長期間見ていないと、とても出来ませんよね。
 毎日観察していると、スズメの個性も見えてくる。
 オデキちゃんは、くちばしの上にオデキがある。性格は穏やかでなぜか高いところが好き。ケンカは苦手で、仲間たちの周りをいつも走り回っている。
 ゲンちゃんは元気一杯に生きている。右足の先に障害があり、いつもべたんと座っている。
 シロマユ君。左目の上に眉毛のように白い筋がある。いつも仲間を一緒で絶えず動き回っていて、カメラを向けていると、割り込んでまで写ろうとする。
 ボサくん。ボサボサの毛をしていた。臆病で仲間に食べ物をとられることが多い。
スズメを写真にとるとき、人の気配があると近くに来てくれないので、窓ガラスにマジックミラーフィルムを貼って、ことらの気配をさとられないようにする。
 スズメは聖書にも登場している。身近な鳥の代表選手だった。
 大きな公園のスズメは人間が来てもあまり怖がらず、むしろ人間を見ると近寄ってくるのもいる。なので、スズメをよく観察したいのなら公園に行くのは一番の近道。
 スズメのドアップで鮮明な写真がたっぷりみられる、楽しい写真集です。
 
(2017年7刊。1400円+税)

2018年1月 4日

目立ちたがり屋の鳥たち


(霧山昴)
著者  江口 和洋 、 出版  東海大学出版部

 タイトルから想像される内容とは異なり、鳥について、多角的なアプローチがなされている本です。
 これまで鳥類は嗅覚が鋭敏ではないとされてきたが、ミズナギドリ類などの海鳥などでは、においが信号として重要な役目を果たしていることが最近わかった。ミズナギドリ類は、個体ごとに独特のにおいをもち、このにおいをもとに、視覚のきかない夜間でも、つがい相手のいる自分の巣穴の位置をつきとめることができる。
 地中海沿岸にいるクロサバクヒタキはスズメより小さい鳥。オスは巣の近くに多くの小石を運ぶ。多くの小石を運んだオスとつがいになったメスは早く産卵を開始し、産卵数が多い傾向があり、小石を運ぶ量の少ないオスのつがいより多くのヒナが巣立つ。つまり、メスはオスが運ぶ小石の量でオスの質を評価し、早く繁殖を始めて、より多くの卵を産むことで、つがい形成後の繁殖投資を高めている。また、小石を多く運ぶオスは、ヒナの誕生したあと、ヒナへの給餌回数が多い、良い父親でもある。
 ホシムクドリでは、長い歌をさえずるオスほど早くメスを獲得し、また、より多くのメスを獲得する。
 オオガラは、長い歌をさえずるオスは、つがい外交尾(浮気のこと)に成功することが多く、自身のつがいメスが、つがい外交尾をすることが少ない傾向にある。
 カラスはダチョウの卵の殻を割ることができない。そこで、殻を割っているハゲワシにつきまとい、殻が割れた瞬間に集団で攻撃し強奪する。いやはや、すごい知能犯集団です。
 ヨーロッパのカササギは、日本と同じく小枝をつかって大きな巣をつくる。少し異なるのは、日本のカササギは例外なく立派な屋根つきのドーム状の巣をつくるけれど、ヨーロッパのカササギは、屋根のない巣をつくるものもいる。屋根があると、捕食者のカラスが入りにくく、卵やヒナが捕食される危険を小さくできる。
 カササギは巣をつくるのに費やす時間が短く、早く巣をつくるオスのつがい相手のメスは多くの卵を産んだ。カササギのメスは、巣や造巣行動を手がかりに、オスの造巣能力、ひいてはオスの資質を評価して、能力の高いオスとつがった場合は、産卵数がふえる。
 闘争能力の高い個体は、冬期の餌の確保や繁殖期のなわばり占有を通じて適応度を高めている。これに対して闘争能力に劣る個体は、頭をつかって別の道を探る方向に進んでいる。
 鳥にもいろんな鳥がいて、それぞれ適応・発達していることがよく分かる本です。
(2017年4月刊。2800円+税)

2017年12月31日

日本犬の誕生


(霧山昴)
著者  志村 真幸 、 出版  勉誠出版

 私はイヌ派です。幼いころから我が家には犬がいました。忠犬ハチ公の話は泣けてきます。ネコは飼ったことがありませんし、ネコパンチなんて敬遠したいです。
 犬は形態はオオカミに近いが、生態的な側面からするとジャッカルが近い。オオカミは人家に近づかず馴致(じゅんち)しにくいが、ジャッカルは村落周辺に集まり、容易に人間に馴(な)れる。
 現在、日本に988万頭の犬が飼育されている(2016年度)。このうち秋田犬、甲斐犬、紀州犬、柴犬、四国犬、北海道犬という日本犬は100万頭。
昭和の初めころ、平岩米吉は自由ヶ丘に広大な庭をもつ家をもっていて、そこでオオカミを飼っていた。朝鮮半島産6頭、満州産1頭、モンゴル産2頭。
ニホンオオカミは明治38年に絶滅してしまった。
狆(チン)が江戸時代に渡来してきたという説は誤っていて、平安時代から日本で飼育されてきたという説が今では有力。
明治末に日本犬の危機が自覚され、大正に入って日本犬の保有運動が始まった。秋田犬は、東北のマタギ犬が祖先だとされている。ハチ公によって秋田犬は忠犬としてのイメージを得て人気を高めた。
私がフランスに行ってロアール河のシャトーホテルのレストランで夕食をとっていると、大きな犬がテーブルの下におとなしく寝そべっていました。マダムは私が日本人だと知ると、「この犬は秋田犬なのよ、すばらしいわ」と絶賛しました。私も、少しだけ鼻を高くしてしまいました。
この秋田犬は戦争中は軍用犬として献納されたりして、終戦時にはわずか十数頭しかいなかった。ところが、日本に駐留したアメリカ兵士がアメリカへ持ち帰ってアメリカで人気犬種となり、見直されて、日本でも急速に人気を回復し、昭和47年には4万頭をこえるまでになった。
昭和の初めまで、日本犬が蓄犬商で扱われることはなかった。その後、日本犬といえども、お金を払って購入するものという意識が生まれた。
日本犬は軍用犬に不向きだった。特定の主人には忠実だが、別の操継者には従わない。しかし、戦場では誰が指揮官になるか分からない。ひとりの主の命令しか聞かないようでは、戦闘現場では役に立たない。なーるほど、そういうこともあるんですね・・・。
柴犬をふくむ日本犬を見直してしまいました。ちなみに、私の家ではスピッツと柴犬を飼いました。
(2017年3月刊。2400円+税)

2017年12月29日

したたかな魚たち


(霧山昴)
著者  松浦 啓一 、 出版  角川新書

 脊椎動物のなかで体の軸が地球表面に対して垂直にあっているのは人間だけ。他のすべての脊椎動物の体軸は地球表面と平行になっている。
動物学では、「縦」とは、体軸にそった方向のことであり、「横」とは体軸に対して垂直となる方向のこと。
 脊椎動物の全種類は6万種。魚の種類は3万2000種。脊椎動物の半数以上を占めている。日本には4200種がいる。
砂地の海底にミステリーサークルをつくる魚が発見された。アマミホシゾラフグのオスである。
 私が唯一欠かさず見ているNHKテレビ番組「ダーウィンが来た」(録画で見ています)で紹介されました。
魚の新種が今も次々に見つかっていて、日本では年に10種ほど。60年間では491種。オーストラリア740種、中国202種。日本は多い。
リュウグウノツカイは体長が8メートルにもなる。
 左ヒラメに右カレイ。ヒラメは体の左側に両目があり、カレイでは体の右側に両目がある。先日の「ダーウィンが来た」で、この魚の両目が次第に一方に寄っていく仕組みを解説していました。エサのとり方も違うのですね・・・。
 多くの魚は陸から離れられない。浅海という8%の狭い海に全海水魚の8割がひしめいている。なぜか・・・。水深200メートルより深い海には光合成ができないためプランクトンがいないことによる。
 マグロの巡航速度は時速7キロ。ダッシュ速度は時速50キロ。マグロは太平洋を往復できる。ずっとずっと時速7キロで泳いでいられるのだ。マグロは海中で止まると沈んでしまう。マグロのウキブクロが小さいからだ。マグロは体の一部を温かく保つことができる。体温を外界よりも高く保つことができるため、高速で持続的に泳ぐことができる。
 マグロやカツオは血合筋が発達しているため赤身の魚。メバルやカサゴ、タイやヒラメは白身の魚。白身の魚は長時間にわたって泳ぐことができない。
 魚のあれこれを興味深く知ることができました。
(2017年3月刊。800円+税)

2017年12月25日

昆虫の交尾は味わい深い


(霧山昴)
著者 上村 佳孝 、 出版  岩波科学ライブラリー

昆虫の交尾の研究をしている学者がいるのですね・・・、驚きました。いったい、それが何の役に立つのか、なんて野暮な質問はしないでおきましょう。
じつは、昆虫の交尾器のもつ形の不思議に魅せられて研究しているのです。それは昆虫の進化の歴史を反映するものでした。いったい、どんな・・・。
オスとメスは、どう違うのか・・・。卵をつくる側をメス、精子をつくる側がオス。
では、卵と精子の違いは・・・。鞭毛(べんもう)のない、泳げない精子をつくる動物がいる。そこで、大きな配偶子(卵)をつくるのがメス、小さな配偶子(精子)をつくるのがオスなのである。
昆虫のもっとも古いやり方では、精子の授受は間接的。シミ類がそうである。コオロギやキリギリスの交尾は、多くの場合、メスがオスの背後から背中に乗る。
オスの交尾器の腹側は、メスの交尾器の背中側にかみあうというのが昆虫の多くのグループで原則となっている。
生物全般において交尾器の進化は速い。形のなかではもっとも変化が速いと考えられている。交尾器を見ない限り、種を見分けられない。1000万種もいる昆虫たちは、それぞれオンリーワンの交尾器をもっている。
セイヨウミツバチの新女王は最大で17匹ものオスと交尾してから巣づくりを始める。その交尾のとき、オスは手持ちの精子のすべてを新女王に渡してしまい、交尾器の柔らかい部分が破れてショック死してしまう。
ブラジルの洞窟に棲むトリカヘチャタテは、なんとメスがペニスをもっている。オスの側にはペニスにあたる構造は一切なく、そのかわり、メスペニスのトゲ束を受けとめるポケットがある。トリカヘチャタテの交尾時間はとても長く、平均して50時間にも及ぶ。その間に、精子を含む巨大な精包がオスからメスへ渡される。オスは精子だけでなく、大量の栄養物質もあわせてメスに与えると、メスはたくさん交尾するほど、子の数が増えることになる。逆にオスは栄養補給のために次々に複数のメスと交尾するのは難しくなる。オスの獲得をめぐって、メス同士が競争するケースもある。
いやはや学者の世界って、こんなにも奥深いものなんですね・・・。
(2017年8月刊。1300円+税)

2017年12月11日

歌うカタツムリ

(霧山昴)
著者  千葉 聡 、 出版  岩波科学ライブラリー

 カタツムリが歌うだなんて、何かのたとえ話かなと思うと、そうでもないようです。歌うカタツムリの伝説は、ハワイにある昔からの言い伝え。しかし、著者も確かに聞いたというのです。
 小笠原の島で、雨上りの夏の真夜中、耐えることなく湧きあがるように聞こえてきた不思議なざわめき。短い口笛のような音、軋(きし)むような音、ガラスのコップが触れあうような音、そんな一つひとつの小さな音が幾重にも重なり、共鳴し、ついに波濤のような響きとなって、森や谷間にあふれていた。この不思議な音色がカタツムリのものだとは、にわかには信じられなかった。これは、足の踏み場もないほど地上にあふれだした、おびただしいカタツムリの群れが、互いに貝殻をぶつけあい求愛し、硬い歯をむさぼる音だった。
およそ200年前、ハワイの住民はカタツムリが歌うと信じていた。しかし、20世紀の今日、ハワイにはカタツムリがいない・・・。ええっ、本当でしょうか。
ダーウィンはガラパゴス諸島で、三つの島で、15種のカタツムリを採集している。
ナメクジは、カタツムリとともに陸貝のメンバーである。殻のないカタツムリがナメクジの仲間。ナメクジは、多くのカタツムリと同じく雌雄同体で、一匹の個体にオスの機能とメスの機能が両方そなわっている。雌雄胴体の動物は、普通、二匹が交尾をして、卵は別の個体から受け渡された精子と受精する。ナメクジは、それだけでなく、好んで自分の精子を自分の卵と受精させる。
 北海道にいるエゾマイマイは、捕食者オオルリオサムシに襲われると、大きな殻を激しく振り回し、相手に打撃を与えることによって敵を追い払う。殻を武器として振り回すことによって敵を撃退するのだ。
 同じく北海道にいるヒメマイマイハ他の多くのカタツムリと同じくオオルリオサムシの攻撃を受けると瞬時に身を殻内に引っこめ、引きこもって防御する。
 オナジマイマイ系は、交尾のとき、恋矢を繰り返し相手に突き刺す。これによって自分の精子の受精確率を高めるため。恋矢を刺されると、以降の交尾意欲が失われ、受け渡された精子の受精機会はいっそう高まる。そのうえ、恋矢を刺されると、寿命まで縮んでしまう。
交尾相手が自分より大きいと、自分の身が危ない。小さい相手は、子孫を残す相手として好ましくない。できたら、体の大きい相手、つまり質の良い相手と交尾したほうが、この適応度は上がる
 なるほど、カタツムリの研究って、大変ですけど、よくもここまで観察したものです。学者稼業も楽じゃありませんね・・・。
(2017年6月刊。1600円+税)

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