弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2018年12月 2日

愛と分子

(霧山昴)
著者 菊水 健史 、 出版  化学同人

面白い本のつくりです。まずは写真。なかなか見事な、そして意味ありげな写真が続きます。その次に、文章で解説されると、なるほど、そういうことなのか・・・、と。
鳥のウズラの場合。オスは、大きな声でよく鳴き、メスにアピールする。オスの鳴き声にひきつけられたメスが、オスの目の前にひょっこり現れると、オスは瞬時に鳴きやんでメスに近づき、交尾を試みる。このとき、オスは、目の前にあらわれたメスの頭部と首を見て、その見た目の美しさに見ほれ、交尾行動を開始する。
男は目で恋し、女は耳で恋に落ちる。
ショウジョウバエの場合。メスはオスに出会ったときは逃げまわるが、オスの熱心な求愛歌を聞くと、うっとりしたかのようにゆっくり歩く。これはメスがオスを受け入れつつあるサインだ。
ハツカネズミの場合。オスはメスに出会うと、ヒトには聞こえない高い周波数の超音波で、鳥のさえずりのような歌をうたっている。そしてメスは、自分とは遺伝的に異なる系統のオスがうたう音声を好む。
メダカの場合。メスは、長くそばに寄り添ってくれたオスをパートナーとして選ぶ。以前からよく見かけていたオスを記憶し、視覚的に識別して、恋のパートナーとして選んでいる。
プレーリーハタネズミの場合。オスもメスも、親元から離れて巣立つと、一人で草原の探検を始める。そこで、見知らぬ異性と出会い、そこで交尾すると、そのまま妊娠し、夫婦としての絆を形成する。絆をつくった夫婦は、ともに食事に、ともに子育てし、パートナーが死ぬまで添いとげる。オスは、たとえ若いメスが縄張りに入ってきても、求愛するどころか、攻撃して追い払ってしまう。
ええっ、そうなのか、そうなんだ・・・と、思わず納得してしまった小冊子みたいな本でした。
(2018年3月刊。1500円+税)

2018年11月26日

トラ学のすすめ


(霧山昴)
著者 関 啓子 、 出版  三冬社

動物園の飼育員がホワイトタイガーにかまれて亡くなるという痛ましい事故が起きました。トラはやっぱり怖いですよね。でも、自然界で、トラが人間を襲うことはありません。人間を警戒して近づかないのです。ただ、お互い不意打ちのように出会ったりしたら不幸な事故は避けられないでしょうね。
ヒョウは人間になつかないが、トラは人間になつく。
動物園で通路に誤ってネコが入っても、トラは何もしない。
アムールトラは、ネコ科で最大の獰猛で優雅な生きもの。体長2メートル、体重250キロ。
アムールトラは、足の裏がやわらかで、音を出さずに歩けるので、獲物になる動物に気づかれずに近づける。川も泳ぎ渡る。
アムールトラの毛色は淡い黄金色で、そこに黒いしまもようが入る。えらく派手で目立ちそうだが、森のなかでは保護色となって見えなくなる。
アムールトラは長距離走は苦手で、瞬時にけりをつけるしかない。
アムールトラが傷ついて、走れなくなると、もう飢え死にするしかない。
メスのトラは、女手ひとつで子どもを3歳まで育てる。
トラの最大の敵はヒグマではなく、人間だ。
アムールトラは、温厚で、おっとりとしていて、うたたねが好きな、怠惰とも思える性格だ。
トラは、孤高の動物であり、強いけれど、孤立無援を生きる生きものだ。
アムールトラは、自然界に500頭、世界中の動物園に500頭、合計して地球上に1000頭しか生きていない。まさしく絶滅危惧種である。
生物多様性は、地球の生命線である。トラは、この生物多様性のバロメーターなのだ。
トラは、餌になる主として中・小の動物、それらの動物たちが食べる木の実やコケ類、それを育む森林などなど、総じて生息地(ロシア極東)の生態系が一定の条件で維持されていないと生きていくことができない。したがって、この生態系の保存は人間にとっても大切なものなのだ。
日本人がトラ好きなのは、トラさん映画をみても分かると指摘され、ああ、そうだったと我が身をふり返りました。読んで楽しいトラ学入門書です。
(2018年6月刊。1800円+税)

2018年11月19日

ハトと日本人

(霧山昴)
著者 大田 眞也 、 出版  弦書房

身近にいるハトを豊富な写真とともに解説してくれる貴重な本です。
ハトと漢字で書くと鳩。九と鳥です。「九」は、手を曲げてぐっと引きしめた姿を描いた象形文字。つまり、ぐっとしぼって集まる鳥。仲間を引き寄せて群れる鳥、ということ。
ところが、漢字のはとはもう一つ、鴿とも書くそうです。合と鳥です。こちらは合わさる鳥。つまり、集まり合う鳥ということ。
ドバトは繁殖力が強く、平均寿命は飼育下で平均9年。15年以上も生きたドバトもいる。
ハトの抱卵は、昼間は雄がし、夜間は雌がする。雄は昼に8時間、雌は夜に16時間。
ハトのヒナに与える鳩乳(ピジョン・ミルク)は、雌だけでなく雄も分泌してヒナに与える。
ええっ、そうなんですか、父親も鳩乳をやるのですね・・・。
このピジョン・ミルクには乳糖やカゼインは含まれていない。黄色いカテージチーズのような粘り気のある濃厚な液体で、水分は65%、タンパク質や脂肪分に富み、ビタミン(A・B・B2)やミネラル(ナトリウム・カルシウム・リン)などが含まれていて、栄養価が高い。
鳩は、主として、果実や花など植物質を食べているが、ときにはミミズやカタツムリ、昆虫の幼虫なども食べる。
ドバトの羽色は一羽ごとにみな違っている。外見でオスとメスを見分けるのは難しい。
私は一度だけハトのラブシーンを見たことがあります。公園のフェンスに2羽のハトが並んでいました。すると、2羽は体をぴったりくっつけ、お互いのくちばしで、それこそ濃厚ラブシーンを展開するのです。前に、フランスの自然観察映画で、カタツムリのラブシーンを見たことがありましたので、すぐにそれを思い出しました。このときには交尾に至るのまでは目撃できませんでした(私が、途中で公園を離れたのです)が、きっと交尾までいったと思います。
日本には300種いるハト科の鳥が12種いるとのこと。身近なハトの生態をしっかり勉強することができました。
(2018年6月刊。1700円+税)

2018年11月12日

蜂と蟻に刺されてみた

(霧山昴)
著者 ジャスティン・O・シュミット 、 出版  白揚社

ハチとアリに刺されると、どれくらい痛いのか、その痛さに等級をつけてみた。自分の身体を提供してのこと。いやはや、とんだ商売ですね、学者って・・・。
等級はレベル1からレベル4までの4段階。セイヨウミツバチに1回刺されたときの痛みの強さをレベル2とし、これを評価の基準とする。ミツバチは世界中にいて、ミツバチに刺された人は多いので、評価の基準にしやすい。
ミツバチに鼻や唇を刺されると、本当に痛い。しかも、唇を刺されると、必ず腫れあがる。
ミツバチの毒液は、昆虫の毒液のなかで最高レベルの殺傷力をもっているうえ、分泌される量も多い。コロニーとしての殺傷能力は非常に高く、全体を集めたら、10人あまりの人間の生命を脅かすのに十分だ。
ゾウを追い払うため、アフリカでは畑の周囲にミツバチの巣をかけておく。ミツバチは、ゾウの弱点である眼と胴の腹側を狙って刺針攻撃をしかける。ゾウはたまらず逃げ出し、もう近づいてはこない。
ミツバチはNASAの実験で1982年と1984年の2回、宇宙を旅行している。無重力の環境下でもミツバチは六角柱の並んだ正常な巣をつくった。無重力空間でも、方向や位置をミツバチが間違えることはなかった。
アマゾン川の流域では、アリに刺されて、その痛みを我慢できるのか成人になる通過儀式となっているところがあるそうです。男の子のほうが強い痛みに耐えなければいけませんが、女の子には少しレベルを落として痛みをガマンすることが求められるといいます。いやはや・・・。
日本にもヒアリが侵入しようとしていますが、北米ではヒアリが相当侵食しているようです。
ヒアリ退治のつもりで空から有毒な殺虫剤を大量にまいたところ、逆効果だったそうです。ヒアリ以外のアリが殺虫剤でやられてしまい、肝心なヒアリは生きのび、かえって競争相手のいなくなった草原に展開していった。
ヒアリを殺すには、10リットルの湯を沸かして、蟻塚の真ん中に熱湯をゆっくり流し込む。これで、幼虫だけでなく、女王までも殺すことができる。
庭仕事をしていると、ときに痛い目にあいます。ダニかなと思っていましたが、この本を読んで、ひょっとしてアリだったかもしれないと思い、はっとしました。
ハチとアリと人間の生活との関わりを考えた、とてもユニークな生物の本です。でも、まねして刺されてみようなんては、ちっとも思いませんでした。
(2018年7月刊。2500円+税)

2018年10月 1日

昆虫のすごい世界

(霧山昴)
著者 丸山 宗利 、 出版  平凡社

これは確かにすごい。昆虫って、こんなにすごい存在だったのか・・・。驚嘆、感嘆、そして溜め息さえ出てきます。だって、すごすぎるのです。人間が万物の霊長だなんて、聞いてあきれます。世の中、上には上がいるものなのです。
いったい何がそんなにすごいのか・・・。それにはこの大判の写真をぜひ手にとって眺めていただくのが早道です。色といい、形といい、奇想天外です。
そして、素人には撮れない写真がたくさんあります。チョウやハチが飛んでいる一瞬が見事に写真に撮られています。
さらに驚くのは昆虫の極彩色の身体の表面です。金・緑・青の繊細なグラデーションとして、小さなハンミョウの皮膚が拡大されています。思わず息を吞んでしまします。ゾウムシやチョウの身体を覆っている色とりどりの突起には、いったい誰がこんなデザインをしたのか、不思議です。
クワガタの大きな鋏(はさみ)は、見る者を圧倒するだけの迫力十分です。
そして、チョウの産みつける卵の、なんと可愛いこと。黄色・水色・茶色の粒々。そして天敵対策なのか長い柄でぶら下がっている卵もあります。
いもむしコレクションには、色も形もさまざまなイモムシたちがずらりと並んでいて壮観です。
秋になって、トンボが飛びかっています。いったい羽を動かさずに空中を漂い続けられる秘密は何なのだろう・・・。そして、トンボは何を食べているんだろう。
ギンヤンマ、オニヤンマを見ると、子どものころのように心が高鳴ります。赤トンボを見ると、なんとなくセンチメンタルな、メランコリックな気分です。
いやあ、すごい写真集です。でも、実は、現物を大きく拡大した写真のオンパレードなのです。実際には何ミリしか体長がないのを、A4サイズまで拡大して見せてくれるのですから、いかにもありがたい話です。
先日、私が欠かさず見ている『ダーウィンが来た』で小笠原諸島の海にすむ奇妙な生き物たちの姿を思い出しました。
ミクロの世界に、こんな不思議なワールドが広がっているのですね。
2400円(消費税は別)ですので、せめて図書館に購入してもらって、眺めてみてください。
(2018年7月刊。2400円+税)

2018年9月25日

動物たちのすごいワザを物理で解く

(霧山昴)
著者 マティン・ドラーニ、リズ・カローガー 、 出版  インターシフト

一般に外温性動物は内温性動物ほど食べる必要がない。
外温性動物たちは、遠くまで行きたいときには、まず日光に当たりながらごろごろしなければいけないし、速く動けるのは、ほんのしばらくでしかない。そもそも寒すぎるところでは暮らせない。外温性動物は、夜に活動するのも難しい。
イヌは内温性動物なので、体温は38~39度の範囲でなければいけない。体温が37度を下回ったり、40度を上回ったら、獣医に診てもらったほうがいい。
メスの蚊は尿と血の混ざった球を排出する。これは、体温を下げて熱による負荷がかからないようにするため。
ミツバチは、暑い日には、飛びながら口から花蜜を吐き出し、脳が過熱するのを防ぐ。おかげでミツバチは、最高46度の暑さでも飛ぶことができる。
ガラガラヘビは、マムシ属のヘビ。マムシ属のヘビは、可視光が見える目以外にも目を持っている。人間をはじめ、たいていの動物には見えない赤外線を感知できる、感熱ピットを一対もっている。これは、普通の目のほかに、赤外線カメラを内蔵しているようなものだ。
ガラガラヘビと対決したリスは、敵を混乱させようと、わざとしっぽから強力な赤外線信号を出す。
蚊は雨のなかを果たして飛べるのか。こんな疑問をもって(それ自体がすごいことです・・・)、それを実験によって解明した学者がいました。このとき、雨粒なんて軽いものだと考えてはいけません。
雨粒の落下速度は秒速10メートル近い。これは、時速35キロ。もっとも重い雨粒は100ミリグラムもあるので、蚊の体重の50倍。なので、静止している蚊に雨粒1個がぶつかるのは、体重100キロの人間に5トントラックが激突するようなもの。土砂降りのなかでは、蚊は25秒に1度は雨粒にぶつかる計算だ。
蚊はとても軽いので、蚊の運動量の変化はかなり小さい。蚊はヨロイのような外皮、つまり外骨格のおかげで、雨粒の10倍以上の力がかかっても、それを耐え抜くことができる。
蚊は雨粒に抱きつき、すぐに離れる。
飛んでいつ蚊が雨粒との衝突に耐えるための鍵は、体重が軽いことと、「パンチに乗る」こと。
1匹のトッケイヤモリは、総計650万本もの剛毛をもっている。剛毛1本につき、2~20ミクロン平方のスパチュラ面をもっている。ヤモリが体重を支えるには、0・04%も必要ない。
デンキウナギは、頭が正(プラス)極で、しっぽが負(マイナス)極という、巨大な900ボルトの電池のようなものだ。
アリが持っているのは、体内時計ではなく、体内歩数計。これを偏光感知能力と結びつけて、エサを見つけるためには、自分がどれだけの距離、どの方向に歩き回ったかを知る。そして、それに続き、何らかの方法で、酢に戻る最短ルートを計算する。
動物をめぐる難しい内容をやさしい文章で明らかにしている本です。
(2018年6月刊。2300円+税)

2018年9月 9日

植物は「未来」を知っている

(霧山昴)
著者 ステファノ・マンクーゾ 、 出版  NHK出版

タイトルに惹かれて、いつもの喫茶店で昼食を摂りながら読みはじめたのですが、あまりの面白さに、つい食事そっちのけで読みふけってしまいました。昼休みだけでは読了できなかったので、しばし依頼者を待たせて、なんとか完読できました。
何が面白かったかというと・・・。たとえば、植物だって、しっかり記憶できることを実験で証明したということです。ええっ、どうやって、どんな実験で、そんなことを証明できるのでしょうか・・・。
オジギソウは、触れられるなど、外的刺激を受けると、その名のとおり、とても恥ずかしそうに葉を閉じる。19世紀のはじめ、フランスの植物学者、ルネ・デフォンテーヌは、たくさんのオジギソウを載せた馬車をパリ市内を走り回らせ、いつ葉を閉じるのか教え子に記録させた。すると、初めのうちは閉じていたオジギソウが、やがて葉を開いた。慣れてしまったのだ。オジギソウが記憶力をもっていなかったら、どうやって馬車の振動に慣れることができるのか・・・。オジギソウに刺激を与える実験装置をつくって実験したところ、オジギソウは、なんと最大40日も、刺激を受けたことを記憶していた。
ええっ、脳のないオジギソウが、どこで、どうやって刺激の記憶を維持できたのでしょうか・・・。
植物は、プリオン化したタンパク質を利用している可能性がある。
南米・チリのモリに育つ、つる性植物のボキラは、それぞれの宿主の葉を擬態している。
アカシアは、まずアルカロイドが豊富な甘い蜜でアリを誘惑する。アリが蜜への依存症に陥ると、次はアリの行動をコントロールし、アリの攻撃性や植物の上を移動する能力を高める。そのすべてが、蜜にふくまれる神経活性物質の量や質を調整するだけでよい。
2015年の1年間だけで、2034もの新種の植物が発見された。
人間が活用している植物は3万1千種以上にのぼる。このうち1万8千種は医療目的。6千種は食物として、1万1千種は建築用の繊維や資材として、1千3百種以上は社会的な目標をもって、1600種はエネルギー資源として、4000種は動物のエサとして使われた。
8千種は環境目的で、2万5千種は毒物として利用されている。
植物は4億年前までに、動物とは正反対の決定をくだした。動物は、必要な栄養物を見つけるために、移動することを選択した。植物は動かないことを選び、生存に必要なエネルギーを太陽から手に入れることにした。そして、植物には発達した感覚系がある。感覚系によって、環境を効率よく調査し、被害をもたらしかねない出来事に対して迅速に反応することができる。
動かないはずの植物が、実は、地球上をあちこち転々と生成・成長していること、そして、周囲の姿に似せたり、一定の刺激には順応しつつしなやかに生きのびている姿は、まるで個々の植物にも知的生命体が潜んでいるかのようです。まさしく、植物萬歳です。
(2018年3月刊。2000円+税)

2018年8月27日

先生、オサムシが研究室を掃除しています

(霧山昴)
著者 小林 朋道 、 出版  築地書館

先生シリーズも、ついに第12作です。すごいです。
鳥取環境大学のコバヤシ先生が大学内外での観察日記がオモシロおかしくて、動物行動学の勉強になるものとして展開していくので、ついついひきずり込まれてしまいます。それに、たくさんの写真があるので、コバヤシ先生の話があながち嘘ではないだろうという気にもなってきます。まあ、それほどウソっぽい語りが途中でたくさん入るわけなんですが・・・。
私が唯一みているテレビ番組「ダーウィンが来た」にコバヤシ先生がニホンモモンガとともに登場したときには、ついに我らがコバヤシ先生も全国版の有名教授になったと拍手したものです。
コバヤシ先生は動物行動学を専攻する学者ですから、なんでも実験し、比較・検討しなければ気がすみません。
ヤギは、たとえ大好物の葉であっても、それに自分の唾液にニオイがすると、プイと顔をそむけて食べようとしない。
5頭いるヤギのうち1頭だけ残して4頭をよそへ連れていくと、残った1頭のヤギはたちまち元気をなくしてしまった。そして、10日後に仲間たちが戻ってくると、いつにない再会の挨拶をして、たちまち元気を取り戻した。
このような、嘘のようなホントの話が満載の本なのです。
(2018年5月刊。1600円+税)

2018年8月13日

カラス学のすすめ


(霧山昴)
著者 杉田 昭栄 、 出版  緑書房

毎朝毎日、見かけないことがない鳥がカラスです。でも、同じように黒いツバメとちがって、どうにも好きになれそうもありません。
嫌われもののカラスは、実際に大量に駆除され、ひところよりはずい分と減っているとのこと。賢いカラスに関する面白い話が満載の本です。
いま、日本では年間30~40万羽のカラスが害鳥として駆除されている。ええっ、どうやってあの賢いカラスを捕まえ、殺しているのでしょうか・・・。
カラスは、古代エジプトでは不吉な鳥とされていたが、旧約聖書では、カラスは重要な使者として、人間の役に立っていた。
童謡にカラスの赤ちゃんが登場してくるのを指摘されると、不思議な気がします。
そして、「夕焼け小焼け」でも、最後は、「カラスと一緒に帰りましょ」ですね・・・。
戦前の日本の軍のなかで新兵はカラスと呼ばれていたというのを初めて(?)知りました。新兵は階級章もなく、征服はまっ黒だったからです。格好のいじめの対象になったことでしょう。
カラスは、スズメ目カラス科の総称。46種類のカラスがいる。日本には、ハシブトガラス、ハシボソガラスなど5種のカラスがいる。
ハシブトガラスはクチバシが大きく太く、頭が丸い。カァーカァーと澄んだ声で鳴き、肉を好む。東京には平成13年に4万羽ほどいたのが、今では1万2千羽にまで減った。
ハシボソガラスはガァーガァーと濁った鳴き声で、郊外の農村部にすんでいる。
カラスは共食いをする。
カラスの寿命は12年ほど。
カラスは賢い。顔写真のなかから、間違いなく選びだす。
カラスは人間の男女という性別も識別している。
カラスの親は自分の子どもを分かっているし、子どもも親を間違えることはない。
カラス同士にしても、お互いの顔を識別している。
この結論は簡単ですが、それを証明するための実験には、かなり工夫と忍耐力を要したことでしょう。
カラスの記憶は1年は保てるし、数の概念だってある。
ほとんどのカラスは、4キロから5キロ以内の狭い範囲で活動している。これは、カラスの背中にGPSの発信器を付けて調査した結果です。
カラスは最高時速73キロメートル、平均時速34キロメートルというのですから、原付バイク並みです。私は速いと思います。
日本でも、昔、カラス田楽(でんがく)といって、カラス食の文化があったそうです。
でも、あの黒さって、いかにもまずそうですよね・・・。ところが、カラスの肉にはタウリンという遊離アミノ酸が50%近くも含まれていて、とても健康にいいのだそうです。
そして、フランス料理にもカラスの料理があるそうです(聞いたことありませんし、もちろん食べたことありません)。なんだか食べたくないですよね。カラスって、本当に食べられるんでしょうか・・・。
(2018年6月刊。1800円+税)

2018年7月28日

大根の底ぢから

(霧山昴)
著者 林 望 、 出版  フィルムアート社

われらがリンボー先生は、お酒を飲まない代わりに、美食家、しかも手づくり派なのですね。恐れ入りました。私は、「あなた、つくる人。わたし、食べる人」なのですが、料理できる人はうらやましいとも思っているのです。
「たべる」と「のむ」というのは、古くは違いがなかった。「酒を食べませう」、「水たべむ」と言った。「たふ」とは漢字で「給(た)ふ」と書く。いただく、ちょうだいするという、敬意のふくまれる丁重な言葉なのだ。敬意がないときには、単に、「食う」と言った。ええっ、そ、そうなんですか・・・、ちっとも知りませんでした。リンボー先生の博識には、まさしく脱帽です。
初夏の何よりの楽しみとして、柿の若葉の天ぷらがあげられています。これまた、驚きです。
タケノコは孟宗竹(もうそうちく)と思っていますが、孟宗竹とは、渡来植物で江戸時代に薩摩に中国からもたらされたのが全国に広がったもの。これまた、全国津々浦々でタケノコつまり孟宗竹がとれると思っていた私は、思わずひっくり返りそうなほどの衝撃でした。
しかも、リンボー先生は、旬(しゅん)のタケノコを茹(ゆ)でて、マリネにして食べるんだそうです。なんとも想像を絶します。
関東は柏餅(かしわもち)、関西(とくに京都)は、粽(ちまき)を食べる。九州生まれ育ちの私は、子どものころ、実はどちらも食べた記憶はありません。
リンボー家では、料理は、朝晩ともリンボー先生の担当で、奥様は料理しない。そして、家でつくる料理は飽きがこない。うむむ、これは分かります。
でも、実は、リンボー先生は、月に2回か3回は、なじみの寿司屋で握りをつまんでいるのです。私などは、寿司を食べるのは、それこそ、年に2回か3回もあればいいくらいです。回転寿司など、これまで一度も行ったことはありませんし、これからも行きたいと思いません。
寿司屋に行って、カウンターに座って寿司が差し出されたら、すぐに食べるのが、まず何より大切なこと。職人の手を放れて目前の寿司皿にすっと置かれたその瞬間に、まさしく阿吽(あうん)の呼吸でこちらの口中に運ばなくてはならない。それでこそ、握るほうと食べるほうの気合いが通いあってほんとうの寿司の味が分かるのだ。
リンボー先生が「なまめかしい食欲」なんて書いているので、例の「女体盛り」かと下司(げす)に期待すると、なんと、「なまめかしい」とは「飾り気のない素地としての美しさ」ということで、拍子抜けします。
私と同じ団塊世代(私が一つだけ年長)のリンボー先生は、緑内障になってしまったとのこと。私は、幸い、まだ、そこまでは至っていません。白内障とは言われているのですが・・・。
季節の食材をおいしくいただく喜び。こんな美食こそ人生の最良の楽しみの一つだと痛感させてくれる本でした。リンボー先生、ますます元気に美味しい本を書いてくださいね。
(2018年3月刊。1800円+税)

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