弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2020年10月19日

博士の愛したジミな昆虫


(霧山昴)
著者 金子 修治、鈴木 紀之、安田 弘法 、 出版 岩波ジュニア新書

このジュニア新書は、本来は子ども向けなのでしょうが、私の愛読する新書です。今回は10人の昆虫博士が登場する、楽しい昆虫の話です。
モンシロチョウの話も面白いです。モンシロ属の幼虫の食草は、すべてアブラナ科の植物。アブラナ科の植物にカラシ油配糖体という毒性のある防衛化学物質をもっている。このため、アブラナ科植物は多くの昆虫に食べられないですんでいる。ところが、モンシロ属の幼虫は、この防衛化学物質に対処する能力をもっている。しかも、それだけでなく、モンシロ属のチョウは、この防衛化学物質を手がかりとして、アブラナ科の植物を探し出し、そこに産卵する。
モンシロ属の幼虫に寄生しようとするヤドカリバエは、幼虫の食草の上を飛びまわり、葉にある幼虫の食痕(食べたあと)を目で見て探す。そして、それらしいと思うと、触角で点検する。そのときの決め手は、幼虫のだ液と植物の汁液が光合成してつくり出した化学物質。これでモンシロ属の幼虫だと分かれば、4~5分間に及ぶ丹念な探索をする。幼虫のほうも、寄生者を避けるべく、10分ほど食べてはその場を去り、50分間はなれたら戻ってくる。
モンシロのオスは、移動せず、平均2週間あまりの一生を羽化した畑で過ごす。モンシロが羽化するキャベツ畑は、寄生者も羽化する生息場所。キャベツ畑は、モンシロや寄生者が2世代から3世代くり返すと、キャベツの収穫期を迎えて消滅する。
モンシロがキャベツを好むのは、キャベツの栄養分が高くて卵をたくさん産めるからではない。キャベツは日向に植えられ、短期間で収穫される作物で、このことがモンシロに天敵から逃れる術(すべ)を与えている。
なるほど、ですね。私も前に庭でキャベツを栽培したことがありましたが、毎日毎朝の青虫とりに見事に敗退してしまいました。割りバシでとってもとっても、青虫が毎朝いくつも湧き出てくるのは、本当に不思議でした。
怖いヒアリにも強力なライバルがいるとのこと。タウニーアメイロアリ。このアリは、ヒアリに毒をかけれると、お尻から出した自らの毒液で、身体を洗浄している。この毒液の主成分は蟻酸で、ヒアリのアルカリ性の毒を中和する。なので、このタウニーアメリロアリもヒアリに代わる侵略種と化している。これまた怖い話です。
テントウムシが発育するには、エサになるアブラムシが必要。ナミテントウムシは最上位の捕食者。この強者と、それ以外の弱者が一緒に生活するヒケツは、強者のナミテントウムシのエサのアブラムシが減少して多種を捕食しはじめる前に、弱者は発育を完了するが、ナミテントウムシがいる寄生植物をさけて産卵すること。
昆虫は、4億年も前から地球上で生活し、100万種以上の種類に分かれ、地球上のあらゆるところで生活している。
自然界の共存する仕組が、とても巧妙であることを教えてくれる新書です。
(2020年4月刊。880円+税)

2020年10月12日

言葉を使う動物たち


(霧山昴)
著者 エヴァ・メイヤー 、 出版 柏書房

驚くべき事実のオンパレードです。
オウムのアレックスは、100をこえる単語を知っていた。そして、アレックスはジョークも言えた。
ボーダーコリーのチェイサーは、1000以上の玩具の名前を覚えていて、文法も理解した。
野生のイルカは互いに名前で呼ぶ。
プレーリードッグは侵入者を表現する言葉を豊富にもっていて、人間の体格や衣服の色、あらゆる持ち物、髪の色を表現する。
飼育されているゾウは、人間の言葉で話せる。野生のゾウには、「人間」を指す言葉があり、それは危険を意味する。
最近の研究によると、以前に考えられていたよりもはるかに複雑な方法で、動物同士がコミュニケーションをとっていることが示されている。
オウムは体のつくりから、人間が声に出した言葉をそのまま繰り返して言うことのできる数少ない動物の一つだ。
カンジというボノボは、ゴリラのココの映像をみて、手話を覚えた。カンジは、ボノボが人間やボノボからだけでなく、ほかの霊長類を見ることでも、言葉を学べることを示した。
ゾウは複雑な社会的関係のなかで暮らしているため、音がコミュニケーションで重要な役割を担っている。
ゾウが死にかけているとき、グループ内のほかのゾウ(多くは、家族)が、死んでいくゾウの周囲に集まってきて、それぞれが鼻で優しく慰める。ゾウが亡くなると、ゾウたちは亡骸を抱きかかえたり、抱き上げたり、あるいは背中を押し上げようとすることもある。そして、土と葉で覆うと、それから何年ものあいだ、亡くなった場所を訪れる。ゾウの墓参だ。
カラスには、人物、ネコ、イヌのそれぞれを意味する違う音があり、2匹のネコも区別できる。カラスは決して顔を忘れない。カラスは群れの仲が亡くなると、葬式を行う。群れのメンバーが集まってきて、ときには、もっと大きな集団となり、亡くなった仲間や親類を囲んで騒ぎ立てる。
コウモリは、お互いを呼ぶ名前があるので、暗闇でも一緒に過ごすことができる。吸血コウモリは、哺乳類の血液をエサとし、夜のあいだにそれを探し出す。エサを70時間も食べられないと死んでしまうので、その間にエサをとれなかった不運な仲間には飲んだ血液を吐き出して与える。
イルカたちは病気の仲間のそばを離れず、できる限り助けるため、たとえば弱っているイルカを囲んで救命ボートのような形になる。
イヌだけが遊ぶ動物というわけではない。ほとんどの哺乳類は遊ぶし、鳥類、爬虫類、魚類も遊ぶ。遊びに似た行動は、頭足類、ロブスター、そしてアリやハチ、ゴキブリなどの昆虫でもみられる。
人間と棒物の違いは、いったいどこにあるというのか、よくよく考えさせられる本でした。
(2020年5月刊。2200円+税)

2020年10月 5日

植物はなぜ毒があるのか

(霧山昴)
著者 田中 修 ・ 丹治 邦和 、 出版 幻冬舎新書

ジャガイモによる食中毒が毎年、学校で起きている。それは秋ジャガではなく、春ジャガに限られる。ジャガイモの表皮の内側に有毒物質がある。そこは虫にかじられることが多い部位。食べられるのを防ぐため、緑色の部分には有毒な物質がふくまれている。そして、このジャガイモの有毒物質は、お湯で茹でたり、油で揚げたりして調理しても、毒性は消えない。
この有毒な物質は、ジャガイモが芽を出すには必要なもの。つまり、有毒な物質がつくられなければ、芽を出さない。それだけジャガイモは慎重で、用心深い。
私はジャガイモを毎年つくっていますが、幸い、食中毒になったことはありません。もちろん、掘りあげたあとに日光にあてて緑色に変色しないよう、用心はしています。
江戸時代後期の外科医、華岡(はなおか)青洲(せいしゅう)が世界で最初の全身麻酔で、乳がんの手術に成功した。この手術で用いられた麻酔薬の原料は、チョウセンアサガオだった。このチョウセンアサガオは英語でエンゼルス・トランペットというとされています。ダチュラという名前もあります。
でも、わが家には、チョウセンアサガオもエンゼルス・トランペットもあります。花の形は、まったく違います。どこかで混同・混乱が起きているようです。誰か教えてください。
アジサイの葉っぱを食べると食中毒を起こすそうです。気をつけましょう。
ビワは、果実も葉っぱも健康を保つ効果のある成分がふくまれている。しかし、ビワのタネの中味には、有害物質がふくまれている。
広島で原爆のあと何十年間にわたって、花も木も育たないと言われたのを裏切って真っ先に咲いたのがキョウチクトウだと聞いています。排気ガスに強い木として、街路樹としても良く見かけます。うちの庭にも紅白の花を咲かせてくれます。このキョウチクトウは、葉っぱや枝におそろしく有毒な物質をもっている。そのため、虫に食べられることがほとんどない。フランスでは、この枝をバーベキューの串として使ったため、死者が出たそうです。怖いですね...。
蚊取り線香は除虫菊の成分であるピレトリンが蚊の神経を麻痺させてしまう。人間には、ピレトリンが神経細胞に届く前に、人間の身体のなかで分解されて、毒性がなくなってしまうので、蚊にとって危険であっても人間には安全だ。なーるほど、ですね...。
コーヒーは、1日に3~4杯が適切で、それ以上は飲み過ぎになる。緑茶のほうは1日5杯以上のんでいてもいいどころか、もっとも死亡率が低い。
黒にんにくはアルツハイマー病を防ぐ可能性があると紹介されています。依頼者の一人の手づくりの黒ニンニクを以前から食べていますが、これは良かったと思いました。
世の中は、本当に知らないことだらけですよね...。
(2020年3月刊。800円+税)

2020年9月28日

アホウドリからオキノタユウへ


(霧山昴)
著者 長谷川 博 、 出版 新日本出版社

アホウドリとかバカドリと呼んで、昔の人は何十万羽もいた鳥を絶滅寸前に追い込みました。羽毛をとり、油をとったのです。ところが、著者たちの長年の努力とたゆまない工夫によって、なんとか絶滅を免れたのでした。
著者はアホウドリなんて馬鹿にした名前ではなく、オキノタユウと呼ぶことを提唱しています。大賛成です。
オキノタユウは非常に長生きで、著者が確認した最高齢は38歳。50歳をこえ、60歳いや70歳まで、生きるのかもしれない。うひゃあ、すごいですね...。
オキノタユウの主な天敵は人間。なので、いま生き残っているオキノタユウは人間をものすごく警戒する。
海上ではシャチにも狙われるが、シャチを追っかけ、その食べ残しも利用している。
オキノタユウは、生涯、一夫一妻で、いったんつがいになると、相手が死ぬまでつがいの関係。といっても、遠くへ旅に出るときには、群れをなすことなく、一羽一羽で飛んでいく。
そして、繁殖地では子育てを一緒にする。抱卵期間は2ヶ月あまり、交代で卵を抱いて温める。その間、10日間は絶食状態。
私と同じ年(1948年)に生まれた団塊世代の著者がオキノタユウの調査を始めたのは28歳のとき、私が弁護士になって3年目に郷里にUターンした年のことになります。
1979年から40年間、一度も欠かすことなく、鳥島(とりしま)にいるオキノタユウの生息・繁殖状況を調べた。
営巣地に草を植え替え、デコイ作戦を展開した。2018年にオキノタユウの繁殖つがい数は1000組になった。8年後の2016年には繁殖つがい数は2000組、総個体数は1万羽になると予測されている。
デコイという本物そっくりのオキノタユウの「はりぼて」を設置するとき、求愛音声をスピーカーで流し、また、営巣地のにぎやかな音声も放送した。
著者は42年間に、鳥島を125回も訪問しています。1回に1ヶ月間ほど、無人島に一人で生活するのです。ちっとも寂しくないといいます。本当でしょうか...。
今では本土と衛星電話でつながっていて、AMラジオで世の中の動きを知る。鳥島にいるときは、すべての時間をひとりで自由に使うことができる。こんなに幸福なことはない。
ただ、鳥島は、今も活動している活火山であり、船で行くしかないので、船酔いの苦しみを味わされる。
いやはや、本当に長いあいだ、お疲れさまです。これからも無理なくがんばってください。応援しています。
アホウドリなんて、写真を見たら、その気品の良さに、やっぱりオキノタユウだよねと、つい納得してしまうカラー写真もあり、楽しめます。
(2020年4月刊。1500円+税)

2020年9月14日

美の進化


(霧山昴)
著者 リチャード・O・プラム 、 出版 白揚社

性選択は人間と動物をどう変えたか、がサブテーマになっている本です。大変興味深い内容で、思わずひき込まれました。
なにより人間です。進化のなかで陰茎骨(ペニスにも骨があるのです)をなくした霊長類は、たったの2種類のみ、クモザルとヒトだけ。ええっ、知りませんでした...。
ただし、陰茎骨をもたない哺乳類は、ヒト以外にもオポッサム、ウマ、ゾウ、クジラなどたくさんいて、骨がなくても、ちゃんと勃起できる。
鳥類は、恐竜の祖先からペニスを受け継いだが、およそ7000万~6600万年前に新鳥類のもっとも新しい共通祖先がペニスを失った。
ところが、カモはペニスがある。いったい、なぜ...。
コバンオタテガモのオスのペニスは、42センチという最長記録をもっている。証拠写真が添えられています。
太った女性に性的魅力を感じ、崇める文化もある。アフリカのモーリタリアでは、フツーの体型の女子は「ファットキャンプ」に送られ、体重を増やすために食べ物を大量に食べさせられる。反対に、アメリカでは、非常に太った若い女性は、体重を落とすために「ファット・キャンプ」に送られる。
アフリカのコイサン族の女性は、臀部(お尻)に大量の体脂肪が蓄積されていて、お尻が強調された、きわめて独特な体形。コイサン族の男性には、この特質がきわめて魅力的に思える。
なーるほど、もちつもたれつの関係にあるんですね...。
見知らぬ相手と誰彼かまわずにセックスしたいという飽くなき欲望は、ヒトの進化史とはほぼ無縁のものだった。人口密度は、それほど高くないし、分散もしていたので、行きずりの性的出会いの機会は、戦争のときは別として、きわめて少なかった。その結果、ヒトの男の性行動は、相手を選り好みする方向へ進化してきた。
ええっ、そうなんですか...。これには腰を抜かしそうになりました。
ヒト以外の猿人類のオスは、性欲旺盛で、受精が可能な相手であれば、いつでも誰とでも性交する。ゴリラ、チンパンジー、オランウータンのオスは、機会があれば、いつでも性交する。しかし、ヒトの男は、まったく異なる。これは、生殖に大きな投資をすることと、関係している。ヒトの男は、子の保護や世話、食事、社旗化のために、資源と時間とエネルギーを費やす。
地球上に生息する哺乳類のうち、常に乳房が大きいのはヒトだけ。ヒト以外の哺乳類では、乳房が大きくなるのは排卵期と授乳期だけ。ヒトは生涯を通じて大きな乳房の組織を維持する。常に大きいままの女性の乳房は、男性の配偶者選択によって進化した美的形質。
そうなんですよね...、よく分かります。
もっとも男性的な顔立ち、角張った顕著な顎(あご)、目立つ広い額、濃い眉、こけた頬、薄い唇を女性は好まない。女性は、むしろ中間的な顔立ちは、「女性的な」顔立ちの男性を好む。男性的な濃いあごひげよりも、薄い無精ひげのほうを女性は好む。
女性にもっとも好まれるのは、細身だが、やや筋肉質で、肩幅が広く、逆三角形の体形をした男性であり、筋骨隆々のたくましい体をした男性は一番好まれない傾向にある。
うひゃあ、そ、そうなんですか...。なんだか一般常識とは違っている気がしますけど、本当にそうなんですか...。もっとも、私自身は筋骨隆々とは無縁なんです、はい。
メスにとって不運なことに、霊長類の社会的序列は、本質的に不安定である。
世の中は、実に不思議なことだらけ...としか言いようがありません。
(2020年3月刊。3400円+税)

2020年9月 7日

虫とゴリラ


(霧山昴)
著者 養老 孟司、山極 寿一 、 出版 毎日新聞出版

二大巨人の対談ですから、面白くないはずがありません。
ゴリラは小さな虫を遊ぶことができる。手にダンゴムシをのせて遊ぶ。ココというメスのゴリラは、すごく猫好きで、何匹も猫を飼っていた。ええっ、本当ですか、どうやって...???
東北地方のサルは、江戸時代にマタギによって根絶やしにされた。サルを狩猟していない西南日本一帯では、サルは「神様の使い」だった。
アメリカザリガニは本当にたちが悪い。西日本新聞(2020.8.27)に中国・武漢では、ビールのつまみとして、日本から入ってきたアメリカザリガニが大いに食べられているとのことです。びっくりしました。戦後、日本でも食べていましたが、主としてニワトリのエサでした。私も小学生のころはザリガニ釣りに夢中でした。
いまの日本ではサル以上に恐ろしいのはシカとイノシシ。どれだけ捕まえても、どんどん増えている。
インドネシアの島に7種類のサルがいる。ペニスの形が違うので、交雑種はできない。また、お尻の形が違うと、発情すらしない。
サルやチンパンジーは、年中、毛繕いをしている。それで親しく共存できる。ヒトは体毛がないので、毛繕い以外の何らかのコミュニケーションを考えなくてはいけなくなった。
ゴリラが昼寝するときには、夜のようにベッドをつくらず、お互いに腹をくっつけあってつながって寝ている。
ヒトの祖先は草原(サバンナ)へ進出していった。ゴリラはもっとも保守的で、未知の場所へは出て行かず、むしろ熱帯雨林のど真ん中で暮らし続けることにした。なので、非常に食性を広くもつことにした。
チンパンジーもゴリラも、食物の分配はする。だけど、運ぶことはしない。ヒトだけが、仲間のいる安全な場所へ食物を運んだ。
言葉は聴覚と視覚を利用する。言葉は意味を伝えるもの。
オランウータンは7年も母乳を吸うし、チンパンジーは5年、ゴリラも4年。ところがヒトだけが1年か2年で、乳歯のまま離乳する。
子どもは保育園児までは、虫の好き嫌いが一切ない。小学校にあがると急に虫の好き嫌いが出てくる。子ども時代に自然に接していないと、実は自然に親しめなくなる。
私もザリガニ釣りのためにカエル(ビキタンと呼んでいました)を手にもって地面に叩きつけて殺し、両足をひき裂いて、糸にぶらさげてエサにしていました。カエルの足はザリガニ釣りのエサとしては最高なんです。そして、ストローでカエルの尻に空気を吹き込み、パンパンにふくれあがらせて、池に放りこんで、うれしがっていました。子どもは残酷なことが平気ですし、好きなんです。
子どもは、そうやって虫の世界、動物の世界に入っているし、いける。
人間のもっている大きな力は想像力。想像力が人間の世界を拡張するのに役立った。
いまの日本社会は、「感じない人」を大量生産している。受動的な人間ができてしまう。
常識を破るところに人間の面白さがある。AIは常識を破ることはできない。
日本の大企業の内部留保は460兆円。これは、にほんの国家予算の規模。これが有効に活用されていない。
人間同士のつながりは人間だけではなしえない。そのつながりには、常に自然が介在してきたことを忘れてはいけない。
はっとさせられる指摘が多く、日頃のあまりに「常識」的な発想を反省させられました。
(2020年7月刊。1500円+税)

2020年8月31日

動物の看護師さん


(霧山昴)
著者 保田 明恵 、 出版 大月書店

人間のための病院に看護師がいるのと同じように、ほとんどの動物病院に動物看護師がいて、獣医師のかけがえのないパートナーとして力を発揮している。
獣医師という存在は当然のこととして認識していましたが、動物看護師という職業は、恥ずかしながら、この本を読むまで認識していませんでした。この本には6人の動物看護師が登場します。
動物なので自分の口から体調を説明したり、進んで検査や治療を受けることはない。そこに動物看護師の存在が欠かせない理由がある。
保定(ほてい)とは、診察や検査、治療などのとき、そのための姿勢を動物にたもたせ、そのまま動きを止めること。力ずくではなく、要所を心得た押さえ方で、動きをピタリと止める。それがプロの保定だ。
飼主と子犬が参加するしつけ教室をパピークラスと呼ぶ。警戒心が弱く、好奇心旺盛な子犬の時期に、飼主以外の人間や他の子犬と触れあわせることで、将来、社会でストレスなく生きていける犬に育てること、また子犬を飼いはじめた人に必要な知識を教えるのが目的。
病院に連れて来られた犬には、できるだけ声をかける。「すぐ終わるよー」などと動物に声をかけて恐怖心をやわらげてやる。
シニア犬の場合には、老衰や認知症がすすんでいて、目を離したすきに何が起きるか分からない。犬のシニア期のスタートは大型犬だと5~6歳ころ、一般には7歳から老化が始まる。異変を察知するとき、まず目をみる。歯ぐきも大切だ。歯ぐきが健康なピンク色でなく白ければ貧血を起こしている。
猫が足をひきずっていると、血栓塞栓(そくせん)症の可能性がある。
死が直前にせまった犬や猫は、必ず「ワン」とか「ニャー」と鳴く。最後のひと鳴きをするのだ。人間の場合は深い深呼吸をするそうです。
犬が揚げ物屋の油の匂いがしたら、膵(すい)炎の可能性が強い。
動物病院における動物看護師の待遇は全般的に恵まれているとは言い難い。座るひまもなく動きまわり、急患の対応に追われることもある業務に見合った金額とはとても言えないのが実情だ。
チンチラ(猫)のメスは気が強め、オスのほうはたいがいボーッとしていてえ、どんくさいコが多い。
うひゃあ、これって人間そっくりじゃありませんか...。
日本には2万人以上の動物看護師がいる。これまで、獣医師は国家資格なのに、動物看護師は民間資格だった。2011年に動物看護師統一認定機構が設立され、試験を受けて認定動物看護師資格を取得するのが一般的となった。そして2019年6月に愛玩動物看護師法が制定され、国家資格となることになった。2023年から国家試験が始まる。
本書では、動物病院ではたらく動物看護師たちの苦労とやり甲斐が語られていますが、それは人間世界そのものだと痛感しました。
これも世の中の大切な職業の一つだと思います。
(2020年3月刊。1600円+税)

2020年8月17日

タコの知性


(霧山昴)
著者 池田 護 、 出版 朝日新書

ええっ、タコに知性があるだなんて、アホじゃないの...。思わず、そう叫びたくなります。でも、本当にタコは思いのほか賢いようなのです。
タコは、実はハイレベルな学習をやってのける海底の賢者なのだ。
タコの世界的な輸出国は、中国とモロッコ。タコは全世界の海に生息している。世界的なタコとイカの輸入国は、日本、アメリカ、スペインそしてイタリア。
漁獲量はイカが圧倒的に多く、タコは1割ほどでしかない。イカは比較的浅いところを集団で行動しているが、タコは集団をつくらない。
250種のタコが全世界の海洋に分布している、
タコは、近い親戚筋のイカ、オウムガイそしてアンモナイトと一緒に頭足(とうそく)網(こう)というグループに入っている。
タコは8本の腕をもち、イカは10本の腕をもつ。「タコハチ、イカジュウ」と覚える。
タコは色が見えず、色覚を欠いた動物だ。しかし、タコ自身は色彩の使い手。
ミミックオクトパスは、複数のモデル種に化けることができる。パッとミノカサゴになり、次はパッとウミヘビになる。
タコは、色彩をベースとしたボディパターンでコミュニケーションをとる。
タコの寿命は1年ほど。長くて2年を少しこえるくらい。タコは繁殖したら最後、それで死亡する。これはイカも同じ。タコの腕の中には骨がない。
タコは観察学習する。隣のタコのやっていることを真似る。タコは道具を使う。
タコは人間に熱い視線を送る。タコは腕で考える。
麻薬を摂取すると、タコもハイになる。
タコが怒ると、たとえば体表のリング模様をギラギラと点滅させる。まずいエサを与えられると、怒って水中から投げつけて返す。タコの身体の色彩の変化は表情を示しているのだ。
タコの地道な研究の面白さが伝わってくる本でした。
(2020年4月刊。810円+税)

2020年8月16日

地涌の涙


(霧山昴)
著者 加藤 賢秀 、 出版 南方新社

トカラ列島の諏訪之瀬島が舞台です。
トカラ列島は、種子島や屋久島のさらに南、奄美大島との間の大海原に、点々と12の島々が浮かぶ。有人7島、無人5島。南北160キロに及ぶ、日本一長い村、十島村。
主人公は半分野良猫のニャンと完全に野生のカラス、アラとアララを「飼って」いる。どちらもエサをもらいにやってくるのだ。
主人公は牛を放牧して育てています。母牛のエミールが人知れず、山のなかで出産する。母牛は通常、1年に1頭産む。ところが、母牛のエミールが死産し、自らも死んでしまうのです。そして主人公が現場に戻ると、なんともう一頭、牛の赤ん坊がいたのでした。双子だったのです。エミールは死ぬ間際に2頭目を産み落としたということです。
さあ、大変です。母牛がいないなかで、生まれたての仔牛を育てなくてはいけません。
母牛の初乳を仔牛は飲まないと免疫力がなくて、仔牛は死んでしまうのです。
仔牛の瞳を凝視すると、その瞳の奥には深い存在の根源そのものの静謐(せいひつ)と緊迫と、いまだ封印されている躍動の波が感じられる。透明な視線だった。
仔牛に地涌(じゆう)という名前をつけた。地から湧き出たるものという意味だ。
地涌は食欲が満たされると、躁状態になり、思わずはしゃぎ回る。これをパカラと呼んだ。
和牛業界では、仔牛生産農家が仔を誕生から8.9ヶ月齢まで育成する。そして競(せ)りにかけて売買し、その後、肥育農家の手で20ヶ月間養われ、その後、競売屠殺(とさつ)され、牛肉として市場に出回る。肉牛は経済動物であり、営利の対象だ。つまり主人公は、いくら仔牛の地涌と仲良くなっても、それはせいぜい9ヶ月間だけ、そして競りにかけて手放さなければいけない。
月日がたち、いよいよ地涌との別れの日が明日になった。主人公が声をかけながら牛舎に入っていくと、部屋の一番奥に座っていた地涌は、ゆっくり立ち上がり、一歩一歩いつもとは違う歩調で近づいてきた。あれっ、と思い地涌の顔を見ると、地涌は泣いていた。涙で瞳は光り、下まぶたは涙の滴で大きく濡れている。地涌には明日の別れが分かっていたのだ。主人公は地涌の顔を手で抱いて、頬にまで流れる涙を親指で優しく拭(ぬぐ)った。地涌の命からほとばしる無念の滴(しずく)だった。
かけてあげる言葉はなく、一緒に泣きたかった。そして改めて地涌の涙あふれる瞳を見つめた。地涌もじっと主人公を見つめた。すると、地涌の瞳は愁(うれ)いではなく、明るく慈愛の光に満ちていた。地涌の涙は惜別や悲哀の情ではなく、主人公の心情を斟酌し、そのすべてを許し、すべてあるがままを受け入れる真理からにじみ出た慈悲の涙なのだ。主人公は思わず、その涙に手を合わせた。そして、地涌の目は久しぶりにやんちゃな眼差しに戻っていて、何をして遊ぼうかと行動を起こしはじめた。いつものパカラだ...。
前に女性が豚を2頭、子豚から大人の豚になるまで飼って、ついに殺してもらってとび切り美味しい豚肉を食べたという本を読みました(このコーナーで紹介しています)が、それを思い出しました。日頃、私たちが美味しい美味しいと言いながら食べている牛肉は、このように鋭い意識を持つ生命体を殺しているのですね。そのことを自覚しないといけないと改めて思ったことでした。
世界54ヶ国を放浪している団塊世代(1945年生)の味わい深い小冊子でした。
(2019年10月刊。1200円+税)

2020年8月 3日

ネズミのおしえ


(霧山昴)
著者 篠原 かをり 、 出版 徳間書店

ネズミって、意外に賢いようです。
嬉しくても顔には出さない。ネズミは、母ネズミに可愛がられているとき、子ネズミ同士でじゃれあっているとき、笑い声をあげる。人間がくすぐって笑わせることもできる。ただし、ネズミの笑い声は5万ヘルツという、とてつもなく高い音で笑っている。
ネズミは遊び好き。他者の悲しみに寄り添える。
自分の選択を後悔するし、負け続けると自信を失ってしまう。人間によく似ているネズミは仲間が傷つくのを避け、見捨てないという共感性をもっている。
性格は個体によって異なる。
芸を覚える賢いネズミがいるし、おっとりとして撫でられるのが大好きなネズミもいる。
ペットとしてのネズミの欠点は寿命の短さ。2年しかない。
日本には数十種類のネズミがいるが、日頃みかけるのは、ドブネズミとクマネズミとハツカネズミの3種。実験動物として使われるドブネズミはラットと呼ばれる。
同じくハツカネズミは、実験動物としてはマウスと呼ばれる。
ヌートリアもネズミの仲間。ビーバーもネズミの仲間。
ハリネズミは、モグラに近い仲間。
カヤネズミは体長6センチ、体重7グラムで、日本最小。
カピバラは、ネズミの仲間のなかで最大。カピバラとは「草原の支配者」のこと。とても穏やかな性格。メスは自分の子どもだけでなく、群れの子どもに分け隔てなく授乳し、共同で子育てする。そして、本気を出せばカピバラも時速50キロのスピードで走ることができる。
平安時代の藤原道長はネズミを可愛らしい生き物としてとらえ、歌を詠んでいる。
インドのカルニ・マタ寺院では、2万匹のネズミを放し飼いしている。ここではネズミにお願いごとをすると、それがかなえられるというので人気を集めている。
ネズミは、立派な社会性をもった動物だ。
ネズミは群れで生活している。意外に仲間と一緒にいることを好む動物だ。孤独になるとストレスを受ける。
ネズミが嬉しいと耳にあらわれる。ピンク色に色づき、耳は外側に向かって寝ている。
ネガティブな表情をしているネズミには、ほかのネズミは近付きたがらない。
ネズミは自分が損をすると分かっていても仲間を助けるし、受けた恩は忘れない。
ネズミは隠れんぼのルールを理解して遊ぶ。そして勝ったときには歓声をあげる。
ええっ、これって、いくらなんでもウソでしょ、と言いたくなりますよね...。
地雷除去活動にアフリカオニネズミが活躍している。抜群の嗅覚でわずかな火薬の匂いをかぎとり、地雷を発見する。ネズミは体重が軽いので、地雷を踏んでも爆発させることはない。
ネズミ自身、そしてネズミを通して、いろんなことを知ることができました。ありがとうございます。
(2020年4月刊。1500円+税)

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