弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2020年9月 7日
虫とゴリラ
(霧山昴)
著者 養老 孟司、山極 寿一 、 出版 毎日新聞出版
二大巨人の対談ですから、面白くないはずがありません。
ゴリラは小さな虫を遊ぶことができる。手にダンゴムシをのせて遊ぶ。ココというメスのゴリラは、すごく猫好きで、何匹も猫を飼っていた。ええっ、本当ですか、どうやって...???
東北地方のサルは、江戸時代にマタギによって根絶やしにされた。サルを狩猟していない西南日本一帯では、サルは「神様の使い」だった。
アメリカザリガニは本当にたちが悪い。西日本新聞(2020.8.27)に中国・武漢では、ビールのつまみとして、日本から入ってきたアメリカザリガニが大いに食べられているとのことです。びっくりしました。戦後、日本でも食べていましたが、主としてニワトリのエサでした。私も小学生のころはザリガニ釣りに夢中でした。
いまの日本ではサル以上に恐ろしいのはシカとイノシシ。どれだけ捕まえても、どんどん増えている。
インドネシアの島に7種類のサルがいる。ペニスの形が違うので、交雑種はできない。また、お尻の形が違うと、発情すらしない。
サルやチンパンジーは、年中、毛繕いをしている。それで親しく共存できる。ヒトは体毛がないので、毛繕い以外の何らかのコミュニケーションを考えなくてはいけなくなった。
ゴリラが昼寝するときには、夜のようにベッドをつくらず、お互いに腹をくっつけあってつながって寝ている。
ヒトの祖先は草原(サバンナ)へ進出していった。ゴリラはもっとも保守的で、未知の場所へは出て行かず、むしろ熱帯雨林のど真ん中で暮らし続けることにした。なので、非常に食性を広くもつことにした。
チンパンジーもゴリラも、食物の分配はする。だけど、運ぶことはしない。ヒトだけが、仲間のいる安全な場所へ食物を運んだ。
言葉は聴覚と視覚を利用する。言葉は意味を伝えるもの。
オランウータンは7年も母乳を吸うし、チンパンジーは5年、ゴリラも4年。ところがヒトだけが1年か2年で、乳歯のまま離乳する。
子どもは保育園児までは、虫の好き嫌いが一切ない。小学校にあがると急に虫の好き嫌いが出てくる。子ども時代に自然に接していないと、実は自然に親しめなくなる。
私もザリガニ釣りのためにカエル(ビキタンと呼んでいました)を手にもって地面に叩きつけて殺し、両足をひき裂いて、糸にぶらさげてエサにしていました。カエルの足はザリガニ釣りのエサとしては最高なんです。そして、ストローでカエルの尻に空気を吹き込み、パンパンにふくれあがらせて、池に放りこんで、うれしがっていました。子どもは残酷なことが平気ですし、好きなんです。
子どもは、そうやって虫の世界、動物の世界に入っているし、いける。
人間のもっている大きな力は想像力。想像力が人間の世界を拡張するのに役立った。
いまの日本社会は、「感じない人」を大量生産している。受動的な人間ができてしまう。
常識を破るところに人間の面白さがある。AIは常識を破ることはできない。
日本の大企業の内部留保は460兆円。これは、にほんの国家予算の規模。これが有効に活用されていない。
人間同士のつながりは人間だけではなしえない。そのつながりには、常に自然が介在してきたことを忘れてはいけない。
はっとさせられる指摘が多く、日頃のあまりに「常識」的な発想を反省させられました。
(2020年7月刊。1500円+税)
2020年8月31日
動物の看護師さん
(霧山昴)
著者 保田 明恵 、 出版 大月書店
人間のための病院に看護師がいるのと同じように、ほとんどの動物病院に動物看護師がいて、獣医師のかけがえのないパートナーとして力を発揮している。
獣医師という存在は当然のこととして認識していましたが、動物看護師という職業は、恥ずかしながら、この本を読むまで認識していませんでした。この本には6人の動物看護師が登場します。
動物なので自分の口から体調を説明したり、進んで検査や治療を受けることはない。そこに動物看護師の存在が欠かせない理由がある。
保定(ほてい)とは、診察や検査、治療などのとき、そのための姿勢を動物にたもたせ、そのまま動きを止めること。力ずくではなく、要所を心得た押さえ方で、動きをピタリと止める。それがプロの保定だ。
飼主と子犬が参加するしつけ教室をパピークラスと呼ぶ。警戒心が弱く、好奇心旺盛な子犬の時期に、飼主以外の人間や他の子犬と触れあわせることで、将来、社会でストレスなく生きていける犬に育てること、また子犬を飼いはじめた人に必要な知識を教えるのが目的。
病院に連れて来られた犬には、できるだけ声をかける。「すぐ終わるよー」などと動物に声をかけて恐怖心をやわらげてやる。
シニア犬の場合には、老衰や認知症がすすんでいて、目を離したすきに何が起きるか分からない。犬のシニア期のスタートは大型犬だと5~6歳ころ、一般には7歳から老化が始まる。異変を察知するとき、まず目をみる。歯ぐきも大切だ。歯ぐきが健康なピンク色でなく白ければ貧血を起こしている。
猫が足をひきずっていると、血栓塞栓(そくせん)症の可能性がある。
死が直前にせまった犬や猫は、必ず「ワン」とか「ニャー」と鳴く。最後のひと鳴きをするのだ。人間の場合は深い深呼吸をするそうです。
犬が揚げ物屋の油の匂いがしたら、膵(すい)炎の可能性が強い。
動物病院における動物看護師の待遇は全般的に恵まれているとは言い難い。座るひまもなく動きまわり、急患の対応に追われることもある業務に見合った金額とはとても言えないのが実情だ。
チンチラ(猫)のメスは気が強め、オスのほうはたいがいボーッとしていてえ、どんくさいコが多い。
うひゃあ、これって人間そっくりじゃありませんか...。
日本には2万人以上の動物看護師がいる。これまで、獣医師は国家資格なのに、動物看護師は民間資格だった。2011年に動物看護師統一認定機構が設立され、試験を受けて認定動物看護師資格を取得するのが一般的となった。そして2019年6月に愛玩動物看護師法が制定され、国家資格となることになった。2023年から国家試験が始まる。
本書では、動物病院ではたらく動物看護師たちの苦労とやり甲斐が語られていますが、それは人間世界そのものだと痛感しました。
これも世の中の大切な職業の一つだと思います。
(2020年3月刊。1600円+税)
2020年8月17日
タコの知性
(霧山昴)
著者 池田 護 、 出版 朝日新書
ええっ、タコに知性があるだなんて、アホじゃないの...。思わず、そう叫びたくなります。でも、本当にタコは思いのほか賢いようなのです。
タコは、実はハイレベルな学習をやってのける海底の賢者なのだ。
タコの世界的な輸出国は、中国とモロッコ。タコは全世界の海に生息している。世界的なタコとイカの輸入国は、日本、アメリカ、スペインそしてイタリア。
漁獲量はイカが圧倒的に多く、タコは1割ほどでしかない。イカは比較的浅いところを集団で行動しているが、タコは集団をつくらない。
250種のタコが全世界の海洋に分布している、
タコは、近い親戚筋のイカ、オウムガイそしてアンモナイトと一緒に頭足(とうそく)網(こう)というグループに入っている。
タコは8本の腕をもち、イカは10本の腕をもつ。「タコハチ、イカジュウ」と覚える。
タコは色が見えず、色覚を欠いた動物だ。しかし、タコ自身は色彩の使い手。
ミミックオクトパスは、複数のモデル種に化けることができる。パッとミノカサゴになり、次はパッとウミヘビになる。
タコは、色彩をベースとしたボディパターンでコミュニケーションをとる。
タコの寿命は1年ほど。長くて2年を少しこえるくらい。タコは繁殖したら最後、それで死亡する。これはイカも同じ。タコの腕の中には骨がない。
タコは観察学習する。隣のタコのやっていることを真似る。タコは道具を使う。
タコは人間に熱い視線を送る。タコは腕で考える。
麻薬を摂取すると、タコもハイになる。
タコが怒ると、たとえば体表のリング模様をギラギラと点滅させる。まずいエサを与えられると、怒って水中から投げつけて返す。タコの身体の色彩の変化は表情を示しているのだ。
タコの地道な研究の面白さが伝わってくる本でした。
(2020年4月刊。810円+税)
2020年8月16日
地涌の涙
(霧山昴)
著者 加藤 賢秀 、 出版 南方新社
トカラ列島の諏訪之瀬島が舞台です。
トカラ列島は、種子島や屋久島のさらに南、奄美大島との間の大海原に、点々と12の島々が浮かぶ。有人7島、無人5島。南北160キロに及ぶ、日本一長い村、十島村。
主人公は半分野良猫のニャンと完全に野生のカラス、アラとアララを「飼って」いる。どちらもエサをもらいにやってくるのだ。
主人公は牛を放牧して育てています。母牛のエミールが人知れず、山のなかで出産する。母牛は通常、1年に1頭産む。ところが、母牛のエミールが死産し、自らも死んでしまうのです。そして主人公が現場に戻ると、なんともう一頭、牛の赤ん坊がいたのでした。双子だったのです。エミールは死ぬ間際に2頭目を産み落としたということです。
さあ、大変です。母牛がいないなかで、生まれたての仔牛を育てなくてはいけません。
母牛の初乳を仔牛は飲まないと免疫力がなくて、仔牛は死んでしまうのです。
仔牛の瞳を凝視すると、その瞳の奥には深い存在の根源そのものの静謐(せいひつ)と緊迫と、いまだ封印されている躍動の波が感じられる。透明な視線だった。
仔牛に地涌(じゆう)という名前をつけた。地から湧き出たるものという意味だ。
地涌は食欲が満たされると、躁状態になり、思わずはしゃぎ回る。これをパカラと呼んだ。
和牛業界では、仔牛生産農家が仔を誕生から8.9ヶ月齢まで育成する。そして競(せ)りにかけて売買し、その後、肥育農家の手で20ヶ月間養われ、その後、競売屠殺(とさつ)され、牛肉として市場に出回る。肉牛は経済動物であり、営利の対象だ。つまり主人公は、いくら仔牛の地涌と仲良くなっても、それはせいぜい9ヶ月間だけ、そして競りにかけて手放さなければいけない。
月日がたち、いよいよ地涌との別れの日が明日になった。主人公が声をかけながら牛舎に入っていくと、部屋の一番奥に座っていた地涌は、ゆっくり立ち上がり、一歩一歩いつもとは違う歩調で近づいてきた。あれっ、と思い地涌の顔を見ると、地涌は泣いていた。涙で瞳は光り、下まぶたは涙の滴で大きく濡れている。地涌には明日の別れが分かっていたのだ。主人公は地涌の顔を手で抱いて、頬にまで流れる涙を親指で優しく拭(ぬぐ)った。地涌の命からほとばしる無念の滴(しずく)だった。
かけてあげる言葉はなく、一緒に泣きたかった。そして改めて地涌の涙あふれる瞳を見つめた。地涌もじっと主人公を見つめた。すると、地涌の瞳は愁(うれ)いではなく、明るく慈愛の光に満ちていた。地涌の涙は惜別や悲哀の情ではなく、主人公の心情を斟酌し、そのすべてを許し、すべてあるがままを受け入れる真理からにじみ出た慈悲の涙なのだ。主人公は思わず、その涙に手を合わせた。そして、地涌の目は久しぶりにやんちゃな眼差しに戻っていて、何をして遊ぼうかと行動を起こしはじめた。いつものパカラだ...。
前に女性が豚を2頭、子豚から大人の豚になるまで飼って、ついに殺してもらってとび切り美味しい豚肉を食べたという本を読みました(このコーナーで紹介しています)が、それを思い出しました。日頃、私たちが美味しい美味しいと言いながら食べている牛肉は、このように鋭い意識を持つ生命体を殺しているのですね。そのことを自覚しないといけないと改めて思ったことでした。
世界54ヶ国を放浪している団塊世代(1945年生)の味わい深い小冊子でした。
(2019年10月刊。1200円+税)
2020年8月 3日
ネズミのおしえ
(霧山昴)
著者 篠原 かをり 、 出版 徳間書店
ネズミって、意外に賢いようです。
嬉しくても顔には出さない。ネズミは、母ネズミに可愛がられているとき、子ネズミ同士でじゃれあっているとき、笑い声をあげる。人間がくすぐって笑わせることもできる。ただし、ネズミの笑い声は5万ヘルツという、とてつもなく高い音で笑っている。
ネズミは遊び好き。他者の悲しみに寄り添える。
自分の選択を後悔するし、負け続けると自信を失ってしまう。人間によく似ているネズミは仲間が傷つくのを避け、見捨てないという共感性をもっている。
性格は個体によって異なる。
芸を覚える賢いネズミがいるし、おっとりとして撫でられるのが大好きなネズミもいる。
ペットとしてのネズミの欠点は寿命の短さ。2年しかない。
日本には数十種類のネズミがいるが、日頃みかけるのは、ドブネズミとクマネズミとハツカネズミの3種。実験動物として使われるドブネズミはラットと呼ばれる。
同じくハツカネズミは、実験動物としてはマウスと呼ばれる。
ヌートリアもネズミの仲間。ビーバーもネズミの仲間。
ハリネズミは、モグラに近い仲間。
カヤネズミは体長6センチ、体重7グラムで、日本最小。
カピバラは、ネズミの仲間のなかで最大。カピバラとは「草原の支配者」のこと。とても穏やかな性格。メスは自分の子どもだけでなく、群れの子どもに分け隔てなく授乳し、共同で子育てする。そして、本気を出せばカピバラも時速50キロのスピードで走ることができる。
平安時代の藤原道長はネズミを可愛らしい生き物としてとらえ、歌を詠んでいる。
インドのカルニ・マタ寺院では、2万匹のネズミを放し飼いしている。ここではネズミにお願いごとをすると、それがかなえられるというので人気を集めている。
ネズミは、立派な社会性をもった動物だ。
ネズミは群れで生活している。意外に仲間と一緒にいることを好む動物だ。孤独になるとストレスを受ける。
ネズミが嬉しいと耳にあらわれる。ピンク色に色づき、耳は外側に向かって寝ている。
ネガティブな表情をしているネズミには、ほかのネズミは近付きたがらない。
ネズミは自分が損をすると分かっていても仲間を助けるし、受けた恩は忘れない。
ネズミは隠れんぼのルールを理解して遊ぶ。そして勝ったときには歓声をあげる。
ええっ、これって、いくらなんでもウソでしょ、と言いたくなりますよね...。
地雷除去活動にアフリカオニネズミが活躍している。抜群の嗅覚でわずかな火薬の匂いをかぎとり、地雷を発見する。ネズミは体重が軽いので、地雷を踏んでも爆発させることはない。
ネズミ自身、そしてネズミを通して、いろんなことを知ることができました。ありがとうございます。
(2020年4月刊。1500円+税)
2020年7月20日
数をかぞえるクマ、サーフィンするヤギ
(霧山昴)
著者 ベリンダ・レミオ 、 出版 NHK出版
イルカがザトウクジラの背中をすべり台にして遊び、幼いチンパンジーはごっこ遊びをする。ガラガラヘビは母親どうしで子どもの世話をし、ワニは、斜面をすべりおりたり、サーフィンしたり、追いかけっこして遊ぶ。
どれもこれも、ウソみたいな本当の話です。そんな驚きの話が満載の本なのです。
このとき、動物は私たち人間と似ていると気づくだけではダメ。そうでなくて動物の生き方が私たち人間とどれだけ違うのか、それに気づくことによって、人間である私たち自身の心と知性が高められる。
なるほど、そうですよね。人間は万物の霊長と言いながら、やっていることは皆殺しの戦争であったり、トランプ大統領のように平和なデモでも暴徒集団視して軍隊で鎮圧しようとするなんて、知性のカケラも認められないでしょう...。
ネズミはくすぐられると笑う。カササギは死んだ仲間を木の葉でおおって、死を悲しんでいる(ように見える)。ザトウクジラのメスは年に1度、女子会をして、そのために何千キロも旅をする。オマキザルは不公平に扱われると憤慨する。
オウムの悪ふざけは有名だ。人間が命令する声をまねして犬をからかったり、いろいろいたずらをする。
実験した結果、サルが不公平な扱いに敏感になるのは、労力と関連していることが判明した。
イヌは、遊びたい気持ちを、遊ぼうよという仕草で最初にはっきり伝える。
水槽の魚は猫が近づいてくると、いきなり水面まではね上って猫を驚かせる。
ゴリラのココは、手話で嘘をつく。規則を破ったことを隠して、叱られないようにする。
チンパンジーは、ヤミの酒場で1回に平均1リットルを飲み、「楽しいひととき」を過ごす。そして、気持ちの良さような場所を見つけてひと眠りし、酔いをさます。
動物は、豊かな感情をもっている。
この本は、最後に問いかけます。人間は宇宙で唯一の知的生命体なのか...。答えは、明らかだ。
「いいえ、違います」
そうなんです。もう少し人類は頭を冷やすべきなのです。
(2017年12月刊。1600円+税)
2020年7月11日
考えるナメクジ
(霧山昴)
著者 松尾 亮太 、 出版 さくら舎
わが家の台所の板張りの床に、ときにぶっといナメクジ様が鎮座しておられます。そんなときは、うやうやしく白い紙に包み外に放り出させていただいています。もう、もったいないので塩を振りかけて溶けるのを待つようなことはいたしません。
そんな身近なナメクジを研究対象とし、研究室で何千匹も飼って育てているという奇特な学者がこの世にいるのです。信じられませんね...。
日本でよく見かけるナメクジは外来種のチャコラナメクジで、在来種のほうはフタスジナメクジ。こちらは体が大きくて、這い方がスローモー。でしたら、わが家に出没するのは在来種のフタスジナメクジでしょうか...。
著者の研究室では20年近く、常時3000~5000匹のナメクジを維持・繁殖している。現在、なんと38世代目とのこと。飼育箱を取り替え、エサを補充するのに1回あたり3時間かかる。エサは野菜くず。
ナメクジは単細胞生物なので、「動物」ではない。
ナメクジは、水さえあれば、絶食しても1ヶ月半は生きている。
ナメクジは明るい場所を嫌い、暗い場所を好む。それは乾燥を避けるため。カタツムリと違って殻をもたないナメクジの宿命。
ナメクジの寿命は1年から2年ほど。
ナメクジを生(なま)で食べると、寄生虫が脳まで達して重篤な病気になることがある。
ナメクジには脳も心臓もある。その血は赤くない。
ナメクジは頭部右側の孔(あな)から受精卵を産み落とす。
ナメクジの脳は、大きさ1・5ミリ角ほど。ナメクジには、脳で記憶するだけでなく、触覚にあるニューロンにも保持されている。
そうなんです。ナメクジには脳があり、きちんと記憶できるのです。
ナメクジの脳(前頭葉)をピンセットで潰しても、1ヶ月で前頭葉は再生する。大小二対ある触覚も、切断されても自発的に再生する。
ノロノロというペースのナメクジは、1分間に18センチ進む。1時間では10.8メートル進む計算だ。
つかまえどころのないナメクジを研究し続けているなんて、すばらしいことだと思います。それにしても、よりによってナメクジを研究対象とし、さらに人間との相違点を探ろうというのに、ほとほと驚嘆するばかりです。
(2019年10月刊。1600円+税)
2020年7月 6日
花と昆虫のしたたかで素敵な関係
(霧山昴)
著者 石井 博 、 出版 ベレ出版
コウモリが花と密接な関係をもっているというのに驚きました。
コウモリに受粉を依存する植物(コウモリ媒)の花は夜間に開花し、発酵臭など強い匂いをもつ。音を反響しやすい構造の花となっている(アメリカ)。
花の周囲に音を吸収する綿毛を生やすことで、花の反響音を際立たせている。種ごとに固有の反響音をもっていて、コウモリは、その音響指紋によって花の種類を識別している。
花にとっては、植物の多様性が非常に高く、同種の植物が近くに生育していないことが珍しくない熱帯の植物にとって、コウモリの飛行距離が長い(1晩で50キロメートルも飛びまわるコウモリもいる)、学習能力が高いことは重要な意味をもっている。
コウモリと花とが、こうやって依存しあっているなんて、不思議ですよね。
性的擬態を行うランは、多くの場合、たった1種の送粉者だけを利用している。
特定少数の相手とだけ関係を結んでいる植物種や訪花者のことを、送粉生態学の世界では、スペシャリストと呼ぶ。植物にとって、スペシャリストの訪花者に送粉を依存することは、異種植物間の送粉を軽減させるには有効。なぜなら、スペシャリストの訪花者は、浮気せず特定の植物種ばかりを訪花してくれるから。ところが、その訪花者がいなくなると、受粉できなくなるリスクをかかえることにもつながる。
自家受粉によって生産された種子は他家受粉によってつくられた種子(他殖種子)に比べ質が劣ることが多い。このため、自家受粉を行うのは、植物にとって好ましいことではない。
送粉と受粉を終えた古い花が花色を変化させる。古い花をしおれさせずに維持すると、株全体を目立たせることができ、より多くの送粉を惹き寄せることができる。しかし、もし株にやってきた送粉者たちが古い花にまで訪れると、送粉者に付着していた花粉が、古い花に付着してムダになってしまう。そこで、訪れてほしくない古い花の色を変えることで、その花が報酬をもたない、訪れる価値のない花であることを、送粉者にわかりやすく伝えている。
自然界で生物たちは、昆虫も花も、みんな知恵を働かせて一生けん命に生きていることがよく分かります。
農薬は、昆虫の免疫力を下げるため、寄生生物やウィルスへの抵抗性を下げ、これらの蔓延を招く危険がある。そうなんですね、豊かな自然環境をきちんと次世代につなげていきましょう。
不思議な生物界の話が満載の本でした。
(2020年3月刊。1800円+税)
2020年6月15日
美しい生物学講義
(霧山昴)
著者 更科 功 、 出版 ダイヤモンド社
弁護士生活をしているうちに、人間っていったいどんな存在なのか、つくづく考えさせられました。不倫は、男と女、セックスの意味ですし、子どもの親権争いでは、そもそも親子の関係はどうあるべきなのか、遺産相続では、兄弟姉妹の優劣はあっていいのか、老後の面倒はいったい誰がみるべきなのか...。まず、ヒトに近い、サル、そしてチンパンジーやらゴリラに関心が行きました。ところが、ボノボもいたり、セックスと社会平和の関係まで考えさせられます。
相続、世代継承という点では、植物だって動いている存在だということも分かってきました。すると、植物と動物とを結ぶ昆虫の存在も目についてきます。要するに、生物全体に目が行くようになったのです。
日本の屋久島(残念ながら、まだ行ったことがありません)には、樹齢2千年とか3千年という屋久杉がある。7千年をこすという推定は、今では信用されていない。
アメリカの標高2千メートル超の高地に生えているブリスルコーンパインは4千8百年という最長の樹齢が確認されている。
いや、アメリカのモハーベ砂漠に生育するクレオソートブッシュは1万1700年も生きている。いやはや、たまげてしまいます。
ミドリムシ(ユーグレナ)は、葉緑体をもっていて、光合成することができる。それで、植物だと思える。いったいミドリムシは動物なのか...。
実際には、動物でも植物でもない生物はたくさんいる。
今、問題のコロナ・ウィルスは生物ではないということ。すると、容易に撲滅できるはずなのに、彼らはなかなか絶滅しない。いったい、なぜ...?
生物とは、次の3つの条件をみたすもの。第一に、外界と膜で仕切られていること。第二に、代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う。第三に、自分の複製をつくる。生物は水中で誕生したと考えられている。その理由の一つは、化学反応が起きやすいからだった。
若い読者に贈る生物学講義ということで、大変わかりやすい本になっています。そのため、既に「第6刷」が発行されています。すごいものです。私の本もこんなに売れてくれたら...と、切に願っています。
(2020年4月刊。1600円+税)
2020年6月 1日
カラスは飼えるか
(霧山昴)
著者 松原 始 、 出版 新潮社
カラスを飼おうなんて、もちろん私は一度も思ったことはありません。真黒くて、不気味で、ゴミあさりをして道路を汚してしまう...。そんな悪いイメージしかカラスにはありません。
この本で著者は結論として、うっかりカラスを飼ってはいけないとしています。
なにしろ、カラスって、40年以上も長生きすることがあるというのです。せいぜい15年ほどのイヌやネコとは違うのです。
カラスは、人間には簡単になつくことはない。
カラスは、いたずら好き。気になるものは、すべてつつく。とにかくつついて、ぶっ壊す。それからもち去り、隠す。
カラスは絶望的にしつこい。ケージの留め金を外すくらいは朝飯前。
そんなカラスを飼うのは、やめときなさいというのが著者のご託宣です。分かりました。そうします...。
カラスは、三原色に加えて紫外線も見えている。石けんとかゴルフボールを持ち去る習性は、それと関係があるのか...。
カラスの肉は食えるが、あまりおいしそうでもない。カラスの肉は高タンパク質低カロリー。タウリンや鉄分を大量に含んでいる。
南アメリカには、過去も現在もカラスが分布していない。
うひゃあ、な、なぜでしょうか...。
カラスは仲間が死んだら、その周囲で大騒ぎする。これをカラスの葬式という。
若いカラスの群れには、はっきりした順位がある。上位のオスはよくモテるし、上位のオスをめぐって、メス同士も争うことがある。
カササギは、わが家の周囲にフツーにいる鳥です。毎年、電柱の高いところに立派な巣をつくっています。毎年、九電が巣を撤去しますが、子育てが終わってからのようです。このカササギの巣は丸いボール状の構造ですが、横向きに出入口があるとのこと。いつも巣は見ていますが、初めて知りました。
カササギは九州だけでなく、最近は北海道の室蘭や苫小牧付近でも繁殖している。これは、ロシアの貨物船から来たと思われる。
カササギは、カチ(勝ち)ガラスともいいますが、これは韓国語由来だそうです。韓国では、カササギのことをカッチと呼び、大変人気がある。カッチというカラスっぽい鳥としてカチガラスと呼んだのだろう。
これが著者の意見です。著者には『カラスの教科書』などもあり、まさにカラス博士です。
(2020年3月刊。1400円+税)
アベノマスクが5月末になってようやく届きました。郵便ポストに投げ込まれていたのです。もうマスクは町中どこでも売っていますので、どこか必要なところへ寄付するつもりです。それにしてもつくって配るのに468億円かけ、また38億円かけて追加するなんて信じられません。政権中枢に近い会社がもうかり、配ったゆうちょが助かっただけではありませんか...。
また、持続化給付金のほうも電通と竹中平蔵のパソナが濡れ手のアワのボロもうけをするとのこと。国民の不幸を喰いものにして金もうけに走るアベ政権にはほとほと愛想が尽きます。50代、60代の女性のアベ首相の支持率が2割未満だという世論調査が出ていますが、それも当然です。ここで怒らないと、いつ怒りますか。政治が生活と直結していることを身をもって知らされている今、世の男どもはいったい何を考えているのでしょうか...。