弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2020年8月16日
地涌の涙
(霧山昴)
著者 加藤 賢秀 、 出版 南方新社
トカラ列島の諏訪之瀬島が舞台です。
トカラ列島は、種子島や屋久島のさらに南、奄美大島との間の大海原に、点々と12の島々が浮かぶ。有人7島、無人5島。南北160キロに及ぶ、日本一長い村、十島村。
主人公は半分野良猫のニャンと完全に野生のカラス、アラとアララを「飼って」いる。どちらもエサをもらいにやってくるのだ。
主人公は牛を放牧して育てています。母牛のエミールが人知れず、山のなかで出産する。母牛は通常、1年に1頭産む。ところが、母牛のエミールが死産し、自らも死んでしまうのです。そして主人公が現場に戻ると、なんともう一頭、牛の赤ん坊がいたのでした。双子だったのです。エミールは死ぬ間際に2頭目を産み落としたということです。
さあ、大変です。母牛がいないなかで、生まれたての仔牛を育てなくてはいけません。
母牛の初乳を仔牛は飲まないと免疫力がなくて、仔牛は死んでしまうのです。
仔牛の瞳を凝視すると、その瞳の奥には深い存在の根源そのものの静謐(せいひつ)と緊迫と、いまだ封印されている躍動の波が感じられる。透明な視線だった。
仔牛に地涌(じゆう)という名前をつけた。地から湧き出たるものという意味だ。
地涌は食欲が満たされると、躁状態になり、思わずはしゃぎ回る。これをパカラと呼んだ。
和牛業界では、仔牛生産農家が仔を誕生から8.9ヶ月齢まで育成する。そして競(せ)りにかけて売買し、その後、肥育農家の手で20ヶ月間養われ、その後、競売屠殺(とさつ)され、牛肉として市場に出回る。肉牛は経済動物であり、営利の対象だ。つまり主人公は、いくら仔牛の地涌と仲良くなっても、それはせいぜい9ヶ月間だけ、そして競りにかけて手放さなければいけない。
月日がたち、いよいよ地涌との別れの日が明日になった。主人公が声をかけながら牛舎に入っていくと、部屋の一番奥に座っていた地涌は、ゆっくり立ち上がり、一歩一歩いつもとは違う歩調で近づいてきた。あれっ、と思い地涌の顔を見ると、地涌は泣いていた。涙で瞳は光り、下まぶたは涙の滴で大きく濡れている。地涌には明日の別れが分かっていたのだ。主人公は地涌の顔を手で抱いて、頬にまで流れる涙を親指で優しく拭(ぬぐ)った。地涌の命からほとばしる無念の滴(しずく)だった。
かけてあげる言葉はなく、一緒に泣きたかった。そして改めて地涌の涙あふれる瞳を見つめた。地涌もじっと主人公を見つめた。すると、地涌の瞳は愁(うれ)いではなく、明るく慈愛の光に満ちていた。地涌の涙は惜別や悲哀の情ではなく、主人公の心情を斟酌し、そのすべてを許し、すべてあるがままを受け入れる真理からにじみ出た慈悲の涙なのだ。主人公は思わず、その涙に手を合わせた。そして、地涌の目は久しぶりにやんちゃな眼差しに戻っていて、何をして遊ぼうかと行動を起こしはじめた。いつものパカラだ...。
前に女性が豚を2頭、子豚から大人の豚になるまで飼って、ついに殺してもらってとび切り美味しい豚肉を食べたという本を読みました(このコーナーで紹介しています)が、それを思い出しました。日頃、私たちが美味しい美味しいと言いながら食べている牛肉は、このように鋭い意識を持つ生命体を殺しているのですね。そのことを自覚しないといけないと改めて思ったことでした。
世界54ヶ国を放浪している団塊世代(1945年生)の味わい深い小冊子でした。
(2019年10月刊。1200円+税)
2020年8月 3日
ネズミのおしえ
(霧山昴)
著者 篠原 かをり 、 出版 徳間書店
ネズミって、意外に賢いようです。
嬉しくても顔には出さない。ネズミは、母ネズミに可愛がられているとき、子ネズミ同士でじゃれあっているとき、笑い声をあげる。人間がくすぐって笑わせることもできる。ただし、ネズミの笑い声は5万ヘルツという、とてつもなく高い音で笑っている。
ネズミは遊び好き。他者の悲しみに寄り添える。
自分の選択を後悔するし、負け続けると自信を失ってしまう。人間によく似ているネズミは仲間が傷つくのを避け、見捨てないという共感性をもっている。
性格は個体によって異なる。
芸を覚える賢いネズミがいるし、おっとりとして撫でられるのが大好きなネズミもいる。
ペットとしてのネズミの欠点は寿命の短さ。2年しかない。
日本には数十種類のネズミがいるが、日頃みかけるのは、ドブネズミとクマネズミとハツカネズミの3種。実験動物として使われるドブネズミはラットと呼ばれる。
同じくハツカネズミは、実験動物としてはマウスと呼ばれる。
ヌートリアもネズミの仲間。ビーバーもネズミの仲間。
ハリネズミは、モグラに近い仲間。
カヤネズミは体長6センチ、体重7グラムで、日本最小。
カピバラは、ネズミの仲間のなかで最大。カピバラとは「草原の支配者」のこと。とても穏やかな性格。メスは自分の子どもだけでなく、群れの子どもに分け隔てなく授乳し、共同で子育てする。そして、本気を出せばカピバラも時速50キロのスピードで走ることができる。
平安時代の藤原道長はネズミを可愛らしい生き物としてとらえ、歌を詠んでいる。
インドのカルニ・マタ寺院では、2万匹のネズミを放し飼いしている。ここではネズミにお願いごとをすると、それがかなえられるというので人気を集めている。
ネズミは、立派な社会性をもった動物だ。
ネズミは群れで生活している。意外に仲間と一緒にいることを好む動物だ。孤独になるとストレスを受ける。
ネズミが嬉しいと耳にあらわれる。ピンク色に色づき、耳は外側に向かって寝ている。
ネガティブな表情をしているネズミには、ほかのネズミは近付きたがらない。
ネズミは自分が損をすると分かっていても仲間を助けるし、受けた恩は忘れない。
ネズミは隠れんぼのルールを理解して遊ぶ。そして勝ったときには歓声をあげる。
ええっ、これって、いくらなんでもウソでしょ、と言いたくなりますよね...。
地雷除去活動にアフリカオニネズミが活躍している。抜群の嗅覚でわずかな火薬の匂いをかぎとり、地雷を発見する。ネズミは体重が軽いので、地雷を踏んでも爆発させることはない。
ネズミ自身、そしてネズミを通して、いろんなことを知ることができました。ありがとうございます。
(2020年4月刊。1500円+税)
2020年7月20日
数をかぞえるクマ、サーフィンするヤギ
(霧山昴)
著者 ベリンダ・レミオ 、 出版 NHK出版
イルカがザトウクジラの背中をすべり台にして遊び、幼いチンパンジーはごっこ遊びをする。ガラガラヘビは母親どうしで子どもの世話をし、ワニは、斜面をすべりおりたり、サーフィンしたり、追いかけっこして遊ぶ。
どれもこれも、ウソみたいな本当の話です。そんな驚きの話が満載の本なのです。
このとき、動物は私たち人間と似ていると気づくだけではダメ。そうでなくて動物の生き方が私たち人間とどれだけ違うのか、それに気づくことによって、人間である私たち自身の心と知性が高められる。
なるほど、そうですよね。人間は万物の霊長と言いながら、やっていることは皆殺しの戦争であったり、トランプ大統領のように平和なデモでも暴徒集団視して軍隊で鎮圧しようとするなんて、知性のカケラも認められないでしょう...。
ネズミはくすぐられると笑う。カササギは死んだ仲間を木の葉でおおって、死を悲しんでいる(ように見える)。ザトウクジラのメスは年に1度、女子会をして、そのために何千キロも旅をする。オマキザルは不公平に扱われると憤慨する。
オウムの悪ふざけは有名だ。人間が命令する声をまねして犬をからかったり、いろいろいたずらをする。
実験した結果、サルが不公平な扱いに敏感になるのは、労力と関連していることが判明した。
イヌは、遊びたい気持ちを、遊ぼうよという仕草で最初にはっきり伝える。
水槽の魚は猫が近づいてくると、いきなり水面まではね上って猫を驚かせる。
ゴリラのココは、手話で嘘をつく。規則を破ったことを隠して、叱られないようにする。
チンパンジーは、ヤミの酒場で1回に平均1リットルを飲み、「楽しいひととき」を過ごす。そして、気持ちの良さような場所を見つけてひと眠りし、酔いをさます。
動物は、豊かな感情をもっている。
この本は、最後に問いかけます。人間は宇宙で唯一の知的生命体なのか...。答えは、明らかだ。
「いいえ、違います」
そうなんです。もう少し人類は頭を冷やすべきなのです。
(2017年12月刊。1600円+税)
2020年7月11日
考えるナメクジ
(霧山昴)
著者 松尾 亮太 、 出版 さくら舎
わが家の台所の板張りの床に、ときにぶっといナメクジ様が鎮座しておられます。そんなときは、うやうやしく白い紙に包み外に放り出させていただいています。もう、もったいないので塩を振りかけて溶けるのを待つようなことはいたしません。
そんな身近なナメクジを研究対象とし、研究室で何千匹も飼って育てているという奇特な学者がこの世にいるのです。信じられませんね...。
日本でよく見かけるナメクジは外来種のチャコラナメクジで、在来種のほうはフタスジナメクジ。こちらは体が大きくて、這い方がスローモー。でしたら、わが家に出没するのは在来種のフタスジナメクジでしょうか...。
著者の研究室では20年近く、常時3000~5000匹のナメクジを維持・繁殖している。現在、なんと38世代目とのこと。飼育箱を取り替え、エサを補充するのに1回あたり3時間かかる。エサは野菜くず。
ナメクジは単細胞生物なので、「動物」ではない。
ナメクジは、水さえあれば、絶食しても1ヶ月半は生きている。
ナメクジは明るい場所を嫌い、暗い場所を好む。それは乾燥を避けるため。カタツムリと違って殻をもたないナメクジの宿命。
ナメクジの寿命は1年から2年ほど。
ナメクジを生(なま)で食べると、寄生虫が脳まで達して重篤な病気になることがある。
ナメクジには脳も心臓もある。その血は赤くない。
ナメクジは頭部右側の孔(あな)から受精卵を産み落とす。
ナメクジの脳は、大きさ1・5ミリ角ほど。ナメクジには、脳で記憶するだけでなく、触覚にあるニューロンにも保持されている。
そうなんです。ナメクジには脳があり、きちんと記憶できるのです。
ナメクジの脳(前頭葉)をピンセットで潰しても、1ヶ月で前頭葉は再生する。大小二対ある触覚も、切断されても自発的に再生する。
ノロノロというペースのナメクジは、1分間に18センチ進む。1時間では10.8メートル進む計算だ。
つかまえどころのないナメクジを研究し続けているなんて、すばらしいことだと思います。それにしても、よりによってナメクジを研究対象とし、さらに人間との相違点を探ろうというのに、ほとほと驚嘆するばかりです。
(2019年10月刊。1600円+税)
2020年7月 6日
花と昆虫のしたたかで素敵な関係
(霧山昴)
著者 石井 博 、 出版 ベレ出版
コウモリが花と密接な関係をもっているというのに驚きました。
コウモリに受粉を依存する植物(コウモリ媒)の花は夜間に開花し、発酵臭など強い匂いをもつ。音を反響しやすい構造の花となっている(アメリカ)。
花の周囲に音を吸収する綿毛を生やすことで、花の反響音を際立たせている。種ごとに固有の反響音をもっていて、コウモリは、その音響指紋によって花の種類を識別している。
花にとっては、植物の多様性が非常に高く、同種の植物が近くに生育していないことが珍しくない熱帯の植物にとって、コウモリの飛行距離が長い(1晩で50キロメートルも飛びまわるコウモリもいる)、学習能力が高いことは重要な意味をもっている。
コウモリと花とが、こうやって依存しあっているなんて、不思議ですよね。
性的擬態を行うランは、多くの場合、たった1種の送粉者だけを利用している。
特定少数の相手とだけ関係を結んでいる植物種や訪花者のことを、送粉生態学の世界では、スペシャリストと呼ぶ。植物にとって、スペシャリストの訪花者に送粉を依存することは、異種植物間の送粉を軽減させるには有効。なぜなら、スペシャリストの訪花者は、浮気せず特定の植物種ばかりを訪花してくれるから。ところが、その訪花者がいなくなると、受粉できなくなるリスクをかかえることにもつながる。
自家受粉によって生産された種子は他家受粉によってつくられた種子(他殖種子)に比べ質が劣ることが多い。このため、自家受粉を行うのは、植物にとって好ましいことではない。
送粉と受粉を終えた古い花が花色を変化させる。古い花をしおれさせずに維持すると、株全体を目立たせることができ、より多くの送粉を惹き寄せることができる。しかし、もし株にやってきた送粉者たちが古い花にまで訪れると、送粉者に付着していた花粉が、古い花に付着してムダになってしまう。そこで、訪れてほしくない古い花の色を変えることで、その花が報酬をもたない、訪れる価値のない花であることを、送粉者にわかりやすく伝えている。
自然界で生物たちは、昆虫も花も、みんな知恵を働かせて一生けん命に生きていることがよく分かります。
農薬は、昆虫の免疫力を下げるため、寄生生物やウィルスへの抵抗性を下げ、これらの蔓延を招く危険がある。そうなんですね、豊かな自然環境をきちんと次世代につなげていきましょう。
不思議な生物界の話が満載の本でした。
(2020年3月刊。1800円+税)
2020年6月15日
美しい生物学講義
(霧山昴)
著者 更科 功 、 出版 ダイヤモンド社
弁護士生活をしているうちに、人間っていったいどんな存在なのか、つくづく考えさせられました。不倫は、男と女、セックスの意味ですし、子どもの親権争いでは、そもそも親子の関係はどうあるべきなのか、遺産相続では、兄弟姉妹の優劣はあっていいのか、老後の面倒はいったい誰がみるべきなのか...。まず、ヒトに近い、サル、そしてチンパンジーやらゴリラに関心が行きました。ところが、ボノボもいたり、セックスと社会平和の関係まで考えさせられます。
相続、世代継承という点では、植物だって動いている存在だということも分かってきました。すると、植物と動物とを結ぶ昆虫の存在も目についてきます。要するに、生物全体に目が行くようになったのです。
日本の屋久島(残念ながら、まだ行ったことがありません)には、樹齢2千年とか3千年という屋久杉がある。7千年をこすという推定は、今では信用されていない。
アメリカの標高2千メートル超の高地に生えているブリスルコーンパインは4千8百年という最長の樹齢が確認されている。
いや、アメリカのモハーベ砂漠に生育するクレオソートブッシュは1万1700年も生きている。いやはや、たまげてしまいます。
ミドリムシ(ユーグレナ)は、葉緑体をもっていて、光合成することができる。それで、植物だと思える。いったいミドリムシは動物なのか...。
実際には、動物でも植物でもない生物はたくさんいる。
今、問題のコロナ・ウィルスは生物ではないということ。すると、容易に撲滅できるはずなのに、彼らはなかなか絶滅しない。いったい、なぜ...?
生物とは、次の3つの条件をみたすもの。第一に、外界と膜で仕切られていること。第二に、代謝(物質やエネルギーの流れ)を行う。第三に、自分の複製をつくる。生物は水中で誕生したと考えられている。その理由の一つは、化学反応が起きやすいからだった。
若い読者に贈る生物学講義ということで、大変わかりやすい本になっています。そのため、既に「第6刷」が発行されています。すごいものです。私の本もこんなに売れてくれたら...と、切に願っています。
(2020年4月刊。1600円+税)
2020年6月 1日
カラスは飼えるか
(霧山昴)
著者 松原 始 、 出版 新潮社
カラスを飼おうなんて、もちろん私は一度も思ったことはありません。真黒くて、不気味で、ゴミあさりをして道路を汚してしまう...。そんな悪いイメージしかカラスにはありません。
この本で著者は結論として、うっかりカラスを飼ってはいけないとしています。
なにしろ、カラスって、40年以上も長生きすることがあるというのです。せいぜい15年ほどのイヌやネコとは違うのです。
カラスは、人間には簡単になつくことはない。
カラスは、いたずら好き。気になるものは、すべてつつく。とにかくつついて、ぶっ壊す。それからもち去り、隠す。
カラスは絶望的にしつこい。ケージの留め金を外すくらいは朝飯前。
そんなカラスを飼うのは、やめときなさいというのが著者のご託宣です。分かりました。そうします...。
カラスは、三原色に加えて紫外線も見えている。石けんとかゴルフボールを持ち去る習性は、それと関係があるのか...。
カラスの肉は食えるが、あまりおいしそうでもない。カラスの肉は高タンパク質低カロリー。タウリンや鉄分を大量に含んでいる。
南アメリカには、過去も現在もカラスが分布していない。
うひゃあ、な、なぜでしょうか...。
カラスは仲間が死んだら、その周囲で大騒ぎする。これをカラスの葬式という。
若いカラスの群れには、はっきりした順位がある。上位のオスはよくモテるし、上位のオスをめぐって、メス同士も争うことがある。
カササギは、わが家の周囲にフツーにいる鳥です。毎年、電柱の高いところに立派な巣をつくっています。毎年、九電が巣を撤去しますが、子育てが終わってからのようです。このカササギの巣は丸いボール状の構造ですが、横向きに出入口があるとのこと。いつも巣は見ていますが、初めて知りました。
カササギは九州だけでなく、最近は北海道の室蘭や苫小牧付近でも繁殖している。これは、ロシアの貨物船から来たと思われる。
カササギは、カチ(勝ち)ガラスともいいますが、これは韓国語由来だそうです。韓国では、カササギのことをカッチと呼び、大変人気がある。カッチというカラスっぽい鳥としてカチガラスと呼んだのだろう。
これが著者の意見です。著者には『カラスの教科書』などもあり、まさにカラス博士です。
(2020年3月刊。1400円+税)
アベノマスクが5月末になってようやく届きました。郵便ポストに投げ込まれていたのです。もうマスクは町中どこでも売っていますので、どこか必要なところへ寄付するつもりです。それにしてもつくって配るのに468億円かけ、また38億円かけて追加するなんて信じられません。政権中枢に近い会社がもうかり、配ったゆうちょが助かっただけではありませんか...。
また、持続化給付金のほうも電通と竹中平蔵のパソナが濡れ手のアワのボロもうけをするとのこと。国民の不幸を喰いものにして金もうけに走るアベ政権にはほとほと愛想が尽きます。50代、60代の女性のアベ首相の支持率が2割未満だという世論調査が出ていますが、それも当然です。ここで怒らないと、いつ怒りますか。政治が生活と直結していることを身をもって知らされている今、世の男どもはいったい何を考えているのでしょうか...。
2020年5月25日
その犬の名前を誰も知らない
(霧山昴)
著者 嘉悦 洋、北村 泰一 、 出版 小学館集英社
圧倒的な面白さです。ページをめくる手がもどかしく感じられました。
日本が初めて南極で越冬したのは1957年から翌58年にかけての1年間のこと。1958年2月、第一次越冬隊は無事に全員が南極観測船「宗谷」に収容された。引き続き第二次越冬隊が昭和基地で越冬するはずだった。ところが、悪天候のため急に中止となり、第二次隊も「宋谷」にひき戻された。すると、第二次隊のため昭和基地に残された15頭のカラフト犬は見殺しにされる...。
日本の国民世論は怒りに沸騰した。カラフト犬たちは、第二次隊員のため、逃げないよう鎖につながれたままなので、餓死するに決まっている。そして、大半はそうなった。
ところが、北大の犬飼教授は、1頭か2頭は生き延びる可能性があると予言した。
そして、1年後の1959年1月14日、第三次観測隊が昭和基地に到着すると、なんと、タロとジロという2頭が生きていたのです。
私も小学生でしたので、この感激ははっきりとした記憶があります。日本中が震えました。
捨てられた恨みからかみついてくるのを心配し、犬の世話係は恐る恐る近づいたのでした。そして、タロもジロも自分の名前を呼びかけられて、やっと安心して近寄ってきたといいます。恨んではいなかったのでした。顔をペロペロなめて、とても喜んだのです。
そして、この本は、実はタロとジロが生きのびたのには、この2頭をリードした先輩犬がいたのだということを解き明かしています。それは、1968年2月に昭和基地の近くで1頭のカラフト犬の遺体が発見された事実にもとづく推測です。この事実は、同時に行方不明になっていた福島隊員の遺体が見つかった報道のかげにひっそりと隠れてしまい、報道されることがなかった。
タロとジロは発見されたとき、やせおとろえていたのではなく、丸々と肥え太っていた。いったい、何を食べていたのか・・・。それは、昭和基地にあった貯蔵庫の食糧品などをリーダー犬とともに掘り出して食べていたのだろうと推測されています。そして、タロもジロも、昭和基地に着いたときには幼犬だったのでした。これも生きのびた理由のようです。
なーるほど、と思いました。
ペンギンとかアザラシを襲って食べて生きのびたという説もありましたが、それは、あまり現実的ではないようです。
この本の面白さは、このような謎解きもさることながら、カラフト犬を犬ゾリ用に訓練し仕立て上げていく過程、南極での犬ゾリ旅行の大変さは、まさに手に汗握る迫真の状況描写の連続だからです。
カラフト犬にも、本当にいろいろ性格の違いがあること、極限状態に置かれたら、ヒトもイヌも一緒になって困難を乗りこえようと心を通わせる必要があるというところに、心打たれました。犬にも感情があり、プライドがあり、根性があるのです。あとは、それを人間がどうやって奮い立たせるか、これは信頼なくしてはやれないことです。
5月の連休最後の日曜日、寝食を忘れて(ウソです。でも、おかげで昼寝しそびれてしまいました)一心不乱に読み通しました。
少しでも犬に関心のある人には絶対におすすめの本です。犬って、やはりすごいですね...。
(2020年4月刊。1500円+税)
土曜日の夜、うす暗くなったので、孫たちとホタルを見に行きました。歩いて5分のところに小川があり、まさにホタルが乱舞していました。これまでになく、たくさんのホタルがフワリフワリと明滅しながら漂っていました。ときどき手のひらに乗せてホタルの光を手でも感じました。孫の手のひらにも乗せてやると喜びます。
土曜日の午後は、梅の実をちぎりました。バケツに2杯とれ、早速、梅ジュースを味わうことができました。
日曜日の午後はジャガイモ掘りです。池中から大小さまざまなジャガイモが姿を見せ、孫も大喜びで、夕食のとき小さなジャガイモをバタジャガでいただきました。
田舎に住む良さをしっかり味わっています。
2020年5月18日
眠れる美しい生き物
(霧山昴)
著者 関口 雄祐 、 出版 エクスナレッジ
鳥は飛びながら眠ることができる。高高度で、上昇気流に乗っているときは、捕食のリスクもなく、衝突・墜落のリスクもない。ただし、グンカンドリは地上では10時間も眠るのに、飛行中はわずか40分ほどしか眠らない。
鳥類は半球睡眠できる。大脳半球を交代に休ませるのだ。鳥類の先祖は恐竜なので、恐竜も半球睡眠していた可能性はかなり高い。
ウシは、食べる時間と眠る時間の両立を図った。食べながら、うとうと眠り、眠っているあいだも食べ続ける。
動物園のカバのオスは毎日20時間も眠っている。ところが、メスが同居すると、わずか5時間しか眠らなくなった。相手のメスは、一貫して7時間以上は眠っているのに...。
イヌも、近年、ヒトと同じく、睡眠時無呼吸症候群があるのが発見され、問題となっている。
オオカミには天敵がいないので、ぐっすり眠るが、仲間とぴったりくっついて眠ることはない。
オオカミ1頭が暮らすのに30平方キロが必要とされ、7頭の群れを維持するのには東京都全域の相当する自然が必要となる。
ミーアキャットは、群れの順位は厳しく、ボスは日中37%も休んでいるのに、下っ端だとわずか10%しか休めない。
ライオンとトラが併存しているところではトラが強い。トラの安眠を妨害する唯一のものは空腹だ。なーるほど、ですね。
ナマケモノは、野生の環境では9~10時間しか眠っていない。それほど怠け者ではない。
コアラの活動時間は、夜中の6時間だけ。
マッコウクジラは海の中で、垂直姿勢で眠る。睡眠時間は7時間で、最長30分は眠っている。
タコは夜行性で、睡眠中に筋肉が無意識で動いてしまうので、色を激しく変化させながら眠っている。
脳のないクラゲも実は眠っている。
ゴリラが眠るのは、寄生虫のいないところで、眠りを妨害するゾウの群れから離れているところ。
睡眠は生き物に必要不可欠なものですが、生き物がいろんな眠り方をしているのが写真でよく分かりました。ほほっとする、楽しい写真集でもあります。
(2020年1月刊。1600円+税)
2020年5月17日
知りたい!ネコごころ
(霧山昴)
著者 髙木 佐保 、 出版 岩波科学ライブラリー
私はイヌ派で、ネコ派ではありませんし、ネコを飼ったこともありません。
それでも、わが家の周囲には絶えずネコが巡回していますし、庭にまで平気で入ってきて、追い出そうとしても、遠くだと、なんで怒ってるの...、と平然としています。
この本はネコ派の著者がネコのこころを科学的に究明しようと、涙ぐましい実験をくり返した成果を紹介しています。
ネコカフェ。海外にもあるけれど、これほど町中にありふれているのは日本だけ。わが町にもありましたが、そんなにもたずに閉店してしまいました...。
縄張りをもつネコにとって、自分のテリトリー以外は、すべて「そと」。そこに飼い主がいようと関係ない。
ネコはとっても気まぐれで、人間の思うようには決して動いてくれない。
ネコはとても鋭敏な感覚をもっているので、「雰囲気」という、目に見えない空気感のようなものを本当に鋭く察知する。
ネコもイヌと同様に、「さっきはおやつがあった」ことを思い出し、それに応じてお皿を探索できることが実験で判明した。
実験にあたって、一度機嫌を損ねたネコの機嫌を取りなおすのは、それはそれは大変。ネコは嫌なことはすぐに覚えるので、モニターの前に2度と落ち着いて座ってくれなくなる。
飼い主の声を聞かせたあと、知らない人の顔写真を示したとき、知らない人の声がしたのに飼い主の顔写真を示したとき、ネコは画面を長く見ることが分かった。これを期待違反の結果という。つまり、ネコも飼い主の声を聞いて顔を想像していることを示唆する実験結果なのだ。
ネコカフェのような、毎日、知らない人に接触している超特殊な環境にいるネコを調べることによって、同じ刺激を見せても成育環境によって反応に違いが生じることが分かった。
いやはや、たくさんの気位の高いネコを相手に地道な実験を繰り返したなんて、本当にお疲れさまでした。でも、おかげで、こうやって猫の心理状態を少し解明できたのです。大きな拍手を送りたいと思います。
(2020年2月刊。1200円+税)