弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2018年8月27日

先生、オサムシが研究室を掃除しています

(霧山昴)
著者 小林 朋道 、 出版  築地書館

先生シリーズも、ついに第12作です。すごいです。
鳥取環境大学のコバヤシ先生が大学内外での観察日記がオモシロおかしくて、動物行動学の勉強になるものとして展開していくので、ついついひきずり込まれてしまいます。それに、たくさんの写真があるので、コバヤシ先生の話があながち嘘ではないだろうという気にもなってきます。まあ、それほどウソっぽい語りが途中でたくさん入るわけなんですが・・・。
私が唯一みているテレビ番組「ダーウィンが来た」にコバヤシ先生がニホンモモンガとともに登場したときには、ついに我らがコバヤシ先生も全国版の有名教授になったと拍手したものです。
コバヤシ先生は動物行動学を専攻する学者ですから、なんでも実験し、比較・検討しなければ気がすみません。
ヤギは、たとえ大好物の葉であっても、それに自分の唾液にニオイがすると、プイと顔をそむけて食べようとしない。
5頭いるヤギのうち1頭だけ残して4頭をよそへ連れていくと、残った1頭のヤギはたちまち元気をなくしてしまった。そして、10日後に仲間たちが戻ってくると、いつにない再会の挨拶をして、たちまち元気を取り戻した。
このような、嘘のようなホントの話が満載の本なのです。
(2018年5月刊。1600円+税)

2018年8月13日

カラス学のすすめ


(霧山昴)
著者 杉田 昭栄 、 出版  緑書房

毎朝毎日、見かけないことがない鳥がカラスです。でも、同じように黒いツバメとちがって、どうにも好きになれそうもありません。
嫌われもののカラスは、実際に大量に駆除され、ひところよりはずい分と減っているとのこと。賢いカラスに関する面白い話が満載の本です。
いま、日本では年間30~40万羽のカラスが害鳥として駆除されている。ええっ、どうやってあの賢いカラスを捕まえ、殺しているのでしょうか・・・。
カラスは、古代エジプトでは不吉な鳥とされていたが、旧約聖書では、カラスは重要な使者として、人間の役に立っていた。
童謡にカラスの赤ちゃんが登場してくるのを指摘されると、不思議な気がします。
そして、「夕焼け小焼け」でも、最後は、「カラスと一緒に帰りましょ」ですね・・・。
戦前の日本の軍のなかで新兵はカラスと呼ばれていたというのを初めて(?)知りました。新兵は階級章もなく、征服はまっ黒だったからです。格好のいじめの対象になったことでしょう。
カラスは、スズメ目カラス科の総称。46種類のカラスがいる。日本には、ハシブトガラス、ハシボソガラスなど5種のカラスがいる。
ハシブトガラスはクチバシが大きく太く、頭が丸い。カァーカァーと澄んだ声で鳴き、肉を好む。東京には平成13年に4万羽ほどいたのが、今では1万2千羽にまで減った。
ハシボソガラスはガァーガァーと濁った鳴き声で、郊外の農村部にすんでいる。
カラスは共食いをする。
カラスの寿命は12年ほど。
カラスは賢い。顔写真のなかから、間違いなく選びだす。
カラスは人間の男女という性別も識別している。
カラスの親は自分の子どもを分かっているし、子どもも親を間違えることはない。
カラス同士にしても、お互いの顔を識別している。
この結論は簡単ですが、それを証明するための実験には、かなり工夫と忍耐力を要したことでしょう。
カラスの記憶は1年は保てるし、数の概念だってある。
ほとんどのカラスは、4キロから5キロ以内の狭い範囲で活動している。これは、カラスの背中にGPSの発信器を付けて調査した結果です。
カラスは最高時速73キロメートル、平均時速34キロメートルというのですから、原付バイク並みです。私は速いと思います。
日本でも、昔、カラス田楽(でんがく)といって、カラス食の文化があったそうです。
でも、あの黒さって、いかにもまずそうですよね・・・。ところが、カラスの肉にはタウリンという遊離アミノ酸が50%近くも含まれていて、とても健康にいいのだそうです。
そして、フランス料理にもカラスの料理があるそうです(聞いたことありませんし、もちろん食べたことありません)。なんだか食べたくないですよね。カラスって、本当に食べられるんでしょうか・・・。
(2018年6月刊。1800円+税)

2018年7月28日

大根の底ぢから

(霧山昴)
著者 林 望 、 出版  フィルムアート社

われらがリンボー先生は、お酒を飲まない代わりに、美食家、しかも手づくり派なのですね。恐れ入りました。私は、「あなた、つくる人。わたし、食べる人」なのですが、料理できる人はうらやましいとも思っているのです。
「たべる」と「のむ」というのは、古くは違いがなかった。「酒を食べませう」、「水たべむ」と言った。「たふ」とは漢字で「給(た)ふ」と書く。いただく、ちょうだいするという、敬意のふくまれる丁重な言葉なのだ。敬意がないときには、単に、「食う」と言った。ええっ、そ、そうなんですか・・・、ちっとも知りませんでした。リンボー先生の博識には、まさしく脱帽です。
初夏の何よりの楽しみとして、柿の若葉の天ぷらがあげられています。これまた、驚きです。
タケノコは孟宗竹(もうそうちく)と思っていますが、孟宗竹とは、渡来植物で江戸時代に薩摩に中国からもたらされたのが全国に広がったもの。これまた、全国津々浦々でタケノコつまり孟宗竹がとれると思っていた私は、思わずひっくり返りそうなほどの衝撃でした。
しかも、リンボー先生は、旬(しゅん)のタケノコを茹(ゆ)でて、マリネにして食べるんだそうです。なんとも想像を絶します。
関東は柏餅(かしわもち)、関西(とくに京都)は、粽(ちまき)を食べる。九州生まれ育ちの私は、子どものころ、実はどちらも食べた記憶はありません。
リンボー家では、料理は、朝晩ともリンボー先生の担当で、奥様は料理しない。そして、家でつくる料理は飽きがこない。うむむ、これは分かります。
でも、実は、リンボー先生は、月に2回か3回は、なじみの寿司屋で握りをつまんでいるのです。私などは、寿司を食べるのは、それこそ、年に2回か3回もあればいいくらいです。回転寿司など、これまで一度も行ったことはありませんし、これからも行きたいと思いません。
寿司屋に行って、カウンターに座って寿司が差し出されたら、すぐに食べるのが、まず何より大切なこと。職人の手を放れて目前の寿司皿にすっと置かれたその瞬間に、まさしく阿吽(あうん)の呼吸でこちらの口中に運ばなくてはならない。それでこそ、握るほうと食べるほうの気合いが通いあってほんとうの寿司の味が分かるのだ。
リンボー先生が「なまめかしい食欲」なんて書いているので、例の「女体盛り」かと下司(げす)に期待すると、なんと、「なまめかしい」とは「飾り気のない素地としての美しさ」ということで、拍子抜けします。
私と同じ団塊世代(私が一つだけ年長)のリンボー先生は、緑内障になってしまったとのこと。私は、幸い、まだ、そこまでは至っていません。白内障とは言われているのですが・・・。
季節の食材をおいしくいただく喜び。こんな美食こそ人生の最良の楽しみの一つだと痛感させてくれる本でした。リンボー先生、ますます元気に美味しい本を書いてくださいね。
(2018年3月刊。1800円+税)

2018年7月14日

ぼくは虫ばかり採っていた

(霧山昴)
著者 池田 清彦 、 出版  青土社

昆虫採集を大人になっても生き甲斐としている人が少なくありません。香川照之もその一人ですよね。海外にまで出かけて珍しい蝶を捕まえたりしていますし、それがテレビ番組になって紹介されています。
私は虫屋ではありませんが、虫にかかわる本や写真集、テレビ番組をみるのは大好きです。
採る楽しみ、集める楽しみ、そして形を見る楽しみがある。さらには、食べる楽しみまで出てきて、虫の楽しみ方は広がっている。
小さい虫は重力から自由なので、形がキテレツになったりする・・・。本当にそうなんですよね。奇妙奇天烈、とんでもなくありえない形をしているのを見ると、それだけでもワクワクしてきます。
チョウは、さなぎから成虫になると花の蜜を吸いに行くが、このとき最初に採蜜した花の色を覚えている。2回目以降も同じ花を探す。
モンシロチョウの成虫の期間は2~3週間しかないので、花の季節より寿命のほうが短い。蜜の吸える花の色を覚えておくと、ずっと食事にありつけるので、チョウは学習していく。
乾燥したクマムシは普通3%くらいまで、水が抜ける。0.05%の水しかないような状況になると代謝はしていない。ただの物質の固まりで生きていけない。これが最長20年続いても、水をかけると、命がよみがえる。
人間の脳は組織の50~60%が脂肪で形成され、そのうち3%強が多価不飽和脂肪酸、とくにアラキドン酸とドコサヘキサエン酸で、前者は肉や魚に、後者は魚に多くふくまれ、植物にはあまりふくまれていない。大きな脳を維持するためには肉食が不可欠なのである。
虫の話から生物一般の話まで、大変勉強になりました。著者は私と同じ団塊世代です。
生物って、知れば知るほど不思議です。人間だって・・・。
(2018年3月刊。1500円+税)

2018年7月 9日

歌う鳥のキモチ

(霧山昴)
著者 石塚 徹 、 出版  山と渓谷社

朝早くから澄んだ鳥の鳴き声を聞くと、心も洗われる爽快な気分に浸ることができます。
では、いったい鳴いている鳥たちは、いかなる気分なのでしょうか・・・。そんなの、分かるはずがない。そう決めつけてしまっては身も蓋(ふた)もありません。そこを追求して解明するのが学者なのです。ええっ、でも、どうやって鳥の気持ちを測るの・・・。
鳥は、一見すると夫婦仲良くけなげに子育てしているようだが、実は非常に浮気者。世界に1万種ほどいる鳥の9割は一夫一妻だが、調べると、鳥の浮気はすぐに発覚する。そうなんです。DNAを調べると、子の父親がいろいろ違っていることが判明するのです。
歌っているのは、ほとんどオスの鳥だ。
鳥の胸のなかには、人間にはない「鳴管」というのが呼吸器官とは別にあるので、呼吸とは別に、あるいは同時に、空気を震わせて音を出すことができる。
鳥は、命にかけてもパートナーが欲しい。だから、自分の居場所が分かるような声のトーンで歌う。タカなどが出現したときの警戒の地鳴きは「ヒー」とか「ツィー」とか、高周波の声で、それは居所がつかみにくい。
メスが産卵するのは、ふつう早朝であり、メスが出てくるのは産卵直後だ。そして、産卵直後に行う交尾が翌日に産む卵の受精にもっとも効果がある。
アオガラは、メスが夜明けになわばりを離れ、質の高いオスとの婚外交尾(浮気)を求めて出歩く。夜明けに早く歌いはじめ、長いこと歌うオスほど、多くのメスを射止め、婚外交尾にも成功する。歌いはじめの早いオスは、年長のオスに多い。
いかにも夫婦仲の良さそうなツバメやモズクでも、5,6羽の子どもたちのなかに1羽くらい父親の違う子がまじっている。
高山にすむイワヒバリやカヤクグリは、メスが積極的にオスを誘惑して交尾を誘う。メスがグループ内の複数のオスに交尾を迫るのは、オスの全員に、子の父親のような気にさせるという利点がある。つまり、オスたちから、より多くの労働力を引き出そうという、メスの戦略なのである。
箱根のクロツグミには、一羽ずつ、しっかりしたレパートリーがあり、それを順ぐりに歌っている。歌は数節からなり、その第一節は、一羽がせいぜい十数類のレパートリーだ。
そして、ツグミは、独身と既婚とでは、歌い方がまるで異なる。既婚者なのに、独身のふりをしたくなるのがオスの本音なのだ。
メスは、何日もかけて、しっかりオスの品定めをする。
複数のメスを同時に獲得した3羽のオスは、つぶやき声のレパートリーがずば抜けて多いオスだった。つぶやき声は、「勝負音」であり、オスの質のバロメーターになっている。目の前に来たメスに対して出す勝負音は、大声である必要はない。むしろ、小声にして、「あなただけに歌ってますよ」という情報に切り替えている。
鳥の鳴き声を録音して可視化し、個体識別に励んでいる学者の姿を想像すると、思わず拍手したくなります。
(2017年11月刊。1400円+税)

2018年7月 1日

昆虫学者はやめられない

(霧山昴)
著者 小松 貴 、 出版  新潮社

裏山の奇人、徘徊の記、というサブ・タイトルがついています。まさしく奇人ですね、ここまで来ると・・・、正直、そう思いました。
カラスはとても賢く、その時の状況によって柔軟に行動を変えることができる。カラスは、目的を果たすための選択肢をいくつも持っているから、他の鳥と比べて、生きるためとか、自分の子孫を残すためとか、生物として最低限やり遂げなければいけないこと以外のことをする余裕がある。だから、ムダなことをできるようになったわけである。カラスが公園の滑り台にのぼって滑る映像があるが、たしかに、このときカラスは遊んでいる。
カラスは現代の都市に生きる二足歩行恐竜そのものと言える。
あるカラスは、仲良くなった著者に歌をうたって聞かせてくれた。左右に体を揺らしつつ、お辞儀をするように頭を下げ、「ヲン、カララララ・・・」というしゃがれ声を繰り返し発して見せた。カラスは人間を識別して襲いかかるそうですね、怖いです。
ニホンマムシは、本来はおとなしくて争いを好まないが、やるときはやる。攻撃は素早く、咬みついた瞬間、相手の反撃を避けるべく、すぐに離す。
無毒のヘビであっても、何んでも咬みつくヘビの口内には破傷風菌などの危険な雑菌類が常在している。そこで、ヘビを扱う著者は定期的に破傷風ワクチンを接種している。
アズマキシダグモのオスは、自分が食うでもない獲物をわざわざ捕えて、丁寧にラッピングまでして、それを抱えてひたすらメスを探し求めて歩く。
交接の時間が長ければ長いほど、オスは自分の精子をより多くのメスの体内に送り込むことができる。エサに食いついているあいだ、メスは比較的オスの振る舞いに無頓着になるため、より大きくて食べ終わるのに時間のかかるエサを用意してメスに渡せば、それだけ長い時間、オスは交接を許される。
ガの魅力は、なにより多様性のすさまじさにある。日本だけでもチョウの10倍以上、4000種以上はいるし、毎年、新種が見つかっていて、いったい何種のガが日本にいるのか判然としない状況だ。
アリというのは、もとを正せば、進化の過程でハチから分かれた分類群であって、いわば地下空隙での生活に特殊化して飛翔能力を失ったハチのような存在だ。だから、アリがハチのように毒針をもっていても何ら不思議ではない。アリは世界に1万種ほどいるが、基本的にすべてのアリが毒針をもっている。
信州に九州そして関東を転々としてきた若き昆虫学者の貴重な研究成果が面白く語られている本なので、楽しく読み通しました。
(2018年4月刊。1400円+税)

2018年6月18日

植物、奇跡の化学工場


(霧山昴)
著者 黒柳 正典 、 出版  築地書館

植物っていうと、動物と違って動かないし、ただ花を咲かせて食べられるだけ。そんなイメージがありますよね。ところが、この本によると、植物は精密な化学合成をする生命体だというのです。
一見受け身な感じのする植物だが、植物同士でも繁殖場所の争奪戦のために化学物質を用いて競争相手を排除している。
季節変化に応答し、決まったサイクルで生活を続ける植物には、動物やヒトと異なる生命維持のメカニズムがあり、その中心を担うのが植物ホルモンという植物独特の生理システムである。光合成システムの構築は、植物の最大の化学戦略である。
昔から多くの科学者が人工光合成に挑戦したが、今なお実現していない。水と二酸化炭素と光で有機化合物をつくるのは、人工的には非常に困難。しかし、植物は、進化の過程で構築した複雑なシステムを用いて、いとも簡単に光合成をやってのけ、二酸化炭素と水からグルコースを合成し、酸素を放出して地球の生命を支えている。光合成能力を獲得した植物は、二酸化炭素と水を材料にし、太陽の光エネルギーを用いてグルコースを合成することができる。
地球上の植物は、1年間に100億トン以上の無機の炭素を糖に変換し、地球上に生活する生物のエネルギー源を供給している。
植物も動物と同じように外界からの情報を何かの方法で受信している。なかでも、光は大切な情報源である。
植物ホルモンとは、植物の細胞により生産され、低濃度で植物の生理作用を調節する物質と定義される、植物独特のものである。8種類の植物ホルモンが認知されている。この植物ホルモンは活性が高いため、植物にふくまれている量が極微量であり、その分析が困難なため、高等植物からの分離・発見は遅れている。
まったく何もせず、ひたすら枯れるまで何ひとつ動かすこともなく、ただじっとしているだけのように見える植物が、なんと偉大な科学者に勝る存在だとは・・・。世の中は驚きに満ちていますね。
(2018年3月刊。2000円+税)

 いま、町のあちこちに淡いブルーの花火のようなアガパンサスの花が咲いているのを見かけます。もちろん、我が庭にも咲いています。
 きのうの日曜日は年2回の仏検(フランス語検定試験。1級です)の受験日でした。どうせ合格できないと分かっていても、それなりに準備しますし、当日も緊張するのです。このところ、毎朝、NHKフランス語講座の応用編を繰り返し書き取りしていますので、少しは上達したかと思うと、あにはかろんや、ますますレベルが下がっているようで本当に困っています。試験が終わって自己採点するのですが、いつものように自分に甘く採点して57点(150点満点)でした。4割にたどり着けません。実観としては2割か3割ほどです。なんとか挽回するのは、いつも書き取りなのですが、今回は聞き取りも、あまり芳しくはありませんでした。でもでも、ボケ防止と思って、くじけずに続けます。ちなみに、我がベターハーフはいま必死で韓国語に挑戦中です。こちらは孫と話せるようです。

2018年5月21日

サルは大西洋を渡った


(霧山昴)
著者 アラン・デケイロス 、 出版  みすず書房

私が大学生のころ、プレートテクトニクス理論が出てきて、まさか、大陸が動くだなんて考えられないと厳しく批判されていました。アフリカ大陸と南アメリカ大陸が昔はくっついていただなんて容易に信じられることではありません。ところが、今ではそれがまったく定説になっています。そして、大陸を動かすのは、地中深いところのマグマが地表面に吹き出してきて、大陸を少しずつ動かしているというわけです。
地上の大陸が動き、それぞれ別の大陸に分かれていくと、もともと一種だった動植物が、それぞれに独自の変化を遂げていくことになります。
これを頭のなかで観念するだけでなく、現実の動植物をじっくり観察して、間違いないと確かめたのですから、さすが学者は偉いです。
たとえば、ニュージーランドやニューカレドニア島は、かつてジーランディア大陸の一部であり、この大陸が海底に沈み込んでしまったあと、海上に残った島なのです。今から2500万年も前の出来事でした。
ジャガイモは、南アメリカのペルーで先住人が今から4000年も前に野生の原種をつくりかえて栽培したもの。インカ帝国は、ジャガイモを労働者や軍隊のエネルギー源とした。ヨーロッパにジャガイモが入って来たのは1550年代。初めは有毒植物と思われたが、1800年まではジャガイモ栽培は北ヨーロッパ全域に広がった。
アイルランドでは、小麦栽培が難しかったので、1600年代半ばにジャガイモ栽培がはじまった。その結果、人口爆発が起きた。1600年代初頭の人口150万人が200年後には800万人の人口をかかえるまでになった。ところが、1840年にジャガイモの病気が広がり、収穫の4分の3が台無しとなった。そのためアイルランドでは貧しい人々の主要な栄養源が失われ、3年間で100万人もの人が餓死、病死した。そのため200万人もの人々がアイルランドを逃げ出した。そのうちの50万人はアメリカに渡った。暗殺されたケネディ大統領もアイルランド系でしたよね・・・。
19世紀にロシアやドイツが世界の列強として台頭したが、それを支えたのがジャガイモだったと言ってよい。
ところで、訳者あとがきを読んで驚きました。著者の父親一家は、第二次世界大戦中に、アメリカ各地につくられた日系人の強制収容所に入れられたとのこと。母方の祖父母は、日本からの移民、父方の祖母も日系二世とのことなのです。世界は広いようで狭くもあるということなんですね・・・。
(2017年11月刊。3800円+税)

2018年5月 7日

ゴリラと学ぶ

(霧山昴)
著者  山極 寿一 ・ 蒲田 浩毅 、 出版  ミネルヴァ書房

知的刺激にみちあふれた面白い本です。ワクワクドキドキしながら、一気に読み終えました。
屋久島のサルの世界に入り浸り、ゴリラの森へ入っていく霊長類学研究者は今や京都大学の総長です。自薦でなったのではなく、むしろ後輩たちは総長にならないよう落選運動まで起きたのに当選してしまったというのですから、京大人の懐の深さはたいしたものです。京大の入学式(卒業式)での総長挨拶も読みましたが、社会との関わりで生き方を考えてほしいという格調の高さにはまさしく、脱帽しました。
昆虫採集は、殺して標本にするから嫌いだ。高校まで塾に行ったことはない。小学校では野球ばっかりしていた。公立中学校に行き、日記少年だった。成績は中の上、4と5が半々くらい。高校は都立の国立(くにたち)高校。大した受験勉強もせずに入った。京大入試では、数学・物理は大好きだったけれど、生物は得意でなく、入試科目でもなかった。京大に行ったのは、東京を離れたいという動機から。私自身は東京に行きたかったのでした。
大学ではフランス語を勉強し、ロシア語はなんとか単位をとったくらい。
野生のサルを観察した。感情をこめて同化しないとサルの顔は覚えられない。サルの顔が夢に出てくるようになったら大丈夫。
京大の良き伝統は、「あ、それオモシロイなあ、ほな、やってみなはれ」というもの。
屋久島ではサルが自然状態で暮らしている。それでサルの社会生活をじっくり観察した。
著者の新婚旅行はアフリカのナイロビへの旅です。これまたすごいですね。新婦の勇気に圧倒されます。
著者はケータイをもっていない。スマホも使わない。人に使われるのが嫌いだから。この点は、不肖、私と同じです。大学者と同じだと知って、うれしくなりました。
睡眠は8時間。寝ないとダメ。これも私と共通しています。ただし、著者は強烈な酒豪ですから、そこがまったく違います。
京大理学部は、学生に教授を先生と呼ばせない。あくまで「さん」。これはすばらしい。私も新しい弁護士仲間は「さん」と呼びますが、少し離れた関係だと無難に「先生」と呼びます。もう一つの本当の理由は、名前が出てこないことがしばしばあるからです。
著者は1980年6月にアフリカで有名なダイアン・フォッシーと会った。そのとき、ゴリラの挨拶音を出すよう求められた。
ゴリラの社会は、互いに見つめあうことを相手に求める。これは、サルやチンパンジーではありえないこと。
ゴリラは「凶暴な野獣」という誤ったレッテルが貼られている。しかし、本当は争わないのがゴリラ。むしろ平和好き。胸を叩くドラミングは、宣戦布告ではなく、お互いに離れて対等に共存しましょうと呼びかけているもの。
ゴリラは子育てをバトンタッチする。乳離れするまでは母親が、乳離れしたらオスが子どもを育てる。それが父親になること。
ゴリラの赤ちゃんは泣かない。なぜなら、ずっと母親に抱かれているから。ところが、人間の赤ちゃんは母親からときどき離されるので、泣いて自己主張をしなければいけない。
味わい深い本です。一読の価値が大いにあります。
(2018年2月刊。2200円+税)

連休中、例によって近くの小山にのぼった。雨上がりなので、斜面がすべりやすくて危ないかと心配したが、それほどでもなかった。かえって、みずみずしい青葉若葉のなかを歩けて気分良かった。途中で出会った農作業中の女性から蛇に気を付けてがんばってねと声をかけられたが、幸い蛇に遭遇することはなかった。久しぶりの山道だが、なんとかへたばることなく1時間ほどで338メートルの山頂にたどり着いた。珍しく子どもたちがいる。近ごろは野山をハイキングしているのは単独行のおじさんか、元気なおばさんばかり。ところが今回は若い女性2人組も歩いていた。
山頂そばの見晴らしのいいところにあるベンチに腰かけてお弁当開き。360度パノラマのように、有明海、雲仙岳そして青い空に白い小さな雲が千切れながらゆっくり漂っている。
ウグイスの鳴き声を聞き、緑したたるそよ風に頬をなでられながら梅干したっぷりのおにぎりをほおばる。至福のひととき。紅茶でノドをうるおしたあと、ベンチに横になり、下界のレジャー施設の渋滞を想像しながら昼寝をしばし楽しむ。赤紫のアザミがあちこちに咲いている。
ゴールデンウィークが過ぎると、2月にはじまった花粉症ともついにおさらば出来る。庭にはジャーマンアイリスに続いて黄しょうぶ。そしてアスパラガスが毎日のように採れて食卓にのぼり、ジャガイモの花が咲いているので、梅雨に入る前には収穫できる。待ち遠しい。やがて、ホタルが近くの小川で飛びかう。
庭の梅の実をちぎり、大きなザルに3枚もとれた。梅酒の材料を今年も確保できた。
風薫る五月は生命の息吹きをしっかり感じさせ、楽しませてくれる。ありがたい、感謝の日々を過ごしている。

2018年4月 2日

読むパンダ

(霧山昴)
著者 黒柳 徹子・日本ペンクラブ 、 出版  白水社

はるか昔、上野動物園に来たばかりのパンダを見に行ったことがあります。遠くのほうにじっとしていて、ガッカリでした。少し前に和歌山(南紀白浜)のアドベンチャーワールドに行きましたが、ここは素晴らしいです。わざわざ行った甲斐がありました。パンダを真近で、じっくり観察し、楽しむことができます。ここでは中国と直結してパンダの繁殖に貢献していますが、すごいことだと思います。
この本は、日本にパンダが初めてやってきたときの苦労話から、つい先日のパンダの赤ちゃん誕生まで縦横無尽にパンダを語っています。写真もそれなりにあって楽しい、パンダ大好き人間にはたまらない本です。
パンダなんて、「女子供」がキャーキャー騒いでいるだけじゃないかという偏見をもっている人には、いちどパンダの実物をじっくり見てほしいと思います。もとは熊なのに竹を主食としてあの愛くるしい丸っこい形と白黒パンダ模様はたまりません。そして、動作だって、人間の赤ちゃんか幼児みたいに愛嬌たっぷりなので、見飽きることがありません。誰が、いったい、こんな形と色を考えたのでしょうね。
パンダは木のぼりが上手ですが、それでも落っこちます。ところが、木から落ちても平気な身体をしているのです。
パンダの身体は甘酸っぱい匂い、芽香がする。不快感を与えない。同じことは、パンダの糞についても言える。これは、要するにパンダの主食が竹(笹)によるものでしょうね。肉食だったら、猫の糞のように不快な臭いのはずです。
パンダは鳴く。クンクン、クンクン、クゥンクン。メスがオスを交尾相手として受け入れるときには「メエエエ」と羊鳴きをする。相性が悪いと、「ワン」と犬鳴きをして「近寄らないで」と警告する。
パンダも人間と同じで好き嫌いははっきりしているのです。ですから、パンダの繁殖は難しいのです。それでも日本の動物園で赤ちゃんを育てるのに成功しているのですから、すごいですよね。
パンダファンには絶対おすすめの一冊です。
(2018年3月刊。1400円+税)

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