弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2019年1月13日

土、地球最後のナゾ

(霧山昴)
著者 藤井 一至 、 出版  光文社新書

土って、生物と切っても切り離せない存在なのだということを、この本を読んで初めて認識しました。
土は地球にしか存在せず、月や火星にはない。
土壌とは、岩の分解したものと死んだ動植物が混ざったものを指す。したがって、動植物の存在を確認できない月や火星に土壌はない。あるのは、岩や砂だけ。
地球の岩石は、水と酸素、そして生物の働きによって分解する。風化という。
粘土は、水の惑星が流した"血と汗"の結晶だ。
月でも岩は風化する。しかし、水や酸素や生物の働きがないと、岩石は粘土にはなれない。月には粘土はない。粘土の有無が地球の土壌と砂を分かつ。
火星には粘土がある。しかし、腐植はない。火星には粘土が存在する点では、月の砂よりも地球の土に近い。しかし、火星には腐植がない。
腐葉土には、高度に発達した現代の科学技術を結集してもなお、複雑すぎて化学構造も部分的にしか分かっていない驚異の物質である。土の機能を工場で再現できない理由もここにある。
500年前、レオナルド・ダ・ヴィンチは次のように言った。
「我々は天体の動きについてのほうが分かっている。足元にある土よりも・・・」
ええっ、本当にそんなことを言ったのでしょうか・・・。
ミミズの粘液のネバネバがバラバラだった土壌粒子を団結させる。これによって、土壌は単なる粉末の堆積物ではなく、無数の生物のすむ、通気性、排水性のよい土となる。これが地球の土だ。
世界の土は、実はたったの12種類しかない。ええっ、ウソでしょ、そんなに少ないはずないでしょ、そう叫びたくなりますよね。
日本中どこを掘っても、土は酸性だ。
泥炭土は、地中深く数千万年も眠れば石炭に化ける。それはジーンズを染めるインディゴの原料にもなっている。
日本では、山の土を通過した水はケイ素を多く含み、稲を病気に強くする。稲だけでなく、ケイ素の有無でニワトリの成長が大きく変わることも報告されている。
ケイ素は必須養分ではないが、骨をつくる活動を促進する働きがある。
インドネシアのボルネオ島ではケイ素がないため稲が実らない。
足元の土というもののありがたさを初めて認識することができました。
(2018年12月刊。920円+税)

2018年12月16日

道具を使うカラスの物語

(霧山昴)
著者 パメラ・S・ターナー 、 出版  緑書房

カラスは賢い鳥だということはよく知られていますが、カレドニアガラスは道具をつくってエサを取るほどの賢さです。そして、親鳥が赤ちゃん鳥に道具を使って木の中の虫を取り出す技術を伝授するのです。なにしろ、その証拠写真がバッチリありますから知能の高さを疑いようがありません。
この本で観察されているカレドニアガラスには、それぞれ名前がついています。
人間はカラスの個体を識別するのは大変むずかしい。けれども、カラスのほうはきちんと人間の個体識別をしている。
カレドニアガラスは、股状の枝を折ったり、形を加工したりすることで、フック付きの道具をつくる。フックの先を鋭くするため、削る。
赤ん坊カラスは、すべてのものに興味を抱く。新聞を与えると、ズタズタにしてしまう。どんなエサも必ずもてあそぶ。
1羽のカラスが何かを持っていると、他のカラスはそれを欲しがる。カラスたちは、恐ろしいほどイタズラが好きだ。
カレドニアガラスは、「ワァー、ワァー」あるいは「ワァッ、ワァッ」と鳴く。「カァー」とは鳴かない。
カレドニアガラスをめぐる楽しい写真集のようなカレドニアガラスの紹介本です。
(2018年2月刊。2200円+税)

2018年12月 3日

「おしどり夫婦」ではない鳥たち

(霧山昴)
著者 濱尾 章二 、 出版  岩波科学ライブラリー

面白いこと、このうえない本です。鳥の本当の姿を知ることができるという以上に、生命とは何なのかについて考えさせられました。
人は見かけだけでは判断できない。その行動をよく見てから判断すべきだとよく言われます。そのとおりだと思うのですが、では鳥の場合には、どうやって行動を見て判断したらよいのか・・・。鳥を個体識別しないと何事も始まりません。でも、一羽一羽の鳥をどうやって識別するのでしょうか・・・。
ニホンザルやチンパンジー、そしてゴリラなら、じっと観察していたら一頭一頭(ゴリラは一人一人と数えます)の顔や体の違いが識別できるようになるそうです。でも、小鳥には無理ですよね。でも、不可能を可能にするのが学者の仕事です。絵の具を羽に吹きつけたりして、なんとか個体識別の努力をしているのです。頭が下がります。そうやって、一体、何が判明したか。驚くべきことが徐々に分かってきたのです。
オオヨシキリは一夫多妻。第1メスの子は58%がオスなのに、第2メスの子は46%がオスだった。第2メスは第1メスほどオスが子育てに協力してくれないので、質の高い子を育てられる保障がない。そこで、メスを産んでおけば一定の子は残せる。なので、第2メスになったら、産む卵はメスにしたほうがよい。
では、どうやって鳥はオスかメスかを産み分けることができるのか・・・。精子ではなく、卵細胞にメスになるものとオスになるものの2種類がある。しかし、それにしても、どうやって産み分けているのか、そのメカニズムの全貌はまだ解明されていない。
北米のツバメでは、巣立ちまでに死亡したヒナの1%が子殺しによるもの。それは、独身のオスがヒナをつついて殺して、被害者のメスを結婚相手として獲得しようとしている。繁殖に失敗したら、しばしばつがいを解消するからである。
鳥全体では一夫多妻の種は数%にすぎず、9%以上の種は一夫一妻で繁殖している。子育ての制約があるからだ。
一夫多妻といっても、一夫多妻のオスがいる一方で、メスを得られなかったオスがいるというのが実態。それはそうでしょうね。みんながみんな一夫多妻というのは、オスとメスの数に圧倒的な差がないと不可能ですから・・・。
鳥のオスは、つがい相手を得ることと、つがい外交尾を行うことの二つの手段を駆使して、自分の子を少しでも多く残そうとしている。
これって、人間の浮気にも通じる話ですよね、きっと・・・。
アマサギでは、34%の交尾が、つがい外のオスとメスによって起きていた。
一夫多妻のオスは、メスが「浮気」しないよう一瞬も気を抜かずにメスに張りついておかないといけない。体重が1割も減るほどの難苦です。
一部の種のオスは、メスが抱卵中につがい外交尾(一夫多妻)を目ざす。これって、人間の男のすることでもありますね。
鳥のメスは、少しでも優れたオス、たとえばよい縄張りをもつオス、捕食者から逃れる能力が高く、病気にも強いオスとつがいになろうとする。つまり、メスは繁殖に際してパートナーを厳選している。
アマサギのつがい外交尾は、メスはつがい相手より優位なオスだと交尾を受け入れ、劣位なオスだと攻撃して追い払う。
一夫多妻の鳥は少なく、全種の1%以下でしかない。
メスの死亡率は高い。それは、繁殖・子育ての負担。そして、捕食者に襲われやすいから。
托卵にしても、宿主となった鳥が卵を拒否することが20%ほどある。また、宿主が托卵鳥のヒナを拒絶することがあることも判明した。
こういうことが判明したのはDNA鑑定によって鳥の識別が可能になったからですが、しかし、その前に取りの識別が必要なことは言うまでもありません。そのためには、山中に何日も泊まり込んで観察を続けるなどの苦労を必要とするわけです。好きでないとやってられない仕事だと思います。でも、そのおかげで、居ながらにして、いろんな生命体の存在形態をこうやって知ることが出来るわけです。ありがたいことです。
(2018年8月刊。1200円+税)

2018年12月 2日

愛と分子

(霧山昴)
著者 菊水 健史 、 出版  化学同人

面白い本のつくりです。まずは写真。なかなか見事な、そして意味ありげな写真が続きます。その次に、文章で解説されると、なるほど、そういうことなのか・・・、と。
鳥のウズラの場合。オスは、大きな声でよく鳴き、メスにアピールする。オスの鳴き声にひきつけられたメスが、オスの目の前にひょっこり現れると、オスは瞬時に鳴きやんでメスに近づき、交尾を試みる。このとき、オスは、目の前にあらわれたメスの頭部と首を見て、その見た目の美しさに見ほれ、交尾行動を開始する。
男は目で恋し、女は耳で恋に落ちる。
ショウジョウバエの場合。メスはオスに出会ったときは逃げまわるが、オスの熱心な求愛歌を聞くと、うっとりしたかのようにゆっくり歩く。これはメスがオスを受け入れつつあるサインだ。
ハツカネズミの場合。オスはメスに出会うと、ヒトには聞こえない高い周波数の超音波で、鳥のさえずりのような歌をうたっている。そしてメスは、自分とは遺伝的に異なる系統のオスがうたう音声を好む。
メダカの場合。メスは、長くそばに寄り添ってくれたオスをパートナーとして選ぶ。以前からよく見かけていたオスを記憶し、視覚的に識別して、恋のパートナーとして選んでいる。
プレーリーハタネズミの場合。オスもメスも、親元から離れて巣立つと、一人で草原の探検を始める。そこで、見知らぬ異性と出会い、そこで交尾すると、そのまま妊娠し、夫婦としての絆を形成する。絆をつくった夫婦は、ともに食事に、ともに子育てし、パートナーが死ぬまで添いとげる。オスは、たとえ若いメスが縄張りに入ってきても、求愛するどころか、攻撃して追い払ってしまう。
ええっ、そうなのか、そうなんだ・・・と、思わず納得してしまった小冊子みたいな本でした。
(2018年3月刊。1500円+税)

2018年11月26日

トラ学のすすめ


(霧山昴)
著者 関 啓子 、 出版  三冬社

動物園の飼育員がホワイトタイガーにかまれて亡くなるという痛ましい事故が起きました。トラはやっぱり怖いですよね。でも、自然界で、トラが人間を襲うことはありません。人間を警戒して近づかないのです。ただ、お互い不意打ちのように出会ったりしたら不幸な事故は避けられないでしょうね。
ヒョウは人間になつかないが、トラは人間になつく。
動物園で通路に誤ってネコが入っても、トラは何もしない。
アムールトラは、ネコ科で最大の獰猛で優雅な生きもの。体長2メートル、体重250キロ。
アムールトラは、足の裏がやわらかで、音を出さずに歩けるので、獲物になる動物に気づかれずに近づける。川も泳ぎ渡る。
アムールトラの毛色は淡い黄金色で、そこに黒いしまもようが入る。えらく派手で目立ちそうだが、森のなかでは保護色となって見えなくなる。
アムールトラは長距離走は苦手で、瞬時にけりをつけるしかない。
アムールトラが傷ついて、走れなくなると、もう飢え死にするしかない。
メスのトラは、女手ひとつで子どもを3歳まで育てる。
トラの最大の敵はヒグマではなく、人間だ。
アムールトラは、温厚で、おっとりとしていて、うたたねが好きな、怠惰とも思える性格だ。
トラは、孤高の動物であり、強いけれど、孤立無援を生きる生きものだ。
アムールトラは、自然界に500頭、世界中の動物園に500頭、合計して地球上に1000頭しか生きていない。まさしく絶滅危惧種である。
生物多様性は、地球の生命線である。トラは、この生物多様性のバロメーターなのだ。
トラは、餌になる主として中・小の動物、それらの動物たちが食べる木の実やコケ類、それを育む森林などなど、総じて生息地(ロシア極東)の生態系が一定の条件で維持されていないと生きていくことができない。したがって、この生態系の保存は人間にとっても大切なものなのだ。
日本人がトラ好きなのは、トラさん映画をみても分かると指摘され、ああ、そうだったと我が身をふり返りました。読んで楽しいトラ学入門書です。
(2018年6月刊。1800円+税)

2018年11月19日

ハトと日本人

(霧山昴)
著者 大田 眞也 、 出版  弦書房

身近にいるハトを豊富な写真とともに解説してくれる貴重な本です。
ハトと漢字で書くと鳩。九と鳥です。「九」は、手を曲げてぐっと引きしめた姿を描いた象形文字。つまり、ぐっとしぼって集まる鳥。仲間を引き寄せて群れる鳥、ということ。
ところが、漢字のはとはもう一つ、鴿とも書くそうです。合と鳥です。こちらは合わさる鳥。つまり、集まり合う鳥ということ。
ドバトは繁殖力が強く、平均寿命は飼育下で平均9年。15年以上も生きたドバトもいる。
ハトの抱卵は、昼間は雄がし、夜間は雌がする。雄は昼に8時間、雌は夜に16時間。
ハトのヒナに与える鳩乳(ピジョン・ミルク)は、雌だけでなく雄も分泌してヒナに与える。
ええっ、そうなんですか、父親も鳩乳をやるのですね・・・。
このピジョン・ミルクには乳糖やカゼインは含まれていない。黄色いカテージチーズのような粘り気のある濃厚な液体で、水分は65%、タンパク質や脂肪分に富み、ビタミン(A・B・B2)やミネラル(ナトリウム・カルシウム・リン)などが含まれていて、栄養価が高い。
鳩は、主として、果実や花など植物質を食べているが、ときにはミミズやカタツムリ、昆虫の幼虫なども食べる。
ドバトの羽色は一羽ごとにみな違っている。外見でオスとメスを見分けるのは難しい。
私は一度だけハトのラブシーンを見たことがあります。公園のフェンスに2羽のハトが並んでいました。すると、2羽は体をぴったりくっつけ、お互いのくちばしで、それこそ濃厚ラブシーンを展開するのです。前に、フランスの自然観察映画で、カタツムリのラブシーンを見たことがありましたので、すぐにそれを思い出しました。このときには交尾に至るのまでは目撃できませんでした(私が、途中で公園を離れたのです)が、きっと交尾までいったと思います。
日本には300種いるハト科の鳥が12種いるとのこと。身近なハトの生態をしっかり勉強することができました。
(2018年6月刊。1700円+税)

2018年11月12日

蜂と蟻に刺されてみた

(霧山昴)
著者 ジャスティン・O・シュミット 、 出版  白揚社

ハチとアリに刺されると、どれくらい痛いのか、その痛さに等級をつけてみた。自分の身体を提供してのこと。いやはや、とんだ商売ですね、学者って・・・。
等級はレベル1からレベル4までの4段階。セイヨウミツバチに1回刺されたときの痛みの強さをレベル2とし、これを評価の基準とする。ミツバチは世界中にいて、ミツバチに刺された人は多いので、評価の基準にしやすい。
ミツバチに鼻や唇を刺されると、本当に痛い。しかも、唇を刺されると、必ず腫れあがる。
ミツバチの毒液は、昆虫の毒液のなかで最高レベルの殺傷力をもっているうえ、分泌される量も多い。コロニーとしての殺傷能力は非常に高く、全体を集めたら、10人あまりの人間の生命を脅かすのに十分だ。
ゾウを追い払うため、アフリカでは畑の周囲にミツバチの巣をかけておく。ミツバチは、ゾウの弱点である眼と胴の腹側を狙って刺針攻撃をしかける。ゾウはたまらず逃げ出し、もう近づいてはこない。
ミツバチはNASAの実験で1982年と1984年の2回、宇宙を旅行している。無重力の環境下でもミツバチは六角柱の並んだ正常な巣をつくった。無重力空間でも、方向や位置をミツバチが間違えることはなかった。
アマゾン川の流域では、アリに刺されて、その痛みを我慢できるのか成人になる通過儀式となっているところがあるそうです。男の子のほうが強い痛みに耐えなければいけませんが、女の子には少しレベルを落として痛みをガマンすることが求められるといいます。いやはや・・・。
日本にもヒアリが侵入しようとしていますが、北米ではヒアリが相当侵食しているようです。
ヒアリ退治のつもりで空から有毒な殺虫剤を大量にまいたところ、逆効果だったそうです。ヒアリ以外のアリが殺虫剤でやられてしまい、肝心なヒアリは生きのび、かえって競争相手のいなくなった草原に展開していった。
ヒアリを殺すには、10リットルの湯を沸かして、蟻塚の真ん中に熱湯をゆっくり流し込む。これで、幼虫だけでなく、女王までも殺すことができる。
庭仕事をしていると、ときに痛い目にあいます。ダニかなと思っていましたが、この本を読んで、ひょっとしてアリだったかもしれないと思い、はっとしました。
ハチとアリと人間の生活との関わりを考えた、とてもユニークな生物の本です。でも、まねして刺されてみようなんては、ちっとも思いませんでした。
(2018年7月刊。2500円+税)

2018年10月 1日

昆虫のすごい世界

(霧山昴)
著者 丸山 宗利 、 出版  平凡社

これは確かにすごい。昆虫って、こんなにすごい存在だったのか・・・。驚嘆、感嘆、そして溜め息さえ出てきます。だって、すごすぎるのです。人間が万物の霊長だなんて、聞いてあきれます。世の中、上には上がいるものなのです。
いったい何がそんなにすごいのか・・・。それにはこの大判の写真をぜひ手にとって眺めていただくのが早道です。色といい、形といい、奇想天外です。
そして、素人には撮れない写真がたくさんあります。チョウやハチが飛んでいる一瞬が見事に写真に撮られています。
さらに驚くのは昆虫の極彩色の身体の表面です。金・緑・青の繊細なグラデーションとして、小さなハンミョウの皮膚が拡大されています。思わず息を吞んでしまします。ゾウムシやチョウの身体を覆っている色とりどりの突起には、いったい誰がこんなデザインをしたのか、不思議です。
クワガタの大きな鋏(はさみ)は、見る者を圧倒するだけの迫力十分です。
そして、チョウの産みつける卵の、なんと可愛いこと。黄色・水色・茶色の粒々。そして天敵対策なのか長い柄でぶら下がっている卵もあります。
いもむしコレクションには、色も形もさまざまなイモムシたちがずらりと並んでいて壮観です。
秋になって、トンボが飛びかっています。いったい羽を動かさずに空中を漂い続けられる秘密は何なのだろう・・・。そして、トンボは何を食べているんだろう。
ギンヤンマ、オニヤンマを見ると、子どものころのように心が高鳴ります。赤トンボを見ると、なんとなくセンチメンタルな、メランコリックな気分です。
いやあ、すごい写真集です。でも、実は、現物を大きく拡大した写真のオンパレードなのです。実際には何ミリしか体長がないのを、A4サイズまで拡大して見せてくれるのですから、いかにもありがたい話です。
先日、私が欠かさず見ている『ダーウィンが来た』で小笠原諸島の海にすむ奇妙な生き物たちの姿を思い出しました。
ミクロの世界に、こんな不思議なワールドが広がっているのですね。
2400円(消費税は別)ですので、せめて図書館に購入してもらって、眺めてみてください。
(2018年7月刊。2400円+税)

2018年9月25日

動物たちのすごいワザを物理で解く

(霧山昴)
著者 マティン・ドラーニ、リズ・カローガー 、 出版  インターシフト

一般に外温性動物は内温性動物ほど食べる必要がない。
外温性動物たちは、遠くまで行きたいときには、まず日光に当たりながらごろごろしなければいけないし、速く動けるのは、ほんのしばらくでしかない。そもそも寒すぎるところでは暮らせない。外温性動物は、夜に活動するのも難しい。
イヌは内温性動物なので、体温は38~39度の範囲でなければいけない。体温が37度を下回ったり、40度を上回ったら、獣医に診てもらったほうがいい。
メスの蚊は尿と血の混ざった球を排出する。これは、体温を下げて熱による負荷がかからないようにするため。
ミツバチは、暑い日には、飛びながら口から花蜜を吐き出し、脳が過熱するのを防ぐ。おかげでミツバチは、最高46度の暑さでも飛ぶことができる。
ガラガラヘビは、マムシ属のヘビ。マムシ属のヘビは、可視光が見える目以外にも目を持っている。人間をはじめ、たいていの動物には見えない赤外線を感知できる、感熱ピットを一対もっている。これは、普通の目のほかに、赤外線カメラを内蔵しているようなものだ。
ガラガラヘビと対決したリスは、敵を混乱させようと、わざとしっぽから強力な赤外線信号を出す。
蚊は雨のなかを果たして飛べるのか。こんな疑問をもって(それ自体がすごいことです・・・)、それを実験によって解明した学者がいました。このとき、雨粒なんて軽いものだと考えてはいけません。
雨粒の落下速度は秒速10メートル近い。これは、時速35キロ。もっとも重い雨粒は100ミリグラムもあるので、蚊の体重の50倍。なので、静止している蚊に雨粒1個がぶつかるのは、体重100キロの人間に5トントラックが激突するようなもの。土砂降りのなかでは、蚊は25秒に1度は雨粒にぶつかる計算だ。
蚊はとても軽いので、蚊の運動量の変化はかなり小さい。蚊はヨロイのような外皮、つまり外骨格のおかげで、雨粒の10倍以上の力がかかっても、それを耐え抜くことができる。
蚊は雨粒に抱きつき、すぐに離れる。
飛んでいつ蚊が雨粒との衝突に耐えるための鍵は、体重が軽いことと、「パンチに乗る」こと。
1匹のトッケイヤモリは、総計650万本もの剛毛をもっている。剛毛1本につき、2~20ミクロン平方のスパチュラ面をもっている。ヤモリが体重を支えるには、0・04%も必要ない。
デンキウナギは、頭が正(プラス)極で、しっぽが負(マイナス)極という、巨大な900ボルトの電池のようなものだ。
アリが持っているのは、体内時計ではなく、体内歩数計。これを偏光感知能力と結びつけて、エサを見つけるためには、自分がどれだけの距離、どの方向に歩き回ったかを知る。そして、それに続き、何らかの方法で、酢に戻る最短ルートを計算する。
動物をめぐる難しい内容をやさしい文章で明らかにしている本です。
(2018年6月刊。2300円+税)

2018年9月 9日

植物は「未来」を知っている

(霧山昴)
著者 ステファノ・マンクーゾ 、 出版  NHK出版

タイトルに惹かれて、いつもの喫茶店で昼食を摂りながら読みはじめたのですが、あまりの面白さに、つい食事そっちのけで読みふけってしまいました。昼休みだけでは読了できなかったので、しばし依頼者を待たせて、なんとか完読できました。
何が面白かったかというと・・・。たとえば、植物だって、しっかり記憶できることを実験で証明したということです。ええっ、どうやって、どんな実験で、そんなことを証明できるのでしょうか・・・。
オジギソウは、触れられるなど、外的刺激を受けると、その名のとおり、とても恥ずかしそうに葉を閉じる。19世紀のはじめ、フランスの植物学者、ルネ・デフォンテーヌは、たくさんのオジギソウを載せた馬車をパリ市内を走り回らせ、いつ葉を閉じるのか教え子に記録させた。すると、初めのうちは閉じていたオジギソウが、やがて葉を開いた。慣れてしまったのだ。オジギソウが記憶力をもっていなかったら、どうやって馬車の振動に慣れることができるのか・・・。オジギソウに刺激を与える実験装置をつくって実験したところ、オジギソウは、なんと最大40日も、刺激を受けたことを記憶していた。
ええっ、脳のないオジギソウが、どこで、どうやって刺激の記憶を維持できたのでしょうか・・・。
植物は、プリオン化したタンパク質を利用している可能性がある。
南米・チリのモリに育つ、つる性植物のボキラは、それぞれの宿主の葉を擬態している。
アカシアは、まずアルカロイドが豊富な甘い蜜でアリを誘惑する。アリが蜜への依存症に陥ると、次はアリの行動をコントロールし、アリの攻撃性や植物の上を移動する能力を高める。そのすべてが、蜜にふくまれる神経活性物質の量や質を調整するだけでよい。
2015年の1年間だけで、2034もの新種の植物が発見された。
人間が活用している植物は3万1千種以上にのぼる。このうち1万8千種は医療目的。6千種は食物として、1万1千種は建築用の繊維や資材として、1千3百種以上は社会的な目標をもって、1600種はエネルギー資源として、4000種は動物のエサとして使われた。
8千種は環境目的で、2万5千種は毒物として利用されている。
植物は4億年前までに、動物とは正反対の決定をくだした。動物は、必要な栄養物を見つけるために、移動することを選択した。植物は動かないことを選び、生存に必要なエネルギーを太陽から手に入れることにした。そして、植物には発達した感覚系がある。感覚系によって、環境を効率よく調査し、被害をもたらしかねない出来事に対して迅速に反応することができる。
動かないはずの植物が、実は、地球上をあちこち転々と生成・成長していること、そして、周囲の姿に似せたり、一定の刺激には順応しつつしなやかに生きのびている姿は、まるで個々の植物にも知的生命体が潜んでいるかのようです。まさしく、植物萬歳です。
(2018年3月刊。2000円+税)

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