弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2021年1月16日

お蚕さんから糸と綿と


(霧山昴)
著者 大西 暢夫 、 出版 アリス館

私が中学生のころ、通学路の途中に桑畑がありました。桑の実も、ほんの少しだけとって食べたことがあります。あまり美味しいと思わなかったので、1回か2回だけです。桑畑があるということは、そこらで養蚕(ようさん)していたのでしょう。
生糸を産み出す蚕(かいこ)は、この本では「お蚕さん」と「さん」づけで呼ばれています。
お蚕さんに満足のいくまで桑の葉を食べさせるため、土作り、肥料など桑畑は手入れが欠かせない。
この本に登場する養蚕農家は春と秋の2回、お蚕さんを育て、糸とりまでしている。飼っているお蚕さんは1万頭以上。1匹とは数えないんですね...。敬意を表しているわけです。
春は桑の葉がやわらかく、秋の葉はかたい。なので、お蚕さんのはき出す繊維は、季節によって手触りが違う。春の糸と秋の糸、糸には季節による違いがある。
うひゃあ、ちっとも知りませんでした...。
お蚕さんの食事は人間と同じで、一日三食。小さいときは1万頭いても1日800グラム、ところが大きくなると、80キロの桑の葉を食べ尽くす。そして大小便もたくさんするから、養蚕農家は掃除も大変。
育てはじめて20日目。お蚕さんが身体をそい上げたら、食べるのをやめる合図。
お蚕さんを1頭ずつ小部屋におさめていく方法と、わらをジグザグに打ったなかにお蚕さんを入れる方法とがある。
そして、お蚕さんは細い繊維は吐き出して、だんだん自分の姿は見えないように、真白いウズラの卵の形になっていく。
お蚕さん1万頭から、やっと着物3着分の糸がとれる。
お蚕さんが蛾になって、繭(まゆ)を破って外に飛び出したら困るので、その前にお蚕さんを殺してしまう。繭が破られたら、長い1本の糸がとれない。お蚕さんが繭から飛び出す寸前に乾燥させて、その命を止める。養蚕農家の仕事はここまで。
次は糸とりの仕事だ。繭は細い繊維でからみあって1本につながっている。
長いものは1500メートルになる。それを、20個ほどあわせると、1本の生糸・絹糸になる。
繭を80度の湯の中に入れて、繊維を取り出し、20本で1本の生糸にしていく。糸はあくまで均等な太さの糸にしなければいけない。糸とり機がまわる。
綿花からできている綿は木綿(もめん)。お蚕さんからできている綿は真綿(まわた)という。
真綿は、軽くて暖かい布団やジャンパーにも使われている。生糸から丈夫なパラシュートもつくられた。
お蚕さんのなかで、殺されずに繭の外に出た蛾は、パタパタと羽ばたくことはできても、実は飛べない。糸をとるために改良された生きものなので、飛べなくなってしまっているのだ。
カイコから生糸のできあがるまでが写真と解説文でよく分かりました。
群馬県の富岡製糸場を数年前に見学してきましたが、あそこはフランス人技師の指導によって工場がつくられ、運営されていました。日本からの生糸の輸出は明治期の日本の経済発展を支えたのですよね...。
(2020年7月刊。1500円+税)

2021年1月11日

山と獣と肉と皮


(霧山昴)
著者 繁延 あづさ 、 出版 亜紀書房

女性写真家が猟師と一緒に山に入り、「殺す」行為を見たときの衝撃を語っています。
ところが、その直後に、肉を食べるほうに関心が移っていくのでした。まことに人間というのは身勝手な存在です。私も子羊の肉をいつも美味しいと思って食べています(でも最近は、残念なことに久しく食べていません...)が、赤ちゃんのときから羊を育てていたら、とても食べられないでしょうね...。
前に、豚を飼ってペットのように可愛がっていた女性が豚を美味しくいただいた(食べた)という体験記を読みましたが、なかなか出来ることではありません(これには飼って育てることも含みます)。
尖った槍のひと突きで猪の心臓を刺す。鉄パイプを思いきり振って猪の眉間を叩く。素早く銃の安全装置を外して引き金を引いて猪を殺す。現場で身近に「殺す」行為を見たときの「圧倒的な暴力」がびんびんと伝わってきます。
箱罠にかかった猪は目から怒りがあわらしている。あきらめという気配がまったく感じられない。追いくる生気に圧倒される。ところが、猟師が狙いを定めて槍を突き出すと、たちまち猪の動きは止まり、魂が抜けていってしまう...。そして、直後に「肉」が見えると、とたんに「おいしそう...」という喜びに近い感情が湧きあがってくる。ふむふむ、少しだけ分かる気がします。
猟師から、獲れたばかりの猪の心臓、ヒレ、ロース、後脚2本そして首をもらう。心臓は焼肉、ロースは焼肉とぽん酢味のしゃぶしゃぶにして食べる。心臓は、しょうが醤油に付け込んでおく。野生動物の肉は、スーパーで売っている肉と全然ちがって、料理する工夫や手間が多い。心臓は、しっかり血を洗い流し、スライスして焼肉にして食べる。独特の歯ごたえがある。猪の肉は、繁殖期のはじまる12月ころが脂が乗っていて、一番おいしい。
著者がついていく猟師は大型バスの運転手を定年退職する前から始めたベテラン。鹿と猪をあわせて年間100頭以上も獲る。とった肉を好みの人々に配っている。
罠にかかって死んだ獣は決して食べない。あくまでも自分が殺した獣を食べる。食べないときには山に埋める。すると、動物たちが寄ってたかって食べて、たちまち跡かたもなくなってしまう。
子どもたちと一緒に山に入って猟師が猪を殺すところ、肉として解体する場面に出かけ、また自宅で一緒に料理する。すごい家庭教育の実践ですね...。
私の家の近辺にはタヌキが巡回することはあっても、猪は見たことはありません。山中で猪と偶然に出くわしたら、本当に怖いですよね...。
こんな勇気ある女性写真家の作品を一度じっくり見せていただきたいものです。これからも健康に留意して、ご活躍ください。
(2020年10月刊。1600円+税)

2020年11月30日

マンモスの帰還と蘇る絶滅動物たち


(霧山昴)
著者 トーリル・コーンフェルト 、 出版 A&F

19世紀半ば、アメリカ東部には30億から50億弱のリョコウバトがいた。ところが、人間の乱獲によって絶滅してしまった。安い肉として食べ尽くされてしまったのだ。
そして、1980年にヨーロッパの鳥100羽をニューヨークのセントラルパークに放したところ、今や2億羽も生息して、自然と農業の両方に脅威となっている。ヨーロッパホシムクドリだ。うひゃあ、そんなことが起きるのですね、信じられません。
シベリアの凍土に眠っていたマンモスの牙がどんどん掘られ、中国人バイヤーに高く売られている。毎年60トンものマンモスの牙が中国に売られている。
ある中国の企業は、15キロ以上にはならない遺伝子組換えミニブタを販売している。ブタにどんな斑模様がほしいかを前もって顧客に決めさせ、すべての赤ん坊ブタを注文どおりに組み換えようと計画している。
1876年に、アメリカは日本からクリの木を輸入した。日本のクリはアメリカのクリより小さく、樹木の美しさとその実のためだ。ところが、一緒にクリ胴粘病菌も日本から入ってきた。そのためアメリカの野生のクリは破滅した。日本のクリの菌に耐性がなかったからだ。アメリカでは50年間に300万本ものクリの木が枯れてしまった。
アメリカのイエローストーンにオオカミが放たれたことが自然生態系の保護にいいというのも最近では疑問符がついている。
人間に慣れすぎ、その行動を人間に合わせるようにならないように捕食動物を育てて、放つというのはとても難しいこと。
絶滅したマンモスをよみがえらせるというのは、実にむずかしいこと。マンモスだろうが蚊だろうが、動物が死ぬとその身体はすぐに分解しはじめる。長いDNA分子は、最初に壊れるものの一つだ。DNAは、タンパク質やほかの細胞構造に比べて、弱く不安定なのだ。
恐竜のゲノムを研究するには、DNAに6500万年間も残っていてもらわなければいけないということ。この道のりは遠い。とてもよく保尊された恐竜の化石を対象にして、なんとかほんの少しのタンパク質の固定はできた。コラーゲン、ケラチンなど。しかし、DNAはかけらさえ見つかっていない。
絶滅してしまった種を再び復元することがいかに至難のことなのかが、チョッピリ理解できました。スウェーデンの女性科学ジャーナリストによって書かれた専門的な本です。
(2020年7月刊。2200円+税)

2020年11月24日

おどろきダンゴムシ図鑑


(霧山昴)
著者 奥山 風太郎 、 出版 幻冬舎

わが家にもダンゴ虫はたくさんいます。犬走りのあたり、また、小石を取りあげると、もぞもぞとうごめいています。孫たちは喜んで、ダンゴ虫を手のひらに乗せて、じっと眺めます。
ダンゴ虫は小さい子どもたちに大人気です。決して踏みつぶして殺そうとはしません。あくまでも可愛い仲間なのです。
この本は、いえ、この図鑑は世界のダンゴムシ(虫)のオンパレードなんです。うひゃあ、こ、こんなにいろんな形のダンゴムシがいるんだ...、おどろきました。
ダンゴムシは世界に1350種ばかり。甲殻類のなかのワラジムシ亜目(3700種いる)に属する。
著者は、ダンゴムシを自宅で飼育中とのこと。南西諸島の種を中心として200以上の地域のダンゴムシを、5万か10万か、20万か...。数えきれないほど...。うひゃあ、これはたまりませんね。いくら可愛いといっても、20万もいたら...、ぞぞっとしてきます。
でも、ダンゴムシの飼育は楽しいし、そんなに難しくはないとのこと。
ある程度の湿度を保つことが可能な湿らせた落ち葉や腐葉土を敷けば、どんな容器でも飼育できる。乾燥させないこと、落ち葉や隠れ家をつくることができればいい。餌はニンジンのかけらでいい。
ダンゴムシは、常に穏やかで平和に暮らしている。その様子を眺めていると、日頃のストレスなんて吹っ飛んでいってしまう。
ダンゴムシの一生は意外に長く、飼育下では3年も生きる。
ダンゴムシのほとんどは、社会性のある集団生活を送ることはなく、1ヶ所にたくさんいても、それは結果として集まっているだけで、単独行動を好む。
世界最大のダンゴムシは体長2センチもあり、イタリアに多く、フランスにも少しいる。
ダンゴムシは雑食性で、カルシウム含有量の多い落ち葉ほど、よく食べる。
わが家で見かけるのは、黒光りのするオカダンゴムシ。なんと日本には明治時代に入ってきた外来種だといいます。もとは、地中海が原産地なのです。
いかにも愛くるしい、丸まった姿のダンゴムシは、防禦こそ生きのびるための最大の保障と考えています。いやはや、いったい誰が、そんなことを考えついたのでしょうか...。
ダンゴムシのカラー写真を眺めているだけで、ついつい楽しくなるダンゴムシの図鑑でした。
(2020年6月刊。1300円+税)

2020年11月16日

オオカマキリと同伴出勤


(霧山昴)
著者 森上 信夫 、 出版 築地書館

昆虫カメラマンというのが、いかに大変なものか、よーく分かりました。タイトルのオオカマキリと同伴出勤というのも事実そのとおりにあったことで、ウソでも誇張でもないのです。
オオカマキリの産卵シーンの撮影のときのこと。おなかがパンパンにふくれ、今にも卵を産みそうなオオカマキリのメスを一晩中見張っていたが、結局、朝まで産卵しなかった。このまま放っておくと出勤中に産卵してしまうのは確実。それで、オオカマキリをミニ水槽に入れて職場に同伴させた。そして、足もとに水槽を置き、水槽のフタに足をのせ、ずっとずっと貧乏ゆすりをしながら、職場で一日を過ごした。メスが落ちついて産卵できないようにゆすっていたのだ。
帰宅して3時間たち、ついにオオカマキリは産卵をはじめた。お尻から真っ白い泡を噴き出しはじめたのだ。一日徹夜して、貧乏ゆすりしながら仕事をして、帰宅してからもずっと眺めていたのが、ついに報われたのです。いやはや、なんという苦労でしょうか...。私には、とても出来そうもありません。
おお名人芸!すごいぞ自分!今日も完璧!ひとり自分をほめて悦に入る。
いやあ、なんだか怪しい気分ですよね...。
生きものカメラマンは、ことばの通じない相手に何もかも合わせる必要があり、仕事の時間をコントロールすることができない。
昆虫カメラマンは、カメラマンだけの収入では生活できず、やむなくサラリーマンと兼業せざるをえない。なので、夜と休日だけのカメラマンとなる。
モデルの昆虫は、なるべく自宅で飼う。自宅マンションのベランダには、たくさんの鉢植えや飼育ケースが並ぶ。そして、それを集中管理するのは大変。
昆虫カメラマンの世界は、なかなか代替わりしない。40代までは若手と呼ばれる。著者は58歳(のはず)。
ウスバカゲロウは謎の多い虫。その幼虫はアリジゴクと呼ばれる。ウスバカゲロウは、エサを食べている姿、交尾している姿、卵を産んでいる姿を見せない。
そんなウスバカゲロウの産卵シーンを夜のお寺の境内で三日三晩すごして、ついに撮影したのです。いやあ、すごい。そして、そのお寺の場所も撮影の時間も書かれていません。まさに、著者の「専売特許」なのです。いやはや...。
著者は昆虫を一度も「かわいい」と思ったことはないとのこと。「かわいい」のではなく、「カッコいい」のです。なーるほど、微妙に違いますよね...。
著者は、高校時代には数学で苦しめられ、ついには落第。ところが生物は、いつだって「五」、そして現代国語のほうも学年2位になったこともある。それで生物が好きだったのに、理学部生物学科ではなく、立教大学の文学部に進学。ええっ、大変でしたね...。
昆虫少年だった著者にとって、昆虫図鑑は、まさしくアイドル図鑑だった。
昆虫少年が終生「虫と添い遂げる」には、受験、就職そして結婚という三大関門がある。でも、その前に昆虫愛をたしかなものにする必要がある。
うむうむ、なかなか壁はあついのですね。
著者の家には、30年来、飼育昆虫がいなかったという日は一日もないとのこと。
昆虫がエサを夢中になって食べてくれる姿は非常に心癒される...。
読んでいるほうまで、なんだかホワッと心が温まってくるのです。いやあ、昆虫少年のまま大人になったって幸せな人生ですよね。
(2020年8月刊。1600円+税)

2020年11月 9日

アリ語で寝言を言いました


(霧山昴)
著者 村上 貴弘 、 出版 扶桑社新書

アリ語で寝言(ねごと)を言ったなんて、なんと寝とぼけたタイトルなんだろうと思って読みすすめていると、なんとなんと、本当の話だったのです。
いやはや、アリを研究する学者って、寝言でまでアリを語っているのですね...。でも、ちょっと違うんです。寝言そのものがアリ語だというのです。ええっ、アリが話せるなんて、聞いたことないよ。そう、そうでしょ。でも、でも、アリって仲間同士で話しているっていうんですよ、本当に。
娘が「お父さん」と起こそうとしたとき著者は寝ぼけながら、「キュキュキュキュ、チャチャチャチャ」と答えてしまった。
「お父さん、起きて!アリ語をしゃべっているよ」
娘の、その言葉で、はっと目が覚めた。
キュキュキュキュ キュッキュキュキュキュキュ チョキュキュキュ キュッキュキュキュキュ
キュンキュンギョギョ
これはハキリアリたちが個体間で鳴きかれている音を特製の録音装置で聴きとったもの。
アリは腹柄節(ふくへいせつ)で音を出し、脚と触覚に耳(基質振動と空気振動を受容する器官)がある。
たとえば、いま判明しているのは、「この葉っぱはうまい」というと、働きアリは集まり、「この葉は、それほどでもない」と聞くと、別のところに移動する。
このように、音にはちゃんと意味があるのです。いやあ、これって本当でしょうか...。
アリはハチ目アリ亜科に属し、アリ亜科は1億5千万年前にハチとの共通祖先から分岐した。アリが出現したのは1億5千万年前で、5千万年前にはほぼ現在のアリの姿・形のものが出そろっている。そして、現在、地球上には1万1千種、1京個体のアリがいる。
著者は、アリを大学4年生のとき以来、28年間も飼育している。アリの飼育はむずかしい。
働きアリは、すべてメス。オスアリが生まれてくるのは、1年のうち繁殖期のみ。オスは地上に出てから数日から1週間ほど、長ければ2週間の生涯を終える。
働きアリが割り当てられる仕事は年齢によって決められている。たとえば、エサ探しや偵察など、巣から出る危険な仕事は老齢なアリが担当する。アリ社会の仕事は、効率よく分業されている。
アリといえば、ひとつの巣に1個体の女王アリが住んでいるというイメージが強いが、実は一つの巣に複数の女王アリが20~30個体いるというのも珍しくない。
ハキリアリでは、菌を食べるのは、幼虫だ。
昔、アメリカの牧場で6メートル四方で、深さが3メートルという巣穴を掘ったという記録がある。
ハキリアリは、畑を耕し、苗を植え、栄養を与えながら子育てし、雑草や害虫がでたら、とり除く。人間と同じだ。死んでしまったアリや、寿命が尽きそうなアリは外に出されてゴミ捨て場所に捨てられる。そして、ハキリアリの女王アリの寿命は10~15年。
アリと一言で言っても、こんなに多様なんです...、しびれます。
(2020年7月刊。900円+税)

2020年11月 7日

チョウはなぜ飛ぶのか


(霧山昴)
著者 日高 敏隆 、 出版 岩波少年文庫

驚きました。戦前の1930年生まれですから、敗戦当時は15歳。チョウの飛び方を探るべく、遠く高尾山にまで一人で、また、大人と一緒に出かけてチョウ道の観察に出かけていたのでした。そして、戦後になってからは、外房線の東浪見(とらみ)駅まで、はるばる4時間もかけて大人2人と3人で出かけていき、そこでチョウ道を探索して歩いたというのです。
いやはや、なんという執念というか、物好きな人たちです...。
そして発見したのです。チョウ道は時刻に関係があること。そして、地形ではなく、光と関係があることも。チョウは明るく日のあたっている木の葉の近くを飛ぶ。しかし、チョウ道は光や木の葉とだけ関係があるのではなく、温度とも関係がある。そして、チョウ道は、チョウの種類によっても違う。
しかし、チョウ道があるのは、おもにアゲハチョウの仲間に限られている。モンシロチョウやモンキチョウにはチョウ道らしきものはない。
チョウ道は、なわばりとは関係がなく、食物のありかとも関係がない。チョウ道があるかどうかは、そのチョウの幼虫がどんな植物を食べるのかということに関係している。
ずいぶん前に、『モンシロチョウの結婚ゲーム』という面白い本を読みました。キャベツ畑をひらひら飛んでいるモンシロチョウは、オスがメスを見つけて、素早く飛びかかる。しかし、人間の目ではオスもメスも真っ白で区別がつかない。どうやってオスはメスを見つけるのか...。
それは紫外線写真をとると一目瞭然。オスはまっ黒に見える。なので、オスがメスを見間違えるはずがない。
では、アゲハチョウはどうか。実は、アゲハチョウは、大変気むずかしいチョウだ。
オスがメスを見つけるときに大切なのは黄色い色。そして、縞(しま)もよう。黄と黒の縞もようにオスは惹かれて寄ってくる。さらに、アゲハチョウは、わざわざさわってみる。
今から45年も前に書かれたものなんですが、研究途上の大変な苦労を重ねて、一つひとつ発見していく過程が紹介されていますので、とてもスリリングで興味が湧きます。さすが少年文庫にふさわしい内容です。著者は惜しくも10年前の2009年に亡くなられています。
(2020年5月刊。760円+税)

2020年10月26日

えげつない!寄生生物


(霧山昴)
著者 成田 聡子 、 出版 新潮社

カマキリの寄生虫・ハリガネムシの幼生(赤ちゃん)は、川底で、自分が昆虫に食べられるのをじっと待っている。食べられると、昆虫の腸管のなかで「ミスト」に変身し、休眠する。この「ミスト」はマイナス30℃でも凍らずに生きていける。そして、コオロギが昆虫を食べて、コオロギの消化管に入って大きく長く成長する。大人になると、宿主のコオロギをマインドコントロールして川に向かわせ水に飛び込み自殺する。するとハリガネムシがおぼれたコオロギの尻からゆっくり、にゅるにゅるとはい出してくる。
いやはや、とんだストーリーです。誰がいったい、こんなことを思いついたのでしょうか。すべてが偶然にたよった「一生」なんです。
ハリガネムシは寄生したコオロギの神経発達を混乱させ、光への反応を異常にして、キラキラとした水辺に近づいたら飛び込むように操っている...。うひゃあ、す、すごい謀略です。
そして、なんと、自ら入水した昆虫によって川魚のエサが確保されているというのです。自然の連環・連鎖は恐ろしいほど、よく出来ています。
ゴキブリは、全世界に4000種、1兆4853億匹もいる。日本だけでも236億匹。ゴキブリは3億年前の古生代、石炭紀に地球に登場した。ゴキブリは好き嫌いがなく、何でも食べられる。ゴキブリは、とても繁殖力が旺盛。1匹のメスが子どもを500匹も生む。家にメスのゴキブリを1匹みたら、500匹はいると思わないといけない。
そして、ゴキブリは素早い。1秒間に1.5メートル走る。これは、人間の大きさだと1秒間に85メートルのスピードなので、東海道新幹線より速い。
ところが、エメラルドゴキブリバチは、ゴキブリに覆いかぶさって、針を刺す。すると、ゴキブリは逃げる気を失い、まるでハチの言いなりの奴隷になってしまう。ハチは、このあとゴキブリの触覚を2本とも半分だけかみ切る。そしてじっとしていると、ハチの幼虫がゴキブリの体に亢を開けて体内に侵入していく。ゴキブリが生き続けたまま、ハチの子どもに自分の内臓を食べさせる。ゴキブリの内臓をすっかり食べ尽くして、空っぽになってからもハチの幼虫はしばらく殻の内側にひそんでいて、やがて、成虫になって飛び出す。
いやはや、ゴキブリを食い物にするハチがいただなんて...。ところが、このハチは縄張り意識が強く、またゴキブリの強い繁殖力のほうが優っているため、このハチがいくらがんばってもゴキブリが絶滅することはないのです。これまた、自然の妙ですね...。
同じようにゴミグモを思うように操って、巣を張らせて、最後は体液を吸い尽くすクモヒメバチの残虐さも紹介されています。
まことに「えげつない」としか言いようのない寄生生物が、面白おかしく紹介されている本です。世の中は、まさしく不思議な話にみちみちているのですね...。
(2020年7月刊。1300円+税)

2020年10月19日

博士の愛したジミな昆虫


(霧山昴)
著者 金子 修治、鈴木 紀之、安田 弘法 、 出版 岩波ジュニア新書

このジュニア新書は、本来は子ども向けなのでしょうが、私の愛読する新書です。今回は10人の昆虫博士が登場する、楽しい昆虫の話です。
モンシロチョウの話も面白いです。モンシロ属の幼虫の食草は、すべてアブラナ科の植物。アブラナ科の植物にカラシ油配糖体という毒性のある防衛化学物質をもっている。このため、アブラナ科植物は多くの昆虫に食べられないですんでいる。ところが、モンシロ属の幼虫は、この防衛化学物質に対処する能力をもっている。しかも、それだけでなく、モンシロ属のチョウは、この防衛化学物質を手がかりとして、アブラナ科の植物を探し出し、そこに産卵する。
モンシロ属の幼虫に寄生しようとするヤドカリバエは、幼虫の食草の上を飛びまわり、葉にある幼虫の食痕(食べたあと)を目で見て探す。そして、それらしいと思うと、触角で点検する。そのときの決め手は、幼虫のだ液と植物の汁液が光合成してつくり出した化学物質。これでモンシロ属の幼虫だと分かれば、4~5分間に及ぶ丹念な探索をする。幼虫のほうも、寄生者を避けるべく、10分ほど食べてはその場を去り、50分間はなれたら戻ってくる。
モンシロのオスは、移動せず、平均2週間あまりの一生を羽化した畑で過ごす。モンシロが羽化するキャベツ畑は、寄生者も羽化する生息場所。キャベツ畑は、モンシロや寄生者が2世代から3世代くり返すと、キャベツの収穫期を迎えて消滅する。
モンシロがキャベツを好むのは、キャベツの栄養分が高くて卵をたくさん産めるからではない。キャベツは日向に植えられ、短期間で収穫される作物で、このことがモンシロに天敵から逃れる術(すべ)を与えている。
なるほど、ですね。私も前に庭でキャベツを栽培したことがありましたが、毎日毎朝の青虫とりに見事に敗退してしまいました。割りバシでとってもとっても、青虫が毎朝いくつも湧き出てくるのは、本当に不思議でした。
怖いヒアリにも強力なライバルがいるとのこと。タウニーアメイロアリ。このアリは、ヒアリに毒をかけれると、お尻から出した自らの毒液で、身体を洗浄している。この毒液の主成分は蟻酸で、ヒアリのアルカリ性の毒を中和する。なので、このタウニーアメリロアリもヒアリに代わる侵略種と化している。これまた怖い話です。
テントウムシが発育するには、エサになるアブラムシが必要。ナミテントウムシは最上位の捕食者。この強者と、それ以外の弱者が一緒に生活するヒケツは、強者のナミテントウムシのエサのアブラムシが減少して多種を捕食しはじめる前に、弱者は発育を完了するが、ナミテントウムシがいる寄生植物をさけて産卵すること。
昆虫は、4億年も前から地球上で生活し、100万種以上の種類に分かれ、地球上のあらゆるところで生活している。
自然界の共存する仕組が、とても巧妙であることを教えてくれる新書です。
(2020年4月刊。880円+税)

2020年10月12日

言葉を使う動物たち


(霧山昴)
著者 エヴァ・メイヤー 、 出版 柏書房

驚くべき事実のオンパレードです。
オウムのアレックスは、100をこえる単語を知っていた。そして、アレックスはジョークも言えた。
ボーダーコリーのチェイサーは、1000以上の玩具の名前を覚えていて、文法も理解した。
野生のイルカは互いに名前で呼ぶ。
プレーリードッグは侵入者を表現する言葉を豊富にもっていて、人間の体格や衣服の色、あらゆる持ち物、髪の色を表現する。
飼育されているゾウは、人間の言葉で話せる。野生のゾウには、「人間」を指す言葉があり、それは危険を意味する。
最近の研究によると、以前に考えられていたよりもはるかに複雑な方法で、動物同士がコミュニケーションをとっていることが示されている。
オウムは体のつくりから、人間が声に出した言葉をそのまま繰り返して言うことのできる数少ない動物の一つだ。
カンジというボノボは、ゴリラのココの映像をみて、手話を覚えた。カンジは、ボノボが人間やボノボからだけでなく、ほかの霊長類を見ることでも、言葉を学べることを示した。
ゾウは複雑な社会的関係のなかで暮らしているため、音がコミュニケーションで重要な役割を担っている。
ゾウが死にかけているとき、グループ内のほかのゾウ(多くは、家族)が、死んでいくゾウの周囲に集まってきて、それぞれが鼻で優しく慰める。ゾウが亡くなると、ゾウたちは亡骸を抱きかかえたり、抱き上げたり、あるいは背中を押し上げようとすることもある。そして、土と葉で覆うと、それから何年ものあいだ、亡くなった場所を訪れる。ゾウの墓参だ。
カラスには、人物、ネコ、イヌのそれぞれを意味する違う音があり、2匹のネコも区別できる。カラスは決して顔を忘れない。カラスは群れの仲が亡くなると、葬式を行う。群れのメンバーが集まってきて、ときには、もっと大きな集団となり、亡くなった仲間や親類を囲んで騒ぎ立てる。
コウモリは、お互いを呼ぶ名前があるので、暗闇でも一緒に過ごすことができる。吸血コウモリは、哺乳類の血液をエサとし、夜のあいだにそれを探し出す。エサを70時間も食べられないと死んでしまうので、その間にエサをとれなかった不運な仲間には飲んだ血液を吐き出して与える。
イルカたちは病気の仲間のそばを離れず、できる限り助けるため、たとえば弱っているイルカを囲んで救命ボートのような形になる。
イヌだけが遊ぶ動物というわけではない。ほとんどの哺乳類は遊ぶし、鳥類、爬虫類、魚類も遊ぶ。遊びに似た行動は、頭足類、ロブスター、そしてアリやハチ、ゴキブリなどの昆虫でもみられる。
人間と棒物の違いは、いったいどこにあるというのか、よくよく考えさせられる本でした。
(2020年5月刊。2200円+税)

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