弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2022年5月 2日

シカの顔、わかります


(霧山昴)
著者 南 正人 、 出版 東京大学出版会

このタイトルの意味、分かりますか?
宮城県の牡鹿(おしか)半島の先にある小さな島、金華山(きんかさん)には、660頭のシカが生息している。ここで、黄金山神社の周辺で生活する150頭のシカ全部に名前をつけて、1989年から33年間、観察を続けて現在に至っている。今では、33年間の家系図もできている。シカの寿命は長くて15年なので、これまで1000頭のシカ全部に名前をつけて追跡したというわけ。いやあ、これってすごいことですよね、シカを個別に識別するなんて...。
シカを個体識別するには...。白髪染め液を2メートルほど離れたところから噴射して、シカの毛の一部を黒く染める。ところが、これだと、シカが座っていたら毛染めが見えないので識別できない。では、どうするか...。
シカの顔をじっくり観察していると、次第に顔の違いが分かるようになってくる。ええっ、うっ、うっそでしょ...。
これは、ニホンザルの顔を識別して名前をつけて行動観察するのと同じ手法。
うむむ、それにしてもサルとシカの違いはないのでしょうか...。
シカの顔の違いといっても、極端に違いがあるわけではありません。体型は遺伝によって似てくるようです。シカの顔を見て、あっ、これはあのシカの母か娘だと言いあてることもできるのだそうです。いやはや、すごーい。
シカのオスには角(つの)がある。この角には、いろんな形があるので、オスは、それで識別できる。
シカのオスは、メスの発情期にだけなわばりをもつ。メスは四季を通じてなわばりをもたない。メスは2年に1回、子どもを産む。メスは発情期の秋に、24時間だけオスを受け入れる発情状態になる。
シカの鳴き声は13種類ある。シカの鳴き声のほとんどは秋に集中している。そして、鳴き声は1キロメートル先まで届く。「メェーフーン」には、威嚇の状態がある。
生まれてくる子ジカは、直後の30分間を乗り切れば、あとは自力で移動して、自分の身を守ることができる。その動けない30分間をカラスは狙ってやってくる。うむむ、何と厳しい生存競争でしょうか...。
シカの母子間の認知は、音が役にたっているものの、最終的には、匂いが母子間の認知のカギになっている。
シカは基本的に集団で生きている動物。シカの子は、祖母やその姉妹、そして自分の姉たちとともに生きる。
オスの多くは2歳までにメスの家族群から離れて生活するようになる。メスは、生涯をずっと家系集団で暮らすことが多い。オスもメスも母と子の関係は、母親が死ぬまで続く。
捕食者から狙われる草食獣にとって、集団で生活することは、自分の身を守り、さらに血縁者の身を守り、自分の遺伝子を残すことにつながる。シカにとって、この母系の血縁グループは、とても大切なものである。
オスは孤立している。成長したオスは、オスになっても孤独を愛している。
シカが、匂いを使ってもコミュニケーションしているのは間違いない。
シカの歯は、すり減ってしまえば、生きていけなくなる。
いやあ、まったくもって驚きました。サルの顔が識別できるというのにも執念すら感じますが、150頭のシカ全部を識別して名前をつけて行動観察するなんて...、すばらしいにもほどがあります。ぜひ、手にとって読んでみてください。出色のできばえの本です。そのすごさに、ついつい目を見晴らされました。
(2022年2月刊。税込3960円)

2022年4月25日

ニュースなカラス観察奮闘記


(霧山昴)
著者 樋口 広芳 、 出版 文一総合出版

私と同世代、団塊世代の鳥類学者がニュースに登場してくるカラスをじっくり観察したレポート集です。とても面白くて、車中で読みはじめて、いつのまにか終点に到着していました。もうちょっとでしたので、喫茶店に入ってついに読了。
カラスの観察や研究を続けて50年近くになるとのこと。私も同じく弁護士生活が50年近くになり、人間観察を続けています。
ハシボソガラスは「ガアー、ガアー」とにごった声で鳴き、地上では両足を交互に出して歩く。ハシブトガラスは、「カアー、カアー」と澄んだ声で鳴く。地上では両足をそろえてホッピングすることが多い。ハシブトのほうがハシボソよりやや大きく、くちばしが太い。ハシボソは農村地帯、ハシブトは森林や大都市にすむ。
横浜の公園の水飲み場で、カラスが栓を回して水を飲んでいた。よく観察すると、一対のカラスのうちのメスだけが栓を回し、オスのほうはできない。しかも、水を飲むときには栓を少し回し、水浴びするときには大きく回している。目的に応じて栓の回し方と出す水の量を変えている。うむむ、なんとなんと、すごーい。
カラスはオスもメスも同じように黒いけれど、メスのほうが少し小さく、また、卵を暖める抱卵はメスしかない。それで、メスが栓を回していることを確認できた。なーるほど、ですね。
カラスのつがいの2羽は、いつも互いに見える範囲にいて、しばしば一緒になる。
公園にポテトチップスが落ちていると、水飲み場にもっていって、水に浸してやわらかくなったのを食べる。ちなみに、カラスは栓を回して水を飲んだり、水浴びするけれど、終わって栓を元に戻すことはしない。公園なので、気がついた人間が栓を閉める。
路上にクルミを置いて車にひかせてクルミを割ってもらって食べるカラスがいる。これには車にひかれない工夫も必要になる。勇気というか度胸が必要。かしこさと度胸をあわせもった個体だけが車の利用を可能とする。
線路の置き石事件の犯人はカラスだった。なぜ、そんなことをするのか...。カラスは手にした食料を隠しておく(貯食)習性がある。線路の砂利はもらったパンを隠しておくのに都合がよい。目の前の小石が邪魔なので、ひょっとつまんで線路に置くということ。
石齢とか和ろうそくをカラスが持ち去るのは、石齢や和ろうそくにカラスの大好物の油脂分が含まれているから。和ろうそくに火がついていても気にせず、炎の下でとろける熱い蝋(ろう)をなめとる。ハシブトガラスのくちばしは肉切り包丁のようなもので、スパッと和ろうそくを切りとってしまう。
カラスは独特の生き方をしている。型にはまらない、きわめて柔軟性に富んだ生き方だ。カラスは何でも屋、ジェネラリストとしての道を生きている。
人への攻撃は、カラスの繁殖時期である5月と6月に起きる。これは主として都市にすむハシブトガラスによるもの。
カラスの知能は高い。特定の人の顔を覚えてしまう。カラスの大脳全体の神経細胞は2億3000万。これに対してハトは1800万ほどしかない。カラスの大脳は、すばらしくよく発達している。
わが家の周囲のゴミを狙ってやってくるカラスは、ボソかブトか、今度こそたしかめてみましょう。
(2021年11月刊。税込1760円)

2022年4月 4日

菌類が世界を救う


(霧山昴)
著者 マーリン・シェルドレイク 、 出版 河出書房新社

菌類はどこにでもいるが、なかなか気づかない。菌類の90%以上の種類は未確認だ。知れば知るほど、菌類は、さらに分からなくなる。
植物は菌類の助けを借りて5億年前に陸に上がった。植物が独自の根を進化させるまでの数千万年間、菌類は植物の根の役目を果たした。今日では、植物の90%以上が菌根菌に依存している。
キノコは胞子を拡散する多様な手段の一つにすぎない。菌類の大多数は、キノコに頼らず胞子を放出する。
菌根は1年で50メガトン、これは50万頭のシロナガスクジラに匹敵する、におよぶ胞子をつくる。
世界には220万種から380万種の菌類がいる。現状は、菌類全体のわずか6%しか発見されていない。
人間の脳は数百万種の色彩を区別し、耳は50万種の音を聞き分ける。ところが、鼻は数兆種の匂いをかぎ分ける。ええっ、ホ、ホントでしょうか...。人間の鼻は、1立方センチあたり3万4千個の分子という低濃度の化合物でも嗅ぎ分けられる。この濃度は、2万個のオリンピック用水泳プールの中の1滴の水に匹敵する。
トリュフは栽培できない。マツタケと同じく、トリュフは収穫してから2日から3日以内に新鮮なまま客の皿にのせなくてはならない。トリュフの香りは、生きて代謝している活性プロセスでしかつくれない。トリュフの香りは、胞子の成熟とともに強力になり、細胞が死ぬと失われる。トリュフは乾燥させて後日食べることはできない。
菌類は、高速データの伝達に電気信号を使える。
菌糸体は脳のような現象だ。植物は大気中から得た炭素の30%を菌類パートナーに与える。菌根菌は、植物が必要とする窒素の80%、リンについては100%を与えることができる。
菌糸体は土壌をまとめる粘り気のある生きた継ぎ目だ。菌類を除去すると、土壌は洗い流されてしまう。
人類にとってもっとも親しみ深い菌類は酵母だ。酵母は、人間の皮膚の上、肺の中、消化器官系に棲息し、あらゆる穴の内面にいる。人類は、はるか昔から酒づくりに発酵を利用してきたと思われる。酵母は、糖がアルコールに変わるプロセスにかかわる。
キノコ、カビ、酵母は本当に人間の生活に欠かせないものだということがよく分かる本でした。
(2022年1月刊。税込3190円)

2022年3月28日

深層サメ学


(霧山昴)
著者 佐藤 圭一 ・ 冨田 武照 、 出版 産業編集センター

世界にいるサメは553種。1990年代には300種と言われていたので、200種以上も増えた。
サメは、二つの大きなグループに分けられる。その一が、ネズミザメ上目で、もう一つがツノザメ上目。ジンベイザメやホホジロザメは、ネズミザメ上目に入る。
ところが、どちらのサメも深海性の種が多数派を占めている。というか、サメの半数以上の種が深海を主なすみかとしている。
深海は、環境変化が小さいので、エサは少ないが、安定してすみ続けられるところ。
フカヒレは、サメのヒレから皮などを取り除き、内部の軟骨を乾燥させたもの。サメの骨格は軟骨からできている。この軟骨とは、骨とは似て非なるもので、その成分も作られる過程もまったく異なる。
サメが、骨をまだ進化させていない原始的な魚なのか、それとも骨をつくることをやめてしまった異端児なのか、まだ決着がついていない。
メガマウスザメは、全長7メートル以上になる巨大。しかし、プランクトンを主食とするため、歯がとても小さい。
ほとんどのサメが、オスよりメスのほうが大型化する。
オンデンザメは、長寿であり、成熟年齢は150歳ころ。うひゃあ、こ、これは驚きます。ジンベエザメは人間より長寿で、100年以上生きるだろう。
サメのペニスは2本ある。
サメの歯は、何度でも生え変わる。1ヶ月で歯を使い捨てしている。そして、歯を捨てないで、体内にとっておくサメもいるようだ。
泳ぐとき身体を60度ほど傾けていて、それを5~10分で左右の傾きを入れかえている。これが楽に泳ぐコツのようだ。
サメのなかには、みずから発行物質を保持して、光るタイプのサメもいる。
サメの表面には、非常に小さなウロコがびっしりと覆っている。そして、ウロコの表面に数本の溝が並んでいて、遊泳時の水の抵抗を減らしている。
ジンベエザメは、目にまぶたをもたず、ウロコが目を守っている。
サメは、繁殖終期が2年で、妊娠期間は1年ほど。赤ちゃんが胎内で共喰いしている説は疑わしい。赤ちゃんを3ヶ月間もかけて出産している。胎仔(たいし)が一度に生まれるとは限らない。
知られざるサメの不思議な生態が明らかにされています。著者の2人は、沖縄の美ら海水族館で働いている研究者です。もう久しく沖縄に行っていませんが、またぜひこの水族館に行って、巨大サメを拝ませていただきたいものです。
(2021年5月刊。税込1980円)

 朝、雨戸を開けるとチューリップの花が目の前に並んでいます。春到来を実感します。 
 団地の桜も見事に満開で、例年より少し早い気がします。
 ツバメが下の休耕田におりてエサを探しています。ロシアの侵略戦争のため、モノ不足が心配されはじめました。日本の食糧自給率の低さが本当に心配です。一刻も早く戦争を止めさせたいものです。
 庭に出てチューリップの写真をとっていると、ウグイスの、まだ下手な鳴き声が聞こえてきました。そして、目の前にジョウビタキがやってきて、別れの挨拶をしてくれました。
 春はツバメがやってきて、ジョウビタキが帰っていく季節です。ずいぶん日が長くなりました。これで花粉症の心配さえなければ申し分ないのですが...。世の中は、とかくままならないものです。

2022年3月22日

はぐれイワシの打ち明け話


(霧山昴)
著者 ビル・フランソワ 、 出版 光文社

不思議な本です。いえ、読んでいると不思議な気分にさせる本です。海中にいる魚たちがみんな話しているというのです。
海は音で満たされていて、人間が生きている空気中よりもずっとにぎやかだ。水は空気より密度が高いため振動しやすく、音がよく伝わる。水中では、音は光より遠くまで伝わり、弱まることなく何キロメートルも先まで届く。
クジラは2千キロメートルをこえる距離からデートに誘ったりしている。どんな海でも、クジラの声は海のなかの音のかなりの部分を占めている。冷水と温水の境界である水温躍層の境界でクジラの声は水平方向に何千キロメートルもまっすぐに伝わる。
本のタイトルにもなった有名な52ヘルツの声を出す孤独なクジラがいる。
人間がシャチやイルカと協力して狩りをしているという話もまた有名です。
人間に協力するイルカたちの集団は固有の文化的特徴を有している。このイルカたちは、自分たちの集団に属することを好み、他の集団には混ざらない。
人間に協力するイルカたちは固有のアクセントや鳴き声があって、それが人間と「話す」ことのない同種のイルカとの相違点になっている。
イワシのようにぎっしり詰められるという。たしかにイワシの群れの密度は、1立方メートルあたり15匹。ラッシュアワーに地下鉄の密度の4倍に相当する(これは日本の地下鉄ではなく、アメリカかフランス)。イワシたちは適切な距離と互いを尊重した速度を保つことができる。
イワシの群れでは、何百万匹いても、議論の必要はなく、自然に決断がなされる。そこにはリーダーも全体を支配する集団も、命令も存在しない。ひとまとまりになったイワシの群れは、一致団結して泳いでいる。
スウェーデン海軍は海中に不振な音を探知し、それはロシアの原潜によるものだと疑った。しかし、ロシア海軍は頑張に否認した。学者に調査してもらった結果、それはニシンの群れによる音だった。ニシンは内臓のガス(つまり、おなら)を一定のリズムで排出していて、それによって複雑な情報をやりとりしているのだ。
ザトウクジラは、子育てに長い時間をかけ、頻繁に会話している。ザトウクジラは、集団内で長年にわたって歌を伝承する。
絶えず泳ぎ続けているマグロは、毎日、自分の体重と同じ量のエサを食べなければいけない。マグロは魚のなかで唯一の恒温動物だ。
著者はまだ20代のフランスの物理学者です。流体力学を研究しているとのことですが、スピーチ大会で優勝するほど優れた話し手というわけですから、話の流れが実に見事で、驚くばかりの展開です。海中のにぎやかな会話を翻訳機にかけてぜひ聞いてみたいものです。
(2021年11月刊。税込2090円)

 日曜日、庭の一隅にフジバカマを植えました。インターネットで取り寄せたのです。これでアサギマダラ(チョウチョ)を呼び寄せるつもりです。さて、うまくいくでしょうか。
 庭のチューリップが一斉に咲きはじめました。赤・黄・白と、本当に華やかで、春到来を実感させてくれます。
 春の味覚、アスパラガスも地上に顔を出してくれるようになりました。これから楽しみです。
 日曜日は、午前・午後とロシアのウクライナ侵略戦争反対を街頭で訴える活動に参加しました。黙ってなんかおれません。映像を見るたびに心が痛みます。とりわけ子どもたちの心に大きなショックを与えていることが心配でなりません。
 道の両側に白いコブシの花がずらり、やっぱり平和が一番です。

2022年3月14日

身近な鳥のすごい事典


(霧山昴)
著者 細川 博昭 、 出版 イースト新書Q

私にとってもっとも身近な鳥はスズメのはずでした。でも、今ではそうとは言えません。わが家には、2ヶ所、スズメの巣があり、その一つはトイレの窓のすぐ上にありました。トイレに入ると、スズメたちが巣を出入りし、また、子育てのときには、仔スズメの可愛らしい声を聞くことができました。今はまったく見かけません。それは、すぐ下の田圃が稲作をやめてからのことです。
スズメは森や林には住まない。また人間が住まなくなった空き家にはスズメも住まない。スズメは人間を恐れるのに...、です。
今や全国的にスズメは減っていて、20年前の2割しかいないとみられている。
「万葉集」にはスズメを詠んだ歌は一つもない。でも「枕草子」や「源氏物語」にはスズメの子を育てて楽しんでいる話が出ている。
わが家の庭によく来るのはヒヨドリです。けたたましく鳴き、自己主張の強い鳥です。平安時代の貴族たちは、ヒヨドリを飼っていて、持ち寄って優劣を競っていたとのこと。鳥に名前までつけていたというから驚きです。ヒヨドリは意外に賢く、好奇心も強い。そして、自分を大事にしてくれる人間を好きになることもある。
うちの庭のスモークツリーの木の上のほうにヒヨドリが巣をつくって子育てを始めたことがありました。あるとき、2羽のヒヨドリが常と違ってけたたましく鳴いて、それこそ騒動しはじめたので、どうしたのだろうとよく見ると、ヘビが木をするすると登っているのです。木の上の巣といっても大人の背よりはるかに高く3メートルほどもあります。よくぞ地上をはうヘビが見つけたものです。なんとか巣のなかのヒヨドリの仔を救ってやりたくて、ヘビを叩き落したのですが、仔のほうまで落ちてしまいました。そこで、鳥籠を買ってきて育てようとしたのですが、結局うまくいかず、哀れにもヘビのエサになってしまいました。鳥籠からいつのまにか逃げ出していたのです。それ以来、ヒヨドリが庭の木に巣をつくることはありません。
秋になると、モズが甲高い鳴き声で飛びまわります。モズは百舌鳥と書いて、たくさんの鳥の鳴き声を上手にまねるらしいのですが、私は聞いた覚えがありません。
モズのオスは、多くの多種のさえずりを正確に真似できるものはメスにもてるというのです。
ツバメがわが家に巣をつくったことは残念ながらありません。前年の巣に戻って、同じ場所で子育てするツバメが多いのは、コストが安くなるから。ゼロから始めると1週間以上かかる巣づくりが補修ですめば2日もかからない。
ツバメは群れをつくることなく、単独で東南アジアの島々やオーストラリア北部から4千キロも飛んでやって来る。体重わずか20グラムもない鳥が、こんなに飛べるなんて、世界の七不思議の一つでしょう...。しかも、眠りながらも海の上を飛行するなんて、すごいことですよね。
ゴミ出しはカラスとの知恵くらべです。わが家は生ゴミはコンポストに入れて肥料にしますので、外にゴミとして出すことはありません。ところが、生ゴミをそのままゴミ袋に入れて路上に放置すると、たちまちカラスの餌食(えじき)になってしまいます。
昔からカラスが嫌われていたのではなく、むしろ、長い時代の日本人はカラスに対して悪くは思っていなかった。「万葉集」のころカラスの声は「愛しい人がやってきた」と告げていると解されていた。
ハシボソガラスは、ガーガーと濁った声で鳴く。これに対して、カーカーと澄んだ声で鳴くハシブトガラスは、森のカラスで、両足をそろえてピョンピョンとホッピングする。
いやあ、鳥をよく研究している人がいるのですね。おかげで、よく分かります。
(2018年1月刊。税込968円)

2022年3月 7日

人、イヌと暮らす


(霧山昴)
著者 長谷川 眞理子 、 出版 世界思想社

子どものいない進化生物学者が愛犬と暮らして学んだことが写真とともに詳しく明らかにされています。犬派の私にとって、うらやましい限りのイヌとの生活です。
著者が飼っているイヌはスタンダード・プードルです。大型犬ですね。
スタンダード・プードルは水鳥を回収するためにつくられた犬種なので、水が大好きで、濡れたあとの毛の乾きが早い。
イヌは、生まれてから3ヶ月は、イヌの親に育ててもらい、しっかりイヌとしてしつけてもらわないといけない。生まれてすぐに親と離しては絶対ダメ。
初めのキクマルは、体高69センチ、体重25.5キロ。
犬が変なものを食べてしまったときには、塩を大量に食べさせるとよい。すぐに吐く。大量の塩を無理やり犬の口に突っ込むと、すぐに吐き出した。
イヌだから、鼻で嗅いで、舌で舐めて、歯でかんで世界を把握する。
イヌもネコも食肉目だが、雑食性はイヌのほうが強い。
イヌは、デンプンを消化するための酵素であるアミラーゼの活性が高いが、これは、デンプンが豊富なパンやご飯など、本来なら食肉目の動物が食べるはずのないものを、人間からもらって食べてきた歴史が長いことを意味している。
イヌは、とても耳がよい。イヌはヒトには聞こえない超音波も聞こえる。だから犬笛がある。
音の定位もヒトより細かくできる。イヌは、ヒトが16方位に分割して知覚できるのに対して、32方位まで分割できる。
イヌたちの耳の動かし方には、音を聞くこと以上の何かがある。耳の表情は独特だ。
イヌの味覚はよくない。
イヌはオオカミである。すべてのイヌの祖先は、タイリクオオカミ一種である。
家畜化したイヌの最古の骨は、1万4700年前のドイツの骨。
世界のイヌは、大きく5つのグループに分けられる。東南アジア、インド、中東、アフリカそしてヨーロッパ。
イヌの家畜化の起源は2万~4万年前。ネアンデルタール人の絶滅もそのころ。イヌはサピエンスの友だった。
犬の品種は800種ほど。
動物の体内には、活性酸素を退治する酵素がある。スーパーオキシドディムターゼ。この酵素のレベルが高い動物ほど、潜在寿命が長い。ヒトは、この酵素のレベルがとりわけ高く、チンパンジーの2倍。なので、チンパンジーの潜在寿命50歳に対して、ヒトは100歳以上まで生きられる。
イヌを一緒に生活できるマンションに住んでいて、近所の公園でドッグランをし、「イヌ友」をつくり、ときに町の祭りにもイヌのおかげで参加できたという楽しい暮らしを紹介している本でもあります。イヌと見つめあうと、ホルモンが出てくるっていう話もいいですね...。
(2021年11月刊。税込1870円)

2022年2月28日

クマさんの野鳥日誌


(霧山昴)
著者 熊谷 勝 、 出版 青菁社

すばらしい小鳥たちの写真のオンパレードです。しかも、小鳥たちの知られざる生態も紹介されている、楽しい写真集になっています。
野鳥の写真というと、鳥そのものをできるだけ大きくうつすものという先入観があります。それに対して、著者はそうではないと主張します。作品性という観点からは、鳥を大きくうつすより、小さくうつして絵にする。このほうが何倍も難しい。鳥の的確な配置としぐさ、光線状態、季節感、そして空間構成も画面に表現する。
著者は逆光で小鳥をうつしとることにすごくこだわっています。
アオバトが鮮やかな黄色と濃い緑色をした美しい鳥。このアオバトは、ときどき集団で山をおりて海辺の岩場にやってきて、海水を飲むとい変わった習性がある。NHKの「ダーウィンが来た」で、その映像を見ました。
アオバトはハヤブサが狙う。それは、アオバトの肉がとても美味しいから。ハト類は子育て中も穀物か植物の種子しか食べない。そのためアオバトの身は臭みがなく、美味しい。
そして、ハヤブサから襲われたときのアオバトの対抗策は、なんと、羽毛がいとも簡単に抜けてしまうこと。ハヤブサは、だからつかみ損ない、そのチャンスにアオバトは逃げてしまう。
オオジシギは、越冬地のオーストラリアから北海道へ子育てのため渡ってくる。このオオジシギの脚に水かきがないため、渡りの途中で海面に浮かんで、翼を休めることができない。そのため、一度広い海原へ飛び立てば、次の陸地まで一気に飛び続けなければならない。その根性と飛翔力に驚かされる。
カッコウは抱卵中のオオヨシキリに狙いを定めると、何日も監視を続け、オオヨシキリがわずかな間、巣を離れた瞬間に自分の卵を巣のなかに産みつけるという早技をこなす。カッコウは、いつ何時、どんな状態でも自由に体内の卵を外に出すという特殊な能力をもっている。したがって、カッコウは、実の親の愛情を受けることのない、悲しい鳥でもある。
ハヤブサとタカの違い。ハヤブサは猛スピードで直線的に飛翔して獲物を空中で捕える。なので、視界の良い草原や海辺で狩りをして、民家のこみ入った庭先で小鳥を襲うことはない。
タカは、村の中を縦横無尽に飛翔し、障害物を避けながら、逃げ惑う小鳥たちを追撃できる。
ハヤブサの尾羽は短めだが、スピードを出すための翼は長く、先のとがった流線型。
タカは、短めの翼と長めの尾羽で、短めの翼は瞬発力を生み、長めの尾羽は方向転換に役に立つ。
きりりと引き締まったハイタカの眼つきには圧倒されます。
良い野鳥の写真をとるのも十分な根気が必要のようです。とても私には無理です。
(2021年10月刊。税込1980円)

2022年2月19日

蜜量倍増、ミツバチの飼い方


(霧山昴)
著者 干場 英弘 、 出版 農文協

養蜂でだいじなことは、ハチの密度をいかに高めてやるか、ということ。一つの蜂群に、女王蜂、働き蜂、オス蜂、卵、幼虫そして蛹(さなぎ)がバランスよく存在し、世代交代されていくことが欠かせない。そのためには、巣箱の中に育児する場所(育児圏)と、蜜を貯める場所(貯蜜圏)とをすっきり分けて、育児圏では巣枠の隅から隅まで蜂児でいっぱいの状態(額面蜂児)の巣枠をつくり、貯蜜圏では蜜だけを貯めこむ巣枠をつくる。
そこで、採蜜群は2段にして、下段を育児圏、上段を貯蜜圏とし、その間に隔王板を入れ、女王蜂が上段の貯蜜圏に行かないようにする。すなわち、養蜂の基礎は、育児圏と貯蜜圏を明確に区別し、それぞれふさわしい間隔に巣枠を整えることであり、それによって最大限の採蜜量が期待でき、質の向上も図ることができる。著者の指導するモンゴルの養蜂家では、年間のハチミツ収穫量が8キロだったのが、糖度80%以上のハチミツを20キロとれるようになった。
ミツバチは1万~数万匹の蜂群単位で生活し、一つの群れには1匹の女王蜂と1万~数万匹の働き蜂、1割のオス蜂から構成されている。女王蜂は3年ほどの寿命だが、養蜂家は女王蜂を毎年更新している。オス蜂は交尾以外には役立たずで、仕事は一切しない。
蜂群内では、女王蜂が中心で、働き蜂が仕えているように思われがちだが、実際には、「上下の関係」や全体を統率する存在はいない。それぞれ個々で行動している。それでも、集団としては秩序が維持され、蜂群が全体として維持されている。
ミツバチを飼育するときには、ハチ1匹の命を大切にする意識をもつ必要がある。燻煙
機を適切につかって、蜂群を丁寧に扱う。ハチに余計なストレスを与えないように心がける。
昆虫は変温動物だが、ミツバチはほとんど恒温動物といってもよいほど。蜂球の内部は30度で、外側は15度ほど。
ミツバチの最大の加害者はミツバチヘギイタダニ。被害全体の6割を占めている。
オオスズメバチなどの天敵もいる。農薬(とくにネオニコチノイド系)による被害も大きい。
ほとんど役に立たないオス蜂児は、高タンパク質、高栄養で、肉食性昆虫の代用食に適している。
ナツメの花からとれたハチミツは、世界でもっとも高価なハチミツとして有名。うへー、知りませんでした。わが家の庭にもナツメの木があります。鋭い棘(とげ)があるので、手入れが大変です。
ミツバチはハチミツを生産するだけでなく、花粉媒介による貢献のほうが5倍も役に立っている。イチゴも、ベリーも、サクランボやタマネギまでもミツバチにお世話になっている。
たくさんの写真とともにミツバチの飼い方が、具体的に説明されていて、写真もたっぷりの楽しいミツバチ飼育法のテキストです。でも、私にはちょっと無理そうでした、残念...。
(2021年3月刊。税込1980円)

2022年2月14日


(霧山昴)
著者 稲葉 一男 、 出版 光文社新書

細胞にも毛がある、と言われると不思議な気がします。ええっ、あんな小さな細胞に毛なんてあるわけないでしょ、つい、そう思ってしまいます。でも、あるんです。
その一つが精子。精子が活発に動きまわるために必要なのが、「細胞の毛」。鞭毛(べんもう)とか繊毛(せんもう)と呼ばれているそうです。
そして、ヒトの気管にある細胞の毛。空気中の細菌やウィルスが体の中に入ってきたとき、それを追い出そうとして、気管でさかんに動いている繊毛がそれ。
この細胞の毛を動かすには水分が必要。細胞の毛は十分な水の中にいるときこそ最大限に力を発揮するので、口の中が乾燥しないようにマスクをするなどして湿度を保つ必要がある。
ヒトの女性は一生のうちに卵子を500個つくる。男性の精子は20兆個。精子の毛は細胞膜が変形したもの。ヒトの精子の毛(鞭毛)は30から50マイクロメートル(ミクロン)。毛の太さは0.2から0.3マイクロメートル、つまり200ナノメートルから300ナノメートル。
この細胞の毛の中に、毛を動かすエンジン、つまりダイニンと呼ばれるタンパク質の分子モーターがずらりと並んで入っている。この大きさは10から20ナノメートル。こんな小さな分子がATP(アデノシン3リン酸)という物質を分解することで得られるエネルギーを用いて、鞭毛の中で力を発揮させている。
細胞の毛の中には、9本+(プラス)2本のパイプが通っている。ダイニンのついた9本のパイプは「タブレット微小管」で、筒状になっている。その内側にもう2本のパイプ「シングレット微小管」が通っている。この構造は「軸糸」と呼ばれ、微小管の本数から「9+2(きゅうプラスに)」と呼ばれている。
この鞭毛(繊毛)がすごいのは、まず自ら波打って動くこと、単細胞生物の繊毛とヒトの鞭毛の構造はほとんど同じであること、体の維持に大切なことによる。
鞭毛(繊毛)が遺伝的になくなってしまうと、精子では運動がおかしくなって受精できなくなる。また、気管では、バイ菌を外に出せなくなる。嗅覚、つまり匂いを感じるのは、鼻の奥、鼻腔の上部にある嗅上皮。
また、匂い物質は、嗅上皮の粘膜に溶けることにより、嗅細胞を経て匂いとして認識される。ヒトの周囲にはたくさんの臭い物質があるので、嗅細胞は、これらを高感度で識別できる。それが出来るのは、細胞の毛があるからこそ。
1分子のATPが分解されると、10のマイナス20乗ジュールあまりのエネルギーが放出される。
以上みてきたように、本書で扱っている毛は、細胞の毛であって、体表面にはえている毛ではありません。
なぜ猿やオランウータンなどは毛深いのに、ヒトだけ体表面がツルツルなのでしょうか。毛皮や服を着る前もツルツルだったら、冬の寒さには耐えられませんよね。ヒトは一度、水の中で生活していたので、体表面の毛をなくしたという仮説が提唱されました。私は面白いと思ったのですが、今は否定されているようです。まだまだ、この世は謎だらけですね。ぜひ、もっと深く知りたいです。
(2021年11月刊。税込1034円)

 コロナ禍がおさまりませんね。福岡県南部で、このところ急増しています。保健所をなくしてしまったツケを払わされています。PCR検査体制も不十分ですし、自宅療養という美名での放置はひどすぎます。アベノマスクも半分も残っていて(倉庫代6億円)、それを希望者に配布(その費用が10億円)するというのに、安倍元首相はお詫びの一言もありません。
 日曜日の午後、雨があがったので、庭に出て雑草を少し取りました。チューリップの芽が地上に出てきていますが、雑草に埋もれてかわいそうなのです。芽をとったらいけませんので、用心しながら雑草を抜いていきました。
 ずいぶんと陽が長くなり、夕方6時まで庭仕事ができるようになりました。春は、もうすぐそばです。

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