弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2023年7月15日

ドーキンスが語る飛翔全史


(霧山昴)
著者 リチャード・ドーキンス 、 出版 早川書房

 日帰り宇宙旅行なるものが現実となりました。6月29日、アメリカの会社が商業宇宙旅行として、イタリア人の3人の客、自社のインストラクターの4人、そしてパイロットが2人。高度100キロメートルの宇宙空間に突入し、4分間の無重力を体験した。乗客の事前訓練は3日間だけ。「月曜のランチから客に来てもらったら、木曜には宇宙に行ける」という呼び込みだ。  これから月1回のペースで運搬するという。料金は1人6500万円。10年後には、数百万円に値下がりするだろうという。
 うひゃあ、そ、そんな世の中になったのですね...。ウクライナへ進攻したロシア軍の戦争がおさまる気配もないのに、宇宙旅行が商業化するなんて、信じられません。
コウモリと翼竜そして鳥を比較しています。
 コウモリは指をすべて長くして広げた。翼竜は指を1本だけ、ものすごく長くした。
鳥は前脚の骨は短くて、羽にはそれ自体に堅さがある。鳥の羽は爬虫類のうろこが改造されたもの。羽は飛ぶためのものというより、断熱のために進化したと考えられる。
すべての哺乳類は、子宮内にいるときは指に水かきがある。しかし、水かきは、アポトーシス(プログラムされた細胞死)によって、いずれなくなっていく。ところが、たまに水かきが完全に消えないまま生まれる人がいる。
宇宙飛行士と体重計、宇宙ステーションとその内部のものすべては、自由落下しているから浮遊する。すべてがひっきりなしに落ちている。地球の周囲を落ちている。相変わらず引力は働いているので、地球の中心へと引っ張られている。しかし同時に、猛スピードで地球の周囲を飛んでいる。飛ぶのが速すぎて、落下するあいだも、地球にあたらない。それが軌道上にあるということ。うむむ、なんだか分かったような...。
 生物が空を飛ぶということをあらゆる角度から考証している本です。すごく視野の広がる本でした。
(2023年1月刊。4800円+税)

2023年7月10日

土の塔に木が生えて


(霧山昴)
著者 山科 千里 、 出版 京都大学学術出版会

 アフリカ南部のナミビア共和国、首都から1000キロも離れた小さな村に何ヶ月も一人住みこんで、毎日、シロアリ塚を探し求めて、1日に何十キロも歩き回る...。いやはや、そのたくましさにはほとほと頭が下がります。
 若い大学院生の日本人女性が一人で、言葉が通じない、ケータイも通じないなかで、電気も水道もない小さな村で、6ヶ月間、シロアリ塚の調査をする...。いやはや、とても考えられませんよね。
 シロアリ塚は木の下にできる土の塔。でも、この「土の塔」から森ができるという不思議さもあるのです。いったい、どうなってんの...。
 著者がナミビアでシロアリ塚の調査を始めたのは2006年のこと。ナミビアは日本の2.2倍の広さがある。
 ヒンバは、世界一美しい民族と言われる。頭のてっぺんから足の先まで真っ赤な女性たちが目を惹く。オークルと呼ばれる赤土に牛の乳から作ったバターと香料を混ぜたクリームを全身に塗っている。上半身は裸で、頭・首・足首には革や金属の装飾品、腰にはぺらりと布を下げている。
 「チサトの小屋」に著者が一人で寝るかと思うと、大間違い。平日は、就学前の子どもたちが3~4人、週末には遠くの寄宿舎生活から村に戻ってきた子どもたちを含めて、にぎやかに寝るのです。電気・ガス・水道はなく、マッチすら使わない。生活に必要なものの多くは自然から得て、その多くは自然に返っていく。
 トイレもないので、近くにある茂み(ブッシュ)に潜り込む。
 食事は、毎日、同じものを、みんなと一緒に食べる。1人ふえたからといって1人分多くつくるという具合ではない。この村の食事はワンパターンで、野菜とタンパク質不足が体にこたえる。
 女性は、上半身が裸なのはあたり前のことだけど、膝から上を出すのは恥ずかしく、ふしだらなこと。
シロアリは真社会性昆虫で、分業する。
日本で代表的なシロアリは下等シロアリで、体内に共生細菌をもっている。
 キノコシロアリでは、コロニーの寿命は創設女王・王の最大寿命である20年ほどが上限。ただし、職アリや兵アリは数十日から数ヶ月で、どんどん入れ替わる。
 キノコシロアリは、高さ1メートルもある「塚」を90日でつくりあげる。このシロアリ塚は、地上の厳しい環境を調整する役割をもつ。シロアリ塚の巣内には、数百万匹にも達するシロアリの大集団と、シロアリが栽培するキノコが暮らしている。これは日々、大量の二酸化炭素を生み出す。その放出する代謝熱と太陽の日射によって塚内部に温度差が生じ、塔内部に張りめぐらされた直径数センチの通気管を空気が循環することで、適当な二酸化炭素濃度、一定の気温、高い湿度が維持されている。つまり、シロアリ塚の塔部分は換気扇として、巣内の生活環境を整える役割を担っている。実際、巣内は、1年中30度、湿度100%、二酸化炭素の濃度は数%以下という快適な環境に保たれている。
シロアリ塚は、とんでもなく硬い。足でけっても、棒で叩いても、突き刺そうとしても、ビクともしない。鍬を借りてガツンとやって表面がポロっと欠けるくらい。
シロアリ塚が先にあり、そこに樹木が乗り、さらにこと次第に「シロアリ塚の森」へ変化していく。
日没前に水浴びをして、日が沈むのを眺める。夕日は世界一美しい。夜はとても冷えるため、長袖シャツにゴアテックスの分厚い合羽を着て火にあたり、夜ご飯を食べる。周囲は真っ暗闇、家族みんなが火のまわりに集まってご飯を食べ、おしゃべりする、そして誰ともなく歌いはじめ、たらいを裏返した即席太鼓が加わる。
 夜空いっぱいに星が隙間なく瞬く。毎晩、空には天の川が大きな龍のように横たわり、いく筋もの流れ星が走る。月明りで本を読むことが本当にできる。
 それに伴い新月の夜は、月の前に真っ黒な布を下げられたような暗さだ。
副食のミルクや肉をもたらす牛やカギは、地域の人々の財産。家畜のミルクは日常的に利用するが、肉を食べるのは特別な日か、家畜が病気などで死んだときだけ。
 ヤギのミルクは非常時かつ子供用。大人はほとんど口にしない。著者が飲んだら、じんましんが出た。
ナミビアのなかの小さな村に、コトバもできず、ケータイは通じず、コンビニも店も一切ないなかで半年も暮らすなんて、そして、シロアリ塚を求めて一日中、歩きまわるだなんてよくぞよくぞやってくれましたね。しかも、マラリアに何回もかかって生き永らえているのです。この圧倒的なバイタリティーというか、生命力に、ほとほと圧倒されました。
 トイレの話は分かりましたが、猛獣やらヘビやらの怖い目にはあわなかったのでしょうか。そして、もっとも怖い「人間」にぶつからなかったのでしょうか...。
 あまりの体験談が淡々と語られているので、疑問どころも満載でした。そんな疑問にこたえる続編を期待します。毎日の生活に少し飽きてきた、そんなあなたに強く一読をおすすめします。強烈な刺激を受けること必至です。
(2023年4月刊。2200円+税)

2023年7月 9日

ハシビロコウのふたば


(霧山昴)
著者 南幅 俊輔 、 出版 辰巳出版

 静岡県掛川市にある掛川花鳥園にハシビロコウがいます。人気者で、「ふたば」という名前がついています。生まれたのはアフリカのタンザニア。推定で7歳をこえるメスです。身長1.2メートル、体重は5キログラムもあります。
 ハシビロコウは、成長すると、瞳はオレンジ色から黄色に、クチバシは黒い斑点が薄くなってくる。
 こんな大きな体をしていて本当に空を飛べるの...、と疑ってしまいますが、どうやら飛べるようです。
 ハシビロコウの顔がユニークなのは、その大きなクチバシです。
 しかも派手な色こそついていませんが、じっとにらまれたら、すぐにも負けてしまいます。負けるといっても、ニラメッコの類です。ついつい笑ってしまうのです。
 ハシビロコウのふたばは、魚を食べたあとは、必ず水でクチバシをゆすいでいる。いやあ、鳥がこんなにキレイ好きだったとは信じられません。
 ハシビロコウは、長くコウノトリの仲間とされてきた。でも、今やペリカンの仲間とされている。こんなデカ鼻のような鳥からきっとにらみつけられたら、みんな、さっと身をかわし、逃げ出してしまうでしょう。
(2021年4月刊。1540円)

2023年7月 8日

マナティとぼく


(霧山昴)
著者 馬場 裕 、 出版 青菁社

 ちょっとトボけていて、可愛らしい顔のマナティって、どこに棲んでいるのかと思うと、アメリカのフロリダ州でした。クリスタルリバーという海岸です。ここは、川があり、一年中、温かい。外海で暮らすマナティたちは冬になると、温かいところで過ごそうとやって来る。
 マナティは好奇心が強くて、遊ぶのが大好き。ふだんは集団で暮らしていないのだけど、冬のクリスタルリバーでは仲間がたくさんいて、みんなでふざけあう。まるで人間の子どもみたいです。
 ボートの下の水中にロープがあると、マナティたちが寄ってきて、食べ物でないのが分かっているのに、ふざけてカミカミする。
 マナティにとって、人間は対等な存在。人間にこびることなく、なつくわけでもない。遊びたいときに遊び、いやになったら、どこかへ行ってしまう。
 マナティは人間と同じく肺で呼吸している。くしゃみをするし、いびきもかく。
 いやあ、マナティのいびきって、どんな音がするんでしょうか...。水中で寝ているときのいびきなんて想像できません。
 マナティは草食動物なので、水草(マナティグラス)が好物。マナティはよくオナラをする。でも臭くはない。
 マナティは水中で眠るときは目をつむる。最長25分ほど息つぎなしで眠っている。
マナティは2年に1度、1頭だけ子を産む。子どもは2年間、母親と一緒に過ごす。
 マナティは寒さに弱く、17~19度で活動できなくなり、15度以下だと死んでしまう。
マナティの寿命は60年以上だけど、死因の1割はボートによる事故死。アメリカ・フロリダ州にマナティは5730頭いた(2019年)。
実は、残念なことに著者は若くして亡くなっています。奥様による写真集のようです。
 ほのぼのとした写真集なので、眺めているだけで、心が癒されます。
(2023年5月刊。2400円+税)

2023年7月 1日

カワセミの暮らし


(霧山昴)
著者 笠原 里恵 、 出版 緑書房

 わが家から歩いて5分ほどの小川にカワセミを見かけたときには、感激しました。この小川の上流は「ホタルの星」になっていて、6月前後にたくさんのホタルがフワフワと飛びかい、童心に帰らせてくれます。
カワセミは、その青色の美しさが人の目を強く惹きつけます。
カワセミの羽毛の内部には網目状の泡のような部分がある。これは「スポンジ層」と呼ばれる構造体。ランダムな網目状の構造。これが周期的なパターン構造。
 カワセミの形をしているのは、新幹線の500系新幹線。
カワセミの巣は、川の水辺近くの露出した土の崖に奥行のある横穴を掘って巣をつくる。カワセミの巣は崖の途中にあいた穴から、地上に向かって上向きに傾斜している。
巣を堀りすすめるのは、オスの役割。産卵は1日1個ずつで、1回に6~7個の卵を産む。夜間の抱卵は、メスが担当する。アオダイショウなどのヘビが天敵。アオサギも、幼いカワセミを準っている。
 巣の中のヒナたちは、食物を親から受けとると、うしろ(奥)にひっこみ、ほかのヒナが受けとれるように交代する。
日本にはカワセミの仲間は8種。スズメよりひとまわりほど大きい。
宝石のように輝くカワセミの暮らしの一端をのぞいてみました。
(2023年4月刊。2200円)

2023年6月12日

植物はなぜ薬を作るのか


(霧山昴)
著者 斉藤 和季 、 出版 文春新書

 薬学の世界に40年以上も関わってきた著者が人間にとって植物成分がどんな意義をもっているのかを分かりやすく解説してくれている新書です。
チンパンジーは体調不良のとき、ふだんは口にしない苦味(にがみ)の強いキク科の植物の髄液(茎からしみ出た液)を飲む。すると、1日たてば体調が回復する。この髄液は寄生虫の駆除に役立つ。いったいどうして、野生のチンパンジーがそんなことができるのでしょうか...。
 「日本薬局方」に記載されている生薬(しょうやく)は300種。市場では、その倍以上の生薬が使われているとみられている。周知の生薬は、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、大黄(ダイオウ)、麻黄(マオウ)、人参(ニンジン)。
 大黄は便秘薬として、悪いものを食べてしまい、すぐに排泄したほうがよいときに用いる。ケシがモルヒネをつくるのは、捕食者となる動物から自分を守るための防御物質だから。モルヒネには、血圧低下や呼吸抑制のような強い毒性作用がある。そして、このモルヒネは、実は哺乳動物の脳内でも植物体内と同じような経路でつくられている。なんとなんと、驚きますよね、脳内でモルヒネを自家生産しているなんて...。
解熱鎮痛薬のアスピリンはヤナギの枝の成分からつくられる。日本の爪楊枝(つまようじ)はヤナギの枝を使うのも、そのため。いやあ、ちっとも知りませんでした...。
 ニコチンは猛毒。かの青酸カリよりも毒性は強い。人がタバコを吸っても死なないのは、タバコに含まれているニコチンのすべてが一度に体内に吸収されるわけではないから。
 ニコチンには薬物依存性がある。ニコチン摂取は、血圧上昇、悪心、めまい、嘔吐などがありうる。ニコチンはタバコの根でつくられ、葉に運ばれて蓄えられる。次の捕食者からの攻撃に対する防御力を高める。
 カフェインにも毒性がある。一度に10グラム以上摂取すると危険。コーヒー豆が地面に落ちて芽生えをするとき、大量のカフェインの土中に放出する。すると、この放出されたカフェインによって、他の競合植物の芽生えを阻害する。
 甘草に含まれるグリチルリチンにはさまざまな治療効果が世界中で認められている。
 ところが、この甘草の主要産地は中国なので、中国が輸出制限をしたときには今後の安定供給が不安視される。
 植物は動けないことで生物多様性の生存戦略を守っている。なにしろ上陸植物は5億年ものあいだ生きてきたから...。植物は強い毒性をもつ成分には自らは打撃を受けない。(自己耐性)たとえば、自らがつくり出した毒性成分は、液胞に入る。
太古からの植物と人間の奥深い関係を少しはイメージもって学ぶことができました。動かないからといって植物をバカにしてはいけないということです。植物だって、それなりに生き抜くためにやれることを必死でやっているのですね...。
(2021年7月刊。880円+税)

2023年6月10日

アフリカではゾウが小さい


(霧山昴)
著者 岩合 光昭 、 出版 毎日新聞出版

 私とほぼ同じ団塊世代の著者は、最近ではネコ写真のほうが有名な気がします。
 でも、本業はあくまでネコに限定されない動物写真家です。末尾にカメラを抱えた著者の写真がありますが、そのカメラは、なんとバズーカ砲なみのデカさです。
カメラは、今ではミラーレス。機動性の良さと、驚くほどシャープに撮れるのに感動したとのこと。私もシャープさには憧れがありますので、今度はミラーレスのカメラを持つことにしようと思います。
 著者はアフリカには何度も取材に出かけていて、今回の写真も、ボツワナ、ナミビア、タンザニア、マダガスカルの各地の動物たちの生き生きとした姿が実にシャープにとらえられています。
 アフリカでは取材するにもルールがあります。宿泊ロッジを夜明け前に勝手に出ることは許されていません。そして、日没前に戻らないと閉め出されてしまう。ええっ、閉め出されたときは、いったい、どうするんでしょうか。まさかテント張って野営するのでしょうか...。
 朝、出かけるときは、順番に並ばなければいけません。そして、走ることのできる道は厳しく制限されていて、道を外れることは許されない。
 著者の乗った自動車のすぐそばでライオンのメスが昼寝を始めた。著者は車のドアを開けてカメラを向けて同じ高さで撮ろうとする。距離はわずか1メートルしか離れていない。それに気がついた運転手が大声で「戻れ」と叫ぶので、あわててドアを閉める。いやはや、野生のライオンの1メートルしか離れていないところでカメラを構えるだなんて、勇気があり過ぎます。
 著者はアフリカの大草原で双眼鏡なしでクロサイを肉眼で見つけたとのこと。緑したたるアフリカの大草原にずっといるときっと視力が良くなるのでしょうね。
ほとんどのゾウは、その牙が右と左で長さが違う、どうやら右利き牙と左利き牙があるらしい。
 アフリカで撮影をしていると、身体の感覚が研ぎ澄まされていく。目が良くなる。勘も相まって10キロ先まで見える。遠くの茂みに隠れている動物を見つけ出せる。
 風が運んでくるさまざまな情報や気配にも敏感になる。五感だけでなく、意識にも変化が表れる。待つという概念が消えていく、何時間もじっとカメラをかまえていなくてはいけなくても一切苦にならなくなる。
たしかに、これだけシャープで生きのいい動物たちの素顔を切り取っていけば疲れも吹っ飛んでしまうと思いました。手にとってじっくり味わいたい素晴らしい、感動と躍動感あふれる動物写真集です。
(2023年2月刊。2500円+税)

2023年6月 4日

ここにいます


(霧山昴)
著者 伊藤 隆 、 出版 鳥影社

 小鳥たちの見事な写真集です。信州・諏訪地域、霧ヶ峰高原、八ヶ岳山麗そして諏訪湖周辺で野鳥を撮っています。すごい執念です。霧ヶ峰高原は、著者宅から車で20分ほど。野鳥撮影のため、年に40~50回は足を運ぶとのこと。まさしく、ホームグラウンドですね。
 それでも野鳥撮影を始めて、まだ15年とのこと。本職は公認心理士で、スクールカウンセラーや心理カウンセラーの仕事に従事しています。
 脚立のついた超大型のカメラを抱えた著者の写真もあります。早朝や休日を利用しての野鳥撮影です。それこそ好きでなければ絶対にやれないことですよね。
 カメラは一眼レフからミラーレスへと大きな転換点を迎えているとのこと。私もフィルムカメラのときはペンタックスを海外旅行先にまで持参し、フィルムを30個以上もスーツケースに入れていました。帰路は現象していないフィルムがX線検査で露出させられないか心配して、特別の袋に入れて日本へ持ち帰っていました。
 派手な冠羽と大きなくちばしが印象的なヤマセミは実に生き生きしています。
白一色の冬景色の中に浮かび上がるピンク色のオオマシコは派手というより躍動感にあふれています。
 もっと原色の赤に近い身体の色をしているのが、文字どおりアカショウビン。3時間も待ってとらえた貴重な写真が紹介されています。
 鮮やかなブルーの尾羽が特徴的なカワセミは、私の自宅近くの小川に見かけることもあります。
 わが家の庭に来てくれるのはメジロ、そしてジョウビタキです。秋から冬にかけて、私が庭仕事をしていると、ジョウビタキがほんの1メートル先の小枝に止まって、私を見つめ、「何してんの?」と声をかけてくれます。独特の鳴き声で存在を知らせてくれるのです。人間のやってることにすごく関心があるようなんです。その愛らしい仕草に心が惹かれます。
 こんな立派な野鳥の写真集(130頁)なのに、1800円という安さです。思わず頭が下がりました。
(2023年3月刊。1800円+税)

2023年5月27日

犬に話しかけてはいけない


(霧山昴)
著者 近藤 祉秋 、 出版 慶応義塾大学出版会

 タイトルからは何の本なのか、さっぱり見当もつきませんよね。「内陸アラスカのマルチスピーシーズ民族誌」というサブタイトルのついた本なのです。
 マルチスピーシーズ民族誌というのは、人間以外の存在による「世界をつくる実践」に着目する。人新世が地球上を覆っているように見える一方で、実際には、人間と人間以外の存在とが絡(から)まりあって継ぎはぎだらけの世界をつくっている。「人新世」とは、人間の時代のこと。それは、人間が資源を枯渇させ、生物種の絶滅を引き起こし、自分自身の生存基盤を掘り崩しかねない時代である。
 若者はアラスカ先住民の村で実際に暮らしました。「犬に話しかけてはいけない」というのは、アラスカ先住民のなかにあるタブー(禁忌)の一つ。これを破ると、病で人々が多く亡くなる異常事態を引き起こす。
 犬は太古の時代には人間の言葉を話した。世界の創造主であるワタリガラスは、人間が犬に愛着を持ちすぎるのを嫌って、犬の言語能力を奪ってしまった。
 内陸アラスカ先住民の社会では、ひどい飢饉(ききん)のときを除いて、基本的に犬を食べものとみなしていない。伝統的に、飼育動物を殺して食べる習慣はない。犬肉食は食人に限りなく近い。
ワタリガラスとオオカミは行動を共にする機会が多く、両者が相互交渉する頻度も高い。コヨーテは狩ったノネズミをすぐに食べてしまうが、オオカミは狩った獲物で遊ぶことが多く、食べないこともある。なので、ワタリガラスは、ノネズミをくすねることのできる確率が高いオオカミを選んでつきまとっている。
 アラスカでは、カラス類は犬肉を好むという神話上の共通設定がある。
 渡り島が何かの事情で渡りをせずにそのまま残ってしまうことがある。これは留島というより「残り島」。人の手に頼らずに生きのびることは現実には厳しいので、先住民のなかには次の渡りまで「残り島」を飼い慣らす人がいる。そうでなければ餓死するよりましと考え、ひと思いに殺してしまう。
 アラスカ先住民の生活の一端を知ることのできる本でした。
(2022年10月刊。2400円+税)

2023年5月14日

犬だけの世界


(霧山昴)
著者 ジェシカ・ピアス、マーク・ベコフ 、 出版 青土社

 人類が消えてしまったとき、犬だけで生きのびることができるのか...。私は、出来ると思いますが、全部の犬種ではないでしょうね。野良犬として生きのびている犬種、雑種はなんとかして生きていくでしょうけれど、チワワみたいな座敷犬、人間に頼り切りの犬は生存していけないだろうと思います。
 犬は自力で生きていくのが得意ではない。人間がほとんどの犬から狩猟本能を奪ってしまったから。なので、犬の大半は、人間が消えたら、生き残れない。ただ、最初の調整期間が過ぎたら、犬も十分生き残れるだろう。
 イヌが自然の本能にしたがって生き残って変化していっても、狼(オオカミ)に戻るとは考えにくい。
 全世界に犬は10億匹近く存在する。アメリカには、8300万匹の犬がいる。
 イヌ科の動物の行動は多彩かつ日和見主義的で、コミュニケーション能力が高く、分散して行動する傾向にある。
 犬はメスの発情周期が年に1回ではなく、年に2回ある唯一のイヌ科動物。
 犬が家畜化したのは、4万年前から1万5千年前のあいだ。だから、犬と人間の関係は古いのです。比較的新しい猫とは比べようがありません。
 オオカミは全世界に30万匹しかいない。
 自由に歩きまわれる犬で、野犬との境界線は非常にあいまいで、犬はこの流動的なカテゴリーを行ったり来たりすることができる。
 世界中の犬の30%、3億匹が「純血種」。犬種は固定されたもの、発明品ではなく、常に変化を続けている。
 犬種特有の性格というのは実はなく、犬それぞれの性格があるだけ。うひゃあ、これには驚きました。犬種と性格は絶えず一緒だと思っていました。
イヌ科の動物は、走行性の動物。生まれながらのランナーで、耐久アスリート。
犬の尾は、気分や意見を示す重要なツール。敵意や服従、性的受容、怒り、ふざける気持ち、不安といったシグナルを送っている。犬に尾がないと、犬にとって社会的コミュニケーションの重要なツールがないので、大きな負の影響が出る。
 オス犬は、父親として子育てに関わることがある。そして、両親以外の成犬も子の養育に参加する。メス犬の妊娠期間は63日間。
 犬の死因の最大は人間によるもの。犬の衣食住にとってもっとも重要な時期は生後3週から8週ころ。したがって、子犬をもらう(買う)のなら、生後3ヶ月ほどたってからが一番ということです。適切な衣食住を受けた犬は、従順で落ち着きがあり、辛抱強く、心理的にも感情的にもバランスのとれた犬に成長する。
群れには階級制度(ヒエラルギー)がある。エサにありつく順番、繁殖が許されない、という不利がある一方、機能的な集団内で暮らしていけるというメリットもある。 犬は団結力のある集団を協力してつくり、共通のゴールを達成する。
 犬は非常に頭が良く、洞察力が鋭い。人間の考えや感情を人間より先に察することができる。犬は遊ぶ。一人遊びもするが、それは「楽しい」から。
 日本人が犬を飼うのは、この30年間に、国民1千人あたり犬が20匹だったのが、90匹に激増した。なるほど、犬をよく見かけるようになりました。
 犬にまつわる話が満載で、面白く読み通しました。
(2022年11月刊。2400円+税)

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