弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2023年10月23日

ナマコは元気!


(霧山昴)
著者 一橋 和義 、 出版 さくら舎

 タイトルは、「目・耳・脳がなくてもね!」と続きます。ええっ、そ、そうなの...、驚きます。
 もうひとつ、心臓もないけれど、海底で、ひっそり、立派に生きている。
ナマコは漢字で、海鼠(海のねずみ)と書く。中国語では「海参」(ハイシエン)つまり、「海の人参」。というのも、朝鮮人参の薬効成分であるサポニン類をナマコは持っているから。英語では「海のキュウリ」。
 ナマコの内臓は再生する。ストレスを感じたら、お尻から内臓を全部出してしまう。ところが、2週間もすると内臓が出来はじめ、2ヶ月もしたら新しい内臓が完成する。新しい内臓ができるまでは、身体を少しずつ溶かして、それを栄養にする。こうやって、小さくなっても生きのびる。いやはや、とんだ生き物ですね...。
 ナマコは、1日に体重の4分の1から3分の1の海底の砂や泥を食べる。砂や泥には小さな藻(も)などの有機物が少し含まれているから、それを栄養化している。海底に砂や泥は一面にあるので、動いて遠出する必要はなく、ひたすら触手を動かして食べている。
 ナマコは、目はなくても、皮膚で光を感じる。光の変化を感じると、皮膚が尖ったり、硬さを変える。
 ナマコの起源は5億4千万年前のカンブリア紀。ナマコの最古の化石は4億5千万年前のオルドビス紀のもの。
 ナマコの多くは、サポニンという起泡性(泡立つ)。物質が含まれている。このサポニンは、魚にとっては猛毒。
ナマコを切断すると、2分後には傷口の周辺の皮膚が動いて傷口を閉じはじめ、体が収縮して移動する。そして24分後には、傷口はほぼ閉じられる。
 ナマコは、海底をはうものだけでなく、泳げるものもいる。世界中にナマコは1500種いて、日本には250種いる。水温が24度をこえると夏眠(かみん)する。冬眠の逆ですね。
 ナマコとお掃除ロボットルンバはとてもよく似たシステムで動いている。ナマコに脳がないというのは、中枢制御では動いていないということ。体の末梢にある個々の感覚が反射的に運動に結びつく単純なシステムが集合し、それをローカルで協調させるシステムを組み合わせることで、合体としての歩行運動を可能にしている。
たくさんのナマコの写真とともに面白い生態を知ることができました。世の中の幅の広さを実感できる本として、一読をおすすめします。
(2023年8月刊。1650円)

2023年10月19日

ゴリラ裁判の日


(霧山昴)
著者 須藤 古都離 、 出版 講談社

 ゴリラは人間と会話ができます。お互いに意思疎通できるのです。それは手話によります。ノドの構造上、発音のほうは人間と同じにはいかないようです。
この本は、ゴリラがコンピューターによって意思を言語で表現できるようになったという状況を前提としています。今はまだ出来ませんが、近いうちに実現できるのかもしれません。今だって、寝たきりの病人が頭のなかで考えていることをコンピューターの手助けを得て表現できるわけですので、手話が出来るのだったら、コンピューターを駆使して会話できるようになるのも、間近のことでしょう。
 私も山極寿一・元京大総長のゴリラに関する本は何冊も読んでいますので、ゴリラが一般的に争いを好まない動物だということは承知しています。著者も最後に、少しばかり、この本には事実に反する記述があると告白し、謝罪しています。
 それはともかくとして、大変面白く、一気読みしてしまいました。つまり、ゴリラに感情があるのか、人間と何が違うのか、という点が物語として読めるよう掘り下げられているからです。
 動物は人間よりも劣っていると誰もが考えているし、動物の命は軽視される、人間の命を守るために動物が殺されても、誰も疑問に思わない。しかし、人間だって、粗暴で、矛盾を抱え、利己的な存在だ。
学者証人が法廷で次のように証言した。
 「人間と動物の違いは複雑な言語体系をもつか否かにある」
 では、主人公のような手話をこえて、コンピューターを駆使して話ができるようになったゴリラは人間ではないのか...。法廷でゴリラ側の弁護士がこう指摘したとき、陪審員の一人が反応した。そうか、ゴリラも人間なのか。そして、ゴリラだって、「神の子」なんだ。そうすると、ゴリラを人間として尊重すべきではないのか、人間とは違うものとして、その主張するのは間違いではないのか...。
 その陪審員は自分の考えを根本から改める必要があると考えた。そして、行動した...。
 ゴリラについては、「何匹」とか「何頭」ではなく、「何人」と数えると聞いています。なるほど、そのとおりでしょう。
 私も、もう少し若ければアフリカに行ってジャングルのゴリラを観察するツアーに参加したいと思いますが、それはあきらめています。エジプトのピラミッドや、ペルーのマチュピチュの見学をあきらめているのと同じです。今はできるだけ日本国内をもう少し旅行したいと考えています。
 私は読む前はアメリカの裁判の話なので、てっきりアメリカの弁護士の書いた本の翻訳本だと思っていましたが、途中で、日本人の若手(30代)の作家によるものだと知り、驚きました。たいしたものです。人間とは何かを改めて考えさせる本として、一読をおすすめします。
(2023年3刊。1750円+税)

2023年10月16日

都会の鳥の生態学


(霧山昴)
著者 唐沢 孝一 、 出版 中公新書

 身近な小鳥たちの生態を教えてくれる新書です。ツバメ、スズメ、そしてカラスなど、ごくごくありふれた鳥たちですが、意外なほど私たちは詳しい生態を知りませんよね。
 まず一番にツバメ。九州や四国で越冬するツバメが増えているとのこと。私は冬にツバメを見たことはありません。そして、ツバメの飛来時期が23年間で1ヶ月も早まったとのこと。そうなんですか・・・。私の住む地域では、3月中旬です(と思います)。
 ツバメのオスは早く飛来して営巣場所を確保してメスを迎えたい。しかし、早い時期だと、途中で寒波襲来に出会ったり、天気が大荒れになったりする。すると、餓死したりして途中で脱落してしまう危険がある。
先に来たオスは辛抱強くメスを待つが、メスが先に帰還したときは、いつまでもオスを待つことはない。ツバメの寿命は平均1年半しかないので、いつまでも生死不明の前夫を待っていられない。
ただし、ツバメも、5年、10年、ついには16年も生きた長寿記録があるとのこと。信じられませんね。
 ツバメの子育てで最大の天敵は人とカラス、そしてネコ。人はそのフンを嫌っての巣落とし。カラスに対してはツバメが集団的に対抗しようとする。
 ツバメはスズメと、対カラスでは共闘するが、普段は営巣場所をめぐって対立関係にある。ツバメの親子の家族生活は2週間ほどで終わり、幼鳥たちは、ほかの幼鳥と合流して行動するようになる。
 ツバメは一夫一妻であり、オスとメスが共同して子育てする。ところが、牛舎などで集団繁殖することの多いヨーロッパのツバメはDNA検査すると、30%は婚外子だった。これに対して、各家に分散して繁殖する日本のツバメでは婚外子は3%しかない。
 次は、スズメ。「特徴がない」のがスズメの最大の特徴。スズメは飛翔昆虫しか食べないツバメと違って、何でも食べる雑食性。そして、体長14.5センチと小さいので、1回に食べるエサは少量。これによって、スズメは都市でも生きていける。
 スズメの寿命は平均1.8年。ところが、最長8年というのもいる。スズメは、カモやムクドリなどと「混群(こんぐん)」をつくって生活することが多い。混群によって、食物を発見しやすく、また天敵に対する安全性も高まる。
 スズメの一日は、太陽のもとで始まり、終わる。これは、まるで江戸時代の人々と同じだ。
 スズメは、ハタオリドリ科の鳥であり、そのルーツは、アフリカのサバンナにある。
 スズメは雑木林のオオタカやサシバの巣の近くで繁殖することがある。しかし、スズメを食べるツミの巣の周辺は避けている。
スズメは人の住む人家のない限界集落は姿を消していくが、キャベツ畑の集荷場で営巣している。これは、アフリカのサバンナをスズメが起源することによるようだ。
 ハシブトガラスとハシボソガラスの共通点の一つは、雑食性。何でも食べる。もう一つの共通点は、足技(あしわざ)。カラスの爪は長くて頑丈であり、「爪さばき」もまた絶妙。
 カラスは遊ぶ。そして、その多くは、人間の子どもの遊びに似ている。子どもは、遊びを通して、身体能力や仲間とのコミュニケーション能力を高める。
 さすがによく調べてあると驚嘆しながら読みすすめていきました。
(2023年6月刊。1050円+税)

2023年10月 2日

ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら


(霧山昴)
著者 小池 伸介 、 出版 辰巳出版

 ツキノワグマは九州では絶滅したとされていますが、四国にはまだいるようです。もちろん関東周辺にはクマがたくさんいます。
 いま日本の山には野生の鹿が大繁殖して、森林の草を食べ尽くしています。そのあおりを食ってクマが食料を求めて人里(ひとざと)に出現しているのです。困ったことです。
 ツキノワグマの研究者である著者は、これまでの25年間に3000個以上のクマのウンコを集めて研究室に持ち帰り、さばいて分析し研究してきた。そのおかげで、博士号をとり、定職(教授)にありつけている。
 クマのウンコは臭くない。むしろ、芳香がある。食べたもののにおいがする。桜の花や実を食べたクマのウンコは桜餅のようなにおいがするし、植物の葉を食べたらお茶の葉のようなにおい。サルナシを食べると、キウイフルーツのにおいがする。岩手県のリンゴ園のリンゴを食べたクマのウンコは、見た目も香りもリンゴジャムそのもの。なめてみると、見かけ倒しで、ほとんど味はしなかった。うへーっ、クマのウンコをなめるんですか・・・。
 クマの体毛を調べたら、何を食べたかが判明する。毛を質量分析計にかけると、毛に含まれる窒素や炭素の割合がわかる。たとえば、植物を中心に食べていると窒素の値が低くなり、肉食気味になっていくと窒素の割合が上がっていく。
 クマは、冬眠する。この冬眠に備えて、9月から11月までの3ヶ月間に1年の8割分のカロリー摂取量を食い溜めしている。この時期は好物のハチミツには見向きもせず、せっせとドングリを食べる。
 クマは大きな岩をゴロゴロところがし、その下にあるアリの巣をべろべろなめて大量のアリを食べる。
 クマは果実の旬(しゅん)を知っていて、鳥によって果実が食べられる直前のタイミングで木に登り、果実をむさぼり食べる。
 クマの食事の9割は植物であり、一つの巨大なウンコに何百、何千という植物のタネが入っている。
 著者は、山中で見つけたクマのウンコをビニール袋に入れて、その全部を持ち帰り、研究室で水洗いして内容物を分類・分析するのです。植物のタネを同定するのに苦労しました。
 冬眠中のクマの生態を研究することによって、長時間を要する宇宙旅行で乗組員(人間)の代謝を抑えられないかという研究も進んでいるとのこと。クマを知ることは、こんなメリットもあるのですね。とても興味深い本でした。
(2023年7月刊。1650円)

田の稲刈りも間近になりました。畔に赤い彼岸花が咲き誇っています。
 わが家の庭にはリコリスのクリームの花が一斉に咲いて、それは見事なものです。
 リコリスは彼岸花の仲間です。いつ植えたのか、もう記憶がありませんが、どんどん勝手に増えていきました。ある時期に一斉に花を咲かせるという自然の摂理には毎度のことながら驚かされます。
 そばにはピンクの芙蓉の花が咲き、地面にはサツマイモが生い茂っています。まだ収穫するのは先のことです。ついに秋本番が到来しました。

2023年9月19日

オホーツクの12か月


(霧山昴)
著者 竹田津 実 、 出版 福音館書店

 北海道の東部、網走にも近い小清水町で獣医師として働きながら、野生動物の写真を撮り、また傷ついた動物たちを無料診療している著者の四季折々の観察記です。
 アイヌの人々は、福寿草の黄金色の花が咲くと1年が始まると言った。なので、1年の最初の月は4月。フクジュソウは、北国では一番早く咲く花。
 4月21日、夏鳥としては、ヒバリが一番手でやってくる。
 春耕は一斉に始まる。どこかでトラクターの音がしたら、その日の午後は、畑じゅう、トラクターだらけになる。遅れてはならないのだ。遅れたら、その分だけ、ほかの家に比べて収量が少なくなる。春耕は、10羽ほどのムクドリをお供えにしている。
 5月は野火の季節。野火をしないと、花園にならない。草花の種子が発芽できないのだ。
 春一番のおいしい魚は、アオマス。地元の人は、クチグロと呼ぶ。山陰地方のノドグロ(魚)の美味しさは、なんとも言えませんよね・・・。
 桜とギョウジャニンニクが登場すると、人々は春が今年もやってきたことを実感する。
 北海道の人は、ギョウジャニンニクが大好きだ。身体にいいし、風邪薬にもなる。食べるだけで、便秘、脚気(かっけ)、肺病など、何にでも効く。凍傷、火傷、打撲傷などの外用薬にもなる。
 桜が散り、カッコウが鳴くと5月が終わる。
 マガモのヒナを7羽、もってきた人がいた。親から見捨てられたので、可哀想だから・・・。でも、親鳥は子どもを棄(す)てたのではない。人間が来たので、身を隠しただけ。それを人間は勘違いする。すると、獣医師は、とたんに忙しくなる。でも、決してもうかる仕事ではない。
 6月の知床に出てくる蚊は大型。知床の登山は蚊の大群を引き連れての苦行と化す。
 知床の自然保護に役立っているのは、ヒグマと大型の蚊の大群。この二つは守り神といって良い。ただ、蚊は風に弱い。なので、生理現象は強風のあたる場所ですます。
少し飛んで10月。タラの芽が採(と)れるようになると、鹿の角(つの)がポロリと落ちる。冬に全身が真っ白になるユキウサギの毛の変化は10月にはじまる。最初は、耳・足の部分や腹部から白毛に変わる。それは、足の裏、耳のうしろ、腹の下など、自分では見えないところから・・・。やがて、頭部や背と白い刺毛(さしげ)が増えてき、白化が及ぶ。もはや、神の技(わざ)だ。
死が近づくと、いかなる生物も、野生を放棄する。自分を守るために装備した攻撃性をどこかに置き、わが身にとっての、いかなる運命も甘受するというのだ。
ヒグマは冬眠中に子どもを産む。うつらうつらのなかのお産だ。生まれた直後は、400~500グラム、生後3ヶ月齢で10倍の4~5キログラムになる。「小さく産んで、大きく育てる」を地に行っている。
ヒグマは、繁殖のための諸儀式は、比較的ひまな初夏。そのため、「着床遅延」というシステム(テクニック)を確立した。受精卵にしばらく待機を命じ、時期が来たら着床させて発育させるというシステムだ。
17年も前の本です。書棚を整理しているなかで発見したのです。素晴らしい写真がいくつもあって、実に素晴らしい本になっています。
(2006年3月刊。2200円+税)

2023年9月16日

水族館飼育員のキッカイな日常


(霧山昴)
著者 なんかの菌 、 出版 さくら舎

 水族館の主役は生きもの。水族館というと、福岡の海の中道にあり、別府の「海たまご」そして、鹿児島のイルカの泳ぐ水族館をすぐに思い出します。
 水族館も博物館のひとつだなんて、初めて知りました。
 著者は水族館とは専門違いの美術史専攻で、博物画を研究していたのですが、ひょんなことから水族館に飼育員として就職してしまったのです。そのトホホ...な苦労話が、ホノボノ系のマンガとあわせて紹介されていますから、よく理解できました。
 魚も大変個性が強いということを初めて知りました。脱走癖のあるタコ、元気なのに突然絶食する魚、高価なエサ(エサ)しか食べない魚、ずっと隠れていて担当飼育員でもめったに見ない魚...。
 同じ種でも、個体によって性格が違う。なので、イルカやアザラシ、ペンギンなどの海獣類の個性が顕著なのは当然のこと...。気の強いアシカ、騒がしいのは嫌いなアザラシ...。
 イルカになめられると、水をかけられたり、ボールでもてあそばれたりする。
水族館の飼育員になって辛いのは、生きものの病気や死に何度も向き合わなければならないこと。
 水族館の目玉商品として「イワシの大群」の乱舞がある。その大量のイワシは、飼育員が総出であたる。重い、揺らしたらダメ、距離が長い、1秒でも早く移さないとダメ...。こうなると、命がけのバケツリレーとなる。いやはや、必死なんですね...。
 採集・調査して得た生きものの名前を判別する「同定」は意外と難しい。長年のプロであっても苦労するものだ。
 イルカのトレーナーになるのはかなり難しい。もともと需要が少ないうえ、競争倍率はすごく高い。
 水族館の裏(バックヤード)も図解されていて、絵でよくわかる仕掛けになった、楽しい本です。
(2023年7月刊。1400円+税)

2023年9月 4日

幻のユキヒョウ


(霧山昴)
著者 木下 こづえ・さとみ 、 出版 扶桑社

 ユキヒョウはネコ科のヒョウ属。ロシアや中央・南アジアの高地に生息する。推定8000頭未満、絶滅の危機に瀕している。
 ユキヒョウは雪山に適応して毛が長く、足裏までぎっしり生えている。子育て期間は22ヶ月ほどで、長い。大牟田の動物園にもいる。
 長い尻尾でバランスをとりながら、急な崖も軽快に移動する。ユキヒョウは声帯が小さく、骨の構造が異なるため、大型ネコ科動物のなかで唯一、咆哮(ほうこう)ができない。
 ユキヒョウは頭からお尻までの体長が1メートル、尾の長さも体長と同じ1メートル。どんな体勢であっても、しっぽが地面に擦れてしまうなんてことはなく、その先端はいつもカッコ良くヒュッと上がっている。
 寒さの厳しい山々に生息するユキヒョウは、行動範囲が広く、また警戒心がとても強いため、人間の足で直接観察によって探すことはほとんど不可能。そこで、ユキヒョウがいそうな場所に赤外線カメラを仕掛ける。雪のうえなら足跡が見つかる可能性がある。そして、ひたすら下を向いてユキヒョウの糞を探す。糞は、きわめて貴重な手がかりで、研究者にとっては宝石みたいに価値がある。ユキヒョウは排泄前に後肢で地面を掻き、掻き集まった土の上に排尿し、見せつけるようにその上の糞を出す。
 モンゴルのゲルに泊まると、なかは広々としたワンルーム。トイレも風呂も着換えする個室もない。トイレは青空。夜はゲルから外に出ると、見渡すかぎりすべてが星。トイレの場所は決まっておらず、草原のどこでもOK。なので、窪みや岩の影を探し求める。
 遊牧生活の燃料は家畜の糞。糞を乾燥して使う。モンゴルの草原では、木材は貴重品。
 ユキヒョウは好奇心旺盛な動物でもある。
 次は、インドの3256メートルもある高地に行ってユキヒョウを探します。いきなり富士山の山頂付近に降り立ったようなもの。高山病対策として、寝たらダメ。寝たら呼吸が浅くなって危ない。ひたすら紅茶でも飲んでしゃべっていること。眠ると呼吸が浅くなって酸欠になりやすく、高山病が悪化する。うひゃあ、なんとなんと、眠ったらダメなんですか...。
 ユキヒョウは、大型ネコ科のなかでは気が弱いせいか、人間を襲って殺したという事例は過去に報告されていない。
双子に生まれた姉妹によるユキヒョウ探検記が写真とともに紹介されています。双子のひとりは研究者で、もうひとりはコピーライターです。二人がうまく息をあわせて面白い本になっています。
(2023年4月刊。1760円+税)

2023年9月 3日

魚と人の知恵比べ


(霧山昴)
著者 マーク・カーランスキー 、 出版 築地書館

 魚釣り、とりわけフライフィッシングの世界を奥底までのぞき込んでいる本です。
 フライフィッシングといえば、すぐにアメリカ映画『リバー・ランズ・スルーイット』を思い出します。見事な竿さばきが展開するシーン(情景)は今も鮮明な記憶として脳裏に残っています。
 フライフィッシングには、破ってはならないルールが2つだけある。その一つは、水中で転んではいけない。その二は、フライをできるだけ長く水中に保たなければならないこと。
 川に棲むマスは、水温が20度をこえると、エサをとることも繁殖することもなく、死んでしまう。温度の高い水には含まれる酸素が足りないからだ。
 フライフィッシングは、もともとサケ科の魚を釣るために考え出された。サケ科は頭が良くて狡猾で、強く、運動能力が高く、頑固な生き物だ。人間は簡単には釣れない。
海水魚は昆虫を食べない。マス用と海用のフライには、小魚やエビに似せられていることが多い。
竿は弓なりにたわみ、生まれて初めて、至上の喜びともいえる魚の「引き」を感じる。釣り人の素質がある者なら、引きの喜びを一度味わったら、決して忘れられない。それは、筋肉に刻み込まれ、繰り返し繰り返し、感じたくなる。
 釣り人の目的は、魚が疲れきるまで遊ばせること。そうして初めて魚を取り込むことができる。そのような状態にある魚は、血中の乳酸濃度が高まる。濃度が高まりすぎると、魚は死ぬ。
 魚釣りの楽しさを、私は父から教わりました。父の運転するオートバイのうしろに乗って父にしがみついて、弁当をもって菊池川の上流に足をのばしました。それほど釣れたという記憶はありませんが、清流に向かっていい気分でした。私自身は大川あたりの筑後平野のクリークでの鮒(フナ)づりです。浮きがすーっと沈んでいくのに当たると心が踊りましたね...。
 フライフィッシングは残念なことにしたことがありません。それにしても、フライフィッシングだけで290頁もの紹介本です。これもすごい世の中ですよね。
(2023年5月刊。2700円+税)

2023年8月 6日

モンシロチョウの結婚ゲーム


(霧山昴)
著者 小原 嘉明 、 出版 蒼樹書房

 庭でのキャベツ栽培に私も挑戦したことがあります。春になると、それはそれは大変でした。毎朝、庭に出て青虫を割りバシでつまんで足で踏みつぶさないといけません。青虫がチョウになるのを喜んで待っているわけにはいかないのです。放置していたら、とんでもない虫くいキャベツになってしまいます。ところが、とってもとっても青虫は、それこそ湧くように出てきます。これではキャベツの生産者が農薬を使うのも当然だと実感しました。
 モンシロチョウは、キャベツづくりをやめた今でも、春になると庭をヒラヒラと飛びかっています。著者によると、モンシロチョウの飛び方は、オスとメスとで違うそうです。なにやらジグザグに飛びまわっているのはオス。メスは葉にしがみついてせっせと産卵にはげんでいる。なので、飛び方だけでオスかメスかを言いあてることができる。
 では、オスはなんで、そんなにジグザグに飛びまわっているのか...。もちろん、結婚相手のメス、それも未婚のメスを求めて飛んでいるのです。
メスはオスが近づいてくると、3つのタイプの反応を示す。まず第1に、翅(ハネ)を開いて腹部を押し立てる、逆立ち反応。これはメスのオスへの拒否反応。第2は、メスが小刻みに翅をバタバタ開閉する、はばたき反応。オスはすぐに飛び去っていく。第3は、翅を閉じたまま、ぐっと静止の姿勢を続ける。オスはただちに交尾行動に入り、すぐに交尾が成立する。
それでは、なぜオスはメスをすぐに見分けることができるのか...。オスとメスは形や大きさに違いはなく、大変似ている。しかし、どこかが違うはず。何が違うのか...。
その答えは、紫外線です。紫外線写真をとると、メスは白く、オスは黒くうつるのです。メスの翅は強く紫外線を反射している。つまりメスの翅は紫外色を含んでいる。オスの翅には紫外色はまったくない。なので、オスはひたすら真っ白のメスを探しているというわけです。
ところが、この本では、なんとモンシロチョウの眼にメガネ(黒いサングラス)をかけたらどうなるのか、という実験までしています。まずは、その方法です。透明のビニールに小さなガラス棒をつき立て、出っぱったところをはさみで切り取る。メガネをかけるときは、チョウを冷蔵庫に入れて冷温麻酔しておく。そして、チョウの眼にカプセルをかぶせ、後ろのところを蜜ろうで固定する。そのうえで、メガネに黒ラッカーを塗る。すると、チョウの眼を痛めることはない。この状態のメスは、オスが近寄ってきても逆立ち反応をまったくしない。つまり、逆立ち反応はあくまで視覚的なものであることが裏づけられた。これは、ホルモンの分泌を促すことと関係があるのではないか...。
 いやあ、学者って、モンシロチョウの眼に黒いサングラスをかけてみたらどうなるのか、なんてことまで実験してみるのですね...。驚きます。
実は、この本を読んだのは30年近くも前のことなんです。そのとき受けたショックはとても大きくて、本棚の目立つところにずっと鎮座していました。久しぶりに読んで、ぜひ皆さんにお知らせしたいと思ったのでした。
(1994年5月刊。2300円+税)

2023年7月29日

チョウの翅はなぜ美しいか


(霧山昴)
著者 今福 道夫 、 出版 化学同人

 チョウのはね(翅)は翅(し)と読みます。キラキラと輝いていますよね、美の極致です。
 いま、我が家の庭の一隅にはフジバカマを植えています。日本列島を縦断するというアサギマダラを待ち構えるためです。昨年の秋は来てくれませんでしたから、フジバカマの種類も増やしました。今年は、ぜひ来てほしいです。
 この本を読んで驚嘆するのは、チョウのオスがどんなメスを好むのか、逆もしかりで、メスの好むオスの色を探るため、たとえばチョウに糸を付けてオトリをつくるという実験をしていることです。それだけではなく、チョウがあちこちふらふらするように円盤をモーターで動かす工夫もしています。すごく細かい工夫です。
アサギマダラには、チョウの個体識別のために、チョウの体にカラーマーカーで文字を書き込むとのことです(それでもアサギマダラは十分な飛しょう能力を損ないません)。
緑の翅をもつ種の多くは紫外線も反射する。だから、人間には緑に見えても、チョウには違った色に見えているはず。
チョウの翅の色には2通りある。その一は色素により、その二は構造色。鱗粉の微細構造による。このときは、見る角度によって異なる色が見える。構造色では、外からの光を薄い膜や細かい溝のような構造で位相の異なる光に変え、それらが強めあったり、弱めあったりする干渉作用によって、特定の波長の光を作り出している。
ミツバチには色覚がある。というのも、実験すると96%のミツバチが黄色に集まったから。
昆虫には赤が見えない。赤と黒を同じものと見ている。
昆虫は紫外線にもっとも敏感。なので、「誘蛾灯」は紫外線を強く発散するように出来ている。
チョウにも色覚がある。チョウはオスだけでなく、メスも意外と積極的にオスにアタックする。メスは「誘い飛行」する。メスは、よく動くオスに強く惹かれる。
チョウを対象として、フィールドワークという野外実験するときの苦労が少しばかり伝わってきました。同じところに何時間もとどまってチョウを観察するという苦労も分かりました。学者って、本当に大変な仕事ですね。
(2023年3月刊。1870円)

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