弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2023年8月 6日
モンシロチョウの結婚ゲーム
(霧山昴)
著者 小原 嘉明 、 出版 蒼樹書房
庭でのキャベツ栽培に私も挑戦したことがあります。春になると、それはそれは大変でした。毎朝、庭に出て青虫を割りバシでつまんで足で踏みつぶさないといけません。青虫がチョウになるのを喜んで待っているわけにはいかないのです。放置していたら、とんでもない虫くいキャベツになってしまいます。ところが、とってもとっても青虫は、それこそ湧くように出てきます。これではキャベツの生産者が農薬を使うのも当然だと実感しました。
モンシロチョウは、キャベツづくりをやめた今でも、春になると庭をヒラヒラと飛びかっています。著者によると、モンシロチョウの飛び方は、オスとメスとで違うそうです。なにやらジグザグに飛びまわっているのはオス。メスは葉にしがみついてせっせと産卵にはげんでいる。なので、飛び方だけでオスかメスかを言いあてることができる。
では、オスはなんで、そんなにジグザグに飛びまわっているのか...。もちろん、結婚相手のメス、それも未婚のメスを求めて飛んでいるのです。
メスはオスが近づいてくると、3つのタイプの反応を示す。まず第1に、翅(ハネ)を開いて腹部を押し立てる、逆立ち反応。これはメスのオスへの拒否反応。第2は、メスが小刻みに翅をバタバタ開閉する、はばたき反応。オスはすぐに飛び去っていく。第3は、翅を閉じたまま、ぐっと静止の姿勢を続ける。オスはただちに交尾行動に入り、すぐに交尾が成立する。
それでは、なぜオスはメスをすぐに見分けることができるのか...。オスとメスは形や大きさに違いはなく、大変似ている。しかし、どこかが違うはず。何が違うのか...。
その答えは、紫外線です。紫外線写真をとると、メスは白く、オスは黒くうつるのです。メスの翅は強く紫外線を反射している。つまりメスの翅は紫外色を含んでいる。オスの翅には紫外色はまったくない。なので、オスはひたすら真っ白のメスを探しているというわけです。
ところが、この本では、なんとモンシロチョウの眼にメガネ(黒いサングラス)をかけたらどうなるのか、という実験までしています。まずは、その方法です。透明のビニールに小さなガラス棒をつき立て、出っぱったところをはさみで切り取る。メガネをかけるときは、チョウを冷蔵庫に入れて冷温麻酔しておく。そして、チョウの眼にカプセルをかぶせ、後ろのところを蜜ろうで固定する。そのうえで、メガネに黒ラッカーを塗る。すると、チョウの眼を痛めることはない。この状態のメスは、オスが近寄ってきても逆立ち反応をまったくしない。つまり、逆立ち反応はあくまで視覚的なものであることが裏づけられた。これは、ホルモンの分泌を促すことと関係があるのではないか...。
いやあ、学者って、モンシロチョウの眼に黒いサングラスをかけてみたらどうなるのか、なんてことまで実験してみるのですね...。驚きます。
実は、この本を読んだのは30年近くも前のことなんです。そのとき受けたショックはとても大きくて、本棚の目立つところにずっと鎮座していました。久しぶりに読んで、ぜひ皆さんにお知らせしたいと思ったのでした。
(1994年5月刊。2300円+税)
2023年7月29日
チョウの翅はなぜ美しいか
(霧山昴)
著者 今福 道夫 、 出版 化学同人
チョウのはね(翅)は翅(し)と読みます。キラキラと輝いていますよね、美の極致です。
いま、我が家の庭の一隅にはフジバカマを植えています。日本列島を縦断するというアサギマダラを待ち構えるためです。昨年の秋は来てくれませんでしたから、フジバカマの種類も増やしました。今年は、ぜひ来てほしいです。
この本を読んで驚嘆するのは、チョウのオスがどんなメスを好むのか、逆もしかりで、メスの好むオスの色を探るため、たとえばチョウに糸を付けてオトリをつくるという実験をしていることです。それだけではなく、チョウがあちこちふらふらするように円盤をモーターで動かす工夫もしています。すごく細かい工夫です。
アサギマダラには、チョウの個体識別のために、チョウの体にカラーマーカーで文字を書き込むとのことです(それでもアサギマダラは十分な飛しょう能力を損ないません)。
緑の翅をもつ種の多くは紫外線も反射する。だから、人間には緑に見えても、チョウには違った色に見えているはず。
チョウの翅の色には2通りある。その一は色素により、その二は構造色。鱗粉の微細構造による。このときは、見る角度によって異なる色が見える。構造色では、外からの光を薄い膜や細かい溝のような構造で位相の異なる光に変え、それらが強めあったり、弱めあったりする干渉作用によって、特定の波長の光を作り出している。
ミツバチには色覚がある。というのも、実験すると96%のミツバチが黄色に集まったから。
昆虫には赤が見えない。赤と黒を同じものと見ている。
昆虫は紫外線にもっとも敏感。なので、「誘蛾灯」は紫外線を強く発散するように出来ている。
チョウにも色覚がある。チョウはオスだけでなく、メスも意外と積極的にオスにアタックする。メスは「誘い飛行」する。メスは、よく動くオスに強く惹かれる。
チョウを対象として、フィールドワークという野外実験するときの苦労が少しばかり伝わってきました。同じところに何時間もとどまってチョウを観察するという苦労も分かりました。学者って、本当に大変な仕事ですね。
(2023年3月刊。1870円)
2023年7月24日
昆虫学者、奇跡の図鑑を作る
(霧山昴)
著者 丸山 宗利 、 出版 幻冬舎新書
図鑑の何が好きかと問われたら、まだ見ぬ世界そのものがあること。
図鑑で憧れた昆虫を追い求め、世界中を旅行している著者たちが、あらゆる憧れの生き物を見るには、人生は短すぎる。
私にとっては、図鑑ではなく写真集です。世界中のさまざまな情景を切り取った写真集や動植物のいろんな生き様を鋭く暴いた写真集などです。私が実際に現地に行って見ることは、それこそ人生は短すぎるので、無理なのですが、写真集は古今東西、ありとあらゆるものを眼前に見せてくれます。
著者たちが挑戦したのは、すべての昆虫を生きた姿の写真で掲載すること。それは、昆虫の多様性と進化が分かるものでもある。そのためには、白い背景で昆虫を撮影する。目標を立てたら、それに必要な仲間を見つける必要がある。
さらなる難問は、撮影期間が1年しかないということ。うひゃあ、こ、これは大変ですよね...。たとえば、チョウの白バック写真は非常に難しい。というのは、チョウの多くは翅(はね)を閉じてとまるので、室内の白い背景で翅をうまく開いてくれる保証はない。
そして、撮影した人が図鑑の解説の執筆者を兼ねる。こんな人をまず10人確保した。でも、とても足りない。そこでSNSなどで求めた。結局、30人以上の人が加わってくれた。
白バックの背景で写真をとろうとしても、昆虫の多くはじっとしていたくない。また、立体感と存在感を出すため、適切な影をつけることも大事なこと。うひゃうひゃ、これはいかにも大変そう...。
白バック撮影で生き虫の動きを止めるため、二酸化炭素を容器に流し込んで動きを止める。そして、しばらくして昆虫が目を覚まして動き出した瞬間を撮影する。いやはや、口に言う以上の大変さがあるでしょうね...。
結局、7000種の昆虫の3万5000枚もの写真がとれた。そのうちの2800種を図鑑に掲載した。
ストロボを使って昆虫を撮影するとき、白いプラスチックの板や紙をはさむ。それによって光が拡散する。ところが、光が拡散しすぎると、光沢が消えてしまうので、その加減が難しい。
トンボは死ぬと身体の色が変わってしまう。トンボは、すぐに弱ってしまう。元気なトンボで困ったと思っていると、その直後に死んでしまう昆虫なのだ。
九州は関東ほど昆虫は多くない。しかも、明らかに昆虫が減少している。日本だけでなく、世界各地で昆虫の減少が報告されている。
たとえば、シジュウカラ(鳥)は、1羽あたり、1年に12万匹の昆虫を食べる。
昆虫図鑑づくりの大変さが、たくさんの写真とともに、よくよく実感できる本でした。
(2022年9月刊。1200円+税)
2023年7月23日
ニホンザルの生態
(霧山昴)
著者 河合 雅雄 、 出版 講談社学術文庫
1964年に刊行された本ですから、まさしく古典的名著です。
ニホンザルの観察記録なので、60年たったからといって内容が陣腐化して役に立たないなんていうことはまったくありません。ニホンザルの社会が縦横無尽に語られていて、飽きるところがありません。
ニホンザルには本当の意味の家族はない。オスとメスとは性関係はもつが、オスは子の育児には関係しない。母と子のまとまりはあり、母系集団はできる。しかし、母系家族と呼ぶことはできない。
サルのオトナは決して遊ばない。遊ぶのはコドモやチュウドモ期までで、彼らの社会関係を保つうえに重要な役割を果たしている。動物の中でオトナが遊ぶのは人間だけ。ええっ、でもカラスは大人になっても遊んでいますよね...。
ニホンザルのメスを観察していると、騒がしさと大げささを感じる。とくに採食中は誰かが必ずいさかいを起こしている。メスは常にごまかそうとしている。順位のルールがしっかりしていないから、ちょっとしたことがすぐトラブルの原因となり、しかもそれが誇張され拡大される。
ただし、メスはしょっちゅういさかいを起こしているけれど、それは互いを傷つけたり拮抗しあうという性質のものではなく、それによってかえって感情的結合を強める要素もある。メスの中に群れ落ちしてヒトリザルになるようなサルはいない。メスは依存ないし共存なしに存在することはない。抜きさしならない集合性こそ、群れを成立させる母体である。メスを特徴づけるのは依存性、保守性、連帯性、親和性。
メスはアカンボを産むと、母親どうしが寄り集まる。このときには、中心メス、ナミメスの区別や、それまで仲が悪かった仲間という関係は消失する。
一般にオスは5歳半になると、母親より順位が高くなる。母親より優位に立つことによって、ワカモノは初めて一人前のオスとして独立したことになる。ヒトリザルになるのはそのあとのこと。
リーダーがメスを支配し統率しているように見えていても、メスはひそかに周辺へ飛び出し、ヒトリザルとこっそり欲求を満たしてきて、やがて知らん顔をして群れに戻ってくる。
ニホンザルのリーダーになるのにはメスの承諾が必要。それがなければ決してリーダーにはなれない。メスに信望があることが絶対に必要。力ずくだけではリーダーにはなれない。
リーダーの安定した地位を築くには、最低で3年、十分には5年間の在任キャリアを要する。群れが危機にあるときには、メスでも立派にリーダーの役割を果たすことができる。
ニホンザルを個体識別して、1頭1頭に名前をつけて長期間じっくり観察した結果ですので、面白いことこのうえありません。今では、そのうえにDNA分析などもやっているのでしょうね。
ニホンザル観察記として抜群の面白さを堪能しました。
(2022年1月刊。1410円+税)
2023年7月16日
カラスは飼えるか
(霧山昴)
著者 松原 始 、 出版 新潮文庫
この問いかけに対する答えは、基本的に「ノン」です。
カラスを捕獲して飼育することは、できなくはない。そして、実際に、野生だったカラスを飼っている人がときにいる。
しかし、カラスを飼ったら、とんでもないことになる。サイズというと、小型犬か猫くらい。体重800グラムになる鳥なので、羽ばたきは強烈。好き勝手なところに飛び乗ってくるし、目の前をバタバタ飛んだかと思うと、突然バサバサと飛び降りてくる。
そしてカラスは、いたずら好き、気になるものはつついて、つついてぶっ壊す。もって行って隠す。カラスは絶望的なまでにしつこい。
カラスは死ぬほどヘタレで、知らない人間には、ひどく人見知りする。
うっかりカラスを飼ってはいけない。カラスを追い払うのに、CDやらカラスの模型やらをぶら下げても、あまり役に立たない。一番効果的なのは、その場に人間がいて、カラスに目を向けていること。カラスは自分を見ているもの、自分の動きに反応するものに敏感だ。
世界中にカラスがいると思っていましたら、南アメリカにはカラスもニワトリもいないとのこと。ええっ、「トリの唐揚げ」は南米では食べられないのでしょうか...。
カラスの肉は高タンパク質で低カロリー、そしてタウリンや鉄分を大量に含む。でも、決して美味しくはない。ただし、食べられないというわけではもない。
カラスは子どもを守るためのときだけ、人間に立ち向かう。でも真正面から攻撃する度胸はない。必ずうしろから飛来するし、せいぜいうしろから人間の頭をけ飛ばすくらいのこと...。
カラスは鏡を見たら、怒ってくちばしで鏡を叩いて、ケンカを売って攻撃する。カラスは、羽毛にたっぷりメラニンを持っているので、真っ黒(ないし褐色)に見える。
実践的にカラスを知る面白い文庫本です。
(2023年4月刊。590円+税)
2023年7月15日
ドーキンスが語る飛翔全史
(霧山昴)
著者 リチャード・ドーキンス 、 出版 早川書房
日帰り宇宙旅行なるものが現実となりました。6月29日、アメリカの会社が商業宇宙旅行として、イタリア人の3人の客、自社のインストラクターの4人、そしてパイロットが2人。高度100キロメートルの宇宙空間に突入し、4分間の無重力を体験した。乗客の事前訓練は3日間だけ。「月曜のランチから客に来てもらったら、木曜には宇宙に行ける」という呼び込みだ。 これから月1回のペースで運搬するという。料金は1人6500万円。10年後には、数百万円に値下がりするだろうという。
うひゃあ、そ、そんな世の中になったのですね...。ウクライナへ進攻したロシア軍の戦争がおさまる気配もないのに、宇宙旅行が商業化するなんて、信じられません。
コウモリと翼竜そして鳥を比較しています。
コウモリは指をすべて長くして広げた。翼竜は指を1本だけ、ものすごく長くした。
鳥は前脚の骨は短くて、羽にはそれ自体に堅さがある。鳥の羽は爬虫類のうろこが改造されたもの。羽は飛ぶためのものというより、断熱のために進化したと考えられる。
すべての哺乳類は、子宮内にいるときは指に水かきがある。しかし、水かきは、アポトーシス(プログラムされた細胞死)によって、いずれなくなっていく。ところが、たまに水かきが完全に消えないまま生まれる人がいる。
宇宙飛行士と体重計、宇宙ステーションとその内部のものすべては、自由落下しているから浮遊する。すべてがひっきりなしに落ちている。地球の周囲を落ちている。相変わらず引力は働いているので、地球の中心へと引っ張られている。しかし同時に、猛スピードで地球の周囲を飛んでいる。飛ぶのが速すぎて、落下するあいだも、地球にあたらない。それが軌道上にあるということ。うむむ、なんだか分かったような...。
生物が空を飛ぶということをあらゆる角度から考証している本です。すごく視野の広がる本でした。
(2023年1月刊。4800円+税)
2023年7月10日
土の塔に木が生えて
(霧山昴)
著者 山科 千里 、 出版 京都大学学術出版会
アフリカ南部のナミビア共和国、首都から1000キロも離れた小さな村に何ヶ月も一人住みこんで、毎日、シロアリ塚を探し求めて、1日に何十キロも歩き回る...。いやはや、そのたくましさにはほとほと頭が下がります。
若い大学院生の日本人女性が一人で、言葉が通じない、ケータイも通じないなかで、電気も水道もない小さな村で、6ヶ月間、シロアリ塚の調査をする...。いやはや、とても考えられませんよね。
シロアリ塚は木の下にできる土の塔。でも、この「土の塔」から森ができるという不思議さもあるのです。いったい、どうなってんの...。
著者がナミビアでシロアリ塚の調査を始めたのは2006年のこと。ナミビアは日本の2.2倍の広さがある。
ヒンバは、世界一美しい民族と言われる。頭のてっぺんから足の先まで真っ赤な女性たちが目を惹く。オークルと呼ばれる赤土に牛の乳から作ったバターと香料を混ぜたクリームを全身に塗っている。上半身は裸で、頭・首・足首には革や金属の装飾品、腰にはぺらりと布を下げている。
「チサトの小屋」に著者が一人で寝るかと思うと、大間違い。平日は、就学前の子どもたちが3~4人、週末には遠くの寄宿舎生活から村に戻ってきた子どもたちを含めて、にぎやかに寝るのです。電気・ガス・水道はなく、マッチすら使わない。生活に必要なものの多くは自然から得て、その多くは自然に返っていく。
トイレもないので、近くにある茂み(ブッシュ)に潜り込む。
食事は、毎日、同じものを、みんなと一緒に食べる。1人ふえたからといって1人分多くつくるという具合ではない。この村の食事はワンパターンで、野菜とタンパク質不足が体にこたえる。
女性は、上半身が裸なのはあたり前のことだけど、膝から上を出すのは恥ずかしく、ふしだらなこと。
シロアリは真社会性昆虫で、分業する。
日本で代表的なシロアリは下等シロアリで、体内に共生細菌をもっている。
キノコシロアリでは、コロニーの寿命は創設女王・王の最大寿命である20年ほどが上限。ただし、職アリや兵アリは数十日から数ヶ月で、どんどん入れ替わる。
キノコシロアリは、高さ1メートルもある「塚」を90日でつくりあげる。このシロアリ塚は、地上の厳しい環境を調整する役割をもつ。シロアリ塚の巣内には、数百万匹にも達するシロアリの大集団と、シロアリが栽培するキノコが暮らしている。これは日々、大量の二酸化炭素を生み出す。その放出する代謝熱と太陽の日射によって塚内部に温度差が生じ、塔内部に張りめぐらされた直径数センチの通気管を空気が循環することで、適当な二酸化炭素濃度、一定の気温、高い湿度が維持されている。つまり、シロアリ塚の塔部分は換気扇として、巣内の生活環境を整える役割を担っている。実際、巣内は、1年中30度、湿度100%、二酸化炭素の濃度は数%以下という快適な環境に保たれている。
シロアリ塚は、とんでもなく硬い。足でけっても、棒で叩いても、突き刺そうとしても、ビクともしない。鍬を借りてガツンとやって表面がポロっと欠けるくらい。
シロアリ塚が先にあり、そこに樹木が乗り、さらにこと次第に「シロアリ塚の森」へ変化していく。
日没前に水浴びをして、日が沈むのを眺める。夕日は世界一美しい。夜はとても冷えるため、長袖シャツにゴアテックスの分厚い合羽を着て火にあたり、夜ご飯を食べる。周囲は真っ暗闇、家族みんなが火のまわりに集まってご飯を食べ、おしゃべりする、そして誰ともなく歌いはじめ、たらいを裏返した即席太鼓が加わる。
夜空いっぱいに星が隙間なく瞬く。毎晩、空には天の川が大きな龍のように横たわり、いく筋もの流れ星が走る。月明りで本を読むことが本当にできる。
それに伴い新月の夜は、月の前に真っ黒な布を下げられたような暗さだ。
副食のミルクや肉をもたらす牛やカギは、地域の人々の財産。家畜のミルクは日常的に利用するが、肉を食べるのは特別な日か、家畜が病気などで死んだときだけ。
ヤギのミルクは非常時かつ子供用。大人はほとんど口にしない。著者が飲んだら、じんましんが出た。
ナミビアのなかの小さな村に、コトバもできず、ケータイは通じず、コンビニも店も一切ないなかで半年も暮らすなんて、そして、シロアリ塚を求めて一日中、歩きまわるだなんてよくぞよくぞやってくれましたね。しかも、マラリアに何回もかかって生き永らえているのです。この圧倒的なバイタリティーというか、生命力に、ほとほと圧倒されました。
トイレの話は分かりましたが、猛獣やらヘビやらの怖い目にはあわなかったのでしょうか。そして、もっとも怖い「人間」にぶつからなかったのでしょうか...。
あまりの体験談が淡々と語られているので、疑問どころも満載でした。そんな疑問にこたえる続編を期待します。毎日の生活に少し飽きてきた、そんなあなたに強く一読をおすすめします。強烈な刺激を受けること必至です。
(2023年4月刊。2200円+税)
2023年7月 9日
ハシビロコウのふたば
(霧山昴)
著者 南幅 俊輔 、 出版 辰巳出版
静岡県掛川市にある掛川花鳥園にハシビロコウがいます。人気者で、「ふたば」という名前がついています。生まれたのはアフリカのタンザニア。推定で7歳をこえるメスです。身長1.2メートル、体重は5キログラムもあります。
ハシビロコウは、成長すると、瞳はオレンジ色から黄色に、クチバシは黒い斑点が薄くなってくる。
こんな大きな体をしていて本当に空を飛べるの...、と疑ってしまいますが、どうやら飛べるようです。
ハシビロコウの顔がユニークなのは、その大きなクチバシです。
しかも派手な色こそついていませんが、じっとにらまれたら、すぐにも負けてしまいます。負けるといっても、ニラメッコの類です。ついつい笑ってしまうのです。
ハシビロコウのふたばは、魚を食べたあとは、必ず水でクチバシをゆすいでいる。いやあ、鳥がこんなにキレイ好きだったとは信じられません。
ハシビロコウは、長くコウノトリの仲間とされてきた。でも、今やペリカンの仲間とされている。こんなデカ鼻のような鳥からきっとにらみつけられたら、みんな、さっと身をかわし、逃げ出してしまうでしょう。
(2021年4月刊。1540円)
2023年7月 8日
マナティとぼく
(霧山昴)
著者 馬場 裕 、 出版 青菁社
ちょっとトボけていて、可愛らしい顔のマナティって、どこに棲んでいるのかと思うと、アメリカのフロリダ州でした。クリスタルリバーという海岸です。ここは、川があり、一年中、温かい。外海で暮らすマナティたちは冬になると、温かいところで過ごそうとやって来る。
マナティは好奇心が強くて、遊ぶのが大好き。ふだんは集団で暮らしていないのだけど、冬のクリスタルリバーでは仲間がたくさんいて、みんなでふざけあう。まるで人間の子どもみたいです。
ボートの下の水中にロープがあると、マナティたちが寄ってきて、食べ物でないのが分かっているのに、ふざけてカミカミする。
マナティにとって、人間は対等な存在。人間にこびることなく、なつくわけでもない。遊びたいときに遊び、いやになったら、どこかへ行ってしまう。
マナティは人間と同じく肺で呼吸している。くしゃみをするし、いびきもかく。
いやあ、マナティのいびきって、どんな音がするんでしょうか...。水中で寝ているときのいびきなんて想像できません。
マナティは草食動物なので、水草(マナティグラス)が好物。マナティはよくオナラをする。でも臭くはない。
マナティは水中で眠るときは目をつむる。最長25分ほど息つぎなしで眠っている。
マナティは2年に1度、1頭だけ子を産む。子どもは2年間、母親と一緒に過ごす。
マナティは寒さに弱く、17~19度で活動できなくなり、15度以下だと死んでしまう。
マナティの寿命は60年以上だけど、死因の1割はボートによる事故死。アメリカ・フロリダ州にマナティは5730頭いた(2019年)。
実は、残念なことに著者は若くして亡くなっています。奥様による写真集のようです。
ほのぼのとした写真集なので、眺めているだけで、心が癒されます。
(2023年5月刊。2400円+税)
2023年7月 1日
カワセミの暮らし
(霧山昴)
著者 笠原 里恵 、 出版 緑書房
わが家から歩いて5分ほどの小川にカワセミを見かけたときには、感激しました。この小川の上流は「ホタルの星」になっていて、6月前後にたくさんのホタルがフワフワと飛びかい、童心に帰らせてくれます。
カワセミは、その青色の美しさが人の目を強く惹きつけます。
カワセミの羽毛の内部には網目状の泡のような部分がある。これは「スポンジ層」と呼ばれる構造体。ランダムな網目状の構造。これが周期的なパターン構造。
カワセミの形をしているのは、新幹線の500系新幹線。
カワセミの巣は、川の水辺近くの露出した土の崖に奥行のある横穴を掘って巣をつくる。カワセミの巣は崖の途中にあいた穴から、地上に向かって上向きに傾斜している。
巣を堀りすすめるのは、オスの役割。産卵は1日1個ずつで、1回に6~7個の卵を産む。夜間の抱卵は、メスが担当する。アオダイショウなどのヘビが天敵。アオサギも、幼いカワセミを準っている。
巣の中のヒナたちは、食物を親から受けとると、うしろ(奥)にひっこみ、ほかのヒナが受けとれるように交代する。
日本にはカワセミの仲間は8種。スズメよりひとまわりほど大きい。
宝石のように輝くカワセミの暮らしの一端をのぞいてみました。
(2023年4月刊。2200円)