弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
生物
2022年5月16日
ビーバー
(霧山昴)
著者 ベン・ゴールドファーブ 、 出版 草思社
ビーバーについての480頁もある部厚い本です。
ビーバーは、その毛皮が狙われ、また、ダムをつくるので農家から目の敵とされ、一時は壊滅的状況に追い込まれた。しかし、その後、保護策が功を奏して、今や北アメリカには1500万匹のビーバーが生息していて、絶滅の危機は脱している。ヨーロッパでも同じで、わずか1000匹にまで減っていたのが、今や100万匹に急増している。
とはいっても、実のところ、かつての北アメリカ大陸には、ビーバーは6千万匹から40億匹はいたと推定されているので、とてもそこまでは復活していない。
ビーバーがダムをつくるのは、捕食者からの安全確保、風雨からの避難、食料の貯蔵のため。ビーバーは、水中では15分も息を止めていられる。水かきのある後ろ足のおかげで、水中の動きはパワーアップする。まぶたは透明なため、水面下を見ることもできる。
ビーバーは、摂取したセルロースの3分の1を消化する。これは、ビーバーが自分のウンチを食べること、非常に長い腸と多様な腸管内菌叢(きんそう)によって助けられている。
ビーバーの上下各2本の門歯は、死ぬまで伸び続ける。そのため、門歯でものを削っても、大丈夫。自生発刃作用(じせいはつじんさよう)がある。
ビーバーは、家族を大切にする動物で、一夫一婦制をとっていて、4~10匹で一家をなしている。子は2歳になり、下の子(弟妹)が生まれると、自分の縄張りを求めて巣立ちする。
ビーバーのつくるダムは、地表水と地下水をあわせて1基あたり2万2千~4万3千立方メートルの水を貯める。存在するものには、合理的な理由が必ずあるという昔からの格言どおり、ビーバーにも自然サイクルのなかで大きな役割を果たしてきたし、果たしていることを実感させてくれる本でした。
(2022年2月刊。税込3630円)
2022年5月 9日
野ネズミとドングリ
(霧山昴)
著者 島田 卓哉 、 出版 東京大学出版会
ネズミは、鋭い一対の切歯(前歯)をもち、このネズミの切歯は一生伸び続けるため、年をとっても歯がすり減って堅いものがたべられなくなるということがない。
ネズミ算という言葉のようにネズミは多産の象徴として扱われることが多いが、実はそれほど多産ではなく、2~8匹(平均4~5匹)というネズミが多い。日本の野ネズミでは、アカネズミは2~8匹、ハタネズミは1~6匹。最多のアフリカのサハラタチチマウスは平均10~12匹の子どもを1回に出産する。少子のほうではウオクイネズミは1回に1匹のみ。
野生のアカネズミの寿命は半年から1年ほど。
アカネズミは、冬眠しないが、低温やエサ不足のとき、支出エネルギーを節約するため、日内休眠という低代謝状態に入る。
アカネズミにドングリを与えると、2日間から様子がおかしくなり、やせてきて、ふらふらしだし、そのうち数匹は死亡した。ブナの実を食べていたアカネズミはフツーだった。
好物のはずのドングリを食べたアカネズミが異常な状態になるのはなぜなのか...。
ドングリにはタンニンが含まれている。タンニンとは、植物によって生産される、タンパク質と高い結合能力を有する分子量500以上の水溶性ポリフェノール。赤ワインに含まれるポリフェノールや、お茶に含まれるカテキンもタンニンの一種。
タンニンの最大の特徴は、タンパク質との高い結合能力にある。
タンニンは、穏やかに作用する消化阻害物質だとみなされてきた。しかし、それだけなく、消化管の損傷や臓器不全といった、急性毒性をもつ物質だ。これが、タンニンは、量的防御物質でありながら、質的防御物質でもあるといわれる所以だ。
ドングリを日常的に食べているアカネズミにとっても、コナラやミズナラのドングリは、潜在的には有害なのだ。そして、この有害なのは、ドングリに含まれるタンニンによって生じていることが明らかになった。
アカネズミが、ドングリなどのタンニンを含むエサを少しずつ食べて、体がタンニンに馴(な)れた状態になると、ドングリに含まれるタンニンを克服することができるようになるのではないか...?
つまり、アカネズミは、馴化(じゅんか)することで、ドングリのタンニンを克服できるのだ。
ドングリは、植物学的には種子ではなく、果実である。多くのドングリはタンニンを豊富に含み、潜在的には危険。
北米産のドングリと比べると、日本産のドングリは、全般的にフェノール類が多い。要するに、ドングリを食べなれていくうちに、毒性が弱まっていくということのようです。それを観察と実験、そして数式で証明していくという地道な作業を繰り返していくのです。大変ですよね。でも、そもそも森林に入るのが好きな人にとっては、苦にならないのでしょうね。
(2022年1月刊。税込3740円)
2022年5月 8日
熊を撃つ
(霧山昴)
著者 西野 嘉憲 、 出版 閑人堂
岐阜県は飛騨(ひだ)の山奥で熊を撃つ状況をド迫力でとらえた大判の写真集です。
トップ頁の写真は、銃を構えて熊に狙いを定める漁師の目つき、その迫力に圧倒されます。
飛騨市の山之村は昭和の半ばまでは秘境と呼ばれていた。麓(ふもと)の神岡から片道20キロ、車で40分。人口は64戸、132人。冬の積雪は2メートルをこえ、最低気温は氷点下20度。保存食となる寒干し大根が名物。
ここらの熊は絶滅危惧種どころか、数が増えるとともに大型化しているとのこと。その理由は、天然林は多く、餌になるニホンカモシカが増えているため。
熊のエサはカモシカなんですね。カモシカの方が逃げ足は速そうなんですが...。
熊は、肉や毛皮以上に、熊の胆(い)と呼ばれる胆のうに価値がある。熊の胆は万病の薬として昔から珍重されていて「医者の代わり」とか「命のようなもの」として尊ばれた。
熊の胆は、1匁(もんめ)あたり金より高い額で取引され、貴重な現金収入となる。
熊を探すのには猟犬が活躍する。ここでは、地犬の柴犬を使う。冬ごもりの穴に潜む熊を猟犬が探し出す。鉄砲を使う前は、猟師は槍を使った。
冬眠時の熊の肉は全体の8割が部厚い白い脂肪。上品なうま味で、しつこさがない。凍った状態で口に入れると、舌の上で溶け、チーズのような食感と風味が楽しめる。また、汁が冷めて固まることがない。
熊の胆は、米粒の半分ほどの大きさに割り、お湯に溶かして飲む。
東京から石垣島に移り住んだ著者が、熊猟の現場写真を撮るべく、厳冬期の飛騨に入ってつかんだシャッターチャンスの数々の写真です。大判だけあって、その迫力がすごいです。熊を撃つ写真が何枚もあり、よくぞこんな写真が撮れたものだと驚嘆しました。
もよりの図書館に購入してもらってでも、ぜひ手にとって眺めてみてください。
(2022年2月刊。税込3960円)
2022年5月 3日
アリたちの美しい建築
(霧山昴)
著者 ウォルター・R・チンケル 、 出版 青土社
アリの地中にある巣を掘り出し、溶けた亜鉛を流し込んで型をつくったアメリカの学者の本です。見事な造形のアリの巣を見ることができます。驚嘆してしまいました。
アリは社会性昆虫で、1億年から1億4000万年前にカリバチの祖先から分岐した。
アリの社会(コロニー)の特徴は、個体間に明確な機能分担がみられること。受精卵を産むことができるのは、1匹か数匹の女王だけで、残りの大半は、コロニーの仕事の大部分を担う不妊の働きアリ。社会機能を担っている個体はすべてメスで、オスは女王と交尾するためだけに生まれてくる。オスは、1年のうち数週間しか出現しない。
一般的にアリのコロニーは単一の家族で構成されていて、母親が女王、娘が働きアリ。
アリは完全変態をする昆虫で、卵、幼虫、蛹(さなぎ)、成虫という段を経て発達する昆虫の典型。
アリはこれまで、1万4000種が確認されているが、最終的には2万~4万種にのぼると考えられている。
アリは、赤道付近がもっとも多く、そこから離れるにつれて、減少していく。北極圏には2種だけ確認されている。
アリにもっとも近いのはハナバチとカリバチ。
湿潤な熱帯地域では、半数のアリが地中ではなく、樹木に巣をつくる。
アリの巣づくりは4日から6日で完了する。著者が掘った地中のアリの巣は、3メートル10センチが最深。そして、アリの巣を体積としては、11リットルが最高記録。アリは地中に向かって螺旋(らせん)構造でおりていく。右巻きも左巻きもある。反時計回りの両方が混在している。下に伸びる坑道から、ときに左右に広がる坑道があり、そこから、部屋が広がっている。この部屋は、どんなときにも完璧に水平かつ滑らかである。
アリは巣づくりに非常に多くの時間と労力を費やす。ところが、アリのコロニーは、実は自由に移動している。しかし、なぜアリのコロニーが頻繁に引っ越すのか、その理由・メリットは、今までのところ判明していない。
アリは深い層から浅い層へと大量の砂を運び、投棄していた。
あらゆる働きアリは、年齢に応じて従事する仕事を変えていく。働きアリは、年齢を重ねて、巣の上方へと移動し、仕事を変えていく。
採餌アリは、毎日、全体の3~5%が死に、1ヶ月で丸ごと入れ替わる。
規模が最小のコロニーは、平均寿命が4年、中規模だと平均寿命は17年に延びた。もっとも大きいコロニーでは30年を超えた。
アリがつくる地中の巣の姿をまざまざと示してくれる本でした。
(2021年1月刊。税込1600円)
2022年5月 2日
シカの顔、わかります
(霧山昴)
著者 南 正人 、 出版 東京大学出版会
このタイトルの意味、分かりますか?
宮城県の牡鹿(おしか)半島の先にある小さな島、金華山(きんかさん)には、660頭のシカが生息している。ここで、黄金山神社の周辺で生活する150頭のシカ全部に名前をつけて、1989年から33年間、観察を続けて現在に至っている。今では、33年間の家系図もできている。シカの寿命は長くて15年なので、これまで1000頭のシカ全部に名前をつけて追跡したというわけ。いやあ、これってすごいことですよね、シカを個別に識別するなんて...。
シカを個体識別するには...。白髪染め液を2メートルほど離れたところから噴射して、シカの毛の一部を黒く染める。ところが、これだと、シカが座っていたら毛染めが見えないので識別できない。では、どうするか...。
シカの顔をじっくり観察していると、次第に顔の違いが分かるようになってくる。ええっ、うっ、うっそでしょ...。
これは、ニホンザルの顔を識別して名前をつけて行動観察するのと同じ手法。
うむむ、それにしてもサルとシカの違いはないのでしょうか...。
シカの顔の違いといっても、極端に違いがあるわけではありません。体型は遺伝によって似てくるようです。シカの顔を見て、あっ、これはあのシカの母か娘だと言いあてることもできるのだそうです。いやはや、すごーい。
シカのオスには角(つの)がある。この角には、いろんな形があるので、オスは、それで識別できる。
シカのオスは、メスの発情期にだけなわばりをもつ。メスは四季を通じてなわばりをもたない。メスは2年に1回、子どもを産む。メスは発情期の秋に、24時間だけオスを受け入れる発情状態になる。
シカの鳴き声は13種類ある。シカの鳴き声のほとんどは秋に集中している。そして、鳴き声は1キロメートル先まで届く。「メェーフーン」には、威嚇の状態がある。
生まれてくる子ジカは、直後の30分間を乗り切れば、あとは自力で移動して、自分の身を守ることができる。その動けない30分間をカラスは狙ってやってくる。うむむ、何と厳しい生存競争でしょうか...。
シカの母子間の認知は、音が役にたっているものの、最終的には、匂いが母子間の認知のカギになっている。
シカは基本的に集団で生きている動物。シカの子は、祖母やその姉妹、そして自分の姉たちとともに生きる。
オスの多くは2歳までにメスの家族群から離れて生活するようになる。メスは、生涯をずっと家系集団で暮らすことが多い。オスもメスも母と子の関係は、母親が死ぬまで続く。
捕食者から狙われる草食獣にとって、集団で生活することは、自分の身を守り、さらに血縁者の身を守り、自分の遺伝子を残すことにつながる。シカにとって、この母系の血縁グループは、とても大切なものである。
オスは孤立している。成長したオスは、オスになっても孤独を愛している。
シカが、匂いを使ってもコミュニケーションしているのは間違いない。
シカの歯は、すり減ってしまえば、生きていけなくなる。
いやあ、まったくもって驚きました。サルの顔が識別できるというのにも執念すら感じますが、150頭のシカ全部を識別して名前をつけて行動観察するなんて...、すばらしいにもほどがあります。ぜひ、手にとって読んでみてください。出色のできばえの本です。そのすごさに、ついつい目を見晴らされました。
(2022年2月刊。税込3960円)
2022年4月25日
ニュースなカラス観察奮闘記
(霧山昴)
著者 樋口 広芳 、 出版 文一総合出版
私と同世代、団塊世代の鳥類学者がニュースに登場してくるカラスをじっくり観察したレポート集です。とても面白くて、車中で読みはじめて、いつのまにか終点に到着していました。もうちょっとでしたので、喫茶店に入ってついに読了。
カラスの観察や研究を続けて50年近くになるとのこと。私も同じく弁護士生活が50年近くになり、人間観察を続けています。
ハシボソガラスは「ガアー、ガアー」とにごった声で鳴き、地上では両足を交互に出して歩く。ハシブトガラスは、「カアー、カアー」と澄んだ声で鳴く。地上では両足をそろえてホッピングすることが多い。ハシブトのほうがハシボソよりやや大きく、くちばしが太い。ハシボソは農村地帯、ハシブトは森林や大都市にすむ。
横浜の公園の水飲み場で、カラスが栓を回して水を飲んでいた。よく観察すると、一対のカラスのうちのメスだけが栓を回し、オスのほうはできない。しかも、水を飲むときには栓を少し回し、水浴びするときには大きく回している。目的に応じて栓の回し方と出す水の量を変えている。うむむ、なんとなんと、すごーい。
カラスはオスもメスも同じように黒いけれど、メスのほうが少し小さく、また、卵を暖める抱卵はメスしかない。それで、メスが栓を回していることを確認できた。なーるほど、ですね。
カラスのつがいの2羽は、いつも互いに見える範囲にいて、しばしば一緒になる。
公園にポテトチップスが落ちていると、水飲み場にもっていって、水に浸してやわらかくなったのを食べる。ちなみに、カラスは栓を回して水を飲んだり、水浴びするけれど、終わって栓を元に戻すことはしない。公園なので、気がついた人間が栓を閉める。
路上にクルミを置いて車にひかせてクルミを割ってもらって食べるカラスがいる。これには車にひかれない工夫も必要になる。勇気というか度胸が必要。かしこさと度胸をあわせもった個体だけが車の利用を可能とする。
線路の置き石事件の犯人はカラスだった。なぜ、そんなことをするのか...。カラスは手にした食料を隠しておく(貯食)習性がある。線路の砂利はもらったパンを隠しておくのに都合がよい。目の前の小石が邪魔なので、ひょっとつまんで線路に置くということ。
石齢とか和ろうそくをカラスが持ち去るのは、石齢や和ろうそくにカラスの大好物の油脂分が含まれているから。和ろうそくに火がついていても気にせず、炎の下でとろける熱い蝋(ろう)をなめとる。ハシブトガラスのくちばしは肉切り包丁のようなもので、スパッと和ろうそくを切りとってしまう。
カラスは独特の生き方をしている。型にはまらない、きわめて柔軟性に富んだ生き方だ。カラスは何でも屋、ジェネラリストとしての道を生きている。
人への攻撃は、カラスの繁殖時期である5月と6月に起きる。これは主として都市にすむハシブトガラスによるもの。
カラスの知能は高い。特定の人の顔を覚えてしまう。カラスの大脳全体の神経細胞は2億3000万。これに対してハトは1800万ほどしかない。カラスの大脳は、すばらしくよく発達している。
わが家の周囲のゴミを狙ってやってくるカラスは、ボソかブトか、今度こそたしかめてみましょう。
(2021年11月刊。税込1760円)
2022年4月 4日
菌類が世界を救う
(霧山昴)
著者 マーリン・シェルドレイク 、 出版 河出書房新社
菌類はどこにでもいるが、なかなか気づかない。菌類の90%以上の種類は未確認だ。知れば知るほど、菌類は、さらに分からなくなる。
植物は菌類の助けを借りて5億年前に陸に上がった。植物が独自の根を進化させるまでの数千万年間、菌類は植物の根の役目を果たした。今日では、植物の90%以上が菌根菌に依存している。
キノコは胞子を拡散する多様な手段の一つにすぎない。菌類の大多数は、キノコに頼らず胞子を放出する。
菌根は1年で50メガトン、これは50万頭のシロナガスクジラに匹敵する、におよぶ胞子をつくる。
世界には220万種から380万種の菌類がいる。現状は、菌類全体のわずか6%しか発見されていない。
人間の脳は数百万種の色彩を区別し、耳は50万種の音を聞き分ける。ところが、鼻は数兆種の匂いをかぎ分ける。ええっ、ホ、ホントでしょうか...。人間の鼻は、1立方センチあたり3万4千個の分子という低濃度の化合物でも嗅ぎ分けられる。この濃度は、2万個のオリンピック用水泳プールの中の1滴の水に匹敵する。
トリュフは栽培できない。マツタケと同じく、トリュフは収穫してから2日から3日以内に新鮮なまま客の皿にのせなくてはならない。トリュフの香りは、生きて代謝している活性プロセスでしかつくれない。トリュフの香りは、胞子の成熟とともに強力になり、細胞が死ぬと失われる。トリュフは乾燥させて後日食べることはできない。
菌類は、高速データの伝達に電気信号を使える。
菌糸体は脳のような現象だ。植物は大気中から得た炭素の30%を菌類パートナーに与える。菌根菌は、植物が必要とする窒素の80%、リンについては100%を与えることができる。
菌糸体は土壌をまとめる粘り気のある生きた継ぎ目だ。菌類を除去すると、土壌は洗い流されてしまう。
人類にとってもっとも親しみ深い菌類は酵母だ。酵母は、人間の皮膚の上、肺の中、消化器官系に棲息し、あらゆる穴の内面にいる。人類は、はるか昔から酒づくりに発酵を利用してきたと思われる。酵母は、糖がアルコールに変わるプロセスにかかわる。
キノコ、カビ、酵母は本当に人間の生活に欠かせないものだということがよく分かる本でした。
(2022年1月刊。税込3190円)
2022年3月28日
深層サメ学
(霧山昴)
著者 佐藤 圭一 ・ 冨田 武照 、 出版 産業編集センター
世界にいるサメは553種。1990年代には300種と言われていたので、200種以上も増えた。
サメは、二つの大きなグループに分けられる。その一が、ネズミザメ上目で、もう一つがツノザメ上目。ジンベイザメやホホジロザメは、ネズミザメ上目に入る。
ところが、どちらのサメも深海性の種が多数派を占めている。というか、サメの半数以上の種が深海を主なすみかとしている。
深海は、環境変化が小さいので、エサは少ないが、安定してすみ続けられるところ。
フカヒレは、サメのヒレから皮などを取り除き、内部の軟骨を乾燥させたもの。サメの骨格は軟骨からできている。この軟骨とは、骨とは似て非なるもので、その成分も作られる過程もまったく異なる。
サメが、骨をまだ進化させていない原始的な魚なのか、それとも骨をつくることをやめてしまった異端児なのか、まだ決着がついていない。
メガマウスザメは、全長7メートル以上になる巨大。しかし、プランクトンを主食とするため、歯がとても小さい。
ほとんどのサメが、オスよりメスのほうが大型化する。
オンデンザメは、長寿であり、成熟年齢は150歳ころ。うひゃあ、こ、これは驚きます。ジンベエザメは人間より長寿で、100年以上生きるだろう。
サメのペニスは2本ある。
サメの歯は、何度でも生え変わる。1ヶ月で歯を使い捨てしている。そして、歯を捨てないで、体内にとっておくサメもいるようだ。
泳ぐとき身体を60度ほど傾けていて、それを5~10分で左右の傾きを入れかえている。これが楽に泳ぐコツのようだ。
サメのなかには、みずから発行物質を保持して、光るタイプのサメもいる。
サメの表面には、非常に小さなウロコがびっしりと覆っている。そして、ウロコの表面に数本の溝が並んでいて、遊泳時の水の抵抗を減らしている。
ジンベエザメは、目にまぶたをもたず、ウロコが目を守っている。
サメは、繁殖終期が2年で、妊娠期間は1年ほど。赤ちゃんが胎内で共喰いしている説は疑わしい。赤ちゃんを3ヶ月間もかけて出産している。胎仔(たいし)が一度に生まれるとは限らない。
知られざるサメの不思議な生態が明らかにされています。著者の2人は、沖縄の美ら海水族館で働いている研究者です。もう久しく沖縄に行っていませんが、またぜひこの水族館に行って、巨大サメを拝ませていただきたいものです。
(2021年5月刊。税込1980円)
朝、雨戸を開けるとチューリップの花が目の前に並んでいます。春到来を実感します。
団地の桜も見事に満開で、例年より少し早い気がします。
ツバメが下の休耕田におりてエサを探しています。ロシアの侵略戦争のため、モノ不足が心配されはじめました。日本の食糧自給率の低さが本当に心配です。一刻も早く戦争を止めさせたいものです。
庭に出てチューリップの写真をとっていると、ウグイスの、まだ下手な鳴き声が聞こえてきました。そして、目の前にジョウビタキがやってきて、別れの挨拶をしてくれました。
春はツバメがやってきて、ジョウビタキが帰っていく季節です。ずいぶん日が長くなりました。これで花粉症の心配さえなければ申し分ないのですが...。世の中は、とかくままならないものです。
2022年3月22日
はぐれイワシの打ち明け話
(霧山昴)
著者 ビル・フランソワ 、 出版 光文社
不思議な本です。いえ、読んでいると不思議な気分にさせる本です。海中にいる魚たちがみんな話しているというのです。
海は音で満たされていて、人間が生きている空気中よりもずっとにぎやかだ。水は空気より密度が高いため振動しやすく、音がよく伝わる。水中では、音は光より遠くまで伝わり、弱まることなく何キロメートルも先まで届く。
クジラは2千キロメートルをこえる距離からデートに誘ったりしている。どんな海でも、クジラの声は海のなかの音のかなりの部分を占めている。冷水と温水の境界である水温躍層の境界でクジラの声は水平方向に何千キロメートルもまっすぐに伝わる。
本のタイトルにもなった有名な52ヘルツの声を出す孤独なクジラがいる。
人間がシャチやイルカと協力して狩りをしているという話もまた有名です。
人間に協力するイルカたちの集団は固有の文化的特徴を有している。このイルカたちは、自分たちの集団に属することを好み、他の集団には混ざらない。
人間に協力するイルカたちは固有のアクセントや鳴き声があって、それが人間と「話す」ことのない同種のイルカとの相違点になっている。
イワシのようにぎっしり詰められるという。たしかにイワシの群れの密度は、1立方メートルあたり15匹。ラッシュアワーに地下鉄の密度の4倍に相当する(これは日本の地下鉄ではなく、アメリカかフランス)。イワシたちは適切な距離と互いを尊重した速度を保つことができる。
イワシの群れでは、何百万匹いても、議論の必要はなく、自然に決断がなされる。そこにはリーダーも全体を支配する集団も、命令も存在しない。ひとまとまりになったイワシの群れは、一致団結して泳いでいる。
スウェーデン海軍は海中に不振な音を探知し、それはロシアの原潜によるものだと疑った。しかし、ロシア海軍は頑張に否認した。学者に調査してもらった結果、それはニシンの群れによる音だった。ニシンは内臓のガス(つまり、おなら)を一定のリズムで排出していて、それによって複雑な情報をやりとりしているのだ。
ザトウクジラは、子育てに長い時間をかけ、頻繁に会話している。ザトウクジラは、集団内で長年にわたって歌を伝承する。
絶えず泳ぎ続けているマグロは、毎日、自分の体重と同じ量のエサを食べなければいけない。マグロは魚のなかで唯一の恒温動物だ。
著者はまだ20代のフランスの物理学者です。流体力学を研究しているとのことですが、スピーチ大会で優勝するほど優れた話し手というわけですから、話の流れが実に見事で、驚くばかりの展開です。海中のにぎやかな会話を翻訳機にかけてぜひ聞いてみたいものです。
(2021年11月刊。税込2090円)
日曜日、庭の一隅にフジバカマを植えました。インターネットで取り寄せたのです。これでアサギマダラ(チョウチョ)を呼び寄せるつもりです。さて、うまくいくでしょうか。
庭のチューリップが一斉に咲きはじめました。赤・黄・白と、本当に華やかで、春到来を実感させてくれます。
春の味覚、アスパラガスも地上に顔を出してくれるようになりました。これから楽しみです。
日曜日は、午前・午後とロシアのウクライナ侵略戦争反対を街頭で訴える活動に参加しました。黙ってなんかおれません。映像を見るたびに心が痛みます。とりわけ子どもたちの心に大きなショックを与えていることが心配でなりません。
道の両側に白いコブシの花がずらり、やっぱり平和が一番です。
2022年3月14日
身近な鳥のすごい事典
(霧山昴)
著者 細川 博昭 、 出版 イースト新書Q
私にとってもっとも身近な鳥はスズメのはずでした。でも、今ではそうとは言えません。わが家には、2ヶ所、スズメの巣があり、その一つはトイレの窓のすぐ上にありました。トイレに入ると、スズメたちが巣を出入りし、また、子育てのときには、仔スズメの可愛らしい声を聞くことができました。今はまったく見かけません。それは、すぐ下の田圃が稲作をやめてからのことです。
スズメは森や林には住まない。また人間が住まなくなった空き家にはスズメも住まない。スズメは人間を恐れるのに...、です。
今や全国的にスズメは減っていて、20年前の2割しかいないとみられている。
「万葉集」にはスズメを詠んだ歌は一つもない。でも「枕草子」や「源氏物語」にはスズメの子を育てて楽しんでいる話が出ている。
わが家の庭によく来るのはヒヨドリです。けたたましく鳴き、自己主張の強い鳥です。平安時代の貴族たちは、ヒヨドリを飼っていて、持ち寄って優劣を競っていたとのこと。鳥に名前までつけていたというから驚きです。ヒヨドリは意外に賢く、好奇心も強い。そして、自分を大事にしてくれる人間を好きになることもある。
うちの庭のスモークツリーの木の上のほうにヒヨドリが巣をつくって子育てを始めたことがありました。あるとき、2羽のヒヨドリが常と違ってけたたましく鳴いて、それこそ騒動しはじめたので、どうしたのだろうとよく見ると、ヘビが木をするすると登っているのです。木の上の巣といっても大人の背よりはるかに高く3メートルほどもあります。よくぞ地上をはうヘビが見つけたものです。なんとか巣のなかのヒヨドリの仔を救ってやりたくて、ヘビを叩き落したのですが、仔のほうまで落ちてしまいました。そこで、鳥籠を買ってきて育てようとしたのですが、結局うまくいかず、哀れにもヘビのエサになってしまいました。鳥籠からいつのまにか逃げ出していたのです。それ以来、ヒヨドリが庭の木に巣をつくることはありません。
秋になると、モズが甲高い鳴き声で飛びまわります。モズは百舌鳥と書いて、たくさんの鳥の鳴き声を上手にまねるらしいのですが、私は聞いた覚えがありません。
モズのオスは、多くの多種のさえずりを正確に真似できるものはメスにもてるというのです。
ツバメがわが家に巣をつくったことは残念ながらありません。前年の巣に戻って、同じ場所で子育てするツバメが多いのは、コストが安くなるから。ゼロから始めると1週間以上かかる巣づくりが補修ですめば2日もかからない。
ツバメは群れをつくることなく、単独で東南アジアの島々やオーストラリア北部から4千キロも飛んでやって来る。体重わずか20グラムもない鳥が、こんなに飛べるなんて、世界の七不思議の一つでしょう...。しかも、眠りながらも海の上を飛行するなんて、すごいことですよね。
ゴミ出しはカラスとの知恵くらべです。わが家は生ゴミはコンポストに入れて肥料にしますので、外にゴミとして出すことはありません。ところが、生ゴミをそのままゴミ袋に入れて路上に放置すると、たちまちカラスの餌食(えじき)になってしまいます。
昔からカラスが嫌われていたのではなく、むしろ、長い時代の日本人はカラスに対して悪くは思っていなかった。「万葉集」のころカラスの声は「愛しい人がやってきた」と告げていると解されていた。
ハシボソガラスは、ガーガーと濁った声で鳴く。これに対して、カーカーと澄んだ声で鳴くハシブトガラスは、森のカラスで、両足をそろえてピョンピョンとホッピングする。
いやあ、鳥をよく研究している人がいるのですね。おかげで、よく分かります。
(2018年1月刊。税込968円)