弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2021年4月19日

空飛ぶヘビとアメンボロボット


(霧山昴)
著者 デイヴィッド・フー 、 出版 化学同人

ノーベル賞ならぬ、イグノーベル賞を2回も受賞したという著者の話は、さすがに面白い。
ええっ、こんなことまで調べるのか...。たとえば、自分の子ども(赤ちゃん)のおしっこが何秒間つづくのか測ったら21秒だった。そんなの測りますかね...。
そして、では、ゾウの排尿はどれくらいか。まあ、図体がでかいから1時間くらいかな...。と思うと、あにはからんや、人間と同じで、21秒ほど。ほ乳類の動物が、ほとんどこの21秒ほどだというのです。
生理現象のときは無防備なので、敵に襲われると逃げきれない心配がある。そこで、21秒くらいが安全。そうすると、尿道は、それにあわせることになる。直径と長さの組み合わせなので...。イヌ、ヤギ、パンダ、サイ、ゾウの排尿時間は、いずれも10秒から30秒のあいだで、平均は21秒。動物たちの排尿時間は驚くほど近似している。
犬の膀胱は、計量カップほど。ゾウの膀胱は、その100倍以上で、20リットルのキッチン用ゴミ箱を一度のおしっこで満タンにする。尿道の長さと直径の比は、男性25:1、女性で17:1。この比は人間だけでなく、ネズミからゾウまで、あらゆる哺乳類に共通している。学者って、こんなことまで調べるのですね。その発想に圧倒されます。
蚊は、雨の中でも飛べる。なぜか...。空から降ってくる雨粒の重さは、蚊の約50倍。では、蚊はどうして雨粒にぶつかったり、土砂降りのなかでも飛んで(生きて)いられるのか...。
蚊の重さは、雨粒のわずか2%でしかない。あまりに軽いので、雨粒の動きに逆らわない。蚊は雨粒の落下を妨げることなく、ただ受け流す。蚊があまりにも軽いので、雨粒は衝突によって減速しないことから、蚊の体には大きな負荷がかからない。
トビヘビは、高さ50メートルの樹にのぼる。そこから滑空し、100メートル先の地面に、ほんの数秒で到達する。トビヘビの滑空率はムササビを10%も上回り、トビガエルの2倍近い。
トビヘビは空中を落下するとき、はじめは頭を下に傾けていたが、次には頭を上に、尾を下にして、体を水平に近づけた。そして自分の体をS字型に曲げ、空中を泳ぐように波打ちはじめた。地表に着地するときには、着地の衝撃を和らげるため、ヘビは再び体の向きを変え、尾を最初に、頭を最後に着地する。
ヘビの体が「ぬるぬるしている」という俗説は間違い。ヘビの体は濡れたように艶やかだが、触ってみると、さらりと乾燥している。
ヘビの椎骨は、数百個もあり、そのため、ヘビの体は長くしなやかなカーブを描き、体全体を地面につけて力を生み出せる。
アメンボはなぜ池の上をスイスイと動きまわれるのか・・・。アメンボが水の上に立てるのは、体のサイズが小さいおかげで、表面張力を利用できるから。アメンボは非常に小さく、そして軽いので、ふだんは無視できる力の影響を受ける。すなわち、表面張力。表面張力がアメンボの体重を支えるのは、トランポリンがヒトの体重を支えるのと同じ原理にもとづく。
アメンボが空気の層をとらえておけるのは、どんな動物よりも毛むくじゃらの脚をもっているから。つまりアメンボが濡れないには、脚の表面積が毛によって増大したおかげだ。毛と毛のあいだには水が入りこめない。アメンボは、水の上というよりも、空気の上に立っている。脚もとにある空気の層のおかげで、アメンボは、アイススケートをするように、水面をスイスイ滑って移動できる。
そして、著者は、このアメンボをつくってみたのです。それは、ステンレススチールの針金でできている。脚は、水をはじくようにコーティングされている。体長9センチで、重さは0.35グラム。いやあ、こんなことまでしてみるのですね、学者って...。
生物の世界は不思議にみちみちています。私が日曜日夜の『ダーウィンが来た』を毎回欠かさず(録画して)みているのは、その神秘の解明に少しでも近づきたいがためです。
(2020年21月刊。税込2640円)

2021年3月29日

タコは海のスーパーインテリジェンス


(霧山昴)
著者 池田 譲 、 出版 化学同人

タコ焼きのあのタコを見直さなければいけないと思わせる、タコのうんちくを傾けた楽しい本です。
タコは巨大な脳と優れた眼をもち、チンパンジーなどの高等動物顔負けの行動をやってのける。しかも、恐竜たちがいた古い時代から、頭脳と柔軟な身体をつかってしたたかに生きのびてきた曲者(くせもの)だ。といっても、タコの個体は寿命1年ほど。
タコには骨がなく、身体の大半を占めるのは筋肉組織。
タコは左右4本ずつ合計8本の腕がある(イカは10本)。
タコの得意技は物に化けること。タコは周囲のものに化け、溶け込むことができる。姿形を、そのときどきで周囲にあわせて変えることができる。
タコもイカも、瞬時に体色を変える。
タコの生涯の大部分は今なお、具体的にどこで、どのように過ごすのか分かっていない。
タコは身近だが、謎の多い生物。
タコは、貝の仲間から分化した。恐らくそれは6億年ほども前のこと。うひゃあ、す、すごい古―い話なんですね...。
タコのレンズ眼は大きく立派。その眼は、高精度の感覚器官だ。
タコは高度な学習と記憶能力をもつ。
タコは訓練によって学習する能力を有している。マダコは数週間から2ヶ月ほど学習内容を覚えている。
タコも遊ぶ。
タコは単独性。イカには社会をもつものがいる。
自分の近くに他のタコが来ると、タコは離れようとする。ところが麻薬を摂取する(させられる)と、タコは一変して社会性をもつ。
タコにも性格がある。好奇心の強いタコがいる。
タコは色覚を欠く。
タコは、じっとものを見る。凝視する動物だ。
タコの腕には多くの神経細胞があり、感覚器として機能している。
脳よりも腕に、より多くの神経細胞があるので、腕で(触って)考える動物だといえます。
日本はタコをたくさん食べますが、ヨーロッパではあまり食べないようですね。食習慣が違うからでしょう。
(2020年12月刊。税込1980円)

2021年3月23日

新型コロナの科学


(霧山昴)
著者 黒木 登志夫 、 出版 中公新書

新型コロナウィルスは、人々の生活を変え、世界を変えた。経済を破壊し、文化を遠ざけ、楽しみを奪った。
人類は、しばしば感染症に襲われてきた。撲滅された感染症は、天然痘だけ。人類は、これからも感染症と共に生きていかなければならない。
スペイン風邪は、ペストと肩を並べるようなパンデミックを起こした。日本では、1918年ころ、65万人がスペイン風邪のため死亡した。芥川龍之介もスペイン風邪にかかったが、助かった。斎藤茂吉も...。
スペイン風邪と名前がついているけれど、実はスペイン由来ではなく、いちばん確からしいのはアメリカ説。これはこれは、スペインって、とんだぬれぎぬを着せられているんですね...。
ウィルスの、もっとも本質的な特徴は、遺伝情報をDNAあるいはRNAの形でもってはいるものの、その情報をタンパクに翻訳することができないこと。ウィルスを増殖させるためには、生きている細胞を増殖の場として提供し、細胞のタンパク合成工場を貸してやらねばならない。
コロナウィルスは変異が多いように見えるが、実は変異の遅い部類のウィルスである。
うひゃあ、そ、そうなんですか...。
感染の大元は口と鼻。感染者の口と鼻から出た飛沫が飛び散り、さらにエアロゾルとなって、人に感染させる。すべては口から始まり、口に入って完結する。
マスクと手洗いが必要なのは、「災いの元」である口にフタをして広げるのを防ぐため。
合唱団でクラスター感染が起きるのは、長い時間、空気中で漂うエアロゾルが重要な役割を果たしているから。
エレベータ―のボタン、トイレの取っ手、電車の吊り革、およそ人と接触するようなところで、ウィルスは誰かにうつるのをじっと待っている。ウィルスが手につくと、顔(目、口、鼻)を触ったときに感染する。感染の半数は、無症状感染者から。
屋内は屋外より19倍もクラスター発生のリスクが高い。多くの感染者は、注意していながら感染してしまう。本人を責めることはできない。「自業自得」、「感染した奴が悪い」として感染者を排斥すると、差別につながり、科学的な対策の障害になる。
感染者の8割は軽症者。症状としては、嗅覚や味覚の障害があらわれる。糖尿病、高血圧、脂質異常症、痛風、肺疾患で治療している人は、重症化しやすく、死ぬ確率も高くなる。新型コロナにかかって治った人の後遺症として、倦怠感、呼吸が苦しい、咳が多く、記憶障害、睡眠障害、頭痛、味覚・聴覚の障害、脱毛さらには心臓の異常が発見されることもある。
コロナ禍が始まったのは中国。2019年12月に武漢市の医院に患者が入院した。1月18日、武漢市の市民4万人は何も知らされずに、料理をもち寄る大宴会「万家宴」を始めた。これが感染を広げた。5日後に、武漢は封鎖された。
ウ型コロナウィルスは、コウモリ由来であることは間違いない。ただし、意図的に人工的に作られたウィルスという可能性はない。
日本は、コロナによる死亡者数が目に見えて少ない。外国で100万人あたり400人以上の死者を出しているのに対して、日本は9.8にすぎない。日本だけでなく、韓国・ベトナム・ニュージーランド・中国に比べても助かっている。韓国と台湾は、驚くほどすばやく対応した。台湾はその日のうちに対策を始め、1週間のうちに、すべて完了した。日本の対応はスピード感がなかった。
コロナを知るのは必要なことだと、つくづく思いました。
(2021年2月刊。税込1034円)

 急に桜が満開になりました。卒業(園)式のころに満開というのは、例年より1週間早い気がします。
 わが家のチューリップも全開です。庭のあちこちに植えていますし、玄関わきの植え込みも全開で、朝、出かけに声をかけています。
 いつもチューリップ300本植えていると言っていますので、22日の朝、数えてみました。すると、なんと525本でした。9月から12月にかけて植えていったのですが、我ながら驚く数字でした。花粉症さえなければ、春は最高なのです...。

2021年3月14日

パフィン


(霧山昴)
著者 中野 耕志 、 出版 河出書房新社

鳥が空を飛ぶのはあたりまえですが、パフィンは海も飛べるというのです。
ええっ、ど、どういうこと...。パフィンは海に潜って、海面下50メートルまで潜れるんだそうです。えっ、えっ、そんな...。海中を50メートルもの深さまで潜れる鳥だったら、海も飛べるという表現は、あながち嘘とは言えませんよね...。
パフィンって鳥は、あくまでもカラフル。黒い背中に白いお腹、そして目立つのが虹色のくちばしとオレンジ色の足です。こんな鳥は日本では見かけません。それも、そのはず。
パフィンにはニシツノメドリ、ツメノドリ、エトピリカの3種類がいて、ニシツノメドリはイギリスやアイスランドといった北大西洋に、ツメノドリとエトピリカは、アメリカのアラスカ州など北太平洋に生息している。
パフィンは一年の大半を海上で過ごしていて、陸上で会えるのは、繁殖期の5ヶ月ほどだけ...。
パフィンは、いずれもハトくらいの大きさ。海に潜るため、パフィンの翼は面積が小さい。そして、パフィンのくちばしの裏には細かい「返し」がついているため、一度つかまえた魚をくわえたまま、たくさんの小魚を次々に捕まえることができる。著者が数えた魚は最高で84匹だった。うそでしょ、信じられません...。
エトピリカの名前は、アイヌ語のエトゥ(くちばし)と美しいの意のピリカに由来する。
パフィンの巣は、断崖にある。なので、撮影は大変な苦労をともなったと思います。ところが、著者はやりたいことをやれてよかったと、本気で関係者に感謝しているのでした。
それにしてもパフィンって、なんてカラフルな鳥なんでしょう。ちょっと困ったような、その眼差しに、虜(とりこ)になった野鳥と飛行機を専門の写真家による、とても素敵なパフィン写真集です。
(2020年7月刊。1350円+税)

2021年2月22日

里山に暮らすアナグマたち


(霧山昴)
著者 金子 弥生 、 出版 東京大学出版会

日本固有種であるイタチ科動物の二ホンアナグマの生態をずっとフィールドワークで追っていた女性研究者による本です。
フィールドワークをする学生・若者がとても少なくなっているという話が最後に出てきます。著者は女性のフィールドワーカーとして先駆者だったようです。
イタチ科のなかでも土を掘る方向へ進化したアナグマは、前肢が大きく発達し、鋭い爪のある大きな前足を有する。生活のおもな部分は地中の巣穴で過ごすため、おもに嗅覚に頼っていて、鼻が大きく発達している。
アナグマは走行は遅い。
アナグマのおもな餌はミミズ。秋には柿の実を食べる。
穴ごもりの前に体重を50%以上増やし、穴ごもりのあいだは餌をほとんど食べない。
10月半ばから3月下旬ころまで穴ごもりし、4月上旬に出産し、7月末まで授乳する。
けもの道には、高速道路と一般道路がある。うひゃあ、そうなんですか...。
著者は、けもの道の上を実際に四つん這いになって歩いてみたことがあるとのこと。えらいですね、学者って...。
フィールドワークをする人は、基礎体力が必要で、これがないとできない。しかし、同時にデータをきちんととってくる人でなければならない。当然ですよね...。
現場で状況にあわせて柔軟に機転をきかせることができる人、体力が届かない部分を努力と気力で補える人がフィールドワーカーにふさわしい。なーるほど、です。
アナグマはおもに夜行性なので、研究データの取得は夜間。昼と夜が逆転する生活を余儀なくされる。それは大変ですね。
アナグマの母は、ふだんおだやかだけど、出産する前に前年生まれの子どもは威嚇して巣穴から全部追い出してしまう。「涙の子別れ儀式」というものではない。
著者が1990年から6年間アナグマを観察したとき、「コニシキ」と名づけたアナグマがいた。おっとりした性格で、体重は10.7キログラム。アメリカ式の最新式の発信機を装着して、その行動を追跡した。すごく粘り強く観察したわけです。
日の出町には民家に上がり込んで餌をもらうメスのアナグマがいた。「フサチャン」という名前がついていた。写真もありますが、これまたすごいですね...。
この「フサチャン」は5年間に4回も出産して、13頭の子どもを育て上げたとのこと。よくよく観察できました(パチパチパチ)。
「アナグマにとっての世界とは、においによる世界である」
アナグマは嗅覚に頼って生きている動物だということです。
最後に、フィールドワーカーまで絶滅危惧種になりつつあるとされています。残念です。フィールドワーカーは「40歳でピーク」を迎えるとのこと。50代半ばの著者は、それでもまだフィールドワークをがんばっているようです。フレーフレー...。これからも楽しいレポートを期待しています。
(2020年11月刊。3800円+税)

 自宅に戻ると大型の封筒が届いていました。
 仏検の合格証書が入っています。1月末に受験したフランス語の口頭試問(準1級)は無事に合格していました。基準点23点のところ29点です(合格率は22%)。これで、準1級の合格証書は9枚目になりました。2009年以来です。いつもボケ防止のつもりで、とても緊張して受験しています。
 これからもフランス語の勉強は続けるつもりで、このところ、毎週の教室に向けて仏作文にがんばっています。

2021年2月15日

進化のからくり


(霧山昴)
著者 千葉 聡 、 出版 講談社ブルーバックス新書

私はスマホを持たず、いつまでたってもガラケーだけ。それも、いつもカバンの中に入っていて、着信履歴を自宅に戻って充電するときに気がつくほど。
そのガラケーの由来であるガラパゴスについて、「ダーウィンによって発見されたガラパゴスフィンチのくちばしの形状の違い」というのが、実は伝説にすぎなかったというのです。この出だしの指摘には驚いてしまいました。
フィンチ類のくちばしの形状は、わずか40年ほどに変わる。エルニーニョにともなう気候変化によってくちばしの大きさと形は変化するのが認められた。これはダーウィンの発見のことではありません。1970年代からガラパゴス諸島で研究していたグラント夫妻によるもの。
ガラパゴス諸島には年間20万人もの観光客がやってきて、エクアドル経済を大きく支えている。
実は、ダーウィンは、ガラパゴス諸島に滞在中、ダーウィンフィンチにはまったく関心をもたなかった。ガラパゴスがダーウィンの訪れた特別な場所として人々に意識されるようになったのは1930年ころからのこと。
カタツムリのジェレミーの話は大いに受けます。2016年秋、イギリスのノッティン・ガム大学の広報室が市民に向けて呼びかけた。
「孤独な左巻きのカタツムリが、愛と遺伝学のため、お相手を探しています」
ジェレミーとは、ヒメリンゴマイマイというヨーロッパに普通にみられるカタツムリ。ただし、ふつうは右巻きなのに、ジェレミーは100万匹に1匹の確率で生まれる左巻き。左巻きのジェレミーは、右巻きのカタツムリとは交尾ができず、子どもをつくれない。そこで、このジェレミーの相手となる左巻きのカタツムリを市民に捕まえてもらおうという呼びかけだった。
これには各国のメディアが飛びつき、世界中で19億人がニュースを見た。すると、まもなく左巻きのカタツムリが市民から寄せられたのです。イギリスから、スペインのマヨルカ島から...。そして、ついに、ジェレミーの子どもが誕生したのでした。カタツムリって、オスでもありメスでもあるという不思議な生き物なんですね...。
次は、カワニナの話。100万年前、日本列島は大陸と一体だった。そのころ、日本から韓国にカワニナが移住していた。これは常識に反する事実です。DNA解析で判明した事実でした...。
著者は小笠原にもたびたび出かけているようです。
東京から父島まで船で1日。そこから船で2時間以上かけて母島にたどり着く。人口450人の村。今も昔も住民は若い。生活が厳しいので高齢者は少ない。そこでカタツムリを探してまわる生活。それが生態学者なのです。
ちょっとどころか、大いに変わった生態学者たちが次々に登場し、常識をくつがえすような発見をするのです。大自然の厳しさとたたかいながら...。
「むっちゃおもろい」という評言は、決してウソではありません。
(2020年7月刊。1000円+税)

2021年2月13日

南極ダイアリー


(霧山昴)
著者 水口 博也 、 出版 講談社選書メチエ

南極大陸にすむ生物の話が中心です。
今から6600万年前までの中生代のころ、南極大陸は緑が茂っていて、森林には恐竜たちが闊歩していたというのです。首長竜エラスモサウルスの化石が発見されているそうです。地球はそれほど温かかったのでした。暖流が南極大陸の沿岸にもやってきていたのです。今では、南極大陸は切り離されて、寒冷化しています。ところが、再び地球温暖化の影響を受けて、少しずつ生態系に変化が起きているようです。
南極大陸でペンギンたちが広大なコロニーをつくって営巣していますが、これはホッキョクギツネのような捕食獣が生息していないから。
ちなみに、ペンギンって、すべて南半球にいて、北極圏にはいないとのこと。うひゃあ、そ、そうだったんですか...。
南極は、この50年間で平均気温で3度も上昇した。南極に近づくと船は海洋投棄は一切しないことになっている。南極大陸に上陸するときには、靴の底を消毒液で洗浄する。また、外で用を足してはいけない。すべて携帯用のものに入れて持ち帰るルールだ。なーるほど、ですね。なにしろ、年間5万人もの観光客が南極に来るそうですから...。コロナ禍の今は、もちろん違うでしょうが...。
氷山の裏側に珪藻類がはりついていて、これをナンキョクオキアミが食べる。このオキアミは、5億トンと見積もられるほど大量に存在するので、アザラシなどが生息できる。カニクイアザラシは1500~2000万頭が生息している。ザトウクジラもオキアミを食べて生活している。
南極大陸では温暖化がすすむ一方で、降雪も増えている。すると、アデリーペンギンが子育てのための場所を確保できずに困ってしまう。
ザトウクジラは、激減して1万数千頭しかいない状況になったが、完全保護の下で回復し、今では12万頭はいると見込まれている。
ヒョウアザラシと海中で遭遇すると、威嚇するポーズをとるが、何もしないでいると、やがて離れていくとのことです。でも、ちょっと怖いですよね。
ペンギンは、年に1回、新しい羽毛につけ替える。そのときは、じっと動かずエネルギーを消費しないようにしている。
コウテイペンギンの寿命は20年とみられている。体高1メートル、体重は30数キロ。海に入るときも、海から出るときも、全員がタイミングをあわせて一気にやってしまう。恐らく、ヒョウアザラシ対策だ。
南極近くのキャンベル島には、シロアホウドリが1万5000羽いる。
読んで楽しい南極の本です。
(2020年11月刊。1800円+税)

2021年2月 1日

まとまりがない動物たち


(霧山昴)
著者 ジョン・A・シヴィック 、 出版 原書房

イヌは飼い主や周囲の社会集団と一緒なら、別の土地に移ってもおおむね平気でいられる。ところが、ネコの心は環境の変化によって傷つく。ネコに必要なのは、持ち物。ネコが慣れ親しんだモノをもっていくこと。
クモ(キマダラコガネグモ)のメスは、オスと交尾した直後にオスを食べてしまう。そこで実験した。すると、求婚者を殺したメスがいたのに、殺さなかったメスもいた。つまり、クモのメスにも攻撃性の度合いの違うさまざまな個体がいることが判明した。20%のメスは配偶者を攻撃せず、60%のメスはオスを攻撃したものの殺しはしなかった。残る20%だけが交尾の完了前に殺された。メスにとって、オスは交尾の途中からごちそうに変わってしまうのだ。
砂浜にすむシオマネキにも積極的な個体と内気な個体がいる。メスの89%は勇敢なオスをパートナーとして選んだ。つまり、メスを惹きつけたのは、オスの個性だった。このように、長い目で見たら、個性は何より重要な指標になりうる。
シジュウカラの勇敢な個体は、朝と日中の良質の餌を最優先したのに対し、臆病な個体は、餌食にされるより空腹でいるほうを選んだ。
どんな動物にも社会性がある。社会性と結束は、あらゆる動物にとって欠かせないもの。
10代の若者の内面で起こる葛藤に私たちはもっと目を向けるべき。このころ生殖機能の発達は最終段階を迎え、個性が固まっていく。
10代の若者は、誰がかっこよくて、誰がかっこよくないかを判別することで、自分たちに社会性があるか、どれくらい社会的かを判断している。積極性や社会性の高い個体がどれくれいいるかによって、そのグループ全体の個性が決まる。
胎児の発育初期に母親が食糧不足にあっていた子どもは、冠動脈心疾患や肥満、糖尿病にかかりやすい。
人間はニワトリを何世代もかけて生産性を大きく向上させてきた。1950年に1羽で年に270個の卵をうんでいたのが、1990年には340個(29%の増加)、そして卵のサイズも42.7%も大きくなった。
人間は動物から学べることがたくさんある。動物は私たち人間と社会に驚くほど似た性格や習性をもっているから...。人間だけが卓越した存在と考えるのは偏見だ。
多様な個人が集まれば、個人よりも賢明な集団ができる。多様性は非効率に思えるかもしれないが、個人が集団のなかで力を発揮すれば、ひとりで行うよりも多くのことを成し遂げられる。多様な個体によるバランスのとれた協力関係、つまり共生や種内、種間で相互に利益となる関係を築くことが生きる力となる。
みんな違って、みんないい。金子みすずの言っていることは、まったく正しいのですね...。
絆(きずな)は人間同士で結ばれるだけでなく、人間とペット、野生動物、あるいは家畜とのあいだでも結ばれる。
ここで『ライオンのクリスチャン』を思い出しました。赤ちゃんライオンを育てあげたイギリスの青年が大きくなったライオンをアフリカの平原に放したあと、何年後かにやってきたとき、ライオンは青年を覚えていて、大人のライオンと人間が抱きあうのです。これはユーチューブで映像として見ることができます。信じられない光景です。
絆とは愛である、愛とは、個体を、他者と、とりわけ決まった他者と協力したいという気持ちにさせる前向きな力である。愛することは、抗え(あらがえ)ないほど気分のいいことなのだ...。個性と多様性がいかに大切なのかをいろんな実例をあげて説明してくれている動物学の本です。大変勉強になります。
(2020年5月刊。2400円+税)

2021年1月25日

ママ、最後の抱擁


(霧山昴)
著者  フランス・ドゥ・ヴァール 、 出版  紀伊國屋書店

 著者はチンパンジーなど霊長類の社会的知能研究における世界的第一人者です。私と生年が同じ、団塊世代の学者でもあります。
ママとは、59歳になるチンパンジーのメス。ママは死に至る病床にあった。そこへ、80歳になろうとする生物学のヤン教授が同じ夜間用のケージのなかに入っていって、ホッホッホッという優しく親しげな声を出しながら近づいた。ママはヤンに気がつくと、途方もない喜びの表情を浮かべた。ママとヤンは40年来の親友だった。
 ママは、そっとヤンの髪をなで、それから長い腕の一方をヤンの首にかけて引き寄せた。こうして抱きしめているあいだも、ママも指は、ヤンの後頭部とうなじをリズミカルに軽く叩き続ける。ぐずる赤ん坊を静かにさせるときにチンパンジーがする、相手をなだめる仕草だ。心配しなくていいと、ママはヤンに伝えていた。ママはヤンに会えてうれしかった。
 チンパンジーのケージのなかには絶対に入ってはならない。チンパンジーの筋力は、人間の大人のプロレスラーもかなわない。そして、チンパンジーは何をしでかすか分からない。一緒にいて安全なのは育てた人間だけ。ヤンは育ての親ではなかった。しかし、今ママはすっかり弱っていた。
 チンパンジーは、顔認識に長(た)けていて、素晴らしい長期記憶をもっている。
 チンパンジーのアルファ・メスとしてママは、いつも堂々たる態度だった。チンパンジーは、四六時中、相手を出し抜こうとし、絶えず相手あるいは自分がどれだけ優位に立っているのか、その限度を探っている。
 ママは権力をもっており、それを行使した。ママは仲裁の達人だった。
 チンパンジーたちは長期的なパートナーシップとは無縁なので、オスは成熟したメスに惹かれる。同時に複数のメスの性皮が腫脹したら、オスは必ず、そのうちの年長のメスと交尾したがる。人間のように若いほうを好むのではなく、すでに何頭か健康な子供を産み育てた実績のあるメスを好む。
 オスは精力旺盛なほうがトップ(アルファ)になる。メスは年齢(とし)が物を言う。メスは地位をめぐって競うことはほとんどない。ひたすら待つ。メスは長生きすれば、必ず高い地位に就ける。
 アフリカ・コンゴで密猟者によって瀕死の状態になったところを救われたチンパンジーのウンダは、2013年に森に戻されたとき、いったん森のなかへ歩み去ろうとして、急いで戻ってきて、世話をしてくれた人々をハグした。その中心人物のグドールとは長いあいだ抱きあった。
チンパンジーは、自分たちのあいだで返報する。恩返しもすれば復讐もするのだ。チンパンジーは、自分から予期していたとおりの扱いを受けないと、耳をつんざくような声をあげて癇癪(かんしゃく)を爆発させ、どうしていいか分からずに地面をころげ回る。人間と同じで、動物にも情動的知能があるのだ。
他の者たちをみな恐怖に陥れることによってトップの座にたどり着いたオスは、一般に2年くらいしか君臨できず、その後は悲惨な顛末を迎える。ところが人気のあるリーダーは、並外れて長く権力を保持することが多い。メスたちにとって、自分たちを守り、仲むつまじい群れの生活を保障してくれるアルファオスの安定したリーダーシップほど望ましいものはない。そうした生活は、子育てにふさわしい環境なので、メスたちは、そんなオスを権力の座につかせておきたがる。
 良いリーダーは、その地位を失っても、群れから追い出されることなく、第三位に落ち着き、幼い子供たちに親しまれて全生を過ごすことができる。
チンパンジーの世界は弱肉強食をモットーとする人間社会によく似ているものです...。
(2020年10月刊。2400円+税)

2021年1月18日

サルと屋久島


(霧山昴)
著者 半谷 吾郎、松原 始 、 出版 旅するミシン店

屋久島のサルの生態を現地で30年間にわたって観察してきた学生主体の調査隊の苦闘が生々しく紹介された本です。私が大学生だったころの奥那須・三斗小屋での5泊6日の夏合宿を思い出しながら、楽しく最後まで読み通しました。
三斗小屋は温泉旅館(煙草屋)でしたが、ランプ生活で、自炊です。なので黒磯駅で男女学生30人分の食材を購入して分担して搬入しました。食事当番は、食当(本書では「しょくとう」、私たちは「しょくあたり」)と呼んでいました。
この本では乏しい予算のなかでのやりくりの大変さ、山の中、雨の中での食事づくりや避難のときの食材不足のハプニングをいかに切り抜けていったか、笑える話が満載です。
私たちも「闇ナベ」というのをしていましたが、本書でもお腹をこわさなかったのが不思議な食事内容がいくつも紹介されています。まさしく若さの特権です。
屋久島は、小さな島の中に、南日本から北日本までの気候を垂直方向に詰め込んでいる。とにかく雨が多い。屋久島登山では携帯トイレの利用が義務づけられている。
イラストは著者の一人である松原始博士の手になるものですが、これがまたホンワかした絵なので、親しみやすく、理解を助けます。
残念なことに、私は屋久島へ行ったことがありません。
屋久島にはサルが多い。「猿害」防止のため、1980年代後半には、年に400頭毎年捕獲されていた。捕っても捕っても、サルは湧いてくると思われていた。このころ、サルが屋久島に3000頭いると推測されていた。
定点観測では、学生が炎天下、一日中、ただただ座って、サルがあわられるのを待つ。ひたすら退屈と戦う。眠気との戦いだ。その結果、1平方キロメートルあたりサルが100頭もいるという驚異的な密度にあることが判明した。
屋久島のサル群は、出会ったら常にケンカが起きる。縄張り争いだ。サルは基本的に樹木の葉を食べている。キノコも食べる。毒キノコかどうか、慎重に選んでいる。
サルの顔は、一度覚えてしまうと、一頭一頭がまるで違って見える。もちろん、そうなるまでには、何か月もひたすら観察しなければいけない。著者は30頭のサルを識別できたとのこと。すごいですね...。
じっくり顔や指を見て、識別の手がかりとなるポイントを探す。
ニホンザルの寿命は、野生では20年ほど。生後6ヵ月までをアカンボウ、その後はコドモで、オス5歳、メス4歳ころにワカモノになり、10歳でオトナになる。メスは一生、群れにとどまり、オスはワカモノになったら群れを離れ、数年おきに群れを移籍していく。
屋久島のサルを実態調査した結果、2000頭から4000頭いることが判明した(1988年)。
一読する価値が大いにあるヤクシマザル調査の苦労話です。
(2018年12月刊。1600円+税)

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