弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2012年12月11日

ホンダ・イノベーションの神髄

著者   小林 三郎 、 出版   日経BP社 

 この本を読んで、車のエアバッグは火薬によって膨らまされていることを知りました。そして、高圧の窒素ガスを使うよりも火薬のほうがより安全だというのです。これには驚きました。
高圧ガスは圧縮されているので、物理的に常に高いエネルギーを保持した状態にある。それが故障で開放されたら重大な事態を生む。ところが、火薬は火が付かない限りエネルギーはもっていない。これなら暴発に至る故障モードが少ないし、点検作業も安全にできる。火薬のほうが、ともかく故障しにくい。エアバッグのような安全装置は、万一の衝突のときに絶対故障しないのが絶対の価値なのだ。その仕組みは、火薬が爆発的に燃焼して、大量の窒素ガスを発生させ、エアバッグを瞬時に膨張させる。
 そして、エアバッグは故障率100万分の1の技術を実現した。いやあ、たいしたものです。エアバッグの設計における基本は、システムを可能な限りシンプルにしておくこと。そのためには部品数を最小限に抑え、接続箇所も極力少なくする。
 部品の不良が発生しても、トレーサビリティーのシステムによってその部品を追跡できるようにしておけば、被害は最小限におさえられる。
 成果主義をとり入れたらイノベーションは全部止まってしまう。
イノベーションは、基本的に成功か失敗だ。しかも、10年かけたうえで失敗に終わることも珍しくない。イノベーションには、記憶力と論理分析力にこりかたまった人材は不適だ。それらもある程度は必要だが、それだけではダメ。たとえ何回失敗しても、長い時間がかかっても絶対価値の実現に挑戦し続ける人こそ、イノベーションに向いている。今の日本の教育は、こうした人を排除する方向にある。だから、ホンダでは学歴無用だ。
 イノベーションには掟がある。40歳を過ぎても不別のある、でも頭の固くなりつつある人は、自分でイノベーションをやろうとしてはならない。イノベーション力のある若い人に考えさせる。
 ところが、若い人は知識と経験が少ないので、提案の大半は役に立たない。そこで、技術の価値や実現可能性を見抜くのが40歳を過ぎたベテランの非常に重要な役割だ。
 とても新鮮な刺激にみちたビジネス書でした。成果主義でうまくいった会社なんてないとよく言われますよね。なるほど、と思いました。
(2012年7月刊。1800円+税)

2012年12月 9日

北斎

著者   大久保 純一 、 出版    岩波新書 

 カラー版の楽しい新書です。新書ながらも、浮世絵の素晴らしさをしっかり堪能することができました。さすがは北斎です。すばらしい絵に目を見張るばかりです。
 1988年、アメリカのグラフ誌『ライフ』が世界の人物100人をあげたうち、日本人では北斎がただ一人上げられていた。
北斎は、めまぐるしく画号を変えた。93度にも及ぶ異常なまでの転居癖。
 浮世絵風景画の代表作は「富嶽三十六景」。絵手本の代表作「北斎漫画」。この「漫画」は現代のコミックとはまったく異なるもの。
 浮世絵で、両国の花火大会を描いた絵は、その大きな構図といい群衆場面といい、さすが描写が驚嘆するほど細かい。
ヨーロッパ彫刻画(エッチング)の影響もあります。いいものは、すばやく取り入れたようです。「富嶽三十六景」の富士山を大波が襲いかかろうとする構図の大胆さには胆を抜かれます。また、あざやかなブルーを使った海洋図も、すごい迫力です。ベロ藍というそうです。
 浮世絵の到達した境地は、世界中に響きわたったのでした。
(2012年5月刊。1000円+税)

2012年12月 6日

プラスチックスープの海

著者   チャールズ・モア 、 出版   NHK出版 

 いま、世界中の海がこんなにもプラスチックに汚されているなんて、まったく知りませんでした。衝撃的な事実です。
豊かで秩序だった自然が、いま増加する一方の永続的プラスチックによって海洋も陸も汚染されている。海洋のプラスチックはほとんど取り除けないし、すぐには消滅もしない、海と美しいビーチに、未来永劫、醜い姿をとどめるだろう。
プラスチックは腐敗が遅い。現実的な時間枠の中では生分解しない。熱や化学反応で結合された炭化水素である人口の重合体(ポリマー)は非常に強く、分解されにくい化学物質である。プラスチック製品は割れて破片になり、やがてナノ粒子となって幾世期も環境を汚染し続ける。
現在、ポリエチレンの年間生産量は4000万トン。ポリエチレンフィルムがラップフィルムの中では圧倒的シェアを占め、世界中で8000万トンが製造されている。50億個ものライター、ペン、シェーバーから3000万トンのプラスチックが生じている。ペットボトルのキャップふたは年間1兆個生産されている。ボトル入りの水は年間5000億本も製造されている。1970年にはゼロだったレジ袋が、2011年には5000億枚になった。
 アメリカでは生産業の上位5社はプラスチック業界と化学業界が占めている。コカ・コーラ社は、ペットボトル入りの飲料を毎日、15億本も提供している。
北太平洋環流には、重量で動物プランクトンの6倍のプラスチックが存在することが判明している。
コアホウドリの幼鳥は、毎年10万羽死んでいるが、その4%にあたる4万羽はプラスチックの誤食によるもの。アホウドリのごちそうであるトビウオの卵は浮遊ごみの上によく漂っているが、今や、それはたいていプラスチックである。アホウドリの不運は、好みの食べ物がプラスチックにとても似ていることである。ぴかぴか光り、色鮮やかで、ぴょこぴょこ浮く。1963年の調査では、アホウドリの73%がプラスチックをのみこんでいた。
1983年の調査によると、コアホウドリの幼鳥の死体の90%にプラスチックが見出され、摂取されたプラスチックの重量は。1963年に1.87グラムだったのが、76.7グラムに激増している。幼鳥の98%からプラスチックが発見された。
解剖したウミガメの80%の内臓に海洋ゴミが見出され、そのほとんどがプラスチックだった。ウミガメは、好物のクラゲとレジ袋を間違えやすい。
プラスチックゴミが増えることは、食物連鎖に毒物が取り込まれる可能性を高め、その毒物はやがて人間にとりこまれていく。
 恐ろしい現実ですね。スーパーのレジ袋だって大いに減らす必要があるというわけです。身の回りを振り返る必要があります。
(2012年8月刊。1900円+税)

2012年12月 2日

ヘルプマン (16巻)

著者   くさか 里樹 、 出版   講談社 

 身につまされるマンガ本のシリーズです。とりわけ、この16巻は、いわゆる定年後をいかに過ごすかが共通の切実な話題となっている団塊世代である私の背筋をゾクゾクさせてしまう寒い話でした。もちろん、弁護士ですから私自身には定年がなく、しばらくは元気で働けるものと自負しています。それでも、もし弁護士でなかったら、どうなっているのだろうかと心配になったのです。
16巻の主人公は女性のデザイナーです。若いときには、言い寄る男どもを振り切って独身生活を謳歌していました。ところが、64歳になった今、住み慣れた賃貸マンションを出ていかざるをえなくなったとき、高齢者の一人暮らしでは、住むところを見つけるのも苦労するのです。
 そして、まだまだデザイナーとして十分に働く自信があるというのに、取引先からはIT化のすすむなかで、もう仕事はまかせないと冷たく宣告されてしまうのでした。
 同じ独身女性仲間を頼って転がりこもうとすると、その彼女が、なんと脳いっ血で倒れてしまったのです。それなりの資産のある彼女を身内が引きとり田舎へ連れていこうとします。彼女は元気なうちにエンディングノートを書いていて、自分のマンションで最後まで生活することを希望しているのに、そんなノートには法的効力はないと言われてしまいます。主人公は途方に暮れるばかり・・・。
 十分な介護を受けたくても受けられない現実。ゆっくり充実した世話を入所者にしたくても出来ない介護職員の悩み。ともかく待遇が劣悪なので、長く働くのはとても厳しいという現実があるのです。
 少し前の認知症編も、今回と同じように身につまされました。次第に、自分が自分でなくなっていくと言う不安感が全身を包みます。それは、そうなったでむしろ本人は幸せなのかもしれません。でも、周囲が大変ですよね。
いずれにしろ、21巻のうちようやく16巻まで読了しました。あと5巻、完全に読みきります。いま、誰かれかまわずおすすめしているマンガ本です。あなたもぜひお読みください。
(2011年2月刊。543円+税)

2012年11月30日

『清冽の炎』 第7巻

著者 神水 理一郎  、 出版  花伝社

東大闘争とセルツメント活動について、ついに完結編が刊行されました。まずは、7巻のあらすじを少し詳しく紹介します。
北町セルツメントで活動していた元セツラーたちの同窓会が20年ぶりに北町近くで開かれた。みなまだ現役の教師であり、会社員や大学教授としてがんばっている。学生セルツメントで何をしていたのか、何を話しあっていたのか、20年前を振りかえった。佐助はあこがれのヒナコと元気に再会することができた。振られたという思いから固まっていた佐助の心がゆっくり温められていった。
 さらに9年がたち、卒業して30年目の北町セルツメントの同窓会は、かつて4泊5日の夏合宿をした、奥那須にある山奥の三斗小屋温泉で開かれた。このときは、9年前とは違って、そろそろ定年を意識する年齢になっていた。
 青垣の事件は一郎弁護士が心血を注いで、取り組んだものの、一審では有罪となってしまった。弁護団を拡充して控訴したものの棄却され、最高裁に上告することになった。裁判所は大手メーカーを頭から信用して被告人の言い分に耳を傾けようともしない。
 佐助は経済学部を卒業して定石どおり製造会社に入った。労務課に配属されると、意義の分かりにくい人事管理と接待に明け暮れるようになった。ある日、競合メーカーに入った芳村が来社した。あとで、芳村は佐助のことを隠れ党員だと密告した。労務課の毎日の業務がストレスとなって佐助は危うく病気になりかけた佐助は、ついに転身を決意した。司法試験の勉強を始めたものの、なかなか合格できない。ようやく合格して、佐助は東京・下町で弁護士として働くようになった。
 父を知らない一郎は、何とか父親の素性を知りたいと周囲に真剣に問いかけるが、なぜか皆よそよそしく、取りあおうとしない。
 最高裁が上告を認めず、ついに有罪が確定して、青垣は刑務所に入ることになった。他方、芳村は海外での大型商談がまとまり、ついに取締役の座を射止めることになった。
 大手の法律事務所につとめていた一郎は、人間を扱いたいと考えて、都内に個人事務所を開業した。そして、一緒についてきてくれたパラリーガルの美香に結婚を申し込んだ。美香の母親は元セツラーのヒナコで、一郎の母である美由紀とは都立高校の同級生だった。
 夫を事故でなくしたヒナコは佐助に法律相談をもちかけ、二人だけで話すようになったが、子どもたちの将来を壊してはいけない、そんな思いから一歩先にすすめることができない。佐助も、そんなヒナコの思いを受けとめ、またもやすれ違いに・・・。それでも、上空に清冽の炎が燃えている。
(2012年11月刊。1800円+税)

2012年11月29日

40代からのガン予防法

著者   神代 知明 、 出版   花伝社 

 還暦すぎた私が、今さら「40代からの・・・」ではありませんが、健康法も私の関心事の一つです。
 著者は、かつて「マック」に勤めていました。あんなものは、化学薬品を食べているようなものですよね。
かつて勤務していたハンバーガー店で、揚げ物用に1週間ほど使いつづけていた油は、ショートニングだった。ということは、その店のフライドポテトは、酸化油、トランス脂肪酸、過酸化脂質、アクリルアシドという、ガンリスクの四重奏(カルテット)ということ。
赤坂交差点のマックの店にいつも行列をつくっている人々をみるたびに、どうして、がんリスクを考えないのかと私は不思議に思います。
 ガンは予防が可能だ。予防に勝ものはない。
 ガンは遺伝するとよく言われるが、遺伝性のガンは多くてもせいぜい5%。ガンの家系というより、食事、内容や生活習慣、性格など、ガンを発症する原因を2代あるいは3代にわたって共有してしまった可能性の方が高い。
 ガンにも、治療の必要のないガンもある。むしろガン治療の副作用のほうが怖いことがある。日本でガンになる人の3.2%は、医療機関での検査被曝が原因で発ガンしたと推定されている。
 これを知って、人間ドッグのレントゲン検査は年に2回受けていたのをやめて、年に1回にしました。これでも多すぎるのかもしれません。
 沖縄が日本一の長寿県だったとき、その原因の一つが昆布の摂取量が日本一、全国平均の1.5倍というのがあった。ゴーヤーも島豆腐もオキナワモズクもいい。ところが、オキナワの県民が肉を食べ、ハンバーガーを大量に食べるようになると、オキナワの男性の平均寿命はトップから20位に転落してしまった。
 肉を食べたいのなら、食事全体の5%におさえる。そして、野菜を肉の倍ほど食べること。夜は12時までに寝ること。午前0時から2時までは、リンパ球が一番働く時間帯だ。リンパ球はがん細胞を攻撃してくれる。早い時間に眠っている人はそれだけ免疫力も機能して、ガンの予防につながる。
笑いはガンも抑制する。白血球の中のリンパ球にはがん細胞を攻撃する免疫細胞が存在する。その代表格。αNK細胞は、笑うことによって活性化する。そして、笑う以前に明るく楽しい気分を過ごすのが大切だ。
 無理なく、自然体で、明るく、笑いとともに生きること。肉類より野菜衷心の食生活、そして、夜はなるべく早く眠ること。
なんだか昔ながらの当たり前の健康法ですね。まあ、ガン予防と言っても別に目新しいものがあるのではないということなんでしょうね・・・。
(2012年3月刊。1500円+税)

2012年11月23日

ともにがんばりましょう

著者   塩田 武士 、 出版   講談社 

 戦後日本社会で、今ほど労働組合の影が薄いときはないのではないでしょうか・・・。
 戦後、総評は絶大な力をもっていました。労働者の生活と権利を守る砦として労働組合が確固として存在として存在していました。これに対して、同盟というのは、会社の労務担当がつくったものという認識が一般的であり、スト破りというイメージがつきまとっていたと思います。総評と同盟が一体化して連合となってから、労働組合と会社とは平和共存というイメージでとらえられるようになり、闘争というフンイキが消えてしまいました。フランスでは、今でもストライキもデモ行進もあたりまえの光景です。なにしろ警察官や裁判官にまで組合があり、デモ行進するのですから・・・
 ストライキがあり、集会やデモ行進が普通にあっていました。私が大学生のころ、40年前は順法闘争というのもあって、東京の国電(山手線など)は、時間遅延があたりまえでした。みんな困っていましたが、ストライキだから仕方がないというあきらめもありました。
 そして、1週間も続いたスト権ストが最後の仇花(あだばな)のように、ストライキはなくなり、今や死語と化してしまったようです。ところが、この本は、労働組合とは何をするものなのか、会社との団交はどうすすめられていくのかについて、教科書のような展開です。
 ええーっ、労働組合が今日では小説の題材(テーマ)となるほど珍しいものになってしまったんだなと思ったことです。
 でも、書かれている内容は、しごくあたりまえのことばかりです。黙っていたら経営の論理がまかり通ってしまい、労働者の権利なんて、まるで無視されてしまう。労働組合は今でも大いに役立つ存在なのだということを、しっかり実感させてくれます。
 多くの労働者の矛盾する要求をいかにまとめあげていくか。経営者側の論理を団交のなかで、いかにして論破するのか。見事なストーリー展開で思わずガンバレと拍手を送りたくなります。
 著者が神戸新聞社に勤めていたときの体験をもとにした小説だと思いました。
 労働組合をよみがえらせたいと考えている人に、とくに一読をおすすめします。
(2012年7月刊。1500円+税)

2012年11月22日

山田洋次と寅さんの世界

著者   吉村 英夫 、 出版   大月書店 

 かつて、お盆と正月には家族そろって寅さん映画をみていました。年に2回の楽しみでした。よくも年に2回、マンネリズムとの批判をものともせず、つくれるものだと山田洋次監督に驚嘆していました。映画第一作の前のテレビ作品はみていませんが、第一作は大学の学園祭(五月祭)のときにみました。大教室に学生があふれ、みんなで大笑いしたことを覚えています。ゲバルトに明け暮れていた学園に平和が戻ったことを実感させてくれる貴重なひとときでした。
 生きづらい世の中である。住みにくいご時世である。だが、悲観論だけでは、何も生まれない。そうなんです。だからこそ、喜劇をみて笑い飛ばしたいのです。
 山田洋次は、テレビドラマの演出をしない。小さい画面に多人数を映すのは難しく、アップを多用しなければならない。そして、アップの人物の表情や気分しか観客は理解できない。だから、私はテレビを見ません。やっぱり映画館の大スクリーンでみたいのです。
 山田洋次は、怒る寅、なだめる博、悲しげなさくらを観客は自由に選択して見てほしいのだ。映画こそが生き甲斐の映画バカ。それが山田洋次である。
山田には、すべてが映画の題材にみえる。どうドラマにするかと考える。
山田は素材ゼロからオリジナルを創造するタイプではない。小説や新聞の三面記事から想像を広げていく型の作家である。
 物腰柔らかく謙虚な山田洋次は、同時にしたたかで一筋縄ではいかない。老獪とも言えそうなほどの老練さ、そういう幅と奥行きも持っている。
 寅さんシリーズが長大なものとなって内容的にも興行的にも成功したのは、松竹の大船撮影所のシステムが機能していたから。スタッフが専属で、毎回、同じ山田組で仕事ができて、出演者もほぼレギュラーだから、山田洋次は、キャメラの高羽哲夫をはじめ、息のあったチームをつくりあげることができた。このスタッフが山田洋次を支えた。社員スタッフが定年になってからも山田組に馳せ参じるシステムは、21世紀には大手の映画会社でも不可能になった。
 寅さん映画の観客動員総数は8000万人。第8作以降、常にトップ10位までに入っていた。観客の内在的要求にこたえ、マンネリズム批判までも普遍性に昇華させてシリーズのハイレベルを持ち続けた山田洋次・渥美清コンビの創造力と想像力、そして努力は測りしれない。
山田組はひとつの家族のようにして映画を作りあげていった。質の良さを直感した人たちが、テレビの前から家を出て、暗黙の劇場にまで足を運んだ。
 寅さん映画は正月映画として27年間連続続けた。
 齢80を迎えてなおも青年の魂と、ろうたけた知力を持つこの希有の映画作家は、さらに無縁社会の克服が国家百年の宿願であることを語り続けるだろう。酷薄な社会に立ち向かう力は、個の確立を前提とした家族ないし共同体的なものにならざるをえない。
 寅さん映画を、また映画館の大きなスクリーンでみてみたいと思いました。近く、「新東京物語」が上映されるようです。今から、楽しみにしています。
 寅さん映画ファンにはたまらない本です。
(2012年9月刊。1800円+税)

 月曜日、日比谷公園に行きました。ツワブキの黄色い花がたくさん咲いているなと思っていると、銀杏の木も見事な黄金色です。さらに、園内で菊花展が開かれていました。それはなんとも言えない姿形の素晴らしさに息を呑むばかりでした。丹精込めて育てている姿が目に浮かんできます。

2012年11月21日

日本の国境問題

著者   孫崎 享 、 出版   ちくま新書 

 尖閣不況が日本にやってきました。私のマチにあるリゾートホテルは中国系資本が経営しています。大量の中国人客が日本人客が日本に来ることをあてこんで、それまで韓国系資本だったのを買収したのです。ところが、尖閣列島で中国とのトラブルが表面化して以降、中国客がパッタリ来なくなりました。閑古鳥の鳴くホテルでは、リストラが始まり、身売り話が出ています。
ところが、右寄り週刊誌では、「日中もし戦ったら、どちらが勝つか」などという馬鹿げた特集を大々的に組んでいます。編集者が正気だとは思えません。自分の雑誌が売れたら日本がどうなってもかまわないという無責任さには、呆れるというより腹が立つばかりです。
 著者は、国境紛争は長い目で考える必要がある。むしろ紛争を一時的にタナ上げするのも解決法の一つ、何十年もかかって、ようやく解決できたらいいと息長く考えるべきものだ。つまり、平和的な話し合いこそ大切だと強調しています。まったく同感です。
そして、尖閣諸島が日本の領土だという根拠は、実は乏しいのだと著者は主張しています。
 琉球が日本領でない時期に、尖閣諸島が日本領だったとは言えない。尖閣諸島が日本領になるのは、日本が琉球王国を強制的に廃止して、琉球藩を置いた1872年以降のこと。
 領土問題は国際紛争である。日本が正しいと思っているだけでは紛争は解決しない。領土問題は、単に「領土」の帰属をどうするかという司法的問題にとどまらない。領土問題は、二国間関係の大きな流れを反映し、ときに冷静化し、ときに対立が全面に出る。 中国人にとって、尖閣諸島は台湾の一部だ。リスクが自分の身に降りかかる恐れがあるとき、人は簡単に過激なナショナリズムに走らない。いたずらにナショナリズムを煽れば自分たちが死ぬ。
歴史的にみれば、多くの国で国境紛争を緊張させることによって国内的基盤を強化しようとする人物は現れる。そして、不幸なときには戦争になる。
 国境問題で合意に達するには容易なことではない。中国とソ連のあいだの国境紛争(珍宝島)では、事件発生後、解決するまで22年もかかっている。
 領土問題で重要なのは、一時的な解決ではない。両国の納得する状況をつくることである。それが出来ないうちは、領土問題が紛争に発展しない仕組み、合意をつくることである。
 アルザス・ロレーヌの国境紛争でドイツは奪われたものを奪いかえす道を選択しなかった。ドイツは国家目的を変更し、自国領土の維持を量重要視するという古典的な生き方から、自己の影響力をいかに拡大するかに切り替えた。失った領土は求めない、その代わりヨーロッパの一員となって、その指導的立場を勝ちとることを国家目標とした。
 中国と言っても一枚岩ではない。中国にも、一方で軍事力で奪取しようというグループがいる。他方、紛争を避けたいというグループもいる。日本は中国の後者のグループといかにして互いに理解しあい、協力関係を強化するかが重要だ。
 アーミテージは、尖閣問題で日本人の感情をあおろうとしている。日本が対中国に強硬政策をとるようにしむけているのだ。尖閣諸島という問題を利用して、日米軍事同盟を強化しようとしているわけだ。日中の武力紛争に巻きこまれようとすると、アメリカは必ず身を引く。日本のためにアメリカが行動することはありえない。
 平和的手段は、一見すると頼りない。しかし、有効に機能されれば、もっとも効果的な手段となる。武力紛争にもちこまないという意識をもちつつ、それぞれの分野で協力を推進することが平和維持の担保になる。
そうですよね。大変示唆に富んだ内容でした。
(2012年10月刊。760円+税)

 日曜日、恒例のフランス語検定試験(準一級)を受けました。この2週間はその受験勉強に大変でした。車中読書はやめて、「傾向と対策」そしてフランス語単語集を読みふけり、カンを取り戻すのに必死でした。
 試験当日も朝早く起きて、一生けん命にフランス語に浸りました。午後3時ころに始まった試験が夕方5時半に終わったときには、ぐったり疲れてしまいました。
 自己採点で81点(120点満点)。まだ7割をとるのは難しい実力です。それでも、やれやれでした。

2012年11月20日

「最先端技術の枠を尽くした原発」労働

著者   樋口健二・渡辺博之ほか 、 出版   学習の友社 

 原発には、労働者を送り込めば送り込むだけ儲かる仕組みがある。これに目をつけたのが暴力団だ。
 原発労働は、差別の上に成り立っている。下請け、孫請け、人出し業につながっている。人出し業の下に、農漁民、寄せ場、失業した都市労働者などがつながる。そして、人出し業のなかに暴力団が巣くっている。労働者からピンはねができるから。
 原発からは、作業員一人あたり危険手当こみで5~7万円が支払われている。これが順次ピンはねされて、人出し業のところでは3万円くらいになる。
 福島のJヴィレッジに1日あたり1300~3000人の作業員がいる。ところが、恐ろしくなって逃げ出す労働者が少なくないので、人数が足りなくなる。そこで、暴力団にお金を渡して連れてきてもらうしかない。
 原発の定期検査のときには、1日で1500人の作業員が原発のなかに入る。福島原発事故の収束のためには、のべ数十万人の労働者を動員しなければならない。
労働者の年間被曝線量は50ミリシーベルト。100ミリシーベルトを浴び続けたら、10年後には間違いなく死ぬだろう。いま、東京・神田の放射線従事者中央登録センターには45万人が登録されている。このように、原発は、人間の問題なのだ。
 東電が定期検査するとき、元請会社になるのは東電が出資している子会社である、東電工業、東京エネシス、東電環境という東電3社と呼ばれる会社。ここは、東電職員の天下り先にもなっていて、御三家と呼ばれる。
 一次下請け会社の労働者の日当は2万円、二次、三次下請け会社の労働者は1万5000円程度。派遣された労働者は1万2000円~6000円というもの。多重下請け、多重派遣構造のなかで、末端労働者は、8~9割もの中間搾取がなされている。
 原発は海外に売るときには1基3000~4000億円だが、国内では1基5000~6000億円になる。
 元請けは、三井、三菱、日立の3社が本体をつくっている。
 危ない原発労働、それでも誰かにやってもらわないといけない原発の後始末作業のおぞましい実態です。東電など、本社会社は、これらの事実を見て見ぬふりをしてきたのでしょう。許せませんよね。
 100頁もない、薄っぺらなブックレットですが、ずしりとした人間の重みを感じました。
(2012年6月刊。762円+税)

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