弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2013年11月13日

原発、ホワイトアウト

著者  若杉 冽 、 出版  講談社

現役キャリア官僚によるリアル告発小説と、オビにあります。
原発再稼働をめぐって、官僚と政治家たち、そして電力会社がどのように画策しているのか、目に見える形で日本の暗黒面をえぐり出しています。
 大衆は、原始人よりも粗野で愚かで、短絡的だ。
 原子力の値段には、廃炉の費用や交通事故対応のコスト、それから放射性廃棄物の処分コストが含まれていない。とはいっても、そうしたコストが現実に発生するのは遠い先のこと。将来どんなに費用がかかるといっても、それを現在価値に割り戻せば、たいしたことはない。
 大衆はきれいごとに賛同しても、おカネはこれっぽっちも出さない。
 国会周辺の反原発デモに集まっている連中の実態は、定職のない若者や定年後の高齢者が、やり場のない怒りをぶつけるステージに近いもの。
うむむ、官側には、このように見えているのですか・・・。
 マスコミは、社会の木鐸(ぼくたく)として、社会正義のために働く職業だと世の中からは認識されている。しかし実際には、社会正義の実現よりも、他者を出し抜く、あるいは広告をとって利益をあげることが優先されることが多い。組織の建前と本音は一致しない。
 「ホテルで秘書官らと夕食」と首相動静に書かれているとき、首相はホテルを抜け出して、報道されたくない会合に参加していることが多い。
 これを、自民党の某女性議員(大臣経験者でしたよね・・・)が首相の動静を書くなんてけしからん、守るべき国家秘密だと先日わめいていました。とても信じられない感覚です。
 メタル・フレームの眼鏡をかけた検事総長は、もともと神経質そうに見える小男だが、首相の前でさらに緊張して小さく縮こまっている。
今の検事総長は、私もよく知っている人物です。たしかに小柄ではありますが、なかなか肝のすわった人物だと私は見ています。
 優れた政治家というのは、頭が切れる必要はない。よく官僚に説明させて、それを正しく理解し、しばらくのあいだ記憶が保持できる。それだけでいい。日本国の総理大臣とは、その程度のもの。
残念ながら、その程度の首相の思い込みに今の日本は振りまわされています。
 原発の電気は、発電時には安いと称しているが、あとの放射性廃棄物の処分がいくらかかるか分からないという不都合な真実を、総理独自の情報源で入手し、官僚の説明と付きあわせて自分の頭で勉強するようなことはしない。
 安倍首相が自分の頭で深く考えるような人間でないことは、よく分かりますよね。言葉があまりにも薄っぺらなのです。
 電力会社は経費が政府によって非常に甘く査定されているので、経費が通常より2割高になっている。だから、取引先にとっては、非常にありがたいお得意様になる。そこで、この2割のうちの5分をまき上げて電力会社が自由に使えるお金とした。年間2兆円もの発注額なので、800億円という大金を電力会社は自由に使える。このお金で政治家を買収し、フリージャーナリストを雇う。そして、そのお金を使えば、電力会社にタテつくような人気のある県知事だってスキャンダルに巻き込むことも容易である。
 実際に、その大胆な手口が紹介されています。
 原発再稼働に向けて政官財の策動が激しくなっているなか、その実態をいわば内部告発した本として一気に読みすすめました。
 歴史は繰り返される。しかし、二度目は喜劇として。
 これは、久しぶりに出会ったカール・マルクスの言葉です。本書の冒頭にあり、びっくりしてしまいました。でも、本当にそのとおりですよね。現役のキャリア官僚が書いたということですが、この人の将来はどうなるのでしょうか。その決意のほども知りたいと思いました。
(2013年10月刊。1600円+税)

2013年11月 8日

赤い追跡者

著者  今井 彰 、 出版  新潮社

うまいです。おもわず、本の世界にぐいぐいと引きずり込まれてしまいます。
 エイズ患者の売血がアメリカから輸入された血液製剤に混入していた。それを知りながら原生省は見逃し、学者たちも見逃しに加担する。それを全日本テレビ取材班が駆け付けるのです。
 強奪、脅迫、色仕掛け・・・。取材のためなら手段を選ばないディレクターは、死んでいった罪のないエイズ患者の無念を晴らすため、厚生官僚、医学部教授、製薬会社がひた隠す秘密を暴いていく。
 ええーっ、これって、いま問題の特定秘密保護法案が成立したら、全部、違法行為として処罰の対象になるものではありませんか・・・。取材の自由とか報道の自由なんて、あくまでもイチジクの葉っぱで、何の役にも立ちません。警察が動いてしまったら、もう報道されず、記事にもならないでしょう。あとで、真実が明らかになっても、もっとも真実が明らかになる保障もありませんが、遅いのです。
 この本は、1994年にNKHスペシャルで放映された「埋もれたエイズ報告」が出来あがるまでを小説として再現したものです。どこまで事実に忠実なのかは分かりませんが、アメリカ発の汚染された血液製剤が日本に輸入され、血友病患者に患者を続出させた事実は重いと思います。
 それを官僚と御用学者そして製薬会社が共謀して知らぬ顔をきめこんでいたのですから、悪質です。それにしても、よくぞ取材班は真相を究明できたものです。ところどころに、良心のある人、罪の呵責に悩む人がいて助けられたこともあるようです。みんながみんな、自分のことしか考えているわけではないのですね。
 ちなみに、菅元首相が厚生大臣のとき、隠されたエイズ関連資料を厚生省から探し出したと発表して、一躍、時の人として脚光を浴び、さらに、裁判所の和解勧告を受け入れました。この人気をもとに、一気に菅は大臣から首相への道を手にしたのでした。あからさまなパフォーマンスでしたが、それでも和解を成立させたことは評価すべきなのでしょうね。
 どうやってマル秘資料を発掘していったのかが、この本の読みどころです。それこそ、脅迫、強奪、色仕掛けの数々が紹介されています。これでは、特定秘密保護法案の許す「相当な方法」とはとても言えません。きっと厳重処罰の対象になることでしょう。
 エイズ問題は、すっかり小さな話題になってしまいました。不治の病といわれていたのが、特効薬によって治る病気になったのも大きいですよね。
 NHKの番組として放映されるかどうかも、ドラマになっています。放映禁止の仮処分が申請され、NHK内部にも難局を回避して、放映の先送り論が出てきたのです。
 「きみは日本人を知らないね。日本人ほど、パニックになりやすい人種はいないんだ」
 「日本人は気質的に、パニック民族なのだよ。ことに自分たちが被害を受けるとなると、もう冷静さはなくなる。そうした国民を導いてやるのが、官僚や政治家の役目なのだよ」
 官僚と政治家は、私たち日本人をこのように見ているというわけです。まさしく、上から目線の、国民を馬鹿にした言い草です。とんでもありません。今、いちばん馬鹿げたことを言うのは国会議員に多いように思います。
 婚外子の相続分差別を意見とした最高裁判決について、これでは家族制度が守れないから無視しろという声が自民党内部に強いということです。おかしな話です。そんな低いレベルの人たちに日本の政治を任せておくわけにはいきませんよね。
著者は元NHKのプロデューサーです。前に『ガラスの巨人』(幻冬舎)という傑作を書いています
(2013年6月刊。1700円+税)

2013年11月 5日

ペンギンが空を飛んだ日

著者  椎橋 章夫 、 出版  交通新聞社新書

生き物のペンギンの話ではありません。電車・バス・地下鉄・モノレール、どこでも使えるようになった便利なIC乗車券が誕生するまでの苦労話です。
私にとっては、今でも不思議でなりません。なぜ、接触させることもなく、機械に近づける(かざす)だけで瞬時に見分けることができるのか、そして、いろんな路線を利用しても、きちんと清算できるのか。ナゾだらけのカードです。この本を読んで、読みとりには短波を使っていることが分かりました。
自動改札機の読みとり装置が電波を出し、ICカードが反射して通信するパッシブ方式。でも、ICカードが反応するには、何らかの電源が必要なのではないでしょうか・・・。
 そこで、電力を内蔵せず、通信ごとに電波で電力を供給する方式にする。すなわち、非接触式で、バッテリーレス。
 カードを読みとり機に少しでも「かざす」時間を長くするために考えられたのが「タッチ・アンド・ゴー」。つまり、カードを触れさせることによってカードの軌跡はV字を描く。直線的な動きより、本の少しだけ時間がのびる。このわずかな傾斜によって、歩行速度が減速して改札機を通過する。これはこれは、偉大なる発明ですよね・・・。
 技術的に解決するのが困難な課題を、「運用」で解決した。
電池を内蔵しないICカードは電波を使った電磁誘導で電力を供給するために、その電力は不安定になる。そのため、データの書き込み途中でチップが止まって書き込みができなくなったり、データ破壊が起こりやすくなる。
スイカ・カードにID機能は不要だという意見もあった。しかし、ID機能をつけたおかげで、その利用可能性は飛躍的に高まった。
2007年3月、スイカ・カードがJR、私鉄、地下鉄、バスで使えるようになった。スイカの運用開始は2001年11月。サービス開始から1年たたないうちに500万枚、2004年10月には1000万枚の利用となった。
 今では、スイカ・カードで買い物までできるのですよね。典型的にへそ曲がりの私は絶対使いませんが、自動販売機やコインロッカーを利用するとき、小銭のないときには便利ですね。でも、コンビニまで・・・・。
 今では、全国の列車、私鉄に通用するのですから、恐ろしいことです。スイカキャラクターはペンギン。飛べないはずのペンギンが空を飛んだ・・・。
(2013年8月刊。800円+税)

2013年11月 1日

ジェラシーが支配する国

著者  小谷 敏 、 出版  高文研

ついつい、なるほど、なるほど、と何度も頭を大きく上下させてしまいました。日本型バッシングの研究。こんなサブ・タイトルのついた本です。
 小泉純一郎や橋下徹のような政治家が熱狂的な人気を博してきた。彼らを英雄に仕立て上げたのは、安定した身分と収入と保障された公務員へのジェラシーである。だから、近年の日本を「ジェラシーが支配する国」と呼ぶ。
他人の不幸は蜜の味。人間は悪口を言うのが大好きな生き物である。悪口を言い合っているときには、強力な連帯感が生じる。
ところで、諸外国でバッシングの標的となるのは、政治家や経済人、「セレブ」と呼ばれる各界の著名人。ところが日本では、権力とマスコミメディア一体となって普通の公務員や生活保護受給者のような弱者を叩く構図がみられる。強者が弱者を叩くのが「日本型バッシング」の特徴である。子どもの世界に蔓延している「いじめ」は、大人の模倣である。
 1990年代以降の日本では、人々の所得は減少する一方。労働運動も市民運動も低調で、自分たちの力で社会を変えることはできないという諦観(あきらめ)に人々はつかれている。自分たちの生活を良くすることができないのなら、自分たちより少しでも恵まれた者を叩いて憂さを晴らすしかない。
 そして、為政者たちのあいだにも、スケープゴート(犠牲になる羊)を提供して人気とりに専心する「ポピュリスト」がはびこった。
 日本型バッシングの主役はテレビだ。テレビの世界から政界に躍り出た橋下徹は「巨大な凡庸」を地で行く人間だ。公務員たたきも、競争中心の教育改革も反原発もベーシックインカムも、俗耳に受けそうなことは何でも自らの政策として橋下は取りあげていく。インターネットは、テレビ的な凡庸さを増幅する役割を果たしている。
 日本人は「世間」から後ろ指をさされ、つまはじきにされることを何より恐れている。
 「週刊新潮」は、日本文化の特異性を象徴する存在である。
オレオレ詐欺がこれほど現代日本に多いのは、「自分の夫や子どもが、いつ間違いを犯しても不思議ではない」という「存在論的不安」を多くの人たちが抱えているからに他ならない。
 「存在論的不安」につかれた人々は、「諸悪の根源」となっている悪魔のような存在を探し求め、それを叩くことに熱中する。「悪魔」として名指しされた人たちを叩くのは、面白くもないことが続く日常のなかでの恰好の憂さ晴らしになるし、「諸悪の根源」を叩くことによって自分が正義の側に立っていることが確認できる。このようにして、バッシングに加わることで、フラストレーションだけでなく、「存在論的不安」も解消される。
ネット上の右翼的言辞の多くは、まじめな政治的信念にもとづくものというよりは、盛りあがるための「ネタ」であり、ネット右翼を特徴づけるのは、狂信的なナショナリズムではなく、理想をあざわらうシニシズム(冷笑主義)である。
自分自身が苦痛を味わっている人間は、他人の苦しみをみることを渇望している。なぜなら、他人の苦しみをみることによって、自らの苦しみを忘れることができるからである。
他人が苦しむのを見ることは快適である。他人を苦しませることは、さらに一層快適である。これは、一つの冷酷な命題だ。しかも、一つの古い、力強い、人間的な、あまりに人間的な命題だ。
 公務員に対する人々の激しい敵意が目立つようになったのは、民間の給与が下がり続け、人々の雇用が不安定になった「失われた10年」(1990年代)以降の傾向である。
 小泉純一郎を支持したのは、若者ではなく、中高年だった。そして、若者たちの中でも小泉を支持したのは高学歴層だった。「勝ち組」となることに希望をつなぐ層が小泉に投票した可能性が高い。同じように、橋本支持の中核を成しているのは、新自由主義的競争と経済のグローバル化の受益となりうると考えている人たちである。
橋下徹の言動には、驚くほど独創性がない。橋下は、「創造の人」ではなく、「模倣の人」なのである。その政策も「凡庸」という印象が強い。
 大変に歯切れの良い日本社会の分析です。読んでいて、胸がすっきりしてきます。ぜひ、あなたもお読みください。
(2013年4月刊。1900円+税)

2013年10月29日

ウェブ社会のゆくえ

著者  鈴木 謙介 、 出版  NHKブックス

彼女(彼)とのデート中に、別の人物とのネットに夢中になるという話が出ています。
 二人で食事をしているときに、テーブルのうえに携帯電話を置くことすらマナー違反だ。二人でいるのに、他の人とも「つながりうる」状態が維持され、それが自分の前に提示されていることが不愉快なのだ。もちろん、そうですよね・・・。
 私の若いころにはありえなかった話です。学生のころ、下宿先の電話はかかってきたら大家さんが呼んでくれるのです。つまり、一家に一台しか電話はなく、間借り人は大家さんから呼ばれて初めて電話に出て会話が出来るのです。ともかく、会って話すことが何より欠かせませんでした。
 ところが今では、人との対面接触はテクノロジーを介したつながりに取って代わられ、生身の人間に対する興味が失われつつあります。
 現実の多孔化(たこうか)。現実空間に情報の出入りする穴がいくつも開いている状態のこと。生理的な距離の近さと親しさの関係が不明瞭になると、ある空間に生きる人々が、ある「社会」の中に生きているという感覚もまた、確かさを欠くものになるのではないか・・・。
 「セカイカメラ」は、画面にうつし出された場所に関する情報(エアタグ)をふわふわと中に浮いているかのように表示するアプリだ。
 テレビ、新聞、雑誌、そしてラジオという、いわゆる「四大媒体」の広告費は、軒並み右肩下がりである。これに対して、インターネット広告費だけが右肩上がりの成長を続け、今では新聞を抜き去る勢いである。
 我々は、ソーシャルメディアを利用させてもらう代わりに、個人情報を売り渡している。
 我々が直面しているのは、我々自身に関する「データ」が監視される社会である。
高級料理店で食事をとるとき、食べる前に写真をとって、それを自分のブログにのせることが流行している。でも、これもマナー違反として、高級料理店では禁止されている。
 ええっ、ちっとも知りませんでした。私の知人で、それをして好評なブログがあるのですが・・・。
 生身の人間同士のぶつかりあいの体験に乏しいと、現実の日本社会において生きていくのはとても難しいことです。それが分からないまま(実感できないまま)、実社会に出ている若者が増えている気がします。恐ろしいことです。
(2013年8月刊。1000円+税)

2013年10月25日

里山資本主義

著者  藻谷 浩介・NHK広島取材班 、 出版  角川ワンテーマ新書

タイトルを見ただけでは何のことか分かりませんが、要は日本の山林を見直せば、原発にたよらなくても日本はやっていけるという話です。なるほど、と思いました。
 浜矩子・同志社大学教授は、グローバル時代は強いものしか生き残れない時代だという考えは誤りだと指摘する。グローバル社会をジャングルと見て、そこでは弱肉強食の生存社会しかないという固定観念は、実は成り立たないもの。ジャングルには強いものだけがいるのではない。百獣の王のライオンから小動物たち、草木、果てはバクテリアまでいる。強いものは強いものなりに、弱いものは弱いものなりに、多様な個性と機能を持ち寄って、生態系を支えている。これがグローバル時代なのだ。
なーるほど、よく考えれば、そうですよね・・・。
新しい集成材、CLT。直角に張りあわせた板。通常の集成材は、板は繊維方向が平行になるように張りあわせているが、このCLTでは、板の繊維の方向が直角に交わるように互い違いに重ねあわせられている。これによって、建築材料としての強度が飛躍的に高まる。いま、オーストリアでは、このCLTによる木造高層ビルが建てられている。
 CLTで壁をつくり、ビルにしたところ、鉄筋コンクリートに匹敵する強度が出せることが判明し、2000年に法改正があって、今ではオーストリアでは9階建までCLTで建設することが認められている。
 オーストリアだけでなく、イギリスのロンドンにも9階建てのCLTビルがある。耐火性機能も十分で、CLT建築の一室で人為的に火災を発生させたところ、60分たっても炎は隣の部屋に燃え広がらないどころか、少し室温上がったかなという程度だった。
日本でも、このCLT建築に光があてられようとしている。
 日本の里山にある木くずをペレットにして、そこから発電してエネルギーをまかなう試みがすすんでいる。コストパフォーマンスはすこぶるよく、灯油と同じコストで同じ熱量が得られる。そして、エコストーブが普及しつつある。
 憲法に「脱原発」を明記して原発を全廃したオーストリアでは、今や木材資源がフルに活用されている。
 木材ペレットを個人宅あてに供給するタンクローリーまである。そして、オーストリアでは木材の管理を徹底させ、むしろ木材面積がどんどん増えている。
 これは、日本でも学び、行かすべき方向ですよね。
 「限界集落」というコトバが流行している日本ですが、このように山里の可能性を見直す取り組みが始まっているのを知り、少しばかり安心しました。
(2013年9月刊。781円+税)

2013年10月24日

「対米従属」という宿痾

著者  鳩山 由紀夫・孫崎 享・植草 一秀 、 出版  飛鳥新社

この本のなかで、民主党の鳩山・元首相が何度も謝罪しています。民主党の3人の首相のなかで、一番まともだった首相ですが、アメリカに嫌われ、日本の政財・マスコミから総叩きにあって早々に退陣させられました。「最低でも県外移設」という普天間基地移設についての方針がアメリカは許せなかったのです。
 日本は粉飾にみちあふれている。国民の多くはあまりに粉飾が多いので、それに気づかず、事実だと信じている。アメリカ、官僚、大手業界、政治家、そして大手メディアが既得権益を守るため、事実を粉飾して国民に伝えている。たとえば、TPPについて、なぜこれほどまでにアメリカに尻尾を振らなければならないのか、理解に苦しむ。
 福島第一原発からは、今でも毎日、大量の放射性物質が空に、海に、地中に漏れ出している。
 既得権とのたたかいに勝てなかったのはまことに申し訳ない。しかし、既得権社会に埋没するしかないとあきらめてはいけない。
以上は鳩山元首相の言葉です。本当に、そのとおりですよね。さらに鳩山元首相は、次のように言います。
私の安全保障に関する基本的なスタンスは、日本よ、もっと独立国としての気概をもてということ。
 これまた、私は同感至極です。なんでもアメリカの言いなりなんて、もうゴメンですよ。アメリカに対等にモノをいうのは、それこそ、今でしょ!といいたいです。
 孫崎氏は、オバマ大統領は安倍首相と意識的に距離をおくことを考えていると指摘します。
 そう言えば、中国と韓国の両首脳も、国際会議のときに安倍首相が近寄ってこないようにしてくれと日本の外務省に要求しているという報道が流れていました。安倍と一緒の写真なんかとられたらかなわないというわけです。アメリカ、そして、中国、韓国から嫌われて、安倍首相はいったい国際社会で何ができると思っているのでしょうか。日本がひとりで、孤立して生きていけるはずはないのですよ・・・。
 アメリカの「ワシントン・ポスト」紙は尖閣問題は棚上げにしろと主張し、次のように言った。
 我々アメリカは、日本にもっと軍備をやれとけしかけてきたけれど、それを今の安倍政権がやり始めると、都合が悪い。
そうなんですね・・・。安倍首相に対するアメリカの評価はここまで低いのです。
植草氏は次のように断言しています。
 自分のことがまず大事だと考える政治家は対米従属になり、自分の利益より魂を大事にする政治家は対米自立になる。
 まことに正しい指摘ではないでしょうか。残念ながら、自民党の政治家で対米従属でない人はいない気がしてなりません。前には少しばかり骨のある政治家もいたように思いますが・・・。
 それにしても、小泉純一郎元首相が脱原発を主張すると、マスコミなどの小泉バッシングのひどさには呆れます。鳩山元首相も、この本で、「できるだけ早い段階で原発はなくしてゆくべきだ」と明言しています。
 鳩山元首相は改めて、次のように言い切っています。
 総理まで経験させていただいた人間として改めて申し上げると、やはり、日本はまだ全く独立国になっていないと思う。アメリカに対しても、きちっと自分の意見を言える、尊厳のある日本に仕立てあげていく必要がある。
 本当に、そのとおりだと私も思います。保守で、強いことを言っている人間ほど、実は米国に依存している。日本の現実を知るために欠かせない告発書だと思います。
(2013年6月刊。1400円+税)

2013年10月18日

亡国の経済

著者  しんぶん赤旗経済部 、 出版  新日本出版社

TPP(環太平洋連携協定)は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヶ国が結び、2006年5月に発効した協定がもとになっている。
 そのTPPにアメリカが参加することを最初に表明したのは、2008年のブッシュ政権時代のこと。アメリカが経済競争力を高めるためには、アジア太平洋地域とアメリカ経済の結びつきを強めることが重要になっていたからだ。
 このころ、アジア太平洋地域では、アメリカを除いた形での経済の結びつきを強める動きが表面化していた。「アジア重視」は、これに警戒感を抱いたアメリカ政府の巻き返しでもあった。オバマ政権は、その巻き返しを加速させた。
 アメリカ政府の対日要求は、アメリカの多国籍企業の要求を反映したものだ。小売業で世界最大手のウォルマートは、コメの関税が日本での企業活動を妨げている、米国産リンゴについて日本政府が防疫のための措置を義務づけとして輸出が抑制されていると不満を表明している。カリフォルニア・チェリー協会は、ポストハーベストの防かび剤の登録手続の緩和を、カリフォルニア・ブドウ協会は日本の残留農薬基準の緩和を要求している。
 本当にとんでもない要求です。自分たちの金もうけの前には日本人の生命・身体・健康なんて、どうでもいいとアメリカの企業は考えているわけです。
 アメリカ資本は、日本企業の様式取得を進めている。日本の有名な企業でも、外国人持ち株比率が30%をこえる企業が増え、60%をこえる企業も出てきている。オリックスは60%近い、楽天も4割に近い。中外製薬に至っては76%になっている。
 アメリカ型の企業は、株主配当を重視し、従業員のリストラが簡単に断行される。アメリカが押し付ける雇用の流動化によって、日本に進出したアメリカの人材派遣会社にとってはビジネスチャンスになる。
 TPP参加によって日本の食料主権がますます脅かされてしまいます。
安全な食料を安定的に入手することは、国連の諸決議も認める、人々の権利である。日本は、日米安保条約の下で経済的自主性を欠き、食料主権を著しく制限されてきた。それが日本農業の衰退と食糧自給率の低下を招いてきた根源である。
 農業を守るため、関税などの国境措置と国内での農業支援を組み合わせて実施するというのは、ヨーロッパでも行われている当然の措置である。ところが、TPPはそれを不可能にする。
 農業は守られなければいけません。それは第一義的なものです。国土を荒廃させては、日本人に食べるものがなくなってはいけないのです。政府、自民党のトップの頭の中にはお米や野菜、そして牛肉や魚などが、お金を自動販売機に入れたら苦労せずに手に入れると錯覚しているのではないでしょうか。とんでもないことです。
また、TPPが日本の司法に与える重大な影響も決して黙って見過ごせないものがあります。150頁ほどの薄い本ですが、考えるべき論点の指摘がぎっしり満載の本でした。
(2013年7月刊。1200円+税)

2013年10月 6日

職場を襲う「新型うつ」

著者  NHK取材班 、 出版  文芸春秋

NHKスペシャルで放映された番組を本にしたものです。日頃テレビをみない私は、この番組もみていませんが、大牟田市にある不知火病院の「海の見える病棟」も紹介されたようです。私も見学に行ったことがある精神科の開放病棟です。実は、この病院の徳永雄一郎理事長は私の中学校時代のクラスメートなのです。
新型うつは、新型うつ病ではない。新型うつは、性格的な問題がからむうつなので、なかなか薬が効きにくく、慎重に薬を投与しなければならない。
 ところが、医師が従来型のうつ病と同じような処方をしてしまうケースが多い。その結果、薬が効かない、患者の症状は良くならない、薬を処分してしまって、症状はますます悪化するという悪循環に陥ってしまう。
新型うつを甘く見てはいけない。放置しておくと、重大な事態をひきおこす危険がある。
 統計をとると、かなり企業が新型うつに手を焼いていることがわかった。
新型うつの特徴は、仕事が出来ずに休んでいても、好きなことで遊んでいるのに何の罪悪感もない。自分から「うつかもしれない」と、いきなり人事部に申し出てくる。自分から病院に行って、自分から休みを申請して休む。訪ねると、だいたい家にいる。
精神的な特徴としては、三つある。ストレスに弱い。人間形成が未熟。失敗をものすごく恐れる。新しいものには食いつかない。ものすごく保守的。なんでも他人のせい、仕事のせい、もののせいにする。こだわりがすごく強い。プライドが強くて、間違いを認めない。ミスしたのは自分が悪いのではなく、教えてくれなかった上司であり、周りが悪い。
育った環境が大きい。母親は、自分の子に問題があるとは絶対に言わない。おそらく、親から叱られたことがない。新型うつの大きな特徴は、職場ではうつ、プライベートでは元気。
過労が原因になることの多い従来型のうつ病だと、しっかり休ませ、治療することが効果的なことが多い。
 新型うつが増えている根底には、上司や職場側と若者側との価値観のギャップがある。新型うつは、結局はコミュニケーション不全から生まれているのではないか・・・・。
 親の過保護・過干渉があったため、自分で考えて何かに挑戦したり、そこで失敗したり、成功したりする経験が少ないことによって、自分に自信を持てていない。自己否定感が低い。だから、会社で怒られたりすると、弱い自分を守るために他者を攻撃し、また逃避行動して、すぐに会社を辞めたりしてしまう。
 新型うつを克服するためには、本人が自分の非を認められるようになること、そのためには、本人が自分に自信を持てるようになることが必要だ。いわば、自己肯定感を取り戻すのだ。
 それにしても、最後のあたりに威張りちらすばかりで、仕事以外の場でのコミュニケーションのできない中高年のコミュニケーション能力の不足が指摘されているところは、耳の痛いものではあります。
 それと、日本社会に優しさが薄れているのも気になりますよね・・・・。
(2013年4月刊。1300円+税)

2013年9月27日

消えた子ども社会の再生を

著者  藤田 弘毅 、 出版  海鳥社

今の子どもたちは本当に可哀想です。子どもは子ども同士で群れをなして遊ぶのが一番です。私は団塊世代ですから、子どものころどこもかくこも子どもだらけでした。陰湿ないじめを受けたことはありません。なにしろ1クラス50人ですから、いくつものグループがあって、併立(共存)できていたと思います。
 この本に出てくるコマまわし遊び、メンコ(私のとこはパチと呼んでいました)も、芸術的な極みに達する遊びになっていました。異年齢集団で行動するのがあたりまえでした。ガキ大将というほどのことはありませんが、なんとなく、いつもリーダーがいました。
 この本は、子どもたちが大人に頼ることなく、子どもだけの集団遊びをつくり出していく苦労が明らかにされています。そして、そのことに案外、親が無理解だという点もしっかり指摘されています。
 この本の出だしは、あまりにもあたりまえのことばかりで、面白くないなという気分になりました。ところが、具体的な実践面になると、そうだよね、そうだろね、という記述が登場してきて、およばすながら私も応援したくなってきました。舞台は太宰府の公園です。
 いま、ボランティアを募集しても、集まらない。
 うーん、そうなんだー・・・。今の子どもたちは、遊ばせてくれるのを待っている。異年齢のつながりは、自分たちでつくれない。子どものリーダーがいないので、大人にかまってもらいたがる。ガキ大将がいらないのが原因になっている。子どもたちは二分化している。一方に、いろんなことに意欲をわいていて、学校の成績もよく、さまざまなことに参加する、目立つ子。もう一方は、新しことに意欲がもてず、ゲームばかりしていて、親が提示することをいやいやながらしている子。大学生のボランティアは、大人が遊んでくれただけで、子ども社会をつくるためには役に立たない。
 うへーっ、私は40年前の大学生のころセツルメント活動をしていましたが、そんな指摘は受けたことがありません・・・。時代が変わったのでしょうか?子どもたちが真剣になるのは、競いあうとき。そして、その場の一番強い人に、承認を求める。とくに男の子は承認してもらいたいという本性がある。
 この承認を与えるのが、ガキ大将の役割の一つである。昔の子ども社会では、大きい子が教えることもあったが、ほとんどは小さい子が大きい子のやるのを見て真似ていた。
 子ども社会で認められることが大切なことだと分かると、いちいち大人に報告に来ることはなくなる。そして、自立心、社会性が身につく。大人って仕事ができる人は、自立心、創造性、社会性など、人間としての基礎的な能力を備えた人。
 子どもたちの集団遊びの大切さを改めて分からせてくれる本です。
(2013年4月刊。1500円+税)
 周囲の田んぼの稲穂が重く垂れています。週末の稲刈りがあるところも多いようです。紅い彼岸花は盛りを過ぎました。アキアカネが飛びかい、モズの甲高い鳴き声が聞かれます。
 わが家の庭は、いまピンクと朱にいろどられています。ピンクは芙蓉の花、朱は酔芙蓉です。朝のうち純白だった花が午後には朱に染まります。まさしく酔った感じになるのにいつも心を打たれます。
 チューリップの球根がホームセンターで売られています。これからチューリップを植えつける準備をします。

前の10件 93  94  95  96  97  98  99  100  101  102  103

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー