弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2013年4月19日

ブラックボックス

著者  篠田 節子 、 出版  朝日新聞出版

恐怖の食卓。サラダ工場のパートタイマー、野菜生産者、学校給食の栄養士は何を見たのか?
 食と環境の崩壊連鎖をあぶりだす、渾身の大型長編サスペンス。この本のオビに書かれているコピーです。週刊朝日に連載されていたとのこと。たしかに野菜を人工的に栽培するなんて、実は危険そのものなんですよね。完全管理型施設栽培のシステムなんて・・・。
太陽の光、土、緑の三点セットをありがたがるのは、農を知らない都会人や、高級住宅地に住んで市民農園を耕している趣味人の発想だ。
露地栽培では、それこそ食っていける農業なんて無理。そうなんですよね。私もちょっとばかり趣味人の野菜づくりをしています。それでも、農業を粗末にしたら生きていけませんよ。ですから、TPPなんて絶対反対です。なんでもお金を出せば買えるというものでは決してありません。額に汗する地道な努力こそ必要です。
 カット野菜。カットした野菜の洗浄殺菌には、次亜塩素酸ソーダを使う。切った野菜をそこに浸けたあと、水道水で洗浄し、さらに鮮度保持剤であるPH調整剤すなわちアスコルビン酸に浸け込む。そのカット野菜を盛りつけてサラダとする。
完全制御型ハイテク農場のなかでは、無数のバクテリアの生息する土は一切使わずセラミックがスポンジなど、作物ごとに異なる人口素材に肥料分を溶け込ませた溶液を用いて、作物がつくられる。空調装置を使い、外気は導入しないので、空気中の雑菌も入らない。考えられる限り、もっとも衛生的な環境でつくられる。無菌状態であるから、病気やムシも寄せつけない。だから、農薬はいらない。異物混入はありえず、出荷の段階で枯葉などが取り除かれるから、下ごしらえもいらない。
 しかし、どれほど厳重な衛生管理をされ、無菌状態で運ばれてきた野菜であっても、カットされた瞬間から、傷みは生じる。切り口から変色し、腐敗がはじまる。
 労働集約型のハイテク農場は地元の雇用創出をうながし、地域の活性化に貢献するはずだった。しかし、現実には地元の人間は働いていない。働いているのは法律で定められた最低賃金をはるかに下回る。研修手当で、事実上の労働をしている外国人ばかりだ。
 研修生のほとんど、アジアから来ていて、日本人はごく少ない。無菌・無農薬でつくられた野菜の味はすかすか。だから、得体の知れないアミノ酸やら合成ビタミンの微粒子をぶっかけられる。
読んでいくうちに、読めば読むほど怖くなる食物の話でした。それでも、今日もマック、ケンタの店も大盛況です。本当に私たちはこれでいいのでしょうか・・・。
(2013年1月刊。2100円+税)

2013年4月17日

権力vs調査報道

著者  高田昌幸・小里純 、 出版  旬報社

たまにある新聞のスクープは、時の日本社会に大変なショックを与えるものです。最近は、そんな報道がめっきり少なくなりました。それどことか、安倍首相がマスコミ(新聞、テレビ)のトップ(社長ほか)と、そして編集部長クラスまで個別に高級レストランなどで2時間も会食していることが曝露されました。日本のマスコミが、ますます権力機構の一員と化しつつあるようで残念です。でも、第一線の記者まで、すべてがそうではないでしょうから、その自浄努力にひたすら期待するばかりです。
 今から20年前、朝日新聞の広告年間収入は2000億円あった。読売新聞は1500億円。読売1000万部、朝日800万部の時代に朝日の広告単価が読売より非常に高いことから逆転現象がおきていた。それが、ついに朝日は逆転され、苦境に陥っている。
ニュースソースの秘匿とオフレコは守る。これは二大原則である。ニュースソースの対象が自ら名乗ったとしても、それにあわせて認めるようなことはしない。アメリカの有名な記者(ボブ・ウッドワード)がそれを破ったが、許されないこと。
 取材するときに録音するのは当然。了解をとらず、隠してテープを取っても非難されるべきことではない。私も弁護士として、隠しどり録音をいつも勧めています。問題になるのは内容だけなのです。
日本の朝日新聞に限らず、アメリカでも調査報道はまったく衰退している。
 ネット広告は紙の広告の10分1しかない。広告収入が200億円だと、記者が2000人いたら、人件費で全部消えてしまう。
 貴重な資料を入手したときにはコピーをそのまま発表することはない。文書の汚れ、染み、書き込みがあったら、情報源が特定されてしまう。だから、入手した文書の打ち直しは必須。文字の欠け文字ずれがあれば、そこから特定できる。入手して発表するまでに8年かかることもある。
 調査報道に欠かせないものは人間力。自分の興味本位だけで調査報道するのは、とても危険なこと。報道の質を上げていくためには、質問力の向上が絶対に欠かせない。本当は分かっていないことを見抜く力。それが調査報道のスタートである。
 私は活字大好き人間ですから、ネットよりも新聞を愛好したいのです。その意味でも、調査報道の健闘に期待しているところです。
(2012年10月刊。2000円+税)
 春らんまんの候です。わが家の庭のチューリップ500本は全開状態を少し過ぎたところです。私個人のブログで写真を大公開しています。ぜひ眺いてみてください。色も形もとりどりのチューリップが、心をなごましてくれます。
 このところ、娘から全身にお灸をしてもらっています。アッチッチというほどの熱さなのですが、翌朝の目覚めが何とも言えず爽快です。身体に気力がみなぎり、頭が冴えわたった気分です。血行がよくなるのでしょうか。お灸さまさまです。

2013年4月12日

原発はやっぱり割に合わない

著者  大島 堅一 、 出版  東洋経済新報社

福島第一原発事故の特徴は、長期にわたって収束できずにいること。政府の「収束」宣言にもかかわらず、実際には、「収束」にはほど遠い。
 福島原発事故は、これまでとはまったく次元の異なる事故である。放射能の放出量が非常に多かったことが一つの特徴。長期的影響が問題になっているセシウム137でみると、広島原爆の168倍も出ている。
 福島原発事故の直後、NHKや民法は、原子力に批判的な専門家をニュース番組に登場させることはなかった。安全は保たれているとか、メルトダウンは絶対に起きないと繰り返し解説していた。
 危険性をいたずらにあおるべきではないという。しかし、このような事故が起きて危険性を軽視することのほうが、国民の安全確保観点からは正しくない。最悪の事態を想定し、これを国民に周知したうえで、最善を尽くすというのが原発事故の対策の基本だ。
 4号機の使用済み燃料プールが壊れ、放射能が放出され、他の使用済み燃料プールが連鎖的に壊れていったとき、強制移転地域は原発から半径170キロメートルとなる。そして、半径250キロメートルまで、移転が認められる。福島第一原発から皇居までは225キロメートルなので、首都圏がすっぽりふくまれる。つまり、日本壊滅の事態だ。これほど深刻な事故であったことを少なくない日本人が忘れている。慣れてしまうのは恐ろしいことだ。
 フランスも原発大国だが、フランスの地盤は安定していて、日本のような地震国ではない。政府も当初は原発は危険だというのを知っていた。しかし、「原子力は安全だ」と繰り返し言っているうちに、自分たちも信じ込んでしまった。原発の安全性について異論をゆるさない雰囲気があった。
 原発の建設には10年とか20年とか長い期間を要する。そして、原発は火力発電所がないと建てることができない。総括原価方式という料金体系は、一般の企業ではありえない。電力会社は、事業にかかわるすべての費用と「事業報酬」をあらかじめ電気料金のなかに組み込んでしまっている。
 大口の電力消費者向けには別の発電事業者と競合しているため、統括原価方式は使われていない。
 原子力だけが特別枠の優遇措置を受けている。政策費用を加えると、原子力は10.25円になる。これに対して火力は9.91円、水力は3.91円でしかない。つまり、政策費用を含めると、原子力はもっとも高い電源なのである。事故が起きる前からそうだった。そして、使用済核燃料の再処理費用は莫大である。
 たった数十年でためた核廃棄物を10万年先までの将来世代に押しつけてよいとは思えない。まことに同感です。こんなに無責任なことはないでしょう。
 電力会社は、九州電力をふくめて、電源として原発が必要だというより、自らの損を避けるために原発にしがみついている。
 こんなことって、許されるものではありませんよね。原発はやっぱり必要だという声がまだぞろじわりと増えつつあるようです。事態の深刻さをもっと私たちは認識すべきだと思います。ベトナムそしてトルコへ原発を輸出する動きがすすんでいます。とんでもないことです。
(2013年1月刊。1600円+税)

2013年4月11日

誤解だらけの沖縄・米軍基地

著者  尾良 朝博 、 出版  旬報社

アメリカ軍のオスプレイが日本国内を我が物顔に飛びまわっています。日本ってアメリカ軍の占領下にあるようなものだと実感させられます。このオスプレイの傍若無人ぶりに右翼・保守層の人々が怒らないのが、私には不思議でなりません。彼らの「愛国心」なるものは一体どこに消えてしまったのでしょうか・・・。それとも、アメリカのいいなりになるような国を愛せとでも言うのでしょうか。
 沖縄にいるアメリカ軍の主体は海兵隊である。海兵隊は海岸から上陸作戦をおこない、後続の大部隊のために陣地を確保する、切り込み部隊である。
 海兵隊が上陸作戦をするにはヘリ空母などの強襲場陸艦隊で移動する必要がある。しかし、実は、沖縄にはそんなものはない。佐世保のアメリカ海軍基地を母港としている。海兵隊が出撃するときには、長崎から船が到着するのを待ち、それから物資や兵員、ヘリコプターなどを詰めこんで出発する。仮に朝鮮半島で紛争が起きたとき、船は長崎から沖縄に南下し、再び朝鮮半島へ向けて北上することになる。
 これでは、沖縄は地理的に不可欠とは言えない。だから、なぜ沖縄にアメリカ軍基地が集中しているのかという問いかけへの正しい答えは、アメリカ軍が求めているからではなく、日本政府がそう望んでいるからだということ。
 つまり、海兵隊を沖縄に駐留させる必然性はない。本土に移転させるには政治的コストがかかりすぎるから、というのが沖縄基地問題の本質だ。
普天間飛行場は、那覇市から車で20分ほどのところという良好な立地条件にある。そして480ヘクタールの広さがある。そこで働いている日本人従業員はわずか200人。これを民間活用したら、よほど地域経済のためになる。沖縄県議会議員事務局の試算によると、沖縄にあるアメリカ軍基地の全部が日本に返還されたとき、現在の雇用3万5000人が9万5000人になる。そして、商業や農業に活用することによる経済効果は9155億円に上るという。今より2.2倍の経済効果がある。
私も、何度も沖縄には行きましたが、アメリカ軍基地がなくなったら沖縄の経済は飛躍的に発展することを実感しました。なにしろ、町のド真ん中を広大なアメリカ軍基地が占めているのです。これほどの無駄はありません。現にフィリピンがアメリカ軍基地をなくしたあと、大きく経済発展させています。日本もぜひフィリピンと同じ独立国として、そうしたいものです。
沖縄にいるアメリカ軍兵隊はそもそも時代遅れの存在でしかない。
 1950年の朝鮮戦争のときのような海兵隊による上陸作戦というのは今では考えられないことは明らかです。
 現に、沖縄には、かつて2つの歩兵連隊があったけれど、今では第四海兵連隊だけしかいない。海兵隊のほうからも、沖縄は、もはや魅力を失っているという声があがっている。沖縄タイムスの論説委員、社会部長をつとめた著者の指摘はまことにごもっともだと思いました。
(2012年11月刊。1200円+税)

2013年4月10日

生活保護とあたし

著者  和久井 みちる 、 出版  あけび書房

先日、身近に起きたことです。生活保護を受けて生活している人が、お昼にうどん屋に入って350円のうどんを食べました。すると、それを近所の人が見ていて、保護課に電話したのです。「保護を受けているくせに、外食なんかして、ぜいたくだ」。そこで、保護課は、その通報を受けて本人に電話して注意をしました。ええーっ、生活保護を受けていたら、350円のうどんも食べてはいけないだなんて・・・。
 保護課に通報した人は年金生活者ではなかったでしょうか。毎日、苦しい生活を余儀なくされている年金受給者は、つい生活保護を受けて生活している人を妬みがちになるのです。弱い者同士がいがみあう世の中になっています。不幸の限りです。
日本はアメリカに次いで世界で二番目に大金持ちの多い国ですが、同じように貧しい人が、どんどん増えている現実があります。この本は、そんな生活保護を受けて生活してる人の実感をこめたレポートです。著者は2007年から3年半のあいだ、生活保護を受けていました。
2007年ころに16万人の生活保護利用者だったのが、2012年11月には212万人と50万人以上も増えている。生活保護利用者は怠け者ではない。生活保護制度は人間をダメにするものでもない。
 著者は、この2つを本を通じて強調しています。私もまったく同感です。生活保護は、日本社会のセーフティーネットとして、これからも十分に有効活用されるべきものです。
 生活保護を申請しようとすると、「水際(みずぎわ)作戦」に直面する。要するに、生活保護を受けられるはずなのに、申請書がなかなかもらえないということ。申請書を書くときには、役所のフロアから一般の人には見えない奥の小部屋に招かれる。そして、福祉事務所には警察官OBが配置されるようになった。つまり、不正受給をチェックしようということです。
 知人から、お米や野菜をもらったときにも、それを「収入」として記入しなくてはいけない。
 ま、まさか・・・という、本当の話です。これでは、生活保護利用者はフツーの社会生活を送れないことになってしまいます。そして、それは「自立」を促すという趣旨にも反しますよね。
生活保護世帯のうちの母子世帯は、8割以上が働いている。「不正受給」は、支給額の0.4%にすぎない。国会議員の「不正」献金とは桁違いでしかないのに、マスコミはすぐに針小棒大に報道する。ひどいものです。
生活保護を申請して需給が決まるまでの2週間に、70頁に及ぶ調査の記録がある。これまた、税金のムダづかいのようなものですよね。
生活保護利用者が病院で治療を受けるときには、保険証がなく、「医療券」を示す。
 同じく、薬をもらうときには、「調剤券」が必要となる。生活保護利用者は、特別な場合を除いて、指定医療機関にしか受診できない。自由に選ぶことは許されない。
 生活保護利用者のなかには、子どものころに親と別れたり、施設で育ったりして、家庭の台所の風景を記憶しておらず、調理の場面をほとんど経験せずに育ってきた人も少なくない。
 ホームレス状態の人や、生活が困窮している人が食べているものは、とにかく空腹を紛らわすことが第一なので、ご飯や麺類といった炭水化物が多い。そのとき、魚や野菜をバランスよくとるような、望ましい食生活はとうていとれない。そうすると、高血圧とか高血糖になってしまう。つまり、極端にかたよった食生活になる。ぜいたくしているから、糖尿病になるのではない。
 生活保護利用者は孤独な人が本当に多い。そして、いろんな事情をかかえている。そして、自己肯定感が抑制されている。そのうえ、ケースワーカーから「恋愛禁止」を言い渡された人までいる。
 生活保護利用者の「年収」分が国会議員の1ヶ月の報酬(140万円)である。そんな議員が、「生活保護利用者はぜいたくだ」なんてほえるのですから、世の中は間違っていますよね。
 生活保護を受けるのは国民の当然の権利です。もっと大らかに受けいれたいものです。そして、生活保護を削減したら最低賃金やら年金にも悪影響を及ぼすのです。
 底辺の人同士が足をひっぱりあうことのない世の中にしたいものだと、この本を読みながらつくづく思いました。
(2012年12月刊。1400円+税)

2013年4月 9日

「国防軍」、私の懸念

著者  柳澤協二・小池清彦ほか 、 出版  かもがわ出版

安倍首相は日本を戦争する国にしようとしています。とんでもないことです。ところが、大手メディアはそれを無批判に報道するばかりです。また、橋下徹・石原慎太郎の維新の会は、それをあおり立てています。本当に恐ろしい状況が生まれています。
 そんなとき、本書は、そんなことで日本は一体どうなるのか、強い警鐘を鳴り響かせています。わずか80頁ほどの軽いブックレットですが、ずしりとした重味を感じました。
 柳澤協二氏は東大法学部を出て、キャリア組の官僚として防衛庁で運用局長そして防衛研究所長をつとめ、2009年まで内閣官房副長官補でした。安全保障担当です。その柳澤氏が憲法改正の危険性を論じています。
 ポピュリストは、自分よりも強烈なポピュリストとはうまくいかない。安倍政権について、今回の選挙で自民党が圧勝したと言っても、投票率(60%)と得票率(小選挙区で43%)で見れば、国民の支持率は25%にすぎない。
 安倍政権にとって、もっとも頭の痛い問題は、むしろアメリカかもしれない。財政削減を迫られるアメリカにとって、中国との軍事衝突は、もっとも避けたい悪夢のシナリオだ。少なくとも、アメリカは、尖閣諸島のためにアメリカの兵隊を死なせるようなことは考えない。同盟というのは、美しい友情物語ではなく、冷徹な国益の手段なのである。
 小池清彦氏も東大法学部卒です。防衛庁に入って、防衛研究長になったあと、今は新潟県加茂市長です。
防衛省設置法を改正して、防衛参事官制度とは、文官である防衛参事官が防衛の重要事項に参画し、各局の局長を兼ねるという制度である。政治が軍事をしっかりと統制するシビリアンコントロールのかなめであった。
 内局と統幕・陸・海・空幕は、それぞれが独立していなければ、内局によるコントロールは成り立たない。ところが、内局と統幕・陸・海・空幕を統合するということは、内局が制服自衛官によって乗っ取られることを意味する。実質的に力をもつのは、自衛官の局次長である。
 作戦・運用について内局の関与がなくなり、大臣に直結した統合幕官僚長に、もし田母神氏のような人物が就任したとき、どのような事態となるだろうか。そうなったら、統合幕官僚長の天下だ。制服組は、大臣の言うことなんて聞かない。いとも簡単にクーデターを起こせる。
憲法9条がある故に日本は海外派兵させられることがなかった。結局、本格的な海外派兵をやらされずに今日まで至っているのは、平和憲法9条があるおかげだ。戦争を放棄して、国際紛争を解決する手段としては陸海空軍を持たないと書いてあることが大切なのである。
 国防軍をもつということは、名前が変わるというだけですむことではなく、自衛隊員を危険にさらすことになる。自衛隊が国防軍になれば、アメリカ軍と同じように犠牲者を出す海外派兵を要求される。そうすると、国防軍に猛烈な戦死者が出る。そんな軍隊に入る人はいないので、国防軍を維持するためには、徴兵制を導入するしかなくなる。
 今の自衛隊員は、人道的な扱いを受けている。しかし、徴兵制になったら昔の帝国陸海軍と同じように、リンチ、私的制裁が横行するようになる。
 国防軍から除隊になった人たちは、暴力社会を肯定する人間となって世の中に出てくることになる。そして、世の中全体が暴力組織化しかねない。
 これまで、日本は軍事面でアメリカのために最大限のことをしてきた。その最たるものが対潜兵力である。対潜哨戒機であるP3Cは100機も保有し、そのほか対潜ヘリをたくさんもっている。こうしてアメリカに次ぐ世界第二の対潜航空兵力をつくりあげた。それに加えて、水上艦と潜水艦の強力な対潜兵力がある。
 安倍首相は戦後レジーム(体制)から脱却すると言う。それでは、戦後レジームとは何なのか。それは、平和主義・民主主義、そして地方分権のこと。安倍首相の言う戦後レジームからの脱却とは、平和主義をやめ、民主主義をやめ、それから地方分権をやめるということ。
 これって本当に恐ろしいことですよね。大マスコミはまったくそんな報道をしません。残念です。いま、広く読まれてほしい本です。
(2013年3月刊。900円+税)
 日曜日、庭にアスパラガスが6本ほど大きく伸びていました。さっそく食卓へ。電子レンジで1分あたため、春の味をかみしめました。午後から娘が近くの山にタケノコ堀りに行って持ち帰ったタケノコをアルミホイルに包んで、オーブンで焼きました。刺身でも食べられそうな、ほっこりした素敵な味わいでした。春らんまんです。

2013年4月 3日

橋下主義・解体新書

著者  二宮 厚美 、 出版  高文研

胸のすく痛快な本です。胸の内にわだかまっていたモヤモヤが吹きとんでしまい、すっきりした気分になれました。
 新書と言っても、新書版ではありません。フツーに350頁もある本です。それでも、そうだ、そうだよねと、大いに拍手しながら、ずんずん頁をめくっていき、あっというまに読み終えました。
 著者の話も何回か聞いたことがありますが、この本と同じく明快です。すっかり白髪ですので、ずい分と年長だと思っていましたが、なんと私と同じ団塊世代でした。
 これから「橋下主義」は明きの黄昏時(たそがれどき)のように、急速に日没・落日に向かう。一つのイデオロギーとしての橋下主義が現実的意味をもちはじめてから、すでに5年がたった。日の出のときは、すでに過去のことである。2012年12月の総選挙での日本維新の会の躍進は、夕焼けのようなもので、斜陽期の輝きにすぎない。
橋下主義は、よきにつけ悪しにつけ、橋下個人のカリスマ性を求心力にしたものである。
 橋下は、まず大阪において、メディアの活用・劇場型政治、各種パフォーマンス、街頭演説、過激発言、選挙合戦などを繰り返し、匿名の特定多数に対するカリスマ性をものにした。
 だが、カリスマ性に依拠した独裁主義は、しょせんは一時的なものであり、少数の限られた集団内において通用するものにすぎない。
橋下と石原が手を結んだが、独裁思考の者同士は、決して同志的結束の関係を結ぶことはできない。
 橋下は、自ら「僕は近くの人にはまったく支持されない。分かっている」と語る。
 カリスマ性を生かさなければならないが、同時に殺しもしなければならない。これが橋下主義に固有な内在的矛盾である。橋下主義は、この内在的矛盾によって滅びる。
 橋下は2008年に大阪府知事になる前は、せいぜいTV会のちんぴらタレントに過ぎなかった。昔からブタもおだてりゃ木に登るというが、橋下はメディア世評のおだてに乗って、いまではすっかり政治家気どりで、国会にまでのぼりつめようとしている。
 しかし、橋下は選挙権を得て知事になるまでの20年近く、半分も投票所に足を運んでいない。知事選に出るまで、政治にそれほど関心をもたず、まして本気になって政治家になろうなどとは思ってもいなかった。未熟ではあっても、己の主張や活動には社会的責任をとる。これが職業的政治家に求められる最低限の要件である。これが橋下には、まったく欠けている。
 橋下に際立った個性は、何よりも競争第一主義、競争至上主義的な体質である。
 橋下は幼いころからの体験を通じて「人生、万事カネ次第」の処世訓を身につけた。
橋下徹と一緒になって大阪市職員の思想調査を実施した野村修也弁護士もひどいものです。弁護士の面汚しですよね。
 日本のメディアは、橋下に翻弄されている。開き直った強気の詭弁を有能のあらわれと錯覚している。
橋下は、年金がもらえるのは80歳から、それまでは、おのれの稼ぎと蓄えで生きていけという。これが維新八策の年金政策である。
 うひゃあ、これはひどい。許せません。ところが、この中味を知らずに手を叩いて橋下を持ち上げている人のなんと多いことでしょう。
 橋下主義とは、競争主義と独裁主義。そしてきわめて野蛮な急進的かつ反動的な新自由主義路線である。
 メディアがなぜ橋下の手玉にとられ翻弄されているのか。それはメディア自身がゲームの世界に取り込まれているからである。
橋下は、いま憲法改正をあおりたてています。安倍政権を右側から突き上げ、憲法改正へと突っ走らせようとしています。とんでもない政治集団です。その化けの皮をはぐ本です。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2013年3月刊。2800円+税)

2013年4月 2日

原発と憲法9条

著者  小出 裕章 、 出版  遊絲社

明快です。とても分かりやすくて、驚いてしまいました。原発について、少しは分かっているつもりでしたが、この本を読んで、本当に頭がすっきりしました。さすがに専門家は違います。それも「原発ムラ」と長年たたかってきた気骨ある学者ですので、明瞭そのものです。あざやかというほかないほどの明快さなのです。
 原子力は安全ではない。少なくとも都会では引き受けられない巨大な危険を抱えている。そのことを原子力ムラが知っていたからこそ、原子力発電所は過疎地につくった。
そして、原子力は安価でもない。現在進行形の事故処理は膨大なものになるのだから、安価なはずがない。
核分裂反応というのは、はじめから爆弾向けの現象だった。核分裂反応がもっている性質が、いちばん開花して、爆弾となった。
広島に落とされた原爆はウランで出来ていた。長崎に落とされた原爆はプルトニウムで出来ていた。プルトニウムという物質は、この世界にはひとつもない。一グラムもない。そういう物質である。
 石油は、残りはあと30年しかないとずっと言われ続けてきた。今も言われている。しかし、これからもそう言われるだろうということは石油は実は、まだまだあるということ。
 日本は「もんじゅ」にすでに1兆円もの大金を投入している。すなわち捨てているのだ。
 日本が現に持っているプルトニウムで長崎型の原爆が実に4000発もつくれる。日本が原子力をどうしてもあきらめない本当の理由は、核兵器をつくることにある。核兵器をつくるには、プルトニウムが必要になるからである。
 同じ言葉を、日本がやるときには原子力開発と呼び、イランがやると核開発という。これはマスコミの情報操作の一つである。
 原子力に反対する根本の理由は、自分だけがよくて危険だけを他人に押しつける社会が許さないから。電力を使うのは都会なのに、原子力発電所は都会にはつくらない。そして、原子力発電所で働く労働者は本当に底辺で苦しむ労働者が多い。
 わずか200頁の本ですが、たたかう団塊世代(私と同世代なのです)の著者から大いなる勇気をいただきました。ご一読をおすすめします。
(2012年5月刊。1400円+税)

2013年3月31日

幸せに暮らす集落

著者  ジェフリー・S・アイリッシュ 、 出版  南方新社

鹿児島の限界集落に日本語ペラペラのアメリカ人が住んでみた体験記です。
 時間がゆったりと流れ、お年寄りが幸せに暮らしているさまがよく伝わってきます。文章もほのぼのとしていて幸福感がじんわりと伝わってきます。そして写真がまたいいのです。こぼれんばかりの笑みがあふれ、幸せそのものの美しい顔に心がなんとも惹かれます。
 ところは、薩摩半島の山奥。そこに土喰(つちくれ)という小さな集落がある。20軒の家と、たった27人が生活する。65歳以下は3人のみ。平均年齢は77歳。
 集落には有線放送がある。公民館に行って、チャイムを鳴らしてから放送する。各戸の「箱」から声がでる仕掛けだ。
土喰集落は江戸時代の半ば少なくとも240年前から存在している。7代前のこと。
 そして、アメリカ人の著者は薩摩川内市出身の彼女と結婚した。
 土喰集落には女性19人に対して男性は8人しかいない。
 著者は『忘れられた日本人』の著者である宮本常一の翻訳者でもあります。ハーバード大学そして京都大学で学び、現在は鹿児島国際大学の准教授です。
 南日本新聞に連載されて好評だったそうです。限界集落に住む老人は今や忘れられた存在となっていますが、実は、そこにも人間の豊かな営みがあったこと、人々が生き生きと活動していること、そして、人々はそこで枯れるようにして亡くなっていくことを教えてくれます。本当に大切な本だと思いました。
 こんないい本にめぐり会えると、ついうれしくなってしまいます。
(2013年1月刊。1800円+税)

2013年3月29日

原発報道

著者  東京新聞編集局 、 出版  東京新聞

購読しているわけではありませんが、ときどきインターネットで記事を読んでいますが、世の中の動きを真正面から取りあげ、鋭く切り込んでいる記事が多くて、とても勇気づけられます。今や大手全国紙は、どれもこれも政府の広報誌になりさがってしまった感があります。消費税にしろ、TPPにしろ、また国会定数削減にしろ、声をそろえて政府の言っていることと同じですし、その後押しをするばかりです。
 原発報道もそうですよね。まだ「収束」したとはほど遠い実情にあるのに、それを知ったうえで、政府の「収束」宣言に加担してしまいました。
 マスコミは「原子力村」の有力な一員なのです。その状況下で、東京新聞は一人がんばっています。九州のブロック紙にも、もっとがんばってほしいと思いますが、九電の影響力が依然として強いようで残念です。
 この本は東京新聞の原発記事が総まとめにされています。問題の所在が一冊にまとまっていますので、本当に便利です。しかも、記事を再編成し、カラー図版を多用していますので、本当に分かりやすいのです。
 東電は原発について「絶対安全」なのだから、余計な対策はとる必要がない、このように高をくくっていたのでした。だから、今回の大災害はまさしく人災なのです。東電の経営者に刑事罰が課されるべきは当然です。
 そして、福島第一原発の1~3号炉のどれも今なお内部に接近することができません。あまりにも放射能が高すぎるからです。
 そして、放射性廃棄物質を収納する場所がありません。わずか何十年間しか使われない(使えない)私たちが、これから何万年ものあいだ日本列島に住む人々に、とんでもない置きみやげを残していくなんて許されないことだと思います。
 そんな経緯がとても分かりやすく一冊にまとまっています。360頁の大型の本ですが、3.11原発事故とは何だったのか、これからどうなるのかを考えるときに不可欠な資料集です。ぜひ手にとって読んでみてください。
(2012年12月刊。1800円+税)
 東京で長い会議を終えて、みんなで六本木の夜桜見物に出かけました。地下鉄の駅から地上に出ると、ライトアップされた桜並木が目の前にありました。その名も桜坂と言います。道の両側に満々開の桜が切れ目なく続いています。たくさんの見物客が歩いています。途中にあるレストランはオープンな庭にテーブルを並べ、飲食しながら夜桜見物ができるようになっていました。下から見上げると黒々とした空に華やかなピンク色の桜が満点の星のように大きく広がっていて、これは素晴らしいと思わず唸ってしまいました。

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