弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2014年10月 5日
自衛隊と防衛産業
著者 桜林 美佐 、 出版 並木書房
自衛隊と防衛産業を積極的に評価した本です。
10式戦車は「ひとまる」戦車。90式の50トンと比べて44トンと大幅に軽量化された。90式戦車は重すぎて北海道でしか使えなかった。
10式戦車は、完全国産。2000メートル先の目標に対して畳一枚の大きさの制度で撃ち込むことができる。そして、車体がどんなにブレても、照準点が変わらないように制御できる高度な技術がある。ジグザグにスラローム走行しながら射撃し、命中させる能力は世界初。追尾を90式の熱源方式から、映像方式に替えたことで実現した。そして、眼鏡式だった標準あわせが、10式ではタッチパネル式に変わっている。
現在、戦車をエンジンまですべて国産にできる国は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イスラエルそして日本だけ。戦車を製造しているのは、相僕原市にある三菱重工業の汎用機・特車事業本部。最盛期には年に72両の戦車を製造していたが、いまは8両ほど。かつての1200両が今では3分1まで減らされている。
ヘリ搭載型護衛艦というのは、ヘリ空母のこと。「ひゅうが」「いせ」に続いて「いずも」が就航した。2万トン、ヘリコプター9機を同時に運用できる。F35も搭載可能だ。
「いずも」の建造費は1200億円。潜水艦を製造しているのは、川﨑重工業と三菱重工業の二社のみ。大気に依存しないスターリングエンジンAIP発電システムによって、水中航続性能が大幅に向上した。
日本の自衛隊を装備面から政府広報のように紹介した本です。
(2014年8月刊。1500円+税)
2014年10月 3日
ブラボー、隠されたビキニ水爆実験
著者 高瀬 毅 、 出版 平凡社
3.11のあと、福島第一原発の後始末が難行しているのに、平然と原発を再稼働させようとしている政府と企業がいます。信じられないほどの無責任さです。
安倍首相とその親族は福島第一原発周辺に別宅をもうけて、週末はそこでゆっくり過ごすようにしたらいいのではありませんか。なにしろ、「収束」宣言をしたのですから、安全のはずでしょう。
放射能の怖さは、それが目に見えず、何の臭いもしないので、近寄ってみても、手でさわってみても、その危険は実感することが出来ません。
60年前、太平洋で漁業に従事していた漁船に突如として「死の灰」が降りかかってきました。何も知らされていなかった漁船員は、白い灰をまともに浴びて、日本に帰り着いてから、たちまち発症していったのです。「第五福竜丸」事件の始まりです。
ところが、この本によると、アメリカの水爆実験によって被爆した漁船は、実は、第五福竜丸以外にもたくさんいたというのです。
アメリカによる巨大な水爆実験は、膨大な放射能を太平洋の広い範囲に拡散させた。そこには、たくさんの漁船がいた。日本の港に入ってきた何十隻もの漁船から放射能が検出された。放射能に汚染されたマグロを廃棄しなかったマグロ漁船も13隻いた。被災した漁船は、のべ1000隻にのぼった。
1954年3月1日あら5月14日まで、アメリカは6回にわたって原水爆実験を実施した。
何が起きているのか知らされていない漁船の乗組員たちは、海水で体を洗い、海水の風呂に入っていた。
太陽が昇るときのような明るさが3分ほど続いた。それから3時間すると、粉のような灰が船体に一面降りかかった。その晩は、飯も食えず、酒を飲んでも酔わなかった。2日目あたりから、頭痛を訴える人が出てきた。3日目には、灰のかかった皮膚がひやけしたように黒ずみ、10日くらいたってから、水ぶくれの症状になった。
これは、当時39歳だった久保山愛吉氏の証言です。やがて亡くなられました。
いま、「第五福竜丸」は、元の夢の島に保存されているとのこと。私も一度みてみたいと思いました。
(2014年6月刊。1800円+税)
2014年9月26日
「おこぼれ経済」という神話
著者 石川 康宏 、 出版 新日本出版社
私の身のまわりは、本当に不況が深刻です。宅配業に従事している人は、この夏のお中元は激減しましたと言います。お菓子屋さんに勤める人も、同じくお中元商品はさっぱりですと言いました。中長距離トラックの運転手の人たちも、物流に勢いがないと断言します。
アベノミクスの恩恵を蒙っているのは、超大企業とごく一部の人々ではないでしょうか。多くの庶民は、賃金や年金が減る一方で、消費税が上がって食費と出費を切り詰めて、生活防衛に走っています。だから、外食産業もアップアップしているのです。
この本は、アベノミクスにだまされてはいけない、そのカラクリを見抜くことをおすすめしています。いま、たくさんの人に読んでほしい一冊です。
アベノミクスは、国民生活の改善につながるものとはなっていない。それは経済政策が古い「おこぼれ経済」という発想の枠にしがみついているからだ。
「おこぼれ経済」というのは、「大企業がうるおえば、そのうち国民もうるおってくるだろう」式の神話にすぎない。そうではなくて、国民がうるおってこそ、大企業も中小企業もうるおいということに経済の根本をおく必要がある。
日本では、国内消費の最大勢力である個人消費を拡大させることによって、日本経済の生産力と消費力の均衡を回復していくべきだ。
バブルの崩壊のあと、日本経済は長く停滞の時代に入っている。1991年から2011年までの20年間の年平均成長率は、わずか0.9%。この不活性さが20年以上も続いている。
労働者の給与総額(ボーナスをふくむ)は、1997年をピークとして、減少している。1997年に月額37万円をこえた平均給与は、2012年には31万円ちょっととなり。この15年間で月5万余、年間で70万円近くも減ってしまった。その直接の原因は、非正規雇用の増大。
日本経済の輸出依存度は14%で、世界185ヶ国のうち148位。高くはない。
日本経済の成長を支えてきたのは、日本国民の個人消費だった。
日本は、G7のなかで賃金が減少している唯一の国である。
日本の保険業界は、アメリカの大企業に乗っとられつつある。郵政民営化によって、結局、ゆうちょはアフラックに支配されつつありますよね。
日本経団連会長を出している東レは、典型的な多国籍企業である。その海外生産比率は、センイで59%、フィルムで77%。グループ全体でも海外比率は45%を占めている。
これでは、日本経団連が日本の一般庶民を大切にしようと思うはずもありませんね。
政党助成金が始まったのは、財界からの政治献金を禁止するとの引きかえだった。ところが、日本経団連は自民党への政治献金を再開すると宣言した。これでは、国民をペテンにかけたも同然です。税金のムダづかいではありませんか。政党助成金は直ちに廃止すべきです。
そして、国政選挙に民意を反映するように、あまりに民意にかけ離れた国会議席構成をつくりだしている小選挙区制度なんか、すぐにやめて比例代表制を基本とする選挙制度へ大転換してほしいと思います。
(2014年6月刊。1100円+税)
2014年9月23日
紙つなげ!
著者 佐々 涼子 、 出版 早川書房
この5月に石巻に行ってきました。そのとき日和山にのぼって、海岸線のほうを見渡すと、広大な草原が広がっていました。かつて住宅街があったところです。そして、そのすぐ下に日本製紙石巻工場があり、操業しているのを見ました。大きな工場です。
この本は、あの3.11のとき、この石巻工場が壊滅的打撃を受けながらも、そのとき工場内にいた人が全員助かったこと、そして、半年で製紙工場としてよみがえった過程を生き生きと紹介しています。
なにより驚いたのは、この石巻工場で日本の本の多くがつくり出されているということです。
そして、工場に働く人たちは、本を手にしたとき、その手ざわりから、自分たちの工場の製品かどうか分かるというのです。製紙についても、いろいろ教えてくれる貴重な本でもありました。
印刷用紙の原料には、ユーカリなどの広葉樹チップ(木片)とラジアータパイン(松の一種)などの針葉樹チップが使われる。
広葉樹は針葉樹と比べて繊維が短く、柔らかいのが特徴だ。広葉樹の柔らかさは、この紙の手触りの良さをうみ出している。
石巻工場の震災前の生産量は年に100トン。世界屈指の規模を誇る。
工場に押し寄せた津波は高さ4メートルに達した。工場の敷地内で41名の遺体が発見された。8号マシンは、おもに徴塗工紙や中質紙を生産している。マシンの全長は111メートル。
8号マシンが止まれば、日本の出版は倒れる。
日本の出版用紙の4割が日本製紙で生産されるが、石巻工場はその基幹工場である。
津波のあと、においがすごかった。日和山には1万人ほど避難していた。
工場が燃えなかったのは、奇跡みたいなものだった。工場の一階部分はすべてが泥水に埋まり、そのうえに周辺地域から流入してきた瓦礫が2メートルは積もっていた。
石巻工場で働いていた1306人の全員が無事だった。
最近の読者から好まれているのは、紙が厚くて、しかも柔らかく、高級感のあるもの。読者は、めくったときの快楽を無意識のうちに求めている。
紙を抄くためには、豊かで良質な水が必要。石巻には、豊かな水量を誇る北上川が流れている。そして、良質な森林資源がパルプの原料となった。さらに、首都圏への製品輸送ルートが確立している。
最新鋭のN6抄紙機ラインは、抄造スピードが毎分1800メートル。1日の生産量が1000トンをこえる世界最大級の超大型設備。日本製紙は630億円を投入した。ちなみに、東京スカイツリーの総工費は650億円。すごいマシーンですね、これって・・・。
徴塗工紙とは、紙の表面に女性のファンデーションのように薄づきの化粧を施し、ナチュラルな風合いを出したもの。
文庫は、出版社によって紙の色が異なる。講談社は若干黄色、角川は赤くて、新潮社はめっちゃ赤。
かつての文庫用紙は酸性だった。だから、退色しやすかった。中性紙は、ずっと色もちしやすい。
子ども用のコミック本は、手にとってうれしくなるように、ゴージャスにぶわっと厚くつくって、運ぶのに重くないようになっている。
半年後、石巻工場は息を吹き返した。半年復興を言った工場長すら、内心では3%の可能性しかないと踏んでいた。誰もが想像し得なかった半年復興だった。
いい本でした。ただ、今後の津波対策はどうなっているのかなと、ちょっぴり不安も感じました。
日和山にのぼったあと、庄司捷彦弁護士(石巻市)から大川小学校の跡地にまで案内してもらいました。川から少し離れた小学校が廃墟になっていました。黙って手をあわせたあと、仮設住宅を遠くに眺めながら石巻市内に戻りました。仮設住宅はとても狭くてプライバシーの点からも十分でないと不安にかられました。
「誇るに足る日本」によるというのなら、安倍首相はこの状態の解消こそ最優先にすべきだと思います。原発再稼働を優先させるなんて、とんでもない首相です。
(2014年8月刊。1500円+税)
2014年9月21日
ルポ・介護独身
著者 山村 基毅 、 出版 新潮新書
未婚率が年々、上昇している。25歳から29歳前は、男性が72%、女性は60%(2010年)。
平均初婚年齢は、男性が30.7歳、女性は29.0歳。これは、1950年に比べて、5~6歳あがっている。
生涯未婚率(50歳での未婚率)は、男性が16.0%(2005年)から20.1%(2010年)になった。女性は7.3%から10.6%に上昇している。
初婚の年齢が高くなるのと同時に、結婚しない、出来ない人たちも増えている。
同じ介護でも、高齢者の介護の先には「死」がぶら下がっている。乳幼児には、少なくとも「見かけ」は輝くばかりの未来が広がっている。
高齢者の介護を担うものが祝福されることは、ほとんどない。
2012年、厚労省は認知症の高齢者は300万人をこえるという推計を発表した。この10年間で2倍増大した。65歳以上の10人に1人は患っていることになる。8年後には、認知症の高齢者は400万人をこえるとみられている。
シングルの介護者は「孤立感」を抱いている。どうして、孤独感や孤立感を感じるのか・・・。
介護が家族内で行われているときには一対一の関係である。デイサービス・センターでは職員のチームワークで介護するが、家庭内では一人で介護にあたる。
そして、介護は、それぞれ個別の状況にあるため、他人の体験がうまく活用されないことがある。
シングルの介護者には独身者が多い。結婚したくても出来ないからだ。同じように、ヘルパーにも独身が多い。出会いが少ないためだろう。そして、勤務時間が不規則なうえに、収入も低い。
本当に介護職の置かれている状況は悲惨としかいいようがありません。安倍首相は軍事予算のほうは5兆円規模へ増大させている一方で、福祉のほうは、相変わらず、冷たく切り捨てています。これで、そんな「国を愛せ」と押しつけるのですから、本当にあの政治は間違っていますよね。
誰でも、いずれお世話になる介護の現場の大変さがそくそくと伝わってくる新書でした。
(2014年6月刊。720円+税)
2014年9月19日
炎を越えて
著者 杉原 美津子 、 出版 文芸春秋
NHKスペシャルで、放映された(2014年2月28日)内容が本になったもののようです。
事件が起きたのは、1980年8月19日の夜9時すぎのこと。東京・新宿駅西口のバス停です。突然、バスにガソリンが投げ込まれ、火が付いて、30人の乗客猛火に包まれた。結局、6人の乗客が死亡し、20人が重軽傷を負った。犯人は無期懲役。やがて、刑務所内で自死した。
この本の著者は、乗客の一人でした。熱傷の範囲は全身の80%に及び、医師は「絶望」とみた。しかし、死線を乗りこえ、ケロイドの皮膚をもちながらも退院できるようになった。ただし、大量の輸血のために、C型肝炎に感染した。
看護師が「魔の薬浴」と呼んだ治療と処置が毎朝、全身の傷口がふさがるまで数ヶ月間も続いた。手術が一週間に一度の割合で行われた。壊死した皮膚組織をメスで削りとる。次に、本人の皮膚を植皮する。
加害者は当時38歳の男性。自らの不甲斐なさに腹立ちと焦燥を覚え、自分のみじめな境遇を思うにつけ、世間に対してねたみや恨みの感情を抱くようになった。人々から、行く先々で唾棄され、「自分だって、やる気になれば、何だってできる。馬鹿野郎、なめやがって」と思い、火とガソリンを投げ込んだ。
死刑の求刑に対して、無期懲役の判決が出た。犯人(被告人)は低知能を基調として、心因反応性の被害・追跡妄想にもとづく情動興奮と酩酊との影響を受け、心神耗弱(こうじゃく)の状態にあったとされた。
千葉刑務所内で自殺したとき、彼は55歳。事件から17年がたっていた。
著者はC型肝炎から、肝がんになった。医師は「余命、半年」を宣告した。ところが、アメリカ発のサプリメントの効果で、ガンは消滅してしまった。
人に出会い、人と胸を開けば、自分が見えてくる。そうしたら、自分にも非があったことを「詫びる」ことができる。そこから、「赦しあう」関係ができる。
「被害者」になっても、「加害者」になっても、自分のその痛みを直視して、それを小突く者たちと闘って行くのだ。自分の痛みを自分で受けとめることができたら、相手の痛みを感じる神経も戻ってくる。
それでも、人間は苦しみ、災害も事故も事件も繰り返され、加害の立場に立ったものは、赦されることのないその後を生き、被害を受けたものも、痛みの終わるときのないその後を生きていかなければならない。だから、被害を受けたものには、その痛みを伝え、その痛みを乗りこえていくことが許される。それが、被害者と加害者との決定的な違いだ。
憎しみ続けることは苦しいことで、膨大な負のエネルギーが必要になる。少年は、それを抱えていく耐性が弱いため、そこから解放されたいという思いから、誰かに憎しみの感情を受けとめてほしいということになる。
心身に傷を負った被害者が被害者として生きてくことの難しさをよくよく実感させてくれる貴重な本です。それでも、モノカキとして生きてきた著者は素顔を出して、私たちに語りかけてくれました。その勇気をもらって、元気になれる本です。
(2014年7月刊。1400円+税)
2014年9月18日
リニア新幹線
著者 橋山 禮治郞 、 出版 集英社新書
この本を読んでいるうちに、ふつふつと怒りが沸きあがってきました。いえ、もちろん著者に対してではありません。書かれている内容からです。
1997年12月に供用を開始した東京湾アクアライン(横断道路)は、現在、1日あたり1億円の赤字を出している。工事費は、当初予算の125%の1兆4千億円超。料金は当初から8割も値下げして800円。この料金収入は借入金の支払い金利すら下まわっている。投資の回収は絶望的。巨額の損失をこうむったのは日本道路公団。
要するに、私たちの税金が日々、ムダづかいされているというわけです。そして、誰も責任をとっていません。戦後最大の失敗プロジェクト。
しかし、リニア新幹線は、それをさらに上回るスケールで失敗するのは必至のプロジェクト。
JR東海の社長は、「絶対にペイしない」と断言した。
リニア新幹線の建設工事費は異常に高い。東京-大阪間で9兆300億円。うち、東京-名古屋間では、5兆4300億円。
リニア新幹線は東京-名古屋間では86%が地下と山岳トンネル。大都市圏内では、地下40メートル以深の大深度地下。
推進派の学者は次のように発言した。
「薄暗いリニアの車内で、誰にも邪魔されずに静かに瞑想できる」
リニア新幹線は、時速500キロで東京-大阪間を67分、東京-名古屋間を40分という。わずか1時間ほどの「瞑想」時間に、これほどの巨額の投資をするものか・・・。
リニア新幹線には運転士は乗っていない。地震などによって中央制御センターが破壊されたときには制御不能になるのではないか・・・。5~10キロ毎に立て坑が設置されるというが、どうやって安全に乗客を誘導するというのか。
強力な電磁波は、果たして人体に影響ないのか・・・。
リニア新幹線は、在来のJR、新幹線と相互乗り入れすることはでいないし、連絡もありえない。ネットワーク無視の鉄道である。
リニア新幹線の危機性だけでなく、とてつもない無駄な超大型公共工事であることが良く分かりました。こんな典型的なムダづかい工事は、一部の政治家とゼネコンを喜ばせるだけです。
ストップさせるしかありません。
(2014年3月刊。720円+税)
2014年9月12日
ヘイトスピーチ
著者 エリック・ブライシュ 、 出版 明石書店
ヘイトスピーチがヘイトスピーチであることの決定的な条件は、それが「相手の属する集団」、それも「本人の意思では変更が難しい集団」にもとづいて、悔辱や扇動、あるいは脅迫が行われるということ。したがって、たんにその人個人を罵倒したり、汚い言葉を浴びせたとしても、それはヘイトスピーチではない。
ホロコースト否定は、ヘイトスピーチの一種型であるが、それは、より普遍的な形でヘイトスピーチの一種型をなしている。
日本は、ヘイトスピーチに対する規制がない点では、アメリカと同じだ。しかし、ヘイトクライム法や人種差別禁止法もないという点では、アメリカとも違う。要するに、日本はアメリカより遅れているということなのですね。
私たちは自由を愛し、レイシズム(人種差別)を憎む。しかし、この二つの価値が衝突したとき、私たちはどうしたらよいのか・・・。
フランスの1972年法は、ヘイトスピーチを規制する。そこでは、エスニシティや国籍、人種、宗教などにもとづく中傷や名誉毀損だけでなく。それらにもとづいて差別や憎悪、暴力を煽ることも禁止された。
1960年代以降、他のヨーロッパ諸国もヘイトスピーチの規制を開始し、拡大した。1990年以降、ヨーロッパでは多くの法律が規制され、人種差別表現に対する規制が次第に拡大された。
2006年にイギリスで成立した人種及び宗教増悪法では、人種憎悪の扇動とともに、宗教的憎悪の扇動も禁止した。
1997年10月、ブリジット・バルドーはフランスに住むムスリムを脅威として表現したとして、1万フランの罰金を科せられた。その後、2004年6月にも、人種的憎悪の扇動で有罪となった(罰金5000ユーロ)。
ホロコーストの否定を禁止する法律は、ヨーロッパ諸国の多くで世論の大きな支持を得ている。しかし、厳格に適用されると、人々が過去について異論を差し挟むことを禁止することになる。なーるほど、それも困りますよね・・・。
アメリカは、人種差別団体について、結社の自由をより強く与えている。暴力その他犯罪的行為に関与していない限り、団体に対する国家的介入から実質的に保護されている。
民主的なドイツの半分以上の州議会に極右の議員がいる。驚くべきことだ。
アメリカは、長い人種的暴力の歴史をもっている。
自由とレイシズムの関係は、複雑である。ヘイトスピーチや人種差別団体を規制することは、必ずしもレイシズムを抑止することにはらない。むしろ、地下に潜って広がってしまう恐れすらある。
社会に分断をもたらし、きわめて敵対的な反応を引きおこすような人種差別表現、団体、行為には、その欠点を埋め合わせるだけの社会的価値など、ほとんどない。
フランスでは、ヘイトスピーチを主たる理由として有罪になった事例は、2005年から2007年のあいだに、年に208件であった。1997年から2001年までの5年間では年100件だったから、増加傾向にある。2007年の有罪判決をみると、139件が罰金刑(平均726ユーロ)、58件が執行猶予判決、3件が2ヵ月以下の実刑だった。
アメリカとヨーロッパにおけるヘイトスピーチ規制の実際と問題が指摘されている本です。
(2014年2月刊。2800円+税)
いつのまにか稲穂が垂れています。今年の夏は雨ばかり降って、蝉に気の毒な事態となりました。夏の終わりを告げるツクツク法師の声を聞いたかと思うと、一気にセミの季節は終わり、虫の音が響くようになりました。
東京出張から帰ってきて、夜空を見上げると、満月が胱々と冴えています。仲秋の名月だったのです。
2014年9月11日
カジノ狂騒曲
著者 竹腰 将弘 ・ 小松公生 、 出版 新日本出版社
この日本にカジノを作ろうなんて気狂いじみています。カジノを推進しようとする安倍首相こそ、なにより道徳教育の基本をたたきこむべき対象人物ではないでしょうか・・・・。
安倍首相は、国会で次のように答弁した。
「カジノについては、産業振興をもたらし、そして活性化にもつながると考えている」(2014年2月28日)
カジノが日本の産業を振興し、活性化させるというのは、まったくの間違いです。もうかるのは、一部のカジノ資本です。それは、日本資本というより、外国資本であり、それに寄生しようという日本資本です。アメリカ(ラスベガス)のサンズ、MGM,(シカゴの)ラッシュ・ストリート、マカオのメルコ・クランなど。そして、日本のゼネコン・商社・不動産業者・大手パチンコ業者など・・・・。
彼らは日本にカジノが開設されたら、1000億円から1兆円を投資するという。
カジノの売り上げ世界一は、アメリカのラスベガスではなく、マカオの年2兆6000億円。しかし、日本のパチンコの売上は年19兆円。
2011年に世界で稼働しているギャンブル・マシンは701万台。そのうち日本には421万台がある。全体の6割を占めている。
日本のパチンコ業界の粗利は3兆9000億円。中央競馬などを加えると、日本人は1年間に5兆5500億円も賭博で負けて、お金をなくしている。
ギャンブル依存症は、精神疾患(病気)である。それは、賭博の強い刺激を受け続けることで、脳内に物質的な変化が起こり(ドーパミンの過剰な分泌など)、依存の回路を刻みつけてしまう病気である。
日本人のギャンブル依存症患者は560万人。日本人の成年男性の9.6%、女性の1.6%にギャンブル依存症の傾向がある。
ギャンブル依存症の患者と家族は四つの不幸を背負う。
第一に、パチンコ・スロットがギャンブルとみなされていない欺瞞的な現状、第二にマスメディアの自己規制、第三に行政の無理解、第四に精神医学界の無関心。
日本は、世界でも最悪のギャンブル依存症大国である。カジノ誘致に名乗りをあげている地方自治体は19ある。
東京の石原元都知事はともかく、大阪の橋下市長、そして、沖縄の仲井真知事、北海道の高橋はるみ知事、千葉の森田健作知事、横浜の林文子市長などです。これらの人の頭のバランス感覚を疑ってしまいます。
なかでも、最悪・最低なのは橋下徹・大阪市長の発言です。
「ここにカジノをもって来て、どんどんバクチ打ちを集めたらいい」(2009年)
「日本は、ギャンブルを遠ざけるがため、坊ちゃん、嬢ちゃんの国になっている。強い国になるためにカジノ法案を通してください」
「ちっちゃいころから勝負を積み重ねて勝負師になれとないと、世界に勝てない」(2010年10月28日)
私は、長崎・佐世保のハウステンボスに、ひところ毎年のようにチューリップを見に行っていましたが、社長がカジノを誘致しているのを知ってからは行くのを止めました。東京へカジノを誘致するのには反対し、佐世保(ハウステンボス)なら、「地方の活性化」になるというのです。とんでもありません。
さらに、宮崎のシーガイアも、カジノ誘致を狙っているとのこと。これまた許せません。
鉄火場(てっかば)とは、賭け事に熱中し興奮するあまり、我を忘れ、鉄火のような形相になることから、あてられた表現。
カジノ資本は、ヨーロッパでは失敗した。シンガポールやラスベガスのようなカジノをEU域内で営業できるように工作したが、EUは認めなかった。そこで、日本を最後の巨大市場とみている。日本での目あては、日本の小金もち。
日本にカジノはいりません。これ以上、日本にギャンブル依存症の人を増やしてはいけません。
(2014年7月刊。1400円+税)
2014年9月 5日
靖国参拝の何が問題か
著者 内田 雅敏 、 出版 平凡社新書
今年の夏、8月15日には靖国神社への道が大混雑したそうです。
国民の少なくない人が二代の天皇が靖国神社を参拝しない理由を知らないように思います。この本は、その理由をふくめて、靖国神社と靖国参拝の問題点を縦横に、そして明快かつ分かりやすく語り明かしています。
安倍首相が去年12月末に靖国神社を参拝したとき、アメリカ政府は「失望した」と公式に表明した。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは、次のように指摘した。
「安倍首相の靖国参拝は、日本の軍国主義復活という幻影を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物だ」
そうなんですよね。安倍首相の言動こそが、東アジアの緊張関係をひたすら悪化させている主な要因なのです。
ワシントン・ポストは安倍首相の歴史認識を次のように批判した。
「安倍首相は歴史を直視することができない。中国や韓国の怒りは理解できる」
また、アメリカの連邦議会調査局は、安倍首相の歴史認識をめぐる言動について、「地域の関係を破壊し、アメリカの利益を損なう恐れがある」と指摘した。
靖国神社は、先の戦争を「聖戦」とし肯定し、戦死者を「護国の英雄」として顕彰している。
韓国や中国が靖国神社参拝を批判するのは、靖国神社が、公式に表明されてきた日本政府の歴史認識とまったく相反する歴史認識を主張しているからである。
靖国神社は、先の大東亜戦争について正しい戦争だったという聖戦史観に立ち、A級戦犯を合祀しているだけでなく、そもそも戦死者の「追悼」施設ではなく、「顕彰」施設である点に、その本質がある。
靖国神社は、英霊の顕彰の目的で設立された沿革を有する。天皇の兵士の戦死者を「護国の英霊」として顕彰するためには、戦死した戦争は不義のものであってはならない。したがって、南京大虐殺もなかったし、軍の強制による「従軍慰安婦」も存在していなかったということにされる。
昭和天皇は、A級戦犯の合祀が明らかになった1975年を最後に、靖国神社への参拝をやめた。
厚生省がA級戦犯12名の氏名を記載した「祭人名票」を靖国神社に届けたのは、1966年2月。当時の宮司は預かったままとした。ところが、次の松永宮司が1978年10月の例大祭で合祀した。
靖国神社は、今は一宗教法人であるが、いずれは戦前と同じように国家施設になることを目論んでいる。だから、それができる前に国立追悼施設ができてしまうと「戦死者」の魂を独占することが出来なくなると考え、国立追悼施設の建立に反対している。
著者は、今からでも遅くないから、すべての戦没者を追悼する無宗教の国立追悼施設をつくるべきだと提唱しています。私も大賛成です。
著者は、私の敬愛する弁護士です。中国人の強制連行事件など、平和問題に広く活躍してきました。これからも、ますます元気にがんばってください。贈呈ありがとうございました。
(2014年8月刊。740円+税)