弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2014年5月 2日

家族難民


著者  山田 昌弘 、 出版  朝日新聞出版

 法律的には家族であっても、真の意味で家族とは呼べない状態を、家族難民という。
 家族難民の多くを占めるのは、配偶者がいないと言う意味のシングル。日本の少子高齢化の原因のひとつは、そもそも結婚しない人が増えていることがもっとも大きな原因となっている。未婚者のなかで恋人がいる人の数も減っている。
 中高生の性的関心が大幅に低下している。
シングルの分類、34歳までを若年シグナル、35~64歳を中年シングル、65歳以上を高齢シングルと呼ぶ。
 ペットを飼うシングルが増えている。シングルにとって、ペットは心の支えになってくれる家族の一員。
シングルが量的に増え、かつ、質的にも孤立化を深めていく現象を、シングル化と呼ぶ。
 残念ながら、シングル化は決して他人事(ひとごと)ではない。自分や家族がシングルになって、社会から疎外されていく可能性は誰にも否定できない。
 年間、3万2000人が孤立死している。
 2010年、50歳の男性の生涯未婚率は20%、女性は10%。これから25年後、年間150万人の死者に対する男女平均15%だと、20万人以上の人が孤立死を迎える可能性がある。昔のイエ(家)制度の下で、シングルの生活を保障できたのは、イエ制度の基盤が「家業」にあったから。家族は家業で従業員の役目も果たしていた。その家業後も親と同居する未婚者をパラサイト・シングルと呼んだ。世界のなかで日本で特徴的に見られる存在だった。
 ところが、今、欧米でも、同様の現象が起きつつある。
 日本のパラサイト・シングルは非正規雇用が増大するなかで、不本意ながら、やむをえない選択になってきた。そしてt、パラサイト・シングルのなかに格差が出てきた。
未婚者の4割は、非正規雇用者や失業者である。
 なぜ、日本の若者が欧米の若者のようにデモしたり、暴動を起こしたりしないのか。
 それは、日本の若手シングルの多くが親と同居して、経済的、心理的なサポートを受けているから。つまり、親が社会保障機能を果たすことで、子どもを貧困や精神的な孤立から救っている。
 現代のあり方に対して、いつも鋭い問題提起をしている著者の指摘に目を開かされます。
(2014年1月刊。1600円+税)

2014年5月 1日

秘密保護法は、すぐ廃止へ!


著者  仁比 聡平 、 出版  日本機関誌出版センター

 昨年(2013年)12月、特定秘密保護法が自民・公明両党による強行採決で成立してしまいました。このとき、最後まで反対してがんばった福岡選出の仁比聡平議員(弁護士)の奮闘ぶりがブックレットになりました。早速よんでみましたので、報告します。
 憤りのあまり、血管が切れそうだ。これは、単なるたとえ話ではなく、実体験になった・・・。
 夜の11時前に法案が強行採決され、その他の採決もあって、国会は土曜日の午前1時ころまで続いた。
 そんな深夜国会なんて、本当に異常ですよね。これは、法案が異常だから、そんな異例の時間になるのです。でも、マスコミは、ことの本質をよくよく国民に伝えてくれません。民放はもちろん、NHKにだって権力べったりなので、何が問題なのか、明確には伝えてくれなかったのでした。
 仁比議員は、参議院の本会議で堂々たる反対討論をぶちあげました。民主党議員は、いったん退場し、再び議場に戻ってきたのです。
国民の、この法案への強い怒りは無責任は棄権を許さなかった。
 仁比議員は、あとで両手の親指の付け根が黒ずんで青染み担っているのに気がついた。怒りのあまり、自民党議員(理事)の席をバーンと叩いて出来たものだった。
 秘密というのは、権力を握っているほうが指定すれば、何でも秘密になるし、捜査機関が必要と思えば、逮捕・勾留することになる。捜索・差押、そして密室での取調べへとすすんでいく。
 さらに、この処罰の対象には、国会議員もふくまれている。三権分立とか、国権の最高機関たる国会とは、とても言えなくなる事態が生まれる。
 元気いっぱいの弁護士であり、参議院議員である仁比聡平氏には、これからも国政の舞台で大いに活躍してほしいと思います。
 それにしても、すばやく70頁ほどのブックレットに仕立て上げたのは見事です。引き続き広報活動にも力を入れてください。
(2014年3月刊。476円+税)

2014年4月30日

アメリカは日本の消費税を許さない

著者  岩本 沙弓 、 出版  文春新書

 アメリカは消費税を採用していない。ええっ、そうなのか・・・。驚きました。
間接税と直接税の比率が1対9とされているアメリカでは、税収のほとんどを法人税や所得税などの直接税に依存している。日本やヨーロッパなどは、税収の3割ほどを間接に依存している。
付加価値税には還付金が伴うのは当然のこと。だから、輸出品には還付金(リベート)がある。消費税には輸出企業への還付金がある。だから、日本の大企業で輸出に大きく依存しているところは消費税を歓迎しているわけです。だって、自分は、もらえる一方なのですから・・・。
消費税を導入しても、政府の歳入はいっこうに増えていない。しかし、輸出企業への還付金だけは確実に増えている。果たして、これが税制として中立なのか、大いに疑問である・・・。
アメリカは、消費税・付加価値に反対するスタンスをいまもって貫いている。日本の消費税の引き下げ、あるいは凍結は、アメリカのメリットになると同時に、輸入価格が抑制できる点で、あるいは租税負担を少なくするという点で、日本国民の救済にも大いに役立つ。
国内の一部の強者を優遇して、同盟国と敵対し、自国民を窮乏させるのか。日本の大企業が苦境に立たされているのであれば別だが、年々増え続ける内部留保をみても、あるいは破格の利益をあげている状況に照らしても、国内の強者には少しガマンをしてもらったうえで、同盟国との関係改善そして自国民の経済安定を望む方が健全ではないのか・・・。
 この4月1日から消費税率がついに8%にアップしました。私をふくめて、ほとんどの国民には大打撃です。ごく一部の大企業と、スーパーリッチ層には、かえって好都合なのでしょうが、こんな不公平な税制は許せません。
 それにしても、消費税増税が福祉のため、なんていう嘘を堂々と大宣伝する政府公報と、それをそのまま垂れ流すNHKは許せませんね。
(2014年1月刊。750円+税)
 チューリップが終わり、ジャーマンアイリスとクレマチスが華麗な花を咲かせています。梅の実もたくさんなっていますので、この連休中に収穫します。ジャガイモの芽かきをしてやりましたが、失敗かもしれません。アスパラガスはまた伸びはじめています。いよいよ明日から風薫る五月です。

2014年4月29日

天皇と日本国憲法


著者  なかにし 礼 、 出版  毎日新聞社

 私よりひとまわり年長の著者は中国の黒龍江省(旧満州)牡丹江市に生まれ、戦後、いのちからがら引き揚げてきた体験の持ち主です。ですから、筋金入りの反戦・平和主義者であることは言うまでもありません。作詞家として活躍してきましたが、『赤い月』などの著書もたくさんあります。
 「サンデー毎日」に連載していた読み物を加筆・修正した本です。とても読みやすく、ついうんうん、そうだよなと納得しながら読みすすめました。
 昭和天皇は、平和憲法の制定を、国民とともに深くよろこんだ。
安倍首相を初めとする改憲派の言う「国際貢献」の国際とは、アメリカ一国のこと。集団的自衛権の名のもとにアメリカ軍の支配下に入り、地球のあちこちで戦争に参加し、人を殺し、殺されたい。つまり、戦争がしたいのだ。これは、ますますの隷属化であり、属国化だ。
 白洲次郎は、「新憲法のプリンシパル(原則)は実に立派である。マッカーサーが考えたのか、幣原総理が発明したのかは別として、戦争放棄の条項などは、その圧巻である。押しつけられようが、そうでなかろうが、いいものはいいと率直に受け入れるべきではないだろうか」と語った。
 本当に、そのとおりですよね。アメリカのオリバー・ストーン監督はこう言った。
 「この世には戦争をしたがっている人間どもがいる。それは、アメリカ軍部と軍産複合体である。
 戦争は、あこぎな商売であり、莫大な利益を生みだす。そして、その利益に浴して生きる者たちの欲望を永続的に満たすためには、終わりなき戦争状態が望ましい。
 そのために必要なら、なんでもする。ソ連の脅威を過剰にあおって冷戦状態を演出し、そういう政策に異を唱えそうな人間には、すべて「アカ」のレッテルを貼って抹殺する。
 重要なことは、休みなく戦争を続けること、莫大な消費であり、アメリカ帝国の努力拡大である」
 すっきり、分かりやすい短編からなる、現行憲法の大切さを考えさせる本です。
(2014年3月刊。1500円+税)

2014年4月26日

スコールの夜


著者  芦崎 笙 、 出版  日本経済新聞出版社

 現役の財務省キャリア官僚の小説です。日経新聞で賞をとったということと、若いころに福岡県内で財務署長をつとめていたという縁から、早速、読んでみました。
東大法学部卒の女性が大手銀行に総合職として入ってエリート・コースを歩いているのですが、リストラ最前線に立たされて苦悩するというストーリーです。
さすがに賞をとったというだけあって、人物描写は読ませますし、銀行内部のリストラをめぐる攻防戦、そして人事攻争も読みごたえ十分です。なにより、主人公のエリート女性への感情移入がスムースなのは見事だというしかありません。私も、こんな小説を描いてみたいと思い、ついつい反省させられました。私なんか、いつも、読み手から、感情移入しにくいとか、情景描写がなっていないという、耳の痛いコメントばかりなのですから・・・。
それでも、あえて著者に注文をつけるとすれば、やっぱりキャリア官僚のナマの生態を小説として描いてほしいです。官僚ではなく銀行員とするのもいいけれど、ぜひとも本家本元のキャリア官僚を主人公とした小説に挑戦してください。大いに期待しています。
銀行内部には、いつも汚れ仕事がある。それは総会屋対策であり、暴力団対策である。それ相応のお金をつかませて、お引きとり願う。そして、頭取を初めとする役員の女性スキャンダルのもみ消しも総務部の重要な仕事だ。
うひゃあ、たまりませんね、こんな仕事・・・。宮仕えの辛さですね。
リストラになると、もっとすさまじいことになります。心神症にならないほうが不思議ですね。リストラされるのは中堅幹部以下の社員です。トップと、その周辺は安泰。ただ、派閥抗争には巻き込まれる。
いやはや、銀行内部の人事抗争はひどいものがあるようです。今後の健筆を大いに期待しています。
(2014年3月刊。1500円+税)

2014年4月25日

角栄のお庭番・朝賀昭


著者  中澤 雄大 、 出版  講談社

 朝賀昭は、田中角栄の秘書として、その「お庭番」として23年間も仕えた。
 「田中軍国」の最盛期には、議員143人、秘書1000人をこえた。
 田中角栄が今も生きていたら、94歳。
「戸別訪問3万軒、辻説法を5万回やれ」と、角栄は口酸っぱく言っていた。
 朝賀昭が角栄に初めて出会ったのは、まだ日比谷高校3年生のとき。このとき、角栄は自民党政調会長、43歳だった。
 当時から、33歳の佐藤昭(あき)と特別な関係にあることは、公然の秘密だった。
 田中角栄は小学校高等科卒業。学歴はない。怖いものはないようで、実は、外国人恐怖症だった。
 越山会の会員は最盛時9万3000人。地元の建設業者の大半が越山会系となった。自民党の政調会長、大蔵大臣、党の幹部と出世していく角栄の鶴の一声で決まる多大な公共事業費をあてこんだもの。
 鳩山邦夫は、まったく面識はありませんけれど私と大学同期生ですが、祖母の頼みで角栄の秘書にもぐり込んでいます。
 田中事務所では、入学あっせんと交通違反のもみ消しの二つは禁止されていた。その反対に、入社斡旋はいいわけです。
 佐藤昭との子について、角栄は、それなりに可愛かったようですが、娘のほうは屈折した心境のまま育っていったようです。たしかに、有名人の父をもち、また、日陰の身として辛かったことでしょうね。
 田中角栄は東京都内全区にゴルフ場をつくれと提唱した。そんなバカなと一瞬、思いましたが、すぐに考え直しました。大地震のときの避難場所になるし、畑にもなる、というのです。東京直下型地震の心配があるだけに、実は、今からでも生かすべきグッドアイデアなのではないでしょうか・・・。
 田中角栄が首相になったのは昭和47年(1972年)夏のこと、私は大学を卒業して、司法修習生でした。『日本列島改造論』が売れ、上野動物園にパンダのペアが到着したころです。
 ところが、石油ショックがあり、日中の国交を回復したものの、アメリカからは冷たくされ、角栄は金権政治と批判されるようになったのです。
 昭和49年12月、田中内閣は総辞職し、三木内閣は発足した。
 そして、ロッキード事件が始まるのです。「よっしゃ、よっしゃ」のピーナツ、5億円です。角栄がアメリカから嫌われて、はめられたという説は、かなり信憑性があるように思います。
 とは言っても、安倍政権はアメリカから「失望した」と言われても、今のところ、しぶとく開き直っています・・・。いったい、いつまで、もつのでしょうか。早く退場してくれることを心から願っています。
 角栄を擁護する立場からの話ですが、日本政治の裏面の動きを知るうえでは、かなり面白い本だと思いました。
(2014年1月刊。1800円+税)

2014年4月22日

小選挙区制は日本を滅ぼす


著者  浅川 博忠 、 出版  講談社

 庶民いじめで大企業優遇の消費税の税率アップ。本当に痛いです。平和な日本の金看板をひっぺがす武器輸出三原則の緩和、そして集団的自衛権行使の容認。また、教育統制の強化。さらには、日本の農業と医療をつぶしてしまうTPP。
 どれをとっても、こんなにひどい内閣はないと思うのですが、不思議なことに安倍内閣の支持率は60%もあります。いったい、日本って、どうなっているんでしょう・・・。
 NHK会長をはじめ、マスコミのトップには安倍首相のお友だちばかりのようです。月に1億円を使い放題という内閣官房機密費による超高級料理店での接待がきっと効果をあげているのでしょうね・・・。
 そして、国会は安倍首相を応援する人ばかり。なんで、そうなるの・・・。そのカラクリ(仕掛け)は簡単です。一人区がほとんどの衆議院選挙だと、少数意見なんて反映されません。
 だから、この本のタイトルにあるように、小選挙区制は日本を自滅させてしまうというものです。種の多様性を許さない生物は、いずれ絶滅するしかありません。環境の激変に対応することができないからです。
 小選挙区制が導入されてからの6回の総選挙において、少なくとも3回は、国政は風まかせになり、議員たちは「風にそよぐ葦(あし)」と化している。
 小選挙区制のもつ恐ろしさを知ると同時に、その果実をいちはやく得たのは、小沢一郎ではなく、小泉純一郎だった。
 小選挙区制を実現したときにさかんに言われていた「政治改革」とは、その本質は竹下登と小沢一郎の権力闘争だった。竹下とのケンカにおいて、小沢が「飛び道具」として使ったのが選挙制度であり、小選挙区制を中心とする制度だった。
田中角栄も小選挙区制の導入にとりくんだ。そのときの狙いは、憲法を改正しようとするときに最大の強敵と目される日本共産党つぶしだった。
 たしかに小選挙区制の下で、日本共産党の議席は激減しました。比例部分の議席が少し残っているので、日本共産党の議席が今もなんとかありますが、その比例部分を大幅に削ろうとしている策動が根強くあります。
 国民のなかの価値観がこれほど多様しているのに、国会の中は、依然として古い自民党路線オンリーのようで、残念でなりません。
政治改革イコール選挙制度の改革に対して、小泉純一郎は猛烈に反対した。
 小選挙制が導入されようとしていたとき、マスコミは、それに反対する人々を「守旧派」と呼んで、たたきつけ、足をひっぱった。つまり、守旧派なる語(コトバ)が、あたかも悪者を示すかのように多用された。
 小選挙区制度の弊害がこれほど明らかになっているのに、推進派だった人々から表だっての反省の弁や釈明がなされていない。これは、きわめて残念な現象だ。
 小選挙区制には、民意を反映すると言いながら、極端から極端へと走りすぎるリスクがある。
 小選挙区・比例代表並立制は、政権交代が容易になるとして実施された。
しかし、結局のところ、政権交代こそ実現しましたが、それで日本が良くなったという実感はありません。かえって、格差社会が拡大し、弱い者いじめの政治がひどくなっただけのような気がします。
一区3人の中選挙区制で妥協するのが、日本では最適だろう。
 政党助成金もひどい。総額320億円もの税金を適当に配分している。
これほどひどい小選挙区制です。ぜひ、一刻も早く、元の中選挙区制に戻したいものです。
(2014年3月刊。1400円+税)

2014年4月20日

校庭に東風吹いて


著者  柴垣 文子 、 出版  新日本出版社

 車中、そして喫茶店で一心に読み続けました。あまりの情景描写のすばらしさにいつものように読み飛ばすことが出来ず、なんと読了するのに3時間近くもかかってしまいました。一気通読派の私にしては、珍しい画期的な遅読です。
 素晴らしいのは情景描写だけではありません。主人公の女教師と、その家庭、さらには学校で声を出せない女の子を取り巻く情景がことこまやかに描写されていて、ついついもどかしさを感じてしまうほどの心理描写もあり、本のなかに、すっと感情移入してしまったのでした。車中でも喫茶店でも、一切の雑音を遮断して本の世界に没入してしまいました。まさしく、良質な本にめぐりあったときに感じる至福のひとときでした。
 主人公の女性教師は鹿児島出身で、京都の小学校につとめています。ですから、鹿児島弁が少し出てきます。夫も中学校の教員です。大学生の息子と高校生の娘という四人家族。身体が強くないのに、教育委員会は片道2時間も通勤にかかる小学校へ配転したのでした。そして、4年生の担任、40人学級なのに、なかに1人の女の子が場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)だというのです。これは大変ですね・・・。
 失語症と場面緘黙症の違い・・・。
失語症は、たいていの場合話は意思はあっても、機能的に話すことができない。失語症の原因は、ほとんどが病気。言葉が出てこない。話している内容が分かりにくい。話したいのに話せない。
場面緘黙症の場合は、話すことができるのに、話せない。多くの場合、自宅では話せる。でも、保育園や学校では話せない。返事くらいはできる子、特定の子どもとなら話せる子、場所によっては話せる子もいる。
つまり、失語症の子は話したいのに話せない。場面緘黙症の子も、どちらも内面では、すさまじい葛藤があると思われる。そして、場面緘黙症の子については、その原因が分かりにくいという特徴がある。
主人公の女教師は、教室内で固まっている女の子をかかえて途方に暮れてしまいます。お昼の給食の時間には、隣の机にすわって話しかけるのでした。
 その女の子には、友だちがいました。一緒になんでもしてくれるのです。そして、母親と祖母との関係も微妙ですし、存在感の乏しい父親も原因になっているようです。
女教師にしても、場合の婦人部長をしたり、高校生の娘との対話が難しかったり、年老いた実母の介護で悩んだり、本当に身につまされる話が同時並行的に進行し、考えさせられます。
現実の一場面を切りとり、社会の実際を改めて振り返ってみることのできる小説として、深々と心に突き刺さってくる本でした。
場面緘黙症の子が、ついに教室の中で給食を食べ、話し出す様子も描かれ、救いがあります。読了したあと、幸せな気分に浸ることができました。
団塊世代より少しだけ上の世代の著者です。今後ますますの権筆を期待します。というか、私も、こんな小説を書いてみたいと思ったことでした。
(2014年3月刊。2200円+税)

2014年4月18日

小説・外務省


著者  孫崎 享 、 出版  現代書館

 安倍首相は、靖国神社に参拝して、韓国や中国との親善交流よりも、戦争をひき起こすことに喜びを見出しているようです。本当に怖い首相です。そして、マスコミ(とりわけNHKや売らんかなの週刊誌)が、その強硬姿勢をもてはやし、戦争へ駆け出そうという恐ろしい流れが出来あがっています。
 これでは、日本は、外から見るとまるで「軍国主義、ニッポン」ではありませんか・・・。そのことを多くの日本人が自覚し、認識していないため、安倍首相の支持率が6割だなんて、とんでもない数字が出てくるのでしょう・・・。
 著者は、アメリカべったりの外交はもはややめるべきだ、もっと外交を通じて世界と日本の平和を守るために行動しようと呼びかけています。私は、何度も著者の話を聞きましたが、本当にそのとおりだと思います。
 安倍首相の言うような、軍事力に頼って解決することは何もないのです。そこでは報復の連鎖、暴力の応酬が始まるだけなのです。ぜひ、このことを分かってほしいし、広めてほしいと思います。
 この本は、小説とうたいながらも、実名で本人もふくめて登場してきます。だから、本当に分かりやすいのです。
 鳩山由紀夫首相が、なぜ行き詰まって首相の座をおりたのか・・・。
外務省では、アメリカの大学で研修し、在米大使館で勤務したことのある人々を「アメリカ・スクール」と呼ぶ。アメリカとの関係を最重視する人々だ。
 外務省の事務次官そして総合外務政策局長、北朝鮮局長は、歴代、「アメリカ・スクール」で占められてきた。だから、外務省では、アメリカとの関係を維持する、追随するという方針で、すべてが決まってきたし、決まる。
 「アメリカが望んでいない」は、すべての案件を論じるときの切り札となる。外務省では、上司の意見に従う、だけでなく、アメリカの意見に従う。これがすべてだ。
 外務省では、すべてが、この大切な日米関係を、○○事件ごときで損なってはいかんというモノサシがある。
アメリカは、人物破壊という手法をつかう。人物破壊とは、政敵を壊す手段である。特定の人間や組織の信頼性を失わせるために、間違っていたり、誇張されたりした情報などを執拗につかう政治手法だ。その人間を世間から永久に抹殺するという点では、人殺しと変わらない。いわば、殺人の代用方式である。
 アメリカにあるヘリテージ財団は、単なる研究所(シンク・タンク)ではない。スパイ活動と関係している。
石原慎太郎は、実際には、アメリカの評価を実に気にしている。
 アメリカが人を買収するときには、講演会を依頼する。その報酬には限度がない。
 研究所は講演料として、巨額のお金を渡す。そこでは、スパイ容疑はどこにもない。すべて合法だ。
外務省と読売新聞との関係は、きわめて良い。
谷垣は、リベラル色をもっていた。だから、完全にアメリカに追随するのか疑問があった。そこで、谷垣を自民党の総裁選挙の直前におろした。日本の自主政権は許さない。その芽が出たら、汚職で攻める。
 残念ながら、本書で書かれていることは本当だと実感することがあまりにも多すぎます。日本って本当に独立国なのでしょうか・・・。少なくとも、もっとアメリカに向けてきちんとモノを言うべきです。フランス並みに、とまでは言いませんが、せめて同じアジアのフィリピン並みに、アメリカ軍の基地を国内から早く全面撤去させたいものです。米軍基地を撤去したあとを商・工業ゾーンとしたら、みんな共存共栄できると思います・・・。
 いい本でした。小説ですから、さっと読めるようになっているのがいいです。
(2014年4月刊。1600円+税)

2014年4月15日

生活保護で生きちゃおう


著者  雨宮処凛・和久井みちる 、 出版  あけび書房

 楽しいマンガ付きの、生活保護を受けるための手引き書というか入門講座です。
生活保護を受けとるのは恥ではない。
 生活保護を受けている人を叩くのは、自分の首を絞めているようなもの。国民が、もっと自由に健康で文化的な最低限度の生活を過ごせるようにするのは、国の義務である。
 そんなことが、マンガをふくめて、とても分かりやすく解説されています。
生活保護の利用者は、現在、216万人いる(2013年8月現在)。
 その理由となった事情は、それこそさまざま。適応障がいのために仕事が長続きしない若者、ずっと精神疾患のために家族と別に暮らしている若者、アルコールなどの依存症のため、仕事が出来ない中年男性、身体障がい者なので、まともな仕事と収入がない40代の女性など・・・。
 そんな人たちが自分の体験を通して、生活保護を受けるためのテクニックや、生活の大変さなどを率直に語り合う座談会が紹介されています。
 市役所のケースワーカーから、「子どもはつくってくれるな」と言われたとのこと。この言葉は本人にショックを与えました。そうですよね。人間らしい生活をするなというのと同じコトバです。
 「生活保護をもらっている人は、好きなだけ病院に行けて、いいよね」
 これも間違いです。誰が好きで病院に行くものですか・・・。みな、仕方なく病院に通っているのです。
本当は生活保護を受けてもいい、受けるべきなのに、実際に生活保護を受けているのは、わずか2割でしかない。
 生活保護を受けている人を責める側の人々は、自分たちもこんなに生活が苦しいのに、高い税金を払っているのだ、その税金で保護を受けている人は食べているという感覚だ。
 しかし、世の中は助け合いですよね。生活に困っている人を放っておいていいのですか。航空母艦やら「海兵隊」創設につかう税金があったら、人間を育てるほうにお金をまわすべきですよね。
生活保護を受けにくくしているのは、いま流行のバッシングにある。
 自分たちの家族がバッシングの渦の中に入ってしまう恐怖心がそこにあった。
 本当は生活保護を受けるべき人が8割、実際に受けているのは2割。この現実を変えて、もっと多くの人が、気楽に気軽に生活保護を受けられるようにしたいものです。
 また、保護を受けるのは恥ずかしいことでも何でもありません。大きく叫びましょう。
(2013年10月刊。1200円+税)
 庭に植えているアスパラガスに大きく伸びていました。一度に7本も収穫できたのは初めてです。しかも、みんな店頭に並んでいるほどの太さでした。
 早速、春の味覚をかみしめました。

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