弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2018年10月24日
遊ぶ鉄工所
(霧山昴)
著者 山本 昌作 、 出版 ダイヤモンド社
いやあ、思わず、ウソでしょ、そんなことありえないでしょ、と叫びたくなる破天荒きわまりない鉄工所の話です。しかも、書いたのはその鉄工所の副社長で、外部のライターではありません。
この鉄工所の、何がすごいのか、というと・・・、実はたくさんあるのです。
まず第一に、トヨタや日立のような超大企業の下請ではない。取引先の1社の占める比重は3割をこえないようにしていて、多品種少量生産ですから、製造原価を叩かれることがない。
第二に、工場内はフラットな空間で間仕切りがなく、大きな食堂ではゆったり美味しく食べられる。ついでにいうと、トイレも大変きれいだそうです。
第三に、残業なしで、モノづくりは24時間、無人加工。
第四に、新卒採用には入社二年目の社員をふくめて総あたりで取り組み、社員のモチベーションを大切にする・・・。
すごいですよね。なにしろ、見学する人が年間2000人といいます。
楽しくなければ、仕事じゃない。
自分たちにしか出来ない仕事で勝負する。
社員食堂こそが、社員を活性化し、会社を大きく変える。
1個の受注が68%、2個の受注が10.7%。両方あわせると、80%が、1個か2個の生産を受注している。これを無人化して、こなしている。ええっ、そんなので会社が成りたつのかしらん・・・。でも、見事に成り立っています。それどころか、年々、取引先は増えているとのことです。
取引先は3000社をこえ、アメリカにも支社がある。その取引先には、ディズニーやNASAもふくまれている。いやはや、すごい会社です。社員も工場内も見事にカラーで、気持ちよく働けそうな雰囲気です。ここで働いている人がうらやましい。
モノづくり、人間育成のポイントをしっかえいおさえた明るい見通しがもて、元気が出る、勇気百倍になる本です。
(2018年7月刊。1500円+税)
2018年10月23日
コンビニオーナーになってはいけない
(霧山昴)
著者 コンビニ加盟ユニオン・北 健一 、 出版 旬報社
私は原則としてコンビニは利用しないことにしています。もちろん、この原則には例外があります。旅行先ではコンビニを利用するしかありませんので、ためらわずに利用します。でも、ふだんは事務所の隣にコンビニがありますが、どうしても仕方がないときにしか店にははいりません。ですから、コンビニを利用するのは月に1回くらいです。
コンビニのオーナー(店主)は本当に現代の奴隷そのものだと思います。一家だんらんの場と時間が奪われてしまって、何のための人生でしょうか・・・。
そもそも、24時間営業というのが、私には、あまりに非人間的だとしか思えません。
暗くなったら寝て、身体を休めたほうが絶対にいいと思います。そんなぜいたくなこと言うなと反発を感じる人も少なくないと思うのですが、本当に夜寝たらいけないのでしょうか・・・。
病院とか介護施設なら、そうだと思います。でも、三交代勤務というのは本当に必要なのですか。これだけ技術が発達しているのに、人間まで寝ずに働く必要があるのですか。ましてや、単に商品を売るだけなのに、24時間、店を開けておくなんて、私には、その必要性が理解できません。身体をこわしてまで便利さを追求するなんて、本末転倒ではありませんか・・・。
セブン・イレブンに加盟するには、最低250万円が必要。開店すると、一気に300万円の借金を背負う。通常は700万円になる。これは、発注した商品の仕入代金が借金となるため。
本部から、1日に2万円以上の廃棄を出してくれと求められる。これは、「機会ロス」を防ぐためだし、本部にとって有利になる会計上の理由もある。
人気商品ファストフード(おでん、コロッケ、から揚げなど)は、原価50%で一般商品よりも安いのでオーナーはもうかるはずだけど、実は、もうかるのは本部ばかりで、オーナーには利益が出ない。
24時間営業をやめると、店の売上高は3割減ると本部はみている。つまり、本部は、オーナーの健康より、売上が減ることだけを心配している。
オーナーの死亡率・傷病率は異常なほど高い。
そりゃあ、そうだろうと私も思います。強いストレスに毎日さらされていれば、健康をそこなうのは必要ですよね。
店のスタッフ(アルバイト)の人件費は、本部が支払うという仕組みのようですが、おかしなことです。直接の雇い主であるオーナーが支払うのが自然です。
「オーナーや従業員(スタッフ)が死のうとケガしようと、本部には関係ないこと。オーナーが働けなくなったら、ほかから連れてくるから問題ない」
いやはや、なんという言い草でしょうか。オーナーって、独立した自営業者なのではなくて、単なる奴隷のような存在にすぎないと本部はみているのですね、ひどいものです。
コンビニは、売上金の全額を毎日、本部に送金する仕組みです。でも、これっておかしいですよね。売上から経費を差引いて粗利(荒利)のなかからロイヤリティーを送金するのが当然だと思いますが、そうはなっていません。そうすると、本部には、毎日、莫大な現金が集中することになります。セブンの場合、1日に125億円といいますから、絶えず数千億円もの巨額のお金を手にしているわけです。これは本部だけが肥え太る仕組みとしか言いようがありません。
今や、日本中、どこもかしこもコンビニだらけ・・・。
本当にそんな社会であっていいのでしょうか・・・。
コンビニ愛好者の人には、ぜひ読んでほしい本です。
(2018年9月刊。1200円+税)
2018年10月20日
窒息死に向かう日本経済
(霧山昴)
著者 浜 矩子 、 出版 角川新書
いつ読んでも歯切れがよく、心地よいテンポでたたみかけられる気がします。
日本国債等の発行残高は1092兆円(2017年12月末時点)。このうち半分近い449兆円を日銀が保有している。これは、政府の借金の4割を日銀が面倒みてやっているということ。2017年の日本のGDP(名目)は546.5兆円だった。一国政府への中央銀行の債権が、その国の経済規模と同じだというのは、まともな状況とは言えない。なるほど、心配ですよね。
今の黒田・日銀は国債の大量購入をそもそも本来の目的としているのではないか。政府の借金を政府の言いなりにまかなってあげる。政府のためにおカネを握り出す「打ち出の小槌」の役割を果たす。これを狙っているとしか考えられない。それがいいはずはありません。
安倍首相は、「政府と日銀は親会社と子会社みたいなもの」と言い切った。
コーポレート・ガバナンス(企業統治)元年に大企業のモノづくりの不祥事が次々に発覚した。データ改ざんをしたのは、三菱と日産自動車、スバル、神戸製鋼、東レ、三菱マテリアルなど、次々に日本を代表する大企業の不祥事が表沙汰になった。
モノづくり大企業の不正行為が長く続いていたことの本当の意味を考える必要がある。
安倍首相は、かつて神戸製鋼の社員として働いたことがあった。大々的に日本が武器輸出に乗り出したなか、神戸製鋼は、その重要な役割を担っている。つまり、神戸製鋼のアルミ製品は自衛隊の航空機や誘導兵器、魚雷などにも使用されている。まさに、死の商人ですね。ここに安倍首相のルーツがあるというわけです。恐ろしいことです。
(2018年7月刊。820円+税)
2018年10月19日
教育のなかのマイノリティを語る
(霧山昴)
著者 前川 喜平 ほか 、 出版 明石書店
異色の文科省トップ(事務次官)だった人の語る教育論は、さすがです。さまざまな分野の教育現場で活躍している人たちとの対話で議論が深まり、読み手をぐいぐい引きずり込んでいきます。読んで損は決してしない教育論です。まあ、私が教育論で「損」をするとかしないとか言うのも、おかしいことだと思いますが・・・。
高校生自立支援事業(高サポプロジェクト)では、ソーシャルスキル・トレーニングをする。一番初歩的なのは、お金を貸してくれと言われたときの断り方。それから、万引きしてこいと言われたときの断り方。友だちと話しているときの同意の仕方、いいよねと相手をほめる方法・・・。
なるほど、こういうこともきちんと教えておく必要があるのですね。
ロールモデルは大切。しかし、身近な家族のなかにロールモデルの存在しない子は少なくない。ひどい親の元にいるより、児童養護施設にいるほうがいい。
貧困層の多い、公営住宅の集中しているところでは、子どもたちが、小中学校のころから親に放置され、夜もなかなか家に帰らないで、フラフラしている。家に帰っても、ご飯が待っていないから。
「親が悪い」とか「親がしっかりしないからだ」と言っても、しっかりしない親の元に生まれ育ってしまった子どもは、じゃあ一体どうすればいいのか。それは、社会で受けとめて、なんとかしてあげなければいけない。居場所がない、ご飯が食べられない、勉強する場所がない、勉強を教えてくれる大人がいないとか、いろんな不利な条件が重なっている。
決定的なのは、高校中退。子どもに原因があるというより、システムに問題がある。高校進学が98%だといっても、実際には90%ほどしか卒業はしていない。
文科省は、いわゆるいい学校には、とてつもないお金をかける。一つの高校に何千万円もポーンと渡したりする。
大学進学についてみると、生活保護世帯の子に比べて、児童養護学校出身者は18歳から先の進学機会がものすごく低い。
授業料の負担を減らすだけでは足りない。生活支援も必要。そのためには、給付型の奨学金で支える必要がある。
不登校になった子どもにフリースクールに行くように学校がすすめてしまうのは、学校からの切り捨て、責任放棄につながってしまう。
前川さんは、福島と厚木の自主夜間中学で教えています。「善意というよりも、気まぐれというか、好きでやっています」と語っています。大したものです。大拍手です。
言葉は言葉だけで存在しているわけではなく、言葉の裏側に自分の体験があるわけだから、自分の経験や体験が言葉の意味をつくっていく。だから、経験のない人にとってみると、単に言葉は記号でしかない。居場所と学び場の両方をつくるのは非常に大事なこと。
この本を読んで、前川さんより私が一つだけ勝っていることがありました。私は、週1回、30分間で自己流のクロールで1キロメートル泳ぎます。ところが、前川さんは泳げないのです。といっても、25メートルプールでターンして50メートルは泳げるようになったそうなんですが・・・。
前川さんと対話した人たちの実践を踏まえた指摘と提言もズシンと来ました。ぜひ、あなたにご一読をおすすめします。
(2018年9月刊。1500円+税)
2018年10月 5日
すごい廃炉
(霧山昴)
著者 篠山 紀信 、 出版 日経BP社
福島第1原発の修復工事の推移を著名な写真家が撮っています。ここには安倍首相の無責任な「アンダーコントロール」宣言とはかけ離れた現実があります。
毎日、現場には6000人もの労働者が働いています。放射線量を気にしながらの命をかけた作業です。いったい、どこに「アンダーコントロール」があるのでしょうか。頁を繰って写真を眺めるたびにウソつき首相のノホホンとした白々しい顔を思い出して腹が立ちます。
あってはならないメルトダウン、炉心溶融が起きました。全電源停止、非常用電源まで津波に襲われて作動せず・・・。
先の北海道地震では、泊(とまり)原発は稼働中でなかったこと、非常用電源がなんとか作動したことによって幸いにも大惨事に至りませんでした。
そして、福島ではデブリ(固まり)となった放射能物質を冷やすために注水を続けているため、高濃度汚染水があふれ出しています。少しばかり薄めて、政府と東電は海洋へたれ流そうともくろんでいます。海産物の放射能汚染が心配です。「風評被害」はさらに深刻になるでしょう。放射能汚染水を海へたれ流すなんて、やめてください。
「フクイチ」のあちこちに宇宙服を着ている作業員が黙々と働いています。福岡からも、仕事とお金を求めて、たくさんの人が「フクイチ」の復旧作業現場で働いています。
無人飛行機(ドローン)、無人ロボート投影機そして無人ダンプが活躍しています。建屋から出た高線量がれきを夜のあいだに無人ダンプで移送するのです。でも、いったい、どこへ・・・。
いま、日本全国に少し薄めた放射能汚染土をはらまく計画が進行中です。とんでもない暴挙です。もっていくのなら、「アンダーコントロール」宣言をした首相官邸の庭に積み上げてください。そして、もう一つ。歴代の東電の社長、会長の自宅の地下室に置いて下さい。「絶対安全」のはずなのですから・・・。
台風災害と北海道地震は、日本中、いたるところが危険にみちみちていることを明らかにしました。40階建てのタワーマンションの31階に住む人が停電のためにエレベータ―が動かないので、歩いて31階までのぼりおりして、ついに部屋に閉じ籠ってしまったという話を聞きました。一見豪華なタワーマンションだって大自然の災害にはかないません。廃墟になる前に入ってる住民は早々に逃げ出すべきなんじゃないかと心配します。
この写真を眺めてもなお、アベ首相の「アンダーコントロール」宣言を信じる人がいたら、よほどおめでたい人だということでしょう。ぜひ、図書館ででも手にとって眺めてみてください。
(2018年2月刊。2700円+税)
2018年10月 2日
語りかける中学数学
(霧山昴)
著者 高橋 一雄 、 出版 ベレ出版
ある日、夕刊を読んでいて、ふと目が留まりました。新潟の少年院でボランティアの人が数学を教えているというのです。そして、教えられている少年たちの多くが、たちまち数学を理解できるようになっていくという嘘のような話でした。しかも、ボランティアで教えている男性は、なんと18万部も売れている数学の本を書いているというのです。
ええっ、どんな本だろうか・・・。
実は私は、高校3年まで理科系のクラスにいて、数学Ⅲまで一応は勉強したのです(大学は文科系で受験しましたので、数学Ⅲは必要なかったのですが・・・)。
私が文科系に転向したのは高校2年の3月のことでした。どうにも数学的ヒラメキに欠けるという事実を自覚せざるをえませんでした。とりわけ図形問題で、数学的な発想が出来ませんでした。いま思うと、このときの決心は正解でした。
数学というのは、抽象的思考、論理的思考を鍛えるには絶好のものだと思います。そんな数学が分からないまま人生を終わりたくない。そんな思いから、高校数学にいつかはチャレンジしようと考えていました。そんなときに出会った新聞記事だったのです。
早速、注文して手に入れたこの本は、なんと本分が829頁もある大部なものです。井上ひさしの『吉里吉里国』のように、昼寝するときの枕にちょうどよいほどの厚みがあります。値段だって2900円(プラス消費税)もします。こんな部厚くて、値の張る中学数学のテキストが18万部も売れているなんて、とてもとても信じられません。それも、東大受験の必勝テキストというのではなく、落ちこぼれの人が中学数学をしっかり身につけようというのに役に立つ本だというのです。
さあ、能書きが長くなりました。頁を開いてみましょう。目次をみると、中学1年に始まり、中学2年そして中学3年へ進んでいきます。中学1年だけで300頁あります。さすがに私にとって初めの出だしは、ふむふむと難なく進み、好調でした。方程式も1次方程式なら、そんなに難しくはありません。関数が出てきて、平面と空間の図形が出てくると、少し頭もつかい、スピードが落ちました。それでも中学1年の302頁は2晩でやっつけました。
次は中学2年です。連立方程式が登場し、1次関数が出てきます。まあまあ、ここらあたりはなんとか理解できそうです。この本は、さすがに落ちこぼれの人でも抵抗が少なく読んで前へ進めるように、「アレェー・・・」とか、「おーい、寝ていて大丈夫?」とか。小文字で声かけがはさまっていて、心をなごませてくれます。解説は、すべて話し言葉で、間違った(間違いやすい)誤答例もあり、身をひきしめて正解との違いを認識させられます。中学2年は528頁で終了ですから、正味224頁。つまり中学1年よりボリュームはいくらか小さいのです。三角形と多角形、そして平行四辺形などがあります。
そして最後に、いよいよ中学3年です。私は、昔、因数分解は得意でした。2次方程式だって、なんとかなりました。むずかしいのは図表とともに登場する2次関数からです。円周角やら三平方の定理など、なかなかのものです。円に内接する四角形の面積を求める。次は円に外接する四角形の面積です。ここまでくると、なかなか曲者(くせもの)で、中学3年だけで4晩かかりました。それも完璧に理解したなどとは、とてもとても自己評価できるレベルではありません。それでもなんとかかんとか、秋の夜長に読了しました。必死でした。というか、つい難し過ぎると、眠気が襲ってくるので、大変でした。
著者は、最低でも3回は復習するように求めています。なるほど、3回よめば、本当に中学数学をマスターできるんじゃないでしょうか。数学をきちんと理解したい人には、大人も子どもも、ぴったりの本だと私も思いました。次は、いよいよ高校数学にチャレンジします。
(2018年6月刊。2900円+税)
2018年9月30日
アフリカ少年が日本で育った結果
(霧山昴)
著者 星野 ルネ 、 出版 毎日新聞出版
カメルーン生まれで関西(姫路)育ちの少年が日本で育つとはどういうことか、マンガで描かれていて、よく分かります。
なんでカメルーン生まれの少年が3歳のとき日本にやって来たのか・・・。
父親は、日本人の学者としてカメルーンの森の生態を研究に出かけたのです。そして、村長の娘・エラに出会い結婚することになりました。マンガによると、カメルーンでは家族の前でプロポーズすることになっているとのことです。
エラの両親は、日本の若い学者と結婚して孤立無援の外国に嫁いでいく決意があるかと問いかけ、娘エラは結婚に踏み切ったのです。そして、日本にやって来たのでした。
3歳から日本に住んでいるので、著者は、外見は外人(ガイジン)でも、中身は日本人そのもの。基本は関西弁と、母親と話すフランス語です。英語はうまく話せません。
母親は、さすがカメルーン人。シマウマ食べた、センザンコー食べた、ニシキヘビもクロコダイルも食べたといいます。ヤマアラシだって食べるようです。鍋で煮込むと、針が簡単に引き抜けるとのこと。本当に美味しいのでしょうか・・・。
そして著者がテレビに出ると聞いたら、そのバックで母親は友人と一緒に踊ったというのです。さすがですね。
いやあ、よく出来たマンガです。感嘆・驚嘆しました。
親も子も日本で生活するのは大変だったと思いますが、こんな楽しくさわやかなマンガとして紹介できているのですから、やっぱり偉大なのは親の力だと思いました。
心に残る、いいマンガです。さっと読めますので、ぜひ手にとって読んでみてください。
(2018年9月刊。1000円+税)
2018年9月26日
サリン事件死刑囚
(霧山昴)
著者 アンソニー・トゥー 、 出版 角川書店
私は上川陽子という法務大臣の人間性を疑っています。この人には、人間らしさというものがまったく欠けているのではないでしょうか・・・。
オウムの死刑囚13人が一挙に処刑されました。それ自体が私には許せませんし、残念でなりません。でも、それ以上に、死刑執行を命じた法務大臣が処刑前夜に安倍首相の前で万歳三唱の音頭をとったというのを知り、心が真っ暗になりました。
その場は、「自民亭」と名づけられた飲み会です。FBで写真が公表されていますが、要するに安倍首相の自民党総裁選挙で勝利するための若手議員かかえ込みの場でした。しかし、ちょうど、広島などで集中豪雨の大災害が報じられているなかでの大宴会です。この宴会のためということでもないのかもしれませんが、大災害指定がなされず、ずるずると延ばされているなかでの宴会でした。それはともかく、その宴会のトリに、死刑執行が翌朝にあることを知っている法務大臣が最後に万歳三唱の音頭をとったというのです。これって、おかしくありませんか、いえ狂ってませんか、その感覚が・・・。
死刑執行してしまえば何も残りません。この本の主人公の中川智正は、京都府立医科大学で大学祭の実行委員長もつとめるなど、在学中の評判は良かったのです。ヨガからオウム真理教に入ったようです。麻原の主治医として大変信頼されていたようです。なんで、こんな真面目な若者が「殺人教団」に入るようになったのか、もっと私たちは中川に語らせ、そこから学ぶべき教訓を引き出すべきではなかったのでしょうか・・・。殺してしまえば、もう中川から何も聞き出すことは出来ません。
この本を読んで、法務省が実は、2012年に死刑囚を一挙に処刑しようとしていたことを知りました。どうしてそんなに早く早くと処刑を急ぐ必要があるのでしょうか。世界の大勢が死刑廃止に動いていることを法務省だってよく知っているはずなのに・・・。
これは、菊池ほか3人の長期逃亡者が自首したり発見されて裁判になったことから延期されたのです。この3人の刑事裁判が終わって、処刑のために全国の拘置所に分散されて、死刑執行は秒読みに入っていたとのこと。恐ろしいことです。
では、この死刑囚、中川智正はいったい何をしたのか・・・。坂本弁護士一家の殺害に加わり、松本サリン事件、東京地下鉄サリン事件に関わっています。なるほど、それでは今の量刑基準表では「死刑相当」になるでしょう。でも、本当に執行してよいのか、それが疑問です。
坂本弁護士一家の殺人事件で、オウムの関与が強く疑われていたにもかかわらず、当時の神奈川県警は、まともにとりあわず坂本弁護士の事件関係者による犯行とか、過激派との関係とか、とんでもないデマを流して、マスコミ・世論をごまかし続けました。このとき、警察がきちんと捜査していたら、地下鉄サリン事件をはじめとする一連の殺害事件は起きていなかったはずなのです。
坂本弁護士一家3人がオウム真理教によって殺害されたのは、今から30年前の1989年11月4日のことです。私も坂本弁護士一家が住んでいたアパートを見学に行きました。まだ犯人がオウムだと確定されていない時期に、弁護士会の現地調査に参加したのです。
オウムは、このほか、小林よしのり(漫画家)、大川隆法(幸福の科学)、小沢一郎(自由党)、江川紹子(ジャーナリスト)も殺害しようとしていたとのこと。まさしく恐るべき殺人教団です。ところが、その後継団体に今なお入信する信者がいるというのです。信じられません。
死刑囚である中川智正と拘置所で15回も面会した台湾出身のアメリカ人学者の本です。大変勉強になりました。
(2018年7月刊。1400円+税)
2018年9月12日
EVと自動運転
(霧山昴)
著者 鶴原 吉郎 、 出版 岩波新書
私は車に毎日のっていますが、実は車の運転は好きではありません。断然、電車を好みます。車中では本が読めないからです。仕方がないので、車中では、ずっとNHKフランス語のCDを聴いています。聴き流しのほうが多いのですが、それでも耳は慣れます。
自動車事故による死者はピーク時(1970年)の年間1万千人が、今では4千人弱(2017年)に減った。しかし、全世界では125万人もの死者が出ている(2013年)。
そして、そのなかで65歳以上(私も立派に該当します)が50%を超えている。
この交通事故の原因の9割は人間のミス(認知ミス・判断ミス・操作ミス)によるもの。
実は、最近、私は裁判所構内で愛車(レクサス)を駐車しようとしたところ、なぜか暴走して庁舎壁にぶち当ててしまい、6万円余りの補償金を支払わされました。レクサス側は私の操作ミスとして片付けようとしていますが、本人はレクサスの構造(メカニズム)に何らかの欠陥があるのではないかと疑っています。庁舎への衝突事故から3ヶ月たつのに、レクサス側は一向に事故原因をきちんと明らかにしません。『空飛ぶタイヤ』を、ついつい思い出してしまいます。
デフレ社会と言われる日本にあって、自動車の価格は一貫して上昇し続けている。「カローラ」119万円が187万円と、30年間に57%も値上がりしている。
日本国内の新車販売台数は、ゆるやかに減少している。1990年に780万台、2005年までは600万台弱で安定していたが、2009年に470万台に急落し、その後は500万台前後で推移している。
日本では軽自動車が4割前後を占めている。そして、ハイブリッド車(HEV)が日本では販売台数の4分の1以上を占めている。これは世界的に珍しいこと。
日本では自動車産業は成熟産業だが、世界全体では、これから1億台をこえる見込みであり、まだまだ成長産業である。
世界で販売されているクルマの3分の1は、日本メーカー製か日本メーカーの合弁企業製が占めている。アメリカで販売されているクルマの4割弱は日本メーカ-製。ところが、日本製クルマはヨーロッパでは存在感がない。
日本経済は、自動車への依存度を高めている。自動車産業の出荷額は主要製造業全体の2割にあたる52兆円。関連就業人口は1割、550万人にのぼる自動車産業の屋台骨になっている。
アメリカの自動運転車が注目されたのは、軍事作戦で戦死者が出るのを減らすためである。「2015年までに軍事用地上車両の3分の1を無人化する」ことをアメリカの国防総省(ペンタゴン)は目標としている。2007年には1位の車の平均時速は、時速23キロだった。
自動運転の車は、レーザー光線を使ったレーダーによる。周囲360度レーザー光線を照射し、物体にあたってはねかってくるまでの時間を測定することで、車両の周囲のどこに物体があるのか、その物体までの距離はどの程度かを把握する機能をもっている。物体の位置だけでなく、形状までを数センチという非常に高い誤差で正しく検知できる。
日本と世界の車について、その現状と展望をコンパクトに明らかにしている新書です。
(2018年3月刊。780円+税)
2018年9月 6日
国体論
(霧山昴)
著者 白井 聡 、 出版 集英社新書
この若手の政治学者の指摘には、いつも驚嘆させられるのですが、今回も期待を裏切りませんでした。その切り口が、想像したこともないほど斬新なので、刮目(かつもく)せざるをえません。
国体(こくたい)とは、国民体育大会の略称でありません。戦前の日本では、その内容が曖昧(あいまい)なまま至高のものとされてきました。そして、この国体は日本の敗戦と同時に掃滅・追放されたと考えていました。ところが、著者は「そうではない」と異を唱えるのです。
現代日本の入り込んだ奇怪な逼塞(ひっそく)状態を分析・説明することのできる唯一の概念が「国体」である。「国体」は、表面的には廃棄されたにもかかわらず、実は再編されたかたちで生き残った。しかも、アメリカの媒介によって「国体」は再編され、維持された。
安倍首相に連なる右翼は、「天皇は祈っているだけでよい」、「天皇家は続くことと、祈ることに意味がある。それ以上を天皇の役割だと考えるのは、いかがなものか」などと、平成天皇の言動を真っ向から否定している。
日本会議と同じ傾向にある八木秀次は、「天皇・皇后は安倍政権の改憲を邪魔するな」という小文を雑誌に発表した。
平成天皇夫妻は、現代日本において、平和憲法を守れと叫ぶ有力メンバーの1人になっていると私は考えていますが、日本会議や安倍首相周辺は天皇夫妻の言動をいかにも苦々しく考えているのです。
自民党などの「永続敗戦レジームの管理者」たちは、アメリカからの収奪攻勢に対して抵抗する代わりに、その先導役として振る舞うことによって自己利益を図るようになり、対米従属は、国益追求の手段ではなく、自己目的化した。
アベ首相の自称する「保守主義」とは、この暗愚なる者を二度までも宰相の地位に押し上げた権力の構造を、手段を選ばずに「保守する」という指針にほかならなかった。
昭和天皇が積極的にアメリカを「迎え入れた」最大の動機は、共産主義への恐怖と嫌悪にあった。
日米地位協定は、多くの点において、世界でもっともアメリカに有利な内容になっている。アメリカのカイライでしかないアフガニスタン政府より日本政府の位置づけは低い。
日本の対米従属の理由は、日米間の現実的な格差、軍事力の格差ではなく、軍事的な緊急性にもないことを意味している。
諸外国のメディアは、安倍首相についてアメリカのトランプ大統領に「へつらう」と報道されているのに対して、日本国内では、アメリカのトランプ大統領とうまくやっている日本の首相というイメージが流通している。
アメリカは日本を守ってくれている。
アメリカは日本を愛してくれている。
どちらも、大変な間違い妄想をしている。
敗戦の前、アメリカ軍は日本人について、愛情や敬意どころか、人種的偏見と軽蔑だった。戦前、アメリカ軍は日本人の特性について深くきびしいものがあるとしていた。
「日本人は、自分自身が神だと信じており、民主主義やアメリカの理想主義を知らないし、絶対に理解もできない。アメリカ軍にとって、天皇制の存続それ自体はどうでもよいことで、円滑な占領のために必要だったに過ぎない」
アメリカのマッカーサーは、天皇の戦争責任の追及よりもより原理的な「国体の敵」から天皇を守った。その敵とは共産主義である。昭和天皇は、マッカーサー三原則の意味、天皇制の存続と戦争放棄の相互補完性を、当時の政府首脳の誰よりもよく理解していた。
戦後の日本は、アメリカの同盟者として「冷たい戦争」を闘い、そこから受益しながら、勝者の地位を獲得した。アメリカは、日本に代わって八紘一宇を実現してくれたのであり、日本は、それを助けたのである。
平成天皇が「お言葉」を読みあげた、あの常のごとく穏やかな姿には、同時に烈しさがにじみ出ていた。それは、闘う人間の烈しさだ。この人は、何かと闘っており、その闘いには義がある。著者は、そう確信した。不条理と戦うすべての人に対して抱く敬意から、黙って通り過ぎることはできないと感じた。
著者の固い決意がひしひしと伝わってくる終章です。
まことに、不条理を黙って許しておくわけにはいきません。不条理の行きつく先には全破壊の荒涼たる破滅が待ち構えているからです。鋭い指摘に胸のすく思いがしました。
(2018年6月刊。940円+税)