弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2017年11月21日

東芝の悲劇

(霧山昴)
著者 大鹿 靖明 、 出版  幻冬舎

天下の東芝がガタガタと崩れていく様は見るも無惨です。こんな会社に入らなくて本当に良かったとつくづく思いました。本書を読むと、会社上層部の派閥抗争、いがみあいはこんなにひどいものなのか、ほとほと嫌気がさしてきます。
日本を代表する名門企業の東芝で異常な出来事が続いた。東芝の異常事態は年中行事化し、経営の迷走とぶざまな凋落(ちょうらく)ぶりは、この数年、日本全国に同時中継されてきた。
名門の東芝は、その声望にあぐらをかいた歴代の経営者によって内部から崩壊していった。強いトップを上にいただくと、その企業では、それだけ社員の自立する意識は弱まる。東芝の社風は、周囲とのマサツを起こさない穏やかな社風として形成されていった。穏やかでおっとりした人が多く、胆力のある者がめったにいない。それが東芝だった。
東芝は、かつて、総会屋たちに年間6~7000万円を広告費として支出していた。
東芝はアメリカの原発企業をバカ高い値段で買わされてしまった。売りつけたアメリカの企業(ウェスチングハウス)は東芝を「田舎企業」と馬鹿にし、見下していた。
経団連の副会長ポストは東芝の指定席になっていた。
東芝の粉飾決算はトップダウンで進行していた。それを止めることをしなかった。「模倣の西室、無能の岡村、野望の西田、無謀の佐々木」というのは、東芝の元広報室長の評価である。いやはや会計士も弁護士も、とんでもない大企業の社長連中とつるんでいます。いったい、その月給(年俸)は、いくらだったのでしょうか。また、退職金は・・・。
森、濱田、松本、西村、あさひ、TMI,丸の内総合という日本の大ローファームが名指しで、「同罪」だと指弾されています。弁護士法1条なんて、単なる建前にすぎないと嫌味を言われています。ぜひ反論してほしいものです。
東芝で起きたことは、日本大企業では、どこでも起きていることではありませんか。モノづくり日本の看板が大泣きしている今日、残念でたまりません。
さて、わが家に東芝製品って、あったかな・・・。
(2017年10月刊。1600円+税)
日曜日の午後、仏検(準1級)を受けてきました。準1級を受けはじめたのは1997年からですので、もう20回をこえました。この間、うけていないのは1回だけです。このところ、連続して合格しています。今回も120点満点で80点というのが自己採点の結果です。試験に向けて毎朝、NHKラジオ講座の(応用編)の書きとり、また20年分の過去問を繰り返して復習しました。上達するより、レベルを落とさないようにするので精一杯なのです。悔しいですけど、これが現実です。それでも認知症の予防にはなっていると自分を慰めています。

2017年11月19日

乗りかかった船

(霧山昴)
著者 瀧羽 麻子 、 出版  光文社

大学生からすぐに弁護士になった私は職場の人間関係の厳しさというのを体験していません。この本を読むと、モノづくりの現場でも、さまざまな思惑が錯綜していることを疑似体験することが出来ます。
オビのフレーズは、「舞台は創業百年を迎える中堅造船会社。配属、異動、昇進、左遷・・・。人間の数だけドラマがある!」ですが、まさしく、そのとおりに展開していきます。
あとがきに「常石造船株式会社の皆様に取材のご協力をいただきました」と明記されていますので、本書は取材にもとづくフィクションだということが分かります。それにしても、職場の雰囲気がよく描けているというか、にじみ出ています。取材を受けた人たちの感想はどうなのでしょうか。こんなものじゃないぞと不満は多いことでしょうが・・・。
学生向け新規採用を担当する人事部。溶接する女性労働者。技術開発部、そそいて事業戦略室・・・。
造船会社ですから現場もあれば、会社の将来設計を構想する部署もあります。社員は、どれが自分に向いた仕事なのか分からないなりに毎日の仕事に従事します。
認められたい、出世したい、部下に尊敬されたい、上司に一目おかれたい、勝ち続けたい・・・。でも、そうはうまく展開しないのが世の常です。そんなとき、どうしますか。
最後には、思いがけずに社長に指名されるという話まで出てきます。たしかに、日本の大企業でも、そんなことが時々あるようですね。
それにしても、最近のニッサンにしろ、神鋼にしろ、モノづくりでのインチキのひどさは目に余りますよね。アメリカ型の金もうけ本位が日本の大企業をダメにしてしまったのでしょうか・・・。いや、まだ現場のモノづくりは捨てたもんじゃないんだ。ぜひともそう言ってほしいです。珍しい職場小説を読んだ気がしました。
(2017年9月刊。1600円+税)

2017年11月16日

米朝戦争をふせぐ

(霧山昴)
著者 和田 春樹 、 出版  青灯社

金正恩もトランプも、二人そろって世界最大の危険人物だと思います。安倍首相は「平和国家日本の責任」をしっかり果たすべきなのに、いつもいつもトランプの言いなりです。本当に恥ずかしく、情ない日本の首相です。
わずか112頁のブックレットですが、大切なことが指摘されています。ぜひ、あなたも今すぐお読みください。遠い将来のことではなく、下手すると明日にでも「偶発」事故から核戦争が勃発しそうなのです。
アメリカが北朝鮮を攻撃すれば、アメリカ本土をまだ攻撃できない北朝鮮は、日本にあるアメリカ軍基地を攻撃する。その攻撃を実施するミサイル部隊は北朝鮮にすでに存在していて、発射演習をおこなっている。日本にとってきわめて重大である。
今また日本海に、アメリカ軍は3隻の空母(カールビンソン、ロナルド・レーガン、ニミッツ)を配置して、北朝鮮を威嚇しています。金正恩が枕を高くして、寝られるはずはありません。いつ仕返しをしないとも限りません。
安倍政権下の日本は、北朝鮮を敵視するだけで、貿易関係になく、人と船の往来もない。
安倍政権はJアラートを繰り返し発令し、ミサイルが落下してきたら手で頭を覆ってうずくまるようにという、まったく無意味な「警告」を出すだけ。政府として、日本国民を守る責任を果たしていない。
朝鮮で戦争が起きたら韓国側だけでも100万人が命を失う大惨事となる。
私の娘も孫もソウルに住んでいます。とんでもありません。
今度おきるとしたら、その戦争は、かつての朝鮮戦争型ではない。それは環日本海戦争、米日対北朝鮮の戦争となる。
北朝鮮は、往来型の弾頭のミサイルによって、日本海側にある原子力発電所(原発)を攻撃することができる。それは、原爆を投下したのと同じ効果をあげる。運転中止中の原発であっても、使用ずみ核燃料が貯蔵プールに保存されている。これらの原発を飛来するロケットから守る手段は講じられていない。
これから地上型のイージス(1基800億円もします。2基で1600億円です)を配置しても間にあいませんし、防げません。
この戦争が起きたら、もはや勝者も敗者もない。北朝鮮も日本も完全に壊滅し、廃墟と化してしまう。したがって、日本はアメリカが北朝鮮に軍事的な措置をとることを絶対にやめさせなければならない。そのために日本ができるのは平和外交であり、それは日韓国交樹立である。
1970年代以降、世界の大国で隣国と国交をもたないのは、アメリカ(キューバとの断絶状態が最近まで続いていた)と、日本(北朝鮮との国交なし)だけ。
とても積極的であり、現実的な提案がなされています。
(2017年10月刊。1200円+税)

2017年11月 9日

R帝国

(霧山昴)
著者 中村 文則 、 出版  中央公論新社

子どもたちへの道徳教育を強引にすすめる政権のトップが平気でしらじらしい嘘をつき、それをマスコミは何も問題としない。国民の4人に1人しか支持していないのに、選挙制度のマジックで、国会議員の4分の3を占め、堂々と「民意を代表して」と強弁する。
そんなクニ(国)に私たちは住んでいます。そして、それに多くの国民が疑問を抱かずに流されています。忙しいから行けなかったと言いながら、実際には居間でテレビを見たり、ネットでゲームをしたり、怪し気な映画を見ている。半分近くの人は、選挙なんて自分には関係ないと思い込み、思い込まされています。そして、気がついたときには、あれあれ、こんなはずじゃなかった・・・と反省する間もなく、戦争に巻き込まれている・・・。言ってみれば、そんな状況設定で進行する恐ろしい小説です。無荒唐無稽のフィクションであってほしいと願わずにはおれませんでした。
朝、目が覚めると戦争が始まっていた。旧式の核兵器があり、R帝国は環境に優しい核兵器をもっている。
緊急事態国民保護法のため、国民がインターネットへ接続するのは一時的に停止される。緊急事態国民保護法が厳密に施行されたことで、戦争を否定する言論は、当然、国民安全法違反として取り締まりの対象になった。戦争に反対することは、自国の一体感を動揺させることであり、敵国の思うツボであり、一刻も早い逮捕が求められた。
情報提供が呼びかけられ、誰でも気軽に密告できるようになっている。ただ会社や学校で嫌われているだけで反戦者つまり売国奴とされる危険がある。みな息を潜めて生活している。誰もが誰かの行動をかたずをのんで注視し、失脚を期待した。ここには、緊張と全体主義の喜びの熱風・・・、この二つが入り交ざっている。
自分たちの国は、報道表現の自由があると国民は勘違いさせられている。
本当は政府に都合の悪い写真だから載せないのに、誰も本当の理由は言わない。
小説とはいえ、そら恐ろしい寒々とした情景です。ジョージ・オウエルの本を思い出しました。気がついた人から声を上げていくべき、一歩前へ踏み出すべきときです、今は・・・。
(2017年8月刊。1600円+税)

2017年11月 8日

偽装の被爆国

(霧山昴)
著者 太田 昌克 、 出版  岩波書店

アイゼンハワー大統領が西側の抑止力を支える屋台骨として期待したのが、壮絶な破壊力を備えた核戦力だった。兵力・兵員の数で西側を完全に凌駕するソ連を相手に、通常戦力でまともに戦いを挑んだとしても、それはまさに多勢に無勢。ソ連が西欧諸国に攻め込んできたら、アメリカは核爆弾や核ミサイルを使って一気呵成に応戦する。
アイゼンハワー政権が1960年12月に策定した「SIOP-62」は、核を撃ち込む爆心地を1043ケ所に設定、最大3400発もの核使用を計画するものだった。
ソ連の奇襲攻撃を探知したら、まず1500発の核をソ連の核基地や軍事拠点に投下する。さらに、ソ連や中国の都市多数を核攻撃し、100万人単位の犠牲者を出す・・・。
アジア太平洋地域に持ち込まれた核兵器は最大3200発。沖縄には、1300発が配備・貯蔵された。ベトナム戦争ピーク時の1967年のこと。沖縄は、ベトナムへの重要なアメリカ軍の出撃拠点であると同時に、アジア最大の「核弾薬庫」だった。
1979年11月9日未明、ジミー・カーター大統領の補佐官ズビグニュー・ブレジンスキーに「ソ連の潜水艦が220発の核ミサイルをアメリカに向けて発射した」という情報が届いた。その直後に、220発でなく、2200発と訂正された。ところが、これは早期監視の運用システムに誤って訓練用のテープが挿入されたことによるミスだった。
アメリカは900発のICBMと潜水艦発射弾道ミサイルが即時発射可能な状態にある。軍事衛星などがもたらす早期警戒情報でロシアの核ミサイル発射を確認できたら、大統領はこれら敵のミサイルがアメリカに着弾するまでに「核のボタン」を押す即応態勢をとっている。着弾前に決断する必要があるが、そのために大統領に許された時間は、わずか6分から12分しかない。
北朝鮮を標的としてアメリカが本格的な核攻撃を加えたら、どうなるか・・・。韓国は北朝鮮と陸続きで、日本とは一衣帯水の地理的関係にある。フォールアウトによる放射能被害が広範囲に及ぶのは明々白々だ。北朝鮮への核使用は、あまりに非現実的。そう考えるアメリカの専門家はいる・・・。
日本国内にあるプルトニウムは9.8トンで、このほかイギリスに20.8トン、フランスに16.2トンをもち、合計すると46.9トンを日本は保有している。このプルトニウムが核爆弾をつくると5863発ができる。その結果、日本は核兵器をつくろうとしているのではないかと外国から疑いの目で見られている。
日本は21世紀までは原発輸入国だったが、最近では原発輸出国になろうとしている。
核兵器禁止条約を日本政府は敵視していますが、核兵器という悪魔の兵器で第三者を威嚇し、恫喝するような事態は直ちにやめる必要があるのです。それは北朝鮮との関係でも同じです。核には核を、いつまでもこんな発想でいたら人類の絶滅を早めるだけでしかありません。危険なウォーゲーム路線を走るアベ政権にストップをかけるしかありません。
時宜にかなった本です。ご一読を強くおすすめします。
(2017年9月刊。1700円+税)

2017年11月 1日

屋上の円陣

(霧山昴)
著者 山村 武彦 、 出版  ぎょうせい

本の表紙にある写真が強烈です。
南三陸町の防災対策庁舎の屋上に人々が集まって円陣をつくっています。地上12メートルの高さにある屋上です。
屋上まで津波が来ることはないと信じていた人たち、しかし、その膝上まで既に冷たい海水が押し寄せている。屋上の円陣は二つある。その一は、防災無線のポールの根元の床面より50センチほど高いコンクリート架台に上がり、ポールを中心に集まった上段の円陣。その二は、その下段に身を寄せあっている円陣。いずれの円陣も、役所のジャンバーや防寒衣を着用した職員が外側を固め、内側に住民、女性、若者を次の大波から守ろうとしている。
この防災庁舎の屋上に避難した人は54人。奇跡的に助かったのは11人。ポールにのぼっていた2人。階段上部の踊り場付近に流され鉄柵に押しつけられて助かった町長など8人の職員、屋上から流されながら、運よく水面に浮き上がり、流れてきた畳に乗って病院に漂着した職員1人。そのほかの43人が亡くなった。
襲った津波の高さは、地上12メートルの防災庁舎を上回る15.5メートルだった。だから、生き残った11人は、奇跡としか言いようがない。「奇跡のイレブン」だ。
この本は、表紙の写真と解説文を読むだけでも意義があります。
防災庁舎2階にあった危機管理課から住民へ避難を呼びかけていた二人は亡くなりました。うち一人の女性は前年に結婚し、秋に結婚式をあげる予定でした。43日目に遺体が発見されました。もう一人の男性の遺体はまだ見つかっていません。
津波は、第一波よりも第二波、第二波よりも第三波のほうが高くなることが多い。
津波、洪水、逃げるが勝ち。想定津波高さの2倍以上の高所に避難すべき。俗説に惑わされず、最悪を想定して早く非難する。悲観的に準備して行動すれば楽観的に生活できる。
奇跡的に生還した11人へのインタビューが紹介されていますが、本当に生死は紙一重の差だったと思いました。貴重な本です。
(2017年8月刊。1800円+税)

2017年10月22日

はじめてのワイナリー


(霧山昴)
著者 蓮見 よしあき 、 出版  左右社

日本産ワインも質が向上しているようですね、ぜひ飲んでみたいものです。
長野県でワインづくりに励んでいる著者の生き生きワインづくり物語です。読むと、ついついワインが欲しくなります。
ちなみに私は、今ではもっぱら赤ワイン党です。白ワインはもらってもすぐに右から左へと知人に譲り、自分では飲みません。赤ワインの香り、そして何より人生の深さを感じさせる深みのある濃い赤色に心が惹かれるのです。
著者は自分が理想とするワインを納得するまでつくってみたりと一人でワイナリーを始めました。すごいことですよね、これって・・・。
2005年に長野県東御(とうみ)市に移住し、自分のブランドでワインを世に送り出すまでに4年の歳月を必要とした。自分のワイナリーを始めるのに必要なことは、気力、体力、持続力、この三つ。決して難しいことではない。この三つさえあれば何とかなる。
ホ、ホントでしょうか・・・。
ワイナリー起業は忍耐強くないとできない。ぶどうの苗木を植えて収穫できるようになるまで最低3年、フル稼働するまで4年はかかる。そこからワインをつくるのに、最低でも1年。つまり、ぶどう苗を植えてからワインをつくり、瓶詰めして販売できるようになり、お金になるまで最低5年はかかる。したがって、ワイナリー起業してから5年間は無収入でも耐えられるだけの蓄えと覚悟がないといけない。野菜とちがって、果樹栽培は長期的スパンで考える必要がある。お金になるまで5年かかるといっても、実は、事業が安定するまでには10年以上かかってしまう。
ワインづくりで一番の楽しみは、実は音。発酵のときに聞こえる音。発酵のチェックをしているときの音が最高。発酵中のワインがシュワシュワと音を立てる。それは、まさしく萌えの瞬間だ。ワインが静かに発酵する音を鑑賞するのが、仕込みの時期の一番の楽しみだ。
日本産ワインは今、出荷量が増えていて、今後10年間で1.8倍に伸びると予測されている。
ところが、日本で国産ワインの消費量は30%。しかし、日本で出来たぶどうでつくったワインとなると、国産ワインの4分の1、全体の7%あまりでしかない。
ワインづくりは夏の暑いときや、冬の寒いときの肉体労働がとりわけ苛酷だ。
そんなワインづくりがたくさんの写真とともに紹介されていますので、ぜひ、どんな味のするワインなのか飲んでみたくなります。
(2017年7月刊。1800円+税)

2017年10月17日

国家と石綿

(霧山昴)
著者 永尾 俊彦 、 出版  現代書館

石綿、アスベストによる広範で深刻な被害の実相を明らかにし、その責任を厳しく追及している本です。
アスベストによる被害はじん肺と同じで、すぐには顕在化せず、それが顕在化したときには、その犠牲者は余命いくばくもないという切羽詰まった状況に置かれていることを知りました。
石綿の英語、アスベストは、永久不滅、消えない炎を意味するギリシャ語から来ている。
石綿は、天然の鉱物であり、石綿原石をほぐすと植物の綿のように柔らかくなり、糸のように紡ぎ、布のように織ることができる。摩擦に強く、酸にも強くて腐らないので、ブレーキやパイプの継ぎ目の詰め物に適している。また、電気を通さないので、電線の被覆にも適している。しかも、石綿は安価だ。
日本は、1930年から、2003年までに累計して1000万トン近くの石綿を輸入した。そして、世界的に規制を強化しているなか、日本は逆に1970年代も80年代も消費量を増やしている。
規制強化法案をつぶしたのは業界というより通産官僚だ。JISマークの信頼が揺らいでしまうからという理由だ。そして、通産官僚は業界団体の幹部に次々に天下りしていった。
石綿の粉じんは花粉より小さく、髪の毛の5千分の1ほどしかない。この石綿粉じんを吸い込むことで肺が石のように硬くなり、呼吸困難となって石綿肺(せきめんはい)や肺がんになる。石綿肺は、15年から20年の潜伏期間のあと、発症後も長く苦しんで亡くなっていく人が多い。中皮腫は30年から50年もの長い潜伏期間を経て、発症すると半年から2年ほどのあっという間に亡くなってしまう。したがって、石綿は静かな時限爆弾と言われる。
びまん性胸膜肥厚とは、アスベストによる胸膜炎の発症に引き続き、胸膜が癒着して広範囲に硬くなり、肺がふくらんで呼吸困難を引き起こす病気。石綿肺も石綿が原因のがんも、いずれも今も不治の病である。
石綿によって重大な健康被害が生じることは、国際的には遅くとも戦前の1931年ころまでには広く知られていた。そして、その被害は、石綿を扱う労働者以外の家族そして近隣住民にまで及ぶことも早くから広く知られていた。にもかかわらず、日本政府は石綿の輸入そして使用を禁止するのが大きく遅れた。それなら国の責任は明らかですよね。
ところが、三浦潤裁判長は国に責任がないなどという信じられない逆転敗訴判決を書いたのでした。それでも、原告団と弁護団は一致協力して国の責任を明らかにしていきます。
この本では、その敗訴判決を受けて弁護団と原告団との間に生じた不協和音についても生々しく描いていて、その克服過程を知って勉強になります。
国にタテつくことのできない(タテつこうとしない)裁判官ってホント多いですよね、多すぎます。骨のないクラゲのように法理論をもて遊び、上を向いて漂っていく裁判官は姿勢を正すか、国民のためにさっさと辞めてほしいと私は思います。
(2017年2月刊。2700円+税)

2017年10月14日

山奥の小さな旅館が外国人客で満室に


(霧山昴)
著者 二宮 謙児 、 出版  あさ出版

タイトルに惹かれて読んでみました。山奥の小さな旅館といいますから東北地方の山奥かと思うと、なんと大分は湯布院町の湯平(ゆのひら)温泉にある旅館です。私も、もちろん湯布院の温泉には何度も行ったことがありますが、湯平温泉というのは知りませんでした。そこにある家族経営の小さな旅館「山城屋」の話です。
私がこの本を読んで驚いたのは、なんといっても旅館なのに週休2日制を完全実施しているということです。すごいです。偉いと思いました。たしかに家族経営で年中無休だったらたまりませんよね。家庭生活も基本的人権もあったものじゃありません。
ところが山城屋は水曜日と木曜日は定休日として、旅館自体が休みなのです。そのうえ、盆、暮れ、正月も休みです。ここまで徹底するとは、たいしたものです。いいことですよね。
その理由について、疲れた顔では安心感は与えられない、お客様の前では常に万全の状態でありたいというのです。心からの拍手を送ります。
いま、日本の旅館は全国に4万軒ある。10年後には3万軒もないだろう。湯平温泉の旅館は60軒あったのが、今や21軒と3分の1まで減少した。
この山城屋が稼働率100%を維持しているのは、インターネットを活用しているから。韓国や中国からインターネットで予約して宿泊客がやって来る。予約は半年も1年も前から殺到するので、結果として、日本人客より外国人客のほうが多くなった。今では外国人客が8割を占めている。
旅館のホームページは4ヶ国語で対応している。韓国語、中国語、そして英語。
客室は7室。つまり1日最大7組しか受け入れられない。食事は和室にイスとテーブルを置いたレストラン形式だ。客には歓迎されているという安心感を実感してもらう。
こんな家族経営の小さな旅館に泊まってみたくなりますよね。
(2017年7月刊。1500円+税)

2017年10月13日

日航123便、墜落の新事実

(霧山昴)
著者 青山 透子 、 出版  河出書房新社

今から32年前の1985年8月12日、日航ジャンボ機(ボーイング747)が墜落した。524人の乗客乗員のうち4人が助かった。そのうちの一人、落合由美さんの証言によると、山腹に墜落した落合さんの周囲には、「おかあさん」「早く来て」「ようし、ぼくはがんばるぞ」「助けて」・・・という何人もの声があがっていたそうです。
ところが、現実に救出されたのは、墜落して生存者が判明しているのに、それから3時間以上もたっていた。灼熱の夏山の山頂に助かるべき人たちが放置された。そして、生存者の4人にしても、最終的に病院にたどり着いたのは、墜落してから実に20時間がたっていた。うむむ、これはなんとしたことでしょう・・・。ありえない、信じられない遅さですね。
乗客が墜落する前に飛行機の内部でとった写真にオレンジ色の飛行物体が窓の外側にうつっているといいます。これはいったい何なのでしょうか・・・。
また、墜落した日航ジャンボ機にアメリカ空軍のファントム2機がつきまとって飛んでいたという目撃証言も紹介されています。アメリカ空軍は、ジャンボ機の所在をつかんでいて、日本側に教えなかったのではないか・・・。それは群馬県の小学校と中学校の作文としても残っているのです。
子どもたちは、真っ赤な飛行機が飛んでいたとか、墜落直後からヘリコプターが多く飛んでいたとも書いています。
アメリカ軍は被害者の救助活動をまったくしていませんが、実は、墜落した機体の所在をすぐにつかんでいたのではないかと疑われるのです。
アメリカ軍は知っていながら教えず、自衛隊が救助活動に入るのには時間がかなりたっていた。なぜ、そんなことが起きたのか・・・。
日航ジャンボ123便の墜落事故については、当時から隠されていることがたくさんあると指摘されてきました。久々に子どもたちの目撃作文などの新証拠によって疑惑が指摘されたのです。きちんとした真相解明をしてほしいものです。
(2017年9月刊。1600円+税)

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