弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2017年8月27日

日本の夜の公共圏

(霧山昴)
著者 谷口 功一 、 出版  白水社

スナックについての本格研究書です。もちろん、私もスナックには行ったことがあります。でも、カラオケ嫌いの私には、あまり近寄りたくない場所でしかありません。うるわしき美女との出会いを期待したい気持ちは少なからずあるのですが、むくつけきおっさんの下手なカラオケの蛮声を聞かされるかと思うと、足が遠のいてしまいます。
スナックは、今では都市部ではなく、地方においてこそ身近な存在となっている。
先輩が後輩を連れてスナックへ行くという文化は、70年代生まれの世代の前後で断絶している。
ガールズバーは、女の子のドリンク代に店側の実入りは大きく依存している。
スナックは、時間無制限で、女性(ママ)は、若くても30代以上。
スナックの名称は、軽食(スナック)による。スナックの前身はスタンドバー。
現在、スナックは10万軒、美容院23万店、不動産屋12万軒、居酒屋8万店。
人口比でのスナック軒数は、上から順に①宮崎、②青森、③沖縄、④長崎、⑤高知、⑥大分、⑦鳥取、⑧秋田、⑨山口、⑩佐賀。つまり、九州方面が圧倒的に多い。最下位は奈良。なぜ・・・。
田舎では、どんな小さいところにも、スナックとフラダンススタジオがある。うひゃあ、そ、そうなんですか・・・。
スナックは始めるのは簡単で、やめるのも難しくない。大きくもうかることは期待できないけれど、ほそぼそとやるにはいい。
スナックのママが女をウリにしていると、案外にうまくいかない。おっさんたちがライバル同士になってしまうから。ウリは、ママかマスターの人柄だけ。
スナックにとって恐るべきは、警察とあわせて税務署。ただし、これも、はやっている店に限る。税務署がおしのびでやってきて、領収書をもらい、あとで台帳に載っているかチェックする。
スナックでは階級差がない。基本は飲んで歌うこと。社長もサラリーマンも、いろんな人が混交している。
私は、見知らぬ土地に行って、ふらっと食べ物屋に入る元気はあるのですが、夜のまちに、知らないスナックに入る勇気はもちあわせていません。カラオケが歌えないからだとは思いますが・・・。
それにしても、なぜ、スナックが九州、西日本にそんなにかたよっているのでしょうか・・・。不思議でなりません。学者の先生方による、真面目なのか、本気なのか、よく分からなくなってくる貴重な研究書です。
(2017年7月刊。1900円+税)

2017年8月26日

いつも子どもを真ん中に

(霧山昴)
著者 上田 精一 、 出版  青風舎

私と同じ団塊世代はだいたい定年退職し、嘱託として学校教員を続けている人がいるくらいになってしまいました。
著者は、私たちよりさらにひとまわり上の世代になります。中学校の教員(国語)として、子どもたちと格闘していた日々の出来事が昨日おきたことかのように語られているのに驚かされます。
学級通信では、子どもたちの言葉、それに2行か3行そえたコメント、そして親の反応が紹介されています。そして、大切なものは製本して保存してあり、昔の生徒たちが10年、20年して集まったときに贈呈して喜ばれているというのです。こんな教師にめぐりあえた生徒は幸せです。
学級運営で、口を開かなかった子と交流できるようになった話、つっぱっていた生徒との対話、そして、女子生徒たちから、差別しないように申し入れられた経験・・・。どれをとっても、子どもたちを主人公として大切にしてきた教師としての貴重な体験談です。
さらに、沖縄へ修学旅行に行ったときの様子、平和をテーマとして子どもたちが文化祭で劇に取り組み、成功させた様子など、教師冥利に尽きる話のオンパレードで、読んでる私の心を熱くしてくれました。
やっぱり、教師って、人の生き方を変える力をもっている。これって聖職だよね、そう思わせる本でした。
著者は八代市に生まれ、長く人吉の中学校につとめていました。学校教育の現場に関心のある人には強く一読をおすすめします。
(2017年5月刊。2000円+税)

2017年8月 9日

女性と労働

(霧山昴)
著者 日本弁護士連合会 、 出版  旬報社

2015年10月に千葉の幕張で開かれた日弁連人権擁護大会のシンポジウムの報告書を要約・加筆して出来あがった本です。
シンポジウム実行委員会はオランダへ現地調査をしたようで、巻末資料として、その報告書がのっています。アムステルダム市はセックスワーカーの権利保護に乗り出しているというのが、私には目新しい話でした。写真で見たことしかなく、現地に行ったこともありませんが、アムステルダムには「飾り窓」で有名な地域があります。そこで働くセックスワーカーは全市5000人から8000人のうち、2000人。今は東欧出身の女性が多い。顧客は年間20万人に近く、アムステルダム在住者は3分の1以下で、半分以上が独身、5人のうち2人はパートナーがいると推測されている。
アムステルダム市の売春政策は①合法的な売春をノーマル化する、②非合法の売春を察知する、③ワーカーのエンパワーメントとケア、④予防という4つの目的がある。ライセンスがなくても、自宅で週に何回か売春することは合法扱いされている。そして、18歳以下の子どもがセックスワーカーになるのは禁止されている。
では、日本はどうなっているか。売買春はもちろん法で禁止されているが、現実には、女性が性的サービスをしている性産業の営業所数は2万2千ケ所ほどあり、1ケ所平均20人として、40万人以上の女性が働いている。ここは、他の職業とは比較にならないほど生命・身体に危害を及ぼすリスクの高い特殊な労働である。
学費が高く、奨学金が貸与制のために、大学生(女性)が性産業で働くケースが多いことは前から指摘されている。
それにしても日本の「人づくり」政策は根本的に間違っていますよね。大学の入学金が国立大学で82万円、私立大学で132万円するなんて、信じられません。
私のときは月1000円でした。ヨーロッパでは学資はタダどころか、学生に生活補助しています。これこそまさしく「人づくり」ですし、「国づくり」です。大型ハコモノづくりとかムダな軍事予算を削って、人材養成にこそ国はお金をつかうべきです。
女性が働きながら子育てしようとするときに直面するのが保育園の確保です。この本によると、保育士の資格をもちながら働いていない潜在保育士が60万人もいるとのこと。もったいない話です。それほど、保育現場の労働環境は劣悪なのです。
そして、教員にも非正規が年々増えている。2005年にして、3%だったのが、2011年には16%になった。
看護師は9割以上が女性で、深刻な過重労働が横行している。
では、日弁連はどうしたらよいと考えているのか・・・。この本では、いろいろ、たくさん問題提起されていますので、かえって要点、ポイントが分かりにくくなっている気がしました。
もっと、男も女も、個性ある人間として社会が大切にしていることを実感させてくれる世の中にしたいものです。そのための貴重な現状告発と問題提起の本です。
委員長の中村和雄先生、よくぞ本にまとめられました。お疲れさまです。
(2017年4月刊。2000円+税)

2017年8月 8日

コブのない駱駝(らくだ)

(霧山昴)
著者 きたやま おさむ 、 出版  岩波書店

「帰って来たヨッパライ」そして「イムジン河」で有名な(といっても、若い人は知らないのかもしれませんが・・・)フォーク・クルセイダーズの一員として音楽活動をし、その後は、作詞家になり、さらには医科大学を出て精神科医になって、九州大学で精神医学を教えてきた著者が、自らの歩みを精神分析してみた、面白い本です。
タレント本とはまったく異なり、一味(ひとあじ)違った、スルメのようにかみしめるほどに味わい深い本です。
「きたやまおさむ」の名で活動してきた自分を、精神科医の「北山修」がながめて書いている。この出演する自分をながめて、その台本を読みとり、味わうという仕組みは、実は、人が生きていくうえで、とても重要なシステムだ。それで、自らの人生をいわば、「劇」のように、ながめて考えてみることを「劇的観点」と呼んで、提唱している。
精神分析家は、自らを積極的には語らない。いえ、そうしてはならないのだ。精神科医の仕事は、自らが「白紙」になることによって、患者に自由に想像してもらい、正直に思うところを語ってもらうのが基本だ。もし、精神科医が、「私は、こういう人間です」と公言してしまったら、患者にとって、目の前の精神科医は「白紙」ではなくなってしまう。
「劇的観点」を成り立たせるには、それを描き出すための言葉や文章が必要となる。そして、比喩(ひゆ)をうまく使うことは、生きていくうえでも大切なことだ。
「遊び」は、とても重要。仕事だけでなく、食べる、寝るといった生理的な部分だけでもなく、それらとは関係のない時間をもてている人。内的にも外的にも、道草できる領域をもっている人。そうした休息や趣味の領域を確保していることが、実は、人間の健康や創造性にとっても大切なのだ。
人には、暴力的な欲求がある。それを人はコントロールしなければいけない。人間のなかの暴力性をコントロールするためにも、罪悪感をもち続けることは大切だ。
『帰ってきたヨッパライ』はなんと、280万枚を売りあげたとのこと。すごいことです。私が東京で大学生活を始めた年の12月のことです。町を歩いていると、いつでも、どこでも、この曲が流れていました。レコード盤なんか買う必要もなく、音痴の私だって覚えてしまったほどです。
翌1968年10月には、グループは解散します。東大闘争が始まっていて、授業がなくて、私は集会とデモ、そしてセツルメント活動に明け暮れていました(決して全共闘ではありません)。
著者は、1968年10月にヨーロッパ旅行に出かけるのでした。大学2年生のころの私は貧乏でした(1ヶ月1万3000円で生活していました。親は大変だったと思いますが、当時は、親が子どもへ仕送りするのは当然だと考えていました。スミマセン)から、海外旅行なんか、夢みることすらありませんでした。
作詞家と精神科医には似たところがある。作詞は、人間の心の中と交流し、その中にあるものを言葉として紡(つむ)ぎ出していく行為である。精神医学もまた、本人や周囲の理解できない心の現象を言葉で、分析、説明する仕事でもある。
いやはや、さすがは精神分析医だとうならせる言葉に圧倒されてしまいました。かつて歌ってましたという軽佻浮薄なところは、微塵もありません。
心の宇宙は、空よりも広く、海よりも深い。まだまだ、その意味は読みとられて、言葉になるのを待っている。
うひゃあ・・・、そ、そうなんですね。それって、まだ、ぼくの出番だって、あるっていうことなんですよね・・・。そんな読後感が、しばし幸福感をもたらしてくれました。
(2017年5月刊。1800円+税)

2017年8月 1日

めぐみ園の夏

(霧山昴)
著者 高杉 良 、 出版  新潮社

著者の経済小説は、かなり(全部とは決して言いません)読みました。その丹念な取材による状況再現力(想像力)には、いつも驚嘆してきました。
今度は、自伝的長編小説というのです。どんなものかなと、あまり期待せずに読みはじめたのですが、思わずストーリーの渦中にぐいぐいと引きずり込まれてしまい、裁判の待ち時間も使って、その日の午前中に読了してしまいました。
ときは昭和25年(1950年)夏、両親の別居・離婚に至る過程で4人姉弟が孤児を収容する施設に無理して入れられます。まだ3歳ちょっとの末娘は、まもなく養子にもらわれていくのですが、主人公は兄妹がバラバラにされるのを怒ります。
いま、弁護士として離婚にともない兄弟がバラバラにすることの是非を絶えず問い返しています。幸い、本書では養子縁組は幸せな結果をもたらしたようです。胸をなでおろします。でも、いつもそうとは限りませんよね。「レ・ミゼラブル」のように下女か下男のような扱いを受け、こき使われるばかりというケースも少なくないのではないでしょうか・・・。
主人公は小学生(11歳)の亮平です。スポーツが出来て、成績も良くて、何より人から好かれるという性格なので、施設から学校に通っても、クラスで級長をつとめるようになるのです。
施設生活では、理事長と園長のワンマン経営、そして、そのわがままな暴力息子が孤児たちを脅しまくります。
両親に見捨てられた孤児たちは施設を出てから、まともに仕事をし、家庭生活を送るのに大変な苦労をさせられると聞きます。楽しい家庭生活を体験していないことからくる強い不安があり、これを乗りこえるのに大変な努力を要するのです。
幸い、この施設には、優しい指導員が何人もいて、孤児たちを温かく包容し、励ましてくれるので、主人公はまっすぐに伸びていくことが出来ました。その苦難を乗りこえていく過程がとてもよく紹介されていて、なるほど、それで、次はどんな展開になるのだろうかと、頁をめくるのがもどかしくなります。
結局、主人公は中学生になって母親ではなく、愛人と暮らす父親のもとで生活することを選択するのですが、それに至る葛藤の描写に迫真性があります。
親の離婚が子どもたちにもたらす影響、そして子どもがそれを乗りこえていく力を秘めていること、そのためには周囲の温かい支援が必要なんだということがよく分かる本でした。
読んで、じんわり、ほっこりする小説として、よく冷房のきいたなかで一読されることをおすすめします。
(2017年5月刊。1500円+税)

2017年7月30日

12人で「銀行」をつくってみた

(霧山昴)
著者 岡田 晴彦 、 出版  ダイヤモンド社

私自身は銀行に行ったことは久しくありませんし、ATMを利用したことは一度もありません。ですから、振り込め詐欺の被害者にはなりようがありません。また、コンビニも、出張したとき以外に入ることはありません。ケイタイはもちろんガラケーで、スマホはつかっていませんし、使う気もありません。
この本は、インターネットバンキングの創立過程の「生みの苦しみ」を明らかにしたものです。
2000年(平成12年)10月に開業したジャパネット銀行は日本初のインターネット専業銀行だった。インターネット専業銀行とは、実際の店舗をもたないで、インターネット上で各種サービスを提供する銀行のこと。インターネット銀行は実店舗がないし、預金通帳も発行されない。そのため業務コストが低く抑えられるので、預金金利はいくらか高く、手数料も少し安い。なにしろ24時間、365日、いつでも振込、振替そして残高照会などのサービスが利用できる。
インターネット専業銀行は1999年10月、メンバー12人による準備室の発足から始まった。非対面での本人確認のやり方について、試行錯誤を重ねた。
インターネット専業銀行であるジャパネット銀行は、決済手数料を収益の柱としている。し
たがって、たくさん残高のある人よりも、たくさん利用してくれる客のほうがありがた。
インターネット専業銀行では、取引回数こそが重要になってくる。つまり、インターネット銀
行とは、顧客のターゲットが異なるということ・・・。
ジャパネット銀行では、銀行員のやることをすべてユーザー自身にやってもらう。そのことに
よって、客が取引に自覚するようになる。
ジャパネット銀行では、毎月の月初めに利息をつけるというサービスをしている。
ジャパネット銀行の自己資本比率は、30.1%で、国際基準を大きく上回っている。
いやあ、世の中の進歩についていくのは本当に大変なことです。
(2017年2月刊。1500円+税)

2017年7月19日

不発弾

(霧山昴)
著者 相場 英雄 、 出版  新潮社

東芝を連想させる「大手電機企業」の粉飾決算について、小説仕立てで内情を暴露する経済小説です。
ところが、この本では東京と並ぶ第二の舞台が、なんと福岡県大牟田市なのです。大牟田駅のすぐ近くに「年金通り」と呼ばれる目立たない飲食店街があります。まったく偶然にも、この本を読む前日に、私はちょっとした相談を受けていました。売上が10年前の3分の1にまで減っているので、飲みにきてくださいと誘われたばかりだったのです。年金生活者が乏しい年金で飲んで歌って半日すごせるというのが「年金通り」の由来だと聞いています。昔は、店の二階の小部屋で売春が横行しているという噂が立っていました。この本にも、それらしい状況が書き込まれています。そして、暴力団とのつながりも深いとされています。今はともかく、昔は恐らくそうだったのでしょう。昔の大牟田では、利権争いからの暴力団同士の殺人事件が絶えませんでした。
サブの主人公は、そんな大牟田から脱出して、証券会社に入り、無知な人々から大金を騙しとり、次には大企業の使い走りのようにして、利益保証・補填し、役員個人の蓄財にまで狂奔し、そのおこぼれにあずかるのです。
ホンモノの主人公は東大法学部を卒業した警察キャリア。ところが、なんとしてでも自分の手でホシをあげたいという個人的野望につき動かされて行動するのです。さすがに、その行動力とあわせて、各界にのびている広いネットワークのおかげで、大牟田出身の男の実像に迫っていきます。そして、いよいよ大手をかけたところ、アベ首相とモリカケ理事長の個人的関係と同じように、「政治的に処理され」無罪放免されるのです。なんと理不尽なことが起きているのかと、憤慨するばかりです。ところが、先日の都議会議員選挙の投票率は、わずか51%でしかありませんでした。日々、きつい労働に直面している人たちは、投票所に行く元気もないのでしょう。それでも投票所に足を運ばないと、日々の生活がますます暮らしにくくなるだけなのです。やはり怒りの声はあげて、叫ぶ必要があります。
証券取引で、個人投資家は自己責任として、損を出しても平然と見捨てられます。しかし、企業投資家だったら、「損失」は証券会社がカバーしてくれるのです。まことに不公平な仕組みです。許せません。ゼニカネ一本槍の人間はそれでいいのかもしれませんが、やはり世の中は、それだけですまされたくはありません。
国政を私物化するような政治家、目先の利益しか念頭にない大企業には退職・廃業してもらう必要があると私は思います。この本を読んで、ますますそう思いました。
(2017年2月刊。1600円+税)

2017年7月 6日

寅さんの世間学入門

(霧山昴)
著者 佐高 信  早野 透 、 出版  ベストブック

山田洋次監督の映画『男はつらいよ』シリーズが始まったのは、私が大学3年生のとき、1969年でした。マドンナ役は光本幸子です。私はその前にテレビで放映されていたというのは残念ながら見ていませんし、知りません。DVDにも全部は残っていないようですね・・・。
1969年以来、1997年の特別篇まで49作という超長シリーズです。なにしろ、お盆と正月に新作が封切られていたのですから、すごいことです。
私の子どもたちが一緒に映画をみてくれるようになってからは、正月に家族みんなでみていました。高笑いしながら、しみじみ泣けてくるという映画ですが、やはり観客みんなで笑うところに大きな感動がありました。東京・銀座の高級封切り館でみたときには、観客の笑いが、さすがに上品でしたから、もう、こんな上品な映画館では「寅さん」映画はみないと固く心に誓ったことを覚えています。
対談する二人は、私たち団塊世代より少しだけ年長です。一人はサユリスト(早野)、対する一人はリリー派(佐高)です。
サユリストの私ですが、寅さんの恋人役にふさわしいのは、なんといってもリリー(浅丘ルリ子)です。寅さんが肩の力を抜いて話せる女性だということが画面からよく伝わってきます。
リリーが登場するのは5作もあります。「ハイビスカスの花」は、筑豊の映画館でみましたが、ちょうど「オンボロ旅館」(失礼します)に泊まって弁護団合宿をしていましたので、みんなで腹をかかえて笑ってしまいました。
それにしても、渥美清が亡くなって20年にもなるなんて、信じられません。
この20年間に生まれた人は、寅さん封切り映画をみれなかったわけで、お気の毒としか言いようがありません。
最新の『家族はつらいよ』が、寅さん映画の雰囲気を伝えていますが、やはり面白みでは寅さんにはかないません。そこは、なんといっても渥美清という役者の奥深さです。
この本を読んで久しぶりに寅さん映画の感動に少しばかり浸ることができました。
(2017年3月刊。1400円+税)

2017年7月 5日

行こう、どこにもなかった方法で


(霧山昴)
著者 寺尾 玄 、 出版  新潮社

しっとり、じっくり読ませる本でした。車中で読みふけっていため、いつのまにか目的地に着いていました。社内放送はまったく耳に入らず、著者の語りに全霊を傾けていたのでした。
夢の扇風機や感動のトースターを発案したというのですが、わが家にはどちらもありません。孫が遊びに来るようになってエアコンは取り付けましたが、それまでは天然自然のクーラー(要するに何もない)でした。それが下の田圃で隣人がお米をつくらなくなってから、そうもいかなくなりました・・・。
朝食にパンを食べていた時期がありましたが、今ではニンジン・リンゴ・青汁ジュースのみです。ですからトースターは不要なのです。
それにしても、扇風機の風が肌を刺して、気色悪いと思っていた理由が解けました。風が渦をつくって、一直線に肌にあたるからなのです。そこで著者は渦を解消して、自然のやわらかい風を再現したのでした。それでも一機3万5千円もします。どうやってそれを世間様に認知してもらい、売り込むのか、そこに人生を賭けた必死の努力があったのです。その過程が実によく分かります。
人の本気さは、いろいろな物事を動かす力をもっている。
思春期は、子どもが大人になるために絶対に通過しなければならない時期だ。しかし、子どもが大好きな親にとっては、過酷な時期である。
著者が14歳のとき、母親がハワイの海で亡くなった。自分や家族の身に一大事がおこり、どんなに悲しくても辛くても、それは政界の悲しみではなかった。どんなに悲しみに打ちひしがれようとも、世界は暗黒になったりはしなかった。なぜなら、それは世界や他者にとっては何もないことだからだ。
本当に、著者の言うとおりなんですよね・・・。私という存在と他者、そして世界とは、まったく別の存在なのですよね・・・。
それにしても、著者は詩を書いていたというだけあって、言葉づかいが新鮮です。
ただの解放感は、自由とはまったく異なるものだ。
著者は高校を中退し、17歳のとき、スペインへの一人旅に出て、1年間、放浪した。スペイン語も出来ないのに、たいしたものです。やはり若さですよね。
結局、著者の価値観の基礎となったのは、両親が言葉と身体で教えてくれた事柄だった。いつでも真剣に生きること、常識にとらわれず自由に考えること、本気で夢を信じていいこと。
離婚して、子どもに辛い目にもあわせた父親と母親を、著者は心底から愛していることが本書を通じて、よくよく分かります。
18歳から歌手になってステージに立って歌った。自分で天才だと思って・・・。そして、挫折したあと、モノづくりの世界に飛び込むのです。いやあ、よくもこれだけ自分の心象風景を素直に文字にできるものです。まさしく天才的、です。最後に、「それでは、みなさん、良い旅を」と呼びかけています。
読んでいると、なんだか、すーっと、心が軽くなってくる。そんな本でした。ひき続き、常識にとらわれないモノづくりに挑戦してください。なんか新鮮な刺激がほしいなというあなたに、ご一読をおすすめします。
(2017年4月刊。1600円+税)

2017年7月 4日

2015年安保、総がかり行動

(霧山昴)
著者 高田 健 、 出版  梨の木舎

共謀罪法案の国会審議はひどいものでした。いえ、言い直します。ひど過ぎます。加計学園の問題点が国会という公の場で究明されるのを恐れて、会期延長せずに徹夜国会にして「多数の横暴」で問答無用式に明らかに憲法違反の法律を制定してしまいました。自民党や公明党議員にも個人的には話せば分かってもらえる人もいると思うのですが、首相の言いなり、その手駒として右往左往するだけで、とても良識の府とは言えません。
こんな人たちが道徳教育をすすめ、日本の国を愛せよというのですから、子どもたちの目が白黒するのも当然です。
この本は、2015年夏の総がかり行動を中心によくまとめられています。
弁護士会も、日弁連も全国各地でも本当に一生けん命に取り組み、盛り上がりました。安保法は成立こそしましたし、駆けつけ警護とか米艦警護出動を形ばかりは施行しましたが、今までのところ、幸いにして戦死者は一人も出していません。
それでも、イラク・サマーワへ派遣された自衛隊員の数人が自殺して亡くなったとのことですが、南スーダンへ派遣された30代の自衛隊員が自殺したようです。詳しい状況はもちろん不明ですが、過酷な「戦場」体験がそのひきがねになったのではないでしょうか・・・。
この本に紹介されているマンガのセリフを紹介します。
「戦争に行け」と言う奴に限って、自分は行かない。
これは、正確には、もちろん自分は行かないのですが、自分の家族や親戚・知人まで行かなくていいように特別手配をします。
「国のために死ね」と言う奴に限って、自分は死なない。
これも、正確にいうと、死なないどころか、大もうけするのです。戦前の高級軍人は軍需メーカーと結託して甘い汁を吸っていましたし、今も防衛省の制服組たちが軍需産業に続々と天下りして、ぬくぬくとしています。彼らにとって、戦争はもうかるものなのです。
総がかり行動が目ざしたのは、「同円多心」。共通の目標という大きな円のなかに自立した「心」が多数存在するような、それぞれの団体・個人が自立したセンターであるような共同体づくりを目ざした。
私も国会周辺へは昼と夜に、各1回だけ行きましたが、すごい熱気でした。
安保法制法の制定を強行し、その前の秘密保護法、今度の共謀罪法の制定、そしてモリ・カケ疑惑の放置、日本の民主主義が足元から揺さぶられています。
日本国民をあまりにも馬鹿にした自民・公明政権に対して、強く反省を迫る必要があります。
(2017年3月刊。1800円+税)

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