弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2016年9月22日

罪の声

(霧山昴)
著者  塩田 武士 、 出版  講談社

1984年に始まったグリコ・森永事件は、ついに犯人の一人も逮捕されることなく迷宮入りとなってしまいました。
この本は、グリコの犯人集団の内側を分析していて、とても説得的です。
犯人たちは子どもの声をつかって「指示」を出していましたが、その子どもが成人してから、自分の声がグリコ事件で使われたことを知り、誰が、なぜ、どのようにして犯行が遂行されるに至ったのか、謎解きをすすめていきます。同時に、同じ動きがジャーナリスト内部でも起きていて、ついに両者は出会うことになります。
それにしても、このグリコ事件が起きたころに豊田商事の永野一男会長がマスコミの面前で刺殺されたり、8月に524人乗りの日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落したとあって、そうか、同じころに衝撃的な大事件が相次いでいたことを少し思い出しました。
この事件で、警察は何度も犯人たちを取り逃しています。警察庁の指揮下の兵庫県警、大阪府警、滋賀県警の連携プレーがうまくいってなかったことに主因がありますが、技術的な困難もたしかにあったようです。今のように誰も彼もケータイを持っているのではありませんし、GPSもありませんでした。
無線機20台と臨時中継器1台が活躍したとのことですが、中継器が足りずに、各府県警の連携プレーがうまくいかなかったようです。それにひきかえ、犯人一味は警察の無線連絡を傍受していたのでした。
警察庁の公安的手法による捜査は「一網打尽」を狙うものであるため、むやみと職務質問をかけてはいけないとしていた。そのため、目の前にいる犯人を取り逃すことになった。
犯人チームのリーダーは、株価の値下がりと値上がりによって利益を得ることが目的だった。グリコの株には市場での浮動様が少なかったので、株価操作がしやすかった。
ただ、暴力団をバックにした連中は、身代金を確実にゲットすることに意欲があった。
結局、「株価操作組」は暴力団グループに打倒されます(本当でしょうか・・・?)。
振り込み詐欺グループと同じ運命なのですね・・・。
グリコ・森永事件を思い出し、その犯人像を考えるうえで手助けになる本です。400頁もありますが、なかなか面白く読ませますので、事件の真相を考えたい人はご一読ください。
(2016年8月刊。1650円+税)

2016年9月16日

秘密解除・ロッキード事件

(霧山昴)
著者  奥山 俊宏 、 出版  岩波書店

1976年7月27日、現職の総理大臣、田中角栄が逮捕された。
私が弁護士になって2年目の夏のことです。当時、横浜弁護士会に所属していた私は、この日、たまたま東京地裁に行っていました。騒然とした雰囲気に何事かと驚いた記憶があります。あとでテレビを見ると、田中角栄を逮捕・連行していた検察官は横浜修習のときの指導教官だった松田昇検事でした
 なぜ田中角栄が逮捕されたのか。日中国交回復を独断ですすめるなど、アメリカの政策に逆らったからだという見方がありますが、この本は発掘されたアメリカ政府の内部資料をもとに、そうではなかったとしています。
とりわけキッシンジャーから田中角栄は人格的に嫌われていたようです。
キッシンジャーというと、切れ者のユダヤ人学者、外交官として定評がありますが、同時にキッシンジャーは、チリのアジェンデ大統領をクーデターで倒して死に追いやった張本人の一人でもあります。今度、『チリの闘い』という映画が公開されるそうなので、私もぜひみたいと考えています。
なぜ田中角栄がアメリカ政府のトップから嫌われたのか。それは、田中の政策というより、田中のふるまい、言動が原因だった。田中角栄は政治的に微妙な問題もふくめて、あることないことを織りまぜて報道機関に情報を流してしまう。そして、右翼の児玉誉志夫とのつながり。児玉誉志夫は、第二次世界大戦でアメリカの敵だった日本人のなかでも最悪の敵なので、許すことが出来なかった。そんな児玉を通じて日本の政界にお金がアメリカから流れたというのが、ワシントンの人々にとってショックだった。
アメリカは日航と全日空に民間の飛行機を買わせるだけでなく、自衛隊に軍用機を買わせようとしていた。しかし、田中角栄のほうは逮捕、立件されたが、ダグラク・グラマン事件に関する元防衛庁長官の松野から5億円を受けとったのは時効期間がすぎていて、立件されなかった。
アメリカは全世界に暴力的に君臨しようとする野蛮きわまりない国だと私は考えていますが、同時に、アメリカの政治は一定期間がすぎると公文書が公開され、何が起きていたのか、かなり判明する仕組みになっていることについて、私は高く評価します。それに、先日から、アメリカの大統領候補の選挙運動のなかで、民主的社会主義者を自称するサンダース氏が大健闘したアメリカは、本当に頼もしいとも考えています。それにしても、力に頼る政治の愚かさに、もっとアメリカ人も日本人も気づいてほしいものです。
田中角栄とロッキード事件がアメリカの政治の動向と、いかに関わっていたかを知ることのできる貴重な本だと思いました。
(2016年9月刊。1900円+税)

2016年9月13日

ホープレス労働

(霧山昴)
著者  増田 明利、 出版  労働開発研究会

 バブル崩壊と、その後の失われた20年で日本の働き手の姿は大きく変わった。2000年ころを境として、それまでの標準的な働き方や生活様式は揺らいできた。それまでに比べて、正規雇用につきにくくなっているし、正規雇用につけたとしても、かつてのような賃金上昇は期待できない。
今や大卒でも3年後の離職率は30%。履歴が汚れると言ってさっさと辞めていく。1ヶ月未満で辞めたら、年金保険料の記録が残らない。
ブラック企業ではダメになったら使い捨て。そこでは従業員は部品ですらない。単なる燃料扱い。
ブラック企業であくどい仕事をして歩合がついて月収40万円。でも良心が痛んだ。
IT企業で諸手当こみで額面30万円。手取りは25万円。でも、それだけ働いていても残業代が出るのは30時間まで。あとはタダ働き。
毎年4人から5人は過労で倒れて入院してしまう。そして、高脂血症と血糖血の異常が多い。一日中、パソコンの前に座っていて、食べるのはファーストフードやジャンクフードばかりだから、そうなるのも必然。
女子社員だと、20代なのに更年期障害みたいになってしまう。男性は過敏性腸症候群。IT企業、死の行動って感じ。
求人が多いのは、ブラック企業だと叩かれているファミリーレストランのチェーン店、居酒屋、回転寿司、そして介護職。
派遣社員は一匹狼。群れることはない。正社員の人から求められるまで、こちらからは求めない。これが大事。自分から食事や遊びに誘うことはない。
「おい、おまえ。そこの派遣。あんた、、、」。
完全に見下している正社員は多い。
フリーターという語感の軽やかさとは裏腹で、現実には低賃金、低技能の使い捨て。安易な選択をして、自ら将来を閉ざしてしまうことになる、、、。
大きな会社のなかで、出世するしないというのは、必ずしも実力ではない。その人の上司の好き嫌いや相性、全体のバランスのなかで決まっていく。
脱サラも大変。勢いと思い込みで脱サラすると間違う。飲食店経営は手軽に始められるが、難易度は高い。始めるために半年くらいは飲食業で働き、理想と現実のギャップを知るべき。現場経験や土地勘がない未経験者が成功する可能性はほとんど皆無。 
大陸ヨーロッパ型は、福祉社会を目ざしている。アメリカ型は能力ある者には高額、ない者には最低限しか支払わない。日本はアメリカ型を選んだ。
でも、それでいいのでしょうか。底が抜けたアメリカ型では日本の将来はありませんよね、、、。
 読んでいくうちに目の前が真っ暗になってしまう本でした。でも、こんな本が出されるだけまだ見通しはあるということなのでしょうね。そう言いきかせるしかありません。
(2016年6月刊。1300円+税)

2016年9月 9日

「もう一つの大学紛争」

(霧山昴)
著者  鈴木 元 、 出版  かもがわ出版

 もう50年近くも前の大学紛争を当事者の一人として振り返った本です。全共闘の暴力についての鋭い指摘は、私もまったく同感です。
1967年、68年に大学に入学した学生は、まともに勉強できないまま、大学紛争に巻き込まれた。毎晩のように全共闘の暴力にあって、投石したり、角材で反撃し、殴られてケガをした。少なくない学生にとって、いい思い出は皆無に近い。マスコミに登場して、全共闘的思考をよしとしている人間の大半は、大学生時代に心情的には全共闘であっても、ゲバルト活動を1年も続けていた人間はいないだろう。そんな行動をしていたら、学力を確保できなかったし、卒業すら出来なかったはずだ。何より、自らの暴力活動によって立ち直れないほどの精神的ダメージを受けたはずで、いま全共闘運動を誇りをもって語れるとは思えない。
マスコミに登場して、いまだに全共闘の思考や行動に意味があったかのように発言する人物の大半は、あのころ全共闘の周辺をうろうろしていて、心情的な共感をひけらかしていただけの者が多いとしか思えない。それほど、全共闘の暴力は残虐なものだったし、物理的にも心情的にも破壊的だった。
それは、全共闘の内部で内ゲバという悲惨な殺人事件が横行したことからも言えることです。
暴力的闘争は内戦状態をつくり、多大な犠牲者を生み出す。たとえ、権力掌握に成功しても、それは、支配者を変えた新しい暴力的独裁国家になる。その指導権をめぐっても暴力がつかわれ、残忍な内部闘争が展開されていくだろう。国民の幸せを願うものは、「暴力的闘争の終焉」を肝に銘じるべきである。
この点についても私はまったく同感です。内ゲバ殺人事件は、まさしく恐怖政治です。
この本は、京都の立命館大学における全共闘の暴力とたたかい学園を正常化していった体験を振り返っています。暴力支配とたたかうことの大変さがひしひしと伝わってくる本でもありました。
「全共闘世代」というのは、全共闘の思想的影響を受けた人たちがマスコミに就職して、いまもって共感をこめて述べている言葉であるが、全共闘を支持していたのは、せいぜい大学生全体の2%くらいだった。私の知る限りでも、全共闘シンパを自称している人が何人もテレビや新聞社に入っていきました。
そして、大学紛争が終わったとき、大半の学生は就職したら、紛争のことを素早く悪夢だったかのように忘れてしまったのでした。
ところが、東大・京大などと違って、私学卒の学生は下手に大学紛争にかかわっていたことが世間に知られたら、ますます就職できないというハンディを負っていた。うむむ、なるほど、そうだろうなと私は思いました。
東大闘争の全過程については、小熊英二の『1968年』(上・下)にも引用されていますが、『清冽の炎、1968年、東大駒場』(全7巻、花伝社)をぜひ読んでほしいです。大変な労作に深い感銘を受けました。今後とも、元気にご活躍ください。
(2016年8月刊。2200円+税)

2016年9月 6日

花森さん、しずこさん、そして暮らしの手帖編集部

著者 小榑 雅章、 出版 暮らしの手帖社 

 わが家にも子どものころから「暮らしの手帖」はありました。黒地をバックとした藤城清治さんの切り絵に見とれ、実験の成果である数値の羅列に奇異な感じを受け、結論としての商品評価のところは興味深く読んでいました。といっても、わが家の大人たちが、その実験成果を生かして買い物をしたという話は聞いていません。
 この本は、「暮らしの手帖」の創成期に編集者の一人として編集部に入った若者のの体験記でもあります。
 花森さんは女装することでも有名でした。でも、いつもスカートを着ていたわけではなさそうで、なんとなく少し安心しました。
 花森さんは、東大を出て戦争中に大政翼賛会で働いていました。「欲しがりません、かつまでは」、とか「ぜいたくは敵だ」の作者だと言われました(実は違うそうです)。
 花森さんは、「ボクは、たしかに戦争犯罪をおかした。当時は何も知らなかった。だまされた。しかし、そんなことで免罪されるとは思っていない。これからは絶対だまされない。だまされない人を増やしていく。その決意と使命感に免じて、過去の罪はせめて執行猶予にしてももらっている」、と語った。
 そして、「ぼくらの暮らしと政府の考え方がぶつかったら、政府を倒す、ということだ。それが本当の民主主義だ」とも言っています。さすが、ですね・・。
戦前、大日本帝国の臣民には、まずお国があった。「お国のため」がすべてに優先していた。お国の言うことに、国民は、へへーと従った。しかし、順序は逆だ。なによりもまず、国民が先だ。国民の暮らしだ。
 「暮らしの手帖」が実名で商品評価を発表したため、企業側から誹謗、苦情、懇願、哀訴、抗議、訴訟を受け、それをすべて乗り越えてきた。
  「暮らしの手帖」創刊号(1948年)は1万部。私の生まれた年です。
 10号(1950年)は7万部。30号(1955年)は21万部、38号(1957年)には52万部。わずか7年間で一挙に7倍以上になった。
 ひとにものを教わるときには、徹底的に何も知りません。どうぞ教えてくださいという態度が大切だ。知ったかぶりが一番嫌われる。職人さんを先生だと思って聞け。相手が、大変だ、この人は本当に何も知らないんだと思うと、親切に教えてくれる。
これは花森さんの説いた取材の要諦(ようたい)です。
テレビの「とと姉ちゃん」をみているわけではありませんが、広告のない「暮らしの手帖」には子どものころから何となく親近感がありましたので、読んでみました。
(2016年6月刊。1850円+税)
いま、町から本屋が消えていっています。悲しいことです。インターネットで注文すればいいじゃないかと思うのはネット中毒の人です。活字中毒の私は、やはり本屋に行って店頭で本を眺め、ときに手に取ってみるときこそ至福のひとときなのです。
この17年間で、2万2296軒あった本屋が1万3488軒になったそうです。8808軒も減っています。日本全国で、年に518軒が閉店しているというわけです。本屋は日本の文化のシンボルです。もっと大切にしたいものです。ぜひみなさん、本を買って読みましょう。私の本も忘れずに買ってくださいね。お願いします。

2016年9月 3日

レア、希少金属の知っておきたい16話

(霧山昴)
著者  キース・ベロニーズ 、 出版  化学同人

 ドロドロに融けた地球の中心(コア、核)は、90%が鉄。地殻の4分の3は酸素(46.6%)とケイ素(27.7%)が占める。金属のアルミニウム(8.1%)と鉄(5.0%)がそれに次ぎ、以上の4元素で、9割を占める。そのあと、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、と続く。そして、残るわずか1.4%に80種類もの元素がひしめいている。
 世界中で10億台レベルで販売されるスマホは、ほぼ全部でタンタルを使う。
 液晶テレビやモニターには、鮮やかな赤を出すユウロピウムをつかう。ほかの元素では、きれいな赤は出せない。
光ファイバーはエルビウム添加ガラスでつくる。永久磁石はネオジム。
レアといっても、地殻には、かなりの量が分散して存在する。でも、単離や加工がしにくいうえ、需要が多くて品薄になりやすい。だから「レア」なのだ。
 中国は、途方もない速さで、希土類金属の消費を続け、2016年には13万トンを消費するとみられている。この年13万トンというのは、2010年代初めに今世界が消費していた量と同じ。
 トヨタのプリウスには、1台あたり14キログラムもの希土類を使う。その大半はモーターと蓄電池の部材。希土類のうち5~7キログラムを占めるランタンは、ニッケル・水素化合物蓄電池の電極に欠かせない。
 パレスチナのアラファト議長は毒殺された可能性がある。ロシアのリトビネンコと同じポロニウムが使われていた。
 アフガニスタンには希土類の鉱脈が眠っている。3兆ドル(360兆円)の価値を有するというわけだ。また、アフガニスタンは、サファイヤやエメラルド、ルビー、ラピスラズリなど、宝石や準宝石の産地としても名高い。
 アメリカのF35戦闘機は比重が1.85と軽いベリリウムを使って飛行速度を上げて威力を高めている。有人戦闘機もドローンも、電気系統や爆弾誘導ミサイルを感知するレーダーなどに銅、ベリリウム鉄を使う。また、ベリリウム製の鉄は振動時にもひずみにくいので、戦車の監視用光学系にふさわしい。アメリカは、これまで、カザフスタンとドイツから1トンあたり6000万で高純度のベリリウムを買ってきた。
 レア・アースの初歩的知識を少しだけ身につけることができました。

(2016年3月刊。2000円+税)

2016年8月30日

鉄客商売

(霧山昴)
著者  唐地 恒二 、 出版  PHP研究所

 国鉄が解体して、JRという民間会社になり、良い面だけが一方的にもてはやされる風潮に私は納得できません。私の好きなフランスでは、いまもフランス国鉄ががんばっています。もちろん労働組合もストライキもフランスでは健在です。
 今や日本ではストライキは死語同然。労働組合というのも労務担当(労務屋)の別称で出世階段の一つというイメージが強くなっています。労働組合が弱くなって大きな社会問題になっているのが非正規雇用とワーキングプアーです。
 若者にとって正規社員として就職する可能性がないとか、ブラック企業で死ぬまで酷使されていても耐えるしかないというのは、どう考えても異常な社会です。
 この本は国鉄解体をすすめ、営利本位になったことを自慢している本だと言って切り捨てることも出来ます。労働者は、経営者の言うままに働く存在であればいいという考えが底流にあるのでしょうね・・・。
 まあ、そんな先入観をもって読んでも、商売の論理を実践した本だと割り切って読むと、たしかに参考になるところがあります。
 ただ、「JR九州大躍進の極意」とサブタイトルにありますが、やっぱり列車は安全第一で運行してほしいし、事故対応もきちんとしてほしいという不満を私はもっています。ホームの無人化だなんて、最悪ですよ。安全性無視はいけません。
 1992年度のJR九州の飲食店は大赤字をかかえていた。原因は何か・・・。「気」がない。覇気がない。活気がない。元気がない。やる気がない。気づきがなり。死んだような店になっている。外食事業部門は、はじき飛ばされた人間が中心になって支えていた。
 ノウハウ本の大切な読み方は二つ。
 一つは、気に入った本を一冊、何回も読み返す。
 二つは、書かれていることをまるまる信じ、書かれているとおり全部を実行する。
 半信半疑で、適当につまみ喰いしても、うまくはいかない。
 会社の強さは店長会議で決まる。店長会議では、トップが一人で、方針のすべてを繰り返し語る。聞き手は前の話をほとんど忘れているから、トップは大事なことを何度も語る。
 売上に対して原価率が30%、人件費率が30%あわせて60%というが、もうかる店の標準だ。飲食店の従業員の大半がパートかアルバイト。
 その割合の全国平均は90%いろんな分野で、金持ち層をターゲットにした商業が発展しています。JR九州で、いうと「ななつ星」です。高収入を目ざすには良いことなのでしょうが、そんな超高級の旅行とは縁のない人々も多いということを、JR九州としても忘れてほしくないと思ったことでした。くり返しますが、駅の無人化はやめてください。とりわけ新幹線駅の無人化なんて怖すぎます。
(2016年6月刊。1500円+税)

2016年8月28日

当選請負人、千堂タマキ

(霧山昴)
著者 渡辺 容子 、 出版 小学館文庫

東京・横浜のベッドタウンでの市長選挙の実情の一端を描いた小説です。読ませます。
選挙とは、自分の主義主張と心の内面をこれでもかというほど裸にして、それを公衆の面前にさらけ出して審判を受けるという厳粛なる儀式である。
本当は、そうなんですよね。でも、実際には、イメージ選挙のほうが先行しているし、強いです。その根本的な理由は、「べからず選挙」とまで言われる公選法による規制です。戸別訪問を禁止するなんて、とんでもない間違いです。選挙のときこそ、国民が自由に政治を語るべきなのです。
そして、マスコミです。お金さえあれば、マスコミ操作は出来ます。それに権力がともなえば、マスコミなんて、ちょろいものです。かの「アベさまのNHK」に堕してしまった悲惨さは、残念無念というほかありません。
「選挙で勝つには、政策も大事です。ポスターもビラも決しておろそかには出来ません。ですが、もっとも大切なのは、候補者の人間力なのです」
現実には、候補者に「人間力」が全然なくても当選する人が少なくありません。「政策は当選したら勉強します」と臆面もなく言ってのけて当選してしまうタレント候補が昔も今も少なからずいます。
地上戦とは、支持者・支持団体を回って投票を訴え、地道に票を掘り起こしていく活動をいう。空中戦とは、選挙カーや街頭、そしてインターネットを介して広く世間に政策を訴え、浮動票の獲得を図る戦術をいう。
マイクを握るのは左手が基本。右手、また両手でもつと、集まった人々から握手を求められたときに、マイクを持ち替えなければいけない。
「カクダン」とは確認団体のこと。選挙期間中に、特定の政治活動をすることが認められた政党その他の政治団体をさす。
カクダンのビラには、選挙活動用のビラと違って、枚数や回数に制限がない。何枚配ってもOK。ただ、ビラには候補者の名前や顔写真は載せられない。
選挙には多くの人がかかわっているから、誰かのシナリオや思惑どおりに物事が運ぶなんていうことはありえない。それどころか、選挙期間中には、自陣のミスや相手方のミスによって、まったく予期していなかった事件やハプニングが必ず起きる。
想定外の出来事がおきたとき、どれだけ冷静に、かつ素早く事態を掌握し、状況を脱するための方策を練るか。どんなピンチに陥ったときでも、頭を使えば、最悪の状況を打破して、それをチャンスに変えてしまう面白いアイデアがひらめくものだ。
実は、私も、選挙には何回もかかわりました。もちろん、候補者としてではなく、後援会の役員として、です。ですから、街頭での訴えの難しさは身にしみています。歩いている人の足を停めさせるような話をしたいのですが、なかなか出来ません。自分の体験を語り、自分の言葉で候補者への支持を訴えるようにしています。
結局、自分の身近な体験した話題を切り出して、話を具体的に展開するしかないと思いました。
日本人は、もっと真正面から政治とか司法のあり方を議論すべきだと思います。
政治になんか関わりたくないと思っても、政治のほうは私たちを放っておいてくれません。その意味で、投票率54%でしかないという現状を変える必要があります。
(2014年9月刊。670円+税)

2016年8月27日

大脱走


(霧山昴)
著者 荒木 源 、 出版 小学館

就職に苦労した末に入社できた住宅リフォーム会社は典型的なブラック企業。
そんな会社に入ったとき、どうしたらよいか・・・。
とにかく契約をとること。新人がまずやらされるアポインターというのは、アポをとるのが、すべて。そのためには、まずたくさん「叩く」。
インターホンを押し続ける。200枚の名刺をわずか半月で使い切る。
アポインターは、あとを引き継ぐクローザーが、客と商談をすすめる材料を集めるお膳立ても整えておかなければいけない。
どんな仕事でも、仕事のない恐怖に比べれば、まだまし。
もちろん、サギまがいの住宅リフォーム会社に騙される客ばかりが世の中にいるわけではありません。逆に、騙したはずの客に会社が脅かされてしまうことだってありうるのです。そんなときには、会社は、それは現場の人間が社の方針とは違ってやったことで、社は責任がないと突き放してしまいます。怖い仕組みです。
そんなことを許していいのか・・・。社員が結束してブラック会社を変えよう。そう思っても、一緒に行動してくれる人はほとんどいない。みんな、自分の身が可愛い。じゃあ、どうする、どうなる・・・。
救いのあるような、ないような、身につまされるストーリー展開の本でした。
なかなか、こんなブラック企業って、なくなりませんよね。どうしたらいいんでしょうか・・・。
(2015年11月刊。1400円+税)

2016年8月26日

奪取、振り込め詐欺・10年史

(霧山昴)
著者  鈴木 大介 、 出版  宝島スゴイ文庫

 この本は、一人でも多くの人に読まれるべきだと強く思いました。
 騙されないように気をつけましょう。銀行のATM操作でお金を受け取るつもりが送金させられてしまいかねません。郵パックで現金送れは詐欺です・・・
 そんな警告をいくらしても、詐欺被害は一向になくなりません。なぜなのか・・・。
 この本は加害者側の分業体制がすすんでいる内情を明らかにすると同時に、騙される側の情報がなぜ「犯人」たちに筒抜けになっているのか、名簿屋の最新の情報入手先を明らかにしています。そして、なぜ、被害者が被害を申告しないのか、多くの人が泣き寝入りしている、その理由も究明しています。
 私も、弁護士として何件もの被害者からの相談を受けましたが、大半は泣き寝入り状態で、被害回復はほとんど出来ていません。すぐに口座凍結はするのですが、すでに引き出されてしまっているものばかりですから、ほとんど実効性がありません。
 振り込め詐欺は何段階も進化をとげている。思いもよらないほど大きな組織と巧妙に仕組まれたネットワークがある。
 末端の集金役としての「ダシ子・ウケ子」。被害者に電話をかけるプレイヤー。それらを統括する番頭。組織の外部協力業者としての「名簿屋」と「道具屋」。天上人として現場に直接たずさわらず、組織に種銭(たねせん)を投げて収益を得る「金主」。犯罪である以前に、あくまで営利を追求する組織だ。
 何があっても頂上の金主だけは摘発されないという至上命題の下、組織は巧妙に合理化され、より多くの収益を上げるために詐欺のシナリオやターゲットの絞り込みを極め、現場要員の育成も徹底する。その企業活動としての振り込め詐欺組織の理念や組織論は、もはや一般の企業がぬるいと思えるほど卓抜したものとなっている。
 名簿屋の最新の入手先は二つ。一つは訪問介護事業者。介護事業の現場で働くホームヘルパーから、詐欺に適した高齢者の情報が商品として売られている。
 もう一つは、住宅のバリアフリーリフォームをした顧客リスト。バリアフリーが必要になる年齢で、リフォーム代金をポンと出せる人の名簿だ。
 そして、「下見屋」がこする。こするとは、情報を精査する作業のこと。
 かたり調査というのは、国勢調査とか市役所からの調査を装って電話をすること。高齢者は、暇で寂しいから、雑談をまじえると、どんどん必要ないことまで話してしまう傾向がある。
 つまり、名簿屋も親名簿をひっぱってくる収集班、下見班そしてパッケージの3段階に分かれている。
 最近すごく高値で取引されているのは「三度名簿」。詐欺で3回だまされたことのある人だけをのせた名簿。3度やられた人は、リスクも高いけれど、4度目も騙される可能性は高い。
 詐欺ではなく、恐喝まがいの脅し文句で迫るケースもある。声だけで怖い奴がいる。ターゲットの家の住所、携帯番号どころか、息子や孫の名前、勤め先を会話の端々に出す。もう逃げられない。報復が怖い。とりあえずお金さえ言われるまま支払っておけば、この問題から逃げられる。被害者が怯えてしまっているケースだ。
 いやはや本当に勉強になる本でした。ぜひ、みなさん、ご一読ください。

                   (2015年3月刊。720円+税)

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