弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2017年2月 2日
利益を追わなくなると、なぜ会社はもうかるのか
(霧山昴)
著者 坂本 光司 、 出版 ビジネス社
著者は私と同世代ですが、いつも読んで元気の湧いてくる本を書いてくれます。うん、そうだよね、会社って、自分のこと、自分の利益しかも目先の利益を考えるだけではダメなんだよね、つくづくそう思います。
たとえば、三井鉱山という強大な会社がありました。大牟田市を植民地のように支配し、君臨していました。三池炭鉱を経営していましたが、地元の大牟田市には鉱害など負の遺産は残しただけで、美術館ひとつつくりませんでした。研究所や大学もつくっていません。利益はすべて東京へ吸い上げ、地元への還元というのはまったくやりませんでした。地元に残したのは、人々が集団で敵対し、いがみあうような仕組みだけです。まさしく分断して統治せよ、という支配の論理を貫徹したのです。そして、今では三井鉱山という会社はありません。
会社の成長エンジンは人以外にありえない。人財が新しい価値の唯一の創造的な担い手である。
管理型の経営ではダメ。組織にギスギス感が生まれてしまう。そうではなく、ぬくもりがあり、仲間意識が醸成されているアットホーム的な社風こそが優れたモノづくりのできる社会をつくりあげる。
働き甲斐こそが会社を強くする源泉である。強くなった会社は景気の変化に影響されることなく、経営が安定して長く継続する。
お客様を大切にするあまり、社員とその家族が犠牲になるような経営は正しくない。
「お客様第一主義」は大切。しかし「お客様偏重」では、会社がいびつになってしまう。
現在、日本の会社の7割は赤字で、日本全体の会社の利益率は、平均したら1.5~2%。
真に強い会社は、いきすぎた競争は求めないし、社員のあいだに大きな格差をつけることもしない。チームのため、自分の所属する組織のための努力、協力を惜しまない。いきすぎた成果主義、能力主義で人事を決めていて業績を安定して伸ばすことはできない。
200頁の本ですし、さらっと読めますが、とても大切なことが書かれた本です。年俸10億円というカルロス・ゴーン社長の従業員をふみつけるばかりのコスト・カッター方式とは真逆のやり方だと思いました。
(2016年11月刊。1200円+税)
2017年1月29日
読書と日本人
(霧山昴)
著者 津野 海太郎 、 出版 岩波新書
著者は、20世紀を読書の黄金時代と名付けています。なぜか・・・。
本の大量生産と読み書き能力の飛躍的向上によって、知識人と大衆、男と女、金や権力をもつ者ともたない者の別なく、社会のあらゆる階層に読書する習慣が広がり、だれであれ本を読むというのは基本的にいいことなのだ、この新しい常識が定着したのは20世紀なのである。
なーるほど、そういうものなのでしょうか・・・。
14.15世紀は、日本社会において文字が画期的に普及した。鎌倉時代の後期から室町時代にかけて、村の大名、主だった百姓は、だいたい文字が書けた。
16世紀、織田信長のころ、フランシスコ・ザビエルたちはキリスト教を普及するにあたって「きりしたん版」として知られる活版本を刊行した。
ほかのアジアの国々と違って、日本人の多くは読み書きができる。だから文字による布教や宣伝が効果的だと判断したのだろう。
ルイス・フロイスは、こう書いている。「ヨーロッパでは女性が文字を書くことはあまり普及していない。日本の高貴の女性は、文字を知らなければ価値が下がると考えている」、「日本では、すべての子どもが坊主の寺院で勉学する」
江戸時代には「正坐」という言葉は存在しなかった。明治になって礼法教科書に書かれ、大正から昭和初期に定着した言葉だ。それまでは、本を読むときには、ピタリと正坐していたのではなく、自由に膝をくむし、立て膝で読むことが多かった。
うひゃあ、そうだったんですか・・・。
明治に海外から来た外国人は、日本人の車夫や馬丁が本をむさぼり読んでいるのに驚嘆した。
明治のころの読書は、基本的に声に出して読む音読ばかりだと私は思っていまいした。それまでは、今と同じで黙読していたと考えていたのです。ところが素読に親しんでいた当時の人たちは音読を好んでいたようです。
しかし、著者は、実は、黙読も昔の日本にあったと主張しています。音読と併存していたというのです。
欧米中心の世界で本格的に始まった「読書の黄金時代」としての20世紀に、やや遅れ気味に日本も加わることになった。
大正から昭和にかけての雑誌「キング」は初版50万部でスタートし、90万部から140万部へ増えた。
この新書を読むと、日本人の読書好きはすごいと思います。ところが、今は電車のなかでは大半がスマホを眺めたり、いじったりしています。テレビを見ていたり、ゲームをしている人も少なくありません。以前のように本を読んでいる人は滅多に見かけなくなりました。若者にかぎらず、活字離れがすすんでいるようです。そして、電子書籍。いったい紙の本はこれからどうなるのでしょうか。私は絶対的な紙の本の愛好者です。なくなってほしくはありません。
昨年(2016年)は、単行本を550冊よみました。今年も500冊をこえるつもりです。
(2016年10月刊。860円+税)
2017年1月28日
籠の鸚鵡(かごのおうむ)
(霧山昴)
著者 辻原 登 、 出版 新潮社
30年ほど前だったと思いますが、和歌山県の小さな地方自治体で収入役が商品先物取引(相場)に手を出して何億円も公金を横領(使い込み)したという事件がありました。その自治体は破産寸前になったと思います。相場の恐ろしさ、自治体の公金が個人によって簡単に引き出され、横領・使い込みによって自治体財政が破綻するという前代未聞の事件でした。
この本は、先物取引(相場)ではなく、暴力団が背後にいて色仕掛けで和歌山県の小さな町の出納長が陥落し、あられもない姿を写真に撮られて、それを恐喝の材料とされ、公金を使い込んでいくというストーリーです。
こういうことは、いったん「悪」の恐喝に屈してしまうと歯止めが利かなくなるものですよね。そこらあたりの心理描写が、見事に小説として再現されています。
山口組の組長がヒットマンによって殺害されるという事件が起きた当時を舞台とした小説ですが、今は暴力団はもっと巧妙になっているような気がします。そして、当時よりもさらに強大かつ潤沢な資金をもっているようです。
その最大の資金源が相変わらず大型公共土木工事の3%と言われる裏金だと思われます。暴力追放の官製市民の集会もいいですけれど、公共工事の談合と、その背後にうごめいている暴力団の姿をマスコミは勇気をもって暴き出し、報道して明るみに出してほしいと思います。
ストーリーのほうは、ネタバレはよろしくないと思いますので紹介しません。
特殊被害詐欺の手口もさらにブラッシュアップして巧妙になっているようです。その一端が、この本にも反映されています。
「クライム・ノヴェル」(犯罪小説)ですから、読んだら重苦しい気分になってしまうのも当然です・・・。
(2016年9月刊。1600円+税)
2017年1月17日
役者人生、泣き笑い
(霧山昴)
著者 西田 敏行 、 出版 河出書房新社
私と同じ団塊世代です。私にとっては、正月映画の『釣りバカ日誌』のハマちゃんですね。お正月には、家族みんなで寅さん映画をみて、さらに時間に余裕があれば『釣りバカ』をみていました。
森繁久弥のアドリブに対して即興で対応できたというのですが、宴会の席でも即興で歌をつくってうたったというのですから、たいしたものです。
役者としてヒットする前は、六畳一間のアパート生活。風呂も電話もない。二人分の銭湯代がなくて、妻を銭湯に行かせて、本人は水道で身体をふいてすませていた。小さな冷蔵庫のなかはいつも空っぽ状態。
「今に冷蔵庫の中をおいしいもので一杯にしてあげるからね」。夢のまた夢のようなことを妻に言っていた。5キロ入りの米袋がカラになると、芝居仲間の家に「もらいメシ」に二人して出かけていた。
私は司法修習生のときに結婚したのですが、貧乏な新婚旅行だったので、同じクラスの修習生の新婚家庭(長崎)に泊めてもらうなどしていましたが、途中で所持金がなくなり、奈良の修習生宅にたどり着いて、そこで借金して、なんとか東京まで帰り着くことが出来ました。ですから、友人さえいれば、お金がなくても生きていけるという実感があります。
中学生までは福島の学校で人気者だったのが、東京に出て高校生活を始めると、福島なまりが恥ずかしくて、コンプレックスの塊になってしまった。だんだん暗い、表情のない少年になっていった。そこでとった解決策は、東京の人間になろうという努力はやめて、カッペとして開き直るというもの。
実はスマートに見えていた同級生だって、実は本当はカッペばっかりだったということが分かってきた。それからは、著者は、人間として地を出して演技をして、それが受けるわけです。そうすると、役者として演じている自分が、どちらが本当の自分なのか、自分でもよく分からなくなるのだそうです。なんとなく分かる話です。
『釣りバカ日誌』は三國連太郎とともに22作も「ハマちゃん」を演じたのですから、本当にすごいことですね。
著者は歌はうたえるけれど、音譜は読めない。聞こえるままを真似で、それを丸暗記してうたう。
こりゃまた、すごいですね。私も音譜は全然よめませんが、ともかく目で活字を確認しないと頭に入ってきません。耳だけで丸暗記なんて無理です。ですから、語学も苦手なのです。
著者は小学生のころから、たくさんの映画をみていたそうです。私も親に連れられて映画館にはよく行きました。
著者もこの本に書いていますが、鞍馬天狗の映画では、杉作少年が悪漢に捕まりピンチになっているところを、白馬にまたがった鞍馬天狗が街道を疾走してくるのです。映画館内は騒然として、大人たちもみな立ち上がり、拍手、大拍手そして大歓声です。
拍手のなかで、鞍馬天狗は悪人どもをやっつけるのでした。胸がスカッとして、みんなで胸をなでおろして帰路に着くのです。その役者ぶりをみて著者は役者にあこがれ、一人で東京まで行ったことまであるというのですから、驚きです。
今日の著者をつくったのは、もちろん本人のその後の努力もあるでしょうが、少年時代に体験したことが生きているのだとつくづく思ったことでした。
西田敏行の初の自伝だということですが、私は仕事の行き帰りに、車を停めて「道の駅」でコーヒーを飲みながら一気に読了しました。至福のときでした。
ただ、心筋梗塞で倒れたりしたこともあるようですから、もう暴飲暴食はほどほどにして、今後も末長く役者人生を歩んでほしいと思いました。
(2016年11月刊。1600円+税)
2017年1月 8日
アマゾンと物流大戦争
(霧山昴)
著者 角井 亮一 、 出版 NHK出版新書
宅配便の便利さは捨てがたいものがあります。旅行のときには、行く先々で宅配便を利用して、読み終わった本を自宅へ送ります。そのとき、その地方の土産品も一緒に送るのです。すると、カバンの中は軽くなり、新しい本を求めることも出来るのです。
日本の宅配サービスのレベルは非常に高い。全国どこでも、ほぼ翌日配送にすることができる。しかも、配達時間帯の指定ができる。アメリカでは時間指定はできないし、土日祝日もダメ。さらに、日本では、日時指定の再配達も可能。ただし、宅配便の現場では、再配達に泣かされているようです。
宅配便はヤマト運輸が突出した力をもっている。かつて40社もあった宅配便の会社が、現在では21社。そしてヤマト運輸(45%)、佐川急便(33%)、日本郵便(14%)で、上位3社で92%を占める。
トラック運転手の給料が低下したことから、トラック運転手の確保が難しくなっている。
アマゾンは、全品送料無料をやめた。アマゾンにとって、配達費の増加は悩みのタネ。
アメリカでは、アメリカの通常配送は注文してから3~5営業日以内というのが標準。
アマゾンは、単なるネット通販企業から、巨大なグローバル企業に代わった。アマゾンは、あらゆる手段を用いて物流を効率化し、それを低コストでの運用につなげている。アマゾンは、新車や中古車といった自動車まで売り始めている。
ネット通販では、お客が選んだ商品を販売している側が倉庫から取り出し、丁寧に梱包し、お客の自宅へ宅配する手続きをしなければいけない。誰が1220万もの膨大な品目の中から注文された商品をピッキングし、大きさも材質もさまざまな商品を梱包し、配送するのか。もちろん、それをするのはアマゾンであり、ネット通販会社である。
ロジスティクスでビジネスを制している企業として、著者は、ヨドバシカメラ、アスクル、カクヤスなどをあげています。
私の事務所でも、アスクルは頻繁に利用しています。やはり便利さにはかないませんから・・・。
(2016年11月刊。740円+税)
2017年1月 6日
世界が認めた「普通でない国」日本
(霧山昴)
著者 マーティン・ファクラー 、 出版 祥伝社新書
日本をよく知るアメリカ人が、日本の憲法は素晴らしい、その先駆的な意義を日本人はもっと自覚して大切にすべきだと強調している本です。
著者は、ニューヨーク・タイムズの東京支局長を長くつとめていたアメリカ人です。
アメリカの小学生のとき、テレビで日本のアニメ「マグマ大使」をみていて、なぜ怪獣をやっつけるために軍隊が出てこないのを不思議に思っていたといいます。もちろん、日本に軍隊がないから、軍隊なんて出てこれないわけです・・・。
パクス・アメリカーナで一番優等生だったのが日本。パクス・アメリカーナの可能性をフルに活用して、日本は豊かな富と社会の繁栄を勝ちとった。
アメリカ軍が世界各地に基地をもうけて軍隊を駐留させる体制は、戦後の東西冷戦下で構築されたものだから、冷戦終結後すでに20年以上たった今日、いつ終わってもおかしくない。
トランプ新大統領の言葉は一種のモーニング・コールだ。日本は、トランプ現象について、日本が目覚めるための刑法だと受けとめたらいい。
トランプ現象とは、アメリカが世界の警察官であることに疲れたということを意味している。
日本は戦後ずっと平和に徹してきたことによって、ある意味での貯金・資源の蓄積がある。それは捨てないほうがいい。日本は普通の国になるべきではない。世界から日本のこれまでの生き方を評価されているのだから、慎重に動いた方がいい。
日本は、世界から高く評価されている。世界で日本ほどイメージのいい国は少ない。これほど高く評価されているのは、日本とスイス、そしてスウェーデン、カナダくらい。このことに、多くの日本人は気がついていない。
今の天皇は、戦後日本のアイデンティティーをそのものだ。天皇の発言によって歴史修正主義の動きにも歯止めがかかっている。その意味では、道徳的なリーダーでありながら、政治的な存在でもある。
ところが、日本のメディアは天皇の発言をあまり大きく伝えていない。安倍政権の権力が大きいので今の日本では自由に議論できない状況になっている。メディアは安倍政権の意向を忖度(そんたく)して、安倍政権が難色を示すような報道は自粛している。そんな情けない状況にあるメディアは権力からもっと自立することが求められている。
日本の政治が機能していない大きな理由の一つが、日本のメディアが本来の役割をはたしていなことにある。報道の自由度ランキングで日本は世界11位から、なんと72位まで後退している。実におぞましい状況です。悲しくなります。
アフリカに今、日本の自衛隊員350人が行っています。何のためでしょうか。日本の企業がアフリカに進出するのを助けるためなのでしょうか。アフリカの平和構築に役立ちたいと本気で日本が思うのなら、アフガニスタンにおける中村哲医師のような、地道な民生支援こそするべきではないでしょうか・・・。
この本は、日本人は、もっと真剣に国のあり方について議論すべきだと提起しています。私はまったく同感です。とても読みやすくて、しかも内容の濃い本です。サッと読めますので、強く一読をおすすめします。
(2016年12月刊。800円+税)
2017年1月 4日
日本会議と神社本庁
(霧山昴)
著者 「週刊金曜日」・成澤 宗男 、 出版 金曜日
先日(2016年12月)、柳川市議会で憲法改正を求める請願が可決されたという報道がありました。恐らく、これも日本会議が全国ですすめているものの一環なのでしょう。
アメリカ軍のオスプレイが墜落しても文句ひとつ言えない哀れな安倍政権のメンバーが、日本国憲法はアメリカの押しつけだから良くないなんて言っているのですから、その頭の中はどうなってるんでしょうね。
日本会議の三代目の会長は、三好達という元最高裁長官です。この三好達という人物を私はよく知りませんが、憲法改正を求める右翼団体のトップに名前を出すとは、本当に情けない話です。いったい、裁判官在任中には日本国憲法をどう考えていたのでしょうか。こんな憲法なんて、守るべき価値はないとでも考えていたのでしょうか。もし、そうだとしたら、最高裁長官になったのは、明らかに間違いです。在任中はそうでもなかったけれど、退任してから考え方を変えたというのなら、明らかに老害というべきでしょう。
日本会議、福岡の役員構成が紹介されています。
九州電力の会長(松尾新吾)やJR九州の相談役(石原進)の名前も見えます。石原進っってNHKの経営委員長ですよね。NHKが右寄り偏向していると批判される根拠でもありますね。
福岡は、他県と違って宗教関係者が少なく、地元経済界関係者が中心になっている。なぜ福岡の地元経済界は平和憲法攻撃に手を貸しているのでしょうか。理解できません。韓国や中国との経済意交流を強めようと言っているはずなのに、こんなことでは二枚舌をつかっているとしか思えません。外国から信用されないような言動はやめてほしいですよね。
目が離せない、日本の平和と安全をこわす危ない団体の一つです。
(2016年8月刊。1000円+税)
2016年12月28日
武器輸出と日本企業
(霧山昴)
著者 望月衣塑子 、 出版 角川新書
いま、安倍政権は自衛隊をアフリカに派遣して、ついに武器の本格的行使を認めましたが、同時に、国内で製造した武器の海外への輸出まで認めてしまいました。
2015年10月、防衛省の外局として防衛装備庁が発足した。武器の研究開発から設計、量産、調達、武器輸出までを一元的に担う組織である。
「平成のゼロ戦」とも呼ばれるXZは、防衛省と三菱重工が349億円かけて研究開発した。
フランスの武器見本市に日本の企業13社が初めて参加した。
2012年度の装備品の調達実績で、三菱重工についで2位となったのは1632億円を受注したNEC。2013年度、富士通は、第6位となる400億円を防衛省と契約した。武器製造や輸出でもうけたい企業は、海外の企業を買収して子会社とすれば規制をはずれ、やりたい放題になる。
防衛産業はボロもうけかと思うと、案外、そうでもないというのです。本当でしょうか・・・。受注は少量で、品種は多岐にわたる。
防衛産業が積極的に武器製造につき進めない三つの理由。
一つは技術が海外に流出してしまうことの心配。
二つは、武器を売ることによるリスク。
三つ目は、人殺しのための武器を売ることへの心理的な抵抗。
軍需産業に従事する人間はテロの対象として狙われることになる。欧米の軍事企業のトップは、アルカイダの暗殺者リストに常にのっている。海外出張のときは、いつも警護要員をつけている。
日本企業が製造する武器価格は、国際価格の3~8倍。それは、限られた数の企業が、防衛省という顧客だけを相手として武器を開発し、納入してきたため、量産体制がとれず、開発費がふくれあがってきたためだ。
いま、欧米の軍事企業が何で一番儲かっているかというと、ミサイルと弾薬。中東全域で戦争になっているため、精密な誘導弾は大増産されている。
日本はオーストラリアへの潜水艦輸出に失敗した。潜水艦は、実は最先端の技術が盛り込まれた武器であり、国家機密の集約体と言える。ハンドルも弁も、全部が機密になっているという世界だ。潜水艦用のリチウム電池も秘密の魂だ。音の出ないポンプがあるが、特許もとっていない。それほどの秘密だ。
10式戦車は10億円に近い。哨戒機P1は一機169億円。救難機US2は一機112億円。F2戦闘機は一機131億円。ひゅうが型護衛艦は一隻973億円、89式小銃は一挺28万円。12.7ミリ重機関銃は一挺537万円。
日本の武器は、戦車は欧米の3倍、機関銃は同じく8~10倍。そのうえ、海外での実戦経験に乏しく、値段が高くても、性能は実証されていない。
日本の防衛市場は、2兆円。日本の全工業生産額250兆円の0.8%にしかすぎない。大手防衛企業の軍需依存率は、最大手の三菱重工で11.4%、川崎重工が14.0%。10%を超えるのは、この二社だけ。日立造船9.6%、日本電子計算機8.5%、コマツ8.4%、IHI6.7%、三菱重機4.1%、東芝1.1%、NEC1.1%。
アメリカ軍は、2000年以降、日本国内の26の大学の研究者へ合計して1億8000万円も提供している。
軍事共同なんて、おぞましい限りです。日本でも無人偵察機グリーバルホークをアメリカから導入するといいます。総額1000億円もの高い買い物です。ところが、この無人攻撃機のオペレーターの兵士は極度の精神的ストレスに悩まされているといいます。連日、画面を見ながら人殺しをしているのですから、当然ですよね・・・。
日本の軍事産業の実態と問題点がコンパクトな新書によくまとめられています。
(2016年7月刊。800円+税)
2016年12月21日
オリンピックの身代金
(霧山昴)
著者 奥田 英明 、 出版 講談社文庫
舞台は昭和39年(1964年)8月の東京に始まります。東京オリンピックの開幕が目前に迫っている東京です。
私は、この年の4月に高校に入りました。秋の文化祭でゲゲゲの鬼太郎のはりボテをつくった記憶があります。田舎の県立高校ですが、一学年で東大に4人入るという、それなりの進学校でした。
この本は、当時の日本と東京の雰囲気をよく再現しています。
東京オリンピックまであと二ヶ月。道端にいた物乞いたちは、疎開を余儀なくされた。そして、銀座から赤坂にかけて遊んでいるチンピラ連中も街から追い出された。テキ屋団体の東声会の町井会長がオリンピック開催期間中は、東京から出て、海か山で肉体と精神の鍛練をするように命令した。
全国のマイカーが百万台に達し、有楽町あたりでは朝夕に渋滞が起きるようになっている。この夏、東京は未曾有の水不足に見舞われた。給水制限、7時間断水などから、「東京砂漠」と呼ばれた。
そして、そのオリンピックの開催を妨害するという予告の手紙が警察に届いた。警察学校で爆破事件が起き、予告が単なる冗談ではないことが証明された。
犯人は誰か。このころ草加次郎を名乗る男が騒ぎを起こしていた。同一人物か・・・。
これ以上、アラスジを書くのはネタバレになりますし、読む楽しさを奪いますので、止めておきます。昭和39年10月の東京オリンピックに向けて、東京が大改造されていったこと、それを実際に担っていた工事現場では何層もの下請がいて、末端で働く人々は、まるで人間らしい扱いを受けていなかったこと、そこには暴力団が暗躍していたことが上手に織り込まれていて、とても読ませます。
上下2冊、460頁、400頁という長編ですが、飽きさせることなく読みすすめることができました。
2020年の東京オリンピックって本当にできるのでしょうか。海外には、東京の放射能汚染を心配している声も上がっています。実際、これだけ地震が多発していますから、オリンピック期間中に大地震が起きないという保証は誰もできないのです。
一部の人はオリンピックでボロもうけすることになるのでしょうが、もっと他に、オリンピックよりも先に国としてやるべきことがある気がしてなりません。
(2014年11月刊。1400円+税)
仏検(準一級)の結果を知らせるハガキが届きました。合格です。基準点73点に対して78点でした(120点満点)。つまり6割で合格です。今回は5点だけ上回っていました。ちなみに自己採点は76点でした。
1月末に口頭試問を受けます。これが鬼門なのです。読んで分かるというのではなく、フランス語で3分間まとまったことを話さなくてはいけません。それも3分前にテーマを与えられて、それについて語るのです。
ですから、時事ネタについて起承転結をつけて話す訓練をする必要があります。でも、これが難しいのです。
毎朝、NHKのフランス語講座(応用編)を書き取りして、なるべく暗記するように努めています。
これが目下の最大のボケ防止対策になっています。
2016年12月16日
トヨトミの野望
(霧山昴)
著者 梶山 三郎 、 出版 講談社
小説となっていますが、トヨタ自動車の近年の動きを刻明に追いかけ、その醜い内部抗争の実情を暴露した実録ものとしか思えません。かといって、門外漢の私には、どこからフィクションなのか、まったく分かりません。
それにしても、日本を代表するトヨタのなかで、今なお創業者の一族が会社をほとんど私物化しているとしか言いようがない状況は、異常ですね。
その政治力は、財政界に強い電力会社の幹部をして、「うちの百倍はある」と悔しがらせるほど凄い。監督官庁の運輸・経産をはじめ、役所関連は東大卒の幹部候補社員を貼りつかせ、大学時代の先輩、同期、後輩から内部情報を収集する。大手銀行のMOF(財務省折衝担当)と同じく、抜群の政治力を発揮している。
プリウス開発に社運を賭け、また、アメリカそしてヨーロッパにトヨタは果敢に進出していくのでした。ところが、内部の人事では、実力派社長であっても、創業者の意向には逆らえないのです。
こんな本を読むと、サラリーマン稼業も楽ではないと、つくづく思います。社内でも群れをなして生きていくしかないのですが、自分の加わった群れのトップが冷め飯を食わされると、下のほうにまで災いは波及してくるのです。
日本航空を舞台にした小説『沈まぬ太陽』をつい思い出してしまいましたが、トヨタには、社会的な活動に目覚めた人がいるわけではありませんので、まったく抗争の質が異なると思いました。
恐らくトヨタ労連というのは、ニッサン労連と同じく連合の主力単産なのでしょうが、連合の最近の言動を見ていると、とても労働者の味方とは思えないものばかりで、残念きわまりありません。
えっ、何が、ですか・・・。だって、連合は原発再稼働に反対していないんでしょ。電力労連に気がねしているんですよね。そして、自民・公明の悪政をやめさせるのには、野党の団結が絶対に必要なのに、相変わらず共産党とは一緒にやれないんなどとダダをこねるばかりで、野党共闘を成立させないようにしているのですから・・・。
トヨタが日本社会を支える最有力の企業だというのは承知していますが、もっと日本社会全体のためになるようなことも考えてほしいものです。
(2016年11月刊。1700円+税)