弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2017年12月27日

空洞化と属国家


(霧山昴)
著者 坂本 雅子 、 出版  新日本出版社

いまの日本社会に少しでも疑問を感じている人には必読の本だと思いました。なにしろ776頁もの大著ですし、5600円(税別)もしますので、誰でも気軽に読める本ではありません。そのことを承知のうえで、それでも一人でも多くの人に読んでほしい本だと思いました。
一基1000億円もする地上型イージス装備を2基もアメリカから購入するというのに、それが日本国民を守るのに何の役にも立たないばかりか、有害でしかないことを承知していながら、今のマスコミはまったく批判もしません。北朝鮮の「ミサイル攻撃の恐怖」というアベ政権の世論操作に乗っているだけです。そのため、生活保護をはじめ福祉・教育予算は削られる一方です。今のアベ政権は「国を守る」ことに熱心ではあっても、日本国民の生活を守ることには知らん顔。そして、日本国民の半分は、投票所にも足を運ばず、アベ政権まかせで日々を考えずに過ごしています。本当に、そんなことでいいのでしょうか・・・。
いま、テレビでは、日本の技術力の素晴らしさを強調し、日本の伝統の深さ、豊かさ、日本人のすぐれた感性といった、「日本の優位性」を強調する番組が増えている。しかし、日本経済は長期に停滞している。現実には、日本は、生産面でも輸出面でも、中国をはじめとするアジア諸国に劣後し、後退してしまっている。
神戸製鋼所、日産、日立、東芝、日本を代表する超大企業が長く不正行為をしてきたことが最近になって次々に明るみに出ました。大手ゼネコンのリニア新幹線の談合事件も本質的に同じことです。品質本位、お客様第一をモットーとして伸びてきたはずの日本の大企業が、品質ごまかし、金もうけ本位で、客は二の次、安全性は無視、金もうけのためには兵器産業優先という醜い本質を日本経団連は率先しているのです。本当に残念です。
東芝やシャープを先頭として、日本の電機産業は、日本から消滅してしまう危機にある。日本の自動車産業にしても、電機産業と同じ道をたどろうとしている。すべてはアメリカの巨大企業の言うなりに日本の政治が動いていること、それを日本の政官財界が受け入れていることによる。
今の日本は、世界の中で「ひとり負け」の様相を呈している。日本が大きく経済成長したのは1990年代に入るまでで、この20年ほどのあいだに、日本のGDPは40兆円から50兆円も減少している。
日本の企業は、この20年間に、日本国民の雇用を海外、とくにアジア人に置き換えてきた。
日本の貿易収支は、かつては黒字が続いていたが、2011年以降は赤字になっていて、2014年には、10兆円をこえる巨額の赤字となった。今や日本は貿易赤字大国だ。
日本の輸入品は、原油などの鉱物性燃料と電気機器が最大項目。これは海外進出した日系工場からの逆輸入品や、アジア企業への生産委託品が多い。
日銀がいくら市中銀行に紙幣を振り込んでも、その資金は金融機関から先の法人や個人に流れていかなかった。大企業には金が余っていて、銀行からお金を借りている必要がなくなっている。
日本の製造業全体の設備投資が、ものすごい勢いで国外に流れ出している、恐ろしい現象が続いている。
日本の自動車メーカーによる中国工場からの対日自動車輸出が本格化すれば、そのときこそ、とてつもない産業空洞化が日本を襲うことになる。
半導体は、重機産業、そして日本のものづくり全体を支えてきた分野だった。しかし。1990年代から、日本企業は半導体生産から次々に撤退しはじめた。DRAM生産で日本企業に代わって圧勝したのは韓国企業だった。日本企業が韓国の半導体企業を「育成」した。2010年以降、日本企業の半導体生産は崩壊した。
ノートブックパソコンの世界生産に占める日本国内の生産は世界の4分の1から、今では0.2%になった。日本企業は液晶テレビでも液晶パネルでも敗北してしまった。日本の重機産業は、ものづくりでの全面敗退となった。
日本が海外の水道事業を運営しようとすると、他国の水道事業に日本の公的資金を投入するという理不尽なことをしなければならなくなる。水道事業は、まともに運営したらもうけることなど、そもそも不可能。
日本経団連の役員企業の3分の1が外資によって占められていて、外国の資産管理信託会社や日本の代理会社が大株主を占めている。だから、日本の財界が日本国民の生活を守ろうとしないのも必然なのですね。日本の産業構造の破綻というか、日本国民のためにならない政策がますます進行していく必然性を見事に解き明かした貴重な本です。著者に対しては、この本文776頁を国民一般に向けて100頁以下のブックレットにまとめることを強くお願いしたいと思います。
                           (2017年9月刊。5600円+税)

2017年12月17日

性風俗世界を生きる・・・

(霧山昴)
著者 熊田陽子  明石書店

 性風俗店のスタッフとして2年あまり働いて、その実情を探求し、考察した真面目な本です。
 著者は大学院生であり、研究目的であることを明かしてオーナーの了解のもとにスタッフとして働き始めました。ただし、そこで働く女性たちには身分も目的も明かしていません。
 番なしのSMプレーもする性風俗店です。女性は20歳から42歳までの56人。そのうち結婚しているのは5人、9人は1歳から中学生までの子どもがいる。
 客層は30代から50代の男性を中心としていて、20代の客は珍しく、70代も数人しる。女性客もいる。
 女性たちが、何とか生きるために頑張っている実情がある。
 都市は、何とか生きようとする人々が集まる空間であり、窮地に陥った人が生をつなぐ見込みを見出す場でもある。入店のため面接を受けた女性が全員採用されるわけではない。美しくもない、話術が巧みでない、スタイルが悪い(太りすぎ)、年齢が高い、目立つ傷、皮膚が滑らかでないなどで拒否される。
 東京圏には、警視庁統計だけでも5200件ほどの性風俗店があり、巨大な市場を形成している。
 この店の料金は50分で1万8000円。このほか、ホテル代とタクシー代がかかる。客は週に2回という人もいるが、一般的には1ヶ月から3ヶ月に一度というペースが多い。年末ボーナスに一度だけという客もいる。地方からの客もいるし、海外からの客もいる。
 店には、顧問税理士がいて、広告業者に月50万円は支払っている。客への広告と女性募集広告。
 女性の入店希望は、お金を稼ぐこと。この店は日払い。多い人は週7日間、一日5時間働く。週に1回か2回、また夜の7時から3時間はたらく、土曜日の午後だけという人もいる。昼の仕事をしている人も少なくない。
 待機室にいて、客からお呼びがない状況が続くと、女性は単に収入がないというだけでなく、自分が否定されたと感じるようになる。
 女性たちは、ことばの達人になっていく。相手に合わせ、他人を傷つけないように会話を運ぶのが上手になっていく。
 女性たちは高給取りのようでいて、実際には腰を痛めたり、精神的にもう無理になったりする人も多く、継続して月50万円の稼ぎを確保するのは難しい。
 女性たちは、よく笑う。怒るのではなく、笑うことで、客は主、自分は従という枠組みのなかでも笑いの転換機能によって、状況的に優劣を逆転させながら、自分にとって生きやすい場を求めている。男性による風俗現場探訪記は読んだことがありましたが、このように当面から学術的研究目的での性風俗店への潜入ルポと分析的レポートは初めてでした。
 日本社会の現実を知らせる貴重な一冊だと思います。
 
 
(2017年8月刊。3000円+税)

2017年12月13日

市民政治の育てかた

(霧山昴)
著者  佐々木 寛 、 出版  大月書店

 このところ新潟で奇跡が相次ぎました。市民と野党が一致して取り組んで、政権与党にせり勝ったのです。その立て役者が著者です。政治の研究を職業とする政治学者が、政治の表舞台にかかわり、その舞台裏の苦労話を語った本です。
この本には参院選挙と知事選挙までですが、その後の衆院選でも見事に勝利しました。参院選での森ゆうこ候補の当選は、その差わずかに2279票。夜12時近くになって、ようやく「当確」が出たのでした。
 日本にとって新しい政治とは、政治的な領域に市民が積極的にかかわるようになったということ。私はまだまだ足りないと思うのですが、それでもこの動き自体はもちろん高く評価しています。そして、これは、あの違憲の安保法制法を安倍内閣がゴリ押ししたことから市民に壁を乗りこえさせたのです。アベ政権も市民を目覚めさせ立ち上がらせたという点では立派に反面教師の役割を果たしたと評価できるのです。
この本のテーマはアート(技)としての市民政治です。それは、どういうことか・・・。
地域を変えるのは、若者、よそ者、ばか者だ。なるほど、あたっていると私も思います。もちろん、最終的には、本体である地元の人々が立ち上がらなければ本当の変革はありません。ただ、昔からの地元民は何かとしがらみがありすぎて、腰が重いことも多いのです。
全国ですすんでいる「野党統一候補」運動の最大の功労者は共産党。志位和夫は、いま永田町で一番光っている政治家だ。しかし、陰の功労者は、歴史上例をみないほどに分かりやすく国民を愚弄し続けているアベシンゾーだろう。野党を結束させたのは、他でもない与党の強権政治だ。
 3.11のあと、日本でもこれまでデモに行ったことのないような人が大勢、国会前や公園・広場で異議申立活動を日常的に行うようになった。これは、日本のデモクラシーが一歩前進した証だ。
選挙とは、まるで戦争みたいなもの。選挙の6割は、最初の仕込みで決まる。どういう政治的文脈で、どういう候補者を立てるかが決定的に重要。残りの4割は、選挙運動のがんばり次第。相手が金と権力にものを言わせて物量でくるなら、こちらは市民のネットワークと創意工夫でたたかう。
新潟で勝った要因の一つが投票率が6割だったこと。低い投票率は、自民・公明に有利なのです。ですから、棄権せずにみんなが投票所へ足を運べば、必ず世の中はいい方向に変わります。何もしないと、悪い方向へすすむばかりなのです。
選挙とは定期試験のようなもので、大切なのはふだんからの勉強の積み重ね。
著者は、「政治とは悪さ加減の選択である」と言い切ります。えぇーっ・・・。
政治家は、たいてい汚いところも持っていて、100%信頼できるなどということはありえない。また、政治には常にきれいごとではない、妥協や取引がつきもの。けれども、市民が学ばなければいけないのは、そういう政治でも関与し続けることをあきらめてはいけないということ。関与をやめたら、政治がどんどん悪くなっていっても、ブレーキをかけられないから・・・。
新潟に学ぶところは大きいと思わせる本でした。
(2017年11月刊。1600円+税)

2017年12月12日

「日米指揮権密約」の研究

(霧山昴)
著者 末藤 靖司 、 出版  創元社

「軍隊」(ここでは自衛隊を指します)の指揮権が日本に実はない、という知られているようで知られていない事実を歴史的経緯をたどって解明した本です。これが本当なら(残念ながら本当なのですが・・・)、日本は戦後70年以上たってもアメリカの支配下にあって、まだ完全な独立を果たしていないことになります。
要するに、「軍隊」の首ねっこを他国におさえれていたら独立国家とは言えないということです。私たちは、このような情けない現実にきちんと向き合あい、そこからの脱却を図るべきではないでしょうか。
日本の再武装論者は声高く叫んでいますが、肝心のアメリカ軍との関係は、わざとあいまいにぼかしているように思えます。
自衛隊は、すでに何年も前から、アメリカのカリフォルニアやアラスカまで出かけていって、アフリカや中東の砂漠で戦争するための軍事訓練をアメリカ軍と一体になって、やっている。
憲法9条のもつ日本の自衛隊がそんな訓練をやっていいはずがありません。訓練である限り、事故死はあっても戦闘死はないので、あまり表沙汰にならなかったのでしょうね・・・。
どうして、こんな一体となった軍事訓練ができるのか。それは、戦争になったら、自衛隊はアメリカ軍の指揮下に入るという「指揮権密約」があるから。
いまや富士山の周囲は、日本人の普通の感覚では、とても理解できないような、巨大な日本共同の軍事的演習場となっている。北富士演習場は、イラクやアフガニスタンにあるような民家に似せてつくったコンテナが4棟あり、都市型の戦闘訓練もしている。
カリフォルニアの砂漠や北富士演習場でおこなわれている訓練は、アメリカ軍が日本の周辺だけでなく、地球の裏側でも自衛隊を指揮して戦争するつもりであることを示している。
アメリカが日本に再軍備をさせたのは、日本を守るためではなく、アメリカがソ連などと世界中で戦争するときに、自らの指揮下で使うためだった。
軍隊の指揮権は、国家の主権のなかでもっとも重要なもの。
アメリカ政府は、平和条約の発効したあとも、日本軍(自衛隊)の指揮権を握り続けるのに成功した。この成功には、売国奴ともいうべき外務省の歴代高官の存在なしにはありえなかった。ひどいものですね。日本の外務省のトップたちって・・・・。吉田茂首相も、それに乗って動いた役者の一人だったようです。
日米合同委員会で合意したことは、日本の国会の承認を得なくしても実行できる。国会を上回る権威をもつ委員会なんて、憲法上ありえません。
自衛隊は、誕生したときからずっとアメリカ軍の指揮下にある。自衛隊は、今ではアジア、太平洋地域をこえて、地球上のどこでも、日米同盟の義務をはたす存在となっている。「調整」と称して、自衛隊は、平時からアメリカ軍の指揮を受けている。
写真がたくさんあり、とても平易なわかりやすい文章で語られていますので、ことの本質がよく理解できます。それにしても、なんでアメリカの言いなりのアベ政権を許しておいてはいけませんよね。本書を読んで、ますます確信を深めました。ご一読を強くおすすめします。
(2017年10月刊。1500円+税)

2017年12月 9日

強欲の銀行カードローン

(霧山昴)
著者 藤田智也 、 出版  角川新書

 かつての「サラ金地獄」が、今では「銀行カードローン地獄」と言える状況になりつつあります。金利規制そして貸出規制が減って多重債務者が減り、自己破産の申立件数が減って喜んでいると、再び破産者が増え始めているのです。その原因が、銀行カードローンの拡大にあることは明らかです。
 いま、銀行は一般的には苦境に立たされている。貸出金利が歴史的低水準になっているため、利ざやを稼ぎにくくなっている。それで個人をターゲットにしている。
 この本は、銀行カードローンの表向きの言い訳を紹介しながらも、その内情を明らかにしています。2016年の自己破産申立件数が13年ぶりに増えた。そして、その原因は、銀行のカードローンにあるのだろう。貸金業法が2006年に改正され、上限金利が年15~20%に引き下げられ、2010年に完全施行となった。貸出額は年収の3分の1をこえてはいけないという総量規制も働いている。
 ところが、カードローンを提供する銀行は、貸金業者でないため、この総量規制の対象とはならない。
 銀行のカードローン残高は2013年3月に3兆5千億円だったのが、3年後の2016年3月には5兆1円億円と急増している。なぜ、銀行には年収の3分の1以上という総量規制が必要ないというのか・・・。
 それは、銀行には、返済能力をきちんと見極める力があるから、だという。ええっ、そんなこと信じられません。銀行のカードローンの審査は、わずか30分。それで、そんなことが可能とは思えない。サラ金も銀行もテレビCMは同じように茶の間に流れている。どこから違いが生まれるというのか・・・。
銀行は行員カードローンの利用者を広げるためにノルマを課している。すると、借金を現に抱えている人にも2枚目、そして3枚目のカードをつくらせることになる。「利便性がある」とか「ニーズがある」というのは、昔サラ金学者がよく言っていた。同じことを銀行が言っているのはおかしい。長い目で見て、返せないような借金をかかえてしまえば「利便性」なんて問題にならない。ただ、人生を壊しているだけ。7割もの借り手の人生が壊れたり、壊れかけたりしている。
 銀行カードローンも当然に同じような規制が必要です。
 タイムリーな告発書となっています。
(2017年9月刊。800円+税)

2017年12月 6日

新聞記者

(霧山昴)
著者 望月衣塑子 、 出版  角川新書

 まさにタイムリーな新書です。時の人が、こんなに早く本を書いて出せると言うのも素晴らしいことです。
 スガ官房長官の記者会見の場での答えに対して、若者はこう迫った。
「きちんとした回答をいただけると思わないので、繰り返し聞いています。すみません、東京新聞です」
 そうなんです。スガ官房長官の、いかにも国民を小馬鹿にした態度・表情で、実(じつ)のある説明をまったくしないのをジャーナリストがそのまま許してはいけないのです。モリカケ事件について、きちっと解明することこそマスコミの責務です。
記者会見が始まってから37分をこえ、その間に著者は23回も質問していた。すごい執念です。ここで残念なのは、その場にいた他の記者からの援護射撃がなかったことです。これでは記者クラブって弊害しかないことになります。
それどころか、「記者クラブの総意」なるもので著者の質問を抑え込もうとしたというに至っては、御用記者の集団なのかと、ついののしりたくなってきます。それでも良かったことは、テレ朝系の「報道ステーション」やネット・メディアで著者の質問光景が流されたことです。
 これを見て、スガ官房長官の言いなりになる記者だけでないと知った国民の多くが著者を励ました。声を上げなくても、まだマスコミも捨てたものではないと思わせたのです。マスコミ各社の大幹部の何人かも直接、著者へ励ましの声をかけたとのこと。いいことですよね・・・。まだまだ日本のマスコミも捨てたものではありません。
 それにしてもアベ首相もスガ官房長官もひどすぎます。カゴイケ氏は既に4ヶ月以上も拘置所に入っているのに、カケ理事長はまだ1回もマスコミの前にあらわれていません。アキエ夫人にいたっては、公衆の面前で面白おかしく話しているのに国会では話そうとしない(夫が話させない)のです。ひどい、信じられない事態が進行中です。これで愛国心教育を学校ですすめようというのですから、政権トップの頭は変になっている、いえ狂っているとしか言いようがありません。
 前川喜平・文科省前事務次官に単独インタビューしたときのことが紹介されています。前川氏は退職後に自主夜間中学で教えるボランティアをやっていますが、改正前の教育基本法の前文を暗記していて、暗唱してくれたというのです。驚きました。この前文は素晴らしい内容です。
「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない」
 いまの学校教育は、どんどんこの「前文」からかけ離れていってますよね。ストップをかけましょう。
 著者のますますの活躍を心より願っています。尊敬する大阪の石川元也弁護士から、まだ読んでないのかとお叱りを受けて、あわてて読みました。すっきり、さわやかな読後感の残る本です。一読をおすすめします。

(2017年11月刊。800円+税)

2017年12月 5日

投資なんか、おやめなさい

(霧山昴)
著者 荻原博子 、 出版  新潮新書

 タイトルに共感して読んでみました。 まったくもって、そのとおりです。銀行や証券会社にあおられてはいけません。
 バブルのとき、土地投資に手を出して多くの会社と個人が痛い目にあったことを思いだすべきです。デフレのときには、かえって、預金のままにしておいたほうがいいと著者は強調しています。そうなんです。下手にお金を動かしたら、「手数料」名目でどんどん目減りするだけですし、下手すると元本割れになってしまいます。
 ただ、現金を手元に置いておくと、特殊詐欺の被害にあいかねません。金庫では心もとないという不安につけ込まれるのです。
 収益の悪化に苦しむ銀行や証券会社が、いま、生き残りをかけて個人をターゲットにして、利ざやの稼げるカードローンや手数料が確実に手に入る投資商品の販売額を増やしている。とくに狙われているのが、たっぷり退職金をもちながら投資に縁がなかった、人が良くて騙されやすい高齢者。そして、投資をしないと将来が危うくなるという思い込みで、時間がないのに不安に駆られながらも何かしようとしている働き盛りの世代。
 バブルのころ、不動産業者は、「いま家を買っておかないと、将来が不安ですよ」と煽っていた。今は、「投資をしないと、老後が不安でしょう」と言う。同じことではないのか・・・。
 日本の支社で加入した「ドル建て生命保険」の保険金を、海外の本社に行ってドルで引き出すことは出来ない。日本で引き出せば、必ず為替の影響を受ける。海外に自分の銀行口座を開設して受取ろうとすると、その口座開設のための手続が大変面倒。
日銀のマイナス金利の導入によって「タンス預金」が急増している。今では43兆円にのぼると推計されている。平成16年の現金の落し物は36億円、バブル末期の35億円を上回った。
 上場企業の株主配当は年々増え続け、年間10兆円をこえている。
日銀が銀行に流したお金の多くが、再び日銀へ還流して、市中へはまわっていない。
 日銀へ預けられない、国債を買ってもマイナス金利ということで、いまや銀行は「行くも地獄、戻るも地獄」という状況にある。
毎月分配型投資信託は、実は、預けたお金が少しずつ戻っているにすぎない。20年経つと、預けた資産の5分の1は手数料で消えてしまっている。
 おいしい話には要注意。よく計算して、自分の利益と銀行の利益とを比べてみる。この計算ができないような人は、無理に「投資」してはいけない。
 私も、まことにそのとおりだと思います。あなたまかせにしていて、もうけようなんて、とんでもないことです。世の中がそんなに甘いはずはありません。
デフレの今は、低金利でもお金の価値自体が上がっているので、預金にはデメリットもリスクもないと考えるべき。
目からうろこが落ちる思いのする、「投資」をやめましょうと呼びかける本です。一人でも多くの人に読んで銀行に騙されないでほしいものです。

(2017年11月刊。760円+税)

2017年12月 3日

争議生活者

(霧山昴)
著者 田島 一 、 出版  新日本出版社

私が弁護士になったころは労働組合がストライキをするのは日常的な光景でした。一日スト、部分スト、そして国電・私鉄が順法闘争に突入すると、電車のダイヤが大きく乱れました。すると、普段は法律にしたがった運行をしていないのだと実感しました。公務員はもちろんストライキをするし、大企業でもストライキに突入するところが珍しくはありませんでした。
1週間ブチ抜きストライキのときには、それでも動いている私鉄を乗り継いで通常の通勤が1時間のところを倍以上かけて出勤した覚えがあります。
そして、パート・アルバイトの雇傭確保のために仮処分をバンバン申立していました。人夫出しを見つけたら、職安法違反で次々に告発しました。みんな40年も前の話しです。今では、どうでしょうか。ストライキやデモなんて、今日の日本では、まるで死語になってしまいました。デモとは言わず、パレードと呼びます。弁護士会でも安保法制法案反対の集会をし、パレードを天神を舞台として何回も敢行しました。
人夫出しは今では合法化され、非正規雇傭がありふれています。でも、それってヒトを人間扱いしていないですよね。
何のために労働法制があり、裁判所があるのか、そう叫んで立ち上がった労働者を現代日本社会がどう扱うのか、扱っているのか、それをこの本は小説として描き出します。読ませます。読んでいると、ついつい悔し涙が出てきます。悲しくて流す涙なんかではありません。あまりに理不尽な仕打ちが連続して立ち上がった労働者に襲いかかるのです。裁判所だって、まったくあてになりません。そんなときいったいどうしたらよいのでしょうか・・・。救いがあるのは、それでも支えてくれる仲間がいるということです。このときには、ほっと一息ついて、安心の涙が流れ落ちます。
小林多喜二は革命のためにすべてを捧げて生きていく「党生活者」を書いた。同じように争議に勝つために全力を注いで日々を過ごす人は現代の「争議生活者」と言うことができる。争議生活者には、仕事を終えるという概念がない。他によりよい働き口を求めて探すという選択肢もない。普通の人のような暮らしを願ってはならず、貧乏物語を地で行くことになる。
ただ、争議生活を捨てていたら、病気もちの人間だと、どこかで野垂れ死にしていたかもしれない。争議生活者には、支えてくれる仲間がいる。争議生活者は、この日本社会のあり方を問うている。つまり格差と貧困の根本にある社会構造の矛盾に正面から挑む存在でもあるのだ。争議生活者として、何度も危機に直面してきた。そのつど、大勢の仲間や支援者に支えられ助けられてきた。
争議生活者は決して自分だけで存在できるものではない。
いったい私たちは何のために生きるのか、何のために働くのか、家族はそのとき、どんな意味をもっているのかを考えさせてくれる本でもあります。
(2017年9月刊。1900円+税)

2017年11月30日

亡国の武器輸出


(霧山昴)
著者 池内 了・青井 未帆・杉原 浩司 、 出版  合同出版

アベ政治は、いろんな点でひどい、ひど過ぎますが、日本が「死の商人」となって海外へ武器を大々的に輸出するようになったことも、安保法制と同じ動きですが、私には絶対に許せません。
「死の商人」は、世界が平和であっては商品が売れないので困ります。世界中で紛争が起きて、戦争になることを願うのです。そして、彼らは波風を立てることまでするのです。それが一貫したアメリカ政府のやり方です。アメリカでは産軍複合体が権力を握っています。そのことをいち早く警告したのが、なんと軍人出身のアイゼンハワー大統領だったということには驚かされます。
アベ政権はそれまでの武器輸出禁止政策をやめて、2014年4月に「防衛装備移転三原則」を定めて武器輸出を全面解禁した。
ただ、日本人にとって少しだけ胸をなでおろすのは、事情を知った国民が武器を輸出する企業を「死の商人」として指弾するだろうことを恐れて、輸出にためらっていることです。しかし、それも時間の問題でしょうね・・・。
日本は2006年にインドネシアに海賊対策の名目で巡視船艇(鋼板が厚い)をODAで支援・送り込んだ。また、オーストラリアへ潜水艦に売り込む寸前までいった。
日本で軍需産業が栄えると、その利権にむらがる連中がはびこります。かの天皇とまで呼ばれた守屋武昌防衛事務次官の汚職・腐敗がその典型です。そして、防衛省の幹部職員が大量に軍需産業へ天下りしています。三菱重工業26人、三菱電機23人、日本電気21人、東芝19人、富士通15人。IHI16人などです。みんなで、甘い汁を分けあっているのです。
大学の研究まで軍需産業が入っています。それは研究予算が年々削減されるなかで進行していますので、「研究者版経済的徴兵制」と名づけられているほどです。
軍事的紛争の解決に軍事的対応しても本当の解決にならないことは世界の現実が教えています。目先のお金に踊らされることなく、世界の平和を守るために声を上げたいものです。
(2017年9月刊。1650円+税)

2017年11月24日

過労死ゼロの社会を

(霧山昴)
著者 高橋 幸美・川人 博 、 出版  連合出版

電通に入社して1年目に過労からうつ病になって自死した女性について、母親と代理人弁護士が電通の異常すぎる労働環境を厳しく弾劾しています。
就職人気ナンバーワン企業の一つに夢をもって入社した有能な女性社員をたちまち死に追いやるなんて、絶対に間違っていると思います。
亡くなった高橋まつりさんのつぶやきが残っています。
「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」
「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」
「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」
「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」
「女子力がない」
ひとすぎますよね、この上司のコトバは・・・。いったい、どんなキャパをもった上司なんでしょうか。
まだ24歳の女性が1日に2時間しか眠れない、週に10時間しか眠れない。そんな状況に追いやっていながら、それを知らないわけはない上司が「眠そうな顔をするな」「充血した目で出勤してくるな」なんて、どうして平気で言えるのでしょうか・・・。ここまでくると、社蓄ならぬ鬼畜ですよね。
残業も月に20時間なんてものではありません。週に47時間なのです。それはもう「ムダ」というレベルをとっくに過ぎています。
電通は、表向きはフラッパーゲートを全員に通過させることで出退勤時間を制限しようとしていました。ところが、上司は実際にあわない「残業時間」を押しつけたうえ、それは「社内飲食」のため、勝手に従業員がいていたことにしようとしたのです。ひどすぎます。
さらに、電通は新人社員に深夜に乾杯のしかた、花束贈呈のしかた、さらには二次会を予約するときには偽名をつかい、ウソの電話番号を言うように指導していたのです。まるっきりヤクザの経営するブラック企業のやり方ですね、これって・・・。
電通は国政選挙で自民党を指導し、国民だましの手口をすすめているという指摘がありますが、社内でも社員にだましの手口を教え込んでいたのですね、信じられません。
これが天下の電通の正体かと思うと、他人事(ひとごと)ながら腹が立ちます。
そして、高橋まつりさんのつぶやきを読んで、私はつい不覚の涙をこぼしてしまいました。どんなに辛かったろうか・・・と思いました。前途ある有能な女性をここまで追いやるなんて、あまりに可哀想です。
「もう4時だ、体が震えるよ・・・。しぬ。もう無理そう。疲れた」
「かなり体調がやばすぎて、倒れそう」
「生きるために働いているのか、働くために生きているのか分からなくなって・・・」
高橋まつりさんの過労死が社会の大きな注目を集めたのは、働く人々が「自分も同じ境遇」と受けとめ、50代や70代は、「自分の息子・娘は大丈夫か」、80代以上は「自分の孫は・・・」と心配しているからだろう。
まさしく、そのとおりですね。現にこのあとNHKの女性記者の過労死も報道されました。
この本を読んで、多少なりとも救いがあるのは、社長が退陣したあと、電通の幹部社員に向かって川人弁護士が労働条件改善について講演し、まつりさんの母親も訴える場が与えられたということです。
人間を金銭に置きかえてしか評価せず、働く人を大切にしない企業は社会に存在価値はないということをみんなでしっかり確認する必要があると痛感した本でした。
川人弁護士から贈呈を受けて紹介します。いい本です。ありがとうございました。
(2017年12月刊。1500円+税)

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